眠いまま動く方法をぼくたちは忘れた

「……眠。もう少し寝るか」    布団の中で目を開けたぼくは、時計を見た後、再び目を閉じた。    夢に落ちるまでの数分。  ぼくは、ひたすら考える。  子供の頃はどうだったっけと。    眠い眠いと言いながら、部活の朝練があるので、無理やり体を動かした。  眠い眠いと言いながら廊下を歩き、何故か自分より早く起きている母親の作った朝食を食べる。  そして、自転車をこいで、ふらふらと学校に向かったものだ。    眠いと寝るは、関係なく生きていたはずなのに。  気づけば、密接に関係するようになっていた。   「睡眠が……いらなくなればな」    やりたいことはある。  やるべきこともある。  だがしかし、襲ってくる睡魔に太刀打ちできず、ぼくは意識を手放した。    夢の中では、中学生時代のぼくが、元気に学校のグラウンドを走り回っていた。

野乃と「のの」

死んでしまうそのときまでに、読みたいものをすべて読めたらそれでいい あれもこれもとたくさん買っても、読めなかったら死ぬに死ねない 家のなかにあるものすべて、読めたらそれでいい 私が思うささやかな願いを「のの」は、すこしも思うことはないのだろう 「のの」は、そんなことすこしも考えない ごはんがたべられて、たくさん寝られて、それが続いてくれたらそれでいい 悩んでしまうより「のの」に生まれてくればよかった けれど、こうも思う 「のの」に生まれてくるより 「のの」を愛でるよろこびを感じるほうがいい 「のの」でいることより 「のの」のそばにいられたら 私は、それでいい

お揃いの鮮赤

私には付き合って三年になる彼ピがいるんだけど、ちょっと惚気話させてね。   彼はね、ちょっと変わった趣味があって。あ、人の趣味にケチをつけるのはホントは良くないことだって分かってるんだけどさ、その趣味っていうのが、やっている人自体は世の中に少なくないんだろうけど、それを『趣味です』って公言して熱中してる人っていうのが、あんまりいないよねって感じの種類のもので。   今まではずっと隠れて、コソコソやってたみたいなんだけど、私がある日それをしてる所を偶然見ちゃったのよね。隠し事なんて水臭いじゃない。そこからはもう隠すのもやめたみたいで、時々一緒にやる様に誘われたりする様になって。   うーん、別に最初は全然乗り気じゃなかったんだよ。でも、私もさ、彼ピのこと本当に好きだし。彼の全てを理解するためにも、一度くらいは向き合ってみようかなって思ったの。それが彼女としての努めかなって。   そしたらね、最初は難しかったけど、だんだん慣れてきたら上手く出来る様になっちゃって。あ、今のは綺麗にいったかも、みたいな。武器も色々あるから本当に楽しいよ。用途に合わせて使い分けるの。次はどれにしようかなって選んでる時が一番ワクワクするかも。   せんせき? それはもう、彼ピがチョー強いから。ちょっと私がサポートするだけで負け無しよ。彼は動きとかテクニックとか、効率的なやり方をいっぱい知ってるから、本当に頼りになるの。横で見ているだけで、あ、そこはそうするんだ、勉強になるなあって感心しちゃう。   え、何をしてるかって? だから、人を〇〇すのよ。彼ピは人をメタメタにすんのが好きなんだって、そういうせーへきなんだって。まあ、世間一般から見たら病気なのかもしれないよね。   でもさ、私は彼と離れ離れになるの嫌だし、ずっと一緒に居たいの。だったら、彼が一番幸せを感じる瞬間に私も隣にいたいじゃない。だから私も手伝うって決めたの。 ほら、身内の不始末を隠したり、ただ匿ったりする人ってたまにニュースとかで見るけど、一緒になって楽しんであげて、共同作業にしてあげちゃう人って、なかなかいないでしょ? 私って、献身的ですっごく良い女だと思わない?   あれ、どうしたの。さっきからガタガタ震えちゃって。御手洗に行きたいの? いいよ、別に、そこでしちゃえば。そんなに我慢したら体に毒だよ。   実はねえ、言ってなかったけど、彼ピももうすぐそこまで来てるんだ。会わせてあげるよ、私の大好きな人。だから、そんなに暴れないで、じっとしてて。おーーら、こしょこしょこしょ。そんなに力んじゃダメだってば。   ……あーあ。ほら、言ったじゃない。これで御手洗行かなくても良くなったね。床が汚れちゃうけど、まあ後で掃除すればいいか。   そんな、この世の終わりみたいな顔しなくても良いじゃない。せっかく彼に会えるんだよ。えーと、君、名前なんだっけ。ごめんね、私、興味ない人の名前覚えるのホント苦手なんだよね。それにさ、あんたもあんたよ。会ってまだ二日、三日の人の家に上がるのって、良くないと思うな。 自衛意識が足りないっていうか、尻軽だと思われても仕方ないよ。   あ、来た。きたきたー! 今の足音、彼ピだ。おかえり!今ちょうど、あらかた準備ができたところだよ。   ねえ、サッサとやっちゃお? 今日はどの武器使う? やっぱ、好きな人と一緒にするのが、世界で一番楽しいよね。さあ、最高に素敵な時間にしようね。

ネタバレ交換会

いつもの喫茶店の、いつもの隅の席。 僕の手元には読み終えたばかりの文庫本があり、友人・カズキの手元には最新のタブレットがある。 僕たちは互いの領分を侵さない。僕は活字と紙(あるいは電子書籍)を愛し、彼は映像と音響、そして「Netflix」の赤いロゴを愛している。 「準備はいいか?」 カズキがアイスコーヒーのストローを咥えたまま、挑戦的に言った。 「ああ。こっちは300ページ分の伏線がパンパンに詰まってる」 僕たちの会合は、世間一般では最悪のタブーとされる行為を儀式化している。 そう、「ネタバレの交換会」だ。 普通、映画の結末を勝手に話せば絶交の理由になり得る。だが、僕たちの価値観は少し違う。  ーあの作品良かったんだよね、是非時間があったら観てみてよー このフレーズは僕達の間では表面だけの薄っぺらな「社交辞令」でしか無い。 我々だけの社交会において、一方が無防備な状態で結末を叩きつけるのは「暴力」、双方が合意の上で、互いの物語を差し出し合うのは「礼儀作法」なのだと決まっている。 「じゃあ、僕からいくよ。今回摂取したのは、ミスリードがえげつないミステリー小説だ。舞台はとある極寒の雪山の閉ざされた洋館で、犯人は……」 僕は、数日かけてじっくりと脳内に構築した物語の骨組みを、もっとも美味しい部分だけ抽出して彼に提供する。 叙述トリックの快感、中盤のどんでん返し、そして後味の悪いラスト。 カズキはそれを、まるで上質なワインのテイスティングでもするように目を細めて聞いている。 「なるほど、そいつは合理的だな。活字でしかできない騙し方だ。映像でやったら一発でバレる」 次に、カズキの番だ。彼はNetflixで全10話配信されたばかりの、最新SFドラマの全容を話し始める。 莫大な予算をかけたCGの光景や、俳優の表情の演技、そして最終話の数分間に用意された「全人類の記憶が書き換わる」という設定の妙。 僕はそれを聞きながら、自分が費やすはずだった約10時間を、たった20分の要約で摂取していく。 彼の躍動感のある身振り手振り。思わず声が上擦ってしまう程の感情の乗り。開きった瞳孔に薄く貼られた網膜には、彼が見た映像がそのまま映しだされているのでは無いかという錯覚すら覚える。 「なあ」と、カズキが空になったグラスを置いた。 「俺たちがこうしてネタバレを交換し合うのって、結局のところ、今の時代の生存戦略だよな」 僕も深く頷いた。 現代において、人は時間が有り余っていたとしても、この世に溢れる全てのコンテンツを摂取することは不可能だ。 得意な媒体、好きな摂取方法は人によって決まっている。 ならば、自分の苦手な、あるいは手を出さないジャンルの物語を「信頼できるフィルター」を通して受け取るのは、この上なく効率的な情報交換ではないか。 「俺は、お前が語る本の話が好きだ。お前の主観というフィルターを通った物語は、実際の本よりも俺にとっては分かりやすい」 「僕もだよ。カズキが語る映像は、僕が実際に画面を見ているよりもドラマチックに聞こえる」 僕たちは、互いに何十時間分もの物語の旨味を交換し終え、満足感とともに席を立った。 僕の脳内には、一生観ることはなかったであろうSFドラマの切ないラストシーンが、カズキの言葉を通じて鮮明に焼き付いている。 カズキの脳内にも、彼が一生手に取らなかったであろう重厚なミステリーの、冷たい冬の情景が残っているはずだ。 「次は、あの配信が始まったばかりのサスペンスを観ておくよ」 「じゃあ僕は、本屋大賞にも選ばれた、話題作を一気に読んでくる」 そう言って、僕たちは別れた。 一方的なリークではない。これは、限られた時間の中で、より多くの「誰かの物語」を体験するための、僕たちなりの誠実なコミュニケーションなのだ。 家路につく道すがら、僕はカズキから聞いたSFドラマの余韻に浸りながら、カバンから新しい小説を取り出した。 次に彼に手渡す「結末」は、どんな味にしようか。それを考えるのが、僕の今の密かな楽しみだ。

白日戦隊!ホワイトレンジャー✟【パワーアップの乱】

1号ホワイト 2号スノー 3号パール 4号アイボリー レジェンド月白 「博士、変身できなくなっちゃったんだけど、どういうことなの?」 「うーん、きっと明るい気持ちがなくなってるせいだね」 「と言うと?」 「君たちホワイトレンジャーの構造は意外と単純なんだ。社会の明るい気持ち、例えば『希望』みたいなキラキラした気持ちで出来ているんだ。言うなれば『希望の化身』だね。その希望がこの世界から消えかかっている」 「だから変身出来なくなったんじゃな」 「でも月白さんだけはは変身出来るじゃない」 博士と月白は目を合わせる 「実は月白さんはアイテムを使って変身している。月白さんは初代戦隊ヒーローだったんだ。つまり人間だ」 「えっ!?…知ってたけど」 「おぉぉ、そ、そうか、知ってたのね」 「アイテムってどんなの?見たことないかも」 「それは…。そうだよ。君たちをアイテムで変身させれば、より強力なヒーローになれる!確か前に作ったやつが…」 博士は白衣を翻し研究室へ駆けていった 「月白さん、変身アイテムってどんなやつなの見せて」 「いや…そんな大したもんじゃないからの。見た所で…ねぇ?」 「えっ私見たいけど。皆も見たいよね?」 皆は興味津々で月白の周りに集まってくる 「…どしなんだ」 「え?なんて?」 「ふんどしなんだ…」 「えー!?私、絶対やだ!」 「何でふんどしなの?ベルトとかじゃ、だめなの?」 「知らんよ。ワシだって。これ使ってって言われただけだし。ワシだって嫌じゃよ。今どきふんどしつけてる人なんかおらんよ」 「俺達はまぁいいけど」 「私達は絶対嫌だからね。ちょっと博士に言ってくる!」 パールとアイボリーが研究室へ入っていくと、中から博士が台車を引いて出て来た 「あったあったよ!」 パールとアイボリーが博士と中で話している 部屋に残された男性三人 「月白さんは初代ヒーローだったんですね」 「俺もヒーローだったのは知らなかった」 「五人グループの一番端だったけどな」 「何でこのホワイトレンジャーにいてくれてるんですか?」 「博士に頼まれたんだよ。彼の家系は代々世直しを統率している家でね。人間じゃない君達を見守ってほしいと言われたんだ」 ホワイトもスノーもスマホをイジっている 「全然聞いてないのね!」 「ジャーン」 パールとアイボリーが新しい戦闘姿で現れた 「ふんどし着けたの?」 「バカ。これよ」 パールとアイボリーの指に見慣れない指輪がハメられてる 「これは君達の分」 博士がホワイトとスノーに指輪を渡す 「それで希望が無くても変身出来る」 「あれ?あれあれ?何故ワシはふんどしなの?」 「まだそれ使ってんですね。でも似合ってますね。ハハハハ」 「いや、『似合ってますねハハハハ』じゃなくて。ワシの指輪はよう」 「在庫切れです」 「えーー!!」

三途の川 待ち合わせ

男女が、ゆっくりと目を開けた。 「私たち、死んだのね」 二人の手は固く握られている。 「これでみんな、分かってくれたさ」 「そうね。私たちの愛は本物だったって」 見つめ合う二人。 「……なんか、人多くない?」 辺りを見回し、杖をついた女に声をかけた。 「すみません。ここは、どこですか」 「ここ、三途の川だ。並ぶんなら、向こうだ」 女は長い行列の最後尾を、杖でさした。 「あっ、スマホがない」 女がポケットを探る。 「洗面所の鏡のとこに置いてきた」 「もう、いいんじゃない」 「だめ。データ、消してないもん」 その時、遠くで声がした。 「ん…?お母さん。ちょっと待ってて。スマホ、取ってくる」 女は、声がする方へ走った。 「先生、すぐ来てください」 看護師が大きな声を上げた。 母親は娘の手を取り、泣いている。 「私のスマホ…」 男は河原の石に腰掛け、女の帰りを待った。 「兄ちゃん、どうした」 酔っぱらいが横に座る。 「僕も、帰りたいんですけど。どうしたら、いいですか」 「誰か、呼び掛けてくれる人、いねぇのか」 「はい」 「じゃあ、その彼女、待つしかねぇな」 酔っぱらいは笑いながら、男の肩を叩いた。 「その彼女、今度来る時は、婆さんだな」

君がプリンを食べる頃には≠⑤癖

   チエのクラスのユウヤくんが久しぶりに学校に来た。ユウヤくんのパパはお亡くなりになったって先生が言ってた。私のママはゴートーに会ってナイフでさされたってパパと話していた。 ユウヤくんはいつも変わらない感じで、皆とドッチボールしたり折り紙作ったり踊ったりしていたので元気だなって思った。  最近、ユウヤくんのようすが変だ。学校が終わって帰る時、ずっと住所を気にしている。最初の頃は「ここの住所分かる?」って近くの人に聞いてたりした。チエも聞かれたことが何回もある。 だけど最近は聞かれない。ユウヤくんが教えてくれたのは、住所が書かれているところがたくさんあるんだって。  電信柱とか、歩道橋とか、スーパーやコンビニにもお店の外に〇〇店と書いてあるからそれで自分の場所が分かるよって言ってた。ユウヤくんは自分がいる住所を知りたかったみたいだ。  中学になって優也くんが、また変になった。それは突然大声を出すこと。授業中は聞いたことないけど、休み時間の校庭とか、学校帰りとかで、急に「うぉぉぉぉ!」って。男子達はめちゃくちゃ笑っている。だけど優也くんはすっごく真面目な顔をして真剣に叫んでいる。ちょっと怖い。優也くんの声が枯れているのは声を出し過ぎなんだと思う。休みの日に私がたまたま川の近くを通ったら優也が一人で川に向かって「うぉぉぉぉ!」って大声を出してた。どうしちゃったんだろう。  優也とは同じ高校に入学して、二年生のときには同じクラスになった。優也は相変わらず元気だけど、たまに静かな顔をしている。女子の評価も悪くないみたいで、女子と話す姿を良く見る。なんかムカつく。  優也は最近は写真にハマっている。休みの日に一緒に出かけるとスマホで私の写真を撮ってくれる。けど、撮り方が変。並んで歩いていて、急にポケットからスマホを取り出してパシャリ。なんか写真って「千絵、こっち向いて」「撮るよー」とかあるもんだと思うけど。最初は、良い表情をした時に、その表情が消える前に急いで撮っているのかな?と思ったけどそうじゃないみたい。花を撮るときも、美味しそうなケーキを撮る時もポケットからさっと取り出してパシャリ。いつ起動してんのか分からないくらい速い。そしてブレてない。その特技なんか役に立つの?って聞いたら、笑っていた。  優也は私と違って大学には行かず就職をした。優也の家は母子家庭だから早くお母さんを楽させたかったのかもしれない。町工場で毎日油まみれで働いている。鉄を機械で曲げたり溶接したりしているらしい。体つきも良くなった気がする。そして、また、変なブームが来たみたいだ。上司に許可をもらって仕事が終わった後、誰もいない工場で、スプレーアートをしているらしい。塗装の部屋でマスクもしないで何時間もいらない鉄の端材にスプレーアートをしているようだ。そしてその作品はその日に捨てる。もう訳が分からない。心の中の膿でも出しているのだろうか。あと、休日は走っている。猛暑日でも台風でも欠かさず20キロの道のりを往復してる。 私の彼はいったいどこへ向かっているのでしょうか 男性とは理解できない生き物なのでしょうか PS 今までの変な癖は継続しています

混ぜるな危険

この世は場過な嘘神により弄ばれたキャンパス 彼は子供だった気に入らない者達、物事柄神の 文化文明冴え悪気無い子の様にぐちゃぐちゃに 真実、嘘混ぜ上げ幻想的タペストリーを描いた 人間、聖霊すら一見分からい様に聖霊達に人間 守る使命を与え真実の地鳴り神黙らせて仕舞い この世を人間基準に整え格差と言う文化を創造 見事に逆ピラミッドを描いた大罪聖為る者達を 器と言う衣纏わせ人間として創造扨せて仕舞い ライン文化繁栄指せ全聖霊界束縛して一般聖霊 界との断絶謀り神の器達を封じ込め不条理冴え 感じる程の税金、保険料を法律と言う理不尽な 鎖りで縛りながら真逆な綺麗事のオンパレード 真面目な神を信じる聖為る人間達を絶望指せて 自殺指せる見事な遠隔殺人的負のエネルギーを 浸透して仕舞った行いは一体誰が取るのだろう 其の時超そ地鳴り神の降臨する絶好なチャンス そうこの世は全て真実の地鳴り神様の言う通り だからかも知れない

三途の川 二列でお待ちください

男が、ゆっくりと目を開けた。 「あぁ、そっか。俺、死んだんだ」 そして、辺りを見回す。 「人、多いなぁ」 川沿いに、たくさんの人が集まっている。 「すみません。ここは…」 「ここ? 三途」 若い男が、時計を見て舌打ちをする。 「なんかさぁ、ずっと待ってるんだけどね」 「今から、どうしたらいいですか」 「この先で、受け付けやってるみたいよ」 目を向けると、遠くでスタッフが、忙しそうに動いていた。 「おじさん、何で死んだの」 「えっ。あぁ、私は病気で。君は?まだ若いのに」 「俺、事故った。車で。まだ新車だったのにな」 その時、スタッフの声が響いた。 「この中に、医療関係者の方はいませんか。具合の悪い方がいます」 「は…」 思わず、手を上げそうになる。 「私、看護師です」 手を上げた若い女性が、スタッフと一緒に走って行く。 「いまの娘、可愛かったっすね」 若い男が、にやけながら後ろ姿を見送った。 「いつまで、待たせるんだ」 苛立つ声が聞こえ、スタッフが頭を下げて回る。 そこへ、年配の男が声をかけた。 「私、生前、警備の仕事をしてまして。よかったら、皆さんに説明しましょうか」 年配の男が、丁寧に声を掛ける。 「すみませんが、二列でお待ちください」 男と若い男が、並んで待った。 しばらくして、後ろを振り返ると、整然と行列ができていた。 それを見た男が、小さくつぶやいた。 「死んでも、ルールは守るんだ」

五月の速度 ~夜明けを踏む3

 大学も四年になると、周囲の空気は目に見えて変わった。  昼休みの学食では、どのテーブルからも就活の話が聞こえてくる。  どこの企業を受けたとか、面接がどうだったとか、誰が内々定をもらったとか。スーツ姿で大学に来る学生も珍しくなくなった。  自分も一応、説明会には参加している。エントリーシートも書き、面接の日程もいくつか入っている。でも、どこか現実感が薄かった。  朝だけは変わらない。  日の出前に家を出て、走る。空気は少しずつ湿り気を帯び始め、若葉はもう春の淡い色ではなく、深みを増した緑になりつつある。  走っている間だけは、周りの流れから切り離される気がした。     **** 「で、お前どうなんだよ、就職」  久しぶりの飲み会で、高校時代の陸上部の仲間がジョッキを片手に聞いてきた。  駅前の居酒屋。金曜の夜で、店内は騒がしい。 「まあ、普通に受けてるよ」  曖昧に答えると、「お前、昔からそういう返しだよな」と笑いが起きた。 「マラソンとか出てんだろ?」 「去年ハーフ走った。今年はフルにエントリーしてる」 「え、マジ?」  一瞬、周りの空気が変わった。すると向かいに座っていた杉本が、ニヤニヤしながら言った。 「何、お前。陸上部ある会社でも狙ってんの?実業団とか?」 「ないない」  僕は苦笑しながら首を振った。 「そんなレベルじゃないって」 「でも走り続けてるの、ちょっと偉いよな」  誰かがぽつりと言った声が、妙に耳に残った。  高校の頃は、走ることなんて当たり前だった。  毎日練習して、タイムを測って、速いか遅いかで一喜一憂していた。  でも今は違う。勝つためだけに走っているわけじゃない。  じゃあ何のためなのかと聞かれると、うまく答えられなかった。     ****  店を出ると、夜風が少し湿っていた。駅へ向かう途中、それぞれの進路の話になる。 「俺まだ一社も通ってないんだけど」 「公務員落ちたらどうしよ……」  みんな笑いながら話している。でも、不安を隠しているのも分かった。  別れ際、「また集まろうな」と手を振り合って、一人になる。  駅前の人波を見ながら、ふと考えた。僕は、どこへ向かいたいんだろう。  就職先。将来。  考えなきゃいけないことは山ほどある。  それなのに頭に浮かぶのは、五月の朝の景色だった。  朝の風とか、揺れる若葉とか、走っているときの呼吸とか──それを思い浮かべると、不思議と少しだけ気持ちが静かになる。     ****  数日後。  朝の公園には、いつものようにおじさんとポテコがいた。ポテコは僕を見るなり駆け寄ってきて、足元で尻尾を振る。 「兄さんのほうも、元気そうだ」 「まあ、それなりに」  ベンチに腰掛ける。走ったあとの汗に、朝の風が心地よかった。 「フル、出るんだってな」 「なんで知ってるんですか」 「顔に書いてある」  そんなわけないでしょう、と笑う。少し迷ってから、僕は飲み会の話をした。 「実業団でも狙ってるのかって、笑われました」 「ほう」 「別に、そういうんじゃないんですけど」  言いながら、自分でも少し分からなくなる。  おじさんはしばらく黙っていたが、やがてポテコの背中を撫でながら、小さく言った。 「俺もな、若い頃は走ってたんだ」 「聞きました。長距離の選手だったって」 「大したもんじゃないよ。県でそこそこ。全国なんて遠かった」  苦笑する横顔に、少しだけ昔の面影を見る気がした。 「実業団も、ちょっとだけ夢見た。でも届かなかった」  朝の風が木々を揺らす。 「それでも、走るのは好きだった」  おじさんは空を見上げた。 「勝てる奴だけが、走るの好きなわけじゃないからな。  景色を見られる奴のほうが、長く走れる」  その言葉が、静かに胸へ落ちてくる。若葉の間から朝日がこぼれて、公園の地面にまだらな光を落としていた。  ポテコが僕の膝に鼻先を押しつけてくる。  僕はゆっくり息を吐いて立ち上がり、ポテコの頭をもう一度撫でた。 「行ってきます」  おじさんが小さく手を挙げる。  走り出すと、朝の風が顔に当たった。  フルマラソン、四十二キロ。完走できるかどうか、タイムがどうなるかも、まだ何も分からない。  それでも、走る理由なら持っている。  今は、それで十分だった。  若葉は夏に向け色を重ねていく。朝日がこぼれる道を、僕はペースを崩さず走り続けた。

サイクリングシティ

「わが町は近年、サイクリングシティとして売り出しているのです。」 「ほう、それは良いことだ。」 「そのためのサイクリングロードを何億もの金を費やして作ったのです。」 「ほう、それは思い切ったな。」 「しかし、人々はいまだに歩道を自転車で走るのです。一体、どうしたら良いのでしょうか。」 「ほう、それは簡単な話ではないか。歩道に釘でも針でもばらまいておけ」 「ですが、それでは歩行者が...」 「ああ、一石二鳥だな。これでみんながサイクリングをしてくれる。」

居酒屋は誰のものか

『酒飲めぬ客、お断り』    居酒屋の入り口に貼られた紙を見て、ぼくは肩を落とす。   「ここもか」    既に夜も遅い頃。  夕食を求めて居酒屋を訪れたぼくは、三件目のNGをくらった。    居酒屋のご飯が好きだ。  肉も、魚も、サラダも、ご飯ものも揃う居酒屋は、最高の飲食店だと言うのに。   「パパー。お腹空いた」 「ごめんなー。いつものとこ行こっかー」 「えー。飽きたー」    やむを得ず、ぼくたちはいつものファミレスへと向かう。  歩きながら、貼り紙のことを思い出して、いらいらしてきた。    だいたい、居酒屋だからと言って、酒を飲まないといけない理由がわからない。  酒が一番原価率が低いから、酒を飲んでくれないと商売にならないと聞いたことはあるが、それは店側の事情だ。  客側の知ったことではない。  酒を飲まなければ潰れるなら、それは店の作り方が間違っているだけだ。   「そう、店が間違ってる!」 「パパ?」 「すまん。つい、声を出してしまった」    ぼくたちは、いつものファミレスにつく。  自動ドアが開いて中に入ると、すぐに店員が近づいてきた。   「申し訳ございません。ただいま満席でして」    ぼくはファミレスの中を見渡す。  一面の、一人客。  結婚して家族も作ってないだろう、一人客。  年を取って独りに戻っただろう、一人客。   「ええー!」    お腹をすかせた子供が、哀しそうに嘆く。    赦せねえ。  だいたい、ファミレスなんだから、ファミリー以外が来るなよ。  一人客なんて一番金を落とさないんだから、同じ時間で倍の金を落とす家族グループを優先すべきだ、店側の事情を考えろよカス。  客側もそういうことを意識すべきだマナー知らず。  一人客が押し寄せて潰れたら、それはお前たちのせいだぞ糞ぼっちども。   「じゃあ、待たせてもらいます」    大人のぼくは、横暴に振舞う一人客たちへの怒りが表情に出ないように我慢をし、レジ近くの丸椅子へと座った。

無為味(むいみ)

「ねぇ、キミ。何をしてるの?」  雨が降るのを待っているのです。 「えっ。でも、いつ雨が降るのかは、誰にも分からないでしょー」  もうすぐかもしれないでしょう。 「そりゃあ、まあ……でも、一週間先だったらどうするの。それでも待つの?」  待ちますよ。待つしかないですから。去る者、追わず。来る者、拒まず。私はそういう存在です。生まれた頃から、私には使命があるのです。 「それって生きづらくない? ぼくは、キミよりずっと自由だ。そのほうがいいと思ったりしないの?」  ええ。アナタは、私に比べたら、うんと伸び伸びとしていますね。でも、限りある場所で、限りある時間を精一杯に生きるほうが……。私のようなものには、ふさわしい。私には動かす手足も、揺らせるフリフリも無いですから。 「まあ、キミが納得しているのなら、それでいいさ」  フリルはありますけど。 「べつに、つっこまないよ」  残念です。 「雨が降ったらいいね」  ええ、私の頭がおかしくなる前に。せめて。自分の使命はまっとうできたと、思いたい。 「へえー」  ジメジメとした蒸し暑さと暮らしている。大きなワンルーム。  製氷機から氷を取り出す、あなた。その足取りは昨日よりも軽やかで。あなたがステップを踏むたびに、手のひらのマグカップでは水面がおどる。  今。ボクは意を決して、あなたのひざに飛びこむ。  ぱちゃっ。  上空まで、はねる飛沫。あなたの衝撃と困惑が、ボクの頭へと降りかかる。 「ちょっと、ポメ! ああ、もう。サイダー、こぼしちゃったよ……」  あなたは机上にマグを置いて。箱からティッシュを取り出し、せわしなく手を動かす。  床に広がっていく甘い水たまり。その水分を含んで重たくなった彼女が、ぐったりと横たわっている。 「あっ! ふれふれ坊主、落ちちゃってるじゃん!」  悲しそうに、あなたは眉をひそめる。これじゃあ、明日も仮病を使うのは無理か……と、わけのわからないことをぼやきながら。あなたは濡れたティッシュとともに、役目を終えた彼女をつかんで、ステンレスのかごに入れる。  ――よかったね。これでボクらも、明日は外でおさんぽできるよ!  肩をすぼめるあなたを励ましたくて。ボクは、めいいっぱい自分のしっぽを振って見せた。

君がプリンを食べる頃には≠⑥幸せな日

最近は食事の量も減りゴミ出しのビニールは小さいもので済んでしまう 女が歳を取り一人で生活をするのは、楽であり快適で淋しい。 仏壇には40歳のまま歳を取らない夫がいるが、意地悪に笑っている 23:00過ぎ、眠くもないが布団に入る 息子はいつ結婚するのだろうかと思ったタイミングで電話が鳴る こんな夜更けに家の電話にかかってくるなんてろくなものではないはずだが、緊急の電話かもしれないと思うと落ち着かない 恐る恐る出ると病院と警察から息子が刺された連絡だった ≠ 久しぶりに大学の友達との食事会だったので調子に乗って、終電を逃してしまった。 それにしても皆、結婚して幸せそうだった「結婚なんて遅くて良いと思うよ」と言いながら色々な愚痴を交わしていたが、私はそんな面倒くさい夫婦生活を送りたいのだ。「彼氏がどう思っているのか聞いていたほうがいいよ。男って何も考えてないから」優也はどう思ってるのかな 腕を掴まれ何が起きたか分からないまま、建設中のゲートの中に引きずり込まれた。 大きな男が二人の私の腕と足を抑えもう一人の男が私の服を脱がしていく。 悲鳴を出しても誰も来ない こんな遅くに人通りの少ない道を歩いてしまった。何も考えずにスマホを観ながらヨタヨタと歩いて、今地獄に落とされている。 パシャリパシャリパシャリ 急にフラッシュがたかれ男達の動きが止まる 「何だ?」 「助けてくれー!!火事だー!!火事だー!!」 誰かがゲートの入り口にいる 一人の男が入り口に向かう 「何だテメ…うわぁ!!」 巨体の男が泣きじゃくる子供のように目を押さえながら悶えている。 入り口にいた人がこちらに入ってくる 「もしもし、強盗です。女性が三人の男に襲われています。住所は中野区南台下5-12建設工事現場内です。至急来てください」 電話だ。急に話始めたと思ったら、電話をしていたのだ。小さな頃から何度も聞いている声で 「殺すぞコラ!」男二人が同時に向かっとポケットからスマホを取り出し男達の顔にフラッシュがたかれる。直ぐにスプレーを二つ取り出して男達の顔に噴射する 男達は相当辛いのが呻いている 「千絵大丈夫か?」 「優也!」 「良かった生きていてくれて」 「お前なんなの?」 クサリ 千絵が顔を上げると優也の脇腹にナイフが刺さっている もう一人男がいたのだ 優也は振り向いて男の顔を見る。ナイフ等刺さっていないかのように落ち着いている。 「お前の顔、いい位置だ」 ドスンと糸が切れた人形のように床に倒れる 優也が目で追えないほどの速さで男の顔面を殴ったのだ。 その後優也もゆっくり倒れた。刺さったナイフから血がポタポタ垂れている ≠ 「え?パジャマで来たの?」 大学病院へ急いで行くと優也はヘッドに横になったままスマホを見ていた 傍らには優也の彼女の千絵さんがいて、一部始終を聞かせてくれた 夫が死んだあの日のことを、たまに夢に見る 本当に何でもない一日でむしろ平和な一日だった。 夫の死神は仕事をする前に、平和で幸せな一日を私達に与え、請求として絶望をよこした 「君が先に死んでも      僕は君以外とは結婚しないよ」 夫のあの言葉には嘘はないのかもしれないが、知らない内に、あの言葉を受け取った私は連帯責任者に署名をしてしまった。 私達の息子は生きていました あなたの息子は折れた剣を捨てずに鍛錬し続けましたよ 「しかも、スリッパだし」 「すみません。私がいけないんです。優也さんに大怪我させて、本当すみません。」 「千絵さんは何も悪くないし、間違ってないわよ」 「母さんさぁ」 「え?」 「俺、千絵と結婚するから」 「えっ!?」 「千絵さんは良いの?うちの息子で」 「は、はい。私のヒーローです」 「千絵さん、こんな息子ですが、どうぞよろしくお願いします」 母親と千絵が話している間に、優也はバッグから白いマスクをゴミ箱に捨てる

道の途中【BL】

彼は私の永い生の中に現れた唯一のひとでした。 暗い夜道に突如空に昇った星でありました。あてどなく歩く道を、もしやもう違えてしまったのではと不安に震える道中に、そこを目指せば良いのだと私を駆け出させる希望の火でありました。 実際には彼は隣にいて、いつでも私の手を引いてくれたので、旅人の星に喩えるよりは、掲げるランタンの方がいいのでしょうか。 ああ、遠すぎて温度の分からない星よりは、ランタンの方がうってつけかもしれない。彼の隣は温かかったのです。どんなに寒い冬の雪の日も、普段と変わらずに。 私は彼から多くを学びました。気遣いやら、笑わせ方やら、愛し方を。彼と同じにはできはしませんでしたが、彼のその様はたいへん、うつくしかったのです。全部、彼の言う愛によるものでありましたから、それを持たぬ私は、彼から見るこの世界はどれほど輝いているのだろうといつも不思議に思っておりました。 我々はどうやら同じものを見ることはできないのだ、と知ったのは、彼はとうに気付いていたのかもしれませんが、少なくとも私が知ってしまったのは、もう戻ることが叶わぬほど歩いた後でした。 歩き始めた地点はおろか、一度一人分が途切れた足跡の痕跡も見ることが叶わぬほど遠くまで来てからでした。 彼は変わらず私の手元にありました。この先どうしよう、と彼は決して言いませんでした。振り返る素振りすら私の見ている前ではしませんでした。 不安とともに私の手を握る掌に、ここに来てようやく、彼も私と同じくして、道を知らなかったのだと気付いたのです。 二人して道を失いましたが、私は別段悪い気はしませんでした。思えばここまで既に散々迷い、何故この彷徨い歩いた果てに、私の望む場所に、彼が連れて行ってくれるのだと疑うことなく信じていたのだろうと今更おかしくなったのです。 悪い気はしませんでしたが、悪いことをした気にはなりました。何故同じになれないのだろうと、苦しむ彼をずっと、隣で見てきたからです。彼は星でなくランタンでした。 連れ歩いたのは私です。

怪獣があらわれる街✕イチョウの木

「下り電車をご利用のお客様にご連絡です。前の駅で車両点検を行った影響で次の電車10分程遅れが生じております。お忙しい中、誠に申し訳御座いません」 通勤通学の時間帯の朝のホームは超満員になっている。 遅延発生で、電車が遅れれば遅れるほど人は増え、遅れてきた電車から降車する人と乗車する人の混雑で、また遅延時間が増えていく。人々は険しい顔になっていく。 そんな駅のベンチの4人席を全部使って寝ている男がいる。彼の名前は雨太郎。 昨晩から朝方まで飲み歩き、始発で帰ろうとして、そのまま眠りこけている。 迷惑な男だ。 超満員のホームで寝ている雨太郎の頭にサラリーマンのスーツケースが当たった。 サラリーマンは気付かず前の方へ人混みをかき分け進んでいく。 雨太郎は目を覚まし、大きく伸びをする。 喉が渇いたなと思うのと同時に強烈な悪寒が走る。電撃の様な寒気だ。 雨太郎は人を押しのけ、文句を言われながら駅のトイレに駆け込む。 男子トイレの列を無視して中にはいるが、個室は使用中だ。雨太郎ダムは、もう、限界水位になっている。男子トイレを出て、緊急事態なので女子トイレに行こう迷うが男子よりも長蛇の列だった。 放流のサイレンがなっている。森の鳥達が一斉に飛び立っている。 もうだめかも知れないと諦めかけたその時、バリアフリートイレが開いた。幸い列もない。 出て来た金髪の男性を押しのけて、トイレに押し入り、放流を始める。 そこから半日、トイレの便器にしがみついて放流を行い、ゲッソリしてトイレの外で座り込み、また、トイレに駆け込む作業を繰り返していた。 薄れる意識を、何とか保ち、死にそうなほど苦しい体調の中で雨太郎は思った。 「もう、酒は、やめよう」と。 気付けば雨太郎は改札口を出た所にあるイチョウの木の根元で寝ていた。 目を覚ました時にはお昼の時間帯で外は人が沢山歩いていた。 小雨が振り出し人々は駆け足になる。 雨太郎は、やっと動くようになった体に感謝しながら「本当に死ぬかと思った」と呟く。 晴天の霹靂の様なサイレンが鳴り響く。 「緊急事態!緊急事態!至急避難せよ!繰り返す!緊急事態!緊急事態!至急避難せよ!怪獣が現れた!巨大怪獣が現れた!」 見上げると上空に両翼を広げた金色の怪獣が見える。 雨太郎は立ち上がるとイチョウの木に頭をぶつけて、尻もちをつく。 「痛っ!この野郎…また、ストレスたまっちゃうだろうが!」 彼はこの星を守るウルトラマンである。 今日もこの星の為に立ち上がる。

春雨

「春雨スープの春雨って何が入ってると思う?」 「知らないよスーパーで適当に買うもの」 「考えた事ないんだ、君は水が何処から来るのかも知らずただのらりくらりと過ごすんだね」 「回りくどい言い方をしないでよ」 「僕の家の春雨スープの話をしている」 「君の家の水道水でとか」 「僕の血」 「血なら真っ赤だろ、彼は透明だ」 「僕の血見たこともないくせに恐ろしい才能だな」 「才能は血だ」 「両親を見るみたいなこと言って。スカウト?」 「自分を採用した方がマシだね、だって黒いもん」 「血は透明だろ」 「赤だよ」 「じゃあ水は?」 「水色」 「春雨スープは水色?」 「赤だよ」 「それ君のだろ」 「だって雨じゃないか、でもそしたら、水色スープ?」 「梅雨スープじゃないかな」 「蛙が笑ってる。多分水溜まり」 「水溜まりを細い線がうねうねと動くんだ。春雨だよ」 「水滴だ。或いは、龍」 「ロマンチックだ。中華味。」 「チャイナチック。」 「じゃあ大正味」 「浪漫チック」 「チックチック、時計みたいで煩いよ。さっさと振り子になったら。頭重いもん」 「硬くなって賢くなったさ、馬鹿なことはしない。あれじゃまるで頭に振り回される。」 「理性って事?」 「食事に理性って必要なの?」 「必要だろ馬鹿。じゃなきゃ手掴みで油はギトギトだ。ほら見てよ手が真っ赤」 「じゃあ君は馬鹿で振り子だ。」 「違うよ梅雨だよ」 「真っ赤ってこと?」 「そしたら夏至だ。乾くね」 「もう元に戻らないよ、溶けてしまうのなら。」 「溶けきってそれはまた僕になるんだ」 「僕は何?」 「君だよ」 「君とはなんなんだろうね」 「じゃあ鏡。真似をして」 「流れないよ、ほら、透明だ」 「透けるものだから問題ないさ。龍が流れてる」 「じゃあ春雨だ」 「スーパーに行かないと」 「風呂はまだ入ってない」 「さっきスイッチ付けてたよ、熱いもん」 「じゃあいっか。真っ赤。いつか」 「5日に行こう」 「子供の日だね」 「五月雨だ美味しいね」 「声閉じなきゃ」 「内緒」 「内緒だね」

下手鉄砲届く迄時鳥

継続は力執念だろう元々飽きっぽい質継続する 意味が理解出来ず此処来た全部自分だけの生活 仕事だったから勿論基本は今も相変わらず汝の 為が主だか無言の交流伝える現状一見無関係な 事柄が有る時突然一本の道をリレー形式に繋ぐ イベント的なファンファーレ鳴らし突然訪れる 約束の無い合言葉が証明してるかも知れない

ごめんなさい

子供の頃から人の役に立てるよう頑張ってきた。 この人は何をしたら喜ぶだろう。 この人は今何を求めているんだろう。 みんなに愛されたかったから? いいえ。 私はただ怖かっただけ。 「本当に使えない」 あの言葉が脳に反響する。 でも、もう大丈夫。 もう大丈夫よ。 みんなの求めているものに私がなるの。 誰も私をあんな目では見ないの。 「ほら、これでしょ?これが欲しかったのでしょう?あなた達が望んだものがここには全てをあるの!!」 私の身体からは無造作に生える。 宝石、鞄、男の顔、時計、指輪… みんなは歓喜する。 「きゃー!そうよ、これが欲しかったの!!」 「ちょっと、それは私のものよ!」 「あぁ、あれもこれも欲しいわ…」 みんなの言葉に笑みを零す。 ふふ、ふふふ。 慌てないで。 みんなが望むものはなんだって… 痛ッ…!! 身体に激痛が走る。 な、なに? なにをしているの? 「なにって、宝石を引っ張っているのよ。あなたの身体から離れなくて…」 「あぁ、愛しのアナタ…いまそこから出してあげるからね」 「これも…これも…これもほしい…」 痛い! 痛いわ!! やめて!! 私の身体なの…! それを切り離すことはできないの…!! 痛い…!痛い…!! 「え、切り離すことはできない?なんだ、そうなの。やっぱりあなたって使えないわ」 冷めた眼差しが向く。 や、やめて。 そんな言葉。 そ、そんな目を私に向けないで。 お願い…。 ごめんなさい。ごめんなさい…。 「私は諦めない…。あれもこれも欲しいの…」 「あぁ…アナタ…アナタは私だけのアナタよ…」 「ちょっと!私の宝石に触らないで!」 痛い… 痛い…よ… もう、やめて… ブチッ あ゛ぁあ゛ 「やった!とれた!とれたわ!なんて綺麗なのかしら」 ブチッ 「えぇ…そうねアナタ…帰りましょう…」 ブチッ ブチッ ブチッ 「これも、ふふ。これも…。ふふふ…」 ぁ゛あ゛ いたい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ブチッ ブチッ ブチッ 身体はもう動かない。 「これで取りやすいわね」 ブチッ 身体には何も残らない。 「ふぅ、満足したわ。ありがとう」 みんなは離れていく。 その場には枯れた木のような肉塊が残るだけ。 望んで手に入れたモノは朽ち果てていく。 「そんな…私のものが…あれもこれも…」 「ああ…アナタ…いかないで…!お願い…」 「なーんだ、やっぱり最後まで使えない」 朽ち果てていくモノを捨てて再び歩き出す。

苦い思い

深夜に飲むコーヒーは、受験の味か、レポートの思い出か。 どちらも苦いことに変わりはないけれど。 はじめてコーヒーをブラックで飲んだのって、いつだったかな? 中学? だったのかな。 だからやっぱり、受験のときか。 大人の世界を垣間見たような、妙に背伸びした自分のイメージ。 でも、中身は子どものままという現実。 その日はやけに目が冴えて、なかなか寝られなかった。 コーヒーには、いい思い出があんまりない。 飲んだら寝られなくなってしまうのはいつものことだった。 いろいろ考えてみて、まずはコーヒー味のアメで舌を慣らすところからはじめてみた。 それでも寝られなかったけど。 いまゼミで一緒の奴で、表面上、仲良さそうに話はするけれど、内心、ムカついている奴がいて。 何がって、カッコよくブラックのコーヒー飲んじゃって。 俺も、と思って、ブラックを飲む練習、してみたけど… ダメだった。 いまは、ミルクたっぷりの甘いコーヒーに、クッキーを二枚そえて。 お気に入りのドラマの見逃し配信を、毎日ちょっとずつ、ちょっとずつ… が夜の楽しみ。 はあ、どうせ寝られないんならコーヒー飲んでもいいのかあ。 そんなことを考えながらの午前二時半。 レポートはまだ、少しもできていない。

楽しそうにわいわいしてる子たちを見ると

心配、心配、火、ちゃんと消したっけ、窓、閉め忘れてないよね 玄関のカギ大丈夫だよね、どうだったかな、わかんない 一度、心配してしまうとどうしようもなくなって あとちょっとで大学だっていうのにアパートに引き返す 戻ってみても火はちゃんと消えていて、窓も閉まっている もちろん玄関だって わたしのいなかった部屋は、つまり、こともなし 無意識の自分はしっかりやることをやっている でも、わたしは無意識の自分を信用していなくって 結局、どこにも所属しなかった五月の連休明け 勧誘時期にぐいっとよってこられて鬱陶しかった 新入生じゃないと言ってみたこと何度かあった 向こうはぜんぜん信じてなかった 姿を見れば、なんとなくわかるのかな そして、そして、どこにも入らないまま… いまからでも入りたければ入れるんだろう そうまでして入りたいとこはない ただ楽しそうにわいわいしてる子たちを見ると ため息をつきながらも、うらやましくはなってしまう

婚約者に愛が重いと婚約破棄されましたが、すぐにイケメン公爵令息に拾われてざまぁしました。

「ナンシー、お前との婚約はウンザリだ!婚約破棄させてもらうからな!」  みんなの前で当然宣言をした私の婚約者であるドナルド様……  私はショックのあまり目の前が暗くなる気持ちになるのであった……  しかし仮にも私も伯爵令嬢、何とか頑張って…… 「ドナルド様……どうしてそんなことを……」  と絞り出すように言うと…… 「お前の愛は重い!」などと言い出すのであった…… 「あ……愛が重くて何の問題があるのでしょうか?」  私は婚約者のドナルド様に愛されたかっただけなのに…… 「黙れ!貴族令嬢のくせに、弁当を毎回作ってきたなどと持ち込み、他にも頼んでも無いのに編み物をプレゼントして、気持ち悪いったらありゃしない、貴族令嬢失格だ!そんな奴と結婚できるか!」  私は絶望した、ひたすらドナルド様に愛されたい一心でしたことがすべて無駄で、いや逆効果だったなんて……  私が貴族の誇りすら吹き飛んでその場で泣きだすと、ドナルド様は激怒した! 「甘ったれるな!こんな女を妻にできないことは、みんなも分かったと思う!」  などと宣言をして勝ち誇られてしまった……  しかし! 「ならば私がナンシー嬢と婚約しようと思う!」  などと宣言する方がいた!  え!?私も含めてその場にいた人が全員振りむくと……  そこにいらしたのは、ヘンリー公爵令息様であった……! 「な……ヘンリー様どういうことですか!?」  ドナルド様が聞き返すも、 「何だ?お前はただの伯爵令息だろう?公爵家の私の決定に文句があるのか!」  などと言い返すヘンリー様…… 「いや……文句は無いのですが……」 「それに婚約破棄したのであれば、お前に止める権利は無いはずだが?」 「……もっともでございます、しかし本当によろしいので?」 「いいだろう!後学のために教えてやる!」  何を言い出すことかとみんなハラハラしている、ところでヘンリー様と言えば、誰もが憧れる超イケメンの公爵令息様なのだが、私はあまりなことに頭が限界を超えて、自体をいまいち理解できていないのである……! 「私から言わせれば、今まで付き合った令嬢は愛が足らなかった!もっともっと愛されたかったのだ、ナンシー嬢がそこまで愛するというのならば、私が婚約者にしたいのだ!ああ、もっと愛されて愛されて、自分はこの愛に答えられるのかと自問自答するような愛がしたい……!」  あまりの宣言にみなシーンとなったのだが、ヘンリー様がカッコいいのと、公爵令息という点から誰も文句が言えない……  そして…… 「ドナルド、君は愛も分からないなんて寂しい奴だ、ということでナンシー嬢は頂いていくぞ!」  というなり、私の元に来て、 「おお……美しきナンシー、私の妻になって欲しい」  などとひざまづくのであった……  私は思わず、 「はい!」と元気良く返事をしたことで、ヘンリー様が、 「ここに一組の愛し合う夫婦が生まれることを祝福して欲しい!」  なんて宣言をするため、みんな拍手をするしかなかったのであった……!  そしてヘンリー様は言う、 「ドナルド君、君も愛が分からない男として、これからも頑張って欲しい!」 「……」  ヘンリー様の宣言が聞いたのか、愛が分からない男ということになったドナルドは、その後誰とも婚約できずに独身になったそうな。  そして私はというと、ヘンリー様のために毎日お弁当を作る貴族らしくないことをしても、ヘンリー様はというと「ああ、こんなにの愛されているのに、僕の愛が足らなくて、君を悲しませているのかと思うと、僕は反省しないといけない……!」  正直このノリは私もよく分からないのですが、私も多分愛されているのだろうし、絶望から救ってくれたヘンリー様を愛しているのである。  一度だけ、ドナルドと会った時に、今の境遇が不遇なせいか、睨まれたことがあったのだが、ヘンリー様がすぐに現れて 「ドナルド君、君は愛に負けたのだ!見苦しいぞ!」  と一喝したことで、私を見るだけで避けるようになった……  ヘンリー様ありがとう……!

葬儀屋にて

 俺は二十歳だった。あの時はたしか仕事帰りで、車のハンドルを握りながら葬儀屋の前を通りかかった俺は、窓越しに出入り口で突っ立っている喪服姿の少女を見かけた。あの子は片手に何かを持っていた気がする。それは花だったのか、傘だったのか。  間違いなく覚えているのは、軒下から世界を薄暗くさせる曇天を見上げていた姿だ。  あの子は今頃高校生になっているのだろうか。まだ小さな身体で、彼女は着慣れない黒のワンピースを身に纏い、なにを思っていたのだろうか。三十路を迎える俺は、あの頃と比べてどこが老けたのだろうか。  知り合いの通夜を終えて、いま俺は屋外の喫煙スペースにいる。故人は五十を手前にして、峠道を運転中に突然気を失いそのまま急カーブに突っ込んだらしい。さっきのエントランスに集まった参列者同士の会話のなかで脳梗塞だと聞いた気がする。  深い関係ではなかった。二人きりで話した覚えはない。焼香をする番がまわってきて、彼の遺族の方を向いた俺は涙も浮かべず呆然とした様子の彼の愛娘を見た。  その瞬間に俺はふと、この子はあの時見かけた少女ではないのかという考えがよぎった。記憶のなかにある少女も同じようにただ無表情で曇天を見上げていた。  ――バカらしい。  二本目の煙草に火をつける。慣れないネクタイを緩め、慣れない第一ボタンを外す。芳名帳に記帳をした際、また別の知り合いが受付をしていたのだが、深めに入ったディンプルと併せて一切の歪みがない見事なウィンザーノットが目についた。他の男たちは皆、くたびれたようなプレーンノットだった。  普段から見栄を張りがちなあの男は、通夜という場でさえもネクタイの結び方にこだわりを見せた。俺はといえば、式場に入る前に大剣の長さやら結び目やらがいびつになるので何度も結び直す目に遭っていた。  二本目を吸い終えてその気もないのにオーダースーツの値段を調べていた。そこへ別の喫煙者がやってきた。夜更けの暗さではじめは判別できなかったが、こちらへ近づいてくるにつれてその人物がさっきの娘だとわかった。  互いに軽く頭を下げ、彼女は右手に持っていたピアニッシモから一本取り出して火をつけた。  やっちまった。俺はとっさにそう思った。世間ではこういう時「この度はお悔やみ申し上げます」とか「ご愁傷さまです」なんて言うものだ。タイミングずれの弔意の言葉をかけるくらいなら、いっそ俺はこのまま立ち去ったほうがいい。そうは思っても、かつて葬儀屋の前にいた少女のことが頭にこびり付いて仕方がなかった。 「大丈夫?」  俺は声をかけた。 「え、あ……、はい」  失意の様子は感じられない。ただ彼女は突然話しかけてきた男に戸惑った。 「俺が言うのもおかしいけど、まだ若かったのにね」 「……別にいいんです。あんまり好きじゃなかったんであの人のこと」  彼女は一本目を足元に投げると、踏み消しながらすぐさま二本目を取り出した。俺はそれを会話を続ける気があるものと理解した。 「俺も個人的なことはあまり知らなかったけど、世話になったとは思ってんだよ」 「そうですか。外面は良かったんでしょうね、私のあまり知らないところでは」  実父を亡くしたにしてはよく話す子だ。警戒心が薄いのか。 「でも思い出がよみがえって悲しくなったりしないものかい」 「悲しいですよ。悲しいけど寂しくはないんです。思い出といってもあまり子どもと遊んであげるタイプじゃなかったし、どこかに出掛ける時は母さんとお爺ちゃんが船頭になってましたから」 「……家の外に居場所を持ってる人か」 「たぶんそんな感じです」  改めて彼女の顔を眺めてみた。二十歳を過ぎてるように見えなくもない。堂々と人前でタバコを吸うのだから成人なのだろうが。 「君のお爺さんは?」 「え?もうとっくに鬼籍に入ってます。私が小学生になった頃に」 「奇跡?」 「鬼籍です。鬼に戸籍の籍。あれ、知りませんか」 「いや聞いたことない。亡くなったってこと?」 「はい。普通だと思ってました、昔から母さんがこう言ってたから」  二本目がまた足元に捨てられる。俺は吸殻が転がるさまを目で追った。次の言葉を見つけられずに沈黙が生まれる。隣の娘に目をやると、彼女は空を見上げたまま棒立ちになっていた。  ――そうだ。  同じ顔だと俺は思った。あの少女も一文字に口を結び、なにも携えていない目つきをしていた。そう、ただ空を見上げていた。 「俺は昔」 「はい」 「君を見たことがあるかもしれない」 「はあ」  名も知らぬ娘の瞳が俺を捉える。こんなことを話したとて、この娘があの少女だったとて、なにも残りはしない。 「お爺さんの葬儀の時、君は今みたいに空を見上げてなかったか?」 「さあ。覚えてないです」  答えなんて判らない。 「君は高校生?」  娘はぺろっと舌を出す。

日記の追記

私は毎日、日記をつけているのですが毎朝昨日書いた日記を確認すると、知らない内容が付け足されているのです 私はアパートで一人暮らしですし、私以外に書く人はいないのですが、身に覚えがないのです 内容自体は大したことなくて、でも私しか知らないことが書かれています。例えば背中にニキビが出来たとか、シャンプーを詰め替えたとか取るに足らない出来事ばかりです 本当は書いたのに、忘れてしまったのかもしれないと思ったこともあるので、日記を書いた後、写真を撮って、次の日見比べてみると、やはり、日記が追加されているのです。 私はアパートにいるのが恐ろしくなって友達の家にお邪魔して事の一部始終を伝えました そして彼女が言うには、寝る前に日記を動画で撮影しておいたら、誰が書いたか分かるのではないかと言うのです。私が寝ぼけて書いてるんだよ。夢遊病ってやつじゃない?と彼女は気軽く言ってました。そんなふうに言われると、もしかしたら私にはそんな変わった所があるのかもしれないと思い、彼女の言う通り撮影をしてみたのです。それがこのメモリーカードに入っています。私一人で見る勇気がなくって、それであなたの所に来ました あなたのPCで見てみましょうよ ちょっとお借りしますね。二人で見ると思ったら直ぐに見てみたくなっちゃいました。あっ始まります。 動画が始まると日記の乗った机があってその先にお風呂の脱衣所にある洗面台が見えます。彼女が眠った直後に洗面台の鏡が開き、痩せた細長い男性が顔を見せました。男は一度は壁の中から出ようとしていましたがカメラに気が付きニヤニヤと笑いながら鏡を閉めました

小説書いてくださいと言われてる

 怠け者の僕にはツラい。 今日は花を写真で撮った。 うむ、綺麗だ。 花は植物の生殖器官だ。 つまり僕は道端でいたいけな植物の生殖器官を撮っているということだ。 極悪非道だ。 鬼畜生だ。 悪鬼羅刹だ。 人でなしがか弱いお花さんをイタズラしてますと誰かに通報され植物パトロールが来て逮捕される未来も遠くないかもしれない。 ビーガンがこの法律を作るかもしれない。 恐ろしい世の中だ。 無職の夜はしょうもないことを考えて過ぎる。

Rain

怪しい空模様に光の筋が走る 雷だ 雷鳴が雨を連れてきた 小さな雨粒は急いで地面を濡らしていく 虫が騒ぎ人が小走りになる 主役を取られた生き物達は静かに雨を鑑賞する 慌てて作った風がそこら中を当たり散らして通っていく 皆が雨をやり過ごす。この一体感が僕は好きだ

馬鹿な壁の向こう側

以前から不思議な言葉馬鹿の2文字の真実とは 実際馬や鹿も全然バカじゃ無く神が人に与えた 尊き旨い畜産物だから嘲る存在じゃ無く感謝を 捧げ食す事超そ成仏かも知れない元文化の神が 犯した神への挑戦的な謀反かも的形跡辿る旅に もしや聖霊創造後の頃から仕組み嘘真実を混ぜ 煙幕掛け欺いた歴史に終止符打つ者超そ聖霊を 創造した大自然体の神がする消滅扨せた後回収 行う昭和世代のウルトラマン的回収作業に似て かも知れない後始末な言葉の場過だろうか

三途の川 順番を守ってください

女がゆっくりと目を開ける。 「そうか。私、死んだのね」 川原の石に腰掛け、辺りを見回した。 「すみません。ここはどこですか」 外国人スタッフに声をかけた。 「ココ、サンズノウケツケ、ジュンバンネ」 そう言うと、長い列の最後尾を指差した。 「三途の川って、本当にあるんだ」 女は行列を眺めながら、最後尾に歩き出した。 すると、男が、行列に手を振りながら歩いてきた。 「いやぁ、どうも」 「先生。足元、お気をつけください」 年配のスタッフが、最前列に案内する。 「ところで、あれはご用意いただけましたか」 「ああ。ちゃんとここにある」 うなずきながら、上着の胸ポケットを指先でつついた。 「どこ行っても同じね」 女が、振り返って笑う。 そこに、スタッフが声をかけた。 「ジュンバン、マモッテネ」 「なんだ、お前。その口のきき方は」 何事かと、周りが騒がしくなった。 「ミンナ、マモッテルヨ」 男が、顔を赤くして詰め寄った。 「お前、国外退去にするぞ」 その言葉に、スタッフが男の手を握った。 「コレデ、クニニカエレルネ」

踊り場の五秒

 踊り場のドアは、五秒だけ開いたままだった。  団地の四階と五階のあいだにある、重い鉄のドアだった。押すたびに腹の底へ響くような音がして、閉まるときには必ず、最後に少しだけ息を吸う。  夕方の階段には、煮物の匂いが薄く漂っていた。  下の階から、老婆が上がってきた。  両手に買い物袋を提げている。白いレジ袋の中で、大根の葉が少しだけはみ出していた。袋はどちらも重そうで、老婆は一段上がるたびに、手首を小さく揺らした。  三階の踊り場で、青年が追い越した。  黒いパーカーに、片方だけイヤホン。手にはスマホを持っていた。老婆の横をすり抜けるとき、青年は何も言わなかった。老婆も何も言わなかった。  ただ、老婆は少しだけ体を壁に寄せた。  青年は軽い足音で階段を上がっていった。  四階の踊り場に着くと、青年は鉄のドアを押した。外廊下へ出るためのドアだった。  ぎい、と音がした。  そのまま行くのだと思った。  けれど、青年はドアの向こうへ出なかった。  半身だけ外へ出し、肩でドアを押さえたまま、スマホに目を落とした。  老婆はまだ、階段の途中にいた。  右手の袋が、何度も膝に当たっていた。左手の袋は、底の角が少し伸びている。中の何かが、ビニールを押していた。  青年は画面を見ていた。  親指は動いていない。  老婆は一段ずつ上がった。  踊り場まで、あと七段。  あと六段。  あと五段。  鉄のドアは、青年の肩で止まっていた。  冬の風が、外廊下から細く入り込んでいた。青年のパーカーの裾が少し揺れる。ドアの取っ手が、青年の背中の横で小さく震えた。  老婆は四階の踊り場に着いた。  息を整えるように、そこで一度立ち止まった。  青年はまだスマホを見ていた。  老婆は青年の横を通った。買い物袋が、青年の靴の先をかすめそうになった。  その瞬間だけ、青年は足を半歩引いた。  老婆が外廊下へ出た。  鉄のドアは、すぐには閉まらなかった。  老婆は少し振り返った。  青年は画面を見ている。  それから、老婆は小さく頭を下げた。  深い礼ではなかった。買い物袋の重さで、首だけが少し沈んだような会釈だった。  青年は気づいていないふりをした。  画面を見たまま、ほんの少しだけ顎を引いた。  老婆が廊下の奥へ歩いていく。  青年はドアから肩を外した。  鉄のドアは、ゆっくり閉まりはじめた。最後に息を吸うような間があって、それから、低い音で閉じた。  階段に、夕方の匂いが戻った。  青年はスマホを持ち直した。  画面は真っ暗だった。  通知も、動画も、地図も、何も映っていなかった。  青年はそれをポケットにしまい、五階へ続く階段を上がった。  四階の外廊下では、老婆が自分の部屋の前で鍵を探していた。買い物袋を一つ足元に置き、もう一つを腕に掛けたまま、ゆっくりポケットを探っている。  青年は一度だけ、階段の途中で足を止めた。  ドア越しに、鍵の触れ合う小さな音がした。  それを聞いてから、青年はまた階段を上がった。  五階の踊り場に着くと、同じ鉄のドアがあった。  青年はそれを押した。  今度は、誰も後ろにいなかった。  それでも青年は、すぐには手を離さなかった。  五秒だけ、ドアを開けたままにした。  それから、誰にも見られないまま、静かに外へ出た。

形の崩れた

 閉店間際に行くのは、値引きシールのためだ。  夜の八時を過ぎると、商店街のシャッターが降り始める。その五分前に滑り込むのが、この三ヶ月の習慣だった。図書館を出て商店街を抜けると、ほかの店はすでに閉まっている。石畳の上に、消えた灯りがいくつも並んでいた。パン屋だけに、まだあかりがある。  棚に残っているのは、決まって同じものだ。食パンと、形の不揃いなロールパン。百円引き、五十円引き。値引きシールが貼られた順に、端から取る。 「食パン一斤と、ロールパン三個」  いつもの注文。いつもの値段。  店主は五十がらみの男で、いつも白いエプロンをしている。毎日顔を合わせているのに、名前も知らない。男も、聞いてこない。余計なことを言わない。聞かない。ただ袋に詰めて、レジを打って、釣り銭を渡す。  それがよかった。 「いつも遅くにすみません」と言ったのは、最初の一回だけだ。男は何も言わず、釣り銭をカウンターの端に置いた。謝らなくていい、という意味だと受け取った。それ以来、何も言わなくなった。  三ヶ月の間に、いくつかのことが起きた。  雨の日があった。傘を持たずに飛び込んだら、店主が袋を二重にしてくれた。それだけで、何も言わなかった。  閉店の五分前に間に合わなかった日もあった。シャッターが半分まで降りていた。引き返そうとしたら、隙間から男が手招きした。中に入れてくれた。それだけで、何も言わなかった。  棚が空の日があった。値引きシールの貼られたものが一つもなかった。どうしようかと思っていたら、カウンターの下から食パンの袋が出てきた。定価だった。それでも、買った。  いつの間にか、帰り道の途中でパン屋の灯りを確認するようになっていた。まだついている。まだ行ける。それだけで、足が動いた。寄ることに意味があるのか、パンが必要だから寄るのか、最近よくわからなくなっていた。  試験が終われば、閉店前に来なくていい。そう思いながら、もう三ヶ月が経った。  今日も釣り銭を受け取って、ガラス戸を抜けた。十一月の風が、首元に入ってくる。袋を持ち直したとき、少し重い気がした。  ロールパン、三個のはずだ。  角を曲がったところで立ち止まり、街灯の下で袋を開けた。食パンとロールパンの間に、形の崩れたクロワッサンが一つ、紛れ込んでいた。  値引きシールはない。レシートにも載っていない。  ただ、そこにある。  クロワッサンを取り出して、しばらく見た。潰れて、端が割れている。売り物にならないと判断された、そういうやつだ。  捨てるくらいなら、という話かもしれない。でも、どの袋に入れるかは、選べる。毎日来る学生の袋に入れることも、選べる。  冷たい風の中で、それだけのことを考えた。  街灯の下に、しばらくそのままでいた。  袋を閉じ直して、歩き出す前に、一度だけ振り返った。シャッターは、もう下りていた。

手が届く

 電車を降りて、ドアが閉まった。  ホームに残った人間は、数えるほどだった。夜の八時。ラッシュは終わっていた。エスカレーターを上がって、改札へ向かう。  夜の駅は、昼間と匂いが違う。アルコールと、疲れた革靴と、どこかで食べたものの残り香が混ざって、通路の空気の中に溜まっていた。  ICカードをタッチして、改札を抜けた。  そこで、後ろから足音が速くなった。  コンコースの、ホームへ下りる階段の手前。人はまだいた。でも、その足音だけが、はっきりと近づいてくる。  歩くスピードを上げた。足音も速くなった。  振り返らなかった。振り返ったら、目が合う気がした。  鞄のショルダーを、右手で強く持ち直した。左手でポケットからスマホを出した。画面を見るふりをしながら、指先だけが動かなかった。ロック画面のまま、時計の数字が目に入った。夜の八時十四分。  周りの声が、遠くなった。自分の呼吸だけが、近くなった。  階段を下りた。ホームに出た。ベンチの脇を抜けた。次の柱の前に来たとき、そこに体を寄せた。人がいる場所を、無意識に選んでいた。  足音が、止まらなかった。  鞄の中に、定期入れと鍵がある。場所だけ確認した。使わない。でも確認した。 「すみません」  男の声だった。  止まれなかった。止まったら、何かが終わる気がした。  歩き続けた。 「ちょっと、待ってください」  足音が追いついた。  肩に、手が触れた。  振り返った。  三十代くらいの男が、息を切らして立っていた。スーツのネクタイが、少し曲がっていた。額に汗が光っていた。  男は何も言わなかった。  右手を、前に差し出した。  千円札が一枚、くしゃっとした形で乗っていた。 「改札の前で、落とされてたので」  男は頭を下げた。それだけ言って、人の流れに戻っていった。背中が、すぐに見えなくなった。  ホームのアナウンスが流れた。次の電車は、三分後だった。  私はしばらく、その千円札を見ていた。  くしゃっとした角が、少し折れていた。追いかけてくる間に、握っていたのかもしれなかった。  財布を出すのに、少し時間がかかった。

終電の別れ

「もう二度と会えないね」  祖母は、ホームの端でそう言った。  夜の駅には、冷えた鉄の匂いがしていた。線路の向こうには田んぼが広がっていて、ところどころに家の灯りが沈んでいる。風が吹くたび、祖母の白い髪が耳の横で細く揺れた。  祖父は何も言わず、隣で杖を握っていた。  電車はまだ来ていない。  ただ、線路の奥のほうで、小さな光がゆっくり近づいていた。夜の中に、ひとつだけ黄色い目が浮かんでいるように見えた。 「寒ないか」  祖父が言った。 「寒いよ」 「帰るか」 「帰らん」  祖母は即答した。  祖父は少し笑った。笑ったというより、口の端だけが疲れたように上がった。 「昔もそうやったな」 「何が」 「言うたら聞かんところ」 「言うたら聞いてたら、あんたと結婚してないわ」  祖父は黙った。  ホームのベンチには、二人以外に誰もいなかった。時刻表の下に貼られた紙が、風でかすかに鳴っている。白い紙には、黒い文字で大きく「本日最終運行」と書かれていた。  祖母はそれを見ないようにしている。  私は少し離れたところで、二人の背中を見ていた。車で送ると言ったのに、祖母は「最後くらい駅まで歩く」と言った。祖父も何も言わず、杖を持って玄関を出た。  家から駅までは、ゆっくり歩いて十五分。  昔はもっと近かった、と祖母は途中で何度も言った。  道が変わったわけではない。  二人の足が、少し遅くなっただけだ。 「ここで待ってたなあ」  祖母が言った。 「誰を」 「あんたを」 「わしを?」 「仕事帰り。雨の日は、傘持って来たげてたやろ」 「覚えてへんな」 「都合のええ頭やね」  祖母は笑った。  その笑い方が、少し若かった。  遠くの光が近づいてくる。線路がかすかに震え、踏切の音が町のほうから遅れて届いた。  祖母は一歩だけ前に出た。  祖父が、その袖を軽くつかんだ。 「危ない」 「分かってる」  祖母は袖を振りほどかなかった。  電車がホームに入ってきた。  一両だけの、小さな電車だった。塗装はところどころくすみ、窓には夜のホームと、祖母の顔がぼんやり映っていた。  扉が開いた。  誰も降りてこなかった。  誰も乗らなかった。  運転士がこちらを見て、小さく会釈した。祖母も、頭を下げた。祖父は杖を持ったまま、少しだけ背筋を伸ばした。  発車のベルが鳴った。  祖母は急に、私の知らない女の子のような顔になった。 「ほんまに、行ってしまうんやね」  祖父は何も言わなかった。  扉が閉まった。  電車はゆっくり動き出した。  祖母は手を振った。  祖父も、少し遅れて手を上げた。肩より上には上がらなかったけれど、確かに振っていた。  電車の窓が、二人の前を一枚ずつ通り過ぎていく。  最後尾の赤い灯りが遠ざかるころ、祖母はもう一度つぶやいた。 「もう二度と会えないね」  私はその言葉を、誰かに向けたものだと思っていた。  祖父ではなく。  昔の恋人でもなく。  亡くなった誰かでもなく。  祖母は、線路に向かって手を振っていた。  この町を七十年走った、最後の電車に。  赤い灯りが、夜の奥で小さくなった。  踏切の音が止んだ。  急に、駅全体が空っぽになった気がした。 「帰るか」  祖父が言った。  祖母はしばらく線路を見ていた。 「歩いて?」 「歩いて」 「昔みたいに?」 「昔みたいに」  祖母は祖父の袖をつかんだ。  来たときよりも、ほんの少しだけ強く。 「ほな、送って」  祖父はうなずいた。  二人はゆっくり歩き出した。  改札のない駅を出る前に、祖母が一度だけ振り返った。  もう電車は来ない。  それでも祖母は、誰もいないホームに向かって、小さく頭を下げた。

靴べらの場所

 父が死んでも、靴べらの場所だけは変わらなかった。  玄関の右側。  手を伸ばせば届く高さ。  そこに、黒い安物の靴べらが掛かっていた。  葬式のあと、親戚が少しずつ帰っていった。  台所の湯呑みも、  座布団も、  菓子の空き箱も、  母が黙って片づけた。  私は玄関に腰を下ろし、革靴のかかとに指を突っ込んでいた。 「それ、使いなさいよ」  母が奥から言った。  見ると、いつもの場所に靴べらがあった。  柄の先だけ、手の脂で少し光っている。  下の方には細かい傷があり、先端がほんの少し欠けていた。 「まだあったんやな、これ」 「あるよ。捨てるもんでもないし」  私は靴べらを手に取った。  軽かった。  父の持ち物は、もっと重いものだと思っていた。  子どものころ、父はいつも私より先に家を出た。  朝の玄関には、新聞紙の匂いと、整髪料の匂いと、磨いた靴の匂いが混じっていた。  父は何も言わずに靴を履き、何も言わずに出ていった。  いってきます、を聞いた覚えはあまりない。  ただ、玄関の戸が閉まる音だけは覚えている。  少し強くて、家じゅうの空気が一度だけ揺れた。 「お父さんな」  母が台所から出てきた。手には布巾を持っていた。 「毎朝それ、掛け直してたんよ」 「靴べら?」 「そう。あんたらが使ったあと、向きがバラバラになるやろ。あれ、気にしてたんやと思うわ」  母は笑うでもなく、ただ玄関の右側を見た。 「何回か、下駄箱の中にしまったことあるんよ。見た目悪いから」 「うん」 「でも次の日には、またそこに戻ってる」 「なんで」 「さあ。使いやすかったんちゃう」  母の声は、そこで少し小さくなった。 「あんた、高校のとき足くじいたやろ。しばらく靴履くの、大変そうにしてたから」  私は靴べらを見た。  そんなことは忘れていた。  足首に湿布を巻いて、玄関で片足立ちになっていたこと。  遅刻しそうで苛立って、かかとを踏んだまま出ようとしたこと。  父が新聞を畳みながら、こちらを見ていたこと。  何か言われた記憶はない。  けれど、翌朝から靴べらはそこにあったのだろう。  右手を伸ばせば届く場所。  かがまなくても取れる高さ。  急いでいても見失わない向き。  父はそういうことを、説明しない人だった。 「持って帰る?」  母が聞いた。  私は少し迷って、首を振った。 「いや、ここでええわ」 「そう」  母は布巾をたたみ直した。  私は靴べらを使って、靴を履いた。  かかとはすんなり収まった。  革靴の中に足が入るだけの、なんでもない動作だった。  立ち上がると、玄関の外はもう夕方だった。  門の向こうに、線香の匂いがまだ残っていた。 「ほな、また来るわ」 「うん。気ぃつけて」  戸に手をかけてから、私は振り返った。  靴べらが、少し斜めになっていた。  私はそれを取って、掛け直した。  先端が壁に当たらないように。  柄がこちらを向くように。  右手を伸ばせば、ちょうど取れる角度に。  母が、後ろで何も言わずに見ていた。  私は少しだけ恥ずかしくなって、戸を開けた。  外へ出る直前、母が小さく言った。 「よう見てるなあ」  私は返事をしなかった。  ただ、玄関の戸を、いつもより少しだけ静かに閉めた。

蟻の恋

何でもない蟻ですが恋をしました 実りはしない恋をしました 僕は蟻と言うことを忘れた事は無いですが、いつの間にか花に恋をしてしまいました。 僕は毎日、花の側を通ります。横見でちらりと花を見て何でもないように歩いていきます。たまに花の周りをうろうろして「この辺に甘い物でもありそうだな」等の独り言ちをします。 そりゃあ僕は蟻ですから、花を盗もうとすれば、それはそれは簡単に盗めます。一人で穴の中で甘い蜜を飲むことでしょう。でもそれは違う。花は実を付け次の種を生むために咲いているのです。蟻はお呼びでないのです。 えっ?「少し蜜を貰うだけでは駄目なのか」ですって?そんな事で僕の恋心を満たせません。僕は全て食べてしまいたいのです。 僕はただの蟻です 花に恋をした何でもない蟻なのです 花に蝶がとまっていても何も出来ない蟻なのです

大きな貧富の壁社会

 カーテンを少しだけ開けて、外を見る。  家の周りにはバットや金槌を持った人々が集まり、塀をがんがんと叩いている。   「はー。今日もいるのか」    このままでは、外出一つできやしない。  私は警備会社へと電話した。   「移動用の車を一台」 「申し訳ありません。既にすべての車がご予約で埋まっておりまして」 「はあ!? なんのために、高い金を出して契約してると思ってるんだ!」 「……お言葉ですが、運転手がいないのは、あなた方の世代が子供を作らなかったせいですよ? 労働力を生み出さずに、労働力が当たり前にあると思うなんて図々しい」    電話が切られた。  何度かけ直しても、電話は繋がらない。  銀行アプリから通知が届き、サービス利用キャンセルの払戻金が振り込まれた。   「くっそ! 勝手にキャンセルしてんじゃねえよ!」    銀行アプリに溜まる、莫大な金。  凡人が人生何周しても手に入らない、莫大な金。  しかし、使おうとして断られる今、この価値が俺の中で揺らいでいる。    国が荒れたら、国外に逃げればいい。  そう思っていた数年前の俺を殴りたい。  空港が占拠され、家の周りを囲まれては、国外に逃げるなんて選択肢があるはずもない。   「……今日も出前か」    俺は、ピザ屋へと電話した。   「ピザ一枚」 「ただいま大変込み合っておりまして、お届け三時間後でもよろしいでしょうか?」 「よろしい! よろしい! いつでもいいから、届けてくれ!」 「かしこまりましたー!」    あらゆるインフラは、底辺に支えられている。  警備も、出前も、家を囲む暴徒たちが金を得るためにやっている。   「お待たせしましたー。ピザとなります」    玄関には、先日、俺の家の壁を叩いていた男が笑顔で立っていた。  俺は金を払って、ピザを受け取った。  男は、バットや金槌を持った人々の間を、平然と抜けてピザ屋へと戻っていった。    加害者と、被害者を守る人間が、同一である世界。  こんなゲームチェンジが起こるなんて、資本主義に胡坐をかいている時は思わなかった。    俺は冷めたピザを取り出して、一口齧った。   「美味い」