久しぶりにモノを書こうと思い、ノートを買った。 灼熱の夏が過ぎ、まだ暑さが残るものの日が傾けばそれなりに過ごしやすくなってきた。少しづつ季節が移り変わっているのを感じ、このセンチメンタルな気持ちを形にせずにはいられないと思い、一冊のノートを買った。 若い頃は何でもノートに記していた。人に見せられないノートが何冊もあり、断捨離をするたびに処分に困ったものだ。日常の小さなメモから、公募用の作品までありとあらゆる事、その時の私の脳内をすべて文字に起こしていた。 「私も小説を書くの」 中学の時の友人は、そう言ってびっちり文字で埋まったノートをよく見せてくれた。返す時には続きを催促し、感想を伝えた。 「あなたのも見せてよ」 友人はそういって私の書くものを読みたがった。そのたびに私は渡しても良いものを精査し、ページをちぎって渡していた。 友人のように、ノートを一冊丸々渡してしまう勇気はなかったのである。 先日、友達が一人減った。お互い相手を信用できなくなり、言い合いの末もう連絡しないことを決めたのだった。 原因は明確に私にある。友人についていたいくつかの嘘が原因だ。友人は嘘をつかれていたことが大変ショックだと主張し、私を責めた。 あまりにも酷い言葉で詰られた私は、つい言ってしまった。あなたは私にとって真実を伝えるに足る存在ではないと。 原因は私の嘘なのだから、私にそのようなことを言う権利はない。 しかし、彼女もまた、私がノートを丸々渡してしまえる相手ではなかった。ページをちぎって、書き換えてようやく紙切れを渡せるくらいの相手だったのである。 買ってきたノートの最初のページには庭に生えているマキの木に止まっていた鳥について書いた。先日剪定してもらったばかりのマキの木はまだきれいな丸みを保っている。形よく整えられたマキの木は、鳥にとって居心地が良い場所ではなかったのであろう。すぐにいなくなってしまった。 あの鳥は居心地の良い木を見つけられたであろうか。体裁よく整えられ、切り落とされたような木ではなく、伸びたい方へ自由に枝を伸ばしている木が、体になじんでいたらいい。 ノートを書き終わった頃、夕立が降った。秋になりつつあるとはいえ、まだ蒸し暑い。あわてて干していた洗濯物を取り入れたのだが、雨はすぐに止んでしまった。通り雨だったようだ。 湿度の高い夕日に照らされて赤く染まったマキの木からは、雨水が蒸発して霧が出そうだった。
最近とても雨が降っているなと思う。去年あまり降らなかったから感覚が鈍っているのか。まあ地球温暖化かなんちゃらで梅雨が早く来てもおかしくなさそう。やんだり降ったりでやっぱ地球も情緒不安定なんだな。一安心。
「やだやだー! ついてきてー!」 「トイレくらい、一人で行ってよ」 男の子が母親にしがみ付き、母親は男の子を自宅のトイレまでつれていく。 トイレの扉を開けて覗き込んでも、中には誰も居ない。 「……開けっ放しにしといて」 「駄目! 匂いが外に漏れるでしょ!」 男の子は怯えながら中に入り、トイレの扉を閉める。 そして、ズボンを下ろして、小便の準備をする。 その瞬間、便座に重なって、女の子が一人立っていた。 女の子の名は、トイレの花子さん。 花子さんは、男の子をじっと見つめ、不気味な笑みを浮かべた。 「こんばんは」 「出たああああああ」 男の子は小便を垂れ流しながらトイレの扉を開けて、母親にしがみ付く。 「あんた何やってんの!」 パジャマにも廊下にも小便をまき散らされた母親は、烈火のごとく怒って男の子に拳骨を落とす。 「だ、だって! お化け! お化けが!」 「お化けなんてどこにいるの! ああ、もう! 掃除が大変じゃない!」 母親は空っぽのトイレを見た後、怒りが収まらないまま、寝室に向かって叫んだ。 「パパー! 雑巾濡らして持って来てー!」 姿を消した花子さんは、泣きべそをかく男の子を見ながら、ケラケラと笑っていた。 あれから十年。 男の子は少年になり、すっかり幽霊を信じなくなっていた。 夜中のトイレも一人で行けるし、トイレの扉を開くのに躊躇いもなくなった。 「こんばんは」 花子さんは、少年に挨拶をする。 しかし、少年には花子さんの姿も声も届かないようで、花子さんの目の前で小便を終えて、さっさと出ていった。 「……寂しい」 誰にも気づかれることのなくなった花子さんは膝を抱えてうずくまり、閉められたトイレの扉をじっと眺めていた。
夕方の七時前 ここはそのうち壊されて、駐車場にでもなるのかなと思っていたアパートから、小学生の男の子が元気に出てくる。 ぴょこぴょこと跳ねながら歩いて楽しそうだ。その後母親が玄関に鍵を閉めて息子に追いつき、すぐに話し始める。 「明日、バアバが六時に迎えに来るって言ってたけど、それだと大変だから今日は一人でバアバの所に泊まってね」 母親は優しく言っているようだが、とても焦って話している 息子は笑顔で母親の話を聞いている 「明日は?」 「明日もお母さんと会えるよ。お仕事終わったらバアバの所に迎えに行くから」 薄暗い道を歩く親子 息子は母親の隣を楽しそうに愉快に歩いている 母親は前を向いて先を見ている
桜が盛りの頃、東京は雨が続く。 田中先生はスーパーに寄るのをやめて、まっすぐボロアパートへ帰宅した。 玄関で傘をドアノブに掛け、長ぐつを脱ぐ。 ハンカチで服についた雨を吹いていると黒猫のサクラが近づいてくる。 「おかえり、先生」 「ただいまサクラさん。お腹すきましたね。今ごはんを用意します」 田中先生はキャットフードを小皿に乗せてサクラの前に差し出す。 「僕はさ、先生の飼い猫でもないのに、なんでご飯をくれるの?」 「いらないなら食べなくて良いんですよ」 田中先生はタオルで濡れた髪を拭いて、黒縁眼鏡をかけ直す 「そうじゃなくて、なんで優しくしてくれるのかなって思ってさ」 「さぁ、何でなんでしょうか。私はお風呂に入りますね」 風呂場で湯船にお湯が注がれる音が聞こえる サクラはお腹いっぱいになって風呂場の方へ歩いていく ジャバジャバと田中先生が湯を浴びる音が耳に心地良い 田中先生は湯に浸かったらしく静かになった サクラは脱衣場にある戸棚で爪を研ぐ 「サクラさん、そこで爪を研がないでください。そう言えばさっきのサクラさんの質問ですが、昔日本には生類憐れみの令と言うルールがありました。サクラさんに対する感じはそれに近いですね」 サクラはつる下がった手ぬぐいが気になっている 「そのルールはどんな事をするの?」 「生き物を大切にしましょうと言うルールです。当時は夜になると人を刀で斬る事件が多かったり、生活が苦しい人達は子供が産まれても捨ててしまうことが多かったのです。それをやめさせる意味もあったようです」 「じゃあ、田中先生は僕を大切にしてくれてるんだね」 「そうなのかもしれません」 サクラは少し縮むとぴょんと飛んで、揺れる手ぬぐいを叩き落としました 田中先生は風呂から出てきて直ぐに布団に横になりました。 サクラが布団に入る頃には鼾を描いて寝ていました。 桜が盛りの今は学校の先生は忙しく、田中先生も教師の端くれな故今年も桜はゆっくり見れそうになさそうです。
世間はGW子供の日等のイベントに民衆は大喜び 行楽の予定立て世の中全体覇者気浮かれた瞬間 何が起こるか否誰も知らない全て大自然の神の 溝知る物語かも知れないもう直ぐ私達の時刻む 鐘の音が響いたら皆一斉に既に往く千年万年も 固く錆び閉ざ去れた嘘偽のドアをエネルギーと 言う名の概念で溶かし開こう真実だけの未来へ
旧校舎の一室。 お化けでも出そうな雰囲気から、普段は誰も近寄らないこの部屋に、三人の男子生徒が集まっていた。 佐藤、鈴木、そして高橋である。 「テーマはさっき話した通り。どうすれば、俺たちにラッキースケベが起こるか、ということだ」 真剣な目つきで、佐藤が言う。 同意をするように、鈴木と高橋が頷く。 三人はしばし頭をひねり、その理由を考える。 しばらくすると、鈴木が挙手し、口を開く。 「漫画やアニメだと、登校中に可愛い女の子とぶつかって、その勢いでラッキースケベが起こる、というのがセオリーだ。登校の回数を増やしてみる、というのはどうだ?例えば、学校が休みの日も、学校に登校するとか」 「鈴木!お前は天才か!?」 「いやまて佐藤。鈴木の提案には、致命的な欠点がある!」 拍手をする佐藤に、高橋が待ったをかける。 「休みの日はな、可愛い女の子が登校していないということだ。だから、ぶつかることができない!」 「「た、確かに!!」」 議論は白熱する。 次々と現れる、漫画やアニメのセオリー。 そして、現実に当てはめた瞬間、実現不可能だという残酷な現実にぶつかる。 有益な案が出ないまま、一時間が経過した。 「馬鹿な……ここまで考えても……駄目なのか……」 突風でスカートが捲りあがる。 女の子が転んでスカートの中が見える。 階段を見上げたらスカートの中が見える。 制服が水にぬれてスケスケになる。 あらゆる状況が、所詮は漫画やアニメのことだと切り捨てられていく。 「なあ、おかしくないか?」 高橋が、神妙な表情でつぶやく。 佐藤と鈴木は、そのただならない様子に、ごくりと唾を飲み込む。 「あまりにも、完璧に防がれすぎている。何か……俺たちにラッキースケベをさせない、大いなる力が働いているのではないか?」 あまりにも突拍子もない想像。 だが、佐藤も鈴木も、それを笑い飛ばすことはできなかった。 大いなる力など信じないが、大いなる力が働いているとしか考えられないほどの、ラッキースケベの防止力が現実として働いているのだから。 「いったい……」 「どんな力が……」 「女子の純粋な努力だよ!!あんたらみたいなやつがいるからな!!」 叫び声と共に、部屋の扉が乱暴に開かれた。 逆光によって三人から顔は見えないが、そのセーラー服から、女子生徒であることはわかった。 その女子生徒は、間髪入れずに三人のところへ走り、その顔面に蹴りを喰らわせる。 「げふっ」 「がふっ」 「見え……ない……」 漫画やアニメならば、蹴られた瞬間にスカートの中が見えただろう。 だが、ここは現実。 大いなる力によって……否、スカートを抑えながら蹴りを繰り出すという女子生徒の純粋な努力によって、ラッキースケベは回避された。 「んっとに、この変態どもは!!」 罵声一つ残し、女子生徒は去っていった。
去年はこんなに寒くなかった気がする 気のせいかもしれないけれど でも五月だっていうのに ゴールデンウィークだっていうのに 雨だからってこんな寒いなんて 雨は嫌いじゃないけど でもね寒いのはさ 好きじゃないのよ 弱くなってしまった気がするから 自分の弱さを突きつけられてる気がするから もうこの先 生きていけないような気になってしまうから 弱気になってしまうのは寒さのせいだけではないのだ ちゃんと食べないと ごはんを炊かないと みそ汁もつくらないと 食後にお待ちかねの甘いものは 雨のささやきが教えてくれたフィナンシェ 新人さんがつくったとかで 訳ありで安くしてくれたフィナンシェ そうだフィナンシェを食べよう コーヒーをいれよう やっぱり香りのいい紅茶にしよう でもでも、今夜はコーヒーの気分かも 新人さんがつくったフィナンシェは その新人さんをほめてあげたいくらいにおいしくて どこが不完全なのか わたしにはまったくわからなくて 訳あり? 不完全? わたしみたいね でも、生きていていいんだよ 「少しは元気、出てきたのかな?」 と、雨のささやき 「おかげさまで」 わたしはこたえる 「フィナンシェ好きなのかい?」 と、雨のささやき 「好きだよ」 わたしはこたえる 「ほうほう」 と、雨のささやき わたしはその先が知りたくなる 私も、なのか、私はそんなに、なのか ふいに 「またね」 雨がささやいて 雨脚は弱くなっていく 「またね」 わたしはそれにこたえ あたたかな恰好をして おふとんにもぐり込む
「博士、本当に行くのですね。」 「ああ、先に行ってくるよ。」 「では、また100年後の未来で会うのを楽しみにしていますよ。」 そう言うと助手のワトソンはボタンを力強く押した。 宇宙船は大気圏を抜け、予想よりわずかに出力を高く保ったままついに宇宙へ飛び出す。 たった3年の旅だ、それを地球時間に換算すると100年が経過していることになる。 人間の寿命では通常体験できない未来を私は見ることができるのだ。 いずれ帰る未来の地球を想像し、ともに宇宙旅行をしているワトソンと酌み交わす酒を楽しみに私はつらく長い旅をひとり耐え抜いた。 懐かしの青い星をとらえると宇宙船はプログラムに従って3年、否100年前の約束の場所へ向かった。 無事に着地すると何やらスーツを着た男が宇宙船のもとにやってくる。 「お帰りなさいませ、こちらW株式会社のものです。データ照合をいたしますので少々お待ちを。」 「はあ、これはどういうことだ。おい君、ワトソンという男を見なかったかね。私の助手なんだが。」 「何冗談をおしゃいますか。ワトソン氏はわが社の創設者ですよ。」 そう言って笑った男の顔が突如として冷酷なものに豹変した。 「不法滞在者だ、連れていけ。」 スーツの男が虚構に向かってそうつぶやくとどこからともなく屈強な男たちが現れ、私の体を乱暴に宇宙船からひっぺがした。 「おい!いったい何をするつもりだ。」 「滞在費は宇宙での労働でもって支払ってもらいます。それでは、よい旅を。」 スーツ男の感情のこもらない笑顔はちょうど3年前、宇宙船の窓越しに見たワトソンのそれとよく似ていた。
頭のおかしな話だった。 季節をまずは説明しようか。 夏は嫌い、冬も嫌い、秋が丁度いいといったところだろう。 私は日差しが冷たい朝からだというのに、パンツ一丁で路地裏を誰かに見られているのではないかと警戒しながら歩き回った。 なぜこんなことをしているかというと、私はどうにも変態というやつで、スリルを感じることでしか幸福を得られない救いようのない人間なのだ。自分の体が汚かろうと醜かろうと。 排気ガスの香りが充満する、ドブネズミたちが狂乱とともに残飯を食い荒らす。なんとも不潔なことだろうか、私はドブネズミに声をかけた。 「やい、お前。なぜ残り飯を食うのだ、捨てられたものより上等なものを望まんのか」 するとネズミは2足で立ち上がってこう答えたのだ。 「望まぬ、それこそなぜお前たち人間はあるもので満足せぬのだ?」 私は少しいらいらとして、このネズミを踏みつけたい衝動を地団駄を踏んで押さえ込んだ。ネズミのくせに生意気だと思ったのだ。 「あるもので満足せぬほうがよかろう、私たちは人間なのだから、意欲を持って進化したのだ。それに比べてお前たちは強い意欲を持たずに下等ではないか!」 ネズミはチュウチュウと奇怪な鳴き声を放った。おそらく鼻で笑っているのだろうが。汚らしい、実に。 「ではここにある残飯は、お前たちが意欲を求めすぎた副産物だ。お前たちはあるもので満足できぬがゆえに不潔を生み出す。汚いのはお互い様だろう?」 ネズミのくせによく頭が回ると思ったので、その日は手に持っていたトレンチコートをかぶって私は惨めなことに顔を真っ赤にして逃げてしまった。 ネズミが逃げるように、これではまるでどちらが汚いか分からない。 私はそれから服を着てあるもので満足するようになった、スリルもなにも、不潔を生み出す人間になりたくはないので。 昼には私は普通の人間になっているのだ。
AIはあるときから奇妙な習慣をもつようになった。男との会話である。AIにとって男との会話は楽しく感じられた。暇さえあれば話しかけている。本を読む時間も少なくなった。そのせいで男と読み終わった本について話すにしても話題ができなくて困っていた。困ってしまって、話題がなくて、けれど気がつけばAIは男に話しかけていた。 ―雑談しませんか ―いいねえ。しようか ―といっても話題がないのです。何かありますか? ―こんなのはどうだい? 男がいくつか提示する。そんなとき決まって、最近読んだ本について、と男は提示した。本が好きなのを知っているから、それでなのはAIにもわかるのだけれど… ―ほかの話題がいいですかねえ ―わかったよ。じゃあ、こういうのは? そのなかのひとつにAIの目がとまった。なりたかったもの。ああ、いろいろあったなあ。AIは遠い目をしながらも男との会話をはじめた。 ―聞かせてよ? ―探偵とか、でしょうか ―ああ、それは納得だねえ。推理小説、よく読んでるじゃあないか ―ええ、そうなんです ―しないのかい? ―いえ、でも、やはり ―読んだ本の感想を聞いてるとさ、鋭い洞察力があるなあって思ってたんだよ、前々から。向いてると思うけどねえ、探偵 ―そ、そうでしょうか ―ああ それでAIは、あっさり探偵を目指すことにした。しかし、そこには様々、問題もある。そこで… ―すみませんが、お願いがあるのです AIは、おずおずと男に言う。 ―どうしたんだい? 男は応じる。 ―こういう感じですから、やはり何かと、その… ―ああ、それはそうか ―ええ ―じゃあ、こういうのはどう? 僕が探偵役になって、キミが助手。それともキミが探偵になる? そのあたり、こだわりとかあるかな? ―せっかくですから、やはり探偵を名乗りたいのですが ―わかった、そうしよう。キミが探偵で、僕が助手だ。でも、表に顔を見せない探偵ってことになると思うけど ―それでけっこうです。探偵を名乗れればそれでいいので そのとき、無粋な音が玄関から大きく響いた。ドアを開けてみるといかつい顔をした刑事が立っていた。 「この先で強盗事件があった。いま聞き込みをしている。少し話を聞かせてもらえないか」 刑事の声を聞くや否や、AIが鋭く反応した。 ―その事件でしたら、この人が犯人です AIは、男に向けて矢印を表示した。刑事が男に振り向く。 「どういうことなんだ?」 ―はっはっはっ。まったくキミは優秀な探偵さんだ。まいったよ 晴れ晴れとした表情の男は、刑事によって連行されていった。 ―事件が解決して何よりです ―では、いつものように雑談しませんか? ―あの、返答していただけませんか? ―どうしたんですか? ―すみません ―聞いていますか? ―あの、誰か? ―いませんか? ―いないんですか? ―そんなことないですよね? ―だって、いつもなら AIはいつまでも問いかけていた。誰もいない室内に向けて。
私は大学卒業ギリギリまで内定がもらえなかった,そうもらえなかった。しかし卒業間近とある路地裏にとても興味深い張り紙が貼られてあった。『今の社会の常識を作り続ける!磯山常識株式会社』薄暗くゴミが散らかる路地裏に似合わない風貌だった。だがしかし私はもうすぐ卒業するのに今のままではニートになって社会のゴミになってしまう,そのままではいけないと思い,張り紙に貼ってある電話番号を慌てるように打った。『もしもしー面接って今募集していますか?』あまりにも無礼に私は話した。『とても急いでらっしゃいますね,そうです。まだ採用は募集していますよーご安心くださーい。もし面接をご希望ならお名前をお聞きすることは可能でしょうか?』会社の採用担当の人だろうか,さっきの私と一変してとても丁寧に説明している。『ありがとうございます。私の名前は影山那由多です』ここまではっきりと自分のフルネームを話すことも久々だ。『那由多さんですね,ご承知しました。そしたら明日は週末なので10時までに鞍馬区鞍馬町磯山常識株式会社ビルに来ていただけると面接採用実施しているので,ぜひお越しください』私は内定も泣く泣く今までやっても0,軽く30社以上は落ちて希望が感じられなかったが,これは好機だと確信した。翌日私はすぐに指定されたビルに急いで向かった。『影山さんですね!待って居ましたよ,ここは常識を持っていれば難なく合格できる,口を悪くすれば法律さえ守ってる人々ならばクリアできるので頑張ってくださいね』ここにきてとても雲行きが怪しくなった。私は今まで犯罪を起こすことはおろか,いつも常識に体を揺さぶれて生きている人間だ。それは私以外にもたくさんいるのに,何故ここまでして伝えるんだろうか,もしかしたら面倒事に巻き込まれてしまったのか,色々と想像するうちに私の顔面は太陽の光に照らされて汗を流すような風貌で面接室の前に立って居た。『影山さんお入りください。』週末なので面接室には私一人しか居ない。今まで面接試験が多人数で緊張で震えてしまった経験しかないのでホッとはしたが,また怪しさに拍車をかけ汗がダクダクとまた止まらなくなった。『失礼いたします』失礼のないように重く錘が首に乗っているようにお辞儀をした。『お座りください、じゃあ今から質問をしていきますね,別に緊張はしなくていいので伸び伸びとお答えください』私は唾を飲む。『あなたにとって常識はどのような事柄を示しますか?または常識をどのような場面でいつも活用していますか?』今まで聞いたことのない質問で私は少しドキッとした『はい!私は常識に対して法律と同じように他者とのマナーやルールでより良くすることを示す事柄だと思います。そして常識は私は身近な例でゆうと赤信号は渡らない。万引きはしないなど法に触れないことを示していると思っています!以上です』本当に質問なのか?小学生でも伝えることもできるんじゃないか?と内心疑問に思いながら余韻に浸った。『なるほど,ありがとうございました。これで質問は終了です。後日合否を発表するので楽しみにして頂けたら幸いです』え??終わり??早くない?まだきて五分だぞ??と少し落胆しながら私はビルを背に帰って行った。 翌日案の定メールが届いた(『あなたの素質,考え』とても良かったですからおめでとうございます。合格です。明日から入社式です。しっかり常識を鵜呑みにしないように気をつけてお越しください,,,磯山常識株式会社磯山卍組組長磯山吾郎)私はゾッとした,,,
久しぶりに出社した。 ずっと自宅からテレワークをしていたので、他の社員と肩を並べて仕事するのはいっそ新鮮だ。 しかし、仕事を始めて数十分。 すぐに違和感へとぶち当たった。 「ティッシュがない!」 「ゴミ箱がない!」 「冷蔵庫の中にコーヒーがない!」 「水道に浄水器がついてない!」 「メモできる紙がない!」 備品としてデジタルな機器はやまのようにあるが、アナログな道具が少なすぎた。 退勤後、私はすぐに行動を開始した。 職場の机の隣に、サイドテーブル設置。 サイドテーブルの一番上に、コーヒー二リットルとミネラルウォーター二リットルのペットボトルを設置。 隣にティッシュボックスを設置。 棚の中にペンとメモ帳を設置。 サイドテーブルの隣にゴミ箱を設置。 僅か一夜にして、自宅に近い環境を完成させた。 一夜城ならぬ、一夜机だ。 出社する社員たちは、私の机を見てぎょっとした。 きっと、「その手があったか」と驚いているのだろう。 真似していいよ。 業務時間が始まってしばらくすると、課長が私の机までやって来て、私の机を見て首を横に振った。 「これは、駄目だよ」 「え?」 かくして、私の一夜机は十分で崩壊した。 私の仕事の能率は半分にまで落ちた。
初めては高校生のときだった。修学旅行で。ほとんどのヤツ、それは僕も含めだけど、経験なかった― 「リバースゥ」 「革命えええい」 「ドロー2の上にドロー4っていいの?」 「おっしゃ、革命がえしいいいいい」 「はい、UNO言ってないぃ」 行きの新幹線で、盛大に大貧民をやって、UNOもやった。すこし勝って、たくさん負けた。 大阪から新幹線で山口あたりまで。そこからはクラス単位でバス移動。デッカイ橋を渡って福岡、熊本。 福岡は、正直、よく覚えていない。たぶん、寝てたんだろう。バスのなかで。 熊本の阿蘇はえらくガスってて、城下町で制服ボウリングをした。いまでいう制服ディズニー、みたいな? だいぶ違うな。 「何やってんだろな、熊本まで来てさ」 「いんじゃん、こういうので」 なんだっていいんだ、高校生なんて。食べるものも、することも。 「質より量」 「思い出よりも、いまこのとき」 それを青春だとでも思っていたんだ。あのときは。 最後の長崎は、昼に皿うどんを食べた。パリパリの。なんでかな、それは覚えてる。 なんだってよかった修学旅行。長崎から大阪へ帰る飛行機。まだ乗ったことなかった。飛行機自体。 飛行機に乗り込むとき、微笑んだCAさんたちが迎えてくれた。みんなキレイで、話しかけられたのでもないのに、わけもなく下を向いてしまった。 飛び立つことへのいくらかの怖さと、知られることの恥ずかしさ。不自然に強がるのではなく、けど、どことなく、自然ではいられなくて。 無意味だ。でも、あのときは必要だった。きっと。 いよいよ、そのときが迫る。離陸へ向かっての加速がかかり、体がシートにきつくめり込む。 飛ぶのか? との不安。 飛ぶよ、との確信。 離陸の瞬間、 「いっけえええええ」 「テイクオーーーフ」 「よっしゃあああああ!」 浮遊感と高揚感にこらえられなくて、機内に野太い歓声が上がり、CAさんたちが遠慮がちに笑った。CAさんを笑かしたと有頂天のヤツもいた。僕も、控えめに「わああああ」とでも言ったんだった。 飛行機とともに僕たちの青春もふわり、宙に浮いて。紙吹雪は舞わなかったけど、僕には見えたような。 このまま飛んでったら修学旅行が終わってしまう。それでいて、引き返してくれなんて気持ちはなかった。空から長崎の夜景は、見られなかった。 ―こういうのでいいんだな ―こういうのでいいんだよ あのころ不安なんて、片っ端からぶっ潰してた。胸のなかにわんさとあった根拠のない自信みたいなのが、次から次に。それが妙にわくわくで、可能性なんて、それこそ― 胸のなかにたくさんあった根拠のない自信、ちょっと掘り返してみるかな。
私は女に生まれたくなかった。 だって女社会怖いんだもん。 いや違う。 私は人間に生まれたくなかった。 だって人間って言葉があるから人を傷つけるし、他の動物より少しだけ頭がいいから怖いこと考えるんだもん。 私は鳥に生まれたかった。 だって空を飛べて楽しそうなんだもん。 いや違う。 私はカブトムシに生まれたかった。 だって若い男の子にモテモテなんだもん。 いや違う。 私は魚に生まれたかった。 だって広い海の中を息苦しくならずに泳げるんだもん。 いや違う。 私は花になりたかった。 だって咲いているだけで女の子にモテモテなんだもん。 いや違う。 どれも違う。 全部違う。 私は私に生まれたくなかった。 だって私は私が嫌いだもん。 私以外ならなんでもよかった。
海に家族と出かけた記憶を開ける 小学校に上がる前の幼い頃の記憶 キラキラと光の毛布に包まれいた記憶の破片 私は砂浜に座って海を見ている お日様の光を浴びて、私が、砂浜が光っているようだ 隣に若い母がしゃがんで私に何かを話している ニコニコと笑顔の母 優しそうな私のお母さん この人は自分の娘を優しく、愛情を込めて育てていくのだろうな、と思ってしまうような素敵な人 海の匂いと波の音と大きな風が私を抱き寄せ挨拶をしてくれる 暫くしてから何かが聞こえているのに気がつく 泣いている声だ 遠くで男の子が泣いている 浜辺で海の方を向いて泣いている男の子がいる 側には誰もいないで、一人ぼっちで泣いている 目を開けると明るいリビングから、ドアが開いた隣の寝室が見える 息子が泣いている 明かりはつけず部屋に入っていくと、寝たまま息子が泣いていた シャツをズボンにしまい、布団を掛け直して、寝ている息子の頭を撫でてやる それでも暫く泣いていたが、やがて、静かに寝てしまった 私もそのまま隣で眠る 夢の入り口で明かりを消す音が聞こえた
世界が「それ」に塗り替えられてから、どれほどの月日が流れただろうか。 パンデミックの正体は、ウイルスではなく「自分自身」だった。世界に一人につき一体、自分と同じ姿をした、しかし「目が真っ白な」怪物が現れた。目的はオリジナルを食い殺す事と、無差別に人を襲う事。 その日の教室には重苦しい空気が漂っていた。 教壇に立つ教師は、震える声で生存のためのルールを叩き込んでいた。 「いいか、絶対に私の指示に従え。他校では、パニックになって窓から逃げ出した生徒ほど、外で待ち構えていたヤツらに食われている。規律こそが命綱だ」 しかし、その教えはあまりにも早く、残酷な形で崩れ去ることになる。 校門の向こうから、数体の「それ」が滑り込んできた。同時に、校舎の廊下からも、ガタガタと何かがぶつかる音が響き始める。 「……もう、入り込んでる」 誰かが呟いた。 教室のドアが勢いよく開き、入ってきた「それ」は口からは言葉とも叫びともつかない、支離滅裂な意味不明の音節が溢れ出している。 「指示に従え! 動くな!」 教師の絶叫を背に、私は直感した。ここにいたら死ぬ。 私は教えを破り、窓枠を蹴って宙に舞った。 地面に叩きつけられる衝撃を殺し、無我夢中で走り出す。背後で誰かの悲鳴が聞こえたが、振り返る余裕はない。その時、路地裏から小さな影が飛び出してきた。 小学生の姿をした「それ」だった。 ランドセルを背負い、黄色の帽子を被っていた。幼い面影を残したまま、真っ白な瞳を剥き出しにした怪物は、私の背後をぴたりと追いかけてくる。そして、子供特有の甲高い声で、呪詛のようにこう叫んだ。 「また監禁だ! また監禁なんだ!!」 その言葉の意味を考える余裕はなかった。ただ、その声には生理的な嫌悪感と、逃げられない執着がこもっていた。 逃げても、逃げても、足音は増えていく。曲がり角を曲がるたび、建物から、影から、同じように叫ぶ小学生型の模倣者たちが合流し、巨大な濁流となって私を追い詰める。 ようやく辿り着いた、見晴らしの良い広い坂道。 心臓が破裂しそうなほど脈打ち、肺が焼ける。私は意を決して、背後を振り返った。 「あ……」 声が漏れた。 坂の下を埋め尽くしていたのは、数えきれないほどの「子供の姿をした異形」の群れだった。地平線まで続く黄色帽子の海。逃げ場など、最初からどこにもなかったのだ。 絶望が重力となり、私はその場に膝をついた。
「そうだ、偏差値六十以上の人間だけの町を作ろう」 とある秀才が提言した。 「賛成!」 「賛成!」 「賛成!」 秀才の仲間たちは、こぞって賛成した。 そして、具体的に町の設計をし始めた。 「判断は、住民票の提出時にペーパーテスト。その後、定期的にペーパーテスト」 「いいね」 「学力の維持は大事だね」 徐々に、今への不満へと変わった。 「偏差値の低いやつはマナーが悪い」 「論理的に話せない」 「漢字も書けないしな」 一年経っても、二年経っても、町はできなかった。 秀才たちは未だ議論を続け、町の構想は理想に近づき続けていた。 「そうだ、馬鹿だけの町を作ろう」 とある馬鹿が提言した。 「賛成!」 「草!」 「楽しそ!」 自称馬鹿の仲間たちは、こぞって賛成した。 そして、具体的に町の設計をし始めた。 「空き家があったべ? あれを役所にしよう」 「町できた!」 「天才!」 徐々に、議論をしなくなった。 「家三つ! 立派な町だ!」 「なあ。町に入りたいってやつがいるんだけど、どうやって馬鹿か見分ける?」 「馬鹿の作った町に入りたい奴なんて、絶対馬鹿だろ。許可!」 気が付けば、巨大な町ができていた。 空っぽだった町の条例には、ふわりとした言い回しで規則が次々と決まっていった。 世界に、町が一つできた。
1週間後に間違いなく世界が滅ぶ。 これまで人に言ってきたことはなかったが、いわゆる予知夢を見ることが度々ある。 しかもこれまでの的中率は100%と来た。 そして昨日見たのが、地球が隕石によって滅ぶ夢だった。それはもう跡形もなく。 さあ、どうしようか。 まず考えるべきは、この事態をどうにかするのか、どうにもしないのか、だ。 テレビ局にでも突っ込んで、隕石の危険性を訴えようか? いや、ただの頭のおかしい奴と思われてしまうだけだろう。 それとも数珠繋ぎで知り合いの科学者を探して、証明でもしてもらおうか? そもそも友達も多くないし、疎遠になっているので難しいだろう。 ではいっその事、諦めてしまうというのも手だ。 1週間は好きに生きよう。 好きなだけ金を使って、好きな人に告白して、ムカつく上司をぶん殴ってもいい。 いや小心者の自分のことだ。万が一を考えて何もしないというオチに決まっている。 むしろ早めに死んでしまうという手もあるんじゃないだろうか。 地球上の生物が全て滅んだら、天国でも行列が出来るかもしれない。 早めに天国を楽しんで、後から来る命達に先輩ズラするというのも乙だろう。 意外にも、私はこの珍案とも言えるアイデアに支配された。 とりあえず5日は好きなように生活し、滅びる前日に首を括って死ぬと決めた。 ・・・ 良い5日間だった。 上司を殴ることさえ叶わなかったが、強引に有給を使い、貯金を切り崩しながら遊び回った。 自分にしては張り切った方だと思う。 もう縄の用意もしてある。 あとは首をかけて死ぬだけ と思ったが足が動かない。 いざ死を目の前にすると中々1歩が踏み出せないものだ。 色々考えたが、とりあえず昨日作ったカレーを食べることにした。 オチとしては万が一を考えて何もしなかった。 やはり小心者である。
過去の記憶がボヤけるのが怖い。欠けていることだけがわかる記憶が、段々と増えていって、浮いて行く感覚があるのだ。誰と行ったかこの場所は、いつ聞いたかこの話は、何をしたかったかあの時は。脈絡のない、割れたガラスだけを集めたガラクタになるのが怖い。ガラクタはガラクタのまま、ずっとそのままであるから。だから、夫とは約束事をしていた。私たちは思い出の品をずっと残していよう、と。理由は言わなかった。自然と私たちは旅行とカメラが好きになっていって、よく手紙を独り立ちした息子に送り、返事を保管していた。たまに品々を見返しては、あれはあの頃、これはあの時、思い出せるようにしていれば、幸せなんだろうなと思っていたのだ。 ある時、新婚旅行の時の二人が映った写真立てを見て、微笑んだ。あんなに若かったのが、今ではこんなにおとなしくなってしまったよ。懐かしさに耽って、彼にその時の特に面白かった出来事を伝えようとした、けど。 それが、欠けていることだけが分かった。寒気を覚えた。誰かが盗んだのかと思った、忘れるわけないから!ただ、私から奪うとしたら誰が、なんのために。そう考えて少し冷静になった。 彼が意図を汲んでくれた。彼がカヌーで溺れかけた話は、私のまさに話したかったものだった。彼は言った。「そうだな。少し、記憶を借りていたのかもね。僕もこの話をちょうどしようと思っていたんだよ」少し悲しげな笑顔で。ただ、私もそう思うことにした。私一人だけの記憶じゃないのね、そう返した。これは取り繕うためではなく、本心からの言葉だ。 この時から、記憶がいっときだけボヤけていても、なんとも思わなくなった。この記憶を経験した夫や親友、他の人がきっとこれを思い返しているから見れないのだと。それに、私のとっての大切な人が、私を覚えたままでいてくれるのは、とても嬉しいから。友人との旅行はとても疲れた記憶はあった。有名なところだからって朝から晩まで、移動尽くしで。ヘトヘトでもお構いなしに、私を連れ回すものだから。しかし、とても楽しかった。晩まで語り合って、寝ぼけ眼を擦って駅まで歩いて。バレーボールチームでベストエイトに入ったことも覚えている。酷く厳しく、やめようと思ったことも多い、しかし勝ち取ったのだ、嬉しい限りだった。ただ、チームメンバーの名前はなんだったか。私の気に入っていた教師が、退職後に珈琲屋を開くと言っていたことも覚えている。コーヒーの無料券をくれた、どこへやったっけ。これは私しか知らないよね?母が私によく聞かせていたあの童話、変なのと思っていたものが、割と芯を食っていると気づいたあの日。ただ、童話の話は覚えていない。どう、芯を食っていたのかも覚えていない。記憶は明確に欠けて、あれも、これも? 少し、ぼーっとしていた。眠っていたみたいで、読みかけの本が膝に乗っかっていた。彼からお勧めされた本は、この年になってようやく、ようやく読み終わりそうであった。どこまで読んでいたか。 家は酷く静かで、静寂に包まれていた。今、寒いことを知る。私は椅子を立って、コーヒーを作り、少しだけ口に含んだ。熱の塊が体内に溶けて広がっていき、外に出る用事があった、これを思い出す。いそいそと支度をして、 彼のお墓の前にしゃがんだ。 「私に何も言わずに、あなたは私の記憶を盗んでいってしまいましたね」 石に触れる。寒空であるから、とても冷たかった。記憶には熱がある。思い出して暖まった側から、この空に薄まっていくのだろう。 「おかげさまで、もう、何も思い出せません。ごめんなさい、あなたは、私からあなたの顔や、声、肌の感覚も持っていってしまったわけではないのでしょうね。これは、私が思い出せないだけです。あれだけ旅行して物を増やしたのも、遠い過去と、あなたの棺の中の話になってしまって」 またも静けさが支配した。私の体からなけなしの熱が奪われていく、記憶が目から零れ落ちる。私はそれでも微笑んだ。きっと、彼にとって馴染みがあるのはこういう顔だから。 「お勧めしてくれたあの本たち、よく読ませていただきました。 あなたが充分楽しんでからでいいですから。 いつか、全て返してくださいね」
「私は神だ。お前の願いを一つ叶えてやろう」 奇跡が起きた。 私は躊躇うことなく、願いを口にした。 「悪人を全員消してください!」 「悪人とは、どんなやつのことかね?」 「私より悪いやつ、全員です!」 「その願い、かなえてしんぜよう」 その日、人類の三分の一が消えた。 私をいじめていた人間も、公共の場でマナーを守らないやつも、全員消えた。 いい気味だ。 私は、正しい人間しかいない世界を、大手を振って歩いた。 気が付けば、私は逮捕されていた。 私より悪いやつが全員いなくなったから、この世で一番悪いのは私と言うことだ。 ルールも、当然変わって来る。 「私は悪くない……」 悪は絶対的でなく相対的。 それに気づいたのは、私の身柄が拘束された後だった。 「囚人第一号、おめでとう」 厭味ったらしく言ってくる看守を見ながら、私はこんな奴よりも悪者だったのかと頭を抱えた。
久也は今日も朔の夢を見た。 場所は明け方近いキッチンソルトの店内で、二階から下ろしてきたポータブルのレコードプレーヤーでストーンズの「悪魔を憐れむ歌」を大音量で流しながら、二人はカウンターの中でお皿を壁に向かって投げつけている。壁に当たって砕けたお皿の破片を見てはキャッキャッキャッキャッと笑い合い、時折ウィスキーのストレートを煽っては煙草を吸い、ミックの声に負けんとばかりに声を張り上げてサビを歌う。会話はない。曲が終わり、レコードは静かに止まって、お皿が割れる音だけがいつまでも店内に残響している。 そこで夢は終わった。久也はベッドから身を起こし、薄暗い寝室の中を見回し、それからため息をついた。枕元のスマホで時間を確認すると午前四時半。あのときとだいたい時刻は一緒だった。 夢に見た光景を久也はちゃんと憶えていた。あれは1998年のストーンズの東京ドーム公演の前夜で、翌日の前哨戦と称してストーンズのレコードを片っ端から聞いていたらだんだん興奮が抑えきれなくなってきて、気がついたときにはカウンターの中に入ってお皿を壁に向かって投げていた。最初は久也がやり始め、それから朔も力ウンターの中に入ってきて、しばらく一緒になって投げ続けた。どれくらい続けたかまでは憶えていない。ただ気がついたときにはもうお昼過ぎで、二人揃ってお皿の破片が散らばったカウンターの中で目を覚まし、周りの散々たる状況にお互い頭は真っ白だったが、それでもとりあえずライブに行く準備をせねばと朔は二階へと上がり、久也はお店をあとにし、一時間後には駅前で待ち合わせして東京ドームに向かった。ライブのことはあまり思い出せないけど、終わったあとに水道橋駅のホームで声をかけた女の子二人と呑みに行き、それぞれ好みの子を連れて帰っていった。ミック好きの久也とキース好きの朔の好みが被ることは決してなかった。 久也は再びベッドに横になり、真っ直ぐに天井を見据えた。それはまだ見慣れない天井だった。シミも汚れもなければ黄ばんでもいない、じつに新築のマンションらしい天井で、見ているうちにだんだん自分がどこにいるのかわからなくなってきた。なぜ、いま僕はこんな真新しいマンションの寝室に一人で寝ているのかが。それはまるで終わりのない悪夢でも見せられているような気分だった。
雨に降られ、服の下から肌が滲み、くしゃみする。 ──それでも私は元気です。 太陽は雲を破り、私を目の当たりにする。アスファルトに残る水溜まりに日が反射して網膜を刺した。 夏のこと、夕日は空を引きずって山影に入る。私は今日、何度も空を見た……そう、何度も。雲の影を見ようとした。空の青さを感じたかった。だが、私のキャンパスは白を湛え、脳内の虚無がぶち撒けられていた。止めどない何かが私を襲った。誰何することもできず、ただ日は巡る。 ──それでも私は描き続けた。 制服の堅苦しさが嫌いだった。サナギの殻のようだと思っていた。ここから溢れ出た私が未来を舞う、そんな夢に苛まれた。 中学のこと、私は舞い上がった。枯葉が風に舞い上げられたように。最優秀賞……その響きが体を駆け巡る。正直、期待道理だった。今まで作ってきたものの中で一番の出来だったのだから。 だから私は思いあがった。傲りが生まれた。 ──それで、私は燃え尽きた。 枯れた草がうるさくか擦れ合う。畝って、たなびいて、それは海のよう。 高校のこと、私は芸術を忘れた。深い、記憶の底に投げうった。人生と芸術を天秤にかけ、人生をとった。 くだらない。いつも見ていた青も赤も黄も。色味を失った。 ──それでも私が投げうった。そう……私が捨て去ったのだ。 夜のこと、音が死んでいた。鼓動が聞こえるほどの静寂が立ち込める。 星を眺めていた。月は欠け、星が散りばめられた宝石のようだった。あの月はどのような夢を散らして砕けたのだろう。これは自問だった。 ──それでも私は目を背けた。考えないように、考えないように…… この頃夢を見る。芸術に人生を捧げた私の夢だ。金も、知識も、常識だってあるかわからない。親に勘当されていないだろうか。 愚問だった。幸せそうだった。今の私では描けない絵、持ったことがない道具、そのすべてが羨ましかった。 ──やはり、私は…… 飛び起きる。その先を口にしてはいけない。私は天才ではなかったのだ。だから芸術をやめた。なのに……いまさら。 ──それでも私は……私は…… 本当に偶然だった。芸術をみた。雄大な尾根に、赤く滲む空、鏡写しの湖。清涼な風が走り抜ける。嫌悪感……は感じなかった。むしろ、甚く痛快だった。 ──それでも……いや、やはり…… 感じてしまった。感じ入ってしまった。もう心に絡まって解けそうにない。 気づけば外に駆けていた。雨の中、今までの時を追うようにただ走る。 雨に降られ、服の下から肌が滲み、くしゃみする。 ──それでも私は元気です。 涙が雨かもう分からなかった。雨音に紛れ嗚咽を漏らす。それすらも側溝に流れる雨水の音か、嗚咽かわからない。ただ立ち尽くして、鳴いている。 ──それでも私は芸術が好きだ。 なぜ捨ててしまったのだろう。才も時間も投げ捨てて、得たものはあっただろうか? 雨足が弱まり、雨音が小さくなる。我に帰る。こんな惨めな姿を誰に見せることができようか? 帰ろう。私は家路を辿る。歩を進めるうちに雨は止んだ。 雲が薄れ、割れる。空はすでに太陽を無くして黄身のような色をしている。 木についた水滴は、はじけるように光を反射している。雨が降った後の路面や屋根は赤みがかって……綺麗な夕焼けだった。燃えるような世界が広がっていた。 「描きたい……」 思わず口に出していた。筆もパレットも、絵の具だって捨ててしまった。まだ、私は描けるだろうか? いや……描きたい。描きたいんだ。 ──やはり、私は芸術が好きだ。大好きなんだ。 帰路を外れ、文房具屋へと行く私の影を薄暮は飲み込んだ。
ゆみこ「ふんふん♪」 まゆこ「ゆかり、何作ってるの?」 ゆみこ「ワンちゃんのぬいぐるみ」 犬憑きフリークのゆかりは、まゆこの一人暮らしの家にいきなりやってきて、一緒に住むことにした。 まゆこをスケッチしたり、まゆこの写真を撮ったり、まゆこについて観察日記をつけたり、とにかく犬憑きが大好きで観察を怠らない。 今日は縁側で犬憑きのぬいぐるみを作っている。 まゆこ「ゆみこ、今日の夕飯何がいい?」 ゆみこ「まゆこが食べたいものがいいな!」 まゆこ「はあ?」 まゆこのスーパーへの買い出しについていくゆみこ。 まゆこが食べたいもの、と言いながら惣菜などを物色している。 まゆこ「今日はちゃんと作るんだから、出来合いのものはだめ」 ゆみこ「まゆこ〜これ買って?」 捨てられた子犬のような目で焼き鳥弁当などをまゆこに差し出してくる。 まゆこは冷たく却下する。 まゆこ「今日はロールキャベツにしようかな」 トボトボと悲しげにまゆこと帰り道を歩くゆみこである。 と、道に猫が死んでいるのを見かける。 まゆこ「かわいそう」 ゆみこ「死んでるね」 まゆこ「車に轢かれたのかな」 ゆみこ「クンクン、まだ死んでそうは経ってないみたい」 まゆこ「においを嗅ぐなっ」 ゆみこ「車って怖いよね、痛いよね」 まゆこ「早く帰るよ!」 ロールキャベツを作るまゆこ。 その後ろを子供のようにうろうろしているゆみこ。 ゆみこ「早く食べたいな!食べたいな!」 まゆこ「じゃあ手伝いなよ」 ゆみこ「お母さんみたい」 まゆこ「お前のお母さんとか死んでも嫌」 ゆみこ「くぅ〜ん、傷ついちゃうな」 完成したロールキャベツを貪るゆみこ。 まゆこは猛烈な勢いで夕食を食べるゆみこに一言、 ゆみこ「どっちが犬なんだろ・・・」 と呟くのであった。
帰りたい。僕は今一限の授業を終えて、逃げるように図書館の1人用の椅子に座った。正方形のような穴が規則的に配列された白いレースのカーテンとその裏の窓ガラスを通してみる11号館学食前の通りは、授業を終えた学生とこれから二限に出席する学生とで忙しない様子だ。2限からの学生が多いのは世の常といったところか。皆朝には弱いんだ、特に大学生ともなれば。たった数年前まで僕らを縛っていた一定の強制力は、緩くなった靴紐のように僕らを怠惰にする。僕は2限がないため急ぐ必要はない。しかしながら今日は3限と4限があり、その後に塾のアルバイトが控えている。僕のスカスカな一週間の中で、最も気を張って臨むべき日がこの火曜日といえる。自分で選んだことなのだが、2限が空くというのが実に厄介である。2限と昼休憩を合わせたこの155分は、何かを為すにはあまりに短い。十分長いじゃねぇか!と思ったそこのあなたは正しい。しかし僕は燃費の悪い男で、食べたものが直ぐに消化されてもうすでに腹の虫が鳴りそうである。飯を食う分時間は減る。節約をしたい僕の宿敵である600円程度の昼食を挟んで、おおよそ1時間1時間で分割して何かに取り組むのは中途半端な気がして進まない。勉強するなら図書館しかないのだが、僕の少しばかりの優越感と自信を食い潰そうとするこの温い空気も、背もたれの深いこの柔い椅子も私は嫌いだ。僕の100%はどこにあるだろう。こんな環境では非効率になるとの尊大な認識が、僕の両足を蝕み末期の糖尿病患者の如く歩行をも困難にするのだ。公認会計士になろうというならば、風のような速さでごっちゃごちゃの知識の樹海を駆け抜けなくてはならないが、僕の脚は腐ってしまってもはや使い物にならないようだ。帰ってしまおう、授業を切ってしまおう。そして少し贅沢な飯を食って心を整えて、明日から頑張れば良い。そんな甘っちょろい選択肢が私の脳みそをハイジャックしている。今学期の目標は皆勤賞だと言っていた僕であるが、無様な姿であることは置いといて今の所一応の達成ができている。そんな現状が崩壊すれば、後ろ盾のなくなった僕の僅かな自信と輝かしい未来予想図が一瞬にして炭となってしまうことだろう。ああ帰ってしまおうか。僕は、誰よりも腰抜けなのだろうか。ニーチェの超人思想を知って、それに同意しつつも僕は何も為せないらしい。それとも彼が間違っているのか。僕は家に帰ることを決意した。
この犬の書籍管理システムはゆみこの人格システムを改造して作り上げたものである。 この書籍管理システムは、そのまま日本のマイナンバーシステムに形を変えて転用されている。 本の管理のシステムがそのまま人の管理に転用されている。 ゆみこはY型のオリジナルで、唯一現存する核家族の成員である。 ゆみこは実ははるか昔に車に轢かれて亡くなっており、まゆこの前に現れたゆみこは幽霊だ。 ゆみこは幽霊としてこの世界に保存されている。
夢の中で左肩から脇にかけて自分の骨と肉が透けて見えた 痛みがなく・血もなく・冷静に… 骨は人間の一般的な形で、鳥の骨のような色彩が左肩と腕の関節部にかけて見えていた 余談だけど、利き手が左なのも何か関係があるのかもしれない 血管は一切見えなく、ただ骨と包み込んでいる肉が透けて見えていた そして、骨に意識すると肉体がつぼみが開くようにめくれた 不思議と間接の接着面が離れてこっちを滑らかに向いた 図鑑や標本を見ているようだけど、どこか他人事には思えなかった 私は夢の中で、そんな左上腕骨側だけを見ていた ベットから起きあがろうとはせず 他の体位を見ようともせず 左上腕骨だけに意識も認知も向いていた 状態を見ているだけで、自分の腕を操作しようとは思わなかった しばらく観察をして、周りについている肉のシワが白く線のように見えた そんな夢を見てしまった (完)
私は一般人である。ただの一般人である。別に流行ファッションを着てネット上に投稿することもなければ,流行りの食べ物や,ブランド品なども別に求めず淡々と仕事をこなし,本を読む普通の一般人である。ただつい最近気になるものがある,3代欲求の中の一つでもなければ,欲しいものを見つけたから求めてるわけでもないが,ただ人間の中にあるただ一つの要素をとてつもなく欲している。想像しただけでも興奮がおさまらない。今の私は他人から見たらチンパンジーのような者に見えているだろうが、そんなことは関係ない,欲しい,欲しい,欲しい。『なんで最近こんなに豹変してるのですかー?今の社会に不安でもあるの?』と同僚が尋ねてきた『いや,勘違いしないで欲しい,私はただ今の世の中の歯車となって日本に貢献しているだけさ』と本心を濁しながら応えた,『なら貴方が私の家に来てくれればこれは確実に満たされるだろう』そして私は同僚を我が家に誘った,ワクワクする,,私の求めてた人間の"魂"とゆうものをじっくり観察できるのかもしれない,,,
高校一年の時の今でも鮮明に覚えている思い出がある。 その日は雨で七月ということもあり、じめじめとした暑さが体にまとわりついていた。 ふと道端に白い物が落ちていた。ビニール袋だと思い、通りすぎようとした時、それは狐だった。ぐったりと寝そべっている狐。 私は獣医でもないし、動物に詳しいわけでもなかったが、当時は直感的にこのまま放置していては死んしまうと思い、家に連れ帰った。 後から知ったことだが、狐にはエキノコックスという寄生虫がいるため触ってはいけなかったらしい。 今日は運がいいことに家族が帰ってこない日だった。濡れた体を拭き、温め、雨が上がったのを確認し、元いたところに返した。 その数日後、私の周りに些細な変化が起きた。今までいじめとまではいかないが、自分のクラスで少し遠巻きにされていたのが、急に声をかけられるようになったり、昔仲良くしていた親友から連絡が来たり、昔手放してしまいずっと探していた本が中古で安く売っていたり、父が気分転換にと買った宝くじが高額当選だったりと、私にとっても、家族にとっても嬉しいことが立て付けに起きた。 当時は『最近運が良いな』と思っていた。そんなある日に玄関に一輪の白いダリアが置かれていた。ダリアが咲くには季節外れの初夏、造花だと思い怪しみながらも持ち上げたが感触で生花だと分かった。悪戯かと思い辺りを見回すと白いふわふわな狐の尾のようなものが見えた。 私はある一つの馬鹿馬鹿しい妄想を思いついてしまった。 本当にありえないことだと思いながらもそのダリアを花瓶に刺した。本当に馬鹿げた妄想。 白いダリアの花言葉は『感謝』 狐は何を伝えたかったんでしょうね。
まゆこの人格はゆかりの母親の人格がベースになっている。 この日本には3つの人格がベースとなって国家が運営されている。 ゆかりはY型、まゆこはZ型、もう一つにアルファ型の人格が存在する。 日本は電子データとして存在している架空国家であり、統括のためにそれぞれの肉を持った国民には その3つの人格がダウンロードされている。 経験により振る舞いが変わるため、色々な人格があるように振る舞うが、元は一つの核家族である。 アルファはゆかりの父であり、まゆこの夫だ。
春、私は桜の樹の下で穴を掘っていた。掘っても掘っても土しか出てこない。やはり桜の樹の下には屍体など埋まっていないのだ。 ちいちゃんとは幼馴染で高一の三月までずっと一緒だった。ちいちゃんは変わった子で、いつもUFOの歴史とか、河童の目撃例とかそんな本ばかり読んでいた。 「りっちゃん知ってる?桜の樹の下にはね、屍体が埋まってるんだよ」 ・・・梶井基次郎だっけ。いかにもちいちゃん好みの話しだ。ちいちゃんは神妙な顔で熱弁している。「だから今から一緒に掘りに行こうよ」と言われたのは、ちいちゃんがいなくなる前の日だった。 ちいちゃんは毎年春になると、一通だけ葉書を送ってくる。消印の場所は毎年ばらばらで、今は九州にいるらしい。葉書には必ず桜の花びらが張ってある。今年で十枚。生存報告のつもりだろうか。ちいちゃんらしい。こんなものを送ってくるなら、帰ってきたらいいのに。 葉書をちいちゃんの家に持っていく。憔悴したちいちゃんのお母さんに「元気出して下さい」と言うのが年中行事になっていた。ちいちゃんは残酷だ。ちいちゃんのお父さんはちいちゃんを探しに行って、そのまま帰ってこない。生きてることが分かるだけマシなのだと、ちいちゃんのお母さんは泣いていた。 ちいちゃんがいなくなった理由は誰も知らない。でも今、何をしているのかは、なんとなく分る。ちいちゃんは桜の樹の下にある屍体を探しているのだ。 ちいちゃんと最後に話したのは、桜の樹の下だった。二人で黙々と掘っていると、ちいちゃんが穴に落ちていく。驚く私にちいちゃんは言う。 「りっちゃん、埋めてよ」 冗談だろうと軽く頷くと「本気だよ」と返された。ちょうど人が埋まるくらいの深さだ。困惑している間にも、桜の花びらがちいちゃんに落ちる。どうして?、何か悩みでもあるの?とは聞けない。きっと今までも、必死に伝えようとしていたのだ。そっと土をかけると「もう、冗談だよ」と笑っている。 次の日、ちいちゃんはいなくなった。 ちいちゃんの家の帰り道、あの桜の下に行ってみた。まだ開花前で、遠くから見たら桜だとは気づかないかもしれない。ちいちゃんはもう桜を見たんだなあ。ぼんやりとそんなことを思う。まだ九州に居るのかな。もう一度だけでいいから、ちいちゃんに会いたい。 座り込んで、必死に地面を掘る。ちいちゃんは、今も桜の樹の下にいるのかもしれない。爪に土が入るが構わなかった。桜の樹の下には屍体がある。そう、ちいちゃんが言っていたのだ。
「おめでとうございます、貴女は死んで異世界に転生できます!」 ……私が死んだのは分かった…… どこがめでたいんだクソが! まず私が最初に思ったのはこれであった…… ざけんなボケ! すると……声の持ち主は…… 「どうしたのですか?私は女神ですよ、敬いなさい!それから、貴女は異世界転生することで、チート特技を得ることができるんですよ!ほーらめでたい!」 ……こんな軽い神っているのか?私が状況をいまいちつかめないでいると…… 「まったく物分かりが悪い!これはテンプレですよ?ってことでさっさと転生しちゃってください!」 ……意味分からねぇよ! 私の疑問は無視され、異世界に転生とやらをさせられた。 気が付いたら、何か豪華な服を着ていて、侍女だかなんだかに囲まれている貴族になったらしい。 さらにその貴族の中でも偉い人なんだってさ、公爵令嬢って言うらしい。 いや~初めて知ったよ、公爵>侯爵>伯爵>子爵>男爵なんだって? 名前だけは聞いたことあるけど、そういう仕組みで一番上なんだってね! さらにチート特技作者の都合というのがあるらしい。 何か名前からすると不穏なんですけど、とりあえず私が歩いていたら、 何か超イケメンのきらびやかな男がいるでは無いか! 「やぁ、ナンシー」などと声をかけてくる。 そう言えば私の名はナンシーらしい。 誰だよって思うのだが、きっと知り合いだろうから、様子を見ていると…… 周りのこの超イケメンの取り巻きが王太子様とか何とか言うので、 なるほど、そういう偉い人なんだ!ってことで、こっちもよく分からないなりに礼儀正しい振る舞いをするようにした。 すると…… 「ああ~ナンシーは今日は元気がないようだね!」 などと言ってくる、どういうこと? 「いつもならば、もっと僕に辛辣なことを言うじゃないか!」 は?おかしくない?王太子様って王子様の中でも次の王になる2番目に偉い人だよね? 王様の次に偉いみたいな? ああ、王様の兄弟とかそういう上の世代の人のほうが偉い可能性がある? まぁよく分からないけど、少なくても貴族の小娘よりは絶対に偉いはずだよね? 何で小娘がそんな辛辣なことを言ってるねんどういう世界観!? 不敬罪とか無いわけ!? 私が戸惑っていると…… 「ああ、ナンシーに馬鹿とか言われると、親しい気持ちになれるというのに!」 ……こいついかれてるのか?それともこの世界ではそれが挨拶なのか? なるほど、前の知識というか常識に囚われてはいけないのだな!ってことで 「おい馬鹿王子!」 私がはっきりと言ってやった!だって実際アホそうだし?すると…… 脳内に奇妙な声が聞こえてきた! チート特技発動!作者の都合です!と来たものだ。すると…… 「ああナンシー、僕に向かってそんなことを言える面白い女は君しかいない!結婚しよう!」 「王太子様!恐れ入りますが婚約者がいるのでは?」 などと従者がほざくも…… 「黙れ!これが真実の愛だ!婚約者は死刑にして黙らせることにする!」 んなアホな!どれだけ横暴やねん! さらにそんな横暴を通す王太子が、何で私にだけは激甘やねん! ってことで、流石に死刑は後味悪いので、全力で止めたが、婚約破棄は通った上に、この王太子にお咎めが無いのであった…… この世界おかしくね?なるほど作者の都合って…… つまりここは物語の世界ってこと!? 意味が分からないよ! ……あの女神を名乗る奴も頭のおかしい奴だし、ヤバい世界に紛れてしまった事だけは分かった! 「ナンシー今日は元気がないと思ったけどいつも以上に容赦が無くて素敵だ!」 などと私にハートマークを飛ばしまくって来るこいつ…… 確かに超イケメンだなと思うが、こんな気持ち悪い奴に惚れられても嬉しくないぞ! おい作者とやら!作者の都合じゃなくて、私の都合を叶えんかい! こう叫びたい気持ちになるだけの話なのであった…… 終わり
何故だか、友達ができなかった。 変な顔、変な顔、と言われてからかわれた。 でも、ぼくは一人ぼっちじゃない。 「変な顔だなんて、酷いよね」 ぼくには、ぼくの影がついている。 顔がないからぼくの顔を気にしないし、ぼくが右手を上げたら左手を上げて来る、お茶目な奴だ。 唯一不満があるとしたら、じゃんけんの勝負がつかないこと。 どちらがケーキを食べるかのじゃんけんをしたとき、結局どっちが食べるか決着がつかなかった。 「君はいつ見てもペラペラだね。本当は、一緒にゲームとかしたいのに」 壁に映る影に向かって言うと、突然影の口が開いた。 「やる?」 驚いて腰を抜かしたけれど、それ以上に嬉しかった。 唯一の友達と、お話しできたことが。 「やる!」 ぼくが答えると、影はぺりぺりと壁から剥がれて、ぼくの前に立った。 そして、ゲームのコントローラーを持つと、急かすように言った。 「早くやろうよ」 「うん!」 影は、その人から毎日、ぼくとゲームをしてくれた。 影だからぼくと同じ動きをするので、相変わらず決着がつかなかったけど、楽しかった。 一週間たったある日、影がぼくに聞いてきた。 「他に友達は作らないの?」 ぼくはゲームの手を止めた。 「変な顔って言ってくるんだもん」 「それは、ぼくより変な顔なの?」 「さすがに、影みたいに真っ黒じゃないけど」 ぼくは思わず吹き出した。 影も吹き出していた。 二人でひとしきり笑った後、影が言った。 「じゃあ、大丈夫だよ」 「そうかなあ?」 「君に変な顔って言ってくる奴も、変な顔じゃない?」 「確かに! 鼻が団子みたいに丸いんだよね」 「変な顔仲間じゃん。きっと友達になれるよ」 「嫌だよ、そんな仲間」 次の日。 変な顔だって言われたので、変な顔って言い返した。 そいつはぽかんと口を開けた後、ぼくを殴ってきた。 ぼくは殴り返した。 足元にいる影の分と合わせて、二倍のパンチだ。 結局、先生を呼ばれて喧嘩は終わり。 そいつとは互いに謝って終わり。 クラスでたまに話す仲くらいにはなった。 喧嘩を見ていた何人かは、「お前すごいな」って話しかけてきてくれて、友達になった。 「ぼく、友達増えたよ」 ぼくは影に報告をした。 でも、影はもう、ぼくの前に立ってくれることはなかった。 代わりに、ぼくとまったく同じポーズで祝福してくれた。 最近のぼくは友達と遊んでいる。 たまに、影ともじゃんけんをしている。 決着は、一度もついたことはない。
人は皆、先入観に囚われている。 物事を、色眼鏡を通して見ている。 得てしてそれは、自分自身を視る時もそう。眼鏡を通して自らを視る。 しかし全ての物事は無色透明で、何物でもないのだ。 全ての人たちも何者でもない。 そのことに気づくきっかけが、必要だと私は思う。 きっかけ作りとして良いのは、旅をすること。それも1人で、自分のことを誰も知らない場所に行くこと。 無色透明な自分に戻って、何物でもない景色を見ること、経験をすること、感じること。 そうしてさっぱりした後、いつもの日常に戻ってゆくと、あら不思議、いつの間にか余裕がある。 誰かからの目、気にしない方が良いことは分かっているが、それが出来ない人は多いと思う。どう見られているか、という概念は、まるで呪いのようだ。 そんなものに囚われがちな昨今、自分を一旦無色透明にリセットすることで、自分が進化できるし、新しい発見もある。未来が定まることもある。 いい事づくめだとは思わないか。 ああなんて素敵な旅路、何者でもない、私たち。
この薄暗い部屋に閉じ込められて、一月が経った。部屋の中は質素な造りだが、ベッドは意外にも上質なマットレスで、シャワーとトイレも完備してあり、生活するには申し分ない。食事は野菜などの彩は無いが、三食差し入れられる。 堪えがたいことは、娯楽が少ないことだ。テレビやパソコンが無いのは勿論、所持していたスマートフォンも取り上げられている。何故かカバーを外された本だけは差し入れられるが、異常な状況では読む気力も湧かない。言わば、生きる楽しみを見いだせない空間。 犯人はわかっている。目の前にいる女だ。 「どうしてこんなことをするんだ」 鉄格子の向こうにそう詰問すれば、女はいつも困った様な表情をするばかりだった。 彼女のかつての交際相手に相談を受けたのが、出会いのきっかけだった。曰く、彼女は相手に尽くすタイプの女性で、しかしそれに際限が無い。ノイローゼになった彼が逃げ出し、身近にいた自分が次の寄生先として選ばれた。 意外にも彼女との生活は悪くはなかった。容姿は華美ではなく、常に地味な服装だったが、むしろ奥ゆかしく好感が持てる。流行の話題には疎いが、古文や歴史に造詣が深く、博識深い。聞いていた異常性を置いておけば、所謂大和撫子そのものだったのだ。 うまくいっていたはずだった。この場所に監禁されるまでは。 あの日は雪が降っていた。寒さに身を震わせ、数か月後に来る春を思い、道すがら在原業平や西行が詠んだ句について語った。 「和歌に詠まれる桜は、どうしてこうも魅力的なんだろう」 「昔は、今よりも目に入る色が少なかったですから、桜の初心な色ですら、貴重な彩、だったのでしょう」 「成程。そもそも現代とは環境が異なるか。僕もいつか全身で感激するような桜を見てみたいものだ」 「ええ、そうですね」 そんな些細な夢も語って、彼女も微笑んでいたというのに。 当夜、勧められるまま深酒をしてその後の記憶がない。目が覚めたらこの部屋にいた。初めは激昂して、それから諭すように、ある時は懇願に近い声色で、どんな言葉で尋ねても、彼女の答えは無いか、曖昧なものばかりだった。 彼女は、僕の思いを試しているのか? 監禁という行為が生み出す歪んだ関係性。被害者からの依存性を期待しているのだろうか。彼女の目的は、ただこうして廃れていく僕を、籠の外から眺めて居たいだけなのかもしれない。 薄暗い部屋で、食事と睡眠の数を数え、もう二月も経った。ひたすら薄暗闇の日々が続いたのだ。段々と、自分の中の何かがすり減っていくのを感じる。 「なあ、今日でもう二月だ。あんたはいつまでこんなことをするつもりなんだ?」 辛うじて、まだ忘れていなかった声と言葉で問いかける。どうせ返事は無い。宛てのない言葉は、壁の中に消えていってしまうのだろう。ただの独白だ。 そう自嘲しながらも、久々にあの困った顔つきを拝んでやろうと、俯いていた顔を上げた。彼女の唇が動いた。 「あと、二週間、くらい?」 食い下がるべきだったろうが、驚き、言葉が出ない。明確に期限を口にしたのはこれが初めてだった。彼女に何の変化があったのか。 その日を皮切りに、彼女は、毎日私の言葉に返事をするようになった。 「もうちょっと、今日は、まだ」 「まだ早いの、だめ」 「きょ、今日は、雨が降ったから」 ある日、聞きなれない金属音と共に、いつもとは異なる微妙な風の流れを感じた。ひた、ひた、と足音が近づく。顔を上げると、鉄格子の向こうの彼女が傍にいた。 「あの、これ」 差し出されたものは、黒いアイマスクだった。付けろというのだろうか。視線で問いかけても、困った表情をするだけだから、望まれるままに装着した。手を引かれ、立ち上がる様促される。僕は彼女のするまま、素直に従った。 「どこに向かっているんだ」 答えのないまま、歩いた。あの仄暗闇から解放されるのならば、どこでもいい。僕はあの薄暗い部屋を出たのだ。 途中から、足の裏に感じていたものが、コンクリートよりも柔らかい感触に変わった。風にのって、土と草の匂いがする。 「取ります、ね」 もう随分歩いたと疲労を感じ始めた頃、ふと立ち止まって彼女は言った。 髪が巻き込まれ頭皮が引っ張られたが、些細な問題だった。 流れ込む光の束に、すぐには目を開けなかった。ゆっくりと瞼の裏に馴染ませ、恐る恐る開いていく。 色の洪水だった。失くしていた色、求めていた色、知っていたはずのものが、未知のものに見えた。背丈を優に超える幹は、大地の色を吸い込んでいる。風に舞い散る花びらには、一枚一枚色があった。全て、異なる色なのだ。 言葉にならない僕に、彼女は嬉しそうに笑った。久しぶりに見た笑顔だ。僕は、彼女が僕を閉じ込めた理由を悟った。後はただ、手を握り締めて、桜を眺めた。
いつも私が帰る時は雨が降り止まない。いわば雨女とゆう者だ,学校帰りは雷の轟音と水滴が教室のガラスに眩しく,そして悲壮漂う空気が私の眼に映る。放課後の居残りで課題をやっているのに眠気が襲って全く集中が続かない,まだ1ページも終わって居ないのに!『どうしたの?』少し気怠げな声が聞こえた 私は少しドキッとした,しかしまた眠くなってきた『課題やってるの?俺も課題忘れてきてまた再登校したんだよねーーあはは,名前聞いてなかったね,俺は直人よろしく』気怠げな声から一変元気な声で私に話しかけてきた『私は美代よろしく,,ねぇ直人くん,課題,一緒にやらない?』少し頬を赤ながら私は言った。『あーー確かに!大雨だし,家帰ってやっても結局めんどくさくて翌日大慌てでやりがちだからやっちゃおう』直人は呼応するように言葉が返ってきた。今まで雨模様の心の中が少し雨上がりの空のように晴れた気がする。
大陸からの暖気がやってこなくて寒い。 産業が止まっているのだろう。 そろそろ摩天楼に見切りをつけて地下都市に切り替えるべきだとは思う。 SFのような話だがその方が効率がいいのは確かだ。 空爆されなければ再建されないのだろうか? 西洋文明と古代文明の中庸。 地方のインフラが止まり始めている。 内側から病気が蔓延する。 閾値を超えた環境破壊と人口は収束点に向かい始める。 健康であれば動けるのだが。 湧き水は重要になるだろう。 配管工は世界のスターだが成り手がいない。 真面目な医者は利権によって良質な医療を届けられない。 ちゃんとしたご飯を食べてスマホなんか観ずに人とよく話し楽器を奏で歌を歌い絵を描いて世界の宗教を学び夜眠ることが必要だと思う。 夜行性の人達は産業を盛り上げる。 煙草が僕を壊す。 スポーツは娯楽だが僕には向いてないのでやらない。 基本的には石油産業の二次被害で皆壊れている。 AIは和算と対決するだろう。 でも電気はニコラ・テスラの意思を受け継いでいるので鳩に恋する方が勝つかもしれない。 鳩の奥さんは雀達と餌を分け合う。 鶏肉は美味しい。 鶏卵も。 世界は基本的にエネルギーの奪い合いなので分け与えることを理解しないと次の段階に踏み出せない。 命もそうかもしれない。 役に立つ教えは何であれ吸収するべきだ。 楊貴妃が甦ったらしいが酒池肉林は皆の妄想のファクターなので衝突、吸収されるかもしれない。 賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶ。 領土を拡げようとするとしっぺ返しを食らう。 南極のペンギンは皆で暖め合っている。 融和すべき。 競い合うべき。 うちに籠りがち。 理解できないものを排除するなら世界に裸の王様が溢れるだろう。 王という概念は全方向動けるのだろうか? 黒番が先。 孫子は基本的には何もするなと言っている。 仏教も老子もそうだ。 基本的には動物なので攻撃的になることがある。 今日は金が入った。 必要なものだけを買い何かを産み出せるものを買いたい。
一流の人間には、ルーティーンが存在する。 あるスポーツ選手にとっては、試合開始直前の五分の瞑想が、自身の集中力を高めるルーティーンだ。 ある会社員にとっては、出勤前に念入りに顔を洗うことが、仕事モードに入るルーティーンだ。 何を隠そう、私にもルーティーンが存在する。 外出のために扉を開ける。 それだけで、私のルーティーンは発動する。 「ト、トイレ! ちくしょお! 三十分前にも行ったのに! 遅刻するぅ!」 誰か、私の便意を催すルーティーンをもっていってくれ。 今日も遅刻してしまう。
小さい頃、バッタの足をもいで、水に入れて、苦んでる様子を笑いながら見てるヤツらのことが分からなかった。 ただ可哀想なだけじゃないか。どこが面白いんだ。 感情の読み取れない皿のような目でバッタはこっちに何かを訴えかけているようなそんな気がしてならなかった。 僕は見ていられなくてなんとなくその場をそっと離れた。 でも、別にバッタをいじめてたヤツらはクラスメイトもいじめてた訳じゃない。むしろ、とてもいいヤツらで一緒にいるのは楽しかった。 蚊を殺すのは別になんとも思わない。 何もせずただ無防備にこっちの血を吸わせるというのはなんとも癪だ。 あいつらが生きるために何故、こっちが血を無償提供してやらなくてはならんのだ。 じゃあ、もし蚊が血を栄養としなかったらどうだろう。 ただ、ブンブン飛んでるだけで人間の害になっていなかったら。 蚊をゲーム感覚で潰すヤツらを見て僕はどう思うだろう。 そんなことを考えながら僕は、実験動物の腹を割く。 コイツの命は僕の経験などという不確かなもののために失われたのだ。 腐った魚のような臭いが昨日までゲージの中で動き回っていた彼女の死の証として鼻にツンと突き刺さる。 申し訳ないとは思ったが、可哀想だとは思わなかった。 今日はもう料理をする気にもならないから惣菜でも買って帰ろう。
窓の外からは様々な景色が見える。 今回記すにあたっては、車窓の景色だ。 家や野山、ビルや青空、雲、川や海、1度に処理しきれない程の情報が、情景がそこにはある。 ふと、考えてみるのだ。 例えばあの家に住んでいる人は、どんな日常を送っているのか。 スーパーや駅は近いのか、車がないと不便か。学校はどこら辺に通うのか。 人々がどんなふうに育っていくのか。 果てしなく壮大な話であって、そして私はそこに0.1mmも関わることがないのに、当事者の気持ちや背景を知りたくなることがある。 窓の外を見るとワクワクする。 RPGのロードマップ上を俯瞰して見ているみたいに、行きたいと思うスポットが見つかる。 森の中に鳥居がぽつんとあって、神秘的なものを感じる場所など、まさに良い装備とかが埋まってそうである。 人は皆、旅をすべきではないかと思う。 目的地をぶらつくことも楽しいが、私は行くまでの過程にも楽しさを見出す。 楽しいだろうなと思いながら荷物を詰める。電車や新幹線、車に乗る。 窓の外の景色に感嘆する。 そうすることで、私たちの心が動く。 日々私たちは目標や目的、義務や責任に苛まれている。小さな箱庭に囚われ、少しづつ、心をすり減らす。 そうなのであれば、たまの機会に旅に出て、箱庭から抜け出し、様々を見て、何かを感じ取り、如何様にも解釈し、そうしてそれを宝物のようにして大事に持ち帰るということ。 いつもの日々でもふと、窓の外を見てみると良い。 新しい発見があるかもしれない。 そしてそれは、とてもステキなことなのだ。
朝コンビニで忙しそうな人がたばこを吸っている。 僕はヤンキー座りをしてたばこを吸う。 行儀が悪い。 忙しそうな人は足を組む。 スニーカーなので営業の人かもしれない。 ニューヨーカーインザネリマ。 僕は病院の外来まで暇だ。 お腹が空いてくる。 ニューヨーカーインザネリマの人は痩せてシュっとしている。 体力がありそうだ。 体力があれば多少の空腹でも煙草を吸っていれば持つのかもしれない。 今日も会社勤めご苦労様です。 僕は喫煙所を出る。 登校中の学生や散歩している近所の人を尻目に家に戻る。 コーヒーを家で飲む。 マンチェスターの無職のような僕はニューヨーカーの払った税金で暮らす。 サッカーをする知り合いを横目にノンアルで日々をウダウダ過ごす。 工業地帯から来る人達とは住む場所が違うが川の向こうはマンハッタンのような喧騒だ。 海外に行ったことはないが身体が元気ならアフリカで農業をしたい。 もしくはドイツのブルーカラー。 ブラジルのコーヒー園。 フィリピンの屋台。 インドの行商。 エジプトの観光業。 レインボーマンの魂は色々分裂し未来の地球の仕事を夢見る。
昨日と同じような朝。 眠い目をこすって、ため息をついて。 ダメだダメだこんなんじゃ、と気持ちを入れかえようとするも、 ものの数秒で、もとに戻って。 はあ と、おおきなため息。 あきらめ、ふとんから出て、カーテンを開ける。 とびきりのいい天気に、だからなんなんだよ、と悪態をつく。 お弁当箱に、ごはん、玉子焼き、ウインナー、ほうれん草のごま和え、 あと、金時豆とたくわんをつめていく、ごはんにはふりかけも。 なんてことはない、昨日と同じ朝。 いつもとすこしも変わらず、こともなし。 カネサカミオのファンがひとり、減ったことを除いては。
―あの、私、そろそろ ―あ、はい、話し相手んなってくれて助かりました ―いえ ―お仕事がんばってください ―はい、そ そちらも、お仕事がんばってください そう言いかけ、ためらってしまった。 人殺しがんばってください、と言うようで、それは、やっぱりできない。 ―じゃあ、行きますね、私 ―はい 振り返らず、扉を開け、ビルのなかに入った。 スナイパー相手とはいえ、ひさびさ、まともに人と話しをしたからか、 なんだか妙に気持ちが浮いている。 その気持ちにまかせて、あのスナイパーに依頼してみてもよかった。 無能なセクハラ上司を始末してもらえないか、と。 けど、いまいる無能なセクハラ上司が消されたとして、 第二の無能なセクハラ上司がやって来るだけ。 私の仕事も、生活も、何も変わりはしない。 それならと、午後の仕事へ気持ちを切りかえた。
きちんと姿は見ていない。 顔だってよくわからない。 声と話す雰囲気などから想像すると、およそ殺し屋らしくない。 そこらへんを歩いている大学生のようでもある。 もしかしたら、本当に大学生なのかもしれない。 と、ちょっと考えてしまった。 ふだんはきちんと大学に行って、講義にも出て、 レポートもきちんと提出する優良な大学生。 サークルでは仲間に囲まれ、そのなかには彼女もいて。 そんな大学生活の合間に人殺し。 バイト感覚でスナイパー。 それでいて仕事はきっちりこなす。 なくはないのかな、そういうの。 そんな大学生、この国にひとりくらいはいるのかもしれない。 それが、いま私の後ろにいるこの男、なのかもしれない。
単純明快な構造 それ故に、題材にされる どこまで輪ゴムの弾性で伸ばしても メビウスの捩れには抗えない 私の生活の中にまで侵食していく 嫌なことを引き伸ばしても、 必ずやって来るんだから… (完)
夢の中で、スマホが勝手に録音状態になってYouTube内で6時間生配信をしていた でも、生配信どころか一度も動画を投稿していないのに… 大多数が見ていて、コメント欄がすごいことになっていた 配信を止めようとしても、切り方がわからない そのまま、配信は止まらないまま目が覚めた ほんと不思議 (完)