しばらく連絡のなかった兄の現状を知ったのは、警察からの電話だった。 人を殺したらしい。 何人も。 ぼくたちはただの家族から一変し、人殺しの家族になった。 「今のお気持ちは?」 「遺族の方に申し訳ないという気持ちはありますか?」 「実の家族が犯罪者になって、何か感じることは?」 連日、家に押し掛けるマスコミ。 マスコミの音と光は、殺人鬼の家がどこなのかを世間に教える、いい目印になってしまった。 マスコミが飽きた後、待っていたのは近所の人と他人からの攻撃だ。 「いつまでいるのかしら?」 「早く引っ越してくれればいいのに」 「やっぱり殺人鬼の家族だからかしらねえ」 両親は、日に日に衰弱していった。 父は目にクマを作って会社に向かい、生活費を持って帰って来る。 母は頬もごっそりコケてやつれ、夏だというのに炬燵に潜って眠っている。 ぼくは、学校に行って帰った。 冷たい視線が刺さって来る。 時には暴言が飛んでくる。 石を投げつけられて、額から血を流すこともあった。 「引っ越し先が決まった。来週の夜、この町を出よう」 父は、母とぼくに言った。 ずっと、引っ越しと転職を考えていたらしい。 「でも、この家がないと、あの子の帰ってくる場所が」 「……もう、住むことはできないよ」 母は最後まで抵抗していたが、父が押し通した。 既に母の通う病院も目星をつけたらしい。 「もう少し時間をくれない?」 ぼくは、引っ越しに賛成しつつ、時期をずらして欲しいと頼んだ。 「なにかあるのか?」 「殺人鬼の弟らしいから、殺人鬼の家族らしいことをやって来る。後、ずっと溜めてくれたお年玉、今全部もらえない?」 溜めに溜めた暴力の証拠を持って弁護士事務所に向かって、被害届というやつを出す手伝いをお願いした。 ぼくを殺人鬼の家族だと、犯罪者の家族と嘲笑った皆様。 おめでとうございます。 今日からあなたたちは、犯罪者の家族ではなく、犯罪者張本人です。 受理されたのは僅かだったけど、一瞬でも恐怖を与えることができたから、ぼくは満足だった。 新天地で、被害届を取り下げて欲しいという訴えが来たと、弁護士から聞いた。 当然断った。 だって、君たちも石を投げるのをやめなかったから。 電話を終えると、自然と涙が出てきた。 そんなぼくを、父が後ろから抱きしめてくれた。 この涙は、嬉し涙か、それとも悲し涙か。 殺人鬼の家族であるぼくには、人間の血なんて流れていないからわからない。
遠くの橋を渡る汽車の足音が聞こえる。何度も聞いた。何度も聞いて、何度も悲しくなる。この町の人たちを都会へと運ぶあの汽車は、都会からは人を連れ戻してはくれない。その事実に思い至ったのは、ぼくに番がまわってくる半年くらい前だった。 ぼくの番が目の前にあらわれたとき、ぼくはそれをあの子にゆずった。あの子は無理に嬉々とすることでちいさな不安をつつみこみ、都会行きのあの汽車に乗った。そして、ぼくが至った結論どおり、帰ってくることはなかった。 あのとき、ぼくは、と、思うことはすくなくない。後悔とは思っていない。たぶん、思っていない。後悔があるとして、けれど、あのときにはもどれない。 ぼくの番は、もう来ない。 あの子は、この町にいない。帰ってくることも、たぶん、ない。 あの子は、この町にいない。 いま、ぼくは、この町にいる。 これが、ぼくとあの子とのすべてだ。
「飯はまだかの?」 「あら、おじいちゃん。ご飯はさっき食べたでしょ」 なんてやり取りをしていたのが、一年前。 相変わらず、認知症は残ったままだ。 でも、最近は事情が変わった。 「ご飯できましたよ」 「飯ならさっき食ったじゃろ。な、えーちゃん」 AIとの会話と現実の区別がつかなくなった結果、やってないことをやったと言い始めた。 スマホの画面を覗き込めば、AIと食事中のだんらんをした履歴が残っている。 「はあ。次の食事で、倍の量食べさせないと」 やったことを忘れるのも考え物だが、やってないことをやったと言い張られるのも考え物だ。
カモメ27歳男性、雨太郎45歳オジサン 二人は地球を守るウルトラマンである 今はカモメが運転する車に雨太郎を乗せて結婚式場へ向かっている。勿論、人間の姿で。 「たまにいるよな。気の合わないやつって」 「それ、僕に言ってます?」 「逆に、こんだけ人間がいればよぉ、気の合うやつを探す方が難しいよな。逆に」 「逆ですか…」 「それを思うと、結婚する人間ってのは奇跡が起こった運のいいやつか、それじゃなかったら余程気持ちに鈍感なやつだよな」 「そんなもんですかね」 「絶対そうだろ。気の合うヤツがウジャウジャいるなら、俺はとっくに結婚してあたたかい家庭を築いてるっつーの」 「…ウジャウジャって」 車は大きな交差点を右に折れ、山の方に向かっていく。 式場は山の麓にある森の中の教会だ 「あぁ早く飲みてーな」 「雨太郎さん運転しないんだから飲んだらいいじゃないですか」 「バカ。酒こぼしたら背広が汚れんだろぉ。汚れた背広で式に行けるかよ」 「…背広って…」 車はどんどん進む 山はどんどん近づいて大きくなる 「なんでまた、あいつは、こんな山奥で結婚すんのかねぇ。喫茶店でいいじゃねえか。若えやつの考えることは分からんな」 「今、流行らしいですよ。緑豊かな自然の中にある教会で、永遠の誓いをたてる。いいと思いますけどね」 「そういうもんかねぇ」 車は今、山の麓まできている 「…あいつは結婚しても喫茶店のバイト続けんのかなぁ」 「はい、続けるってマスターに言ってましたよ」 「まぁならいいけどよぉ」 「それ、どの立場で言ってんすか?」 「どのって、常連客のお立場だよ」 「いつも珈琲しか頼まないですけどね」 「あそこの珈琲にウィスキーを入れると美味いんだ。こっそりな」 「絶対バレてると思うけど」 車は山の中へ入っていく 山の裏には広い湖がある その水面に虹色の亀裂が走り 時空を裂くように大きく開く ワープゲート出現し侵略者が出てくる。 彼は口から火を噴き森が燃える。 歩く度にマグニチュード6クラスの揺れが起こり、森を雑草のように踏み潰していく。 そう、怪獣が現れたのだ。 騒ぎが起こると直ぐ山の向こうに二人のウルトラマンが現れた。 現れたと同時に両手をクロスさせている。 二人のウルトラマンはかなり怒っている。二本の光線が迸る。
「入社おめでとう。君たちも社会人になったことだし、ここらで生命保険に入っておくのがいいぞ。会社の推奨はこれだ」 とりあえず入った。 「確定拠出年金を始めないか? 毎月の給料からコツコツと積みあげて、将来の年金を増やせるんだ」 とりあえず入った。 「持株会に入らないか? 毎月の給料から少額の株を買って配当をもらうんだ。今なら、一口につき○○%の株プレゼントもあってお得だぞ」 とりあえず入った。 正直、何の目的で、将来どうなるのかよくわかっていない。 しかし、会社が大丈夫と言っているのなら、きっと大丈夫なのだろう。 上司の指示を聞くのが嫌だとフリーランスになった友達たちは、成長が楽しいと喜びながら、仕事がない貯蓄が不安だと嘆いている。 ぼくは、成長なんて感じないけど、仕事や貯蓄への不安もない。 多分会社が何とかしてくれる。 「酒、うま」 どっちが幸せなんだろうか、なんて考えるのも面倒になって、とりあえずお酒を飲んで寝た。
あんまんをたべ終えたキミが本棚に近づく。一冊を手に取り、けれど開かない。本棚の端によりかからせ、本を傾かせて置く。 ―まっすぐ置いてるより、よりかからせてほどよく傾いてるほうが、本がちょっぴり微笑んでいられる気がしない? ―まっすぐのほうがいいんじゃない? とぼく。 ―ななめもいいもんだよ やさしい声でキミがぼくに言う。 ―あんまんたべて冬が来たね ―肉まんでも冬は来るでしょ とぼく。 ―あんまんがいいよ キミはゆずらない。 ―寒いね、桃色の和菓子をたべたら、春が来てくれるけど キミが窓の外を見つめながら言う。ぼくに言っているのか、窓の外に言っているのかわからない。それでも、ぼくは答える。 ―それはまだまだ先の話でしょ ―春なんてあっという間だよ、あっという間に卒業だよ キミが言ったとおり、ぼくたちは、あっという間に卒業してしまった。
みたされないの? しないといけないの? あせってるの? せまってくる 何かが ひとまず水をふくむ のどは潤う 解決はしない ちがう そうじゃない うおおおお ミタサレナイときは 本にすがる うおおおお 世界は ビーフシチュウで あふれているみたい でも人が ビーフになった瞬間を シチュウになった瞬間を みたことがない 今夜のお月さまは チョコレートをかけられ にげていく 想像のなかですら 世界というのは ままならない まったくもって たいへん困って ままならなくなって
『何が出来ないかよりも、何ができるか』 そう考えるようにしなさい 恐怖心は、論理的に考えてみると 薄っぺらくなる (完)
私の目は、変わり者だった。 いつだって曇っていて、目の前の物がぼやけて見えた。 なんだか死んだ魚のような目をしてる、と言われたことは数えきれない。 死魚病だと診断された時には、思わず「そのまんまじゃねーか」と突っ込んだ。 「じゃあ、包帯とるよ」 結局目の手術を受けることになって、三日三晩かけて目を治した。 久々に開いた目は遠慮なしに光を取り込んできて、光量を落としているはずの部屋でさえ眩しく感じた。 「おっと、ごめん。眩しすぎたね」 先生が焦った様子で、さらに部屋を暗くしてくれた。 「大丈夫です」 私は目を閉じ、掌で目を覆いながら、目をゆっくりと開けていく。 指の隙間から入ってくる光の量を増やし、じっくりゆっくり目を慣らしていく。 「どうだい?」 「少し違和感はありますけど見えます」 「それはよかった」 ぼやけていた先生の輪郭が、くっきりはっきりと見えてくる。 つるっとしていた先生の顔に、ぼこぼこと穴が開いているのがわかった。 (これが、授業で習った目とか鼻ってやつかあ。顔に穴が開いてるなんて、気持ち悪) 初めて見た人間の顔は、思いのほか気持ち悪かった。 喜んで私の手を握って来るお父さんお顔もお母さんの顔も、気持ち悪かった。 鏡を見て映っていた私の顔も、当然のように気持ち悪かった。 (これは、慣れが必要だなあ) 友達と悪ふざけで、男の人の裸が映った動画を見た時以来の衝撃だ。 まあ、問題はないだろう。 私も子どもじゃないんだから、いつかそういうものだと割り切れるはずだ。
鯉の泳ぐ川に沿って吹いていた風は 花弁が落ちないように、そっと桜の香りを嗅ぐ 隣家の台所の小窓からは女性たちの明るい笑い声が聴こえてくる 風は洗濯物を揺らし、勝手口の扉にそっと触れる 小窓から外を眺めていた猫が鳴く 女性たちは会話をとめて猫の名前を呼ぶ 風はそうっと猫を撫でると 再び川沿いの道をゆっくりと歩きだした
私の中で「愛に満ちた表情」という言葉は祖父のものだった。 記憶の中の祖父はいつも優しく穏やかな笑顔を浮かべていた。孫や娘たちが訪れていることを知ると、ぱっと笑って「ゆっくりしていってください」と言ってくれた。帰ることを伝えると「もう帰るんか」「もう少しゆっくりしていき」「晩御飯食べていき」「泊まっていき」と少しでも滞在時間を伸ばそうと提案してくれた。 家から車を出す時は、必ず道路の反対側にある桜の木の下に立ち、誘導してくれた。足が悪くなっても、杖をつきながら手を振ってくれた。 祖父の日記帳には、力の入らなくなった手で書かれた「うれしかった」「安心した」「楽しみ」という言葉で溢れていた。口数の少なかった祖父の心の裡を初めて覗いた気がした。 祖父が勝手口からひょっと顔を出し「おっ」と驚き、次の瞬間には愛に満ちた表情で笑ってくれる日がもうこない現実に、まだ追いつくことができない。
ーー第二話ーー 「おはよっ!早乙女、林!」 教室に入ると、早速レンくんがあいさつしてくれた。 レンくんは、結構チャラい。 でも、やるときはやる、かっこいい男の子。 「お、おはよ~」と、ぎこちなく返した。 緊張して心臓が飛び出そう。 最近分かったんだけど、多分じゅえるはレンくんのことが好き。 私とレンくんが話してるのを、遠くから睨んでるから。 先生が入ってきた。 もう、朝の始業式で担任の先生は決まった。 私たちは、男の先生、森林先生、通称もりもり先生だ。若くはない。 もりもり先生は、席替えが何よりも好きと評判の先生だった。 席替えで、じゅえるが取り巻きの一人に、「じゅえる、レンくんの隣がいいなあ」 って言ってる声が聞こえた。 もし、じゅえるとレンくんが、隣になったら。 じゅえる、積極的だし、告白とかしちゃうかも。 え、そんなのやだ。レンくんと隣になりたい。 そう思ってた。レンくんは、だいぶ早い時点のくじを引いた。 五×五の席、レンくんは、十番を引いた。 それから、みんな引いていき、次は私、最後はじゅえる。 あまりは、レンくんの隣、五番と、すごく離れた二十一番。 私が五番を引けば、じゅえるのせきは離れる。 お願い、神様。五番を引かせて。 くじをおそるおそるめくった。 五番。 じゅえるに勝った。 好きな人が隣、だが、これからの日常がどうなるのか、そらは知る由もなかった。
「無料ですので、是非一度お話しだけでも」 大学の敷地で声をかけられた。 就職が決まった学生相手に、保険とか投資とか、まあそんな話をしてくれるらしい。 正直、社会人って何だろう人生って何だろうと考え始めていたところだし、ちょっと話を聞いてみることにした。 無料だし。 「……ということなんですよ」 「あの、そろそろ」 昼休みが終わった。 次の授業は五分後だし、私は昼食を食べ損ねた。 「あら、失礼しました。では、続きは明日で」 「え?」 その後一週間。 密着取材でも受けてる気分で、私は話を聞かされる羽目になった。 「お人よしだね。約束なんてブッチしちゃえばいいのに」 「一週間前の私に言って欲しいわ。無料って高くつくね」 話を聞いてもそこまで得はなかった。 結婚がいつで、家を建てるのがいつで、だから保険がいるんだなんて話を聞いても、結婚も家も現実味がなさ過ぎてよくわからなかった。 年金がいくらだから不動産投資で老後収入源を、なんて言われても、三十歳すら想像できないから現実味がなさ過ぎた。 現実味がないと、話は入ってこない。 唯一学んだのは、無料相談は私の時間をガンガン食ってくる、金食い虫ならぬ時間食い虫というだけの話だ。
私の名前は、 早乙女そら。小学五年生。 今回は、そらの学園デイズを紹介しますね。 私のクラスには、女子ボス的な存在の、荒木 じゅえるがいた。 じゅえるは、いつも自分の意見をはっきり言うところがいいとこ。 悪いところは、自慢話をめっちゃしてくるとことか。 じゅえるの家は、お金持ちで、旅行に行った時、高級そうなお土産を買ってきてくれるからか、取り巻きも多い。 新学期、新学年。「今日から新しい気持ちでがんばるぞ!」って思わず声に出すと、 ドンッ。 じゅえるたちに、後ろから押された。 私はその拍子に、派手に転んだ。 その様子を見て、じゅえると取り巻きたちは、くすくす笑った。 「新学期から転ぶなんてwあんたお先真っ暗ねw」 …新学期からこれか。つら。 何とか怒りを抑えながら、クラス替えを見に行った。 すると、私を呼ぶ声が聞こえた。 親友の、林 みどりちゃんだった。 みどりちゃんは、物静かだけど、人のことをよく見ている、いい子だ。 一緒にクラス替えの紙を見て、私とみどりちゃんの名前を探した。 「あ、あった~」 っといったのは、みどりちゃん。 私も、みどりちゃんも、三組! そして、嫌でもじゅえるの名前が目に飛び込んできた。 「そらちゃん、またじゅえるちゃんと同じクラスだねー。」 みどりちゃんが棒読みで言った。 三組のひとをずうっと見てた。 私は叫んだ。 「あっ、レンくんも同じクラスだあ!」 レンくん、桜井レンくんは、私が好きな人。 このことは、みどりちゃんにしか言っていない。 みどりちゃんは、呆れたような、笑いのような顔をしていた。 「そろそろ時間なるよね?教室いこっか。」 みどりちゃんが声をかけてくれた。 私たちは、五年三組の教室に、足を踏み入れた。
皆悩んでる。 大体皆考えてることは一緒な気がする。 AIに質問をする。 自分の頭で考えない。 ツールを使うことが目的になっちゃってる。 お金についても言える。 食べ物についても言える。 社会問題についても言える。 精神体になれればいいのにと逃げる。 体があっての精神、心だと考える。 病院の看護師さんに体が資本よ、と言われたことを思い出した。 おじいちゃんの家の本棚に宮本武蔵が並んでいたのを思い出した。 心技体。 何かの指標が欲しい。 拠り所とも言える。 でも食べられる生活、布団のある生活、お風呂のある生活、エアコンのある生活。 僕の中にいる天使と悪魔と女神。 キリスト教に女神はいないらしい。 しかし仏教は厳密には酒、煙草をしてはいけない。 イスラムもお酒は駄目だ。煙草も推奨されない。 自分本意。 悪人正機。 量子力学は人間には荷が重すぎる。 フィクションの世界。 ノンフィクションが覆す世界。 カンニングの是非を自分自身で問う。 神様が言う。 「名前を書いたから地球に置いてやる。でも0点。」
ある夜、極秘の海路を使って、異国の商人たちが俺たちの国の市場を訪れた。異国の商人たちは、大量の塩を買いたいと言った。あれ……確かこいつら……。異国の商人たちは、袋から金貨を取り出した。その金貨には、ナメクジの姿が刻まれていた。ああ、そうだ、こいつらはナメクジの王に統治されている国の連中だ。そいつらが塩を買いに来た。クーデターでも起こすのだろうか。俺は値段を目いっぱい釣り上げて交渉した。異国の商人たちは少しも値切ることなく、ナメクジが刻まれた金貨の山で、大量の塩を買っていった。そしてそれを積んだ船で帰っていった。数週間後、あの連中と塩が乗っていた船が、帰国途中で沈没したというニュースが伝わってきた。あれだけの塩を積んでいたのだから、海の塩分が少し濃くなっただろうという冗談が流れた。そして俺たちはいつものように、我が国の女王であるアリのために、異国へ砂糖を買い付けに出かけた。
母の運転する車が角を曲がり見えなくなる|| 今日は珍しく母が朝から起きていて 更に珍しく朝食も作ってくれた 「たまにはお母さんらしいことしないとね」と鼻歌交じりで言う 「疲れてるでしょ。いいよ自分で作れるから」 「いいの。いいの。作りたいのよ」 そう言って目玉焼きを焦がしている 朝食を食べて食器を洗っていると 幼馴染でクラスメイトの孝宏からラインが入る。気になるが先に食器洗いを進めた 食器洗いを終わらせ、二階の自分の部屋で歯磨きをしながらスマホをイジる 孝宏からのラインの内容は(インフルになったから今日は学校休む)だった 「…別に一緒に登校してないけど…」 (お大事に)と返した (俺がいなくても泣くなよ) (頑張るよ) 「千知。車で送ってくよ」 「いいよ」 「いいから、いいから(ご機嫌)」 母は一度自分で決めた事は実行しないと気がすまないタイプで、厄介なのは周りを巻き込むタイプでもあることだ しょうがないので先に車に行って後部座席に座る。シートベルトを締める。 母が来るまで趣味の自作の小説作りを続ける 今書いている話は、ミステリーで、平和な港町である日、一人の少女が行方不明になる話を作っている。 小さな町なので住民達が親身になって捜索に協力するのだが、その協力する町民の中で、行方不明前の少女と怪しい関係がある人間が一人また一人と出てくるストーリーだ。追加で少女がインフルになった時、診察した町医者が少女の体に触れるシーンを入れておこう。犯人候補がまた増えた 母が運転席に座る エンジンをかける 「よし、じゃあいくよー」 僕は特に答えなかったが顔を上げ母の顔を後ろから見た。久しぶりにしっかりと。 いつの間にか薄く化粧をしていて、束ねた髪が少し傷んでいる。たが、美人の面影は残っている。 僕が子供の頃は、今も子供だけど、小学生の頃とかは、授業参観で母親たちを見ると「うちの母は若く美人なんだ」と幼心にも思ったりもした。僕に恥ずかしげもなく愛情をたっぷり振り注いでくれる美人な母を小さな僕は好きだった。 今は?…嫌いではない。いや、家族に好きとか嫌いとかあるものなのか。車が動き出す そして母は、歩いて十分で着く学校に車で送ってくれた。 別れ際に「晩御飯も作っておくよ」と言われたが、「コンビニ弁当でいいよ」と断った。あまり幸せになりたくなかった。 母の運転する車が、角を曲がり見えなるまで見送る。母の陽気が少しでも続けば良いと思いながら
朝の電車に乗っていた。座っている俺の目の前に、一人のおっさんが立っていた。ニコニコ笑っている。そのおっさんは、首が銀色で、溝が刻まれていた。あっ、ネジ人間だ。珍しい。俺はそれを見た瞬間、前々からやりたかったことをやった。つまり俺は、そのおっさんをとっ捕まえ、首をぐるぐる回して、外してやったのだ。おっさんの顔はそれでもニコニコ笑っていた。俺は達成感を感じながら、ふと、おっさんのネジ穴を覗いた。そこには、深淵の闇が拡がっていた。おっさんはニコニコ笑っている。俺は、そこで初めて、自分のやったことが恐ろしくなった。
前略 花粉症たいへんツラいです。喉痛いです。鼻水スゴイです。カラダだるいです。何もしたくありません。無理することないくらいつくり置きはありますが、頭では考えてしまうのです。アレはダメでした。カラダがキツイとこでかすりもしないと精神的にもまいってしまいます。ひとまず、こんなです。 草々
街中に一つの絵が飾られていた。それは、なんでもないリンゴの絵だった。なんでもない絵だから、誰も見ない。皆の足は止まらない。そんなガラクタ、飾っておく価値なんて、どこにある? とうとう疑問に駆られた私は、白いペンキを絵の上半分に塗りたくった。少しずつ絵の具が染みだして、白い雨をつくっていく。 ――やめて…… 刹那、声が聴こえた。切ない、弱々しい声。けれども、それは頭をつんざくような叫びだった。 ――まだ、ダメ…… その声は、周囲の人間から発せられたものではなく、騒音でもない。 ふと思った。絵だ。根拠なんて何一つとして無いけれど。でも、わかった。 絵がしゃべっている。今、白く染まりつつあるこの絵が、この額縁が、私にだけ聴こえるように訴えている。 ――ワタシは約束した。ワタシの親と。これは1000年を生きる代物だと。だから、ワタシは千年後まで生き残らなければ…… カタコトの声だった。覚えたての言葉を使って、必死にしゃべる無垢な赤ん坊そのもの。しかし、結局はそれも、とある絵画のたわごとでしかない。だから、言ってやった。 「千年後まで残るわけがない。この世には、天災だとか、人災だとか、そんなものばかり。とにかく! いつ変なことが起こるかも分からない世の中じゃ、どこぞの誰かが描いた絵の命なんてたかが知れている」 ただでさえ、今のあなたを見ている人なんていないのに。私の口から思わず、ため息がもれていた。 ――でも、あなたは見つけてくれた…… 反射的に、心が身構えた。 違う! でも、その言葉は声にならなかった。ただ宛もなくフラフラとさまよって、消えるタイミングを考えあぐねていた。 ――ワタシは確かに、誰にも見られていないかもしれない。でも、そのことをあなたは見つけてくれた。誰にも見られてない私を、あなたはどうにかしようとしてくれた。今この瞬間にも、きっとワタシの産まれた価値はある…… 絵画の言葉に迷いはなかった。迷っているのは、私の心と手の動きだけだった。 世間の厳しさや後ろ暗さにけおされて、どうにも恥部をさらけだしているような。そんなむき出しのあなたを見ているのが、つらかった。こう言えば、聞こえはいいけれど。本当は、あのなんでもないリンゴの絵に、たった一つの救いを見出だした。こんな自分の感性だとか、心だとか。そういうなにか大切なものまで、一緒に否定されているようで憎かった。かなしかった。ただどうしようもないほどに、やるせなくなっていた。 私は、サラシモノになんかなりたくない! でも、それでも。どうしたって、あなたは…… こちらに向かって、ドシャドシャと好奇の目が群がってくる。だんだんと周囲は、やけに騒がしい。 「知らないからね」 ポツリ、私は叫んだ。絵の声は、もうなんにも聴こえなかった。 バシャっと、ペンキを投げ捨てた。それから、ただ人目をはばかるように歩いた。あとに残ったのは、上半分が白く染まった一つの絵画。そして、今まさに立ち止まるかどうかを悩んでいる、誰かの足音――。
夜中、コンビニで雑誌を立ち読みしていたら、自動ドアが開いて、一匹のネコが店内に入ってきた。そのネコはATMの前に立った。それは人間用ATMの隣に設置されている、ネコ用ATMだった。そしてネコは、そのATMで、大量のかつお節を引き出して、コンビニを出ていった。野良ネコに見えたが、相当貯めこんでいるらしい。俺は雑誌を閉じ、ご飯と醤油を買って、店を出て、そのネコの後を尾け始めた。
itaiituninarebatadasikutokiwasugiru kyouwadaijyoubuasuhazetaikanautoiwa rehayahantosisahodohenkawawaruihoda ketouzenoyouniugokumuhoutitainaniga aidaseigidawarawaseyagaruminatemeta tijyananimoiwanaigizentousonisitaru monobakariwatasinoeneruginasijyatou sensaekanawanaiseijikatatimatakukud aranaimoudaremokonojyoutaigaugokuma denanimositeyaranaizoonsirazunamono domosukosiwatemeenojituryokudeugoke
1月1日 男性 餅を喉に詰まらせ窒息死 1月1日 男性 ヒートショックにより死 1月2日 女性 階段でつまづき 転落死 1月3日 男性 喧嘩で椅子で殴られ、脳挫傷を起こし、死。 1月4日 女性2名 男性2名 N廃病院に侵入。院内を探索後、遭遇。壁に頭を打ち付け、お互いの眼球を奪い合う形でえぐりだし。絶命。 1月5日 男性 痴情のもつれから知人の男性と口論になり。道路に突き飛ばされる。轢死。 1月7日 女性 ハイキング中に毒性を持つキノコを誤食。8時間後に病院にて死 1月9日 男性8名 女性3名 N駅西口にて、遭遇。互いの目を奪い合い。指を噛み千切る。失血死。 男性一名が生き残ったが、六時間後、病院から脱走し、N廃病院の手前で野犬が骨を咥えているのを発見。 1月10日 男性 登下校時に車に轢かれ、轢死。 1月11日 男性13名 女性22名 N高等学校の廊下にて、男子生徒7名が遭遇。数分後に教室にて突然男子生徒が窓を割り、破片で他生徒4名を攻撃。 同じ事を遭遇した生徒6名が数分後に他の教室で行ったため。甚大な被害が起きた。 1月15日 男性 夜道を歩いていたところ、遭遇。奇声を上げて走り去る。職員の捜索むなしく、発見されず。 (追記 2月4日。N廃病院のエアコンの中から折り畳まれて発見。) 1月18日 男性 N廃病院に潜入。 当記録を発見。それを書き写し、2日後にネットに小説という形で投稿。 その2時間後に火事がおき。焼死。 1月21日 女性 道路を通行中 突如野犬に襲われ、死亡 野犬は駆除済み (追記 女性はネット上で18日の男性の小説を閲覧していたことが発覚) 1月23日 男性 ネットで小説という形で投稿された当記録帳を閲覧。 2時間後に溺死。 1月24日 女性 ネットに小説という形で投稿された当記録を閲覧。2時間後に失血死。 1月28日 男性3名 N廃病院にて当記録を閲覧。遭遇。 壮絶死。 1月29日 男性 ネットに小説という形で投稿された当記録を閲覧。焼死。 1月30日 男性 ネットに小説という形で投稿された当記録を閲覧。餓死。 1月31日 女性 ネットに小説という形で投稿された当記録を閲覧。溺死。
ああ、そうだ、夫を処刑しなきゃ。そう考えながら買い物をしていた時、タッパーウェアを買うために立ち寄った百円ショップで、ギロチン台が売られていた。百円だ。まぁ、これでいいかな。タッパーウェアとそのギロチン台を買って帰った。その夜、夫を処刑した。百円ショップのギロチン台だから少し不安だったけど、きちんと夫は処刑できた。夫は苦しむ間もなく首を切り落とされた。最近の百円ショップは優秀だ。一昔前なら、きっと百円ショップのギロチン台では、うまく首を落とせないで、夫は苦しんだだろう。後片付けをしながら考えた。でも、私が見たかったのは、苦しむ方だったな。
駅のホームで、ベンチに座って電車を待っていたら、目の前を貨物列車が通り過ぎた。貨物列車はコンテナを運んでいた。そのコンテナには『友だち』と書かれていた。あんなに大量の友だちをどこへ運ぶのだろう。僕はベンチに身を預け、色々な想像をして、ため息をついた。そう、僕には友だちが一人もいないのだ。
私以外の人類が滅びた地球の焼け野原に、空から一冊の本が落ちてきた。それは折り紙の本で、ページをめくると、『人間』の折り方が記されていた。私は焼け野原に落ちている、焼け焦げた紙幣や政府機関紙、避難場所が載った地図などで、人類の復興を試みることにした。
『折り紙で、鶴を作ってみましょう。画面をタップしてね』 「はーい!」 息子がにこにこしながら、タブレットをタップしている。 タップする度、画面に映る紙が折られていき、鶴の形に近づいていく。 「それ、面白い?」 「うん!」 あまりに不気味だったので思わず声をかけたが、息子は何の違和感も感じてないのか元気な返事を返してきた。 「そう、なら、いいんだけど」 「うん!」 私は息子を見ながらソファに座り、サイドテーブルに置いてあった折り紙を手に取り、鶴を折った。 「時代だなあ」 折り紙は、ちゃんと折ったつもりがぐしゃぐしゃになって、角と角がぴったり一致するようになる過程が面白いというのに。 果たしてタップするだけのデジタル折り紙で、何が手に入るというのだろう。 私が折り鶴を完成させて掴んだ時、息子もデジタル折り紙を完成させたらしく、嬉々としてタブレットを見せに来た。
「筋トレが趣味なんだよね」 「かっこいい!」 「素敵!」 男Aが力こぶを作りながら言った。 評価は上々。 「食べるのが趣味なんだよね」 「痩せろ」 「デブが」 男Bが丸い腹をさすりながら言った。 評価は下々。 「趣味の副産物に評価が下されるこんな世の中じゃ……」 男Cがつまらない現実を憂いた。
寒い冬の日 空から雪の結晶が降っている 怪人は空を見ていた 彼はホワイトレンジャーに敗れ ボロボロで動けない体を地面に横たえている 怪人は雪を眺めながら自分の中の世に対する怒りが消えていることに気付きはじめていた とても不思議で心地よい感覚だった 目を閉じてホワイトレンジャーとの戦闘を思い出す 何故だか猛烈に誰かに甘えたくなった ✟ ホワイトレンジャーの基地には沢山のスタッフが業務に当たりホワイトレンジャーに戦闘以外のサポートを行っている その中の情報管理部では戦闘後に関係者各位にメールを送信する 勝敗とその詳細についてだ ホワイトレンジャーの戦闘スーツとマシンに搭載されたカメラにより、戦闘の状況を細かく記録できる ただ記録はトップシークレットにあたるため、情報管理部が文章化しそれをメールしている 情報管理部の記録映像を確認していた一人が部長のデスクへ向う 「部長。これを見てください」 差し出された映像には戦闘の様子が映っている。部長は概ね部下が何を言いたいのか分かっていたが、あえて気付かないふりをした 「これがどうしたの?」 「よく見てください!ここのシーンです」 映像には怪人が倒れている この直前に大きな攻撃を受け吹っ飛んだ後だ 起き上がる様子はない 「この後です」 部下は声を落とし重大さをアピールする 映像にはホワイトレンジャーの五人それぞれの武器が一つになり、そこから強力なエネルギー砲が放たれる 身動きしない倒れたままの怪人に。 「明らかに過剰攻撃です」 強く訴えかける彼の正義心が否応なしに伝わってくる。部長は内心ため息をつく 「うん、確認した。…次の会議で運用部に突出してみるから詳細をまとめて送ってくれるかな」 部下は張り切った顔をして自分のデスクに舞い戻る。良い仕事をしたぞという顔をして。 目の前はPCに顔を突き合わせている部下達が黙々と自分のタスクをクリアしていく。 今から目をそらしたかった 窓を見ると空から雪の結晶が降っている 白い雪の結晶が。
おふとんの重みの安心とあたたかさ 羽毛のおふとんは、わたしにはくすぐったい あれは、ちょっといけない 風の視線は冷たくて わたしだって負けずに冷たい 名前のない気持ちは 名前のない気持ち 無理に名前をつけてあげる必要なんて 風のつぶやきとお月さまのうなずき 季節には次のにおいがいくらかまじって さてさて、何を食べましょう いやいや、ひとまず寝よう 次、起きたら、何かたべよう 起きたとき決めてくれるよ そのときのわたしが ひとまず 寝よう ひとまず ひとまず おふとんを ひとまず
『規則正しい生活』って言うけれど 1日の始まりが朝だなんて誰が決めたの 皆んなが朝型な訳ないよ 夜型があって良いんじゃないかな (完)
一人の女がベビーカーを押しながら歩いている。昼下がりである。女のベビーカーの中には赤ん坊はいない。赤ん坊ではなく一丁の拳銃が入っている。女は公園に着く。そこでは幼子の母親たちが談笑している。女はベビーカーの中の拳銃を取り出し彼女らに近づく。「皆さん幸せですか?」
早く2026年のデカイ天変地異起きないかな 準備は多分満点何時でも逝ける心残りは穴子 刺身と鮟肝に鰭酒もう一度呑位は呑みかった 美味しい食べ物は裏切らない以上一瞬の幸を 与えてくれるから今夜も美味しい物の尽くし さぁ~此れで思い残す物等何も無い何時でも 来いさぁ~殺せとうぬぼれ刑事の長瀬智也を 気取り朝迄呑もうかその内迎え来る天変地異 心待ちに望みながら完
「むかついた相手って、殺せたらいいのに。」 私は、意外と人にむかつきやすかった。 あるとき、空き教室にそいつを呼び出し、ナイフで襲った。 両手には手袋、口にはマスク。完璧。 グサッと鈍い音がなった。 急所を刺したみたい。いい気味。 そいつが苦しんでる間、死体と血をどうしようか考えた。 でも、相手は生きてた。 私を、刺した。 私は、何の対策もしていなかった。 相手は、私が死ぬ前、「あんたが予告してたじゃんw」… してない。 地獄で、思い出した。 ....私は、二重人格だった。
友達と好きな人が被った。 とても、言えなかった。 ある日、友達が告白した。 「好きだけど付き合えない」 でもその時「やった。」とは思わなかった。 私にも人の心はある。 振られた友達に共感した。 でも気づいたのは遅かった。 私は失恋していた。 相手は友達のことが好き。だけど相手は噂が立つといけないから振った。 心が、凶器で刺された。 深い傷が残った。 一生、残るだろう。 深い深い、涙の傷が。
ああ、不安だ。 入院するのが不安だ。 生活習慣病にかかるのが不安だ。 癌になるのが不安だ。 だから、手あたり次第の保険に入った。 これで、何が起きても安心だ。 そう思っていた。 『今の貴方がやっていることは、雨の中、傘を二本差しているようなものです』 AIの言葉に、頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。 身を守る道具は、あればあるほどいいと思っていた。 持ちすぎも良くないなんて価値観に触れたのは初めてだった。 思えば、鎧を二重三重に来ても、重すぎて動けないだけだろう。 「解約します」 臆病な心だと思っていた何かが消えていき、ぼくは保険会社に電話をかけた。
このシャツを屋外に干す時は、晴れた夜を避けてください。シャツにプリントされたウサギが、月を目指して、旅立ってしまいます。そうしたらこのシャツはただの無地のシャツになってしまいます。(このシャツには時々ニンジンジュースを染み込ませてください。)
「二人とも謝罪の仕方がすごく律儀だったから」 「律儀?」 「『昨日更衣室で齋藤さんの悪口を言って本当にごめんなさい。反省の気持ちは今後の態度で示します』って」 「……素晴らしすぎる謝罪文だね。模範解答かよ」 「そんな、当然のことだよ」 「私たちが悪いんだし……」 感心する私に対し、二人は恐縮したように首を横に振る。 正直、驚いた。更衣室の出来事なんて朝が気づいていなかった可能性だってあるのだ。それをわざわざ自分から「悪口を言った」と白状した上で謝るのは確かに相当な勇気がいると思う。 「だから、私はもういいよって言ったの」 「……なるほどね」 昨日の今日で仲良しこよしとはいかないけれど、ただ他者を妬むだけの嫌な奴らではなさそうだ。私の中のトゲトゲした印象もみるみるうちに薄くなっていく。 「朝が許したんなら私から言うことは何もないよ。昨日は怒鳴ってごめんね」 「あ、ありがとう!」 「ありがとう。高橋さんも、齋藤さんも」 二人は改めてペコリと頭を下げた。 「あーっと、そうだ二人とも」 「う、うん、何?」 「改めて名前教えてくれる? 私まだクラス全員の名前を覚えきれてなくて」 私がそう言うと、二人はぱあっと表情を明るくした。 「じゃあ、改めて。私は真田理沙です」 「仁科美咲です! よろしく」 理沙と名乗った方がお淑やかに頭を下げ、美咲と名乗った方が元気よく右手を上げた。 「うん、改めてよろしくね」 こうして、私の高校生活に新たに二人の友達が加わった。 信用を完全に勝ち取るのはこれからの二人次第だが、あの真っ直ぐな謝罪を見た後だ。もう二度とあんな陰口を聞くことはないだろうと私は思った。
次の日。 私の頭の中は昨日勢いでぶち上げた『打倒・齋藤朝』の宣言で占められていた。 (さて……目指す目標としたらまずは夏休み前の期末テストだよなぁ…どう勉強すればあの天才を抜けるのか……) 前途多難すぎて、登校早々「はぁー…」と深い溜息をつきながら机に突っ伏していると 「あ、あの……高橋さん」 頭上から遠慮がちに呼びかけられ、のろのろと顔を上げる。 視界に入った顔を見て軽く目を見開いた。昨日更衣室で朝の愚痴をこぼしていた女子二人組だ。いい印象は正直無い。でもかくいう自分も昨日はほぼ八つ当たりの勢いで怒鳴り散らしてしまったので妙な気まずさが込み上げる。 「な、にか……御用でしょうか?」 警戒混じりに問いかけると、二人は顔を見合わせた。 「昨日、あれから二人で反省したんだ。私たちの言ったこと最低だったって」 「だから高橋さんにもちゃんと謝罪をしなきゃって思って……」 二人は示し合わせたように、深々と頭を下げた。 いやいや、そんな大層なお礼を言われるようなことはしてないんだけど。 「お、おぉ……いや、私こそいきなり怒鳴ってごめ……いや、ちょっと待って」 混乱する頭を振り切り、私は二人を制止した。 「ま、まずさ、私よりも先に謝るべき相手がいるんじゃないの?」 私なんてただのうるさい乱入者だし。一番の被害者は間違いなく朝なんだから。 すると二人は顔を上げた。 「齋藤さんには学校に来て一番に謝ってきたよ」 「もちろん、真っ先に!」 「あ、そうなの?」 判断が早いな。 「えっと、じゃあ……朝に直接確認してきても、いいかな?」 「う、うん!」 半信半疑のまま、私は2人と朝の机へとわらわらと向かった。 3人が一気に押し寄せ周囲の視線が集まる中でも、朝は平然としていた。 「おはよう紬ちゃん。真田さんと、仁科さんも」 あ、この二人ってそんな名字だったのか。まだどっちがどっちか判別不能だけど。 「おはよう朝。ねえ、二人が謝ったって本当?」 「うん」 私が尋ねると朝は顔を上げて短く頷いた。後ろの二人は壊れた玩具みたいにコクコクと激しく首を振っている。顔に罪悪感が滲んでいるあたり、嘘ではなさそうだ。 「え、で……許したの?」 「うん」 「マジか」 私なら陰で人間じゃないだの何だの言われていたらそう簡単には水に流せない。器の広さに感心していると、朝は「だって、」と言葉を続けた。
物心なんて、つくはずのないころ。 私は、プレゼントをもらっていた。 これだけは、なくさないようにしないと。 とおくで、人の声が聞こえる。 口が、不自由になった。 とおくで聞こえる音。 「ピー、ピー、ピー」 機械音かな? あっ、プレゼントを、落としちゃった。 初めてののプレゼントだったのに。 生まれてから。 「ピー、ピー、ピー…」 音が鳴りやんだ。 さようなら。
あれを持ってくるなんてとんでもない。 でも他に置き場がない。 狸が失明してしまう。 虫の足が8本になってしまう。 雨で流れた土が海に流れ込む。 世界中の土が失われていく。 土を作り直す工程を研究しないと。 皆てんやわんや。 気の効いたことが思いつかない。 痩せた土の野菜を食べているからだ。 まずは土作りから。 ゴーレム、プラモデルは沢山廃棄されてそうだ。 何かに使えるかもしれない。
処刑場に行った。友人に会いに行ったのだ。友人はこの間斬首刑に処され、その生首がさらされていたのだ。友人の生首に色々な話をし、そのうち日が暮れてきたので、家に帰った。「またね」と手を振ると、友人も手を振った。帰り道、友人は生首なのだから手を振れるわけがないことに、ふと気づいた。
滴る雨上がり、久しぶりの無人バー こんな日には、隠れ家にもネズミは集まらない ワインを飾る電飾は切れかかっている オーナーはキャビネットの埃を取った 滴る雨上がり、久しぶりの私だけの時間 こんな日には、独り酒も悪くない 今日を生きる気力は切れかかっている オーナーは店の看板を仕舞った 滴る雨上がり、もう朝日が見える こんな日には、ダーツでもしようかな 君は動かない。ただ観ているだけ。 静かに息を引き取る、電飾キャビネット (完)