踊り場のドアは、五秒だけ開いたままだった。 団地の四階と五階のあいだにある、重い鉄のドアだった。押すたびに腹の底へ響くような音がして、閉まるときには必ず、最後に少しだけ息を吸う。 夕方の階段には、煮物の匂いが薄く漂っていた。 下の階から、老婆が上がってきた。 両手に買い物袋を提げている。白いレジ袋の中で、大根の葉が少しだけはみ出していた。袋はどちらも重そうで、老婆は一段上がるたびに、手首を小さく揺らした。 三階の踊り場で、青年が追い越した。 黒いパーカーに、片方だけイヤホン。手にはスマホを持っていた。老婆の横をすり抜けるとき、青年は何も言わなかった。老婆も何も言わなかった。 ただ、老婆は少しだけ体を壁に寄せた。 青年は軽い足音で階段を上がっていった。 四階の踊り場に着くと、青年は鉄のドアを押した。外廊下へ出るためのドアだった。 ぎい、と音がした。 そのまま行くのだと思った。 けれど、青年はドアの向こうへ出なかった。 半身だけ外へ出し、肩でドアを押さえたまま、スマホに目を落とした。 老婆はまだ、階段の途中にいた。 右手の袋が、何度も膝に当たっていた。左手の袋は、底の角が少し伸びている。中の何かが、ビニールを押していた。 青年は画面を見ていた。 親指は動いていない。 老婆は一段ずつ上がった。 踊り場まで、あと七段。 あと六段。 あと五段。 鉄のドアは、青年の肩で止まっていた。 冬の風が、外廊下から細く入り込んでいた。青年のパーカーの裾が少し揺れる。ドアの取っ手が、青年の背中の横で小さく震えた。 老婆は四階の踊り場に着いた。 息を整えるように、そこで一度立ち止まった。 青年はまだスマホを見ていた。 老婆は青年の横を通った。買い物袋が、青年の靴の先をかすめそうになった。 その瞬間だけ、青年は足を半歩引いた。 老婆が外廊下へ出た。 鉄のドアは、すぐには閉まらなかった。 老婆は少し振り返った。 青年は画面を見ている。 それから、老婆は小さく頭を下げた。 深い礼ではなかった。買い物袋の重さで、首だけが少し沈んだような会釈だった。 青年は気づいていないふりをした。 画面を見たまま、ほんの少しだけ顎を引いた。 老婆が廊下の奥へ歩いていく。 青年はドアから肩を外した。 鉄のドアは、ゆっくり閉まりはじめた。最後に息を吸うような間があって、それから、低い音で閉じた。 階段に、夕方の匂いが戻った。 青年はスマホを持ち直した。 画面は真っ暗だった。 通知も、動画も、地図も、何も映っていなかった。 青年はそれをポケットにしまい、五階へ続く階段を上がった。 四階の外廊下では、老婆が自分の部屋の前で鍵を探していた。買い物袋を一つ足元に置き、もう一つを腕に掛けたまま、ゆっくりポケットを探っている。 青年は一度だけ、階段の途中で足を止めた。 ドア越しに、鍵の触れ合う小さな音がした。 それを聞いてから、青年はまた階段を上がった。 五階の踊り場に着くと、同じ鉄のドアがあった。 青年はそれを押した。 今度は、誰も後ろにいなかった。 それでも青年は、すぐには手を離さなかった。 五秒だけ、ドアを開けたままにした。 それから、誰にも見られないまま、静かに外へ出た。
それは、ある学校での体育祭の放課後であった。 体育祭も終わりを迎え家での出来事であった。 そこにスマホに一件の通知がいく。 それはあの子からのLINEだった。 緊張した手でスマホを触る。 その子は、僕の2回目の人だった。 1人目は、とっても可愛く、優しい人だった。 教室の隅で見せてくれるあの笑顔。 悲しさを分かちかあってくれたあの日の放課後。 彼女が辛い時も、 どんな時でも笑ってくれた。 そんな彼女が好きだった。 ずっと、最初から。 でも僕には無理だった。 彼女にはいたんだ、他の男が。 そのことを知った日、僕は悲しみに押しつぶされそうになった。 「辛い」 部屋の隅でそう呟く。 諦めきれなかった、まだ好きだった、でも気づいたんだ。 無理だって。 寒い冬の空、一人顔を上げている。 その顔は、くしゃくしゃにつぶれていたと思う。 辛かった、泣きたかった、甘えたかった。 でも僕にはそんなは人いない。 その時、1件のLINEが来た。 その時の通知は、今までで一番嬉しいかったと思う。 「ねえ、何かあった?」 見えていたんだと思う、彼女には。 透き通るようなグラスのように。 ふと、こう返した。 「ごめん笑バレてた笑?」その時は見栄を張っていた。 誰にもこの姿は見られたくなかったから。 彼女はそう返してくれた。 「もう笑バレバレだよ笑」 その何気ない返信が、僕の心を抱きしめてくれたんだと思う。 その後もLINEは続いたが、よく覚えていない。 あまりにも、心が高ぶっていたから。 そして今、彼女からLINEがきたのだ。 「ねぇ、今日の体育祭どうだった?」 彼女からの何気ないLINEだった。 この何気のが好きだった。 「楽しかったよ!」 そう返した。 「えーそう笑私はあんまだったなー笑」 「そうかなぁ笑?」 「というかさ、関係ないんだけど、好きな人いる?」 僕の隠れていた心が、浮き出てきた。 「いるよ笑そっちはいるの?」 この時は頭がおかしくなったと思う。 「いるよ笑」 こう帰ってきた、そのと時はドキドキと、そして恐怖心があった。 こう返した。 「そっち何部?」 「えー笑じゃあ一緒言おう笑」 本当に死にそうだった。 僕の心は最高潮だった。 それでも、僕はこう続けた。 「僕は管弦楽だよ笑」 「私は野球だよ笑」 この時が、人生で一番の時だって、身に染みた。 「まじ笑じゃあ一緒に言わん?」 「いいよ笑」 この言うまでの一瞬が、今までで一番長かったと思う。 「あなたが好き」 「きみが好き」 その言葉を聞いたときの空は、今までで一番凛と澄んでいた。
「おお、勇者よ。どうか我らを救って欲しい。この世界は、世にも恐ろしい魔王によって支配されているのだ」 魔王の絵を見た。 超美人。 結婚したい。 「もしも魔王を倒した暁には、我が娘と婚姻を結び、この国の王子として迎えたい」 王女様を見た。 超ブサイク。 結婚したくない。 「わかりました。私にお任せください」 酒場で仲間を見繕う。 ブサイクたちから応募が殺到したが、美人を三人選んだ。 皆びっくり。 三人もびっくり。 「どうして私たちを選んだんですか?」 「貴女たちが、一番強そうだったので」 これは本当。 ブサイクたちは、この国では美人。 なので、強いブサイクたちは、とっくに強いパーティに勧誘されており、酒場には残っていない。 酒場に残ってるブサイクは、強いと言っても、その程度。 逆に、酒場に残っている強い美人は、誰にも選ばれないから、本当に強い。 というのが、俺の予想だ。 予想が当たったかどうかは分からないけど、冒険は順調に進んだ。 魔物を倒し、いくつもの村を救った。 村人たちは、俺たちに感謝し、仲間の顔を見た瞬間、眉を顰めた。 なんだ、なんか文句あるのかよ。 「すみません、私たちのせいで」 「気にしないで。悪いの、向こうだから」 冒険の中で、彼女たちの話も聞いた。 やはり、容姿で何度も差別を受けて来たらしい。 転生前の俺と同じだ。 顔なんて、生まれ持ったものなのに、生まれ持ったもので差別をしてくる世界が嫌いだ。 まあ、俺もまったくしていないわけではないが。 三人を選ぶとき、顔に惹かれたのは否めないし。 「魔王と戦う前にさ、考えがあるんだけど、聞く?」 「よくぞここまでたどり着いたな、勇者よ。妾を殺しに来たのか?」 「いや、人間の国裏切るから、一緒に魔王の国を作らない? 壁でも作って、世界を二つに分けちゃおう」 魔王がずっこけて、椅子から落ちた。 ああ、綺麗な顔にあざが……ついてない。 さすが魔王、肌まで頑丈だ。 「今まで、何人もの勇者を返り討ちにしてきたが、そのような提案を受けたのは初めてじゃ」 え、そんなに強かったの。 なにそれ、聞いてない。 国王め。 「妾の国を作ったとして、お主のメリットはなんじゃ?」 「妻三人と平和に過ごせる」 「……まさかとは思うが、後ろのそれか?」 「うん」 「……お主は、魔族のような顔が好きなのか。妾の国を作る目的、よもや魔族でハーレムを作りたいからではあるまいな?」 「ぎくっ」 魔王は呆れたように溜息をつき、俺の前までやって来た。 「あい、わかった。その提案、飲もう。妾も、戦い続ける人生にはほとほと愛想がつきたでな」 「やった。ちなみに、俺の四番目の妻とか、興味あります?」 「……妾は、妾一人を愛してくれる誠実な男が好きじゃ。妾の視界の外で、平和に暮らせブサイク」 その日、世界に大きな壁ができた。 魔物たちは全員、壁の後ろへと戻っていき、人間の世界に平和が訪れた、 勇者たちは、人間の世界に二度と戻ってこなかった。 「ねえ。昨日、新しい彼氏ができたんだ」 「魔族って、勇者様並にかっこいい人多くていいよねー。話せば、人間みたいだし」 「ちくしょお、妻たちまでハーレムを作り始めた。俺のハーレム計画、最大の危機」
去年の5月政府は新しい制度を発足した。(今はインターネットがとても進化していると国民の皆様一同感じていると思います。なので私たち一同極秘でとあるシステムを一般化するために実験をしていました。そのシステムは意識の電脳化,いわゆる意識のデータ化です。今後随時そのための法を整備していきますのでよろしくお願いいたします。)僕は???が脳内に駆け巡ったのは今でも鮮明に覚えている。まだ設備が整っていなく電脳化するにしてもそのための手術や,専用設備の設置費用が洒落にならない。巷のYouTuberや,インフルエンサー,芸能人が電脳化し今では大半の人がデータ空間で完全なアバターとなり,身体も不気味の谷現象が起こりうる冷たい義体で企画などをしているとゆうあまりにも非日常な日常が毎日毎日アップロードしている。電脳化発表して以降見かけなくなった有名人も多くいるが,どうしたのだろうか、いまいち微妙なのかな?と思いながら僕はぼーーと何も考えずテレビのニュースを見ていた(速報です。電脳による犯罪が発生しました。何か起こるか私も分かりませんので電脳接続している方々は即座に切断を行ってください。お願いいたします。速報です電脳による犯罪何発生しました)僕は昨日電脳化のための手術と電脳空間接続のための専用設備を会社の支給額と自腹でやっとゲットした。正直これから電脳化で仕事をするのが一般化するのではないかと思っていたのでちょうど良い,じゃあ折角だし犯人を見つけるとゆうあまりにも無謀な計画を立てて私はあまりにも無機的な冷たいがんじがらめの配線ばかりの機械の椅子に頭の接続穴にコードを刺す,痛みを感じるかと思うともうこの時点で接続完了に近づくため痛みはなかった。にしてもSFアニメのような事を今現実で,しかも自分自身が体験していると思うと心がドキドキバクバク音を立てながら僕は電脳空間に入っていった。仮想空間が私の視界に入る。本当にデータの規則的で,秩序だらけの空間が僕の目に襲ってくる。とても楽しい。データ空間では何もかもやりたいことができる。私は昔からやってみたいことがある。そう,地面を泳ぐことだ。僕はワクワクしながらプールに飛び込むかのようにデジタル空間の地面をクロールしながら泳いだ,感覚だけは確かに感じるはずなのにとても不思議な気持ちが溢れ出す。しかしやはり慣れない。データをこれまで手に取って利用することしか体験していなかったのかとても違和感を感じる。そして僕はプールに上がるようにコンクリートのようなテクスチャに足を上げる。とてもこの時は楽しかったといまだに思う。そして僕は心を踊らせながら仮想空間の建物を散歩した。やはり大手企業はもう進出しているな。そう思いながら僕はベンチに座った。全てが仮想空間なのに肌や,匂いが感じるのはあまりにも新鮮で楽しい。しかしもう楽しい気分はすぐに過ぎ去った。近くで黒いフードを被った体格のいい人物が周りを徘徊していた。その前には見覚えのあるインフルエンサーが挙動をおかしくしながら人物の前でひれ伏せていた。システムバグを伝えるために伝えるために警察署を探しているのかな?ただしかし本来の目的を思い出し私はすぐ近くの駐車場の車の前で隠れた。(ここはデータ転送された者たちのオーシャン。しかしここを穢すのなら罰を与えることに値する)フードで隠れているが顔はどうやら顔文字で隠れていた。とてもじゃないが言動と容姿が全く釣り合っていない。早くこの空間から抜け出したいと思い僕は必死に駐車場近くから静かに静かに立ち去ろうとした。だがもう僕は一つ盲点があったことを突然思い出した。(電脳化空間をお立ちにする際にはマニュアルを必ず持参してください。戻れなくなる場合があります)僕はマニュアルを持っていなかった。急いで亡骸を漁りマニュアルを見つけ(マニュアルを持参する際戻るセーブポイントが存在します,ここに行きましょう)僕は急いでセーブポイントを急いで見つけた。やっと見たかった機械に私は急いで接続を試みた。(お前も穢れの一種だったんだな,だがいい,後でこの意味がわかるだろう)顔文字が淡々とそして冷たく語る。だが今はどうだっていい,早くこの空間から抜け出そう。僕はすぐに現実えと帰った。この時は,この時だけは安心した。だがもう遅かった(すみません,警察です。田口のぞみ様ですよね?データハッキング容疑のため逮捕しますのでお開けください)僕は犯罪者に生まれ変わったのだと確信した。
「ねぇ、キミ。何をしてるの?」 雨が降るのを待っているのです。 「えっ。でも、いつ雨が降るのかは、誰にも分からないでしょー」 もうすぐかもしれないでしょう。 「そりゃあ、まあ……でも、一週間先だったらどうするの。それでも待つの?」 待ちますよ。待つしかないですから。去る者、追わず。来る者、拒まず。私はそういう存在です。生まれた頃から、私には使命があるのです。 「それって生きづらくない? ぼくは、キミよりずっと自由だ。そのほうがいいと思ったりしないの?」 ええ。アナタは、私に比べたら、うんと伸び伸びとしていますね。でも、限りある場所で、限りある時間を精一杯に生きるほうが……。私のようなものには、ふさわしい。私には動かす手足も、揺らせるフリフリも無いですから。 「まあ、キミが納得しているのなら、それでいいさ」 フリルはありますけど。 「べつに、つっこまないよ」 残念です。 「雨が降ったらいいね」 ええ、私の頭がおかしくなる前に。せめて。自分の使命はまっとうできたと、思いたい。 「へえー」 ジメジメとした蒸し暑さと暮らしている。大きなワンルーム。 製氷機から氷を取り出す、あなた。その足取りは昨日よりも軽やかで。あなたがステップを踏むたびに、手のひらのマグカップでは水面がおどる。 今。ボクは意を決して、あなたのひざに飛びこむ。 ぱちゃっ。 上空まで、はねる飛沫。あなたの衝撃と困惑が、ボクの頭へと降りかかる。 「ちょっと、ポメ! ああ、もう。サイダー、こぼしちゃったよ……」 あなたは机上にマグを置いて。箱からティッシュを取り出し、せわしなく手を動かす。 床に広がっていく甘い水たまり。その水分を含んで重たくなった彼女が、ぐったりと横たわっている。 「あっ! ふれふれ坊主、落ちちゃってるじゃん!」 悲しそうに、あなたは眉をひそめる。これじゃあ、明日も仮病を使うのは無理か……と、わけのわからないことをぼやきながら。あなたは濡れたティッシュとともに、役目を終えた彼女をつかんで、ステンレスのかごに入れる。 ――よかったね。これでボクらも、明日は外でおさんぽできるよ! 肩をすぼめるあなたを励ましたくて。ボクは、めいいっぱい自分のしっぽを振って見せた。
「私、記憶を消したいんです」 土砂降りの雨が降る夕暮れ、少女は私の営む「記憶屋」へ飛び込んできた。 ここは、忘れたい過去を現金で買い取る奇妙な店だ。買い取られた記憶は、特殊な青いカプセルに閉じ込められ、棚に陳列される。 ずぶ濡れの制服、青白い顔。少女の due(期限)は切れかかっているように見えた。 「どんな記憶を消したいんだい?」 私は温かいココアを差し出しながら尋ねた。 「幼馴染の男の子の記憶です」 彼女は震える声で話し始めた。 「彼とはずっと一緒でした。でも、五年前の大雨の日、私の目の前で車に撥ねられて……。彼を救えなかった後悔と孤独に、心が押しつぶされそうなんです。毎日が辛すぎて、息ができない。だから、彼の存在ごと、全部忘れたいんです」 よくある依頼だ。愛する者を失った人間は、その思い出そのものを呪うようになる。 「いいよ。その記憶、私がすべて買い取ろう」 私は彼女の頭に電極をあて、マシンの起動スイッチを押した。 淡い光が走り、彼女の目から生気が抜けていく。数分後、彼女の脳から抽出された『幼馴染の記憶』は、綺麗な青いカプセルとなって私の手元に落ちてきた。 施術が終わると、少女の表情から苦悩が消え、すっきりとした顔になった。 「あれ……私、なんでここにいるのかしら」 「雨宿りだよ。さあ、雨も上がったようだ。お嬢さん、お気をつけて」 少女は「ありがとうございました」と微笑み、足取り軽く店を出て行った。彼女はもう、失った幼馴染のことで泣くことはない。 私は一人、残された青いカプセルを見つめた。 そして、それを自分の頭に取り付けられた『記憶の再生機』へと挿入した。 脳内に、少女の記憶が流れ込んでくる。 ランドセルを背負って笑い合う二人。 手を繋いで歩いた夕暮れ。 そして、五年前のあの大雨の日。 トラックが少女に迫る。少年が叫び、彼女を突き飛ばす。 ガシャーン、という鈍い音。 激しい痛みと、薄れていく意識の中で、少年は泣き叫ぶ少女の顔を見ていた。 (泣かないで。僕のことなんて、全部忘れていいから。君には笑っていてほしいんだ――) そう、轢かれたのは少女ではない。 今、少女の記憶を体験している『僕』、つまりこの店の店主である私自身だったのだ。 五年前、私は事故で命を落とした。しかし、泣き叫ぶ彼女を残して逝けず、魂だけがこの世に留まった。それから何ヶ月も幽霊として彼女の街を彷徨い、彼女が自責の念でボロボロになっていく姿をただ見ているしかなかった。 触れることも、声をかけることもできない。 絶望の果てに、私は彼女を救うための「偽りの店」をこの街の片隅に作った。生きている人間には、本当に心が限界を迎えた時にしか見えない不思議な店だ。 それから私はこのカウンターで、彼女がこの扉を開く日をずっと、ずっと待ち続けていた。今日ようやくその時が訪れたのだ。 私の目から、実体のない涙がこぼれ落ちた。 君の心を壊すくらいなら、僕の存在なんて消えてしまったほうがいい。 店の外を見ると、雲の隙間から美しい夕日が差し込み、街を照らしていた。 彼女はもう、振り返る思い出を持たない。前だけを向いて、新しい人生を歩いていく。 「さようなら、僕の初恋」 私は自分の手で、その青いカプセルを握りつぶした。 パリン、と儚い音が響き、私の身体もまた、光の粒となって夕暮れの空へと溶けていった。
自称ショートショート作家の男が、パソコンの前で固まった。 「なんだ……この世界は。異世界、転生、魔法、ファンタジーばかりじゃないか」 その時、微かに声が聞こえた。 「お前も、書いてみるがいい」 「その声は……星先生、筒井先生ですか?」 「パステルカラーな世界を書くのだ」 男は指を走らせた。 ある日の午後。 道路脇で、婆さんが杖を大きく振っていた。 かすれた声で呟きながら、ふらふらと歩いている。 「ん……魔法の杖か?」 そこへ、車が止まった。 出てきた女は、慣れた様子で駆け寄った。 「義母さん、帰りましょ」 婆さんは手を引かれ、小さく笑った。 その様子を見ていた男が、スマホにメモを書き込む。 『異世界転移寸前』 男はホッとした顔で、その場を立ち去った。
小さい頃は、私のなかに神様がいた。だから、お願いをして、叶えてもらった。 「みんなとおなじかぞくになりたい」 それは叶った。 いがみ合っていた両親はその牙をすんなりと吐き続ける毒ごと納め、わたしにとても優しくなった。周囲の我が家を見る目は変わって警戒心を抱く上がった眼尻はゆっくりと目頭と変わらない位置まで降りていった。 そして願い事を叶えた神様は、わたしの中から居なくなった。 それから、幸せに暮らす私たちは終わりを迎える。 きっかけは母親だった。神様がいなくなる以前から悪かった母親の腎臓は、みんなとおなじにはならなかったらしい。みんなと同じになってなお、そうだっただけかもしれないけれど。 ともかく、母親の寿命はあと少しだった。 父は入院する母の下を何度も訪れた。母に拳を振るっていた昔とは大違いだ。対する私はひどく恐れていた。母が亡くなることで、父と母、そして私の家族が壊れてしまうかもしれない。神様が叶えた奇跡は、じきに薄れて元の父親に戻ってしまうかもしれない。 奇跡なんて、ひどく保証のないギャンブルに賭けられた私の人生に、ようやく賭け金の支払い時期が来たようだった。それがひどく恐ろしかった。 私は覚悟を決めた。 まずは母だ。病院と掛け合い、最期の時を家で過ごさせてほしいと何とか退院させた。次に父。母に代わって出した夕飯に睡眠薬を混ぜ、眠らせた。 母の体は軽く、車に乗せるのに苦はなかった。比べて父はとても重く、引きずりながら何とか運べるほどだった。シートベルトは締めないまま二人を父の自家用車に乗せると、ブルンとエンジンを始動する。 昔は後部座席に座っていた私が、まさか運転席に座るなんて、と感慨深いものを抱きながら、車を走らせ続ける。 到着した目的地は潮風の匂いが窓から入り込む船着き場だ。 エンジンは止めず、二人の顔をしっかりと目に焼き付ける。穏やかな寝顔の父と母。それがとても愛おしかった。いつまでもそうあって欲しいと思った。 だから、アクセルを強く踏み込む。目の前に広がる真っ暗な海と、浮かんでいる月の反射が揺らめいて、飛沫を上げて私達を飲み込んだ。
夏休みの終わり、ぼくは山の展望台で一人、「ヤッホー!」と叫んでいた。返ってくるはずの声は聞こえず、かわりに空の向こうから、「ヤッホー!」とかすれた声が返ってきた。 びっくりして見上げると、銀色の円盤がゆっくり近づいてくる。UFOだった。しかも窓の中で、緑色の宇宙人が手を振っている。 「地球のあいさつは、ヤッホーで合ってる?」 宇宙人はたどたどしい日本語で聞いた。ぼくは笑って、「山ではね」と答えた。 宇宙人は安心した顔をして、また大声で、「ヤッホー!」と叫んだ。その声は谷に何度も反射して、山じゅうに広がった。すると遠くのキャンプ場からも、「ヤッホー!」と返事が飛んできた。 宇宙人は目を丸くして、「地球人、みんな友達だ!」とはしゃいだ。 やがてUFOは夕焼け色の空へ飛び去っていった。最後に窓から顔を出した宇宙人が、少しさびしそうに叫ぶ。 「また来るよ、ヤッホー!」 その声は今でも、ときどき山の風にまじって聞こえる気がする。
明日は月曜日。 平日だ。 また仕事に行かなくちゃならない。 ああ、嫌だ。 嫌だ。嫌だ。嫌だ。 どうして月曜日なんて来るんだ。 ずっと、日曜日のままがいい。 それを呟いたのが、一万年前。 今日も目が覚めたら日曜日。 なんど時計を見ても、時間は変わらない。 何度も泣き叫んだ。 何度も神に祈った。 何度も自殺した。 しかし、日曜日は繰り返される。 「行ってきまーす」 隣の家から出ていく高校生は、今日も元気に部活へ向かう。 それを見送る親も、どことなく楽しそうだ。 二人を殺したのは、何千年前だったか。 もう、やりたいことがない。 月曜日、来い。 月曜日、来い。 月曜日、来い。 早く、休日を終わらせてくれ。
何でもない蟻ですが恋をしました 実りはしない恋をしました 僕は蟻と言うことを忘れた事は無いですが、いつの間にか花に恋をしてしまいました。 僕は毎日、花の側を通ります。横見でちらりと花を見て何でもないように歩いていきます。たまに花の周りをうろうろして「この辺に甘い物でもありそうだな」等の独り言ちをします。 そりゃあ僕は蟻ですから、花を盗もうとすれば、それはそれは簡単に盗めます。一人で穴の中で甘い蜜を飲むことでしょう。でもそれは違う。花は実を付け次の種を生むために咲いているのです。蟻はお呼びでないのです。 えっ?「少し蜜を貰うだけでは駄目なのか」ですって?そんな事で僕の恋心を満たせません。僕は全て食べてしまいたいのです。 僕はただの蟻です 花に恋をした何でもない蟻なのです 花に蝶がとまっていても何も出来ない蟻なのです
夕暮れ時の「陽だまりカフェ」は、焙煎された珈琲の香りに包まれていた。店主の修一(しゅういち)は、窓の外の赤く染まった街路樹を見つめていた。秋の終わりを告げる風が吹いている。 この店を開いてから三十年。妻の美智子(みちこ)と二人三脚で歩んできたが、その最愛の妻は三年前、病で先立ってしまった。「この店はね、お腹だけじゃなくて心を満たす場所なのよ」という美智子の言葉が、今も店内に染み付いている。だが、修一の年齢と一人での限界から、明日がこの店の閉店日となることが決まっていた。 ガラガラ、と引き戸が開く。入ってきたのは、仕立ての良いスーツを着た三十代半ばほどの男性だった。男性は緊張した面持ちで、カウンターの隅の席に腰掛けた。 「いらっしゃい」 「あの……一つお聞きしてもいいですか。ここには昔、『魔法のオムライス』という裏メニューがあったと聞いたのですが……今も作っていただけますか?」 修一の手が止まった。それはメニュー表には載っていない、美智子が考案した特別な一品だった。卵をたっぷり使い、トロトロに仕上げたオムライス。美智子は、元気をなくした学生や、悩み事を抱えた常連客にだけ、そっとそれを差し出していた。 修一は男性の顔をじっと見つめた。そして、記憶の引き出しが開く。 「……もしかして、ツバサくんかい?」 男性の目が丸くなり、やがて確信に満ちた笑みがこぼれた。 「覚えていますか、マスター。二十年前に毎日のように通っていた、高校生です」 長谷川翼(はせがわ つばさ)。二十年前、家庭環境に悩み、居場所をなくして荒れていた少年だった。彼はこの店のカウンターで、一杯のココアだけで何時間も粘っていた。そんな彼に、美智子が「試作品だから」といつも無料で出してくれたのが、そのオムライスだった。 「立派になって。スーツがよく似合っている」 「おかげさまで、今は東京で建築の仕事をしています。明日で店が閉まると聞いて、どうしてもあの味が忘れられなくて、新幹線に飛び乗りました。実は……最近、仕事で行き詰まって、自分の設計に自信をなくしていたんです。そんな時、思い出したのがこの店でした」 修一は深く頷いた。美智子が亡くなったこと、明日で店を畳むことを伝えると、翼は寂しそうに目元を緩ませた。「そうでしたか……」 「いや、美智子のレシピは、俺の身体が全部覚えているよ」 修一は厨房へ向かった。これが、この店での「ラスト・オーダー」になる。 修一はフライパンを火にかけ、鶏肉と玉ねぎを炒め始めた。香ばしいケチャップの匂いが立ち込める。美智子がいつも言っていた。「食べる人の心を包み込むように」という言葉を胸の中で反芻する。 チキンライスの上に、美しい卵を滑らせる。真ん中にナイフを入れると、パカッと左右に開き、黄金色のトロトロとした波がライスを覆った。 「お待たせしました。魔法のオムライスだ」 目の前に置かれたオムライスを、翼は愛おしそうに見つめ、一口、口に運んだ。 「……美味い。あの時のままです」 二口、三口と食べ進めるうちに、翼の動きが止まった。大粒の涙が、ぽとりと皿に落ちた。 「俺……あの頃、本当に消えてしまいたかったんです。でも、奥様がこのオムライスを出してくれる時、いつも『ツバサくんの未来は、この卵みたいにあったかいものがたくさん詰まってるよ』って言ってくれた。その言葉だけが支えでした。俺、大切なことを思い出しました。俺が作りたいのは、偉大な建物じゃない。あの時の俺みたいに、傷ついた誰かが『帰ってきたい』と思えるような、温かい居場所なんだって」 修一はカウンター越しに、翼の肩にそっと手を置いた。 「美智子の魔法は、ちゃんと効いていたんだね。君が立派に生きて、誰かのための場所を作ろうとしている。それだけで、あの人がオムライスに込めた願いは、全部叶ったんだよ」 翼は皿をきれいに平らげ、「ごちそうさまでした」と深く頭を下げた。彼の表情からは迷いが消え、晴れやかな決意が満ちていた。 「ありがとうございました、マスター。この味を胸に、また明日から頑張れます」 「ああ、応援しているよ。いってらっしゃい」 ガラガラ、と引き戸が閉まり、翼の背中が夜の街へと消えていく。 修一は、誰もいなくなった店内の明かりを少しずつ消していった。厨房の奥、美智子の写真が飾られた小さなスペースに向き合う。 「美智子、聞いたかい。俺たちの店は、間違っていなかったよ。お前の魔法は、ちゃんと一人の青年の未来を照らしていた」 写真の中の美智子は、優しい笑顔で微笑んでいるように見えた。修一は最後の照明のスイッチを切った。暗闇の中、窓から差し込む街灯の光が、きれいに洗われたフライパンを静かに照らしていた。
ある日の午後。 色彩心理学の教授が、学生を前にマイクを握った。 「皆さん、人の購買意欲を引き出す色って、何色あると思いますか?」 「それって、4大販売色のことですか?」 「そのとおり。その中で赤が一番、購買意欲をかき立てると言われてます。チラシに赤色が多いのは、それが理由ですね」 学生たちは耳を傾け、ノートを取った。 「色が人間の感情や行動に、どんな影響を与えるか。なんですが……」 教授の合図で、正面のスクリーンに映像が流れた。 「これを見てください」 手のひらサイズの、四角く、縁が少し錆びた赤色の缶が、道路脇の草むらに置かれている。 「缶の中にはですね、石ころを二つ入れてます。少し重みを感じますかね」 隠しカメラで撮られた映像に、スーツ姿の男が現れた。 男は赤い缶に気づくと、周りを気にしながら手に取り、蓋を開けた。 「なんだ、これ」 男は赤い缶を、草むらに投げた。 映像が替わり、ブランド物の服を着た女が画面に映った。 女は辺りを見回すと、バッグの中に缶を入れた。 画面から消えたあと、カラカラと音がして、草むらに缶が転がった。 「先生。これは何の実験ですか?」 最前列の学生が手を挙げた。 「これですか……ただの面白動画ですね」
電車を乗り換える人々が忙しなく行き交うのは、とある商店街。その賑やかな通りに、一軒の料理店があった。名前は『橋本料理店』。その名の通り、橋本一家が経営している、昔ながらの店だった。 その店に、今日は珍しく休業の札がかかっている。一家の娘、すみ子が婿を迎えたので、引っ越し作業をしているのだった。 「改めまして、よろしくお願いします」 すみ子の夫、|哲《さとし》は新しい家族に向けて、深く礼をした。すみ子もぴょこんと礼をして、照れくさそうに笑っている。すみ子の両親はそんな二人を見て、「よろしくね」と目を細めた。 だが、祖父の正二は一度頷いただけで、すぐ厨房の方へ戻っていってしまった。哲は少し戸惑ったようで、すみ子に耳打ちした。 「僕、何か失礼なことしたかな」 「ううん。ごめんね、じーちゃん、いつもはあんなじゃないんだけど……ばーちゃんのことで参っちゃってて」 「あぁ……それもそうだよな。まだ四十九日も終わったばかりだし」 哲は申し訳なさげに頷く。正二の妻は、約2ヶ月ほど前に亡くなっていたのだった。すみ子と哲の結婚式も、喪中だからと少し延期したりもした。 「――なんかごめんね。せっかくお婿さんに来てもらったのに、こんな雰囲気で」 すみ子は苦笑いして、哲に謝った。哲は思慮深い眼差しで、妻をじっと見た。 「そんなことないよ。むしろ、こんな時にお邪魔して申し訳ない。僕が来たことで、少しでもいいことがあればいいんだけど」 「それならもうあるよ!」 すみ子はパッと目を見開いた。 「若い男の人が来てくれたんだよ。優しくて頭が良くて、あとまぁまぁ力もある人がね。きっと、この店もすぐ元気になるよ」 そう言って、照れたようにふふっと笑った。哲は「おそれ多いなぁ」とはにかんでいる。 「じゃあその言葉に見合わないとな。早速、店のこと教わってくるよ」 「引越しで疲れてない?」 「大丈夫、今のうちに店に馴染んでおきたいしね。よし!」 哲は気合を入れて襟を正すと、厨房の方に歩いて行った。すみ子は微笑んで、その背中を見つめていた。
初めての契約。 昨日はできなかったこと。 日付と同時に判子を押されたみたい。 終わって、始まって、しまった。
山あいにある小さな沼のほとりを、中年の男が歩いている。 「釣れますか?」 石の上に座った年寄りの男が、釣りをしていた。 「さあな」 しばらく水面を眺めていたが、魚が掛かることはなかった。 男は家に釣り竿を取りに戻った。 そして、年寄りの男から少し離れたところで、糸を垂らした。 「釣れますか?」 帽子を被った男が声をかけた。 「さあね」 その男もしばらく水面を眺めていたが、魚が掛かることはなかった。 帽子の男は、車に積んでいた釣り竿を取りに戻った。 そして、中年の男から少し離れたところで、糸を垂らした。 「釣れますか?」 膝下ズボンを履いた男が声をかけた。 「さあ」 男はしばらく水面を眺めていたが、魚が掛かることはなかった。 膝下の男が年寄りに近づき、置いてあったバケツを覗いた。 「……ここ、何が釣れますか?」 年寄りが振り返った。 「知らんよ。ここ、この前の大雨の跡だ」 男たちは二人を横目で見ながら、浮きが沈むのをじっと待った。
毎日、あなたになりたいと思う。
駅むこうの古本屋さんは、わたし好みの本をたくさん置いていて 学食は、からあげと麻婆豆腐がおいしくて となりの駅のブックカフェは、絵本が充実してて そのせいかお子さん連れがおおいみたい すこしずつこの街を知っていく すこしずつこの街に慣れていく お客さんのひとりがあの人に似ていて でも、よく見たらぜんぜんで みんなあの人みたいに見えちゃって でも、みんなちがう顔をしていて 教室では、講義の内容とは別のわたしの知らない単語が飛び交う まるで記号みたい それがわたしに向けられたものでないのが、せめてもの救い 自分の居場所だけは、きちんと確保できている 地元とこちらとで青空がちがうとは思わない でも、こっちのほうが狭い気がする 見上げると高い建物がおおくって 狭いと思うのはヒトの発想 空のほうからしたら窮屈ということかな 飛行機雲に、青い空が嫌そうな表情を見せている
男の恋愛は新規保存、女の恋愛は上書き保存、だと世間では言われている。 その言葉を聞く度、私もそうであればどれだけ楽だったかと肩を落とす。 私の部屋には、額縁がある。 可愛い家具で揃えているので、友達から「浮いている」とお墨付きをもらったイカツイ額縁だ。 そして、額縁の中に入っているのは、初彼からもらったラブレターだ。 もっとも、もう別れているので、元彼という表現が正しいが。 高校生の頃に付き合って、同じ大学に進学して、順調な大学生活を送っていた。 別々の会社に就職した後、そろそろ同棲の話が来るかと思い始めて早一年。 やってきたのは、別れ話だった。 会社の同期と相性が合って、その人と付き合うから別れたいとのことだった。 最初は泣いて抵抗した。 何度も話し合いをした。 しかし、同棲していないことが災いした。 元彼はいつも、話し合いが始まってしばらくすると、逃げるように自分のアパートへと帰っていった。 私はただ話し合いたいだけなのにと泣いていたら、話し合いした日の夜に、元彼から音声メッセージが届いた。 そこには、ただただ泣き叫んで話し合いの『は』の字もできていない私がいた。 『こういうところが無理』 その時は、盗聴なんて悪趣味だと、罵詈雑言のメッセージを送った。 しかし、翌朝冷静になって聞き返すと、これは逃げたくなると正直思った。 私の記憶では、理路整然と、今まで付き合ってきた思い出や、私ほど相性のいい女はいないことを説明していたつもりだった。 しかし、録音の中の私は、巨大怪獣。 アンギャーアンギャーと叫ぶばかリ。 元彼が話し始めると、ひらがな三文字を話した時点で、私の咆哮が鳴り響いていた。 私は泣きながら別れを承諾し、最後にもう一度だけ会えないかとメッセージを送った。 『恐いからやだ』 それっきり、反応はなくなった。 私は、元彼の連絡先を消すこともできず、高校生の頃にもらったラブレターを額縁へと入れて飾り始めた。 最初は、見るたびに泣いた。 元彼との楽しかった頃を思い出して、ひたすら泣いた。 しばらくすると慣れてきて、まるでまだ、元彼と付き合っているような気分になった。 心配した友達が、私に男の人を紹介してくれた。 あれから二・三人と付き合ったが、元彼を超える男はいなかった。 分かれる原因は、いつも同じ。 『その手紙、捨ててよ』 『せめて、見えないところに仕舞ってくれよ』 私が首を横に振ると、その翌日か数日後に、だいたい別れ話になった。 私は独り身に戻る度、少しだけ安心感を得ていた。 これで、元彼が戻ってくる場所が蘇ったと。 「いい加減忘れなよ」 「あんたの元彼、結婚するらしいよ?」 時間は、容赦なく過ぎていく。 私との思い出を上書きした元彼は、どんどん幸せになっていく。 たった一度だけ、元彼から連絡が来たことがある。 SNSのダイレクトメールに、捨て垢から。 「まだ、俺が送った手紙を飾ってるって聞いたんだけど」 「飾ってるよ」 「頼む、捨ててくれ」 「なんで?」 「俺はもう、新しい相手を見つけたんだよ!」 「邪魔してないじゃん」 「……頼むよ。もう、俺を解放してくれよ」 「してるじゃん。お幸せに」 私の心は、歪にひん曲がっている。 元彼の幸せを願うのは本当だし、元彼が会社の同期と結婚するのを祝っているのも本当だ。 嘘じゃない。 幸せになって欲しい。 でも、同じくらい、元彼が私の元に戻ってくる期待を消すことができない。 私の恋は新規保存。 決して、元彼のことを忘れることはない。 待つのをやめることはない。 でも、邪魔はしない。 元彼の幸せの邪魔をしたら、もう二度と戻ってこないから。 私が、待つ資格を失くすから。 「ラブレター捨ててあげたら?」 「婚約者さんにあんたの噂が届いて、向こう修羅場みたいよ?」 邪魔はしない。 邪魔はしていない。 私は何もしていない。 これは本当。 『頼む! 何にもないって言ってくれ! 婚約者から、色んな誤解を受けてるんだよ!』 邪魔はしない。 邪魔はしていない。 私は何もしていない。 本当に本当。 未練がましく待ち続けた女の末路。 不幸しかないと思っていたけど、もしかしたら私は幸せになれるのかもしれない。 元彼が、戻ってきて。
「貴方にこれを託します。どう使うかは、貴方が決めなさい」 母は、息を引き取る直前に、卵くらいの大きさの宝石を渡してきた。 正直、余裕で億を超えてくるサイズだ。 そして、宝石の中には、一枚の紙切れが埋め込まれていた。 母の言葉が書かれた、最期の手紙。 手紙を読むためには、億の価値がある宝石を破壊し、取り出さなければならない。 なるほど。 母の気持ちと実用的なお金、どちらを優先したいか決めろと言う意味だったのか。 なんてクレバーな母だろう。 別々に渡してくれれば、悩むこともなかったのに。 とりあえず、宝石を研究機関に持っていった。 破壊せずとも手紙の中を読めるのであれば、それに越したことはないからだ。 しかし、特殊な紙とインクが使われているらしく、スキャンで読み取ることはできなかった。 次に、超能力者のいる機関に持っていった。 破壊せずとも手紙の中を読めるのであれば、それに越したことはないからだ。 しかし、超能力よりも科学の方が強いらしく、念視で読み取ることはできなかった。 「ああー! 私の億ー!」 これ以上の手が思いつかなかった私は、宝石に金槌を振り下ろした。 パキンと気持ちの良い音を立てて、宝石は割れた。 中から出てきた手紙を広げると、それは埋蔵金の地図だった。 『お金よりもお母さんの言葉を選んでくれた愛娘に、お母さんから愛のプレゼントだ!』 私は数十億円を手に入れた。 やっぱり、お金より愛だよ、皆。 愛って大事。
「下り電車をご利用のお客様にご連絡です。前の駅で車両点検を行った影響で次の電車10分程遅れが生じております。お忙しい中、誠に申し訳御座いません」 通勤通学の時間帯の朝のホームは超満員になっている。 遅延発生で、電車が遅れれば遅れるほど人は増え、遅れてきた電車から降車する人と乗車する人の混雑で、また遅延時間が増えていく。人々は険しい顔になっていく。 そんな駅のベンチの4人席を全部使って寝ている男がいる。彼の名前は雨太郎。 昨晩から朝方まで飲み歩き、始発で帰ろうとして、そのまま眠りこけている。 迷惑な男だ。 超満員のホームで寝ている雨太郎の頭にサラリーマンのスーツケースが当たった。 サラリーマンは気付かず前の方へ人混みをかき分け進んでいく。 雨太郎は目を覚まし、大きく伸びをする。 喉が渇いたなと思うのと同時に強烈な悪寒が走る。電撃の様な寒気だ。 雨太郎は人を押しのけ、文句を言われながら駅のトイレに駆け込む。 男子トイレの列を無視して中にはいるが、個室は使用中だ。雨太郎ダムは、もう、限界水位になっている。男子トイレを出て、緊急事態なので女子トイレに行こう迷うが男子よりも長蛇の列だった。 放流のサイレンがなっている。森の鳥達が一斉に飛び立っている。 もうだめかも知れないと諦めかけたその時、バリアフリートイレが開いた。幸い列もない。 出て来た金髪の男性を押しのけて、トイレに押し入り、放流を始める。 そこから半日、トイレの便器にしがみついて放流を行い、ゲッソリしてトイレの外で座り込み、また、トイレに駆け込む作業を繰り返していた。 薄れる意識を、何とか保ち、死にそうなほど苦しい体調の中で雨太郎は思った。 「もう、酒は、やめよう」と。 気付けば雨太郎は改札口を出た所にあるイチョウの木の根元で寝ていた。 目を覚ました時にはお昼の時間帯で外は人が沢山歩いていた。 小雨が振り出し人々は駆け足になる。 雨太郎は、やっと動くようになった体に感謝しながら「本当に死ぬかと思った」と呟く。 晴天の霹靂の様なサイレンが鳴り響く。 「緊急事態!緊急事態!至急避難せよ!繰り返す!緊急事態!緊急事態!至急避難せよ!怪獣が現れた!巨大怪獣が現れた!」 見上げると上空に両翼を広げた金色の怪獣が見える。 雨太郎は立ち上がるとイチョウの木に頭をぶつけて、尻もちをつく。 「痛っ!この野郎…また、ストレスたまっちゃうだろうが!」 彼はこの星を守るウルトラマンである。 今日もこの星の為に立ち上がる。
「いいもん見せてやるよ」 「何?エロいやつ?」 「もっといいもんだって」 マクドナルドで下校途中の高校生がスマホ片手に話している スマホで再生された動画は何かの格闘技の試合だったが、明らかに観客が無許可で撮影している動画だった 白い覆面をした男が相手を一瞬で倒している 「何これ?」 「UGFCって言ってさ非公式の地下格闘技の大会何だって。武器を使わなければ何でもありらしいよ」 「何でもありって?」 「骨折ったり、囓ったりしてる動画がめちゃくちゃバズってる。血とかめっちゃ出るよ。それで、もし、死んじゃっても自己責任何だってさ」 「…やべーな」 次の動画がも白い覆面の男が自分の体の2倍ほどある巨体を瞬殺でノックアウトしていた。 「あっ次の動画ヤバイよ」 またも白い覆面の男の試合だ、相手の男も堪えているがヤラれるのが目に見えている。次の攻撃で白い覆面が勝つなと思っていると白い覆面の男が二人の男に後ろから羽交い締めされている。試合の相手の仲間だろうか、会場は大盛り上がりで、罵声であふれている。 相手の男がどこからか金槌を受け取る。迷わず男が金槌を振りかぶる。次の瞬間、三人男が床に倒れ白い覆面の男が観客に拳を上げている 周りは大歓声である 「ヤベーなこの人」 「なっ?すげーだろ」 「でも何でガンダムなの?」 「さぁ…好きなんじゃない?」
世間では脱炭素が叫ばれている。 知り合いが洋上発電とかすればいいのに、と言っていた。 でも利権でうまくいかないだろうから僕はAVの幼女体型の娘で自家発電する。 幼女発電。 日本のロリコンがこの夏発電量を増し電力不足をクリーンに補う。 実に合理的。 ピストンによる電荷は原子力をゆうに凌ぐだろう。 全国のロリ体型の女の人の儲け時だ。 脱炭素が加速する。 幼女が服を着ているだけでも発電量が増える。 産業が盛り上がる。 実に頭の悪い政策だ。 風俗産業を尻目に僕は畑に出掛ける。
何だか怖い夢を見た気がするけど、起きて直ぐに忘れてしまった。 今日はとても静かな朝だ 世間はゴールデン・ウィークの初日で街の皆がまだ寝ているように感じる 実際、妻と小学生4年生の息子は起きる気配もない 一人で朝食を作り、音量をしぼったテレビを観ながら食べる。 朝のニュースでは、スポーツの試合結果や芸能人の不倫、人気のスイーツなど、見慣れた物ばかりだ。天気予報の次に事件のニュースが流れた。 コンビニで万引きをした犯人が逃走中にとおりすがりの一般人をナイフで刺して殺害したという事件が流れた。 いつどこで人生が終わってしまうか分からない。父親もそうだった。 父親との思い出はほとんどなくて、あっても一瞬一瞬の短い景色。写真や動画を観るかぎり、優しくて面白くていつも僕を大切にしてくれていた。父親が亡くなった日の事は少し覚えている。 僕は初めて一人で作ったガンダムのプラモデルを持ちながらユーチューブを見ていた。ユーチューブを見ながら「明日からパパとたくさん遊べるな。今日は早く帰って来るかな」と思っていた記憶がある。僕は父親と遊びたい子供だったのだなと思う。父親が好きだったのだな。 父親がいない人生は辛かった気がする。 それしか経験してないから分からないけど、ここまで来るのに楽ではなかった。だけど、いつも千絵が側にいてくれた。千絵がいたから僕がここにいる。千絵が僕の折れた心を直してくれた。 僕は千絵に何も出来はしないけど、出来る事と言えば… 「何考えてんの?難しい顔して」 「いや、ただ、君が先に死んでも僕は君以外とは結婚しないよって言おうと思って」 「えっ…急にどうしたの?」 「パパ、プラモデルやろう」 「あなたが先に死んだら私は別の人と結婚しようかな」 「さ、さようですか」 「さようです。だから私より長生きしてください」 「うん、さよう…」 「ママ〜プリン食べたい」 「あっ、はーい、ちょっと待ってね」 「じゃあパパも食べようかな」 「ママも一瞬に食べようよ」 「じゃあ皆でプリンパーティーだ」 「イエーイ」
「ついでにこれもやってくれない?」 依頼内容とは違うことを、駄目元で頼んでみた。 「いいですよ」 相手は快く引き受けてくれた。 うちはいつでも人手不足。 人手が増えるなら大歓迎。 「これもお願いできる?」 「はい」 「申し訳ないけど、これも」 「わかりました」 「ちょっと面倒だけど、これもいい?」 「もちろんです」 頭の中で鳴り響くファンファーレ。 安い依頼料で雇えた人は、なんでも引き受けてくれる頑張り屋さんだった。 これはお得感が高い。 直近の面倒ごとが全部なくなったので、スケジュールを引き直した。 だいぶ、余裕ができた。 数日後。 そいつは精神の消耗で、病院送りになったらしい。 もう来れない旨の連絡が、上司伝手に届いた。 「え? 頼んでいた仕事は? 金返せよ」 怒りながら、相手が作ったものを見てみれば、最初の依頼に含まれていた内容はすべて完成していた。 できていないのは、ついでに頼んだ雑務ばかリ。 全部少しだけ手を付けているが、使い物にならない資料ばかリ。 振り上げた拳を静かに下ろした。 最初の依頼に含まれていない以上、文句が言えない。 「……できないんなら、できないって言ってくれよ」 引き直したスケジュールでは終わってるはずの仕事が終わってないので、しばらくの残業が確定した。 善意でほいほい引き受けて潰れる相手と、無計画にほいほい依頼してしまった自分を恨みながら、俺は髪を掻きむしった。
どうでしょうか大野さん 「いや…大変ですね…酷すぎるよ。東京ペンギンさんはよく耐えてきましたね。本当によく頑張ったと思います」 本当ですね。辛い辛い日々だったでしょうね。地獄の日々でしたと書いてありましたね。 「そうですよね。…えっと、そうですね。僕ら嵐の歌で『サクラ咲ケ』と言う歌があるんですけど、その中に、その歌詞の中に『握りしめた手が何か言う 駆け出せば間に合うさ』というところがあって、本当そうだと思うんですよね。親でも地元の友達でも、東京ペンギンさんを大切に思ってくれる人が必ずいると思うんですよ。だから、その人達に相談して、思いのたけを吐き出して、そしたら、きっとその人達は分かってくれるから。自分は一人じゃないんだって分かるから、それから始まると思います。全てが。そりゃ時間がかかるかもしれないけど過去なんか振り返っても変えようがないし、明日の事なんて誰も分からないから、今、出来ることをね、したほうが良いと思いますね。どうですか、メデュ子さん」 一字一句同じです 「ハハハハハ。おい!メデュ子!…でもそれしかないよね。」 うん、東京ペンギンさんは強い人だから、分かっているのかもしれませんね。少しだけでいいから背中を押してもらいたい。そんな気持ちなのかもしれません。ですので私が背中を押します。 【その心に萌えた不安の蕾!石にしてやろうか!!】 「本物ヤバイね…」 ありがとうございます ではここで一曲お送りいたします 嵐で「サクラ咲ケ」 ♪ 握りしめた手が 何か言う 駆けだせば 間に合うさと コンビニで雑誌 立ち読みしてた 昨日の僕に Bye-Bye 走り出した 街の音は 歓声のよう サクラ咲ケ 僕の胸のなかに 芽生えた 名もなき 夢たち 振り向くな 後ろには明日(あす)はないから 前を向け 駅前で誰か 歌ってる それは君の好きな歌 遠く離れても 決して消えない だから別れじゃない いつかふたり 望む場所で めぐり会いたい サクラ咲ケ 君の胸のなかで 揺れてた 小さな 蕾よ 負けないように くじけないように今 歌うから 未来なんてさ すぐに変わる 変えてみせる 「右へならえ」から踏み出すこの一歩を 打った点が分ける結果 陰と陽 だから知っとこう 生きるヒントを かすむ蜃気楼すらも掴む勢い 今 蒔けば種 花咲かす やった後言うなら まだ分かるんだ そう そりゃ時間なんてのはかかる 春には 大きな花を咲かす めぐり会いたい 必ず サクラ咲ケ 君の胸のなかで 揺れてた 小さな 蕾よ 負けないように くじけないように今 歌うから サクラ咲ケ 僕の胸のなかに 芽生えた 名もなき 夢たち 振り向くな 後ろには明日(あす)はないから 前へ 前へ ♪ はい、今日は大野さん本当にありがとうございました。スペシャルゲスト大野智さんでした。 「ありがとう御座いました。皆さんどうぞお元気で!」 ではまたお会いしましょう。シャー
世界は大混乱。 アニメまで神格化される。 水を求めて皆押し寄せる。 バラ園ではカップルがどこ吹く風。 娯楽と仕事。 僕はどっちも中途半端。 レベル上げに適した環境にいる人達は今日も忙しい。 今日は新しいスマホを設定した。 出来ないなりに知り合いに手伝って貰って。 まだ見放されていない。 女の子と目が合う。 なにか残念そうな顔をされる。 タバコ吸ってちゃそりゃそんな扱いを受ける。 明日も休み。 夜が更ける。 太陽はイエスを起こしアッラーと邂逅させ仏陀の座禅を待ってその他の神々を叱咤激励する。 皆それぞれに信じたいものを信じる。 石油は相変わらず猛威を振るうが外宇宙の見つかっていない物質を待つ人々によって様々な分野で使われ続ける。 今日は女性天皇のニュースが出ていた。 半陰陽を利用したあの娘は世界を手に入れたいのかもしれない。 生物学なのか物理学なのか権威は猛威を振るって学会を揺るがす。 不幸な生い立ちの子供たちはアニメと漫画によって浄化される。 もう少し踏み込んで宗教の話をしたいがどうしても金の問題が絡む。 少年漫画を渡してきた知り合いは芸能界の訓練を受けているので姿勢がいい。 今年は春が長い。 春の名前を冠したあの子達はアニメと漫画の世界を行き来して今日も戦う。 スプリングガールの遊びは今日もスリルがあって元気がいい。
どうも皆さんこんばんは メデューサ・メデュ子のお悩み相談室 どうぞ今夜も楽しんでお聴きください この番組は短編作品限定の小説投稿サイト『Prologue -プロローグ-』の提供でお送り致します この番組のナビゲーターを務めるのは私メドューサ・メドュ子です。皆さん、どうぞよろしくね 皆さんはお花見に行きましたか 私の住んでいるマンションの前に桜並木があって、夜な夜な散歩しながらお花見をしました。お酒片手に。フフフ 夜の桜って、切り絵で作った星みたいでなんか綺麗だなって思います。 はい、今日はゲストに嵐の大野智さんに来ていただいております 「どうも。嵐の大野智です。よろしくお願いします」 大野さんはお花見されますか? 「します。でも、移動中の車の中から見るくらいですけど」 お忙しいですものね。大野さんの中で桜の思い出などありますか 「特にないですw綺麗だなと思うくらいですね」 ハハハ。正直で素敵です 「正直者なんでw」 はい、ではお悩み相談に参ります ペンネーム東京ペンギンさんからお便りです メデュ子姉さん。こんばんは 僕は高校二年生の男子です 僕は高校一年生の頃からイジメにあっています。 高校へ入学したとき、同じ中学の人は一人もいませんでした。なので、心細かったですが、新しい自分になれるチャンスとも、思いました。高校へ行ったらカッコよくなろうと思って髪を茶髪にして、少し悪い感じを出して通いました。 だけど、高校には僕なんかよりも怖い人達は沢山いて、その人達に目をつけられ、入学して直ぐにタバコを買いに行かされたり、それを学校に通報されたり、クラスの女子に言いたくない事を言わされたり、別の高校生に喧嘩を売りに行かされたりしました。地獄の日々でした。 でも学校は休まず行きました。行かないと、自分が壊れてしまいそうで怖かったのです。 僕はこの春二年生になります。僕をイジメていた人達は、二年生になれず、学校も辞めて働くそうです。 やっと解放されます。 ですが、怖いです。イジメていた人達はいなくなっても、それを見ていた人達は残っています。そんな人達と過ごすのが怖いです。やっと解放されたのに、学校に行きたくないです。僕はどうすればいいのでしょうか?助けてください。 と、言うわけなんですが、一旦ここでCMです。
彼は、小説を書いていた。それは、水のおいしさについて。 「水ってさ、無味無臭で、しかも透明じゃん。でも、なんか他のドリンクよりもおいしい気がするんだよね」 嬉々としてしゃべる彼に対して「そんなの錯覚でしょ」と言い返したことを、いまだに覚えている。 あの時は卑屈だった。べつに水がおいしいとか、おいしくないとか、今になって考えたらどうでもいい。でも、彼は水がおいしいと感じて、その気持ちを文章にしてみたいと思った。この行いには、きっと価値があったのだと思う。 結局、彼の小説は完成しなかった。それは、私の卑屈な返事で彼の胸をえぐったからなのかもしれない。水のおいしさを言語化するのは、たんに難しいからだったのかもしれない。 べつに完成しなかったからといって悲しむわけでもなく、完成したところで「だから、どうした」程度の話になっていたと思う。 それでも、おもむろに水道水をひねって出す時。透かした先がよく見えたり、ぼやけて見えなかったりする。そんな液体に心と手を動かされた者がいる。ただそれだけのことを、今後も覚えていたい。
ある日、季節のめぐりは止まってしまった。それはまさしく、ぼくが買い物がてら、自宅の周りを散歩していた時だった。 ひゅぅと風が吹いてきて――それは突然の出来事だった。驚きのあまり、開いたぼくの口内に、やけに熱い冷気が通りすぎていった。それは、あまりにも一瞬のことで。ぼくは特に気にも留めず、家に帰ってしまった。 しかし、五月の半ばを迎えても例年より気温が低いまま、20度を超えない日々が続いた矢先。ふと、あの風は、ただの風ではない、という予感がした。あれはきっと、夏だ。 ぼくは夏をのみこんでしまった。 「ということなんだけど」 木陰のベンチにて。アイスを片手に、ぼくが事の顛末を語り終えると、隣に座る友人はぎょっとした顔つきになった。 「えぇっと……。つまり、おまえが夏を食べちゃったせいで、春が終わらなくなってしまいましたと?」 「多分、そうだと思う」 「ハアア!?」 絶叫する友人。その間抜けづらが面白くて、これだけでも彼に打ち明けた価値はあったな、と感じる。 「なんで、満足そうな顔してるんだよ……」と、友人は不満げに眉をひそめる。 だから、ぼくは仕方なく、先程から考えていた思いつきを口にした。 「それよりさ、考えてみてごらんよ。このまま夏がやって来ないほうが、ぼくらにとっては素敵だと思うんだ。日焼けしないし、汗もあまりかかなくてよくなるし」 くるりと、ぼくの目線は手元に流れていく。 「なにより、すぐにアイスが溶けないのは、すばらしい」 そうでしょう、と返事をするように、春風が頬をなでる。ぼくは満足げに舌を揺らす。ひんやりと下くちびるに伝うアイスの温度がじれったい。 今この時も、飲みこまれたアイスは体温で溶けながら、ぼくの胸にのこる夏を刺激している。やがて、じょじょに夏は熱気を失い、寿命を小さくしていく。 もし。もしも、ぼくのおなかの中で夏が終わってしまったら、どうだろう。 悲しいだろうか。嬉しい、だろうか? もしや、このまま地球は二度と夏を迎えられず、順番どおりに秋と冬が訪れることもなく、春という名のあたたかさに包まれて死んでいくのだろうか。 「なぁ。もしかして、このままじゃどうにもならないって思いこんでるだろ」 「えっ?」 友人の急な発言に、そりゃそうだ、と叫びたくなるのをグッとこらえる。しかし、顔までは驚きを隠せなかったらしい。 「ようは、おまえの体内から夏を取り出せばいいって話だろ。だったら、病院に行けばいいぜ。麻酔で、すぐに切開してもらえるからな」 あまりにも自信満々に、彼がそう言ってのけるので、ぼくはしぶしぶ首を縦に動かすしかなかった。 その後、病院に行ったぼくは、それはそれはとても優秀なドクターにおなかを切られることになった。手術は無事成功。ぼくは五体満足で生還し、世界は25度を急激に超えて、今年も夏を迎えることができた。 案外、春一強の時代は、あっけないものだったけど。あのまま何もしていなかったら、万が一ぼくの身体には異変が起きていたかもしれないし……。 それに、ぼくの身体が夏の墓場になるというのは、想像してみると――途端にジメジメと胸が汗ばんでくるようで――ちょっぴりイヤだったから。まぁ助かった、ということにしておこう。 ぼくの手元で、友人の買ってきてくれたアイスが溶けている。熱風にさらされながら、ふと、この暑さから夏も逃げ出してしまいたいのではないか、と思った。 でも、すぐにそれはおかしな話だと思った。暑さから逃れたいのなら、わざわざ人肌恋しく平均36度の胸に飛びこむわけがない。 なぁ、そうなんだろう? 思わず放たれた問いかけは、宙に溶け……。答えらしきものといえば、腕を濡らしていくひんやりとした温度だけ。それを見つめながら、ぼくはただ。 ああ、今年もアイスのおいしい季節がやってきたな。 と、思うばかりだった。(ちなみに、溶けたアイスを見て、友人は再び、あの間抜けづらを見せてくれた。)
「僕はエリーのこと忘れないから」 それが、彼――アレンと交わした最後の言葉だった。 あれから、どれほどの歳月が流れたのだろう。まばゆい都会の喧騒の中、私は独り、変わらぬ姿で生き続けてきた。 私の名はエリー。誰もが老いて去っていくのをただ見守るだけの不老の存在だ。彼と出会い、恋に落ち、そして彼が老いていくのをただ見送るしかなかった、孤独な旅人。 彼の最期の言葉を胸に封印し、ひっそりと喫茶店を営んでいた私の元に、その青年は現れた。 店に入ってきた青年の瞳を見た瞬間、心臓が大きく跳ね上がる。そこにあったのは、あの日の彼と全く同じ、深く澄んだ琥珀色の光だった。 「……エリー、さん、ですか?」 少し緊張した面持ちの青年に、私は小さく頷いた。 青年は愛おしそうに目を細め、ポケットから色褪せた革の手帳を取り出した。見覚えのある、あの不器用で温かみのある筆跡。 「祖父の名は、アレン・ウォーカー。亡くなる直前まで、何度もあなたの名前を呟いていました。祖父の手帳の奥に、この店の住所と、一枚の古い写真が隠されていたんです」 青年が差し出したモノクロ写真には、若い頃の彼と、今と寸分違わぬ姿で微笑む私が写っていた。 「写真のあなたは、今のあなたと全く同じ姿をしている。あなたは、僕たちと同じ『人間』ではないんですね?」 彼の真っ直ぐな視線に、私は静かに微笑んだ。 「ええ、そうよ。何十年経っても、私には皺一つ刻まれない。驚かないのね」 「祖父の手帳に書いてあったんです。『彼女は時間を旅する美しい妖精だ。もしお前が大きくなって彼女に会うことがあったら、これを渡してくれ』って」 青年は手帳の中から、小さな銀色の鍵を取り出し、私にそっと預けた。 「これは、祖父があなたに遺した、最後の宝物の鍵です。僕たちの実家の地下室に、この鍵で開くチェストがあります。案内させてください」 私は頷き、彼と共に古い洋館へ向かった。 薄暗い地下室の奥、埃を被った木製のチェストに鍵を差し込む。カチリと音がして引き出しを開けると、そこには一通の手紙と、青い砂のような液体が入った小瓶が収められていた。 震える手で手紙を開く。そこには、アレンの懐かしい文字で、私への深い配慮が綴られていた。 『エリー。君を一人置いて先に行くことを、どうか許してほしい。 君はきっと、俺が死んだ後、俺との約束を守るために自分の心を檻に閉じ込めてしまうだろう。俺の言葉が、君を永遠の孤独に縛り付ける鎖になってしまうのではないかと、それだけがずっと怖かった。 この瓶の中にあるのは「時の砂」だ。これを飲めば、君も俺と同じように時を刻み、いつかは終わりを迎える人間になれる。 けれど、これは俺からの願いではない。君がいつか、この永遠の命に本当に疲れ果て、誰かと共に歩む温もりを欲したときのために、一つの『選択肢』としてこれを遺す。君の長い旅路のどこかで、この薬が君の救いになる日が来るかもしれないから。どうか、君の未来が自由でありますように』 彼が薬を遺したのは、いつかエリーが孤独に耐えかねたとき、彼女の手元に「逃げ道」という救いを用意してあげるためだった。どこまでもエリーの未来を案じた彼らしい配慮だった。 「エリーさん……」 青年が静かに見守る中、私は青い小瓶をじっと見つめた。 そして、愛おしそうにその瓶に触れた後、ゆっくりと首を横に振って、小瓶をチェストの上に戻した。 「……飲まないの、ですか?」 驚く青年に、私は涙を浮かべながらも、誇らしげに微笑みかけた。 「ええ、飲まないわ。アレンは私が孤独に負けてしまうと思ったのかもしれないけれど、それは違うの。アレンが最後にくれた『僕はエリーのこと忘れないから』っていう言葉、あれは私にとって最高の贈り物だったのよ。アレンが私を忘れないでいてくれたように、私もこの永遠の時間を使って、アレンのことをずっと覚え続ける。人間になって彼の元へ行くことよりも、私がこの世界で彼を愛し続けることの方が、私にとっては幸せなの。アレンが遺してくれたこの選択肢のおかげで、私は自分が『自分の意志で永遠を生きている』って、胸を張って言えるようになったわ」 青年は、私の言葉をじっと噛みしめるように聞いた後、その琥珀色の瞳を優しく細めた。 「……そうですか。祖父も、どこかで苦笑いしながら、あなたらしいって喜んでいるかもしれませんね」 私は「時の砂」を残したまま、地下室の階段を上り、光の射す地上へと一歩を踏み出した。 アレンがくれた優しさを胸に、私はこれからも変わらぬ姿のまま、愛しい彼がかつて生きたこの世界を、愛し、歩み続けていく。
ある日私は婚約者のエリック公爵令息と妹のナタリーが2人で見つめ合っている姿を目撃してしまった! しかも私の家である侯爵家で堂々とだ! 流石に周りに人はいないとは言え、舐め腐っているにもほどがある! 私は「何をしているのですか!」と叫ぶと、エリックは流石に焦った表情を見せるも、開き直ったように言う! 「クリスティナ!お前のような可愛くない女よりも、可愛くて俺の庇護欲を駆り立てるナタリーのほうがいいに決まっている!この婚約はお前ら侯爵家から持ち込んだものだ!ならば家同士ならば、どっちと結婚しようが俺の自由だ!文句あるか!?」 そしてナタリーも「お姉様ズルいですわ、私だってエリック様の事を愛しているんです、だから譲って下さって当然ですわ」 などとエリックにすがりついている、私はこの様子を見て切れた! 「ざけんなボケが!浮気しておいて何開き直ってるんだ!」 そして私の怒りは止まらずに、怒りの言葉を連打するのであった! 「いいこと?庇護欲?そんな甘ったれた戯言に興味はありません!むしろ私の下僕になりなさい!何故なら私がそれを望んでいるから!」 「な……お姉様ワガママすぎますわ!」 ナタリーが反論してくるが、 「貴女の庇護欲なんて低レベルな雑魚ワガママ何か許しません!いいこと?エリック、この不始末は許しません、だから私の命令を聞きなさい!」 もう怒りのあまり自分でも言ってることが支離滅裂だとは思ったが何と…… 「は……はい!分かりました!」 何て言いだすでは無いか…… なんだこいつ…… ナタリーが「エリック様!?どうして?可愛い私を捨てるのですか?私エリック様がいないと死んでしまいますわ!」 なんて寝言を言うも、「無視しなさい!ナタリーは死んだりはしません!平気で他の男を作るのですから、これからは私の命令に従うことに人生を費やしなさい!」 ともう私もヤケクソでこの流れに乗ったら…… 「もちろんです、ああ私の素晴らしき妻になる、クリスティナ……」 なんてうっとりしだした…… 「どうして!?どうしてなの?あんなにお姉様のことを可愛くないと言って、私を愛してくれたじゃない!」 するとエリックは…… 「黙れ!お前のワガママなんか可愛くない!ああ、僕は女性を守るナイトになりたいのだ!それならば、クリスティナ……いやクリスティナ様こそ我が主に相応しい!」 ……どういう価値観をしているのかしら?と思うのだが、この男が何か知らないが人に仕えたい男だったので、 今の女王様スタイルの私>庇護欲のナタリー>以前の真面目な私で好んでいることが予測できた! ってことで婚約破棄はやめてやろう。 その代わり今後私の下僕として生きてね! そして私はエリックを見下しているのと浮気された恨みを忘れる気は無く…… 恐ろしい復讐を企てていたのであった……! 実は私には好きな男がいるのである。 それは護衛騎士のフィリップだが、身分差ゆえに諦めていた。 しかし私は恐ろしいほどの残酷な企みを考えていたのである。 フィリップも実は私に気があることは知っている、が身分差のせいで、お互い踏み出せないのだ…… ということで、私が迫ったところ、フィリップは抗うことができずに、一夜愛されることに成功…… フィリップは死ぬほど落ち込んでいたが私は「ごめんなさい、本当なら結婚したかった、でも家のためにそれはできないわ、でも安心して、きっと貴方との子をエリックに子として育てて見せるから!」 「き……君は何を!?」 そう驚くフィリップに対して、私はとびっきり可愛い悪魔のような顔をして、去った…… 幸運なことに1回で子供はできた。私はエリックに「たまには実家で少し休みたいので休ませてもらうわ!」と宣言をして、 お腹が膨らんでいてバレる時期を隠して出産した! 白い結婚なのでいかにエリックが馬鹿でも私が浮気したことがバレてしまいますからね! そして、堂々と子供を連れてエリックの元へ戻り宣言をする! 「この子可愛いでしょう?みなしごで可哀そうですから養子にしましょう!」 「しかしだな……どこの馬の骨ともわからぬものを……」 「黙りなさい!貴方は人の心が無いのですか!」 「わ……分かったよ……」 その後こいつには一生白い結婚を突き通すし、エリックは養子では外聞が悪いということで、子供ということで届け出ることにしたので、つまりだ、私とフィリップの子が、エリックの後継者になるってことなのよ…… まさかここまで上手く行くなんでね! 浮気と、そして舐め腐った態度は高くつくのよ!
(こんにちは、今からあなたはこの世界の主人公であり,モブに過ぎない気持ちをより一層感じさせる日を迎えられるようになりました。ありがとうございました)私のメールに一通不思議でとても興味深い文章が送られてきた。よくあるフィッシングメールなどの詐欺メールとは違って明らか本気な気がして胸がざわざわした。しかし何故か私一個人に対してメールが送られただけであり世間は何も変わらない空や時が流れていく。いつも私たちと同じ学生や,小学生が学校に向かっていく。確かにと少し思ってしまった。私は特別な人物であり,ただの一般人Bでしかないと自覚した,だが別にいい出来事など何も起こらず,ただの日常を私は淡々と,そして静かに過ぎ去っていった。電車がガタガタと音を立てながら私はいつもの,何も変わることない駅を出た。しかし出た瞬間私は戦慄した。異様なほどに私の顔のポスターや,コマーシャル商品と一緒に自分自身がポーズを取っていた。あまりにも怖く大学も折角着いたはずなのに颯爽と帰りたくなる気持ちが私の感情に襲ってくる。あまりにも突然で,とても怖くなった、バカッターや,バイトテロを起こしたら完全にプライベートがなくなるんだなと前々から思っていたがいざやられてしまうととても怖くなりすぎて嗚咽が止まらない。なぜだ,私はただメールがきただけなのに,理由も有耶無耶でただのメールではないと確信し再度メールを確認した。メールの送り主はSとゆうらしい,私は早速電話をかけた。しかし[今この電話番号は使われておりません]謎が謎を呼ぶとはこのことだなと思いながら絶望がまた襲ってくる。確かに有名人のように扱えわれているとは解釈のしようで思うことはできるがあまりにも度が過ぎている,しかもポスターや,商品モデルの許可は無し,プライバシーのプの字もなくただただ呆れる気持ちが沸々と湯のように湧き上がる。仕方ない,こんなことで悩んでたら社会人になった時困るだろと気持ちを抑えながらいつも通り,しかし不穏な気持ちで大学の授業に出席した。友達も別にポスターのことは気にする様子もなく呆気なく最終授業が終わった。なんだったんだよ、自分自信疲れて少しおかしくなってしまったのか?と思いながら家の戸を重く,そしてゆっくりとギーギー軋む音を立てながら開ける。もう無理だ,課題もやはり多くてもう疲れた,風呂入って夕飯作ってもう寝てしまおうと思いながら私はソファにぐったりとそしてずっしりと腰を下ろす。その時ピロン!と静かな家の中に音が響き渡る(今日1日お疲れ様でした。私自身おっしゃっていませんでしたね,Sと名乗っていますが今から真実をお伝えします。このメールはあなたの未来をお伝えするために送りました。Sと名乗っていましたがこれはあなた様が佐山とゆう苗字の頭文字から引用しました。そして疑問に思ったでしょう?何故ポスターが知っている道や,自販機に貼ってあるのか?とゆう問題ですが,これは未来の状況を可視化したある意味予知のような現象です。ですからあなたは今一般人として生きていると思いますがこの予知が起こるのは明日かもしれませんし,十三年後かもしれません、なので身構える経験をしていただきたく送っていただきました。しかし有名って定義って何処からなのでしょうか?犯罪者も確かに有名人とも解釈できてしまいますよね?今後ともあなた自身をよろしくお願いいたします)
お掃除がんばりすぎて、腰に少し重たい痛み ふう、と息をついたのもつかの間 そんなわたしを急かすように全身で跳ねまわる お散歩! お散歩!! と、愛犬のジャックラッセル 本当に、キミはいつも元気だねえ 手早く準備を整え、外のまぶしい世界へとくり出していく 新緑の青くささと、初夏の濃い光に挟まれた、心地いいこの時期 カレンダーには書かれていないこの季節の名前を、わたしはまだ知らない ふいに、ぐいと腕が引かれる 早く! 早く!! リードの先で、ジャックはおかまいなしに加速する 腰の痛みも、掃除の疲れも、この弾む足取りに追い越されて… 早く! 早く!! 目指すのは、たくさんのお友だちが待つあの公園
川沿いにある骨董屋。 白髪交じりの女が、奥の椅子に腰掛けている。 ──ギィー、ガチャン。 男が入ってきた。 店の中をゆっくりと見て回る。 そのとき、壁の戸棚に目が止まった。 「これは何ですか」 「知らん」 「売り物ですか」 「あぁ」 男は、戸棚から一冊の本を手に取った。 「鍵つき…鍵はありますか」 「ない」 表紙を眺めながら、しばらく迷った。 そして、安くはない金を払い、店を出た。 帰り道、鍵屋を探す。 「すみません。この鍵、開けられますか」 店主は本を手に取り、鍵穴をレンズで覗き込んだ。 「これ、無理に開けるより鍵作ったほうがいいな。どうする」 男は、鍵を作ってもらうことにした。 そしてまた、安くはない金を払った。 郊外の一軒家。 部屋には、趣味で集めた骨董品が並んでいる。 机の上に本を置くと、小さく深呼吸をした。 ──カチ、カチ。 鍵を回し、重たい表紙を開いた。 「二百年前か…」 最初のページには、日付と「予言書」の文字があった。 男は、ゆっくりと時間をかけて読んだ。 すべてを読み終えると、本を抱えて家を出た。 ──ギィー、ガチャン。 「これ、買い取ってくれ」 「安いよ」 女はカウンターに、わずかな金を置くと、 戸棚に本を戻した。 「予言、全部はずれだったぞ」 「知らん」 店を出た男は、持っていた鍵を川に投げた。 川の底には、同じ形の鍵が、キラキラと光っていた。
書いて 消して 書いて 消して 書いて 消して 辛くなったら書けばいい 紙って、意外と丈夫なんだよね 言う 言わない 言う 言わない 言う 言わない 辛くなったら言えばいい 人って、意外と強いんだよね 洞窟の奥に入って、出口が見えなくなっても大丈夫 懐中電灯を持って、探しに来てくれる人達が必ずいる 過去は書き直せないけれど、未来は何度でも描き直せる
勇者と成った 「魔王を討伐して欲しい」と 王様と民の期待を背負い、愛しの人の不安を跳ね除ける為、僕は仲間と共に旅へ出た 苦しい事が沢山あった、無理だと折れそうになったこともあった だが、期待に応えるために 仲間と、平和な世界を目指し 僕達は魔物に立ち向かい続けた 魔王城に着いた。罠も、魔物も、これまでとは桁違いだった。 比べ物にならないほど、魔王も強かった。 しかし、何とか踏ん張って、足掻き、全力で 魔王は最後に小さな一言を呟き、消滅した 帰還した瞬間、民衆は、王は、泣いて僕に感謝をした 愛しの人も、暖かい手で僕を抱きしめてくれた 宴も開かれた 金も困らないほど手に入れた ―――嗚呼、幸せだ そう言ってやるつもりだった 今までの苦労が、報われたのだと それ、なのに 『妻と...娘、は..どうか』 魔王の放った一言が 魔王城に居た、子供と女の魔物が朽ちる瞬間の記憶が 笑顔の絶えない世界の中で、一人 今も僕を苦しめる
二メートル先に向かい合うあなたの赤らんだ頬が嘘じゃないと思いたい。
私は今日ファミリーレストランに行くことにした。いつも頼むメニューを淡々と頼みながら,頼んだメニューを食べながら私はボーとなりながらくつろいでた,だがやはりドリンクバーを頼んだ都合上とてもトイレに行きたくなった,しかも個室を使いたくなるレベルの便意が私の胃の中で蠢くかのように腹が痛くなった,やばい,やばい,早くトイレに行かなくては、内心焦りながら私はトイレへ駆け込んだ。このファミレスは毎回個室が一つしかなく一人入ってしまったらしばらく待たなくてはならない、とりあえず今入れなくても近くに他の施設もあるので内心ほっとしているが案の定個室一つが綺麗にあったが、急いでドアをガチャと開けようとしたが,見事に鍵が入っていた、(まじか、鍵閉まる判定の目印わかりずらいな)私は独り言を吐きながら泣く泣く待つことに決した。だがいつまで経っても鍵は開かない、そう思い、ここの個室は私含めて二人しか滞在していないことをいいことに少しトイレの隙間を軽く覗いた,この時私は少し奇妙な感覚に襲われた。個室なら大抵座っており踏ん張っているか,ティッシュを大きな音を奏でながら取り出すだろうが、中の人物は何故か立っているのである。私は少し不気味に思いながら私は淡々と待つ,今までは待てば数分すぐに入れるが今はずっと待っていても次のラリーが来ない。あまりにも不審と不気味な感覚を持ちながら私は壁に背中を立て掛けながら待っていった。少し中の様子を音として認識できるだろうと考え音の反響しやすい壁の付近に耳を傾けながら私は待った(シャガ、シャゲ、シャジャシャガ)聞いたことのない異音が私の耳に巡る,あまりにも奇妙な出来事が連続し続け私は内心不安になりながら淡々と開く時を待つ。だがしかし開く時は訪れない。何かいい刺激だろうと思いながら恐る畏る私はまたドアの隙間を覗いた。(ああぁぁぁ)私は一気に寒気が襲いながら私はすぐに覗くのを避けすぐに壁の近くに戻った。やっと今ラリーが繋がり、内心もうこの場所ではなくていいだろと思いながら仕方なくこの個室に入った,だがもう抜け出したくなる寒気と怖さに襲われた。(お前が次の犠牲者かあぁぁぁぁぁぁ、)天井にさっき出ていたはずの人が私を凝視している、よだれがタラタラと君悪く汗のように垂れながら個室の床に唾液がこびりつく。(なんなんだ、お前はさっきからずっと個室で立ってたろ!文句をゆうなら早く私に先を渡せよ!)声を轟かせながら私はこの中年に叫んだ(俺はあくまでこの村上とゆう男の負の気持ちの集合体,コピーだ)おどろおどろしい声を私の耳に轟く(お前はじゃあ、何を求めている、生命か!何か大切なものか人か!)俺は早くここから出たいと思いながら便意を襲いながら叫ぶ,叫ぶ(あぁー,お前の口内炎をくれ、これがあればお前を絞殺せずに交渉してやろうか)じゃあ,これはこれで納得した(ほら、口を開けたぞ!早く,早く口内炎を取れ!あぁあああー)(クックック,お前の口内にはたくさんあるなぁぁさぞかし不健康なんだろうぉぉ、満足ダァァ)ぐっちゃぐちゃ,私の口内炎を引きちぎる,とても痛くなりながら私は我慢しながら痛みに耐えた(この上質な口内炎を見たことはない,痛みは俺に対しての奉仕ダァァァ,じゃぁなぁぁぁ)妖のような者は静かに、そして寂しげな背中を見せながら壁に吸い込まれるように立ち去った(よし、これでやっとお腹の不純物を出せると思いながら私はいつものように個室を過ごした。私は汗をかきながらドアを開け,ファミレスを後にした。奇妙なことに家に帰った後異常に多かった口内炎が全てなくなっていた,もしかしたら人の穢れのような部位を祓う妖怪なのかもしれない,いや、ただの考えすぎだし,この出来事自体幻覚かもしれないな,もう寝よう
私はシバ専だ。 シバ専とは柴犬がこの上なく好きな人のことである。司馬遷ではない。 この上なくモフモフな体に少しビビリな性格、心を許した相手にだけ見せるしっぽフリフリをされたらもうたまらない。 今日、私が自転車を漕いでいると民家から帽子を被った女性が出てきた。彼女の手にはリードが握られており、その先には白いチワワがつながれていた。 早く行こう!と言わんばかりにチワワはリードを引っ張って、ほとんど二足歩行のような形で飛び跳ねていた。 小さい犬にはよく吠えられるのでなんとなく苦手意識があったのだが、その全身を使って喜びを表現する姿に私の心は撃ち抜かれた。 私の手が無意識のうちにブレーキを握り、自転車のスピードを落とす。 白い天使はこちらに見向きもせず、ズンズンと我が道を進んでゆく。 これからはチワワも推していこうかな。 私は再びスピードにのり、ユーミンを口ずさんだ。
地方の寂れた商店街にある、小さな和菓子屋。 夫婦が二人で切り盛りしている。 「ただいま」 「あんた、どこに行ってたんだ」 夫は薄ら笑いを浮かべながら、帰ってきた。 「今、申し込んできた」 「は、何を?」 「市議会議員の選挙」 しばらくの沈黙のあと、妻は呆れた顔で、手を止めた。 「あんたが、当選なんてしないさ」 「当たり前だ。当選するなんて、思ってない」 「じゃあ、なんで」 「お前、バカだなぁ。店の宣伝だ」 両手を広げ、夫は自慢げに話し始めた。 「テレビだよ。取材だって向こうから来る」 「本気かい、あんた」 「あぁ。それとなく団子が映ればいい」 妻はショーケースの前の椅子に腰掛け、ため息をついた。 「あんたねぇ、顔が知れたら、いろんなことバレるぞ」 「なんだ、それ」 「売り上げごまかしてるとか、過去の女ぐせとか」 「そうなの?」 「ネットで晒されて、終わりだ」 「税務署、来るかなぁ」 「知らんよ」 妻は残った団子を数えながら、レジを閉めた。 「なぁ、俺、どうしたらいい」 「目立たないよう、投票日まで、何もするな」 夫は頭を抱えて、座り込んだ。 「すみません。取材、よろしいですか」 「いえ。困ります」 その映像は、繰り返し流れた。 ポスターも貼らず、演説もしない。 あるのは、候補者名簿の名前だけ。 投票日。 店の前に、テレビカメラが置かれた。 緊張した夫婦が、画面いっぱいに映る。 「あぁ…残念です。あと一歩でした」 アナウンサーが、二人にマイクを向けた。 モニターを見て、落選を確認する。 「万歳、万歳」 二人は肩を叩き合い、歓喜した。