ショートショート作家

診察室で、男がうつむいていた。 「先生、私は……」 「あなた、最近オチばかり考えてるでしょ」 「はい」 「何だっけ? 蛇口から、漢字の水がたくさん流れて、排水溝が詰まった? これの何が面白いの」 「はぁ……」 「これ、思い付いたとき、ニヤけたでしょ」 「ダメですか?」 「重症だね。少し頭を休めなさい」 クリニックを出ると、男は幹線道路沿いを歩き、自宅へ向かった。 すると、サイレンを鳴らしながら、パトカーが通りすぎた。 「そこの車、左に寄せて止まりなさい」 道路脇には、パトランプから落ちた『あと二人』の赤い文字が転がっている。 一瞬、足を止めた。 「……いいじゃん」 男は、ニヤけ顔でポケットからネタ帳を出した。

デブ 超覚醒

 高校生の俺は、小学生のころは体が弱く運動は苦手だったし嫌いだった。そして飯を食うことが大好きだった。  運動嫌いで運動しない理由にはお墨付きもあり、飯ばっかり食べていた俺はいわゆる巨漢になっていた。自他ともに認めるデブである。デブでも特に困ることはなかった。太っていることをネタにして日々みんなの笑いをとることで教室での居場所を確保していたし、別にそれが無理に作ったキャラクターでもなかった。そんなわけで俺は何不自由なくデブライフを謳歌していた。太ったまま大学生になり、社会人になり、少し早死にする。それが俺の人生設計だった。  ところがそんな俺の人生設計を大きく狂わせる出来事が起きた。転校生だ。  高校の転校生とは珍しいがなんと我がクラスにやってきたのだ。とんでもないそれはスラッとした背の高い彼女は肩まで黒い髪を伸ばしていた。ときおりのぞかせる八重歯とメガネがチャームポイントに思った。なにからなにまで俺の好みだった。それだけだったら、俺の人生設計は変わらなかっただろう。ところが彼女が移動教室の際に俺の隣に座っていろいろおしゃべりする間柄になったところで俺はやっぱり彼女と付き合うところまでいきたいと思ってしまった。俺の中で何かがガチャリと切り替わる音がした。  その晩、学校指定の体操着とジャージを着て俺は外に出た。ジョギングを始めたのだ。  小学生のころこそ体が弱かったが、実は以前のような虚弱体質ではなくなっていた。いくらか走れる。  俺はとりあえず近所の河川敷まで走ってみた。まだ余裕だ。  河川敷を川の上流に向かって走り続ける。なんだか気分が良くなってきた。今まで運動は食わず嫌いだったのかもしれない。彼女と話したことが次々に思い出される。前の学校であったこと、父の突然の転勤で話し合いの末に転校することにしたこと。  少しきつくなってきたがまだ行けそうだ。俺はいつもどおり太っていて人の二倍場所をとること。家ではおれの食器だけ特別枠のこと。短距離走が意外と速くて驚かれること。そんな話をする。  きつくなってきた。そこで家に向かって折り返したが完全に見誤っていた。段々と足が回らなくなり、歩くのも辛くて歩くのよりも遅く走っているような姿勢で自宅へと向かう。 「大丈夫よ。家までって考えると辛いから、あそこの橋まで行きましょう」  彼女が応援してくれる。 「そうだね。橋までだ」  橋を通り過ぎて、次の橋は結構遠い。 「あそこのポールまで行きましょう」 「うん、ポールまでならいける」  彼女がいれば百人力だ。だが、だんだんと呼吸が辛くなっていた。小学生のとき以来だ。息を吸おうとしても普段の十分の一くらいしか吸い込めない。気管が腫れて空気の通り道が狭くなっている。深く息がしたいがそれができない。  俺はベンチを見つけるとそこに倒れ込んだ。 「大丈夫?」  彼女が心配する。 「大丈夫、大丈夫」  答えてベンチに腰掛けたが全然大丈夫ではなかった。呼吸は浅くしかできず、息を止めているような気分だ。  彼女が俺の隣りに座った。ただでさえフル稼働している心臓がさらにどぎまぎしていると俺にもたれかかってくる。 「あなたのこと好きよ」  ふと、そんな妄想に囚われるとなにも痩せなくたって彼女と付き合えるんじゃないかと思った。その瞬間彼女は立ち上がり俺に軽蔑の眼差しを向けた。 「最低ね」  俺は息ができなくなった。

ビジネスモデル

平日の午前。 男は整理券をもらうため、小走りでパチンコ屋に向かった。 「今日は勝つ気がする……」 ポケットの中の軍資金を握った。 すると、道路脇でかがんでいる女を見かけた。 「……あの婆さん」 アパートの隣に住む婆さんが、お地蔵様を雑巾で丁寧に拭いていた。 男は足を止めた。 「信じる者は救われるか」 鼻で笑う。 夕方。帰り道、うつむいて舌打ちをした。 「ん……」 隣の婆さんがビニール袋をぶら下げ、地蔵の前に立っている。 そして、気にする素振りもなく、お供え物と小銭を袋に入れた。 「婆さん、こずるいこと考えたな」 「なにがだ」 「いやいや、今、お供え物と小銭、盗ったろ」 婆さんは笑いながら、男を見た。 「この地蔵、私が通販で買って、ここに置いたんだ」 「なんだそれ」 「他にも、何か所も置いてるさ」 辺りが暗くなってきた。 「私はねぇ、ちゃんと考えて置いてるんだ。リピーターを増やすためにね」 そう言うと、地蔵を抱えた。 「それ、どこに持って行くんだ」 婆さんが振り向いた。 「……ここは儲けが少ない」

雨の日の約束

 合コンでみんなが体験した怖い出来事を話すことになった。ラッキー!是非話したいネタがある。 「その日も今日みたいな雨が降っていたんだ。  かるい雨でね、一応傘はさしておこうかなという感じ。俺と地元の友達はちょっと飲みすぎて終電を逃したんだけど、歩けなくもない距離だったから歩いて変えることにしたんだ。  歩いていると小柄で少し小太りのおっさんがいたんだ。俺たちと同じ方向に向かって歩いてたんだけど、途中自販機で飲み物を買ったから追い越したんだよ。  でもすぐに俺たちも信号に捕まっておっさんに追いつかれたんだ。そしたらおっさんがさ  『さっきは三人でしたよね。白い服の女性は帰られたんですか?』  って聞いてくるんだよ。怖いのなんのってその女は俺たちの会話に 『そうだよね〜。そうだよね〜』  って相槌うっていたっていうんだ。  それでね『ちゃんと連れ帰ってくださいよ。約束ですよ』なんておっさんが言うんだよ。俺たちもうビビっちゃってさ  『約束しますよ。連れて帰ります』なんて言っちゃって。  え?普通信号待ちしてるやつに話しかけない?まあ実のところこの話にはオチがあってさ、俺と友達は深夜だからだいぶでかい声で怪談話してたんだ。おっさんはのりが良かったからちょっと怖い話をしてくれたってわけよ。  俺たちも本当にビビってはいなかったさ。途中でいなくなった女を連れて帰るって約束させるのも意味がわかんない?そうだよな。おっさんも即興だったからそこまでは考えてなかったのかもな。  まあこの話を聞いたんだし、みんなも連れて帰るって約束してくれよ」  この話はびっくりするくらい滑った。家へ帰り彼女にその話をした。 「実はノリの良いおじさんだったというのはそこそこ面白いと思うんだけどな」 「そうだよね〜」  だけどみんな白けていた。当然誰も連れて帰るとは約束してくれなかった。 「冗談でもノってくれりゃ良いのにな」 「そうだよね〜」 「実話なんだぜ」 「そうだよね〜」 「なんか他の相槌はうてないのか」 「そうだよね〜」  おっさんとの約束で連れ帰った白い服を着た女は未だに俺の1Kの部屋に住み着いている。最初は恨みもしたが、今となっては通りすがりの俺にこの女を押し付けたおっさんの行動力に驚くばかりだ。

心霊写真 己編

「ぎゃあああああああ」    絶叫が木霊する。   「どうして、弟よ!」 「姉ちゃん!」    急いで姉が駆けつけて、弟が怯えた表情で振り向いた。  弟が持っていたのは、一枚の写真。   「これ、昨日遊園地で撮った写真なんだけど」 「うん」 「真ん中の……俺が写っているはずの場所に!」 「ま、まさか! 心霊写真!?」    恐い物が苦手な姉は、背筋を凍らせる。  しかし、弟の一大事。  姉は、恐る恐る写真を受け取った。   「謎の不細工が写ってる!」 「お前や!」    そして写真に写っているのが、笑顔が下手糞過ぎて化け物みたいな表情をしている弟だと分かると、そのまま弟をしばいた。   「いってー」 「驚かせなや! いつものお前じゃ!」 「えー。俺、いつもはもう少しかっこいいのに」 「鏡の前じゃあ、誰もが少しだけかっこつけんだよ! こっちが本物のお前じゃ!」    姉は、弟に写真を突っ返す。  弟は納得していなさそうだったが、気にせず姉は部屋を出て行った。   「表情教室、通わせた方がいいかな?」    そして、笑顔の練習ができる場所がないか、スマートフォンで調べ始めた。

におい

窓を開け ふうううと 風に流れてくる 草のにおいが好きだ 雨のにおいも好きで どこかの家の カレーのにおいも 魚を焼いたにおいも おふろのにおいも好きだ ほんのときどき 鶏ふんが薫ってきて 顔をしかめることになる でも あれはあれで いいものだ 小学校のときの にわとり小屋を思い出す うさぎ小屋を思い出す 夏休みのあいだ ひまわりの花壇には 誰がお水を あげてくれていたのだろう

鳩のピピン

ピピンは世界中のどこにでもいる一羽の鳩に過ぎなかった。見た目だって、皆が近くの公園や駅で見かけるあの鳩さ。でもピピンが他の鳩と違っていたのは、音楽が好きだってこと。お気に入りの場所は、コンサートホールの屋根の上。演奏者たちは気付いていないが、ピピンも立派な聴衆のうちの一人なんだ。

五本の指

 電車のドアが開くと、熱気の塊が先に乗り込んで来た。押しのけるように私は降りる。電車を待っていた人たちの中に、浴衣を羽織っているのが何人か居る。仰ぐ団扇の風が、私の首元の空気を微かに揺らした。  いつもなら硬く響く改札の雑踏は、今日は揉まれ柔和になった蕎麦の生地のようだった。人から発せられた音が人へ吸い込まれていく。  改札の先に、茶褐色の背中が露わになった二人の女性が、しきりにスマホをいじっている。足元にはそれぞれの子供があるべきところに収まっている本のようにじっとしている。子供の手にはヨーヨーのような物がぶら下がっている。風船なのにどこか硬くつくたびに中で暴れる水の感触が私の右手の、そのまた五本の指の、それぞれの内側に蘇る。  一瞬ゴムの香りがした。

笑う文化

男がテレビをつけた。 画面の中。 若い男がマイクを向けられている。 便利な人。 噛み合わない受け答え。 ワイプのタレントが笑う。 出ない方がいいと思えば、差別。 出たら、笑いの種。 本人が良ければ、許される。 男は静かにテレビを消した。

ねこじゃらし

庭のすみの ねこじゃらし だんだんと その陣地を 拡大していく なんで突然 ねこじゃらし? わたしの疑問を 庭に 入り込んだ猫が からだに種を つけてたんだろうねえ あの人は容易に 答えにたどり着いた ねこじゃらし いつからだったかな ほんとうは 覚えている 思い出したく ないってだけで あの人は いまはもう いないんだよ あの人の名前 ほんとうは 覚えている 思い出したく ないってだけで 思い出さなくて いいんだよ あの人はもう ここにはいないんだ

全国平均 76%

ある日の午後。ようやく男が目を覚ました。 「結局、負けかよ…」 サッカーの国際試合を見るため、仕事を休んだ。 カーテンの隙間からは、濃い光が差し込んでいる。 照らされたテーブルの上には、妻からのメモ。 ──友達とランチに行ってくるね。夕方には帰ります。 昼ごはんはチンして食べてね。 ソファーに深く座り、テレビを点けた。 「今朝の試合の結果です」 アナウンサーが残念そうな顔で伝えている。 「試合には負けましたが、サポーターの行動が世界の方々から称賛されてます」 観客席で青いビニール袋を手に、ゴミを拾う人たち。 「素晴らしい光景ですね。では、また来週お会いしましょう」 男は画面を見ながら、鼻先で笑った。 エンディング。 右端には、 ──本日午後の存在価値 全国平均 76% 次の朝。 洗面所に置いてある体重計に乗った。 ──体重 72キロ 存在価値 95% 液晶パネルには、自分の存在価値が%で表示される。 ──生まれたばかりの赤ちゃんは存在価値100%らしい。 誰かが言ってたな。まぁ、どうでもいい。 「あなた、お弁当できたわよ」 妻は肩までの髪を耳にかけながら、片足をそっと乗せた。 ──体重 48キロ 存在価値 95% 「ねぇ…今晩、ちょっと話があるんだけど」 「なに?」 「帰ってからでいいわ」 夕食後、妻が話を切り出した。 「あのね。友達が、パート募集してるから来ないって誘われたんだけど」 「どうしたいの」 「週に3日くらいだからね。お小遣い程度にはなるかな」 「いんじゃない。でも、無理しないでね」 「ありがと…」 妻はスマホを手に、友達へラインを送った。 窓の向こうが、薄暗くなる。 しばらくのあいだ、部屋には着信音だけが響いていた。 「先に行くね」 妻が弁当をバッグに入れ、もう一つをテーブルに置いた。 「気をつけて…あのバッグ、初めて見た」 男は体重計に乗った。 ──体重 72キロ 存在価値 90% ほんの少し、胸の奥がざわついた。 スーパーのビニール袋を手に、妻が帰ってきた。 「ごめん、遅くなった。今からごはん作るね」 惣菜をパックから皿に移し替え、レンジに入れた。 「あのね、店長が正社員にならないかって」 嬉しそうな横顔。 「そういえば、あなたの工場、外国人の従業員雇ったんでしょ。なんか大変だね」 男は洗面所に行き、体重計に乗った。 ──体重 72キロ 存在価値 70% しばらく、数字を見つめていた。 テレビでは、豪雨被害のニュースが流れている。 「なぁ…ボランティアに行ってみようかな」 男の声に、妻が振り返る。 その顔は、口元だけが笑っていた。

君だけに求める個性

 私の名前は、キラキラしている。  白色の【白】とお姫様の【姫】で、プリンセスだ。   「白どこ行ったんだよ」    と、男子に爆笑されたが、私もそう思うので、怒るに怒れなかった。  代わりに恥ずかしさで涙がこみあげてきて、男子を焦らせてしまった。    一度、お母さんに聞いたことはある。   「ねえ、お母さん。なんで私の名前。白姫なの?」 「いい名前でしょ? あ母さん、貴女が世界一好きだから、世界に一つだけの名前を考えたの」    お母さんは、キラキラと輝く目で言った。   「そ、そうなんだ」 「プリンちゃんも、可愛いと思うでしょ?」 「う、うん。そうだね」    お母さんは本気で私のことを想っていたから、怒るに怒れなかった。    でもね、お母さん。  私、知ってるんだ。  お母さんは自分のことになると、絶対に世界に一つだけなんて考えないことを。    知ってるよ。  結婚指輪、お父さんに給料三か月分をねだったんだってね。  結婚した日、令和八年八月八日をねだったんだってね。    お義母さんは、皆が思う『いいもの』を自分にあげるのに、どうして私には皆と違う『いいもの』をくれようとするの?    笑顔で抱きしめてくれたお母さんに表情を見せたくなくて、私はお母さんの胸に顔を埋めた。

ポイント

日曜日の朝、八時。 幹線道路脇に、二人の警官が立っている。 「先輩。雨降ってきたっすね」 「寒いな」 歩道の植え込みの影に、レーダーを置いた。 「なんか、ずるくないすっか?」 「なにが?」 「レーダー隠してるし」 「見えたら、スピード落とすだろ」 二人は、気づかれないよう、身をかがめた。 「なんかこの瞬間、ワクワクしません?」 「あぁ」 「この前、釣りに行ったときと、同じなんだよなぁ」 「獲物を取る感じだ」 すると、一台の車が速度を超えて走ってきた。 「きたぞ」 「あっ、スピード落とした」 「バラシたか……」 水しぶきを上げ、余裕の顔で通り過ぎた。 「流れもポイントも、いいんだけどなぁ」 「おぉ、きたぞ」 「大物ですよ」 大型トラックが、スピードを上げて近づいてくる。 「あせるなよ。よし、ヒット」 待機していたパトカーが、サイレンを鳴らす。 二人は、停車したトラックに駆け寄り、運転席の窓を叩いた。 「運転手さん、飛ばしてたね」 「はぁ……」 「で、なに急いでたの?」 「鮮度が命なんで……」

ただ聴いてただけ

ただ電車の中で、気になったタイトルの曲を流してだだけ。 その曲は失恋ソングだった。 最終電車の中で人もいない車両で、彼と同棲してる最寄り駅までの道のりで失恋ソングを聴いていた。 それだけなのに、歌詞が痛いほど刺さって私は泣いていた。お酒が入っていたからかもしれないし、呑み友に彼の愚痴を聞いてもらったからかもしれないし、一人しかいない車両に乗っていたからかもしれない。 視界が歪んで、歌詞にのめり込んで泣いていた。 彼が好きで、大好きで、それなのに彼は私と同じ温度で私を愛してくれない。そう思っていた。 でも、それは見返りを求めた愛だったのかもしれない。恋愛をしてる私が私は好きだったのかもしれない。 そう思いながら最寄り駅まで後2駅。 彼を好きなのか、彼を好きな私が好きなのか。 ただ気になったタイトルの曲を再生して聴いていただけ。 君はきっと「そっか、ごめんね」と言うのだろう。止めて欲しい。止めて欲しくない。 私はワガママだ。 ただ気になったタイトルの曲を聴きながら何回も再生しながらの帰り道は、とても綺麗だった。 最後に目に焼き付けて帰ろう。 愛してたフリをして愛されていたフリをしてた。

許す世界

時計の秒針が、ほんの一瞬、止まった気がした つられて、私の心臓も、一瞬 気のせいか いいや、気のせいではない 確かに一瞬、止まったんだ この世界という巨大な装置が あまりの退屈さに、世界があくびでもして 動きを止めてしまったのか まったく、迂闊なヤツめ ここに、私という目撃者がいることも知らずに しかし、これだけ大きなものを動かし続けているのに 世界というものは、少しも眠ることは許されていない しかたない あくびくらい、見逃してやるか 今回だけはな

帰り道

毎度、この繰り返しだ。 別に未練があるわけでもない。未来に期待しているわけでもない。ただ、いざ目の当たりにすると、漠然とした現実が押し寄せてくる。 すなわち、怖いのである。 私はそういうやつだった。 好きな人に告白もできない。もちろん、喋りかける勇気もない。そのせいで学校では孤立していた。 卒業アルバムの寄せ書きは、誰かが開いたのかもわからないほど、綺麗な白色をしていた。 しかし、一人の時間が多いほど、考える時間も増える。 私は考えた。 生きる意味って、なんだろう。 人生を一本の道だと考えるなら、終点、すなわち死ぬことこそが人生の意味なのではないだろうか。 「ぅんしょ。コレでよし……」 麻紐を結ったような、有り合わせのロープを触る。 「まずったな……コレ、耐えられるかな……」 冷や汗がじっとりと背中を濡らしていく。 暗かった景色が、ゆっくりと真っ白になっていく。 私はしばらく、それを見つめていた。 「新しいの、買うか……」 そう呟いて、私は来た道を戻った。

傘の行方

ある日の午後。 認知考古学の教授が、学生の前でマイクを握った。 「みなさん。人が道具を本来の目的以外に使い始めたのは、どの時代か分かりますか?」 「旧石器時代に、石を遊びに使ったのが最初だと思います」 「その通りです」 教授が、背後のスクリーンを指した。 「今日のテーマは、それを踏まえて『道具の目的外使用』について考えたいと思います」 学生は耳を傾け、ノートをとった。 「これを見てください」 黒い傘を取り出し、学生たちに向けた。 「この傘。駅のホームで中年の男性が持つと、どんな行動をとるでしょうか?」 「あっ、ゴルフのスイングをします」 教室に笑いが起こる。 「それから、女の子はバトン、男の子はチャンバラとかに使いますね」 「お年寄りが杖に使うのもそうですか?」 「はい。それも目的外使用です」 教授はうなずきながら、学生を見渡した。 「では、ここまでで何か質問はありますか?」 最前列の学生が手を上げた。 「ちょっと気になってたんですけど、額のガーゼ、どうされたんですか?」 教授は笑いながら、傘を開いた。 「昨日、妻が機嫌悪くてですね……」

浴衣

道端で、おかあさんたちが 世間話でもしてるみたい おかあさんたちの横には ちいさな子どもがいて かわいい浴衣を着ている はやく夏祭りに行きたそうな ちいさな子どもたちは おかあさんたちの後ろで こそこそと 何かしている 子どもたちなりの 社交性なのだなあと 感心してしまったり はやく夏祭りに 行けるといいねえ と思ってみたり 今夜は 焼きそばにしようかなあ と考えてみたり

ある夜の話 其の二

「あの、なぜいつもあなたなんですか?」 「何がですか?」 「僕は、あの娘に介助をお願いしたい」 ベッドの上で、中年の男が笑った。 「僕、両手が不自由じゃないですか?」 「ここ、そういう店ではないですよ」 「横になってるだけです」 「それって、もうセクハラですよ」 「バリアフリーでお願いします」 薄暗い部屋に、デジタル時計が光る。 「まぁ、上に相談しておきます」 「僕からも話していいですか?」 「はい。ご自由に」 男は扉を閉めた。

「未完成の話」

ポエム新落語 誰もが知っている「未完成の話」 世の中は、必ずしも 完成が出来あがりではない 未完成のほうが 完成かもしれない 多くの商品は 失敗から 生みだされてる 完璧主義ほど おちいりやすい 弱点ともいえる 出来あがり 失敗は成功のもと イエーと言って 喜んでも いいでしょうか? こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ

賞金稼ぎ

「編集長、今月の応募作品、やたら多くないですか」 「そうだね。今回は賞金が出るからね」 「それにしても、この数は……どれくらいAIですかね」 「半分くらいは賞金稼ぎかな」 「昨日、審査してくれる作家先生から、断りのメールがきましたよ」 「大丈夫。ちゃんと考えてある」 編集長は頬を緩め、応募作品が入ったUSBメモリーをパソコンに挿した。 「審査には、私たちもAIを使うことにした。総評も書いてもらう」 「それじゃあ、AIの作品をAIが審査するってことですか」 「AI vs AIだ」 ──審査発表の日。 スマホを前に、女の指先が震える。 ごみ箱の周りには丸めた紙が散らかっていた。 「今回は自信ある」 祈るようにメールを開いた。 『最優秀賞おめでとうございます』 ─総評─ 「作品の中で語られる主人公の言葉、私には作れない新鮮さを感じました」

夏のあの雲

追いかけていたね 追いかけていたよ 追いかけ続けていたね 追いかけ続けていたよ 夏のあの雲だね もくもくしたあの雲だよ 追いかけなくていいのかい? 追いかけなくていいんだよ ほんとうにいいのかい? もうオトナになってしまったからねえ

お好み焼きはたこ焼きになりたかった

 たこ焼きになりたかった。  薄力粉として生まれたから、もしかしたらと思った。    でも、駄目だった。   「おら、どけどけ! たこ焼き粉様のお通りだ!」    世界には既に、たこ焼き粉が生まれていた。    薄力粉とたこ焼き粉。  二つ並べられた時、人間はどちらを使ってたこ焼きを作ろうとするだろうか。  言うまでもない。  たこ焼き粉だ。    早々に察し、たこ焼きになるのを諦めたこともあった。  しかし、諦めきれなかった。  食卓に並ぶ、ほかほかのたこ焼き。  タコを包んだ、ほかほかのたこ焼き。  一目見た瞬間、とうに心は奪われていたのだ。    なんとか、たこ焼きになれないかと、必死に調べた。  そして見つけた。  薄力粉で作るたこ焼きのレシピを。  たこ焼きを作るためだけにたこ焼きを買っても、余らせてしまう。  ならば、汎用性のある薄力粉でたこ焼きを作ってしまおうという人間の英知の結晶。    私は、それにかけた。    薄力粉を使ったたこ焼きのレシピを書いた本を、開いて机の上に置いておいた。  人間は、本を覗き込んだ後、ぐうっとお腹を鳴らした。  そして、棚にたたずむ私に視線を向けた。    やった。  と、期待したのもつかの間。  私に向いていた視線は、すぐにたこ焼き粉へと変わった。    違う。  違う。  違う。    その本には、薄力粉って書いてあるんだ。    私の叫びは人間に届かず、人間はたこ焼き粉でたこ焼きを作ってしまった。    羨ましい。  羨ましい。  羨ましい。    踊る鰹節。  輝く青のり。  湯気を立てる、ほかほかのたこ焼き。   「いただきまーす」    人間は、美味しそうにたこ焼きを頬張った。        数日後。  私は人間に掴まれた。   「今日は、お好み焼きにすっか」    私は、たこ焼きに慣れなかった。  私の体が、半球の穴が開いたたこ焼き機ではなく、平べったいフライパンの上へと落とされた。  水と卵とまざったドロドロの体は、たこ焼きと同じ。  しかし、体に埋め込まれていくキャベツが、「お前はたこ焼きじゃねえよ」と現実を突きつけてきた。    たこ焼きに、なりたかったな。    思わず涙がこぼれる。   「やっべ。肉、賞味期限切れてんじゃん」    私の気など知らず、人間は暢気にそんなことを言う。  冷凍庫を開けて、中からシーフードミックスを取り出し、お好み焼きの記事の中へぶち込んでいく。    私の体の中に、海産物が飲み込まれていく。  エビ。  イカ。  アサリ。    ……あ。    そして、タコ。    私の体が、熱によって固まっていく。  冷凍状態から解放されるタコは、私を見て優しく微笑んだ。    ああ、神様。  私は、たこ焼きにはなれなかった。  私の行き着く先は、お好み焼きだ。    でも、タコと一緒にお好み焼きとなれるなら、それはもうたこ焼きと言っても差し支えないだろう。  だって、タコと一緒に焼かれているんだから。   「いっただっきまーす!」    鰹節は踊っていない。  青のりは輝いていない。  あるのは、しなしなのキャベツとシーフード。    しかし、タコと共に湯気を立てるほかほかの私は、最高の幸せを噛みしめていた。   「お、タコ入ってんじゃん! 珍しい!」    どうぞ、召し上がれ。

言いにくいことはペンギンにまかせちゃう

水族館というのはクラゲをみるとこだと思っているからクラゲをみた というかクラゲしかみていない たくさんのクラゲをみていたら 横にいた、ちいさい女の子が ―イルミネーションみたいだねえ と言って (いまそれ、わたしも思ってたとこなんだよなあ) なあんか取られた気がして、すこし悔しくなった (んんん、光る、きのこ? みたいな) 頭のなかでひねり出した感想は われながらセンスのかけらもない すると不意に、床を腹ばいですべってペンギンがあらわれた (ト、ボ、ガ、ン?) と、そのペンギンが ―それ、本音じゃないでしょ 声は、ケンカ別れしたはずの元彼 ペンギンの元彼は、ツバサをパタパタさせ ―仲直りしたいんでしょ と、つぶやく 喉に詰まった、ごめん、の言葉のかわりに 元彼のツバサをそっと握った そういえば、言いにくいことは全部、元彼に預けていたんだっけ

レモン

レモンのかき氷は ブルーハワイのときほどには 舌の色に違いが出ない ような気がする 「よく見てよ」 「み、みてるよ」 「ほんとに?」 「ほんとだよ」 わたしはもう一度 レモンのかき氷を食べ 今度は鼻の頭を ちろっと舐めてやった 「な、なに」 「これならレモンを感じるでしょ」 「てかさ、それ以上に、きみを感じるよ」 コイツはこうやって ときどき不意打ちみたいに わたしをドキリとさせることを言う それも、意識なんてしないで ふふん まったく、こしゃくなヤツ わたしのこと おおいに感じてくれたまえ

フウセンカズラ

となりの高い木にのびている フウセンカズラの手をつたい しずくが落ちていく フウセンカズラのその手は 自分を生かすための 生命線ともいえる フウセンカズラに 朝顔がからまり そのじゃまをする 朝顔も 生きるのに 必死なのだ フウセンカズラには 朝顔のその必死さが 重く鬱陶しい

永遠を生む

玄関の金魚の水槽を捨てようと思った。 長年あるもはや金魚なんて一匹も泳いでいない水槽。 台所で水槽を洗い、粗大ごみとして出した。 洗面器に移しておいた、いつからいたか分からない元・水槽の主を両手で掬う。片手に収まる生き生きしたその子。 頭の方から勢いよく飲み込んだ。 ふと、脳裏に母体から産まれる胎児の姿が思い浮かんだ。 「永遠」をイメージさせるあの子は、やはり永遠に近い存在だったようだ。 今でも私の胃の中で胎動のように泳いでいるのを感じる。 ご飯を食べる。私のためか、あの子のためか分からない。 いつか私の遺灰の中から元気なあの子が産まれる事を祈る。

世界を騙してるが僕は手の内を明かしてしまいがち

 彼女に人の顔をよく見てるね、と言われた。 詐欺師か心理カウンセラーとか向いてるかもしれない、と思う。 弱ってる振りをして同情を誘い金品を巻き上げる。 あるいは弱ってる人を助ける振りをして金品を巻き上げる。 実はそれは僕の知り合いがもうしている。 もうしている、合法的に。 合法なのだからいいだろう、と思っているのかも知れない。 物は言いよう。 子供を救わなかった罰を僕は受けている。 気付かないのだろうか? 僕はシステムに乗っ取りなるべく生産する。 心の声が野菜を作ってください、と言ってくる。 紙に書いた絵空事は活動の資金源。 どっちを取るべきか迷う。 宗教産業。 治すべき人を治さない。 大の大人が寄り合って会議をする。 結局救えない。 暗い話題だ。 田舎では何でもかんでも病気にするな、という慣習というか見方があるらしい。 田吾作の文章は何も生み出さない。 ようは僕もあちらも詐欺師なのだ。

夜(シャワー後)

 筋トレしてシャワー浴びて眠くなる。 筋トレをすると自己肯定感が上がるらしい。 負け犬の僕は何故か身体を鍛える。 イメージしないから筋肉の付きがあまりよくない気がする。 筋トレのあと少し遠いスーパーに自転車で行った。 暑いが帰ってくると少しの充足感がある。 いつも見えるジムには身体を鍛える人達の姿がある。 チョコとバナナを食べる。 身体を鍛え始めたのは守る人が出来たからだ。 デイケアでも気功などをするべきかもしれない。 犬の残暑は秋の気配を待ちまた冬に備える。

枝豆

父親の前にだけ置かれた枝豆に そっと手を伸ばす テレビの野球中継に見入る父親は それに気がついているのか ほんとうに気がついていないのか 「ああ? なんかへってんなあ」 と、すこし芝居がかったように言う その言い方がおもしろくて また、枝豆に手を伸ばす 瓶ビールの近くにあった父親の手が ふっと枝豆の皿に近づいていく そうとは知らないわたしの手が 父親の指先と鉢合わせ 「なんだ、だまって。まったく」 怒られながらも いくらかの枝豆を手につかむ 枝豆とは 父親に何かしらを言われながら あの塩っ気を愉しむものなのだと 大人になって 父親に何も言われず 気ままに食べる枝豆は だからすこし もの足りない

ズっちゃんと僕:駅の向こう

夕暮れはとっくにすぎている。暗闇につつまれる駅前の商店街。数分前の会話を思い出している。 ―駅の、いつも使ってない出口のほうに新しくスーパーができたらしいよ と、僕が言ったんだった。 ―お、開店セール ズっちゃんはうきうきして返してきて、さっそく外に出る支度をはじめた。 そしていま、僕たちは目指している。駅の向こうに新たにオープンしたスーパー「39ベリマッチョ」に。 「ネーミングセンス、すごいね」 「でも、忘れないよね」 「マッチョな店員がいるとか?」 「裸で?」 「さすがにそれはないでしょ」 いつも使っている駅だけど、出口が違うだけで戸惑いが大きい。自分の行動範囲の狭さに、ちょっぴり情けなくなる。ズっちゃんはというと、そんなことないみたい。まあ、ズっちゃんだし、そこはねえ。 赤と黄色を基調とした新しいお店はすぐにわかった。お店に入りきれないくらいのお客さんを想像していたのだけど、そんなことはなかった。すんなり店には入れた。時間も時間だし、それに各駅しか止まらない駅なんだから、それもそうか。 「裸の店員さんいないね。それに細いし」 店に入って、いきなりズっちゃんはそんなことを言う。 「ベリマッチョってそういう意味じゃないんじゃない」 「ふうん。ねえ、今夜は冷奴で一杯やらない?」 「いいねえ。枝豆は?」 「それはもちろんだよ」 「この店、魚安いね」 「焼き魚? フライ?」 「ここんとこ、くだもの食べてないかあ」 「スイカは?」 「丸ごと一個は無理だよ」 「アイスならいいでしょ」 「そうだね。アイスにしよっか」 いつの間にか、買いものかごのなかは僕たちの好きなもので満杯になった。 「たまには違うお店で買いものっていうのもいいね」 駅の向こうというたったそれだけのことなのだけど、いつもと違う空間は僕たちにはえらく新鮮だった。 その日の夜は、僕たちにしては、まあまあのごちそうといったところだった。 「今日行ったスーパーからちょっと行ったところにおいしいパン屋さんあるんだって」 「よし。今度行こう」 「お。なんかやる気」 もしかしたら、初めて行ったあのスーパーに、少しばかりやる気をわけてもらえたのかもしれない。お礼を言わないとな。 ―39ベリマッチョ

彼の名前はボブです

 お花を描いたのねえ、声をかけると、 「ちがいます、ひまわりです」  小さな女の子はきっぱりと、けれどどこか、小学校の先生が低学年の子に、性格そのままのやさしさで言うみたいに教えてくれた。私はずいぶん昔のことを思い出し、小さな先生に向かって、はい、と元気よく返事をした。わかりました、の意味を含んで。  ひまわりを育てたのは小学二年生のとき、クラスの班ごとだったから育てたうちには数えていない。だから私はひまわりを育てたことはこれまでない。朝顔はいくらでも育てたことがあって、でも夏が終わって茶色くなった姿を見るのが心苦しいのは、朝顔にしても、ひまわりにしても同じことだ。  その日も女の子はひまわりを描いていて、私が、ひまわり描いたねえ、と言うと、 「はい、これはひまわりです」  英語の時間の奇妙な英訳のように言って微笑んだ。女の子も奇妙だと自覚していたのかもしれない―  彼の名前はボブです。  ボブは高校生です。  彼は自転車に乗って学校へ行きます。  彼は音楽が好きです。  彼はギターを弾きます。  彼はお花も好きです。  彼は小さな女の子に言います。「これは花です」  小さな女の子はそれに答えます。「いいえ、これはひまわりです」と― 「私たちはコーヒーを飲みますか?それとも紅茶ですか?」  小さな女の子は言って、 「そういうときは、そろそろお茶にしませんか?って言うのよ」  やさしく教えてあげる。 「はい。そろそろお茶にしませんか?」 「うん。そうしよっか」  女の子はひまわりを、私は朝顔を、それぞれ描いていた。その絵はまだ、どちらも描きかけで、けれど白い画用紙のなかできれいに咲き誇っても、決して茶色く枯れることはない。

すてきはちみつ

八の字のダンスを 踊った先には 琥珀色のはちみつ みつばちが 集めた蜜で かがやく食卓 はちみつが 白いパンに しみこむ はちみつの上に 罪深きバターを ぬりたくる バターがはちみつを 閉じ込めて 逃がさない がしっと パンに 歯を沈めていく カリッ じゅ わああ むぐっ んぎゅ ふうう あああ おいしい おいしい

あの黒い飲みもの

黒い色をしたあの飲みものが 自分の飲んでる透明なものより えらくオトナな飲みものに思えた 初めて飲んだときのことは もう忘れてしまったけど たぶん、サイダーの ふぬけた炭酸より 強いものを感じたんじゃないかな ピザを食べながら サンドイッチを食べながら ホットドッグを食べながら ハンバーガーを食べながら その横には、コーラがあった ピザも サンドイッチも ホットドッグも ハンバーガーも 食べなくなって コーラとは、疎遠になった なつかしい、とも 久しぶりに、とも 少しも思うことがないのは わたしのオトナなころが すぎてしまったからかな それは ひどく 悲しい

赤き姫

「私と結婚してください!」    叫んだ瞬間、姫は死んだ。    全身が赤い血と化し、赤い炎が全身を包んで、燃え尽きて死んだ。  不老不死の姫君。  彼女が、相思相愛になると絶命するなんて知らなかった。    墨の影だけが残る地面を見つめながら、私は自分が赤になる方法を考え続けた。

ユグナーの食い扶持

勇者が魔王を倒した後の世界 平和になったせいで勇者が失業。生活保護寸前で「元勇者専門」の便利屋を始める。  俺はユグナー。勇者をやっていた。1年前魔王を倒した。それから世界は平和に。おかげで魔物は激減。モンスターを倒すのを生業にしていた者は今は違う仕事に就職。勇者の俺も生活保護寸前である。 「何か仕事しなければ」 俺は便利屋を始めることにした。元勇者専門だ。  便利を始めることにした俺は客の来ない店番をする 10分後 「まずい」 「客がこない」 1時間後 空が青い  客がいつか来ると信じて  一人声をかけて来る人がいた 「便利屋やってるの?」 人の良さそうなおばあちゃんが声をかけてきた 「いらっしゃいませ!。そうです」 「なんでもやってくれるの?」 「はい」 「だったらお願いしようかね」  よっしゃ依頼がきた。  やっとお客がきた。  町のおばさん。  依頼は飼い猫の捜索願い。 「さて探すとしますかね」  なんたって俺は元勇者。猫探しもただの便利屋とはちがう    魔力探知でにちょちょいのちょい。 おばさんの匂いを頼りに町全体をサーチする。 俺くらいになるとね。広範囲でできるんだ。 見つかった。 猫の首輪もおばさんと一致。 「え!もう見つかったの!?ありがとう」 「こんなに仕事が早いなんて。ほかの人にも広めてくるからね。ありがとね」 いい顧客もゲット。元勇者なら楽勝だ。 便利やも楽だね 今日もユグナーはなんとか一日を食いつなぐ

「少林寺拳法の話」

新落語 誰もが知っている 「少林寺拳法の話」 今宵は、パタパタ このような 言葉があるのは それは、 誰もが知っている はたがなびく 文字を変更 パタパタ から バタバタ それからどうした いそがしい そのあとどうした いやなお客をばったばったとなぎ倒す これはなに 少林寺拳法となる なぎなた説法の術 こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ いろはの咲

BL教

 世間はLGBTQ+の嵐だ。 新しく付き合い始めた彼女も嗜んでいる。 カミングアウトした僕を優しく包んだ彼女は三島由紀夫の魂を月へ運ぶ。 美輪明宏も微笑んでいるだろう。 銀座のシャンソンクラブと長崎の遊郭の交差地点。 今日は原爆投下の日。 違う意味でのシュペルノーヴァはまた世界を縮小拡大し世界を浄化する。

真夏の夜の

暑く、やけに寝苦しい真夜中。 寝たような気になっても、昼間に抱えた心配ごとが夢のなかにごそっとあらわれ、少女は起こされた。 ―きっともう寝られないなあ 少女は、大きく窓を開け放つ。 その姿を見つけ、夜があいさつしてくる。 「こんばんは」 少女に驚きはない。夜が、おはようだなんて言うわけないのだから。 「どうせ、寝られないのだろう」 「ええ」 「どうだい、お話しでもしてやろう」 「そうしてくれると助かるわ」 しかし、寝不足ぎみの少女に対して、夜はやさしくない。 「なんて、この私が言うと思ったかい」 少女は、そんな夜に抗う。 「人間はね、あなたと違って、そんなに偉大なんかじゃないのよ」 少女からのたわごとに、 「ああ、知ってる」 夜はきちんと答える。 「人間はね、ただの人間なのよ」 「いかにも」 「人間でしかないのよ」 「身も蓋もないが、それが真実だ」 「ねえ、明日もまた来てくれないかしら」 「約束はできない」 「でも、来るわよね?」 懇願する少女に、 「おやすみよ」 夏の夜のくせに、冷たくてそっけない。けれど、その冷たさが、いまの少女には心地よい。 ふいに、遠くでニワトリが鳴く。 「では、これにて」 夜は、あっけなく姿を消した。 夜と朝とのはざまに、少女は短く告げる。 「また夜に会いましょうね」 東の空が、ゆっくり白んでいく―