親父が言ってた。 昔、コンビニのゴミ箱には、消費期限の過ぎた弁当が捨てられていたって。 「ああ、腹減った」 だから、貯金が尽きて、腹をすかせた俺がコンビニに向かったのは、当然の判断だろう。 「……なにもねえし」 だが、時代は無情だった。 弁当どころか、コンビニ近くにごみ箱さえもない。 くそみてえな潔癖社会。 「はいはい。ゴミなんて食わずに死にますよ」 壁に恨み言を履いて、その場を立ち去ろうかと思った瞬間、何かを蹴った。 「ん?」 足元を見ると、美少女が倒れていた。 長い髪が地面に広がり、スカートが風でひらひらと揺れている。 人生で初めて出くわした状況だ。 俺は周囲に誰も居ないことを確認すると、肩をゆすってみた。 「もしもーし。こんなところで寝てたら、風邪ひきますよー?」 起きない。 腰を揺すってみた。 「もしもーし?」 起きない。 こうなれば仕方ない。 決して本意ではないが、胸か尻を揺すってみよう。 「う、うーん」 起きた。 揺すってないのに。 ちくしょう。 美少女がダルそうに体を起こして、眠そうに眼を擦った。 そして、辺りを見渡した後、俺と目が合った。 「え? 泥棒?」 「なんでだよ」 「ここ、私のうち」 「地球があんたの家なら、神様かなんかな?」 「? 何言って……あれ?」 美少女は、ようやく自分のいる場所に気づいたようだった。 目を丸くして驚いた後、また俺を見てきた。 「ここはどこでしょう?」 「コンビニの横」 「今日は何日でしょう?」 「八月十六日」 「私は誰でしょう?」 「それは知らん」 「なんと、私はアオイです」 「サプラーイズ、じゃねえんだよ」 美少女が起き上がりたそうにしていたので、俺は美少女の腕を引っ張った。 「ありがとう」 「どういたしまして」 「ところで、私のカバンはどこでしょう?」 「それも知らん」 美少女は、自分がスマホも財布も持っていないことに気づいて、首を傾げた。 「そういえば、昨日は合コンでした」 「昨晩はお楽しみでしたね?」 「その後、ホテルに連れ込まれそうになったので、金玉蹴り上げて逃げてきたんです」 「女の子が金玉とか言っちゃいけません」 「ただ、私も相当酔っぱらっていましたので、とりあえずコンビニで廃棄弁当を調達しようと思い、ここで力尽きたみたいです」 「まさか、廃棄弁当を調達しようとした馬鹿が、二人そろうとは」 「これからどうしようかなあ」 美少女は、困った表情で首を傾げた。 交通費を渡してやるのが格好いいところだが、生憎今は金がない。 かといって、ホテルに連れ込まれそうになったばかりの女を、自宅に招くほど馬鹿でもない。 「貴方のおうちは近いですか?」 「まあ、そこそこ」 「お風呂貸してください」 「なんでだよ」 「ついでに服も」 「ねえよ」 「彼女がいないことは分かっているので、男物の服でいいです」 「そこまでは言ってねえよ」 流れに乗せられて、美少女が俺の家に来た。 突然のことだったから部屋は散らかっていたが、美少女は気にせず風呂場に直行した。 「バスタオルあります?」 「後でここに置いとく」 「五秒以上、覗かないでくださいね?」 「四秒以内ならいいのかよ」 シャワーの音が聞こえる。 俺はクローゼットからバスタオルと着替えの服を引っ張り出して、風呂場の近くに置いて、四秒だけ風呂場を覗いた後、部屋に戻った。 だらだらとスマホを触っていると、美少女が部屋に戻ってきた。 髪の毛がしっとりと濡れて、水も滴るいい女というやつになっている。 「まさか本当に覗くとは思いませんでした」 「許可はもらってたからな」 「人生初の女性の体はどうでした?」 「見たことないなんて言ってねえよ」 美少女が俺の前に正座したので、俺も正座で座り直した。 「実は記憶喪失でして」 「このタイミングでカミングアウト!?」 「しばらく、ここに置いてください」 美少女が深々と頭を下げてきたが、俺は少し迷っていた。 こんなに都合のいい話があるだろうか。 美人局ではないだろうか。 とは言え、話している感じ、嘘をついているようにも思えない。 本当に記憶喪失だとすれば、放り出すのもどうかと思う。 「いいぞ」 「本当ですか!」 「ただ、家に慣れたらバイトをしてくれ。なんと、家賃滞納二ヶ月目だ」 「お願いする相手を間違えましたね」 これが、謎の美少女アオイと出会った日の話。 そしてこれから語るのは、俺の人生で一番熱かった、アオイと過ごした思い出話だ。
あの人が通り過ぎる前に立ち止まる 振り向いて私を見つける センサーでも付いているのかもしれない 笑って手を振っている あの人は私に近づきすぎない 私を見つけても笑って見ているだけで 近くには来ない この間は駅の近くで見かけたが 空を見ながらゆっくり歩いていた 後ろから来る人がどんどん追い越していく あの人は草木を見て満足げな顔をしている 今日もあの人は帰ってきた お酒を飲みながらゆっくり歩いて来て 私を見つけると 「よう、マル。今日も暑いな」 と声をかけて家に帰っていく 気になるあの人 玄関前で鍵がなかなか見つからないあの人 懐かしい匂いのするあの人 私を見つけるあの人
「編集長、今月の応募作品、やたら多くないですか」 「そうだね。今回は賞金が出るからね」 「それにしても、この数は……どれくらいAIですかね」 「半分くらいは賞金稼ぎかな」 「昨日、審査してくれる作家先生から、断りのメールがきましたよ」 「大丈夫。ちゃんと考えてある」 編集長は頬を緩め、応募作品が入ったUSBメモリーをパソコンに挿した。 「審査には、私たちもAIを使うことにした。総評も書いてもらう」 「それじゃあ、AIの作品をAIが審査するってことですか」 「AI vs AIだ」 ──審査発表の日。 スマホを前に、女の指先が震える。 ごみ箱の周りには丸めた紙が散らかっていた。 「今回は自信ある」 祈るようにメールを開いた。 『最優秀賞おめでとうございます』 ─総評─ 「作品の中で語られる主人公の言葉、私には作れない新鮮さを感じました」
物珍しさにつられ 500g入りの豆もやしを 買ってしまったのだ 洗わずそのまま調理できます パッケージにあったその言葉にも ひきつけられてしまったのだ はて さて これを手に取ったときの私は 買いものかごに入れたときの私は どうするつもりだったのだろう はて さて 今夜は カレーにするつもりの 買いものだったんじゃないのかい はて さて
「誰か彼を止めないと……」 「それが、制裁だって言って聞く耳持たないんですよ」 「みんなが迷惑してるよね」 集まった代表たちが、深いため息をついた。 「この前も『我々は最強だ』って言ってたでしょ」 「そう、自分たちファーストってね」 「でも、一般人にケガさせるのはやりすぎ」 「黙ってるけど、君はどうなの? 仲間でしょ」 部屋の隅に、視線が集まった。 「すみません。一部が暴走してて。ぼくも、シャケくわえてた頃が懐かしいです」
ポエム新落語 誰もが知っている「どんびきの話」 今宵は、どんびき このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている その場から引く 文字を変更 どんびき から あらびき それからどうした その場にいて ムシャムシャ ウインナーを食いつくす。食べたもん勝ち その日のウインとなる こんなの どうでしょう 書けるもんな書いてくれ
深く暗い森の奥に、年老いたリスのおばあさんがひとり住んでいました。 おばあさんは毎朝、杖をつきながら森の奥へ 食べ物を探しに歩いて行きます。 ある日のこと。 木の実を拾っていると、聞きなれない鳴き声が耳に届きました。 「ピィ、ピィ、ピィ…」 声のする方へ向かうと、苔むした切り株の陰に小さな鳥の子どもがうずくまっていました。 羽はまだ生えそろわず、大きな口を開けて泣いています。 「どうしたんだい」 声をかけても鳴き続けるばかり。 「親とはぐれたんだね」 おばあさんはその子を抱きかかえ、家へ連れて帰りました。 小鳥はピィ、ピィと鳴き続けます。 おなかがすいているのでした。 けれど家の中に食べ物はありません。 おばあさんは虫を捕まえて食べさせましたが吐き出してしまいます。 花の種も駄目でした。 「困ったねぇ…何が食べたいんだい」 そこへ、ドンドンドンと扉を叩く音。 「ちょっと、ばあさん」 隣に住むおばさんリスでした。 「ピィピィうるさくてかなわないよ。静かにしておくれ」 「ごめんよ。子どもを拾ってきたんだけど、鳴きやまなくて困っているんだよ」 「なんだい、その汚い子どもは。とっとと捨ててしまいな」 そう言うと、おばさんは怒って帰っていきました。 翌日も小鳥は鳴きやみません。 おばあさんは隣の家を訪ねました。 「すまないが、少しだけドングリを分けてもらえないかね。あの子が欲しがるようなんだよ」 けれどおばさんは顔をしかめました。 「冗談じゃないよ。大事な実をあんな子にあげられるもんか。欲しいなら自分で取りに行くんだね」 おばあさんは黙って頭を下げると、心に決めました。 ──あの山の向こうに残る大きなドングリの木へ行こう。 それは若い頃の苦い思い出の場所でした。 夫と実を拾いに行ったとき、人間の作った広い道路を渡らねばなりませんでした。 そこで夫は車にひかれて命を落としたのです。 それからずっと、その道はおばあさんにとって恐ろしいものでした。 けれど今は違います。 小鳥のためなら、恐れを越えてもかまわない。 おばあさんは走り出しました。 轟音を立ててすれ違う車。 小さな足はもつれそうになりながらも、心はひとつの願いで満たされていました。 「どうにか…たどり着けたよ」 大木の根元には、黄金のように輝くドングリがたくさん落ちていました。 おばあさんはポケットに実を入れ、家へ帰ろうとします。 「さぁ、帰ろう。あの子が待っている」 けれど再び道路に立ったとき、老いた足は思うように動きませんでした。 ついによろめき、転んでしまいます。 ポケットから転がり落ちた大切な実。 それを拾おうとした瞬間──。 大きな車が、おばあさんの小さな体を飲み込んでいきました。 そのころ、家では小鳥がまだピィピィと鳴いていました。 やがて扉を叩く音が響きます。 「おい、ばあさん、いるのかい」 隣のおばさんリスでした。 けれど部屋の中にはおばあさんの姿はなく、ひとり、小鳥だけが鳴き続けています。 「うるさい子だねぇ。…仕方ない」 おばさんはしぶしぶ、自分の家からドングリを持ってきて口に放り込みました。 小鳥はしばらく鳴きやみましたが、すぐに吐き出し、また声をあげます。 「なんだいこの子は、もう知らないよ」 そう言い捨てておばさんは出ていきました。 おばあさんは、もう帰ってきません。 やがて鳴き声は途絶え、 小鳥は静かに、冷たくなって横たわりました。 森の奥に夜の帳が降りると、ただ木々だけがその小さな命の終わりを見守っていました。 ──物語はそこで終わりました。 照明が少しずつ明るくなり、朗読をしていた女性がマイクを握った。 「皆さま、本日はお忙しい中、弊社主催の投資セミナーにご参加いただき、ありがとうございます」 正面のスクリーンに、大きな文字が映し出された。 『未来の子どもたちのために、里山にドングリを植樹しよう』 すると、ステージのそでから、高級なスーツを着た中年の男が現れた。 拍手が響くなか、司会者が声を上げた。 「皆さま、お手元の資料をご覧ください」 資料には、植樹をするために必要な金額が書かれていた。 「高いな…」 参加者が、となり同士で小声で話している。 すると、気づいた男が、マイクを持ったままステージを降りた。 「この植樹は投資です。損はしません。ドングリの木を植える“権利”を買っていただく。何本でも構いません。それを親戚や友人に紹介すれば、その分の利益があなたに入る。これを繰り返すだけです」 男はゆっくりと会場を見渡し、声を張り上げた。 「植樹しますか?」 「植樹します」 そして一歩近づき、もう一度言った 「植樹しますか?」 「…植樹します」 男はほくそ笑みながら、小さく呟いた。 「よし。また、たくさん子どもが生まれた」
ゲリラ豪雨のなか たたずむ女がひとり 涙を隠したくて 店から飛び出し 全身で雨を浴びた 化粧は剥げ落ち 髪はぐっしゃり 青い服だって それでも女はよかった 目から落ちるものを 男には隠せた ああ別れてよかった 正解だ 降りしきるなか 天を仰ぐ女の姿を見て 男は心底、そう思った
「あの、変わってもらえませんか?」 「何をですか?」 「僕は、あの娘に介助をお願いしたい」 ベッドの上で、中年の男が視線を上げた。 「ここ、同性介助ですが」 「僕、見てるだけです」 「それって、結構セクハラですよ」 「合理的配慮でお願いします」 薄暗い部屋に、デジタル時計が光る。 「まぁ、上に相談してみます」 「僕、不安定になるかも……」 「はい。お大事に」 男は扉を閉めた。
「サービスよ」 からあげをひとつ おまけしてもらった これが 恋のきっかけに なるかもしれない ならないかもしれない 愛のはじまりに なるかもしれない ならないかもしれない 将来 お弁当屋さんに なるかもしれない ならないかもしれない
平日の午前。 男は整理券をもらうため、小走りでパチンコ屋に向かった。 「今日は勝つ気がする……」 ポケットの中の軍資金を握った。 すると、道路脇でかがんでいる女を見かけた。 「……あの婆さん」 アパートの隣に住む婆さんが、お地蔵様を雑巾で丁寧に拭いていた。 男は足を止めた。 「信じる者は救われるか」 鼻で笑う。 夕方。帰り道、うつむいて舌打ちをした。 「ん……」 隣の婆さんがビニール袋をぶら下げ、地蔵の前に立っている。 そして、気にする素振りもなく、お供え物と小銭を袋に入れた。 「婆さん、こずるいこと考えたな」 「なにがだ」 「いやいや、今、お供え物と小銭、盗ったろ」 婆さんは笑いながら、男を見た。 「この地蔵、私が通販で買って、ここに置いたんだ」 「なんだそれ」 「他にも、何か所も置いてるさ」 辺りが暗くなってきた。 「私はねぇ、ちゃんと考えて置いてるんだ。リピーターを増やすためにね」 そう言うと、地蔵を抱えた。 「それ、どこに持って行くんだ」 婆さんが振り向いた。 「……ここは儲けが少ない」
落ち葉 吸い殻 スカートから伸びる太もも かみくず 風 空 雲 はと リュックを背負ったスーツの男性 Tシャツの女性 マスクから出ている鼻 揺れる胸 汗 クーラーをつけたままの車 蝉 鉄の錆 曲げられた鉄筋 日差し 駅 電車 まだ言葉を集めることしか出来ない自分
「ぼくは見つけてもらえないのさ」 「ふふふ」 答えるかわりに きみは微笑んで 線香花火に火をつけた 最後までもたず 線香花火の灯りは 落ちてしまった 「やっぱり見つけてもらえそうにないかあ」 「ふふふ」
ポエム新落語 誰もが知っている「かぶとの話」 今宵は、かぶと このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている おもい 文字を変更 かぶと から とぶか それからどうした おもいから とばない そのあとどうした 兜の思い出なんかない それは そうだろ 生まれる前の ずーと昔のこ それは 当然さ 兜のことで しっていることは おもいと 言うことだけ こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
男女が、ゆっくりと目を開けた。 「私たち、死んだのね」 二人の手は固く握られている。 「これでみんな、分かってくれたさ」 「そうね。私たちの愛は本物だったって」 見つめ合う二人。 「……なんか、人多くない?」 辺りを見回し、杖をついた女に声をかけた。 「すみません。ここは、どこですか」 「ここ、三途の川だ。並ぶんなら、向こうだ」 女は長い行列の最後尾を、杖でさした。 「あっ、スマホがない」 女がポケットを探る。 「洗面所の鏡のとこに置いてきた」 「もう、いいんじゃない」 「だめ。データ、消してないもん」 その時、遠くで声がした。 「ん…?お母さん。ちょっと待ってて。スマホ、取ってくる」 女は、声がする方へ走った。 「先生、すぐ来てください」 看護師が大きな声を上げた。 母親は娘の手を握り、泣いている。 「私のスマホ…」 男は河原の石に腰掛け、女の帰りを待った。 「兄ちゃん、どうした」 酔っぱらいが横に座る。 「僕も、帰りたいんですけど。どうしたら、いいですか」 「誰か、呼び掛けてくれる人、いねぇのか」 「はい」 「じゃあ、その彼女、待つしかねぇな」 酔っぱらいは笑いながら、男の肩を叩いた。 「その彼女、今度来る時は、婆さんだな」
「ほーら。ご飯ですよー」 娘が、お人形遊びをしている。 微笑ましい光景だ。 お人形遊びに使っているのが、呪いの人形であるという一点を除けば。 娘が、おもちゃのお菓子を人形の口に近づける。 人形を小刻みに動かして、お菓子を食べさせるふりをする。 翌日。 俺は太った。 たった一日で、十キログラム増。 脱・中年を目指した筋トレの結果は、一瞬で消え去った。 「はーい。髪を切りましょうねー」 娘が、人形の髪をはさみで切っていく。 黒い毛糸が、人形の頭から床へと散らばった。 翌日。 俺は禿げた。 美容師から強い毛根とお墨付きをもらっていたのに、完全に河童。 タオルで磨けば、良い音がしそうだ。 「なあ。そろそろ、娘から人形を取り返してくれよ」 俺は妻に泣きを入れた。 妻は包丁を動かす手を止め、最高の笑顔を俺に向けてきた。 「デブでハゲてたら、さすがに浮気できないでしょ?」 俺は何も言い返せず、すごすごリビングに戻った。 ソファに座っていると、娘が最高の笑顔で近づいてきた。 「パパ見て! ブーブー! ママが買ってくれたのー!」 人形と、車の玩具を持って。
郊外にある一軒家。 男がカメラを片手に、玄関の扉を開けた。 何十年も誰も住んでいない家。 家具には、白い布が掛けられていた。 「二階の奥……」 廊下に、きしむ音が響く。 階段を上がり、目的の部屋に入った。 「これか……」 男は窓際の白い布をめくり、中を確かめた。 そこには、ひじ掛けのついた古びた椅子があった。 横の机には、家主だった老婆の写真が立て掛けられている。 「皆さん、ご覧になってどうでしたか?」 スーツ姿の男が声をかけた。 部屋には、数人の男女がモニターの前に座っている。 男がスタッフに視線を送ると、窓際の椅子が運び込まれた。 「晩年、お婆さんはこの椅子に座り、外を眺めてました」 集まった男女は、緊張した顔で耳を傾けた。 「さぁ、皆さん。順番に椅子へ座ってみましょう」 机の上には、老婆の写真が置かれている。 「私は無理です……」 声が震える。 「大丈夫ですよ」 男が、そっと寄り添った。 女は恐る恐る、椅子のひじ掛けに手を掛けた。 そして、ゆっくりと腰を下ろした。 「がんばりましたね」 部屋に拍手が響いた。 すると、一人の男が手をあげた。 「先生。この椅子には、どんな因縁があるんですか?」 「……そんなものはありませんよ」 「でも、この写真の顔……」 スーツの男が、写真を手に取った。 「このお婆さん、私の母ですね」
ポエム新落語 誰もが知っている「いきなの話」 今宵は、いきもの このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている せいぶつ 文字を変更 いきもの から 着物 それからどうした きものとなり そのあとどうした 文字を変更 はきもの から いきもの いきものは いきなり変わる いなものとなる つまり 不思議なもの こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
桃が売ってたから買ってみた。 子供の頃は親がデザートに用意してくれていたが、一人暮らしを始めてからは値段が高くて買っていなかったが。 今日は、なんとなく気まぐれだ。 八等分に切って、皮を剥く。 フォークを手にして、一口で放り込む。 「……硬。ハズレかよ」 久々の桃は、物足りなかった。 桃って、こんなにマズかったっけ。 それとも、子供の頃に食べたっきりだから、味を美化していたのか。 『それは、追熟をすると、もっと美味しくなるかもしれません』 AIに愚痴ったら、桃は一定期間を置くことで、甘さを増すと返ってきた。 そういえば、うちの母親も、買った桃をその日に出すことをしなかった。 食べたい食べたいと騒ぐ子供の俺を宥めて、二日後くらいに出してたっけ。 「これが、知らない代償か」 翌日桃を買いに行ったが、もうすっかり売り切れていた。 店員曰く、旬を終えたそうだ。 次に買えるのは、一年後。 手痛い代償を抱えながら、俺は半額シールの貼られた弁当を買い物かごに入れた。
大橋くんのこと ちょっと気になる 大橋くんは 小橋くんと仲良し 小橋くんのほうが ちょっと優勢 大橋くんは 中村さんのことが ふうん そうなんだあ べつに大橋くんと 付き合いたいとかじゃ でも大橋くんのこと ちょっと気になる
新落語 誰もが知っている「下記参照の話」 今宵は、かき このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている たべます 文字を変更 かき から かく それからどうした 隣の客は 柿食う客だ 柿の文字を書く そのあとどうした 下に書く これはなに 下記参照 こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
新落語 誰もが知っている「フローの話」 今宵は、フロー このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている 流れるように 文字を変更 フロー から ブロー それからどうした 風吹く景色 これはなに 長い髪 ロングヘアの まとめ髪 たばねるすがた マルでプロ こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
新落語 誰もが知っている 「ぼんぼりの話」 今宵は、春景色 このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている ぼんやり 文字を書く かすむ それからどうした 眠い目をこする これはなに ぼんぼり ながめ ぼんやりしてる 小さな女の子 こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
生物としての限界を感じる。 過去の偉人の言葉の総合知で考えてみた結果そうなる。 カートコバーンは本当は何でも出来たが何もしたくなかったんじゃないか、と評価されていた。 お腹が空く。 植物のように水と土の養分と太陽光だけで生きられればいいのだが。 狩りに疲れる。 畑を2週間程休んでしまったのでルーチンから少し外れているのも原因だろう。 お酒は飲まない。 煙草を辞められればいいのだが。 鬱にしてくる攻撃的な奴らを強制収容所に送りたいが奴らも人権があるので出来ない(俺は酷い奴だろうか?) 文章を書く手が震えてくる。 外に出て殴られるのも手かも知れない。 こんなに殴りやすい奴もいないだろう。 マイクタイソンと鳩を見たい。 鳩を探しに行こう。 ハトヲサゴシニイコウ。
朝起きてカーテンを開けると、外はとてもいい天気。 窓を開けると、心地よい風が気持ちいい。 大きく伸びをして、深呼吸する。 「おはよ。俺しか見れない特権だな。」 わたしの一連の流れを見ていたであろう、幼なじみ、改め、彼氏の蓮が笑いながらこちらを見ていた。 「や、、、、見てたの!?」 カーッと顔が熱くなる。 恥ずかしくて、カーテンを閉める。 「あ、あおい!」 「、、、、何?」 「いい天気だからさ、どっか出かけない?」 「え?」 「デートしよ。」 蓮に誘われるまま、急に決まったデートに、何を着ていこうか迷ってしまう。 今までも一緒に出かけることはあったけど、彼氏彼女になってからのお出かけは、もちろん初めてで、どうしていいのかわからない。 着る服に迷っていると、ノックの音が聞こえた。 「あおい。遅いから、迎えに来た。」 そう言いながら、蓮が部屋の中に入ってくる。 よかった。まだ服を脱いでいなくて、、、。 「何、迷ってんの?」 「え、、、、っと、、、何着てこうかと思って。」 「そんなの、これとこれでいいよ。」 と、デニムとTシャツを選ぶ。 わたしが、怪訝な顔をしているのに気づいた。 「もしかして、俺のために可愛くしようとしてくれたの?」 口元に手を当て、ニヤニヤと笑う蓮。 「そんなんじゃないし!」 プイッと顔を背ける。 図星なだけに恥ずかしい。 蓮に背を向けていると、クスクスと笑う声が聞こえたと思ったら、背中に温かい感触。 「どんな格好でも、俺は好きだよ。ホントはワンピース着て欲しいけど、今日は天気がいいから自転車で出かけるのどうかなって思ってさ。」 わたしを背中から腕の中に閉じ込めて、顎をわたしの頭に乗せて喋る蓮。 そのままチュッと頭にキスを落とす。 「自転車?」 「そう、自転車デート。だからさ、ワンピースや、短いパンツだと、誰かに見られるの嫌だからさ。」 モゴモゴと、話す蓮。 蓮の顔を見ようと思ったら、強い力で抱きしめられた。 「今、こっち見んな。」 「えー、照れてるー笑?」 なんだかおかしくなってきて、蓮の腕の中でクスクス笑う。 「ほら、後ろ乗って。」 蓮が荷台をポンポンとたたく。 言われるがままに荷台に乗る。 「しっかり掴まってろよ。」 そう言って、自転車を漕ぎ始める。 自転車の速さに合わせて、風がふわっと頬を撫でる。 気持ちいい。 わたしは、落ちないように蓮の服を掴む。 「れーん!」 「なにー?」 「気持ちいいね!」 「はは!だな!」 自転車に乗って、街中を出て河川敷に入る。 さっきよりも風が強く当たって、今にも飛ばされそうになる。 服を掴んでいたけど、それだけじゃ心許なくて、蓮に抱きつくと、蓮の背中が一瞬だけ強ばったのがわかった。 自転車は進み、橋の下の河川敷で自転車を停めた。 「ありがと。気持ちよかった。」 「ん、ならよかった。」 ポンと頭を撫でる。 何気ないその仕草にときめく。 蓮は自然とわたしの手を握り、河川敷を歩き始める。 ただの散歩。デートとは言わないじゃないか。と言われてもおかしくないけれど、蓮と出かけるこの瞬間がなんだか、とても幸せだ。 「ねぇ、蓮。お弁当もってこればよかったね。」 そう言うと、そうだなって笑って答える。 今度は、そうしようと蓮が呟く。 その呟きに、自然と笑みが溢れる。 河川敷を手を繋いで散歩しながら、たくさん話をして、誰もいない橋の下で、キスをした。 そしてまた、自転車に乗って河川敷を離れ、街中に戻っていく。 次があれば、お弁当、作ってみようかな。 なんて、蓮の背中に顔をうずめながらそんなことを思った。
ずっと近くにいたのに、今はあおいが遠い。 先に学校についたあおいは、靴を下駄箱にしまおうとしていた。 そのあおいの手をガシッと掴む。 「きゃっ、、、れっ蓮、、!?」 驚いて目を見開くあおい。 その瞳が揺れる。 「ごめん、ちょっと話したい。」 「でも、もうすぐ予鈴なっちゃう。」 「そんなのどうでもいい。今はあおいに聞きたいことがある。」 掴んだ手に力を込める。 あおいの瞳はまだ揺れている。 確認したい。あいつが言っていた言葉が本当なのか、、。 「、、、わかった。でも、彼女は、、?置いてきちゃってよかったの?」 「、、彼女?」 「可愛い、マネージャーの彼女。」 「なんで?それより、俺の方が聞きたいことあるから。」 あおいの言葉が理解できなくて、思考が停止する。 それよりも、とにかく、あおいのことが知りたい。 あおいを体育館の裏側にまで、連れていく。 「ねぇ、蓮。聞きたいことって、、、?」 あおいは、俺に手を掴まれたまま少し不安げな声で話しかける。 何から話せばいいのか、思考がグルグルと巡る。 「気になるヤツがいるって、、、ホント?」 「えっ?」 考えて考えて考えたけど、結局それが一番聞きたいことなのかもしれない。 あおいに気になるヤツがいるってだけで、不安で押しつぶされそうだ。 「だから俺と、登校するの嫌なのか?俺と離れたい、、?」 「れ、、、ん、、?何言って、、。」 「朝から、あおいの笑顔がいつもと違ってた。不思議だと思ってたところに、あおいが気になるヤツがいるから、俺と一緒に学校行くの嫌がってるって話を聞いて、それで気になって。」 不安から、早口になる。 ずっと一緒にいた。 ずっとそばにいたのに。 そんなあおいの口から、離れたい、嫌だ。なんて聞きたくない。 「俺と離れたくなった、、、?」 男のくせに、消え入りそうな声で話しかける。 あおいのことになると、自信がもてなくなる。 ギュッと、あおいの手を握る。 「、、、、蓮の方こそ、彼女と一緒にいたいんじゃないの?」 「え?彼女?」 「蓮、彼女できたんでしょ?あの可愛いマネージャー。だから、わたしといつまでも一緒にいるのやめたいって、もう、わたしと離れたいって、、、」 あおいの目から、涙がこぼれた。 誰が、あおいと離れたいって? そんな訳ねーだろ。 「誰がそんなこと!」 「可愛い、マネージャーが言ってたよ。付き合い始めたから、もう蓮を解放してあげてって。」 開いた口が塞がらなかった。 意味がわからない。 「蓮が、そう、、思ってたなんて、知らなくて、、、、。なのに、いつものように、、学校まで、、、」 涙で震えた言葉を遮り、気がつけばあおいを抱きしめていた。 俺よりもずっと小さくて、華奢な体をきつくきつく抱きしめる。 「俺は、あおいが1番だよ。あおいが離れていくなんて考えられない。」 抱きしめた胸の中で、あおいが息を飲む。 「あおいがずっと好きなんだよ。彼女なんて、いないよ。気がつけば、あおいのことばっかり考えてる。」 「あおいが、他に気になるヤツがいたって、俺は、簡単にあおいを離してやれない。」 勢いに任せて、俺の気持ちをぶつけた。 そう、俺は、誰よりもあおいが好きだ。 「蓮、本当?わたし、蓮のそばに、まだいてもいいの、、、?」 あおいが、顔を見上げる。 「蓮に、彼女ができたから、もう、一緒にはいられないって思って。」 「何回だって言うよ。俺、彼女いないよ。俺の彼女には、あおいしかなってほしくないもん。」 そもそも、俺あいつのことは苦手だ。 「あおいは?気になるヤツ、ホントにいるの?」 「、、ううん。わたしそんな話したことない。わたしもずっと蓮が好き。」 「蓮と、ずっと一緒にいたい。」 あおいの言葉に、また強く抱きしめる。 ああ、あおいも同じ気持ちでいてくれたんだ。 あおいが、おずおずと手を俺の背中にまわす。 それがまたいとしくて、頭にキスをひとつ落とした。 「あおい、好きだよ。」 はっきりと、目を見て伝える。 あおいが、今までで一番キレイな顔で笑った。
いつものように、あおいと登校する。 でも今日は、なぜかいつもの元気がない。 「あおい?なんか、、、あった?」 そう尋ねてもあおいは、笑みを浮かべながら首を横に振る。 心配そうに見つめる俺に、大丈夫と言い聞かせるように、笑う。 でも、その笑顔は、どう見てもいつもの向日葵みたいなキラキラとしたものとは違った。 理由を聞きたくても、あおいはそれを絶対に許さない。 「蓮くん、おはよう。」 後ろから、部活のマネージャーが声をかけてくる。 いつもいつも、あおいと俺のスペースに入り込んでくる。 「おはよ。何?」 「えっ、蓮くんが見えたから。」 あおいのことが気になって、それ以外のことを今は考えたくないのに。 つい、返答にイライラが隠しきれない。 俺が見えたからなんだって言うんだ。 バレないように小さくため息をついて、あおいの方を見る。 「あれ?あおい?」 隣にいたはずのあおいがいなくて、キョロキョロと辺りを見回す。 いつの間にか、あおいは先を歩いていた。 なんで、、、? 追いかけようと思ったら、腕を掴まれた。 「、、、だから何?部活の話は、俺じゃなくてキャプテンの康平にして、って前に言ったよね?」 苛立ちが隠せない。 その間にも、あおいは先に進んでいく。 「違うの。実はね、私、前に見ちゃって、、、。」 「何を?」 「蓮くんといつも居る、あの子のことなんだけどね、、」 彼女は、あおいの後ろ姿をチラッと見て、なんだか話しづらそうに口をモゴモゴさせている。 あおいの何を見たんだというんだ、、? 「あおいが、何?」 「最近、気になる人がいるから、蓮くんと毎日学校に行くの嫌だって、言ってるの聞いちゃって、、、」 、、、は? あおいに気になる人がいるって? それで俺と登校するのが嫌だって? 「それ、いつの話?」 「えっと、、、1週間くらい前かな、、、?」 「どこで?」 「えーっと、、、どこだったかな、、、あ、放課後の教室。私、委員会で部活遅れたことあったでしょ?その時に、友達のあの子が話してるの聞いちゃって、、、」 1週間前、委員会、、、。 ああ、そういや、そんな日もあった。 「そう、教えてくれてありがと。なら今から、本人に確認してくるよ。」 思考を巡らせたけど、なんだか腑に落ちなくて、それならあおいに直接聞いた方が早い。 1週間前のできごとなら、昨日までの変わらない笑顔はなんだったんだ。 マネージャーの話を切り上げて、先を行くあおいを追いかける。 背後からマネージャーの声が聞こえるが、そんなこと今は、どうでもいい。 あおい、今、何を思ってる?
世間一般の高校生は夏休み真っ只中だというのに、いつもと同じ時間に鳴るアラームで目を覚ます。 外はもう暑苦しく感じるほどのセミの鳴き声が響いている。 今日も部活に出るために準備をする。 「行ってきます。」 両親に声をかけ外に出ると、隣に住む幼なじみもちょうど出かけるためか、外に出てきた。 「おはよ。珍しいな。どっか行くの?」 「おはよう。図書館で勉強しようと思って。」 そんなやりとりをしながら、自然と同じ方向に歩みを進める。 白いワンピースに麦わら帽子が良く似合う。 時折吹く、生ぬるい風にワンピースの裾が揺れる。 麦わら帽子が飛ばされないように小さな手でそっと押さえる。 その姿に心が掴まれる。 いとしい。 いつからだろうか、幼なじみの彼女に思いを寄せるようになったのは。 バレないように、そっと目に焼きつける。 「蓮は、今から部活?」 急にこっちを見て話しかけてくる。 見てたことがバレないように、平常心を心がけて「そうだよ。」と答える。 「暑いのに、頑張るねー。」 「大会もあるからね。」 「そっか。今回も蓮ならレギュラーに選ばれるよ!」 「そうだといいけど。」 「毎日頑張ってるの、わたし知ってるよ。」 「蓮なら、大丈夫!」 俺の頑張りをよくわかってくれてて、眩しい笑顔でそう言ってくれる。 向日葵みたいなキラキラとした笑顔が眩しくて、自然とこっちまで笑顔になる。 「ありがと。あおいに言われると、自信が湧いてくる。」 麦わら帽子越しに、頭をポンと撫でる。 俺の精一杯の照れ隠し。 あおいに照れてる顔を見られたくなくて、麦わら帽子で、彼女の顔を隠す。 「もう!前見えないじゃない!!」 と、プリプリ怒る彼女が可愛くて。 俺の気持ちに気づいて欲しい思いと、まだ気づかれたくない思いがぶつかり合う。 「じゃあ、わたしこっちだから。」 「おう、勉強頑張って。」 「蓮も、練習頑張ってね。」 「ありがと。」 分かれ道でお互いを励まし合う。 手を振って、あおいが先に背を向ける。 その後ろ姿から目が離せなくて、こっちを見ろ、振り返ろ、なんて念じてしまう。 俺のこんな気持ち、あおいはきっと気づいていない。 あと3秒、いや、あと5秒。 あおいの後ろ姿を目に焼き付けてから、学校へ行こう。なんて勝手に思ってると、不意に立ち止まったあおいがこちらを振り返った。 「蓮!行ってらっしゃい!」 眩しい笑顔で、手を振っている。 強い日差しと青空に麦わら帽子と白いワンピースがよく映えて、まるで映画のワンシーンのような光景に自然と心が温かくなる。 あおいが、好きで好きで堪らない。 ああ、今日もこれで頑張れる。 なんて思いながら手を振り返した。
いつもと同じ朝。 代わり映えのない日常に少し嫌気がさしながら、同じ時間に鳴り響くスマートフォンのアラームを止める。 止めたと同時に、すぐにピロンと通知音が鳴る。 確認すると、『おはよう。起きた?』と隣の家に住む、幼なじみからのメッセージ。 眠気でシパシパする目を擦り、ボサボサの髪の毛を手ぐしで整え、カーテンを開ける。 「おはよ。はは!今日も眠そうだな。」 目の前には爽やかな笑顔を見せて話しかけてくる彼。 眩しい笑顔に、目が眩む。 「おはよう。今日も早いね。」 いつもの返答をしてから、それぞれ学校へ行く準備をする。 玄関を出ると、手を挙げて挨拶をする幼なじみ。 手を挙げて挨拶を返し、隣を歩く。 昨日見たテレビの話や、お互いの家族の話などの雑談をしながら学校へ向かう。 その瞬間も、眩しい笑顔は変わらないまま。 彼は所謂、イケメンという部類に入る。背が高くて、スポーツ万能。幼なじみでなかったら、きっと関わりなんてない。 隣を歩けているのは、家が隣同士の幼なじみだから。 学校に近づくにつれ、彼の周りには可愛くて綺麗な女の子や明るい男の子達が集まり話しかけていく。 それにひとつひとつ返して行く姿を横目に見て、先に歩みを進める。 彼は挨拶を返しながら、大股でわたしの隣に当たり前のように帰ってくる。 「よかったの?一緒に行かなくて。」 わたしを優先させてくれることに、嬉しい気持ちと少しの罪悪感が入り交じって可愛くない言い方になってしまう。 「なんで?俺、朝はあおいと行くって決めてるし。」 彼は、当たり前のように答える。 その一言が、とても嬉しい。 自然と頬が緩んだのも束の間、 「おはよう、蓮くん。」 と、後ろから声が聞こえた。 振り返ると、可愛い女の子が少し頬を赤く染めながら立っていた。 「おはよ、今日朝練だったっけ?」 「ううん、今日は何もないよ。ただ、蓮くんが見えたから。」 彼女は、蓮の部活のマネージャー。 きっと、蓮のことが好き。蓮のためにオシャレして、毎日、話しかけている。 でも、鈍感な蓮はその思いに気づかず、部活の連絡?と見当違いの質問を投げかけている。 気がつくと、蓮を真ん中にして3人で歩いている。 すると、周囲から、「あの2人お似合いよね。美男美女!」とヒソヒソと話す声が耳に入る。 その言葉を聞いて、心が勝手に沈み、蓮に気づかれないのように、そっと2人から距離をとる。 わかってる。 わたしは平凡だ。 こんなに胸が締め付けられるのも気のせい。 幼なじみなんて、贅沢なポジションにいるのが、いけないんだ。 近くにいすぎて、わたしだけが蓮の特別なんだと勘違いしている。 チクチクと痛む胸をそっと抑えて、この気持ちに蓋をする。
夜風が涼しく感じられてくると 人がうようよ這い出してきて 犬の散歩をしてみたり スーパーやコンビニに 買いものに行ってみたり この時間は わたしのための 時間だったのに あたかもそこに 人なんかいないみたいに わたしの主張は あっさり退けられて 難儀です たいへん難儀です この時間は わたしのための 時間だったのに
「普通にこっちのほうがいんじゃない?」 旅行、遊びの予定を決める際、一言で全てが冷めることはないだろうか。 別に悪気があっていっていないことは分かる。ただこの一言で今まで考えてきた面白いあれこれが選択肢として否定されるのである。 私は考えた。「普通に」は自分の中で決めた平均を他人に押し付ける行為なのだと。 例え話で考えよう。神様が仮に普通に人類を滅ぼそうと言っても何もおかしいことはない。なぜなら、それは神々などの高尚な者にとって、ごく普通の平均的なことだからである。 仮にこれを知り合いが言っていた場合、そいつはぶっ飛んでいる。 普通にを語る奴は「自分が普通の何の変哲もない選択をしている」という無害感を押し付けているのだ。クソ野郎だ。 面白みのある選択肢に平均など必要あるだろうか。 僕はぶっ飛んだ選択肢に言おう 「普通にこっちのほうがいんじゃない?」
出町柳のゼッテリア。 紙カップに入った緑茶は窓からの光に攪拌され、黄色く透き通っている。貴船に流れる清冽な水と似ているが、どこかで見た色と質感をしている。 それは、脱水時の尿の色だった。 瞬間に緑茶がどうしても尿にしか見えなくなる。 よく食事の時に汚い話をすると、母や姉は眉間に皺を寄せて不快感をあらわにした。ゴキブリの話なんかもってのほかで、それこそ汚いものを見る目で私を一瞥し、やめてと冷たく突き放す。 私は、何の不快感もなく尿に似た緑茶を喉の奥へ流し込んだ。鼻の奥に茶葉の香りが広がる。冷えた緑茶が食道を伝っていくのを感じた。 緑茶はどこまでも緑茶でしかない。残った紙カップの中の緑茶はさっきと同じように光を透過し煌めいているが、やはり見た目は尿とも言える。 でも、私の中では、どうしても想像上の不快と目の前の食事が結びつかない。 母や姉の歪んだ顔を思い出す。その反応は、もしかすると、正常な人間を演じているようにも思える。 私はたまらなく、「不快」だった。 令和八年八月一六日
デパートの 駅弁大会に行っても 旅行気分には なれない デパートに 行った気に なるだけ 駅弁を買って 喫茶店で ナポリタンと クリームソーダ 駅弁は 夕ごはんに 今日は デパートに 行ったなあ 旅行では ないなあ
「見てて。今からこのウェットティッシュをただのティッシュにして見せるから!」 私の友人はそう言ってウェットティッシュに手を向けた。 「ティッシュになれ〜、ティッシュになれ〜」 私は団扇で仰ぎながらその光景を見ていた。 「よし!明日、またこのウェットティッシュを触ってみてよ。乾いてるから!」 「いや、置いてりゃそのうちティッシュになるだろ!それに、乾いてるって言っちゃってんじゃん。」 「あーあ。つまんないの。夏休みっていうのになんもすることない。」 「勉強はどうした!?」 「ねえ!そんなことよりさ、今日の夜、神社へ行って肝試しやろーよ!」 友人はなにやら肝試しがしたいらしい。 「ま、暇だし。いいよ。」 「やった!!」 そして私たちはその夜、神社へ行った。 「なんか、寒いね!ワクワクしてくるよ!」 そうして私たちはお賽銭箱のところに来た。 私たちはお金を投げ入れる。 「ねぇ。この鈴。鳴らしてみてよ。」 私は友人に言われ、鈴を鳴らす。 すると、何かが降ってきた。 「ぎゃー!!!!」 私の反応を見た友人は腹を抱えて笑った。 「あっはっはっ!面白すぎる笑笑」 「ちょっと!もう!」 「ほらほら!次もあるから!そこのお地蔵さんに挨拶してみて!」 そう言って友人は、次もあるからと、仕掛けを私に隠すことなく、お地蔵さんの前へ行けと催促した。 「何すりゃいいのよ。…おじぞーさん?元気ですかー。」 するとお地蔵さんの首が縦に揺れた。 「ひっ。ね、動いたんだけど。」 「すごいっしょ!これも仕掛け!」 どうやら友人はマジシャンにでもなるようだ。 そんなこんなで、私の友人はさまざまな仕掛けを私に繰り広げては驚かしてきた。 そうこうしているうちに、夜が明ける。 「今年も楽しかった!じゃ!」 そう言って友人は消えた。 あれ、何かがおかしい。 「そっか。忘れていた。」 友人は、もういないのだった。 私は、夏が来るたびに、友人と過ごした日々を思い出してしまう。 友人は去年の夏、亡くなった。私はその出来事を思い出したくなくて、記憶のどこかに隠していたようだ。 ウェットティッシュはもう、乾き切っていた。
デートでプラネタリウムに行って ちょっと考えた 宇宙に行ったら やっぱ宇宙服ってことに なるんだろうなあ 近未来的な感じに なっちゃうんだろうなあ おしゃれとかは別にいいんだけど たまにはプーマのジャージ 着たいかなあ
面白講釈「聞き違いの話」時は元禄、今は令和 今宵は、お前さん 物売らしいな お客さん 試食 食べて 見なさらんか 一つだけ 食べて見るか なかなかのもの なかなか まん中 つまり ふつうと 言うことか? ちがいますよ とてもよい ベストでございます。ペーストなら したばかリ お前さんは よくばり じゃのお こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
山間部にある限界集落。 集会所に年寄りたちが集まった。 「だいたい集まったな」 村長が、長机を挟んで座った。 「今日は、村の今後のことを話そうと思ってな」 「どうした、急に」 「昔みたいな、賑やかな村に戻りたいだろ」 ──ガラガラガラ。 玄関の扉が開いた。 「遅くなりました」 スーツ姿の男が入ってきた。 「おぉ、待ってたよ。この人、ホラープランナー」 年寄りたちが、視線を向けた。 「村長、あんた何考えてんだ」 「この村、空き家多いだろ。それ使って、お化け屋敷作る」 男が、声をあげた。 「私は、お化け屋敷の企画から立ち上げ……」 「ちょっと待て。村に、お化け屋敷作るってか」 村長が立ち上がり、窓の向こうを指さした。 「若い奴らって、心霊好きだろ? しかも、没入型だ」 「なんだ、それ」 男が一枚の紙を取り出した。 そして、年寄りたちを見渡すと、大きくうなずいた。 「まぁ、開業は二、三年後ってとこですかね」 ──契約書。 『死後はキャストとして勤務すること』
この記録を誰かが読んでいるという事は、俺はもうこの世にはいないだろう。 これを読んでいるお前に、伝えなくてはならない事がある。どうかこれを読んだなら、他の奴らにも教えてやってくれ。 俺はある戦争で派遣された兵士の一人だ。 この戦争は、国と国とが資源の奪い合いで起きたもの。 俺や他の連中は、その戦争の駒として戦地へ派遣された。 誰だって死にたくはない。俺や仲間もその気持ちは同じ。俺たちはチームとなって行動をし始めた。 そんなある日のこと。 敵との攻防で仲間とはぐれてしまった。それもジャングルの中で。 俺は一人になったが、運良く敵と遭遇することはなかった。 そんな時、俺はジャングルを探索していると、何らかの集落を見つけた。 そこは戦争中だというのに妙に賑やかだった。 俺はその何とも言えない賑わいに、警戒しながらも内心『もしかすれば助かるかも』という期待をしてしまった。 その集落の入口に、横書きの看板が立てられていた。 霞んで文字も消えかかっている為、ハッキリとは読めないが、『……ピアへようこそ!』と最後の文字だけは読む事がかろうじてできた。 俺は、何となく無意識的にこの集落へ足を踏み入れてしまった。 すると、集落の人たちは俺のことを優しく歓迎してくれたのだ。 その時俺は思った。戦争に来た兵士が、こんな集落に居ていいはずがない。 何故なら、この無関係な人たちを巻き込む恐れがあるからだ。 だが、そんな考えは数時間の間でさっぱりと消えてしまっていた。 集落の人たちは優しく、俺を客人として美味しい料理や酒をたらふくご馳走してくれた。 俺は思った。ここは『天国じゃないのか』と。 あの看板の『……ピアへようこそ!』とは『ユートピアへようこそ!』ということなのではないのか。 気づいた時には、もうこの集落に入り浸る様になっていた。 この集落に来てから何日か経ったある日のこと。 俺は自分の目を疑った。それは、はぐれてしまった仲間がこの集落に来ていたのだ。 それだけではない。敵国の兵士もこの集落に来ていたのだ。 それだけでも信じられない光景だが、それ以上に奇妙なのが、俺の国の兵士と敵国の兵士らが楽しそうに酒を酌み交わしていたのだ。 その光景を見て、俺は安堵した。戦わなくて済む。俺は、死ななくてもいいのだと。本気でそう思った。 だが、日が経つに連れ、俺の感覚が少しずつおかしくなっていった。 なんというか、何も感じなくなっていくのが、感覚として分かる。 このままだと、理性を失い人としていられなくなる様なそんな感覚。 いつしか、見かけていた仲間の兵士や敵国の兵士の姿が見当たらなくなっていた。 ここから抜け出さないと俺はいずれ死ぬだろうと、頭では分かっているが、美味しい料理や酒、女たちが俺のそんな考えを消し飛ばす。 もうここから一歩も出たくない。帰りたくないとさえ思う様になった。 そして俺は、この集落の真実を知った。 この集落は、ここへ迷い込んだ人たちを招き入れ、自分達の餌にしているのだと知った。 更には、料理に分からないように極小量の薬物を入れ、何日もかけて迷い人を抜け殻にさせているのだ。 俺もどうやらその術中にハマり、今ではこの集落の虜になりつつある。 俺の理性がまだほんの少しでも保っているうちに、誰かにこの恐ろしい集落が存在することを伝えなくてはならない。 そして、この集落を一刻も早く壊滅させなければならない。俺にはもうそんなことをする時間がない。 だから、この事実を書いた紙を何らかの方法でこの集落から外へ出し、拾って見てくれた人が、何かしらの対応をすることを切に願う。 俺はもう時期、奴らの餌となる。 俺が最後に知った恐ろしいことがある。 この集落の本当の名前だ。 この集落の名は……。 『デストピア』
新落語 誰もが知っている 「またの話」 今宵は、またかぁ このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている くり返し 文字を変更 またかぁ から またトンカツ それからどうした 同じようなことになりました。 イメージ文章の完成です。 こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ