この世で一番の悪が暇

 極悪。 その言葉が自分にはしっくり来る。 別にヤクザに所属しているわけではない。 戦争の武器商人な訳でもない。 ただの一般人、ただの人間。 だが極悪だ。 いや、悪という概念すら覆しているかもしれない。 害悪、諸悪、必要悪。 どのカテゴリーにも属しているようで属していない。 形容するなら極悪。 何かを極めているわけでもないのに。 関連する事象全てに作用して何かを起こしてしまう。 なにもしていないのに。 誰かが言う。 「お前迷惑だよ。」 極悪で迷惑。 実に不名誉な称号。 今日も暇潰しで人に迷惑をかける。

もうひとつの雨宿り

やられた。 夕方の突然の豪雨。 駅までの道、小さな軒先で雨宿り。 ひとりじゃなく、もうひとり。 と言っても、連れではない。 沈黙を破ったのは彼女のほう。 と言っても、彼女が口を開いたのではない。 手にしている紙袋から漏れる甘いドーナツの香り。 ああ。いい匂いだ。 おそらく、この先の店のものか。 雨の日だけ、おかしな形のをつくるあの店の。   ・ まったく、まいっちゃった。 夕方の突然の豪雨。 駅までの道、小さな軒先で雨宿り。 ひとりじゃなくて、もうひとり。 でも、連れでもなんでもなくて。 沈黙を破ったのは男性のほう。 でも、男性が何かを話しかけてきたのではなくて。 手にしている紙袋から漏れる芳醇な豆の香り。 ふふん。いい香り。 きっと、この先のお店のものかな。 雨の日だけ豆を別口のにするあの店の。   ・ 激しい雨音が、ふたりの距離を密室のように囲い込む。 コーヒーの熱を指先に感じる男。 ドーナツの香りを鼻先で遊ばせている女。 雨が上がるまでのほんの十数分間。 名前も知らないふたりによる、何も起きない、ふたりだけの物語。

救急箱

 夜、お母さんと、ベランダで、夜空を眺めていた。するとお母さんがふいに、「あらっ」と言った。「けがをしているわ」そう言ってお母さんは、自分の部屋に引っ込んだ。そして、すぐにまたベランダに戻ってきた。お母さんは救急箱を持っていた。「誰がけがをしているの?」僕がそう尋ねると、お母さんは「宇宙よ」と答えた。「その救急箱には何が入っているの?」僕がそう尋ねると、お母さんは救急箱の蓋を開けた。救急箱から光が放たれた。目を細めて見ると、救急箱の中には星が詰まっていた。「ちょっと行ってくるわね」そう言ってお母さんはふわりと宙に浮かび、ベランダから夜空へ飛んでいった。僕は眠かったので眠ることにした。翌朝、いつものように台所に行くと、お母さんがいつものように朝食を作っていた。「おはよう」「おはよう」菜箸を握るお母さんの指に、絆創膏が巻かれていた。

雨宿り

おかあさんから傘、持っていきなさいと言われ、 「はあい」 と返事したのに持たずに学校に行った。 その日の帰り、灰色の空を見上げていると、お店のドアが無言で開いた。 (怒られる) 勝手にお店の前で雨宿りしていた。体を小さくし、出てきた女の人の言葉を待った。 「入りなさい」 ふるえてしまった。雨のせいばかりではないと思った。 私は、ただ… 「入りなさいな」 しかたなしに、なかに入った。肩が、自分でも驚くくらい下に落ちていた。 何を言われるのかと、ずっと下を向いていた。 その私の前に何かが出されたみたいだった。 「飲みなさい」 「あ、いえ、あの」 「飲みなさいな」 「コーヒー、飲めなくて」 女の人は静かに笑みを見せた。 その笑みのわけが、私にはわからなくて。でも… 女の人が置いたのはホットミルクだった。やけに甘いの。 飲みながら、私は何も言わず、女の人も、何も―   ・ 「そろそろ休憩いいわよ」 「はあい」 いま、そのお店でアルバイトをしている。 休憩のとき飲むホットミルクは、あのときのまま、何も変わらない。 そして、飲むたび容易に雨が降る。 いつかの雨の日、お店の前で雨宿りしている小さな女の子がいた。 声をかけ、なかに入れてあげた。 あのときの私みたいに。 女の子の前にカップを差し出す。 カップのなかを見ずに、女の子は言う。 「コーヒー、まだ飲めません」 ふふ。やっぱり、あのときみたいだ。 女の子がホットミルクを飲む。やけに甘いホットミルク。 その姿を見ながら想像する。 大きくなったこの子が、このお店で働いている姿を。 きっと、この子もまた、雨の日に―

ストレートな乱反射 (掌編詩小説)

指から離れる時、力をその『おはじき』に委ねる 親元を離れた独り身は、疑いなく相する『おはじき』にぶつかる 独善的と揶揄されつつも、富を築いていく 何不自由の無い功労が、妬みとなるのを感じる 連合を組んで襲いかかって来た 一致団結が絶対の正義かのように… この世界の秩序から離れた独り身は 疑い無く愛する現実にぶつかる 触れる『おはじき』、乱反射の如く (完)

言い訳

 これは僕の言い訳です。酷い夢をいくつもみて目覚めた朝は雨が降っていました。防水スプレーを何重にもかけて、水たまりに気をつけて下を向いて歩いていたのに、自分の靴が跳ねさせた水で靴下まで濡れました。しかも、駅に着く前に忘れ物をしたことに気付き、走って取りに行ったせいで靴下はぐっしょり濡れてしまいました。  バイト先ではぼんやりとした頭とうまく回らない舌で、どうしようもない会話をしました。会話の内容を、お風呂から上がった今でも頭の中で繰り返しています。それと同時に、僕がみんなから煙たがられるシナリオも進行していきます。そのシナリオの中には、さっきまで僕が忘れていた今日の僕の余計な言動が原因のものもあります。  これは全て僕の言い訳です。誰に対しての言い訳でしょう。何に対しての言い訳でしょう。  とりあえず、僕の言い訳は以上です。  明日の朝は早いんです。おやすみなさい。

はみ出し者

「殺してしまえ。」 そう言い放ったのはキュウビ様だった。 「聞こえなかったのか。こいつを殺せ。」 『なぜ、急に殺さなければならないのですか。今日までは友達として仲良く遊んでいたではありませんか。』 「そもそも、おかしかったのだ。我等は大人には見えないはずなのに、こいつには見えている。それで十分か。」 確かにそうだ。大抵の人間は12、3歳にもなれば見えなくなるが、彼はその歳を優に超えている。だが、本当に殺すまでのことなのだろうか? 「納得いかないようだな。では一つ教えてやろう。大人の人間の肉は美味いぞ。ただ、子供の肉は柔らかくて食えたものではないがな。」 『人間を…食べる……?』 「そうだ。人肉食は上が厳しいがな、こいつが人間でないとなれば話は別だ。大人なのに我等が見えているなら、人間でないと言い張れるからな。」 〘ちょっと待て、俺を食べるのか…?そんな、いきなり…〙 「聞こえていたか、情が湧かないうちに殺すぞ」 少し遅れて地面に血が広がる。キュウビ様が思いっきり腕を噛みちぎっていた。 「不味い。子供の肉の味がする。」 『えっ…?』 「お前も食ってみろ。」 言われた通りにそれを口に運ぶ。確かに水っぽくて美味しくない。頑張れば食べられなくはないけど、そこまでして食べたいとも思えない。 『まあ…美味しくはないですね……』 「あんな人間に気を遣う必要はない。」 「チッ…こういうのは2回目だが…非常に困る。結局こういうやつは味でしか子供かどうかを判断できないのだ。だからわざわざこんな所にまできて我等なんぞと話したがる。結局、人間なんてこんなのばっかりなのかもしれんな。」 そう言うと、キュウビ様は深く溜め息を吐いた。

わからない (掌編詩小説)

生き方がわからない 書類の意味がわからない 人の言っている事がわからない わからない事がわからない 理解がわからない 時間がわからない 感覚がわからない わからない、わからない、わからない 生きる事に執着する事がわからない 夜がわからない 昼がわからない 記憶がわからない 救いを求める事がわからない 他人理解がわからない 存在意義がわからない わからない、わからない、わからない そもそもわからない 無意識感がわからない 忙しさがわからない 布団の温かみがわからない 朝日がわからない どうでもいいがわからない 自立がわからない わからない、わからない、わからない (完)

母は優しい

 カップラーメンにお湯を入れる。すると、死んだ母の幽霊が現れて、俺をにらむ。母は健康に気を遣う人だったから、俺がカップラーメンを食べるのを快く思っていないのだ。母の幽霊はじっと俺をにらみ続ける。俺は恐縮する。だが、母の幽霊は、三分経つと、消える。いつもきっかり三分で消える。何だかんだで、母は優しいのだ。

事の顛末

夕飯後の食休みの時のこと。 スマホでアニメをぼーっと見ていると、居間の方から「ガン!」と音が聞こえた。 え、何事よ。向かうと母が脇腹を押さえて「うぐぅ」と呻いていた。 全く分からないどういうことだ。母が一人相撲でドアの取っ手にぶち当たったのか? 「え何、何があったん?」 とりあえず近くにいた妹に聞いてみる。 「……歳だよ」 妹はスンとした顔で明後日の方向を向きながら答えた。なに歳って!?何で歳で脇腹押さえて呻くのよ。 「いやどういうとこよ、教えてよ何があったの!」 「だから歳だって」 「いや分かんないし納得できないよ」 「もぉしつこいな!!何なんずっと聞いてきて!!」 妹がうんざりした様子で叫んだ。え私が悪いのこれ?事の顛末知りたいだけよ? 「いいじゃん教えてよ!気になるから聞いてんだよ!」 「何でそんなに気になるのさ!」 何でってそりゃ、決まってんでしょ。 「笑える内容だったら笑いたいじゃんよ!」 キッチンの方から母の「くだらないよアンタ!」という非難の声が聞こえてきた。 結局しつこく聞いた結果知ることが出来た内容は、妹に手刀で刺された母がその破壊力でドアの取っ手にぶち当たったというものだった。 なんてしょうもな。歳関係無いし。てか証人が問い詰められてキレるってミステリーあるあるじゃん。 世の中のミステリーの真相が全部これくらいしょうもなかったら何かしらの暴動が起きるんだろうな、と思った。

ハリネズミの決意

 そのハリネズミは、ある日、寺に現れた。そのハリネズミは、口に毛抜きをくわえていた。そのハリネズミは、和尚をじっと見つめた。和尚はすべてを悟った。和尚は本堂にハリネズミを招き入れ、仏像の前に座らせると、その針を毛抜きで一本一本抜いていった。ハリネズミはじっと仏像を見つめていた。一方和尚は針を抜きながら、自分の頭に髪の毛がふさふさに生えていた頃のことをぼんやり思い出していた。

ラノベっぽいアイデア設定を友人に送る2

主人公の名前はユグナー、男、町で傭兵をやっている、ヒューマン、幼い頃両親とこの町にやってきたが青年になる頃に不慮の事故により両親と死別、以来王国の治安を守るための傭兵をしている。 能力はヒューマンの特性である汎用的な格闘術、剣術、体術、それに加えて王国特有の半魔神族、獣人族、妖精族の使う黒魔術、能力強化術、白魔術etc…等1通りの訓練で一線級の戦士。

不安なき不自由な世界

「入社おめでとう。君たちも社会人になったことだし、ここらで生命保険に入っておくのがいいぞ。会社の推奨はこれだ」    とりあえず入った。   「確定拠出年金を始めないか? 毎月の給料からコツコツと積みあげて、将来の年金を増やせるんだ」    とりあえず入った。   「持株会に入らないか? 毎月の給料から少額の株を買って配当をもらうんだ。今なら、一口につき○○%の株プレゼントもあってお得だぞ」    とりあえず入った。    正直、何の目的で、将来どうなるのかよくわかっていない。  しかし、会社が大丈夫と言っているのなら、きっと大丈夫なのだろう。    上司の指示を聞くのが嫌だとフリーランスになった友達たちは、成長が楽しいと喜びながら、仕事がない貯蓄が不安だと嘆いている。  ぼくは、成長なんて感じないけど、仕事や貯蓄への不安もない。  多分会社が何とかしてくれる。   「酒、うま」    どっちが幸せなんだろうか、なんて考えるのも面倒になって、とりあえずお酒を飲んで寝た。

夢を見た。1羽の鳥が羽ばたく夢。その鳥は勇敢で高貴だった。高く高く青空をとびかけていった。彼は人工のもの、ルールなど露しらず空高く飛んでいったそんな夢を見た 時計を確認。思ったよりよく寝たようだ、起きる 朝ごはんはハムエッグとブレッド 早々に食べ終え予定を確認する 3限に授業。 めんどくさいなぁと思いつつパジャマから私服に着替える 大学に到着友人に挨拶をする いつも通りの日常

月三万円が、欲しいかー!

 教室に集められた人々は、皆不労所得が欲しい人、  ハチマキを巻いて、気合は十分。  教壇に立つ先生はメガホンを使って、教室にいる人々に声をかけた。   「月三万円が、欲しいかー?」 「おー!」 「寝ながら、欲しいかー?」 「おー!」 「ならば、その方法を教えよう!」 「おおー!」    先生はメガホンを置き、黒板に大きく『3%』と書いた。   「この数字は、高配当な株を持っていれば、自動的に入って来るお金の割合だー!」 「おー!」 「今から私の言うとおりに株を買えば、確実に月三万円が手に入る!」 「おおー!」    会場の熱気は最高潮。  不労所得の夢を見て、全員の心が一つになる。   「まず、予算として千二百万円を用意するー!」 「無理でーす!」        教室に残ったのは、僅か数人。  高い年収を有して千二百万円を自力で溜めた人と、遺産や宝くじやお小遣いで何故か千二百万円を持っていた人。    先生の言うことを最後まで聞いた数人は、無事に月三万円の不労所得を手に入れた。

ラノベっぽい設定を友人に送る

 ユグーノア王国。 半魔神、獣人、妖精族、ヒューマンが住む。 ベラトール大陸と言う大陸にある。 王国を守る天使神界の神。 他大陸からやってくる魔神族。 王国の民を守るために天使神界から降臨してくる神。

殺人鬼の弟

 しばらく連絡のなかった兄の現状を知ったのは、警察からの電話だった。  人を殺したらしい。  何人も。    ぼくたちはただの家族から一変し、人殺しの家族になった。   「今のお気持ちは?」 「遺族の方に申し訳ないという気持ちはありますか?」 「実の家族が犯罪者になって、何か感じることは?」    連日、家に押し掛けるマスコミ。  マスコミの音と光は、殺人鬼の家がどこなのかを世間に教える、いい目印になってしまった。  マスコミが飽きた後、待っていたのは近所の人と他人からの攻撃だ。   「いつまでいるのかしら?」 「早く引っ越してくれればいいのに」 「やっぱり殺人鬼の家族だからかしらねえ」    両親は、日に日に衰弱していった。  父は目にクマを作って会社に向かい、生活費を持って帰って来る。  母は頬もごっそりコケてやつれ、夏だというのに炬燵に潜って眠っている。    ぼくは、学校に行って帰った。    冷たい視線が刺さって来る。  時には暴言が飛んでくる。  石を投げつけられて、額から血を流すこともあった。       「引っ越し先が決まった。来週の夜、この町を出よう」    父は、母とぼくに言った。  ずっと、引っ越しと転職を考えていたらしい。   「でも、この家がないと、あの子の帰ってくる場所が」 「……もう、住むことはできないよ」    母は最後まで抵抗していたが、父が押し通した。  既に母の通う病院も目星をつけたらしい。   「もう少し時間をくれない?」    ぼくは、引っ越しに賛成しつつ、時期をずらして欲しいと頼んだ。   「なにかあるのか?」 「殺人鬼の弟らしいから、殺人鬼の家族らしいことをやって来る。後、ずっと溜めてくれたお年玉、今全部もらえない?」        溜めに溜めた暴力の証拠を持って弁護士事務所に向かって、被害届というやつを出す手伝いをお願いした。    ぼくを殺人鬼の家族だと、犯罪者の家族と嘲笑った皆様。  おめでとうございます。  今日からあなたたちは、犯罪者の家族ではなく、犯罪者張本人です。    受理されたのは僅かだったけど、一瞬でも恐怖を与えることができたから、ぼくは満足だった。  新天地で、被害届を取り下げて欲しいという訴えが来たと、弁護士から聞いた。  当然断った。  だって、君たちも石を投げるのをやめなかったから。    電話を終えると、自然と涙が出てきた。  そんなぼくを、父が後ろから抱きしめてくれた。    この涙は、嬉し涙か、それとも悲し涙か。  殺人鬼の家族であるぼくには、人間の血なんて流れていないからわからない。

 ラノベっぽい設定でラノベっぽいもののアイデアを友人に送る

 ユグーノア王国。 この辺境の国には半魔人、獣人、妖精族、ヒューマン等がそれぞれの特性を活かして共存している。 ユグーノア王国のあるベラトール大陸には古来より神の住む天使神界というものの存在がまことしやかに囁かれている。 曰くこの共存の地を脅かす他の大陸の魔神族が度々この地を襲うときに天使神界の神がユグーノア王国の民を守るために現れると言うものだ。

なーんもうまくいかない

 スーパーで高い所の物が取れなくて困っている玄冬の御婦人がいたので代わりに取ろうとした。ヤクルトの8本パックだったと記憶しているそれが、手前に引き出す途中で段差に当たって手から滑り落ちた。冷蔵用の商品棚の全ての段と私の膝を経由して地面に落ちたそれを私は下手糞のはんだ付け配線のようになった脳のまま拾い上げて手渡した。御婦人の表情は覚えてない。呆れか、無感情か、その辺だったような気がする。駐輪場で自転車のナンバーロックを回しながら落としたものを自分のかごに入れてもう一つ取れば良かったと思い至った。嘔吐感を歯ぎしりで噛み潰して、帰り道大声で歌いながら帰った。米津のモノマネで歌った。自分では結構上手いと思っている。変な目で見られた。

現実は小説より、

 なぜだ。なぜ、ぼくは、まっすぐ歩けてしまうのだろう。なぜ、ぼくは皆と同じように横歩きができないのだろう。  ぼくが住む国は、誰もが横歩きを得意とする。でも、まれにぼくみたいな横歩きのできない変人が産まれる。正面に向かって歩いたり、後ろ向きに歩いたり、斜めに歩いたりする。そんな性質を持つぼくらは、皆から時に「障害者」や「精神病患者」と呼ばれることがある。  正常な彼らから見れば、ぼくらは確かに異常者なのだろう。 「ぼくも横歩きができるようになりたい」 すでに口癖となったセリフをつぶやく。  すると、唯一の友が「どうして、そう思うの?」と、これまたお決まりのセリフを返してきた。 「もうこれ以上、のけものにされたくないから」  嘘じゃない。まるはだかの言葉。  正常な側である友は「そりゃそうだよね」と笑って、ぼくを見つめる。 「じゃあさ、こうするのはどうだろう」  まるで、お得意の手品を披露するかのように。ぼくに向かって、友は告げる。  世界の常識を変えてしまえばいい。 「は?」  これが、ぼくの率直な感想。自分のどうしようもない性質について真剣に悩んでいる友に向かって、「じゃあ、世界の常識を変えればいい」なんて、よくもふざけたことを。もし仮にそんなことができるとしても、きっと小説みたいなフィクションの世界だけなんじゃないか。 「ごめんごめん。でも、オレは心からそう思っているんだ。世界の常識が変わったら……例えば、正面に向かって歩けることが常識になるとしたら、きみは皆からのけものにされなくなるだろうよ」  そうあっさりと友人が言ってのけるので、ぼくは何も言えなくなった。  もし皆がまっすぐに歩いていく。それが当たり前の世界になったら。ぼくは想像した。それって、なんだか夢のようだ。 「やってみようかな」  思わず、口にしていた。なにげない好奇心。  夢物語が現実になるとしたら……挑戦する価値はあるかもしれない。  あれから長い月日が経った。約40年間、国の政経リーダーを務めた後、ぼくは国のトップの地位にのぼりつめた。  やっと、やっとだ。横歩きが常態化したこの国を支配し、根本から仕組みを変える権力を、ぼくは手に入れた。  当初はありえないと思った。でも、がむしゃらに努力をすれば、誰であろうと世界の常識さえもくつがえせる。それを今この瞬間、ついに証明できるのだ。  ――我々の国の常識とは、まっすぐに歩くことである。  前述の文を第0条として、国の憲法に追記すること――。  この素晴らしき提案を国会は認めなかった。だから、ぼくは仕方なく圧倒的な権力を行使し、提案を可決させた。  国の憲法に新たな第0条が加わった翌日。国で反乱が起こった。横歩きしかできない国民たちが不満をていし、国会堂に押しかけたのである。それは反乱というより、むしろ革命であった。  今も武装蜂起した民衆が、国会堂の広場でたむろしている。 「なぜだ。なぜ、こうなった」  総監室の窓辺で立ち尽くすぼくに、長年ぼくの専属秘書を務める彼は言った。 「ごめんごめん。でもさ、憲法に一つ条文を加えたところで、人々は横歩きを止めなければ、まっすぐ歩けるようになるわけでもない。世界の常識を変えようだなんて、それこそ本当の異常者がすることだろうよ」  異常な側になったはずの彼は、さも当然そうに、ぼくの隣に来て笑うから。ぼくは思い直した。  ――それでも、きみのそばを離れられない、と。  総監室の、最後の関門が蹴破られる音。

差別なき採用

「では、選考結果は後日メールにてお送りいたします」    私がオンラインミーティングを終えると、部かが近づいてきた。  余程私に疲れが見えたのだろう、部下は私にお茶を差し出してきた。   「お茶くみは、部下の仕事じゃないんじゃなかったっけ?」 「何年前の話ですか。忘れてください」    入社早々、「多様性の時代だから部下にお茶くみさせるのが当たり前とか思わないでください」なんて頼んでもないのに宣言していたのが懐かしい。  思わず、同僚たちと吹き出したものだ。  部下は私の手元にある履歴書を持って、眉を顰める。    名前なし。  性別なし。  年齢なし。  住所なし。  わかることと言えば、ITの資格をいくつか持っていることくらいだ。   「外国人だったんですか?」 「多分」 「多分って」 「国籍なんて聞いちゃ駄目なんだよ。差別になるから。ま、日本語は上手く喋れてなかったけど」 「ええ……」 「ついでだ。それ、シュレッダーにかけといて」    私は早速メールを作る。  と言っても、事前に用意された文章を送るだけだが。  選考をしたという建前を守るために、メールの発信は数時間後。  自動送信での対応だ。   「日本語が下手だから採用しないってのも、差別に当たるのかねえ」    昔の癖で、左胸に手を伸ばす。  胸ポケットに煙草の箱が入っていないことを思い出し、その場で煙草を一服する振りをした。

7

 その男は、数字の『7』を激しく憎んでいた。男の住んでいる小さなアパートの部屋には、あらゆる物から『7』の数字が消されていた。時計、温度計、カレンダー、本、リモコン、食べ物の賞味期限。住所にも部屋番号にも『7』は入っていなかった。街を歩いていて、『7』の数字を目にすると、男は、暴力的な行為が発露する前に、慌ててその場を立ち去るのが常だった。男が『7』を激しく憎んでいる理由は、誰にもわからなかった。人々は理由を知りたがったが、男は口を閉ざしていた。様々な噂が流れた。やがて男は孤立した。そんな男に、唯一の友人が残った。友人は理由を詮索しなかった。「まぁ、そういうのって誰にでも何かあるよな」男はその友人にだけ心を許していた。そんな友人がある日、交通事故で急死した。葬式が開かれることになった。男は友人の両親から連絡を受けた。その葬式に出るためには、男は7時に目覚めなければならなかった。

救ってくれないアイドル

自分がかわいくないと自覚したの中学生の時かな。 それまでは、祖父母からも両親からもかわいいって言って育てられた。 だからかわいくないことに気づかなかった。 テレビに映るアイドルやプリンセスに本当になれると思っていた。 今は、アイドルを見たら劣等感で病んでプリンセスを見ても同じ理由で病む。 おまけにプリンセスは性格の良さも兼ね備えている。 自分より醜いものを好いて、自分を引き立たせる。 なんでかわいくないって気づいたかって? 中学生というのは、美容に興味を持ち始める時である。 その時に、あっけなく気づいてしまった。 かわいい人と比べたら、違いは一目瞭然。 目も鼻も肌から骨格まで全て違う。 その違いに気づいてから、誰からの褒め言葉も全てお世辞にしか聞こえなくなっていた。 なんならただの哀れみにしか聞こえない。 下手な同情はどんな悪口よりも尖って、深くそして鋭く心に刺さった。 そこからだろうかな。私が自虐をしだしたのは。 自分で自分をかわいいって言ったら否定される。それが嫌だったら自分で否定すればいい。 そうすれば傷つけられることはない。 そうして私は今日も自虐をする。 傷つかないために。 でも時には辛くなってしまうんだな。 だけどキャラ的にも助けてっていえないし、どうすればいいのかわからないしね。 もういいかな。誰も慰めてくれないだろうし。 こんなことで悲しいなんて心まで弱いのかな。 「ねぇ、大丈夫?」 声がした。本当に綺麗な声だった。そちらを振り返った。 声以上に綺麗な顔をしていた。 「は、はい」 私は答えた。私は声まで汚いって思った。 「嘘つかないでよ、泣いてるじゃん」 「え?」 私は泣いていた。無意識に。 あーあ、ただでさえ小さな目がさらに小さくなってしまう。 彼女はハンカチを差し出してくれた。 そのハンカチは私とお揃いのものだったけど、なんだか私のより綺麗だった。 そのハンカチで涙を拭ったら視界がはっきりした。 ハンカチに視線を落としたら、ハンカチが汚れていた。まるで白い絵の具に黒を落としたみたい。 彼女の顔をよく見ると、アイドルをやっていると有名な北野みなだった。 「えっ、みなちゃん?」 「私のこと知ってるの?」 「う、うん。有名だよ」 「あのさ、はっきり言わせてもらうんだけど、私の名前、そんな軽々しく呼ばないでくれない?」 「え?」 「あんたみたいなブスに呼ばれて、私の名前汚れたんだけど。」 「えぇ」 「私とあんたじゃ、目も鼻も肌から骨格まで全て違うのよ。」 「わかってるよ」 私は小さな声でつぶやいた。 「え?なんて?まぁいいや。そのハンカチあげるから。」 そう言ってみなは去っていった。 このハンカチ二枚目だなって思った。 やっぱりアイドルは性格が悪いな。なるならプリンセスになろう。 どちらにもなれるわけないのにそう思った。 また、視界がぼやけていった。 今度は汚れたそれで汚れたそれを拭った。 白い絵の具が灰色から黒色へと変わっていった気がした。

春風ドライバー(はなのなまえ)

僕は電車に乗ってスタジオに向う 一時間半かけて秋葉原の駅に着いて、そこから歩いて十五分 予約してあるスタジオに着く バンドのみんなは既に受付を済ませスタジオに入っていた。今日はFスタジオだ。 重い二枚の扉を開けて中に入る 「お疲れ」 「お疲れっす」Drs.金木犀 「朝顔さん、お疲れ様です」Vo.桜 「…」Gt.山茶花 一ヶ月ぶりのスタジオ 皆の機嫌や思っていることなどが気になってしまうが、ベースの準備に集中して気にしてないことにする シールドをアンプに挿す、次にプリアンプとチューナーを繋げて最後にベースにシールドを挿す 先ずはチューニングから行う 僕のLTDの5弦ベースは中古品のせいか、癖が強く、太い弦から慎重に合わせていがないと細い弦が切れたりする 本当に世話が焼けるベースだが、見た目はビジュアル系で美しい 「そう言えばGt.山茶花。もう一つのバンドこの間ライブでしたよね、どうでした?」 ドラムのDrs.金木犀が興味もなさそうに聞く Drs.金木犀の妻のVo.桜が空気を読んでかフォローを入れる 「鹿鳴館でライブだなんて凄いですね」 Gt.山茶花はエフェクターが散らばる足元をいじりながらこちらを見ずに、「あぁ盛り上がったよ…」と言っただけで、機材と格闘し続けている 僕はまだ何も言わず、神経質なベースのチューニングを整えている ジャーーーーーーーン!!!! ギターが二台のアンプから音を出す マーシャルとジャズマスターに繋がれたギターはGt.山茶花とぴったりくっついている。 Gt.山茶花はESPで彼もビジュアル系のギターだ いつものように埃まみれなのが気になる。磨けば良いのにと思うが山茶花Gt.はそんな性格でもない 社会人バンドを組んで二年がたつ バンド名は「はなのなまえ」 僕はこのバンドに最後に加入した もともと ドラムのDrs.金木犀と、Drs.金木犀の妻でボーカルのVo.桜がバンドを始めたのがキッカケで 直ぐにギターのGt.山茶花が加入した その後はベースが入っては辞めてを繰り返し、なかなか安定しなかったらしい。 そこに僕が加入しこのメンバーで二年がたつ 「焦ったー!また音でなくなちゃったかと思ったよ!おーBa.朝顔、お疲れー!よし!やろうぜ!」 いつもの元気で熱血でどこか抜けてるGt.山茶花に戻ってホッとする 少し変わっているがGt.山茶花はプロ級の腕をもつ本物のギターリストだ 僕もセッティングが終わりいつでも演奏できる状態だ 4人の姿がスタジオの鏡に映る 二十代のような若々しさは無いけれど 僕らはこのスタジオで音とリズムを溶かし合って融合する 「じゃあ、この間作ったBa.朝顔の曲やろうぜ!」 直ぐにDrs.金木犀がカウントを取る 僕は自分の体がコードを覚えていることを頼りに弾き始める 毎日、朝から晩まで仕事ずくめでベースを練習出来る時間なんか土曜日の深夜くらいしかなくて、早朝はPCで月曜日の仕事を少し進めて、家族が起き出す前に朝食を準備したりて。 日曜日は一週間で唯一家族と過ごせる大切な時間なのに寝不足でフラフラになって過ごしていたりして… そんな事が頭を駆け抜けていく 皆の音が重なり、溶け合っていく Vo.桜の声がスピーカーから聞こえる 【春風ドライバー】 もしも明日、死んでしまうとしたら 僕は君を道連れにするだろうか 何にもない僕の心は 君をがっかりさせてしまう それでも君が僕の隣で 笑って車に乗ってくれたら、くれたら 春風にのって、どこまでも ひこうき雲追越して、どこまでも 北極星めざして、どこまでも、どこまでも 君とならば、どこまでも

ヒトになりたい

にゃー 「どうしたのかな? お腹空いたのかな?」 にゃあ。 「なんだ、甘えん坊だなぁ。 おー、よしよし。みーこは本当に可愛いなぁ…。」 すりすり… カリカリ。 「いい感じだね。そのまま、一生そのままでいてくれよ…」 にゃう にゃー にゃあ… いつからねこになったか もうおぼえてない わたしはにゃーとしかなけないし、ヒトのことばはもうしゃべれない わたしはヒトのかたちをしたねこ ねこになりきれず、ヒトにはもどれない あのひととくらすようになって わたしはねこにされた かんぺきにねこのうごきやしゅうせいをおぼえさせられた そうしないとごはんをもらえなかったから いつしかヒトをすて、ヒトのかたちをしながらもうもとにもどることはできない にゃあとなきながら、これでよかったのだと にゃあとないて、たすけて と あのひとにわたしのきもちはつたわらない ただただ、ねことしてわたしをかわいがるだけのまいにち あのひとにはねこにしかみえてないの なんどもいうけど、ころして と どんなばけものよりみにくく、ゆがんだあいのカタチがここにある ヒトになりたい ヒトになって あなたとてをとり じごくへ堕ちタイの… さあ、げんじつをみてくださいな ここにいるのは、ヒトのすがたをしてことばをわすれた ただのけだもの にゃあ… にゃー

不似合いの二人

 少年は思っていました。  自分の彼女は、自分に相応しくないと。  彼女は気立てが良く、誰にでも優しい人でした。  とても自分では釣り合わないと。   (だから、別れ話をされたら何も言わずに受け入れよう。それが、彼女を幸せにする唯一の方法だ)    少女は思っていました。  自分の彼氏は、自分に相応しくないと。  彼氏は気立てが良く、誰にでも優しい人でした。  とても自分では釣り合わないと。   (だから、別れ話をされたら何も言わずに受け入れよう。それが、彼を幸せにする唯一の方法だ)    周囲の人々は思っていました。  あの二人はお似合いであると。  二人ともとても優しくて、いつも誰かを助けています。  あんな二人をベストカップルと言うのだろうと。   (私も、あんな恋人が欲しいなあ)    不似合な二人は、今日もお似合いのカップルとして、二人並んで歩いています。

しあわせの代価五十%オフ

「幸せになるって罪なことよね」  突然に君は告げる。結婚式を明日に控えた夜だった。 「どうしてだい?」  少し垂れた眼尻、柳のような睫毛は光を流して、君の瞳が揺らいでいる。つややかな唇がため息に震えながら言葉を紡ぐ。 「あなたはお医者様」 「そうだね」 「あなたは誰かを助けることがお仕事」 「そうだね」 「誰かのために為されることは美談だわ」 「僕もそれが幸せだし、患者さん達のためにもなる」 「そう、そうなのよね」  君はまた、ため息をついた。 「でも、本当にあなたが感じているのは手術を終えた達成感」  ほんのすこし、納得のいかないところがある。 「それがないとは言わないけれど、誰かがしなければいけないことだ」  ええ、そうよね。君は肯く。 「わたしはあなたの恋人。わたしにとって、あなたと共にいるこの時間こそ幸せ。でもそれは、誰かのためじゃない」  脈絡がない。会話が成立していないと理解するのに、時間は要さなかった。 「患者さんもそう。あなたのもとへやってくるのは、患者自身が治してほしい、自らの幸せを求めたから」  うわ言のように、君はとめどなく吐き続ける。 「あなたも、患者さんが治るのはあくまで副次的な結果。あなたがお医者様になったのは、あなた自身があなたにとっての幸せを求めたから」  ………… 「幸せを求めるって、怖いくらいに利己的なの。あなたは患者さんを救うことでその代価を、患者さんは病に冒されることで代価を…わたしはあなたと共にいるために、何を支払えばいいのかしら…」  あっけないほど単純な不安が、君から露呈したことに驚いた。驚いて、君を抱きしめる。包まれる肩は微かな震えがあって、嘘偽りなく君が恐れているのだと分かる。そして不思議と、君の言い分に納得していた。 「僕だけの幸せと君だけの幸せは、明日から二人だけの幸せになるってことだね。半額セールみたいだ」  ええ、そうね。君は肯いた。

たいへん美味しゅうございました

あれは、何年前のことだったでしょうか。 暦とは裏腹に、季節はずれの高温でした。 本来であれば、そこにあたり前にあるはずの雪はどこにもなくて。 アスファルトがひどく無機質に見え、風情のない北の街に、妙にさびしさを感じたものでした。 あまり期待をせず、ふらりと入った路地裏のお寿司屋さん。 たいへん美味しゅうございました。 特に、あの穴子。 見るからにふっくらとしていて、 「その柔らかいの、もうひとつ、よろしい?」 なんて、夢中で言ったのでした。 いまでも不意に思い出します。 いい思い出です。 確か、あの次の日、もう一度、行ってみたのでした。 ですが、あの路地裏を探しあてることはできなくて… あの路地裏、ほんとうにあったのでしょうか? あのお寿司屋さん、ほんとうにあったのでしょうか? それでも、あれは― いい思い出です。

10年前の記憶の糸と時計と

「でもどこかで会ったことありますよね?」 初対面でそう言われたとき、この人は完全に他の誰かと勘違いしている。そう思った。互いの今住んでいる場所からすると、接点など全くないように思われたからだ。 あれから半年近くが経ち、スマートになって眼鏡を外した顔を見ていたら、消えていた記憶が突如として甦ってきた。なんか、この顔は見覚えがあるかも! 出会ったのはちょうど10年前、とあるジムに通っていたときのことだった。 プールのジャグジーで1人温まっていると、あとからそこに入りに来た女性がいた。 しかもこんなところにこんな美少女がいたのかと驚いた!(そう書くよう言われている苦笑) ジャグジーが割と小さめだったので、誰かが入っているときに知らない誰かが入りにくるのは珍しい。 何か話さないと気まずいと感じたのかもしれないが、私から話しかけてどんな会話をしたのかはだいたい思い出してきた。 ジャグジーで誰かと話をしたのは、後にも先にもそのときだけだった。 声や話し方、雰囲気が同じだったと思うし、顔や背丈もこんな感じだった。 本人に確認したところ、やはり覚えがあるとのこと。急にいろいろなことが繋がって見えてきた。 そうそう、書いているうちにまた新しい記憶が。 彼女がこちらに歩いてきたとき、目が合ってすこし微笑んだ感じに見えた。そうでなければおそらく会話などしなかっただろう。 私はジャグジーのところでも水泳帽を被っていたと思うが、彼女が歩いてきたときにはなんとなく被ってなかったような気がする。 I「プールのクラス、最近人増えましたよね?」 She「先生の人望で」 I「あの新しい先生、上で受付しているときと、プールの授業のときで、だいぶ印象違いませんか?」 She「わたし、上に行ったことなくて。。何か授業受けてたりしますか?」 I「水曜日の筋トレとストレッチの授業にでてます」 おそらく、こんなやりとりだったかと思う。上に行ったことない人なんているんだ!?と不思議に思ったのを記憶している。 ここで”葬送のフリーレン”に話を移させていただく。 話のなかでフリーレンがたびたび魔術書を探しに旅に出る場面が描かれている。 そこに記された魔術というものは、実は普通に読んでも発動しない。魔法が効力を発揮するにはそれを伝授する資格をもつ魔法使いから直接ハンドダウンされる必要がある。そして本人も通過儀礼を受けていなければならない。 このように魔法使いが何かを教える、そして彼らから何かを教わるというのは本当に特別なことだと思っている。 対象が仕事であるにせよ、縁あってその何かを教わっているフェルンのようなその人もまた只者ではない。内容はともあれ私を通してエネルギーが受け継がれているのだから。粗削りだが、彼女もその片鱗があり、これからの鍛練次第ではサイキックが開花していくだろう。 彼女はインディゴ世代の象徴のような人であり、楽しいことのエネルギーを降ろすのに長けている。それは今始まりつつある新しい世界に必要なもののひとつ。 よく私と二人で楽しく話をしていると、知らず知らずのうちに周りに人が集まってきたりする。私の能力と相まると、相乗効果がすごい。形而上学的に私が扱える光の量は普通の人の100倍以上で、瞬時に場の雰囲気を変えることもできる。 職場には、今のところ特にご縁のある方がお二人ほどいると感じている。もっとも私と何らかのコンタクトがある方は全員可能性がある。これから、それを決めるのは彼女たち自身だが、少なくともその形而上学の入り口に導くつもりだ。 かつてレオナルドダヴィンチやミケランジェロも学んだ魔法学校の入門プログラム。これから長い人生の運を切り開くためにも、その入門編だけでも受けてくれたら、私はどんなに嬉しいことだろうか!(個人的にそう願っている)。 「前回会ったのはたしか80年前だったかな?」フリーレンでこんな会話が登場するあたりも重なってくる。今回は10年ぶり。 不思議なことにその夜、私が着けているSEIKOの腕時計は静かに時を刻むのを止めた。本当に。 それは私の頭の中と同じく、時間を止めて、まるで10年前のちょうどその時にフォーカスをあてているかのように見えた。

距離感 (掌編詩小説)

この世界は、見る人によって千差万別なんだよ だから、同情も理解もできない見え方っていうのもあるんだよ それは誰も否定できないし、しちゃいけない その人の不可侵領域に土足で入り込むようなものなんだから でも、受け入れなきゃいけない事は無いと思うんだ 自分に合わないんだったら、離れたら良いんだと思うよ (完)

寿命カレンダー

 日本に生まれた人間の平均寿命は、およそ八十年。  日数にして、二万九千二百二十日。    私が生まれた日から、親が剥がし始めた日捲りカレンダー。  今では私が剥がしていて、剥がしたカレンダーは今日で一万九千二百二十と一枚目になる。  五十二歳にして、ついに寿命が五桁を終えた。   「なっが」    残りの人生、九千九百九十九日。  八十歳で死ぬ前提での数字だから、多少の誤差はあるだろうが、概ねずれてもないだろう。  私が長いと言ったのは、残りの寿命ではない。  未だ老後がやってこないことに対してだ。  定年六十五歳と言われていた時代は終わり、今では七十歳が当たり前だ。  つまり私は、後十八年分働かなくてはならないということだ。  生まれてきた赤ちゃんが高校三年生になるまでの時間。  残りの人生が四桁しかないというのに、自由に使える時間が少なすぎる。   「お母さーん! ご飯ご飯!」 「炊飯器からよそうくらい、自分でやれやあ!」    計算などしなければよかった。  まったく思わないと言えばうそになる。  時々数字を思い出して、色んな感情がぐちゃぐちゃになって吐きそうになる。  でも、結局なんだかんだ忙しいので、すぐに感情ごと忘れてしまう。  そう考えれば、暇がまだまだ来ないのはありがたいのかもしれない。   「ばばー! ご飯!」    私は息子をぶん殴りに、炊飯器のある方へと向かった。

クレジット

「うわ、レア物!買い!」 ポチッとな。 「そういえばまたあれ買わないと」 ポチッとな。 「服は安くかわいいのがいいよね〜」 ポチッとな。 ポチッとな。 「チケット取らなきゃ!」 ポチッとな。 「遠征になっちゃったから宿取らないと〜」 ポチッとな。 「グッズ欲しい!」 ポチッとな。 ポチッとな。 ポチッとな。 「わ!今回のガチャ、推しが出るのか…課金しよ」 ポチッとな。 「そろそろグッズ飾る棚欲しいなぁ」 ポチッとな。 「配信見たい!チケット買おう」 ポチッとな。 「これ通販にしか売ってないやつ〜」 ポチッとな。 ポチッとな。 ポチッと、 ポチッと、 ポチッと… 「次回のカード代がやばい…ポチりすぎた」 ご利用は計画的にね!

雪の日にすれ違った二人

 ちらりちらりと雪が降っている。  私はテンションがあがった勢いで、外に出た。  髪に雪が引っ付くと、オシャレな宝石みたいでお姫様になった気がした。    機嫌よく歩いていると、向かいから女の子が歩いてきた。  女の子は傘をさしている。   (なんで、雪の日に傘をさしてるんだろう。雨でもないのに)    すれ違う瞬間、不思議そうにする女の子と目が合った。        ちらりちらりと雪が降っている。  私はテンションがさがり、さっさと家に帰ろうと歩みを速めた。  傘に雪が乗っかると、少しだけ傘が重くなってげんなりした。    機嫌悪く歩いていると、向かいから女の子が歩いてきた。  女の子は傘をさしていない。   (なんで、雪の日に傘をささないんだろう。髪べちゃべちゃになるのに)    すれ違う瞬間、不思議そうにする女の子と目が合った。

無駄遣い

 男は踵を引き摺りながら、夜の町を歩いていた。駅を出た時は足早に歩いている人が何人もいたが、今ではすっかりいなくなっている。明かりはついているが音のない迷路のような住宅街をのろのろと歩く男は、音もなく掠ってくる冷たい風を避けるようにダウンのポケットに両手を入れた。  男は漫画家を目指していた。芸術学部のある大学に進学し、その後上京してアルバイトをしながら三年が過ぎていた。その間、何の成果も上げる事なく、ただただ七年という時間を通過していた。漫画家を諦めたわけではない。描き続けてはいるが、それだけの日々。投稿する頻度も、ペンを持つ時間も減り、言い訳の種類と回数だけが増えていった。  今日も昼からのアルバイトを終えた道で考える事は、バイト中での自分の言動を振り返り反省すること、夕飯のこと。あと、明日のバイトのこと。  住んでいるアパート近くの公園を横切った時、ふと高校生の頃の自分を思い出した。  大学受験に向けて画塾に通いながら、漫画を描いて東京まで持ち込みに行っていた。出張編集部があると知れば、その日を締め切りにして明け方まで原稿用紙に向かっていた。  部屋の電気をつけ、ゆっくりと現に戻った。キッチンに置かれた二人掛けのダイニングテーブルには開けたままのノートと芯を出したままのボールペン、付箋だらけの本やメモ帳が散らかっている。ついさっきまで、そこに誰かが座っていたかのように。  窓を閉め切ったベランダからわざとらしい大きなため息が聞こえたような気がした。  そんなことも明日の朝にはきっと忘れて、足を引き摺りながらバイトに向かうのだろう。  こんなダラダラとした中身のない日記にもならない独り言を誰が読むでしょう。紙とインクの無駄遣い。こんなものを許してはいけない。いけないって、分かってはいるんです。

またね

 処刑場に行った。友人に会いに行ったのだ。友人はこの間斬首刑に処され、その生首がさらされていたのだ。友人の生首に色々な話をし、そのうち日が暮れてきたので、家に帰った。「またね」と手を振ると、友人も手を振った。帰り道、友人は生首なのだから手を振れるわけがないことに、ふと気づいた。

夜のサービスエリアにて

 夜七時、サービスエリアは賑っている。  日没後の暗闇に、煌々と電灯が点いた建物が浮かび上がる。多くの屋台はすでに店を閉じて、電灯の下に仄暗く静まりかえっていた。  車を降りた途端、冷気に取り囲まれる。体は寒さを感じるが、疲れて熱を帯びた頭にはその冷たさが快い。後ろの席に放っておいた明るい色の外套を羽織り、緑色に塗られた歩道を注意深く歩いて、横断歩道を渡った。  二重になった自動ドアが、複数の客をそっと招き入れる。そのセンサーは機械的ではなく、まるでどこかで誰かが様子を見ているかのように滑らかに動く。  外側と内側のドアの間には二平方メートルほどの空間があり、左右の壁には新メニューや高速道路株式会社からのお知らせなどが貼り出され、小さな看板も出ていた。それらは自動ドアと同じように慎ましやかな温かみを醸していた。  内側のドアを一歩入ると、入って左側がレストラン、右側が土産物屋になっている。扉などはなくて、どちらも簡単に行き来できる。夕食をとったり、土産物屋をひやかしたりする人々の喧騒と人いきれで、さっきまでの寒さが嘘のようだ。  レストランと通路の間にちょっとしたカウンターがあり、昼間はそこがコーヒーショップになっているようだった。この時間はそこもひっそりとして「御用の方はキッチンへお声がけください」と丸ゴシック体で小さく書かれたメモスタンドがあった。  キッチンは正面から左側(外側)へ向かって「軽食」「麺類」「ご飯もの」と窓口が分かれている。「軽食」の表示の前へ行ってみたが、中には誰もいない。  夕食時だ、いそがしいのだろう、と思い、こちらは急ぐ理由もなかったので、暫しぼうっと佇んでいた。と、右後ろから 「いま伺いますから、お待ちください。」 と感じのいい声がして、二〇代後半だろうか、颯爽とした青年が現れた。このキッチンに勤める店員の一人であろうその青年は、前髪をコック帽にぜんぶ入れて、コックコートを気持ちよく着こなしている。どこからキッチンへ入ったのだろう、気が付いたときには、彼は目の前にいて注文を取ってくれた。  気が付けば朝から何も食べておらず、空腹を感じないではなかったが、今日は緊張のしどおしであったので、しっかりとした食事をとる元気もなかった。いつもなら餃子丼セットを頼むのに。それでホットスナックの並んだガラスケースからコロッケを選び、カフェラテを注文する。  彼はまた感じよく、手袋を嵌めてコロッケを包み紙に入れ、客側のカウンターからは一段低くなった、キッチン側のカウンターへ丁寧に置いた。それからそっと手袋を裏返して外し、これも丁寧にそこへ置き、レジのキイを叩いて 「七五〇円になります。」 と言った。わたしは釣り銭のないように小銭を数えてカルトンへ置く。  彼はさらに感じよく、私が財布を仕舞ったことを確認してからまずコロッケを、次いで美しいデザインの空の紙コップを手渡してくれる。さっき通り過ぎたコーヒーショップのカウンターに設えられたコーヒーマシンを振り返りながら、 「あのコーヒーマシンで?」 と尋ねると、彼は頷きながら、待てよ、という顔をして 「洗浄中ですね、見に行くので少しお待ちください。」 と親切に言ってくれる。だが私の後ろにはすでに客が並んでいる。 「対応なさってからで大丈夫ですよ。」 「ありがとうございます。」 という簡単なやりとりの後、コーヒーマシンの前でまたもぼうっと佇んでいると、程なくその自動洗浄は終わった。まだ客の対応をしている青年の方を振り返ると、彼はこちらをぱっと見て手で「OK」のかたちをつくり目顔で「どうでしょう」と尋ねる。コロッケと紙コップで両手の塞がった私も目顔で「だいじょうぶ」と頷く。  これだけのことだが、私は快く圧倒されていた。便宜上「青年」とか「彼」と馴れ馴れしく呼んではみたものの、その人は厨房のスペシャリストである。このサービスエリアに勤める人々は老若男女、誰でもこのように気持ちのよい接客をしてくれるが……それでも、自分より二〇近くも年下の若者が、仕事とはいえ、少しの注文しかしない、くたびれた中年に対して、爽やかな親切を示してくれたことがうれしかった。  熱々のコロッケを頬張り、食べ終わって包み紙を捨てると、誰にともなく一礼して建物を出た。  手の中には温かいカフェラテがある。冷えた車内へ戻り、帰り道で聞く音楽を探しながら、大事に飲んだ。機械的な味ではなかった。  エンジンをかけてウィンカーを点け、前後左右を確認してから右方向へゆっくりとハンドルを切り、また停止する。何かのスポーツのクラブチームが遠征した帰りらしく、大勢が目の前を渡っていく。渡る人が途切れるのを待ち、徐行した。サービスエリアの出口で、エンジンの回転速度を上げる。リラックスした頭と体で、安全運転をしよう。

失恋

友達と好きな人が被った。 とても、言えなかった。 ある日、友達が告白した。 「好きだけど付き合えない」 でもその時「やった。」とは思わなかった。 私にも人の心はある。 振られた友達に共感した。 でも気づいたのは遅かった。 私は失恋していた。 相手は友達のことが好き。だけど相手は噂が立つといけないから振った。 心が、凶器で刺された。 深い傷が残った。 一生、残るだろう。 深い深い、涙の傷が。

ターメリックライス

 休日出勤の帰り、まだあかるいうちに、小さなスーパーに寄る。高層ビルの一階に入っているその店は、客同士がすれ違うのも難しいほど狭い。入って左手にレジが三台L字型に並び、右手には袋詰めカウンターが二台縦に並んでいる。  入口に積まれた籠を一つ取り、袋詰めカウンターの右側からゆっくりと通路を進む。 最初は乳製品、今週は足りているからパス。隣にある、いちばん安い珈琲ゼリーをひとつ籠に入れる。冷蔵された果物、きょうはマンゴスチンだ。初夏に買ったドラゴンフルーツは大当たりだった。先週買ったランブータンは外れ。少し迷って、ここも通り過ぎる。  鹿児島県産のピーマンと、高知県産の新生姜を一袋ずつ入れる。陳列棚が左に折れる。この店は鮮魚もおいしいが、今週は節約しているので買えない。さらに陳列棚を曲がり、群馬県産の蒟蒻を一枚入れる。調味料や乾物のコーナーは素通りし、冷蔵の二玉入りのうどんを一つ入れる。いつもは買う菓子パンも今日は買わない。最後に季節の果物のコーナーがある。無花果が並んでいた。これはこの時期にしか楽しめないので、籠に入れる。  会計を済ませて外に出ると、湿気と熱気に包まれる。鞄と袋を抱えて五分ほど歩く。通りには誰もいなかった。少し背伸びして借りた都心の部屋は、西向きのワンルームにキッチンが付いている。ドアを開け、買ってきたものをアルコールティシューで簡単に拭き、冷蔵庫に仕舞った。うどんは冷凍する。冷凍うどんを買うよりも、冷蔵のうどんを買って冷凍するほうが安上がりなのだ。  シャワーを浴びて、その間に洗濯機を回す。髪にドライヤーを掛け、洗濯物を風呂場に干して、七畳半の部屋で寛ぐ。リモンチェッロの瓶から小さなグラスに中身を注ぎ、少しの水道水で割って飲む。常温で十分おいしい。  西日の部屋は嫌われがちだが、わたしは好きだった。ちびちびとグラスを傾けながら、ビルの隙間に沈んでゆく夕日を眺める。熱い夏でも、日の名残りは惜しい。  すっかり日が沈んでしまうと、根っこが生えてしまいそうなお尻を漸く持ち上げ、カーテンを閉めて灯りを点けた。それからキッチンに立った。  電気調理器でお湯を沸かしている間に、まな板を水で濡らし、カウンターに寝かせる。冷蔵庫から、トマトをひとつ取り出し、ひと口大に切る。卵を汁椀に割り、粉末の出汁を入れて溶く。換気扇を回し、ガスコンロでフライパンを温め、オリーブオイルを煙が出るまで熱した。そこに卵とトマトを入れると、じゅっという美味しそうな音がする。適当に菜箸で混ぜ、火を止めて余熱で温める。頂きものの三陸産の生わかめをひと株、少し水に浸し、それから塩を洗い流す。世の中には生わかめを贈ってくれる人もいるのだ。これもひと口大に切って、沸いたお湯に入れ、さっきと同じ粉末だしを入れる。再沸騰したら火を弱めて味噌を溶き、火を止める。卵を溶いた汁椀を軽く洗い、そこに出来上がった味噌汁を入れる。  空いた電気調理器に、研いだ米を入れる。適当に水加減をして、わずかな時間、吸水させる。先ほど買ってきたピーマンをひとつと新生姜の小さな一かけを洗い、どちらも千切りにする。千切りをしている間、まな板にはトントンという小気味よい音が響き、頭のなかは驚くほど静かになる。  また同じ粉末だしを米に振りかけ、上にピーマンと針生姜を載せ、さらにターメリックをたっぷりと入れる。一箇所に入れてしまっても、米が炊ける間に広がるから心配は要らない。思い出してレーズンを散らす。電気調理器のタイマーを十五分と二十分の間にセットして、炊き上がるのを待つ。  リモンチェッロを飲み干したグラスに、今度はペルノーを入れる。また水道水で割ると、薄緑色の液体が白く濁って美しい。  適当な音楽をかける。ゆっくりぺルノーを飲む。ぺルノーの程よい苦みと甘みはとりとめもなく何かを考えるのにうってつけだ。この暮らしをいつまで続けられるだろう。どうかな、分からない。先のことは考えても仕方ない。いつも思いがけない展開が待っているのだから。  ターメリックライスが炊き上がる。  適当なさらにそれをよそう。トマトと卵の炒め物もよそって、黒胡椒を振る。それらをすっかり冷めてしまった味噌汁といっしょに一人分の竹製のお盆に載せて部屋に運ぶ。キッチンと部屋を隔てる扉をゆっくり閉める。  さあ、食事だ。  ピーマンと新生姜のいい香りがする。何はなくとも、わたしにはこのターメリックライスがある。それだけで、今は十分だ。

春の風

鯉の泳ぐ川に沿って吹いていた風は 花弁が落ちないように、身を屈めて幹を横切る 隣家の台所の小窓からは女性たちの明るい笑い声が聴こえてくる 風は洗濯物を揺らし、勝手口の扉にそっと触れる 小窓から外を眺めていた猫が鳴く 女性たちは会話をとめて猫の名前を呼ぶ 風はそうっと猫を撫でると 再び川沿いの道をゆっくりと歩きだした

どこへいこう。どこへでも。

私は暗く、冷たい部屋にいた。最初は時々そこに入るだけだった。すぐ出るはずだった。だんだん時間が増えて、いつからかそこが私の居場所になった。本当に部屋だったのかもわからない。石質の地面は硬く、私の熱をどこにも伝えず奪うだけだった。光はどこからも入って来ず、この壁や床がどこまで続いているのかわからなかった。歩いて確かめに行く体力も気力もなかった。そこが私の居場所となってから、私は寝転んだまま動かなかった。どれくらいの時間動かずにいたかもわからない。 けれど、いつも退屈ではなかった。少し長く息ができた時、目を閉じて、地面から伝わる冷たさも切り離して、私は旅をした。どこにだっていつにだって行けた。満開の桜の下で桜餅を食べた後にスキー場でリフトを限界まで揺らした。温泉地に行って足湯だけ入る贅沢もした。 旅から帰ってきても、旅の思い出が私を楽しませた。 その日は浜辺でビーチサッカーをしてへとへとのデロデロになった。砂にめり込みながら「ずっとここにいたい〜」と言った。そしたら誰かが「いればいいじゃん」と言った。 その時からだった。帰ってもそこは浜辺だった。浜辺になっていた。 本当は、私はずっと浜辺にいた。私はどこにだっていた。あの暗くて寒くて体がガッチガチになる部屋は、ほんとうは浜辺で、晴れた日曜日の公園で、梅も桃も桜も満開だった。 私はどこにだって行けて何にだってなれた。ずっと、はじめから。

わきまえと礼儀 (掌編詩小説)

私が作品を書くにあたって 『自分が読みたく無いのに、他人に読んでもらおうとするのは横暴な考えである』 ということを、常に気にしている (完)

紛らわしいネットワーク

 牛丼屋に行った。  ワイファイを拾った。   「GyudonーWiFi? ラッキー、ここフリーワイファイ飛んでるんだ」    通信費も馬鹿にならない。  節約のために、速攻繋いだ。    そして牛丼を食べた退店後。   「え? フリーワイファイの提供なし?」    繋いだワイファイは、牛丼屋のものでないことを知った。  牛丼屋で、Gyudonをアピールするフリーワイファイを偶然拾うことがあるだろうか。  いいや、ない。  ならば目的は、公式のフリーワイファイ勘違いして繋いだぼくみたいな馬鹿から、パスワードや個人情報を抜き取る以外はないだろう。  なんてことだ。             「ぎゃああああああああああああ」    牛丼屋の近くで、悲鳴が上がった。  ぼくのパスワードは、誰にも推測できない代わりに、知れば死神に憑りつかれる曰く付きだ。  盗んだせいで、見てしまったのだろう。    ぼくの背後にいる死神が振り向いて、にったりと笑っていた。

いつもと変わらない違う朝

朝、鏡の前で身支度を整えていたときだった。 グイとやや強引に引き上げた指先に、頼りない手応えが。 「うわっ、最悪」 ズボンのベルト通しがぷつりと切れた。 途端に頭のなかが乱れていく。 今日は大事な打ち合わせがある。 昨日の夜、あんなに食べなきゃよかった。 いや、ここ最近の生活の歪みが形になって… 悔やんでも、なんにもならない。 そうとわかっていても… 大きくため息を吐き出し、別のに履きかえ家を出た。 不測の事態は、毎日の習慣で切りかえたい。 毎朝、立ちよる行きつけの喫茶店のいつもの席。 変化のない風景に、小さな変化は大きく感じられる。 壁のポスターに「本日の限定」の文字。 思わず言っていた。 「これ、ください」 いつもと変わらないようないつもとは違う朝。 いつもと変わらないようないつもとは違うカップの中身。 眼鏡を通し、ただ目の前の液体をすとんと見つめる。 余計な意味をつけ足さない。 剥ぎ取って、削ぎ取って、そのままを受け止める。 右でも、左でも、どっちでもいいじゃない。 物事が進んでいくのなら。 ふう… 一口含めば、熱い苦みが喉を抜け、思考の霧を晴らしていく。 複雑に絡んでいたあれこれが、この一杯に解かされ、ただの事実へと落ちていく。 「お味、いかがですか?」 はじめて見る店員さんが、緊張した面持ちでこちらを見ていた。 「うん。いいですね。すごく」 私がそう言うと、男性店員の顔にぱっと赤みが走り、曇りのない笑顔が咲いた。 最後の一口を飲み干し、さわがしい街へと踏み出していく。 そこに、迷いはなかった。

大型犬と小型犬

 不細工な小型犬が美人な大型犬に恋をする。 何でか知らないが結ばれて生まれてきた仔犬は小型犬の丈夫な不細工な小型犬ばかり。 賑やかになる。 ワチャワチャする。 近所の人達はあそこ何時もうるさいわね~と噂する。 仔犬たちが大人になってやはり美人の大型犬や美男の大型犬と何故か結ばれる。 しかし驚くことに産まれてくる仔犬は美男美女の中型犬や大型犬。 お婆さん犬になった美人の大型犬は家で静かに暮らす。 何かを見通す目で。 孫犬の中で唯一不細工で小型犬として産まれてきた仔犬は何時も皆から仲間はずれにされている。 しかし美人の大型犬のお婆さんはその仔犬を一番可愛がる。 お婆さん犬が亡くなる前に子供の犬たちや孫犬たちは何処かに引き取られていく。 新しい土地へ。 新しい生活へ。 家に最後まで残ったのは不細工な孫犬とお婆さん犬だけ。 お婆さん犬は言う。 「あなたがお爺さんに似ていて一番美しくて優しいのよ。最後まで一緒にいてくれてありがとうね。」

貰って戻る

 朝、テレビをつける。政府のCMが流れている。「今月は歯です」というナレーションとともに、地図と日時が表示される。その日時になったら地図の場所に行き、政府の役人から歯を貰うのだ。こうして私たちは少しずつ、人間に戻っていく。

始発電車にて

 明け方の始発に、一匹のウサギが乗っていた。空を見上げると月があって、その月にはウサギがいなかった。このウサギは月のウサギらしい。仕事を終えて帰るところなのだろう。ウサギはスマホをいじっていた。そのスマホにはニンジンの画像が表示されていた。月のウサギでも、ウサギはウサギだな、と思った。

警笛

 夜の静けさの中でやかんの笛が鳴った。よく聴くと、それは高い叫び声だった。毛布に頭を埋めながら、息苦しさを毛布のせいにした。  叫び声は耳のすぐ下から出ている。止める気にはならない。止め方も分からない。  夜の静けさの中、襲ってくるドス黒い塊を叫び声で消し続ける。息苦しさは毛布と叫びのせい。日中、何もしていなかった身体は発泡スチロールのように軽かった。

私はおかしい、あなたもおかしい

全く嫌な日だ。大嫌いな場所に行かなきゃいけないなんて。しかし、行かなければいけないのだ、薬をもらうために。  「ハァ……行きたくねぇ……」  私は昨日の夜からずっとため息がでていた。新しく買ったマイクの実験も兼ねていたが、どちらかというと吐き出したかったのだ。    電車の中で、昨日呟いた12分間のボイスメモを聞いていた。自分の声は好きではないのだけれど、なぜか落ち着くのだ。まるでそこに「嫌だよねぇ、ほんとだよねぇ、ヤレヤレだねぇ」って言ってる人がいて、それなぁって共感する。  しかし困ったことに、実家で呟く訳にはいかない。  「突然何してるの?頭おかしくなったの?」  そう言われるに決まってる。逆に、両親が同じ行為をやり出したらこちらも不安になる。    私は頭がおかしい。それは自覚している。  だからなんだというのだ。そういうお前は、おかしくないと人前で大声で言えるのか?    昔、言の葉の庭という小説で心に残っている一文がある。  「人はどこかちょっとずつおかしいんよ」    本当にそのとおりだと思う。  私はおかしいし、あなたもおかしい。  それは個性だと、私はただ静かに思う。

デジタル折り紙

『折り紙で、鶴を作ってみましょう。画面をタップしてね』 「はーい!」    息子がにこにこしながら、タブレットをタップしている。  タップする度、画面に映る紙が折られていき、鶴の形に近づいていく。   「それ、面白い?」 「うん!」    あまりに不気味だったので思わず声をかけたが、息子は何の違和感も感じてないのか元気な返事を返してきた。   「そう、なら、いいんだけど」 「うん!」    私は息子を見ながらソファに座り、サイドテーブルに置いてあった折り紙を手に取り、鶴を折った。   「時代だなあ」    折り紙は、ちゃんと折ったつもりがぐしゃぐしゃになって、角と角がぴったり一致するようになる過程が面白いというのに。  果たしてタップするだけのデジタル折り紙で、何が手に入るというのだろう。    私が折り鶴を完成させて掴んだ時、息子もデジタル折り紙を完成させたらしく、嬉々としてタブレットを見せに来た。

番組

 海で釣りをしていた。ラジオが釣れた。クジラの声を放送していた。この海からクジラがいなくなってしばらく経つ。海の中の皆も寂しいのだろう。

クジラの病院

 近所にあった汚い、小さな家には、玄関先に看板が取り付けられていた。『クジラの病院』看板にはそう書かれていた。その家に、クジラはもちろん、誰か人間が出入りしているところも見たことがない。『クジラの病院』廃屋だと思っていた。ある日の夜明け頃、不思議な音で目が覚めた。外に出て辺りを見回すと、その音は『クジラの病院』から聞こえていた。何の音だろう。そう思って近づくと、突然、『クジラの病院』の中から、屋根を突き破って、大量の水が空に向かって噴射された。あっ、クジラが潮を噴いたんだ。すぐにそう判った。潮は朝日に反射して、きらきらと輝いていた。美しかった。きっとクジラは治ったんだ。何となくそう判った。

初夏の輜重隊

 そこは緑豊かで温暖な、美しい国だった。爽やかな初夏の風に乗って、燕がスイっと空を飛ぶ。その下には青葉を茂らせた森がどこまでも広がっていた。  チィ!チィ!と小鳥が鋭い鳴き声を上げた。のどかな森の中を、男たちが歩いてきたのだ。その数は、およそ200名。ほぼ全員が同じ海松《みる》色の軍衣を纏い、編み上げのブーツを履いている。手には手綱を握り、山のような荷物を載せた大亀を連れて、森の中をゆっくりと進んで行くのだった。  彼らはこの国の輜重《しちょう》兵、つまりは物資の運搬を行う兵士たちだ。横を歩く肩ほどまでもある大亀は、不知蔵《イサツ》という、ここらに生息している動物だ。大人しく力持ちで、馬の少ないこの国では、モノの輸送や農作業に使われることが多い。  輜重兵の一人、ジエンは、隊列の最後を歩きながら、ぼうっと故郷のことを考えていた。ここからさほど遠くない田舎村だが、帰れるのはいつになることやら。田植えの時期に働き盛りの男がみんないないのだから、家族はさぞ困っているだろうに…… 「ねぇ、兵隊さん」  声をかけられて振り向くと、従軍看護婦の娘が立っていた。この先の町までだけ、彼女らは輜重兵の末尾について歩いているのだ。 「どうした?」 「兵隊さんって、よくそんな黙々と歩き続けられるわよね。私、退屈しちゃった」  そう言う彼女の目はくりっとしていて、いかにもお転婆そうに輝いている。他の看護婦らは歩き疲れてへばっているというのに、随分と元気な娘だ。ジエンが感心している間に、娘はまた喋り出す。 「私、ロウォっていうの。看護学校を出たばかりの十八よ。なのにこんな西の果てまで連れてこられるなんて、もうびっくりだわ!」 「へぇ……」 「ねぇ、あなたは? 名前は何ていうの? 私よりちょっと年上かしら?」 「あー。俺はジエン。二十一だ」 「あら。三つ上ね!」  まるで面白い話でも聞いたかのように、ロウォはころころ笑う。ジエンは微笑み返しつつ、やかましい娘だなぁと内心呆れていた。 「ロウォ、だったか。街までまだ一里はある。喋ってるとバテるぞ」 「なんのこれしき。体力にだけは自信あるんだから」 「……」 「あ、もし黙って欲しかったら、そのイサツに乗せてちょうだいよ。そうしたら静かにしてるわ」  ロウォは目をきらんとさせてジエンを見上げた。ジエンの曳くイサツは輜重兵自身の食糧を積んでいるので、今は少し空きがあるのだ。ジエンはため息をつくと手早く荷物を分け、イサツの甲羅のてっぺんにロウォを座らせてやった。 「わぁ、思ったより高いのね! すごいすごい! お父さんに肩車されてるみたいだわ!」 「静かにするんじゃなかったのか。街に着いたら、そこから看護婦は列車だろう。そこで喋ったらいい」 「だって、あなたと喋れるのは今だけじゃない? まぁ、私よく『うるさくてかなわん』って言われるから、慣れてるけど。あなたも私がどうしても嫌だったら、降りろって言ってね」 「いや、好きだよ」 「え?」  ロウォは目をぱちくりさせて、ジエンを見た。ジエンはちら、と横目でロウォを見、堪えきれずにくすりと笑った。 「なんだ? 俺は荷物を載せるより、人を乗せる方が好きなんだ」 「……あっそう。からかったのね?」 「なんのことだ?」  ジエンは得意げに目を細め、前を向いてイサツを曳いた。ロウォはぷんとしてそっぽを向く。しかし、街からの風が頬を撫でた次の瞬間には、ロウォはまた次の話を始めるのだった。

不自由パズル

 ふと、旅行へ行こうかと考えた。  片道一時間なら、日帰りで行ける。    まずは天気予報を見た。  曇りか。  快晴が良かった。    次に交通状況を見た。  一部渋滞中。  空いている時が良かった。    最後に口コミを見た。  全体的に混んでいる。  開いている時期が良かった。   「行くのやめよ」    ぼくは布団に逆戻りした。    子供の頃よりお金も時間も自由になったのに、旅行に行く回数は減った気がする。  不自由なときは、その日から行けないからと先に日程を決めて、曇りだろうが混んでいようが突撃したというのに。    不自由だからこそ、予定をパズルのようにくみ上げていたあの瞬間。  もしかしたら、ぼくに今足りないのはそれかもしれない。    なんて考えた頃には、眠気がやって来た。

半分休む

 業務時間は、午前が八時半から十二時までの三時間半  午後が一時から五時半までの四時間半。   「今日、半休とります」 「りょー」    半休という制度を使えば、午前か午後、どちらか好きな方を休むことができる。  そして、休んでいる間も出社扱いとなり、給料が発生する。    午前と午後で業務時間の長さが違うのに、午前と午後で区切られているのも変な話だ。   「やっぱとるなら、午後だよなあ」 「なんか言いました?」 「独り言」    ついつい、倹約家の血が騒ぐ。  午後を休めば、午前を休むより一時間分得だ。  なんてことを考えてしまう午前のこと。

気化

君が離れていくのを知っている。 近づくほど遠くなることも知っている。 日々、壊れていく心の音を止められることも知っている。 それでも、止めない自分の弱さも知っている。

メデューサのバレンタイン

どうも皆さんこんばんは メデューサ・メデュ子のお悩み相談室 どうぞ今夜も楽しんでお聴きください この番組は短編作品限定の小説投稿サイト『Prologue -プロローグ-』の提供でお送り致します この番組のナビゲーターを務めるのは私メドューサ・メドュ子です。皆さん、どうぞよろしくね はい、と言うことで こんばんは!みんな元気? この間のバレンタインは皆さんどう過ごしましたか 私はチョコ好きだけどあまり詳しくないし、スーパーで売ってる森永とかロッテとかで普通に美味しく食べれる派です。 フフフ。なんかね。あの、ラ・メゾン・デュ・ショコラとかジャン=ポール・エヴァンとか…あとゴディバとかね。ちょっと手が出ないかな。敷居が高い感じがして。そんなことない?皆はどんなチョコレートを食べてるのかな 美味しく、一人で堪能して。もしくは、誰かと、ドキドキしながら楽しめるチョコだといいですね。 はい、なんと今日はスペシャルゲストが来ています。金太郎さんです 「どうも、金太郎です。今日は熊は連れてきていませんが、よろしくお願いしまーす」 金太郎さんはチョコ好きですか? 「はい、甘いものは目が無いですね。コアラのマーチとかアルフォートとかよく食べますね」 美味しいですよね。色んなコアラ見て可愛いなと思いながら食べちゃいますね 「俺もそうだけど、メデュ子さんも庶民ぽいんだねw神様の子なのにね」 「そうかなw美味しいからねw」 はい、ではお悩み相談に参ります ペンネーム、哀愁エナジーさんよりお便りをいただきました。ありがとう 「メデュ子姉さんこんばんは」 こんばんは 「私は田舎から東京に出てきて、恋愛もせず仕事に恋してきました。若い頃は沢山失敗をしましたが、課長になり今では三十人以上の可愛い部下達と切磋琢磨する毎日です。そんな仕事女の私が恋をしました。しかも十歳年下の部下に。この間のバレンタインで食事に誘って、帰り際に私の気持ちを書いた手紙を渡しました。家に帰って直ぐにラインが来て、無事付き合うことが出来ました。 ただ、彼は人当たりがよくスマートなせいか彼の周りにはいつも女子がまとわりついていて、私の心を掻き乱します。 私は決していい加減な気持ちで仕事はしていませんし、プロとしてプライドをかけてますが、その仕事も手に付かなくなりそうなほど、焼きもちが止まりません。どうしたら良いのでしょうか。メデュ子姉さん。どうぞお助けください。 PS.メデュ子姉さんプロデュースのハンドクリーム買いました。めっちゃ良いです!」 いやー恋してますね。金太郎さん 「ホントですよね。十個下の男の子だなんて、恋愛してなかったとはいえ哀愁エナジーさんは綺麗な人ってことだよね」 うん、絶対そうだと思う。しかも田舎から出て来て課長にまでなったって、頑張り屋ですね 「部下が三十人って結構なことですよね、信頼されているっていうか。そんな素敵な上司にバご飯を誘われたら、嬉しいね。しかもバレンタインだったら、薄々勘づいていてもおかしくないよね」 そうですよね。 「あと、その男の子もそれほどの良い男って事ですね」 うんうん、女子人気があるらしいですね 「でもあれだよね。付き合ってんだから彼女の前でそんなところ見せたらだめだよね」 彼女の前じゃ無くても駄目ですw 「あっそうかwでも俺は言ったらいいと思うよ『嫌だ』って。『イチャイチャしないでくれ』って。なんで言わないんだろうな。年上のプライドかな」 私は彼女の気持ちがわかる気がしますね でも本当にいい人。この哀愁エナジーさん。とても素敵な人だというのが伝わってきます そんな素敵な哀愁エナジーさんに贈ります 【その弱い心、石にしてやろうか!】 「出ました!伝家の宝刀!石化アイ」 哀愁エナジーさんは立派な大人で仕事のできる人だと思いますが、恋愛は田舎にいた頃の少女のままなのよ もっと甘えていいし、怒っていいのよ。恋愛も直ぐにうまくわいかないわ。たとえ沢山失敗しても諦めずに愛を深めればきっと素敵な未来があると思います。 ではそろそろお時間です。本日はゲストの金太郎さんに来て頂きました。ありがとうございました。 「ありがとうございました」 ではまたお会いしましょう。シャー!

デブ娯楽

「筋トレが趣味なんだよね」 「かっこいい!」 「素敵!」    男Aが力こぶを作りながら言った。  評価は上々。   「食べるのが趣味なんだよね」 「痩せろ」 「デブが」    男Bが丸い腹をさすりながら言った。  評価は下々。   「趣味の副産物に評価が下されるこんな世の中じゃ……」    男Cがつまらない現実を憂いた。