この薄暗い部屋に閉じ込められて、一月が経った。部屋の中は質素な造りだが、ベッドは意外にも上質なマットレスで、シャワーとトイレも完備してあり、生活するには申し分ない。食事は野菜などの彩は無いが、三食差し入れられる。 堪えがたいことは、娯楽が少ないことだ。テレビやパソコンが無いのは勿論、所持していたスマートフォンも取り上げられている。何故かカバーを外された本だけは差し入れられるが、異常な状況では読む気力も湧かない。言わば、生きる楽しみを見いだせない空間。 犯人はわかっている。目の前にいる女だ。 「どうしてこんなことをするんだ」 鉄格子の向こうにそう詰問すれば、女はいつも困った様な表情をするばかりだった。 彼女のかつての交際相手に相談を受けたのが、出会いのきっかけだった。曰く、彼女は相手に尽くすタイプの女性で、しかしそれに際限が無い。ノイローゼになった彼が逃げ出し、身近にいた自分が次の寄生先として選ばれた。 意外にも彼女との生活は悪くはなかった。容姿は華美ではなく、常に地味な服装だったが、むしろ奥ゆかしく好感が持てる。流行の話題には疎いが、古文や歴史に造詣が深く、博識深い。聞いていた異常性を置いておけば、所謂大和撫子そのものだったのだ。 うまくいっていたはずだった。この場所に監禁されるまでは。 あの日は雪が降っていた。寒さに身を震わせ、数か月後に来る春を思い、道すがら在原業平や西行が詠んだ句について語った。 「和歌に詠まれる桜は、どうしてこうも魅力的なんだろう」 「昔は、今よりも目に入る色が少なかったですから、桜の初心な色ですら、貴重な彩、だったのでしょう」 「成程。そもそも現代とは環境が異なるか。僕もいつか全身で感激するような桜を見てみたいものだ」 「ええ、そうですね」 そんな些細な夢も語って、彼女も微笑んでいたというのに。 当夜、勧められるまま深酒をしてその後の記憶がない。目が覚めたらこの部屋にいた。初めは激昂して、それから諭すように、ある時は懇願に近い声色で、どんな言葉で尋ねても、彼女の答えは無いか、曖昧なものばかりだった。 彼女は、僕の思いを試しているのか? 監禁という行為が生み出す歪んだ関係性。被害者からの依存性を期待しているのだろうか。彼女の目的は、ただこうして廃れていく僕を、籠の外から眺めて居たいだけなのかもしれない。 薄暗い部屋で、食事と睡眠の数を数え、もう二月も経った。ひたすら薄暗闇の日々が続いたのだ。段々と、自分の中の何かがすり減っていくのを感じる。 「なあ、今日でもう二月だ。あんたはいつまでこんなことをするつもりなんだ?」 辛うじて、まだ忘れていなかった声と言葉で問いかける。どうせ返事は無い。宛てのない言葉は、壁の中に消えていってしまうのだろう。ただの独白だ。 そう自嘲しながらも、久々にあの困った顔つきを拝んでやろうと、俯いていた顔を上げた。彼女の唇が動いた。 「あと、二週間、くらい?」 食い下がるべきだったろうが、驚き、言葉が出ない。明確に期限を口にしたのはこれが初めてだった。彼女に何の変化があったのか。 その日を皮切りに、彼女は、毎日私の言葉に返事をするようになった。 「もうちょっと、今日は、まだ」 「まだ早いの、だめ」 「きょ、今日は、雨が降ったから」 ある日、聞きなれない金属音と共に、いつもとは異なる微妙な風の流れを感じた。ひた、ひた、と足音が近づく。顔を上げると、鉄格子の向こうの彼女が傍にいた。 「あの、これ」 差し出されたものは、黒いアイマスクだった。付けろというのだろうか。視線で問いかけても、困った表情をするだけだから、望まれるままに装着した。手を引かれ、立ち上がる様促される。僕は彼女のするまま、素直に従った。 「どこに向かっているんだ」 答えのないまま、歩いた。あの仄暗闇から解放されるのならば、どこでもいい。僕はあの薄暗い部屋を出たのだ。 途中から、足の裏に感じていたものが、コンクリートよりも柔らかい感触に変わった。風にのって、土と草の匂いがする。 「取ります、ね」 もう随分歩いたと疲労を感じ始めた頃、ふと立ち止まって彼女は言った。 髪が巻き込まれ頭皮が引っ張られたが、些細な問題だった。 流れ込む光の束に、すぐには目を開けなかった。ゆっくりと瞼の裏に馴染ませ、恐る恐る開いていく。 色の洪水だった。失くしていた色、求めていた色、知っていたはずのものが、未知のものに見えた。背丈を優に超える幹は、大地の色を吸い込んでいる。風に舞い散る花びらには、一枚一枚色があった。全て、異なる色なのだ。 言葉にならない僕に、彼女は嬉しそうに笑った。久しぶりに見た笑顔だ。僕は、彼女が僕を閉じ込めた理由を悟った。後はただ、手を握り締めて、桜を眺めた。
大きな木をくり抜いてできたようなお店です。木のなかですから、あちこちでくり広げられている話し声がやけに響きます。ですがそれは居心地の悪いものではなくて、ずいぶんとこころにしっくりくるのです。なんのお店なのかはさておき、そこではスウプをいただきました。「秋のはじめにおなかに入れるべきスウプ」という長くも的確なネーミングのそのスウプは、けれど秋が終わって寒い冬が来たときにも食したいものだとの気持ちにだってさせてくれました。 スウプという響きが好きです。そのスウプが野菜スウプならなおのことよいです。端的にいってしあわせな気持ちになります。なかに何が入っているのか、ひとまずそのことは脇にのけておいて、野菜が冠されるそれだけのことが、けれど、ひどく魅惑の面影を宿すのです。 お店に入ったときから思っていたことでしたが、奥から流れてくる香りに興味がわいていました。スウプにそえられているパンもとてもおいしいのです。このお店で焼いているのですね。大きな木のなかで焼かれた焼きたてのパン。なんてメルヘンなのでしょう。 お隣のテーブルでは「じん」についてのお話がされている様子。人さまに対する親愛や思いやりの「仁」でしょうか。わたしにはあまり縁のないことですけれど。お酒の「ジン」でしょうか。お酒は飲めませんけれど。もしかして「ZINE」でしょうか。どういったものなのか、わたしには皆目、見当がつきませんけれど。楽しそうにお話しされているのは、みなくてもよくわかります。このお店の料理が、人々をそのような気持ちにさせているのでしょうね。 まだこのお店に来たことのないみなさんにも、スウプやパンを味わっていただきたいのですが、たくさんの方に来られてさわがしくされては困りますから、場所は教えてあげません。
「好きです! 付き合ってください!」 「わ、私でよければ」 秋。 ぼくはついに好きな人と付き合うことができた。 問題があるとすれば、実際に付き合ったのはぼく自身でなく、ぼくの影武者だということくらいだ。 「なんでだよ!」 「落ち着いてください、坊ちゃま」 「これが落ち着いていられるか!」 ぼくは影武者を呼び出し、目の前に正座させた。 影武者は大人しく座り、ぼくを諫めようとする。 「仕方ありません。やんごとなき血を持つ坊ちゃまは、表舞台に顔を出すわけにはいきませんので」 「それは、わかってるけど」 「それに、私はしょせん坊ちゃまの影。私が付き合っているということは、即ち坊ちゃまが付き合っていることと同義です」 「そうなんだけど……なんか違う!」 頭を抱えるぼくとは対照的に、影武者はどこまでも冷静だった。 あくまで仕事の一環であると、そんな態度を崩さなかった。 「坊ちゃまに満足いただけるよう、付き合っている時に感じたことは、くまなく坊ちゃまに伝えましょう」 「……例えば?」 「手のぬくもりです。告白の後、最寄りの駅まで二人で帰ったのですが、自然と手を繋ぎましてね。自分の手とは別物の様な柔らかさで、相手も緊張しているのか、体温も平均より高く、ほのかな温かさが」 「聞きたくねえ!」 俺は思わずうずくまる。 冷たい床がぼくの頭を冷やそうとするが、それでもなおぼくの対応は上昇し続けた。 この熱は怒りなのか、それとも嫉妬なのか。 とにかく、今日ほど影武者と入れ替わりたいと思ったことはなかった。 ぼくは顔を上げて、影武者の目をじっと見る。 「提案がある!」 「お断りします」 「一日だけ、ぼくと交代……まだ何も言ってねえ!」 「影武者ですからね。坊ちゃんが言わんとしていることなど、簡単に予想がつきます」 「ちくしょう!」 ぼくは微かな希望を求めて、スマホで予定を確認する。 実際過去には、重要な会議のときだけは、ぼく本人の外出を許された時もある。 今回もそうだ。 重要な会議のついでに、デートの予定を入れればいい。 新たに追加されただろうぼくの予定を、片っ端から確認していく。 『デート(一回目)』 『デート(二回目)予定日』 『寝落ち通話予定日』 『デート(三回目)予定日』 『お泊りデート予定日』 「ちくしょう!」 「どうしました、突然叫んで」 予定を確認すればするほど、ぼくの精神がすり減っていく。 ぼくのふりをして、ぼくの代わりに好きな人と密接になっていく影武者が、羨ましくて羨ましくて血の涙を流しそうになった。 しかし、手を止める訳には行かない。 ギリギリと歯ぎしりをしながら、次のぼくの外出日を確認する。 「ここっ!」 「……確かに、その日は坊ちゃまが外出する日ですね」 「ここで! ぼくが! デートするんだ!」 「かしこまりました。そのように、予定を組みましょう」 心をすり減らしたかいがあって、ぼくは小さな奇跡を掴んだ。 影武者も承諾したので、この予定は確定だ。 「いやったー!」 ぼくは両手を伸ばして、全身を使って喜んだ。 影武者は、そんなぼくを、温かい瞳で見ていた。 少し恥ずかしいが、嬉しさには勝てない。 ぼくはそのまま、万歳三唱をした。 影武者は、ぼくから腕時計へと視線を落とし、うやうやしくぼくに礼をした。 「では、私はこれで。次の予定がありますので」 「おう!」 そして影武者は、分厚い扉を開けて、外へと出て行った。 牢越しに見える景色が、またいつもの分厚い鉄の壁だけになった。 冷たい冷たい空間だ。 それでも、心は温かかった。 「楽しみだなあー!」 ほんの小さな未来の予定が、不自由すぎる人生をもうすこしだけ生きてみようかと思わせてくれた。
「余は今より、千年の眠りにつく。次に目覚めた時が、世界終焉の時だ」 そう言い残し、ヴァンパイアの王は眠りについた。 特別製の棺の中で横になり、部下に命じて棺桶を海底へと沈めさせた。 誰も、眠りを妨げないように。 そして千年後。 ヴァンパイアの王は、一秒のズレもなく目を覚ます。 「ああ、良い目覚めだ」 これから世界が血で染まると考えれば、ヴァンパイアの王の口元は自然と緩んだ。 鋭い眼光を輝かせながら、棺の蓋を押す。 「……ん?」 押す。 「あれ?」 押す。 「あれれー?」 棺桶は、なんと鉄製。 海底の水圧によって、壊れはしないが、蓋を開けさせない向きに膨大な力がかかっていた。 そのうえ、ヴァンパイアの王は千年間体を動かしていない。 筋肉がすっかり衰え、千年前には余裕で壊せた鉄も壊せない。 「え、ちょ、ま! だ、誰か開けてー!」 地上では、ヴァンパイアたちが集まっていた。 王の帰還を迎えるために。 「遅くね?」 「遅いな」 「きっと、寝坊してるんっすよ」 「なーんだ、寝坊か。まあ、千年も眠ってれば、寝坊くらいするよな」 「じゃ、王が来るまで、解散解散」 世界の支配者は、未だ人類のままだ。
もう、ここには何もない。 優しかったおじいちゃんもおばあちゃんもいない。 玄関近くに置かれていた木彫りの熊もない。 玄関の扉を開けると漂ってきた、懐かしい匂いもしない。 あるのは、かび臭いジメジメとした空気だけ。 「くっさ!」 私は家に入るなり、家中の窓を開放して、空気を入れ替える。 太陽の光が空気中の埃をキラキラと輝かせ、風が輝きを外へと追い出してくれた。 「なっつ!」 太陽が照らす家の中は、私の記憶にある景色、そのものだった。 もちろん、ゴミだらけだし、床も壁もボロボロだ。 しかし、そんなノイズがあってなお、間違い探しにさえならない程にピッタリと一致した。 しばし感慨にふけった後、私は当初の目的を思い出して、一つの部屋を目指す。 この家にいるときだけ使える、私の秘密基地だ。 と言っても、ただの押し入れなのだが。 押し入れの中にも埃は溜まっていたが、私は迷わず顔を突っ込んだ。 マスクがなければむせ込んでいただろう熱気が、顔に触れる。 「えーっと、確かここに。……あった!」 そして、一つの小さな小箱を引っ張り出した。 小箱を開けると、中にはビーズや糸で作ったアクセサリーが入っていた。 子供時代の私が作った。一点物ブランドだ。 「別に要らないけど、このまま捨てられるのもね」 私は小箱を鞄に入れて、家の中を歩き回る。 一階、二階。 お風呂からトイレまで。 かつて歩いた道を、かつての自分を憑依させながら歩いた。 「なくなっちゃうんだなあ」 この家は、取り壊しが決まった。 このまま放っておいても廃墟になるだけだし、税金も馬鹿にならないという両親の判断だ。 私としては、残しておきたい気持ちもある。 しかし、じゃあ私が管理をしたいかというと、首を傾げてしまった。 スマホを取り出し、写真を撮る。 かつて見た光景を、他の人も見られるように。 「うん、よし」 気づけば、家に入ってから一時間が経過していた。 私は次の予定を思い出し、玄関へと向かって歩いた。 靴を履いて、振り返る。 「いってきます」 誰もいない空間に、言葉を投げかけた。 当然、誰の声も返ってくるはずはない。 代わりに、暖かな空気が、私の背中を軽く押した。 窓は開きっぱなしだが、いいだろう。 最後くらい、カビ臭い匂いがないままでいて欲しい。
やらなかった僕には飯抜きの罰が下っている。 なーめん。
四年に一度来る、2月29日の今日。この神社で私は神様に願う。 「もう一度だけ、彼に会わせてください」 彼の誕生日で、彼が私のそばから居なくなった日。そして、私と彼が出会った日。 「今回で、3回目。今年も奇跡は起こらなかったよ」 そう、彼の写真へ言葉をかける。 せめて最後に「ありがとう」って言いたかった。 この未練を連れて、未来へ進むことなんてできない。 私の思い出は、彼が居なくなってから止まっている。 私の願いは、彼が居なくなってから無くなった。 けれど一度も、あきらめたいと思ったことはない。 きっといつか奇跡が起きて、彼に会えると信じているから。 私は消えるまで彼に会うためここに来る。 四年に一度、君に会う。その可能性を信じるために。 四年に一度、君に「ありがとう」を伝えるために。 * 君はなぜいなくなったのだろう。そう考えるたび、僕は気分が重くなる。 「残念ながら彼女さんは亡くなりました」 そう、12年前に告げられたあの日から、僕の日常は、非日常のようだった。 君がいない世界のすべて、僕には憂鬱だった。 だから僕はもう、君との思い出の場所全て、近づかないようにした。 高校も、僕の実家も、あの神社も。 きっと君は、今もあの神社で祈るのが好きなのだろう。今は僕に会うため、祈っているのだろう。 でも僕は君に合う資格はない。 だから永遠に、さようなら。
明日は馬鹿にされそうだ。 賢くなりたいのか? プライドなどゴミに捨てろ。 無駄な議論。 小学生の学級会。 北京大学の首席に馬鹿って言ったらそうかもしれませんって言うだろ? 普通に考えろ。 腹が立っている。 やはり俺も馬鹿だ。
「おい、邪魔なんだよデカいの」 ただ、見て欲しかった。 「見ろ。めっちゃ手がデカい! 俺の倍あるんじゃねえの?」 見て欲しいだけだった。 「おい、やめてやれよ。そういうこと言うの!」 「なんで庇うんだよ? ははーん、さてはお前、こいつのこと好きなんだろ?」 少しでも俺を見て、少しでも俺のことを知って欲しかった。 好きになって欲しかった。 女子の中では、背が高かった。 外国人みたいな顔だからと、苦笑いしていた。 見た目のわりに、大人しかった。 俺が何を言っても、「こいつは昔からこうだから」って周りの友達に説明してくれていたのに。 俺と幼馴染は、心の深いところで繋がっていると信じてたのに。 「オレたち、付き合うことになったんだ。悪いけど、オレの彼女に、もう酷いこと言わないでくれ」 「……は?」 突然の裏切りに、俺は幼馴染を見た。 幼馴染は、怯えながら俯いていた。 「そういう、睨みつけるのも辞めてくれ。彼女、ずっとお前のこと恐がってたんだぞ」 目の前が真っ暗になった。 俺は好意を示していただけなのに、幼馴染にとってはそうではなかったらしい。 喜ばせようとしていた行動が、怯えさせる行動になっていた。 心の動きと体の動きがバラバラだった。 一人取り残された俺は、俺の顔面を思いっきり殴りつけた。 馬鹿をやるまで、馬鹿をやったと気づけない、狂った自分の感情を、お前のせいでと殴り続けた。
食べなければ治るとは思う。 肝臓は再生力の高い臓器だ。 暴発したら偉い死人が出る。 朱子学とリンクするのかも知れない。 バイク乗り(カブに乗っていた)の走行距離に比例して(反比例?)肝臓のガン細胞は目減りしていくだろう。 無駄に走り(あるいは有益かも知れない)無駄に文字を連ねた分だけそれは減っていく。 ガソリンの魔術、あるいはインクの秘術。 スーパーカブ。
ある日の午後。 若い男女が手を繋いで歩いていた。 「見て見て。あそこ」 「……なに?」 高齢の男女が手を繋いで歩いている。 「なんか、可愛いよね」 「僕たちも、あんな風になりたいね」 二人が、見つめ合った。 「見て。あの人たち」 「……どこ?」 中年の男女が手を繋いで歩いている。 「なんか、気持ち悪い」 「生々しいな」
太陽系は宇宙の中のぼっちらしい。 たまにタコや犬や猫が系外宇宙系からエサ食いに来たりゲームしに来たりプロレスやりに来たりするが太陽系はムッツリスケベなので絵本を見てニヤニヤして出てこない。 本当は田舎のお隣のお兄さんがギターを教えれば良かったのだがそこまで手が回らなかった。 駄菓子屋で企業ハックの練習をしていた同級生は(それは万引きと言う)遺伝的欠陥を抱えていたり情緒が疲れているのか不安定だったりするので太陽系のぼっちは影響を受けて偏執狂気味になる。 あるいはバイクで一緒に友達と走った時期があった時が一番安定していたかもしれない。 あるいは児童館でノックでボールを当てるのが上手いのだなこの子は、と褒められていたころ。 色々事象がリンクする。 狸は数が多い。 狐は実は外国人を相手にするのが得意だ。 僕は人格を乗っ取られたりするので(まあワクチンとそれに付随する機械と毒を打ったので)あまり乗っ取りは好きじゃないというか興味がないので隣のうちのネイティブアメリカンの兄妹にたまに歌を歌っていればいいのかも知れない。 僕は遺伝的に白人になったり性質的に黒人になったり向いてるので百済になったり色々変化するのだが基本的にリズム感を育んでこなかったのとデッサンをサボっていたのと野山を駆けていなかったので泳ぎが苦手だ(背泳ぎとバタフライが出来ない)。 田舎には部族のオブジェがあるのだがあの辺は人口が増えているので正しい伝道師や教師がいるのだろう。 日蓮のいた寺なんかも近い。 うちの近所にも日蓮の寺がある。 日蓮宗の知り合いなんかも転がり込んでくる。 あるいはもう一方の田舎は炭鉱と漁の町なので猫や狸や狐は住みやすいかも知れない。 誤報に継ぐ誤報の大地震は何かの予兆だろうが僕は大陸と地続きになったらニュージーランド沖に浮かび上がる昔の大陸に移り住んで塩採って無くなったら牧畜して暮らすのでそしてポリネシアの人達と暮らすのでそれでいい。 余りその土地に拘りすぎるのは良くないのだ。 そもそも僕だって何処から来たか分からない。 皆そうなのだろう。 あるいはアマゾンは植林らしいのでそこをまた植林し直すのも手かもしれない。 環境は変わる。 喧嘩してもいいこと無いのだ。 犬は南極で餌を探して耐える生活を送る。
「貴方の願いを叶えましょう。貴方の明日を繰り返すことで」 ぼくは不死になった。 同じ日を繰り返す無限ループに閉じ込められることで。 しかし、すぐに飽きてしまった。 同じ日には、同じことしか起きないから。 一週間後の飲み会も、一か月後の旅行も、永遠にやってこない。 明日は神と出会う日でもないので、元に戻せとも頼めない。 結果、ぼくはモブになった。 同じことを繰り返すモブに。 同じ行動をし、同じことを口にする。 カセットテープの様に、自分が擦り切れていくのを感じた。 しかし、そんな感情さえも、いつの間にかすり切れた。
郊外にあるテーマパークに、新しい施設がオープンした。 入口には、大きな看板が掲げられている。 『お仕事リアル体験館』 ──キンコン、キンコン。 開園の合図。 子どもたちが扉を開けた。 「ママ、あれなに」 「何かしらね」 スタッフが、手招きをする。 「こちらは、企業の給湯室をイメージしています」 親子は首をかしげた。 そこへ、制服を着た女の子が二人、給湯室に入ってきた。 台本をもらうと、演技を始めた。 「昨日さぁ、店に課長が来て、びっくりしたわ」 「大丈夫だったの?」 「すぐ隠れたから」 「うち、副業禁止だからね。気を付けなよ」 廊下を気にしながら、来客用のお茶を入れる。 「でもさぁ、給料安いくせに、副業禁止とか、あり得ないんだけど」 「ここの上の人たち、古いのよ。金欲しけりゃ残業しろだもん」 「昨日だって、領収書くれとか言ってたし」 「みなさん、どうですか?」 子どもたちに声をかけた。 「では、続きを見てくださいね」 二人は、スタッフに向かってうなずいた。 「そしたらさぁ、あいつ、キャストの子にアフターしつこく誘って、黒服に注意されてやんの」 「バカだねぇ。嫁にチクっちゃえばいいのよ」 「はい、ここまでです。みんな、拍手を」 子どもたちが、拍手を送る。 「他にも台本を用意しています。やってみたい人、いるかな?」 「パパ、私もやりたい」 女の子が、父親を見上げた。 「あなた、どうしたの。顔色、悪いわよ」
珈琲を飲みすぎて訳が分からない事を夜考える。 たまに通る本官さんにビビる。 ホモ・サピエンスは沢山いるのだがうなぎいぬはあまりいない。 あるいは海溝には沢山親戚がいるのかも知れない。 赤塚不二夫のギャグを理論的に考えても眠くなるだけなので(そもそもあれは全てを=にしてしまいかねない理論だと仮定する私だがナンセンスに挑むのはやはり骨がそして体力がいる)。 知り合いが赤塚不二夫は笑えないと言っていた。 E=MC²をニア=で考えるとそうなるのは理論でわかるのだがこれはもう何処かの評論家がやっているだろう(僕のIQが下がればあるいはお笑いをもう少し齧ればいいとは思う)。 これ以上理数能力が下がると日常生活に支障をきたすので(赤塚不二夫が酒と煙草をやらなければ良かったのかも知れないが嗜好品摂りたいよね)僕は仏教的に(煙草を吸っているので本官さんに睨まれそうだ)物事をみなければならない。 彼女は格闘ゲームの理論値でいうと強キャラなのだが僕は背景のドット絵なので彼女が映えるようにそして武というよりは舞(これはその方がうまくいくだろうという期待値ではある)なので見稽古をしたいが僕は対価を払わないので1人演者になっている。 世界は舞台装置。 彼女は小学生の先生なので鞭打を習得させると(これは僕も稽古をつけられる前の彼女にはこれと膝蹴りを習得させたえらい痛かった)より安全に世を渡れるようになると思うのだがやはり暴力は嫌いだ。 理数IQは他の指標でカバーできるのだがやはり恥のファクターをクリアしなければならない(これはパズルゲームや音ゲーの要素だろう)あるいは子育てクイズマイエンジェルで子供がオタクに育ってしまう僕はそして嫌われてしまう僕はそれでいいと自分を許してあげよう。 うなぎいぬはニャロメに狙われるのだがニャロメもニャロメで大変なのでどっこいどっこいだ。 あるいは潜在的には彼女は暴力なのだが泣くのはいつも女の子なのでうなぎいぬになってお茶を家で勧めていればいいのである。 彼女の調律は出来る。 しなければならない(黄金律) 髪形を整えお風呂に入り服を買い彼女の装飾品になって彼女を五線譜🎼に乗せる。 あるいはそれは僕自身の為である。 うなぎいぬは湿った部屋で肌を潤わせ象の保護にまわる。
電話だけ出来ればいい、あとはただの情報の羅列。 平等は無理だが公正に動きたい。 病気なので。 あの人はマトモさを行動に移したのだろう。 明らかにおかしくなっている。 でも今のところユートピアは無理なのだ。
「さ、早く行くよ〜。結婚式に遅れちゃう」 パーチが玄関先から声をかけると、男の子と女の子、それから夫のタオテがばたばたと外に出てきた。 「妹ちゃんももう嫁いじゃうのか。早いね」 「そうかしら。あなたが婿に来た時より年いってますよ」 呑気に言うタオテに、パーチは肩をすくめる。それを聞いて、男の子はパーチのそでをぐいっと引いた。 「ねえねえ、お母さんもおばちゃんみたいにけっこんしたの?」 「うーん……? お母さんたちの時は、戦争とか……色々あって大変だったけどねぇ」 「そうそう。お父さん、お腹を大ケガしたんだよ。もう痛くて痛くて、死ぬかと――」 「それはまえきいた!」 タオテの話を遠慮なくさえぎり、男の子はぴょんと跳ねる。 「そうじゃなくてー。おばちゃんみたいにいちゃいちゃしてたの? ってこと」 「え? 恋愛結婚かってこと? そうではないけど……まあ、仲はいい方じゃないかしら」 「じゃあ、お父さんのことすき?」 「……うん、まあね」 子供の前で言うのも小恥ずかしく、パーチは何度か頷いてみせる。すると、タオテは2人の子供の肩に手を置いて笑った。 「お母さんは、お父さんも2人のことも大好きだって」 「ほんと!?」 男の子は顔を上気させて目を丸くする。女の子は「だいしゅきー!」とパーチの足に抱きつく。パーチは娘を抱き上げて、幸せそうに声をあげて笑った。
「のの」が本を読んでいる 香箱に座って読んでいる ページをめくるとき ちろっと手を出し ページをめくっていく その瞬間を見たくって 「のの」の様子を ちろちろ見てしまう そして、その瞬間を見ては 私は、にやっとする 寝るまえ「のの」に こわいお話をきかせてあげる そうすると「のの」はふるえてしまい 私のおふとんにころがりこんでくる こわいお話じゃなくっても 私のおふとんにもぐりこんでくる お話をしてあげなくったって いつのまにか私のおふとんにしのびこんでくる だからいっつも、いっしょに寝ている 「のの」の朝は遅い 私より遅い 「のの」に起こしてもらったことは だから、まだ一度もない
5.約束 数日後、二人は会う場所を決めた。 街から遠く離れた、広い草原。 周囲に建物はなく、監視カメラも見当たらない場所だった。 そこで、仮面を外す。 そこで、自分の声で話す。 それだけの約束だった。 けれど、それはこの世界では、人生を懸けるほどの決断だった。 仮面を外せば、顔情報の露出が検知される。 自分の声を発すれば、音声の発信が検知される。 警告が鳴り、通報される。 二人とも、そのことは分かっていた。 それでも、約束を取り消そうとはしなかった。 約束の日まで、二人はいつも通りに過ごした。 いつも通りの仮面をつけて。 いつも通りのAIの声で。 ただ、心の中では、何度も想像していた。 相手の顔を。 相手の声を。 そして、その瞬間を。 6.素顔 約束の日、草原には、穏やかな風が吹いていた。 ユウと彼女がそこに着いてからしばらくして、二人は向かい合った。 いつもの仮面。 いつもの、機械が作り出す声。 『今日は、ありがとう』 彼女の声が響いた。 ユウはうなずいた。 『うん、こちらこそありがとう』 しばらく、二人は何も言わなかった。 やがて、彼女が仮面に手をかけた。 ユウも、自分の仮面に手をかけた。 目が合った。 そして、二人は同時に仮面を外した。 ユウは、彼女の顔を見つめた。 あの日、事故の現場で一瞬だけ見た顔。 ずっと、もう一度見たいと思っていた顔。 彼女も、ユウを見つめていた。 そして、彼女が口を開いた。 「……声、聞かせて」 ユウは、彼女を見た。 彼女の目には、涙が浮かんでいた。 ユウは息を吸った。 「この顔が、見たかった」 自分の声が、彼女に届いた。 彼女は、泣きながら笑った。 「この声が、聞きたかった!」 その声も、機械が作ったものではなかった。 少しかすれていて、思っていたよりも高くて。 あの日からずっと、2人が願っていたことだった。 2人は笑った。 泣きながら、何度も笑った。 そして、互いに歩み寄り、抱き合った。 そのとき、足元に置かれた二つの仮面が、赤い光を放ち始めた。 『顔情報の露出を検知しました』 警告音が鳴った。 『音声の発信を検知しました』 再び、警告音が鳴った。 『法令違反を確認。通報を開始します』 何度も、何度も、警告音が草原に響いていた。 それでも、二人は顔を見合わせ続けた。 彼女の頬には涙が流れていた。 ユウも泣いていた。
3.一か月後 事故から一か月が過ぎた。 ユウは、何度もあの交差点を訪れていた。 彼女がまた現れる保証などない。 それでも、大学の行き帰りに遠回りをして、事故のあった場所を通った。 自分でも、馬鹿げていると思っていた。 彼女の名前すら知らない。 顔を見たのは、ほんの数秒。 会話と呼べるものもなかった。 それなのに、忘れられなかった。 一か月が過ぎたある日の夕方。 ユウは、人混みの中に見覚えのある姿を見つけた。 彼女だった。 事故の日と同じように、顔全体を覆う仮面をつけていた。 服装は違っていたが、なぜかすぐに分かった。 ユウは、声をかけようとして立ち止まった。 何と言えばいいのだろう。 そんなことを考えているうちに、彼女がこちらを向いた。 彼女は、ユウを見つめていた。 そして彼女から、AIが作り出す声が出てきた。 『あの日、事故の現場にいましたか?』 ユウは驚きながら返答した。 『はい。もしかして、あのときの?』 『そうです』 少し間が空いた。 『あのとき、声を出していましたよね』 『……はい。思わず』 『…。』 『…。』 少し沈黙が続いた。 だが、今度は音声ではなく電子版メッセージが届いた。 【私、あのとき初めて、人の本当の声を聞いたんです】 ユウは画面を見つめた。 【今まで聞いてきた声は、全部AIが作ったものでした。でも、あなたの声は違った】 さらに、メッセージが届いた。 【大丈夫ですか、って。たったそれだけなのに、ずっと忘れられなかったんです】 ユウは、何と返せばいいのか分からなかった。 【だから、もう一度会いたいと思いました】 彼女はそう続けた。 そして、少し時間をおいて…。 【あの声を、、、もう一度聞きたくて』 ユウはしばらく黙っていた。 そして、ようやく返信した。 【僕も、、、あの日見たあなたの顔が忘れられませんでした】 画面の向こうで、彼女がどんな顔をしているのかは分からない。 けれど、返ってきた言葉は、たった一言だった。 『よかった』 ユウは、何度もその文字を読み返した。 4.知らないまま、近づいていく それから、二人は少しずつ会うようになった。 最初は駅前で、短い時間だけ。 それから公園や図書館など、いろんな場所で長く話すようになった。 もちろん、声はAIが作り出したものだった。 顔も見えない。 本当の声も聞こえない。 それでも、二人は互いのことを知っていった。 好きな食べ物。 苦手なこと。 子どもの頃の思い出。 将来、どんな場所で暮らしたいか。 何気ない話を、何時間も続けた。 ユウは、彼女がおそらくよく笑う人だと感じた。 彼女は彼女で、おそらくユウは優しい人なのだと感じていた。 二人で過ごす時間が増えるほど、会話が終わるのが惜しくなった。 別れたあとも、端末にメッセージを送り合った。 眠る直前まで、互いのことを考えていた。 けれど、一つだけ、どうしても確かめられないことがあった。 ユウは、彼女の本当の顔を知らない。 事故のときに見たのは、目ほんの一瞬、しかも目を閉じているものだった。 笑った顔も、困った顔も、怒った顔も知らない。 彼女もまた、ユウの本当の声を知らなかった。 あの日に聞いたのは、たった一言だけ。 「大丈夫ですか!?」 あの声は普段だとどんな声になるのか。 笑った声も、困った声も、怒った声も知らない。 今ではもう、2人の記憶の中で曖昧になりかけていた。 そんなある夜、彼女からメッセージが届いた。 『もう一度、あの声を聞きたいです』 ユウは、画面を見つめた。 しばらく考えてから、返信した。 『僕も、もう一度あなたの顔が見たいです』 その夜、二人は決心したのだった。
1.顔のない世界 20XX年、今の日本では、誰も素顔を見せない。 外出するときはもちろん、家の中でも、顔全体を覆う仮面を外すことはなかった。 親は子どもに素顔を見せない。 夫婦であっても、互いの本当の顔を知らない。 生まれてから一度も、家族の顔を見たことがない人も珍しくなかった。 声も同じだった。 人間が自分の声を発することは、法律で禁止されている。 会話をするときは、頭の中で言葉を思い浮かべるだけでいい。AIがそれを読み取り、自然な音声に変換してくれる。 どうしてこのような時代になったのか。 きっかけは、2026年のとある動画だった。 国のある省庁に、広報動画への出演をきっかけに、世間で人気になっていた職員がいた。 ある日、SNSに一本の動画が投稿された。 そこには、その職員が自分のクレジットカードを掲げている姿が映っていた。 「私のクレジットカードはこちらでーす! みんなぜひご活用くださーい!」 顔も声も、本人と見分けがつかなかった。 しかも、映っていたカード番号は実在するものだった。 動画は瞬く間に拡散し、職員のクレジットカードは不正利用の被害に遭った。 その日をきっかけに、生成AIを使った著名人のなりすまし動画や、個人情報の悪用が相次いだ。 政府は対策を強化した。 顔を映した動画の公開が禁止され、やがて外出時には、顔を覆い隠した仮面の着用が義務化された。 声も同様だった。 AIで本人そっくりの声を作り出せる時代に、声を本人確認の手段として使うことは危険だとされた。 こうして、自身の声を発することも禁止された。 安全のため。 プライバシーを守るため。 誰もが安心して暮らせる社会をつくるため。 人々はその変化を受け入れた。 そして、いつしか誰も疑問を抱かなくなった。 人の顔を見ることも。 誰かの本当の声を聞くことも。 2.事故 大学生のユウという男の子がいた。 生まれたときから仮面のある世界で育った彼は、家族の素顔さえ見たことがなかった。 父の顔も、母の顔も知らない。 毎日聞いている家族の声も、AIが作り出したものだ。 それが当たり前だった。 ある日の夕方、大学からの帰り道。 ユウは普段通らない道の横断歩道を渡っていた。 信号は青だった。 そのとき、一台の車が交差点に突っ込んできた。 近年、各地で相次いでいた自動運転システムの誤作動と思われた。 システムに異常を起こした車が赤信号を無視し、横断歩道にいた人々を次々とはねていった。 悲鳴が上がり、車と衝突した人々が地面に倒れていく。 幸い、ユウは車に接触することなく、難を逃れた。 しかし、すぐそばで、一人の女性が車にはねられて倒れていた。 ユウは、思わず駆け寄ったが、驚いたことがあった。 なんと、彼女の仮面が事故の衝撃で大きく破損し顔が出ていたのだ。 仮面からは警報音が鳴り響く。 『顔情報の露出を検知しました』 ユウは警報音を聞いてハッとした。 「だ、大丈夫ですか!?」 気づけば、声が出ていた。 ユウの仮面からも警報音が鳴る。 『声の発信を検知しました』 ユウの声や警報音が鳴り響いたからか、彼女が顔を動かした。どうやら、意識はあるようだった。 その動きに、ユウは思わず息をのんだ。 目も、鼻も、口も。 画面の中でしか見たことのない、人間の本当の顔だった。 彼女は苦しそうにしながら眉を寄せた。 それでもユウは、その顔から目を離せなかった。 やがて周囲の人々が駆け寄り、誰かが上着で彼女の顔を覆った。 ほんの十数秒の間だった。 ようやく、救急車が到着し、彼女は病院に運ばれていった。 この事故では、多くの人が負傷した。衝撃で仮面が外れた人もいれば、突然の恐怖に思わず生の声を上げた人もいた。 しかし、事故に巻き込まれたことによる顔の露出や発声は、法令違反には当たらないと判断された。意図的な違反ではなく、避けようのない事故だったからだ。 ユウも、彼女も、罪に問われることはなかった。 それでも、ユウの頭から離れないものがあった。 あの顔。 もう一度、見たい。 自分でも、なぜそんなことを考えるのか分からなかった。 ただ、彼女の顔を見たあの一瞬が、いつまでも頭から消えなかった。
扉を開けてコロンカランコロンと鳴る喫茶店ってそんなにないような気がする。実はあるのかもしれない。わたしが知らないだけで。カウンターでは若い男の子と同じ年くらいの女の子が向き合っている。男の子は右の腕をカウンターにかけ、女の子のほうは両手を膝の上にきちんと置いて慎ましい。付き合って間もない感じなのかな。それとも、まだなのかな。見つめ合っちゃって。でも、なんでカウンターなの。テーブル席だって空いてるのに。ふたりを常に視界に入れながら作業をしないといけないお店のご主人がなんだか不憫でならない。 注文を終えて文庫本を取り出して、でもわたしの関心は本のなかの物語の行く末よりカウンターのふたりに向いてしまう。「放課後の公園」「かき氷屋さん」「学園祭」、様々な単語は聞こえてくる。そこから物語をつむぐのは部外者のわたしには難しい。なんとなく、あたたかな物語であるような気はする。「僕の尺度」「心意気」「成功体験が崩されるとき」、女の子の口にする単語に反して、男の子の単語はいくぶん方向性が異なる。あれくらいの年代の男の子なら、とも思わないでもないけれど。 そうこうしていると、男の子が女の子の手を取る。見つめる視線は、先ほどまでよりも強くなっている。たまらず目をそむけてしまう。と同時に、がんばれ、とも。わたしは強いてふたりに視線を向けないようにした。文庫本のなかの文章を追っていく。内容は、でもやはりちんぷんかんぷん。目線をひたすらに紙の上に走らせているだけだった。 次に顔を上げたとき、ふたりはすっかり消えていて、少しだけほっとした表情のご主人の顔がそこにはあった。物語の続きが気になるような気持ちを、でも「得てしてうまくいかないのよね」と冷めた大人の意見という名のわたしのなかの悪魔がすべてを台無しにする。でもきっと、ふたりはふたりでうまくやっていくんだよ、いい結末でも、悪い結末でも。わたしはどちらを望んでいるのだろう。そのことは考えないようにして、いま一度、思考を本のなかへともぐらせていった。
『拝啓 新たな年が始まった今日この頃、あなたはいかがお過ごしでしょうか。 さて、私は今年で闘病4年目に突入します。 いつも私のお見舞いに来てくれるあなたは、今頃、進路のことで悩んでいる頃でしょうか。 たしか、保育士の資格が取れる短大に行きたいと言っていましたよね。頑張ってください。 それと、もう私のことはお気になさらないでください。 もう私の為に何かすることはやめてください。 これからはあなたは一人なのですから。病気や風邪に気をつけて、あなたの為に生きてください。 敬具 平成28年1月4日 天乃亜衣 結城誠様』 毎日欠かさず来ていた病室に一枚、震える手で丁寧に書かれた手紙が置かれていた。 「先生、亜衣は、どうなったんですか…?」 「残念ながら、お亡くなりになられました」 いつも通り椅子に座り、布団をかける。その何気ない音がいつもよりも耳に響いた。 ——亜衣—— 「私ね?闘病生活が終わったら、ラーメン食べに行くんだ」 「おぅ、俺の奢りだ」 ——2年前に交わした約束。守ってくれなかった。守れなかった。—— ……忘れて生きろ?はっ、ふざけんな。俺がどれだけ、亜衣の事に依存していたことか。 ——いっそ、俺もそっちへ—— 「誠、私がいなくなったら、私の夢を叶えてよ!」 「なんだよ?」 「保育士!」 「プッ……そこは俺の幸せとかじゃねぇーのかよ!」 「誰が誠の幸せを願うか?幸せにするんだよ?私が」 「……なんであんたと一生を共にする前提何だよ」 「フフン!」 「誇るな!」 ——今からでも遅くない。亜衣と共に、夢を叶えよう。—— 「すみません誠さん。そろそろ、新しい患者さんが来ますので……」 「わかりました」 一歩踏み出す勇気はない。できるなら、ずっとここにいたい。けれど、亜衣はきっとそれを許してはくれない。 だから、亜衣、俺は君を忘れることにする。君なんてこの世にいなかった。病弱で、なのに元気いっぱいで、夢見がちで、油ものが大好きで、眠いとゆっくり喋って、照れると額を抑える、そんな亜衣なんて人この世に元から存在しなかった。そういうことにしておこう。 俺が、君を気にせず踏み出すために。 君の、俺への思いを忘れない為に。
また知り合いのストリートミュージシャンとジャズプレイヤーのおじさんと深夜馬鹿話をしていて途中で電話を切られる。 好きなアーティストの曲をYouTubeミュージックで久し振りに聴いていいねして唯一無二です、ファンです、とコメントする。 今夜は何処にも出掛けないのだがあちらも3人こちらも3人で曲(まあこっちは雑談だが)を流している。 スナフキンとムーミンとニョロニョロ(誰が誰だか分からない)は今日もムーミン谷で夜を過ごす。 あるいはスナフキンは向こうでムーミンも向こうでニョロニョロも向こうかもしれない。 皆夜は賑やかだったり喧嘩したり話し合ったりするのが健全かもしれない。 そんなものなのだ。 今夜も何処かへ行きたい。 無い物ねだり。 行ったり来たり。 落ちこぼれの落第生は今日も仲間外れで(それでいいのだ)夜を過ごす。
今頃あちらでは何を思っているのだろうかとハナミズキの実を観る 歳を重ねれば重ねるほど車が必用になってくる 自分の仕事を静かに待つパトランプ まだまだ畑に若者は、激レアな組み合わせだと思う お辞儀が上手なひまわり達 山の上に集まっているような雲たち、今日が山の向こうに沈んでいく トンボが何処かへ行ってしまったので小虫達がはしゃいでしょうがない 乾いた駅の階段に割れた酒の瓶 大股に広げて座る人 左手のメモ 全く動かない蛾 あのお風呂で使うヒラヒラのスポンジみたいなスカートは洗濯機の中でも泡製造機となるのか クシャミがどうにも止まらない人 無理をしないという無理 無理をするにも、ゆったりするにも、判断するエネルギーが必要だ /13/20 止まらない時間 あの人の、初めて聞いた溜息 無理をしなさんな 止められない意思 立ち止まる勇気 目をつぶって飛び込む遊び心 言えなかったお世辞 ホームに残る乾いた汚れ 家路を急ぐ人達 それぞれの日々を過ごしてきた老若男女 温もりのあるシート 車両を渡り歩き席を探す人 迷わず門番になる人 相方も着た 足を投げ出す守る人のいないもの 足を投げ出す守る人がいるもの 英語が堪能な人は電車のアナウンスで同じ事を2回も言われているのか ほっと一息スマホタイム 何十年かけても手に入れられないもの 自分の出来ることと出来ないこと 自分の出来ることをしていくしかない 誠実さと優しさを持って歩いていくしかない 息子の前と世間の前で違う人にはなれない 雨の夜の海の上で見る灯台の光とは言わないが、夜中、息子が足をぶつけずにトイレに行けるくらいの常夜灯くらいの希望でいたい。 青が男子で赤が女子。別にそれでいい 男と女。別にそれでいい 大人?子供?別にどちらも大して変わらない。 電車の窓に映る車内 夜に押し返される光 「自分を見つめ直せ」と突きつける夜 明日が怖い さっきは霞んでいる 今は特に何もない 文字が出てくるのを待つしかない
YouTubeで自分の専門外の事もさりげなく処理する、というヒント(これは知らなかった駄目だなぁと思う)を得たので買い物に行っている途中に植物をいじっていた小学生にヒントを貰い考察、構築する。 農業の手伝いをしているがそういえば田舎はブドウ畑だったので(そういえば基督教も葡萄とは縁が深いもうひとつヒントを付け加えとこう)とりあえず親父の言っていた有機物をそのまま肥料にしようとしても塩分(naやら何やら化学屋は知っているだろうオメーそんなことも知らねーのかよ使えねーなまた取り分取って(盗って?獲って?いくぜって思われてそうだ)が多くて駄目だという化学の授業なのだがそもそも僕の飲んでいる睡眠薬も化学式で出来ているのでデータを採った分なんとかならないだろうか?等とまた人任せだ。 でも頭が悪いので植物図鑑買って眺めて食べられる草探しなよ、おじさんと言われている気もするのででも時期的にはドクダミはそろそろ枯れてしまうのでビタミンCはとりあえずスーパーで買ってきたジャガイモで摂る事にしよう。 栄養学は多少フィーリングでわかるので(まだまだ知見が足りないが)植物の組成、生息域などを調べている不登校気味のプロディジーを応援したいと思うが何処にいるかわからないので家の近くのお地蔵さんにお握りをお供えしていったら持っていって食べて貰って構わない。 犬は化学の授業をサボりすぎたのでしっぺ返しを食らっている。
シルバーは午後の紅茶を楽しんでいる 静かな森の中で家には彼一人しかおらず、神経質な彼にとっては至福の一時である。 街で買ってきた高級な焼き菓子を食べようと席を立つとコトンと何かが落ちた。可愛い袋に包まれたチョコレートが二つ ハロウィンの絵柄が一口サイズの四角いチョコレートを丁寧に包んでいる シルバーはチョコレートを拾い、もう一度座る 眼鏡のズレを直しハロウィンの絵をじっくりと眺める 死ぬことのない彼ら狼にとって ケルト人のことや、年の始まりや終わり、この世とあの世の区別など、あまり興味を引かないものではあったが、人間の女の子からもらった、このチョコレートはシルバーの静かな心をほんのりと温かくしてくれていた。 シルバーは大きな手で丁寧に包装を剥がし小さなチョコレートを一つ口にする 「人間の特徴の一つに『バカバカしい事に夢中になる』きらいがある」 チョコレートが口の中で溶けるまで味わい、紅茶を飲む 「まぁ…子供に罪はないが」 最後のチョコレートを口に入れ、よく味わう。甘くて、ほろ苦く、とろける舌触りの中で、狼の被り物をした人間の女の子が小さな手でチョコレートを渡してくれている。 家の外の森の向こうからガヤガヤとゴールド達の声がする シルバーは少し社交辞令的に溜息をついて、眼鏡を直す 「人も狼も一丸にこうとは言えぬか」 シルバーは作っておいた、蓮根と人参のサンドイッチの山をチラリと見て、マフィンの粉の残りが、どれくらいだったかを頭の中で探している
下からのぞくと吸い込まれるような感覚におちいってしまいそうになる螺旋階段を上っていくとその店はあった。看板はなくって、店の名前はわからないけれど、扉から流れてくる甘い雰囲気と香りから考えをまとめてみるに、悪いもののようには感じられなかった。扉をあけ放つと香りは広く、濃くなった。好奇に迎え入れられたのか、悪事への誘惑か、絶えず鼻先で遊ぶ魅惑の甘い香りが、わたしの判断を狂わせる。席に着くと、厚みのすこしもない薄っぺらなモノがゆらゆらとわたしの前に立つ。 「ご注文は?」 このゆらゆらはなんだろう。そのことで頭のなかが埋めつくされる。 「ご注文は?」 再びの催促は、いくらかゆらゆらと声が大きかった。 「あ、ああ。ええと」 薄っぺらなモノはゆらゆらしながらわたしの返答を待つ。そのゆらゆらかげんがいら立ちをあらわしているようで、わたしはあせって、居心地が悪くなる。 「ごめんなさいね。このゆらゆらは生まれつきなの。あなたの機嫌をどうこうさせたいのではないのよ」 「は、はあ」 「それで、ご注文は?」 「あ、ああ。ええと」 「ふふ。いいのよ、ゆっくりで」 「はあ、ごめんなさい」 わたしは、なんとか「クリームソーダを」と口にして、薄っぺらなゆらゆらは奥へと消えていった。次にゆらゆらがあらわれたとき、その薄っぺらなモノはクリームソーダを持ってきてくれた。 「ふふ。ゆっくりしていってね」 「は、はあ」 けれども、わたしの気持ちは、いっきに沈んでいく。宇宙を思わせるような蒼い色をしているそのクリームソーダには、雲を思わせるような真っ白いクリームと、どこかで燃えている惑星のようなやけに真っ赤なサクランボがのっている。 あああ、なんてこと。クリームソーダ、緑じゃないなんて。あああ、あああ…… わたしがいまふれている空間は、はじから重力を失ったように崩れてみえる。あああ、あああ…… ちがう。わたしが崩れてしまったんだ。
基本的に 他人のことを 下に見ている その家の女たちは そんなふうだった 馬鹿にしている と言っても よかったかもしれない その家の女たちは そんなふうだった その家の女たちは 学校の成績はよいのだが 人を見る目はあまりなく そのこともあって よく物事が停滞した そのため その家の女たちは いつのときでも 機嫌が悪かった あのとき ちょっとしたきっかけで 僕は あの家を 離れる決心をした あのときの あの決断を 僕は 後悔していない 今後も 後悔することは ないだろう きっと ないだろう
菊水ござるよ。 ござるござる。 僕のポケモンを勝手に進めたので一緒に合戦泥棒をするでござるよ。 今度パチンコで買ったら飯を奢ってくれでござるよ。 替わりにうちにあるCD何か持っていっていいでござるよ。 菊水は武蔵の国なのでのぼうの城の城主様は許してくれるでござるよ。 僕は上州の忍者とククリヒメの世話でいっぱいいっぱいでござるよ。 是非お頼み申すでござるよ。
何かに人格が乗っ取られているので正気を保つために文章を書く。 多分何処かの座標のすれ違った先輩後輩なのだが超能力は僕は専門外なので世の法則を守って飯を作り私小説を書く。 この文章を読んでいる人は忙しいのか暇なのかわからないが僕は彼女から渡された百合雑誌の批評等もしなくてはならない(趣味で)ので相対的に時間がなくなる。 何か一時的に文科省の日雇いバイトさせられてる気がする(勘だが)給料は自前で作るので多少の法律違反は許されないだろうか?(駄目だろうなぁ) 旅団や海賊に追われていると思ったら一時的に共闘したりしているが僕は僕の能力が定まっていない蟻?なので(なるほど蟻を集めている子供の実験なのか合点がいった) 暇ならその宿主に(虫捕り名人)学校の課外授業などに虫捕りの項目を増やさなくては国が傾くぞ火つけんぞ俺は養老孟司ほど温和じゃないぞ、と言ってくれよ保健の先生と相談されている気がするので学校のウェブサイトに大量の抗議メールを送る。 僕の脳が一時的に止まったので彼女を治すために少し離れる。 明日は学校休んでいいかもしれない。
平日の午後。 男がようやく目を覚ました。 「さてと……今日こそ倒す」 パソコンの電源を入れた。 「飯食ってからするか」 タバコを咥え、一階に下りる。 すると、母親が居間で横になっていた。 「オカン、なんか食うもんは? オカン……」 青白い顔。 返事はない。 「オカン、どうした?」 冷たくなった体を揺すった。 「ゾンビでいい……年金さえ……」
魔女たちは、人間の町を襲います。 魔女たちは、人間たちを攫います。 そして、箱へと詰め込みます。 今日は、魔女たちの晩餐会。 魔女たちは、円卓を囲みます。 円卓の上には、豪華な料理が並んでいます。 大きな肉。 新鮮な野菜。 血のように赤いワイン。 「それでは、パーティーを始めましょうか」 一人の魔女が立ち上がり、壁際に置いている箱のふたを開けます。 その箱は、あらゆる音を遮る特別製。 蓋の開いた箱の中から、人間たちの悲鳴が聞こえてきます。 「痛い! 痛い!」 「苦しい! 苦しい!」 「出して! ここから出して!」 魔女たちは、人間たちの悲鳴をうっとりとした表情で聞きます。 魔女たちにとって、それは素敵なBGM。 絶望を奏でる、世界で一つのオルゴール。 「皆様、グラスを持ってください」 一人の魔女がワイングラスを持って立ち上がると、他の魔女たちも一斉に立ち上がります。 「魔女の栄光に、乾杯」 そして、ワイングラスを高く掲げ、食事を始めます。 人間と魔女。 二つの種族の共存は、まだまだ未来のお話。