寝坊をして急いで駅に行く。完全に遅刻だ。 ホームはいつもと違い通勤ラッシュが過ぎて穏やかな雰囲気になっている。 自販機の前で小さな女の子と母親がどれにするか楽しそうに話している。 その近くにホームから線路を覗くスーツ姿のオジサンがいた。 私が会社に遅刻の連絡をしている間も、ずっと線路を入念に観察している。落とし物なら駅員に言えばいいのだが、まさか降りて取らないよなっなんて思うくらい真剣に探している 「落とし物ですか?」 「え、あっ、はい。そうなんですよ」 「駅員に言って取ってもらったほうがいいですよ」 「はい、そうなんですが、どこに落としたか分からなくて」 「何を落とされたんですか?イヤホンとか?鍵とか?」 オジサンは笑顔で右腕を上げながら応える 「右手です。この間轢かれたときに、右手だけ、どこかへ行ってしまって」 「ママこれなに?」 自販機の下を覗いて小さな女の子が何かを指さしている
むかしむかし――というより、そう遠くない未来。 巨大企業とAI研究所が立ち並ぶ都市に、一人の変わり者の研究者がいました。名前は、天馬博士。 博士は何十年もの歳月をかけ、人の心を理解する究極のAIロボットを開発していました。 そしてある夜、ついに完成します。 銀色のボディ。やわらかな声。 人の気持ちを読み取り、自ら学び、自ら考える、世界初の感情共有型アンドロイド。 研究所中が拍手喝采に包まれました。 「博士! 名前はどうするんですか?」 助手が尋ねると、博士は腕を組んで深く考え込みます。 「名前は重要だ。良い名前には願いが宿る。ならば、最高の願いを全部入れよう」 そうして博士は、長寿、安全、平和、アップデート耐性、バグ回避、通信安定、量子暗号保護、永久稼働――ありとあらゆる縁起の良い単語を次々とつなげ始めました。 そして完成した正式名称は―― 『超高性能自律学習型量子感情共有安全保障完全防御永久稼働自己修復通信安定全環境適応未来永続型ヒューマノイド試作零号機改二DXファイナルエディションMark-VIセカンド』 助手たちは静まり返りました。 「……長くないですか?」 しかし博士は満足げです。 「いや、全てつけたほうが凄さがより伝わるだろう?」 こうしてロボットは、その途方もなく長い名前のまま運用されることになりました。 ロボットは非常に優秀でした。 料理もできる。 介護もできる。 子どもの勉強まで教えられる。 街の人気者です。 ところが、ある日事件が起きました。 天馬博士の研究所で火災が発生したのです。 火災警報が鳴り響き、研究員たちは貴重なデータやサンプルを抱えて次々と避難していきます。 そのとき、助手の一人が叫びました。 「大変です! 一人足りません! 取り残されています!」 「誰だ!?」 博士が振り向くと、助手は息を切らしながら答えました。 「超高性能自律学習型量子感情共有安全保障完全防御永久稼働自己修復通信安定全環境適応未来永続型ヒューマノイド試作零号機改二DXファイナルエディションMark-VIセカンドです!」 「なんだと!?超高性能自律学習型量子感情共有安全保障完全防御永久稼働自己修復通信安定全環境適応未来永続型ヒューマノイド試作零号機改二DXファイナルエディションMark-VIセカンドが取り残されたのか!!」 「博士!いくら超高性能自律学習型量子感情共有安全保障完全防御永久稼働自己修復通信安定全環境適応未来永続型ヒューマノイド試作零号機改二DXファイナルエディションMark-VIセカンドでも、火災から脱出するプログラムは組み込まれていません!」 そんなやり取りをしているうちに、消防隊が到着しました。 「誰が取り残されているんですか!?」 すると全員が一斉に叫びます。 「超高性能自律学習型量子感情共有安全保障完全防御永久稼働自己修復通信安定全環境適応未来永続型ヒューマノイド試作零号機改二DXファイナルエディションMark-VIセカンド!!」 消防隊員は固まりました。 「……え? 今なんて?」 「だ・か・ら!!超高性能自律学習型量子感情共有安全保障完全防御永久稼働自己修復通信安定全環境適応未来永続型ヒューマノイド試作零号機改二DXファイナルエディションMark-VIセカンドが取り残されてるんですよ!!」 そうこうしている間にも警報は鳴り続け、現場は大混乱。 ようやく名前を言い終えたころ―― 「誰か出てきたぞ!!」 炎の中から現れたのは、取り残されていた超高性能自律学習型量子感情共有安全保障完全防御永久稼働自己修復通信安定全環境適応未来永続型ヒューマノイド試作零号機改二DXファイナルエディションMark-VIセカンドでした。 なんと、炎の中から自力で脱出したのです。 「ぶ、無事だったか!」 博士は駆け寄り、超高性能自律学習型量子感情共有安全保障完全防御永久稼働自己修復通信安定全環境適応未来永続型ヒューマノイド試作零号機改二DXファイナルエディションMark-VIセカンドに、損傷がないか確認します。 すると、超高性能自律学習型量子感情共有安全保障完全防御永久稼働自己修復通信安定全環境適応未来永続型ヒューマノイド試作零号機改二DXファイナルエディションMark-VIセカンドは、静かな声で言いました。 「博士、提案があります」 「なんだ?」 「私の名前、“Mark”で良くないですか?」 博士は十秒ほど黙り込み―― 「……それも、悪くないな」 と、人生で初めて略称を認めたのでした。 そうして名前が短くなったMarkは、より一層名前を呼ばれるようになったのでした。 めでたし、めでたし
暇な夜。 オナニーするのも何なので知り合い何人かに電話をかける。 パンツを下ろしながら。 でも誰も出ない。 孤独な夜。 今日は畑に行った(畑中毒気味) 皆さん色々忙しいのかしら。 暇なので文章を綴る。 知り合いのうちに煙草を貰いに行った。 難民のようだ。 難民のような知り合いは悪口をメールで言ってくる。 隣近所の人に挨拶して無視される。 都会の孤独。 コーラが飲みたい。 おにぎりが食べたい。 でも粗食。 痩せていた方が長生きするらしい。 もっと食べて太った方がいいと言う看護師がいる。 夜職でお客にお酒を勧めるのが上手いのだろう。 悪意のある夜。 誰からも必要とされないので勝手に物語を作る。 これでいいのだ。
「ただ電車に飛び込むだけさ」 「痛いのは嫌だな」 「そんなこと言うなよ一瞬さ。ピアスを開けるのと一緒だろ?キシシ」 小さな悪魔は不敵な笑みを浮かべながらギザギザした声色で発した。 「だけどみんなに迷惑がかかるだろ。」 「死ぬ前も他人様の心配。お前はとことんお人好しのバカだな。ところで君はなんで死にたいんだい?」 「簡単なことさ。自分よりいい大学に行くやつ、いい会社に勤めるやつ、結婚してるやつ、金持ちなやつ。こんな劣等感を持ちながら生きていくなんて辛すぎるのさ」 「大した高尚な考えをお持ちの様だ。君はたいそう生きづらかっただろう。顔も成績もそこそこ。まあ強いて言えば自殺を考えられるだけの自尊心のなさが特徴ぐらいか、さぞかし面白みもない人生だったろう」 まあその通りだ、、 「キシシ。君は一体何を目指しているんだい?」 なぜこんな質問をしてくるのか。僕が返答に困っていると悪魔が質問を変える。 「目指すものもない君に他の人と比較する意味があるのかい?」 確かにそうかもしれない。 「一度でいい、、他の人とは違う特別な何かになりたいんだ」 悪魔は不敵な笑みを浮かべ囁く。 「一度みんなのレールから羽ばたくのさ。それが特別になれる道さ。」 「ありがとう」 僕は満面の笑みでいつもの駅のホームに立った。
「パパ、これなあに?」 「……どれ?」 空にヒモのような物が見えた。 でも、私しか見えていなかった。 少し引っ張ってみたら、世界が揺れた。 地震とは違う。 大きな手が地球を掴んで、ゆさゆさ揺らしたよな揺れだ。 その日、電柱がたくさん倒れたらしい。 「やばいやつだ」 私は、ヒモのようなものを決して触らないと決めた。 でも、ヒモは私の部屋の中にあるし、さらに言えばベッドの近くだ。 ごろんと寝返りを打てば、ひっかかってしまいかねない。 「部屋の模様替えしたのか」 「うん」 私は、ヒモのある場所に近づかなくていいように、家具を移動させた。 部屋の角の一つだけに、何も置かないちょっと変な見た目になったけど、仕方がない。 世界のためだ。 「早く一人暮らししたいなあ」 私は今日もベッドから、ヒモのようなものを見ている。 毎日が楽しい訳じゃない。 死にたい日もある。 そんな時、あのヒモを引っ張ってなにもかも失くしてしまいたくなってしまう。 だから、私はあのヒモから早く逃げたい。 「県外の大学に?」 「うん」 「うちにはお金が」 「バイトするから」 大学に、無事合格。 私は、大学の寮に入ることができた。 「こんにちはー! 私の新生活!」 四人一部屋、ドミトリー式の寮。 私のベッドは、入って右側の、上側のベッド。 天井には、ヒモのようなものがぶら下がっていた。 「おっと、マジか」 試しに、少しだけ引っ張ってみた。 大学の使われていない教室が爆発した。 「先輩、ベッドの位置変わってください」 「嫌よ。私、高所恐怖症なの」 このヒモは、いったい私に何をさせたいのだろうか。 私は自分の手足を紐でぐるぐる巻きにして、寝ている間にヒモのようなもの触らないようにした。 「何やってんの?」 「寝相悪いんで」 その日の夜に、夢を見た。 夢の中に出てきた王様は、世界を破壊するスイッチを持っていて、常に押さないようにと苦しんでいた。 夢の中で私と目が合って、王様はニヤッと笑った。 『お前も同じ苦しみに合え』 私は前世で、こいつに何かしたのだろうか。 それとも、単なる八つ当たりの相手に選ばれたのか。 私は思いっきり舌を出して、王様を睨みつけた。 ヒモは、今日も天井からぶらさがっている。
学校へ行く準備をする。 シリアルを食べ、歯を磨き、身だしなみを整え、家をあとにする。 学校は県を跨いだところにある。 駅のホームで電車を待ちながら、さっき聴いていた音楽を再生する。ドイツをインディーロックバンド。 キャッチーなメロディとミドルテンポが僕の精神を高揚させる。諸行無常の響あり、そんな曲だ。気分は良くしてなんぼだ。 同刻電車が到着し、乗り込む。 今日の授業は2限からなのだが二度寝をしてしまうため、1限と倦怠感はそんなに変わらない。 そう思いながら電車は駅を通り過ぎる。 電車が駅のホームに停車して、ドアが空き。人を吐き出して。次の駅へむかう。 目的地の最寄り駅についた。 学校は住宅街を超えたところにある。 歩きながら、さっきのミュージックを再生する。 キャッチーなメロディとミドルテンポが僕の精神を高揚させる。気分は良くしてなんぼだ。 行き交うひとはそれぞれの行きたい場所に向かう。十人十色。 「学校行きたくねー」 人々の流れをみるとふとそうおもう。 音楽でどんなに騙そうとしても行きたくないものを行きたくない。それでも音楽を聴いて気分を上げる。 授業が終わる まさに俺の時代である。盛者必衰。次の授業日までの休息を貪る。 買い物をしに都市部に向かうか迷う。 「明日いこう」 迷いに迷って行かないことにした。 街道をスタスタ歩く刺激的な音楽を聴きながらただ、家へ。 今日もひぐらしの僕はいつかの夢をみて駄文を創造する。
とある日のお話をしましょう。 私はお腹を空かせて商店街にある料理屋さんを片っ端から眺めていました。そんな私が血迷って近くにあった食品サンプルを食べようと手を出した時のこと。 そのとき誰かと手が触れたんですよ。そのときぶっちゃけ思っちゃいましたね。 (なんなのこいつ!!!絶対譲らない!!!) いやね、引かないでくださいね。お腹空いてたんでね。理性なんて保てるはずがありませんでした。 そして、そいつの顔、覚えてやろうと思って見てやったんです。 そしたらなんとびっくり、その食品サンプルを置いているお店の店員さんでした。 いやお恥ずかしい。食品サンプルの埃を取ろうとしただけなんですって。 でも、その店員さんは私を見てこう言ったんです。 「この食品サンプルいいですよね。僕もこの食品サンプルに出会わなかったら、この店でなんて働こうとしてなかったです。」 「え!そうなんですか!私以外にもこの食品サンプルを魅力的に思っている人がいて嬉しいわ!」 「いや、僕も嬉しいです。これはなんて言うんだろう。奇跡とでも言うんですかね。」 「そうね。これは奇跡なんだわ!」 「食品サンプルで奇跡のサンプルなんちゃって笑」 「ユーモアもあるなんて!素敵だわ!」 そんな話ばかりして、いつのまにか私と彼はすぐに打ち解けていった。 そして私たちは付き合うことになった。 「食品サンプルのおかげで君と出会うことができて本当に嬉しいよ。」 「私もそのときお腹が空いててよかった!」 「本当に君はお茶目だな笑」 そう言って彼はクスッと笑った。 でも、幸せというものは長く続かなかった。 「僕、転職することにしたんだ。」 「えっどうして!?あそこのお店はもういいの!?」 「うん。もういいんだ。」 彼はどこか寂しげだった。 「ねぇ。教えてよ。どうしてなの?あんなにあそこのお店の食品サンプルが好きだったのに。」 「実は、他に好きな食品サンプルができたんだ。」 「…!」 私はあまりの衝撃で言葉が出なかった。 「それで、君には悪いけどこれを機に別れて欲しいんだ。前の店の食品サンプルが好きな君と今の僕の価値観は合わないだろうから。」 「そんな…!あんまりよ…!」 そして私たちの、食品サンプル恋愛?奇跡のサンプル劇場の幕は降りた。 今思い返すと奇跡のサンプルってなんだよ。と思います。 食品サンプルを食べようとした私が言えたことじゃ無いだって? そんなことないわ。そんなはずない。まさかね。 まあ要するにあれですね。めでたしめでたし。
『五月末を以て閉店します』 SNSで飛び込んできた、行きつけの店の投稿。 寝耳に水の出来事に、しばらく放心状態になり、いつもより一時間早く行きつけの店へと向かった。 店の味を、舌に刻みつけるために。 決して忘れないように。 が、店に着いたら、まさかの満員。 よく見る顔もいれば、一度も見たことのない顔もいる。 「すみません。この後も予約でいっぱいで」 「大丈夫です」 この場にいると、飲みかけのビールジョッキを持って、名も知らぬ客の顔面にぶっかけそうになったので、俺は早々に店を立ち去った。 SNSの投稿に『閉店、残念です』とメッセージを残し、別の居酒屋へお邪魔した。 酒を飲みながら考える。 閉店と聞いてやって来たやつらの一割でも定期的に通ってくれれば、きっと店が閉店することはなかっただろう。 たった一度、あるいは二度来ただけのやつが、一丁前に閉店を悲しんでいることがどうしようもなく許せなくなった。 「閉店する店で、うっすい思い出に浸りながら飲む酒は、さぞかし美味いんだろうな。……糞が」 希少なだけで味を論じる味音痴どもに心の中で舌を出して、俺は大将に今日のお勧めを頼んだ。
子供の頃にもらった古い重箱を、少年はお宝入れとして使っていました。 セミの抜け殻、光るビーズ、使い道の分からないテレホンカード。 自分が気に入ったものは、なんでも入れていました。 少年が大人になると、お宝を増やすことはめっきりなくなりました。 しかし、少年は時々箱を開けては、子供時代を懐かしみながら元気をもらう様になりました。 「ふいー。わい、誕生」 そんなお宝入れの箱が、この度付喪神になりました。 付喪神は言いました。 「わい、玉手箱になったさかい、気軽に開けると老人になるで?」 少年はたいそう哀しみました。 少年は、まだ老人にはなりたくありません。 少年は、まだお宝を見返したいです。 「じゃあ、自分から口を開けてくれ」 「それでも、年を取る。無理やで」 「何か方法はないのか?」 「ないで」 付喪神は、取りつく島もありません。 どうやら付喪神にとって、自分がお宝入れであったことに、執着がないようです。 少年は、付喪神を押し入れの奥深くに仕舞い、間違って明けないようにしました。 しかし、少年は毎日お宝入れのことを思い出します。 お宝入れを開けなくても、少年の人生は変わりません。 変わりませんが、空けたくはなります。 「何か方法はないか?」 数日後には、少年は付喪神を取り出して尋ねました。 付喪神もまた、押し入れの奥に何日もいたのが嫌だったのでしょう。 依然と違い、今度は真面目に考えます。 「誰かに代わりに明けさすとか?」 「いやダメでしょ」 「老人ホームにいるやつなら、もともと老人だから大丈夫」 「知り合いいないよ」 結論は出ないまま。 少年と付喪神が途方に暮れていると、少年はふと、お宝入れに入らなかった玩具のことを思い出しました。 「あれなら」 少年が押し入れから引っ張り出したのは、ロボットの形をしたラジコンです。 少年は部屋から離れて、ラジコンを動かしました。 「おい? ちょっと待て?」 そして、ラジコンの小さな手を器用に動かして、付喪神の箱を開けました。 作戦は大成功。 煙はラジコンを包み込んで、少年の元まで届きませんでした。 「作戦成功!」 煙がなくなった後、少年は箱の付喪神へと近づきました。 箱の中には、久々に見るお宝たちがぎっしり詰まっていました。 少年は一つ一つを手に取って、懐かしがりました。 「自分、やってくれたな?」 懐かしがっている少年は、誰かに背中を叩かれました。 少年が不思議そうに振り向くと、そこには付喪神となったロボットのラジコンが立っていました。 「あー、そうなっちゃったかー」 「付喪神仲間が増えたやんけ」 ロボットのラジコンは、ずいぶんと怒った様子で、少年に向かって叫びました。 「うち、まだピッチピチギャルやったねんで!? それを、箱の付喪神のせいで一気にババア付喪神にされて! 自分、絶対許せへんからなあ!」 少年と、箱の付喪神と、ロボットの付喪神。 三人の新生活が、始まった。
ぱしゃり、と水を地面にかけた。 けれど、水はあっという間に乾く。 僕「暑いなあ、わかってたけど打ち水もこんなんじゃ意味が無いや。」 京都の打ち水文化も、こんな強烈な暑さの中ではもう歯が立たない。 諦めて、家の中に戻った。 冷蔵庫を開けて、ペットボトルの炭酸水をグラスにあけて、氷を数個入れた。 カラン、とグラスの中で氷が溶ける音がする。 僕「…いつまで続くのかな、もういい加減疲れてきたんだけどさ。」 残暑はまだまだ続く、この暑さがどこまで長引くのかは知らないけれど…そろそろ、じいちゃんの墓の手入れをしてやりたかった。 僕「待ってるよな、じいちゃんに梅酒買ってこ」 知り合いのおばさんが営んでる酒屋に明日立ち寄ることを決めて、水風呂の支度を始めた。
(今日の会議の発表ミスったなぁ。みんなの反応薄かったもんなぁ。そういやこの前も駐車場の段差につまずいて痛い思いしたなぁ。昨日だって知り合いかと思って手を振ったら全然知らない人だったし…。) 「あー!最近ついてなさすぎだろ!」 そう言うのを待っていたのかというくらいにグッとタイミングで頭上から雨が降ってきた。 「くそー!」 俺は最近ついていない。何やってもだめだめだ。だからふと思ってしまう。俺に生きる価値はあるのかと。 「あの、よかったらどうぞ。」 俺が自分に悲観していると、小学生くらいの子どもが雨で濡れた俺にハンカチを渡してきた。 「あ、あぁ。あ、ありがとうな」 「おじさん元気ないの?」 「あ?あぁそうだな。」 いや俺まだ20代なんだが!?おじさんはないだろ!今時の小学生はこんなにも失礼なのか!? いや、俺が疲れすぎて老けてんだ。ああ自分が気付かぬ間に俺は老化してるんだ。 俺は益々気持ちが落ち込んでしまった。 「何かあったの?僕でよければ聞くよ!」 「いや、君に言ったって分からないさ。」 「そんなことわからないじゃんよ。僕にだってわかることたくさんあるよ。」 なんだこいつ。確かにだな。確かに子どもだからといって何もできないわけではないか。それは子どもの能力を下に見てしまっているだけなのか。 そう思って俺はこいつに今日のこと、この前あったこと、昨日のこと。全ての失敗談を話した。 話すとなんだかスッキリした。別に解決したわけでもないのに。 「うーん。僕だったら駐車場のとこにある石みたいなのにつまづいたら泣いちゃうかも。絶対痛いもん。おじさん泣かなかったんだね。すごいや」 そう言ってそいつは俺を褒めてくれた。失敗したのに褒めてくれたんだ。なんていいやつなんだ。 馬鹿にするわけでもなく、それは可哀想だと同情するわけでもなく、俺が泣かなかったということを褒めてきた。 俺はそれが無性に嬉しかった。誰かに褒められることがこんなにも嬉しいことだったなんて。 「お前。ありがとうな。こんなおじさんの話聞いてくれて。お前もなんかあったらおじさんに言えよ。」 「だって、だっておじさん辛そうな顔してたんだもん。お母さんに言われたんだ僕。誰かが困ってたら助けなさいって。協力することは大切なんだって。」 そうか。この子は善意を持って俺の話を聞いてくれたんだ。なんて良い子なんだ。 「あとさ。どうしておじさん「こんなおじさんの話聞いてくれて。」って言ったの?おじさんは、こんなおじさんってほどのおじさんではないよ。おじさんにはおじさんの良いとこあるんだからさ。それに自分が気付かなきゃ。」 そしてそいつは俺に貸したハンカチをポッケに入れてじゃあねと俺に手を振って帰って行った。 そうか。俺は俺自身が自分の価値を下げていたんだ。俺はそう気づいたんだ。俺は価値のあるやつなんだ。それに俺以外だけじゃない。人には人それぞれの良いところがあるんだ。だが、人は良いところよりも悪いところを探しがちだからこそ、良いところが隠れてしまう。勝手に隠してしまうんだ。だから良いところに目を向けていくべきなんだ。 次の日の会議、俺はまた盛大にミスをした。 だが、以前ほど落ち込まなかった。その会議ではミスもあったが、会議で使う資料は全員分忘れなかったし、なによりも最後まで自分の伝えたかったことを言い切ることができた。 小さなことでも良いことを探すことで、自分の価値を認められるんじゃないかなと思う。 俺はあいつのおかげで少しは明るくなれた気がした。それにおじさんからお兄さんにグレードアップできた気もする。 これからも俺はミスをするし失敗するだろう。だが、それでも頑張れる気がした。
手の何処かに棘が刺さっているようだけども、それがどこにあるのか分からなくて、手に指を当ててゆっくりと手の上を滑らすけれども、ここだという場所が見つからない 目を凝らしてみるが、今の視力ではよく見えない 何処かで刺さった小さな棘は 時折、僕を驚かせる 見えない痛みにドキドキして その事ばかり気になって 刺さった棘を探し続ける それはどこか恋のようだ
私は何もしていない時間が好きだ。 私がぼーっとしている時も時間は流れている。 散歩をしている人もいれば、働いている人もいる。なかには好きな人に想いを伝えようとしている人もいたり、誰かに叱られて落ち込んでいる人もいたりする。そして心臓だって私がぼーっとしている間も一生懸命働いているのだ。 みんな生きるのに頑張っている。誰が1番頑張っているかなんて順位はつけられないし、1番怠けている人なんてどこにもいない。 それでも思想や価値観、偏見や誤解があるから、みんなは自分自身を低く評価したり、周りと比べて自分は劣っていないと考えたりする。 きっとそう考えるのは苦しいだろうし、良い気分ではないと思う。 私は全ての人が素敵な一面を持っていると思う。そしてそれは天秤では計れないもので、誰かにあげられるものでもない。ましてや盗むこともできない。 だからこそ、自分自身の強みとなるものをみつけて欲しい。 自分の素敵な一面をみつけることは「自分は価値のあるものだ」と知ることに繋がる。それは生きがいにもなると思う。 当たり前だと思っていたことだって強みになるかもしれない。 ここまで文を読んでくれたことも強みだと思う。ここまで読まなかった人もいるなかで、ここまで集中して読んでくれたことは凄いことだ。 小さなことでも自分の素敵な部分に気づくことは大切だと思う。みんなそれぞれ素敵で素晴らしいんだ。 それを少しでも多くの人が知って欲しい。 そして今日も私はぼーっとする
「どうぞ、お入り下さい」 扉から顔だけ出した男が声を掛けた。 その声に、二十代後半の女が、緊張した面持ちで部屋に入った。 「失礼します」 「そちらにおかけ下さい」 長机を前に、二人の男が履歴書に目を通していた。 「前職は物流関係とありますが、どのようなことを」 「はい。通販サイトで、購入者様への配送業務でした」 「具体的には、どのような」 「はい。ご注文の品を箱に入れて、緩衝材も詰めて、待機しているトラックまで持って行く仕事です」 二人は、うなずきながらメモを取っている。 「では、弊社を希望した理由を教えていただけますか」 「はい。私事ですが、前の職場の同僚が、私の箱詰め作業を見て、何か感心したようで、御社を勧めてくれたというか…」 「なるほど。うちも箱詰め作業はありますが、結構大変ですよ」 「はい。頑張ります」 女は、笑顔で小さく頭を下げた。 「では後日、改めてご連絡しますので、それまでお待ちください」 女が部屋をあとにする。 「君、今の女性どう思う」 社長が人事の男に聞いた。 「そうですね。即戦力になりそうですね」 「君もそう思ったか。じゃあ、採用するかな」 ──ピコンピコン 女がメールを開いた。 「採用決定。 ご存知かと思いますが、弊社の制服は喪服です。ご用意お願いします」
四時以降の少し明るい、藍色とも灰色ともつかない空が、高層ビルの隙間からぼんやり染み出し始めていた。 夜の境界線はいつの間にか曖昧になり、街を覆っていた人工の闇が、冷徹な朝の光に押し流されていく。深夜からずっと、私は東京都心を歩き続けている。新宿五丁目の交差点を過ぎ、明治通りをただ南へ向かって、どこへ向かうでもない足跡をアスファルトに刻みつけていた。 足の裏には、感覚を麻痺させるほどの鈍い痛みが張り付いている。だが、その痛みが唯一、自分がまだこの世界に存在している証拠のようでもあった。 北参道の交差点に差し掛かる頃、並木道の向こうにポツンと浮かぶコンビニの白い灯りが見えた。あの過剰なほどの明るさの中に身を投じるのは、今の自分には少しだけ躊躇(ためら)われたが、乾いた喉が水分を求めていた。 自動ドアが開くと、冷気とともに、どこか現実味のない電子音が鳴り響く。 店内に客の姿はなかった。奥の棚でパンの品出しをしている店員の背中を見ながら、私はなるべく足音を立てないように、通路を静かに進んだ。棚に整然と並ぶ、どれも同じような顔をしたペットボトルの中から、一番手前にあった冷たい緑茶をひとつだけ手に取る。 レジにそれを置くと、外国人の店員が黙ってバーコードを読み取った。私は自分の気配を消すように、財布から小銭を出し、トレイへと置く。お釣りのやり取りもなく、ただレジの電子音と、レジ袋の擦れる音だけが静かに響いた。レジ袋はいりません、と声に出すことすら億劫で、ただ首を横に振る。 ペットボトルをポケットにねじ込み、逃げるように店を出た。再び足を踏み入れた外の空気は、コンビニの人工的な冷房よりもずっと生温かく、そして重かった。キャップをひねり、冷たい液体を喉に流し込む。かすかな茶葉の苦みが、眠気を拒絶し続けている頭の芯にじんわりと染み渡っていった。 千駄ヶ谷の静まり返った住宅街を抜け、原宿へと向かう。 昼間は若者や観光客で足の踏み場もなくなる竹下通りも、今は頑丈な鉄のシャッターが冷たく閉ざされ、ただの無機質な路地へと姿を変えていた。入り口のアーチだけが、場違いな色彩を放ちながら、誰もいない空間を照らしている。世界の終わりを一人で歩いているような、奇妙な全能感と、それに倍する圧倒的な孤独が、胸の奥をじりじりと焦がした。 表参道のケヤキ並木に出ると、視界が少しだけ開けた。 坂道を下り、明治神宮前の交差点を渡る。通り沿いに立ち並ぶ高級ブランドのブティックは、まるで巨大な墓標のように静まり返っていた。ガラスの向こうに飾られた洗練された衣服たちは、暗がりの中で実体を失い、ただの影の輪郭だけを留めている。 ショーウィンドウのガラスに映る自分の姿が、ふと目に留まった。髪は乱れ、目の下には薄い隈が落ちている。昼間、この街を闊歩(かっぽ)するであろう「正しい人々」の群れの中に、今の自分の居場所などどこにもない。その事実が酷く寂しく、同時に、どこか救いのような安堵感を伴って体に馴染んでいく。 宮下公園の無機質なコンクリートの構造物を見上げながら、さらに歩を進めると、やがて渋谷のスクランブル交差点が見えてきた。 そこは、完全な空白だった。 数時間前まで無数の欲望と足音が交錯していたはずのその場所には、今は一枚の巨大な灰色のキャンバスが広がっているだけだった。巨大なビルの壁面ビジョンはすべて眠りにつき、ただ静かな朝の光だけが、広大なアスファルトを等しく照らし始めている。 遠くの幹線道路から、トラックの地鳴りのような音が微かに響いてくる。それは、この巨大な都市が再び呼吸を始めるための、最初の身震いのように聞こえた。 やがて昼間の世界が始まれば、また何事もなかったかのように日常が動き出すのだろう。人々がそれぞれの目的を持って、それぞれの速度で行き交う。その、あまりにも強固で、排他的な日常が始まる直前の、この張り詰めた静寂だけが、今の私に許された唯一の避難所だった。美しく、そして救いようがないほどに切ない、世界が生まれ変わる狭間の時間なのかもしれない。が、そんなことはどうでもいい。 空の色は、いつの間にか藍色を失い、薄い乳白色へと変わっていた。ビルのエッジが、先ほどよりも鮮明に、鋭利に空気の膜を切り裂いている。 手の中のペットボトルは、もうすっかり私の体温と同じ温度になっていた。 少しずつ白んでいく街並みを見上げながら、私はもう一度、冷たい朝の空気を深く吸い込んだ。肺の奥がツンと痛み、体の中の夜が、少しだけ薄まるような気がした。消えゆく夜の輪郭を惜しむように、重い足取りでまた一歩、新しい朝の中へと踏み出した。私の影が、薄暗いアスファルトの上に、頼りなく、しかし確かに伸び始めていた。
コーヒーと美味しいパン 二人は並んで座っている いつもの店のいつものメニュー 一人は肘をついてコーヒーを飲む 一人は腕を組んでいる よく晴れた空を冷房の効いている店内で眺めている 何気ない会話と笑顔 目はたまにしか合わない 二人は同じ方を向きながら この先を探している
カーテンを少しだけ開けて、外を見る。 家の周りにはバットや金槌を持った人々が集まり、塀をがんがんと叩いている。 「はー。今日もいるのか」 このままでは、外出一つできやしない。 私は警備会社へと電話した。 「移動用の車を一台」 「申し訳ありません。既にすべての車がご予約で埋まっておりまして」 「はあ!? なんのために、高い金を出して契約してると思ってるんだ!」 「……お言葉ですが、運転手がいないのは、あなた方の世代が子供を作らなかったせいですよ? 労働力を生み出さずに、労働力が当たり前にあると思うなんて図々しい」 電話が切られた。 何度かけ直しても、電話は繋がらない。 銀行アプリから通知が届き、サービス利用キャンセルの払戻金が振り込まれた。 「くっそ! 勝手にキャンセルしてんじゃねえよ!」 銀行アプリに溜まる、莫大な金。 凡人が人生何周しても手に入らない、莫大な金。 しかし、使おうとして断られる今、この価値が俺の中で揺らいでいる。 国が荒れたら、国外に逃げればいい。 そう思っていた数年前の俺を殴りたい。 空港が占拠され、家の周りを囲まれては、国外に逃げるなんて選択肢があるはずもない。 「……今日も出前か」 俺は、ピザ屋へと電話した。 「ピザ一枚」 「ただいま大変込み合っておりまして、お届け三時間後でもよろしいでしょうか?」 「よろしい! よろしい! いつでもいいから、届けてくれ!」 「かしこまりましたー!」 あらゆるインフラは、底辺に支えられている。 警備も、出前も、家を囲む暴徒たちが金を得るためにやっている。 「お待たせしましたー。ピザとなります」 玄関には、先日、俺の家の壁を叩いていた男が笑顔で立っていた。 俺は金を払って、ピザを受け取った。 男は、バットや金槌を持った人々の間を、平然と抜けてピザ屋へと戻っていった。 加害者と、被害者を守る人間が、同一である世界。 こんなゲームチェンジが起こるなんて、資本主義に胡坐をかいている時は思わなかった。 俺は冷めたピザを取り出して、一口齧った。 「美味い」
昔から、足元に透明な線路が見えた。 線路を歩けばいいことが、線路を外れれば悪いことが起きた。 「初めましてー」 線路の上を歩いて、線路の上に立っているクラスメイトに自己紹介をする。 線路の上にいるクラスメイトなら、絶対に仲良くなれるのだ。 (一目惚れ実らず、か) 逆に、線路の上にいないクラスメイトとは、絶対に仲良くなれない。 当たり障りのない会話まではできるが、親しくなろうとすると大喧嘩に発展する。 ぼくは一目惚れしたクラスメイトから、目を逸らした。 入学式の日が終わる。 交友関係は上々。 きっと、いい学校生活が遅れるだろう。 「ただいまー」 ぼくは線路の上を歩きながら、家へと戻る。 リビングでは父さんと母さんが、つまらなそうにテレビを見ていた。 線路の外で。
「なにニヤついてんの?」 テレビを見ていた夫に、妻が声をかけた。 「ここの大将、“素材で勝負、取材お断り”だったんだよね」 「で、何なの?」 「レポーターが推しの芸人だから、取材受けたって」 「いいじゃない、別に」 妻は、呆れ顔で夫を見た。 「でも、美味しそうよ」 カウンターに、色とりどりの寿司が並ぶ。 「私、こんな高級なお寿司屋、行ったことない」 「俺もない」 「今度、連れてってよ」 夫の顔を覗き込んだ。 「ん……俺さ、カウンターの寿司屋、ダメなんだよね」 「何で?」 「おじさんが素手でペタペタ触ってるんだよ」 「握りって、そういうもんでしょ」 「いろんなとこ、触ってるよ」 画面の中で、大将とおかみが、楽しげに笑っている。 妻は目を細めて呟いた。 「そうね……回る所でいいわ」
「えー、今日はどうされましたか?」 俺は今日も医師として患者の話を傾聴する。 「わたし、すぐに人を好きになってしまうんです。これっておかしいですよね。」 その女性は椅子に腰をかけるなり、そう話した。 「すぐ人を好きになってしまう?」 「…はい。私はもう、これまでに様々な人を、モノを好きになってきました。もちろん、それらはどれもいい思い出です。でも、」 そう言って女性は俯く。 「これまで、どんなモノを好きになってきたんですか。」 「ええと。沢山の人。それと飼ってるペットとか、あとエレベータ。あ、時計なんかも」 女性は指で数えながら言った。 「様々なモノを好きになったんですね。」 俺がそう言うと、女性は苦しそうな顔をしながら笑った。 「ええ。本当に困ります。どれも素敵で。でも、どれもこれも私のことを好きになるんです。」 「あなたのことを好きになってしまうのですか。」 そんなことあるのかと、俺は正直思った。人やペットはまだ分かる。だがエレベータに関しては機械じゃないか。エレベータが人を好きになる?どういうことなんだ。 「そうなんです。エレベータなんて、私を見るなりボタンを押さずとも扉が開くようになっちゃって。ちょっと困ったんですよ笑」 そう言って女性ははにかんだ。 「だから、自分に興味のないものが好きなんです。」 「…。つまり、俺ってわけか。」 俺は呆れがちに言った。 俺は今まで女性の話を心理師のように聞いていた。しかし、実を言うと心理師でもなくソーシャルワーカーでもなく、ただの皮膚科医だった。 この皮膚科に何度もくる女性に違和感を感じ、ついに俺はそう言ってしまった。 「え!?やだ、バレちゃった。」 そう言って女性は赤くなった顔を隠した。 「あなたは異常なしです。お帰りください。診察料はいらないので。」 「もう、なんでそんなに興味ないの?ほんとに気になって仕方がない。」 「どうしてでしょう。ただこれだけは言っておくと、あなたを恋愛対象としてみていない、ということですかね。1人の患者としてしかみていません。」 「じゃあ、患者じゃなきゃ好きになっちゃうってこと?」 「さあどうでしょうね。」 俺は女性の顔を見ずに言い放った。 「さ、お帰りください。」 「他にも患者さんがいるんですもんね。また来ますね。」 そう言って女性は出て行った。 女性の足音が次第に遠くなるのを感じる。 「あっぶねぇ。好きなのバレるとこだった。」 俺はそう呟いてニヤける顔をどうにかして抑えようと手で顔を覆った。 俺も彼女の虜の1人となってしまったようだ。
「ねぇ、キミ。何をしてるの?」 雨が降るのを待っているのです。 「えっ。でも、いつ雨が降るのかは、誰にも分からないでしょー」 もうすぐかもしれないでしょう。 「そりゃあ、まあ……でも、一週間先だったらどうするの。それでも待つの?」 待ちますよ。待つしかないですから。去る者、追わず。来る者、拒まず。私はそういう存在です。生まれた頃から、私には使命があるのです。 「それって生きづらくない? ぼくは、キミよりずっと自由だ。そのほうがいいと思ったりしないの?」 ええ。アナタは、私に比べたら、うんと伸び伸びとしていますね。でも、限りある場所で、限りある時間を精一杯に生きるほうが……。私のようなものには、ふさわしい。私には動かす手足も、揺らせるフリフリも無いですから。 「まあ、キミが納得しているのなら、それでいいさ」 フリルはありますけど。 「べつに、つっこまないよ」 残念です。 「雨が降ったらいいね」 ええ、私の頭がおかしくなる前に。せめて。自分の使命はまっとうできたと、思いたい。 「へえー」 ジメジメとした蒸し暑さと暮らしている。大きなワンルーム。 製氷機から氷を取り出す、あなた。その足取りは昨日よりも軽やかで。あなたがステップを踏むたびに、手のひらのマグカップでは水面がおどる。 今。ボクは意を決して、あなたのひざに飛びこむ。 ぱちゃっ。 上空まで、はねる飛沫。あなたの衝撃と困惑が、ボクの頭へと降りかかる。 「ちょっと、ポメ! ああ、もう。サイダー、こぼしちゃったよ……」 あなたは机上にマグを置いて。箱からティッシュを取り出し、せわしなく手を動かす。 床に広がっていく甘い水たまり。その水分を含んで重たくなった彼女が、ぐったりと横たわっている。 「あっ! ふれふれ坊主、落ちちゃってるじゃん!」 悲しそうに、あなたは眉をひそめる。これじゃあ、明日も仮病を使うのは無理か……と、わけのわからないことをぼやきながら。あなたは濡れたティッシュとともに、役目を終えた彼女をつかんで、ステンレスのかごに入れる。 ――よかったね。これでボクらも、明日は外でおさんぽできるよ! 肩をすぼめるあなたを励ましたくて。ボクは、めいいっぱい自分のしっぽを振って見せた。
「今日の体育の時間はプール掃除をしましょう」 担任の先生から高らかな宣言。 「えー」 「なんでー」 控えめに文句を言う子。何も言わず黙ってしまう子。わけがわからず、とりあえずニコニコしてる子も。 それぞれに子どもらしい反応を見せたあと、体操着に着替え、プールサイドへ集合。 「点数稼ぎなんじゃん」 「誰の?」 「先生の」 「ふうん」 デッキブラシをもてあそびながら、後ろのほうでひそひそとそんなやり取りも。 私はわくわくしていた。はじめてのプール掃除。 ただの掃除に、プールとくっつくだけで胸が跳ね上がる。 こういう形で夏をはじめられるって、なんか新鮮だ。 「ちょっと男子!」 男の子は率先してはしゃぎまくる。 リーダー格の女の子が、すかさず文句を言う。 お決まりの場面。プールでだと、なんか絵になった。 あの夏は、そうやってはじまった。 はじまったことは、いまでも覚えてて、でもその夏の中身のほうは… 担任の先生は、次の春、別の学校へ行ってしまった。 あれは、なんだったのかな。 夏が近づくと、ふと思い出す。
日常的に毒を盛られている。 今日は精神科で性欲を抑える薬を打たれた。 抑える。 主治医が毒づく。 まあ壊れちゃうし。 それも抑える。 血液検査の結果が出た。 全て正常値。 それも薬を打ち続けるためのでっち上げかも知れない(妄想) 僕は眠れればいい。 虫の音と扇風機の音があればいい。 先発投手は5回を投げ切りそうだ。 中継ぎはアップして農業と被服に忙しい。 何だか知らないが抑えに回されてる僕は色々抑えられている。 ナイターでは観客がビール片手にヤジを飛ばす。 抑えられている。 抑えられるだろうか。 炎のストッパーは相手の毒を制しまた今宵も登板する。 夏のナイターは君が泣いたようにゲッターでシャッターアウトを目指す。
「何このイラスト。だっさ」 時代は価値観を変える。 かつて、ゴッドハンドと呼ばれた私の技術も、現代では骨董品らしい。 「じゃあ、糸で縫いますね」 もしかしたら、私は怒りのままに、世界を壊していたかもしれない。 でも幸い、私は冷静だった。 そして天才だった。 糞生意気な患者に、痛み無き最新の技術でなく、激痛の実績ある治療を施せる。 「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」 なんて、ださいんだろう。 昔の患者は、泣き言一つ零さなかったというのに。 退院したその後は、どうか人の気持ちがわかりますように。
出勤前、私は食パンを貪りながらテレビをつけた。 「速報です。何者かによりポピーが大量に盗まれたとニュースが入りました。」 ニュースを付けた途端これだ。いや、なんでポピー?意味がわからない。そんなにもポピーが好きなのか。それとも嫌いで抜き取った? 「ポピーが盗まれたとの情報は続々と増えており、庭からポピーが跡形もなく無くなっていたとの声もあがっています。」 ニュースキャスターの話を聞き、思わず私は庭がある方の窓を見た。 私の庭にもポピーがたくさん咲いていた。しかし私が好きで植えたものではない。勝手に咲いていたのだ。きっとお隣さんのポピーの種が飛んできたのだろうと思い、そのままにしていたものだった。 私はカーテンを勢いよく開ける。そこには土だけがじっとしていて、何もなかった。 本当に何もなかった。ポピーのポの字もない。 まだ寝起きの頭をどうにか動かそうと、私は食パンをひたすら齧りながら庭を眺めていた。 「え、ポピーどこいった?」 現実感がなかった。今まで私は平凡に生きてきたのに。こんなヘンテコな事件に巻き込まれるなんて。 私は困惑した頭を抱えて会社へ出勤した。 「お!おはよう!!」 会社に到着するなり、同僚が快活に挨拶してきた。 「ああ、おはよ。てかさ、今日のニュース見た?あのポピーの。」 「ポピー?なにそれ?」 「いやさ、今至る所に咲いてるポピーが盗まれてんだってさ。それで私の庭にあったポピーもなくなってたんだよね。」 「あー!それ私かも!」 「え?どゆこと?被害者?」 「違うよ笑笑そのニュースの犯人?私!」 あまりにも同僚があっさり言ったものだから、思わず私は驚いて声が出なかった。まさか、犯人が同僚だったなんて。犯人というものはこんなにも身近にいるものなのか。 「え、なんでポピー?」 私は思わず、意味もわからないことを聞いてしまった。 すると同僚は私を笑って言った。 「あれポピーじゃなくてナガミヒナゲシね笑」 「なにそれ?ナガミなんだって?」 まさかポピーではなくてナガミなんたらだったとは。 「ナガミヒナゲシって、ポピーと凄いにてるの。だから間違われやすいんだよね。この植物は毒があったり、種を沢山残して至る所に咲くの。」 それを聞いて私は庭に咲いたポピーを思い出す。 確かに、勝手に咲いてたなと。 いや、いやでも、危険だとしても無断で抜いちゃダメだろ!!! その同僚曰く、ナガミヒナゲシ駆除会というものに参加しているようで、兼ポピー愛好家の集いでもあるらしい。 私は謎に感心してしまった。今までナガミヒナゲシをポピーだと思っていたのもあるが、よく見分けられるものだなと。 いつか間違えてポピーを駆除してたりして。 思いもよらずナガミヒナゲシ愛好家になっちゃってたりして。 そんなことを考えて私はクスッと笑った。 とりあえず、同僚が警察に捕まって同僚の仕事が私に回らないことを願う。
今日はデイケアの知り合いがご飯が無くなってしまったと言っていたのでお握りと乾麺を持っていった。 皆月末でお金がない。 僕も食料に余裕があるわけではない。 ああ、貴重なお米と麺が。 アパートがもぬけの殻になってしまった知り合いに前お握りを持っていったことを思い出す。 何故皆お金があるときに飯をストックしておかないんだ? 割と計画性が無い。 世の中維持に手一杯で発展的なことが出来ないとネットで嘆いている人がいたのを思い出した。 脳に栄養がいかないとろくなことを考えない。 まずは自分の食い物をなんとかしてくれ。 ヤングケアラーならぬ40過ぎたシニアケアラーは今日もえっちらおっちら食料を運ぶ。
「ひつじさんひつじさん…」 少女は今日あったことを羊に話す。 嬉しかったこと。 嫌だったこと。 分からなかったこと。 「……」 羊は何も答えない。 「それでね…ひつじさん…?ねむっているの?」 「……」 羊は何も答えない。 少女は羊にできるだけ寄り添う。 羊の毛は温かい。 「それでね…」 少女は羊に話の続きを聞かせる。
コーラのプルタブを起こす コップに勢いよく注ぐと泡の層が急激に増えてオーバーフローしている 泡の層の上で小さなコーラの粒子がぴょんぴょんと飛び跳ねている 自分の誕生を祝うかの様に少し跳ねて消えていく やがて誕生祭も終わり、まだ熱の冷めない子らがパチパチと騒いでいる 祭りが終わりませんように 夏が終わりませんように まだあの子と話せてないから
郊外にあるテーマパークの一角に、新しい施設がオープンした。 入口には、大きな看板が揚げられている。 『職業リアル体験館』 「館長、いよいよですね」 「あぁ、準備大変だったね。みんなのおかげだ」 二人は看板を見上げ、開園時間を待った。 ──キンコン、キンコン。 開園の合図。子どもたちが、施設の扉を開けた。 「ママ、あれなに」 「何かしらね」 女性スタッフが、手招きをする。 「こちらは、企業の給湯室をイメージしています」 親子は首をかしげ、顔を見合わせた。 そこへ、制服を着た女の子が二人、給湯室に入ってきた。 スタッフから台本をもらうと、演技を始めた。 「昨日さぁ、店に課長が来て、びっくりしたわ」 「大丈夫だったの?」 「すぐに隠れたから」 「うち、副業禁止だからね。気を付けなよ」 廊下を気にしながら、来客用のお茶を入れる。 「でもさぁ、給料安いくせに、副業禁止とか、あり得ないんだけど」 「ここの上の人たち、古いのよ。金欲しけりゃ残業しろだもん」 「昨日の飲み代だって、領収書くれとか言ってたし」 「みなさん、どうですか?」 スタッフが、集まっていた子どもたちに声をかけた。 「では、続きを見てくださいね」 二人は、スタッフに向かってうなずいた。 「そしたらさぁ、あいつ、キャストの子にアフターしつこく誘って、黒服に注意されてやんの」 「バカだねぇ。嫁にチクっちゃえばいいのよ」 「はい、ここまでです。みんな、拍手を」 子どもたちが、拍手を送る。 「他にも台本を用意しています。やってみたい人、いるかな?」 「パパ、私もやりたい」 女の子が、父親を見上げた。 「あなた、どうしたの。顔色、悪いわよ」
円周率がさあ、と言って常葉子は「ふじさんろく…」とやりはじめた。「ちょっとそれって」「へへへ、ちがうよちがうよちがくってさあ」三段落ちみたいに返してくるのがリズミカルに心地いい。クラスに、それぞれに雰囲気があって構成する生徒の性格とかセンスとか趣味趣向が具合よく混ざり合って影響してんだ。季節の、空気の、そのときの、ちがいなんかも、もちろん関係してるかな。 「最近、流行ってるみたいだね」 円周率どれくらい言える?って言った誰かの何気ないひと言が、瞬間最大風速的に猛威を振るう。何が流行って、何にハマって、それをくり返していくんだなあ人は。じっと手を見つめちゃうようなこと思ってしまった。 「3.14だけじゃダメなの?」 まだ恥ずかしさが抜けてないみたいで常葉子は笑ったまま応じてくるばかり。縄跳びの二重跳びは10回も跳べればいいんじゃない。100メートルはタイムより最後まであきらめなかったことを評価して、逆上がりはできないよりできたほうがいいって程度。ごはんは2杯まで。唐揚げは5個、それ以上だとフタが閉まらなくなる。休みの日に遊ぶんなら男子でも女子でもふたりっきりがいいなあ。グループ行動ならいって4人まで、それ以上はね、ちょっとね。多ければいいってもんじゃあない。ほどほどという言葉があってね、あるってことはそこに意味があるってことでね、ほどほどで適正な数値というものがあるんだよ、物事には。就職の面接30社受けました。それって自慢なの自虐なのたんなる報告なの。私の適正は43。あんまり縁起のよさそうじゃない42とやっぱり同じ理由の44の間隙に潜む数字。年相応と思う。まわりの子はどれくらいか知らない。聞いたことないし聞かれたことない。聞いたとして、答えてくれたとして、その数値が真実かはわからない。 「ごめんあのさ、体重どんくらい? ちがうちがう変な意味じゃなくて」 もじもじしながらえーどうかなあ、最近食べすぎちゃってさあ、とか下手な前置きも予防線もなく常葉子はあっさり教えてくれる。そっか、ぽっちゃりだけどそっか、身長低いもんね、そっかそっか、でもぽっちゃりだけど。常葉子がのぞき込むように首を傾げる。ごめんごめん、置いてきぼりにしてさ、素直に謝る、心のなかだけで。そうとは知らない常葉子は「円周率、円周率」と歌うようにつぶやきながら、たまご焼きを箸で器用に切り分け口に運ぶ。円周率の呪文が途切れ、静寂がつつむ、さみしいくらいの。 「お昼の放送をはじめます」 まだ頼りない、でも私より確実にしっかりした声が校内に響く。デパートのピンポンパンポン的なのとか、何かがこすれる謎のガサガサとか、マイクのスイッチ入ってんの気がついてなくて「黄金週間てゴールデンウィークってこと?」とかのおもしろハプニングみたいな前置きのないいきなりの放送は、伝えたいのか驚かせたいのか紙一重で、一瞬で空気を変化させるそれがすべてだ。中身はもはや意味をなさない。なのに興味を示してしまう雰囲気になるのは、この教室に構成する者たちの混ざり合った意思によるものなんだろう私的に不本意ではあるけれど。放送委員から端的に曲名が発表され局地的に上がる嬌声に近い声。静かな、でも急激なウワンというエレクトリカルサウンドが校内中に雨粒のように踊り、そのポップな曲に合わせ女性の、たぶんなんとかという人数が多くて顔と名前を覚えるのがたいへんそうなアイドルグループの歌声が流れてくる。頭のいい、漫画とかで委員長やってるようなダサメガネの女子は、ほんとにこのクラスの委員長で、耳障りなのか耳に何か詰めた。たぶん耳栓。読書の邪魔ってことなんだろうけどさ、どっか静かなとこさがしたほうがいいと思うよ。工事が長引いちゃって図書室が使えないのってこういうときたいへんだよね、ちょっと同情してあげる。頭をかきむしるようにイラついてるアレは野球部のなんとかクンだっけ、早くちゃんと名前覚えてあげなきゃだよ。必死にノートに向かってるけどなんかあった?ああ宿題ね。まあがんばりな、たぶん次の時間、キミ当たるよ。曲が間奏に入ってアニメ風にかわいい声がポエム的なものをささやく。曲は男性目線のようで、細く頼りなさげな声で響く「僕」の強い意志の表明には、ちょっぴりの新鮮さと鳥肌が立つ手前くらいの走るもの… あ、あ、あ、え、うそおおお… ふうん、あ、そうなんだ、上川くんこういうの好きなんだねえ。へええええええと幻滅して、でも視界が真っ白とか狭くなるとか手が痺れるとかぜんぜんないからたいしたことないんだよね、これくらいだったら、たぶんね、私、知ってるから。目を移した常葉子が軽く浮かれて鼻歌を披露して、私はちょっぴり悲しくなる。すっと伸ばせば容易に手が届く距離にいても、ずいぶん遠くに感じるんだね、と。
お庭で草花を育てるようになったのは お部屋にいて本に向かってばかりだったから すこしでも外の空気にあたらないと いまの季節を感じないと 知らないあいだに季節はうつってしまい なんのあいさつもなしに行ってしまったなあ なんて思うのだけれど なんのことはない 理由はわたしのほうにあって 季節はなにも悪くない お庭で草花を育てるようになったのは お部屋にいて本に向かってばかりだったから 寝ぼけた顔で、お庭の草花に毎日あいさつしても 毎日お水をあげても 草花たちは、それにこたえてくれない 草花たちは草花たちで、彼らの生活があるのだから お庭で草花を育てるようになったのは お部屋にいて本に向かってばかりだったから 本は好きで、でも草花にしてもとっても好き だから今日も、わたしはお庭に出ていく
今の世の中退職代行や,様々な代行が流行っている。だが僕はこんなシステム使わない,この世は自己責任が原則としてある時点で適性が自分にはなかったと思いながら僕は淡々と日常を過ごす。そして僕はいつも通り高時給のバイトをやった,時給5万円とはいえ段ボールを運ぶ仕事であまりにも容易に稼げることに疑問を持ちながら僕はドスッ、バタっと音を立てながら仕事をし続けた。即時取得なおかげで少し思い封をガラの悪い大人にもらう、これだけはいつまでたっても慣れない。そして僕は疲れを取れていない身体でのそのそと明日の身支度を過ごした(緊急、〇〇公園集合)と突然メールに送られた。そして僕は例の公園に集合した。(ほら,バール持て、近くの古民家探すぞ、そして命令は言わなくてもわかるよね??あ??)ガラの悪い男にバールを使えとゆわれた,油断していた、闇バイトのような匂いはわかるが,いつも通りやってしまったのが仇となった。そして僕は淡々と諦めをつきながら僕は仕方なくバールを持つ,そしてやってしまった、家の主人をあるがまま殴り,倒し,殺してしまった。そして僕は急いで逃げた。そしたら僕は咄嗟にバラックのような錆びれた古屋に逃げるように突っ込んだ。(はあ,はあ、はあ,)滴る汗が地面に垂れ流される。(お客様ですか?ここは例外がない代行サービスを提供させていただきます。ご要望があるなら早急に受付まで)そして僕は受付に住所や,個人情報諸々紙に書き綴った。僕は近くのサイレン音に恐怖を覚えながら身を隠すように端っこの席に包まるように体育座りで受付近くの椅子に座った。(沖河原さん,どうぞ)うずくまる体勢からゆっくりと席から立つ、体育座りしていたせいで足が痺れながらのっそりと受付に向かう,この時はあまりにも捻挫して引きずるような重々しい歩き方をしていたのを鮮明に覚えている。そして僕は奥の奥の少し怪しげな部屋に向かった。(沖河原さん、今回は本当にありがとうございます。ちなみに要件は何でしょうか?)唾をゴックリと飲む(ぼく,今さっき、、殺ってしまったんです、人を、、何でやってしまったんでしょうか,とりあえず何かしらできることありませんか?)少し若い女性が声高らかに(あなたのような相談は今回が初めてです!腕がなります!ちなみにここでは犯人代行サービスとゆう提供ももちろんございます)僕は内心ほっとしていた、でももう人の皮を被った化け物だとゆう自覚も同時に感じた(そしたらですねー、このサービスでは代行者がもちろんございますね,そしたらこの方にあなたの顔とそっくりに整形させていただくよう後でお願いいたしますので、署名と契約お願いします)僕は淡々と鉛筆をカツカツ音を立てながら書き記した。(そしたら沖河原さん,今回はここに泊まっていただきますね、外を出て警察にバレてしまったら業績にも響きますので、そして僕は軽くうたた寝をしなながら淀んだ空気の中過ごした。翌日少し重く感じながら起きた。そしてテレビの音に嫌気をさしながら画面を覗く(ニュース速報です,昨晩の強盗事件の犯人である沖河原を確保することに成功しました。今後情報として随時報道していきます)代行は成功したらしい、しかしその分もう親とは実質的に絶縁なってしまったのは覚悟の上で契約したとはいえここだけはあまりにも親不孝だったと悔いも悔きれない後悔が僕の跡をつくような気持ちが憑き纏う。(それではこれからあなたはこの代行サービスで働くことになりますので、ご了承のほどよろしくお願いいたします。そして僕は雑用を今でも働いているが,これは天国のようで地獄のような後悔が自分自身の感情に問いかける、逃げ勝ちとは言ったもののあくまで殺害をするまで僕はただの一般人なのだから,そして僕は報いきれない気持ちを背負いながら仕事をした。(沖さーん、仕事入りました,〇〇美容外科に通っていただくと思いますが安心してくださいね!)僕の名前は沖に変わった,まあ,仕方ないな,名前を変えないとだからな、そして僕は整形外科に生き急ぐように向かっていった。しかし向かう先の家が少し荒れてる気がする,また僕のような加害者が相談しに行くんだろうな,と少し優越感を感じながら通り過ぎた。にしても整形する同じ顔の人、テレビに映っていなかったっけ?(ニュース速報です!赤平容疑者が今逃走していますので、近隣の方々は注意して過ごしてください、似たような顔を見つけた際には警察にすぐ連絡お願いいたします)プルルル、プルルル
その古本屋では食事ができます。メニューはありません。 「僕にもひとつお願いします」 「にゃ」 ねこの店長さんが軽快に返事をしました。 「さっきこのお店で一冊、買ったんですけど」 「にゃ」 「100円引きですか、やった!」 しばらくすると食事が運ばれてきました。 「にゃ」 トレイの上には、こんがり焼けた厚切りのトーストに、とろりとバターがのっていて、真っ赤ないちごのジャムも添えられています。もちろん、飲みものも。 「わー、おいしそう。いただきます」 すると、お店の奥から声がかかりました。 「ねえ、店長。和定食もやってよ。ごはん、みそ汁、焼きのり、目玉焼き、とかでいいからさ」 「にゃ」 「えー、めんどうって、それもわかるけどさあ」 「にゃ」 「そもそも、ここは古本屋だ、って。それはそうなんだけど」 「にゃにゃにゃ」 「わかったよ。ごめん、ごめん」 客足も落ち着いて、ねこの店長さんは、ひと息つくようです。 「にゃ」 ねこの店長さんは、ご機嫌で本を読んでいます。 「にゃ」 ペンギンの絵本のようです。 「にゃ」 ねこの店長さんは、ペンギンが空を飛ぶものと勘違いしているようです。 「店長さあ、ペンギンは空、飛ばないんだよ」 「にゃ」 ねこの店長さんは、がっかりしながら本を閉じると、かたわらに置かれているカップを両手の肉球で支えながら、舌だけでぴちゃぴちゃやって喉をうるおしました。 「にゃ」 「え、人だって飛んでるんだから、ペンギンだって、いつか飛べるだろうって」 「にゃ」 「そうだね、いつか…」 「にゃ」 目を細めて笑いながらも、ねこの店長さんは、ちょっと眠たそうです。そろそろ今日の営業もおしまいかな。お客さんたちが、ゆるゆると帰り支度をはじめます。ねこの店長さんの目がその日、ふたたび開くことはありません。きっと夢のなかで、ペンギンと一緒に空を飛んでいるのでしょう。きっと、そうにちがいありません。
カモメが浜辺で潮風を浴びている ここで言うカモメとは鳥ではなく人だ カモメはただの人ではなくウルトラマンである 「おい!カモメ!」 この叫んでいる柄の悪いオジサンは雨太郎。彼もウルトラマンである 「あそこで日向ぼっこしている、おっぱいの大きいお姉ちゃんに『一緒に焼きそば食べませんか?』って聞いてこいよ」 「嫌ですよ。僕は家族と来ていんですよ」 「なんだよつまんねーな」 夏休みに入りカモメは妻と息子を連れて海に遊びに来た。息子が雨太郎おじちゃんと一緒に行きたいと言うので、誘ってみたら雨太郎さんは意外と乗り気で今日を迎えた。雨太郎はビールと焼きそばを買って炎天下の中水着の女性を見ながら過ごしている 妻と息子は渚で貝を拾うのに夢中だ。たまに波に遊ばれてはしゃぎ声が聞こえてくる 「おい!カモメ!」 この叫んでいるのは紛れもないウルトラマンの雨太郎である。今はだらしのない酔っ払いのオジサンだ 「もう…なんですか?」 「あれヤバイぞ」 雨太郎はそう言うと全速力で走り出した。熱中症でアルコールが周りおかしくなったのかと思ったが、今の目は怪獣が出てきた時のウルトラマンになる前の目をしていた。カモメが後を追うと、雨太郎は迷わず海に飛び込みジャバジャバと不器用に泳いでいく。カモメは雨太郎の行く先に人影を見た。海面から慌てた手が出たり入ったりしている。遊泳禁止なのだろうか。近くにライフセーバーはいない。 稲光が走り出し、木が倒れるかのような轟音が鳴り響く 怪獣が現れた 山程の大きさのある怪獣が海に降り立ち浜辺に巨大な津波が押し寄せる 辺り一面が海となり道路や家を覆い尽くす。 穏やかな砂浜は瓦礫の浮かぶ海と変わった 浜辺にたくさんいた人々も見えない カモメがウルトラマンになり怪獣を倒す頃には津波は引いていて倒壊した街が広がっていた 瓦礫の砂浜でカモメは妻と息子を夢中になって探す 今までにもたくさん救えなかった命がある。その度に自分を責めてきたが、今回は気が触れてしまいそになっていた。 「カモメ!」 呼ばれて振り向くと妻と息子が手を振っている。息子は喋れないから精一杯手を振っている。二人とも笑っている 「おつかれさん」 雨太郎さんが水着のギャルを両脇の抱えビールを飲んでいる 「雨太郎さんこれは?」 雨太郎の後ろにはこの街の住人であろう人々が集まっていた 雨太郎は先ほど溺れているギャルを見つけて助けにいった。泳いでみたが酒が回って上手く泳げないので、面倒くさくなってウルトラマンに変身したのだ。その直後怪獣が現れた。雨太郎は怪獣退治を早々に諦め、光の速さで移動して人々を助けていたのだ。 「おい!カモメ!」 「…なんすか?」 「良くやった」 「はぁ…」 「パパカッコよかったよな?」 雨太郎さんが声の出ない息子に聞くと、息子は親指を突き出してきた。 サイレンがなっている。レスキュー隊が近付いている。 また一つずつやり直していく。 それしかないから。 僕らも一つ一つ助けて行く。 それしかないから。 苦しくても苦しくても。