神様の呪い

神様は偉いんだ。 すごいんだ。 この世界のすべての人を等しく幸せに、あるべき道へと導いてくれる。 愛に満ちた独裁者。 呪い? そんなものかけないよ 考えもしないよ だって神様だもの。 人を呪ったりはしないんだよ。 できるかどうかは別として、ね。 そんな話を、昔_幼い頃に聞いた。 幼馴染みの女の子から。 同い年だけど、その子は俺よりずうっと小さくて背も低かった。 生まれつきそういう病気らしかった。 俺たちは田んぼとビニールハウスが立ち並ぶ、何もない豊かな田舎で育った。 水筒と麦わら帽子だけをお供に 田んぼの畦道を、他愛もない話をしながら 永遠とも思える長い時間、飽きもせず歩き続けた。 彼女の病気は、よく小説や映画で見るような 余命○年なんていうものではなくて、 普通に生活していればなんともないものだった。 だから安心していた。いや、油断していたんだ。 俺は、俺たちは 悲劇の中、愛を貫き通す。 そんな映画の登場人物にはなれない、と。 俺は彼女が好きだった。 よく着ていた白のワンピースも 心配性な彼女の母親が着せていた薄い黄色のカーディガンも 笑った時に見える尖った八重歯も 上気した頬の赤らみも よく通る高い声も そして、太陽を背にこちらを振り返り エクボを作って笑いかける君の笑顔が。 どうしようもなく大切に思えていた。 彼女が死んだ。 彼女との記憶で残っているのは夏の記憶ばかり。 彼女は冬に死んだ。 交通事故だった。 嘘だと思った。 嘘なんだろう?本当は君は家の中にいて、俺の反応を笑いながら見ているんだ。 でも、分かっていた。 そんな趣味の悪い冗談を、きっと彼女は好まない。 猫を助けようとしたらしい。 彼女の母親が泣きながら俺に言った。 雨降る夕方に、猫を助けようとしてトラックに轢かれた。 彼女が守った猫は無事だった。 馬鹿だよ。 本当に君は馬鹿だよ。ほんと。 でもそれをしてしまうのがあの子だから。 その言葉に彼女の優しい微笑みを思い出して、 そうだよな、と思う。 俺は泣かなかった。 出るはずの涙は、全部冷たい冬の風が持っていってくれたから。 知らなかった。 病気を持っていながら、それをものともしていなかった彼女が、 事故で死ぬだなんて。 そんなことありえるだろうか。 映画なら死ぬ間際に話す時間もあっただろうに。 あいにく、ここは現実だった。 最後に交わした言葉はなんだったか。いつだったか。 曖昧でわからないまま彼女とはもう話せない。 病気持ちだろうが、無かろうが 善人だろうが、なかろうが そんなもの関係なく 運命はいつも俺たちに平等だ。 本当に理不尽なことは、 それに憤る暇もなく、ただ一瞬にして俺たちの間を通り過ぎていくらしい。 呪いなんてかけないよ。 だって愛に満ちた独裁者。 ああ、本当に。 君と歩いた道の風は変わらず優しい。 君が着ていたカーディガンの黄色は色褪せていない。 君を俺に照らし出した太陽は、まだこんなにも明るい。 君が守った猫は今日もどこかで鳴いている。 でこぼこの田んぼの畦道を 大地と草と水の匂いのするあの道を 走る 走る 立ち止まっていたくなかった。 だって今は冬だから。 君がいないから。 夏まで、君がいるあの季節までこのまま駆けて行きたい。 全速力で走りながら願う もし、神様がいるのなら。 駆けながらいつのまにか俺は泣いている。 こんなにも辛いなら どうしても忘れられないのなら 最初から何も知らなければよかった。 神様 どうか どうか どうか 俺に呪いをかけて。 全部めちゃくちゃにして。 会いたいなんて思えないように 忘れてしまえるように もう、戻れないように あの夏に、閉じ込めて。

拝啓 窓から

君に贈りたい景色がある。 あの階段の踊り場から 君の背より少し高い、あの窓から 街が見えるんだ。 君と僕を育んだ 見慣れた、だけど一番愛おしい 懐かしいあの街が あの街の端っこには 中心街からほど遠い、あの公園には ブランコがあるんだ。 子供の頃よく遊び 学生の夜、よく座った。 君が僕の涙を受け止めてくれた 闇がすっかり更けて、風も凪いでいた ちょっぴり苦い夜の記憶を持つあのブランコが。 あのブランコを高くこいだ視線の先には 周りの住宅より少し背の高い、あの丘には 塾があるんだ。 毎日重い気持ちと参考書を抱えて登っていた 暑苦しくて、生徒思いの先生がいる。 眩しすぎる蛍光灯と緊張感と達成感が潜む、あの塾が。 あの塾を出た先には 少し開けた大通りには 僕らの学校があるんだ。 友達と馬鹿騒ぎした通学路 朝の気だるさが残る靴箱 少し切ない夕陽がさす放課後 毎日通った教室の左端の席、窓際の席から 右隣に座る君を、いつも見ていた。 桜が舞って 太陽が照り付けて 金木犀の香りがして 冬のピンと張り詰めた冷たさが 君の髪を優しく撫でる様を いつも見ていた。 あの学校には 僕らが毎日上り下りした階段の踊り場には 少し高いところに大きな窓があるんだ。 ふとした瞬間、 青すぎる空に 高く遠く広すぎる空に 雲が浮かんでいるのを見て、いつも見惚れるんだ。 そこから見える。 ささやかな優しさをくれるたんぽぽの花が あの胸にひりつく公園が あの煌々とした丘の上が あの街が見える。 その景色を君に贈りたい。 優しいだけじゃない。ありったけの優しさを込めて。 その先の景色を、 君に。

適度にセーブして

しっかり食べないと おかしなこと考えがちになるよなあ まあ これでも食べたまえよ ウチのねこが ドーナツを差し出してくる へへっ わたしは笑い けれど ちょぴっと 泣いてもいた

滴る宝石【BL】(5)

「…村上、ちょっと聞いていいかな?」 2人きりになったことを確認すると、和田はゆっくりと村上に話しかけた。 「…ん」 「さっきさ、寺島に頭撫でられてたときに村上泣きそうになってたよな」 寺島に限らず、自分の変化によく気が付いてしまう彼らに対して村上は本当に申し訳なくなった。 「……うん」 「俺たちが来た時に宝石が出たのも、直前まで寺島と話してたときだよな」 確信めいたその言葉に、もうこいつにはバレてるんだと村上は感じた。 「……そうだな」 「村上、やっぱお前の好きな人ってさ」 「分かってる」 村上は耐えられないというように和田の言葉を遮る。 「…村上」 「分かってんだよ、分かってんだけどさ…」 原因が分かっていたとしても、治療法が分かっていたとしても、どうしたって、ことは簡単には行かないのだ。 「俺はさ、村上が誰を好きになろうが心から応援するよ。今この場にはいないけど、柴山も有村も、もちろん寺島だって同じなんじゃないかな」 和田の落ち着いた声が鼓膜を揺らし、不安でいっぱいだった心に染みる。 「…ありがと」 「にしてもさぁ、村上も意外と繊細なんだねぇ。知らなかったよ」 和田がまったくもうといった風に笑うのを見て、やかましいと村上は背中を叩く。段々といつもの調子を取り戻しつつある村上の様子に和田も痛がりつつ笑う。 そこからしばらく他愛ない会話をしていると、ガチャっと玄関の開く音が聞こえた。その後すぐにダッダッダと走る音と共に息を切らした寺島が飛び込んできた。 「はぁっ、はぁっ、…す、すまん、またせた、」 荒い呼吸を繰り返しながら目薬の小箱を差し出してくる。 「いや、言うほど時間経ってないから」 つかどんだけ急いできたんだよ。そう言いながら村上はソファから立ち上がって小箱を受け取る。それと入れ替わるように寺島がソファに座った。 「いや、近くのコンビニに目薬無くて、探して、薬局まで行ってきた、」 「は!?薬局までって、歩いたら往復で1時間くらいかかるだろ!?」 「まだ出てってから3、40分くらいしか経ってないと思うんだけど!?」 村上と和田は驚き、ほぼ同時に大声を出す。村上は労いの意を込めて麦茶を注いで渡した。一気に飲み干して寺島はコップを渡してくる。 「いや急ぐだろ、村上に何かあったらってすげぇ心配だったんだから」 真剣な顔で真っ直ぐ村上を見てそう言う。寺島は本気で自分を心配してくれているのか。その事実を嬉しく感じた瞬間、また目に激痛が走った。 「い゛っ…!っぐ、ぃ、はっ、うぅ……っ、」 「村上!!」 「しっかり!!」 目を押えてしゃがみ込む村上の傍に2人が駆け寄る。しかし村上の予想に反して激痛の割に早く痛みが収まった。目を開けると3、4センチ程の大きさの黄色の宝石が5つ足元に転がっている。 「村上、大丈夫か?」 「もう痛くない?」 2人は下を向いて黙ったままの村上の返事を待つ。少しして村上は口を押さえながら顔を上げた。歪んだ顔を見て寺島と和田の緊張は高まる。 もしやまた何かしら身体に問題が起こったのか。悪い予感が高まる中、村上は小さく一言。 「……………しょっぱ」 「「……へ?」」 予想外の一言に、2人は拍子抜けした声を上げる。村上は顔を歪ませたまま手になにかを吐き出した。見ると先程目から流れていた宝石。 「口ン中に入っちゃってたっぽいわ。んだこれ、バカしょっぱい、ちょ、マジで水飲むわ」 そう言いながらキッチンへ走る村上を寺島と和田は気が抜けた顔をしながら見送った。 【病の特徴⑤ 流れる宝石は涙の凝縮物である為、非常に塩辛い味がするという。(宝石を口に入れる事はそうそう無いため信憑性は定かではない)】 続く。

ぼぉっと見る

「それ、やめて」 大学の昼休み。早めに弁当を食べ終えてぼぉっとしていた私に、友人が唐突にそう言った。 何か気に触ることをしただろうか? 「んぇ?何を?」 「私が食べてるとこ見るの!」 強めに言われてポカンとする。え?見てたっけ?確かに顔は友人の方に向いてたかもだけどさ。 「え、見てた?」 「見てた!てか目バッチリ合ってたし!気まずい!!」 マジか。意識は完全に頭から抜けて宇宙あたりまで行ってたから全然自覚がなかった。でも真正面で向かい合っているからこっち向くなって言われてもなぁ。 「じゃ、どこ向けばいい?」 「そりゃ……空とか」 なんだそりゃ、どっかの詩人かよ。そう思いながら何となく目線を上にあげた。ガラスの部分に反射されて青空が見える。雲ひとつ無い、真っ青なブルー。 うわ、めっちゃ綺麗。もしこの青空が絵だったら描いた人は神絵師だ。こういうきれいな空を見ると、地球に生まれてきて良かったってつくづく思えるわ。 そう思いながら青空を眺めていると、「ご馳走様」と聞こえた。そこで目線を下げると友人が弁当を食べ終えていた。弁当を片付け終わると、友人が苦笑いして言う。 「なんで天井の方見てたの?見えないナニカが見えてるのかもと思って怖かったわ」 あんたがこっち見んなって言うから自分なりに考えたんだろうがよ!つか見てたの天井じゃなくてガラスに反射した青空だし! なんて大声で叫べる訳もなく、「ははは」と言った。何が「ははは」なんだろうなと自分でも思ったけど。

老人の目

 老人の作業机には、様々な器具が散らばっている。  老人の目の前には一匹の蟻ロボットが仰向けに転がっている。蟻ロボットは焦げ臭い。  老人は特殊な拡大鏡を目にはめて、器具を手に取る。老人は蟻ロボットの修理に取り掛かる。  老人の意識は目の前の蟻ロボットに集中する。器具を扱う小さな音だけが作業場に響く。  蟻ロボットが生気を取り戻していく。触角が動き、脚が動き、複眼が輝き始める。  もう少しだ。老人は思う。  その時、作業場の外から、妻の悲鳴が聞こえる。老人はわずかに反応するが、そのまま作業を続ける。  老人の背後で、作業場の扉が荒々しく開かれる。 「手を挙げろ」  声がする。老人は素早く最後の仕上げをして、両手を挙げて、ゆっくり振り向く。  銃を持った男たちがいる。そのスーツの胸には、砂糖製造会社のバッヂが光っている。

世界の悩み

 お金持ちになりたい奴もいるだろう。 皆で分け合いたい奴もいるだろう。 戦いたい奴もいるだろう。 花を愛でて歌を歌い土地を耕し絵を描き子供たちと話して夜ぐっすり眠りたい奴もいるだろう。 昔のことを忘れない奴もいるだろう。 昔のことを忘れる奴もいるだろう。

髭剃り

その家の老夫婦は、一週間に一度、夫の髭剃りを妻がした。夫の丸い禿頭を掴み、顔中を撫でつけるようにぐわんぐわんと電気カミソリを走らせる。顎髭、頬髭、飛び出た鼻毛、口髭、もみあげ、眉毛、まつ毛をぐわんぐわんと剃り落としてゆく。その度に夫は、皮を剥かれたじゃがいもの気分になるのである。

取調室での調書

以下の文章は、連続幼女殺害事件容疑者の佐伯亮太氏に〇〇警察署で行われた取り調べの際の調書である。 尋問担当 伊刈 亮平 調書担当 井田 天渡 2024.5.6 伊刈(以下、「甲」と表記する) 「なあ、いい加減認めたらどうだ?え?」 佐伯(以下、「乙」と表記する) 「俺はやってねえって。」 甲「事件の話をしよう。犯人は学校帰りの女児を拐い、その・・なんだ。暴行した後に首を刃物で刺して殺害している。同様の手口が同じ小学校の女児五人に及び、年も8〜12と様々だ。」 乙「だから、俺は小学校の近くに住んでるただの一般人で、犯行時刻偶然散歩してただけなんだって。」 甲「下校時の小学生によく話しかけていたという情報もあるが?」 乙「だからそれは挨拶程度の話で・・・」 甲「とぼけるな。一緒に遊ぼうとか、友達になってほしいだとか、そういう話をしたって話も出てる。」 乙「なんだそりゃ、そりゃあ俺じゃない。」 甲「そうか?え?しかも被害者女児にも話しかけてるのを目撃されてる。」 乙「だからそれも偶然だ。とにかく犯人は俺じゃない。」 甲「引きこもりが何年も続いて、年金を食いつぶして両親にも迷惑をかけているそうだな。」 乙「そ、そりゃあ関係ないだろ。」 甲「いい加減自白しろ。」 乙「なんでったってそんなに自白自白言っているんだ?おい。俺にはわかるぜ。あんた娘が犯人にやられてっからだろ。」 甲、椅子から立ち上がりかけるが、座り直す。 乙、発言を続ける 乙「ワイドショーで見たぜ、被害者遺族のインタビューに応じてたよな?あれあんただろ。モザイクはかかってたがそのガタイでわかるさ。」 甲、何も喋らない 乙「自分の娘が見ず知らずの男にやられてっから、血眼になってんだろ?気持ちはわかるがよ。」 甲「黙れ。犯人はお前だ。」 乙「だからそう馬鹿の一つ覚えみたいに言ってもしょうがねんだよ。なあ、刑事さん。いくら取調べしても絶対証拠はでないぜ?」 甲「・・・」 甲「お前が犯人ってことでいいんだな?」 乙「はい、私が女児を殺しました。」 甲「罪の意識はなかったのか?」 乙「ありませんでした。やったのは私です。」 甲「死体はどうした。」 乙「家の風呂で薬品を使って溶かしました。残りは海に巻きましたが、一部の髪の毛が家の机にあります。」 甲「じゃあ自白ってことでいいな。」 乙「はい。後悔しています。やったのは私です。もう許してください。」 容疑者自白により、一時取り調べ終了。 尋問担当 伊刈 亮平 調書担当 井田 天登 容疑者  佐伯 亮太 2024.5.9 連続幼女殺害事件 調書 その2 甲「なんでったってあんなことしたんだ?」 乙「・・・・・」 甲「お前には2つの罪がある。」 乙「・・・・・」 甲「1つ目が調書担当への脅迫による調書の偽造。あの調書。前半から奴が自白する間に明らかにおかしなスペースがあった。あれ、お前が井田を脅して消させたんだろ。」 乙「・・・・・」 甲「2つ目が、容疑者への拷問だ。」 乙「・・・・・」 甲「あいつの服の下、ぶん殴られた跡が夥しいほどあったよ。しかも右左含め4本。足の指が切断されていた。しかもかなり強引に。あれはかなり力付くでいったんだな。」 乙。沈黙を貫く 甲「全てを目の当たりにしていたであろう井田も、今精神がおかしくなって入院してるよ。誰とも喋ってくれないんだ。」 乙。沈黙を貫く 甲「なあ。娘の敵討ちのつもりだったのか?」 乙。沈黙を貫く 尋問担当 吉良 新太 調書担当 益田 秋都 容疑者  伊刈 亮平

新着

新着メッセージ 無し。  昨晩から何度リロードしても同じ。私はがっかりしたようなほっとしたような気持ちでまた携帯を閉じた。幼馴染で恋人の律からの返信を待っていた。昨日の昼、勢いと怒り、寂しさに任せて送った「もう別れよう。」というメールに返信がないのだ。一度送ってしまったことは取り消せないのに気がついて、この18時間ずっと後悔をしていた。律がたまたま読まずに消去してくれないかと思ったほどだ。  そもそも私がこんなメールを送ったのは、この春から始まった遠距離が原因だ。律が大学進学とともに上京すると、私たちの距離はあっという間に1000㎞も離れてしまった。生まれた時から隣にいた私たちにとってその距離は大きすぎた。東京の大学生になった律の送ってくるメールにはいつもきらびやかな写真が添付されていた。行列のできるおしゃれなお店の食べ物に、雑誌に出てくるような服を着た新しい友達たち。一方で私の送ったメールに添付された写真は道端の花、空、家族ばかりで何ともパッとしない。この三か月どんどん律が遠くに行ってしまうような気がしていた。律は変わってしまった。そんな気がしていた。  不安を募らせていた私には一昨日の律の電話は致命傷だった。いつもなら事前に確認をしてくる律が急に電話をかけてくるなんて珍しいと思った。案の定携帯から聞こえてきたのは、綺麗な顔に似合わず低く男らしい律の声とは似ても似つかない甲高い女の声だった。 「もしもぉし、律君の彼女さんですかぁ?」 背筋が凍るような感覚だった。思わず電話を切ってしまった。そのあとは朝までぐるぐるといろんな可能性を考えていた。ただのバイト先の先輩かもしれない。それか一緒に課題をやっていた学部の友達の一人かも。いくら考えても本当のことなんてわからなかった。考えれば考えるほど最悪の想像が頭を支配した。律のあのたくましい腕が女を抱き寄せ、あの柔らかい唇が女の唇に重なっていた。もうそんな想像から解放されたくて、半ば投げやりにメールを送った。  まだ律からの返信はない。  そんな時。  「ピーンポーン。」  チャイムが鳴った。そんなはずはないのだけれど。まだ幼さの残る、以前と同じ顔で笑う私の愛おしい幼馴染がそこに立っていればいいのに。そう思って重い玄関ドアを開けた。

神々しい声

ある方の歌声が、ことの良し悪しを知らせてくれる、 そう思えるような体験がありました。 私は入院している時、相当にメンタルが 不安定となりました。 これは入院当初に、看護師さんから 「もしそうなってもお気になさらずに」 確か初日にそんな事を言われたと思います。 そんな症状になるんだと、初めて知りました。 そしてずっとそういう状況が続くのでもなく、 またいつもの自分に戻ります。 そんな時に遅ればせながらの反省をするのです。 『また余計な迷惑を掛けた』 当初に言われていたとしても、普通に戻った者からすれば、 恥ずかしくも、情けなくもありました。 私はラジオを聴くことが好きで、新しい音楽を 仕入れる元はラジオから、 そんな場合が多いのです。 どんな人のどんな曲が流れるのか、 それは自分と曲の出会いでもありますから、 出会った曲とは長い付き合いになる場合もあります。 病院では主にアプリで聴いていました。 だいたいは落ち着きたい時や反省の時に。 懐かしい曲に癒されるときもあれば、 私が単に知らないだけで、初めて聴く曲も 多かったように思います。 今日は反省の時でした。 アプリに繋いで流れていた曲がとても柔らかい曲調。 歌っている人の声に物凄く特徴があったのです。 〈これは誰だろう?〉 そう思っていると、ベッドで診察が始まり、 音楽を消しました。 それから暫くした別の日。 また不安定になり迷惑を掛けたのです。 分かっていても抑えられない激情。 信じられない暴言を吐いてしまう場面もありました。 一人になって、 〈あの一言は、普通は無い〉 言った本人が、言った台詞を批判しているのです。 〈あとで必ず謝らせてもらおう〉 深い反省をしていました。 まだ分別はつく自分も居るというのは 間違いないのです。 気持ちを抑えないといけない。 またアプリから音楽を聴こうとワイヤレスイヤホンを付けますと、またあの歌声が聞こえて来るのです。 〈またあの人の声だ〉 心に響くように、私を落ち着かせるように あの声の曲が流れていました。 〈何という人だろう〉 そう思ったのは覚えていますが その歌声に気が楽になり深い眠りに入ります。 それから暫く経ってから退院をすることが出来て、 自宅で療養していました。 あれだけ時間があったにも関わらず、あの歌声の主は誰なのかと思い出す事が無かった私。 それから体調も回復をして来て、 今考えると何故そこに考えが飛躍したのか、 分からない仕事に就いてしまいます。 まだあの歌声に気持ちが向いていませんでした。 ラジオからは曲も流れません。 身体の状況と仕事が合わなくて、すぐに転職する事にしました。 と言っても、転職は非常に苦労の連続となります。 そう簡単には見つかりませんでした。 そんな時にある仕事が見つかって、 うまくその会社で働ける事となります。 そして会社への出勤第一日目の朝のことです。 車で向かっておりますと、ラジオからあの歌声が聴こえて来たのです。 〈あっ、、あの人だ〉 そこで私はあの時の日々を思い出しました。 声の主を調べるつもりがここまで何もしなかった。 しかしそう思うよりも、 なにか許しを得たような、それで良いと言われたような、 そんな感覚に思ったのです。   ((それでいいよ)) 反省をしている時 謝らないといけないと思った時 身体に合った仕事に向かう時 それでいいよ、そう言われているような歌声。 ラジオから聞こえる声はAimerさん。 歌は「遥か」でした。 □  □  □ あれから時が過ぎました。 仕事の行き帰りは車内でAimerさんの曲を聴いて 私用の時も行き帰りの車内で聴いています。 ずっと聴いていますと彼女の声を 生で聴いてみようと思うようになりました。 身体の全部の細胞で聴いてみたい感覚と言えば 伝わらないかも知れませんが、 結局のところそんな感覚だと思います。 ライブがある事が分かり、申し込みの日 時間を合わせてチケット申し込みをやってみましたが、全くダメでした。 結果から気持ちが落ち込み…、 しかし、すぐ気持ちは切り替わったのです。 それは明確な先の新しい目標が出来たから。 必ずライブに行こうとする新たな私が出来たからです。 この予定は一般的には普通なのでしょう。 でも私は嬉しかった。 これ迄に無い新しい分野での自分予定が 出来たからです。 会場の隅でも全然いい。 もしあの神々しい声が生で聴けたなら。 私にとってはある意味、生きた証。 そして必ずあの歌声の場所に辿り着きたいという、 気持ちの方向が決まったのです。

豆絞り

 あっけなく男は死んで地獄に堕ちた。  ここにあるのは終わりのない苦行。まさに無限地獄である。  指導員の鬼はいった。 「受付で説明があったと思う。要領はわかるな」  鬼は腕組みをし、威圧感たっぷりだ。  目の前のちゃぶ台には数枚のカードが並べてある。 「さあ、一枚だけめくれ。運を天に任せ苦行のコースを選ぶがよい」  ここは地獄だ。天に任せはないだろう。おかしなことを言う鬼だ。と男は心の中で苦笑した。 「あのう、その前に一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」  鬼の顔色を伺いながら、おずおずいった。 「なんだ?」 「私はなぜ地獄行きとなったのでしょう?」  鬼の表情が変わった。赤鬼は顔を赤くした(ような気がした)。 「ばかもん! お前はそんなこともわからんのか!」  男は、「ひっ」と言って、座っていたござに額をこすり付けた。 「お、恐れながら、私にはまったく身に覚えがありません」  鬼は怒りをあらわに咎め立てた。 「本来貴様はまだ数十年は生きられた。それなのに馬鹿なことをしおって! 自ら命を絶ってしまったではないか!」  返す言葉もなかった。自殺をしたのは紛れもない事実。  男は納得し、いざ覚悟を決め、カードをめくった。 「ほう、これはいい。血の池地獄か。貴様にぴったりじゃないか」  男は豆絞りの手ぬぐいを渡された。 「よいか、それを頭に被って行け。しっかり苦渋の汗を流すとよい」  カッカッカッカッと、鬼は高笑いしながら見送った。  まっ赤な血の池は気泡が上がっている。  グツグツと煮立っているのは火を見るより明らかだ。  男は列に並んだ。順番を待つ間、ドキドキして血の気が引いてしまった。一人、また一人と、熱々の血の池に飛び込んでいく。  ついに自分の番がまわってきた。そこで突然後ろを振り返り、男は叫んだ。 「押すなよ! 絶対押すなよ!」

秋と幼馴染

「はぁ…」 ようやく長い夏が過ぎ、秋がやってきた。 今年の秋はあまりにも急で体も心もついていかない。 「ため息なんて珍しいね、どうかしたの?」 「あ…優くんか…。急に寒くなっちゃったから何だか憂鬱で…」 「あぁ…そういえば玲奈はこの時期苦手だったね」 「そうなんだよね〜…寒くなると気持ちが塞いじゃう」 「特になんでもない事でも落ち込んだりするよね」 「優くんにもあるの?そういうこと」 「まぁたまにはね」 意外だな、いつも完璧な優くんにもそういう時があるなんて。 「例えばだけど、優くんはどんな事で落ち込んだりするの?」 「え…あぁ…そうだな、これは玲奈だから言うけど誰にも言わないでくれる?」 「もちろん」 「たまたま見たテレビの占いで自分の星座の順位が悪かった時とか…」 「ふふ、優くんそれで落ち込むんだ」 「普段は気にしないけどね、たまにだよ」 「うんうん、ふふふっ」 「そんなに笑わないでよ」 「えへへ、ごめんごめん。でもちょっと元気でたかも」 「そう?なら良かった。じゃあ俺は行くね」 「え?あぁ、うん。また後でね」 優くんもしかしてわざわざ励ましにきてくれたのかな… あの話も私を元気にするために…? 「そっかそっか…ふふふ…」 細やかな気遣いのできる幼馴染がいて私は幸せ者だな。そう思いながら秋の風に吹かれその場を後にした。

会ってはいけない

 自分のドッペルゲンガーに会ってはいけない。  会えば、死んでしまうから。   「きえええええ!」    ドッペルゲンガーは走る。  ナイフを持って。    オリジナルを殺さなければ、自分が消えてしまうから。   「殺す手段、物理かよ! もっとこう、お化け的なのじゃないのかよ!」    オリジナルは逃げる。  ナイフから。    ドッペルゲンガーから逃げ切らなければ、自分が殺されてしまうから。    追い追われの、同じ顔。  周囲の人々は奇妙な光景を前に、口をあんぐりと開ける。  双子の喧嘩かとひそひそ話をし、バズらせたいのかスマートフォンを向ける。   「待てええ!」   「待つか!」    オリジナルは考える。  この鬼ごっこを、どう終わらせるべきか。  期限は、太陽が昇るまで。  太陽の光に当たれば、ドッペルゲンガーは死んでしまう。  しかし、深夜中走り回ることは現実的ではない。  オリジナルは体力の限界があるが、ドッペルゲンガーにはない。    ハンデは大きい。    オリジナルは考える。  どこかに隠れてやり過ごすか。  否、ドッペルゲンガーとオリジナルは、別固体だが同一人物だ。  自分ならどこに隠れるかを考えれば、隠れ場所が一致してしまう。    オリジナルは、ハンカチで自分のハゲ頭を擦る。   「くらえ! 太陽光!」    作戦は失敗。  周囲の人から笑われる結果で終わる。  そもそも太陽が出ていない。  ハゲ頭は輝かない。   「ちくしょお! どうすればいいんだ……!」    オリジナルは逃げる。  オリジナルは焦る。  焦りは、ミスを誘発する。   「あ」    オリジナルは、こけた。  ドッペルゲンガーは、笑った。  手に持ったバットを振り上げて、ドッペルゲンガーはオリジナルへと駆け寄る。   「やった! これで、俺がオリジナルだ!」   「うわー!? 死にたくないー!」             「はい、現行犯逮捕」   「ちょ、待って。後数秒で、オリジナルを殺せるから待って」    ドッペルゲンガーは、警察に連れて行かれた。  見学人の中に、通報をしてくれた人がいたようだ。   「大丈夫でしたか?」    連れて行かれるドッペルゲンガーを見ながら、オリジナルは警察に保護された。   「あ、はい」   「災難でしたねー。ドッペルゲンガーに追われるなんて」   「え?」   「でも、運がいいですよ。普通のドッペルゲンガーなら、もっと上手く入れ替わるんで」   「え?」    オリジナルを保護した警察官は、白い歯をむき出しにして微笑んだ。

調子に乗るから…

まずは軽く自己紹介。僕の一番一般的なあだ名は「ゾンビ」。なんでこう言われているか説明してあげよう。 まず、僕、超有能。報連相は忘れないし、顧客のニーズにはしっかりと応える。でも、問題なのは、要望に応えすぎてズブズブになっていることかな(笑)超記憶力持ち、教養もあって、人を楽しませることもできる。なんて完璧なのだろう。 そうだ、なんで僕が「ゾンビ」って呼ばれているか、そろそろ教えてあげよう。まずは僕の傀儡から自己紹介してもらおう。 「イテテテ、首が、、、改めまして、スマホっ首です。」 もう分かったね。僕はスマホ。全世界に約三十億人の傀儡を持つ者。時代の成功者。人間の飼い主。フハハハ! …グシャ。 『ゾンビが死んだな。』 『調子乗るから。』 『同族に世界中に晒される気分はどうや。』 お前ら、裏切ったな…!!

こうして自分は灰になる

 ――午後から、暇になった。  それだけ打たれたメッセージに、何を期待していたのだろう。  自分の中にある彼への期待を、必死で塗りつぶして駅までの道を歩いていく。  走らないのは、少しでも自分が冷静でいる時間を作るためだ。  たとえ、今日が週に一度、唯一の休日だとしても、体を休める時間はない。  道を知っているはずの彼は、必ず駅での待ち合わせを望む。  だから、自分はそこまで迎えに行き、彼を伴い自宅に戻る。  部屋の片付けは済んでいる。  というかほぼ寝に帰っているだけの部屋で、片付けをする余地がない、というのが正しい。  ごくごく普通の、どこでも使えるような素材の鍵で自宅を開け、彼の入室を促す。  会っても、しばらくは何も口を開かない彼。  三度目でもう慣れた。その十倍は同じ事を繰り返している。  もう、つかれた。そういう気分で、彼に呟いた。 「それでいいと思ってんの」  彼はゆるく首を振って、そして「思ってるわけない」と吐き捨てた。 「じゃあ」 「……なに」 「いや、とりあえず、あれだ。顔洗ってこい。ひどいから」 「……知ってる」  オレにしろ、なんて言えなかった。  いつもそうだ。意気地なし、なんて言われるのになれてしまった。  もう、誰かの代わりに好きな奴を慰めるなんてこと、したくなかったのに。  何日かおきにくる連絡を期待しているなんて、ばかだ。  どうせ、またこの男は、希望を捨てきれずに泣かせた男に声をかけにいく。  それをただ眺めているだけの傍観者になったオレにできることなんて、ないんだ。  渡したタオルはこの部屋で数少ない、ふわふわのもこもこのタオルで。  オレ自身が使うことのないそれを、彼は、何度も、使っている。  それに気付いているかどうか、オレは確認したくもないと思っている。  静かに水流の音が広がり、消えて、とぼとぼと戻る彼の目の周りはまだ赤く、腫れぼったい。  何度目かの、さみしい、にオレの方が引っ張られそうになって、近づきかけた足を止めた。  そうしているうちに彼は、我が物顔でオレのベッドの上に座る。  ワンルームに大人二人が座れる場所などない。ソファ代わりになるのは、このくたくたになったシーツの上くらいだ。 「忘れてほしいのに、まだ……連絡も来るし」 「むこうは付き合ってくれないのか」 「今はって、言われてる」  ――じゃあ、この先も、だろうな。  思ったけれど、それを口にすることは憚られた。  自分だけがちょっと優位になった気がして、気持ち悪くなったからだ。  だって、こうして、何日かおきに会えるのならば、いいじゃないか。  結局、なんの役にも立たないオレは「そうか」と相づちを打つことを放棄した。  さめざめと泣く男のなにがよかったのか、自分にはわからない。  今更、この距離感を手放したくない一心で、よびかけに応えていて。  仕事でうまくいこうがいくまいが、彼はオレの元にやってくる。  今、彼がやっていることは、彼のされていることと同じだといつ気付くのだろう。 「もう少し、頑張って、それでだめなら諦められるだろ?」 「うん……」 「もうすぐ記念日なんだろ、きっとおまえのこと思い出すって」 「そう、だな。そうだよな……」  そう。  もうすぐ、オレの誕生日だ。  気付きたくもない。きっと、彼も気付いていない。  それまでは、オレも我慢しよう。  ――去年、この日が誕生日だと伝えている。気付かれなかったら、それでブロックだ。  そんなタイムリミットを待っている自分が、誰より一番の毒だと、よくよくわかっているのだった。

個人的な呼びかけですんません💦

 はのさん  フォロー失礼します。  Noveleeでもフォローしていただいていますよね。有難うございます!  まさか違う小説投稿サイトでも会うとは思いませんでしたw

風が吹くのはどうしようもないのでどうもしない

料理をたくさんしたい 本もたくさん読みたい 思うのだけど 何もやる気にならない 料理にしても 本を読むにしても 家でやる簡単な運動的なことにしても そのほか様々なことがらも みずみずしい梨たちが スイカくらい大きかったら とってもうれしいと思うよ 家まで持ってかえるの たいへんだけどさ あまあい桃たちが スイカくらい大きかったら いまよりもっともっと 食べにくいと思うよ 家まで持ってかえるのも たいへんだしね いまどきのブドウみたく 栗も皮ごと食べられたら いいのにね 腐ったミカン と言われたことは これまでなかった人生だった 自分で自分のことを そう思ったことは どうだろう あった かもしれない

絶えない愛

親友が私の彼氏と浮気をしていた。 彼氏は「お前のこと冷めたから」 そう言い残し親友の元へと向かった。 正直私はなんとも思わなかった。 それでも君のことが好きなんだもの。 私は諦めないよ?また復縁して愛し合うんだから。

邂逅、そして夕焼け

 見慣れた景色。路地の一本先、マップがなくても行ける、大学生の多い店。  大学生にとって安価でおいしいコーヒーとケーキ。食事はない老舗で、古めかしい店内だがそれなりに繁盛しているこの店。  しばらくは通らないと決めていたのに、小雨と思った雨がしたたかに打ち付けていて、部活動待ちの学生の波にのまれないようにと、逃げ込んだ。  カランとドアベルの鳴った先に、案内された店内に見慣れた男がいた。同じことを考えていたのかもしれない。  それでなくても、この曜日は四限目まで授業を入れていたんだと思い出した。そう。彼の姿を見るまでは忘れていたのだ。  そちら側を見ないようにして「いらっしゃいませ」と声をかけてきた店員に、人差し指を立てて、人数を示した。 「カウンターと、あちらの席が空いてますが」 「じゃあ、ソファに座ります」 「どうぞ」  ――自分だけに気づかなければいいのに。  そう思いつつ近くに座ってしまったのは、何の因果だろう。  お互いが背を向けて座るなんて、無茶をした。  仕方がない。二人がけの席はここしか空いていない。カウンターは、彼の視界に入るうえに自分は背を向けることになる。  どうせ背中越しならば、同じ条件のほうがいい。  出された氷水を一口含んで、ホットドリンクのエリアに並ぶ「深煎り」の文字に指を指した。声を出したくなかった。  店員は頷いて、オーダーを奥にいる店員へ伝えた。    コーヒーを淹れる店員も知っている人だ。  だから、ちらと自分の席の後ろを見ていたようだが、何事もなかったように豆を挽き始めた。  ガアガアと鳴り始めた機械音に、息をついたときだった。 「やっぱり、深煎りにした」  しばらくぶりに聞いた音声を、咀嚼して、声をかけられたことに感謝して。なのに自分の口からは「まじか」と出た。  それくらいしか返せない自分はやはり、この雨の中での偶然に、緊張していたのかもしれない。 「気付いてたって」  くすくす笑い始めた男のカップは、もう空になっていた。  おそらくもうまもなくこの場から立ち去るのだろう。勉強禁止の文字が各テーブルに並ぶこの部屋。  だが、なぜか彼も席を立つ気配がない。 「だよなあ……」 「こっちも、そうなるかもって思ってたから、別に」  背中越しの声は、特に色もなく落ち着いていた。  ――付き合うとか付き合わないとか、どうでもよくない?  それが発端で、二人で時間を合わせるのをやめた。特に連絡も必要ないかと思って、細やかな連絡もやめた。それだけで学部の違う男とは、離れることになった。  これまでがおかしかった、とでもいうように、二人きりになることは減って、一と一だけになった。  自分のやりたいことの一部が彼になっていたことに気付いた自分は、一人で楽しむことを思い出した。あとは、学科の課題とか。  きっと彼も同じだったのだろう。気付けば卒業まであとわずか。まもなく後期試験が始まるが、ほぼ単位を取り終えたお互い、それほど不安になることもない。  自分の進路も伝えていなければ、彼の進路にも興味を持てなくなった。  ああそうだ、と自分は口を開いた。 「そうそう。またどっかで会ったら、運命ってことにしない?」 「いいね、ぜひここ以外で頼むよ」 「ここのコーヒー好きなのに、来るなってこと?」 「さあ、わかんないけど」  自分はここから離れた場所に就職が決まった。単位さえ取ることができれば、自ずと卒業して、そちらの世界に飛び込んでいく。  彼は、もしかすると近所に就職するのだろうか。分野もなにもかもを知らないままできっと卒業まで行くのだろう。 「砂糖ひとかけ分くらいは、情は残ってるから、まあ、好きにしたらいいけど」 「ブラック派のオレに言うこと?」  砂糖なんて入れたことないの、知ってるくせに。  甘い物が好きなのは、おまえのほうだろうが、と簡単に返せたはずなのに。  そんなだるい空気に 「知ってる」  雨上がり。西日が入るこの席からは、虹は見えない。  けれど軽やかに旅立っていく彼の姿は見送ることができる。  カランカランと軽快に鳴り響いたドアベル。もう見えない。見ることはない。 「……また、どこかで」  彼の行き先に幸いあれと、曇り始めたガラスに向かって掲げたカップ。  祈りを込めて一口、コーヒーを飲み込んだ。    いつもよりわずかに、甘みを感じたのは、もしかしたら彼の言葉分なにかを浴びたのかもしれないなと、思った。

日記

どれかをサボって、サボって、僕は鑑賞しに行く。  恋の日は、運命感じる甘い希望。それ以上はなし、今日は帰るか。  愛という、文字一つだけ、そのために、今日僕はする介護の仕事。  精一杯、努力したけど報われず、もうダメかもと思う休日。  イカロスはダッシュで走る届かない。運命だけは難しいかな。  君の声、あなたであると確信をできているけど、一歩がでない。  ようやく、新しい詩がかけそうである 空中にふゆうするブランコ ブランコ 僕はドイツケルンに向かって詩を書いている。ビデオカメラを回したしゅんかんに新しい詩が今あらわれてきているのであるカシャ ケルン  新しい詩を書き終えては ほたるの光 ほたるの光 がまたあらわれはじめてきている 9インチのシミこれが僕のゆいつ書く夕やけのうたである。  声をきかせていく。過去現ざい未来 の詩を書き始めてきている。音、声、耳聞こえてきている。あの頃の声。声。  

タバコに火をつける。 窓を少し開ける 煙を吐くと同時にため息が混じる。 '何も考えたくない' そんな時間。 タバコの匂いが部屋にうつる事を嫌う僕だが ベランダに出るのも億劫で、窓際に座り込み ベランダに置いてある蓋付きの空き缶を灰皿にして、手を伸ばし、そこに灰を落とす。 ぼーっとしている。自分でもどこを見ているのかわからない。 ふと、我に返りもう一度タバコに口をつける。その時風向きの影響で、煙が目に入ってしまい思わず目瞑る。 目を擦ると、沁みて涙が出ていることに気がついた。 ここは狭い1R。その窓際。そこに僕。 そして、ここにはとても収まりそうにない複雑な心情。そこにまた僕。 '内側'の僕はさぞ居心地が悪いんだろう。すごく暴れている気がする。それを押さえ込むようにまた煙を吸いこみ、吐き出す。その繰り返し。吐いた煙は上りながら目には見えなくなって消えていく。無意識にその煙の行き先に目がいく。 快晴だ、散歩にでも行こうかな。よし、行こう、今行こう。その前に、朝ごはんを食べようかな。いいや。コンビニでタバコとついでに買ってしまおう。 そう思い立つと最後にタバコをひと吸いして 空き缶に捨てる。 最後の煙には目もくれずにそさくさと準備にかかる。 ここは狭い1R。そこに'僕たち'。 欲しいのは、まともな灰皿とタバコ。 無くなったものは、吐いた煙と'君'。 煙に誘われるように僕は玄関を出た。

ナツカ

ナツカは、ちょっと変わった子だ、まわりから言われるし、自分でも、なんとなく、そうなのかなあ、と感じてはいる アイドル、と呼ばれている人たちは、うんちをしないのだと、うんちをしないからアイドルになれたのだと、ナツカは、真剣に、そう信じていた、スカウト、と呼ばれている人たちは、うんちをしない若者を、ひたすら、さがしているのだと、やはり、そう信じていた そういったことではないのだと、アイドル、と呼ばれている人たちも、することは、しているんだ、そう知ったのは、もうすぐ高校に入学するあたりのときだった うんこ、より、うんち、のほうが、やわらかい気がする、うんち、より、うんにょ、のほうが、もっと、やわらかい感じがする、ときとして、ナツカは、そんなことを考える ナツカは、寝るとき、布団から足だけを出す、くるぶしあたりから出す、きちんと充電するため足を出す、足の裏で充電をする、布団から足を出しておかないと、ちゃんと充電されない、だから、布団から足を出す、寒い時期は、たいへんなんだけど、充電のためだからと、布団から足を出す、くつ下もはかず、布団から足を出す、足を出して寝ると、精神的にも、肉体的にも、いろいろ充電されるのだと、ナツカは、信じている ナツカは、本を読むのが好き、物語が好き、物語の登場人物が、頭の中で勝手に動き出していくあの感覚が好き、それで、物語を好んで読んでいる 今度の本は、けっこう、手こずりそうかなあ、ナツカは、手にした本をながめ、思う ナツカのその予想は、当たったのかもしれない、ああ、この本とは、感覚が合わないなあ、ナツカは、物語を読みながら、そんなことを感じた、そう感じてしまうと、なかなか、読み進んでいけない、お話が進んでくれない、相性悪いかあ、そう理解した本を読み続けるというのは、激しい苦痛をともなったりもする、ナツカは、思い切って、その本を読むのをやめにした、いつもはさせない音を立て、本を閉じる、その音と同じくらいの大きさの、ため息をついた 読みたい本が見つからないからと、ナツカは、自分で文章を書いてみることにした、書いてみるのだけど、頭に浮かぶことを、思うように文字にできない、それで、イライラして、パソコンの前から姿をくらましてしまう、戻って来たかと思うと、わきゃきゃきゃきゃきゃっ、とか、うきゃきゃきゃきゃきゃっ、とか奇声を発しながらキーボードを連打する、ナツカなりに、真面目にやっている、真面目にやればやるほど、けれど、奇声を発することになる

栗饅頭

弟はとにかく馬鹿だった。自分で考えることもせず、言われたこともまともに出来ないようなやつだ。弟が栗饅頭のことで文句を垂れていやがった。「この栗饅頭、栗が入ってねえ。栗の入ってない饅頭なんざ、栗饅頭じゃねえ」俺は言ってやった。「お前みたいに脳みその入ってない人間も、人間じゃねえさ」

「み」   「み」    世界から、言葉が消えた。  あらゆる発音は一文字へと、同じ音へと圧縮された。   「み」   「み」    これは呪いだ。  他者とうまく会話できなかった人間たちの、恨みの果て。  口下手と言う一点で人生を不幸にした人間たちの、恨みの果て。    地獄で、恨みの結晶は笑う。   「み」   「み」    自分たちと同じ気持ちを味わえばいいと、笑う。   「み」   「み」    そんな恨みとは裏腹に、今日も世界は正しく回っている。   「み」   「み」    その一言で、回っている。  表情、手の動き、体の動き。  ただそれだけで、音などなくとも、人間たちはコミュニケーションを成立させた。   「判決を下す。世界に呪いをかけた愚か者たちの処遇は、己の呪いで作り上げた『み』しか話せぬ世界への転生である」    恨みの結晶は、己が作った呪いの世界に組み込まれ、再び絶望を味わった。

見上げた空に

空を見上げても星なんて一つも見えなかった。 大きな電光掲示板が色とりどりに光っていた。 板の中では知らない人が何か言っていた。 ガラス張りのビルが規則正しく並んで輝いていた。 気が付くと人の波に押し流されていた。 星がきれいに見えたなら、明日は晴れだって いつかおばあちゃんが言っていた。 東京は毎日雨みたいだ。

赤い光

 その死刑囚は、消灯時間の後、独房の天井に、赤い光が映っていることに気づいた。  あ、誰かが俺の噂をしている。  その直後にくしゃみが出た。彼は、誰かに噂話をされてくしゃみが出る時、鼻の孔から赤い光が発せられる体質なのだ。  こんな時間に、誰が俺の噂をしているのだろう。昔の仲間かな、それともあのルポライターかな。  その日から死刑囚は、昼間でも、鼻の前に手をかざし、赤い光が出ていないか確かめるようになった。そして、赤い光とともにくしゃみが出る頻度は日に日に増えていった。  誰なんだろう。  死刑囚はそのことを考えるのが楽しみになっていた。しかし、彼はある日気づいた。  ああ、そうか。死刑執行日が近いんだ。

秋桜

元恋人は死んだ。 彼と同じ名前で同じ顔で同じ声で同じ匂いで同じように笑う人はいるけれど、彼ではない。 愛おしそうに私の名前を呼んで 嬉しそうに私の手を取って 声を弾ませて私との将来を語った 私のことが好きな彼はもういない。 彼の好きなピンク色の秋桜を買った。 他の花を知らないだけかもしれないけれど。 彼のお墓はないけれど せめてお葬式くらいはしてあげようと思う。

【三題噺】焼け野原、校長、カツラ【20分制限、ほのぼのギャグ】

「ふう……この辺りはもういいかな」 校庭の片隅で草むしりをしていた校長先生が、額の汗を拭いながらよっこいしょと立ち上がる。 彼はいつも天気が良い日の午前中はこうして学校の敷地内の掃除をしたり、屋外での雑務をこなして体力を消耗してから事務仕事に移る。 別に体を動かす事が特別好きな訳ではないが、その方が効率良く仕事をこなせると思ったのだ。 「ん? ああ、またか。ここら辺はよく風で飛んで来るんだよなあ」 サッカーゴールの後ろにあるイチョウの木の根本には、風の影響で色々な物が飛ばされて来る。 スーパーのビニール袋や紙切れならまだしも、空き缶やタバコの吸い殻など、児童に悪影響を及ぼしかねない物まで飛んで来るのが悩みのタネだった。 イチョウの木を移動させる事も考えたが、この木の根本は日陰になっているので、夏場はここでよく児童達が涼んでいるし、サッカーゴールの後ろにあるので見学にも丁度よい場所だ。 それを思うとここから木を移動させてしまうのは忍びない。 しかし、一体どこからこんなにもゴミが飛んで来るのだろうか。 毎日欠かさずゴミ拾いをしているが、一人では限界がある。 「本当に困ったものだ」 やれやれとため息をつきながら立ち上がった次の瞬間。 「わっ!」 突風が吹いて落ち葉が舞い上がった。 それと同時に頭の上にある大切な相棒が宙に浮いて、どこかへ飛んで行ってしまった。 慌てて辺りを見回すが、今は授業中なので人影もなく誰にも見られてはいないようだ。 「ま、まずいぞ。早く回収しないと……!」 いつもは穏やかな校長先生も大切な相棒を失っては気が気ではない。 両手で頭を隠しながら辺りを探すが見当たらない。 ふと顔を上げると、校舎の窓に茶色い毛の塊が引っ掛かっているのが見えた。 「!」 校長先生は慌てて玄関に走り靴を履き替えると、足早に階段を上って窓へ歩み寄った。 ところが校長先生が手を伸ばす前にまた風が吹いて、今度は西の棟の廊下へ飛んで行ってしまった。 西の棟では低学年の児童達が音楽室で授業を受けているようで、あどけない歌声が響いている。 だが今はその歌声が余計に羞恥心を煽り、校長先生はなるべく体を小さくして足早に音楽室の前を通り過ぎようとした。 が、タイミング悪く音楽室の扉が開いて児童達が廊下に出て来てしまった。 漫画のように鉢合わせしてしまっては言い訳の仕様がない。 焼け野原のような校長先生の頭を見て、担任の先生までもが目を丸くしている。 「校長先生、髪の毛どうしたの?」 「校長先生の頭、光ってるー!」 子供は無邪気なもので、大人の葛藤など知る由もない。 しかしここまできっぱり言われてしまうと、羞恥心さえどこかに飛んで行ってしまうものだ。 「あはは、見られてしまっては仕方がないな。校長先生は寒がりでな。みんなみたいにふさふさした髪の毛がないから、いつも帽子を被ってたんだよ」 廊下の隅に落ちていた相棒を拾って苦笑いを浮かべると、児童達が興味津々といった様子で校長先生の頭をペタペタ触り始めた。 それを見て担任の先生が慌てて注意しようとしたが、校長先生はそれを手で制して朗らかに笑った。 「お坊さんみたい!」 「ほんとだ!」 「ははは、そうかそうか。変じゃないかな?」 「ううん、似合ってるー!」 「うん!」 「そうか。じゃあこれからは帽子を被らなくてもいいかな? みんな、怖くないかな?」 「全然!」 「こっちがいいよ!」 無邪気な笑みで返事をしてくれる児童達を見て、校長先生もまた笑顔を浮かべた。 彼はそれっきり相棒を必要としなくなったが、ありのままの自分を受け入れてくれる児童達に感謝し、今日もまた校庭の草むしりへと向かうのだった。 END

気が付くと踵が擦り減っていた。 ピカピカ輝いてまるで希望を乗せているようにも思えたあの黒い靴。 なんだか無性に涙が出た。 多分踵と一緒に心も擦り減っていた。 この一年間、面白くもないことで笑うのが得意になっていた。分かっているふりをしてうなずくのが得意になっていた。思ってもいないことを熱心に語るのが得意になっていた。 私じゃない私になるのが得意になっていた。 気が付くと私はどこにもいなかった。

ジェットコースター

 今日は娘の誕生日。去年は休日だったが、今年は平日だ。  田舎の遊園地で、オマケに平日。去年は休日で混んでいたが、今年はガラガラだ。去年はメリーゴーランドとミニジェットコースターの二つに乗った。そのどちらも私は苦手だが、特にジェットコースターは苦手というより怖い。 「パパ、早く。こっちこっち」  声がする方に視線を向けると、娘がミニジェットコースターの入口前で手招きをしていた。壊れてしまうんじゃないかと思うくらいに鼓動が激しくなった。 「ミニジェットコースターは止めておこう。それよりも話を」  娘に駆け寄って、できるだけ動揺を抑えて私が言う。 「だめ、乗るの」  娘は笑顔を浮かべて言ったが、私には無理をしているのが分かった。 「どうしてもか?」  私の問いかけに娘は頷いた。 「あっ、そうだ。グミ、持ってきたんだ。これ、好きだろ?」  バッグに手を入れようとすると、娘が言った。 「ありがとう。でも、グミは、いらない。それより、手を離さないで欲しい」  私の目から、涙が溢れ出した。去年、娘はミニジェットコースターに初めて乗った。怖がっていたが、怖いもの見たさと好奇心が勝ち、乗ることになった。去年も娘は言った。手を離さないでと。でも、私は離してしまった。いや、違うんだ、離れてしまったんだ。  去年の娘の誕生日。二人で遊園地に行った。メリーゴーランドに乗って上機嫌な娘は、あれに乗ってみる。と、ミニジェットコースターを指差し私を見た。娘の初挑戦に、私も意を決して付き合うことにした。  順番の列に並んでいる間、娘は何度も私に言った。ずっと手を握っていてね。離さないでね、と。私は、もちろんだよと手を握った。  私たちの順番がきて、乗り込んだ二人乗りのジェットコースターは、急勾配をガチャガチャと大きな音を出して登り始めた。私は娘の左手を強く握っていた。勾配の頂点が目の前にきた時、今までよりも大きな『ガチンッ』という音と共に、乗り物が五十センチほど後退した。私と娘が驚いて顔を見合わせた瞬間、乗り物が後方に大きく、そして激しく傾いた。 「パパ!」  二人を押さえていた安全バーは私の体の厚みのせいで、娘側に隙間を作ってしまっていた。  急だし、予期できない出来事。でも、娘の手を強く握っていれば。もっともっと強く握っていれば。娘が放り出されることはなかったかもしれない。   「ごめんな。本当にごめんな。パパがしっかり手を握っていれば。パパが手を離さなければ」 「わかってるよ。パパを責めるために来たんじゃないんだよ」  娘は、そう言うと続けた。 「ミニジェットコースター。二人で手を繋ぎながら、最後まで楽しみたいな。それで、おしまい」  娘の気持ちを考えると、何も言えなかった。私を思いやってる娘に、ずっと一緒にいたいなんて、とても言えなかった。私は、精一杯の笑顔で言った。 「絶対に離さないからね」  

最後の言葉

「ありがとう。」  最後まで思ってもいないことを言ってしまった。前日の夜読んだインスタの投稿なんかに影響されたんだ。 男が復縁したくなる女の特徴 感謝だけを伝えて去る  そんなの嘘だった。新しい彼女と楽しく笑うアイツの投稿を見ながら思う。まだ別れて一か月も経っていないというのに。結局こうなるんだったら、思っていたことを全部言ってしまえばよかった。  今思えばふたりの出会いはありきたりで、ふたりになるまでもありきたりだった。  アルバイト先の居酒屋で知り合って、仲良くなって何度か遊んで三回目で告白。告白の台詞は今でも覚えている。「絶対に幸せにする。」あの日のアイツはそう言った。二年半、確かに幸せな時もあった。そんなこと忘れたいけれどスマホの中の二人の笑顔がそれを証明していた。この一か月削除しては復元してを何度も繰り返した589枚の写真たちが、私をあざ笑っているように感じた。幸せだったのなんてほんの一瞬なのにそのことばかりが思い出された。記念日を忘れられたこと。内緒で女の子と二人きりで飲みに行かれたこと。デートにいつも遅刻してきたこと。そんなことはなぜか全然思い出さなかった。  もうまたなんて思っていないけれど、アイツのストーリーはまだ見れないでいる。

交渉

 市役所に、猫が入ってきた。猫は口に鼠をくわえていた。猫は鼠をくわえたまま、隅の窓口の前に行き、そのまま備え付けの椅子に飛び乗った。  市役所の職員が窓口に現れた。  猫は鼠をカウンターの上に、ぺっ、と吐き出し、職員をじっと見つめた。  職員はいったん奥へ引っ込み、一枚の書類を持って再び猫の前に現れた。  鼠の血がカウンターに拡がっていた。  職員はカウンターを雑巾で拭き、猫の目の前に書類を置いた。  猫は書類に目を通すと、首を横に振った。職員は作り笑いを浮かべ頭を掻いた。  猫はもう一度書類に目を通し、首を横に振った。職員の顔が険しくなった。  交渉は決裂しかけていた。鼠の血が再びカウンターに拡がっていた。

蛸なんて

 中学生の息子の通知表を見た。蛸語の成績がものすごく良かった。 「こりゃ将来は蛸語の通訳かな」  と俺が言うと息子は、 「父さん、蛸なんて食うものだよ」  と鼻で笑った。  しかし俺は知っている。最近息子は蛸の刺身やたこ焼きをあまり食べなくなってきている。素直じゃない。 「次の休日に水族館にでも行かないか」  俺は息子を誘った。息子は、 「まあいいよ」  と言った。  休日、俺たちは水族館を訪れた。しかし息子は蛸の水槽の前を素通りしてしまった。  やれやれ。  俺は息子に、 「ちょっと外で煙草吸ってくるわ」  と言って席を外した。  数十分後、合流した息子は、 「父さん、蛸と結婚したら何本目の脚に指輪をはめるか知ってるかい」  とクイズを出してきた。

無人

「ありがとうございました~。」 ・・・なんで人がいるんだろう。 ここは餃子の無人販売所である。 私は散歩がてらこの無人餃子販売所に入り、八個入りのパックを袋に詰めた。 このままダッシュして店から出ても、誰にも文句言われないんだよな。と思いながらも、ガチャコチャレジを操作して、ちゃんとお金は財布から出す。レジの操作感の悪さに若干手間取りながらも、一抹の損した気分とともにお金を払う。 しかし、店の自動ドアが開く瞬間、声がした。「ありがとうございました〜。」 つんのめって自動ドアに激突しそうになった。 声がした方を振り返るとスーパーの従業員のような格好をしたおじさんが立っている。 「お買い上げ、ありがとうございました〜。」 私の顔を見て同じようなセリフを繰り返す。 なんで人がいるんだろう。 「あの、なんで店員さんがいるんですか?」 「ん?何だいお嬢ちゃん。」 「無人販売所って人件費を削減するために無人になっているんじゃないんですか?」 「そうだね。ここは無人販売所だよ。」 意味がわからない。防犯のために店員を配置した。ということだろうか。なら無人販売所ではない。人件費を削減するための無人に防犯意識で店員を入れてしまったら本末転倒ではないのか。 「だから、無人販売所なのに人がいたら意味ないんですよ。というかいたならお会計も店員さんがしてくれればよかったのに。結構レジの操作が面倒でしたよ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・。。。」 「え??」 おじさんが下を向いて何かを行っているが、声が小さく、ボソボソ喋っているため、なんと言っているのか聞き取れない。 「もう一回言ってください。」 「・・・・・・・。。。。!!??!?!?」 明らかにおかしい、変なオジサンに深入りしてしまったかもしれない。ここは店を離れるのが賢明だ。 「そうですか。じゃあ私はこれで・・・」 「縺薙%縺ッ辟。莠コ雋ゥ螢イ謇?縺?繧!!!!」 自動ドアが開く瞬間おじさんが飛び込んできて、コンクリに強かに頭を打ち付けた。 そこで私の意識はぷつんと途切れた。 最後に見えたのは、異常なほど口角が上がり、笑顔なおじさんだった。 俺は先程の女の残骸を丁寧に拾い集める。 「掃除が面倒だなあ・・・気持ちよくやるのはいいんだけど後始末が大変だから控えてほしいんだよなあ・・・」 地面もしっかりと拭き掃除する。 「たまに出てくると抑えが聞かないんだよなあ・・・可哀想だから忠告しておいたのに。」 拭き掃除をするおじさんの顔半分の肉がでろりと崩れ落ち、中から異様に笑顔な他人の顔が出てきた。その顔は生気を失っており、死体が顔に埋め込まれているようにも見える。 「「ここは無『人』販売所だって。」」

会話とメリット

雨降りの午後のこと。私は居間でスマホを見ながらごろ寝をしていた。しかしスマホで動画を見ていてもだんだん飽きてくる。ふと横を見るとiPadで絵を描いている妹。ちょうどいい。 「妹よ、私とお喋りしよ」 私の誘いに妹は目も合わせず言った。 「お喋りしてなんになるの?」 おい冷たすぎるだろ、せめてこっち見ろや。大人だって泣く時は地団駄踏んで泣くんだぞ。 「なんになるのってアンタねぇ…そういうのメリット中毒っていうんだよ!」 あんなに可愛かった妹がこんなに冷たくなってしまうとは、時間の流れは残酷だ。そうしみじみ思っていると、妹はこちらに驚いたような顔を向けた。 「お姉ちゃん、メリットなんて言葉知ってたんだね!」 完全に馬鹿にしてんだろ!アンタよりも4年長くこの世界を生きてるんだよ!! しかし私は大人だ、感情のまま相手を罵るなんてことはしない、舐めるなよ。 今日のところは地団駄を踏む程度で勘弁してやる。

おはぎ

教室の窓辺から、野球をしているあの人を、私はずっと見つめていた。一度だけ、言葉を交わした。おはぎが好きだって言ってた。卒業して長い間、姿を見ることは無くなっても、おはぎを見かけると、あの人を思い出した。あの人はおはぎが好きだったっけ。それだけは知っていた。それしか、知らなかった。

遭遇

 電車で恋をするなんて信じられない。  中吊り広告には、最近はやりの映画、通勤電車で運命的な恋をしたという内容が載っている。  同じ時間、同じ車両。通勤で使う電車で変化なんて望んでいない。靄のような疲労を溜め込んだ脳みそは、けして前向きじゃないと思う。  こんな状態で恋をするのは学生ぐらいだろう。学生の頃は一瞬一瞬が濃厚だった。全世界が自分のものだと思ったし、自分は目立つ存在だと考えてた。社会人という枠に押し込められた途端、現実というものを意識させられた。学生時代は花火なのだ。燃え尽きたら灰しか残らない。  『急停車します。お近くの手すりにお掴まりください』   電車のアナウンスと共に横倒しに重力を感じた。ヒールのバランスが崩れる。 「大丈夫ですか」  私の体を支えたのは、目の前に座っていた男性だった。 「すみません。お恥ずかしいところを……」 「いいえ。急だったから仕方ないですよ。よかったら――」  男性は自分が座っていた席を立った。私に座れと促す。困惑しているのに気づいたように男性は苦笑する。 「自分はどうせ次で降りますから。多分、人身事故なんで長くなりますよ」  ほら、と指を差された先を見ると、窓に赤い線が走っていた。真新しそうな赤い液体だ。窓に何本も線を描いて、ところどころ重力に負けて下へと垂れている。  男性につられた周りの乗客が悲鳴じみた声をあげた。  私は喉奥から酸っぱいものがこみあげてきて、口を押えた。 「ごめんなさい。気分を悪くさせるつもりはなかったんです。座ってください」  窓の赤い流星に背を向けて、私は座った。胃の逆流と戦うために体を丸めて、両手で顔を覆う。  最悪だ。こういう変化も、私は望んでいない。人の死を軽々しく伝えてきた男性が目の前にいると思うと腹立たしい。革靴すら恨めしい。もし胃との戦いに負けたらここへ吐き出そう。そう決めて、私は目を閉じた。  どれだけそうしていただろうか。  気付けば男性はいなくなっていた。どうやら最後尾の車両はまだホームにかかっていて、希望者はそちらから降りられるそうだった。  座席がだいぶ空いている。私の座っている座席シートも、自分と端に座る男子学生だけ。まだブレザーに着られているような初々しさの残る男の子だった。横顔しか見えないが、綺麗な顔つきだと思った。  男の子は床を見つめていた。顔と同じく綺麗な姿勢で、ずっと床だけを見つめている。床になにかあるのかと思ったが、それも違った。  なんだか気になってチラチラと見てしまう。ブレザーからして都内の有名な高校だ。学校に急がなくていいのだろうか。  男の子が、袖で顔を拭いた。泣いている。一度溢れたら止まらないようで、はらはらと雫がこぼれだした。 「よかったら――」  あぁ、いやだ。私はあの男性と同じようなトーンで話しかけてしまった。  差し出したハンカチを、男の子は訝しそうに見つめている。  あの男性は時間がかかるだろうからって席を譲ってくれたけど、私はなんて言えばいいんだろう。 「えっと、怪しい者じゃないよ。制服汚れちゃうからさ」  ひねり出した答えが、これだ。もっと人に親切する経験を積むべきだったんだ。 「……ありがとうございます」  あたふたする私を無害と悟ったのか、男の子は申し訳なさそうにハンカチを受け取ってくれた。  目が真っ赤で、見ていられない。 「辛いときは泣いたほうがいいよ」 「すみません。男なのに恥ずかしいです」 「嫌だったら断ってもいいけど、話聞こうか?」  男の子は周りに人がいないことを確認して、一言。 「僕なりの弔いなんです」  ブレザーのポケットから一枚のメモ用紙が出てくる。  俺は明日死ぬよ。  K駅を7時半に通過する電車にする。  今までありがとう。  そう書いてあった。  止めなかったのかと疑問を投げつけるのは違う気がした。 「そっか。辛いね」  やっぱり私には親切心からの言葉が出ない。  ハンカチを当てた顔が何度も頷く。  それ以上何も言えなくて、私は彼の背中を撫でた。  時折聞こえる嗚咽は、知りもしない彼の友達の弔いなのだ。この男の子がしたことは、もしかしたら許されるものじゃないかもしれない。でも、私だけは許してあげたかった。    彼の涙がなんとかとまる頃、電車が動き出した。車庫に戻るとのことで、次の駅で降ろされてしまったけれど。 「ありがとうございました」  男の子は何度も私に頭を下げながら人ゴミに消えていった。    数日過ぎて、彼からハンカチを返してもらった。それ以上、関りはない。  ただ、私は毎日彼を探している。同じ時間、同じ車両にいる、横顔の綺麗な男の子を。  彼の花火がどうか燃え尽きないようにと願いながら。

傷二つ

 残暑も過ぎて空も澄んだ日に、私のもとに荷物が一つ届いた。  送り主は、夏に一度だけ関わった研究所と、そこに住むある特異な少年の名前が記されていた。  初めて生で見た彼は、透き通るガラスの体に傷をつけないようクッションで囲まれた大広間の真ん中で貫頭衣に身を包み、ポツリと独りで本を読んでいた。  高い屈折率で象られた端正な顔立ちは、私を見つけると少し怯えたように眉を下げながら、それでも柔らかく微笑んでいた。 「タチバナさん、ですか?」  歪な響きの聲だったけれど、風鈴のようでもあって、不思議な心地よさがあった。 「こんにちは。そういう貴方はショウくんよね。噂は色々と聞いてるわ」  ガラスの少年、喋るガラス細工、人間もどき……覚えているのは、どれも彼を恐れるものばかりだった。  かくいう私も、少しばかり彼に恐怖を抱いていたけれど、割のいいバイトはこれ以外に特になかったのだから、仕方ない。  バイトの内容は、彼と数時間のコミュニケーション。あまりに簡単そうだったが、相手が人でないためか募集を受けたのは私だけだと研究員は言っていた。 「その様子だと、僕の噂あまりいい内容では無いのですね」 「私含め人は異物を本能的に取り除きたくなるのよ。とはいえ、不快に感じてしまったのならごめんなさい。なるべく出さないようにはしたつもりだったのだけど」  首を透ける光が左右に振れ、彼が頭を振っていることがわかった。 「この実験を実施した研究員さんは僕に良くしてくれる方でして、もしかしたら誰も集まらないかもしれないと聞かされていたので……今は嬉しくて仕方ないんです」  不気味に張った声色が、優しく上がる口角が、彼の持つ懐の深さを証明しているようで、私も同じように嬉しさが込み上げたのを覚えている。  きっと、そのせいだった。 「こちらこそよろしくお願いね」  彼の手を取り、握手して僅かに強く握った。  パキポキ、と不可解な音がした。  すると同時に、手のひらにザクリと切り裂かれる痛みが走った。    見れば、ショウくんの手首から先が砕け、あまりに脆く薄い硝子の膜でできた彼の手は、少し強く握っただけで簡単に崩れ落ちてしまっていた。 「……痛っ!!」 「……っあ……ごめんなさい!ショウくん!」  必然、震える声が喉から絞り出された。  苦痛に耐えるような彼の表情は見た目相応のもので、ひどく胸を締め付ける。  アラートらしい音が部屋に響き渡ると、私も通った扉から複数の研究員たちが飛び込んできた。 「実験体を奥に!それと彼女の手に入ったガラスを残らず取り出せ!」  怒りのこもった声と急転する状況についていけない頭は真っ白になった。    あとになって思い出すのは、病院に運ばれたことと、なにか注意を受けたこと。  そしてあの部屋の真っ白だったクッションを染めた私の血よりも、粉々になった手の破片の煌めきが目に焼き付いたことだった。  ――あれから数ヶ月がたった今、私の傷は適切な処置によって破片が内部に残ることもなく完治した。  私宛で玄関に置かれていた荷物にはシンプルながら美しく装飾された箱が入っていて、その中には微かに原型をとどめていた彼の手と、細々とした破片と手紙と一枚のメッセージカード。  手紙は研究員からだった。  彼の手は人と違い自然治癒することがなく、もし不足した場合は溶接するしかないのだと言う。  けれど、彼には味覚を除く全ての感覚がある。そのせいで、溶接するとなると、麻酔の効かないあの身体を焼きながら繋げることになる。最悪の場合、意識がシャットダウンしてただのガラス人形になる可能性がある、とのことだった。  たった一度会っただけの彼の手を、強く握ってしまっただけで、私は彼のこれからの一部を破壊してしまっていたのだ。  続けて捲ったメッセージカードには、ひどく歪んだ字で、『タチバナさん、きてくれてありがとう』と書かれていた。  体と思考が重くなり、後悔に塗りつぶされていく。ただただ無力な自分が、出会ってしまった彼の優しさを潰してしまった。  彼が人とは違うのだと分かっていたのに、あの笑顔に人間を感じて同じ扱いをしてしまった自分が酷く憎らしい。 「もう二度と、治らない……」  あまりにも深い、深い傷。

立ち食い蕎麦

「いらっしゃい」   「かけそば一つ」    立ち食い蕎麦日本の文化だ。  蕎麦屋にとっては、座席がない分省スペースで大量の客を呼び込める。  客にとっては、食事と言う空腹を紛らわす作業を短時間で終わらせられる。  まさにウィンウィンといったサービスだ。    今日もまた、多忙なサラリーマンたちが立ち食い蕎麦屋に立ち寄り、すぐさま出ていく。  十分もすれば腹は満たされる。    ずるずるずる。  店内に響く啜り音。  海外ではマナー違反とされる音も、日本においては文化だ。   「いらっしゃい」   「かけそば一つ」    ところで、立ち食い蕎麦がこうも日本中に広まっている理由について、こういう噂がある。    食い蕎麦の起源は、江戸時代とされる。  天秤棒を担いで蕎麦を売り歩く屋台蕎麦という性質上、客たちはその場に立って蕎麦を啜ることも珍しくなかった。    その後、衛生面から屋台蕎麦が廃れていくと、あるコンサルタントが言った。   「これからは、立ち食い蕎麦の時代だ」    日本中にあれよあれよと立ち食い蕎麦の店舗が広がった。    駅で。  駅の近くで。  住宅街で。  どこでも見かける立ち食い蕎麦。  人々は、次々と立ち食い蕎麦に吸い寄せられた。    今日もまた、多忙なサラリーマンたちが立ち食い蕎麦に立ち寄り、すぐさま出ていく。  何を食べているのか確認する余裕もないまま、急いで啜る。    立ち食い蕎麦が流行った世界を見て、あるコンサルタントは今、笑っている。    麺を啜れば啜るほど、あるコンサルタントの用意したそれは人々の体内に取り込まれていくのだから。  人々の食べている蕎麦は、本当に蕎麦なのだろうか。    蕎麦に擬態したそれは、人々の胃の中にひっそりと潜んで、暴れ回る日を待っている。    全ては、噂でしかないが。  信じるか信じないかは。

増税大臣

優凛党のクニタの演説が始まろうとしている 「皆さん、優凛党のクニタです。 よくお集まりくださいました。 ありがとうございます! 宜しくお願いします」 月曜日の15:00頃に 船橋駅前の路上では、足早に人々が交差して クニタの演説を聞こうと耳を傾けようとしているのは 15人前後といったところであった 少数政党優凛党所属の国会議員クニタは前回参議院選挙比例代表で初当選を果たした 39歳エネルギーと野心に満ちた若手だった 日本を良くしたい、 野心とは言えども、己の改革を断行するにはそれ相応の立場の人間となっていなければならない 優凛党を野党第一党へ そして 政権交代、与党、要職の大臣職に就いて、幹事長へ そして ・・・・ 選挙時期でもないのに 翼望をはためかせて街頭演説のマイクを轟かせた 「消費税を1%上げます! 私にお任せください。必ず皆さんの暮らしを豊かにしてみせます」 聴衆のしらけ顔と対峙する 「現在消費税10%の税収は年間約24兆円です。皆さん。 消費税を1%増税するとですね。毎年2.4兆円の財源が確保できるのです。これをですね。 少子高齢化対策に全額ぶっ込みます! 宜しいですか。 1970年には65歳以上の人口に対して、15〜64歳の世代の人口は10倍だったんですね。つまり、10人で1人の高齢者を支えていた、と。 2020年には、その割合は2対1になりました。 現在の日本は、働く世代2人で65歳以上1人を支えている状況です。 さらに深刻化していきます。 この人口構成は労働、社会保障、介護、皆さんの負担が増える一方です。全世代においてです。 国は弱体化していき、威信を失った国は諸外国との外交面でも対等性を失い、私たちの、日本の未来は光を失うばかりです。 1%の増税 現在日本においては年間約50万組がご結婚されて夫婦となります。 1%の増税によって得た2.4兆円をご祝儀とします。 2.4兆円を50万組に配分すれば、1組あたり480万円です。 つまり皆さんの1%の増税は新婚の夫婦の手に渡ります。 ご自身の手に戻ってくる可能性もあるということです。 ご祝儀です。 真髄は 国民全員で新婚夫婦を祝う 国民全員でご祝儀を渡す その1%の増税です! ご祝儀欲しさに結婚を繰り返されるのは問題がありますので1人1回ですね。金銭の受け渡しは夫婦ではなく個人各々に240万です。 ご祝儀なので籍を入れた時点です。 即離婚は返金です。 石の上にも3年。 この施策が成功すれば、婚姻件数は増加し配分は減ります。 年間100万組が婚姻すれば、1組で240万円、個人で120万です。それでいいのです。 婚姻が増加し家族形態の増加は好況に繋がる筈です。消費は増加し、企業は潤い、経済は令和のバルーン景気を・・ その頃には "皆さんの給料が上がっている" ・・・・ いろいろ試算しましたが、国からの、いや国民同士によるご祝儀は満額支払われない場合があります 手数料 いや仲介料です ある企業と連動してこの方策を私は話しています」 ハミルカンパニー 17 代表取締役社長ルミヤが壇上へ上がる 「お見合い事業部を新設します。 長い歴史の中でお見合いは日本の婚姻の一端を担ってきました。 鎌倉時代にまでその歴史は遡ることができます。 とりわけ私達の現代ですと、昭和ですね。 昭和初期には婚姻の7割がお見合いによる結婚だっだということです。 お見合いの歴史は家族が主体となっていました。 会社が担います。 私達が始めるのです。 過去の家族の役割を、会社が取って変わるのです。 会社が仲人となります。 このお見合い事業部につきましては、会社の代表である私が担当致します。 ええ、そうです。 得意先にもお見合い事業部を立ち上げて頂くようお話をさせていただきます。 我が社の社員と得意先の社員によるお見合いを実現させるのです。 当然、希望者のみです。希望者のみがこの制度、お見合い事業部を利用すれば良い。 相手は得意先ですので、お相手の身元は確実に把握できますし人柄や容姿、趣味なども"確実に" 結婚が成立すれば、得意先とも家族になったようなものです。企業としてもメリットがあります。 社員と社員を結びつける。 そうです。一部戦略的婚姻となる可能性もございます。 そちらに違和感を感じるようでしたら、利用は控えた方が宜しいでしょう。 ですが、この少子高齢化の流れを打ち破るには、企業の積極的な参画は不可欠です。 私たちがその旗手となります。 至る企業でお見合い事業部が設立されれば。 安心安全で微笑ましい出会いが この国を縦横無尽に❤️が飛び回ります