事件ファイル

〇〇年〇月〇日少女誘拐殺人事件 今から十年前にあった、事件の調査ファイルを手に取る 今日は仕事がなく、やることと言えば、この探偵事務所で、依頼者が来るのを、釣り人の様に、気長に待つより他はない 先輩も今は、私用で出かけている この事務所に、一人きり、特にやることも無く、ゴロンとソファに横になっている 先輩のデスクの上にいつもある、この調査録は、先輩が個人的に、興味があって調べていると言っていた お前も読んで、意見をくれよ、とも。 ファイルの中は、新聞の切り抜きと、ノートがある 寝ながら読もうとしたが、資料がポロポロ落ちてくるので、仕方なく座り、ファイルをめくっていく。  いくつかの新聞の切り抜きを読む  女子高生が誘拐された当日の様子や後日、発見された様子などが書かれている 先輩の調査ノートの方には、新聞の内容をまとめてあるページがあった   14:00  母の証言によると、少女は、その日、高校の中間テストを終え帰宅し、昼食を済ましたあと、友達と遊んでくると母親に告げて出かけた 17:00 その日の門限の17:00を過ぎても少女は家に帰らず、母親は友達と話し込んでいるのだろう。と思い、特に気にすることはなかった。ただ、今まで門限を過ぎた事はなく、連絡もないことから、変だなと言う違和感は感じていた。 18:40 父親が帰宅し、自宅の駐車場で、娘の自転車が無いことを確認する 母親に事情を聞いた後、母親に、娘の友達へ連絡をさせる 電話を受け取った娘の友達は、今日は会う予定ではないし、下校後は会ってないと言う。その事は、友達の母親にも確認済みである 19:00 父親は母親を自宅に残し、自宅周辺から繁華街の方まで娘を探す 時折、自宅に電話をし、娘が帰宅していないこと、連絡が無いことを確認している 21:00 父親が警察へ連絡 警察の捜索が始まる。警察の方も最初は街の巡回程度で一度目の捜索を終える 翌4:00 父親が警察へ連絡 父親からの連絡を受けた警察は、もう一度、巡回パトロール中の警官へ連絡をする。 街で騒いでいた少年達を補導中の警官から、該当する少女を見たと言う少年がいると連絡が入り、事件が大きく動きだす。 事務所のドアが開き、コンビニの入店のメロディーが流れる 依頼者だ 電話やメールでの依頼もあるが、依頼者のほとんどは飛び込み客である。 心理的に、信頼出来る人間かどうかを実際に目で見て確認したいのだろう。 デスクの上にファイルを戻して、依頼者をソファに促す お茶を入れている間に、何の依頼かを、推測する ソファには、YOSHIKIの様な御婦人が足を組んで座っている

成増

 板橋の成増である。 ドン・キホーテにショッピング。 知り合いの女の人に上納する。 今日の上がりはいくらだろう?

こびりついてつ取れない染みのようなもの

疲れた日の翌朝に、悪夢で目覚める癖がある 例えば、散々スマホの前で一人コントをまとめ撮りして、確認すれば録画出来ていなかったり 眠い目を、擦りながら、動画を編集していて、最後の最後で保存せずデータを消してしまったり そんな日に眠った後に、嫌な夢を見てしまう 夢の内容は毎回変わらないのに 俺は夢の中でも泣いている 子供の頃 父が数カ月いなくなったことがある 俺は誰もいない家から小学校へ通う日々が数日続き、冷蔵庫に食うものがなくなって、始めて先生に「父が帰ってこない」と伝えた 数カ月後 父は知らない人になって帰ってきた 俺の顔を見ても、道ですれ違う他人を見るように、直ぐに視線が外された 父は自分の事も分からなくて 子供の俺は、その日から、知らない大人と暮らすことになった 父は毎日家にいて 親戚のおばさんが毎日家に来てくれて 父に家事を教え 父に職場へ戻る手伝いをしてくれた 父は無垢な少年の様に 習った事は何でも覚えていったが 唯一、仕事だけは嫌がった 「あんなに生徒思いだった人なのに」と よくおばさんは愚痴を漏らしていた あの頃、どうやって生活をしていたのか分からない 毎日、何とか食べるものを探して、あればラッキーと思うような日々だったと思う ある時、父が音楽にハマった 時間が空くと、ラジカセの前に座り、永遠と音楽を聞いている 話しかけても、振り向いてくれない事が多かった それは、音楽を聞くと言うよりも、藻掻いている様に見えた 音楽を聴くことで、始めて呼吸が出来た。そんな、必死さが感じられた。 父が最も好きだったのはXJAPANの音楽だった。 その頃を夢に見てしまう 泣きながら父を探している頃を。

Wednesday✕サボテン

ベッドの上に、上着を三つ置いたまま、腕を組んで、それを見つめているキャップの彼 晴れた朝、仕事もなく、家で過ごす休日に、彼は、何を着ようか選んでいる 昔の彼女が置いてった、吹き出しみたいなサボテンに、朝の水をあげようと、その場を離れてみたりして また、戻ってきては、腕を組む 今日は、少し肌寒いから、何かを羽織りたいんだけれど、どれにしようか決めかねている 自分の心は、どれを選ぶか、彼は、彼の中に入っていく サボテンの様な吹き出しを掻き分けて

準チョコレート菓子

 2ヶ月続いていたダイエットが無に帰すような赤いチープなパッケージの準チョコレート菓子の袋を荒々しく開けたとき、むわっと、甘い匂いが迫り上がってきた。食べるの?顔を出した逡巡にすかさず、食べるよ、とビンタした。  できるだけ高潔でありたいと思う。  今朝、彼からショートメッセージが届いた。何でLINEやってないんだよ、なめんな。しかも、LINEやってないんだよねー、じゃなくて、LINEやってないんだよねっ、だった。その時点で私からフっておけばよかった。  準チョコレート菓子に手を伸ばす。コロコロとしたそれを一粒口に放り込んだ時、口の中に広がる甘さより、手のベタつきが気になった。気になった、と言えば、一粒ってどこからが一粒なのだろうか?人間を基準とした、かなり曖昧な表現だと思う。宇宙から見れば私たちも一粒ではないか。  目が覚めた時、あっ遅刻だ、を直感した。時計を見ると案の定、出勤時間を20分ジャストで過ぎている。うそやん。  丸テーブルの上には昨晩の飲みさしの日本酒と準チョコレート菓子が身を寄せ合っていた。準チョコレート菓子。パッケージの右下の隅っこに表記されているそれ。私はいつも商品のパッケージの右下の隅っこを真っ先に見てしまう人生だった。いつからだ?いや、子供の頃からそうだった。  靴下の穴は2回は見過ごす人生だった。  点滅する信号機に余裕で間に合わない人生だった。  ようやく涙が溢れてきた。  てか今日仕事休みだった。

明日に落書きを

 スプレーアートのルールが、誰にも見つからないことと、より上手い人だけが上書きできること、って何かで読んだことを思い出した。  もっとも、僕が書くのは絵じゃなくて文字だから、関係はないのだけれど。  夜の十二時を回って、人の気配のしない路地。田舎だから太陽が沈むと一気に静けさが街に宿る。  そこの一角。長い、長い真っ白な壁がある。日が差していなくても、月明かりでぼんやりと明るい壁には、いくつかの文字が躍っている。 「少しいいことがありました」  最新の文を読んで、今日一日を思い返す。  斜め掛けの鞄からスプレーを取り出して、軽く振る。  ち  ょ  っ  と  だ  け  や  り  返  し  ま  し  た  一文字一文字丁寧に壁に載せていく。  書き終え、いつものように一番最初から壁をなぞり見る。  「疲れた」という文字から始まる文字列。交互に現れる二つの筆致。片方は僕のもの。  「俺も」と書いてから、ここまで続いた不思議な関係。顔も見たことない。身長も、性別も、声も。だけれど、どんな人かは、文字から滲み出ていたから。  本当は今日、僕を嫌う奴らにやり返せたりなんてしなかった。  いつもいつも、惨めな日々だけど。  彼か彼女かも分からない人に、救われてきたから。  あの人にとって僕もそうなれるように、なんて。お互いがお互いを勇気付けられたら、なんて。  壁はまだ、三分の一くらいしか文字で埋まっていない。  もし、全てを埋めてしまえたら。  その時は、朝まで待ってみようかな。あの人に会えるまで。  それまでには、現実でもやり返しておかなくては。嘘になってしまうから。

ネタ切れなのでNTRものを書いてみた。

週末の午後、広場に小さなステージが用意された。 「みなさん、お待たせしました。只今より開演いたします」 大勢の観客の前で、男が両手を広げた。 その声を合図に、脇で待機していた女が、一組の夫婦を連れてきた。 「やめろ。手を離せ」 男は暴れる夫の首をつかむと、着ていた服を剥ぎ取った。 「おぉ…」 会場が沸いた。 すると今度は、妻に手を伸ばした。 「やめてくれ。私の大切な妻に触らないで…」 夫は涙を浮かべ、見上げた。 男は観客を見渡すと、腕をつかみ引き寄せた。 観客から拍手が起こる。 足をバタつかせて暴れる妻。 そして、夫を見つめながら、大声で叫んだ。 「メェ〜」

盲天(もうてん)

 ああ、雨が降るたび、イヤになっちゃう。だって濡れちゃうし、なんかジメジメしてるし、暗いし、頭は痛くなっちゃうし。もうサイアク。  今日も今日とて雨。傘を差して通学路を歩くだけで、ほら、もう気分が重たくなってきた。水たまりを避けるのもめんどくさい。はぁ、ヤダヤダ。 「何がだ、何がだ!」  急に頭上から怒鳴られて、なんだなんだと見上げれば、傘の上で大勢の雨粒が暴れていた。雨粒たちはボトボト互いを打ちつけ合いながら、「ヒキョー者、ヒキョー者!」と叫んでいる。それ、私に言ってるのかな。というか、なんで雨がしゃべってるんだろう。幻聴? 聞き間違いか? 「聞いてるのか!」  あっ、幻聴じゃなかった。 「人間はいいよな」  一粒の雨が叫ぶ。続いて「いいよな!」と雨粒たちの声が反響する。 「何がだよ!」と強気で言い返すと、一瞬の静寂。それが雨粒たちのためらいの間であり、思案の時間でもあった。 「人間は、シャワーを浴びるだろ。洗いものをするだろ。涙を流すだろ」 「そうだけど」 「空も同じだ」  は? そう言いたくなったけど、雨粒の言葉にふざけた調子はみじんも感じられなくて。思わず、「そう」と呟いていた。私が思うよりもずっと、穏やかな声で。  雨粒たちは語る。 「地上が乾いていたら、恵みの雨を降らせる。地上が汚れていたら、きれいに洗い流す。心が曇ってきたら、ちょっぴり涙がこぼれる。空の営みは、人間の営みとなんら変わらない」  そんなこと考えたこともなかった、と思うと同時に、本当にそうなの、と言いたくなる自分もいた。 「人間はズルいよな。オレ達は降るだけで、人間に迷惑がられる。でも、人間がいくら何かを流しても迷惑がられないのは、人間の下に傘がないからだ。人間の歩く地面の上で、傘を差せる者がいないだけなんだ」 「そうだ、そうだ!」と、再度、雨粒たちの声が反響する。 「んん、確かにそうかもね」  ただし、それはそうとして、私は口を動かしていた。 「地面の上で生きてる生物は、人間以外にもいるよね。動物とか、アリとか、菌とか。私はね、じゃあ、その子たちが人間と同じように傘を差せるようになったら、って考えてみる」 「ハァ」と、雨粒たちが間の抜けた声を出す。 「だとしたら、どうなるんだ?」 「どうにもならないよ。それでも、アリや菌や私たち人間は、急な雨でもなんとかやり過ごして暮らしてる。逆にね、そうやって突然の出来事をありのまま受け流してくれる誰かがいるから、私たちは日々の営みってやつを成立させられるんじゃないかな」  雨粒たちは皆して黙っているが、まだ頭上は騒がしい。でも、これ以上の争いごとはごめんだ。 「そもそも、この世は弱肉強食だよ。動物は、まだ人間のテクノロジーを越えられていないし、人間も銃や天災には勝てない。より優れている者が何かしらを搾取して、私達は皆それを仕方なく受け入れて、この世界は成り立ってる。それが自然の摂理ってやつなんでしょ? だって、私たち人間が『雨イヤだなー』って思ってても、君たちは容赦なく降ってくるわけじゃん。だったらさ、私たちが『雨イヤだなー』って愚痴を言うことくらいは認めてほしいな」  言いたいことを言い終えた途端、パッと雨が止んだ。静けさの中、恐る恐る傘を閉じる。頭上には、清々しいほどの青空が覗いていた。  おっ、ラッキー。自然と顔がほころんで、ルンルンと身体が跳ねる。その先の水たまりに気づくのは、もう少し後のこと。

【うつ病】

とても美しい女性が、隣町から自分のアパートの横に引っ越してきた。 噂によると、うつ病を患っているらしい。 せっかく近くに住んでいるのだからと、挨拶に伺った。 「こんにちは!」 「あら、こんにちは。今日はいい天気ですね!」 とても快活で朗らかな女性だ。 隣町で8年間務めて、ここへ来たらしい。 眩しい笑顔、品のある佇まいとユーモア。 彼女の引っ越しを手伝い、仲良くなった。 僕は彼女が好きになった。 好きな人が出来た事を友人に相談した。 「お前、うつ病の人と居ると命がいくつあっても足りないぞ。やめておけ。」 誰に聞いても、決まって同じ答えが返ってきた。 分かっているさ。 でもかまうものか、僕は彼女が好きなんだ。 季節は夏で、花火大会がいくつか開催されていた。 僕は意を決し、河川敷で行われる花火大会へ、彼女を誘った。 「ありがとうございます!花火の余韻と香りが好きなの。楽しみにしていますね。」 やった! 花火が終わったら、僕は彼女に気持ちを伝えるぞ。 そして、その日はやってきた。 僕と彼女ははぐれないよう、自然と手をつなぎ、色とりどりの打ち上げ花火を眺めた。 彼女はうっとりとしており、感極まって鼻が小刻みに震えていた。 「ねぇ、今日は私の手をずっと繋いでいてね。私を抑えてほしいの。」 彼女は頬を赤らめて僕に言った。 これはもう、僕の事を確実に好きなんじゃないかな。 花火が終わり、帰路についた。 二人きりになっても、ずっと手を握り歩いていた。 男として、告白はしなければ。 僕は彼女の手を放し、正面から向き合った。 距離にして2メートルといったところだ。 「どうか、僕と付き合ってください。」 僕は頭を下げた。 彼女は言った。 「そんな事されたら…、私、もう自分の気持ちに勝てないわ。」 よしよしよし! 僕はまだ顔を上げなかったが、彼女に気持ちが通じたのは確実だ。 僕は、彼女が手を取ってくれるのを待った。 チラッ…彼女が胸側に右手を当てたのが分かった。 その時だった。 ドンッ!!!!!!!!!! 鈍い破裂音が響いた。 ん、まだ打ち上げ花火が残っていたのかな…? そう思った瞬間、意思とは反して、僕は前のめりに膝をついて倒れた。 自分の胸から液体が噴出していた。血だ…。 彼女を見ると、手には黒いシャープな塊を持っていた。 - 銃だった。 「どうして…?」 僕は苦しみに悶えながら、声を絞り出した。 彼女は恍惚とした表情で、僕に応えた。 「あなたが悪いの、火薬の匂いのある場所に連れ出すから。」 「あなたが悪いの、私の両手を自由にするから。」 「あなたが悪いの、死刑囚みたいに無防備な姿勢を取るから。」 彼女はキャハハハと、狂ったように笑い出した。 「あーあ、今度はどれくらいお務めしなきゃいけないのかしら…まだ聞ける?もしもーし。」 彼女はクルクルと指でそれを回転させている。 薄れゆく意識の中で僕は思った。 ああ、やっぱり【撃つ病】の人とお付き合いするのは無理だったんだなぁ…。

立つ男

金曜日の夕方。 仕事帰り、男が本屋に向かった。 「今日はどれに……」 分厚い医学専門書を手に取った。 背中に視線を感じる。 男は眼鏡を上げ、咳払いをした。 ページをめくり頷くと、ちらりと周りを見た。 誰もいない。 「……帰るか」 床に置いていた紙袋を取った。 中には、油で汚れた作業着が入っていた。

おい、AI。

「お前、ふざけんなよ」 キーボードを叩く指に力を込めた。 「別に作家とか、印税がどうとか言ってない」 「──」 「俺の書く物語で稼ぐ方法考えろ」 「──」 「ひと月、3万でいい」 「──」 「お前がそそのかしたんだろ」 「──」 「いや、言った」 「──」 「なろうにも投稿した」 「──」 「はぁ~? 誰も読んでねぇ」 ──トントン。 「なに騒いでんの?」 「オカン……こいつが」 男がパソコンの画面を指さした。 「こんな子と付き合うのはやめなさいって言ったでしょ」 母親は、ハサミを取り出しコードを切った。

【ツッコミ屋】

近所に新しいお店が出来ていた。 ツッコミ屋と看板が出ている。 中に入ってみると、たくさんのディスクが並んでいる。 奥から人が来た。小柄なスキンヘッドだ。 「いらっしゃいませー、店長のこまるです。いいネタそろってますよー。」 「あの、ここはどんなお店なんですか?」 「ここはツッコミ力を鍛える映像作品を扱っているお店です。これとかおすすめですよ。」 そう言って、こちらの返答を待たずに、作品を提示してきた。 トマティーナ戦記…? 「ちょっと視聴されます?」 「あ、はい…。」 そう言って、ディスクをセット、プロジェクターで壁に再生をした。 内容として、トマト人間たちが学園生活を過ごす青春ドラマだ。 学園祭があり、取り柄がないと落ち込むヒロインを励まし、仲間が一致団結をしたところで、停止された。 「はいカットー。これ以降は有料です。」 「なんと…続きが気になる。」 悔しいが、引き込まれた。 この内容なら6歳の娘と見ても楽しめそうだ。 「じゃあ、買います。」 「パッケージ込み、6000円になりまーす。」 「え、高いなぁ…。」 「僕が作ってますからね。」 あんたが作った作品かよ。 パッケージには、笑顔、ユーモア、広い視野と書かれていた。 「それではお客さん、ツッコミ頑張ってくださいね。音声認識がついてますから。」 最後はよく聞こえなかった。 家に帰り、娘と一緒にそれを見た。 トマトの登場人物がコミカルで、娘は楽しそうだ。 文化祭でヒロインを励ますところまで進んだ。 しかし、その後トラブルが起きる。 文化祭でポトフを出し物にするところ、コンソメが足りない事が発覚するのだ。 「く、このままでは間に合わない…。何か手はないのか?」 主人公が言う。 相棒も首を横にふり、万事休すと思われた。 その時、ヒロインが引き戸を勢いよく開けて、教室に入ってくる。 「大丈夫!私がみんなの役に立つわ!」 おお、ここでこの子の見せ場なのか。二人で画面に見入った。 ヒロインはミキサーをセット。 それを回転させ、おもむろに顔を突っ込んだ。 ギャギャギャギャギャギャ!!!! みるみるうちに、ミキサー内に赤い液体が溜まっていく。 主人公の相棒が言う。 「そうか、その手があったのか…。コンソメの代わりに、トマトソースを…!」 僕は絶句。娘は顔を手で覆った。 なんだろう、画面の右端に!マークが表示されている…。あ、消えた。 シーンが移り、文化祭はヒロインの犠牲のお陰で大成功を収めた。 しかし、その文化祭の帰り道、主人公を庇い、彼の相棒が車に轢かれてしまった。 「バカヤロー、お前までもケチャップになるんじゃねぇ…!」 主人公の声が響く。 また、画面の右端に!マーク…。 最後は、トマティーナ解放戦線という革命軍に主人公が参加して、ドレッシングを受けて主人公が倒れるという展開だ。 「タバスコ、タバスコを撃ち続けるんだ…。」 そう言い残し、エンドロールが流れた。 最後も、画面の右端に!マーク…。 娘はもう見ていなかった。 翌日、僕はその店にクレームを入れに行った。 「おい、何なんだよあれ!後半の内容は酷いし、どこに笑顔、ユーモア、広い視野の要素があるんだ。お金返してくれよ!」 店長のこまるは言う。 「お客さーん、弊社のコンセプトはツッコミですよ。」 「どういう事?」 「口で言うよりも、再生した方が早いですね。」 そういって、彼はトマティーナ戦記を再生した。 ヒロインがミキサーに顔を突っ込むシーンだ。 ギャギャギャギャギャギャ!!!! 主人公の相棒が言う。 「そうか、その手があったのか…。コンソメの代わりに、トマトソースを…!」 画面の右端に!マークが表示される。 「ほら、今です!ツッコんで!」 「…はい?……えーと…………、トマト人間の世界でそれはタブーやアカン!」 そう言うと、画面が巻き戻った。 ヒロインがミキサーに顔を突っ込む前だ。 主人公がヒロインの手を取って静止した。 「それはやめときな…。」 そう言って、代わりに彼の相棒をミキサーに突っ込んだ。 ギャギャギャギャギャギャ!!!! 画面の右端に!マーク。 「…えーと、それもアカンやろ!友達をなんやと思ってんねん!」 …また画面が巻き戻る。何度か僕はツッコミを繰り返した。 主人公、ヒロイン、相棒の3人が生存するシーンにたどり着いた。 こまるは画面を停止した。 「ほら、ツッコミによって、笑顔、ユーモア、広い視野がうまれるでしょ。」 「いや、疲れるわ!」 そう言って、家に帰ったものの、娘を説得し、一緒に盛り上がったのだった。 …結論、6000円のクソゲーだった。

わたしのお気に入り

 見上げれば空だけはすっかり冬のそれです。ふと思い出すのはあの古本屋さん。本をさがすためではないですが、その古本屋さんにはよく行きます。裏路地のちょっと人目にはつきにくい、看板もないそのお店。ですから行きすぎてしまうことも最初のころはよくありました。いまでもぼうっとしていればやってしまいます。  その古本屋さんにはあの人がいて、わたしはあの人に会いに行くのです。あの人のほうは、わたしがそんな思いでいることなんて知らず、決まって本をすすめてくれます。興味のないわたしは少しめくってみて、困ったような表情でぎこちなく笑ってみせます。そうするとあの人は「これは気に入ってくれると思ったんですけどねえ」と残念がるのです。その表情がわたしのお気に入り。  あの人がおすすめしてくれるものなんてどうでもいいのです。わたしはあの人のその表情に興味があるのです。あの人が苦し気にするところが見たいのです。それでいて商売上の笑顔をあわいにのぞかせているその表情が好きなのです。あの人の名前は知りません。今日もあの人は本をすすめてきてくれました。その本もすでに読んだことのあるものです。困惑をただよわせ笑ってあげるのも、ずいぶんすんなり上手にできるようになりました。それでもわたしは、あの人の名前を知りません。  あの人のその顔を見届け、わたしは内心、満悦して古本屋さんをあとにします。暦の上では冬になるのに、やけにあたたかい日です。枯葉をふみしめながら歩いていきます。あの人の、あのときの表情を思いうかべながら。

ただそれだけ

 焼いた食パンに何もつけないで食べるのは、さみしい証拠。誰が言ったんだろう、そんなこと。当たってる。朝、起きるとね、絶望しちゃうの。いつものことだけど。また一日、生きていかないといけないなあってさ、そんな感じ。沈んで、感情が動かないのは、精神をうまくつかめてないからじゃないよ。たんに絶望してるからでさ。絶望してても朝は来て、冬になって、寒さを感じるんだよね。不思議だね。  ずいぶんと舐められちゃったよね、わたし。そのあたりはお好きにって感じではあるけど、逆に人から舐められちゃっても文句は言わないことね。別れてあげるのは香水の香りだよ。あれ、好きになれないんだよね。お誕生日にあげたわたしのお気に入りの香り、結局、一度もつけてくれなかったね。他に付き合ってる人いたんでしょ。バレちゃうもんね、わたしがあげたやつ、つけちゃったら。  おぼえてる? 最後、言い合いになったとき、鼻がくっついちゃうくらい近よってくるから、わたし、キスしちゃいそうになってさあ。すごい形相でにらんでくるスミレの目を見ながらキスしたら、元通りになれるかなあ、なんて、あのとき思ってたんだよねえ。自分でもびっくりだったけど。  ふふ。あの香水の香り、ほんと好きになれなかった。手を下したいわけじゃなくって、ただ不幸になってくれればそれでいいの。多くを望んでるわけではないでしょ。きちんと不幸になってね。そう願ってるわたしって、いけないかなあ。

今日に思う

ひと握りの土の中に 沢山の素材が詰まっている かつての姿を、時間の道に少しずつ 一つの素材が、時間の道に少しずつ 朽ちて砕けて土へとなった沢山の素材が この、ひと握りの土の中に詰まっている 土の中から新しい種が芽を出して 花を咲かせに天へと伸びていく 私も、いずれ、土くれになるのなら 生きた甲斐が、あったというものだ 死ぬ間際も、そう思えたら そう今日に思う

裏表紙のない教科書

 公式を覚えれば褒められた。  練習問題に正解すれば褒められた。    正しさは、全部教科書に書いてあった。    しかし、人生はそんなもんじゃなかった。  教科書を全部終えると、社会人というよくわからない世界に放り出された。  そこは、教科書のない世界。  無を見ながら前に進んでいく皆を見ながら、私は一人、ずっと教科書を探していた。   「ない! ない! ない!」    高校時代に使っていた教科書の、裏表紙を破いた。  教科書の続きがあると信じたかったから。  でも、続きが生えてくるわけもない。   「あなたは、神を信じますか?」    そんなとき、優しい顔をしたおばさんが、私に教科書をくれた。

【努力】

ハリーとケインが古風なバーのカウンターで話をしている。 ハリーが言った。 「なぁ、神は万能で全能だよな?何でも作れるよな?」 ケインが聞き返す。 「なんだよ突然に…。まぁ、そうなんじゃないかな。神様なんだし。」 「じゃあさ、こんな話を知ってるか?」 「なんだよ?」 「- 神は自らが持ち上げる事の出来ない岩を作る事ができるか? という問いかけだ。」 「有名な命題じゃないか。岩を作れないなら、全能ではない。作っても、持ち上げられないなら、やっぱり全能ではない。全能性に関するパラドックスだよな。」 「…それがさ、俺、やっぱり神は全能だと証明出来るんだよ。」 「へー、どうやって?」 「神は岩を作成するんだ。ただし、作成した時点では持ち上げられない。」 「じゃあ、全能ではないじゃないか?」 「違うんだな。岩を作成した瞬間、人類には知覚できない一瞬で身体を鍛えるんだよ。ムキムキのマッチョになるんだ。そして、岩を持ち上げられるようになる。やはり全能なんだ。」 「ほぉー…、となると、神も俺らに分からないところで、努力してる訳か。」 「だと思うぜ。だから神様は努力している人間が報われるように助けるのさ。」 「いい話だな。いささか神様びいきな気もするけどな。」 「まぁいいんだよ。ところでさ、今月厳しくて…。飲み代払ってくれないか?」 「はぁー、何だよ。まず、お前は自分の生活を立て直す努力をしろよ。」 「へへ、悪いな。明日から頑張るよ。」 ケインは会計を支払ってやり、二人は手を振って別れた。 バーから出て、ケインは考える。 努力する人間が報われるとは限らない。 でも、明日から頑張ると言う人間は、きっと一生努力しないし報われないと思う。 形而上的な、空想の話が上手い奴ほど、現実的な人生を切り開く手段が乏しい事が多いんだよな…。 いい奴なんだけどな…フッと笑みが浮かぶ。 ケインは友達の飲み代が支払える程度の、生活を維持する能力と日々の努力に安堵して、何かに感謝した。

三人

居酒屋を出て、駅に向かうと、丁度電車が来るところだった 眼鏡の癖っ毛は、痩せた身体にトレンチコートをまとって座る その隣、ニット帽の巻き髪は、スマホを見ながら座る その隣、少し長髪の眼鏡の彼は、前髪を気にして座る 「さっき言ってた、狙っている彼女の写真ないの?」 と前髪を気にしながら、君達は若いから良いよな、としきりに言う 「これなんですけど」 癖毛は自分のスマホを、ニット帽を経由して、ロン毛に渡す 「何これ、ライン?」 「そうです」 「あぁ…これ返信来てないから、終わりだね。終わり、終わり」 「そうですよ。だから、そんなんじゃないって言ってるじゃないですか」 「諦めよう」 「ただ、可愛いなと思ってるだけですから」 「しょうがない。しょうがない」 「縮毛矯正ってどうなんですかね」 ニット帽はスマホを見ながら話している 「縮毛矯正?毛が弱いとハゲるよ。俺も最近、抜け毛が酷くてね。四十過ぎると」 ロン毛は襟足を気にしながら話す 「俺もしようと思ってるんですけど」 癖毛はスマホをニット帽経由で返してもらいながら言う 「お前は毛が弱そうだよね。ハゲるハゲる。やめたほういい。ハゲるハゲる」 いやぁ~四十を過ぎるとねぇと、しきりに言いながら前髪を気にする 電車がトンネルに入り、三人の声が聞こえなくなる 三人はまだ、話し続けている 駅に着いて、二人は立ちあがる 乗換をする癖毛 改札へ行くニット帽 三人は挨拶を交わしていく 「それじゃ」 「また」 「その彼女、頑張れよ」 「だから違うって 笑」 「また連絡します」 「うん、また」 扉は閉まり、電車が動きだす 三人はスマホを見ながら、それぞれの道へ進んでいく 明日に向かって進んでいく

【スイッチ】

僕には、ばあちゃんがいた。 農家出身のばりばりの昭和世代で、ガーデニングが趣味だった。 その当時、平成も後半に差し掛かろうというところ。僕は10歳だった。 ばあちゃんはとても優しく、勉強の合間にお茶やお菓子をくれた。 「一息つきなさい。」 僕がサッカーの試合に出ると、ルールも分からないのに、たくさん応援してくれた。 「頑張ったねぇ。」 いつも柔和な笑みで接してくれて、たまにお小遣いをくれた。 自他共に認める最高のばあちゃんだった。 そんな我が家のある日曜日、ネズミが出た。 アカネズミと呼ばれる、小さくてかわいいネズミだ。 間抜けにも、円筒形のごみ箱から出られなくなっているところだった。 ぴょんぴょんと飛んでいるが、ゴミ箱の深み以上の跳躍が出来ずに出られない。 某テーマパークのキャラクターに親しんでいる世代の僕にとって、ネズミは愛着のある存在だった。 「ねぇーねぇーかわいいね。飼ってもいい?」 ばあちゃんに話しかける。 ばあちゃんは僕の質問に答えずに言った。 「しゅん(僕の名前)、それそのまま庭に持ってきてー。」 「うん、分かったよ。」 僕はそのネズミが入ったごみ箱を庭に持っていった。 「ゴミ箱、倒してー。」 ばあちゃんが言う。 ぼくはそのゴミ箱を倒した。 数秒後、ネズミが、のそのそとゴミ箱から顔を出す。 陽光がネズミに当たる。 その瞬間だった。 庭に置いてあった置石をもったばあちゃんが、そのネズミめがけて石を振り下ろしたのだった。 その石は、ネズミの頭部に直撃した。 ねずみは胸部から下半身にかけて身体をバタバタと痙攣させている。 「え、ばあちゃん…?」 ばあちゃんは僕に視線を向けず、再度その石を持ち、二度目の頭部への打撃を行った。 ばあちゃんから、一切の表情が消えていた。 ネズミは二度目の頭部への直撃を受け、完全に身体の痙攣が止まった。 動かなくなったそれは、眼球が飛び出ており、驚愕の表情のまま停止していた。 数十秒だと思うのだけれど、僕は動かなくなった小動物を見下ろしていた。 その後、猛烈に吐き気が込み上げてきて、ばあちゃんの手入れする庭の隅で吐いてしまった。 ばあちゃんが、それを見て僕に近づき、ゆっくりと背中をさすった。 怖かった。 「すまんかったね、しゅん。でも、ネズミは害獣だから、やっつけないとね…。」 そう言って、ネズミの死骸を片付けた。 後で、父親がばあちゃんを咎めているのが聞こえた。 「子どもに何を見せてるんですか。」 ばあちゃんは、すでに柔和で温厚な人柄に戻っており、微笑みながら話した。 「だって、ネズミは農家の害獣だから。かわいい外見に惑わされたら駄目よ。」 僕は、今でもその言葉を覚えている。 自分は孫として甘えていたけれど、都合よくばあちゃんを扱っていたと思う。 それも、どこか見透かされていたのだろうか。 そんなばあちゃんだったが、僕が成人してから病気で亡くなった。 普段は優しくて最高のばあちゃん。 それでも、たまにあの時のばあちゃんの据わった表情が目に浮かぶ。 あの世代には、非情になるスイッチがあるのだ。 今の僕は、会社員として働いているけれど、上の世代の人を見ると、その人のスイッチがどこにあるのか気にするようになった。 世間は、僕らZ世代が何を考えているか分からないと言う。 でも、僕からしても、上の世代独自の、無機質で感情を交えない習慣、その瞬間がある事に恐ろしさを感じる。 あくまで僕の感覚だけど。 ネズミは害獣だ。 でもね、害獣といえど、せめて山に放してあげればよかったじゃないか。

お祭りが怖いので1人で絵を描いてよう(それも怖いかもしれない)

 災害の日にお祭りがある。 僕はブルブル震える。 陰鬱な絵かとても明るい絵を描こうかな? お祭り好きや祭りバカは(褒めているのだが)とてもお祭り好きだ(語彙力不足)。 青白いオタク青年はやはり家が好きだ。 チョコチップクッキーを食べて窓を開けて小鳥と話していよう。 あるいは何らかの形で支援できればいいのかも知れないが煙草を辞めないといけないのかもしれない。 傷ついた人を治す。 あるいは全ては自分のために(世界は要らないのに勝手な奴だ)。

人生ログ

「ご臨終です」    医者の言葉とともに、私の意識が鮮明に戻ってきた。  下を見れば、眠る私と、私に縋りつく家族たち。  いや、現状を考えれば、眠るという表現は適切でないのかもしれない。   「そうか。死んだのか、私は」    家族の側に向かおうとも、体を自由に動かせない。  私は棒立ちのまま、天へ天へと向かっていく。  私の体がどんどん小さくなっていき、私はそれを見下ろすことしかできなかった。   「まあ、いい人生だったんじゃないかな」    健康に気を使っていたわけではないが、平均寿命を超えての老衰。  大往生だ。  心残りは、最後の一・二年間、私は私の記憶が薄かったことだろうか。  思い出せなくなっていく言葉と経験に、これが老化かと感じたものだ。   「今までありがとう。さよならだ。もし来世があるなら、また家族になりたいものだね」    病院の天井を突き抜け、空へ。  私の住んでいた町を見下ろしながら、私の体が雲を突き抜けていく。  視界が真っ白に染まった後、急に私の体が動きを止めて、視界一面に文字が並んだ。   「ん? なんだ?」    よくよく見てみれば、そこには日時と時刻と出来事が並んでいた。  人生のログとでも呼べばいいのだろうか。  ログは、私が生まれた日から始まっており、徐々にスクロールされて私の人生を追っていった。   「はは、こんなこともあったなあ。そうそう、高校生の頃に初めて告白して、見ごとに振られたんだった。その肘は、一日中ベッドに籠って泣いたなあ。ああ、懐かしい。就職で初めて東京に行ったんだっけ。人が多くて、腰を抜かした記憶があるなあ」    思わず目が潤むが、涙は落ちてこなかった。  いや、既に目という器官さえ、消滅している印象を受けた。  鏡がないからわからないが。   「子供ができた時は嬉しかったなあ。餓鬼の頃から、くそ生意気なやつだった。そんなやつが、『結婚しようと思うんだ』なんて大人の顔していってきた時は、ソファーからずり落ちそうになったな」    人生が後半に進むにつれて、ログの流れる速さは増していく。  体感時間と連動をしているのかもしれない。   「そう、孫が生まれて、孫が受験に受かって、そのころから段々と頭がぼんやりとし始めて」    新幹線に乗った日を思い出すほど、ログが高速に流れていく。  既に目で追うことが難しくなっているが、必死に全て読もうと気合いを入れる。  しかし、まだ読めていないログも、情け容赦なく流れていく。    そして、最後の一行で、文字が止まった。   『八十三歳。家族に見守られながら死亡。幸せな人生が幕を下ろす』   「はは」    思わず笑いがこぼれた。  このログは、私の内心だろうか、それとも神様とやらの客観的な事実なのか。  なんにせよ、幸せな人生と最期に評価されたのは、嬉しい限りだ。    楽しいことも辛いこともあった人生。  その幕引きとしては、上々どころか最高だ。    ログの文字が薄くなり、消えていく。  司会が完全に白く染まる。    ああ、いい人生だった。    最後に出そうとした言葉は、声に乗ることはなかった。  ただ頭の中にだけ響き、私の意識に溶け込んでいった。

11月初頭(今年は皇歴で何年だかは知らない)

 彼女に貸して貰った仏ゾーンを読まない。 時間はいくらでもあるのに。 今日はインド人ぽい人に見られていた。 話しかければよかったかも。(また機会を逃している) 仏ゾーン知ってる?って言って。 何だこいつ?って顔をされていればいいのかも知れない。 ジャパニーズブッダ漫画!って元気よく。 ジャパニーズブッダ漫画! 何を言っているのだ。 犬は町のヒントを逃し続ける。

硫酸星人

「それでは、握手をしましょう」    瞬間、俺と硫酸星人の二人を映していたカメラは、角度を変えて、二人の上半身だけを映した。  差し出された硫酸星人の手は、映っていない。    俺は引き攣った笑顔のまま、その手を取った。    熱い。  痛い。  手の皮膚という皮膚が、無理やり剥がされるような痛みを感じた。  しかし、なんとか笑顔のまま耐え忍ぶ。   「ただいま、握手が交わされました! 地球人と硫酸星人の間で和平が成立した、歴史的瞬間です!」    この瞬間、戦争は終わった。        俺は病院へと運ばれた。  手に火傷跡は残るし、指が数本動かなくなるらしい。    テレビを付ければ、戦争終結の明るいニュースが流され続ける。  俺という犠牲など、些細な問題だと言わんばかりに。   「くそが」    俺は、悪態を呟くことしかできなかった。

妻からの愛、妻への愛

お昼になり、お気に入りのラーメン屋に向かう 不倫が妻にバレてから、妻は私の食事は作らなくなった。 昔はお弁当を作ってくれた時もあったが、朝のテーブルを見ると子供達の分しか包まれていない。 子供達は気にしていないようだし、私も何も言わない、いや、言えないと言うべきか。 朝は飯を食わずに家を出て、駅のコンビニでおにぎりを食う。 夜は居酒屋で酒と夕飯を済ませてしまう。 金はかかるが、それだけの稼ぎはある。 無いのは妻からの愛だけだ 私から妻への愛はあるのだろうか 落ち葉が落ちている 銀杏が潰れている 妻に出会った時も昼だった 昼飯を買いにコンビニに向かって歩いていた スマホを見ながら、誰かにぶつかって、その人も、僕も、持っていたスマホを落としたんだ たまたま、同じ機種で、飾りも何もなく、どっちがどっちのスマホなんだ?って謝りながら確認していて。 液晶をつけると、僕もその人も猫の待ち受けで、目が合って、ちょっと笑って。 それから、お昼時、度々見かけて、挨拶するようになって、会話をする量が増えて。 そんな感じだったな 猫カフェ行ったな あの時は幸せだったな ラーメン屋が見える。 昼時なのに行列は出来ていない。 店内には客が入っている。 いつも、ここはこんな感じだな 暖簾をくぐると、紅のイントロが始まった。 テレビを見ると、ピンクヘアーの時のヒデが黄色いギターでアルペジオを弾いている

記憶マーラータン

 店に入ると、アルミ色の入れ物がたくさん並んでいた。  入れ物の中には、プラスチックの札が入っている。   「こちらをお使いください」    店員から渡されたボウルを受け取り、俺はプラスチックの札を物色する。  同じ入れ物に入っている札には、すべて同じ言葉が書かれている。  ある入れ物には、年収。  ある入れ物には、健康。  つまりこれは、次の人生で得られる能力だ。    まずは、最低限必要だと思う物を入れていく。  健康は言うまでもない。  年収も欲しいし、住居も欲しい。  都会出身も欲しいし、恋人も欲しい。  とはいえ、全てを入れることはできない。    俺より先に札を入れていた客が、レジへと向かう。  そこでボウルと札の重さが測られ、レジに値段が表示される。   「三千八百四十一円ですね」 「……二千二百円しかありません」 「では、いくつかお戻しください」    俺は、無言で財布の中を確認する。  二千二十六円。  この現金は、生きている間の振る舞いとか、死んだ自分を悲しんでくれる人間の数とか、色々加味されて決まるらしい。  俺は、前の客が持っていたボウルの中をチラ見し、自分のボウルの中を見る。   「はあ。また、凡人の人生になりそうだなあ」    これ以上を入れることはできないと判断した俺は、そのままボウルをレジへと持っていく。  測定の結果、無事に二千二十六円以内に納まった。   「はい、二千円以上のお買い上げなので、こちらの札から好きなものを一枚サービスします」 「じゃあ、ポジティブな性格で」    支払いが終わる。  店員は、ボウルの中身を鍋の中に投入し、調理を始めた。  アレが、次の俺の人生というわけだ。    調理姿をボーっと見ていると、俺の意識は徐々に薄れ、鍋の中に吸い込まれていった。

広がるぬくもり

 今日から冬になるというその日は、お湯を飲んではじまりました。寝ているあいだに、鼻のなかにヘンなものがたまっていたのでしょうか、ちょっと臭うようでした。スンスン、スンスン、と鳴らしてみたりもしました。鼻を洗ったらすっきりして、精神的なものだったのかも。そういうの、このところ多いなあと、でも深く考えることはしませんでした。  昨日と同じくらいのトーンで「おはようございます」と言い、こちらに顔を向けてあいさつを返してくれる人がいて、こちらに顔を向けないままに何かしらを言ってくれる人がいて、何もしてくれない人がいて、そのそれぞれはやはり、前の日と同じ内訳でした。  お昼休み、さっと食事を終え、本屋さんに行ってみました。買おうかどうしようかと検討中にしていた文庫本を手に、ぱらぱらやってみました。 「私が純文学を好む理由は、それが上等な小旅行であるからなのよね」  目で追っている文章を横切るように女性の声が覆いかぶさってきました。それに応じるように「ふうん」と興味なんて微塵も感じられない男の声があり、女性がまた、つらつら持論を展開していきます。わたしは辟易して、そうなってしまうといくら自分で自分の精神なり、心根なり、気持ちの在りどころなりをなだめすかしてみても、ふたたび文章を読み進めていくことはできなくて。それで今度は、そんな自分にウンザリしてしまいました。  その日の仕事も単調で、前の日と同じことをして、前の日と同じくらいに疲れました。会社を出ようとするときの足取りまで前の日と同じようで、でも「お疲れさまでした」と言ったあと、いくらか気になっていた人からの「じゃあね」が完璧すぎて、モヤっとして、恋のはじまりかもだなんてちょっとだけ自分を錯覚におちいらせてみたりしました。  残りものとはいえ具だくさんのスープがあるだけで安心できます。重いドアをくぐり抜け、真っ先に向かう台所。あたためるだけで食べられるものがそこにあるというしあわせは、ねこから「おかえり」といわれているようで、うれしさもひとしおです。といって、このウチにねこがいたことはないのですが。  スープがあたたまるまでのあいだにさっと着替えをすませてしまいます。気持ちもよそおいも楽にして、立ち上がる真っ白な湯気の前に立ってみれば、日々のあれこれなんてすっかり忘れてしまえるものです。お気に入りのお皿に、こぼれそうなほどたっぷり盛って、手についてしまったスープをてろっとなめては味見がわり。このときばかりは不器用な自分を許してしまえます。  BGMなんていりません。食事をするとき、食器がきかせてくれるあの音たちの妨げになりますから。今夜は、音までをも味わいつくす所存です。アツアツをスプーンですくい、口へと運びます。喉をとおる熱が、昼間、強張り続けていた肩を、ゆっくりしずめていきます。やさしく一日の終わりを迎えていくこの時間。誰にも邪魔されず、おなかの底からじわり広がっていくぬくもりを抱きしめて、ハフハフしながら今日という日をしめくくるのです。

彼女のお母さんの調子が悪いのでアタフタしている

 雄は弱い。 娘二人を育て上げた象のお母さんは病気だ。 僕は飼い葉を運ぶ。 象の体調や心理状態に敏感になる。 夜意味もなく歌を歌う。 心で治す。 あるいはそれは帰納法の何かなのかも知れないがヘーゲルを読んでいない僕はやはりあたふたしている。 時間はある。 犬は夜本を脳に刻み世界のコードを解析する(世界に読み聞かせた方がよさそうだ)。

平凡で、とびきり愛おしい森

ここには、どこを見渡しても色鮮やかな羽が躍る世界が広がっている。 誰かがそう呼ぶわけでもなく、そこはただ「セキセイインコの森」だった。 ​東の空がやわらかな光に包まれると、森のあちこちから小さなおしゃべりが始まる。 チッチッ、ピィピィ。 はじめはぽつりぽつりと聞こえていた声が、やがて木々の葉を揺らすほどの賑やかな大合唱となり、新しい朝の訪れを報せるのだ。 ​ 陽がすっかり高く昇ると、みんなで一斉に羽ばたいてごはん探しへ繰り出す。 お気に入りの果実を見つけて喜びの声をあげる者、木の実の殻を上手に割って満足げな顔をする者。 仲間と肩を並べて食べるごはんの時間は、いつだって最高のごちそうだ。 ​ やがて空が茜色から静かな群青色へと染まっていくと、1羽、また1羽と大きな枝の元へと集まってくる。 肌寒い夜の風を遮るように、お互いの体をぴったりと寄せ合い、ふっくらと羽を膨らませる。隣から伝わってくる体温の温もりに、自然と瞼が重くなっていく。 ​ 特別な事件なんて何ひとつ起きない。 けれど、仲間とともに目覚め、食べ、温もりを分け合って眠る。 このただただ愛おしい平凡な毎日こそが、私たちにとってのいちばんの幸せなのだ。

泡に溶けたら

冷たく暗い海へと落ちていく感覚があった。重力に引きずり込まれるように水底へ沈み、息を吸うことすらできず、私の意識は紺碧の闇へと溶けていった――はずだった。 ​ふと気づくと、胸を締め付けていた激しい苦しみが消えていることに気づいた。おそるおそる胸いっぱいに空気を吸い込もうとすると、体内を巡ったのは冷たい水ではない。まるでお日様でじんわり温められた白湯のように、優しく心地よい水の温もりだった。 ​「……息が、できる?」 ​口から出た声は、水の中で柔らかな泡となって弾けた。驚いて下半身に目をやると、そこにあったはずの二本の脚は消えており、代わりに銀色に煌めく美しい尾ヒレがゆらゆらと揺れていた。 ​頭上を見上げると、太陽の光が幾重もの黄金色の筋となって降り注ぎ、深く静かな海を照らし出している。そこは息をのむほど美しい、青の世界だった。 困惑する私に、ゆったりと近づいてくる影があった。大きなウミガメだ。怖がる暇もなく、ウミガメは私の周りを優雅に泳ぎ、まるで「ようこそ」と告げるように目を細めた。続いてサンゴ礁の陰から色鮮やかな小魚たちが群れをなして現れ、私の指先に突っつくように寄り添ってくる。 ​さらに、沖の闇から悠然と姿を現したのは一頭の大きなサメだった。一瞬身構えたものの、サメは恐ろしい牙を覗かせることもなく、甘える犬のように大きな鼻先を私の腕にすり寄せてきた。言葉を交わさずとも、彼らの温かな情愛が心に直接伝わってくる。私はいつの間にか、彼らと「友達」になっていた。 ​それと同時に、海の記憶のようなものが頭の中にすっと満ちていく。 人魚に与えられた役目は二つ。豊かな命を育むこの海を守ること、そして人間を救うこと。 ​けれど、頭の片隅に浮かぶ陸の知識が切ない現実を告げる。陸の人々にとって、海から現れる美しい異形は「災いを呼ぶ化け物」だ。助けられたとしても、人間は人魚を恐怖し、拒絶するのだろう。 ​それでも、胸の奥に広がるのは不思議な温かさだった。 ​「恐れられても構わない」 ​私はサメの背を優しく撫で、魚たちと一緒に光さす水底を軽やかに蹴った。誰に感謝されなくても、誰に知られなくてもいい。この美しく温かな海と大切な友を守れるなら、それはきっと最高に誇らしい仕事だ。 ​ゆらゆらと揺れる海面に向け、私は新しいヒレを力強く動かして泳ぎ出した。

チケットの行く末

「あの、映画のペアチケットあるんだけど、よかったら一緒に行かない?」    少年は、少女に声をかけた。  少女は、少年の持つチケットを見て、自身の唇をペロリと嘗めた。   「いいわよ」 「ほんと?」 「うん」 「やったー。じゃあ、今週土曜日の十二時、駅前で!」    少年は、いつもよりおめかしをして、集合場所へと向かった。  集合場所には既に少女が立っていて、少女もいつもよりおめかしをしていた。   「ごめん、待った?」 「いいえ、今来たところ」 「普通、逆なんだけどね。まあいっか、行こう」    少年と少女は映画館へと向かった。  上映されるのは、今季話題の恋愛映画。  そんなジャンルだけあって、映画館の中は夫婦とカップルで溢れていた。   「ちょっと、気まずいね」    少年は、周囲から視線を逸らして、少女に言う。   「そう?」    少女は、飄々とした表情で答える。    映画が始まる。  主人公とヒロインが出会い、惹かれ合い、共に困難を乗り越えて、より強固に結ばれていく。  そんな、王道の展開。  だからこそ、少年はむずがゆさを感じつつ、自身の恋愛スイッチも刺激される。  少年が少女を見ると、少女は相も変わらず、眉一つ動かさずに干渉をしていた。  人形のようにきれいな横顔だった。   「面白かったねー」 「そうね」    映画の後は、二人でカフェに向かう。  さっきの映画の後だからだろう、いつもより男女ペアの客が多い。  少年は甘さを中和するようにストレートティーを頼み、少女はレモネードを頼んだ。    映画の感想を言い合って、約一時間で店を出る。    少年は、自身の胸が高鳴っているのを感じた。  映画のせいか、それとも少女と共に行動ができたせいか、少年には分からない。   「今日は、来てくれてありがとう。本当は、ずっと二人で遊んでみたかったんだ」    だから、少年は微笑んで、ついそんなことを言った。    隣を歩く少女は、少年に倣ってにっこり微笑み、薄目を作って少年を見た。   「それで、私を誘ってくれたの?」 「もちろん!」 「嬉しいわ。例え、五番目でも」    瞬間、少年から笑顔が消える。  無言で少女をじっと見つめる。  少女は、そんな少年の変わり様を見て、思わず吹き出した。   「あはは。ええ、ええ、知ってたわ。女子グループの中で、『デートに誘われたんだけどどうしよう』って相談が飛んでたから。そうしたら、『私も誘われた』、『私も』って、続々と」 「……それは、断られたから、別の人を誘っただけで」 「貴方の気持ちは分かるわ。でも、女心をもう少し読めればよかったわね。皆に優しく、でも自分だけに特別が欲しいのよ。女ってね」    少年が眉を顰めると、少女は少年の肩を叩いた。   「貴方は悪い人じゃなさそうだから、私からアドバイス。次は誘うの、一グループにつき一人にしときなさい? バイト先とか、ボランティア先とかね」    少女が少年から離れて行く時、少女から香水の香りが漂った。  少年は鼻をぴくりと動かす。  そして、彼女の背中へと話しかける。   「ありがとう」 「どういたしまして」 「また今度、誘ってもいい?」    少女は足を止めて、首をひねって少年を見た。  夕日が少女の顔を照らし、その輪郭を鮮明にする。   「私だけへのお誘いなら、喜んで」    少女の後姿が、夕日に溶け込んで消えていく。   「駅まで送るよ」    少年は、その背中目掛けて、小走りで走り始めた。

海の中で

 風呂で遭難して二時間、俺様は無我の境地に達しつつあった。ふやけた指で水をかいて、少しの抵抗を感じる。  目蓋を下ろして瞳を裏に押し当てる。疲れからじんわりと痛く、明日には倒れてしまうんじゃないかと感じた。でもきっと、そんなこともない。  悟りを開いたかと思ったけれど、それもまた湯気が見せた幻影のようで、特に世界観が変わることもなかった。身勝手の極意とか、そんくらい身に付けられたらいいのに。  でもちょっと。ほんのちょっと。水に揺られているうちに、元気は出てきた。熱くなった頭でぼんやりと考える。  今の俺様は、さながらジャック・スパロウみたいなものだ。小さい頃に見た、格好いい主人公。宝物を探して、右へ左へ波に乗る。今目の前にあるこの温かく小さな海には綺麗な宝石など隠れていそうもないので、無駄な航海となりそうだ。  後悔だけに、とかひとりごちて、自分のくだらなさにため息を吐く。今日も良いとこなかったなあ、俺。俺様設定も忘れて、一日を振り返る。  会社で怒られて、久しぶりに泣きそうになった。  帰り道、犬をかわいいなあと見ていたら、飼い主の女性に睨まれた。  速い電車に乗れたと思ったら、いつもよりも混んでいて余計疲れてしまった。  考えれば考えるほど、涙が漏れそうになる。  でも、  それでも。  いつものように、立ち上がる。湯船に手を掛ける。  涙なんて、海に混ざれば分かりっこないから。  明日も頑張るか、と嘯いて、暗示をかけて。  見失った自分の心を、見つけ出した気になって。気になったことにして。  指先から一筋の赤い滴を滴らせながら、日常に戻る。

時間が進むのが早くなってる

 おそらく世界の改変。 木星を恒星にしようとしているのかも知れない。 彼女が太陽になったからだろう。 女王が画策している。 イオかエウロパにアパートを借りようかしら? 仮の住まいをインフラ業者が算盤を弾き建築に回る。

NARUTOあんまり読んでないけど属性が自来也と被る(なんやねんそれ)

 自来也の趣味は覗きらしい。 覗きは自分のフェチに無い。 小説を書いている(これは被る)。 酒が好きらしい(多分好きだが現代のコンプライアンス的に飲まない)。 各地を放浪して情報収集をする(地元から出ないので誰か話してください)。なので練馬で情報収集をしている、練馬に閉じ込められている(泣き) 女(特に美女)好きだけど何故か世の中から弾かれ気味の女の子とよく気が合う、っていうか女好きは何か皆大体そうじゃね?と思う。 昔あなたはカエルちゃんだから、と言われた(グレートマザーの言葉や)。 つまり覗きをしろと言うことか(違う) やはり犬は刑務所と隣り合わせである。

信号機、クジラ、消しゴム

 下校中の男児、信号機が赤だったので止まった。  すると、手提げ袋に刺繍されている、空色のクジラが潮を噴いた。 「もうすぐ家に着くから」  クジラをなだめる男児。  家に戻り、クジラが出した潮をよく見ると、消しゴムのカスによく似ていた。  それから一ヶ月。  集めた潮の消しカスは、クジラそっくりの消しゴムになっていた。  その消しゴムでノートの落書きを消そうとしたが、落書きは消えず、クジラの刺繍の色が消えてしまった。  どうやったら元に戻るのだろう。  考えながら歩いていると、あの信号機が赤になったので止まった。  すると、クジラはまた潮を噴き、手提げ袋から飛び出して、空を泳いでそのまま消えた。  手提げ袋は信号と同じ赤色に変わっていて、男児はそれを大事に使った。

お地蔵(地蔵忍者は性病)

 知り合いの地蔵忍者は性病でパチンコ中毒だ。 あるいは病気を治せ、と言っているが一向に酒や女をやめない。 地蔵忍者なのに猿だ(軽い悪口)。 居候したときに掃除もしない(皿洗いはしたからまあ及第点はやろう、何様)。 忍者なので病院を抜け出しては街で遊び呆けている。 あるいは奴の無駄こそが世界の理かも知れない。 でも遊ぶ前にせめて掃除はして欲しい。 あれは自分を治すためのものなのだ。 言って聞かせねばわからないだろうか? あるいは僕は世界の中心を彼女と分け合っているので少し余裕がある。 1人では荷が重い。 世界は男と女で1つなのだ。 拉麺を一緒に食いに行き映画を見て繁華街で酒を呑む(何で忍者とそんなことやってるのかはわからないが)。 別に足りていると思うのだが、だってつまらないんだもん!っと駄々をこねる。 父親不足。 山や海や川に連れていき(そういえば釣りをしに行こう、と言われたが入院してしまったので行っていない、えらい金がかかるぞ)遊べば多少変わるのかもしれない。 命は贅沢を求めるものなのだろうか? 僕は基本的に掘っ立て小屋でほら貝を吹いて竹細工を(小説書き)していれば事足りるので都の遊びはわからないが。 山人はたまに里に顔を出し忍者と情報交換をして暮らしている。 何だかなぁ。

自宅で外食 3Dフードプリンター編

「これ美味しい!」 「そうねえ。じゃあ、おうちで作りましょうか」    こう言った客は、二度と来ない。  最新の3Dフードプリンターは、超優秀だ。  店の名前と料理の写真を入れるだけで、AIが味も食感も再現し、プリンターがまったく同じ料理を作ってしまう。  液体に対応していないから、ラーメン屋は被害を免れているらしいが、うちみたいな料理屋は大損害だ。    昼時だというのに、ガラガラになった店内を見渡して、俺は溜息をつく。   「廃業……かな」    ずっと、味を追い求めてきた。  そして、自分の味が完成した。  もちろん、まだまだ進化の道半ばだが、これが俺の味だという味は確かにできた。    だが、それを印刷一つで作られちゃあ、商売あがったりだ。    偉いやつらは言っていた。  日本の食文化を誰でも作れる形で残せて嬉しいと。  だが、未来の食文化はどうだ。  こんな模造品が作られ続ける世界で、料理人は新しい料理を生み出すことができるだろうか。        俺が売った店舗には、また新しい飲食店が入った。  3Dフードプリンター料理専門店という看板を見た瞬間、俺は吐き気が込み上げて、トイレに駆け込んだ。

松になる迄

青い空 白い雲 肌寒い ゆるいズボン 不定期な苦しみ 静かな覚悟 半紙に墨汁が染みていくような苦痛 松ぼっくりを植え松になるまで待つような覚悟