見ていた。 見ていた。 ずっと見ていた。 朝起きて着替えている時も。 ご飯を食べている時も。 通勤している時も。 会社で仕事をしている時も。 会社近くのカフェで昼食をとっている時も。 退勤している時も。 居酒屋に寄って酒を飲んでいる時も。 家で勉強している時も。 お風呂に入っている時も。 ベッドで寝ている時も。 望遠鏡。 隠しカメラ。 防犯カメラのジャック。 あらゆる方法で見続けた。 何日も。 何週間も。 何ヶ月も。 「ああ、今日も可愛いなあ」 ずっと見ていた。 そして千日目。 お風呂から出た彼女が立ち止まり、突然隠しカメラのある方向を見た。 いや、隠しカメラを通して私の目を見た。 彼女の口が動いた。 『千日目。ずっと、見てるよ』 私は、隠しカメラの映像が映っていたスマホを落とし、後ずさりした。 背中が壁にぶつかり、へなへなと座り込んだ。 ただ、恐怖だけが襲ってきた。 何日も、何日も、何日も、彼女を見てきた。 好きだから、ずっと見てきた。 でも、見られることがこんなに恐いことだったなんて。 たった一度見られただけで、この世界から逃げ出したくなるほど恐怖を感じた。 以降、私は彼女を見るのをやめた。 彼女に見られたくなくなったから。 カーテンを閉めて、部屋に籠った。 しかし、今でも思う。 今の私も、彼女に見られているのではないかと。 時折、カーテンの隙間から外を見る。 道行く人間が全員彼女に見えて、すぐにカーテンを閉じた。 「もう、勘弁してくれ」 閉じ切ったカーテンは、今日で何日目だったか。 見られることがこんなに恐ろしいと知っていれば、誰かを見たりしなかったのに。
京都は 修学旅行でだけ バスに乗って お寺に行って お寺に行って また お寺に行って 鴨川というとこに 行ってみたかったのに わたしは制服で となりには 大学生の 気になるあの人 等間隔で 座ってみたかった あの人と 等間隔で
ある日の夕方、男が改札を出た。 一瞬、足を止める。 駅のホールに、小学生の声が響く。 「募金お願いします」 両手で箱を抱え、頭を下げた。 小さな女の子が駆け寄り、小銭を入れた。 杖をついた老人が、財布を開いた。 車椅子の青年が、片手で車輪を回しながら、箱に手を伸ばす。 「ありがとうございます」 取材のカメラが、小学生の笑顔を映した。 男は、大きく息を吐いた。 そして、両脇に並ぶ小学生の真ん中を歩き、駅を出た。 「募金お願いします」 背中に視線を感じる。 少しずつ、声が遠くなる。 男は、街のネオンを眺めながら呟いた。 「勝った」
近所のスーパーが進化した。 昨日までスーパーだったのに、なぜかハイパーと名乗っていた。 「なにこれおもしろそう」 好奇心で入ってみた。 店内は、昨日とは比べ物にならない程ピカピカになっており、店員たちも高そうな制服に身を包んで立っている。 「我がスーパーは、より良い物をお客様に届けたい想いで、変わりました!」 スーパー……いや、ハイパーの店長さんらしい人が、メガホンを持って客へアピールをしている。 そこはアナログなのか。 それはさておき、ぼくは昼食を調達するため、いつものお総菜コーナーに向かった。 ぼくが好きなのは、中華弁当だ。 チャーハンと八宝菜の組み合わせが、このスーパーのお惣菜の中で、ベストマリアージュなのだ。 「あれ?」 だが、お総菜コーナーに、中華弁当の姿はなく、代わりにに北京ダック弁当が置かれていた。 お値段は、中華弁当が十個は買える値段だ。 他のお惣菜を見ても、どれも内容とお値段がハイパーになっていた。 ぼくは無言で、お総菜コーナーを後にした。 ハイパーを出る途中、ハイパーに出店しているお店を見てみれば、どれもこれもお高い物ばかり。 庶民の財布では、ちょっと手が出ない。 「普段の日常に、良い物を取り入れましょう! ハイパーな日常にしましょう!」 必死な店長の顔をチラ見して、ぼくはハイパーを出た。 「店長がお客さんなら、買うのかな?」 いったい、なぜこんなことになったのか。 答え合わせが完了するより先に、しばらくするとハイパーは潰れていた。 建物が取り壊され、新しく何かが建つのを見ながら、ぼくなら何を建てるだろうと物思いにふけっていた。
田舎じゃ、皆顔見知り。 新聞配達してくれるのは、近所の苦学生の兄ちゃん。 散髪してくれるのは、父の幼馴染の理容師さん。 コンビニで会計してくれるのは、大学生になったばかりの近所の女の子。 お客様は神様です、なんてとんでもない。 店員はお客様の顔見知り。 つまり神様の顔見知り。 私が神だと言おうものなら、私も神だと言い返される。 神々の住まう地、それが田舎だ。 「おいこれどうなってんだ! 責任者呼べ!」 だから、都会は最高に気持ちいい。 皆他人。 顔見知りなんて一人もいない。 つまり、私が神様だ。 「こんなもんに金払わせる気か!」 上京最高。 無事、お客様デビュー。
服のほころびから散り散りになった生地が零れ落ちる 日に日に大きくなっていく裂目は、遂には切離されて失う日のことを予告している 昔から今まで恨んでいた親の記憶から、今更になって、良い思い出とは言わないまでも、気遣ってくれた記憶などの愛情の欠片が強く浮き出てきたように思われる それは、子供の頃の夏休みの終わりに似た感情で、「実はずっと幸せだったのかもしれないな」と過ぎた日々を誠に生きてきたのかの後悔を覚えてるのだと感じる それでも、人生で誠に生きていない日などない事も分かってはいるのだけども。 ほころびから零れ落ちる塵が愛しいのにも関わらず、縫うことを億劫に感じてしまうのは、やはり、自分の事だからなのか。限りがある命を自分の手で邪魔したくはないと言う心からなのか。 もし、子供の頃ならば次の朝には糸を通してもらっているのかもしれぬ。
宇宙空間の端っこ。 地球からずいぶん離れたところに、知的生命体の住む星があった。 「偵察隊からの連絡は、まだないのか」 「はい。通信は途絶えたままです」 この星の研究者たちは、移住先を探すため偵察隊を送り出していた。 「早く見つけないと…」 科学技術は進んだ。しかし、それと同じくらい自然破壊も進んだ。 「室長。我々は、どうしたらいいんでしょうか」 「わからん。彼らからの連絡を待つしかない」 その時、微かな電波を受信した。 「ん…何かのニュース映像みたいだぞ」 「おぉ。見てみろ」 画面の前に、大勢が集まった。 「偵察隊が、歓迎されてるぞ」 画面は、そこで切れた。 「もう、向こうで生活してたんだ。室長、我々も今すぐ行きましょう」 皆、宇宙船に乗り込み、偵察隊の待つ地球へと旅立った。 誰もいなくなった星。 研究室の受信画面から、映像の続きが流れ出す。 マイクを持った女性が、水槽の中を覗き込んだ。 「今年も、ここから全国に出荷されます」
初恋だった よく話に聞く雷に打たれたような衝撃も突然恋に落ちる瞬間も特に無かった だけど、それは紛れもなく初恋だった ただ、あったのは時間だけ 長く一緒に過ごした時間 その時間によって 俺の初恋は俺の中でゆっくりと育っていった ……叶わぬ恋と知りながら
「あの、変わってもらえませんか?」 「何をですか?」 「僕は、あの娘に介助をお願いしたい」 ベッドの上で、中年の男が視線を上げた。 「ここ、同性介助ですが」 「僕、見てるだけです」 「それって、結構セクハラですよ」 「合理的配慮でお願いします」 薄暗い部屋に、デジタル時計が光る。 「まぁ、上に相談してみます」 「僕、不安定になるかも……」 「はい。お大事に」 男は扉を閉めた。
昔、イラストが得意な友人にどうすれば絵が上手くなるのかと方法を聞いたら、「描いて描いて描きまくれ。練習せよ」と言われたことがある。 確かにその通りである。たいていのことは、結局それでしか上手くならない。 とはいえ、時間は有限。 絵の練習をする時間と小説書く時間、どっちを選ぶかってなった時、私は迷わず小説を選んだ。 絵が嫌いだったわけではない。 私の創作意欲の根源が「描きたい」じゃなく、「書きたい」だったからだ。 だから、今、小説を書いてる私がいる訳なのだが。 もっとも、子どもの頃、生まれて初めて創作したのが絵本だったので、当時を踏まえて考えると、出発点はずいぶん曖昧だったのかもしれない。 「絵」と「文章」、夢中になるものがどっちに転んでもおかしくなかった。 会ってみたいものだ。 「絵」を選び、漫画を描いている世界線の私に。
親父が言ってた。 昔、コンビニのゴミ箱には、消費期限の過ぎた弁当が捨てられていたって。 「ああ、腹減った」 だから、貯金が尽きて、腹をすかせた俺がコンビニに向かったのは、当然の判断だろう。 「……なにもねえし」 だが、時代は無情だった。 弁当どころか、コンビニ近くにごみ箱さえもない。 くそみてえな潔癖社会。 「はいはい。ゴミなんて食わずに死にますよ」 壁に恨み言を履いて、その場を立ち去ろうかと思った瞬間、何かを蹴った。 「ん?」 足元を見ると、美少女が倒れていた。 長い髪が地面に広がり、スカートが風でひらひらと揺れている。 人生で初めて出くわした状況だ。 俺は周囲に誰も居ないことを確認すると、肩をゆすってみた。 「もしもーし。こんなところで寝てたら、風邪ひきますよー?」 起きない。 腰を揺すってみた。 「もしもーし?」 起きない。 こうなれば仕方ない。 決して本意ではないが、胸か尻を揺すってみよう。 「う、うーん」 起きた。 揺すってないのに。 ちくしょう。 美少女がダルそうに体を起こして、眠そうに眼を擦った。 そして、辺りを見渡した後、俺と目が合った。 「え? 泥棒?」 「なんでだよ」 「ここ、私のうち」 「地球があんたの家なら、神様かなんかな?」 「? 何言って……あれ?」 美少女は、ようやく自分のいる場所に気づいたようだった。 目を丸くして驚いた後、また俺を見てきた。 「ここはどこでしょう?」 「コンビニの横」 「今日は何日でしょう?」 「八月十六日」 「私は誰でしょう?」 「それは知らん」 「なんと、私はアオイです」 「サプラーイズ、じゃねえんだよ」 美少女が起き上がりたそうにしていたので、俺は美少女の腕を引っ張った。 「ありがとう」 「どういたしまして」 「ところで、私のカバンはどこでしょう?」 「それも知らん」 美少女は、自分がスマホも財布も持っていないことに気づいて、首を傾げた。 「そういえば、昨日は合コンでした」 「昨晩はお楽しみでしたね?」 「その後、ホテルに連れ込まれそうになったので、金玉蹴り上げて逃げてきたんです」 「女の子が金玉とか言っちゃいけません」 「ただ、私も相当酔っぱらっていましたので、とりあえずコンビニで廃棄弁当を調達しようと思い、ここで力尽きたみたいです」 「まさか、廃棄弁当を調達しようとした馬鹿が、二人そろうとは」 「これからどうしようかなあ」 美少女は、困った表情で首を傾げた。 交通費を渡してやるのが格好いいところだが、生憎今は金がない。 かといって、ホテルに連れ込まれそうになったばかりの女を、自宅に招くほど馬鹿でもない。 「貴方のおうちは近いですか?」 「まあ、そこそこ」 「お風呂貸してください」 「なんでだよ」 「ついでに服も」 「ねえよ」 「彼女がいないことは分かっているので、男物の服でいいです」 「そこまでは言ってねえよ」 流れに乗せられて、美少女が俺の家に来た。 突然のことだったから部屋は散らかっていたが、美少女は気にせず風呂場に直行した。 「バスタオルあります?」 「後でここに置いとく」 「五秒以上、覗かないでくださいね?」 「四秒以内ならいいのかよ」 シャワーの音が聞こえる。 俺はクローゼットからバスタオルと着替えの服を引っ張り出して、風呂場の近くに置いて、四秒だけ風呂場を覗いた後、部屋に戻った。 だらだらとスマホを触っていると、美少女が部屋に戻ってきた。 髪の毛がしっとりと濡れて、水も滴るいい女というやつになっている。 「まさか本当に覗くとは思いませんでした」 「許可はもらってたからな」 「人生初の女性の体はどうでした?」 「見たことないなんて言ってねえよ」 美少女が俺の前に正座したので、俺も正座で座り直した。 「実は記憶喪失でして」 「このタイミングでカミングアウト!?」 「しばらく、ここに置いてください」 美少女が深々と頭を下げてきたが、俺は少し迷っていた。 こんなに都合のいい話があるだろうか。 美人局ではないだろうか。 とは言え、話している感じ、嘘をついているようにも思えない。 本当に記憶喪失だとすれば、放り出すのもどうかと思う。 「いいぞ」 「本当ですか!」 「ただ、家に慣れたらバイトをしてくれ。なんと、家賃滞納二ヶ月目だ」 「お願いする相手を間違えましたね」 これが、謎の美少女アオイと出会った日の話。 そしてこれから語るのは、俺の人生で一番熱かった、アオイと過ごした思い出話だ。
「それでは、決を取ります。死ぬのに賛成の人?1、2、3、4……14人。では、死ぬのに反対の人?1、2、3……16人。今回は危険を認めますので、危険の人?……2人。反対が賛成を2人上回りました。よって、うちのクラスでは死なないことになりました。先生……」 「わかりました。クラスの結論は、職員室に持ち帰り、他のクラス・学年の意見と共に検討しますので、結果が出るまで数日待ってください。それでは、臨時学級会を終わります」 「起立、礼、着席」
男女が、ゆっくりと目を開けた。 「私たち、死んだのね」 二人の手は固く握られている。 「これでみんな、分かってくれたさ」 「そうね。私たちの愛は本物だったって」 見つめ合う二人。 「……なんか、人多くない?」 辺りを見回し、杖をついた女に声をかけた。 「すみません。ここは、どこですか」 「ここ、三途の川だ。並ぶんなら、向こうだ」 女は長い行列の最後尾を、杖でさした。 「あっ、スマホがない」 女がポケットを探る。 「洗面所の鏡のとこに置いてきた」 「もう、いいんじゃない」 「だめ。データ、消してないもん」 その時、遠くで声がした。 「ん…?お母さん。ちょっと待ってて。スマホ、取ってくる」 女は、声がする方へ走った。 「先生、すぐ来てください」 看護師が大きな声を上げた。 母親は娘の手を握り、泣いている。 「私のスマホ…」 男は河原の石に腰掛け、女の帰りを待った。 「兄ちゃん、どうした」 酔っぱらいが横に座る。 「僕も、帰りたいんですけど。どうしたら、いいですか」 「誰か、呼び掛けてくれる人、いねぇのか」 「はい」 「じゃあ、その彼女、待つしかねぇな」 酔っぱらいは笑いながら、男の肩を叩いた。 「その彼女、今度来る時は、婆さんだな」
「気をつけて、すべりますよ」と誰かに言われ「はい」と答えたとたん、すべってころんだ。 返事の方に注意が行ってしまった。 夜中に降った雪が、今朝の寒さで凍っている。 あわてて立ち上がり、声の主、歩道脇の建物の前に立つ60代くらいの男性に頭を下げた。 「いいえ」と、人の好さそうな顔で返され、「大丈夫ですか?」と心配そうにされた。 「大丈夫です」と答えて歩き出してから、何かかおかしいと思った。 ふりむいて、やはりと確信した。 雪はあの建物の前にだけあり、その前後の路上の雪はきれいに掻いてある。 わざとだったのだ。自分の家の前だけ雪を掻かずにおき、さらに通行人を用心させないため に、雪に足が乗った瞬間に声をかけ、注意をらす。「気をつけて すべりますよ」 「あの野郎!」と思い、男をにらみつけると、男は、あの人の好さそうな笑顔でこちらに頭を下げる。 思わず頭を下げ返してしまった。
「ほーら。ご飯ですよー」 娘が、お人形遊びをしている。 微笑ましい光景だ。 お人形遊びに使っているのが、呪いの人形であるという一点を除けば。 娘が、おもちゃのお菓子を人形の口に近づける。 人形を小刻みに動かして、お菓子を食べさせるふりをする。 翌日。 俺は太った。 たった一日で、十キログラム増。 脱・中年を目指した筋トレの結果は、一瞬で消え去った。 「はーい。髪を切りましょうねー」 娘が、人形の髪をはさみで切っていく。 黒い毛糸が、人形の頭から床へと散らばった。 翌日。 俺は禿げた。 美容師から強い毛根とお墨付きをもらっていたのに、完全に河童。 タオルで磨けば、良い音がしそうだ。 「なあ。そろそろ、娘から人形を取り返してくれよ」 俺は妻に泣きを入れた。 妻は包丁を動かす手を止め、最高の笑顔を俺に向けてきた。 「デブでハゲてたら、さすがに浮気できないでしょ?」 俺は何も言い返せず、すごすごリビングに戻った。 ソファに座っていると、娘が最高の笑顔で近づいてきた。 「パパ見て! ブーブー! ママが買ってくれたのー!」 人形と、車の玩具を持って。
ドアがこじ開けられ、一同が書斎になだれ込むと、床にこの家の主人が倒れていた。一目で死んでいるのがわかった。顔の横に数枚の紙が落ちていて、紙には何か書かれていた。拾い上げて読んだ名探偵は絶望的にうめいた。 「残念です。とても残念です。これは詳細に書かれたダイイングメッセージです。ここには何もかもが書かれています。犯人、トリック、事のいきさつ、何もかもです。亡くなるまでにずいぶん時間がかかったようですねえ。これでは私の出番はありません 」 名探偵の心情を思い、誰もが視線を床に落とした。 と、名探偵が首をかしげた。 「いや、ちょっと待ってください。ペンがありませんね、ペンが。ペンなしで、この人はどうやってこれを書いたのでしょう? ペン、ペン、ペン」 名探偵は、あたりを探し始めた。 みんなにこにこした。
ある日の夕方。 テレビのローカルニュース。 アナウンサーが原稿に視線を向けた。 「今日の午後、17歳の高校生が民家に忍び込み、現金3,000円を盗んだ容疑で逮捕されました」 画面に、口元だけの女が映った。 『挨拶もきちんとできるいい子よ。 そこの公園で、いつも一人でサッカーボールを壁にぶつけてたわ』 モニターを見るアナウンサーが、小さくうなずいた。 「次のニュースです。 今日の午後、17歳の高校生が地元サッカークラブへの入団を決めました。契約金は3,000万円だそうです」 画面に、笑顔の女が映った。 『挨拶もきちんとできるいい子よ。 そこの公園で、いつも一人でサッカーボールを壁にぶつけてたわ』 モニターを見るアナウンサーが、小さくうなずいた。
彼らは、抗議のためにハンバーガーストライキに入った。ハンガーストライキは絶食を闘争手段とするストライキだが、ハンバーガー・ストライキは朝・昼・晩ハンバーガーだけを食べ続け、抗議の意志を示すのだ。人によっては絶食よりもきついという。 大方の人間はモスバーガーを注文する。少しでもストレスを減らすためだ。
山賊はかっこいいぞ。 山から下りてきて豪快な一発を放つ。 僕は何故か海賊に終われている。 僕は山の野草を採りに行きたい。 今日は近くにショッピングに行った。 雨が降る。 気温はそこそこだ。 山はメガソーラーでむちゃくちゃだ。 生まれ変わったらオリンポス山にでも登りたい。 地球の山がデジタルツールで埋め尽くされたら火星の山を緑化して再生させようと思う。 いろんな植物を植えよう。 おかわり君、一緒に山で焚き火をしよう。 飯をつくってあげよう。 だから猪と鹿を捕ってきてくれ。 カムチャッカの火山は噴火しているのに登山する人がいる。 偉い豪気だ。 僕は熊本のカルデラがふっとんでも引きこもってそうだ。 あるいはふっとんだら動き出すのかも知れないが。 ケツヒッパタカレナイトウゴカナイ。 おかわり君がぶっぱなした一撃に勇気を貰い今日も日々を過ごす。
思うようにならない自分の体に焦れているのか、ベビーベッドの中で赤ん坊が手足をばたばたさせる。六つ上の兄の顔を一心に見つめ、言葉にならない声を上げる。 こいつにはくすぐったいという感覚がすでにあるのだろうか? 幼い兄の頭に、そういう意味の考えがふと浮かんだ。 ためしにのどをくすぐってみる。赤ん坊が笑う、脇の下はどうだろう?大笑いだ。じゃあ、足の裏は? 興に入った子どもは、弟をくすぐり責めにする。赤ん坊の笑いが止まらなくなる。 突然、赤ん坊が静かになる。口から泡をふいている。笑いすぎて呼吸困難におちいったのだ。 兄はあわてて母親を呼ぼうとし、彼女が買い物に出かけていることを思い出す。どうしていいかわからず、男の子は仕方なく、子ども部屋に行き、ベッドにもぐりこむ。母親が帰って来た時、自分は眠っていて何も知らない、と言い張ろうと思った。
優秀な奴隷だった。 ぼくのやりたいことを、先回りしてやってくれる。 ぼくのやりたくないことを、先回りして潰してくれる。 ぼくはその奴隷に、自由を与えた。 「お前は、今日から自由だ」 次の瞬間、ぼくは名誉ぼくの奴隷によって殺された。
自信に溢れてる人が羨ましい。 僕も食べ物を食べねば生きていけない。 僕は移動する植物、蒲公英の綿。 またアイツが種撒き散らしてるよ、って噂されてる気がする(自意識過剰) 植物のような女の子達は今日もスーパーで忙しそうに働く。 通勤帰りの人達は水場を求めて歩く象の群れだ。 地震が起こる。 水場を荒らしているからだ。 人工のそれなんかより象が怒ったときに大地を蹴る方が怖いのだ。 最近アフリカから来てる人達を見ない。 わかっているのだろう。 あるいは打楽器の音が足りないのかも知れない。 あるいは洞窟の壁画。 自分自身でやらなければいけない。 あるいは僕が読む神と物理の本は女の子と疲弊した人々の事を書いているのかも知れない。 夜煙草を吸う。 逆転の世界。 不健康な生活。 象の墓場。 ゾウノハカバ。
「『大森』って言う割にはビルばっかりだな」 「まぁな…昔は森だったらしいよ」 バイトで知り合いになった人が同じ大学に通っていると分かり、そこからよく遊ぶようになった 今は彼の地元に来ている ビル街を抜けると店舗と住宅が点在している所に出た。友人の家はこの先だと言う 居酒屋が入っているビルを曲がると場違いの光景があった そこは金網フェンスに囲まれたテニスコート位の敷地で、中は青い葉をつけた木々が密集している。まるで森を切り取ってそこに着けたようだ 「ここは?」 「昔からある空き地」 入るな危険! マムシ注意! 等の看板が付いている 「こんな高い木、強風で倒れたりしないのかよ」 「さぁ大丈夫何じゃない」 友人はコンビニで買い物をするというので、この小さな森を眺めて待つことにした 森のから鳥のさえずりや小動物が落ち葉の上を歩く音が聞こえる 金網の間から森を覗くと木々の間から人がいるのが見えた 黒い長い髪が腰の方まで伸びていて 白く健康な手足が服から出ている そんな若い美しい女性が木の根元で倒れていた 「わりぃ、お待たせ」 気づけば金網に足をかけてよじ登ろうとしていた 次に森を見るとあの女性はいなくなっていた 「今さ…」 「レジのおばちゃんが幼馴染お母さんでさぁ、それで思い出したんだけど…」 そう語り出した友人の話は、ここ大森に昔から語り継がれる伝説のような摩訶不思議な話だった かつて広大な森だったこの土地には鬼が住んでいたと言う この森に迷い込んだ人間を鬼は姿を変え、鬼の住む家まで誘い込んで、最終的に食ってしまうらしい 「…だから昔は大森じゃなくて、鬼森って言われていたらしいよ」
深夜2時、毎週水曜日この時間に起きる。何か意味があるのではないかと考え続けてちょうど1ヶ月。 私は一つ仮説を立ててみた。 どこかで呼ばれてるかもしれない。最近は転生系のアニメや小説が多くある。もしかしたらそれなのかもしれない。水曜日だけに起こるこの現象。 そう思うだけで凄く心が躍った。次の水曜日の2時、親にバレないように計画を立てる。もちろん転生はできたら嬉しいけど、期待はあまりしない。 だから、家出をするいいきっかけにする。親からの愛がないわけでもなく暴力をされるわけでもない。ただ、今になって気づいた性格だが常に自分の意思を相手に合わせて自分を常に偽ってしまう。一人一人の性格、状況、その時の様子。全てを常に考え、それぞれの人にあったキャラクターでその人と話しをする。一見、当たり前のようなことかもしれないが、小さい時からずっと演技を続けていれば自分というものを見失い、普通のコミュニケーションは取れなくなってしまう。同じような性格の人と会ってしまうとさらにそれが男性てはなく女性と仲良くなってしまうと友達や親友ではなく身体の関係まで発展してしまうことも少なくない… 身体の関係まで愛し合っていいじゃないかと思うかもしれないがそれは違う。私の場合は愛ではなく依存になってしまう。どんなに仲が深まろうとどんなに許せる関係になろうと「別れよう」と言われたらその瞬間は悲しいが、関係をゼロにできるのが今の自分の怖いところである。 ちょっと気分が悪いと思われるかもしれないが、そうやって育てられたのだから仕方ない。普通とは違うと自覚しつつ生きて行くしかない。 だから、この水曜日の深夜2時に起きてしまうのは誰かが自分を救ってくれようとしてるサインじゃないか。自分で動き出すなら今だぞ。っていう『教え』じゃないかと自分の都合のいいように思いたい。 家出をしたら死ぬほど辛い目に遭うと思うし、後悔も凄くするだろう。 それでも今のまま誰にでも優しく、たった1人を愛せずいるのは嫌だ。自分が普通でないと自分で気づけたのならば動いてもいいんじゃないか。 決心はついた。あとは計画を立てるだけ。 自分は一軒家に住んでいるから、そこから考えよう。 1、その日は『カチャっ』とロックされるまでシャッターを閉めないでおく。 2、荷物の用意は必要なものだけ。最悪カードだけでもいい。 3、当日ケータイ持つならば機内モードにして連絡が取れないようにする。 4、音を立てないように鍵を掛ける 5、自分の信頼できる1人の人との繋がりは大切にする。 計画を立てるだけでも楽しく思えてしまう。 「ねぇ、ねぇってば!!さっきからすっごい可愛い笑顔で固まっているんだけど、辞めてくれない?」 何度も何度も作戦を決行しようと考えた。考えたが、この妹がいるから中々行動に移せない。 実は私たちの親はいわゆる毒親で、『関わっていい友人関係』『将来就く仕事』『結婚相手』など全て親が決めるのだ。凄く裕福な家庭だったらありえる話しかもしれない。しかし、私の家は裕福でも富豪でもない。だから自分たちで将来は決めたい。が、私は親の言われるがまま学校、友人や恋人まで全て親によって決められて今にいたる。しかし、私は友人に恵まれて自分の置かれてる現状を教えてもらって自覚して限られた範囲ではあるが、幸せな生活をしている。しかし、私が限られた範囲で幸せそうに楽しく過ごしているのが許せないのか、私の妹を完璧に思い通りに育てたいのか毎日分刻みで予定を親が決めて、できなければ罰が与えられる。そんな生活が繰り返されている。 私が妹の状況について知ったのは2年前、私が高校生になったくらいの年だ。 2年前 「久しぶりにお風呂に一緒に入らない?」 妹が最近元気がなく笑顔になることも減ったことも気になり、妹を誘ってみた。 今思えばその時に誘わなければ、妹の現状を知らずにいたかもしれない。 「お姉ちゃん、私の身体を見ても驚かないでね…。」 妹はそう言って服を脱ぎはじめた。 「えっ」と妹を見て咄嗟に声が出てしまった。 洋服を着ていれば外からは気づくことはできない場所に、いくつものあざができていた。 「どうして!!どうして黙っていたの!」 私は声を張らずにはいられなかった。 「だって…。お姉ちゃんに心配をかけたくなかったから。」 そう言われた瞬間、悲しさと自分が気づかなかったという不甲斐なさを一気に感じお互いに裸だったが、私は妹を抱きしめて泣いた。その時、 「私が誰かに呼ばれてる」のではなく「私たちが誰かに呼ばれている」と考えた。 妹と一緒に最悪な未来を歩むかもしれないが今と変わらない未来よりも、まだ分からない未来に人生を賭ける方が私たちの生きている意味になると思い、妹との家出を決心した。
「ぎゃあああ」2026年8月25日、男の絶叫がスマートフォンを通じて響き渡った。車に轢かれ、意識が遠のいていく。現実の世界が色褪せ、「さよなら」という言葉と共に、男は深い昏睡の闇へと落ちていった。次に目を覚ました時、そこは2027年の世界だった。男のスマートフォンは、事故に遭ったあの日のままで時を止めていた。だが、そこは普通の病室ではなかった。見渡す限り、歩いても歩いても真っ白な空間。誰もいない静寂の中、遠くから髪の長い、人間とは思えない異形の女性が、ナイフを手に奇声を発しながら猛スピードで走ってきた。逃げ場のない白い世界。男の足元に、なぜか一挺の銃が転がった。恐怖に駆られた男は、迫り来る化け物に向けて引き金を引いた。「パン!」という乾いた破裂音と共に、世界は一瞬で反転する。幻覚が消え去った現実の病室で、男が撃ち抜いていたのは、自分を看病していたはずの看護師だった。「これは現実だ」と悟った男は激しい錯乱の中、病室を飛び出し、銃を遠くの海へと投げ捨てて必死に逃亡した。自分さえ助かればいい――その一心で走り続けた。その時、逃げる男の目の前に、空間を引き裂くような不気味なワープホールが現れた。躊躇うことなくその裂け目へと飛び込む。強い光に包まれ、男が再び目を開けた場所。それは、あの事故が起きるはずの、そして全てが始まるはずの「2026年8月25日」の今日だった。未来の惨劇を知る男の、本当の運命の歯車がここから回り始める。
安アパートは壁が薄く、隣の住人の声も容易にきこえてくる。今日もまた、男と女の会話が。 気持ちの紛らわしに本を手にする。本のなかでは若い女が誘拐された。 「きゃっ」 現実では隣の部屋から女の短い声。本のなかの犯人から電話がかかってきた。隣でどたっと転んだような音とともに皿の割れる音が。 「警察には知らせてないだろうな?」 本のなかの犯人。 「ケガしてないか?」 隣の男のかすかな声。 「女は無事だ、安心しろ」と本のなか。「大丈夫か?」隣の部屋の男。「逆探知できませんでした」これは本のなかの若い刑事。 本をいったん閉じる。誘拐事件の捜査は足止めになる。私のアタマのなかは激しい錯覚が巻き起こり、まるで隣の部屋の男が誘拐犯で、女をさらっていった悪者が粉々になった破片を片付けているかのような。そのうち世界の中心で半熟の目玉焼きをつくってみたり、象の背中のうえで愛し合ったり、密室のなかで目覚まし時計が鳴りやまなかったりしそうな勢い。私のアタマはぐるぐるまわり続ける。 ともかく、隣の女は無事なのか。壁の向こうからは何もきこえてこなくなった。私はあわてて本を開き、誘拐事件の顛末がどうなったのかに気持ちを向けた。誘拐した男と、誘拐された女は、恋に落ち、しかしその結末は、互いの胸をナイフで…… ああ、そうなのか。声がしなくなったのも、無理もないか。
4月から働き始めた会社。不器用だとは自覚していたが自分でも驚くほど人間関係が上手くいかず毎日が暗く無理に振る舞わなくては笑顔でいられない精神状況の日々が続いていた。会社では、『ハラスメントのない会社を』と挙げているが私自身の受けている『こと』を隠せば、会社全体としてハラスメントはないと言えるだろう。 働き始めて6ヶ月、上司から話しがあると言われ普段は使われない部屋に呼ばれた。よほどのことがない限り使われない部屋を使うということは馴染めずにいる私に『解雇』の命令があるのだと悟った。 今でさえ真っ暗な毎日なのに、もっと光のない毎日になると恐怖さえ感じながら部屋に入った。 「あなたは明日から違う部署に移動してもらいます。」 言われた言葉は、たったのひと言で異動の報告だった。予想とは大きく違い安心する心もあったが、要はここでは使えないから他の部署に異動しろ。とのことだろう。 不安を抱えたまま今日という1日が終わる。 太陽が沈み夜がくるなら必ず太陽は昇り朝がくる。どんなに不安な気持ちや緊張感で眠れないとしても異動の日は来てしまうのだ。 「行ってきます。」と家を出る時に彼女に言って職場に向かう。時間は1番混んでる時間帯の電車だ。この電車に乗ると早めに職場に着いてひと息つける。そうしてから業務に入る。今日から部署が変わるといっても毎日のルーティンは変えたくなかった。 不安な気持ちを抱えたまま上司のところに行き、次の配属先を聞きに行く。 部署が変わると言っても持ってる資格は変わらなず、やることは変わらないので、仕事量が増えるだけである。あとは部署によって1日のスケジュールが変わるので慣れるまでが大変とよく聞く。 上司から次の配属先は1つ下の階の人数は少ないのに仕事量は多いと噂の部署だと伝えられた。 良くなった点は、1つ下の階になるから早く着くことと今までの環境が変わることだけである。次の上司の人が現れると職員の紹介や仕事の内容、流れを教えてもらった。 仕事の内容がある程度分かったら業務を一緒に誰かと入ってみようと言われて早速入った。 パソコンでの作業が主なので資料をまとめる。いろんな情報を集めて分かりやすい文章にして上司に確認をとる。 見やすさや短い文章でどれだけ印象に残せるかが重要になる仕事である。 そのまま理解をしたら上司の指示に従い、業務をすすめた。 慣れない環境で働いたからか目がいつも以上に疲れてしまい、ひと息つくために自動販売機のあるスペースに向かった。 扉を開けるどこの部署か分からない人達が楽しそうに話していた。私はその中の1人の女性から目が離せなかった。自分でも感じたことのない感情だった。『綺麗』や『可愛い』では表現できない不思議な感覚を感じた。 名前も部署も年齢も分からない…。けど、ひと息つく時間になるとその女性がいるのではないかと期待してしまう自分がいた。 ひと月が経つと時々、その女性とすれ違うことがあり挨拶をするぐらいにはなったが、その時感じる不思議な感情がなにか分からなかった。 その感情にモヤモヤする中、「今日、2人で飲む予定だけど一緒に飲みませんか。」と土曜日の夕方に同じ職場の同僚から連絡があった。誘われた日にちは仕事がちょうど定時上がりの日で同棲してる彼女も夕食は誰かと食べに行くと連絡があったので「行けます。」と連絡をした。 彼女と同棲をしていながら他の女性と飲むなんていいのだろかと思ったが、モヤモヤしてる感情を知るきっかけになるのではないかと思い、返事をしてしまった。 集合場所の駅に着くと連絡をとっていた同僚の女性が先についていたらしく、駅まで向かいにきてくれた。 異動したばかりの緊張感とモヤモヤしてる時じゃなければ、恋に落ちている。 着いていくとお店に着いた。 中に入ると配置の仕方がおしゃれでカウンター席がある飲み屋がはじめてだったので緊張した。 同僚の女性は「言いたいことをたくさん言えるようにとはづきと先に飲んでいたよ。」と教えてくれた。 名前を覚えるのが苦手だから『はづき』という人が分からなかった。 奥に進むとお酒を飲む姿がとても綺麗な女性がいた。 普段のスーツ姿とは違い、私服だからすぐには分からなかったが、最近よく考えてしまう女性だった。 彼女を見た瞬間から、胸の内側が暖かくなり彼女から目を離せなくなってしまった。それと同時にこの不思議な感情は『恋』だと気づいた。 人生で、はじめて本気の恋をした。
いくらかの喪失感 ふだんどおりのような気も そういった思考のゆらぎすら いつもどおり いまぐらいの時期の夕方 急に空が暗くなって あれ? そう思ったときには もう降り出して それくらいの いつもどおり
神社は好きだ。人がいないから。 心なしか空気が澄んでいる気がするし、雑然としたビル街よりもよっぽど息がしやすい。 ここにいるのは神さまと、僕だけ。 それがいい。 木々の合間から見える空を見ながら深く息を吐いた。 1月の空気は冷たいのにどうしてかそこにいたくなる。暮れきらない仄暗さは僕を世界から隠してくれているみたいに感じた。 「……そろそろ、帰らなくちゃな」 真っ黒な鴉がけたたましく鳴きながら空を飛び交っている。 カァカァと、何匹も、何十匹も。 ここで塞ぐ僕に「帰れ」と迫るように。 「あの神社は空気が綺麗で好きだけど、夕方になると嫌な感じがする。日が落ちたら近寄らないほうがいい」 「きっと良くないものがいる」 2月の彼女はそう語っていた。 鴉の合唱は、僕を嘲る。 ばかにしたような声で、幾重にも重なって。 ベンチで縮こまる僕は、まるであのときのようだ。あのときから何も変わっていない。 胸がざわざわする。 僕は真っ黒な森から逃げ出していた。
ある日の午後。 身体社会学の女性教授が、マイクの前に立った。 「みなさん、ルッキズムって聞いたことありますか?」 「人のこと、外見で特別扱いしたり、差別したりすることですか?」 「はい。外見至上主義と呼ばれてます」 背後のスクリーンを指さした。 「今から写真をお見せしますね」 マスクの女が、写し出された。 「この女性、みなさんはどのような印象を受けますか?」 「清楚な、お金持ちのお嬢様って感じに見えます」 「そうですか。では、次の写真です」 「えっ」 最前列の学生が、目を伏せた。 「マスクを取った、先ほどの女性です」 「口が……」 「口裂け女です」 しばらく、沈黙が続いた。 「マスクしてると、見えてるところだけでイメージしてしまいますね」 授業の終わりのチャイムが鳴った。 「感染症が流行ったあと、マスクを外せない人が増えましたよね」 「先生もですか?」 「楽ですからね。目の周りだけ念入りに化粧してます」 目元を指でさした。 「おキレイですよね」 「それもルッキズムですよ」 教授は笑いながら、マスクに手を掛けた。 「私、キレイ?」 視線が集まる。 「……鼻が」
ピッという音と共に、商品の選択が確定する。 自動販売機の中を転がり落ちる音がした後、取り出し口に缶コーヒーが転がった。 パッケージに書かれているのは、『ブラック』の文字。 「飲めるのか?」 背後からは、父の声。 「当たり前だろ。俺もう、高校生だぞ?」 俺は取り出した缶コーヒーのふたを開け、一口を口に入れる。 「…………」 口の中に広がるどぶの匂い。 どぶを飲んだことはないが、たぶんこんな味。 「マッズ」 俺は、飲めると言った手前最後まで飲むという判断と、無理をせずに諦めるといった判断の合間で揺れて、結局無言で父に缶コーヒーを差し出した。 父は無言でそれを受け取り、何でもないように飲みほした。 「そんなの、よく飲めるね?」 思わず口から出てきたのは、自分が飲めなかったことの正当化。 「まあな」 父は同じく、何でもないように答えた。 どんなことも、何でもないようにこなす人。 それを大人って言うのかな。 空き缶をゴミ箱に捨てに行く父の背中を見ながら、そんなことを感じた。
月末。 いつものように財布が素寒貧なので買いだめしてあるフライドポテトと冷凍ハンバーグを食べる。 飽きてきたら¥100で買ったネギと味噌と卵を炒めて炒飯を食べる。 それも飽きてきたら蕎麦に乾燥ワカメと天カスと卵を入れてかけ蕎麦を食べる。 このルーチン、プライスレス。
婚姻届が届いた。 配偶者の個人情報が書かれる欄には、『匿名』の文字が印字されており、相手が誰なのかはわからない。 私は、自分の個人情報の欄を埋める。 そして、婚姻届を返送用の封筒に入れ、役所へと郵送した。 これで、数日後には、私は名も知らぬ相手と結婚する。 「あっけなかったなあ」 私はソファに座って、天井を見上げる。 両親の仲が良かったから、子供の頃はあたりまえに結婚するものだと思っていた。 しかし、大人になった私は、結婚に興味を持てなかった。 残ったのは、次々結婚していく友達と、私の結婚を楽しみに待っている両親の顔。 だから、匿名結婚を利用した。 私は公式に既婚者となり、親の嬉しそうな顔を見ることができた。 「あー。子供も作らないとなあ」 しばらくして、病院から封筒が届く。 体外受精をするために、必要なものが揃ったらしい。 私は予定を確認して、候補日の日程から一つを選び、封筒を郵送した。 「思ってたのと違うけど、これが現代の幸せなのかなー」 私は封筒を投函したポストを見つめ、郵便局のバイクによって回収されるのを見届けた。 私は、バイクを運転している人間の名前を、もちろん知らない。
ポエム新落語 一文字シリーズ 誰もが知っている「たき」 時は元禄、今は令和 今宵は、た このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている たぬき 文字を変更 たぬき から たき それからどうした たきにわたり たぬきさんの活躍はすばらしい そのあとどうした その功績を称え 一本締めポンとなる こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
平日の午前。 男は整理券をもらうため、小走りでパチンコ屋に向かった。 「今日は勝つ気がする……」 ポケットの中の軍資金を握った。 すると、道路脇でかがんでいる女を見かけた。 「……あの婆さん」 アパートの隣に住む婆さんが、お地蔵様を雑巾で丁寧に拭いていた。 男は足を止めた。 「信じる者は救われるか」 鼻で笑う。 夕方。帰り道、うつむいて舌打ちをした。 「ん……」 隣の婆さんがビニール袋をぶら下げ、地蔵の前に立っている。 そして、気にする素振りもなく、お供え物と小銭を袋に入れた。 「婆さん、こずるいこと考えたな」 「なにがだ」 「いやいや、今、お供え物と小銭、盗ったろ」 婆さんは笑いながら、男を見た。 「この地蔵、私が通販で買って、ここに置いたんだ」 「なんだそれ」 「他にも、何か所も置いてるさ」 辺りが暗くなってきた。 「私はねぇ、ちゃんと考えて置いてるんだ。リピーターを増やすためにね」 そう言うと、地蔵を抱えた。 「それ、どこに持って行くんだ」 婆さんが振り向いた。 「……ここは儲けが少ない」
朝は決まって 珈琲と カントリーマアムだね 好きなの きみは言って すこしだけ 困った顔をする きっと 困らせたのは 僕なのかな たぶん 珈琲の好き嫌いが ふたりの未来を 邪魔するなんて 思ってなかったわ きみは言って すこしだけ 困った顔をする きっと 思ってなかったよ 僕は言って すこしだけ 困った顔をする たぶん
郊外にある一軒家。 男がカメラを片手に、玄関の扉を開けた。 何十年も誰も住んでいない家。 家具には、白い布が掛けられていた。 「二階の奥……」 廊下に、きしむ音が響く。 階段を上がり、目的の部屋に入った。 「これか……」 男は窓際の白い布をめくり、中を確かめた。 そこには、ひじ掛けのついた古びた椅子があった。 横の机には、家主だった老婆の写真が立て掛けられている。 「皆さん、ご覧になってどうでしたか?」 スーツ姿の男が声をかけた。 部屋には、数人の男女がモニターの前に座っている。 男がスタッフに視線を送ると、窓際の椅子が運び込まれた。 「晩年、お婆さんはこの椅子に座り、外を眺めてました」 集まった男女は、緊張した顔で耳を傾けた。 「さぁ、皆さん。順番に椅子へ座ってみましょう」 机の上には、老婆の写真が置かれている。 「私は無理です……」 声が震える。 「大丈夫ですよ」 男が、そっと寄り添った。 女は恐る恐る、椅子のひじ掛けに手を掛けた。 そして、ゆっくりと腰を下ろした。 「がんばりましたね」 部屋に拍手が響いた。 すると、一人の男が手をあげた。 「先生。この椅子には、どんな因縁があるんですか?」 「……そんなものはありませんよ」 「でも、この写真の顔……」 スーツの男が、写真を手に取った。 「このお婆さん、私の母ですね」
シャーペンの芯がふいに折れた。力んだわけでもなく、ただ文字を書いただけで。 きっと安物のノートだから表面の凹凸に引っかかったのだろう。 そろそろ休憩を取ろうと思っていたので好都合だ。 そう思い、椅子に座ったまま凝り固まった身体を伸ばして解す。 窓の方を見れば、上に何も置いていない木目調のキャビネットが目に入る。 ―ペットを飼いたい。 ここ数か月、あのキャビネットの上の空白を見る度にそう思う。 もう既に悩みの種というペットは飼っている。 だから観葉植物を置くというのは少々いただけない。 水槽でも置けばきっとマイナスイオンが放出されてこの鬱々とした肩から立ち昇る瘴気と結合して中和してくれるに違いない。 換気をしても入れ替わらないこの永遠を打開する必要がある。 ―よし。 温くなったコップの水を飲み干すと悩みの種を燃えるゴミとして処分した私は、近くの河川敷に向かうことにした。 土手を下り、公園の遊具にも目もくれず一目散に川岸の方に向かう。 夕方の河川敷は、野球少年達の掛け声や無邪気に遊ぶ子供の楽しそうな声が日暮れを知らせる茜空に散乱する。 ―もう私には縁のないものだ。 下手に雑草が伸びている方には行かない方が良いかもしれない。 意外と川岸はすぐそこにあるものだ。 気が付けば足元を掬われる。 伸び放題の草むらの奥に小さなボートが停まっているのが僅かに見える。 きっと地元の漁師のものだろう。 岸と陸地の境界がわかりやすそうな方へ足を伸ばす。 群生している葦やススキが踏み固められた道を進む。 こんなことをするのは何年振りだろうか。 小学生の時以来な気がする。 私のアパートはペット禁止だ。 犬猫だけではなく、水槽の類も禁止ときた。 ペットを飼うために引っ越しをするか、黙って飼うか、諦めるか。 それくらいの選択しか考えつかなかった。 ―昨日までは。 私は今日からアパートでペットを飼う。 別に規約違反ではない形で。 葦によって川の流れが遮蔽されている水辺を見つけ、陸地から中を覗き込む。 細かい泥が堆積した水の中は、流れが無く静謐でそこに永遠があるようだった。 …これかな。 私は水に手を伸ばす。 意外と温い温度に何度も繰り返して結局諦めた記憶が蘇る。 少し靴がぬかるみに沈み、汚れるが気にしない。 手のひらに収まるくらいのそれを握りしめ、水から引き上げる。 そして、今日から飽きるまで飼う事に決めた。 気が付けば、茜空はすっかり西の端に追いやられていた。
山あいにある小さな沼のほとりを、中年の男が歩いている。 「釣れますか?」 石の上に座った年寄りの男が、釣りをしていた。 「さあな」 しばらく水面を眺めていたが、魚が掛かることはなかった。 男は家に釣り竿を取りに戻った。 そして、年寄りの男から少し離れたところで、糸を垂らした。 「釣れますか?」 帽子を被った男が声をかけた。 「さあね」 その男もしばらく水面を眺めていたが、魚が掛かることはなかった。 帽子の男は、車に積んでいた釣り竿を取りに戻った。 そして、中年の男から少し離れたところで、糸を垂らした。 「釣れますか?」 膝下ズボンを履いた男が声をかけた。 「さあ」 男はしばらく水面を眺めていたが、魚が掛かることはなかった。 膝下の男が年寄りに近づき、置いてあったバケツを覗いた。 「……ここ、何が釣れますか?」 年寄りが振り返った。 「知らんよ。ここ、この前の大雨の跡だ」 男たちは二人を横目で見ながら、浮きが沈むのをじっと待った。
見渡す限り灰色がかった荒野が広がっていた。その荒涼とした大地に、生きているのか枯れているのかわからないような木が点々と立っている。 だが、ロブニーには不思議と悲壮感は無かった。むしろ煩わしい村の掟や序列から逃れられた開放感の方が大きかった。 (さて、日も沈むし、そろそろ出発するか…) 荒野では、強い日差しを避け、夜間に移動するのが習わしだ。ロブニーもその掟には逆らえない。 どこまでも続くかのように見える荒野にも当然果てはある。ロブニーが南の地平に目をやると、金色に浮ぶ雲の下に、オルグサルグの山並みが小さく見えた。
「見て見て。私の子供、ハワイで生んだのよー」 「わー、珍しいー! 最近はハワイ離れ起きてるから、めっちゃレアじゃーん」 通りすがったアパート前で、二人の女が話していた。 私は一瞬だけそっちを見ようとしてしまい、すぐにやめた。 赤の他人の意見に口出ししたところで、私の人生は変わらない。 とは言え、頭の中に疑問は残る。 顔を上げて目の前を見て見れば、誰もがブランド物を抱えている。 全国チェーンブランドのスマホ。 全国チェーンブランドのコーヒー。 全国チェーンブランドの靴。 時々、有名ハイブランドの鞄。 物にブランド価値を見出す人間が、人間にブランド価値を見出そうとするのもまた、必然だったのかもしれない。 考えごとをしていると、お尻に衝撃が走る。 何かと思って振りむいて見てみれば、私のお尻に子供がぶつかったようだ。 「すみません!」 母親らしき女が走って来て、すぐに子供に頭を下げさせていた。 「大丈夫ですよー。元気な子ですね!」 私は、不安そうな子供の頭を撫でてから、母親へも笑顔を向けておいた。 母親は、ほっとした表情を浮かべていた。 去っていく親子の後姿を見ながら思う。 私は、あの子供がどこで生まれたかなんて言うブランドを知らない。 知らずとも、ちゃんと可愛い。 「ブランド神話なんてくそくらえだー」 両手を伸ばして、ついつい本音がこぼれ出る。 しかしなんだか世界にとって良いことをした気分になって、私は雀の涙ほどの給与明細を確認した後、ちょっとだけオシャレなイタリアンに向かうことにした。
「日曜日の横浜は憂鬱だ」 毎週やってくるこの感情をよそに、 俺はヘルメットを被る。 横浜にやってきて2年目。 仕事も、道も、ある程度は覚えてきた。 「今日はどこを走ろうかな」 バイクに跨り、 エンジンをかけながら独り言をこぼす。 バイクに乗る事だけは決めている。 行き先は決めていない。 いつものことである。 スマホを見る。 午後1時を少し過ぎていた。 「まだ時間はある。」 そう思って、スマホをポケットにしまった。 「この時間なら向こうの道の方が 渋滞はしていないだろう」 混雑している右折レーンを横目に まっすぐ進む。 余計なことは考えない。 ただ、風を感じる事だけに集中する。 流れに身を任せること10分。 見慣れたレンガ造りの建物が現れる。 「またここに来てしまった・・・」 駐車場には「満」の表示。 だがバイクの俺には関係ない。 駐輪場にバイクを停め、 静かに周りを見渡す。 「湘南」 「多摩」 「相模」 横浜以外のナンバーも多い。 駐輪場の外は家族連れやカップルで 溢れている。 笑い声が聞こえる。 「日曜日の観光名所はこうでなくちゃ」 観光するわけでもない。 食べ歩きをするわけでもない。 ただ駐輪場にバイクを停めて、 孤独に「日曜日の横浜」を味わう。 「そろそろ帰るか。」 そう思ってから、もう30分が経っていた。 バイクのエンジンをかける。 けれど、すぐには発進しなかった。 こうして、今週も俺の日曜日は 静かに過ぎていった。
山間部にある限界集落。 集会所に年寄りたちが集まった。 「だいたい集まったな」 村長が、長机を挟んで座った。 「今日は、村の今後のことを話そうと思ってな」 「どうした、急に」 「昔みたいな、賑やかな村に戻りたいだろ」 ──ガラガラガラ。 玄関の扉が開いた。 「遅くなりました」 スーツ姿の男が入ってきた。 「おぉ、待ってたよ。この人、ホラープランナー」 年寄りたちが、視線を向けた。 「村長、あんた何考えてんだ」 「この村、空き家多いだろ。それ使って、お化け屋敷作る」 男が、声をあげた。 「私は、お化け屋敷の企画から立ち上げ……」 「ちょっと待て。村に、お化け屋敷作るってか」 村長が立ち上がり、窓の向こうを指さした。 「若い奴らって、心霊好きだろ? しかも、没入型だ」 「なんだ、それ」 男が一枚の紙を取り出した。 そして、年寄りたちを見渡すと、大きくうなずいた。 「まぁ、開業は二、三年後ってとこですかね」 ──契約書。 『死後はキャストとして勤務すること』
会社帰りに合流して飲みに行って、そろそろとなって店を出て。次行くのかな、どうすんだろ。今日はもう少し飲みたい気分だけどな、なんて思ってたら、 「ね、バッティングセンター行かない?」 とズっちゃん。 「え、うん。まあ、いいけど」 あんまり乗り気じゃないけどね、まあしかたないかあ、との意味を含んで返答した。カンのいいわりにズっちゃんはそのことにはまったくふれてこなくて、さっさと歩き出している。ビルとビルの谷間にそのバッティングセンターはあった。知らなかったよ、こんなとこあったんだねえと思い、その通りに口にも出していた。 ズっちゃんはさっそく打席に立っている。驚いてしまった。 「左なの?」 「打つのはね」 当然でしょといった表情のズっちゃんがバットを手に構える。ボールが飛んでくるのをズっちゃんも僕も待つ。恰好がそれなりにサマになってるズっちゃん。やってたのか、知らなかった。ぜんぜん話してくれなかったしなあ。そんなことを頭のなかでめぐらせていたら… ボフッ 弾かれたボールが低い音を出して跳ね返される。 「ねえ、なんで見送ったのさ」 「まず初球は見送って相手の出方を見るのがセオリーでしょ」 「試合じゃないんだから。バッティングセンターだから。バット振らないと意味ないだろ」 「まあまあ」 言ってズっちゃんは構え直す。ボールが飛んできて、 チッ 舌打ちよりだいぶ高くて乾いた音が短く響く。そのあともボールとバットがつくるその音が続いた。 「やっぱ、ちゃんとは無理かあ」 言ってズっちゃんはバットを立ててみせる。 「あのさ、イチローのマネはいいからさ」 「ヘヘ」 と、またチップしてボールを後ろに弾く。そのあとも短く乾いた音がして、ズっちゃんが誰かしら有名選手のマネをして、20球はあっけなく終わる。 「どう?」 「どうって…」 「少しは元気出てきた?」 僕のために、だったのか。まったく、あいかわらずだなあ。 「ありがとね」 「こっちも久々で楽しかった」 「毎回こんな感じ?」 「へへ。また来ようね」 「え…」 僕が返事に窮していると、 「ね」 とズっちゃん、 「まあ… そうだね」 と僕。 ズっちゃんのおかげでいくらかさわやかになった夜は、蒸し暑い夏の日とともにすぎていく。
お昼と夕方の間の時間 川沿いのランニングロードには ジョギングする人や自転車に乗っている人、犬の散歩をする人などが行き交っていた 川に降りるコンクリートの階段に 若い男性が二人の座っている 「仕事はどうよ?」 「え?う〜ん、あんまり…だな」 二人とも就職して初めての夏、どちらかともなく連絡をして会うことになった 「あんまりってどういうことだよ」 「いや、、何かキツイ」 「板金の製造だっけ?」 「めちゃくちゃ重いしさ、その癖ミリ単位で仕上げなきゃならないし、めっちゃやり直すし」 「そうか…でも最初はそんなもんだろ」 いつの間にか蝉が鳴き止みコオロギの輪唱が始まっている 川からたぷんと返事があった 「そっちはどうなんだよ。仕事」 「ん?普通かな。まだ単純作業だし」 「物流じゃ、体きついだろ?」 「そうだよ、毎日湿布貼ってるよ。…でも、大変なのはそのくらいだね。いい人ばっかだし」 小学生の兄弟が流行りのギャグを言いながら通り過ぎる 「板金辞めようかな」 「かなり来てんじゃん」 「来てる来てる。マジ辞めたいもん」 「ヤベーな」 「…どう思う?」 「そりゃ…ちょっ待って」 友達はスマホに着信があったらしく 直ぐに電話に出る。少し会話をして直ぐに電話を切った 「ゴメン。彼女からだった」 「何だって?」 「今日は付き合った記念日らしいよ」 「らしいよって、ヤバいじゃん。会わなくていいの?」 「会いに行ってくる。わりぃな」 川の側で勢いよく生えている草たちが聞き耳を立てているように見える 友達は立ち上がり直ぐに言った 「良いと思うよ。俺は」 「何が?」 「その仕事やめて良いと思うよ。俺の親父が言ってたけど、自分に合う仕事をすれば良いんだってよ。合わなかったら、合うヤツに譲ってやって、皆が自分に合う仕事をしていれば良いんだと」 じゃあな。と手を上げて去っていく友達を見て、そうなのかもなと独り言ちする たぷんと川も返事をしている
新しく出来た彼女はよく新宿で飲み会をする。 昔日本神話にイザナギとイザナミの仲裁者をした逸話が日本書紀に書かれているらしい。 ククリヒメの奉られてある神社によくお祖父ちゃんと行っていたらしい。 16タイプ別性格診断で仲介者の彼女。 何の符号だろう? 新宿の酔いどれ客は酒を嗜み日本海を目指す。 僕は毎日不思議に纏われて暮らす。
口というのか 舌といったほうがいいのか とにもかくにも 彼らが求めてるのは トマト味な気がした スーパーに行って トマトを見て回った なんだか高いかなあと かわりに トマトケチャップと トマトジュースを買った フライドポテトをつくって 少しの塩を振って トマトケチャップを添える トマトケチャップが 容器の出口に ちょびっとだけ 残ってしまう 舌で それを ちろっと すくってやる みっともない 誰も見てない トマトジュースは あしたの朝 だろうか
夏の終わりのやさしい風が吹き抜けていく午後。大空を見上げると、まるで誰かが指でなぞったみたいな真っ白な飛行機雲が、パン屋さんを目指すようにどこまでも長く伸びていました。 お空のパン屋さん 街の人たちが、そのように噂をささやくようになって、もうずいぶんと月日が経ちます。そのパン屋のご主人さんは、古いお店のなかで、今日も不思議なオーブンを動かしています。そのオーブンは、燃料として「雲の切れ端」と「風の匂い」が必要なのです。 「今日は、少しだけ甘い風を練り込んでみるかなあ」 ご主人さんが木のヘラで空気をかきまぜ、オーブンに放り込むと、ふんわりと焼きたてのミルクパンのような香りが漂ってきました。それは街のどこかで誰かが深呼吸をするたびに鼻先をかすめる、なんともいえない香りです。 ご主人さんがその日つくったのは、雲の形をしたパンでした。こんがりと焼き色がつき、ふわふわと弾力があるそのパンは、大きく開けられたお店の窓から青い空へと放たれていきます。 「さあ、行ってらっしゃい」 日差しは強くなり、街の人たちは少しだけ疲れた顔をしています。そんな人たちの頭の上を、ご主人さんのつくったパンたちが静かに通り抜けていきます。 信号待ちをしている若い男性が、ふと空を見上げ、 「なんだか甘い匂いがするなあ」 と微笑みました。 公園のベンチでうたた寝をしていた老婦人は、夢のなかで、焼きたてのパンをほおばる感触に、目をつぶったまま笑みを見せています。 ご主人さんのパンは、空腹を満たすことはありません。けれど、すううと鼻と口からその香りを吸い込むと、不思議と心が軽くなるのです。 夕暮れが近づき、空がオレンジ色に染まるころ。最後のひとつ、ひときわ大きく焼けた「夕焼けパン」が、ゆっくりとにじむ空から姿をかくそうとしています。今日一日をがんばり抜いた誰かのために、一番やわらかく、そして、やさしく焼かれています。 ご主人さんは、店先のベンチに腰掛け、空に溶けていく自分がつくったパンを見送りました。 街に灯りがともりはじめます。 「明日もまた、いい風が吹くといいねえ」 八月の終わりのさわやかな夜風が、ご主人さんの髪をおだやかになでていきます。お空のパン屋さんは、明日もまた、たくさんの誰かの心をおなかいっぱいにさせるため、静かに準備をはじめるのです。
ポエム新落語 ことば 誰もが知っている 「いいのがれ」 時は元禄、今は令和・今宵は、いいのがれ このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている あたえる それからどうした 責められると逃げる そのあとどうした あいての すきを見て逃げる いいのがれ ならぬ いいながれ こんなのどうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ #アメブロ #note投稿サイト #pixiv投稿サイト #エブリスタ投稿サイト #カクヨム投稿サイト #ノベマ投稿サイト #プロローグ投稿サイト #テラーノベル投稿サイト #ポエム新落語500. #X、SNS #mH6z2yQHpn59104 #ライブ配信 #showroom #ライブ配信ショールーム #ポエム新落語作家 #ポエム新落語 #中谷美咲 #いろはの咲