「そういえばさー」 「それ聞いて思い出したんだけどさー」 三人での会話が苦手だ。 右の耳から一人の言葉が入って来ている時、左の耳からもう一人の言葉が被って入ってくると、もう何を言っているかわからない。 耳は二つ存在しているはずなのに、とんだポンコツ具合だ。 「どう思う?」 「あ、ごめん。聞いてなかった」 ノイズが終わると、必ず私に話が振られる。 しかし、聞き取れていない私は、悪いとも思ってないのにごめんと謝る。 「また別の子と考えてたんでしょー。不思議ちゃんだなあ」 結果、不名誉なあだ名をつけられた。 怒るのも疲れるので受け入れた。 私からすれば、不思議ちゃんは周りの方だ。 一人が話しているなら、話し終わるまで待つべきだ。 学校の授業だって、手を上げた人間が発言して、その人の発言が終わるまでみんな静かに聞いていたじゃあないか。 当たり前に他人の言葉に被せてきて、どちらの言葉も当たり前に聞き取る皆こそ、不思議ちゃんで超人だ。 私と違う耳を持っているに違いない。 「あ、そろそろ帰んないと」 「だねー。続きはDMでー」 解散するとホッとする。 文章なら、二つ同時に来ても、二つ別々に読むことができる。 聞き取れない、なんてことはない。 『そういえばさー』 『それ聞いて思い出したんだけどさー』 入力して、送信。 『わたし的にはさー』 今の時代に生まれてよかったと、心から思う。 飛鳥時代になんて生まれていたら、私は聖徳太子から馬鹿にされていただろう。
午前二時三十七分。僕が一日の中で一番絶望する時間帯だ。今すぐ寝て明日に備えるか、今日を粘り続けるか。どちらにしても僕は無意味な時間を過ごす。明日はバイトの時間を逆算してぎりぎりまでベッドの上で毛布にしがみついているだろうし、今日を続けても十秒後には忘れてしまうような画面を見続けてしまう。 午前二時四十一分。何もできなかった今日に絶望し、最悪のスタートをきる明日に絶望する。
お得な夜、都合の良い夜 レシートを家計簿に書き記す筆先は軽やかだった 買った物を眺めては、今日という日の肴にした こんな歳にもなって こんな物を買うのか と、言われる物でも私には満足のいく物なのだ 誰にも気づかれなくて良い 自分だけのひと時… 明日を人質にした夜と共に老けていく (完)
少し前有った戯けたYouTubeCMはAHLS云々P 共感性同意を馬鹿にする様な人間の醜いやり方 何故人は自分の許容範囲しか受け入れ無いのか 多文化他国家外国人の差別と偏見はこれからの 日本世界或いは地球に至る意味迄持つ如く変化 して行く世情が顕にする平和が歪み戦火へ移行 する恐ろしい脳内意識感情の現れ不浄な群れを 構造弱者を侮る人間界の弱肉強食は争い好きな 人間達を如実に現してるだろう今の世界に最も 必要な感情は共感性同意の様な他者を自分事と 思える穏和な叡知感情かも知れない
友達ができたら、試すことがある。 耐久力だ。 「ほんと、馬鹿だよな」 日常会話の中に、少しずつ否定を混ぜる。 「またデブになったんじゃねえの?」 未来の自分が失言しても、縁が切られないかを確認するために。 「ダッサ。俺なら恥ずかしくて死んでるわ」 叩いて、叩いて、確かめる。 大抵、皆離れていくが、望むところ。 親友になる前に縁が切れれば、自分の傷も浅くて済む。 親友になった後に縁が切れることほど、辛いことはない。 「初めまして」 「初めまして」 今日もまた、一人と知り合う。 俺は心の中で、かなづちを振り上げる。
粗大ゴミの日、ゴミ置き場に、電子レンジが置かれていた。ボロボロの電子レンジだ。ずいぶん使い込まれている。捨てられても仕方ないだろう。その電子レンジをよく見ると、ハートマークのボタンがあった。ああ、この電子レンジは、愛を温められるタイプのものか。ハートマークのボタンは塗装が剥げていた。きっと何度も、何度も、愛を温め直したのだろう。俺は別れた元妻のことを思い出した。確か、この電子レンジが新発売として話題になっていた頃だ。俺たちの生活は行き詰っていた。俺は仕事がなく、妻は俺の知らない若い男を愛していた。俺は妻を愛そうと思っていた。だから冷めてしまった愛情を、その電子レンジで温め直そうとした。そのことを妻に言うと、妻は「いらないよ」と言った。「私たちにはもったいないよ」俺はその言葉の意味がよくわからなかった。妻に反対されたので、電子レンジは買わなかった。結局その数ヶ月後、俺たちは離婚した。そんなことを思い出しながら、俺は目の前の粗大ゴミの電子レンジを見つめた。そして、塗装の剥がれたハートマークのボタンにそっと触れた。「誰かを愛したい」そう強く思った。
元カノと会う。 縄文のビルから仕事帰りに縄文のスーパーに寄る彼女は忙しそうだ。 龍脈の走る土地。 偶然にも地下鉄が延伸する場所は彼女の故郷。 何か示し合わせたような仕組み。 湧き水を汲んで喉を潤していた時代からずっと。 でも移り気な僕は優柔不断。 狩人になれれば彼女にお肉を持っていけるのに。 この土地に住んで43年。 アフリカから来たあの人や東ヨーロッパから来たあの子も狩りや編み物をして暮らす。 皆たどり着く土地。 知り合いがビルで水耕栽培をするらしい。 猪小屋、鶏、畑。 飛脚のおじさんも農業を手伝っているらしい。 江戸時代の独身男の蕎麦。 湿地帯のメガロポリス。 お地蔵さんも日向ぼっこする。 色んな時代が錯綜して廻る世界。 世界が終わる前に世界を取り戻したい。 終末を予言する牧師さん。 西の都に憧れてそこから来たインディアンのような人と連絡を取る。 狸も狐も馬も皆それぞれに暮らす。 焼き八つ橋を食べる。 ミステリー・サークルを作る少年は人生の1週目だ。 イギリス人のような彼は王朝をさらりとかわしフランス人のような僕を横目に玉遊びに興じる。 フィッシュアンドチップスを食べている女の人はいい匂いがする。 蛮性と協調性。 科学エンジニアは海外向けの思考をもって論じる。 僕は百済とロシアの血を使ってそれを解析する。 同じ血を持った彼女は外資系の彼氏さんを射止めてメガロポリスで女子会をする。 文系物理屋の僕は変な髪型でブツブツ言いながら自転車を漕ぐ。 世界の縮図を参考文献にしながらAIと心で分析し解析する。 今日も中動態でいられただろうか?
テレビをつけた。ニュース番組が流れていた。ニュースキャスターが頭を下げて、ニュース原稿を読み始めた。彼の後ろに、巨大な器具が映っている。ピントがずれているのでぼんやりとした姿しかわからないが、それを見て私は安心した。それは、最近のニュース番組に導入された、ニュースキャスターに涙を流させるために、ニュースキャスターを痛めつける器具だ。「悲しいニュースが紹介された後、ニュースキャスターが泣かないのはおかしい」という意見が視聴者から寄せられたために、導入された器具だ。私はじっとテレビを観ていた。悲しいニュースがなかなか読まれない。いらいらしてきた。すると「三歳児が……」ああ、やっと悲しいニュースだ。ニュースキャスターは淡々と原稿を読んでいく。背後でスタッフが器具をいじり始めた。すぐにニュースキャスターが痛めつけられて、そうしたら彼は涙を流すだろう。わくわくしていた。ニュースキャスターが原稿を読み終えた。背後のスタッフが器具を彼の傍に運んできた。いよいよだ。ところが、ニュースキャスターはそれを片手で制した。そして、スーツのポケットから目薬を取り出し、それをおもむろにさした。彼の目から涙のように目薬が流れてきた。彼はその様子をしばらくカメラに見せると、ハンカチでそれを拭い、次のニュースを読み始めた。私はテレビを消した。いらいらしていた。スマホを取り出して、SNSのアプリを起動した。
引っ越した先の小さな町を、ある午後、散歩していた。路地をいくつか抜けた所に、ふいに、鳥居を見つけた。良い雰囲気だったので、立ち寄ってみた。石段を昇った先に小さな神社があった。古い神社だった。ぼろぼろの賽銭箱が置かれている。その賽銭箱をよく見ると、側面にトイレットペーパーが取り付けられていた。何だろう、これ。考えていると、ふと背後に気配を感じた。振り返ると、少し離れた場所に、光る人がいた。それは『光る人』としか形容できない存在だった。全身ぴかぴかと光を放っている、人間の形をしたものが立っていた。それは俺に会釈をした。俺も会釈を返した。光る人は、まっすぐ神社に向かって歩いていった。そして本殿に一礼すると、おもむろに、賽銭箱の上に登り、そしてしゃがみ込んだ。つまり、賽銭箱の上で、和式トイレを使う時の体勢になったのだ。それから光る人は軽いうめき声をあげた。力んだのだ。すると、光る人のお尻から、ぼたぼたと何かが出てきて、賽銭箱の中に次々と落ちていった。それは、無数の硬貨だった。様々な金額の硬貨だった。ちゃりんちゃりんちゃりん、ちゃりん。やがて光る人はぶるっと身を震わせ、次の瞬間、硬貨は止んだ。光る人は賽銭箱から降りた。そしてそのままこちらに戻ってきて、再び会釈をして去っていった。残された俺は、賽銭箱の側面のトイレットペーパーを見た。「結局使わないのかよ」と思った。
腕時計が無くても、時間はわかる それでも腕時計を身に付ける浪漫がここにある この身で時間を受け止めよう (完)
素晴らしい。そう思える世の中はいつかは来るのだろうか。今生きることに、辛く、日々壁ばかり。今の自分は正しい位置で間違えずに道を歩いていられているのだろうか。歪んだ地盤の上をビクビクと歩いている自分を想像すると、悲しいけれど腑に落ちる。 23歳、誕生日。前夜。 目が開かない、頭が重い、早く横になりたい。そう思いながらどこかの輩が線路に立ち往生したおかげで、遅延に遅延を重ねた京浜東北線桜木町行きの電車の中で僕は吊り革につかまっていた。 目がないんじゃないかと思えるくらいに、ワシワシと我が道を作り、お気に入りの立ち位置へと我を誘う、しがれたオヤジ。それを睨む20代前半の女性。大きく開かれた道へ今度は俺が、と図々しさの塊で出来たかのような30代前半サラリーマンの3人衆。落ち着く暇もなく押し寄せてくる衝人波。カオスとはこのことか。眠く開かない目、重たすぎて上に新生児があぐらをかいているんじゃないかと思えるほどの頭で、ふと思った。「もうどうでもいい」 やっとの思いで家に着いたのはそれから2時間後。普段は1時間もかからないのに、、眠気によって自律神経を乱された僕の頭は苛立ちと意味のわからない不安、救いようのないほどのやるせなさで満たされていた。 このままでいいのだろうか。小さな頃、誰もが思い描いただろう。「ピアニストになる!」「野球選手になる!」「サッカー選手になる!」「学者になる!」。 大層大きな夢を抱き、何者にも縛られず、常にこの世の中の中心にいるとさえ考えながら生きたあの頃に戻りたい。最近はこんなスピリチュアルなことを考えることでしか、今を生きられずにいる。 このままではダメだ!絶対に大物になってお金をいーーっぱい稼いで最高の人生を送るんだ!そうやってポジティブな未来を想像しながら友と語らいあったのは、果たしてどれほど前になるだろうか。 人間は、この地球という、いわば動物たちにとっての楽園を、その欲のひしめくままに自分たちだけの物、自分たちが一番住みやすいものとして扱うため、愚かにもその与えられた恵みを同族のためそのまた未来のために使い続けてきた。もし動物たちに理性があれば人間ほど恨めしい存在はいないだろう。 その果てしないようで一瞬の時間をかけて人間はたった今、満員電車のなかで苦しみながら明日を生きることに必死に、もはや生きる希望すら抱けない人を生み出す社会を作った。 ただ言うまでもないが、それと同時にありえないほどに、もはや快適すぎるほどの暮らしを作り上げている。 なぜなんだろう。これほどまでに快適で生きやすい世の中なはずなのに、皮肉にも自分たちの作り上げた世界によって、苦しみを生み出し、果てには自死を選んでしまうのは。 かと言って、そこまで全てに関して重く、責任感を持ち、考えにふけ、行動に移せるほど強くもない自分だ、自死という恐怖には打ち勝てない。 この世にいることさえ約82億3199万人には知られていない。 なんてザマだ。残酷だ。それでも僕は生きる。この苦しみからいつか抜け出せることを信じて。
他の依存先を探したい。 でも依存するだけじゃ駄目だ。 何かを与えないと。 力。 愛。 笑顔。 辛気臭い思考でまとわりつく人達の日常。 打破したい。 しかしそれにも与えなければならない。
毎夜と庭にやってくる一羽の鴉を、少年はたいそう可愛がっていた。漆黒の羽が、夜の闇に溶け込んだ姿が幻想的で好きだった。やがて少年は都心へと移り住み、鴉は姿を見せなくなった。数年後のある朝、道端でゴミを漁る鴉と、少年は目が合った。近寄って来る鴉に、少年は酷く恐怖を覚えた。
桜が咲いた日、私は後輩に呼び出された。 春になった日、私は先輩を呼び出しました。 そこにいくと顔を赤らめた後輩がいた。 先輩が来たとき私の顔は真っ赤だったでしょう。 「好きです」 後輩が私に向かって言い放った。 私は先輩を見て、言いました。 「ありがとう」 私はその“好き”を友達としてだと解釈して言った。 先輩はそう言いました。勘違いをされている気がします。 「何としての好きだと思いますか?」 突然の後輩の質問にびっくりした。 勇気を出して先輩に尋ねました。 「友達としてでしょ」 私は当然のことのようにそう返した。 私は先輩の発言に泣きそうになりました。 「違います」 後輩の目が本気だった。じゃあ“好き”というのはどんな意味だろう。 もう一度、勇気を出して言いました。先輩か私が男の子だったら、こんな説明しなくて済んだのでしょうか。 私と後輩の間になんとも言えない空気が流れた。これはいわゆる気まずい空気。 私と先輩の間に微妙な空気が流れました。気まずいってやつでしょうか。 「ごめんなさい、忘れてください」 後輩はそう言った。俯いた顔を覗き込むと今にも泣きそうな顔をしていた。 諦めてそう言いました。涙を隠すために下を向きましたが、先輩にバレてしまったようです。 「私も、好きだよ」 私は後輩に勇気を出して言った。この“好き”は友達としてじゃない。 先輩は言いました。きっと今のは私と同じ意味の好き”です。 春になった日、私に青春ができた。 桜が咲いた日、私に恋人ができました。
まだ引っ越しがすんだとはいえない新居での初日。 家具の届いていないガランとした部屋。 自分の居場所としては不完全な空っぽの空間。 新しい部屋で最初にやってみたかったこと。 最低限の荷物と一緒にバッグに詰め込んだケトルとマグカップ。 インスタントコーヒーの瓶を開けると、ふっと安心が香り、落ち着かせてくれる。 テーブルもない部屋。 フローリングに直にカップを置く。 冷たい床が熱を吸い、みるみるあたたかくなっていく。 一口含んで、苦味とともに「今日からここで」との実感が… 窓の外には、まだ見慣れない街の風景。 工場の煙突。 やけに高いビルとそこそこの建物と。 はじめて目にする大きな看板は、なんの店なのか。 それにしても、山が、やけに遠い。 静かな街に、はじまりの気配は、まだ聞こえてなくて。 桜の花が地面に降り落ちる音さえも聞こえてきそう。 部屋に広がるコーヒーの香りが、無機質な空気を「自分の居場所」に書きかえていく。 「さてと」 あえて言葉にしてみる。 何かが変わった手ごたえはないけれど、何かは変わっているのだろう。 履きなれた靴で、新しい街にくり出す。 食材をそろえられるスーパーと、小さくてもいいから本屋くらいは見つけておきたい。 怖さも、わくわくもない街に、これからすべり込んでいく。
清掃業のアルバイトをしている。清掃場所は地獄だ。同僚は天国に行っているが、俺は地獄の清掃の方が好きだ。今日は空気清浄機のフィルターを交換した。フィルターがびっしり黒く汚れている。その汚れをよく見ると、それはおびただしい数の『たすけて』という文字だった。フィルターを洗いながらにやにや笑ってしまった。助けてほしいのはこっちだよ。
電車に乗っていた。吊革につかまって立っていた。隣に、おっさんの腕があった。やはり吊革につかまっている。その腕に、文字が書かれていた。『焼肉用』そう書かれていた。おっさんは駅で降りていった。飲食店街が有名な駅だ。数日後、そのおっさんを再び電車で見かけた。片腕がなくなっていた。俺はそれを見てほっとした。おっさんは残った片腕で、しきりに脇腹を撫でていた。今度は脇腹にあの文字が書かれているのだろうと直感した。俺はおっさんと同じ駅で降りることにした。
神様が俺の家に遊びに来た。神様はおしゃれなコートを着ていた。それをハンガーに架ける時、見たことのない場所にポケットが付いていることに気付いた。「何このポケット」「星入れるポケット」中を見てみた。キラキラした粉状の何かが付いていた。「もしかしてこれ、星屑?」「ううん、違うよ」ポケットから甘い匂いが漂ってきた。星屑だと思ったそれは、粉砂糖だった。「何を入れてたの?」「ドーナツ」「どうして?」「星より美味しいから」神様は寝てしまった。夜空を見上げた。無数の星が輝いていた。
皆権限を与えられ其れ為り金や名誉有る者達は 下にいる者達の立場孤独、貧困冴え朝の挨拶位 多分思え無いかも知れないそりゃそうだ間近で 見た物しか分かる筈等無いのだから国王気取り 誰でも一度や二度堕ちた経験の無い者達に上の 任務は犠牲者を出すだけだろうこの理不尽且つ 非情な世界が語る物は崩壊破滅に消滅全部消え 元の更地に戻り其処から犠牲者と言う華が咲く 哀れな定めの華達に恵みの雨は降るのだろうか
山積みの段ボールに囲まれ、時間を惜しむように慌ただしく引越しの準備をしていたら、どこに眠っていたのか古い手紙が舞い落ちた。小学生のときの私が、未来の自分に宛てたものだった。 「大人になっても夢を忘れないでね」 すっかり忘れていた自分からのメッセージに、言葉を返せない。 丸っこくって、ふざけたようなその字に、でも、希望は満ちている。それがあまりにも輝いて見え、目を背けてしまう。 ごめんね、夢なんてとっくにさあ… その言葉を飲み込み、少しばかり夢を追いかけてみるか。あのころの自分が、まだ少しはいるだろうか。 明日から… ううん、今日から。
放課後、教室の窓からみぞれを眺める 校庭の向こうが霞んで見える 頭の中でドビュッシーの月の光が流れる 教室にはまだ数人の人が残っていた 僕は友達の孝宏を待っている。 幼馴染の孝宏はまあまあイケメンで女子人気があるが、飾らない性格で、二人でいる時は孝宏はだいたいスケベな話をしている。そして彼は女性を傷つけるようなやつではない。 「お待たせ。千知。これいる?」 孝宏は手にエロ雑誌を持っている。 「なにこれ?」 「隣のクラスのボーにもらった。AV博士のボー」 「何で本なの」 「ボーが言うには、こういうのは本が一番良いらしい。感性が刺激されるらしいぞ」 「何でボーは孝宏にくれたの?」 「さぁ」 「ふーん」 みぞれはまだ止みそうにない 教室に残っていたメンバーも、変わらず残っている。ほとんどがスマホを眺めている 「孝宏そんなの見るんだぁ」 孝宏がクラスの女子に話しかけられている。話しかけている女子は本に興味がある訳もなく、ただ孝宏との話すきっかけが欲しかったのだろう。孝宏と話す女子は、はしゃぎながら他の女子を巻き込み、エロ本を持った孝宏と僕を中心に人だかりが出来ている。僕は適当に笑っているが、女子の眼差しは孝宏にしか向いていない。 こんな光景は小学生の頃からなので別に気にならないが、孝宏は大変だろうなとは思う。 皆はエロ本をめくっていく。めくる度に女子がキャーキャー騒いでいる。男子達も「おー」と大げさに声を上げている。 突然、孝宏が本を取り上げて 「今、先生が通った」 と皆をエロ本鑑賞会から解散させた。 みぞれが上がった帰り道 孝宏は前を見ながら 「千知。気付いていたら悪かった」 と言う 「そんな気はしてたよ」 と千知 目の前をビショビショのオジサンが通り過ぎる AV博士のボーが孝宏にくれたエロ本には千知の母親が写っていた。皆は知るわけもないが、幼馴染の孝宏は千知の母親を見つけて、咄嗟に本を取り上げた。そんなところだろう。 そんな所もイケメンなのだと思う。 「千知…」 「もう、いいって」 「この本いる?」
真っ赤な顔した獅子の頭に、風呂敷に似た濃い緑の服。 獅子舞が口をあければ子供は頭を差し出して、がぶりと噛まれる。 (このまま、首ごと食いちぎってくれたらいいのに) 後ろで喜んでいる両親には、決して言えない本音を思う。 歩く獅子舞の足の下では、蟻が潰され、息絶えていた。 こんなにも身近に、死がある世界。 弱肉強食の世界。 人間だけが、科学という強者の武器に守られて、弱者さえも生き残ってしまう歪。 噛まれる食われるを祭りのように持て囃す歪。 いつだって歪が見えるし、いつだってそんな目ん玉をくり抜いて捨てたかった。 「よかったねー」 「これで一年、健康になれるよ」 ぼくをいつまで子ども扱いするのか、過保護な両親が頭を撫でる。 「さ、帰ってご飯の支度しなくちゃ。今夜はお肉にしましょうか」 そして無邪気に、弱肉強食の強側にいるはずの獣を、いともたやすくくらう宣言をするのだ。
「あのさ、サキ。俺のどこが好きなの?」 相変わらずぶっきらぼうな隆太の横顔が、夕日に照らされている。 人気のない田舎の駅で、私と隆太は帰りの列車を待っていた。初夏の風が二人の背中をなぞる。 ……何を言っているんだろうか、この馬鹿は。 「三日前に振った女に対しての質問とは思えないのだけど」 隆太は鞄を右手で持ち直して、空いた左手をポケットに突っ込む。 「どうしても、聞いてみたくなって」 隆太の顔は真剣だった。 私は、精一杯、意味がわからないという表情を浮かべる。しかし隆太は向かいのホームを見つめたまま、少しも私のほうを向いてくれない。 ローファーのつま先で地面をコツコツと叩く。 「か、顔とか……」 そう呟いて横目で隆太の反応をみてみるが、眉一つだって動かない。表情筋の動かし方を知らないのだろう。ああ、本当に馬鹿。 隆太は不満そうな顔で答える。 「嘘はつかなくていいから」 嘘なんてついてませんが。誤魔化しはしたけれど。 私はどう返答したらよいか悩む。 仲の良い友人と恋バナをすると、隆太の好きなところを聞かれることがある。しかし、自信を持って答えられないため、毎回適当に返事してしまう。顔も、性格も、声も好きだけれど、その質問の答えとしては不正解だと思う。 何気ない日常に隆太がいてくれるのが嬉しい。だから、強いて挙げるなら、二人の時間が好きなところだろう。 「今みたいな、帰り道が好きだよ」 私はそう答えてみる。 目の前を通り過ぎる轟音。快速列車が通りすぎるまで続く少しの沈黙。通り過ぎても隆太は口を噤んだままだった。 「なんてね」 私は、何かを誤魔化すように愛想笑いをする。 再び訪れた沈黙。耐えきれなくなった私は、話題を変えようと必死に頭を回転させる。しかし、出てくる言葉はどれもつまらないものばかり。だから、一度捨てた言葉を拾って隆太にぶつけてみる。八つ当たり。 「やっぱり、隆太のことが好き、みたい」 「……そう」 隆太は勝手に満足したようで、頭をわさわさと振って、線路の続いている先を覗き込む。 何処から吹いてきたのだろうか。今度はまるで私だけを狙うみたいに冷たい風が背中をなでた。 隆太の好きな人は一つ上の先輩らしい。部活のマネージャーだと、照れた顔で呟く隆太の顔を思い出す。 私の知らない人。 私の知らないところで、私の知らない隆太が好きになった人。 あの日に置いてきた感情が戻ってきたのだろうか。どうでもいいことを考えたせいで、泣きそうになる。それでも、隆太に涙を見せるのはなんだか悔しいので、茜色の空を見上げて耐える。 どこか遠くで踏切の音が鳴った。 心の奥から溢れてくる感情に名前はあるのだろうか。 私は隆太の横顔を見ようとする。だけど、首が動かなかった。 私たちの乗る普通列車が到着するまで、あと十分。 二人だけの帰り道。 それで十分幸せだと、自分に言い聞かせてみた。
毎日決まった時刻に起きて 毎日決まった時刻に食事を摂って 毎日決まった時刻に家を出て 毎日決まった時刻に睡眠を取って …くだらない。そう感じている こんな生活を何十年も繰り返す事に価値を見出せない 何故、苦しみながら生きる事を選択し続けるのだろう (完)
この部屋の景色決して悪く無いのにこの世界は 毎日が当たり屋に遇う様な理不尽で私何もして 無いのに因縁ばかり付けられ逸そ消えたく為る こんな処来るんじゃ無かった4つの島の住人達 挨拶しないし感じ悪過ぎて嫌に為る誰か助けて 問うが面倒事と嫌な現実ばかり実現化する最低 最悪な環境マジで苛めだろう温水🚿も出ないし 給湯開けたら錆びて部品欠損の癖に私に自腹で 払えと脅すやり方恐ろしいです私エネルギーの 器ですがヤクザの様な管理会社とガス屋に詐欺 られた哀れな神の御霊の天照光汝侠任です
「どうか私たちをお救い下さい! 悪しき為政者を引きずり下ろし、搾取され続ける私たちをお救い下さい!」 母が、変な石像に祈っている。 内容も、収入が低いうえに物価も税金も上がるからどうにかしてくれ、というのをご立派に言っているだけだ。 物心ついたことから、母は神へと祈っていた。 子供の頃は一緒に祈っていたが、あの石っころは願いを叶えてくれたことなんてないので、中学生くらいから祈るのを止めた。 母が激高したが、変な石像を叩き落したら、悲鳴を上げて怒るのを止めてくれた。 こんな子供一人の暴力にも負ける神。 なんて弱いんだろう。 母に影響されたとは思いたくないが、俺はいつからか神を探すようになった。 神社に行ってみたり、スピリチュアルなクラブに入ってみたり、ネットで見つけた怪しげなまじないを試してみた。 しかし、一度も神は俺の目の前に現れなかった。 神を罵倒するのが口癖になってからも、ただの一度も。 神が本当に偉大ならば、とっくに俺は裁きを受けているだろう。 だが、何も起こらない。 俺はピンピンしているし、世界は何も変わらない。 「あんた! バチが当たるわよ!」 唯一起きることと言えば、母がヒステリックに叫ぶだけ。 別に恐くない。 変な石像を叩き落せば勝ちなのだから。 相変わらず神を探していて、蹴っ飛ばした石がお地蔵さんに当たってぐしゃぐしゃになった瞬間、ふと気づいた。 世界が変わったのは、いつだって俺自身が動いた時だったと。 変な石像を倒せば、母は止まる。 神の籠を受けているはずの、母が止まる。 「あー、そっか。神って、こんな身近にいたんだあ」 俺はお腹をさすって、自分の中にいるだろう神に挨拶した。 世界が変わったのは、いつだって俺自身が動いた時だった。 つまり俺こそが、俺の世界の神なのだ。 「おい! 飯! 石像壊すぞ!」 「やめて! すぐ作るから!」 灯台下暗しってやつだろう。 俺は、俺の中にいる神を飼いならし、平和な生活を謳歌し始めた。
ひろきは意気揚々とゲームの進み具合を披露してくれた。主人公を含めた四人のパーティーは、全員が武器も防具も何一つ装備していない状態だった。代わりに、一人一人が大量の「やくそう」を持たされていた。「やくそうは、大事だからね」笑顔でそう語ったひろきに、僕は何も言えそうになかった。
引っ越しの数だけドラマがある そんなことはない 初めての引っ越しのとき感じた緊張や不安は もう忘れてしまった 覚えている必要、ないのだから 引っ越しの回数を数える必要も、ないのだから なんの意味があるというのか それより、あと何回、こんなことくり返さないといけないのか そのことを知りたい、教えてほしい 知ったところで、何も変わりはしないのだけど 「きっと手紙書くからね」 「会いに行くからさあ」 何度言われ、何度裏切られたか 何度言われ、わたしは何度、本当にそのことを望んでいたのか 途中から入っていくことの不安はなくなって クラスに馴染むことだってしなくなって 受け入れてもらえなくても、それは、つかの間のこと 気にしても、気にしなくても 気にしてもらえても、気にしてもらえなくても それは、急にやってくる 「来週、引っ越すことになった」 その言葉の数だけ引っ越しをしてきた 「来週、引っ越すことになった」 その言葉の数だけ、これからも…
「出たなホワイトレンジャー!今日こそはお前達の息の根をとめてやる」 「黙れ!ブラックホール団!いいか!お前たちに良いことを教えてやる!」 「な…何だ」 「フッ。白色はな、二百色あるわ・け・で・は・ない!」 「な…聞いて損したわい!かかれー!攻撃開始ー!」 今日もホワイトレンジャーとブラックホール団は戦っている その様子をモニターで見ている男がいる ここはホワイトレンジャーの基地 沢山のスタッフがホワイトレンジャーを支えている。その中心にいるのが染五郎博士 ホワイトレンジャーを作った天才科学者である。 「博士、今回もブラックホール団は新たな怪人を製造しています。今攻撃パターンの解析を進めています」 「ご苦労さまです。よろしくお願いします」 博士は唯一ホワイトレンジャーに直接指示が出来る司令官でもある。 スタッフのサポート一つで戦況が変わる。 ホワイトレンジャーは戦いがある度にチームワークが良くなっていく。日々お互いを信頼していることがよく分かる。 状況状況に応じて、各自が流れるように動き、最適な攻防を繰り出している 対してブラックホール団はリーダーの恐怖政治で今の状態を保っているだけの集団になっている。今にも破綻しそうだ。果たしてどのように破綻するのか。 もし、新たな悪のチームが出来れば、ホワイトレンジャーの任務はより複雑になってしまう。 「博士、解析結果が出ました。データを送ります」 「ありがとうございます」 博士はデータを確認する この短い間によく分析されている。 ホワイトレンジャーの勝利は彼等と彼等を支えるスタッフとの努力と願いの結晶である。 博士はデータにもとづき、最適な攻撃方法を伝える。ホワイトレンジャーに指示を出す。そして最適なロボマシンを現場に出動させたと言うと 「博士、サンキュー!」 ホワイトレンジャーのリーダーであるホワイトは快活な応答をした。 博士は席を立ちエレベーターに乗って地下へ向かう 彼は染五郎博士。ホワイトレンジャーを作った天才科学者である。 そしてブラックホール団の怪人達を作るマシンを作った科学者でもある。 エスカレーターが地下へ下がる間、彼の意識は過去へ遡る 染五郎博士は社会の黒い思いを集めエネルギーにする研究を行っていた。その過程で偶然に完成したのが、黒い思いを具現化する装置、ブラックレンジだ。 初めての稼働テストをする日。 連日徹夜が続いていたが、頭は興奮していた。ついに完成するのだ。 ブラックレンジには順調に社会の黒い思いが集まっていた。ところが容量がMAXになってもリミッターが効かず、マシンの限界まで行くと爆発音と共にレンジから黒い思いを具現化した怪人が誕生した。黒い思いの怪人は博士を襲い、博士は頭を打ち、気を失ってしまった。目を覚ましたときは怪人はいなくなっていた。ブラックレンジと共に。 「皆!頑張るんだ!」 「ぬぬ…しぶとい奴らだ!ホワイトレンジャー!」 イヤモニから戦況が聞こえてくる。 両者の戦いは終わらない。 博士は、ホワイトレンジャーの基地にある、最下層の研究室で新たなマシンの稼働テストを始める。
子供の時から、世の中に馴染むのが苦手だった 上手く世の中に馴染めない事を痛感させられては、適応を急かされての繰り返し 主張も・意思も、次第に喉から出なくなった 頭が上手く働かなくなる時がある 机に並べられた付箋たちを自分の元へ両腕を使って掻っ攫うようにして 乱雑に集まった付箋に書かれた文書を読むイメージ そして、その工程を瞬時に求められる時 情報過多の世界に堕ちて、思考が停止する感覚 この認知が貴方に伝わるか判らない 上手く生きていけないようだ シングルタスクのようだ 当たり前の認知が、私の認知にあるとは限らない。残念な事だが カメレオン達の中から自身の存在を忘れさせて 後ろから肩をぶつけられる感覚を忘れさせて (完)
深夜過ぎ、会社帰りの道で通りかかった居酒屋から、一台のピアノが出てきた。ピアノはだいぶ酔っていた。ピアノはふらふらと路地を行ったり来たりした後、電柱の陰に隠れた。「ああ、吐くな」と思った。案の定、ピアノは電柱に向かって吐き始めた。地面に広がったそれは見事なソナタだった。優雅なソナタだった。ピアノはすっきりした顔になると、またふらふらした足取りでどこかに去っていった。俺はそれを見送り、ピアノが吐いたソナタのメロディーを鼻歌で口ずさみながら家に帰った。翌朝、出勤のためにその道を通りかかった。電柱の陰に吐かれたソナタは既に片付けられていた。俺はわずかに地面に残った跡を横目で見ながら、昨夜のメロディーを鼻歌で歌おうと思った。だが、もうそれがどんなメロディーだったか、思い出せなかった。「まぁ、いいか」と俺は思った。
ある春の日、午後の電車に乗っていた。乗客はまばらだった。みな寝ていたり、スマホを見ていたりして、うつむいていた。俺も含めて。小さな駅で電車が停まり、一人のお爺さんが乗ってきた。お爺さんはきょろきょろと周りを見回した。そして、持っていたバッグから、何か、小さな黄色い、四角い塊を、いくつも取り出した。それは、バターだった。お爺さんは、そのバターを、一つ一つ、うつむいている一人の乗客の頭部に置いた。それは微動だにしなかった。「溶けへんな」お爺さんは言った。「君はパンじゃないみたいやね」お爺さんはその行為を、他の乗客たちにも続けていった。乗客たちは誰も反応しなかった。そして、お爺さんは俺の目の前に立った。俺の頭頂部にバターが載せられた。どのくらいの時間が経っただろうか。それは何十時間にも感じたが、実際は数秒だっただろう。つーっ。おでこに液体が垂れてきた。指ですくう。それは解けたバターだった。「君、パンか」お爺さんの目は輝いていた。俺はゆっくり頷いた。
喫茶店でコーヒーを飲んでいた。向かいのテーブルに、上品な老婦人が、こちらを向いて座っていた。老婦人の目の前にはコーヒーカップが置かれており、老婦人はその中をスプーンでかき混ぜていた。カップの中に入っているのはコーヒーのように見えたが、何だか違う気もした。コーヒーにしては、と言うのも変だが、何だかやけにきらきら輝いているのだ。老婦人はお金持ちに見える。高価なコーヒーなのだろうか。そんな単純なことを思った。その時、老婦人のカップの液体の中から、小さな腕が、にゅっと出てきて、スプーンを掴んだ。小さな腕には金色の毛が生えていた。その腕は助けを求めているように見えた。老婦人はそれに気づき、自身の細い指先で、小さな腕をスプーンから剥がし、それからスプーンを思い切り、カップの底に押し付けた。激しい泡が液体の表面にぼこぼこと浮き上がった。やがてそれが途絶えた。老婦人は再びスプーンで液体をかき混ぜ始めた。徐々に液体の色が変わってきた。さっきより濁ってきた。老婦人はそれをかき混ぜ続けていた。老婦人はその液体をいつまでも飲まなかった。