オルゴールの材料

 魔女たちは、人間の町を襲います。  魔女たちは、人間たちを攫います。  そして、箱へと詰め込みます。    今日は、魔女たちの晩餐会。  魔女たちは、円卓を囲みます。  円卓の上には、豪華な料理が並んでいます。  大きな肉。  新鮮な野菜。  血のように赤いワイン。   「それでは、パーティーを始めましょうか」    一人の魔女が立ち上がり、壁際に置いている箱のふたを開けます。  その箱は、あらゆる音を遮る特別製。  蓋の開いた箱の中から、人間たちの悲鳴が聞こえてきます。   「痛い! 痛い!」 「苦しい! 苦しい!」 「出して! ここから出して!」    魔女たちは、人間たちの悲鳴をうっとりとした表情で聞きます。  魔女たちにとって、それは素敵なBGM。  絶望を奏でる、世界で一つのオルゴール。   「皆様、グラスを持ってください」    一人の魔女がワイングラスを持って立ち上がると、他の魔女たちも一斉に立ち上がります。   「魔女の栄光に、乾杯」    そして、ワイングラスを高く掲げ、食事を始めます。    人間と魔女。  二つの種族の共存は、まだまだ未来のお話。

「ご注文は?」

 下からのぞくと吸い込まれるような感覚におちいってしまいそうになる螺旋階段を上っていくとその店はあった。看板はなくって、店の名前はわからないけれど、扉から流れてくる甘い雰囲気と香りから考えをまとめてみるに、悪いもののようには感じられなかった。扉をあけ放つと香りは広く、濃くなった。好奇に迎え入れられたのか、悪事への誘惑か、絶えず鼻先で遊ぶ魅惑の甘い香りが、わたしの判断を狂わせる。席に着くと、厚みのすこしもない薄っぺらなモノがゆらゆらとわたしの前に立つ。 「ご注文は?」  このゆらゆらはなんだろう。そのことで頭のなかが埋めつくされる。 「ご注文は?」  再びの催促は、いくらかゆらゆらと声が大きかった。 「あ、ああ。ええと」  薄っぺらなモノはゆらゆらしながらわたしの返答を待つ。そのゆらゆらかげんがいら立ちをあらわしているようで、わたしはあせって、居心地が悪くなる。 「ごめんなさいね。このゆらゆらは生まれつきなの。あなたの機嫌をどうこうさせたいのではないのよ」 「は、はあ」 「それで、ご注文は?」 「あ、ああ。ええと」 「ふふ。いいのよ、ゆっくりで」 「はあ、ごめんなさい」  わたしは、なんとか「クリームソーダを」と口にして、薄っぺらなゆらゆらは奥へと消えていった。次にゆらゆらがあらわれたとき、その薄っぺらなモノはクリームソーダを持ってきてくれた。 「ふふ。ゆっくりしていってね」 「は、はあ」  けれども、わたしの気持ちは、いっきに沈んでいく。宇宙を思わせるような蒼い色をしているそのクリームソーダには、雲を思わせるような真っ白いクリームと、どこかで燃えている惑星のようなやけに真っ赤なサクランボがのっている。  あああ、なんてこと。クリームソーダ、緑じゃないなんて。あああ、あああ……  わたしがいまふれている空間は、はじから重力を失ったように崩れてみえる。あああ、あああ…… ちがう。わたしが崩れてしまったんだ。

無駄なテレパシー

「俺実はさ、動物の心の声が聞こえるんだよね」 「まじで?ってことはお前の飼い犬の声も聞こえるってことか?」 「うん。だからお留守番させるのが本当にしんどくてさー」 「でもいいこともあるだろ?」 「いや無いね。だって心の声もワンワンとしか聞こえないからさ」

女たち

基本的に 他人のことを 下に見ている その家の女たちは そんなふうだった 馬鹿にしている と言っても よかったかもしれない その家の女たちは そんなふうだった その家の女たちは 学校の成績はよいのだが 人を見る目はあまりなく そのこともあって よく物事が停滞した そのため その家の女たちは いつのときでも 機嫌が悪かった あのとき ちょっとしたきっかけで 僕は あの家を 離れる決心をした あのときの あの決断を 僕は 後悔していない 今後も 後悔することは ないだろう きっと ないだろう

回顧回廊(かいこかいろう)

♦︎  廊下だ。長い長い廊下。辺りは暗く、学校にもお寺のようにも見えるが、室内なのか屋外なのかも分からない。 「それはそうでしょう。これはあなた様の脳内なのですから」  目の前に執事のような格好の男が現れ、深々とお辞儀をした。 「私の名前はシナプス。シーナとお呼びください」 「シーナ、さん? お尋ねしたいんですが、私は何故こんな場所に」 「おやおや。敬語などお止めください。私はあなた様にお仕えしている身ですから」  カツカツとヒールの音を響かせ、シーナが手を後ろに組む。 「あなた様は不運にも事故で記憶を失い、ベッドの上に居られます」 「……え」  シーナが淡々と告げるので、思わず聞き逃しそうになってしまった。記憶喪失……? 私が? 「ご安心ください。私があなた様の記憶を取り戻すお手伝いをさせていただきますから」 「この回廊には、あなた様の大切な思い出の品々が保管してあります。私の役目はそれらを記憶として繋ぐこと。さあ、一緒に振り返ってみましょうか」  シーナが手を広げると、廊下に次々とショーケースが現れた。まるで美術館にでも来たような光景だ。まだ半信半疑だが他に当てもない。シーナに従うことにする。  シーナが言うには丁寧に見るのは目に留まったものだけで良いらしい。  美術品と違うのは「私」は触っても良いこと。むしろ気になった品は触った方がいい、とシーナは語った。 【No.12 クマのぬいぐるみ】 薄汚れてあちこち生地が破れている。 「子供の頃に遊んでいたのかな。どうしてこんなに汚れているんだろう。洗ってあげればいいのにね」  抱き抱えたクマの頭を撫でる。異臭はしない。 「あなた様の記憶に強く刻まれたときの姿をしているんですよ」 「汚れている時間の方が長かったのかな」 【No.31 指輪】 中心部に小さなダイヤがはまっている。刻印らしきものがあるが、文字はかすれていて見えない。 「婚約指輪かな。まさか私、婚約してる?」 「婚約相手も忘れてしまうとは。あなた様の身体は重症のようです。でもご心配なさらず。回復すれば思い出せますから」 「うぅ。何だか相手の方に申し訳ないな」 【No.58 携帯電話】 画面は真っ暗で触っても反応はない。 「中身が見れると思ったのに」 「これは脳内ですから。実物とは違いますよ」 「飾りのこの黄色い……何て名前のキャラだっけ」 「記憶の回顧(かいこ)は重要なことにお使いください。脳に負担がかかりますからね」 「は、はい……」  品物は気の遠くなるような数あった。鉛筆、クッキーの缶、花瓶……。種類は様々で、捨てられてしまいそうなガラクタのような物ばかり――  ――あ、これ――  目に留まった、小さなロケットペンダント。中には写真が入っているはず。  ――そう。写真が入っている。 「おや、それは」 「貰ったの。彼とは遠距離恋愛だったから」  写真の中の、まだ付き合い立てだった頃の旦那は笑っている。   「わたしが寂しくて泣いていたときに」 「これを開けたら、いつでも会えるからねって言ってくれた」    シーナの微笑んだ顔が遠ざかっていく。  記憶が、まるでネックレスの鎖のように、繋がってゆく―― ――私の大切な人の名前も。 ♦︎ 「おはよう」 「春香ちゃん! ごめんなさい! ごめんなさい!」  目の前に泣き腫らした女性が立っている。親友の、真里奈。 「もっと早く気がついてあげたら良かった! 辛かったんだよね。苦しかったんだよね」 「うん。私、辛かった。寂しかった」 「朝起きたら、いつも旦那が居なくて」 「私がもっと早く気がついてあげられたらって」  旦那の祐介が亡くなって、数年。今更、後追い自殺なんてするとは思わなかった。 「死ねなかったし、間違ってたのかな」 「私が死んだら、旦那が私のために使ってくれた時間、全部無駄になっちゃう、から」 「私、生きなきゃダメなのかな」 「生きなきゃダメなんて、言えないけど……私は春香がいなくなったら寂しいよぉ」 「ありがとう。ごめん」 ♢ 「春香が意識不明で長いこと起きなくて、もう目を覚まさないんじゃないかって、怖かった」 「そうなの? 私はあの直後起きて、瞬間移動したみたいな感じ」 「本当に良かった。戻ってきてくれて」 「毎日リハビリあるんだ。寂しいから顔見せに来てよ」 「もう! 調子いいんだから。毎日来てたんだからね!」 『また通うから!』と真里奈はガッツポーズをして病院を後にした。 「良かった。しばらくは寂しくないや」  私には何もない。夫婦の食器も、家財も、あの日の前に全部捨ててしまった。  私には何もない。生きる理由も。家族もいない。  いるのは、親友が一人だけ。  あるのは、大切な思い出くらい。

1人でやるの限界なので菊水を巻き込んで歴史小説を書く

 菊水ござるよ。 ござるござる。 僕のポケモンを勝手に進めたので一緒に合戦泥棒をするでござるよ。 今度パチンコで買ったら飯を奢ってくれでござるよ。 替わりにうちにあるCD何か持っていっていいでござるよ。 菊水は武蔵の国なのでのぼうの城の城主様は許してくれるでござるよ。 僕は上州の忍者とククリヒメの世話でいっぱいいっぱいでござるよ。 是非お頼み申すでござるよ。

私服の時

目的もなく ふらふらと昼間の住宅地を歩くように 人生を過ごしていた二十代 就職して、暫く頑張るが辛いことや苦しいことが重なると、直ぐに休みがちになってしまっていた。会社はしょっちゅう休む者には信頼を置かなくなる。 会社にいても居づらく次第に辞める雰囲気になる。 自分なりには一生懸命に過ごしてきたが、今思えばその一生懸命が良くなかったのかもしれないな まぁ、そんな二十代を終え、三十路に入った俺は「自分の人生こんな感じなら、この人生も辞めようかな」と思っていた 当時は実家で肩身の狭い生活をしていた俺は、用もなく、歩いた。 皆が仕事や学校に出払っている街を、ただただひたすら歩く。理由はそれ以外にすることがないからだ。 そんなある日、団地の1階に探偵事務所があるのを見つけた。 一見、普通の見た目で、扉に小さな看板が素っ気無く貼ってあるだけだった。 ただ、散歩をしていると、毎日そこの探偵事務所を出入りする人を見かける。 それなりに依頼者はいるのだなと気にはなっていた。 実家では父が早く就職しろとうるさいし、母親も顔を合わせれば隣の家の息子さんは課長に昇進しただの、向かいの娘さんは女の子を二人も産んだだの言ってくる。 そんな矢先、あの探偵事務所に求人の張り紙が貼ってあるのを見つけ、半ば興味本意で運命の扉を叩いた。 事務所の中は低いテーブルを挟んだソファが二つあり応接スペースだと分かる。 その奥には事務所によくあるグレーのテーブルと壁に沿って置かれた棚は、ファイリングされた書類で埋め尽くされていた。 「いらっしゃい、ご予約ですか?」 出迎えてくれたのは四十過ぎの男性でTシャツ姿だったがシルエットで、なかなかの体格をしていると分かる。 にこやかな表情だが、心を見透かされている眼差しに緊張したのを覚えている。 「表の求人を見て来たんですけど」 「お?よく気が付いたね。あんな張り紙で」 「はぁ」 「いつから来れるの?」 「え?…あぁいつでも大丈夫ですけど」 じゃあと探偵は僕を連れて事務所を出ていく 昼間の住宅地をぶらぶらと歩いていく どこに行くのか聞きたいが、声にならない。 1時間程歩いた所で探偵は立ち止まった 「いいね。合格だ。明日、朝7時に事務所に来てくれる?」 「あ、ありがとうございます」 もう昼だからと近くのラーメン屋に連れて行ってくれた

夕伽ゆにょーん

 何かに人格が乗っ取られているので正気を保つために文章を書く。 多分何処かの座標のすれ違った先輩後輩なのだが超能力は僕は専門外なので世の法則を守って飯を作り私小説を書く。 この文章を読んでいる人は忙しいのか暇なのかわからないが僕は彼女から渡された百合雑誌の批評等もしなくてはならない(趣味で)ので相対的に時間がなくなる。 何か一時的に文科省の日雇いバイトさせられてる気がする(勘だが)給料は自前で作るので多少の法律違反は許されないだろうか?(駄目だろうなぁ) 旅団や海賊に追われていると思ったら一時的に共闘したりしているが僕は僕の能力が定まっていない蟻?なので(なるほど蟻を集めている子供の実験なのか合点がいった) 暇ならその宿主に(虫捕り名人)学校の課外授業などに虫捕りの項目を増やさなくては国が傾くぞ火つけんぞ俺は養老孟司ほど温和じゃないぞ、と言ってくれよ保健の先生と相談されている気がするので学校のウェブサイトに大量の抗議メールを送る。 僕の脳が一時的に止まったので彼女を治すために少し離れる。 明日は学校休んでいいかもしれない。

ネタ切れなので恋愛ものを書いてみた。

ある日の午後。 若い男女が手を繋いで歩いていた。 「見て見て。あそこ」 「……なに?」 高齢の男女が手を繋いで歩いている。 「なんか、可愛いよね」 「僕たちも、あんな風になりたいね」 二人が、見つめ合った。 「見て。あの人たち」 「……どこ?」 中年の男女が手を繋いで歩いている。 「なんか、気持ち悪い」 「生々しいな」

ネタ切れなのでホラーものを書いてみた。

平日の午後。 男がようやく目を覚ました。 「さてと……今日こそ倒す」 パソコンの電源を入れた。 「飯食ってからするか」 タバコを咥え、一階に下りる。 すると、母親が居間で横になっていた。 「オカン、なんか食うもんは? オカン……」 青白い顔。 返事はない。 「オカン、どうした?」 冷たくなった体を揺すった。 「ゾンビでいい……年金さえ……」

置き手紙

人を殺して30日。 案外世間は僕たちに興味がなかったみたいだ。 殺したのは弟。 高校生のときから 引きこもってばかりで、 大人になっても働かずに いつも家にいた。 半年前に母さんが亡くなって、 父親は元々いなかったから、 必然的に僕が弟を養うことになった。 僕の勤めている会社は、 いわゆるブラックというやつで、 低賃金でありながら いつも深夜まで働いていた。 家に帰っても、 弟は家事をしないから、 洗濯、料理、掃除、ゴミ捨て、 全て僕がやっていた。 言い訳に聞こえるかもしれないけれど、 ストレスと疲れで、 僕の頭はいつの間にか おかしくなってたんだ。 その日はいつも通り家に帰って、 料理を作って、弟を呼んで。 会話のない、いつも通りの食事をした。 弟が食べ終わったあと、僕に声をかけた。 やっと働いてくれると思ったんだ。 働くのは難しくても、 何か一歩踏みだしたと思ったんだ。 でも、そうじゃなかった。 弟から放たれた言葉は、 そんなんじゃなかった。 「兄ちゃん、仕事辞めたら?」 頭に血が上った。 冷静になった今なら分かる。 弟は僕のことを心配してくれてたんだ。 でも、そのときの僕は そんなこと考える余裕がなかった。 だれが養ってると思ってるんだとか、 母さんだってお前のことで苦労してたとか、 死ねとか、 ひどいことをたくさん言った。 弟は泣きながら謝っていたけれど、 僕の怒りは収まらなかった。 いつの間にか1時間経っていて、 僕の手は弟の首にあった。 人を、それも弟を殺したというのに 僕の頭は冷えていて、 どうやって隠蔽するかばかり考えていた。 仕事を無断で休んで、体をバラバラにして。 頭だけはどうすればいいか分からなくて、 血抜きして、洗って、 消臭剤を沢山詰めた袋に入れた。 仕事を休むと、吹っ切れてしまって、 僕は弟を殺してから 一回も仕事に行かなかった。 母の遺産も残っていたし、 弟に外の景色を見せたかったから、 旅行に行くことにした。 全国各地の絶景を、 弟と2人で見て回った。 そして今僕は北海道にいる。 綺麗な海を眺め、この旅行を思い出す。 職場では今まで何人も いきなり仕事にこなくなったし、 親族との関わりもない。 弟も、友人と連絡を とっているようではなかったから、 僕たちのことを探している人は居ないはず。 ホテルの人へ、 料理美味しかったです。 特に海鮮が新鮮で新鮮で。 お風呂も広くって、 サウナの温度がちょうど良かった。 ありがとうごさいました。 僕は死にます。 というか、この手紙を読んでるってことは 死んでるんですよね。 この首吊ってるのが僕です。 この手紙と僕の死体のすぐそばに袋があるでしょう? それが僕の弟。 死体処理、よろしくお願いしますね。

月の子

目の前に見えるのは、ダイヤを散りばめたような泡ブクが、水面に映る月に向かってユラユラと舞い上がる景色だ 自分の吐く息の周りを、赤く染まった綿のような血液が連れ立って登っていく なぜ自分がここにいるのか思い出せない 自分がどんな人なのかもよく思い出せない 電波の悪い所でネット検索しているように、いつまで経っても記憶が見つけられない ただ一つ。女性の声が聞こえた気がする。 自分の体が「さぁ生きるぞ」と決意したように、心と裏腹に体が必死に水をかき、月を食らいつく勢いで水面に顔を出す。 酸素が、そのまま命であるように呼気をして、私は無我夢中で岸までたどり着いた。 森だ。夜の森にいる。チャプチャプと広い湖を、森が囲んでいる。 遠くにガードレールが見えたのでそこを目指して歩き出した。 濡れたシャツとズボンは、森の落ち葉や蜘蛛の巣を絡み取り、裸足の足には枯れ枝や小石が突き刺してくる 腕にある大きな擦り傷から血が滲み出ている なぜ、ここにいるのか なぜ、湖の中にいたのか 自分は、何者だったのか 大人なのは分かる 名前も思い出せない とにかく、あのガードレールまで行こう 水の音 歯が擦れる音 獣の鳴き声 月の眼差し 車の音 ガードレールを跨いでアスファルトの上に座り込む。 近くの看板に「宮ケ瀬ダムまで あと200m」と書いてあった

出口

 人生に正解はないとは、よく言ったものだ。    進学。  就職。  恋愛。  どれもこれも、一方的に選択肢だけ差し出してきて、選んだ後に答え合わせさえさせてくれない。  答えがわかる時とは、もう引き返せないところまで来たときだ。   「こっちへおいで? 苦しくないよ?」    だからこそ、声はぼくたちを惹きつける。  人間たちを惹きつける。   「マンションから飛び降りよう」 「線路に飛び込もう」 「たくさん薬を飲もう」    正解なき人生という迷宮の、たった一つの出口。  死。    どの選択肢を選ぼうと、必ず隣についてくるイレギュラー。  どの選択肢を選ぼうと、必ず最後に辿り着くイレギュラー。   「どうせ、皆辿り着くんだ。早いか遅いかの違いだろ?」    何も見えない真っ暗闇からは、絶えず言葉が響いてくる。  歩きすぎて足が痛い。  考えすぎて頭が痛い。  真っ暗闇に染まってしまえば、もうこんな痛みからおさらばできるかもしれない。    そう考えると、ついつい出口に足が向いてしまう。   「うるせえばーか!」    出口に目を向けてしまったとき、ぼくは決まってアカンベーと舌を出す。  真っ暗闇の先にいるかいないかわからない何かに向かって。   「また誘うよ」    出口は、決してなくならない。  出口は、決してあきらめない。  束の間、沈黙をすることはあっても、消滅することはない。    ぼくは後ろを振り返る。  記憶に残っていない入口は、とっくの昔に見えなくなっている。  ぼくは再び前を向く。  痛む足を一歩踏み出し。  出口とは違う方向に、ほんの少しだけ進むことができた。    出口は、ぼくの一歩分と同じ距離だけ動いて、ぼくの隣をやっぱりついてきた。

静謐

朝焼けとりんごの香りの交錯 そのときだけは熱を忘れて はちみつが歌いはじめ 風と金木犀がともに跳ねる そのゆるやかなリズムが わたしを外へと誘い出す 早朝に響く電車のガタゴトだけが 世界を動かしているわけではないのだと 思えるだけの余裕 すずめもからすも鳴かなくて そのもの足りなさが 大人なのかな

調子に乗っているので大きい方のご飯を分けなければならない

 世の中の物理法則。 人数の多い方にご飯を分けなければいけない(これは宇宙の絶対法則だろう)。 あるいは弱っていたり困っている人には惜しみ無く分け与えなければならない(永久機関は無いことと因果関係がある)。 頭が悪くてもこれを抑えておけば大体世の中はうまく行く。 精神的な事はどうだろう? あるいは誰かに薬を盛られていたりする人はどうだろう? ぶっ倒れた事がない奴は信用できない。 あるいは感電。 調子に乗らずに淡々と分析するがそもそも2+2=5の世界では(アインシュタインのいうこともわかる何様だ僕は?)あまり意味をなさない。 あるいは数学屋と化学屋はハードワークなので2:6:2の法則でサボっている僕には一向に金が入ってこない(そりゃそうだ) 貨幣の勉強をすべきかも知れない。 実際にはそれもやらないが。 打算。 囲碁の好きだったお祖父ちゃんは畑仕事のお祖父ちゃんに囲碁盤をプレゼントしたのかも知れないが老後は(そんなものは無かったかも知れないが)大工と絵を勉強しようと思っていたっぽいのでそこまで手が回らなかったのだろう。 殴られてぶっ倒れるのは嫌なので生活をしてぶっ倒れるのが理にかなっているだろう。 それにしても僕の甘い生活は皆の辛酸で出来ている。 やはり犬は手がかかる。

ホテル「リバーサイド」

「浮気してるでしょ?」 たまに妻から唐突に質問される、この手の問は「してないよ」と、ご飯のお代わりを断る様に気軽く言えた。昔は。 今は同僚と関係を持っている。数年前から。 妻には残業と連絡をしているが、その内半分は仕事ではなく不倫相手とホテルのベッドの上にいる。 不倫相手の彼女は一回り近く歳が離れている。人妻で子供が二人いる母親だ。 会社の廊下ですれ違う時に、彼女がメモを渡してくれる。そのメモには彼女が会える日が書いてある。今度は、そのメモに私が会える日に丸をして彼女に返す ホテルに行く日はお互い定時で上がり、町外れのラブホテルで愛を重ねる 決して妻には分からない様に注意をしていたのに。 ある日、仕事を終え真っ直ぐ家に帰ると子供達がおらず妻だけがリビングのソファに座っていた。子供達はどこにいるのかと聞くと、妻の実家でジージとバーバが見てくれているという。 なぜ? ちょっとそこに座ってくれない? 後ろの方から嫌な予感が全速力で近づいてきているのが分かる。俊足な足音が聞こえている。 「何か私に言うことがあるんじゃない?」 「え?…」 あまり記憶にないが熱くもないのに汗が噴き出ていたと思う 「あ…責任者に昇格したのは言ったけかな?」 「うん、聞いた」 「そ、それじゃないか…」 妻はそっと茶封筒を取り出し、中から1枚の写真を裏返しに置く 取り出すときにチラリと二人の人影が見えた気がする。 この時にはもう、迫ってきた嫌な予感は私を抜き去り目の前の写真の中に飛び込んで行った。 今は妻も子供達も一緒に暮らしている 何も知らない子供達とは仲良くしているが、あれから妻は私の目を見ようとしない。 離婚するのか等の話も一切なく日々が過ぎている。 浮気相手の彼女にこの話をすると、彼女はヤバイ状況を心配してくれて、もう会うのをやめようかと言ってくれたが、私は彼女の体が好きなのでホテルは継続して行っている。 こんな自分が嫌になるが、 管理職の仕事はジャングルでコンビニを見付けるより大変で、奇想天外摩訶不思議の出来事に私の心身はストレスの大海原で溺れかけている。 この状況を不倫以外で、乗り切る方法が見いだせない。 前から彼女が歩いてくる すれ違いざま、メモを渡してくれる 彼女の指が私の指と触れ合う 彼女は振り向かず手だけ振っている 私は彼女の後ろ姿を見た後で全ての日付に丸を付ける。 昼休みのチャイムがなっている。 ラーメンでも食べに行くかと会社を出る

編集長カメムシ採ってきたいから旅費ください

 何で君の昆虫採集の旅費を僕が出さなきゃいけないの?ねえ?馬鹿なの?君? って言われそう。 実際には大量発生したカメムシをライダー研究所の怪人対策としての資料確保としての大切な実地調査なのだが。 昆虫食は危険らしい。 そういえば昔土支田の街路樹にカメムシが大量発生していたのを思い出した。 でも近所の蜜柑畑は平気だ。 何だか呑気な地域だ。 カフカが変身を書いたとき何を考えていたのだろう? お前はもう少し周りを信用しろと言われているような気がする(知るかよってのと半々な気もするが) 親戚も他人。 僕は頭がおかしいので(ミュージシャンや芸術家に多い)勝手にやってろって言われている気がする(フレディーやMJは病気にやられておかしくなったのだと思うのだがピカソやゴッホはあまり知らない)。 何かの睡眠薬を盛られている僕は何かにビビっている主治医の玩具である。 腹筋をすればいいのかもしない。 格闘技は苦手だ。 夜な夜な文字を書く 僕はもがきあがく それは飽くこともなく 舐めるは辛酸辛苦 勝つために必要なのは少しの根性と若干の理論とユーモアなのだが。 レペゼンフォックスにはビビる。 喧嘩本当弱い。 足が遅いのが救いだ。 田淵幸一のように奥さんには頭が上がらないのが正しいのだろう。 ホームランか三振の男。 夢でやったりやられたり DAISOとセリアを行ったり来たり 結局は出戻り? 救いの手は理? 感情は大切だ。 彼女は感情障害なので相対的に僕は回復する。 何でもやりたがる癖を治して1つか2つに絞った方が良さそう。 相対的に皆の弾き出す価値に左右される。 また右左の話になる。 僕はこっちに座るからお前はあっちに座れよって言われて座れない人の事を考えない。 問題がある。 今日はまだ石油の匂いに酔っていた。 不味いものを食べなければならない。 うどんは平気だろうか? 頭を使いすぎている。 歩かない物書きは大成しない。 あるいは掃除をすればいいのかも知れない。 まとまらなくなってきた。 ビビりすぎている。 不安は強気でも隠せないので汗をかくようにしよう。

秋後々夏

今日だる〜 それな〜勉強とかやってないしー とか言ってる教室の騒音。 明日はテスト。私は頭が良くない。 だからここ一週間が一番嫌いだ。…怒られるし。 ナッツをつまんでさっき買ったナタデココ入りゴンチャを飲んで……のんびり「丁寧な暮らし」 そんな時のLINE。 クラスの一軍…多少問題児から。 ……好きな人とかいる? 私は呆れた。どうせドッキリだ。こんな芋女。 なんで? 素っ気なく、それでいい。 ……ならタイプは? しつこいな。と思いつつ 優しくて頭良い人。 この条件なら合わない。ほら、 ……そっか。 良かった。この問題児は顔はいいから。 1年の一軍が狙ってる噂。 そんな考えながらテストが終わる。 いつも通り平均の少し上の点数。 え。あの問題児が平均を取っていた。 今までずっと平均以下なのに。 その放課後のLINE。見たくなかった。仕方なく ……脈アリ? 馬鹿じゃないの!?と思った。 そんなことないよ〜。 軽く返すが、片手はクッションを殴っていた。 我ながら末恐ろしい。 ……付き合って欲しい。 なんで!?なんでこうなった!? そんなことないの次この言葉は意味わからない! 国語だけ脳から消したか!?と思った。 ……貴方なら、どうしますか? ちなみに実話です。残念ながら。 このお話でお気を悪くしたらすみません……

学校は偏らない

「学校は異性愛に偏りすぎです! もっと、多様な恋愛観を尊重した授業をすべきです!」    私は、生徒代表として先生に進言した。  古臭い価値観を壊すのが、私の役目だと思ったから。    先生は私をじっと見た後、にっこりと微笑んだ。   「そうね。そうしましょうか」    断られても、理をもって論破してやろう。  そう思って固くなっていた私の表情が、一瞬で柔らかくなった。   「いいんですか!」 「ええ、もちろん。次の授業から、意識してプリントを作るわ」 「ありがとうございます!」    物分かりのいい先生でよかった。  私は、やり遂げた嬉しさで胸を張り、実に清々しい気分で教室へと戻った。    そして次の授業。   「今日から、多様性を意識した授業を心がけます。学校にはいろんな人がいることを前提に、プリントを作りました」    配られたプリントの文章。  そこには、女の子同士の恋愛が題材の文章題があった。  私は、色んな恋愛観が認められた気分がして、つい興奮してい気が荒くなった。  喜びをかみしめながら、プリントを上から下まで眺める。   「ん?」    そして、見慣れない一文を見つけた。   『以降は、左手での記入をお願いします』   「ん?」    視線がプリントの上に戻ると、『最初は、右手での記入をお願いします』という一文があるのに気づいた。  私は、すっと手を挙げる。   「先生。あのー、これは」 「ええ。多様性への配慮よ。実は教室ってね、窓が絶対左にあるの。右利きの子が文を書いてる時、影が書いてるところと被らないようにね。でも、それって左利きの子への配慮がないじゃない? さすがに、すぐ教室を変えることはできないから、せめて皆が同じ条件になるように配慮したの」 「先生!?」    嫌な予感がして、私はプリントを裏返す。  プリントの裏面には、英語で書かれた問題文が並んでいた。  もちろん、表面とは違う内容だ。   「先生ええええ!?」 「学校には英語が母語の子もいるからね、配慮したの。インドネシア語は、今勉強中だから、ちょっと待ってね」 「先生ええええ!?」    その日、私は人生で初めて、小テストで赤点をとった。

かげ

 足元の自分のかげがわたしの分身なら、きっとあれこれうまくやれないんだ。そんな分身の姿をみて「ああ、まったくお前ってやつは」わたしは思うのだろう。晴れている日をそんなに好きになれなくて、曇りや雨の日を好むのは、そんなかげの姿をみなくてすむから、なのかもしれない。  買いものに出てみると、ついてこなくてもいいのに、かげはぴったりついてくる。どうにも面倒になって、バッグと財布をかげに向かって放ってみる。見事に何も起こらなくて、虚しく拾うことになる。まったく、恥をかかせやがって。  無事、買いものが終わり、それでもかげはついてくる。 「どうだ、わたしはお前ができなかった買いものを、きちんとやり遂げることができたぞ」  足元に向かって言葉を投げつけてみても、かげは無言のまま。ふん。役に立たない奴だ。やれやれ、まったく誰に似たんだ。

好きな人と付き合えた、ぼくの影が

「好きです! 付き合ってください!」 「わ、私でよければ」    秋。  ぼくはついに好きな人と付き合うことができた。  問題があるとすれば、実際に付き合ったのはぼく自身でなく、ぼくの影武者だということくらいだ。   「なんでだよ!」 「落ち着いてください、坊ちゃま」 「これが落ち着いていられるか!」    ぼくは影武者を呼び出し、目の前に正座させた。  影武者は大人しく座り、ぼくを諫めようとする。   「仕方ありません。やんごとなき血を持つ坊ちゃまは、表舞台に顔を出すわけにはいきませんので」 「それは、わかってるけど」 「それに、私はしょせん坊ちゃまの影。私が付き合っているということは、即ち坊ちゃまが付き合っていることと同義です」 「そうなんだけど……なんか違う!」    頭を抱えるぼくとは対照的に、影武者はどこまでも冷静だった。  あくまで仕事の一環であると、そんな態度を崩さなかった。   「坊ちゃまに満足いただけるよう、付き合っている時に感じたことは、くまなく坊ちゃまに伝えましょう」 「……例えば?」 「手のぬくもりです。告白の後、最寄りの駅まで二人で帰ったのですが、自然と手を繋ぎましてね。自分の手とは別物の様な柔らかさで、相手も緊張しているのか、体温も平均より高く、ほのかな温かさが」 「聞きたくねえ!」    俺は思わずうずくまる。  冷たい床がぼくの頭を冷やそうとするが、それでもなおぼくの対応は上昇し続けた。  この熱は怒りなのか、それとも嫉妬なのか。  とにかく、今日ほど影武者と入れ替わりたいと思ったことはなかった。    ぼくは顔を上げて、影武者の目をじっと見る。   「提案がある!」 「お断りします」 「一日だけ、ぼくと交代……まだ何も言ってねえ!」 「影武者ですからね。坊ちゃんが言わんとしていることなど、簡単に予想がつきます」 「ちくしょう!」    ぼくは微かな希望を求めて、スマホで予定を確認する。  実際過去には、重要な会議のときだけは、ぼく本人の外出を許された時もある。  今回もそうだ。  重要な会議のついでに、デートの予定を入れればいい。  新たに追加されただろうぼくの予定を、片っ端から確認していく。   『デート(一回目)』 『デート(二回目)予定日』 『寝落ち通話予定日』 『デート(三回目)予定日』 『お泊りデート予定日』   「ちくしょう!」 「どうしました、突然叫んで」    予定を確認すればするほど、ぼくの精神がすり減っていく。  ぼくのふりをして、ぼくの代わりに好きな人と密接になっていく影武者が、羨ましくて羨ましくて血の涙を流しそうになった。  しかし、手を止める訳には行かない。  ギリギリと歯ぎしりをしながら、次のぼくの外出日を確認する。   「ここっ!」 「……確かに、その日は坊ちゃまが外出する日ですね」 「ここで! ぼくが! デートするんだ!」 「かしこまりました。そのように、予定を組みましょう」    心をすり減らしたかいがあって、ぼくは小さな奇跡を掴んだ。  影武者も承諾したので、この予定は確定だ。   「いやったー!」    ぼくは両手を伸ばして、全身を使って喜んだ。  影武者は、そんなぼくを、温かい瞳で見ていた。  少し恥ずかしいが、嬉しさには勝てない。  ぼくはそのまま、万歳三唱をした。    影武者は、ぼくから腕時計へと視線を落とし、うやうやしくぼくに礼をした。   「では、私はこれで。次の予定がありますので」 「おう!」    そして影武者は、分厚い扉を開けて、外へと出て行った。  牢越しに見える景色が、またいつもの分厚い鉄の壁だけになった。  冷たい冷たい空間だ。  それでも、心は温かかった。   「楽しみだなあー!」    ほんの小さな未来の予定が、不自由すぎる人生をもうすこしだけ生きてみようかと思わせてくれた。

小春日和

春に元気がなかった桜 秋に狂い咲きした お天気コーナーでは 「昨日は小春日和でしたね」 なんて言っていたっけ あの子、元気でやってるかな 連絡は… たぶん、しないけど

練馬ストーンヘンジ

 小学生が虹のかかる夕方石を蹴っていた。 あれがストーンヘンジなのだろう。 ブリティッシュ。

嘘ついたら針千本飲む

昔、嘘ついたら針千本飲むがなぜかクラスで流行っていました ある日 友達に言われました 針千本飲むって怖くない?よく考えたら 確かになぜ嘘ついたら針千本飲む のか、 謎でした クラスで流行っていた嘘ついたら針千本飲む は、針千本飲むが怖いし謎だから 消えました なぜ嘘ついたら針千本飲むが出来たのかは 分かりませんでした クラスの男子に嘘をつかれました 男子は、 おまえが水筒蹴ったんだろ 私は、その時保健室に居たのでそんな 訳ありませんでした 友達が言いました 保健室行ってたのにどうやって蹴るんだよ その時 男子が友達を突き飛ばしたのです その時私は思いました嘘ついたら針千本飲む は、そのためにあるんだと 私は、男子に言いました 針千本飲むの?嘘ついてるし 友達突き飛ばすなんて終わりだよ その時先生が、急いで来ました 先生は、男子の腕を掴んで 怒鳴りました 「何してんの!?なんで突き飛ばしたんか?!」 そのまま23分ぐらい続きました 男子は、目に涙を溜めていました 私は友達と一緒に保健室へ、向かいました 友達が言いました 「〇〇が突き飛ばしたんに、あいつなんで泣いてんだよマジイラつく」 と言っていました 私もそう思いました 次の日 男子は、空気のように無視されていて 男子は涙を溜めていました 友達が言いました 「あいつ嫌われてんじゃんアハハ!」 私はなぜか嘘ついたら針千本飲むが あっても良い気がして来ました 終わりだよ

今まで避けてきたが、この歳になって夜勤をすることとなった。

製造業は神経を使う。 少しでも傷や、作業ミスがあると一から作り直しなる 取り扱う製品が精密であればあるほど、道程は長く自分の工程まで来るのに何週間もかかり、時間とコストと皆の作業が積み重なった製品が、一つのミスで最初からやり直しになるのだ。 ミスをした時の心のダメージはデカい。 勿論納期も守れず、各部署のお偉いさんから嫌な目で見られる事になる 毎日毎日神経をすり減らしながら作業をしているので、頭はすっかり薄くなってしまった。 これでも若い頃はXJAPANの様に長く明るい色に染めていたりもしたのだが… 「おはよう」 「…ちっす」 今週の夜勤の相棒は一番嫌いな奴に当たってしまった 30過ぎの若造で、ろくに挨拶も出来ない。愛想がなく時折小馬鹿にされている気すらする。ただ仕事はめちゃめちゃできる。それがまた悔しい。 日勤からの引き継ぎを終えると、簡単な雑談が始まる 先日、総務課長から聞いたリストラの話は出てこない。まだ漏れ出してはいないのだろう。 いつもなら帰り支度をする時間 昼間はうまく寝付けなかった 体が砂のようになり疲労が滲み出ている この工場で30年以上しがみついてきた私は嫌な事から逃げる様に生きてきた。 製造業をやっているとミスが出来ない辛い日々が永遠と続く、そんな毎日に疲弊し新しいことにチャレンジする心など端材と一緒に捨ててしまった。 ただ、いつも思うのは、『逃げている事柄は必ず対峙しなくてはならない時が来る』と言うこと。 相方は既に作業を始めている チャイムが鳴り夜勤が始まる

合わせ鏡

 ミサキはアンドロイドだ。一目見ただけでは人間とほとんどわからないほど精巧で、話し方や振る舞いもそれらしいものになっている。  ミサキは不思議に思うことがあった。それは一緒に住んでいる主人の美咲と、見た目が瓜二つなことだった。  同じ栗色のシルクのようなロングヘアに、同じ黒の瞳。身長もほとんど変わらない。名前まで同じだ。  これはなぜなのか、一度ミサキは美咲に聞いたことがあったが「どうしてだと思う?」などと微笑みながら返されてしまい、ついに教えてもらうことはできなかった。  美咲の思考を完璧にシミュレーションできればわかるだろうか、と考えることもあった。  しかしミサキの型は人間らしさを極限まで再現することを目指して作られた、屋内用コミュニケーションアンドロイドだ。SFに登場するような歩くスーパーコンピュータではない。  だからミサキにできることはせいぜい、相手の立場になって考えるというような、人間と変わらないことだった。    美咲には恋人がいるらしかった。ミサキは会ったことがないが、可愛い女の子なのだと美咲に言われた。  普段は何を考えているかわからない少しミステリアスな美咲だが、その彼女とメッセージをやりとりしているときの美咲はどんなときよりも楽しそうで、見ているとなんだかミサキも嬉しい気持ちになるのだった。  美咲は時々、窓の外のどこか遠くを見ていた。  月も星も隠れているような曇った夜でも空を見上げて、何かを考えているようだった。  その横顔を見るたびにミサキは夜の沈黙に似た暗い不安を感じた。また、自分がスーパーコンピュータだったらよかったのにと思った。  そんな夜が三回ほど過ぎていって、とあるなんでもない日のことだった。  美咲は朝、出かけてくると言って外へ出て行った。ミサキはいつも通りに見送って、いつも通りに帰りを待った。  昼になった。夜になった。  そして次の朝がやって来た。  とうとう美咲は帰ってこなかった。  美咲が忘れていったスマホから、通知の丸い音が鳴った。画面に映し出されたそのメッセージの送り主は、美咲の恋人だった。 「ごめん、ちょっと遅れるかも!」という文字と、可愛らしい謝罪のスタンプが表示されている。  ミサキは空っぽの喉から息を吐いた。  その時突然、初めて、美咲がなぜ自分を買ったのかが、わかったような気がした。  それから、わからないままでいられたらよかったのにと思った。  朝の日差しが、カーテン越しに部屋を照らしている。  ミサキはいつの日かに教えてもらった暗証番号でロックを解除し、「私も遅れそう!ごめんね」とメッセージを送った。  そして美咲と同じ服を着て、同じように身支度をした。見てきたから覚えていた。  洗面所で、鏡に映った自分と目が合った。そこに映っているあの人はもう帰らない。

ベンチとサンド

YouTubeのコメント欄で旧友から飯に誘われた 「まだやってたんだw今度飯行こー」 相手が本名だったので、すぐに誰か分かった。懐かしい顔を思い浮かべながら返信をする 俺が行っていた高校の側にアジアンと言うパン屋があり、下校途中に誰かが「飯食いに行こう」と言ったら、決まってアジアンに行った。 コッペパンのサンドイッチばかり置いてあって、お婆さんが一人でやっている。具材が溢れんばかりに入っていて、一つ一つラップに包まれてる。脂の多い具の場合はパンがびちゃびちゃになっているのだが、味は間違いない。俺らの青春の味はアジアンのサンドイッチだ。 だから、今回もアジアンで集まることにした。 アジアンは川沿いにあり、外のベンチに座りながらパンを頬張り、流れる川を眺めることができる。それもまたこの店のいい所で、川沿いを自転車で滑走する女子高生のパンチラを何度も目撃した思い出の場所 そういえば、彼女に振られてあのベンチで泣きながら卵サンドを食べたっけか 恥ずかしくも、今思えば可愛い事をしていた。 「よう」 アジアンに着くと高校の時と全く変わっていない友達がツナサンドを持ちながらベンチで待っていた 「よう。パン買ってくるわ」 「おう」 アジアンは昔と変わりなく、棚の上に置いてある埃まみれのクマのプーさんも変わらずいた。 ただ、お婆さんはいなく、知らないおばさんが立っていった。 「いらっしゃいませ」 卵サンドとコーヒー牛乳を買う 値段が少し高くなっている 「ありがとうございました」 「あ、あの…」 お婆さんの事を聞くと、先日、腰を痛めて自宅で休んでいるという。 だから娘の私が店番をやっています。と教えてくれた。 パンの製造は元々娘さんと二人で作っていたらしいので、味も変わりはありませんとのこと。 少しホッとして店を出る。

パン屋さんのパンをたべても

いつもは迷わずスーパーの安い食パン 今日はアパートの近くのパン屋さん いつもいい香りを漂わせている 期待してしまう うん、おいしい 鼻に抜けていくパンの香りももったいないくらいだ 遠距離恋愛は、やっぱり無理だった しかたないと簡単にはわり切れないけれど いずれ時間が解決してくれるんだろう せっかくのおいしいパンを 泣きながらたべるなんてもったいない だから、がまんしていた チーズがのったのと、クロワッサンをたべた 残りを明日の朝にと台所に置いて そこからずっと泣いていた パンの味と苦い思いが結びつくことはなくて 次の日、パン屋さんのパンをたべても泣くことはなかった しばらく恋愛はいいかなあと強がって、会社に行くため家を出る いつか、いい恋愛ができたらいいよね 苦い恋愛よりはね あまあいパンみたいなね きっとね

世界のバグの境界線

「あー、随分浸食されてんな」    男は、大地を見ながらつぶやいた。  視線の先には荒れた大地と、海岸線のように広がる黒。  男が小石を黒に投げると、黒に触れた瞬間に小石が消滅した。   「バグの強さも変わりなし、と。こりゃあ町長に報告かな?」    男はカメラで黒と周囲の写真を撮ると、そのまま来た道を戻っていった。       「先日より、かなり近づいてきているな」 「ええ。来年には、町に到達してるでしょうね」    町長室で、男は町長へ見た者の報告をしていた。  町長は机の上に写真を広げ、険しい表情を作る。   「既に西の方で、新たな町づくりは始まっている」 「間に合いますか?」 「間に合わなくても、間に合わせるさ。屋根がなくても、大地さえあれば、人間は生きることができる」 「ちげえねえです」    町長が椅子から立ち上って窓を開ける。  部屋の中に風が吹き込んできて、机に置かれていた写真を掬って飛ばす。   「おっと」    男は、飛んできた写真を掴んで、机に戻した。   「気を付けてください」 「ああ、すまないね」    町長は写真の無事を確認した後、窓の外へと視線を移した。  三界の部屋の窓からは、町の様子がよく見えた。  かつては活気にあふれていた町も、人口は全盛期の半分以下。  一等地にもかかわらず無人となった家が溢れ、閑古鳥が鳴きかけている。   「ここから見える景色は、そりゃあ美しかったんだよ」 「知ってますよ」    昔を懐かしむように言う町長に、男は同意を示した。  そして、男は町長の背後に立ち、同じように外を見た。    人の減った町と、それを飲み込む津波の様に近づいてくる黒。  通称バグ。   「あんなものが来なければな」 「結局、神様も万能じゃなかったってことでしょう」 「聖書の内容が偽りだと?」 「そうは言ってません。聖書を書いた人間の方が、知識足らずだったんっすよ」    空には、鳥が飛んでいた。  羽休めを求めてか上空を旋回し、そのまま黒の上に着地した。  そして、金切り声を上げながら、その身全てを消滅させた。    町長が、思わず身震いをする。   「あれが、結局私たちの末路か」 「世界は広いんですよ。全部の大地がバグるまでは、逃げ続けましょうぜ。あ、今閃いたんっすけど、浮遊する都市を作るってのはどうっすか?」 「はっはっは! そりゃあいい。技術を何千年分先取りする必要があるか、見当もつかんがな」    窓が閉められる。  町長が椅子に腰かけたので、男も窓から離れた。  そして、部屋の壁に貼られた地図に触れながら、町長に向かってニカッと微笑んだ。   「じゃ、俺は次の場所を調査しに行くんで。予想だと、多分ここら辺まで進んでるはずだ」 「ああ、頼んだ。私も、町作りを進めておこう。次に会うのは、新しい町でだと嬉しいな」 「そんときは、町一番の飯屋でパーティから始めましょう」    町長と男は軽く笑い合う。  そのまま男は扉に手をかけ、部屋を後にした。  世界を蝕むバグの正体を暴く旅に、再び出向くために。

未練

月の満ち欠けに 夏への若干の未練を思う それで? すぎさった季節に 何を思うというのだろう 土に落ちて茶色くなった朝顔に あの人への若干の未練を思う それで? 冷めてしまったこころで あの人の何を思うというのだろう ねえ そうでしょ?

煙草を吸っているから会心の一撃が出ない

 エンプティ。 実際には予備タンクはまだ一杯だ。 僕は仲間(あるいは悪友に)おまえはちょっと前線行って帰ってくるだけでいい、と言われている気がするのですっこんでしょぼくれた事をしている。 実際には中川家の兄のやってるラップなども羨ましい、と思う。 無駄なこと(良し悪しがある)ばかりしている。 レイジアゲインストマシーンのLIVEに行った事のある知り合いを羨ましがる。 知り合いにキングと揶揄られる。 金愚ではある、と思う。 愚鈍な生活をしているので皆やれやれまたアイツが下らない(百済ない)事をしていると呆れているのがわかる。 グーチョキパーで言うと僕はなんだろう? 全部、と言うズルい手を小学生のとき教わった。 刃物は得意なのだが苦手だ。 あるいは生まれ変わったらアフリカで鍬もって畑耕すか中国で料理か床屋をすればいいのかもしれない。 煙草を吸いすぎている。 ラジオをしばらく聞いていない。 伊集院光の真似事を国内でしていて(野球やったり外国人に意味のわからない絡みをしたり)仕事をとるのもあれなのでスイマセン、テヘヘ、と言って座布団持って下がる。 これではモテないのは当然かも知れない。 モテない。 モテたいのか? モテないことばかりしていてモテるわけがないのはわかっているのでシネって言われていようかな。 病気の犬に飼い主が病気だね~治さないとね~って話しかけている状態だろう。 犬は保健所の予防注射を終え飲み薬を飲んで寝る。

白

 店の片隅から、しきりに交通情報が流れてきて、見れば幾つもの黒いコートが改札に群れている。国電も私鉄も、まだしばらくは動かないらしい。足元は、まだ濡れたままである。  もう3杯目のアメリカンに、真白のミルクを入れてやる。カウンターの奥で、店の主であろう男は気だるげにこちらとテレビを交互に見ている。  不意に向かってきたと思えば、ラストオーダーを、と呟く。首を横に振ればまた気だるげにこちらと、今度は8分目まで残っているアメリカンを見た。  外は皆黒い。唯一、路肩の誰にも踏まれぬ雪だけが白かった。後は衣も、RC造のビルも、ハイヤーの列も全てが暗がりにいる。  いつかは大層に喜んでいた。家路にも心躍らせて、誰よりも早く庭へ飛び出していった。無垢ではなかったにしても、今より軽く、どこへでも行けそうな気がしていたように思う。  街灯と、その下をのろのろ動くヘッドライトのハロゲンに照らされて、白は灰や黄金色に色を移している。いい加減にこの中に沈まねばと思って勘定を申し出る。あの主は相変わらずだれた様子でレシートを打って、青い印字を手渡してくる。印字の点の内の幾つかは、もう掠れていた。  ガラス戸を開けば、うごめいていながら静かな夜である。もうみぞれに変わったらしい雪は、日劇のネオンをうずめていた。

新作コント

ピンポーン 「Uber Eatsでーす」 「はい、今行きますね」 ガチャ 「ご注文の品お届けに参りました」 「どうも」 「えーっと、ハンバーガーとドリンクのコーラですね」 「あれ?このハンバーガー食べかけなんだけど!まさか食べてないですよね?」 「食べましたけど」 「何してんの?」 だ〜って、だ〜って、だ〜ててて だ〜って、だ〜って、だ〜ててて 目の前にハンバーガーがあったら、誰だって! だ〜って、だ〜って、だ〜ててて だ〜って、だ〜って、てててのて 目の前に!ハンバーガーがあったら!誰だってててて!た〜べ〜ま〜す〜よ〜! 再生回数15

バズ

高校三年生の夏休みは異常に熱い夏だった。外に出るのが面倒臭くて毎日クーラーの効いた部屋でゲームかYouTubeを見ている毎日だった。 高校最後の夏休みに彼女もいなく、いったい俺は何をやってんだろうと青い空を見ながら途方に暮れていた また、外出するのが難しかったのは、あの事件の後だったから、というのもある。学校や地域の大人たちは子供だけで出歩くのを控えるように言っていた時期でもあったのだ。 そんな俺は暇すぎたので、YouTubeで好きだった一人コントを、自作自演して投稿したら、ビギナーズラックでバズってしまった。それから調子よく、コントを出せば再生数をキープ出来てチャンネル登録者数も一万人になったけど、ある時から、再生数が減っていき、あれ?おかしいな?何でだろう?で、あっという間に十年がたち、今や意地でユーチューバーを続けている。 あと、三年もしたら30歳になる。それまでにバズれなければ潔く諦めて、就職しようと思っている。 頭の中でグルグルと答えの出ない悩みを考えていたら、ラーメン「X」の前に来ていた 取り敢えず飯を食うか… 「いらっしゃい…」