近所にあった汚い、小さな家には、玄関先に看板が取り付けられていた。『クジラの病院』看板にはそう書かれていた。その家に、クジラはもちろん、誰か人間が出入りしているところも見たことがない。『クジラの病院』廃屋だと思っていた。ある日の夜明け頃、不思議な音で目が覚めた。外に出て辺りを見回すと、その音は『クジラの病院』から聞こえていた。何の音だろう。そう思って近づくと、突然、『クジラの病院』の中から、屋根を突き破って、大量の水が空に向かって噴射された。あっ、クジラが潮を噴いたんだ。すぐにそう判った。潮は朝日に反射して、きらきらと輝いていた。美しかった。きっとクジラは治ったんだ。何となくそう判った。
だって怖いんだもん、この時期だけは。 おそるおそる手を伸ばす。 あれ!? パチッと音がしない。 すでに冬が終わったと、そのことで知るまだ寒い朝。 ドアノブにビビってしまう季節は終わり。 春になったら旅をしてみたい。 冬の寒さの窮屈感。 気持ちが訴えてくる。 ひとまず、旅エッセイでも読んでみて。 「春の光には、重いコートと一緒に『今の自分』を脱ぎ捨てさせてくれる不思議な力があるのよ」 いいこと言いますなあ。 よしっ、今年は! 思うだけで、結局、行かない。
私以外の人類が滅びた地球の焼け野原に、空から一冊の本が落ちてきた。それは折り紙の本で、ページをめくると、『人間』の折り方が記されていた。私は焼け野原に落ちている、焼け焦げた紙幣や政府機関紙、避難場所が載った地図などで、人類の復興を試みることにした。
私の日々の楽しみはカレンダーに予定を書き入れる事、なぜなら人生が充実しているように感じるからだ。 寝室の壁に掛けられた大きなカレンダーには、余白が多く様々な予定が書き込める。 新作ゲームの発売日のような楽しい予定もあれば、取引先との重要な商談といった緊張感のある予定もある。 喜びや悲しみの日々をどう乗り越えてきたのかを一望できるカレンダーを私は勲章のように誇らしく感じていたが、それと同時に空白に耐えられない自分が居ることにここ最近気づいたのだ。 何も書き込まれていない空白の日を見ると無理矢理にでも予定を作り書き込んだ。 その空白は自分自身が何もない人間である事を証明しているようでどこか不快な感情を私に抱かせる。 『私は無駄な人間じゃない』 『私はつまらない人間じゃない』 呟きながら予定を書き込む。 あのカレンダーの余白を埋めるために。 そんな生活を続けて1年ほど経った時、 あのカレンダーに異変が起き始めた。 私が手をつけていない未来の予定が書き込まれているようだ。 最初は私の勘違いかと思ったが、スマホで写真を とり毎日見比べているうちに確証を得た。 しっかりと私の筆跡である。 私は夜寝る前に予定を記入する習慣となっていた。 夜は空白の箇所が翌日の朝には埋まっている。 内容は平凡だか必ず当たっている。 そのことに恐怖や不快感は感じなかった、むしろ私は自動的に空白がなくなることに感動さえ覚えた。 あのカレンダーは私の努力を認め、肯定してくれているのだ。 『ありがとうございます』『ありがとうございます』『ありがとうございます』『ありがとうございます』 私は何度も呟いた。それは呪文のようだった。 心なしかカレンダーが笑っているように見えた。 昔から物事の要領が掴めず、人よりも覚えが悪かった私は一般人よりも努力を重ねて、孤独だが、 昇進の道を進んでいた。 他人には掴みどころがないと思われているようで、友人もおらず、恋人もいない。 それでも生きてこれたのは積み重ねた日々を記録してきたからだ。 私は過去を大切にしてきた見返りとして、 あのカレンダーは未来を与えてくれたのだ。 こんなに嬉しい事はない。 それから1ヶ月は幸せな日々を過ごした。 家に帰りカレンダーの3月分を剥がし、 4月分に切り替えた際に私は驚愕した、 4月19日以降が空白だった。 私はまたあの焦燥感を思い出した。 また私は中身がない人間に戻るのか、 こんな思いはもうしたくない。 誰か解放してくれよ。 カレンダーはにやりと笑ったようだった。 私は空白を無理矢理埋めた。 寝る前に見た4月カレンダーは全て埋まっていた。 取り敢えず満足した私は眠りについた。 翌朝の4月1日からは通常通りの日々を過ごした。 私は予定を埋めたことに満足し、4月19日以降のカレンダーの空白のことなど忘れていた。 忙しい日々を過ごす中で、とうとう19日を迎えた。 その日私はらしくなく15分寝坊をし、焦りながら朝の身支度をして会社へ急いだ。 いつもの道では間に合わないと考え、工事車両が主に通過する荒れた近道を通ることにした。 努力を続けてきた私が遅れることなどあってはならない。 その一心で急いだ。 それがマチガイだった。 私は近道最後の曲がり角をスピードを出して右折した。赤信号ギリギリだった為、飛び出してきた トラックと正面衝突した。 私の意識はおそらく担架に載せようとしている救急隊員の声を聞いて目覚めた。 『まだ、息があります。』 そんな確認は不要だ。 おそらく私は助からない。 なぜならカレンダーには19日以降の未来がないのだから。 私はたった今、あのカレンダーの真意を理解した。 あいつは予定に囚われていた私を開放してくれたのだ。 なんと有難いことだろうか、 できればあの世にもカレンダーがあるといいな。
「ボランティアに参加してくれた方には、特典としてラーメン一杯無料券配ってまーす」 お金がないのでボランティアをした。 ご飯が一食浮いて幸せだった。 「循環する魂が枯渇してまーす。天寿を早めてくれた方には、特典としてちょっと幸福な来世を保証しまーす」 人生がつまらないので天寿を早めた。 来世には記憶が引き継がれないので、本当に特典をもらえるのかわからないのだけが心残りだ。
もう直ぐ3月の声が聞こえても良さそうだけど 風は未だ2月と言うだから激寒なのだろう幾ら 妄想の中温泉へ行き首迄浸かろが寒い物は寒い 早く給湯器直らないとエアコンだけじゃ有る種 マッチ売りの少女幻想に為って仕舞う少女じゃ なくおばさんですが余りに寒いのでカイロ直接 貼るとポカポカして気持ち良い裏の注意書きに 使用の際肌に直接貼らないで下さい低温火傷の 恐れが有る為衣服の上から御使用下さいと有る けど私の皮膚は何でも無い激熱カイロ冴え平気 昔天ぷら油脆跳ね左側手首に直撃して1年間は 火脹れ跡消え無かったけど今跡形も無く消えた 私は不死身か化け物かも知れないマッチ売りの 少女は寒空の最中で籠一杯のマッチを抱え1人 寂しくマッチ売る為足早に歩く人々に声を掛け マッチを売るけど寒空に足を止める者等現れず 失意に暮れ少女はマッチを擦り炎の灯り見えた 世界は暖かい部屋暖炉クリスマスケーキと数々 ローストチキンにサラダとコーンスープ沢山の プレゼントが並ぶ幸せな光景少女は妄想現実に 陥り明るい世界を求め炎が消える度にマッチを 沢山擦り続け最期の1本マッチ擦り終え灯りが 消えた瞬間少女の命も消えたと言う悲しい物語 だったそう妄想現実に陷らない為に必要な事は 過度な希望を抱いて現実無視した行動を取る事 つまり冷静な俯瞰が曇り直感冴え鈍る事だろう
処刑場に行った。友人に会いに行ったのだ。友人はこの間斬首刑に処され、その生首がさらされていたのだ。友人の生首に色々な話をし、そのうち日が暮れてきたので、家に帰った。「またね」と手を振ると、友人も手を振った。帰り道、友人は生首なのだから手を振れるわけがないことに、ふと気づいた。
かけていたアラーム、予備のアラーム、予備の予備のアラーム、準備完了用のアラーム、出発用のアラーム、到着用のアラーム。 一つ解除する度に一つ心が軽くなる。 起床時間の心配、失敗への心配、失敗への備えの失敗への心配、事前準備の心配、家を出ることへの心配、誰かに会うことへの心配。 一つなくなる度に一つ心が軽くなる。 何もなくなって空っぽになった心は風船みたいにふわふわと浮かび上がって、関節が軋むほど重かった足取りは、吊られた人形の様に空を踏む。 小さな爪で内側から引っ掻かれて、傷だらけに白く濁って、内側に何がいるのか分からなくなったガラス細工の心は、少しだけ伸縮のゆとりがあるゴム製に変わる。 ヘリウムどころか水素を湛えた様な私の心持ちは、ぐんと宙に浮いて、ささくれだった木製の天井に当たって割れた。 堪らない嘔吐感に必死に回した足を滑らせながら化粧室へ駆け込む。中蓋を上げて陶製の便器のひんやりとした感触を手に感じながら、私の世界の中で一番不浄な水面に映った自分の顔を見つめる。嘔吐感は残っているのに、あの喉を焼きながら上がってくる半個体の感触はない。 どうしようもなく惨めになって、壁に縋り付くように眠った。割れたガラスの心から、何か爪を持つ生き物が出て行った気がした。
『規則正しい生活』って言うけれど 1日の始まりが朝だなんて誰が決めたの 皆んなが朝型な訳ないよ 夜型があって良いんじゃないかな (完)
スーパーで高い所の物が取れなくて困っている玄冬の御婦人がいたので代わりに取ろうとした。ヤクルトの8本パックだったと記憶しているそれが、手前に引き出す途中で段差に当たって手から滑り落ちた。冷蔵用の商品棚の全ての段と私の膝を経由して地面に落ちたそれを私は下手糞のはんだ付け配線のようになった脳のまま拾い上げて手渡した。御婦人の表情は覚えてない。呆れか、無感情か、その辺だったような気がする。駐輪場で自転車のナンバーロックを回しながら落としたものを自分のかごに入れてもう一つ取れば良かったと思い至った。嘔吐感を歯ぎしりで噛み潰して、帰り道大声で歌いながら帰った。米津のモノマネで歌った。自分では結構上手いと思っている。変な目で見られた。
1月1日 男性 餅を喉に詰まらせ窒息死 1月1日 男性 ヒートショックにより死 1月2日 女性 階段でつまづき 転落死 1月3日 男性 喧嘩で椅子で殴られ、脳挫傷を起こし、死。 1月4日 女性2名 男性2名 N廃病院に侵入。院内を探索後、遭遇。壁に頭を打ち付け、お互いの眼球を奪い合う形でえぐりだし。絶命。 1月5日 男性 痴情のもつれから知人の男性と口論になり。道路に突き飛ばされる。轢死。 1月7日 女性 ハイキング中に毒性を持つキノコを誤食。8時間後に病院にて死 1月9日 男性8名 女性3名 N駅西口にて、遭遇。互いの目を奪い合い。指を噛み千切る。失血死。 男性一名が生き残ったが、六時間後、病院から脱走し、N廃病院の手前で野犬が骨を咥えているのを発見。 1月10日 男性 登下校時に車に轢かれ、轢死。 1月11日 男性13名 女性22名 N高等学校の廊下にて、男子生徒7名が遭遇。数分後に教室にて突然男子生徒が窓を割り、破片で他生徒4名を攻撃。 同じ事を遭遇した生徒6名が数分後に他の教室で行ったため。甚大な被害が起きた。 1月15日 男性 夜道を歩いていたところ、遭遇。奇声を上げて走り去る。職員の捜索むなしく、発見されず。 (追記 2月4日。N廃病院のエアコンの中から折り畳まれて発見。) 1月18日 男性 N廃病院に潜入。 当記録を発見。それを書き写し、2日後にネットに小説という形で投稿。 その2時間後に火事がおき。焼死。 1月21日 女性 道路を通行中 突如野犬に襲われ、死亡 野犬は駆除済み (追記 女性はネット上で18日の男性の小説を閲覧していたことが発覚) 1月23日 男性 ネットで小説という形で投稿された当記録帳を閲覧。 2時間後に溺死。 1月24日 女性 ネットに小説という形で投稿された当記録を閲覧。2時間後に失血死。 1月28日 男性3名 N廃病院にて当記録を閲覧。遭遇。 壮絶死。 1月29日 男性 ネットに小説という形で投稿された当記録を閲覧。焼死。 1月30日 男性 ネットに小説という形で投稿された当記録を閲覧。餓死。 1月31日 女性 ネットに小説という形で投稿された当記録を閲覧。溺死。
女性保安官によると あの後、政府軍の増援により町人たちは制圧されたそうだ… 女性保安官は一つ前の駅で降りていった それから先は知らない… リュックと、キャリーケースを引きずって車内を見回す あの人…私に次の駅に着くまでに貨物室からバイクを盗み出して逃げ切りなさいって…何から逃げるのかしら… でも、さっきから軍警たちの音で騒がしい だから私は女性保安官の指示通りに、貨物室に向かった 複数台のバイクが並列していた 次世代型という雰囲気で、詳しいスペックは知らないから、好みで決めた 車体に荷物を括り付けて、エンジンを吹かせた っうるさい音っ! 鼓膜が心配になるわ コンテナの中だから余計に響くんだもん 嫌になるわ シャッター式の扉までバイクを動かして、汽車から垂直にバイクを走らせた 今更、後戻りなんて考えてないわ このまま、突っ切るっ! 荒れた景色だった サボテンが数本あるだけの寂しい場所 初めての乗り物を走らせるには、ちょうど良い… 私はこれから生きて行くのだわ 心地良い風が、身体を撫でていく… 〜その頃〜 一通の電報が大統領に伝わった 何者かが貨物庫からバイクを盗み出し、現在逃走しています 開拓派閥の過激派と見受けられます なので、こちらで人員を切り分けても宜しいでしょうか… 大統領は不安定に繋がった統治図を眺めながら… 構わないが、あの鉱脈を手に入れることが最重要事項である事を忘れずにな… バイクというのは、汽車よりも維持できるエネルギーに制限がある そう遠くには行けないだろう 見つけ次第、始末しろ…やり方は任せる 大統領は受話器を切る あの鉱脈は今後、我が国の切り札となるだろう 鉱物…化石燃料…どれも、今後の財政に響く 金に目が眩んだ輩も、今は不当滞在とされる身分…殺しても誰も不安はない 〜しばらくすると〜 折り返しの電報が大統領に伝わった 町人名簿と照らし当てたところ、本日処刑される娘がいません 我々が駆けつける前にいた保安官、そして我々と同じ軍警の男のニ名に事情徴収をしたところ、二名が現地に着くより前に娘は脱獄していたそうです ですが、町人たちは食い違う証言をしており、保安官と軍警と乱闘になりその隙にもう一人の保安官が娘を逃がせたと言うのです それから… 私はこの国の大統領だ 田舎者の言うことより、共に秩序を守る君たちの言うことを信じよう 大体、不法滞在者たちで『信頼に値しない』 彼らの言うことは虚言だ。射殺するように …わ、わかりました それと、盗まれたバイクの件ですが、登録されている開拓派閥の中にはいません 新手のメンバーと考えるのが妥当だと思います 身体的特徴として 女であること。 年齢は若年層10〜20代。 胸辺りまでの長髪… もういい、理解した 身体的特徴なんてどうでもいい そんなものは報告書にでも吐き出せ だが、若い女か… ここ最近の開拓派閥は大人しいと聞くが… そう言えば、処刑から逃げた娘がいたな その娘がバイクの運転手なんじゃないのか 町からの距離からして無理な話じゃない どんなに小さな芽でも摘んでおかなければな… 折り返しの電報が軍警に伝わった これより、大統領命令により 我々の3分の2は、開拓派閥によるものと見られるバイク盗難者を追う…以上 それからと言うものの、軍警たちは命令通りバイク盗難者の元に向かって行った こっちは片付いたな… ですね…あの娘…ちゃんと逃がせたのでしょうか って先輩、なに見習いの子と二人で飯食ってたんですか オレが馬で来るまで、全然状況よくなってないじゃないですか 『政府直属』って言ってもね、こんなへんぴな場所じゃ効力がちゃんとある確証なんて無いんですからね いたいた、おにーちゃん!アタシ、あの子を駅まで送ってきたよ! 見習いの女保安官は二人の後ろから、やって来た 後はあの子の運と生きていく本能だけが頼りだわ…短い間だったけど、頑張ってね… 三人はこの地を後にした 〜バイクの振動が全身を駆け巡る〜 何度だって想う… 私はこれから生きていくのだわ もう何にも縛られない。自由なのよっ! でも私、なーんか追われてない? 車内にいた軍警と同じ服装の人たちが、私に目掛けてやって来る こんな所で、捕まるものですかっ 想いに反して、私の意思を打ち砕こうと弾丸が向かって来る 被弾は免れているが、燃料に限界を感じてきた このままじゃ、もたないっ 町で処刑されるのが、本来の運命って所なのよね… でも、まだよ…まだ抗う力は残っている 街の入り口が見えて来た… あの街で状態を整えて、私自身の運命に抗ってみせるわ もう、私の求刑はお終い 今度は貴方たちの求刑の番だわ 沈む太陽に向けて、エンジンを吹かせた (完)
ねぇ? 今、君が感じているこの世界は夢かな? それとも現実? ねぇ? 君は何を持って夢だって認知してる? 君は何を持って現実って認知してる? まぁ、いいや ボクに関係ない話だしね 一応言っておくけど、今の君の脳内は急激な覚醒状態だよ 夢だからか…現実だからか…ご想像にお任せするよ そろそろ通信が途切れる頃だね… さぁ、君自身の無意識領域を目一杯に感じてね そう言うと、ボクと名乗る声は消え去り、 自身を囲うようにあった暗闇は消え晴れた (完)
ウエスタンの砂嵐が断頭台をからかう 親殺しの罪を頸に飾って見せつける 頸にめり込んだ縄の実感に浸った 観つめる住人 愉しむ傍観者のこと 暴徒の肴はアタシの酒を不味くする このまま見てるだけ? 冗談じゃない 俺が見過ごす訳ないだろう? それに、ヤツの眼はまだ諦めていない これから、助けられる事を知っているかのようにな 私はこれから死ぬのだわ 頸を包んだ縄がさらにめり込むのだわ 親殺しなんて聞こえが悪いわ 親が何をしていたかなんて、当然知っているはずよ だって皆んな共犯者なんですもの 口封じの為に私を殺すのだわ ウエスタンの砂嵐が地中を探る 隣町からやって来た男の保安官と、見習いの女保安官… 観つめる住人 潜む容疑者のこと 数年前まで、ここはサボテンの花まで逃げるほどの砂漠地帯…だったのよね それがある日、旅人の偶然か必然か、鉱物を掘り当てた… 鉱物の原価を知った住人たちは、その旅人を殺してしまった… その殺害の筆頭が断頭台にいる娘の両親よね。 おまけに、ちゃーんと鉱脈を聞き出しているんですもの、金に目が眩んだんだわ。 アタシ、ピストルで撃ち合うのを颯爽と止める保安官に憧れてここにいるのに、なんだか地味ね 冗談じゃない 少なくとも、旅人が亡くなっているんだ この町の保安官もきっとコイツらだ …俺たちが、ここに来るのはコイツらにとってイレギュラーなはずだ 住人たちの料理は即席だからな 基本的に処刑となると、コミュニティから悪を祓うという意味から華やかな料理が振る舞われるがそれが無い… なに、説明臭いって? 周囲を観察して的確にこなす…それが保安官というものだ よく覚えておけ 私はこれから死ぬのだわ あの二人の保安官だって、私を見てるだけじゃない 『即席の料理』ってことに気付かないのかしら それはそうと、あれは誰かしら 遠いけど、私には見える 走り向かってくる乗馬した保安官の男が しばらく、時間が過ぎた… その娘をどうする気だ 処刑場に着いた保安官の質問は馬を宥めながら続く 死刑人…お前に聴いている 法制度が整えられた今、なぜ断頭台を使っている? 既にお前たちの開拓援助金が断ち切られているよな なぜ引き上げない この地は我々の手には収まらないのだ これ以上は不法滞在とする 観つめる住人… って、あの保安官誰なんです?アタシ聞いてませんけど 俺が呼んだまでのこと…協力者だ…まぁ見てな 馬から離れ、保安官バッチを住人たちに見せつけながら… 時代錯誤も良いところだ その娘の求刑はこちらで『法的』に裁く 罪を包み隠さず吐かせてな… 住人たちの眼が曇る このまま娘を連れて行かれ 鉱脈の事をこの保安官に話せば 政府に土地ごと盗られる… メシを食っている二人の保安官だけなら内密に殺せていたが この男は、そう上手く行かない… 何せ、政府直属の保安官バッチを手にギラつかせているからだ 自前のナプキンで口を拭き終わった保安官は、見習い保安官の女に囁いた なぁ?言っただろう。 あの、『政府直属の保安官バッチ』をみせりゃ古臭い価値観のコイツらも大人しくなるんだよ ナプキンをポケットに詰め席から立ち上がる つられるように女も席から離れた 男は周囲に響き渡るように こんな豪華な料理が振る舞われたんだ… さぞかし大罪をためこんだのでしょう ここは一つ、この政府直属の保安官様にその娘をあげ渡してはいかがです? 冗談じゃない 立ち上がった二人の保安官に町人のひとりが走りながら、ツルハシを大鎌のように振り回した が、ギラつかせた保安官バッチをしまい込みピストルで振り回す町人の太ももに弾を撃ち込んだ オレは『政府直属』だ。発砲に許可書は要らない… ツルハシを振り回したひとりの町人につられて、住人たちが保安官たちを襲う 私はこれから死ぬのだわ いくら保安官でも、この町人の数には敵わないわ 町人には生活が掛かっているんですもの 正義感で存在意義を保つ、保安官なんて頼れないわ 『それが、頼れるのよ』 だ…誰っ! 背後を取られた…さっきまで向こうに居たのに この女性保安官は何者…? えへへ。アタシよ、アタシ なーんか途中からみんな、アンタのことそっちのけで話が進んでるんだけど、本来の目的はアンタの救出だからね うーんよいしょ!はい…もう大丈夫よ。 縄がほどけないなら、ナイフで切っちゃえば良いのよ! その娘をどうする気だ 名前のいらないこの町の一人が叫ぶ どうするも何も、アンタたちの手が届かないところまでよ! それから、女性保安官は私の手を優しく取り私の体調を気にしながら一度自宅に戻って、荷造りをするように言われた 『もうニ度とこの町に戻らなくて良いように迷ったら全部持っていきなさい』 この言葉が汽車に乗ったも木霊していた (完)
理不尽な世の中で生きる為の羅針盤は希望を 持たず抱かず無情に暮らすそうする事で悪事 ばかり現実可具現可する糞みたい不条理から 来世は逃れる事が出来るかも知れないつまり 其れ迄は何も期待希望はえっ何其れ食べたら 旨いの位に考えたら良いんじゃない知らんが 飽くまで此は私だけの思考問題自分って何者 現世で此処迄裏切り見当いの嫉妬や嫌がらせ 受ける位要らない存在ならば何時でも消えて 天国へ昇る覚悟は既に有る荷物はスマホだけ その前に美味しい物を感謝の念で食べ思いを 残さない様親切に生きる有る来世の為の偽善 かもけど遣らない善より遣る偽善つまり行動 する事濾そ羅針盤に為る未來そうこの前有る タクシーの女性が素敵な言葉を言った一番に 自分自身が本当の自分を知らないと言い私も その通りと言い笑い合えた丁度裏切りに遭い 何故か傷付く事は無いけど期待指せての頂点 落下にブチ切れ全開だった気持ちが揺らいで 戒めと為りもう絶対現世に希望は持たないと 有る種の諦める平和を握り締めた一瞬の誓い
極悪。 その言葉が自分にはしっくり来る。 別にヤクザに所属しているわけではない。 戦争の武器商人な訳でもない。 ただの一般人、ただの人間。 だが極悪だ。 いや、悪という概念すら覆しているかもしれない。 害悪、諸悪、必要悪。 どのカテゴリーにも属しているようで属していない。 形容するなら極悪。 何かを極めているわけでもないのに。 関連する事象全てに作用して何かを起こしてしまう。 なにもしていないのに。 誰かが言う。 「お前迷惑だよ。」 極悪で迷惑。 実に不名誉な称号。 今日も暇潰しで人に迷惑をかける。
ああ、不安だ。 入院するのが不安だ。 生活習慣病にかかるのが不安だ。 癌になるのが不安だ。 だから、手あたり次第の保険に入った。 これで、何が起きても安心だ。 そう思っていた。 『今の貴方がやっていることは、雨の中、傘を二本差しているようなものです』 AIの言葉に、頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。 身を守る道具は、あればあるほどいいと思っていた。 持ちすぎも良くないなんて価値観に触れたのは初めてだった。 思えば、鎧を二重三重に来ても、重すぎて動けないだけだろう。 「解約します」 臆病な心だと思っていた何かが消えていき、ぼくは保険会社に電話をかけた。
朝起きて台所に向かったら、妹がケーキを食べていた。 三段重ねのケーキスタンドに、小さなケーキを置いている。 「なにこれ?」 「ヌン活」 私は時計を見た。 午前八時。 アフタヌーンとはかけ離れている。 「モーニングティーじゃん」 私が呆れたように言うと、妹はケラケラ笑いながらケーキにフォークを突き刺した。 「多様性多様性」 私はケーキを平らげる妹を見た後、顔を洗うために洗面台へ向かった。 バシャバシャ顔を洗いながら、妹の言葉を思い出す。 「まー、そういうもんかー」 言葉と内容が一致しない事なんて、良くある話だ。 アフタヌーンティーをアフタヌーンに食べることは、もうきっと義務ではない。 私はさっぱりした顔で台所に戻り、午後専用を謳う紅茶を冷蔵庫から取り出した。
友達と好きな人が被った。 とても、言えなかった。 ある日、友達が告白した。 「好きだけど付き合えない」 でもその時「やった。」とは思わなかった。 私にも人の心はある。 振られた友達に共感した。 でも気づいたのは遅かった。 私は失恋していた。 相手は友達のことが好き。だけど相手は噂が立つといけないから振った。 心が、凶器で刺された。 深い傷が残った。 一生、残るだろう。 深い深い、涙の傷が。
鏡の前で手を洗おうと手袋を外した時、黒手袋から出て来た、真っ白で筋張った手が、白骨死体みたいで綺麗だと思った。初めて自分のことを綺麗だと思えた。
「むかついた相手って、殺せたらいいのに。」 私は、意外と人にむかつきやすかった。 あるとき、空き教室にそいつを呼び出し、ナイフで襲った。 両手には手袋、口にはマスク。完璧。 グサッと鈍い音がなった。 急所を刺したみたい。いい気味。 そいつが苦しんでる間、死体と血をどうしようか考えた。 でも、相手は生きてた。 私を、刺した。 私は、何の対策もしていなかった。 相手は、私が死ぬ前、「あんたが予告してたじゃんw」… してない。 地獄で、思い出した。 ....私は、二重人格だった。
ひよりは、ごく普通のJKらいふを楽しんでいた。 昼休み、先生が焦った様子でやってきた。 「ひよりさん、あなたのお母さんが大変らしい!」 ひよりは、頭が真っ白になった。 なぜなら、ひよりのお母さんは、もともと体が弱く、もう五年も生きられないかもと言われてきたからだ。 ひよりは、先生と病院へ向かった。 病室に入るなり、 「お母さんっ!」 ひよりは叫んだ。 お母さんは、意識がもうろうとしていて、お医者さんまでもが、「もう無理です」と言いたげな顔をしていた。 機械音が鳴りやんだ。 「ご臨終です。」 お医者さんは、そう告げた。 ひよりは、感情のままにわっと泣き出した。 先生は、ひよりのことを心配した。 お医者さんが出て行ったあと、看護師さんが、「これ、お母様がなくなる前まで書かれていたものです。私がなくなったら娘に渡してくださいと言われておりました。」 と、ひよりにきれいに包まれた手紙を渡した。 『ひよりへ。 まず、ごめんね。 私はもともと体が弱かったので、ひよりを産むのはあきらめなさいと言われた。 でも、どうしても産みたかった。 そうしたらひよりが産まれてきてくれたの。 本当にうれしかったわ。 ひよりは、私がいなくなって悲しいし、寂しいでしょう。 でも、ひよりは、私の分まで強く生きるのよ。 ありがとう、ひより。 お母さんより。』 とてもきれいな字だった。 びんせんは、所々涙で濡れていた。 ひよりは、この手紙を見て、目に涙があふれた。 最後まで読むと、涙が滝のように流れた。 「お母さんっ…。今までありがとう…」 そんなひよりを、先生は優しく見守った。 ひよりは、それから明るく元気な女の子になった。 理由を聞くと、「お母さんの分まで元気に生きたいから!」と笑顔で答えた。 そんなひよりを、お母さんは天国から優しく見守るのであった。
あんまんをたべ終えたキミが本棚に近づく。一冊を手に取り、けれど開かない。本棚の端によりかからせ、本を傾かせて置く。 ―まっすぐ置いてるより、よりかからせてほどよく傾いてるほうが、本がちょっぴり微笑んでいられる気がしない? ―まっすぐのほうがいいんじゃない? とぼく。 ―ななめもいいもんだよ やさしい声でキミがぼくに言う。 ―あんまんたべて冬が来たね ―肉まんでも冬は来るでしょ とぼく。 ―あんまんがいいよ キミはゆずらない。 ―寒いね、桃色の和菓子をたべたら、春が来てくれるけど キミが窓の外を見つめながら言う。ぼくに言っているのか、窓の外に言っているのかわからない。それでも、ぼくは答える。 ―それはまだまだ先の話でしょ ―春なんてあっという間だよ、あっという間に卒業だよ キミが言ったとおり、ぼくたちは、あっという間に卒業してしまった。
古い郵便局の片隅で、配達員のルナは一通の手紙を見つけた。 差出人の名前はなく、宛先は「未来のあなたへ」。 消印は十年前。なぜか配達されずに残っていた。 封を開けるべきか迷ったが、ルナは直感で「これは届けなきゃいけない」と思った。 住所を頼りに向かった先は、少し色あせた二階建ての家。 インターホンを押すと、白髪の女性がゆっくりと出てきた。 「郵便です。十年前のものみたいで…」 女性は手紙を見るなり、息をのんだ。 震える指で封を開けると、そこには丁寧な文字が並んでいた。 『お母さんへ もしこの手紙が届いているなら、僕はもうそばにいないんだと思う。 でも、悲しまないでほしい。 僕は最後まで、お母さんの息子でいられて幸せだった。 どうか、自分を責めないで。 あなたは世界で一番の母親でした。 ありがとう。 大好きだよ。 翔』 読み終えた瞬間、女性の膝が崩れ落ちた。 ルナは慌てて支えたが、女性は涙をこぼしながら微笑んだ。 「この子…翔は、十年前に事故で… でもね、最後に何を思っていたのか、ずっとわからなかったの。 今日、やっと…答えが届いたのね」 ルナは胸が締めつけられた。 十年遅れの手紙が、ようやく母の心を救ったのだ。 女性は手紙を胸に抱きしめ、空を見上げた。 「翔、ありがとう。 あなたの言葉、ちゃんと届いたわよ」 その横顔は、涙で濡れているのに、どこか晴れやかだった。 ルナは静かに頭を下げ、郵便局員としてではなく、一人の人間として思った。 「手紙って、届くべき人に届く瞬間があるんだ」と。 帰り道、冬の風は冷たかったが、心の奥には不思議な温かさが灯っていた
遠くの橋を渡る汽車の足音が聞こえる。何度も聞いた。何度も聞いて、何度も悲しくなる。この町の人たちを都会へと運ぶあの汽車は、都会からは人を連れ戻してはくれない。その事実に思い至ったのは、ぼくに番がまわってくる半年くらい前だった。 ぼくの番が目の前にあらわれたとき、ぼくはそれをあの子にゆずった。あの子は無理に嬉々とすることでちいさな不安をつつみこみ、都会行きのあの汽車に乗った。そして、ぼくが至った結論どおり、帰ってくることはなかった。 あのとき、ぼくは、と、思うことはすくなくない。後悔とは思っていない。たぶん、思っていない。後悔があるとして、けれど、あのときにはもどれない。 ぼくの番は、もう来ない。 あの子は、この町にいない。帰ってくることも、たぶん、ない。 あの子は、この町にいない。 いま、ぼくは、この町にいる。 これが、ぼくとあの子とのすべてだ。
老刑事は車を走らせていた。 事件現場に向かっているのではなく、目的地は田舎の田んぼが広がる中に、ポツンとある建物だ。 田舎にあるといっても、建物は3階建て鉄筋コンクリートで、高い塀に囲まれた姿は要塞のようでもある。 住人はおとなしそうな中年夫婦。辺りの風景に似つかわしくない建物に、建物に似つかわしくない住人。 あの事件の鍵は、その要塞にあると確信した老刑事は、頭にある情報の数々をつぶやきながら、ハンドルを握りしめていた。 「もう終わりだ。待っていろ」。事件を画策した首謀者への怒り、被害者の無念、事件解決に対する少しの興奮が、老刑事に胸の鼓動を高めていた。 ようやく目的地の要塞のような家にたどり着いたが、インターホンを押しても反応はなく、人気が全くない。 仕方なく、広大な家の敷地をぐるりと歩き回って様子をうかがってみたが、結果は同じ。周囲数キロにわたって、他に民家はなく、山と田んぼが囲んでいるという立地だ。 入口前に戻って、ため息交じりに車で待機すること決めた刹那。 「あのう」 老刑事は声の方向へ即座に顔を向けた。 目に飛びこんだのは、眼前に迫った金属製の何かと、家主でもない初老の男性の姿だった。 湿っぽくもあり、鈍い音がする。 「いつの間に」「家主ではない。誰だ」「目がやられた」と、老刑事の頭には言葉にならない思念が一瞬のうちに浮かんだが、頭部への追撃で意識は深く混濁していった。 最後に老刑事が聞いたのは、 「この人、始末してもよかったでし・・・・」
「筋トレが趣味なんだよね」 「かっこいい!」 「素敵!」 男Aが力こぶを作りながら言った。 評価は上々。 「食べるのが趣味なんだよね」 「痩せろ」 「デブが」 男Bが丸い腹をさすりながら言った。 評価は下々。 「趣味の副産物に評価が下されるこんな世の中じゃ……」 男Cがつまらない現実を憂いた。
カモメ27歳男性、雨太郎45歳オジサン 二人は地球を守るウルトラマンである 今はカモメが運転する車に雨太郎を乗せて結婚式場へ向かっている。勿論、人間の姿で。 「たまにいるよな。気の合わないやつって」 「それ、僕に言ってます?」 「逆に、こんだけ人間がいればよぉ、気の合うやつを探す方が難しいよな。逆に」 「逆ですか…」 「それを思うと、結婚する人間ってのは奇跡が起こった運のいいやつか、それじゃなかったら余程気持ちに鈍感なやつだよな」 「そんなもんですかね」 「絶対そうだろ。気の合うヤツがウジャウジャいるなら、俺はとっくに結婚してあたたかい家庭を築いてるっつーの」 「…ウジャウジャって」 車は大きな交差点を右に折れ、山の方に向かっていく。 式場は山の麓にある森の中の教会だ 「あぁ早く飲みてーな」 「雨太郎さん運転しないんだから飲んだらいいじゃないですか」 「バカ。酒こぼしたら背広が汚れんだろぉ。汚れた背広で式に行けるかよ」 「…背広って…」 車はどんどん進む 山はどんどん近づいて大きくなる 「なんでまた、あいつは、こんな山奥で結婚すんのかねぇ。喫茶店でいいじゃねえか。若えやつの考えることは分からんな」 「今、流行らしいですよ。緑豊かな自然の中にある教会で、永遠の誓いをたてる。いいと思いますけどね」 「そういうもんかねぇ」 車は今、山の麓まできている 「…あいつは結婚しても喫茶店のバイト続けんのかなぁ」 「はい、続けるってマスターに言ってましたよ」 「まぁならいいけどよぉ」 「それ、どの立場で言ってんすか?」 「どのって、常連客のお立場だよ」 「いつも珈琲しか頼まないですけどね」 「あそこの珈琲にウィスキーを入れると美味いんだ。こっそりな」 「絶対バレてると思うけど」 車は山の中へ入っていく 山の裏には広い湖がある その水面に虹色の亀裂が走り 時空を裂くように大きく開く ワープゲート出現し侵略者が出てくる。 彼は口から火を噴き森が燃える。 歩く度にマグニチュード6クラスの揺れが起こり、森を雑草のように踏み潰していく。 そう、怪獣が現れたのだ。 騒ぎが起こると直ぐ山の向こうに二人のウルトラマンが現れた。 現れたと同時に両手をクロスさせている。 二人のウルトラマンはかなり怒っている。二本の光線が迸る。
「入社おめでとう。君たちも社会人になったことだし、ここらで生命保険に入っておくのがいいぞ。会社の推奨はこれだ」 とりあえず入った。 「確定拠出年金を始めないか? 毎月の給料からコツコツと積みあげて、将来の年金を増やせるんだ」 とりあえず入った。 「持株会に入らないか? 毎月の給料から少額の株を買って配当をもらうんだ。今なら、一口につき○○%の株プレゼントもあってお得だぞ」 とりあえず入った。 正直、何の目的で、将来どうなるのかよくわかっていない。 しかし、会社が大丈夫と言っているのなら、きっと大丈夫なのだろう。 上司の指示を聞くのが嫌だとフリーランスになった友達たちは、成長が楽しいと喜びながら、仕事がない貯蓄が不安だと嘆いている。 ぼくは、成長なんて感じないけど、仕事や貯蓄への不安もない。 多分会社が何とかしてくれる。 「酒、うま」 どっちが幸せなんだろうか、なんて考えるのも面倒になって、とりあえずお酒を飲んで寝た。
私は思った。 私の周りはみんな機械なんじゃないかと。 私ができないこと、苦手なこと。 それをみんなは普通のことのようにこなす。 私ができない英語。 みんなは当然のようにできる。 できない私がおかしいみたいな感じがする。 私が苦手なあの子。 みんなは笑顔で仲良くしてる。 嫌いな私がおかしいみたいな感じがする。 そんな全てが完璧な人たちに囲まれて生活してる。 きっと私がおかしいんだ。私ができなさすぎるんだ。 みんなすずしい顔してこなすことをもがき苦しんで結局こなせない私がおかしいんだ。 そんな、私からみたら素晴らしく完璧な人が当たり前の世界だ。 私はその当たり前ができなくて、苦手なことも嫌いなこともたくさんある。 ここは、当たり前な人がたくさん集まった社会だ。 そこで私は社会不適合者になる。 社会適合者に憧れながら、当たり前ができるように頑張る毎日。 でも上手くできななくて。泣いて、泣いて、また当たり前からかけ離れてしまう。 どんなに当たり前に取り繕っても、本物の当たり前には勝てなくて。また泣いて。 暗い気持ちを紛らわせるように明るく振る舞ってみて。その副作用で苦しくなったりして。 窓からは柔らかい日光が差し込んで。その光は私の心とは真逆で。 それがなんかおかしくて。ずっと笑っていた。 久しぶりに笑った気がして。 こんなしょうもないことで笑える自分に嫌気がさした。 そんなしょうもない休日が今日で終わってしまって。明日の学校が憂鬱。 寝て起きたらまた今日になってないかななんて考えてたらもう夢の中だった。 そして夢の中でも私は不適合者だった。
俺はAI小説家だ。 俺のアイデアをAIで膨らませ、AIによる高速執筆を実現している。 最先端勝つインテリジェーンスな小説家だ。 さて、そんなインテリジェンスな俺の目に、頭の悪そうな投稿が目に入った。 『感想は読者にとってハードルが高いので、定型文を作った方が良いのでは? 例えば、ぬるぽとか』 アンビリーバボオ。 感想が『ぬるぽ』だけなんて、なんて無味無臭なアンビリーバボオ。 インテリジェーンスは俺は、優しく人間の心を教えてあげた。 『さすがに、ぬるぽだけはつまんないですよ』 返事はすぐに来た。 『ぬるぽは例えです。言いたかったのは、感想のハードルを下げようってことです』 アンビリーバブル。 ルルルルールルル。 こともあろうに言い訳だ。 なんという、ハレンチ。 しかし俺は、AIマスター。 これ以上言い返したりなどしない。 代わりに、AIを起動し、俺のアングリーな感情をぶつけることにした。 『この例え話、分かりにくいですよね?』 返事はすぐに来た。 『普通に意図は伝わります。ぬるぽがユニークすぎて、そこに反応しちゃったのかもしれませんね(笑)』 表出ろや、AI!
朝の電車に乗っていた。座っている俺の目の前に、一人のおっさんが立っていた。ニコニコ笑っている。そのおっさんは、首が銀色で、溝が刻まれていた。あっ、ネジ人間だ。珍しい。俺はそれを見た瞬間、前々からやりたかったことをやった。つまり俺は、そのおっさんをとっ捕まえ、首をぐるぐる回して、外してやったのだ。おっさんの顔はそれでもニコニコ笑っていた。俺は達成感を感じながら、ふと、おっさんのネジ穴を覗いた。そこには、深淵の闇が拡がっていた。おっさんはニコニコ笑っている。俺は、そこで初めて、自分のやったことが恐ろしくなった。
私の目は、変わり者だった。 いつだって曇っていて、目の前の物がぼやけて見えた。 なんだか死んだ魚のような目をしてる、と言われたことは数えきれない。 死魚病だと診断された時には、思わず「そのまんまじゃねーか」と突っ込んだ。 「じゃあ、包帯とるよ」 結局目の手術を受けることになって、三日三晩かけて目を治した。 久々に開いた目は遠慮なしに光を取り込んできて、光量を落としているはずの部屋でさえ眩しく感じた。 「おっと、ごめん。眩しすぎたね」 先生が焦った様子で、さらに部屋を暗くしてくれた。 「大丈夫です」 私は目を閉じ、掌で目を覆いながら、目をゆっくりと開けていく。 指の隙間から入ってくる光の量を増やし、じっくりゆっくり目を慣らしていく。 「どうだい?」 「少し違和感はありますけど見えます」 「それはよかった」 ぼやけていた先生の輪郭が、くっきりはっきりと見えてくる。 つるっとしていた先生の顔に、ぼこぼこと穴が開いているのがわかった。 (これが、授業で習った目とか鼻ってやつかあ。顔に穴が開いてるなんて、気持ち悪) 初めて見た人間の顔は、思いのほか気持ち悪かった。 喜んで私の手を握って来るお父さんお顔もお母さんの顔も、気持ち悪かった。 鏡を見て映っていた私の顔も、当然のように気持ち悪かった。 (これは、慣れが必要だなあ) 友達と悪ふざけで、男の人の裸が映った動画を見た時以来の衝撃だ。 まあ、問題はないだろう。 私も子どもじゃないんだから、いつかそういうものだと割り切れるはずだ。
itaiituninarebatadasikutokiwasugiru kyouwadaijyoubuasuhazetaikanautoiwa rehayahantosisahodohenkawawaruihoda ketouzenoyouniugokumuhoutitainaniga aidaseigidawarawaseyagaruminatemeta tijyananimoiwanaigizentousonisitaru monobakariwatasinoeneruginasijyatou sensaekanawanaiseijikatatimatakukud aranaimoudaremokonojyoutaigaugokuma denanimositeyaranaizoonsirazunamono domosukosiwatemeenojituryokudeugoke
「下手くそ」 ベッドの上で私が笑うと、彼氏はこの世の終わりかってくらい恥ずかしそうにしていた。 三回目でようやく成功。 童貞卒業おめでとう。 私は、彼氏がかぶっている布団を強引に剥がし、小さくなった頭を撫でてあげた。 「大丈夫、大丈夫。これから上手くなるよ」 いったい私は何を慰めているんだろうと思わなくはない。 けど、最初は誰もが下手なもんだし、何回やってるやつでも、下手くそのままで自信満々なんてやつもいる。 こういうのは、愛情を感じられればそれでいい。 最悪、発情し続けていても、私の体に興味があるってことだからそれでいい。 人間というのは、割とシンプルだ。 私はベッドから降りて、コーヒー豆の入った袋を取り出す。 「コーヒー飲む?」 「……飲む」 本当は、もっと丁寧な事後を望むが、初心者に要求するほど鬼畜じゃあない。 それも一緒に覚えていこう。 今は、日常で口をゆすいで、前を向こう。 コーヒーの作られるガシュガシュとした跡が、寝室に響く。 こんな穏やかな夜が迎えられるのは、貴方が私の初めての手料理を、美味しいって褒めてくれたからだ。 不揃いな千切りキャベツに、黒こげのハンバーグ。 特製ソースはゲロの味。 「どうぞ」 「ありがと」 下手くそを笑い話にできることが幸せの秘訣だって、教えてくれたのは貴方だ。
ああ、そうだ、夫を処刑しなきゃ。そう考えながら買い物をしていた時、タッパーウェアを買うために立ち寄った百円ショップで、ギロチン台が売られていた。百円だ。まぁ、これでいいかな。タッパーウェアとそのギロチン台を買って帰った。その夜、夫を処刑した。百円ショップのギロチン台だから少し不安だったけど、きちんと夫は処刑できた。夫は苦しむ間もなく首を切り落とされた。最近の百円ショップは優秀だ。一昔前なら、きっと百円ショップのギロチン台では、うまく首を落とせないで、夫は苦しんだだろう。後片付けをしながら考えた。でも、私が見たかったのは、苦しむ方だったな。
『何が出来ないかよりも、何ができるか』 そう考えるようにしなさい 恐怖心は、論理的に考えてみると 薄っぺらくなる (完)
寒い冬の日 空から雪の結晶が降っている 怪人は空を見ていた 彼はホワイトレンジャーに敗れ ボロボロで動けない体を地面に横たえている 怪人は雪を眺めながら自分の中の世に対する怒りが消えていることに気付きはじめていた とても不思議で心地よい感覚だった 目を閉じてホワイトレンジャーとの戦闘を思い出す 何故だか猛烈に誰かに甘えたくなった ✟ ホワイトレンジャーの基地には沢山のスタッフが業務に当たりホワイトレンジャーに戦闘以外のサポートを行っている その中の情報管理部では戦闘後に関係者各位にメールを送信する 勝敗とその詳細についてだ ホワイトレンジャーの戦闘スーツとマシンに搭載されたカメラにより、戦闘の状況を細かく記録できる ただ記録はトップシークレットにあたるため、情報管理部が文章化しそれをメールしている 情報管理部の記録映像を確認していた一人が部長のデスクへ向う 「部長。これを見てください」 差し出された映像には戦闘の様子が映っている。部長は概ね部下が何を言いたいのか分かっていたが、あえて気付かないふりをした 「これがどうしたの?」 「よく見てください!ここのシーンです」 映像には怪人が倒れている この直前に大きな攻撃を受け吹っ飛んだ後だ 起き上がる様子はない 「この後です」 部下は声を落とし重大さをアピールする 映像にはホワイトレンジャーの五人それぞれの武器が一つになり、そこから強力なエネルギー砲が放たれる 身動きしない倒れたままの怪人に。 「明らかに過剰攻撃です」 強く訴えかける彼の正義心が否応なしに伝わってくる。部長は内心ため息をつく 「うん、確認した。…次の会議で運用部に突出してみるから詳細をまとめて送ってくれるかな」 部下は張り切った顔をして自分のデスクに舞い戻る。良い仕事をしたぞという顔をして。 目の前はPCに顔を突き合わせている部下達が黙々と自分のタスクをクリアしていく。 今から目をそらしたかった 窓を見ると空から雪の結晶が降っている 白い雪の結晶が。
ある夜、極秘の海路を使って、異国の商人たちが俺たちの国の市場を訪れた。異国の商人たちは、大量の塩を買いたいと言った。あれ……確かこいつら……。異国の商人たちは、袋から金貨を取り出した。その金貨には、ナメクジの姿が刻まれていた。ああ、そうだ、こいつらはナメクジの王に統治されている国の連中だ。そいつらが塩を買いに来た。クーデターでも起こすのだろうか。俺は値段を目いっぱい釣り上げて交渉した。異国の商人たちは少しも値切ることなく、ナメクジが刻まれた金貨の山で、大量の塩を買っていった。そしてそれを積んだ船で帰っていった。数週間後、あの連中と塩が乗っていた船が、帰国途中で沈没したというニュースが伝わってきた。あれだけの塩を積んでいたのだから、海の塩分が少し濃くなっただろうという冗談が流れた。そして俺たちはいつものように、我が国の女王であるアリのために、異国へ砂糖を買い付けに出かけた。
しばらく連絡のなかった兄の現状を知ったのは、警察からの電話だった。 人を殺したらしい。 何人も。 ぼくたちはただの家族から一変し、人殺しの家族になった。 「今のお気持ちは?」 「遺族の方に申し訳ないという気持ちはありますか?」 「実の家族が犯罪者になって、何か感じることは?」 連日、家に押し掛けるマスコミ。 マスコミの音と光は、殺人鬼の家がどこなのかを世間に教える、いい目印になってしまった。 マスコミが飽きた後、待っていたのは近所の人と他人からの攻撃だ。 「いつまでいるのかしら?」 「早く引っ越してくれればいいのに」 「やっぱり殺人鬼の家族だからかしらねえ」 両親は、日に日に衰弱していった。 父は目にクマを作って会社に向かい、生活費を持って帰って来る。 母は頬もごっそりコケてやつれ、夏だというのに炬燵に潜って眠っている。 ぼくは、学校に行って帰った。 冷たい視線が刺さって来る。 時には暴言が飛んでくる。 石を投げつけられて、額から血を流すこともあった。 「引っ越し先が決まった。来週の夜、この町を出よう」 父は、母とぼくに言った。 ずっと、引っ越しと転職を考えていたらしい。 「でも、この家がないと、あの子の帰ってくる場所が」 「……もう、住むことはできないよ」 母は最後まで抵抗していたが、父が押し通した。 既に母の通う病院も目星をつけたらしい。 「もう少し時間をくれない?」 ぼくは、引っ越しに賛成しつつ、時期をずらして欲しいと頼んだ。 「なにかあるのか?」 「殺人鬼の弟らしいから、殺人鬼の家族らしいことをやって来る。後、ずっと溜めてくれたお年玉、今全部もらえない?」 溜めに溜めた暴力の証拠を持って弁護士事務所に向かって、被害届というやつを出す手伝いをお願いした。 ぼくを殺人鬼の家族だと、犯罪者の家族と嘲笑った皆様。 おめでとうございます。 今日からあなたたちは、犯罪者の家族ではなく、犯罪者張本人です。 受理されたのは僅かだったけど、一瞬でも恐怖を与えることができたから、ぼくは満足だった。 新天地で、被害届を取り下げて欲しいという訴えが来たと、弁護士から聞いた。 当然断った。 だって、君たちも石を投げるのをやめなかったから。 電話を終えると、自然と涙が出てきた。 そんなぼくを、父が後ろから抱きしめてくれた。 この涙は、嬉し涙か、それとも悲し涙か。 殺人鬼の家族であるぼくには、人間の血なんて流れていないからわからない。
街中に一つの絵が飾られていた。それは、なんでもないリンゴの絵だった。なんでもない絵だから、誰も見ない。皆の足は止まらない。そんなガラクタ、飾っておく価値なんて、どこにある? とうとう疑問に駆られた私は、白いペンキを絵の上半分に塗りたくった。少しずつ絵の具が染みだして、白い雨をつくっていく。 ――やめて…… 刹那、声が聴こえた。切ない、弱々しい声。けれども、それは頭をつんざくような叫びだった。 ――まだ、ダメ…… その声は、周囲の人間から発せられたものではなく、騒音でもない。 ふと思った。絵だ。根拠なんて何一つとして無いけれど。でも、わかった。 絵がしゃべっている。今、白く染まりつつあるこの絵が、この額縁が、私にだけ聴こえるように訴えている。 ――ワタシは約束した。ワタシの親と。これは1000年を生きる代物だと。だから、ワタシは千年後まで生き残らなければ…… カタコトの声だった。覚えたての言葉を使って、必死にしゃべる無垢な赤ん坊そのもの。しかし、結局はそれも、とある絵画のたわごとでしかない。だから、言ってやった。 「千年後まで残るわけがない。この世には、天災だとか、人災だとか、そんなものばかり。とにかく! いつ変なことが起こるかも分からない世の中じゃ、どこぞの誰かが描いた絵の命なんてたかが知れている」 ただでさえ、今のあなたを見ている人なんていないのに。私の口から思わず、ため息がもれていた。 ――でも、あなたは見つけてくれた…… 反射的に、心が身構えた。 違う! でも、その言葉は声にならなかった。ただ宛もなくフラフラとさまよって、消えるタイミングを考えあぐねていた。 ――ワタシは確かに、誰にも見られていないかもしれない。でも、そのことをあなたは見つけてくれた。誰にも見られてない私を、あなたはどうにかしようとしてくれた。今この瞬間にも、きっとワタシの産まれた価値はある…… 絵画の言葉に迷いはなかった。迷っているのは、私の心と手の動きだけだった。 世間の厳しさや後ろ暗さにけおされて、どうにも恥部をさらけだしているような。そんなむき出しのあなたを見ているのが、つらかった。こう言えば、聞こえはいいけれど。本当は、あのなんでもないリンゴの絵に、たった一つの救いを見出だした。こんな自分の感性だとか、心だとか。そういうなにか大切なものまで、一緒に否定されているようで憎かった。かなしかった。ただどうしようもないほどに、やるせなくなっていた。 私は、サラシモノになんかなりたくない! でも、それでも。どうしたって、あなたは…… こちらに向かって、ドシャドシャと好奇の目が群がってくる。だんだんと周囲は、やけに騒がしい。 「知らないからね」 ポツリ、私は叫んだ。絵の声は、もうなんにも聴こえなかった。 バシャっと、ペンキを投げ捨てた。それから、ただ人目をはばかるように歩いた。あとに残ったのは、上半分が白く染まった一つの絵画。そして、今まさに立ち止まるかどうかを悩んでいる、誰かの足音――。
鯉の泳ぐ川に沿って吹いていた風は 花弁が落ちないように、そっと桜の香りを嗅ぐ 隣家の台所の小窓からは女性たちの明るい笑い声が聴こえてくる 風は洗濯物を揺らし、勝手口の扉にそっと触れる 小窓から外を眺めていた猫が鳴く 女性たちは会話をとめて猫の名前を呼ぶ 風はそうっと猫を撫でると 再び川沿いの道をゆっくりと歩きだした
『折り紙で、鶴を作ってみましょう。画面をタップしてね』 「はーい!」 息子がにこにこしながら、タブレットをタップしている。 タップする度、画面に映る紙が折られていき、鶴の形に近づいていく。 「それ、面白い?」 「うん!」 あまりに不気味だったので思わず声をかけたが、息子は何の違和感も感じてないのか元気な返事を返してきた。 「そう、なら、いいんだけど」 「うん!」 私は息子を見ながらソファに座り、サイドテーブルに置いてあった折り紙を手に取り、鶴を折った。 「時代だなあ」 折り紙は、ちゃんと折ったつもりがぐしゃぐしゃになって、角と角がぴったり一致するようになる過程が面白いというのに。 果たしてタップするだけのデジタル折り紙で、何が手に入るというのだろう。 私が折り鶴を完成させて掴んだ時、息子もデジタル折り紙を完成させたらしく、嬉々としてタブレットを見せに来た。