深く暗い森の奥に、年老いたリスのおばあさんがひとり住んでいました。 おばあさんは毎朝、杖をつきながら森の奥へ 食べ物を探しに歩いて行きます。 ある日のこと。 木の実を拾っていると、聞きなれない鳴き声が耳に届きました。 「ピィ、ピィ、ピィ…」 声のする方へ向かうと、苔むした切り株の陰に小さな鳥の子どもがうずくまっていました。 羽はまだ生えそろわず、大きな口を開けて泣いています。 「どうしたんだい」 声をかけても鳴き続けるばかり。 「親とはぐれたんだね」 おばあさんはその子を抱きかかえ、家へ連れて帰りました。 小鳥はピィ、ピィと鳴き続けます。 おなかがすいているのでした。 けれど家の中に食べ物はありません。 おばあさんは虫を捕まえて食べさせましたが吐き出してしまいます。 花の種も駄目でした。 「困ったねぇ…何が食べたいんだい」 そこへ、ドンドンドンと扉を叩く音。 「ちょっと、ばあさん」 隣に住むおばさんリスでした。 「ピィピィうるさくてかなわないよ。静かにしておくれ」 「ごめんよ。子どもを拾ってきたんだけど、鳴きやまなくて困っているんだよ」 「なんだい、その汚い子どもは。とっとと捨ててしまいな」 そう言うと、おばさんは怒って帰っていきました。 翌日も小鳥は鳴きやみません。 おばあさんは隣の家を訪ねました。 「すまないが、少しだけドングリを分けてもらえないかね。あの子が欲しがるようなんだよ」 けれどおばさんは顔をしかめました。 「冗談じゃないよ。大事な実をあんな子にあげられるもんか。欲しいなら自分で取りに行くんだね」 おばあさんは黙って頭を下げると、心に決めました。 ──あの山の向こうに残る大きなドングリの木へ行こう。 それは若い頃の苦い思い出の場所でした。 夫と実を拾いに行ったとき、人間の作った広い道路を渡らねばなりませんでした。 そこで夫は車にひかれて命を落としたのです。 それからずっと、その道はおばあさんにとって恐ろしいものでした。 けれど今は違います。 小鳥のためなら、恐れを越えてもかまわない。 おばあさんは走り出しました。 轟音を立ててすれ違う車。 小さな足はもつれそうになりながらも、心はひとつの願いで満たされていました。 「どうにか…たどり着けたよ」 大木の根元には、黄金のように輝くドングリがたくさん落ちていました。 おばあさんはポケットに実を入れ、家へ帰ろうとします。 「さぁ、帰ろう。あの子が待っている」 けれど再び道路に立ったとき、老いた足は思うように動きませんでした。 ついによろめき、転んでしまいます。 ポケットから転がり落ちた大切な実。 それを拾おうとした瞬間──。 大きな車が、おばあさんの小さな体を飲み込んでいきました。 そのころ、家では小鳥がまだピィピィと鳴いていました。 やがて扉を叩く音が響きます。 「おい、ばあさん、いるのかい」 隣のおばさんリスでした。 けれど部屋の中にはおばあさんの姿はなく、ひとり、小鳥だけが鳴き続けています。 「うるさい子だねぇ。…仕方ない」 おばさんはしぶしぶ、自分の家からドングリを持ってきて口に放り込みました。 小鳥はしばらく鳴きやみましたが、すぐに吐き出し、また声をあげます。 「なんだいこの子は、もう知らないよ」 そう言い捨てておばさんは出ていきました。 おばあさんは、もう帰ってきません。 やがて鳴き声は途絶え、 小鳥は静かに、冷たくなって横たわりました。 森の奥に夜の帳が降りると、ただ木々だけがその小さな命の終わりを見守っていました。 ──物語はそこで終わりました。 照明が少しずつ明るくなり、朗読をしていた女性がマイクを握った。 「皆さま、本日はお忙しい中、弊社主催の投資セミナーにご参加いただき、ありがとうございます」 正面のスクリーンに、大きな文字が映し出された。 『未来の子どもたちのために、里山にドングリを植樹しよう』 すると、ステージのそでから、高級なスーツを着た中年の男が現れた。 拍手が響くなか、司会者が声を上げた。 「皆さま、お手元の資料をご覧ください」 資料には、植樹をするために必要な金額が書かれていた。 「高いな…」 参加者が、となり同士で小声で話している。 すると、気づいた男が、マイクを持ったままステージを降りた。 「この植樹は投資です。損はしません。ドングリの木を植える“権利”を買っていただく。何本でも構いません。それを親戚や友人に紹介すれば、その分の利益があなたに入る。これを繰り返すだけです」 男はゆっくりと会場を見渡し、声を張り上げた。 「植樹しますか?」 「植樹します」 そして一歩近づき、もう一度言った 「植樹しますか?」 「…植樹します」 男はほくそ笑みながら、小さく呟いた。 「よし。また、たくさん子どもが生まれた」
新落語 誰もが知っている「下記参照の話」 今宵は、かき このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている たべます 文字を変更 かき から かく それからどうした 隣の客は 柿食う客だ 柿の文字を書く そのあとどうした 下に書く これはなに 下記参照 こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
「あの、変わってもらえませんか?」 「何をですか?」 「僕は、あの娘に介助をお願いしたい」 ベッドの上で、中年の男が視線を上げた。 「ここ、同性介助ですが」 「僕、見てるだけです」 「それって、結構セクハラですよ」 「合理的配慮でお願いします」 薄暗い部屋に、デジタル時計が光る。 「まぁ、上に相談してみます」 「僕、不安定になるかも……」 「はい。お大事に」 男は扉を閉めた。
新落語 誰もが知っている「フローの話」 今宵は、フロー このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている 流れるように 文字を変更 フロー から ブロー それからどうした 風吹く景色 これはなに 長い髪 ロングヘアの まとめ髪 たばねるすがた マルでプロ こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
日曜日の朝、八時。 幹線道路脇に、二人の警官が立っている。 「先輩。雨降ってきたっすね」 「寒いな」 歩道の植え込みの影に、レーダーを置いた。 「なんか、ずるくないすっか?」 「なにが?」 「レーダー隠してるし」 「見えたら、スピード落とすだろ」 二人は、気づかれないよう、身をかがめた。 「なんかこの瞬間、ワクワクしません?」 「あぁ」 「この前、釣りに行ったときと、同じなんだよなぁ」 「獲物を取る感じだ」 すると、一台の車が速度を超えて走ってきた。 「きたぞ」 「あっ、スピード落とした」 「バラシたか……」 水しぶきを上げ、余裕の顔で通り過ぎた。 「流れもポイントも、いいんだけどなぁ」 「おぉ、きたぞ」 「大物ですよ」 大型トラックが、スピードを上げて近づいてくる。 「あせるなよ。よし、ヒット」 待機していたパトカーが、サイレンを鳴らす。 二人は、停車したトラックに駆け寄り、運転席の窓を叩いた。 「運転手さん、飛ばしてたね」 「はぁ……」 「で、なに急いでたの?」 「鮮度が命なんで……」
新落語 誰もが知っている 「ぼんぼりの話」 今宵は、春景色 このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている ぼんやり 文字を書く かすむ それからどうした 眠い目をこする これはなに ぼんぼり ながめ ぼんやりしてる 小さな女の子 こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
「誰か彼を止めないと……」 「それが、制裁だって言って聞く耳持たないんですよ」 「みんなが迷惑してるよね」 集まった代表たちが、深いため息をついた。 「この前も『我々は最強だ』って言ってたでしょ」 「そう、自分たちファーストってね」 「でも、一般人にケガさせるのはやりすぎ」 「黙ってるけど、君はどうなの? 仲間でしょ」 部屋の隅に、視線が集まった。 「すみません。一部が暴走してて。ぼくも、シャケくわえてた頃が懐かしいです」
生物としての限界を感じる。 過去の偉人の言葉の総合知で考えてみた結果そうなる。 カートコバーンは本当は何でも出来たが何もしたくなかったんじゃないか、と評価されていた。 お腹が空く。 植物のように水と土の養分と太陽光だけで生きられればいいのだが。 狩りに疲れる。 畑を2週間程休んでしまったのでルーチンから少し外れているのも原因だろう。 お酒は飲まない。 煙草を辞められればいいのだが。 鬱にしてくる攻撃的な奴らを強制収容所に送りたいが奴らも人権があるので出来ない(俺は酷い奴だろうか?) 文章を書く手が震えてくる。 外に出て殴られるのも手かも知れない。 こんなに殴りやすい奴もいないだろう。 マイクタイソンと鳩を見たい。 鳩を探しに行こう。 ハトヲサゴシニイコウ。
男女が、ゆっくりと目を開けた。 「私たち、死んだのね」 二人の手は固く握られている。 「これでみんな、分かってくれたさ」 「そうね。私たちの愛は本物だったって」 見つめ合う二人。 「……なんか、人多くない?」 辺りを見回し、杖をついた女に声をかけた。 「すみません。ここは、どこですか」 「ここ、三途の川だ。並ぶんなら、向こうだ」 女は長い行列の最後尾を、杖でさした。 「あっ、スマホがない」 女がポケットを探る。 「洗面所の鏡のとこに置いてきた」 「もう、いいんじゃない」 「だめ。データ、消してないもん」 その時、遠くで声がした。 「ん…?お母さん。ちょっと待ってて。スマホ、取ってくる」 女は、声がする方へ走った。 「先生、すぐ来てください」 看護師が大きな声を上げた。 母親は娘の手を握り、泣いている。 「私のスマホ…」 男は河原の石に腰掛け、女の帰りを待った。 「兄ちゃん、どうした」 酔っぱらいが横に座る。 「僕も、帰りたいんですけど。どうしたら、いいですか」 「誰か、呼び掛けてくれる人、いねぇのか」 「はい」 「じゃあ、その彼女、待つしかねぇな」 酔っぱらいは笑いながら、男の肩を叩いた。 「その彼女、今度来る時は、婆さんだな」
朝起きてカーテンを開けると、外はとてもいい天気。 窓を開けると、心地よい風が気持ちいい。 大きく伸びをして、深呼吸する。 「おはよ。俺しか見れない特権だな。」 わたしの一連の流れを見ていたであろう、幼なじみ、改め、彼氏の蓮が笑いながらこちらを見ていた。 「や、、、、見てたの!?」 カーッと顔が熱くなる。 恥ずかしくて、カーテンを閉める。 「あ、あおい!」 「、、、、何?」 「いい天気だからさ、どっか出かけない?」 「え?」 「デートしよ。」 蓮に誘われるまま、急に決まったデートに、何を着ていこうか迷ってしまう。 今までも一緒に出かけることはあったけど、彼氏彼女になってからのお出かけは、もちろん初めてで、どうしていいのかわからない。 着る服に迷っていると、ノックの音が聞こえた。 「あおい。遅いから、迎えに来た。」 そう言いながら、蓮が部屋の中に入ってくる。 よかった。まだ服を脱いでいなくて、、、。 「何、迷ってんの?」 「え、、、、っと、、、何着てこうかと思って。」 「そんなの、これとこれでいいよ。」 と、デニムとTシャツを選ぶ。 わたしが、怪訝な顔をしているのに気づいた。 「もしかして、俺のために可愛くしようとしてくれたの?」 口元に手を当て、ニヤニヤと笑う蓮。 「そんなんじゃないし!」 プイッと顔を背ける。 図星なだけに恥ずかしい。 蓮に背を向けていると、クスクスと笑う声が聞こえたと思ったら、背中に温かい感触。 「どんな格好でも、俺は好きだよ。ホントはワンピース着て欲しいけど、今日は天気がいいから自転車で出かけるのどうかなって思ってさ。」 わたしを背中から腕の中に閉じ込めて、顎をわたしの頭に乗せて喋る蓮。 そのままチュッと頭にキスを落とす。 「自転車?」 「そう、自転車デート。だからさ、ワンピースや、短いパンツだと、誰かに見られるの嫌だからさ。」 モゴモゴと、話す蓮。 蓮の顔を見ようと思ったら、強い力で抱きしめられた。 「今、こっち見んな。」 「えー、照れてるー笑?」 なんだかおかしくなってきて、蓮の腕の中でクスクス笑う。 「ほら、後ろ乗って。」 蓮が荷台をポンポンとたたく。 言われるがままに荷台に乗る。 「しっかり掴まってろよ。」 そう言って、自転車を漕ぎ始める。 自転車の速さに合わせて、風がふわっと頬を撫でる。 気持ちいい。 わたしは、落ちないように蓮の服を掴む。 「れーん!」 「なにー?」 「気持ちいいね!」 「はは!だな!」 自転車に乗って、街中を出て河川敷に入る。 さっきよりも風が強く当たって、今にも飛ばされそうになる。 服を掴んでいたけど、それだけじゃ心許なくて、蓮に抱きつくと、蓮の背中が一瞬だけ強ばったのがわかった。 自転車は進み、橋の下の河川敷で自転車を停めた。 「ありがと。気持ちよかった。」 「ん、ならよかった。」 ポンと頭を撫でる。 何気ないその仕草にときめく。 蓮は自然とわたしの手を握り、河川敷を歩き始める。 ただの散歩。デートとは言わないじゃないか。と言われてもおかしくないけれど、蓮と出かけるこの瞬間がなんだか、とても幸せだ。 「ねぇ、蓮。お弁当もってこればよかったね。」 そう言うと、そうだなって笑って答える。 今度は、そうしようと蓮が呟く。 その呟きに、自然と笑みが溢れる。 河川敷を手を繋いで散歩しながら、たくさん話をして、誰もいない橋の下で、キスをした。 そしてまた、自転車に乗って河川敷を離れ、街中に戻っていく。 次があれば、お弁当、作ってみようかな。 なんて、蓮の背中に顔をうずめながらそんなことを思った。
桃が売ってたから買ってみた。 子供の頃は親がデザートに用意してくれていたが、一人暮らしを始めてからは値段が高くて買っていなかったが。 今日は、なんとなく気まぐれだ。 八等分に切って、皮を剥く。 フォークを手にして、一口で放り込む。 「……硬。ハズレかよ」 久々の桃は、物足りなかった。 桃って、こんなにマズかったっけ。 それとも、子供の頃に食べたっきりだから、味を美化していたのか。 『それは、追熟をすると、もっと美味しくなるかもしれません』 AIに愚痴ったら、桃は一定期間を置くことで、甘さを増すと返ってきた。 そういえば、うちの母親も、買った桃をその日に出すことをしなかった。 食べたい食べたいと騒ぐ子供の俺を宥めて、二日後くらいに出してたっけ。 「これが、知らない代償か」 翌日桃を買いに行ったが、もうすっかり売り切れていた。 店員曰く、旬を終えたそうだ。 次に買えるのは、一年後。 手痛い代償を抱えながら、俺は半額シールの貼られた弁当を買い物かごに入れた。
ずっと近くにいたのに、今はあおいが遠い。 先に学校についたあおいは、靴を下駄箱にしまおうとしていた。 そのあおいの手をガシッと掴む。 「きゃっ、、、れっ蓮、、!?」 驚いて目を見開くあおい。 その瞳が揺れる。 「ごめん、ちょっと話したい。」 「でも、もうすぐ予鈴なっちゃう。」 「そんなのどうでもいい。今はあおいに聞きたいことがある。」 掴んだ手に力を込める。 あおいの瞳はまだ揺れている。 確認したい。あいつが言っていた言葉が本当なのか、、。 「、、、わかった。でも、彼女は、、?置いてきちゃってよかったの?」 「、、彼女?」 「可愛い、マネージャーの彼女。」 「なんで?それより、俺の方が聞きたいことあるから。」 あおいの言葉が理解できなくて、思考が停止する。 それよりも、とにかく、あおいのことが知りたい。 あおいを体育館の裏側にまで、連れていく。 「ねぇ、蓮。聞きたいことって、、、?」 あおいは、俺に手を掴まれたまま少し不安げな声で話しかける。 何から話せばいいのか、思考がグルグルと巡る。 「気になるヤツがいるって、、、ホント?」 「えっ?」 考えて考えて考えたけど、結局それが一番聞きたいことなのかもしれない。 あおいに気になるヤツがいるってだけで、不安で押しつぶされそうだ。 「だから俺と、登校するの嫌なのか?俺と離れたい、、?」 「れ、、、ん、、?何言って、、。」 「朝から、あおいの笑顔がいつもと違ってた。不思議だと思ってたところに、あおいが気になるヤツがいるから、俺と一緒に学校行くの嫌がってるって話を聞いて、それで気になって。」 不安から、早口になる。 ずっと一緒にいた。 ずっとそばにいたのに。 そんなあおいの口から、離れたい、嫌だ。なんて聞きたくない。 「俺と離れたくなった、、、?」 男のくせに、消え入りそうな声で話しかける。 あおいのことになると、自信がもてなくなる。 ギュッと、あおいの手を握る。 「、、、、蓮の方こそ、彼女と一緒にいたいんじゃないの?」 「え?彼女?」 「蓮、彼女できたんでしょ?あの可愛いマネージャー。だから、わたしといつまでも一緒にいるのやめたいって、もう、わたしと離れたいって、、、」 あおいの目から、涙がこぼれた。 誰が、あおいと離れたいって? そんな訳ねーだろ。 「誰がそんなこと!」 「可愛い、マネージャーが言ってたよ。付き合い始めたから、もう蓮を解放してあげてって。」 開いた口が塞がらなかった。 意味がわからない。 「蓮が、そう、、思ってたなんて、知らなくて、、、、。なのに、いつものように、、学校まで、、、」 涙で震えた言葉を遮り、気がつけばあおいを抱きしめていた。 俺よりもずっと小さくて、華奢な体をきつくきつく抱きしめる。 「俺は、あおいが1番だよ。あおいが離れていくなんて考えられない。」 抱きしめた胸の中で、あおいが息を飲む。 「あおいがずっと好きなんだよ。彼女なんて、いないよ。気がつけば、あおいのことばっかり考えてる。」 「あおいが、他に気になるヤツがいたって、俺は、簡単にあおいを離してやれない。」 勢いに任せて、俺の気持ちをぶつけた。 そう、俺は、誰よりもあおいが好きだ。 「蓮、本当?わたし、蓮のそばに、まだいてもいいの、、、?」 あおいが、顔を見上げる。 「蓮に、彼女ができたから、もう、一緒にはいられないって思って。」 「何回だって言うよ。俺、彼女いないよ。俺の彼女には、あおいしかなってほしくないもん。」 そもそも、俺あいつのことは苦手だ。 「あおいは?気になるヤツ、ホントにいるの?」 「、、ううん。わたしそんな話したことない。わたしもずっと蓮が好き。」 「蓮と、ずっと一緒にいたい。」 あおいの言葉に、また強く抱きしめる。 ああ、あおいも同じ気持ちでいてくれたんだ。 あおいが、おずおずと手を俺の背中にまわす。 それがまたいとしくて、頭にキスをひとつ落とした。 「あおい、好きだよ。」 はっきりと、目を見て伝える。 あおいが、今までで一番キレイな顔で笑った。
昨日、仕事から家に帰ると怒りが収まらず息もつけないほど愚痴を垂れ流していた 躁が来ている。かなり高い ここから降りたらかなり勢いがついて下までいきそうだ 酒を飲みながらテーブルに置いてあったマジックで身体に絵を描いていく 手、爪、肩、胸、乳首 夜中に目が覚めて怒りが嘘のように消えていた。ただ不安が止まらず妻を叩き起こして苦しみを吐露する。朝まで 二人とも寝ていないし、二人とも仕事だ。僕はフラフラで家を出る、いつものように息子を愛でて。昨日パパが早く帰ってきたと思って一緒にゲームしている途中で機嫌が悪くなって結局息子一人でゲームをしていた 息子と遊んでやりたかったのに最悪だ 朦朧とする 妻は仕事なんか休んでいいと言ってくれる これは長年の経験から言っていて、このまま無理をすると長期休まないと復帰できなくなるためだ。収入が無くなるのだ それなら少ない方がまだ良い でも体調が悪い時に限って休めない 休むのも辛いのだ 残り5%のバッテリーで一日過ごす感じに似ている 無駄遣いはせず、必要最低限にする それで何とか持たせる そんな感じだ 皆思うと思う。買い換えたほうが良いと
いつものように、あおいと登校する。 でも今日は、なぜかいつもの元気がない。 「あおい?なんか、、、あった?」 そう尋ねてもあおいは、笑みを浮かべながら首を横に振る。 心配そうに見つめる俺に、大丈夫と言い聞かせるように、笑う。 でも、その笑顔は、どう見てもいつもの向日葵みたいなキラキラとしたものとは違った。 理由を聞きたくても、あおいはそれを絶対に許さない。 「蓮くん、おはよう。」 後ろから、部活のマネージャーが声をかけてくる。 いつもいつも、あおいと俺のスペースに入り込んでくる。 「おはよ。何?」 「えっ、蓮くんが見えたから。」 あおいのことが気になって、それ以外のことを今は考えたくないのに。 つい、返答にイライラが隠しきれない。 俺が見えたからなんだって言うんだ。 バレないように小さくため息をついて、あおいの方を見る。 「あれ?あおい?」 隣にいたはずのあおいがいなくて、キョロキョロと辺りを見回す。 いつの間にか、あおいは先を歩いていた。 なんで、、、? 追いかけようと思ったら、腕を掴まれた。 「、、、だから何?部活の話は、俺じゃなくてキャプテンの康平にして、って前に言ったよね?」 苛立ちが隠せない。 その間にも、あおいは先に進んでいく。 「違うの。実はね、私、前に見ちゃって、、、。」 「何を?」 「蓮くんといつも居る、あの子のことなんだけどね、、」 彼女は、あおいの後ろ姿をチラッと見て、なんだか話しづらそうに口をモゴモゴさせている。 あおいの何を見たんだというんだ、、? 「あおいが、何?」 「最近、気になる人がいるから、蓮くんと毎日学校に行くの嫌だって、言ってるの聞いちゃって、、、」 、、、は? あおいに気になる人がいるって? それで俺と登校するのが嫌だって? 「それ、いつの話?」 「えっと、、、1週間くらい前かな、、、?」 「どこで?」 「えーっと、、、どこだったかな、、、あ、放課後の教室。私、委員会で部活遅れたことあったでしょ?その時に、友達のあの子が話してるの聞いちゃって、、、」 1週間前、委員会、、、。 ああ、そういや、そんな日もあった。 「そう、教えてくれてありがと。なら今から、本人に確認してくるよ。」 思考を巡らせたけど、なんだか腑に落ちなくて、それならあおいに直接聞いた方が早い。 1週間前のできごとなら、昨日までの変わらない笑顔はなんだったんだ。 マネージャーの話を切り上げて、先を行くあおいを追いかける。 背後からマネージャーの声が聞こえるが、そんなこと今は、どうでもいい。 あおい、今、何を思ってる?
『これ以上、誹謗中傷はやめてください』 とある芸能人のSNSに投稿された一文。 さすがに心が痛む……わけない。 イケメンの顔。 ブランド物の服やバッグ。 そして豪邸。 顔にも金にも恵まれたお前たちは、誹謗中傷されてもしょうがないだろ。 いわゆる、有名税ってやつだ。 「恵まれてるくせに、ちょっとやそっとで被害者ぶってんじゃねえよ!」 開示請求するならすればいい。 どうせこっちは、無敵の人。 何も取られる物はないし、下がって困る名誉もない。 『よしよししてる信者きめええええええ』 苛立ちを返信して、一度スマホから目を離す。 腹が減ったのでカップ麺を探すが、備蓄なし。 「しゃーねえ。買いに行くか」 財布を持って、コンビニに出かける。 玄関の扉を開けば、今日は快晴。 外には、楽しそうな親子連れが歩いている。 俺に見せつけるように。 「こいつら全員、車に引かれて死ねばいいのに」 独り言をこぼして、イライラとしながら曲がり角を曲がる。 次の瞬間、激しいクラクション音が鳴り、俺の体が吹き飛ばされた。 痛む全身と霞む司会で見たのは、高そうな自動車と、後部座席に乗るイケメンの姿だった。 「あ…‥‥て……」 文句を言おうにも、言葉が出てこない。 自動車が止まり、中から慌てた顔の運転手が飛び出してくる。 そして、俺の顔にスマホを向ける。 『判定完了。無名税の対象者です』 「あ、なんだよかった」 スマホから発せられた音声を聞くなり、運転手はほっとした顔になり、自動車の中へと戻っていった。 「お……待……」 俺の声は届かない。 「安心してください。引いたの、無名税の人でした。事件にはなりません」 「助かったー。でも、今度から気を付けてよ? 引いたのが一般人なら、俺の人生積んでたから。マジで」 「大変失礼いたしました」 運転手が自動車の中に戻って、自動車が動き始める。 エンジン音が徐々に近づいてくる。 有名税の人間は、誹謗中傷されても仕方ない。 ならば、誹謗中傷を行う無敵の人も、無名税として法が保護しなくても仕方ない。 そんなくそったれな法律が可決したのが、運の尽き。 「ふざけ……」 自動車は、道端の段差を乗り上げて進むように、俺の体を踏みつぶしてどこかへと言ってしまった。 通行人は、誰も近づかない。 ただ、空腹を解消しようとするカラスだけが、俺の周りに集まってきた。
世間一般の高校生は夏休み真っ只中だというのに、いつもと同じ時間に鳴るアラームで目を覚ます。 外はもう暑苦しく感じるほどのセミの鳴き声が響いている。 今日も部活に出るために準備をする。 「行ってきます。」 両親に声をかけ外に出ると、隣に住む幼なじみもちょうど出かけるためか、外に出てきた。 「おはよ。珍しいな。どっか行くの?」 「おはよう。図書館で勉強しようと思って。」 そんなやりとりをしながら、自然と同じ方向に歩みを進める。 白いワンピースに麦わら帽子が良く似合う。 時折吹く、生ぬるい風にワンピースの裾が揺れる。 麦わら帽子が飛ばされないように小さな手でそっと押さえる。 その姿に心が掴まれる。 いとしい。 いつからだろうか、幼なじみの彼女に思いを寄せるようになったのは。 バレないように、そっと目に焼きつける。 「蓮は、今から部活?」 急にこっちを見て話しかけてくる。 見てたことがバレないように、平常心を心がけて「そうだよ。」と答える。 「暑いのに、頑張るねー。」 「大会もあるからね。」 「そっか。今回も蓮ならレギュラーに選ばれるよ!」 「そうだといいけど。」 「毎日頑張ってるの、わたし知ってるよ。」 「蓮なら、大丈夫!」 俺の頑張りをよくわかってくれてて、眩しい笑顔でそう言ってくれる。 向日葵みたいなキラキラとした笑顔が眩しくて、自然とこっちまで笑顔になる。 「ありがと。あおいに言われると、自信が湧いてくる。」 麦わら帽子越しに、頭をポンと撫でる。 俺の精一杯の照れ隠し。 あおいに照れてる顔を見られたくなくて、麦わら帽子で、彼女の顔を隠す。 「もう!前見えないじゃない!!」 と、プリプリ怒る彼女が可愛くて。 俺の気持ちに気づいて欲しい思いと、まだ気づかれたくない思いがぶつかり合う。 「じゃあ、わたしこっちだから。」 「おう、勉強頑張って。」 「蓮も、練習頑張ってね。」 「ありがと。」 分かれ道でお互いを励まし合う。 手を振って、あおいが先に背を向ける。 その後ろ姿から目が離せなくて、こっちを見ろ、振り返ろ、なんて念じてしまう。 俺のこんな気持ち、あおいはきっと気づいていない。 あと3秒、いや、あと5秒。 あおいの後ろ姿を目に焼き付けてから、学校へ行こう。なんて勝手に思ってると、不意に立ち止まったあおいがこちらを振り返った。 「蓮!行ってらっしゃい!」 眩しい笑顔で、手を振っている。 強い日差しと青空に麦わら帽子と白いワンピースがよく映えて、まるで映画のワンシーンのような光景に自然と心が温かくなる。 あおいが、好きで好きで堪らない。 ああ、今日もこれで頑張れる。 なんて思いながら手を振り返した。
ある日の午後。 認知考古学の教授が、学生の前でマイクを握った。 「みなさん。人が道具を本来の目的以外に使い始めたのは、どの時代か分かりますか?」 「旧石器時代に、石を遊びに使ったのが最初だと思います」 「その通りです」 教授が、背後のスクリーンを指した。 「今日のテーマは、それを踏まえて『道具の目的外使用』について考えたいと思います」 学生は耳を傾け、ノートをとった。 「これを見てください」 黒い傘を取り出し、学生たちに向けた。 「この傘。駅のホームで中年の男性が持つと、どんな行動をとるでしょうか?」 「あっ、ゴルフのスイングをします」 教室に笑いが起こる。 「それから、女の子はバトン、男の子はチャンバラとかに使いますね」 「お年寄りが杖に使うのもそうですか?」 「はい。それも目的外使用です」 教授はうなずきながら、学生を見渡した。 「では、ここまでで何か質問はありますか?」 最前列の学生が手を上げた。 「ちょっと気になってたんですけど、額のガーゼ、どうされたんですか?」 教授は笑いながら、傘を開いた。 「昨日、妻が機嫌悪くてですね……」
いつもと同じ朝。 代わり映えのない日常に少し嫌気がさしながら、同じ時間に鳴り響くスマートフォンのアラームを止める。 止めたと同時に、すぐにピロンと通知音が鳴る。 確認すると、『おはよう。起きた?』と隣の家に住む、幼なじみからのメッセージ。 眠気でシパシパする目を擦り、ボサボサの髪の毛を手ぐしで整え、カーテンを開ける。 「おはよ。はは!今日も眠そうだな。」 目の前には爽やかな笑顔を見せて話しかけてくる彼。 眩しい笑顔に、目が眩む。 「おはよう。今日も早いね。」 いつもの返答をしてから、それぞれ学校へ行く準備をする。 玄関を出ると、手を挙げて挨拶をする幼なじみ。 手を挙げて挨拶を返し、隣を歩く。 昨日見たテレビの話や、お互いの家族の話などの雑談をしながら学校へ向かう。 その瞬間も、眩しい笑顔は変わらないまま。 彼は所謂、イケメンという部類に入る。背が高くて、スポーツ万能。幼なじみでなかったら、きっと関わりなんてない。 隣を歩けているのは、家か隣同士の幼なじみだから。 学校に近づくにつれ、彼の周りには可愛くて綺麗な女の子や明るい男の子達が集まり話しかけていく。 それにひとつひとつ返して行く姿を横目に見て、先に歩みを進める。 彼は挨拶を返しながら、大股でわたしの隣に当たり前のように帰ってくる。 「よかったの?一緒に行かなくて。」 わたしを優先させてくれることに、嬉しい気持ちと少しの罪悪感が入り交じって可愛くない言い方になってしまう。 「なんで?俺、朝はあおいと行くって決めてるし。」 彼は、当たり前のように答える。 その一言が、とても嬉しい。 自然と頬が緩んだのも束の間、 「おはよう、蓮くん。」 と、後ろから声が聞こえた。 振り返ると、可愛い女の子が少し頬を赤く染めながら立っていた。 「おはよ、今日朝練だったっけ?」 「ううん、今日は何もないよ。ただ、蓮くんが見えたから。」 彼女は、蓮の部活のマネージャー。 きっと、蓮のことが好き。蓮のためにオシャレして、毎日、話しかけている。 でも、鈍感な蓮はその思いに気づかず、部活の連絡?と見当違いの質問を投げかけている。 気がつくと、蓮を真ん中にして3人で歩いている。 すると、周囲から、「あの2人お似合いよね。美男美女!」とヒソヒソと話す声が耳に入る。 その言葉を聞いて、心が勝手に沈み、蓮に気づかれないのように、そっと2人から距離をとる。 わかってる。 わたしは平凡だ。 こんなに胸が締め付けられるのも気のせい。 幼なじみなんて、贅沢なポジションにいるのが、いけないんだ。 近くにいすぎて、わたしだけが蓮の特別なんだと勘違いしている。 チクチクと痛む胸をそっと抑えて、この気持ちに蓋をする。
平日の午前。 男は整理券をもらうため、小走りでパチンコ屋に向かった。 「今日は勝つ気がする……」 ポケットの中の軍資金を握った。 すると、道路脇でかがんでいる女を見かけた。 「……あの婆さん」 アパートの隣に住む婆さんが、お地蔵様を雑巾で丁寧に拭いていた。 男は足を止めた。 「信じる者は救われるか」 鼻で笑う。 夕方。帰り道、うつむいて舌打ちをした。 「ん……」 隣の婆さんがビニール袋をぶら下げ、地蔵の前に立っている。 そして、気にする素振りもなく、お供え物と小銭を袋に入れた。 「婆さん、こずるいこと考えたな」 「なにがだ」 「いやいや、今、お供え物と小銭、盗ったろ」 婆さんは笑いながら、男を見た。 「この地蔵、私が通販で買って、ここに置いたんだ」 「なんだそれ」 「他にも、何か所も置いてるさ」 辺りが暗くなってきた。 「私はねぇ、ちゃんと考えて置いてるんだ。リピーターを増やすためにね」 そう言うと、地蔵を抱えた。 「それ、どこに持って行くんだ」 婆さんが振り向いた。 「……ここは儲けが少ない」
夜風が涼しく感じられてくると 人がうようよ這い出してきて 犬の散歩をしてみたり スーパーやコンビニに 買いものに行ってみたり この時間は わたしのための 時間だったのに あたかもそこに 人なんかいないみたいに わたしの主張は あっさり退けられて 難儀です たいへん難儀です この時間は わたしのための 時間だったのに
すれ違った瞬間、頭の中に情報が流れ込んでくる。 『友達相性度、三〇%』 『友達相性度の閾値は未達です』 『恋人相性度、七十七%』 『恋人相性度の閾値を超えました』 『好きなデート場所は、遊園地、水族館』 『食事をした時の支払いは、割り勘派』 『以降の開示に必要な閾値は未達です』 『配偶者相性度、二十五%』 『配偶者相性度の閾値は未達です』 スマホに、『承認』か『拒否』か、二択を迫る通知が届く。 五分間のカウントダウンも始まる。 「どうしようかな」 最近、ずっとご無沙汰だ。 そう考えると、恋人は欲しい。 しかし、配偶者相性度が低すぎる。 交際を開始しても、結婚までは行き着かない相手だ。 なら、交際にかかる時間もお金も無駄かもしれない。 「……『拒否』」 四分五十秒たっぷり考えて、ぼくは恋人関係になることを見送った。 消えていく相手の顔写真。 好みの容姿だったので、ほんの少しだけ後悔の波がやってくる。 『友達相性度、六〇%』 『友達相性度の閾値は未達です』 『恋人相性度、六〇%』 『恋人相性度の閾値は未達です』 『配偶者相性度、九十七%』 『配偶者相性度の閾値を超えました』 『住みたい場所は、都会』 『欲しい子供の数は、二人』 『義実家との関わりは、拘らない』 『以降の開示に必要な閾値は未達です』 「『拒否』」 次の通知も、即座に拒否。 もう少しだけ、遊んでいたい。 拒否すれば、すぐに次の情報が飛び込んでくる。 すれ違うだけで、相手の全てを理解できるシステムは、だるいメッセージと長い交流を経なくても相性がわかって重宝する。 ただ、これはこれで面倒なものだ。 「『拒否』」 すっかり使わなくなった口元では、唇がからからに乾いていたので、ぼくはカバンから取り出したリップクリームを塗った。
「普通にこっちのほうがいんじゃない?」 旅行、遊びの予定を決める際、一言で全てが冷めることはないだろうか。 別に悪気があっていっていないことは分かる。ただこの一言で今まで考えてきた面白いあれこれが選択肢として否定されるのである。 私は考えた。「普通に」は自分の中で決めた平均を他人に押し付ける行為なのだと。 例え話で考えよう。神様が仮に普通に人類を滅ぼそうと言っても何もおかしいことはない。なぜなら、それは神々などの高尚な者にとって、ごく普通の平均的なことだからである。 仮にこれを知り合いが言っていた場合、そいつはぶっ飛んでいる。 普通にを語る奴は「自分が普通の何の変哲もない選択をしている」という無害感を押し付けているのだ。クソ野郎だ。 面白みのある選択肢に平均など必要あるだろうか。 僕はぶっ飛んだ選択肢に言おう 「普通にこっちのほうがいんじゃない?」
子供が道を歩いていると、道端に座っている大人たちがいました。 大人たちは皆、上を向きながら口を大きく開けています。 子供は不思議そうに大人たちを見つめ、自分の親に訊きました。 「ねえねえ、お父さんお母さん。あの人たちはどうしたの?」 両親は顔を見合わせ、何かを相談した後、子供に笑顔を向けました。 「あれはね、夢見がちな人って言うんだよ」 「夢見がち?」 「そう。あの人たちの足元を見てごらん?」 「足元?」 子供が大人たちの足元を見てみると、足元には画用紙が置かれていました。 そして、画用紙には言葉が書かれています。 「何か書いてる!」 「そう。まず、あの人だけど」 両親は、一人目の大人を指差しました。 足元の画用紙には、『配偶者』と書いています。 「結婚したいけど、自分の見た目も気にしなければ、友達に言われたことも改善しない。結婚相談所も、高いからと入会していない。毎日毎日、SNSの幸せ投稿に嫉妬しながら、いつか素敵な配偶者ができることを願ってる大人だよ」 「わー。お話しないと友達もできないのにね」 両親は、二人目の大人を指差しました。 足元の画用紙には、『給料』と書いています。 「次の人だけど、お金が足りないからお金が欲しいんだ。でも、お金をもっと稼げるようになるための勉強もしなければ、節約のための努力もしない。あげく、お金をくれない会社が悪い社会が悪いの一点張りしてる大人だよ」 「わー。勉強しないとご褒美ももらえないのにね」 両親は、三人目の大人を指差しました。 足元の画用紙には、『幸せ』と書いています。 「次の人だけど、幸せになりたいんだ。でも、自分にとってなにが手に入れば幸せかもわかってないし、考えようともしない。幸せって言う何の意味もない言葉にしがみ付いて、不幸と感じながら年だけとってる大人だよ」 「わー。ぼく、お父さんとお母さんと、それから学校にいっぱい友達がいるから幸せだよー」 親子の会話を聞きながら、道端の大人たちは、上を向きながら口を大きく開け続けています。 親子の方なんて、見たりしません。 「あんな大人になっちゃ駄目だぞー?」 「はーい!」 親子は手を繋いで、仲良く家に帰っていきました。 道端の大人たちは、親子が去った後も、ずっと上を向きながら口を大きく開け続けています。 いつか、どこかの誰かが、口の中に自分の叶えたい夢を入れてくれると信じながら。
出町柳のゼッテリア。 紙カップに入った緑茶は窓からの光に攪拌され、黄色く透き通っている。貴船に流れる清冽な水と似ているが、どこかで見た色と質感をしている。 それは、脱水時の尿の色だった。 瞬間に緑茶がどうしても尿にしか見えなくなる。 よく食事の時に汚い話をすると、母や姉は眉間に皺を寄せて不快感をあらわにした。ゴキブリの話なんかもってのほかで、それこそ汚いものを見る目で私を一瞥し、やめてと冷たく突き放す。 私は、何の不快感もなく尿に似た緑茶を喉の奥へ流し込んだ。鼻の奥に茶葉の香りが広がる。冷えた緑茶が食道を伝っていくのを感じた。 緑茶はどこまでも緑茶でしかない。残った紙カップの中の緑茶はさっきと同じように光を透過し煌めいているが、やはり見た目は尿とも言える。 でも、私の中では、どうしても想像上の不快と目の前の食事が結びつかない。 母や姉の歪んだ顔を思い出す。その反応は、もしかすると、正常な人間を演じているようにも思える。 私はたまらなく、「不快」だった。 令和八年八月一六日
デパートの 駅弁大会に行っても 旅行気分には なれない デパートに 行った気に なるだけ 駅弁を買って 喫茶店で ナポリタンと クリームソーダ 駅弁は 夕ごはんに 今日は デパートに 行ったなあ 旅行では ないなあ
「見てて。今からこのウェットティッシュをただのティッシュにして見せるから!」 私の友人はそう言ってウェットティッシュに手を向けた。 「ティッシュになれ〜、ティッシュになれ〜」 私は団扇で仰ぎながらその光景を見ていた。 「よし!明日、またこのウェットティッシュを触ってみてよ。乾いてるから!」 「いや、置いてりゃそのうちティッシュになるだろ!それに、乾いてるって言っちゃってんじゃん。」 「あーあ。つまんないの。夏休みっていうのになんもすることない。」 「勉強はどうした!?」 「ねえ!そんなことよりさ、今日の夜、神社へ行って肝試しやろーよ!」 友人はなにやら肝試しがしたいらしい。 「ま、暇だし。いいよ。」 「やった!!」 そして私たちはその夜、神社へ行った。 「なんか、寒いね!ワクワクしてくるよ!」 そうして私たちはお賽銭箱のところに来た。 私たちはお金を投げ入れる。 「ねぇ。この鈴。鳴らしてみてよ。」 私は友人に言われ、鈴を鳴らす。 すると、何かが降ってきた。 「ぎゃー!!!!」 私の反応を見た友人は腹を抱えて笑った。 「あっはっはっ!面白すぎる笑笑」 「ちょっと!もう!」 「ほらほら!次もあるから!そこのお地蔵さんに挨拶してみて!」 そう言って友人は、次もあるからと、仕掛けを私に隠すことなく、お地蔵さんの前へ行けと催促した。 「何すりゃいいのよ。…おじぞーさん?元気ですかー。」 するとお地蔵さんの首が縦に揺れた。 「ひっ。ね、動いたんだけど。」 「すごいっしょ!これも仕掛け!」 どうやら友人はマジシャンにでもなるようだ。 そんなこんなで、私の友人はさまざまな仕掛けを私に繰り広げては驚かしてきた。 そうこうしているうちに、夜が明ける。 「今年も楽しかった!じゃ!」 そう言って友人は消えた。 あれ、何かがおかしい。 「そっか。忘れていた。」 友人は、もういないのだった。 私は、夏が来るたびに、友人と過ごした日々を思い出してしまう。 友人は去年の夏、亡くなった。私はその出来事を思い出したくなくて、記憶のどこかに隠していたようだ。 ウェットティッシュはもう、乾き切っていた。
デートでプラネタリウムに行って ちょっと考えた 宇宙に行ったら やっぱ宇宙服ってことに なるんだろうなあ 近未来的な感じに なっちゃうんだろうなあ おしゃれとかは別にいいんだけど たまにはプーマのジャージ 着たいかなあ
面白講釈「聞き違いの話」時は元禄、今は令和 今宵は、お前さん 物売らしいな お客さん 試食 食べて 見なさらんか 一つだけ 食べて見るか なかなかのもの なかなか まん中 つまり ふつうと 言うことか? ちがいますよ とてもよい ベストでございます。ペーストなら したばかリ お前さんは よくばり じゃのお こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
山間部にある限界集落。 集会所に年寄りたちが集まった。 「だいたい集まったな」 村長が、長机を挟んで座った。 「今日は、村の今後のことを話そうと思ってな」 「どうした、急に」 「昔みたいな、賑やかな村に戻りたいだろ」 ──ガラガラガラ。 玄関の扉が開いた。 「遅くなりました」 スーツ姿の男が入ってきた。 「おぉ、待ってたよ。この人、ホラープランナー」 年寄りたちが、視線を向けた。 「村長、あんた何考えてんだ」 「この村、空き家多いだろ。それ使って、お化け屋敷作る」 男が、声をあげた。 「私は、お化け屋敷の企画から立ち上げ……」 「ちょっと待て。村に、お化け屋敷作るってか」 村長が立ち上がり、窓の向こうを指さした。 「若い奴らって、心霊好きだろ? しかも、没入型だ」 「なんだ、それ」 男が一枚の紙を取り出した。 そして、年寄りたちを見渡すと、大きくうなずいた。 「まぁ、開業は二、三年後ってとこですかね」 ──契約書。 『死後はキャストとして勤務すること』
この記録を誰かが読んでいるという事は、俺はもうこの世にはいないだろう。 これを読んでいるお前に、伝えなくてはならない事がある。どうかこれを読んだなら、他の奴らにも教えてやってくれ。 俺はある戦争で派遣された兵士の一人だ。 この戦争は、国と国とが資源の奪い合いで起きたもの。 俺や他の連中は、その戦争の駒として戦地へ派遣された。 誰だって死にたくはない。俺や仲間もその気持ちは同じ。俺たちはチームとなって行動をし始めた。 そんなある日のこと。 敵との攻防で仲間とはぐれてしまった。それもジャングルの中で。 俺は一人になったが、運良く敵と遭遇することはなかった。 そんな時、俺はジャングルを探索していると、何らかの集落を見つけた。 そこは戦争中だというのに妙に賑やかだった。 俺はその何とも言えない賑わいに、警戒しながらも内心『もしかすれば助かるかも』という期待をしてしまった。 その集落の入口に、横書きの看板が立てられていた。 霞んで文字も消えかかっている為、ハッキリとは読めないが、『……ピアへようこそ!』と最後の文字だけは読む事がかろうじてできた。 俺は、何となく無意識的にこの集落へ足を踏み入れてしまった。 すると、集落の人たちは俺のことを優しく歓迎してくれたのだ。 その時俺は思った。戦争に来た兵士が、こんな集落に居ていいはずがない。 何故なら、この無関係な人たちを巻き込む恐れがあるからだ。 だが、そんな考えは数時間の間でさっぱりと消えてしまっていた。 集落の人たちは優しく、俺を客人として美味しい料理や酒をたらふくご馳走してくれた。 俺は思った。ここは『天国じゃないのか』と。 あの看板の『……ピアへようこそ!』とは『ユートピアへようこそ!』ということなのではないのか。 気づいた時には、もうこの集落に入り浸る様になっていた。 この集落に来てから何日か経ったある日のこと。 俺は自分の目を疑った。それは、はぐれてしまった仲間がこの集落に来ていたのだ。 それだけではない。敵国の兵士もこの集落に来ていたのだ。 それだけでも信じられない光景だが、それ以上に奇妙なのが、俺の国の兵士と敵国の兵士らが楽しそうに酒を酌み交わしていたのだ。 その光景を見て、俺は安堵した。戦わなくて済む。俺は、死ななくてもいいのだと。本気でそう思った。 だが、日が経つに連れ、俺の感覚が少しずつおかしくなっていった。 なんというか、何も感じなくなっていくのが、感覚として分かる。 このままだと、理性を失い人としていられなくなる様なそんな感覚。 いつしか、見かけていた仲間の兵士や敵国の兵士の姿が見当たらなくなっていた。 ここから抜け出さないと俺はいずれ死ぬだろうと、頭では分かっているが、美味しい料理や酒、女たちが俺のそんな考えを消し飛ばす。 もうここから一歩も出たくない。帰りたくないとさえ思う様になった。 そして俺は、この集落の真実を知った。 この集落は、ここへ迷い込んだ人たちを招き入れ、自分達の餌にしているのだと知った。 更には、料理に分からないように極小量の薬物を入れ、何日もかけて迷い人を抜け殻にさせているのだ。 俺もどうやらその術中にハマり、今ではこの集落の虜になりつつある。 俺の理性がまだほんの少しでも保っているうちに、誰かにこの恐ろしい集落が存在することを伝えなくてはならない。 そして、この集落を一刻も早く壊滅させなければならない。俺にはもうそんなことをする時間がない。 だから、この事実を書いた紙を何らかの方法でこの集落から外へ出し、拾って見てくれた人が、何かしらの対応をすることを切に願う。 俺はもう時期、奴らの餌となる。 俺が最後に知った恐ろしいことがある。 この集落の本当の名前だ。 この集落の名は……。 『デストピア』
新落語 誰もが知っている 「またの話」 今宵は、またかぁ このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている くり返し 文字を変更 またかぁ から またトンカツ それからどうした 同じようなことになりました。 イメージ文章の完成です。 こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
親父が言ってた。 昔、コンビニのゴミ箱には、消費期限の過ぎた弁当が捨てられていたって。 「ああ、腹減った」 だから、貯金が尽きて、腹をすかせた俺がコンビニに向かったのは、当然の判断だろう。 「……なにもねえし」 だが、時代は無情だった。 弁当どころか、コンビニ近くにごみ箱さえもない。 くそみてえな潔癖社会。 「はいはい。ゴミなんて食わずに死にますよ」 壁に恨み言を履いて、その場を立ち去ろうかと思った瞬間、何かを蹴った。 「ん?」 足元を見ると、美少女が倒れていた。 長い髪が地面に広がり、スカートが風でひらひらと揺れている。 人生で初めて出くわした状況だ。 俺は周囲に誰も居ないことを確認すると、肩をゆすってみた。 「もしもーし。こんなところで寝てたら、風邪ひきますよー?」 起きない。 腰を揺すってみた。 「もしもーし?」 起きない。 こうなれば仕方ない。 決して本意ではないが、胸か尻を揺すってみよう。 「う、うーん」 起きた。 揺すってないのに。 ちくしょう。 美少女がダルそうに体を起こして、眠そうに眼を擦った。 そして、辺りを見渡した後、俺と目が合った。 「え? 泥棒?」 「なんでだよ」 「ここ、私のうち」 「地球があんたの家なら、神様かなんかな?」 「? 何言って……あれ?」 美少女は、ようやく自分のいる場所に気づいたようだった。 目を丸くして驚いた後、また俺を見てきた。 「ここはどこでしょう?」 「コンビニの横」 「今日は何日でしょう?」 「八月十六日」 「私は誰でしょう?」 「それは知らん」 「なんと、私はアオイです」 「サプラーイズ、じゃねえんだよ」 美少女が起き上がりたそうにしていたので、俺は美少女の腕を引っ張った。 「ありがとう」 「どういたしまして」 「ところで、私のカバンはどこでしょう?」 「それも知らん」 美少女は、自分がスマホも財布も持っていないことに気づいて、首を傾げた。 「そういえば、昨日は合コンでした」 「昨晩はお楽しみでしたね?」 「その後、ホテルに連れ込まれそうになったので、金玉蹴り上げて逃げてきたんです」 「女の子が金玉とか言っちゃいけません」 「ただ、私も相当酔っぱらっていましたので、とりあえずコンビニで廃棄弁当を調達しようと思い、ここで力尽きたみたいです」 「まさか、廃棄弁当を調達しようとした馬鹿が、二人そろうとは」 「これからどうしようかなあ」 美少女は、困った表情で首を傾げた。 交通費を渡してやるのが格好いいところだが、生憎今は金がない。 かといって、ホテルに連れ込まれそうになったばかりの女を、自宅に招くほど馬鹿でもない。 「貴方のおうちは近いですか?」 「まあ、そこそこ」 「お風呂貸してください」 「なんでだよ」 「ついでに服も」 「ねえよ」 「彼女がいないことは分かっているので、男物の服でいいです」 「そこまでは言ってねえよ」 流れに乗せられて、美少女が俺の家に来た。 突然のことだったから部屋は散らかっていたが、美少女は気にせず風呂場に直行した。 「バスタオルあります?」 「後でここに置いとく」 「五秒以上、覗かないでくださいね?」 「四秒以内ならいいのかよ」 シャワーの音が聞こえる。 俺はクローゼットからバスタオルと着替えの服を引っ張り出して、風呂場の近くに置いて、四秒だけ風呂場を覗いた後、部屋に戻った。 だらだらとスマホを触っていると、美少女が部屋に戻ってきた。 髪の毛がしっとりと濡れて、水も滴るいい女というやつになっている。 「まさか本当に覗くとは思いませんでした」 「許可はもらってたからな」 「人生初の女性の体はどうでした?」 「見たことないなんて言ってねえよ」 美少女が俺の前に正座したので、俺も正座で座り直した。 「実は記憶喪失でして」 「このタイミングでカミングアウト!?」 「しばらく、ここに置いてください」 美少女が深々と頭を下げてきたが、俺は少し迷っていた。 こんなに都合のいい話があるだろうか。 美人局ではないだろうか。 とは言え、話している感じ、嘘をついているようにも思えない。 本当に記憶喪失だとすれば、放り出すのもどうかと思う。 「いいぞ」 「本当ですか!」 「ただ、家に慣れたらバイトをしてくれ。なんと、家賃滞納二ヶ月目だ」 「お願いする相手を間違えましたね」 これが、謎の美少女アオイと出会った日の話。 そしてこれから語るのは、俺の人生で一番熱かった、アオイと過ごした思い出話だ。
うまくできるかと 期待していたお菓子は みごとに爆発 その破片を さびしく口へ はこぶ朝 お菓子をつくる才能 ないんだなあ なんの才能なら あるんだい? 自分への問いに うまく答えられない 生きるとは 自分の才能を さがす旅 それらしいこと言って うやむやに ごまかす朝
新落語 だじゃれシリーズ「ケロッの話」 今宵は、キャッチミー このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている テレピのロケ言葉 文字を変更 ロケ から ケロッと それからどうした 人真似する人見たら あっちみー こっちみーと言っても いいでしょうか? こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
新落語 誰もが知っている 「かめんの話」 今宵は、かめん このような 言葉があるのは それは、誰もが知っているあやしい 文字を変更 かめん から がめん それからどうした テレビはフラットですか? これはなに ふらっとした気楽な気持ちで見て下さい こんなのどうでしょう 書けるもんなら書いてくれ
―最近、白湯ばっかりでさあ、朝は、とくにね ―ほう、白湯、ですか そういった感情が表情に出ないように 気をつけながら続きをうながす ―売ってるお茶とか、そのまんまだと濃く感じちゃってさ、薄めて飲んだりね ―そうなんだあ わたしの気のない合いの手に 紅茶を水で薄めながら聞いていたみっちゃん 家に帰って、みっちゃんが言っていた白湯を飲んでみた マグカップに半分くらいお湯を入れ、すこし口に含む こくんと口からのどに流れていき、おなかにすとん おいしさは、ない もの足りなさはあるけれど、強いものではなくて これでも成立している感もある 開けていた窓から 白湯も悪くないかな 風が吹いてそう思わせる
八瀬比叡山口の川沿いの道には、わあしゃわあしゃと蝉時雨が地面を反射し、浅い抹茶色の木々の間隙からしゃらしゃらと渓流の音が湧き出している。 焦げついた灰色のアスファルトから熱気が立ち昇り、腕を這い顎の付け根を覆う。 頭頂部から噴き出した汗は髪を伝い、その一本一本を束ね、落ちる。ほとんどが頬や首へ伝い服の中へ這っていく中、ときどきその内の一滴がまつ毛の先に滴り、目の中へ染み込む。 五百ミリリットルほどの水を半分飲み干す。結露した水が掌へと移り腕をつうっと移動していく。一匹の虫が歩いているような感覚がしてふいと目を向けるが、その水滴がペットボトルの水なのか自分の汗なのかすでにわからなかった。 令和八年八月十五日
「ぼくは見つけてもらえないのさ」 「ふふふ」 答えるかわりに きみは微笑んで 線香花火に火をつけた 最後までもたず 線香花火の灯りは 落ちてしまった 「やっぱり見つけてもらえそうにないかあ」 「ふふふ」
今日は彼女は家で漫画を見ているので僕は上野に1人で仏像を見に来た。 お盆休みだからかはたまた涼しいから皆郊外のレジャーにでも行っているのか割と空いている。 蝉がワシャワシャ泣いている中上野公園を横切り博物館に行く。 知り合いが仏像の良さを語るのでふむ僕も仏の力を貰いに行こうかな、と朝ふと思いたち出かけてきた。 博物館の中は雑多に色々な人達が仏典について語っている。 このお寺はこういうのがあるのよね、などと聞こえてくる。 お金があったら全国の寺巡りなどしてみたいものだな、などと思い仏典を眺める。 経典は何が書いてあるのかわからないがおそらく昔の理論なのだろうな、と彼女に論理的すぎよ、と指摘された悪い癖を出しながら眺めて歩く。 絵巻物に描いてある絵は面白い。 何か物理の理論に応用できないだろうか、などと(まあ、発表の場はこのサイトくらいしかないが)カッコつけた事を考えながらまあ仏像はそのものの良さを楽しむのが一番だよな、とふと我に返りながら仏像を見て回る。 何か何十年ぶりかに御開帳のありがたい仏像なんかもあり(障害者手帳でただで見てる僕は仏罰が下らないだろうか?)一通り見終わって退出する。 帰りに公園内で縁石に座っているレジャーの子供たちや親子がお弁当を食べていたので交ざって座って作って持ってきたお握りを食べる(フライングで博物館の中庭で食べた時は外国人の観光客の人がお握り、と言っていた、余分にあればお裾分けしてあげたいのだが) 蝉の声を聴きながら公園内でやっていたライブの音を横目にたばこを吸い帰りの電車に乗る。 さあ、帰ってきたら理論の構築だ(仏像物理学、なんじゃそら、みたいな) 犬の遠足は得たものが多い。
学校から一人で帰る少年の頭の中には疑問が詰まっていた。 どうして日は昇るの?どうして海は満ち引きするの? 優しくて物知りな姉でも分からないことはある。 休み時間は図書室にこもって本を読んでも疑問は次から次へと湧いて出る。 授業は疑問を解消してくれるからちゃんと聞いている。 しかし、寝不足からあくびばかりしていた。 仕方がない。他の疑問が解決していないから。 涙が出るといえば、どうして眠りから目覚めた時に涙が出ているのだろう? 少年の頭の中にまた疑問がぽこっと湧いた。 蓄積された知識や文言から「眠り」を探る。 そうすると泡が湧いてぽこっと関連する言葉を浮かせる。 「眠りは一種の死である」 一節を思い出してひと心地。また疑問になる。 気になって仕方がない。 ちょうど良く帰り道に落ちていたカラスの死骸を少年は触れる。 冷たい。自分のお腹と比べてるとよく分かる。 死ぬとは冷たくなることだ。 その夜、少年は姉が寝静まったのを確認して部屋に入った。 掛け布団は呼吸に合わせて胸の上で上下している。 生きている。息をしている。 口先に手をやると冷凍庫の中のように冷たくて思わず手を引っ込めた。 生きているのに冷たい。 人は死んでいたら瞳孔がひらくとも知っている。 だから冷たい瞼をこじ開けた。 すると瞳は凍りついて霜柱が立っていた。 まじまじと眺めたり触っていると身体が温かくなっていく。 霜が溶けて流れた。 起きた姉は「どうしたの?トイレひとりでいけなかった?」と優しく聞く。 少年は首を横に振って部屋を出る。 疑問を解消したので納得して眠れる。
デネブ、アルタイル、ベガ デネブ、アルタイル、ベガ デネブ、アルタイル、ベガ おまじないのようにくり返す夏の大三角。 夜空を見上げ、夏の大三角はわかっても、どれがデネブで、どれがアルタイルで、どれがベガなのか、皆目、見当も… それでも言い続ける。 デネブ、アルタイル、ベガ デネブ、アルタイル、ベガ デネブ、アルタイル、ベガ… デニスがいなくなって、もう三年が経とうとしている。 デニスは、理由を言わずにいなくなった。 喧嘩をしたわけでも、予兆があったわけでもない。 「ちょっとそこまで」くらいの軽さで二人の前から姿を消して、それっきりだ。 正義ってヤツを振りかざされちゃったらしい。 そういった噂が立った。 口先だけの冷めた正義ってヤツに、打ちのめられてしまったんだ。 かわいそうなデニス。 真実は、誰にもわからない。 あの日、三人並んで芝生に寝転び、勝手に星を分け合った。 どれがデネブで、どれがアルタイルで、どれがベガなのかわかんないんなら、俺たちの名前つけちゃっても問題ねえよなあ、と言ったのはデニスだった。 デネブ、アルタイル、ベガ デネブ、アルタイル、ベガ デネブ、アルタイル、ベガ デニス、アストン、ベッキー 三角形の頂点がひとつ欠けたまま、夜風が、アストンとベッキーのあいだを吹き抜ける。二人が見つめる先に、けれど、求める姿はない。 しかし、名前を呼び続ける限り、あの夏に結んだ三人の星座は消えることはない。 いなくなった理由は、もういい。見上げればそこに、あいつが居る。ただそれだけで… デニス、アストン、ベッキー デニス、アストン、ベッキー デニス、アストン、ベッキー アストンとベッキーは、やがてより添うようにして家族になった。 生まれた男の子には「デミオ」と名付けた。 デニスはいない。しかし、新しい命のなかで、静かに、そして温かく、輝き続けている。三人の星座は、形を変えながら、次の世代へと受け継がれていく。 「おやすみ、デミオ。また明日、あの星の話を聞かせてあげるよ」 デネブ、アルタイル、ベガ デネブ、アルタイル、ベガ デネブ、アルタイル、ベガ デニス、アストン、ベッキー デニス、アストン、ベッキー デニス、アストン、ベッキー デミオ、アストン、ベッキー デミオ、アストン、ベッキー デミオ、アストン、ベッキー
私が指で片方作った。 彼も指で一つ作った。 がっちゃんこしても嵌まらない。 私が指で別の片方作った。 彼も指で一つ作った。 がっちゃんこしても嵌まらない。 また彼が指で片方作った。 私も指で一つ作った。 がっちゃんこしても嵌まらない。 また彼が別の片方作った。 私も指で一つ作った。 がっちゃんこしても嵌まらない。 ちょっとイラッとした。 私が指で半分作った。 彼も指で一つ作った。 がっちゃんこしたが嵌まらない。 彼が指で半分作った。 私も指で半分作った。 がっちゃんこしたが嵌まらない。 私が指で上半分作った。 彼も指で下半分作った。 がっちゃんこしたが嵌まらない。 彼が指で上半分作った。 私も指で下半分作った。 がっちゃんこしたが嵌まらない。 ちょっと真剣なムードになってきた。 私が指を交差させて斜めに作った。 彼も指を交差させて斜めに作った。 がっちゃんこして、嵌まらない。 彼が指を交差させて斜めに作った。 私も指を交差させて斜めに作った。 がっちゃんこして、嵌まらない。 彼がエロいって言った。 私もそうだねって言った。 がっちゃんこして、ハマった。 ちょっとこれ楽しいかも。 私が作った。指で。 彼も作った。指で。 がっちゃんこする。嬉しい。 彼が作った。指で。 私も作った。指で。 がっちゃんこする。めっちゃ嬉しい。 私が作った。指で。 彼も作る。指で。 がっちゃんこする。マジで嬉しい。 彼が作った。指で。 私も作る。指で。 がっちゃんこする。ごっつんこした。 ちょっと二人で笑う。もっとしたくなる。 私が指じゃダメなんじゃないかなと思った。 彼もそう言った。 がっちゃんこした。 私が足で半分作った。 彼はかかとで斜めに作った。 がっちゃんこできなかった。 彼が靴を脱いで片方作った。 私はヘアゴムを脱いで片方作った。 がっちゃんこしたくなかった。 私が靴紐で上半分作った。 彼は服の紐で左半分作った。 がっちゃんこしたかった。 彼が左右逆に作った。 私は点対称に作った。 がっちゃんこしすぎた。 私が二の腕で一つ作った。 彼は脇腹で半分作った。 がっちゃんこしなかった。 彼が私の影と作った。 私は彼の影と作った。 がっちゃんことは。 私が私の指で作った。 彼も彼の指で作った。 がっちゃんこはいいでしょ。 彼が股を前に出して作った。 私はお尻をそっちに作った。 がっちゃんこしなくもない。 私が半分歩いて示した。 彼は半分虚空に描いた。 がっちゃんこできたかも。 彼が手で半分なぞった。 私はそれをなぞった。 がっちゃんこしたっけ。 私が一回作ってみせた。 彼は拙いコメントをした。 がっちゃんこ逃した。 彼がもう全部作った。 私はスマホで撮っといたよ。 がっちゃんこ忘れた。 私が体の全部でで表現した。 彼はそれを表現した。 がっちゃんこしてた。 ちょっと、ちょっと、エロいじゃんか。 彼の目が私になった。 私の目が彼になった。 がっちゃんこしたい。と言った。 彼が一つ作って私にあげた。 私も一つ作って彼にあげた。 がっちゃんこしよう。と言われた。 彼がハグしてどっかしら作った。 私もキスしてどっかしら作った。 手を繋いだ。がっちゃんこ。 しっかり嵌って、すっかり好きになった。