「あ、お客様! 財布忘れてますよ」 僕は客が置いていった、高そうな長財布を持って急いで出入口に向かった。店を出る直前だった、細身で長身の、何となくやつれた顔の男が振り返る。 「ああ……。それ、もう要らないんですよ。よかったら貰ってください」 「は……? いや、そういうわけには……」 僕の言葉も聞かずに、男は店を出ていった。慌てて追いかけると、その男は普通の足取りで至極当然のように車道へと踏み入り、 「え」 走ってきたトラックに跳ね飛ばされた。 一気に町が騒然とする。激突音にバックヤードから出てきた店長の「救急車呼んできて!」という声に生返事を返しながら、僕は財布を持ったままバックヤードに向かった。 その後、男は救急車に運ばれていったが、あの様子では生きていると考える方が難しいだろう。彼の最期の話し相手が自分になってしまっただけでも後味が悪いのに、目の前にはおそらく遺品になってしまった長財布。一応中身を確認したら、現金はもちろん、いくつかのポイントカードや免許証、キャッシュカードやクレジットカードには、暗証番号のメモまで貼られていた。本気で、誰かに貰わせるつもりだったのだろうか。 しかしながら、当然こんなものを懐に入れる気にはなるはずもなく、店長に相談した後、普通に警察に届けた。 まったく、嫌な目に遭った。しばらくは、良い夢は見られそうにない。 = = = その日死ぬ人を見分けられるようになったのは、いつ頃だっただろうか。いつの間にかわかるようになっていたし、そうなった理由もわからない。ただ、顔がブレて見える人は、その日のうちに死んでしまうことだけはわかっている。 始めは目が悪くなったのかとか、疲れているんだろうとか、そのくらいにしか思わなかった。しかし、顔がブレて見えるようになったその日のうちに友人や年老いていた母が死に、きっとこれはその予兆なのだと気づいた。 当然、どうにかできないものかと自分なりに策を講じてみたこともあるが、そのすべてが何の役にも立たなかった。今となってはもう、顔がブレている人に出会っても見て見ぬふりをしている。 その日もいつも通りに目覚めて、いつも通りに出社のための準備をしていた。そして鏡の前に立った時。 そこには、見慣れすぎた自分の顔は映っていなかった。というより、それが見えなかった。自分の顔がブレて見えることに気づき、自分の最期を悟った。 自分でも驚くほど、妙に冷静だった。その日はいつものように出社するのはやめた。会社に体調不良を理由に欠勤するという旨の連絡を入れると、出かけるためスーツに着替えた。これ以外に外出着はなかった。 それから貴重品を集めて、通勤で使っている鞄に入れた。財布に入れていたカード類に暗証番号のメモを貼り付け、いつも通りに家を出た。 いろいろなところに向かい、行く先々で貴重品を置いて回った。自分は独り身なうえ、母が死んでから親族ともすっかり疎遠で相続する人間もいないのだから、どうせなら誰かが拾って持って行ってくれた方が有意義だ。 今日死ぬことはわかっていても、いつ死ぬのかはわからない。しかし、死ぬことへの恐怖は不思議となかった。強いて言うのなら、それが一番恐ろしいのかもしれない。 やがて貴重品の大半をどこかに置き終え、残るは財布だけになった。都合よくコンビニがあったので、そこに立ち寄った。ATMでなんとなく1万円だけ引き出し、それを財布にしまうとそれを置いたまま立ち去る。出入口を出る直前、店員の青年に呼び止められた。 「あ、お客様! 財布忘れてますよ」 振り返って答える。 「ああ……。それ、もう要らないんですよ。よかったら貰ってください」 「は……? いや、そういうわけには……」 戸惑ったような彼の声を聞きながら、店を後にした。そしてそのまま、まっすぐに歩いた。 トラックに撥ねられるのは、あまり良いものではない。しばらくの間、右半身がかなり痛かった。 初めて知った。 (お題:「拾ったものを返しに行ったら、持ち主が『それ、もう要らないんですよ』と言った。」)
足のすねにキスマーク かゆくてしかたのないキスマーク 変な話だけれど これだから庭に出るのは となりの家から香る焼き魚のにおい 心がゆれてしまうの 今日の夜は鍋の予定 お魚は買ってないの またこんど
郊外の小さなアパート。 母親と男の子が暮らしている。 「これ、たくさん作ったの」 隣に住む年配の女性が、夕飯の余りを持ってきた。 「いつもありがとうございます」 中身を見ずに、冷蔵庫へ入れた。 男の子が、母親を見上げる。 「保育園、行こうか」 ヘルメットをかぶせ、後ろに座らせた。 「おはようございます」 「先生、おはようございます」 「これ、どうぞ」 保育士が、一枚の紙を差し出した。 「申請すると、町から支援金が出ますよ」 「いつもありがとうございます」 母親は折りたたんだ紙をカバンに入れ、自転車をこいだ。 「係長、おはようございます」 「子どもさん、大丈夫? 必要ならシフト調整するからね」 「いつもありがとうございます」 小さく頭を下げた。 ──その日の夜。 子どもを寝かせると、冷蔵庫からビールを取り出した。 「別に、そんな困ってないし……」 一気に飲み干し、もらった余りを箸で突いた。 「今日は何回……」 苦笑いで、電子タバコをくわえた。
海辺の丘に住む昆虫たちは、日々心地よい潮風に当たりながら楽しく遊んで暮らしていました。今日もお月様がお眠りになる頃、日の光を浴びて沢山の昆虫たちが顔を出し始めました。一際目立っているのが、精霊船の形に似た事からそう名付けられた精霊蝗(ショウリョウバッタ)という種類の蝗でした。時計の針のように真っ直ぐ伸びた触覚は左右違った方向を指しており、まだ明け方だというのに時計の文字盤でいう2時を指し示していました。 「やあ精霊蝗くんお早う。もう昼過ぎだと思ってびっくりしちゃったよ。」 蟷螂(カマキリ)は笑って挨拶しました。すると精霊蝗は 「ごめんごめーん。今何時〜?」 と尋ねました。触覚はまるで時間が巻き戻るように回りだすので、周囲の昆虫たちは一斉に笑いました。精霊蝗は気がちがっていましたが、ある一群を除いてみなそれを責めませんでしたし、仲良く暮らしていました。 ある一群とはアリです。彼らは時間を管理して働いていました。精霊蝗の前を通ると 「困るんだよね。そういうテキトーな事されると。」 と責め立てます。蟻たちは精霊蝗の大きな背中をよじ登ると、数匹がかりで触角にぶら下がるようにして、強引に時刻に合わせました。精霊蝗は苦しそうな顔をしていましたが、そんなことはお構いなしで蟻はまくし立てます。 「そうそう今は朝の6時。周りの君たちも笑ってないでガツンと言ってやったらいいんだ。まあ言ってあげられないからこんな現状になってるんだよね。という事でこれからは我ら昆虫で一丸となって、彼の触角を正しい時刻に合わせるようにしよう。私たち蟻は忙しいから、基本的には君達に任せる事になる。長針代わりの右触角と短針代わりの左触角は別々の昆虫に担当してもらう事としよう。一時間交代制で回すとして常に1匹の精霊蝗につき2匹の昆虫が付き添う事になる。勿論夜も寝ずに働いてもらう。時間は様々な場所で分かるほうが便利だから、まずこの周辺にいる精霊蝗の数えて、それで配置を決めよう。では始め!一旦これ以上の指示は控えるから、君達には自主的に動くように。では我々は仕事に戻る。任せたよ。」 苦い顔をする昆虫達に木枯らしが吹きつけました。
私は臨終看護師。仕事は単純だ。 臨終医の後ろをついて歩き、遺族の待つ部屋に入る。 そして、臨終医が「御臨終です」と告げたあと、 目を伏せ、軽く頭を下げる。 これが私の仕事。 そこに、ご遺体への敬意など必要ない。 それで、終わり。 母も看護師だった。 臨終看護師にはなるなと言われた。 なぜなら、それは過酷で、辛い仕事だから。 私は以前、手術室の看護師だった。 しかし、やりがいを見いだせず、異動を申し出た。 今はこの仕事に満足している。 先日、臨終医がペンライトを忘れた。 とっさに彼は胸元から万年筆を取り出し、目の上で振り、ごまかした。 私は気づいていないふりをした。 臨終看護師としてのたしなみだ。 この仕事は女優に似ている。 病室は舞台。 何も書いていないバインダーは小道具。 セリフはなくても、存在感だけで観客 ──ここでは遺族だが──を魅了する。 最近、臨終医をモデルにしたドラマが放送された。 しかし、臨終看護師の姿はなかった。 残念な気持ちはない。 その方がいい。 ある日、目の前で臨終医が倒れた。 私は慌てない。 何もしない。 それが美学だ。 そして彼は、そのまま旅立った。
キミの横顔を見つめるのは それが遠くからであっても 気持ちの上がることだけど バレちゃいそうで危うい こっそり こっそり いきなりこっちを向かれて 言葉もなく 表情だけで (なに?) とか不意打ちもいいとこ 狙ってなんてない だって ホントたまんない いくら自分にじゃないとはいってもさ あれがわたしに向けられちゃったら なんて そんなあり得ないこと このわたしが考えるわけない だって あり得ないから きっと あり得ない でも… もう知らない
「お疲れ様です」 「お疲れ様」 プルタブを上げ二人は同時にコーヒーを飲む あ〜とCM並みの溜息が出る 「昨日の帰り雨降ってたじゃないですか」 「あぁ、丁度降り始めたところだったよな」 先輩が煙草を加え火をつける 後輩がコーヒーをもう一口飲む 「僕の家、川の側で、道がかなり浸水していて、一面池みたいになってて」 「そんなに降ってたか」 「はい、こっちはヤバかったですよ」 先輩の口から黙々と紫煙が昇っていく 後輩からは先輩が煙の中にいるように見える 「公園を越えたら家なんですけど、公園の側のマンホールがズレて水が溢れちゃてて。こう噴水みたいに。こんな感じで」 「マジか」 先輩は後輩が噴水の真似をしているのを見て、それはよく分からないけど、と思う 後輩は額に汗を流しながら噴水の様を真似している 「スゲーなって見てたらマンホールからにゅーって、出てきたんですよ」 「えっ?出てきたって何が」 「あれ河童だと思うんですよね」 「河童?…あぁ怖い話してんのね」 「え?知りません?河童、緑色の体と頭に皿があって」 「いや知ってるよ。河童は。河童なんかいるわけないだろ」 「いや、いたんすよ。噴水がこうあって、シャワーみたいに凄い水で」 「いや噴水の話はもう分かったから。河童が本当にいたの?」 「はぁい」 「…はい。って。…じゃあその後、河童はどうしたの?」 「何か僕が見てたのに気がついちゃったみたいで、コソコソしてどこかに行っちゃいました」 「…あぁそぅなの」 「はぁぃ」 その日の帰り先輩が家に着くと、料理をしながら奥さんが七歳になったばかりの娘と笑いながら話している 「ただいま」 「おかえりなさい。あなた聞いてよこの子がね…」 「パパ!私ね。河童をみたよ。コンビニにいたの」 先輩は驚いて鞄を床におとす 「あなた、笑っちゃうでしょ」 「本当だよ。パパ、河童知っている?」 「知ってる知ってる。河童は知ってるんだよ。それで、か、河童はコンビニで、な、何をしてんだ」 「たくあんを持ってレジにならんでた」 妻が大笑いをしている 娘は本当だよと言うが、妻の笑い声につられて笑っている 「たくあんかぁ…妥協したんだな…」
朝早く、窓際に置かれた文机に、年寄りの男が座った。 便箋を前に、万年筆を握っている。 横には、分厚い英和辞典が置かれていた。 「あんた、何してんの?」 妻が声を掛けた。 「手紙だ」 「はぁ……誰に出すんだ?」 「あいつだ」 ニュース番組に映る、大きな男を指した。 「俺らの生活がキツいの、あいつのせいだろ」 指で机を叩いた。 「まぁな。でも、読んでくれないだろ」 「大丈夫だ。考えがある」 ニヤけ顔の男。 「友だちの友だちをたどると、7人目であいつに届く」 「バカなこと言うな」 「俺も知らんよ。でも、そうなってるらしい」 手紙を書き終えると、封筒に便箋を入れた。 「で……最初は誰に渡すんだ?」 「あぁ、公民館の将棋仲間だ。大学出らしいからな」 男は、封筒を手に家を出た。 ──数日後。 「おい。いるか?」 近所の魚屋のオヤジが訪ねてきた。 「おぉ、どうした」 「ちょっと、頼みがあってな」 その手には、見覚えのある封筒が握られていた。
カツ丼と、天丼と、親子丼で、たくさん迷って あげく全部注文しちゃうくらいであってほしいのに コイツときたら 「ああ、もう食べらんないよ」 ざるそばを前に弱音を吐く はあ、まったくさ 「あとひと口食べなよ」 「さっきからそればっか言ってさ」 「だってさ」 「それを続けてやっとここまで……」 「も少し続けたらなくなるよ」 「はあ……」 こっちが「はあ……」だよ、食事の途中でため息なんてさ たのしい食事にしたいのにさ そのくせ、お惣菜屋さんの前を通ったりなんかしたとき 「コロッケおいしそうだね」 とか言ってポケットから素早く財布を取り出してる 子どもなんだよなあ、コイツはさあ そんなコイツとうまくやってるわたしにしても やっぱり子どもなんだけどさあ
リモートワークが流行して、早数年。 通勤時間という余計な時間が無くなったことに、従業員たちは気づき、それを当たり前だと受け入れた。 一方、リモートワークによる生産性の低下が可視化された現代、企業は従業員たちに出社回帰を促した。 「弊社も、オフィス出社を基本とします」 「ふざけんなー!」 「なら通勤時間も出社時間にしろコラー!」 従業員の満足度と、企業の利益。 頭を抱えた役員たちは、従業員から出社したくない理由を集めた。 『通勤時間が無駄』 『通勤がコスパ悪い』 『毎日電車で一時間とか無理』 「従業員たちの気持ちは、よくわかった。本社への出社は、不要とする」 役員の決定に、従業員は歓喜した。 これで、自宅で仕事ができると。 「君たちの自宅の近くに、新しいオフィスを用意した。徒歩十分圏内だ。これで、通勤時間の心配もなくなったな!」 「え?」 従業員たちは、断る理由を探した。 しかし、散々通勤時間の長さと通勤時間のタダ働きを主張した後では、それらがクリアにされた企業からの提案を、飲まざるを得なかった。 「なかなかいい街じゃないか!」 「ハハッ。ソッスネ」 新たなオフィスの近くには、管理のために役員が一人引っ越してきた。 役員との距離が狭い小さなオフィスで、従業員たちは今日も仕事をする。 「お、奇遇だね」 「ハハッ。ソッスネ」 街に一つしかないスーパーで、休日は偶然役員と遭遇しながら。
トーストが こげてしまったのは 誰のせいだろう 誰のせいでも ないけれど 激しい このアタマの痛みは 誰のせいだろう 誰のせいでも ないけれど 打ちあけたいのに 言葉が出てこないのは 誰のせいだろう 誰のせいでも ないけれど それでも今日は 小さなことに 運がよかったと思えたから
僕は、一体何が――― ―――なにがしたいのかわからないんだね。 怖いんだ。■■に慣れることが。 ―――■■、なくなればいいのにね。 ■■、君にも? 君は寂しく嗤っていた。 僕は、「寂しく笑う」とはこういう顔なのだと、生まれて初めて君の横顔で思った。 ■■は天泣を呼ぶ。差せる傘は、君以外ない。君を傘にすることもできないけど。 僕は、一体何がしたいのだろう。 意味も無い問いを生み出す。言葉にして吐き出す。答えのないまま、辛くなる。今の気持ちを君以外の誰にもわからないようにして、短編小説をポエムと履き違える。どうしてそんな事を言うの。 どうして どうして どうして もういいよ 18:02に奪われていたのでしょう。 君は、どうかもう一度stAineD_glaSsを感じてほしい。 === ―――「さよなら」、なくなればいいのにね。 と、私は言った。 全部、知ってたよ。 === そう言ってほしい。妄想だ。
私は臨終医、仕事は単純だ。 静かな部屋に入り、相手を見て、時刻を告げる。 「御臨終です」 家族が泣きながら遺体にすがる。 そこに、家族に寄り添う気持ちなど必要ない。 それで、終わり。 父も医者だった。 臨終医になろうとしたが、なれなかった。 枠は少なく、選ばれたのは別の人間だった。 それでも父は言った。 「いい仕事だぞ」 理由は語らなかったが、その声が妙に耳に残った。 私は名門の医学部を出て、海外にも行き、博士号も取った。 回り道は多かったが、今はここにいる。 だからこそ、この一言は完璧でなくてはならない。 私は週に一度、ボイストレーナーに通っている。 発声練習の合間、鏡の前で無表情を確認する。 一度だけミスをしたことがある。 ペンライトを忘れた。 とっさに胸元の万年筆を取り出し、目の上で上下左右に振った。 近くにいた看護師も気づかなかっただろう。 最近、臨終医をモデルにしたドラマが放送され、志望する医学生が増えたらしい。 彼らは「御臨終です」の後に何か一言つけたがる。 私は何も言わない。 それが美学だ。 ある日、私は突然めまいがして倒れた。 目を開けると、ベッドの横で、若い臨終医が立っている。 「御臨終です。ご主人様は良い人生だったのでしょう。安らかな表情をされています」 私は思った。 まだ若いな──だが、悪くない。
生命には全て、生まれてきた意味がある。 「ふははは。怯えるがいい、人間ども」 この悪魔もまた、デスゲームによって人間を恐怖のどん底に落とすために生まれてきた。 「泣こうが喚こうが、敗者には死、あるのみだ!……あれ?」 間違いがあったとすれば、人類はとっくに滅亡をしていることだろう。 人工物が自然に押しつぶされ、動植物の楽園となっている地球で、悪魔はぽかんとした表情を浮かべた。 「え? あれ? デスゲームの参加者は?」 数千年後。 「うぎ。おはよぎ」 「惜しい! もう少し! はい、『おはよう』」 「ぼはよう」 「ああー、最初を噛んでる!」 悪魔は、猿に言葉を教え込み、人間並みに進化をさせようと努力をしていた。 デスゲームの開催には、知能の高い生物が必須。 「ほら、ご褒美だ」 「ウッキー!」 自身の生まれた意味を行使するため、悪魔は今日も育児に勤しむ。
うっかり斧を池に落としてしまった。そんなことあるのかって感じだけど、何時間も木を切っていたら、握る力も弱くなって、ついすっぽ抜けたんだ。切らなきゃいけないノルマもあるのに、これでは上司に怒られてしまう。うちの会社も金があったらチェーンソーとかでやれるのに。 ズボンの裾をまくりながら、覚悟を決めて池に近づく。 そのとき、ざばーっという音とともに、池から女の人が出てきた。その人は水面から少し浮きながら、話しかけてきた。浮きながら?というかよく見ると服も濡れていない。 「こんにちは、木こりさん」 「あ、佐藤木材株式会社の鈴木です。あの、どちらさまで?」流れで挨拶する。 「では、ススキさん」 「スズキです」 「スズキさん、私はこの池の女神です」 「なるほど」とりあえずこの変質者を通報しよう。 「本物です」自分で言うな。というか、心を読んでます?「心を読んでます?」 「そう思うんだったら、二回言わなくても良いでしょう。ちゃんと心からも聞こえてますよ」 そういうと自称女神は両手を上に掲げる。するとそこに突然、金色と銀色の斧が現れた。 「すいません、こういうマニュアルなんで聞きます。あなたが落としたのは金の斧ですか?それとも銀の斧ですか?」 あー有名なやつだ。「そう、有名なやつです」「心読むのやめてください」 女神は無視して勝手に続ける。 「なるほど、あなたは正直者ですね」 「まだ何も言ってないんですけど」 「では、普通の斧を返します」 おい。「おい、マニュアルどうした」 「二回言わないでください。それに、誰も持って帰らないから、普通の斧ばっか貯まってくんですよ。深い池じゃないから、寝るのにも窮屈で」 「…あの、ずっと思ってたんですけど、泉じゃないんですか?」 「昔は泉でしたが、段々汚れてきてしまって。これも普通の斧があるからですよ、錆びやすいんですもん。それにたいして金銀はすぐに持ってかれるし、最近は値段も上がって作るのが大変だし」 「世知辛いですね」 「まあ池より海の方が辛いですよ」 どういうこと?「どういうこと?」 「だから二回言わないでください。ちょっと言いたくなっただけです」なんだそれ。 「とりあえず、一旦。一旦は普通の斧返しますね、これ以上要らないんで」 分かりましたと言って受け取る。 「でも思いません?ただ正直なだけで得するなんてずるいでしょう。正直なのは私達も一緒なのにいつも女神側が損をします。それに落としたのはそちらなのですから、帰ってくるだけ万々歳でしょう」 貰えると思ってたのに、貰えないのってかなりきついんですけど。精神的賠償が必要だ! 「うるさいですね」「まだ何も言ってなi「とにかく!もうマニュアル通りは止めたんです。真面目な人は質素な暮らしで満足できるでしょう」 そう言うやいなや、女神は「時代は変わりました、金は高いんです」と言いながら池に潜ろうとしていく。 「…あの、」 「何ですか?」女神は潜るのを止めた。 「マニュアル、守らなくて良いんですか?」 「バレなきゃ犯罪じゃないんです」 「誰に?」 「天国の偉い人です」 「僕って真面目で正直なんですよね」 「……そうかもしれませんね」 「じゃあ、天国行けそうですね」 女神がまた潜り出す。 えーっと、大変言いづらいんですけど。 「心の声ですし、言ってすらないですよ」もう頭しか出ていない。 金の斧、貰えます?チェーンソー買いたいんで。
少年A さんがポストしました 少年A:ちょっと愚痴言いたい →アンチ犬派:いいよー 中年A →少年A:中年Aやめてくれ 現役中学生だし →アンチ犬派:原液(元)中学生の間違いでしょ →たまごどうふ:私も愚痴言いたいです 上司はクソーーーー! 少年A:それなー →少年A:ゴホンゴホン えー それでは言います →アンチ犬派:風邪気味? →たまごどうふ:どうぞー →フラれましたー →アンチ犬派:知ってたww →たまごどうふ:どんまいです! →え?何かみんな軽くない? →アンチ犬派:自分がフラれたわけじゃないので →少年A:ひどい →アンチ犬派:ひどくない →少年A:病めるときも健やかなるときもでしょ? →少年A:悲しみを分かち合うんでしょ? →アンチ犬派:五セント頂きます →少年A:ル ー シ ー →少年A:というか職人まだ来てなくない? →アンチ犬派:たぶんAと違って忙しいんでしょ →たまごどうふ:フラれたのって例の子ですか? →少年A:例の子です… →アンチ犬派:今見るとキモい 【少年A:好きな人できた!背は低めで目が大きくてハヤシライスが好きだって!落とした消しゴム拾ってくれた!】 →少年A:過去のピュアな俺を晒すなー →髪職人:えwフラれたのかお前ーww →少年A:職人遅い! 慰めてくれー →髪職人:地球上に女の子は何人いると思いますか? →少年A:35億! なんか元気出た… →髪職人:まあその子は一人ですけどね →少年A:あげてから落とすタイプ? →甘党:はじめましてー 私も話していいですかっ →アンチ犬派:え!ご新規じゃん!よかったなA →少年A:はじめましてー まったり話しましょ →アンチ犬派:猫被ってやがる… →甘党:えー実はですねっ →甘党:今日フッたの私ですっ! →アンチ犬派:なにっ! →髪職人:なんだとっ! →甘党:ですですっ! →たまごどうふ:本当ですか? →甘党:本物ですっ →甘党:私も愚痴があって来ましたっ! →甘党:クラスみんなの前で告白とかないだろっ →甘党:気まずいじゃろこらっ!! →甘党:断りにくくさせるのずるいっ! →甘党:さっきので好感度二十七下がりましたっ! →アンチ犬派:前なんだったの? →甘党:九十くらいはいってましたっ →アンチ犬派:やっちまったなA →甘党:なのでっ →甘党:次またポイントが九十くらいまで貯まったらもっといい告白してくださいっ →待ってますっ! →たまごどうふ:あの →たまごどうふ:ちょっとひどいんじゃないですか? →たまごどうふ:いつもあんまAさん愚痴とか言わないんですよ →たまごどうふ:もうちょっと優しい言い方して欲しいです →たまごどうふ:甘党さん? →たまごどうふ:甘党さん? →たまごどうふ:甘党さん? →髪職人:Aも喋らなくなっちゃってますね →髪職人:A大丈夫ですか? →髪職人:生きてます? →少年A:生きてるよ… →少年A:叫びます →少年A:なんであんなの好きになっちゃったんだああああああああ →アンチ犬派:穴に埋めるくらいの気持ちで吐き出しちゃいなー →少年A:でもーーーまだ好きーーーー嫌いになれないーーーーー →アンチ犬派:なんでだよーーー →たまごどうふ:Aさんの叫びは →たまごどうふ:草が生えちゃうまでは秘密ですよー →髪職人:あの子は忘れろーーーww →アンチ犬派:あ →髪職人:あ →たまごどうふ:は? →髪職人:すまんごめんおれのにまだはんえいされてなかったまじごめ →アンチ犬派:秘密しゅーりょー!
ある日の夕方。 テレビのローカルニュース。 アナウンサーが原稿に視線を向けた。 「今日の午後、17歳の高校生が民家に忍び込み、現金3,000円を盗んだ容疑で逮捕されました」 画面に、口元だけの女が映った。 『挨拶もきちんとできるいい子よ。 そこの公園で、いつも一人でサッカーボールを壁にぶつけてたわ』 モニターを見るアナウンサーが、小さくうなずいた。 「次のニュースです。 今日の午後、17歳の高校生が地元サッカークラブへの入団を決めました。契約金は3,000万円だそうです」 画面に、笑顔の女が映った。 『挨拶もきちんとできるいい子よ。 そこの公園で、いつも一人でサッカーボールを壁にぶつけてたわ』 モニターを見るアナウンサーが、小さくうなずいた。
おおきなあくびをしたら開けた口のなかにちいさな虫でも入りこんだのか「あめ」がしきりにふがふがして、静かだった人のいない公園に、若干のざわめきがねじ込まれる。 「あめ」と暮らしはじめてから、会社終わりにお酒を飲みに行く機会がめっきり減った。行くのが楽しみで、大人になったなあと思う瞬間でもあった、ある程度の年齢までは。大人になってよかったことは山ほどあるけれど、大人になっていつのまにか愛想笑いが上手くなっていて、わけもなく悲しくもなったりした。 ふがふがのおさまった「あめ」は、木の陰から気になる子を見てるみたい。人のほうか、それとも… 鍋を火にかけたままにしてしまうことがたまにあった「あめ」と暮らす前。 鍋を火にかけたままにしても教えてもらえた「あめ」と暮らすようになってから。 木の陰から見ていた気になる子が行ってしまい「あめ」は、たちまち興味をなくす。はやく家に帰りたいとのアピールは、ほんとうのところ、帰ってからもらえる散歩お疲れさまのおやつへの強い思いかな。たぶん。きっと。 「今度のお休みどこ行きたい?」 それどころではない「あめ」に、わたしの言葉は届いていない。 「ここらへんで、ちょっとした事件あったよね」 のってこないのはミスチョイス。こういう話題ではダメみたい。 「好きだよ」 「あめ」は立ちどまって、こちらを見上げる。かすかな疑問を含んだその表情。 ―知ってるよ、そんなこと とでも言ってるみたい。 「あめ」は、また歩き出す。おやつに向かって。 ―ぼくもだよ そう言ってほしいのに。そんな表情を見たいのに。恥ずかしがって「あめ」はそんなこと言わないし、見せてもくれない。そうとは知っているけれど。それでも、背中に向かってつぶやく。 ―好きだよ
江ノ島、勝手に無人島だと思ってましたわ 住んでる人、いるんですのね あら、そうなんですの 島なんですのね つながってるのかと思ってましたわ 水族館に行ってみたいんですの あら、そうですのねえ 水族館は、島のほうではないんですのねえ それは残念ですわ 近いうちに、島のほうにも 行ってみたいものですわねえ では、ごきげんよう
息を切らして振り返る。ああ良かった、まだ追い付かれてない。ショッピングモールの二回、角の壁に寄りかかってから、今日の不運を嘆く。 まさか、ボム・タイムにあたるとは思ってもみなかった。せっかく奮発して買った服も、灰と煤に汚れてしまい、お気に入りの鞄に至っては、飛んできた小石で擦れてしまった。 あーー。あーーーー。足音がするぅ。休憩時間もありやしない。すぐにここも離れなくては。まあでも、結構いいペースじゃないだろうか。アナウンスがなったとき私は五階にいたのだから、出口まで半分を切っている。 とりあえず、靴紐を結び直して吹き抜けから一つ下の階を見る。幸いなことに、今はボマーがいなさそうだから、駆け足で行ってしまおう。 と思って一歩踏み出した瞬間。ああもうホントくそ。三階からボマーが降りてきた。しかもさ、目も合っちゃうんだな、これが。 何かもう逆に笑いが止まらなくなりながら、走り出す。はははははっと声を出しているから余計に息が切れる。酸素がなくなるまであとサンビョーとか考える。と、コケた。まだ階段までたどり着いていなくて良かった。目だった傷もないまま立ち上がり、ボマーに向き直る。まあ反撃できるわけでもないから、特に意味はない。 ボマーが無造作に壁に手を当てた。するとそこが爆発し、破片が私目掛けて飛んできて、頬を擦る。乙女の顔に何してくれてんだ。 ハリウッド映画さながらに、再び走り出す。階段は一段二段と飛ばして進み、もうむしろ落下していくような感じだった。すぐに床に足がつき、出口までの廊下を一目散に駆け抜ける。 思考が加速する。これもしかして、他の客全員ゲームオーバー?ボマー私だけを追いかけてるし。脱出特典とラストワンボーナスかあ。楽しいお出かけを犠牲にしたにしては割に合ってねー。 出口にしかれているマットを踏む。外から歓声が聞こえる。 ボマーはもう目と鼻の先くらいに迫っていて、伸びた手が、私の服を掠めてしまいそうだ。そうなったら私も、他の客と一緒にあの世行き。 ああでもたぶん。きっと私の勝ちだ。
ある日の夕方、男が改札を出た。 一瞬、足を止める。 駅のホールに、小学生の声が響く。 「募金お願いします」 両手で箱を抱え、頭を下げた。 小さな女の子が駆け寄り、小銭を入れた。 杖をついた老人が、財布を開いた。 車椅子の青年が、片手で車輪を回しながら、箱に手を伸ばす。 「ありがとうございます」 取材のカメラが、小学生の笑顔を映した。 男は、大きく息を吐いた。 そして、両脇に並ぶ小学生の真ん中を歩き、駅を出た。 「募金お願いします」 背中に視線を感じる。 少しずつ、声が遠くなる。 男は、街のネオンを眺めながら呟いた。 「勝った」
電車の中に蜻蛉がいた。 ここは田舎だ。しょうがない。 始発あるいは終着駅のここでは、 4時10分に発車する電車より 5時10分に発車する電車の方が 早くホームで客を待っている。 どうせならコンビニにでも寄ればよかった。 現在時刻は4時15分。 どうせなら走ってでも4時の電車に乗ればよかった。 蜻蛉が飛び立つ。 しかし、平衡感覚が掴めないのかすぐに落ちる。 ようやく唯一空いているドアに向かったと思えば 手前の窓で休憩。 かと思えば何度も体を窓にぶつける。 そこは出口ではない。 少し進むだけで君は外に出られるのだ。 じりりりりり きゃあ 他の乗客がやってきた。 女子高生は怯え隣の車両に移動した。 じりりりりり すぐに出て行くと思い近くに座り続けていたが、 移動することにした。 イヤホンをした。 蜻蛉の声は聞こえない。 現在時刻は5時9分。 ドアが閉まり、逃げ場がなくなった。 いきなり動き出した蜻蛉は蛍光灯にぶつかった。 憐れだ。 人間が作ったへんてこな物体に惑わされて。 そうだ生物は可哀想なのだ。 己1人では何も出来ない。 今朝改札が開かなかったことを思い出す。 残高不足だった。 不特定多数の人間から不快の感情を向けられた気がした。 この蜻蛉もそうなのだろうか。 だから頭が回らずひたすら窓に体をぶつけていたのか。 答えは出ない。 蜻蛉はどこかへ消えた。 私もあのとき消えてしまいたかった。 眠気が襲い目を閉じる。 あの蜻蛉が自由になれたことを祈って。
まずは数2数Bでこけた僕が考えた最強のガンダムだ。 と思ったがそもそも田舎に物理と数学の教科書を置いてきてしまったのでチャッピーにでも聞こうと思う。 Θ=sin²+cos²+1 うむ、意味がわからない。 デイケアにいる素粒子物理学をやっている元北海道大学の教授はいつも数式をパソコンでこねくりまわしている。 実に羨ましい老後の悠々自適な生活だ。 β=tan²(2+2)²-cos+Δ-2 こんなことを暇なので深夜にやって発達障がいを併発させている僕は勉強の出来るボンボンインテリヤンキーオタに肥溜めにバックドロップで落とされそうだ。 いいからおまえはみんなのおにぎりを作って配っていろってのがフィーリングで最適解の気がするがお米が安くなってきているので皆自分の分は自分で買って欲しい。 もしくは練馬の鉄道のダイヤグラムを最適化するツールを数学だけは出来る変態とじゃあ僕は電車のフォルムを考えるよそして一緒に特殊学級で三味線を弾こう的な事を考えるが算数の先生に休み時間はマリオカート8でも皆とやって協調性を磨きなさい、と怒られそうだ。 何か世の中うまくいかない。 あるいは黒澤明の映画のように急に練馬に富士塚やピラミッドや大聖堂などを建てましょうよ自民党さんお金は各種財閥から回しますからグヘヘと談合を持ちかけるけど共産勢力からBARにでも行ってグラス磨いて皿洗いしてなさい内部留保はこっちで何とかするから、と大企業の役に立ってるんだか労働者なんだかわからない立場で残りの人生を過ごしそうだ。 何かうまくいかない。 近所の市民体育館に行ってスポーツ女子に嫌がられてやっぱりリコーダーを盗み舐めしておけばそして競泳水着を盗んで新宿のショップで大量に売りさばいておけばよかったと思うけど酒に弱ったところを狙っているのねこの変態と蔑まれた目で飲みサーで弄られたりするのは嫌いじゃなかったと思うがゼロコーラの方が好きなお子さま舌なので胸痩せしているキャバ嬢を送り迎えするワンボックスドライバーでもやってればでもこのホモやろう!と苛められそうなので怖いから出来ない。 酔っていないが酔ってんのかお前と言われたことがあるが酔ってない。 馬鹿で貧乏なのに彼女がいて何故か嫉妬のメールなどが送られてくるがとりあえずお前は身なりをきちんとして普通に自分のやれることで女の子にアプローチしろと言いたいがそしてお前がどんな女口説こうが誰も気にしちゃいねーよ、とメールで送ったことあるけど僕ももうそんなに若くないのでテロメアを伸ばす理論を色々画策中だ。 何かうまくいかない。 でもうまくいくと信じて。
「ねぇ、知ってる?」 突然、ボクを招いた部屋のあるじは、こんなことを口走った。 「水滴の中には、小さな部屋があるんだよ」 あるじは、床を指さしながら呟く。「今ここ」 だったら、なんだと言うのだ。なぜ、ボクを連れてくる必要がある? 「わたし、ずっとここに住み続けてきたんだよ」 ボクの気も知らないで、あるじは口を開き続ける。 「17の時、もうホントに現実がイヤになっちゃってさ。どうにかこうにか、逃げられないかなーって思ってたんだよね~。で、次の日、目が覚めたらここだよ、ここ。すごいでしょ?」 何がすごいことなのか、ボクには分からない。分かることといえば、先程から目の前のあるじが言っていることは、おかしさにあふれている。 「最初は、ちょっとビックリしたけど、冷蔵庫には好きな食べものがいーっぱいあるし、わたしの他には誰もいない。見たいテレビだって見放題だから、ホントに最高だな~って。すぐ馴染んじゃった。でもね、わたしは、そのこと、後悔してるんだ。まさか、この部屋が水の中にあるなんてさあ……」 分からなかった。あるじが何を言いたいのか、結局のところ判然としない。 「ふっ、と思い立っちゃったんだよね~。窓なんて見なければよかった。いつもカーテンが閉まっていたのは、わたしにあの光景を見せないためだったんだ。誰かが」 それは誰なんだ? 「知らない。誰かは、誰か、だよ。でも、きっとそうなんじゃいかって思ったんだよね。そう、わたしはずーーーーっと! 閉ざされた時間の流れしか知らなかった」 ただ、あるじは声をあげ続けている。 「この生活にも、いつかは終わりが来る」 どうして、そう…… その先は声にならなかった。なんだかもう、すべてがどうでもよくなってしまっていた。ただ、ボクがここにいることだけが謎だった。 「ねぇ、見てよ」 あるじが指をさした先、窓に降るのは大粒の雨。 「み~んな、知らないんだよね。あの雨のひとつぶひとつぶに、誰かの暮らす部屋があって、誰かの人生が乗っかってるんだってこと。みーんな……知らないんだあ」 あるじは笑う。 「わたしも知らなかった」 懐かしい記憶が、だんだんとよみがえってくる。脳裏に。深く。彼女の笑顔。 涙が頬を伝っていく。目の前がぺしょぺしょになっていく。それでも、あるじの姿だけは、はっきりとボクには見えていた。 ずーーーーっと夢に見てきた。 あるじの指先が、ボクの頬に向いていた。 「わたし、ずっとここに住んでいたんだね」 わかっていた、わかっていた。 「わたし、あのとき、本当に現実から逃げ出したんだ」 今でも覚えている。みなまでも、言わなくとも分かっていること。あのときも、確かにこんな雨だった。線香の煙ごしに見た彼女の笑顔が、ヘッドライト越しに見た彼女の顔と重なった。その顔は、ぺしゃぺしゃで見えなくなっていて。 あぁ、今の自分だ。彼女はとっくに気づいたというのに。今も、ボクだけは変わっていないのだ。あのときから、ずうっと。 「でも、キミまで逃げ出してこなくてもよかったのに」 彼女が笑う。ここにボクを呼んだのは彼女じゃない。ボクがここに彼女を呼び寄せたのだ。 「もういい?」 それが合図だった。 滝のようにあふれ返っていた涙はいつしか底をつき、床の水たまりはとっくに乾いていた。彼女の姿はなかった。
休憩時間になると、いつも非常階段に行く。 7階の踊り場で缶コーヒーと緑のマルボロを吸いながら風に当たる 街は夜の方が綺麗でクリスマスツリーの電球みたいにキラキラしている。 大学に入るために、ど田舎からこの街に引越してきて、大学に馴染めず親に内緒で辞めてしまった。 直ぐに母親から連絡があって『しばらくは帰ってこないほうがイイよ』と教えてくれた。父がカンカンらしい。そりゃそうだ。自分でも自分が嫌になる。どうしてそんなに情けない男なのかと。 母は『暫く都会をエンジョイしてきな』と気楽に言う。その感じが有難いけど どこかで女性の喘ぐ声が聞こえる バーや居酒屋、キャバクラ等が入ったこのビルは昼間でもビルの近くを通るとアルコールの匂いがしている 都会の空で輝くことを許された僅かな星空の下、どこかの階の踊り場で男女がヨロシクしているのだろう 非常階段の柵に胸を付けてキラめく街を見ながらマルボロを吸う。 Tシャツに剥がれた柵のペンキがパキパキと付いてくる 煙草の煙で吹き飛ばすが、ユラユラするだけで取れそうもない 足元の缶コーヒーを取ろうと屈むと、人の足があって思わず大声を出してしまう 白に近い金髪のウィッグをつけた女の人で、小さく細い身体 このビルに入っているお店の娘かと思ったが、タイトな赤いニットと黒い短パン姿は似つかわしくない。ガールズバーでもオープンしたっけか? 「煙草持ってる?」 偉そうに聞いてくるが、明らかに年下で愛想の一つもない。 マルボロを差し出すと「メンソールか…」と舌打ちをして渋々数本取っていく。 一本を咥えると、犬にお手をさせる仕草でこちらを見る。ライターを貸してと言う意味なのは分かるが一つ一つが癪に障る 自分も吸うついでに彼女にも火をつけてやった。 「このビルで働いてるの?」 「そうだけど」 「そこの居酒屋?」 「このTシャツが私服だったらやばいでしょ」 Tシャツに書かれた「居酒屋 わっしょい!」の字を指して言う 「バイト楽しい?」 「そっすね。店長にはよくしてもらってます」 「彼女いるの?」 「いないとまずいっすか?」 いつの間にか敬語になってる 「今、人生は楽しいのか?」 「……まぁそれなりに」 「そうか」 そう言うと彼女はマルボロの煙と共に消えていった 「えっ?あれ?」 暫くパニックでその場から動けなかった。脳がフリーズしている 気を落ち着かせようと柵に手をかけるとカチャンという音とともに柵が折れて地上に落ちてった 喘ぎ声を奏でていたカップルが驚いて悲鳴を上げる。 幸い柵が落ちた場所は人が入ってこれないビルの敷地内で誰もいなかった
古本の、誰かがつけた角の折り跡 それはそれで、誰かの生きてきた証のような味があるけれど… 読みはじめる前、指先で丁寧に、平らに伸ばす 「前の持ち主が、すまないことをしたみたいだねえ」 古びた紙の匂いが立ちあがるだけで、あたり前に返事はない しかし、それでいい 返事をされても困ってしまう 「すまない」と言ったのだって、回路が… 勝手に… ワタシは、プログラムされた機能をただただ遂行するだけの、AIロボットにすぎないのだから
草木も息をひそめたような、静まり返った午前3時。町はずれのとある遊園地『パーク・イベリス』に、男が一人やってきました。 「ずいぶん古い遊園地だな……。これは、いつも以上に気合入れて点検しないとな」 どうやら、遊具か何かの点検に来たようです。 「とりあえずは、事務所に行くか」 そう言うと、男は歩き出しました。 園内は当然ながら静まり返っていて、人であふれかえるだろう昼間の様子を思い浮かべると、そのギャップにどことなく背筋が寒くなるような気もしてきます。首元を貫かれたメリーゴーランドの馬たちが、虚ろな目でこちらをジッと見つめているようで——。そんなことを考えたり考えなかったりしながら、男は事務所にたどり着くとそのドアをノックしました。 「すみません、設備の点検に参りました」 しかし、中から返事はありません。眠っているのでしょうか。 「あのー? すみませーん」 男がもう一度ノックすると、ややあってからゆっくりとドアが開きました。中から顔を出した人物が、眠たげな声で言います。 「……はい。なんですかこんな時間に……」 「こども……!?」 声の主を見て、男は驚いたように言いました。 ドアを開けて出てきたのは、どこからどう見ても普通の少女でした。白いトレーナーに赤いスカートをはいて、眠そうにあくびをしています。 「えっと……。君、こんなところで何をしているの?」 男は戸惑いながら少女に尋ねましたが、 「何って、寝てただけだけど」 返事はひどくそっけないものでした。 「あなたこそ、こんな時間に何してるの? 肝試し?」 「いや、僕は設備の点検に……」 「点検?」 怪訝そうな顔で男の言葉を繰り返すと、少女は検分するかのようにじっくりと男を見始めました。 「……お父さんとか、お母さんはいるかな?」 さながら怪しい商売人のような質問には、少女は答えませんでした。 「点検って、なんの点検?」 「なんのって、遊具だけど……。えっと、ここの管理人さんとお話をしたいんだけど、呼んでもらえるかな?」 「いないよ」 少女は短く答えました。 「いない?」 「いないよ、管理人なんて。強いて言うなら私」 妙な発言の数々にどう返したものかと男が思案しているうちに、少女は構わず続けます。 「大体、点検する遊具なんてここにはないし。全部ボロボロでしょ? というか、そもそもここはもう廃園してるって、知らないの?」 「……え」 少女の言葉に、男は改めてあたりを見回しました。夜闇に包まれた園内。月明かりに照らされてボウッと浮かび上がる遊具は、よく見れば少女の言う通り、あちこちが錆びついていて、物によっては穴が開くほど朽ちています。 「そんな……、さっきまで普通の……」 「寝ぼけてたんじゃないの? ここは廃園だし、こんな時間にこんなとこに来るのは肝試しに来るアホか、うっかり流れ着いたアホだけ」 「流れ……?」 男の疑問には答えず、少女は事務所に戻っていきます。 「なんでもいいけど、事務所はあげないからね。ここは私の家にしたんだから」 「え。ちょっと待って、どういうことか教えて——」 男が慌てて手を伸ばしますが、事務所のドアは無慈悲に閉じてしまいました。事務所の前に一人取り残され、唖然と立ち尽くす男に答えるものはありません。 その時。 「おい見たか今の!? 勝手にドアしまったんだけど! マジやべー!」 「見た見た! 今のはさすがに撮れたっしょ!」 男の背後から、そんな声が聞こえました。
「ねえ、ママ、お寿○食べたい」少年は言った。 「ごめんね。ママ、あんまりお金がないの」母は諭すように答える。 「あーあ、僕たちが貴族だったらなあ」 「ほら、近所のス○パーでお菓○を買ってあげるから」 「やったー。僕、グ○食べたい!」 「グ○くらいなら、ママも買ってあげられるわ。お寿○は無理でも、夜ご飯はハンバーグにしてあげる」 「僕は二個食べる!」 「ふふっ。一つにしておきなさい」 「はーい」 母子はス○パーに着いた。 「ねえ、ママ、僕、先にグ○取ってくるよ」 「いってらっしゃい」 お菓○売り場には、少年の友達がいて、少年に話しかけた。 「お、お前は何買って貰うんだ?」 「僕はグ○!」 「俺もグミだ」 「え!グ○って言えるの?」 「うちの家が庶民語第三類までを話してもいいサブスクに入ったんだ。さすがに買うのはお金が足らなかったけど、毎月これくらいならって」 「いいなあ」 「それもこれもタイムマシンなんてできたせいだよな。一番最初に言葉を話したやつが、特許がどうとか言いながら現代に来やがって」
午前0時。 小高い山の頂に、30人ほどの男女が集まった。 「さぁ、皆さん。始めましょう」 銀色の三角帽子を被った男が、声を上げた。 男女は円を作ると、その中心に男が立った。 「ウィーン、ウィーン、ウィーン」 両手を挙げ、立てた人さし指をクルクルと回した。 「皆さんも、私と同じように」 夜空を見上げ、人さし指を回す。 「声を出して、願いを込めるのです」 「ウィーン、ウィーン、ウィーン」 「もう、すぐそこまで来てますよ」 山頂に、冷たい風が通り抜けた。 地球の遥か上空に、1機のUFOが止まった。 「艦長、呼んでますけど……」 モニターを覗き込んだ。 「そうだね」 「コンタクト取りますか?」 艦長は、苦笑いしながらモニターを消した。 「金貸せって言われてもね」
私はいつも、はじめて会う人には、私のお気に入りの曲を聞かせるんだよ。え?自分って何て答えたっけ?ふふっ秘密。 この曲嫌いって言う人は、まず論外だよね。友達にもしたくない。ひどくないよー。だって、人の好きなものを平気で否定する人って、絶対いい人じゃないし。もちろん君はそんなこと言わなかったよ。 あとね、あんま好きじゃない、とか、ちょっとビミョー、とか言われると、お前の方がビミョーだよって言ってやりたくなるね。相手に気を遣い過ぎて自分の意見を言えないタイプ。一緒に居るとイライラするんだよね、はっきり言えよって。 この曲好き!ってあからさまに共感してくる人も、得点が高くはないかな。そういう人って人に好かれるように都合が良いことしか言わないから、友達みたいに気を許せないんだよね。 何笑ってるの?じゃあ何ならセーフなのって?まあ、確実に悪くない人なのは、あなたはこの曲が好きなんだねっていう人。それ以上でもそれ以下でもない感想だから、一緒にいて落ち着く。 一番ベスト、超仲良くしたい!って人はね、この曲もいいね、僕の好きな曲はね、って教えてくれる人。相手との会話をそれだけで終わらせないし、自分のことも教えようとしてくれる。誠実ってこういう人だよね。 あ、思い出した?君の返答はこれだったよー。 えーそんなこと言わないでよー。ちょっと傲慢だね、なんてさ。あ、そうそう、君のおすすめの曲聞いたよ、私まで好きになっちゃった。ふふっ、ちょっと思ったんだけど、今の答えは君にとっては何点なんだろうね。
「貯金が一億円あってもモテないですよ」 「え!?」 衝撃的なことを言われた。 一億だぞ、一億。 凡人では、決して辿り着くことのできない境地。 「でも一億ですよ?」 耳を疑ったぼくは、もう一度訊き返す。 「はい。モテません」 しかし、返事は変わらない。 「どうしてですか? 一億円あれば、生活に安心できません? だって、一億あるんですよ?」 何度否定されても、まったく認めることができなかった。 ぼくは体を前のめりにして、問いただす。 「だってその一億、女性は使えないじゃないですか」 婚活アドバイザーは、呆れたように言った。 「……使う?」 「はい。法律上、婚前前の資産は、個人の財産となります。結婚する女性には、今の貴方の一億円を使う権利はありません。つまり、ないと同じ」 「……そんなことは。家族が困ったときは、ちゃんと取り崩して使うつもりです」 「でも、それを決めるのは貴方ですよね? 洗濯が大変だからドラム式洗濯機が欲しいと思っても、食器洗いが大変だから食洗器が欲しいと思っても、買うかどうかを決められるのは貴方。一億円を使うか決められるのは貴方。自由に使えない一億円なんて、女性からすればないも同じなんですよ」 捲し立てるような反論に、ガンと頭をぶん殴られた気分になった。 使えない一億円。 他人から見ればそう見えるのかと、新しい価値観を突っ込まれた気分になった。 「でも……一億円……」 か細い声で鳴くと、婚活アドバイザーは止めとばかりに、大きな溜息をついた。 そして、ぼくの膨らんだ腹を見た。 「脂肪って大事ですよね? 飢餓状態のときはエネルギーに変換できて、生きられる時間を伸ばしてくれるんですから」 「突然なんですか? そうですね」 「でも、現代日本では飢餓になることがほとんどありません。となれば、その脂肪は使わないエネルギーの塊でしかないわけです」 「そう、なりますね」 「つまり、安心の脂肪でなく、ただのテブの脂肪です」 「そんな直接的に!?」 ぼくはお腹を叩いた。 ポンと、心地の良い音がした。 「使えない一億円なんて、使いどころのない脂肪と同じ。不健康の象徴でしかないんですよ」 脂肪と同じ。 脂肪と同じ。 脂肪と同じ。 三十歳を超えたから仕方ないと見てみぬふりをしていたコンプレックスが、ぼくの自慢である一億円が同じだと言われたことで、頭の中が真っ白になった。 「カウンセリングは以上です」 その後の記憶は、ない。 家に帰って、ふらふらと風呂に入る。 温かいお湯につかりながら、防水スマホで本日の貯金残高を見る。 ほんの少しだけ利率がついて、一億円はさらに微増していた。 脂肪がまたついていた。 「いやでも、一億ぅ……」 ずっと目指していた自慢すべき数字が、なんだか体重計に表示される数字と同じに見えてくる。 ぼくは鼻までお湯につかって、鼻息でブクブクと湯を沸かせた。
また知り合いと新宿の喫茶店で会う。 待ち時間特にやることがない。 スマホで漫画などを読めばいいのだがやる気が出ない。 昨日食った豚モヤシを思い出して今日も豚モヤシを食べなきゃな、などとボーっと考える。 両腕が痛い。 今日は畑が休みだ。 チェーンの喫茶店は効率重視で頼んだメニューがサッと出てくる。 何でも効率化。 そもそも暇潰しで来てる客。 暇潰し。 精神科の喫茶店と変わらない。 あるいは世界のカフェなどでもやることは一緒。 家電量販店に来る外国人観光客。 外国で買うより安いのだろうか? パソコン買わなきゃなぁ。 パソコンの前でエッチな画像を見てパソコン壊れて知り合いに茶化されてなんだかしょうがないなぁ、と思う。 基本的に野蛮人。 エッチは紳士に、と思ってるが体力が無い。 都会はお金が無いと寂しい。 飲食店が苦手。 肉を食ってないからか豆を食ってないからか髪がボサボサ。 煙草辞めたい。 お酒飲まない。 書きたいこと書いてるが特に変わったことをしていないので普通の文章になる。 彼女が銭湯で仲間外れにされる夢を見たという。 世界はお風呂場。 水は海嶺から水蒸気と共に沸き上がっているらしい。 石油と一緒。 水が増えてお風呂場が沢山出来れば世界は安定するのかもしれない。 番頭の夢を語る僕はコーヒー牛乳みたいな飲み物を飲み皆を清潔にする。
我ながら、幸せな人生だったと思う。 「おじいちゃんとおばあちゃんって、本当に仲がいいよね」 子供たちからも孫たちからも、そう言われた。 近所でも評判のオシドリ夫婦。 「ねえねえ、おじいちゃんとおばあちゃんって、どうやって知り合ったの?」 しかし、一番される質問には、一度たりとも答えられなかった。 秘密があるのだ。 学生時代。 お互いに恋人がいた。 この人と結婚するんだろうなと、漠然と思っていた。 しかし、その日は偶然、二人とも恋人と大喧嘩をした。 怒りと悔しさを抱えながら、家に帰る途中。 同じく恋人と大喧嘩をしたばあさんと再会した。 そのまま二人で居酒屋に入って愚痴大会。 互いの恋人を罵り合って、一瞬の意気投合のままホテルに入って、たった一回の行為で子供ができてしまった。 どうすべきかを悩んだが、罪のない子供を殺すなんて忍びないと考えて、恋人と別れてばあさんと結婚した。 後から聞けば、ばあさんも不本意ではあったらしい。 好きな恋人ではなく、嫌いではない私との結婚。 人生のレールが、大きく切り替わったと言っていた。 幸いだったのは、ばあさんとの生活が、思いのほか上手くいったことだ。 好き合ってなかったから、過度な期待もなくて不満もなかった。 仕事に育児に家事に、新生活が突然忙しくなって、不満を感じる時間がなかったとも言える。 病室で二人きり。 ベッドの上から、ばあさんを見上げる。 「変な、人生だったなあ」 「そうですねえ」 「でも、楽しかったわ」 「私もですよ。時々、あの時の人と結婚してたらどうなってたかなって、思う時はありますけど」 「それは、私もだ」 自伝でも書けば、読者たちは『なんて酷い物語だ』とか、『元々いた恋人が可哀想だ』とか、悪い感想を書くだろう。 私もそう思う。 私の人生は、決して綺麗な物ではない。 でも、自分の中でハッピーエンドにはなるだろうと、妙な確信だけはあるのだ。
道の端っこの木の枝が ヘビにみえてしまったり それくらいには 目が悪い 雲のカタチはもうすっかり 夏のそれではなくなって 空をみているわたし そんな自分を 不思議に思う あのころは ずっと 下ばかりみていたのに
あの止めるやつ さんが入室しました コンセント(刺す方):新顔キター シャー芯:あの止めるやつさんこんにちは あの止めるやつ:はじめまして コンセント(刺す方):あの止めるやつってどの止めるやつ?w あの止めるやつ:いきなりっすか? コンセント(刺す方):ごめん、、聞かないでおくわ あの止めるやつ:別にいいっすけど シャー芯:敬語じゃなくて良いですよー あの止めるやつ:了解っす コンセント(刺す方):シャー芯に言われてもな シャー芯:私は好きで敬語なので ですます調ってかわいいですよね あの止めるやつ:じゃあ殺し屋風に喋ります コンセント(刺す方):殺し屋風?wwどういうこと?www あの止めるやつ:あのパン止めるやつってあるだろう?実は俺様はあれなんだ コンセント(刺す方):あーあれね 分かるよ名前 あれだよねあれ シャー芯:絶対覚えてないじゃないですか 私は本当に知ってますよ あの止めるやつ:みなまでいうな あの止めるやつ:名前を呼ばれたことは一度もないが、“あの止めるやつ”って殺し屋のあだ名ぽくてかっこいいと思わないか? コンセント(刺す方):長文w 想いが溢れてるww あの止めるやつ:今日ここに来たのは愚痴を言うためだぜ コンセント(刺す方):カッコ良さげにダサいこと言ってるwwww あの止めるやつ:実は今日、新入りが家に来たんだ 俺のことを慕ってくれる良い後輩だった あの止めるやつ:それを家主のやつ、捨てやがったんだ しかも手持ち無沙汰に任せて、丁寧に千切りやがった コンセント(刺す方):吹いたwww ヒドイwwwwww シャー芯:ひどいですね 私も昔折られた古傷が痛みます あの止めるやつ:確かに何個もは要らないかもしれない でも何かに取って置いてくれても良いんじゃないか? コンセント(刺す方):でも正直、俺でも捨てる あの止めるやつ:え? シャー芯:シャーペンの消しゴムくらい使わないですね あの止めるやつ:お前ら…裏切ったのか…… コンセント(刺す方):いつから味方だと思っていた(悪役風) シャー芯:あれで止めても、きちんと閉まってる感じしないんですよね コンセント(刺す方):何か良い使い方教えてくれ あの止めるやつ:えー あのですね コンセント(刺す方):おい殺し屋どうした あの止めるやつ:あ、思い付きました コンセント(刺す方):言ってみろ シャー芯:教えてください あの止めるやつ:たくさんの色違いを額に要れて飾る コンセント(刺す方) さんが退室しました シャー芯 さんが退室しました
窓をあけると 夕闇の向こうから 人のあらそう声 ちがうんだ あなたたちの叫びを ききたいんじゃないんだ ただ虫の声を ききたかっただけなのに 風だけが やけに心地いい
「コーヒーは出てこないのよ」 と、ズっちゃんは言った。 「どういうこと?」 「まあ、いいから、いいから」 そして、 「最近、おもしろい本、ないんだよねえ」 と言って、 「自分で書いちゃうか」 と、ズっちゃんは小説らしきものを書きはじめた。 ・ ユウキングはそもそもユウキングではなかった。金魚が好きなユウのことをクラスの男子がユウキンギョと言いはじめ、それがいつの間にかユウキングになってしまった、というただそれだけのことだ。 ・ ユウはキングでもなんでもないことを自覚していて、だからユウキングと呼ばれることが苦痛で仕方なかった。 ・ ユウキングはかつてはユウキンギョだった。それはユウが金魚を好きだからなのだけど語るようなエピソードは特になく、なので金魚が登場してくることは今後ない。 ・ ユウキングの背中を見ているとき、ユウキングの背中もまたこちらを見ているのだ。ユウキング自身はこちらを見てはいないけれど。 ・ 「何、この書き散らしは」 「へへ」 「書き散らしは認めるんだ」 「私の性格みたいよね」 「ああ…」 それ以上、僕は何も言えなくなる。 「ひとつでもいいから完結させてみようよ」 「いやあ」 「何?」 「私の性格がそれを許さないんだよね」 「ああ…」 やっぱり僕は、何も言えなくなる。 「だから言ったでしょ。コーヒーは出てこないのよ」 「…そうだね」 仕方なしに飲んだ麦茶は、終わりゆく夏の味がした。
幽霊が買える時代が来た。“お化けちゃん”。ランダムに封入されているぬいぐるみが流行る中、その勢いに乗っかってくじ引き感覚で購入できる幽霊が発売されたのだ。爆発的に人気になり、正直転売が多くて買うこともできない。 それが今日、ふらっと立ち寄ったコンビニに残っていたのだ。冷蔵庫の中、アイスの横に一つだけ。どきどきしながら、レジに持っていく。 「こちらの商品、すぐに開封されますか?」 「はい」誰かに取られるわけでもないのに、気ばかり急いて返事が短くなってしまう。 「お札を外せばお化けの方から出てきてくれます。できるだけクーラーは付けてあげてください」そうやって教えてくれた店員さんの肩にも、お化けが乗っていた。二重瞼で可愛い。あ、今の声に出してたらお化ハラで捕まってた。 店を出てすぐに、お札を袋から取り外す。お化けが入っているという袋は軽くて、なんだか本物なのか心配になってしまうくらいだった。そんなことを考えている間に袋の表面から、すうーっと、煙みたいなものが出てきて、瞬く間に、店員さんの子とそっくりなお化けが出てくる。 ザ・デフォルメ幽霊とでも言うような、白く丸っこい体に、三角の布を頭に被っている。手は下向きに曲がっていて、招き猫のようだ。 そしてこの子は、口から八重歯が覗いていた。 「君は八重歯ちゃんかあ」お札を裏返し、見る。No.8/100、八重歯。おお、まさかの番号一桁代。十以下の幽霊は少しレアで、他の幽霊よりも人気の特徴を持っている。さらに数の少ない幻のNo.0は、逆に何も特徴がないらしい。No.0の落札価格は余裕で車が買えるくらいだった。でも自分的には、このワンポイント感がなんとも言えないくらい愛くるしくて、すぐに八重歯ちゃんを気に入った。 あ、やば。お昼休みが終わる。八重歯ちゃんに声をかけて、急いで会社に戻ると、みんなから八重歯ちゃんが可愛いと言われた。なんだか自分まで誇らしくなって、いつもより仕事に身が入る。 定時がきて、八重歯ちゃんと電車ですし詰めになりながら我が家に着く。クーラーを付けて、これからはこの肌寒さが日常になると思うと、ようやく八重歯ちゃんが家族になるという実感が追い付いてきた。 「八重歯ちゃん、これからよろしくね」 八重歯ちゃんは、もう寝るとでも言いたげに、またすうっと消えていって、なんだか少し心細くなった。ちゃんと居てくれるだろうか。昨日まで一人だったというのに。 そんなこんなして、ちょっと怖めの悪夢を見て、朝になった。目の前で八重歯ちゃんが唸っている。ごめん寝坊。八重歯ちゃんのこと考えてたからタイマーかけてなかった。今から支度します。 八重歯ちゃんに怒られながら準備をして、駅まで走る。途中ガムを三個踏んで、おじさんに一回ぶつかってしまった。そうやって舌打ちされても謝罪する時間すらないんです! なんとか電車に飛び乗って、またいつもが始まる。 うー、うぅ。という声が聞こえて目を開く。少しずつ頭も冴えてきた。ああ八重歯ちゃんか。八重歯ちゃんとの出会いの夢見てたんだ。もう三年も前か。え?四年前?ごめんって。 イスから立ち上がる。 新聞指差してどうしたの?えーっと、“大人気お化けシリーズ、遂に千種類超え。一桁代プレミア価格か。”だって。いや売らないよ。最近よく言う“売ら飯家ー”にはならないから。 あ、そうだ。久しぶりにちょっと怖い悪夢を見せてよ。
主要な政治家、知事などのコロナワクチン接種歴を調べてみたが正確に接種している情報は公開されていなかった。 うまく逃げたな。 やはり政治家は嘘八百である。 これを送ろう。 おまえは言った打ったと。 いつも言ってる切った張ったと。 でも国民から奪うだけだと。 正体は生きるだけの実はど素人。 大阪の通天閣に串刺しにならねえかな。
柵を抜けると草刈りの終えた広場に出た 巨大な鉄塔が真ん中にあるこの広場に、人が入ってくることはほとんどない ネズミでもいないかと歩いていると 向こうの柵から知らない猫が入って来た 女だ。ミケの女の子 彼女はこちらを見ないように僕を避けて歩く 僕は彼女を目で追ったまま止まっている 彼女は僕が入って来た柵まで来て、そのまま出ていってしまった 彼女はお尻を向けたまま止まり、一瞬こちらを振り返る そしてどこかへ言ってしまった 僕は毛繕いを済ませ、ゆっくり彼女の匂いを追っていく
「私、大人になんてなりたくない!」 十七歳の私は叫んだ。 「なーに言ってんの、あんたは」 お母さんは、呆れたように笑った。 あれから七十年。 私は一歳も年をとってない。 「えー、それでは。故、○○の葬儀を始めます」 七十七歳。 親友が亡くなった。 病院のベッドの上で、孫たちに囲まれた大往生だった。 親友の子供と孫と、それから私。 親友の孫たちからは「誰だこいつ」という目で見られたが、十七歳の姿をしている私は、堂々と居座った。 棺桶に眠る親友の上に、花を一輪置いた。 中学生の頃のなんとか研修で、自然公園を見に行った日。 親友が見つけていたく興奮して、「この花こそ私のパーソナルフラワーだ」なんて騒いだ花だ。 私の記憶には、今も鮮明にこびりついている。 花を置いた親友の体はしわくちゃで、どこからどうみてもおばあさんだ。 ツルツルの私の手とは大違い。 葬儀を終えると出棺され、火葬場へ。 親友の体はあっけなく燃やされて、骨となった。 骨を一本だけ受け取って、親友の家族に礼を言い、私は家へとった。 実家は、昔と同じ姿を保ち続けている。 壁が剥がれたり、ところどころ雨漏りをしたりしたので、修繕は重ねているが。 家に着くと、すぐに配送の準備をした。 両親が亡くなった時も使った、遺骨をアクセサリーにしてくれるお店に、私は親友の骨を送った。 「はー、終わった」 それが終わると、私は親友がいなくなった実感が急にわいてきて、ソファに倒れた。 十七歳の私を知る最後の一人が、これでいなくなった。 生きている元同級生も何人かいるだろうが、関わりがない以上、いないと言って差し支えない。 「結局、大人って何だったんだろう」 友達が死ぬと、いつも考えた。 私がなることのできなかった、大人という存在はどんなものなんだろうと。 いつまで経っても、酒とたばこを買う時に年齢確認され、ナンパもぶつかりおじさんもなくならない。 閉経もしないから、月のものもなくならない。 生娘だけは卒業した、ただの糞餓鬼。 「大人になりたいなあ」 寂しい時は、ふとそんな願望を口ずさんでしまう。 あの日かかった呪いを解くための、呪文のように。 しかし、時計は止まらないし、私が十七歳なのも変わらない。 「私って死ねるのかな」 大人にならない私に、寿命はあるのか。 いつもの恐怖に襲われたので、私は寿命を縮める酒に手を伸ばした。
久しぶりにある友人に会う。大学に知り合った彼は、在学中に「世界を変える」とか言い始めて、得体の知らない事業を始めた。詐欺まがいなことに手を出したと思いこちらから連絡をかけることがなくなった。 そんな彼から急にメールが来た。ねずみ講だと思った。怪しいと感じた僕は彼の名前で検索してみると驚くことに事業は成功していて、若手有望社長として名を挙げていた。どうして僕に会いたがっているかは分からなかったが、会う恐怖感よりも関心が勝ってしまった。 通っていた大学の近くのカフェで待ち合わせ。ついに彼が来た。見た目はまさに若手社長といったオフィスカジュアルを着こなした好青年だった。もはや一周回って怪しい。左手を見ると薬指に指輪をはめていた。 「久しぶり。」 「おお!久しぶり!」 「忙しくなかったの?」 「なんで忙しいって知ってんの?」 冗談っぽく彼が言う。 「なんで今更僕に会おうって。嬉しいけど」 「ここまで人生上手くいくと、ビジネス抜きでしゃべれる友達がいないの。」 「僕も狙ってるかもよ」 「狙ってるやつはそんなこと言わん。」 すこし僕を信頼してみるみたいで嬉しかった。 そこから僕たちは自分の心境を共有しあった。 彼が僕の年収の何倍もあること。自分の好きだったアイドルと結婚できたこと。今は都内のマイホームの購入を検討していること。正直僕と人生が五段階くらいの差があった。しかし、そんな彼は僕を馬鹿にしなかった。あくまでも個人として尊重してくれた。純粋にこの人のことを知りたいと思った。そこで僕は彼に心理テストを仕掛けることにした。 「The Alligator River storyって知ってる?」 「なにそれ」 「社長だったら、知ってた方がいいかもよ。たまに面接とかでもやるらしい心理テスト。」 「なになに。出してみてよ。」 「あるところに5人がいます。 恋人に会いたくて川を渡りたいAさん。しかし、Aさんの恋人のBさんは川の向こうにいるが、『自力で来て』と言う。そこで船頭のCさんに頼むと、お金を払えば船を出すと言う。お金がなかったAさんは別の船頭のDさんに頼むと『一晩一緒に過ごすならお金をあげる』と言う。条件が飲めないAさんは友達のEさんに助けを求められるが断る。 Aは悩んだ末、Dの条件を受け入れてお金を手に入れ、Cの船で川を渡る。 でもBは事情を知るとAを追い返してしまう。 ここで質問。この5人の中で、一番ムカつくのは誰?」 「ひどい話だなぁ。」 彼は無表情で答える。何を思っているか予想できない。 「俺は全員にムカつくね。Aは他人に頼りすぎ。Bは共感能力に欠ける。Cは資本に囚われすぎ。Dは肉欲にこだわりすぎ。Eは無償の奉仕が生む価値を知らないところが嫌い。」 彼は淡々と答えた。 「これがなんなの?」 「…君には向上心があるね。」 「違う。」 彼はコーヒーを飲む。 「満足したらやめるだけだよ。それにしてもコーヒーを飲むと喉が渇くね。」