変わる予感

私のSNS関連に使うアイコン画像は全て同じ画像を使っていました。 画像は通う釣り場でたまたまスマホで撮った空の雲を撮った画像です。綿雲が延々に続いていて、その雲の奥行きが自分なりにとてもお気に入りでした。「まだまだ先がある、続いているよ」と言われているようでその画像に励まして貰った記憶があります。 私の新しいチャレンジのつもりで始める活動の場、当然その場のアイコンにも同じ画像を使うつもりでしたから同じ画像をアプリから選んでおりますと、あの雲の画像が無いのです。 いくら見直しても画像はありません。だんだん思い出して来たことに確か先月だったか、アプリ内のもう必要がない画像をまとめて消去したことを思い出しました。おそらくその時にあの雲の画像を間違えて消去してしまったのだと思うのです。 消去しても暫くは残る写真アプリの画像ですが、性格上キチンとしておきたい性分なもので、もう一段階の完全に消去するまでやってしまう私。二度と復活しない事を画像を探しながら理解していたのでした。 少しだけ気持ちは落ち込みました。しかしあの雲画像に励まして貰った記憶はしっかりと残っていましたので、そこは消さず私の中にこれからも残って行くのでしょう。そして今よりもっと体調が不安定だった頃、少しでも身体の異変を感じた時のズシンと来る恐怖感を越えて今日があるのです。あの不安定さや恐怖感が今は無い、そう思える私が今居るのだと、あの頃よりの成長をあらためて感じる事が出来た今回のこと、気持ちの落ち込みが新しい幸せに変わった瞬間がありました。 あのお気に入り画像が必要がないものに変わったのですから、これまでとは違う何かが変わる予感があります。私自身にそんな可能性があるのかも知れないというだけでも普段の視界は変わるものです。 という訳でアイコンが新しくなりました、というお話でした。

夜光虫〜ヤコウチュウ〜 (掌編詩小説)

私に夜光虫を見せて 月明かりに反応した姿を私に もう、砂浜へは行けないのかしら 自然の理によってうまれた刺激が 彼らを光らせる 私に夜光虫を見せて 月明かりを飾りにした姿を私に もう、今日の『ショー』は幕引きかしら 人の色彩感覚によってうまれた青さが 私の心を癒していく 私に夜光虫を見せて 太陽に反応したその姿を私に こんな姿もあるのね 目一杯の赤潮となって太陽を睨みつけているわ そんな、夜でしか輝けない貴方を愛し続けていくわ… (完)

メデューサの雨(cm後)

CMあけ はい、 と言う事なんですが、どうですか。星野さん 「いやー。すごいwこんなドラマみたいな話があるんですね」 本当ですね。この蜜柑ジャムさんは奥様とお子さんがいて、会社では管理職。順風満帆のように見えますが…こんなことになってしまっていると。 「でも、わかる気がするなぁ。なんか満たされている時ほど、人に優しくできるというか、満たされてるからこそ、分け与える事が出来るだと思うんですよね」 うんうん、そう思います。 「あと、『罪悪感に慣れてしまった』って言葉は、ちょっと…不謹慎かもしれないですが…痺れましたね。痛みに耐えすぎて麻痺してる感じですよね。この秘密の関係の時間を感じる」 そうですよね。始めは、ただただ仕事を頑張りたくて、話しやすい同期に、純粋に聞いていただけ。仕事以外の時間でも仕事の為にどうにか出来ないかと、必死だったはずですね。 話をしていく度に二人の距離が縮まり、二人はお互いを必要な存在から、特別な存在へ変わって行く。それは自然な流れだったたと思います。 彼女の方は結婚にこだわっていないし、たまに会って恋をしたり、愛を感じたりして、寂しさを紛らわしたいだけかも。 一方、蜜柑ジャムさんは奥様以外の女性を愛せる喜びと、奥様の体との違いを楽しめる背徳な遊びが出来る。 奥様との関係も今はレス状態なのかもしれないわね。 私はそのままでも良いと思います。 私も経験者だし。こんな姿なのはその罰のせいだしね。 ただ…ただね。あなた達に振り回されている子供の気持ちがやっぱり見過ごせないかな。あなたの子供は、あなたしか頼れないのよ。もう一度、あなたの子供の事をよく考えてみてください。 突然の雨で、同じ所で雨宿りしていた時間は、晴れ間の訪れと共に終わりを迎えるものです。 では行きます 【そのふしだらな心!石にしてやろうか!】 「ハハハハハ!姉さん。さすがです。石化アイ!めっちゃ迫力ある!」 フフフ、ありがとうございます。 ではここで一曲お送りいたします。 はなのなまえで「桜の嘘」 ♪ 白い雲が風に乗って流れていく 君への思いはあの雲に乗っている どうしょうもないことを 追いかけて追いかけて 自分だけが分かっているつもりだったから 桜の花びらひらりひらり まだ来ないバスを待ってる 桜の花びらひらりひらり 君の嘘は僕が気付くのを待ってる 匂いで君の機嫌が分かってくる 二人の思い出はこの街のどこにでもある もう知っていることを 追いかけて追いかけて ページの終わりを何度も 読み返して読み返して どうしょうもないことを 追いかけて追いかけて 自分だけが分かっているつもりだったから 桜の花びらひらりひらり まだ来ないバスを待ってる 桜の花びらひらりひらり 君の嘘は僕が気付くのを待ってる 君の嘘は僕が気付くのを知っているのでしょうか ♪ はい、ではそろそろお時間です。 星野源さん、ありがとうございました。 「はい、どうもありがとうございました!本当に楽しかったです!皆じゃーねー!またねー!w」 ハハハ。本当にありがとうございました。 どうぞ皆様に素敵な夜が訪れますように。 ではまたお会いしましょう。シャー

余白係

その会社には、「余白係」という見慣れない部署があった。 配属されたとき、私は総務の誤記だと思った。 だが内線表にも、確かに余白係とある。 仕事内容は簡単だった。 社内文書の「余白」を整えること。 報告書、企画書、議事録、掲示物。 文字と文字の間、行と行の間、ページの端の空き。 それを規定どおりに直すだけ。 意味はない。 だが、なぜかこの会社は余白にうるさかった。 「読みにくさは、余白から生まれる」 それが社長の口癖らしい。 私は一日中、他人の文章の隙間を直した。 詰まりすぎた行間を広げ、 空きすぎた余白を詰める。 三日もすると、奇妙なことに気づいた。 文章のクセが、余白に出るのだ。 焦って書いた人は、行間が狭い。 自信のない人は、余白が広すぎる。 几帳面な人は、左右がぴったり揃っている。 私は、内容を読まなくても、書いた人の状態がわかるようになった。 ある日、営業のエースと呼ばれる男の報告書を直していた。 文字は整っている。だが、余白だけが不自然に広い。 妙に、スカスカなのだ。 翌週、その男は突然退職した。 理由は「体調不良」。 私は、なんとなく納得した。 それからというもの、余白を見るのが少し怖くなった。 人の心の隙間を、覗いている気がしたからだ。 ある日、総務から一枚の紙が回ってきた。 「社内文書の最適化が進んだため、余白係は今月で廃止します」 私は自分のデスクを片付けた。 最後に、ふと気になって、自分が書いた日報を見返した。 そこには、見たことのないほど広い余白があった。 文字は中央に寄り、周囲はがらんとしている。 まるで、誰かに遠慮して書いた文章のようだった。 そのとき、気づいた。 私は毎日、他人の余白ばかり直して、 自分の余白を、ずっと放置していたのだ。 机の引き出しに、配属時の社内資料が残っていた。 そこに、小さくこう書いてあった。 「余白係の目的は、文書の整形ではなく、 社員の心理状態の観測である」 私はその日、初めて有給申請書を書いた。 行間を、いつもより少しだけ広くして。

赤ちゃん大人

「飯」    炊飯器からご飯をよそう。  お鍋から味噌汁をよそう。  フライパンから肉野菜炒めをよそう。  一式を、テーブルに並べる。   「箸」    箸を並べ忘れたので、テーブルに追加する。  自分の分もよそって、フライパンを洗ってから、食卓に着く。   「風呂」    すぐに立って、お湯張りボタンを押す。  お風呂まで行かなくても、お湯を入れてくれるのは便利だ。   「パジャマ」    そのまま、台所を出て、リビングまで。  まだ畳んでいない洗濯物の山の中から、パジャマを一式ひっぱりだす。  後は、下着とパンツ。  パンチはくたびれてみっともないが、穴が開くまでは買いかえれない。    台所に戻ってきたら、既にお風呂の中。  テーブルの上には、空っぽのお皿と箸が残っている。    私がご飯を食べ終わる。   「ビール」    冷蔵庫を開けて、ビール缶を取り出す。  ビールをジョッキに注ぐ。  テーブルに置く。    椅子に座って、テーブルの上に残っているお皿と箸を見ながら顔をしかめていたので、急いで片付ける。  ビールを飲みながら、急かすような目を向けて来る。        出世おめでとう。  同期で最速らしいじゃない。  仕事って、随分簡単なんだね。

ブランコの順番

夕方の公園は、いつも少しだけやさしい。 滑り台のてっぺんで笑う子ども。砂場で黙々と山を作る子ども。 その周りで、親たちはスマホを見たり、空を見たり、わが子だけを目で追っている。 私はベンチに座り、娘の紗菜がブランコに乗るのを見ていた。 「つぎ、かしてね」 後ろに並ぶ男の子に、紗菜は小さくうなずく。 ブランコがゆれる。 きゃっ、という声が風に混ざる。 この公園に来るようになって三年。 顔は知っているけれど、名前は知らない親子ばかりだ。 その中に、一人だけ、よく見る父親がいた。 いつも同じ時間に来て、同じベンチに座る。 帽子を深くかぶり、ほとんどスマホを見ない。 ただ、子どもを見ている。 今日は、その子が紗菜の後ろに並んでいた。 順番が来て、紗菜はブランコを降りる。 男の子が嬉しそうに座る。 その父親が、軽く会釈をした。 私は、つられて会釈を返した。 それだけのことなのに、なぜか少しだけ、胸の奥がほどけた。 帰り際、手を洗いながら紗菜が言った。 「さっきの子ね、いつもひとりなんだって」 「そうなの?」 「ママいないんだって。パパが言ってた」 私は蛇口を閉める手を止めた。 ふと、その父親のことを思い出す。 静かに、ただ子どもを見ている姿。 ベンチに座る時間の長さ。 帰るタイミング。 誰とも話さない理由。 次の日も、その親子はいた。 紗菜がブランコを譲ると、男の子は嬉しそうに笑った。 「ありがとう」 はっきりした声だった。 私は、思い切って声をかけた。 「いつも同じ時間ですね」 父親は少し驚いた顔をして、それから微笑んだ。 「生活リズムが、これしかなくて」 会話はそれだけで終わった。 でも、それから、会釈が挨拶に変わった。 「今日は混んでますね」 「日が伸びましたね」 たわいもない言葉が、公園の空気に溶ける。 ある日、その親子の姿がなかった。 紗菜が何度も入り口の方を見る。 「今日は来ないね」 次の日も、その次の日も来なかった。 少しだけ、寂しかった。 名前も知らないのに。 一週間後、久しぶりに姿が見えた。 紗菜が駆け寄る。 男の子も走ってくる。 ブランコの順番を、また自然に譲り合う。 父親が言った。 「引っ越すことになって。今日が最後なんです」 私は、なぜか言葉に詰まった。 「そうなんですね」 それしか言えなかった。 帰り際、男の子が紗菜に手を振る。 紗菜も、大きく振り返す。 父親が、深く頭を下げた。 「ありがとうございました」 何を、とは言わなかった。 でも、分かる気がした。 同じ時間に、同じ場所に来て、 同じように子どもを見ていただけの関係。 それでも、確かにそこに、支え合っていた時間があった。 帰り道、紗菜が言った。 「また会えるかな」 「どうかな。でもね」 私は紗菜の手を握る。 「今日、ちゃんと順番、貸せたね」 紗菜はうなずいた。 公園には、名前のない関係がある。 挨拶だけのつながり。 会釈だけの安心。 それでも、人は少しだけ救われる。 あのブランコの順番みたいに。

記録

 日記を書く習慣が、母にはあった。  押し入れの奥から、段ボール一箱分が出てきた。一九八〇年代から書き続けた日記帳が、年ごとにきちんと並んでいた。几帳面な人だったから、日付も欠かさず、筆跡も乱れていなかった。私は相続の整理をしながら、一冊だけ手に取った。私が生まれた年のものだった。  母の日記は淡々としていた。天気、食事、夫の帰宅時間。感情の起伏はほとんど書かれていなかった。それでも読み進めると、ところどころに私のことが出てきた。 七月十四日。恵が笑った。 八月三日。恵が立った。  短い記録だったが、その短さがかえって愛おしかった。私は次の箱から翌年の日記を取り出した。私が二歳になった年。それも同じ調子で、淡々と日常が記されていた。  十冊ほど読み進めたところで、私が小学五年生の年の日記を開いた。あのころ私は太り始めていた。クラスで一番体が大きくて、それを気にしていた時期だった。  六月のページに、こんな一文があった。 恵のこと、先生から電話があった。クラスの男子に叩かれているらしい。恵は何も言わなかった。  読んで、胸が痛んだ。覚えていた。あの頃、太っているというだけで、何人かの男子にからかわれていた。叩かれたことも、あった。母に言えなかった。心配させたくなかった。  でも母は知っていたのだ。  続きを読んだ。 担任は注意すると言っていた。様子を見る。恵には何も言わないでおく。  私は日記を閉じなかった。その先を読んだ。七月、八月。私へのいじめに関する記述は続いていた。担任との電話のやりとり、父と話し合ったこと、このまま転校させるべきか迷ったこと。私がまったく知らない場所で、母はずっと動いていた。  九月のページに、こう書いてあった。 恵、最近よく食べる。よかった。  私は笑った。そういう人だった。  冬のページをめくった。いじめの記述は少しずつ減っていた。代わりに、私の体重の記録が始まっていた。 十二月。恵、また少し増えた。六十二キロ。  几帳面な母らしかった。月ごとに、私の体重が記録されていた。私自身、自分の体重をそんなに正確に把握していなかったのに、母は知っていた。測っていたのではなく、おそらく私が無頓着に口にしていた数字を、書き留めていたのだと思った。  中学、高校と、体重の記録は続いていた。増えた年も、少し減った年も、すべて書いてあった。  私は二十年分の日記を一気に繰った。就職、結婚、離婚。私の人生の出来事が、母の視点から淡々と記されていた。感想はほとんどなかった。ただ事実だけが並んでいた。  最後の日記帳を開いた。母が倒れる前の年のものだった。  最後のページに、こう書いてあった。 十一月。恵が電話してきた。元気そうだった。体重のことは聞かなかった。もう関係ないと思って。  私はそこで手が止まった。  もう関係ない。  その言葉が、妙に引っかかった。体重がもう関係ない、という意味だと思った。娘が中年になって、体重など気にしなくていい年になった、そういうことだと思った。  でも次のページを見て、私は息が止まった。  日付は同じ十一月。走り書きで、一行だけ。 先生に言われた。年内かもしれない、と。恵には言わない。  私が母の死の知らせを受けたのは、翌年の二月だった。  突然だった、と思っていた。  ずっと、突然だったと思っていた。

ちょうどいい距離感

月曜の朝、エレベーターの扉が開いた瞬間、胸の奥が少しだけ重くなる。 そこに立っているのが、三浦だったからだ。 三浦は誰にでも笑顔を向ける。特に課長には。 声のトーンが半音上がり、相づちが増え、気遣いの言葉がやけに多い。 「おはようございます!課長、昨日の資料すごく勉強になりました!」 その横で、私は無言でコーヒーを買う。 私の前では違う。 言葉の端に、わずかな棘がある。 「それ、まだやってなかったんですか?」 「え、普通そう思いません?」 本人は悪気がない顔をしている。 でも、確実に空気は削られる。 最初は、気のせいだと思おうとした。 人の受け取り方なんて、それぞれだと。 でも、気づけば私は、三浦の機嫌を無意識に読んで動くようになっていた。 課長が近くにいるときの三浦は、別人のように気さくで有能だ。 その横で、私はだんだん無口になっていった。 ある日、ふと思った。 なんで私は、この人に合わせているんだろう。 嫌いな人に、好かれようとしていることに気づいた瞬間だった。 その日から、私は一つだけ決めた。 「業務以外の会話をしない」 挨拶はする。報連相もする。 でも、雑談はしない。相手の顔色も読まない。 三浦が話しかけてきても、必要なことだけを、丁寧に、短く返す。 最初の数日は、少し空気がぎこちなかった。 三浦も違和感に気づいたらしい。 「今日、静かですね」 「そうですか?」 それだけ返した。 不思議なことに、心が軽かった。 気を使わなくていい。 無理に笑わなくていい。 嫌いな人に、好かれなくていい。 ある日、課長が私に言った。 「最近、仕事に集中してる感じするな。いいね」 三浦はその横で、少し黙っていた。 私は何もしていない。 ただ、距離を取っただけだ。 それだけで、こんなに楽になるのかと思った。 三浦は相変わらず、課長の前では明るい。 私の前では、少しだけ静かになった。 きっと気づいたのだ。 この人には、もう通用しないと。 嫌いな人を変えることは出来ない。 でも、距離は自分で決められる。 帰りのエレベーターで、三浦と二人きりになった。 沈黙が流れる。 以前なら、私は何か話題を探していた。 今は、ただ、静かに階数表示を見ている。 扉が開く。 「お疲れ様です」 三浦が言った。 「お疲れ様です」 それだけで十分だった。 外に出ると、夜風が少しだけ心地よかった。 私はやっと、ちょうどいい距離を見つけたのだ。

穴の中から見上げる多様性

 穴に落ちた。  すっごい深い穴に落ちた。  どれくらい深いかと言うと、両手を伸ばしてジャンプしても、脱出できないくらい深い穴だ。   「だ、誰かー!」    穴の外に向かって思いっきり叫んだ。  何人かは穴を覗いてくれて、私と目が合った。  しかし、言うことは皆同じ。   「まあ、多様性の時代だしね」 「穴の中で生きる人がいてもいいよね」 「人は人、私は私」    誰も手を差し伸べてくれない。    私は一生穴の中にいるしかないんだと気づいたとき、私は現状を個性と呼ぶ覚悟を決めた。

ラヴ・ポーション No.9

 荷台にたくさんのボンベを載せた軽トラが、路地を走っていた。ガス会社の軽トラだと思った。でも、よく見たら違った。ボンベには『信心』と書かれていた。『信心』のボンベを載せた軽トラは、小さな角を曲がっていった。あの角の先には、確か、新興宗教の施設があったはずだ。どこも大変なんだな。いくらくらいかかるんだろう。軽トラを見送って、コンビニにガス代を払いに行った。

九月一日は

親友であり幼馴染の華織が死んだ自殺だった。  原因は部活内での虐め。 九月一日二時丁度に飛び降りる華織を監視カメラが捉えていたそう。  華織の部屋に遺書が置いてあったらしい、その内の一つが私宛の手紙だった。 「命へ  何にも言えなくてごめん。  命のことだから何か出来ることがあったはずって、自分を責めるかもしれない。  でもそんなこと絶対にない。  命は何にも悪くない、命と話す時間は楽しかった。  命、今までありがとう、私の親友で幼馴染で、側にいてくれて、命といたこの十数年楽しくて、幸せだった。私の心の拠り所で本当にありがとう。  約束『おばあちゃんになっても一緒にいる』守れなくてごめん、命、大好きだよ、ありがとう。」  これを読んで華織が死んで初めて泣いた。  心のどこかで華織が死んだことを受け入れなかったのかもしれない。  それからバレーボール選手という夢を捨て、教師になった。  周りからは反対された。キャプテンになる予定もあるのに勿体無いと。  それでも教師になりたかった。  今年初めて担任を持つ、緊張しながらもドアを開け、教卓に立ち自己紹介をした。 「初めてまして1年4組の担任になった朝野命です。  趣味はバレー、女バレの顧問もしているので是非入部お願いします。嫌いなことは虐めです高校2年生の時、親友が自殺しました。」  「私は親友みたいに死んでしまう子を、私みたいに置いてかれてしまう子を、減らしたくて教師になりました。」  「どんなに些細なことでも良いです。  少しでも苦しい、辛い、そう思ったら周りの人達を頼ってください。  友達でも教師でも親でも誰かに相談して溜め込まないでください。  私はこのクラスが助け合えるクラスになって欲しいです。  長くなってしまいましたが私の自己紹介を終わります」  もうすぐ夏休みが終わり、二学期が始まる。 「命先生」  後ろから私が担任を務めているクラスの一瀬沙希が話かけてきた。 夏休みの間、バスケ部に一度も顔を出していなかったそう。 「一瀬さんどうしたの?」 「ちょっと相談したいことがあって」  話を聞けば部活で3年生を中心に嫌がらせを受けているらしい。  そういう子を減らしたいと思っていても、出来ることは本当に少ない、私にできる最善は、一瀬さんを死なせないこと。  今、私は何をするべき? 九月一日は一年で最も『子供の自殺』が多い日。  

Bad City

 街に建つある一棟の雑居ビルの、歩道に面している外壁から、一対の、人間の腕が生えていた。いつから生えているのかは知らないが、ずっとそこに生えていた。不気味ではあったが、無害なので放っておかれていた。ある休日の夕方、飲み屋に行こうと歩いていた時、たまたまそのビルの前を通りかかった。すると、腕の前に、一人の女の子が立っていた。まだ幼いその女の子は、腕に色々話しかけていた。そして、おそらくキャンディーかグミを、小さな肩掛けカバンから取り出して、その腕の手に握らせた。腕はキャンディーかグミを受け取ったのとは逆の手で、女の子の頭を撫でた。女の子は嬉しそうだった。するとそこへ、女の子の母親らしき女性が駆け寄ってきて、女の子を抱きかかえて、慌てて逃げていった。腕は寂しそうだった。俺は飲み屋へ向かった。数時間後、居酒屋からの帰り、ほろ酔いで再び同じ道を歩いていた。ビルの前を通り過ぎる時、あの腕を見た。腕には、手錠がかけられていた。あらら。よく見ると、腕には、出来たばかりと思われる小さな痣があった。世知辛い世の中だ。俺は近くのコンビニに寄り、酒とつまみを買って帰宅した。

東京ららばい

 朝、目が覚めた。ホテルのベッドだった。白い夢を見ていた。隣で男が寝ていた。知らない男だ。私はベッドから抜け出した。大きな鏡が目に入った。寝癖を手で撫でながら鏡の前に立った。そこに映っていたのは私ではなかった。一丁の巨大な絹ごし豆腐だった。白く四角く艶やかな絹ごし豆腐だった。私が首をかしげると鏡の中の豆腐がかすかに揺れた。その時ふいに背後に気配を感じた。振り返るとさっき隣で寝ていた男が立っていた。やはり知らない男だ。男は優しいほほ笑みとともに私を抱きしめた。私は男の胸に顔をうずめた。すると男がキスを求めてきた。私はそれを断って鏡を見た。男は私を背後から抱きしめていた。鏡の中の絹ごし豆腐にかつお節がかかっていた。

学生街の喫茶店

 駅に停車している電車に乗り込み、座席に座り、発車を待っている時、車両の外を、車掌が通り過ぎた。背筋をぴんとのばして歩いていく。その車掌の頭の上に、何かが載っていた。よく見ると、それは一匹のカエルだった。車掌とともにまっすぐ前を見ている。車掌はそのまま歩き去っていき、それからしばらくして電車は発車した。少し経ってから車内アナウンスが流れる。「本日は……」お決まりの挨拶だ。電車は走る。単調な走行音と、窓から射し込む暖かい日差しによって、少しうとうとしてきた時、天井のスピーカーから不思議な音が聞こえてきた。「けろけろけろけろ……」すぐにそれがカエルの鳴き声だとわかった。たぶんさっきのカエルだろう。窓の外を見た。そうしろと言われている気がしたのだ。窓の外には田園風景が広がっていた。その田園風景の中にある小さな駅で、電車が停まった。扉を開けて駅のホームを見ると、車掌が立っていて、その車掌の頭からさっきのカエルがぴょんと跳んで、駅の改札の方へ消えていくのが見えた。それからすぐに電車は発車した。もう一度眠るために、再び目を閉じた。

内緒の背伸び

給食のとき、たまに出てくるコーヒー牛乳が飲めるんならコーヒーくらいたやすく飲めるんだろうと。けど、なかなかにその壁は高かった。まず何がって親の存在。「生意気な」「子どものくせに」とコーヒーへの関与をことさら認めてくれない。そうなってしまうとこっちとしてもあきらめがつかない。なんとかしてコーヒーを、と思ってしまうもの。 それで夜遅く、こっそりコーヒーをいれてみる。インスタントで手早く。バレないように、バレないように… カップラーメンのときとは違い、どうしてだろうか、やけに時間をかけて丁寧にお湯を注いでいた。カップが満たされると、大人の香りが鼻をくすぐってくる。 ふへへ ヘンな笑いが出てしまう。 ぐえっ はやくしろっ、と喉も訴えてくる。 さっそく、ちょびっと一口すすってみた。 「うへっ」 給食のコーヒー牛乳とはまったく違う。激しく突き放してくるような苦味に、したくなくても顔が歪んでしまう。期待したおいしさは微塵もなかった。これが大人の味なのか。 「背伸びしすぎよ」 背後で声がした。振り返ると呆れ顔の母さんが立っている。怒られるかと思いきや、母さんは無言で冷蔵庫から牛乳を取り出し、僕が手に持っているカップに注いでいく。 「まったく。内緒だよ」 白く濁った液体を口に含んでみると、すうっとやさしく喉をすべり落ちていった。 結局、その夜は、コーヒーのせいもあってか、ちっとも眠れなかった。 窓の外が白みはじめるのを眺めながら思った。ホンモノの黒い一杯を飲めるようになるまで、どれくらいの月日をすごし、何杯くらいの苦さを超えていかなければいけないのだろうかと。

sound50 ふらりふらり

サンシェードが溶けていた。瑠璃色と白銀色のぱりっとした体躯で胸を張り、フロントガラスの背後で警備に当たっていた筈なのに。今や、どろりとスライムのように寝そべっていて、見る影も無い。 車を離れたのは、ほんの数分。姿形を変えてしまう程に、待ち侘びていたと言うのか。 ──ふらり、ふらり。 風に煽られながら、小さな雨粒が視界を訪れた。しおしおと窓を伝う姿は、宛ら溶けた日除けの涙のよう。思わずワイパーを動かし、優しくその雫を掬った。

叫び

男は納豆パックの蓋を開け、かき混ぜた。勢いよく回される箸によって、豆の一粒一粒が繋がり、一体となっていく中、ただ一粒の納豆だけが混ざらずにパックの隅へと追いやられた。このままじゃ落ちてしまう、なぜ、同じ納豆じゃないか──地面に取り残された一粒の納豆に、男が気づくことはなかった。

二行 4

1 ただでさえ透き通り、色の無い雨達。 彼等が幽霊になったら、誰が存在に気付けるだろうか。 2 雨粒を噛み潰したような顔で、珈琲が此方を睨む。 苦虫を噛み潰したような味のくせに。 3 ざぶりざぶり、頭の中に雨を注いだ。 頭痛も寝不足も感じなくなると思ったから。 4 目の前の人間が雨に襲われている。 酷く羨ましくて、彼が手にしていた傘を奪い取り、太陽を貫いた。 5 今日は雨が降らなかった。 昨日の日向ぼっこに嫉妬したのだろうか。

資産

 そのお金持ちは莫大な資産を持っていた。 しかし人望がなかった。 いくらお金を払おうとその人のために働く人はいなかった。 その人の周りにはその人と同じような資産を持つ人が集まった。 しかしお金を持っているだけで特別何かの才能や技能があるわけではない。 その人たち以外の人達は別の国を作る。 皆で助け合い最低限のお金で回る社会だ。 お金を持っている人達は悔しくて武器を大量に買う。 その人達の国を攻撃するためだ。 しかし武器を買ったはいいがそれを保持、運営する人がいない。 その人達は恐ろしく人望がないのだ。 やがて金庫に大量の金塊と札束を持っている人達は人望を集めるための人心を操る機械を買う。 しかしその機械はうまく動かない。 その機械を作った人もお金持ちのことをどうでもいいと思って機械を適当に作り売り付けたからだ。 やがてお金持ちはお腹が空く。 しかしお金持ちに食べ物をあげる人はいない。 お金持ちは飢えに苦しみながらおにぎりを美味しそうに食べている小国の少女にそれを売ってくれと言う。 少女は言う。 「お金はいらないよ、まずは食べ物を作る知識と皆が暖かい布団で寝られる国を作るためにあなたが何をすべきか考えてね、それが出来たら食べ物をあげるわ。」

家の裏のパチンコ屋に行きそこにいたお兄さんと話す

 パチンコはやらないが(何か知り合いにやって儲けてそうと言われた)その喫煙所にいたお兄さんと話す。 今日は女の子に嫌われたかもしれないと話すと笑いながらどうしたのと?言われる。 何か都心の郊外で農業の仕事やるのは最先端らしいんですけどね、人手が足りなくて、と言う。 お兄さんは奥さんを連れて何処かに行く。 今日もご飯を食べられるのがありがたい。 近所の隣家では子供がはしゃいでいる声がする。 これで朝鶏でも鳴けば風情が出るなぁ、と思う。 何か今日は花粉症にでもなったのか鼻がズビズビ止まらない。 体調はいつも悪いのだが皆悪いのだと言い聞かせる。 弱っているのは身体ではなく心なのかもしれない。 コロナワクチンを打ったせいで脳がアナログとデジタルの中間の中国人みたいな思考になっちゃってる気がするんですよね、とお兄さんに言った。 まあ中国人になっちゃってもいいんだけど、と知り合いに言うと目指せ中国化、と言われる。 料理と武術と哲学の得意な中国人になりたい。 心は優しいままで。 漢民族は元々農耕民族なので農業をやるにはいいかもしれない。 まずは土作りから。 台湾の知り合いに手作りのお弁当を見せたらいい嫁来るよ、と笑顔で言われた。 中国の知り合い増やしたい。 団地で秋葉原の電器店に寄ってきてマイナンバー作りたいんだけど、と言ってきたあの中国の人はあの辺に住んでるんだ、と言っていた。 新宿の華僑のお店の中華屋さんで知り合いと飯を食い、美味しかったです、と言ったら笑顔で返してくれた。 環境なのか遺伝なのかは知らないけどちょっと前頭葉の機能が弱いです、と言われた。 今漢民族というかいわゆる中国人と言われる人達は遺伝子プールが片寄っちゃって前頭葉の機能が弱まっちゃってるらしい。 キレやすいのはそのためかもしれない。 ゴミ拾って列にならんで万引きしないで風呂入って歯磨いて歯医者行って電車では静かにしていて悪い事したら謝ってでも家では他人の悪口を言って歌歌ってゴミ出しして挨拶して落ちてる財布届けて交通ルール守ってちょっと帰り際自転車でながら煙草してたらチン!って言われて反省してでも煙草やめられなくてお酒飲まないで教会通ってモスク行ってヒンドゥー教の寺院も行かなきゃと思っていて社会性って習慣だよな、と思って歌を誉められて僕はちゃんと生活出来てるだろうか?と自問自答する。 今日も夜はふける。

梅と桜

 桜よりも梅が好きである、というと、怪訝な表情をされる。  「そうですね、梅も綺麗ですよね」とその場を取り繕いつつ、おそらくその人は「やれやれ、何か粋人ぶって、面倒くさいことを言っている」と腹のなかでは私のことを偏屈漢だと思っているかもしれない。  そうした人にわざわざ弁解するつもりはないが、別に桜が嫌いだと言っているわけではない。梅と桜、どちらも好きだが、どちらかというと梅の方が好きだと言っているだけである。  私だって、桜が咲けば桜を見る。枝の先についた淡い桃色の花を一つ二つと愛で、やがて散る時は花吹雪のなかに立ち、この世ならざる世界に立ったような想像をして楽しむ。桜には桜の良さがあるが、ただ私は梅の方に親しみを感じる。それだけのことである。  いつから梅の花をこれほど好きになったのか。  それに関しては、特にはっきりとした切っ掛けがあったわけではないから、明確なことは言えない。菅公の「東風吹かば…」の歌や、日野時代の歳さん(土方歳三)が豊玉の雅号でいくつも梅の句を詠んでいたからその影響を受けて私も好きになろうと努めた。そうした努力があったことは否定しない。もしかしたら、今年初めて好きになったのかもしれない。まあ、そんな話をしても仕方がないだろう。好きだと感じたのは現在であり、その気持ちを書き留めるために今、この小文をしたためているのだから。  さて、ここで改めて「なぜ私は、こんなに梅の花を見て、心が近づくのか」ということを考えてみる。  *  先日、榴岡公園を歩いた。桜はまだ一輪も咲いていなかったが、梅の花は八分から九分咲きといったところで、まさに盛りであった。空はよく晴れて、寒さもいくぶんやわらいでいたから、私はその梅の花を眺めながら、簡単なものではあるが昼食をとった。団子や和菓子の類をつまむ、いささか風雅な時間であった。  けれども、不思議なことに、その梅の前で足を止める人はほとんどいなかった。皆、通り過ぎていく。おそらくは、これから咲く桜の方に心を向けているのだろう。春といえば桜である、というのは、もはや疑いようのない共通認識であるから、それも無理はない。  しかし私は、その梅の前で立ち止まった。  まだ冷たい空気のなかで、誰に見られるでもなく、しかし確かに咲いている花。その姿を前にしたとき、私はふと、「桜と梅の違いとは、こういうことなのかもしれない」と思った。  梅は、人が春を感じるよりも少し早く咲く。寒さの中に踏みとどまりながら、静かに花を開く。  そして、やがて桜が咲き、人々の目がそちらに向く頃には、声高に主張することもなく、ひっそりとその役目を終えていく。  そのあり方に、私はどこか親しみを覚えたのだと思う。  誰に顧みられなくとも、ただそこに在ること。華やかに注目されることはなくとも、確かに咲いていること。その静けさに、私は心を寄せた。  だから私は、梅の花に向かって、心の中でこう言った。  「私はちゃんと見ているよ」と。  そしてその言葉は、もしかすると、花だけではなく、どこかの自分自身にも向けられていたのかもしれない。

身勝手な信頼性

某三丁目時代の人々は話好き仕事中も頻繁に 会話してた検査業務なのに私は皆器用人だと 素直に思った有る時迄皆美人で会話好き仕事 するより会話してる方が圧倒的に多いし私は 彼女達は選ぶ仕事間違えたと感じました多分 キャバクか御水向きだと思う位お喋り上手な 彼女達にメロメロに為る上司を横目で眺めて 大丈夫かこの職場此処はキャバクじゃ無いし 一瞬の見落としが大きなミスに繋がる重要な 作業だった事人間達は有る種幸せな生き物で 私は呆れながら彼女達がミスしない様に確認 して間違えそうに為なればストップと叫んで 声を掛けてた馬鹿真面目な私は其れを遣れば 彼女達が何時か仕事中のお喋りが減ると思い 必死に為ってたあの頃有る言葉を聞く迄私は 彼女達を信じてた私達がミスしない様に○○ さんがずっと見ていてと言われた瞬間愕然と して仕舞い当然遣る気が失せた役職手当すら 無い派遣同士の関係性だけで何を言ってるか 馬鹿らしく為って私はその場から離れた記憶 勿論その職場は倒産しました嘘の様な本当の 話だった有る種ずっと理不尽の中に存在した 自分に明朝の灯りが来るのだろうか神のみぞ 知るかも知れない現実的な物語

饒舌な姫様

「あー、えっと、本日はお日柄も良く...?」 「生憎、そんなありふれた前置きのスピーチを聞きに来たわけではございませんの。用件はなあに? 手紙に書かれていた通り、従者のひとりもつけずに来てあげたのだから感謝していただきたいわ」 「え。たしかに従者は連れてきていないみたいだけどさ、僕の視界には君の腕の中から僕を睨みつけている猫が見えるんだけど」 「ええ、それが何か? 貴方はここに私1人で来てほしいと書いていらっしゃったのだから、その通りにしたまでのことですわ」 「えっと、いやいやそうはならないでしょ!? 1人、即ち君ひとりでってことだったんだけど。え、普通伝わるよね...?」 「歳若く形式的な手紙のひとつもまともに書いたことのない貴方へ忠告してさしあげますが、自分が伝えようとしたことが漏れなく自分の意図した通りに他者に伝わるとは思わないことね」 「同い年だろ、同じクラスなんだから」 「私はひとりでここに参りましたわ。猫と共にいるからといって、ふたりで来たとは言わないでしょう」 「まあたしかに、君と猫が一緒にいるんならそれは『ふたり』じゃなくて『ひとりと1匹』だろうけどさ...」 「では貴方の懸念も解決したところで、改めて用件を仰ってくださらない? お昼休みが終わってしまいますわ」 「さっきから思ってたんだけどその喋り方どうしたの?」 「あら、私の話し方がお気に召しませんの?」 「いや4時間目までは普通だったのに、突然異世界ものの貴族令嬢みたいな話し方されたら誰だって驚くでしょ」 「マイブームですわ」 「唐突だなあ」 「先程の古典の授業で姫君というものに興味を抱いたので、まあ手っ取り早く姫君に成りきってみていますわ」 「国とか時代とか違くない? 絶対こてせんの前でやらない方がいいよ」 「我が校の国語科が誇る敬語警察の前でやるわけありませんわ、こんな適当な話し方。痴れ者め」 「急に武士みたいな語彙で貶された...」 「用件がそれだけならば教室に帰らせていただきますわね。というか呼び出すなら放課後とかにして下さらない? 貴方がお昼休み開始時間に呼び出すものだから、ランチがまだですの」 「それはごめん、いやこんな会話をしたいわけじゃなくて」 「なあに? それとも本当に『本日はお日柄も良く...』から始まるスピーチで私を感動させて下さるの? この間募集があったスピーチコンテストは英語限定ですわ、お間違えではありません?」 「それも違くて、...いや、君とこんなにお喋りできるってだけで僕には嬉しいことなんだけど、あの...伝えたいことがあって!」 「だからそれをさっさと言えって言ってるんですわ愚か者めが。これ以上引き延ばすなら貴方にこれの読み方を聞いてお終いということにさせますわよ。でははい、『子子子子子子子子子子子子』」 「猫繋がりがこんなところに!? というか今君が言っちゃってるじゃん!」 「あら、ごめんあそばせ。読み方も分かったところで今日の逢瀬はタイムアップですわ。ではまた」 「え、逢瀬って、あの、え? ......ま、待って! もう引き延ばさないから! 今すぐ言うから! 言わせて下さいお願いします!」

肉まん

とある主婦が、スーパーで惣菜を買い、銀行に立ち寄った。ATMの列に並ぶと、主婦の後ろに若いカップルが並んだ。「そうそう知ってる?新幹線で肉まん食べるの、禁止なんだって」「え、マジ」「だってあれ、臭うじゃん」主婦は手に提げた肉まんと餃子の入った袋の口を、そっと閉め直した。

腐りかけたリンゴが甘くなる

[「コンビニ行ってくるけど、なんか欲しいもんある?」    いつもそう。  私の彼氏たちは、私が冷めた瞬間に優しくなる。    何度も好きだと伝えて。  何度も体に触れて。  私はずっと、貴方の求めることに応えてきた。    それなのに、貴方は生返事。  家に新しい家具が一つ増えた、くらいの態度だ。  いや、だった。    私が、もう別れようかな、って思った次の日には、何故か態度を逆転させる。  ずっと欲しかった好きを口にしてくれる。  子供のように私に触れてくれる。  貴方が求める前に、私の心配も挟んでくる。    もっと早く欲しかった。    好きが冷めかけている貴方は、まるで腐ったリンゴ。  私が欲しかった甘い味を出してくれるけど、一口齧る度に不安になる。  お腹を壊さないかな。  食中毒で死なないかな。    私の歯型で削り落とした断面を見た後、私の視線は遠くのゴミ箱へと移る。  投げれば、きっと入る。

恋の特攻(あるいは恋じゃなくても愛じゃなくても)

 嫌われたかもしれない。 分かりやすく機嫌が悪い。 執着は身を滅ぼす。 次の恋へ。 玉砕しても草木は芽吹く。 めげずに引きずらずに。 色男は意中の娘に振り向いて貰えない。

フリーバグ

「フリーハグいかがですか?」    コンビニに行った帰り道、一人の女性が立っていた。    フリーハグの存在は知っている。  なんか、ハグしてくれるらしい。   「いいですか?」 「もちろんです」    名前も知らない人との、数秒間だけのハグ。  少しの緊張と、少しの温かみを感じた。   「ありがとうございます」    ぼくはそのまま彼女と別れ、会社に戻った。  どことなく、心がぽかぽかと温かかった。             「先輩お帰りなさい! バグ、三件増えました!」 「フリイイイイイバグウウウウウウウ!!!!」    温かい心のまま、体のエンジンを全力でぶん回す。  俺たちの徹夜はこれからだ。

最後の日

今日は卒業式。この学校にいるのも最後になった。 号泣している神田さん、笑っている桜山くん、花粉症の安部さん、みんな私の大事な同級生。 卒業証書を受け取って、最後なんだと実感させられる。 泣かないって決めてたのに、笑顔でって決めてたのに、涙が流れてくる。 普段は持ってないハンカチ、今日は持ってきてよかったな。

月のおとしもの

「◯◯さん、好きな人いるの?」 この手の会話は何度目だろう。私はいつも通り無難な回答をする。 恋愛感情。それはきっとみんな当たり前に持っているもの。 私は異星人みたいだ、と独りごちる。 家族愛、友愛は持っている。けれど私の中のどこに探しても「恋愛」は見つからない。 見上げれば綺麗な満月。ふと、「竹取物語」を思い出す。かぐや姫は沢山の求愛を受け流し、最後に月からの迎えで帰っていく。 いいな、と思った。けれどそんなものは無いことを私は知っている。これからもずっと「人間」として生きていく。ずっと少しの疎外感を感じて生きていく。 遠回りして帰ろう。このかなしみが落ち着くまで。 月に照らされながら。

平穏(仮)

昨晩、やけに長くサイレンが鳴っていた。 パトカーも消防車も、何台も通っていった気がする。 今朝、市から通知にはこう書かれていた。 「◯時◯分、△△で発生した火災は異常ありませんでした」 異常が、なかった? それなら、あの音は何だったのだろう。 今日も同じ道を通った。△△の近く。けれど、私の疑問を解決してくれるものは何も無かった。 違和感はある。 けれど、調べるほどの情熱もない。 だから私は、今日もいつも通りの一日を過ごす。あのサイレンのことも、たぶんそのうち忘れる。

俺の壊れた気持ち

壊れちまったんだ そう、俺はつぶやいた。 人々が行き交う通りの中でそうつぶやく俺だけ浮いていた。 君の総てを見せてよ!という様にキャラクターぶってしまう。 それは俺に生じたエラーとしてこの場では流されゆく。 君と共に生きたかった、そう思うときにはそれを今現在から延ばしていくルートが確かに湧いてきて、それが出来るかどうかが毎日の満足度に変わる。 花は桜君は美し、内容を思い浮かべながら、春の変わり目を感じて生きていたい。 短いのはこれが持つ表現の持続だと思う。 自分はそれに宿らせた命も力もそこに込めて生きていきたい。 そんな展開がまた次の季節を間近に連れてきたので俺は切り替えて次に向かう準備にかかる。 その世界では新たな理念に辿り着けていますように、それをこの世界から願う。

田中先生と猫と桜

ここに人の言葉を話す猫がいる。 彼は今、一人の人間のアパートで暮らしている。 「そこで爪を研ぐのをやめて下さい」 トイレに入っている田中アキラ先生がトイレに入ったまま言う。冷静に。 ドアから手を離し、ドアに向かって話す 「先生。今日は土曜日だけど学校に行くの?」 トイレットペーパーが巻かれる音がする。 「僕は軽音部の顧問なので、部活動がある日は学校に行かないとダメなんですよ。サクラさん」 水が勢いよく流れる音がする 僕の名前はサクラ。このアパートの大家さんがつけてくれた名前。黒猫だけどサクラ。大家さん曰く「庭の夜桜を見て一杯やっていたら、木の陰からお前さんが出て来て『これは夜桜の化身だ』と思った」らしい。夜桜の化身とは何か。分からないこと言うのが人間の特徴だ。 田中先生は黒縁眼鏡をくいと上げ僕を見る。腕時計を確認した後、僕を撫でてくれた。 「サクラさん。少し太りましたね。運動不足なんじゃないですか?」 「僕は太っても困らないよ」 「私が困るのです。サクラさん、長生きして下さい」 「長生きはするつもりだけど」 田中先生は胡座をかき、テーブル上でキーボードを叩く。僕は田中先生の胡座の中に入り丸くなり目を閉じる。 「後三十分したら出かけます」 田中先生は僕に言うとゆうよりは、宣言するように言った 「今は何してるの」 パチパチとボタンを押す音が雨のようで心地良い 「来週のテストを作っています。歴史の問題です」 「どんな問題なの」 「版籍奉還と言う出来事です。日本には各地に藩と言う縄張りが沢山ありました。縄張りにはボスがいてボスが一番偉かったのですが、その縄張りを、つまり日本の土地を天皇様に返す事になったのです。政府が全国を統一して管理するにはしなくてはいけないことでした」 「ボスは黙ってないと思うけどな」 「そうですね。実際は返した後もボスはボスでした。この頃の人間の社会はは、色んな事が変わっていき、今までの常識が通じなくなっていった頃です。当時の人はそれを受け入れるのに大変だったはずです。猫が喋れることを受け入れるような大変さです」 「良い変化だね」 「そうかもしれません」 田中先生はコーヒーを飲み干し、立ち上がりました。 「それでは行ってきます。家を出るときは窓を閉めていって下さい」 サクラは窓から外を眺める。葉もない冬の桜の陰から、先生が歩いているのが見えた。

未来視瓶

 空っぽの瓶の中では、小さな私が動いている。  一時間瓶の中では、一時間後の私が。  一週間瓶の中では、一週間後の私が。  一年間瓶の中では、一年後の私が。   「うわ。服にめっちゃタグ付いてる」    鏡で背中を見て見ると、一時間瓶の私と同じ位置に、クリーニングのタグがひっついていた。  私がハサミでちょんぎると、瓶の中にザザッとノイズがかかり、一時間瓶の私からもタグが消えた。   「あっぶな。デートやっちゅうねん」    彼氏に笑われ、私も恥ずかしさで笑い、そのまま頭を撫でられ、悪い雰囲気ではなかった。  そんな未来でも良かったが、最後まで真面目にデートを完遂させたい気分だからやむを得ない。   「よーし、後、後、五分」    スマホを確認すると、彼氏から家を出た連絡が届いていたので、スタンプを返す。  私も鞄の中身を指差し確認し、最後に瓶を指差し確認する。   「一時間後の私。予定通り、目的のカフェへ到着。遅刻なし」   「一週間後の私。ベッドでだらだら。……今週は疲れるだろうし、よしっ」   「一年後の私。……ちょっと待って、めっちゃ怒ってる」    一年後の今日、どうやら彼氏と大喧嘩するらしい。  しばらくじっと覗いていると、あっという間に五分が経った。    デート前に、嫌な情報をいれてしまった。  とは言え、未来は変えられるもの。  時期が近づけば、原因も見えてくるだろう。  私はスケジュール帳の一年後に印をつける。    一時間瓶の中にザザッとノイズがかかる。  私が店の中で躓いていた。  やってしまった、きっと余計な情報を入れたせいだ。  でも、もう修正する時間もない。   「んぎぎー! しゃーない!」    私は家を飛び出して、待ち合わせ場所へと向かう。    一週間後瓶で一週間前に見ていたデートは、楽しい笑顔で終わっていた。  がんがん変わってく未来の前では気休めでしかないが、気やすめで安心できるなら、未来を見るのも悪くない。    未来視瓶の売れ行きは最近悪いらしいので、終売しないかだけが目下の不安要素だ。

独立が絶壁 (掌編詩小説)

自立を急かされるお年頃 『依存』は最大の敵である 全ての依存が悪のように感じて そう思わせた自立に嫌気がさす 自立がなされた時 『依存』は最大の誘惑になるだろう これからを生きるには、過去から 独立しなければならない そう思わせた自立というものが嫌になる (完)

再会

 海に沈む太陽が夜を引っ張ってくる。  僕はね、君のことなんて何も考えていなかったよ。目が合えば笑って挨拶して、おしまい。久しぶりに会った友人に挨拶するように、何気なく「久しぶり、元気にしてた?」ってね。でも、そんなことをしたらきっと僕は続けてしまうんだ。「僕はまあまあだよ。今は右肩が痛いくらい。あとひどく眠たくて、ああ背骨も痛い」ってね。くだらない話で君を引き留め続けてしまう。本当に君に話したいことなんて一つもないのに。  今日が静かに落ちていく。  僕は君の流れ星になりたい。

風をあつめて

 漁船が海の真ん中に着く。漁師たちが仕掛けていた網を引き揚げる。網の中には、無数の注射器が入っている。船の中で一番ベテランの漁師が、そのうちの一本を手に取る。注射器の中には、透明の液体が詰まっている。ベテラン漁師は、よく日に焼けた自身の腕に、針を刺し、その液体を注入する。そして空になった注射器を海に投げ捨て、その場に座り込む。ベテラン漁師はじっと目を閉じる。深く息を吐き、吸う。その様子を、他の漁師たちはじっと見ている。やがてベテラン漁師は、肩を震わせ始める。閉じられた目からはらはらと涙がこぼれてくる。風が吹いている。ベテラン漁師は嗚咽を漏らす。他の漁師たちはそっと目を逸らす。しばらく泣いた後、ベテラン漁師は突然立ち上がり、涙を手で拭う。「死んだ娘が見えたぜ」ベテラン漁師はつぶやく「ええ薬じゃ」他の漁師たちはその言葉を聞き、一斉に網から注射器を次々と箱に入れていく。ベテラン漁師は遠くを眺めている。風が止む。

また逢う日まで

 夜の繁華街の街灯の下に若い女が立っている。女は美しい。女は目の前を通り過ぎていく男たちに意味あり気な視線を送っている。女は薄手のコートを着ている。女の足元には、大きな袋が二つ置かれている。やがて一人の中年男が女の前で立ち止まる。男と女は身振り手振りで交渉を始める。やがて女がうなずく。男は満足した顔で、女の手を握る。そしてそのままホテル街の方へ歩き出そうとする。その瞬間、女はコートのポケットから鉈を取り出し、男の手首を切り落とす。男は悲鳴を上げ、泣きながら走り去る。切り落とされたのは右手首だ。女はそれを拾い上げ、足元の二つの袋のうちの一つに放り込む。その袋には油性ペンで『右手』と書かれている。もう片方の袋には『左手』と書かれている。俺は女に近づき、袋を覗いた。女は誇らしげな顔をしていた。俺は『左手』の袋の中に詰められていた左手の中に、一つだけ右手を見つけた。「これ、右手だよ」俺がそう指摘すると、女は袋を覗き込み、やがて顔を真っ赤にして、俺に頭を下げた。その様子に俺はその女の純情を感じた。

She Loves You

 たくさんの人が行き交う朝の駅のコンコースを、一人の中年男が歩いている。男は片手に拡声器、もう片方の手に包丁を握りしめている。男は拡声器を構えて叫ぶ。「僕を刺しませんか!」人々はイヤホンで耳を塞ぎ、スマホを見ながら歩いているので、男に気づかない。「僕を刺してください!」その様子を、手を繋いだ母子がじっと見ている。疲れた顔をした母親は、ふっと幼い娘から手を離し、男に近づいていく。そして男に声をかける。男は母親に深々と頭を下げ、包丁を手渡す。包丁を握りしめた母親は、後ろを振り返り、幼い娘に向かって手を振る。母親は穏やかに笑っている。久しぶりに母親の笑顔を見たので、幼い娘は嬉しくなり、力いっぱい手を振り返す。人々が行き交う。

ラジオ聴こえるなにもしない

 今日も家。 身体が弱っているので何処にも出掛ける気がしない。 元気な奴らは何か元気。 主治医が足を引きずっている。 奴もポル・ポトの被害者。 ヒトラーも生まれ変わって絵を描いている。 トランプは負けるだろう。 アフリカの池からは日本人が産まれる。 生まれ変わったら保護しに行かなければ。 今世は国内組の僕は国内の寂しがり屋を苛められながら宥める。 皆やったりやられたり。 科学的に物事を見れば僕は人口削減の対象。 物語の端の端。 何故か牧師に登録されている。 イスラエルにお金を払ったからだろうか? 体制側に組み込まれ動けなくなる前にテロをしたい。 でも人殺しはよくないのでゲームをしている人達にヒントを貰って世に潜る。 ブラジル人の友達は中国のゲームをして僕のうちでパスタを食べる。 ラジオのパーソナリティーで処理をしてお金を払う。 でもそれはしなくても良かったかもしれない。 でも払ってしまってからは遅いのでうまく貯蓄に回してくれることを願う。 お金は身を守るために使って欲しい。 最近太っているので説得力がない。 小説のプロットを考えて世を過ごそう。 ラジオテロが流れる。 電波ジャック。 世界が終わると言われて久しい。 花嫁たちは色男の言葉を抱き忙しそうに働く。

羊羹

私が住んでいる家は、縦に細長い、三階建ての焦げ茶色。おんなじ家が隣にも、そのまた隣にも、連なって建っている。家と家の幅がすごく狭くって、まるで包丁で一つ一つキレイに切り分けた羊羹みたいな家だな──頂き物の羊羹を切り分けながら、私は一人、微笑んだ。

やれやれな夜に珈琲を

すっかり夜型の生活になってしまった 珈琲でも、と思い台所に立ってお湯を沸かす 沸くまでちょっと考えごと 気温が高くなってくるとチョコレートを食べなくなってしまうな チョコレートに、申し訳ないことよなあ、とは思うけど 夏になっていくんだ、しかたがない ああ、雨、降ってきたか 雨音であふれかえった部屋に、でも嫌な気はしないな 梅雨になって、かえるも、かたつむりも、訪れてくれないこの部屋 雨音は、こぞって足を運んでくれるっていうのに 結局、世のなか、個々人の人間関係的好き嫌いなんだな 政治にしろ、戦争にしろ 右でも、左でも、資本主義でも、共産主義でも なんだっていいんだ、日々の暮らしが維持されるなら 極端な話、独裁だっていい 日々の暮らしが維持されるんならね いつでも理由は後づけ 本音は、アイツ気に食わない、ってこと 利害や感情が複雑に絡まった人間関係や政治のドロドロとした本音を イデオロギーや宗教という正義という名の建前でコーティングしてしまってるだけさ ただ、アイツがムカつく、あそこの土地がほしい、だけじゃあ 大衆を納得させらんない、戦争に連れ出すなんて難しい だからイデオロギーや宗教が持ち出されて 単なる強盗が、正しい戦いにすりかわって… まったく、やれやれな話さ さてさて、お湯が沸いたか いらんこと考えて乱れた気持ちをしずめるとするか ゆっくり、ゆっくり、珈琲をいれるんだ ゆっくり、ゆっくり―

普通に憧れた

私には普通ができません。 普通を演じることはできます。だけど普通になることはできません。 みんながしている普通の恋愛ができません。 あの人イケメン!と言われたら共感はします。 〇〇くんってかっこいいよねー!と言われても共感します。 本当にイケメンだともかっこいいとも思っています。だけど付き合いたいとはなったことがありません。 普通の女の子は恋バナが好きです。だけど私は嫌いです。共感ができないからです。 彼氏が、〇〇くんが、って男の話ばっかりです。まあ、恋バナがだからそんなもんですが。 私は恋愛が嫌いなわけでも、人間が嫌いなわけでもありません。 ただ、ただ、男の人を好きになれないだけです。 別に男性にトラウマがあるとかそんなわけじゃありません。なんだか好きになれません。 友達として仲良い男の人はいますが、恋愛としては見れません。 男の人を好きになれない代わり、とでもいうべきでしょうか女の子を好きになります。 友達としてとかライバルとしてとかそういうのじゃないです。 恋愛としてです。 普通じゃないです。知っています。わかっています。  これが周りにバレたら、きっとハブられます。浮きます。 だから隠すのです。 適当に男の誰かを好きだということにして、好きでもないのに付き合うのです。クズです。クソです。わかっています。 だけどそうしないと恋バナにもついていけないし、普通にもなれません。 普通になるために、馴染むために。今まで好きになった女の子には気持ちを伝えられてません。 大好きです。普通じゃない私と仲良くしてください。って伝えたいです。 多様性とかよくいうけれど、そんなわけないです。 誰かが肯定してくれても誰かには否定されます。 一生こないであろう多様性の世界を待ち続けます。 私は健気にサンタさんを待つ少女のようです。

大嫌い

私はこのクラスが嫌い。やる気もは覇気も何にもないこのクラスが大嫌い。 このクラスの一員となったとき、私はワクワクしていた。だけど私のそのワクワクはすぐに裏切られた。 本当に大嫌いなんだ。 合唱コンクールで歌うのは3人ぐらい、体育祭のリレーのメンバーも決まらない。そんなこのクラスが大嫌い。 こんなクラスでいわゆる青春というやつはできるのだろうか。 三月になれば、なんだかんだ楽しかったなと思えるようになっていると思っていた。 だけど違った。むしろ逆、一年でこのクラスがどんどん大嫌いになった。 最後の先生と話す時間。 「田辺、この一年楽しかっか?」 「いいえ」 「そうか、どうしてだ?」 「盛り上がらなかったからです。」 「そうか、ごめんな」 先生は悲しそうな顔をした。なんだか申し訳なかった。 私はこのクラスが大嫌い。私が大人になってもきっと大嫌い。 ずーとずっと大嫌い。

林檎が丸の内を謳歌する

 今日もうちにいる。 林檎が食べたくなる。 喫茶店で談笑する女子は出会いを求め丸の内で仕事をする。 僕は都心の郊外で農業を手伝う。 林檎が食べたいが外は雨だ。 元ピザ屋のギター侍は丸の内と下町を行ったり来たりして狸を連れ回す。 僕は林檎が食べたい。 丸の内で働く人達はバナナを生産する。 僕は珈琲も飲みたい。 埼玉で珈琲が作られ始めたようだ。 犬のユリちゃんはおじいちゃんが亡くなって寂しそうだ。 丸の内からの終着駅で働く彼女に安定を。 郊外のスーパーで働く美人は何を思うのか。 美醜。 気質。 いるもの、いらないもの。 僕は林檎を買いに行く。 美人の店員さんは客単価の低さに今日も疲労を隠せない。 生産と効率性。 性衝動と安定。 僕は林檎を食べる。 偽物の林檎はショーケースに飾られ歌い踊る。 バナナは皆のものだ。 珈琲が売れている。 林檎は余っている。 象が食べるかもしれない。 イルカが浴槽で電波を受信している。 大使館に乗り込んだ人間は人間なりの怒りを示している。 基本的には前頭葉の問題だろう。 心は攻撃心を隠せるだろうか? 寂しそうな目にはミサイルの影がちらつく。 わかってほしくてちょっかいを出す男の子の目だ。