表現の自由

「あなた、何してんの?」 「……はい?」 人通りの多いアーケード。 爺さんが下半身を出して歩いている。 「ちょっと、交番まで来て」 両脇を抱えられ、椅子に座らせた。 「公然わいせつ罪だよ」 「何故でしょう?」 「そんなの、常識でしょ」 「男としての機能は、とっくに終わってます。肌の一部です」 巡査が呆れ顔で、書類に走り書きをした。 「それでもダメなの」 「表現の自由は保障されなければならない」 その時、腰の曲がった婆さんが、ゆっくりと交番に入ってきた。 巡査が爺さんを覗き込む。 「はい。逮捕ね」

幼い

初めてできたトマトは とてもちっちゃくて それでもその幼いトマトを半分こして キミは「甘いね」と言って 僕は「すっぱい」と 言ったんだったね ふたりですごした 最後の夏だったね

半額シールのお兄さん

 スーパー閉店の一時間前。  スーパーにいる客の半分は、肉や魚、惣菜の並ぶコーナーに集い、その時を待っていた。    店員しか入れないバックヤードの扉が開き、出てくるのはスーパーの制服に身を包んだお兄さん。  お兄さんの手にはいつも通り、たくさんの丸いシールがあった。  赤色の背景に、黄色いギザギザの円が描かれ、ギザギザの円の中には大きな赤文字で『半額』と書かれている。  それは魔法のシール。  シールの貼られた商品は、値札に書かれた価格の半額で買うことができる。  全人類の救世主。    敬意をこめて、その店員はこう呼ばれる。  半額シールのお兄さん、と。    半額シールのお兄さんは、肉のコーナーに到着すると、売れ残っている商品に半額シールを貼っていく。  既に『20%オフ』や『30%オフ』と書かれたシールが貼られている商品もあるが、問答無用に上から貼っていく。  その瞬間、商品の価格は半額になる。    半額シールの貼られた商品に、無数の客たちの手が伸びる。  その手は、時に強引に、時に譲るように、商品の上を舞う。  そして、実際に商品を掴む手は、ただの一本だけ。  勝者の手だけ。  勝者の手に捕まれた商品は、そのまま商品かごの中へと放り込まれる。  敗者の手はいったん引き下がり、次の商品の上へと戦いの舞台を移す。    刹那の時間で、売れ残っている商品すべてに半額シールが貼られ、同時にすべての商品が売り場から消える。  手に入れた客はほくほく顔で、惜しくも手に入れることのできなかった客は無念そうな顔で、その場を離れ、レジへと向かっていく。  仕事を終えた半額シールのお兄さんもまた、バックヤードの扉へと戻っていく。   「どういうことだ!!」    直後、レジから聞こえる怒鳴り声に、周囲にいた客たちは、半額シールのお兄さんは、声のする方向へと振り向く。  レジでは、一人の客が、会計をしている店員さんへ怒りの表情を向けていた。   「で、ですから、この商品は半額ではなく」   「半額シールが貼ってあるだろ!ほら!よく見ろ!」    客は、酒瓶を突き付ける。  賞味期限までまだまだ長い、だがしかし半額シールが貼られている酒瓶を。    交換される割引<<エクスチェンジド・ディスカウント>>。  それは、ある商品に貼られた半額シールを、別の商品に貼り替え半額にするという、外道極まる手法。  またの名を、詐欺罪。    レジに立つ店員は泣きそうな表情だが、レジ周りの客はざわつくのみ。  店員を助けたいが、証拠がないのだ。  不穏渦巻くレジ周り。   「お客様、どうかなさいましたか」   「なんだ、おめぇ?」    そこに、半額シールのお兄さんが現れた。   「失礼。なにやら、騒がしかったもので」    飄々とした半額シールのお兄さんに、客は先ほどと同じように、酒瓶を突き付ける。   「こいつが!この酒を半額にしやがらねえんだ!見ろ!半額シールがついてんだろ!」   「ほほう?」    レジのお兄さんは、酒瓶を眺める。   「ふっ」    そして、鼻で嗤った。   「何がおかしい!」   「失礼ですがお客様。このシール……貼り替えましたね?」   「なっ!?」    客の表情が、明らかな動揺を見せる。   「てめぇ!何を根拠に!」   「そのシールのギザギザの数、ちゃんと数えましたか?」   「ああ?」   「当店では、お肉には16個、お魚には18個と、種類ごとにギザギザの数が違う半額シールを貼っております」   「な、なんだと!?」   「酒瓶に貼られているシールのギザギザの数は、16個。これがどういう意味か、わかりますか?」    周囲の客たちが手元の商品を確認し、本当だ、私のも、と驚きの声をあげる。   「ぬ、ぐぬぬ……」    立場が悪くなったことを悟ったのか、客の顔が悪くなる。  だがしかし、その瞳は死んでいなかった。   「たまたま……貼り間違えたんだろ……」   「ほう!」    苦し紛れの言い訳に、半額シールのお兄さんの瞳が強く光る。   「この私が!貼り間違える!半額シール貼り歴十年の私が!」   「な……!?」   「教えてあげましょう、私が今まで貼った半額シールの枚数を!」    客が、ごくりと唾をのむ。   「私の貼った枚数は530000です」   「あ……ああああああああああ!!??」    圧倒的な数の前に、客は屈した。  その場に崩れ落ち、膝をついた。  これ以上、酒瓶を半額にしろと要求する気力はないだろう。   「お騒がせしました」    半額シールのお兄さんは、周囲の客に頭を下げ、颯爽と去っていった。    客たちの拍手を、その背に受けながら。

実験

田中がコンビニに入ると、田中の憧れの先輩であり、Fカップはあるであろう巨乳女性の村井さんがバニーガール姿で店員をしていた。 頬を真っ赤に染めながらも、頭に乗っている黒いウサギの耳が彼女のロングの黒髪によく映えていた。 どうも、作者、下見優吾です。 この小説は「実験小説」となっています。 このPrologueというサイトは、小説を並べる際、「タイトル 作者 ジャンル 最初の三行」 の4つの要素を見せますよね。 その4つを見て、読者はどの小説を読むか決めるわけです。 しかし僕は人をタイトル一発で引っ張り込むセンスもなければ名の売れた作者でもない。 そこで考えたんです。 「どんだけ小説の内容に関係なくても、最初に嫌でも目にはいる三行で興味を引き込めれば、こっちのもんじゃね?」と。 いわゆる「サムネ詐偽」とでもいいましょうか。最初の三行に刺激的な言葉を並べることで興味を引き付け、とにかく本編に連れ込むわけです。 よって、「バニーガール姿 Fカップ」という、下世話ながらも刺激的な言葉を並べてみんなの興味を引いてみました! スルーできずにここまで読んでしまったあなたはまんまと引っ掛かったスケベさんですね? 「ぐわっまんまとやられた!」という方は、いいねをおして、引っ掛かったことを僕に教えてくれるといいデータになります! この小説で得たデータをこれからの小説の内容に生かしていきたいと思います。 この度は僕の実験に参加いただき、まことにありがとうございました。

小さな瓶

老いた男は、原稿を鞄に入れた。 そして、最後の一枚を書くためにホテルへ向かう。 「あなたって人は……」 玄関で見送る妻の目は、涙で潤んでいた。 今まで、たくさんの論文を書いた。 学生を前に、熱く語った日もあった。 そう、『生きるとは何か』。 「この論文が最後。私の集大成。生きた証」 ホテルの机に、原稿用紙と万年筆、小さな瓶を置いた。 男は椅子に座り、筆を走らせる。 最後の一行。 『生きることとは……』 静かに筆を置く。 窓の夜景を見ながら、錠剤を取り出した。 妻の顔が浮かぶ。 「今まで、苦労をかけた」 男は小さくうなずくと、掌の錠剤を口へ運んだ。 そして、寝室の扉を開けた。 ──カチャ。 「お客さん、早くしないと時間終わるわよ。 それとも、延長する?」

呼吸装置

私は昼間は大体この公園のベンチに座っている。 大きな木がそばに寄り添っており、日差しはかからなない。 この木が桜なことは今年の春に知った。 滑り台とジャングルジム。砂場。シンプルな公園だが、近くの小学校に通っているらしい児童がみんなでサッカーボールを追いかけ回している。 いつも一人だけみんなから離れ、私の目の前の砂場で城を作っている男の子がいた。 他のみんなと同じ小学五年生くらいだろうか、彼はいつも1人でなかなかの大作な砂の城を完成させている。 そしてその城を必ず壊して家に帰ってしまう。 彼の城の完成を見守るのはいつも私と彼の2人だった。 彼も私に気付いているようで、ひときわ大きな城が出来た日には完成するとちらちらとこちらをうかがい、私はいつもにこりと微笑んでいた。 彼はよほどの職人であるようで、作っている最中に私のほうを見ることは決してなかった。 同年代の友達は一人もいない私だが、彼とは友達、とはいわずとも友情のようなものを感じていた。 今日も私がベンチに座り、サッカーをしている少年たちを眺めていると、いつも城を作る彼が公園に入ってきた。 スコップとバケツを持っているのが見える。いつもの彼の「装備」だ。 しかし、彼は砂場に足を踏み入れると、砂場を飛び越えてベンチのとなりに座った。 なんだろうか。 「ねえねえ、おじさんいつもここにいるよね。」 まさか突然話しかけてくるとは、私は子供だからこそ許される唐突なコミュニケーションに少し面食らったが、彼との対話を楽しむことにした。 「うん。僕はここが好きなんだ。みんな元気に遊んでいて、僕まで元気をもらえる。」 「ふーん。そうなんだ。」 自分から聞いておいて「ふーんそうなんだ」とは。しかし腹が立つことはない。むしろ子供ならではの無意識な生意気さに感心や可愛らしささえ覚えた。 「僕はこんなものをぶら下げてるし、体が弱いんだ。だけど子どもたちが楽しそうだと、なんだか幸せな気分になる。だからここが好きなんだ。」 「おじさんのそれ、なんなの?」 少年が私の鼻から伸びるチューブに繋がった、スーツケースほどの半透明の鞄を指差す。 「僕は生まれつき口で息ができなくてね。鼻でこうやって空気を循環させないと、息ができなくなっちゃうんだ。」 「へえ…苦しくないの?」 「大丈夫だよ。でも、君にこのスイッチを押してみてほしいんだ。」 私は鞄についた赤いボタンを指差す。 「これを押すと、この鞄の機能は止まるんだ。」 「え、それだいじょうぶなの?だって息ができなくなるって。」 「うん。今日は大丈夫な日なんだ。だから押してほしい。」 私は少年の前に鞄を差し出して、ボタンに少年の手を押し当てた。 少年はしばらく私の目とボタンを交互に見て、恐る恐る人差し指でボタンを押した。 「ふう、ありがとう。これで楽になった。さあ、いつものように、砂の大きなお城を作ってくれないか、僕はそれを見るのもこの公園にくる楽しみなんだ。」 少年の顔がぱっと明るくなる。 「うんっ!」 ベンチを飛び降りる勢いで離れ、スコップでザクザクと砂を掘り、バケツにいれ始める。 バケツに砂が満タンに貯まるとひっくり返し、プリンのような形の綺麗な砂の山ができる。 少年は私に背を向けて夢中でプリン山を作る。 私は背後で必死でうめき声を押し殺す。 息ができない。 当然だ。 呼吸装置の電源を切ったのだ。 しかし手足をバタつかせ、跳び跳ねることはしない。 暴れれば少年が気付いてしまう。 そしてこちらを向いてしまう。 それは駄目だ。 彼には城を完全に作り終わり、完全に私の心臓が止まってからこちらをいつものようにニカッと振り返ってほしい。 作品の批評を求めるように。 共に作品を作った達成感を分かち合うようにこちらを振り返ってほしい。 そして見つけてほしい。息絶えた私を。 口から泡を吹き、顔を土気色に染めた私を。 「君がスイッチを押したせいで死んだ」私を。 もちろん彼が罪に問われることはない。 彼がいかに真実を大人たちに伝えたところで、彼は頭のおかしい男の自殺に利用された可哀想な子供だ。 しかし彼だけは覚えている。 私に唆されて自分が装置の電源を切ったことを。 自分の行動が私を殺したことを。 覚えている。 私という存在は彼の人生の中で「死なせてしまった人間」として永久に彼を刺し続けることになる。 私は満面の笑みを浮かべ、砂をバケツに盛る彼の後ろ姿を、あとからあとから喉の奥から湧いてくる泡を体に吹き出しながら眺めていた。 できるだけショッキングな死体になることができるように。

総理、ハラハラする。

地下三階の会議室に、全閣僚が呼び出された。 「大変なことになりましたね」 「これはまずいよ」 重い扉が開き、総理と防衛大臣が入ってきた。 「ちょっと緊急事態でね」 正面のスクリーンに映像が流れる。 その前で、防衛大臣がマイクを握った。 「あの国が不穏な動きをしています」 会議室に緊張が走った。 「何をたくらんでる?」 「おそらく、ミサイルを……」 「うちの防衛システムは大丈夫だよね?」 「はい。着弾することはないと思いますが……こればかりは」 閣僚たちが頭を抱えた。 ──その時。 『ミサイルが発射されました』 緊急アナウンスが流れる。 「とうとう一線を越えたか……」 総理が防衛大臣に視線を送った。 「反撃しなさい」 「はい」 窓際に置かれた椅子に、総理が体を預けた。 「私の判断は……」 涙が落ちた。 「ちょっと、あなた」 妻が声を掛けた。 「また妄想してたでしょ」 「国会も終わったし、ちょっとハラハラしたくて」 「で……私、また死んだの?」

世界の終わり

人生は永遠ではないと僕は知っている。そしてそれは人間である絶対条件。実際僕は30年以上生きていると思うんだ。でも見た目が18歳くらいのままなんだ。しかも、18歳っていう年齢になっている。ずっと。ああ。僕は一体何者なのだろう。そう、僕はエウムという新生物だった。悲しみも嬉しさも感じない。こんなつまらない世界を生きていけるほどの余裕はないんだ。「いつも通りの毎日。変わりのない景色。この世界は、どこにあるのだろう。この瞳に映るのは真実だけ?そんな世の中、都合が良すぎる。嘘も真も映るこの瞳に僕は何を誓うんだろう。つまらないものばかり?そんなことはないさ。君の瞳にはあれが映らないのかい?楽しそうに笑ってるそんな人を見て君はどんな気持ちになるのだろう。ねえ、聞こえてる?僕らの鼓動と足跡探しているのは、ここにある常識じゃなくてまだ知らないことなんだ。永遠の日々、世界はどうなるのだろう。」そう自分に言い聞かせても僕は、つまらないという思いが強まるだけだった。ずっと僕は一人だったけど。もうこの永遠の生活に飽きてきてしまったのだ。 3082年6月6日 いつもの景色・・・ではない。今日は嵐だ。外では出勤する人々が、必死に風に耐えながら歩いていた。僕の家は金持ちで、僕は一生の生活に必要な永遠の金を持っていた。しかも僕はたべなくても生きていける。そして、僕は新生物と化した。いや、新生物だった。あの記憶。それは思想だったのだろうか。僕はどこから生まれてきたんだろう。お母さん・・・いないんだろう。お父さん・・・いないんだ。きっと。僕はこの地球に放り出されたんだろう。ああ。もうやめよう。とりあえず、寝ている間にどんな変化があったのか調べてみよう。これだ。「3082年、世界は大きく進歩した。地震は起こらないようになった。 病気もなくなった。しかし、新たな病気がどんどん増えていっていく。そうループしていくだけなんだ。そして、世界の人口は1京人になった。地球温暖化はどんどん進み、外の最高気温は100°Cそれは日本で起こった。しかし科学の進歩で気温を操ることができるようになった。世界の果てはどこにあるんだろう。世界の果てを知れば、この異常気象を変えることができるかも知れない。しかしそれを僕はまだ知らない。」そう書いてあった。僕もこの世界の果てを見つけてみよう。僕のことについてもっと深く知ることができるかも知れない。 3999年12月31日 やっと世界の果てを見つけた。世界の果てとは地球にあった。そこは南極の真ん中であった。そこにはよくはわからない機械が置いてあった。きっとそこから世界に旅ができるのだろう。僕は体の中に無限に欲しいものが手に入るやつを埋め、機械の上に乗った。すると、家に戻った。しかも書斎に。僕の実験は失敗した。やっとこの世界から離れると思ったのに。ふと書斎に目をやると本が置いてあった。それは見たことのない本だった。しかしそこには何も書いていなかった。すると僕は紫の光の中に入っていた。そこの世界につくと、3999年の超科学も、体の中に埋めたはずの好きなものが手に入る機械も、永遠の命も。そして、僕は普通の人間に戻ったんだ。いや、普通の人になったんだ。するとそこには感じたことのない変な感触があった。そういえば、この記憶がいくつもある。 4000年1月1日 ふとした時、目の前を見るとパソコンが。パソコンを開くと今までの僕の記憶が書いてあった。 2027年3月11日 ここは・・・。スマホを見ると、気づけば僕は2027年の世界に来ていた。僕はきっと時代をループしているんだと気づいた。 ああ。一体僕は何者なんだろう? 『人間が増えすぎた今、エウムという新生物を作り時代をループさせた。メモリーは俺のパソコンに。全てのことは地球の未来のために。』 なに、この声、僕は、僕じゃなかった? 『今回もまた失敗だな。自我を持ってしまった。撤去だな。』 紫の光が、どす黒い闇へと反転した。

書籍Aと書籍Bは似ている

 太郎君は、牛肉と豚肉と鶏肉の区別が尽きません。  花子さんは驚きましたが、理由を知ると納得しました。    太郎君は、肉を食べる時、肉を食べているとしか思っていなかったのです。  今、自分が食べているのは牛肉なのか豚肉なのか、それとも鶏肉なのか、考えなければ区別なんてつくはずもありません。    太郎君は、他の区別もつきません。    読んでいる二冊の本の区別がつきません。  どちらも主人公が頑張るからです。    見ている二つのアニメの区別がつきません。  どちらも主人公が頑張るからです。    買い物をする二つのコンビニの区別が尽きません。  どちらも物が買えるからです。    花子さんは、太郎君に何も教えません。  太郎君が困っていないから。    花子さんは、太郎君に何も教えません。  太郎君は区別こそついていない物の、「この二つは同じ物じゃん」と言わないから。    人に迷惑をかけなければ、太郎君の生き方は太郎君のものです。   「今日は私がハンバーグを作ってあげる」    花子さんはエプロンを巻いて、肉の種類を口にすることなく、料理を作り始めました。

魔薬

 魔女は薬を作る。 それは僕の精神状態を左右する薬なのだがこれがまた劇薬だ。 近くのスーパーに行きレジでお金を払うときに症状が出て身体が震える。 暑さも相まってかなり危険な状態だ。 魔女は解毒薬も作る。 煙草を吸い家で好きなことをしている時に出るドーパミンの作用がそれだ。 バランスをとって薬と毒を僕は摂らされる。 実験台。 運動をして夜眠りしかし嫌なことも体験して脳にダメージを喰らいまた修復してまあその繰り返し。 魔女はサディストなのだろうか? カラスは家の回りで合図を送るが猫はたまにしか姿を表さない。 どちらも魔女の使い。 生まれ変わったらカラスか猫になり魔女に従事するのかしら?

天使と天使

クリニックの診察室。 男は困った顔で、ドクターに話し始めた。 「先生、時々、耳元で声が聞こえるんです」 「それはそれは……幻聴ですね。どんなふうに聞こえますか?」 「天使が二人、右と左で囁くんです」 ドクターはペンを止め、じっと男の顔を見た。 「天使と天使ですか。天使と悪魔じゃなくて?」 「はい。どちらも『自分が天使だ』と言い張ります」 ドクターは笑いをこらえ、咳払いをした。 「いや、失礼。珍しいケースですね。ふつうは善悪の対立があるものですが、両方が天使となると……判断が難しい」 「先生、僕はおかしいんでしょうか」 「おかしいというより、興味深い」 ドクターはカルテに走り書きをしながら、声のトーンを落とした。 「その二人の天使は、あなたに何を囁くんですか?」 「ポジティブな言葉を……『やればできる』って」 青年はうつむき、ため息をついた。 「ちょっと、うざいです」 「……わかりました。では、お薬を出しますから、様子を見ましょう」 「お大事に」 薬剤師から渡された紙袋には、耳栓が二つ入っていた。

神と暮らした400日

妄想現実終了が真逆病とは想像外だった自分的には未々共に暮らしたかった宇宙と神の間で学び悩み揺れた日々も神と居れば自然に笑いが溢れ幸せだった妄想現実今もあの不思議な四次元の部屋で実際に起きた静かで実は無言の声達が 響き騒がしくも賑やかな生活と神に守られ絶対安全安心圏だった四次元の魔法が解けて仕舞った要因は完全NOマークだった病かも知れない しかしあの不思議な400日が有ったお陰で 病の中でも気楽に生きれるのだ実際に聖霊や 神は現存してる真実又何かの切っ掛け有れば 異次元や双子の町に迷い込む事も有るだろう その時迄三次元社会で適切に暮らし過ごそう さすれば何処からか神の無言の声が聞こえて 来るかも知れない

性欲から生み出される

「俺って性欲ないんだよね」    何人目かの彼氏が言ってきた。  正直、前の彼氏も、前の前の彼氏も、似たようなことを言っていた気がする。  安全ですよ、無害ですよって。    でも、結局二人っきりになったら、容赦なく襲ってきた。  だから、今の彼氏の言葉も、半信半疑だった。    私が間違っていたと気づいたのは、付き合い始めてから一ヶ月。  いつまでたっても手を出してこない。  部屋で二人っきりだろうが、彼氏の部屋にお泊りしようが、一切。    これは良い彼氏を引いたと、内心ほくほくしていた。    またまた私が間違っていたと気づいたのは、付き合い始めてから二ヶ月。    彼氏は手を繋いでこない。  ハグをしてこない。  キスをしてこない。   「もうちょっと、スキンシップとって欲しいな」    私が不満そうに口にすると、彼氏も不満そうに言い返してきた。   「付き合う時、性欲ないって言ったじゃん」    目から鱗が落ちそうになった。   「手を繋ぐのも性欲なの?」 「そうだよ? だから、ボディタッチされただけで勘違いして、ストーカーになるやつがいるんじゃん」    その日は、そのまま布団に入った。  布団の中でも、私の頭の中はグルグル回っていた。    男の人ってそうなのか。  だとしたら、男の人が言うスキンシップって何だろう。  私の言う、スキンシップはとってくれるけど性欲をむき出しにしない男って、男の言葉ではなんていうのだろう。    結局、答えは出ずじまい。  男友達に相談しようかとも迷ったが、どいつもこいつも相談されただけであわよくばを狙ってくる気がして、結局一人で抱え込むことにした。

お金借りに新宿に出る

 お金が無いので練馬から新宿に出る。 知り合いが郊外から新宿に来る。 チェーン店の珈琲店に入りお金を借りる。 銀行振込にしろよ、と言う声が聞こえてきそうだ。 昼飯トンカツでも食う?と聞くけど店が混んでるので結局チェーン店の牛丼屋にする。 結局やってること練馬にいるときと変わらない。 知り合いと別れて帰り道。 新宿の高層ビルの下で何か浦島太郎みたいな感覚を味わう。 所々昔と変わっているところ(外国人がやたら増えているところとか)など。 帰りの電車で端っこの車両に座る。 端っこの車両は端っこが好きそうな人達がいるような気がする。 僕も端っこが好き。 牧師さんにはど真ん中行きなさい、と言われたが今日は歌舞伎町には行かなかった。 歌舞伎町4年前にピンサロ行ったな、と思う。 それ当たりの娘だよ、と言われたが暑さでどうでも良かったので券を知り合いと交換したことを思い出す。 暑さの中犬は少し弱っている。

人喰い魔女の初恋

ある所に一人の美貌に溢れた魔女が居ました。その魔女は人間を食うのが好きで、毎日のように人に化け人を魅了し喰らっていたのです。 ある日、魔女は森の中で呟きました。「もっと美しい人を食いたい。」 魔女は村の中で美人と噂される女性や、国の王子様などを一人一人観察し、美しい人を探し回りました。 ですがどれだけ経っても見つかりません。 空腹に耐えかね、過去喰らった死体を食い尽くし、自分の腕までも喰らいました。腕はすぐ生えてくるし、自分の肉なんて美味しくない。そう思った魔女は、誰でもいいからと人を探しました。 一人の男に出会いました。美しいとは言えない外見。美味しくないだろうなと思いながらも魅了し森の中へ導こうとしました。 その男は誰より優しくて、森の中に行きたいと言えば危ないと止め、二人きりで話したいといえば公園に連れて行ってくれました。 色んな人に裏切られ育ってきた魔女は、その優しさに惚れました。もう人は食わない、そう決めて男の元で暮らしました。 幾年経って、男の寿命が来てしまいました。2人の家で、男の手を握って目を閉じる瞬間を見つめていました。最期にくれた言葉は「愛しているよ。」でした。 「なぜお前は人喰いの魔女に、なぜそんな美しい言葉をくれるんだ。早く食ってしまえばよかった。そうしたら、きっとこんな気持ちには出会わずに済んだ。」 魔女は男の傍から離れ、一人森の中で泣きました。声を出して泣きました。 「どうか私を、許してくれ。」 その時、一人の天の声が魔女に向かってこう言いました。 『お前が死んだら許してあげるよ。』 魔女は天に向かって手を伸ばし、天に授かりし棘のあるバラの茎で、自分の首を刺したのでした。

七月十一日

 また夏が来た、と思います。  日差しがうんと強くなって、エアコンの温度もうんと下がって、朝方にヒグラシが鳴き始めました。地元の球場では高校野球の試合が行われています。  平年と変わりなく、何が起こることなく終わるであろう夏が始まりました。  いつもと違うのは、酷暑日という言葉が生まれたくらいでしょうか。八十一年前のこの日には、この街は既に焦土と化していました。  毎年同じようなことを思います。

尊厳死還付支援金等に関する法律

第一条 生命維持装置および死亡に至るまでの薬剤注入を行う際は、医師の指示に従い、本人、家族または後見人が装置の電源の入切操作を行うものとする。 第二条 前条の行為について、国および医療機関は一切の責任を負わない。 ある晴れた日の午後、六十九歳になった男は、届けられた封筒を開けた。 「いよいよか……」 男は決められた書類を揃え、相談窓口へ向かった。 「どうぞ、お入りください」 物腰の柔らかな女性が声をかけた。 「ご覧になりましたか」 「はい」 「では、率直にお答えください」 「迷ってます」 「皆さん、最初はそうおっしゃいます」 女性は微笑みながら、うなずいた。 「流れを教えていただけますか」 「はい。もちろんです。尊厳死について理解していただけたら、今までお支払いになった年金を全額お返しいたします。そして、政府から少額ですが、お祝い金が支給されます」 二十年ほど前、政府は『尊厳死還付支援金等に関する法律』を成立させた。 「サインしないとどうなりますか」 「はい。今まで通りの生活をされてください。個人の自由は保障されます」 「もう一ついいですか」 「はい?」 「痛いですか」 「いいえ。薬剤を入れると、眠るように……」 男は目を閉じた。 部屋には、空調の音だけが聞こえていた。 「まだ時間はありますから、よくお考えになってください」 自宅に戻った男は、畳の上に横になった。 返金額が書かれた紙を取り出し、天井を見上げた。 そして、深いため息をつく。 台所には昨夜の食器がそのまま置かれていた。 一ヶ月後、男は窓口へ向かった。 「どうぞこちらへ……お決めになりましたか」 「……はい」 男の少しこけた頬が、静かに笑っていた。

時代遅れとアンティークは紙一重

「お客様、こちらの機種でスト、修理よりも買い替えをお勧めいたします。こちらの最新機種のエアコンはいかがでしょうか? AIによって、最適な室温を自動で設定してくれます」 「修理で」    どこにでも、古い物を使いたがる客はいる。  年寄りに多い。  正直、理解ができない。   「かしこまりました」    しかし、仕事である以上、承諾するしかない。    修理の手続きをしつつ、絶対に間違った買い物だという感情を捨てきれない。  新機種を売りたいから言っているのではない。  心の底から、時代遅れの物を使い続けている客が可哀想でならないのだ。  時代に取り残されるというのはこういうことかと、強く思った。   「では、これで契約は完了となります。後日、担当者の方から日程調整のお電話を差し上げます」 「はーい。ありがとね」    社用車に戻り、書類に目を通す。  書かれた電話番号は、固定電話の番号。  ここにも古さが残っていたかと、ため息が出てしまう。    古い物は全て駆逐されるべきだとまでは言わない。  しかし、利便性が高まるのであれば、もっと新しい技術を取り入れてもいいのではないかと強く思う。       「戻りましたー」 「おう、お疲れ」    会社に戻ると、社長は上機嫌で皿を磨いているところだった。  千九百年代にアメリカで流行った銀の皿らしい。  使うのがもったいないからと、机に置物として飾られている。    上を見上げれば、事務所の壊れかけたエアコン。  異音を出しているが、経費が掛かりすぎるという理由で、今年も交換が見送られ、自分たちで丁寧に修繕をしてこき使っている。   「これ、契約書です」 「おう。判子押しとくわ」    社長の机に書類を置いて、自分の机へと戻る。  そろそろ判子を止めて欲しいと何度も思ったが、社長はやめる気がないらしい。  古い。   「あー。ちょっと、休憩」    コーヒーを入れて、椅子にだらりと背を預ける。  目に光が当たったので、何事かと振り向けば、社長の机に置かれた銀の皿が光を反射していた。  目をこすりながら一瞬皿を恨むが、すでに手に入らない美しさを前に、怒る気も起きなかった。    ごうごうと唸るエアコンを聞きながら、ふと思った。  古いエアコンにはさっさと引退を望むのに、古い皿には美しさを感じてしまうのは何故だろ、と。    時代遅れとアンティーク。  その線引きはどこにあるのかと、コーヒーに口を付けた。    何十年も変わらぬ苦みが、ぼくの口の中を潤した。

鍵のついた本

川沿いにある骨董屋。 白髪交じりの女が、奥の椅子に腰掛けている。 ──ギィー、ガチャン。 男が入ってきた。 店の中をゆっくりと見て回る。 そのとき、壁の戸棚に目が止まった。 「これは何ですか」 「知らん」 「売り物ですか」 「あぁ」 男は、戸棚から一冊の本を手に取った。 「鍵つき…鍵はありますか」 「ない」 表紙を眺めながら、しばらく迷った。 そして、安くはない金を払い、店を出た。 帰り道、鍵屋を探す。 「すみません。この鍵、開けられますか」 店主は本を手に取り、鍵穴をレンズで覗き込んだ。 「これ、無理に開けるより鍵作ったほうがいいな。どうする」 男は、鍵を作ってもらうことにした。 そしてまた、安くはない金を払った。 郊外の一軒家。 部屋には、趣味で集めた骨董品が並んでいる。 机の上に本を置くと、小さく深呼吸をした。 ──カチ、カチ。 鍵を回し、重たい表紙を開いた。 「二百年前か…」 最初のページには、日付と「予言書」の文字があった。 男は、ゆっくりと時間をかけて読んだ。 すべてを読み終えると、本を抱えて家を出た。 ──ギィー、ガチャン。 「これ、買い取ってくれ」 「安いよ」 女はカウンターに、わずかな金を置くと、 戸棚に本を戻した。 「予言、全部はずれだったぞ」 「知らん」 店を出た男は、持っていた鍵を川に投げた。 川の底には、同じ形の鍵が、キラキラと光っていた。

ズっちゃんと僕:夏空とレモネード

雨上がり、草たちの匂いが強い。暑さを読み間違えた僕たちの手は、それぞれの水筒に伸びていく。 「夏空にはレモネードだよね」 言ってズっちゃんは、自分の水筒を僕に差し出す。 「え、いいの?」 「飲んで、飲んで」 「ありがと」 けど、ひと口でびっくりした。 「うげっ …何これ?」 「梅干し水」 「レモネードじゃないじゃんか」 「レモン、家になかった」 「だからってテキトウに」 「へへ」 無理すれば飲めなくもない梅干し水に、もうひと口つけようとする僕をしり目にズっちゃんは、僕の水筒をその気配も感じさせず容易に奪っていく。 「なか何?」 「飲めばわかると思うよ」 僕の返答を最後まで待てなかったみたい。ズっちゃんはさっそく口にもっていく。 「お。おおっ」 「どう?」 「レモネードじゃ~ん」 「気に入ってくれたんならよかったよ」 あらかた飲むだけ飲んでから、ズっちゃんは水筒を僕に向けて言う。 「またつくってくれたら飲んであげてもいいよ」 まったく、やれやれだな。なんて、こんな暑い夏の日も、あんがい悪くない。

死ぬ権利

ある政治家が緊急記者会見を開いた。 真剣な面持ちでマイクの前に立つと、集まった記者たちに一礼した。 「私は、国民の皆様の死ぬ権利を保証します」 政治家は動じず、淡々と語り始めた。 「我が国の医療費は年々増加しています。私は、医療費削減のため『尊厳死還付支援金等に関する法律の一部改正を認める法案』を国会に提出しました」 ざわつきの中、政治家は続けた。 「医学的に延命治療が不可能な患者様が尊厳死を選択した場合、延命を続けたときにかかる医療費の半分を還付金として支給します。 申請の妥当性は、AIのみで構成される第三者委員会が判断します。本人、家族、後見人等が尊厳死を理解し、同意することが前提です」 テレビの画面を見つめる女。 その隣には、長い間管につながれたまま眠り続ける夫がいる。声をかけても反応はない。そんな時間が一年を超えていた。 テレビの司会者が、評論家の女に質問した。 「あなたの立場から、今の社会の風潮をどう考えますか?」 「最初は倫理的にどうかなと思いました。でもね、家族の金銭的、精神的負担を考えるとね。国も医療費を減らしたいと思っている。時代の流れかしら」 法案は成立し、運用が開始された。 AIは、不正申請や悪質な養子縁組なども瞬時に判断した。 その実績を政府は大々的に報道し、制度の正当性をアピールした。 あの政治家が再び記者会見を開いた。 「政府は規制緩和の一環として、支援金の有効活用を目的とする民間企業の商品開発、および第三者委員会のAIの一部利用を許可します」 感嘆の声が会場に響いた。 支援金は国民の生活に変化をもたらした。 「故人からの最後の贈り物」として美化され、生活の一部となった。 夫婦の病室。 温かいタオルで夫の体を拭く妻。 医師やAIからは、すでに受理のサインをもらっていた。 署名をすれば終わる…。 妻が机の上を見つめた。 そこには、笑顔で寄り添う二人の写真が飾られていた。

虹ノ湊

―もう、見えんくなっとうよ 飲み干したラムネの瓶をかざす 指先に残る雫の冷たさだけが 灼ける肌の熱を静かに奪っていく ―そっちゃね、さっきまで、あんなにすごかったとにね 空に置かれた絵具は、もう淡いおもかげでしかない ―ね、これ、持って帰れると? ―どうやろか、なんもなく見えるとよ ―そっちゃね、からっぽね 目を閉じても、あの刺すような透明が焼きついて離れない 深い水の谷間へと深くもぐりこんだときのような 耳の奥がツンとする沈黙 ―寂しくなか? ―んん、けど、まぶしかね ―ね、帰らんとね 瓶の底で、ビー玉がからんとつぶやく 見上げた先には、言葉にするのが意味のないほど 深く、底のない夏がどこまでも広がっていた ―行こか、待っとうよ、青が 波のざわめきのすきまに、新しい季節の兆しがあった

まかない一つ

「まかない一つ」    妙な客が来た。  メニューにない、まかないを注文するなんて。   「すみませんね、お客さん。まかないは、従業員向けにしか作ってないんですよ」 「ええ! でも、天むすってまかないから生まれたし、つけめんもまかないから生まれたじゃないですか。まかないを客が食うなんて、よくあることですよ」    詳しい。  なんだこいつ、まかないマニアか。  しかし、だからといって、うちがまかないを客に提供する理由にはならない。   「お客さん、何度言われても駄目なものは駄目なんです。確かにそういう例はあるのかもしれないですが、うちではやってないです」 「そこをなんとか!」    両手を合わせて頼んできた。  何故、そこまでまかないを食べたいのか。   「駄目なものは駄目」 「この通り!」    ついに土下座まで始めた。  一体何が彼をここまで突き動かすのか。   「……なんでそんなにまかないを食べたいんですか」 「ほら、俺ってこの店の常連じゃないですか」    待って、記憶にない。  この客、常連だったっけ。  まかないまかない五月蠅いから、今日から出禁にするつもりだった。   「はあ」 「もうこの店の全メニュー食べ終えたから、他に食べたことないのって考えたら、まかないだって思って」    納得した。  全メニューを食べたから、常連を自称していたわけか。  うちのメニュー、ラーメンと餃子とチャーハンしかない。  しかも、だいたい皆、ラーメンと餃子と半チャーハンのお得なセットを頼む。  全メニューを食べたら常連なら、客のほとんどが常連だ。   「しかたねえ。作るよ、まかない」 「本当ですか!」 「その代わり、あんた今日で出禁だから」 「構いません! どうせ全メニュー制覇したら、来ないつもりでしたし!」    おい、ふざけんな。  まあいい、どうせ出禁になる客だ。  厄介客には、最低限の言い分を聞いて、さっさと帰ってもらうに限る。  俺は中華鍋を振るって、さっとまかないを作り上げた。   「へい、お待ち」 「……なにこれ?」 「メンマ丼」 「ラーメンじゃないんかい!」    まかないを見た客は不機嫌そうだったが、一瞬で平らげ、店を出て行った。  ああ、ようやく店に平和が訪れた。  開放感でいっぱいだ。    俺はメンマ丼の器を下げて、次の客の注文を待った。  次は、まかないを寄こせなんて言わない客が希望だ。       「ご覧ください。こちら、メンマ丼発祥のお店です」    後日、なんか流行った。  本当に、人生どうなるか分かんねえもんだ。   「では、メンマ丼を頼んでみたいと思います。すみませーん! まかない一つ!」 「まかないは、従業員向けにしか作ってないんだよ!」    廃業すっか。

時刻

そのときが近づいても 駅には私だけ そんなのいつものこと でも、それも今日まで 新しいステージがはじまるかな どうだろう さて、そろそろ 死神が来る時刻だ

飛ぶことさえできない鳥は

飛ぶことさえできない鳥は いちごの葉に隠れたトンネルを あっちの世界へと歩いていきます トコトコトコトコ歩いていきます そこは 飛ぶことさえできない鳥の暮らす世界です 飛ぶことさえできない鳥が その世界でしあわせに暮らしているのかは 誰も知らない秘密です

君の残滓

 細やかな風が、吹き抜けた。  火の根は落ちぬまま、ただ空を照らす。  去りし夏の背を、君と二人で眺めている。 「綺麗ね」  と、鮮やかな声が響く。遅れて鳴った振動に、僕らは心を震わせた。  見上げるままのその腕はどこか寂しそうに、行き場もないまま指先を撫でる。  伸ばしかけた腕は見せず、そっと僕の中にしまい込んだ。  どうかこのまま、悠久に続いてしまえばいいのに。  終わらなければいいのに。そう願った。  宵の月明かりに、そっと照らされていた。  そんなあの景色を、今更になって思い出していた。  -  手に握っていたのは、君の髪飾り。  いつもそばで視界を彩っていた赤色は悲しそうに、僕の手の中に収まっている。  視線を上げた僕の目の前には、いつかの様子で涙を流す君の姿があった。 「ごめんね、ごめんね」  君は悪くないから、謝らないで。  お父さんの仕事の都合なら、仕方ないって。  そんなありふれた言葉は、喉の奥から顔を覗かせることはあれど、出てくることはなかった。  それはきっと、僕も君と離れたくなかったから。  強がりが僕に負けてしまったから。  君と同じように涙が出なかったのは、きっと僕からのほんの少しの情けなのだろうと思った。 「……きっとまた、会えるから」    手を握った僕から零れたのは、たったそれだけ。  無責任に君の心を掴んだまま、いつか滑り落ちてしまうなんて、疾うに僕は知っていた。 「うん、そうだよね。また、会えるよね」  褪せるほどの声で静かに、小さく願った。  そして僕は君を見送った。見慣れた赤色が離れていくのを、見送るしかなかった。  走り去るその窓からはもう、君は僕を見ていなかったことを知った。  いつまでも縋っていては呪いになってしまうから。  ひとつ、息を吐いた僕は、手に残った君の残滓を眺めていた。      空に咲く花を見つめたあの場所で、君との繋がりを今も優しく握っている。  思い出すのは、あの季節の匂い。温度。目に入る赤色。  眩しくて目を閉じてしまったこと、君の光を遮ってしまったことを、今になって少し後悔した。

厨二病です

「んー、厨二病っぽくね?」 「あんたは厨二病っしょ!」 友達同士の会話に流れ着いた話題は 『お互いのイメージ』 そういえばこの前、そこまで人気でもない、 無料配信アプリで話したときも、厨二病の話題が出てきた。 その時は、キャラ付けって大事だよね、 という話だったが、 友達は時々私の事を厨二病っぽいというので、 配信で一度やった厨二病の真似が影響している訳でもなさそうだ。 私に厨二病の要素はあるのか。 ・・・そういえば、正夢をよく見ると言ったことはある。 でもそれは事実だ。 嘘じゃないから厨二病じゃない。 あ、念を込めてじゃんけんをすると、必ず勝てると言ったこともある。 言われてやろうとすると強い念は込められないし、 精神力かなにかを使うので連続では出来ない。 実際念を込めてやって、負けた事はない。 これも、嘘じゃないから厨二病じゃない。 他にも事実を言った事はある。 でもきっと、そういう事実を私が話すことで、 私は厨二病に成ってしまうのだろう。 「・・・え、どこが厨二病?笑」 「んー、なんか、雰囲気?」 「オーラというか、概念が物語ってるんよ」 私が話したことで、イメージが定着したのだろう。 でも、厨二病と言われるこの事実で、 本当に厨二病と言うのだったら、 私はきっと厨二病なんだろう。 正夢を見た。念で勝った。強い勘が当たった。嫌な予想が当たった。 特に1番あるのは正夢だ。 正夢を私は見るから、厨二病から抜け出せない。 でも、何の生きがいもないつまらない人生に、 正夢を見たという事実と少し上がってしまうテンションが、 きっと私には必要なんだ。 見覚えのある行ったことない場所。 夢で見たビジネスホテルの中。 ちょっとした抽選会で2等が当たったこと。 私は、この人生は繰り返されているんじゃないかと思ってる。 だってこんなにも既視感がある。 ・・・この文章だって

甕(かめ)の底

祖母の蔵で、封を切っていない甕をひとつ見つけた。 底に「開けるな」とだけ書かれた紙が貼ってあって、字は祖母のものではなかった。もっと古い字だ。たぶん曾祖母か、それより前の誰か。 蔵は日が入らないから、夏でもひんやりしている。米袋の匂いと、糠と、微かに酸っぱい発酵の匂いが層になって沈んでいた。あの甕だけ、埃の積もり方が違う。触れていないのに、誰かが毎年拭いているみたいに。 祖母は生前、あの甕のことを一度だけ話した。「あれは飲むための酒じゃない」と。それ以上は聞かなかった。聞いてはいけない気がしたし、祖母もそれ以上言うつもりはなさそうだった。 葬式が終わって、家じまいの算段をしているうちに、結局わたしが封を切った。理由なんて特にない。ただ、誰も見ていない蔵の中で、あの紙をめくってみたくなっただけだ。 木の蓋は思ったより軽かった。中身は酒には見えなかった。もっと暗い色で、粘度があって、匂いは酒粕に似ているけれど、何かが違う。金属みたいな、それとも血みたいな……。 甕の底、指先で触れられるくらいの深さまで、文字が彫ってあった。彫ったというより、掻いたという方が近い。読めない字も多かったが、読めるところだけ拾うと、人の名前が並んでいるようだった。何人分か分からない。少なくとも、うちの家系図には出てこない名前ばかりだった。 その夜、蔵の匂いが体から抜けなかった。何度風呂に入っても、糠と酸っぱさが皮膚の下に残っている気がした。 翌朝、甕は空になっていた。 蓋は元通り閉まっていて、紙も貼り直されていた。字はやっぱり祖母のものじゃない。でも、今度はわたしの字にも見えた。 それから、家族の誰にもこの話をしていない。米を研ぐたびに、水が少しだけ重く感じることがある。それだけだ、と思うことにしている。

夏三拍子

 今日、セミが鳴いた。地元の人に聞けば昔から変わらず、今くらいに鳴き始めるのだそう。ジリジリと鳴くその声は、今夏のはじまりをより一層ひきたてている。そんな日差しを歩いていると、影がストンと真下に落ちて、私の立体感をひきたてているようであった。  汗が背中とシャツの間を伝ってベルトに締められたズボンへ染みていく。拭うこともできないもどかしさが、どこか心地良い。足は軽さを増していく。  住宅街を抜け商店街を巡り、風鈴など一つも提げられていない街の隅で、青くはためく氷を見つけた。店構えは質素なもので、今を流行る洒落たものなど一つもない。木目の目立つ柱に張られたお品書きにだって、シロップの名前が単調に並べられているばかり。 「ブルーハワイひとつ」  夏といえばやはり、ブルーハワイ。そう凝り固まったものに突き動かされ、小銭を取り出し店主へ受け渡す。小さく頷いた店主がやや緩慢に思えたのは、鳴き続ける蝉が忙しないからだろうか。  奥で氷を削る店主の傍らに、小さな丸いものを見つけた。艶やかなガラスに赤や薄青の濁りが透けて、てっぺんから輪っかになった糸がつながるそれは、たしかに風鈴だった。  細くはない腕でジャリジャリとかき氷機のハンドルを回す店主の邪魔になるかとも思いながら、私は耐えられなかった。 「その風鈴、今はもう提げないので?」  店主はふっと腕を止め、振り向いて風鈴に目をやる。そういえばこんなのも置いていたか、というふうに。 「いえね、親父の代から提げてはいたんですが、ちょっと前に厄介なのが近所に来たんですわ」  曰く、風鈴の音がうるさくてかなわない。キンキンと鳴るそいつを降ろさなければ、SNSにこの店を酷く書き込むぞ、と氷を再び削りながら店主は大まかに事を教えてくれた。  ほぉ、と息をつく。 「もうそいつは居ないんですが、いかんせん、またそういうトラブルが起きないとも限りませんし」  勿体ない。どうしてかは分からないけれど、そう思う。店主の苦笑いを見ても、やはりそう思えてならなかった。 「夏は日差しにかき氷、蝉の声と来て、あとは風鈴でもあればよかったんですがねぇ」  店主が私の目を見る。私もまた、戸惑いが残る店主の目をまっすぐ捉える。庇が覆えなかった光にジリジリと焼かれながらそれを待つ私に、店主は笑いを漏らす。  少しして、青いシロップがかけられたかき氷がふたつと、店主が表に顔を出した。その手に持った風鈴を庇の端に吊るすと、一度奥へ戻って再び表へ出てくる。今度は椅子がふたつ、並べられた。店主は片方へ腰を下ろし、私もまた、熱せられたズボンを椅子へ着ける。店主はかき氷に手を付けた。  庇に遮られたわずかな影のなかで、かき氷に舌を冷やす。蝉はジィー鳴き、ひとたび風が吹けば風鈴がチリンと鳴く。  夏がやってきた。

見えない糸

「ちょっと見えない糸さがしてくる」 キミは立ち上がり 私の横に座り直した 困惑する私の手を取ると 小指のあたりを熱心に眺めはじめた

うわの空

付き合いはじめてから どうにも心ここにあらず こらえきれない想いが そうさせるんだな あふれる気持ちのまにまに 今日も、めいっぱい うわの空を加速させていく もう、夏休みでもいいのに

猫、知りませんか?

この辺りにいた猫、知りませんか? ええ、そうです、茶色の しっぽが短くて そうですか、見てませんか 見かけたら教えてください これ私の連絡先です 猫を見かけなくても連絡してくれていいですよ お待ちしてます

無料なら貰う

「そのジュース、好きなの?」    ぼくの質問に対し、彼女は無感情な目でぼくを見てきた。   「別に欲しくないけど、無料なら貰う」    彼女の言葉通り、以降の彼女はコンビニでそのジュースを見かけても、決して買うことはなかった。  飲むのはいつも、無料で貰った時だけ。    彼女は、無料を愛する傾向があった。    使っている筆箱は、営業からもらった粗品。  持ち歩いているポケットティッシュは、道端で配っているもの。  愛用のエコバッグは、親からもらったおさがり。   「欲しい物とかないの?」 「別に」 「エコバッグ、このデザインとか可愛くない?」 「可愛いね」 「買わないの?」 「持ってるし」    ケチと呼ぶほど、過度な節約をしている訳でもない。  定期的に旅行へ行くし、狭いお風呂に嫌気がさしたら銭湯にも行くらしい。    ナイフとフォークを綺麗に使って、目の前でご飯を食べる彼女。  最近は一人で外食に行くのを止めた彼女。  ふと気になったので聞いてみた。   「最近は外食止めたんだね」 「うん。たまに君がご馳走してくれるから」 「ぼくと付き合ってるのって、お金目当てってこと?」 「そんなことないよ。自分で払ってもいいし」    彼女は何もねだってこない。  高級ブランドの鞄を躱されたという友達の話を聞く度に、なんていい彼女なんだと感動していた。  ネットで話題になるイタリアンファミリーレストランに連れて行った時も、不満一つ零すことなく、満足そうに食べていた。   「別れたいって言ったらどうする?」 「別にいいよ」 「付き合い続けたいって言ったら?」 「別にいいよ」 「付き合うことは無料だから?」 「うん」    体の上をはいずり回る違和感の正体に、ようやく気づいた。  彼女は、お金では測れない価値というものに無頓着なのだ。    楽しいから一緒にいるという概念さえ、無料だから一緒にいるという概念に置き換えてしまっている。    それは間違っていると言いたかったが、何が間違っているのか言葉にできなかったので、開いた自分の口にはハンバーグを入れておいた。   「美味しいね」 「うん」    空っぽになったお皿を見て、ぼくは試しに言ってみた。   「今日は、割り勘でもいい?」 「いいよ」 「ごめん。やっぱりぼくが出す」 「ありがとう」    不満を溜め込んだまま、別れを切り出すこともできない自分への罰として、ぼくはいつも通りに財布を出した。

つま先

つま先で立って バランスが悪いからと 僕の肩に手を置いて 「おんなじくらいねえ」 ない胸を張って 決まってキミは 「へへへ」 って、言って笑うよね

僕の色

 キレイと思うのは決まって青で、ステキと思うのも青だった。赤や黄色に、まぶしいと思うことはあってもキレイと思ったことはない、もちろんステキとも。紫はちょっと変わり種で一時期、夢中で追いかけた。色自体に惹かれたのか、紫という名前に惹かれたのか、そのあたりは自分でもよくわかっていない。  現国の先生の名が村崎と知ってどきりとした。平凡な女性教師が、その瞬間からひどく神々しく感じられた。人の文章を読むのが気分になじめず、成績にしても芳しくない。成績を上げることより先生に気に入られたくて勉強をがんばった。  村崎先生がよく、教室の窓を開ける。若い汗のにおい、早弁のからあげの油っぽさ、女の子がこっそりつけてるフレグランスの淡い雰囲気。悲喜こもごも相まって、それらがドアを開けた先生に、音もなく、カタチもなく、覆いかぶさってくる。 「空気、入れかえましょうね」  ぷくっと微笑んで先生が窓際に向かう。ぶわっと短い音があって風がカーテンを大きく躍らせる。ひとしきり舞って疲れた白い布は、充電が切れたみたいにぱったり静かになる。風の切れ目が想いの切れ目。不純な動機の成果なんて想いほどにはならないものだ。先生の覚えにしてもめでたくなかった僕の気持ちは、紫色に対しての執着と一緒にあっさり風に流されて……  風が吹いてきたあたりを見る。青い空が僕のことを見つめている。七月の青い空は、キレイで、ステキで、僕にふさわしい。

対岸の彼氏

対岸ではふたりの女子高生とひとりの男子 「彼氏?」女子高生の問いかけに「うん、松岡くん」もうひとりの女子高生はあっさりと 「マジか」 「へへへ」 「どっか行ったりとか?」 「まだ」 「間もない感じ?」 「先週から」 「ほやほやかあ」 こんな会話があったのかもしれない   彼氏なん? 聞かれて少女あっさりと     うん、松岡くん え? 俺そうなん?

少しだけ

「いいのか?」 「いいよ」 私が言うと、アイツは一歩、近づいて―― でも、たぶん、躊躇いがあったのかもしれない 私とアイツの唇は 少しだけズレて重なった

背中の見方

下町の路地裏。 伝統工芸職人の男と、その妻が暮らしている。 「あなた、また来てるわよ」 「知らん。ほっとけ」 弟子入り志願の若い男が、玄関の脇に立っていた。 「弟子にしてください」 職人は気にせず、木槌でノミを叩いた。 「どうせ、続かん」 「話だけでも聞いてあげたら?」 次の日も、また次の日も。 若い男は、玄関の前に立った。 ──ガラガラガラ。 「入れ」 「ありがとうございます」 「続ける自信は?」 「死ぬ気で頑張ります」 妻が頬を緩めた。 「二階の奥の部屋を使って」 若い男は作業着に着替えると、職人の後ろに座った。 「師匠の背中を見て、精進させていただきます」 深々と頭を下げた。 職人の木槌を振る手が止まる。 そして、壁に貼ってあるQRコードを指さした。 「それ、俺の動画。それ見て覚えて」 「動画、私が撮ったのよ」 二人は、顔を見合わせて笑った。

うつろな視線のその先に

あ、壁ドンきそう 素早く脇に避けた わたしの後ろでマヌケに ドン 音をさせた本人は 呆然と壁を見つめている 壁と話してるみたいなその男子の目 死んだ魚みたいにチカラがなくて 男子のうつろな視線の先には渋いポスター 創作落語用の台本を募集してるみたい 集まりが悪いんだって 何か書いてくれないかとわたしにも声がかかった 「書いたことない」 「なんだっていいんだ」 なんだっていいわけないことを言われ まったく書く気にならなかった なんだっていいなら 何も書かなくってもいいんじゃない? だからみんな書かないんだよ そう言えたら、どれだけいいか   青春の 言葉のうえに あぐらして     しかし何かを 成したと言うのか

お狐さまと暮らす特に何も起こらない日常:12

【そして引っ越し、でもね、お稲荷様のせいばかりではないのだと思いながらも、やっぱり冷蔵庫のなかは油あげでいっぱいだ】  トゲが抜けると、いままで止まっていたものが一気に流れ出した。あれだけさがし回っても見つからなかった引っ越し先があっさり見つかった。となりの街の、お稲荷様の横の一軒家。僕にしてもお狐さまにしても、住み慣れた街を離れるのは苦しい選択だったけど、下見に行ったときお狐さまが「落ち着くことよなあ」としきりに言っていたのもあってそこに決めた。もちろん、となり街にもスーパー「39ベリマッチョ」はある。  神社の背景にはやや似合わないシロツメクサがわんさと生えている庭で、お狐さまは毎日ひとつ、四つ葉をさがすのを、引っ越してから日課にしている。 「今日も見つけたの?」 ―うむ。わけはない  お狐さまは見つけてきたその四葉のクローバーを、ジャムをたっぷりのせたパンの上に置き、あまりにも無造作に口へと運ぶ。 ―どうした? 「なんか、いいなあって」 ―ん。四葉のことかな? 「うん」 ―ならば明日、余分にとってきてやろう 「それはいいよ」  目だけで「こういうのは自分でとらないとって思うから」と僕は答える。 ―うむ。そのとおりじゃな  いつものように表情だけでお狐さまは応じ、ミルクティーに口をつける。  僕とお狐さまの、特に何も起こらない一日が、そうやってはじまっていく。