幼き頃、大きな病気をしたらしい。 心臓が正常に動かなくなり、頬っておけば体内の血液の循環に失敗し、全身に老廃物と言う毒を送り込まれて死ぬ病気だ。 しかし、医学の進歩はすごい。 私の心臓は人工心臓へと交換され、私の心臓の代わりに血液を循環させることで、私は今でも生きている。 「うん。問題なさそうだね」 胸から聴診器が離れたので、私は服を下ろす。 胸も腹も見せるのに抵抗がないくらい、長年私を見てくれる先生だ。 先生はカルテに何かを書き込んだ後、言いにくそうに私の方を見た。 「それでね、えーっと」 先生の表情の理由を、私は分かっていた。 「人工心臓、またサブスク料金上がるんですよね?」 「んー。そうなんだよね。ほんと、ごめんね。数か月前も上がったばっかなのに」 「いえ。先生が悪いわけじゃないので、気にしないでください」 世の中なんでもサブスクで、世の中なんでも値上げだ。 私は、先生にお礼を言って診察室を出る。 会計のときに新しいサブスク料金説明の紙をもらったので、帰宅する電車の中で目を通した。 『従来より軽量になった人工心臓が進化して登場』 値上げを正当化するための子供だましな一文に、私は思わず紙を握りつぶした。 資本主義の生み出した悪魔の発明『サブスクリプション』。 略して『サブスク』。 私は文字通り、このサブスクに命を握られて生きている。 隣の席を見てみれば、音楽ストリーミングサービスの契約をしているやつが、イヤホンで気持ちよさそうに音楽を聴いていた。
始発点と呼ぶにはあまりにも遅くて、終着点というにはあまりにも序盤で。 そんな、未だ道の途中に立っている私は静かに、その列車を待つ。どこへ向かうかもわからない、ダイヤグラムなんてない、そんな列車を。 まるで無限にも感じられるような時間を、ただ待つことに費やしていた。 世界を眺める中で私は、この世界の在り方を知った。 雲の隙間から差し込む光彩。乱反射する水面はたまの風に凪いで、遠く広がる。 朝焼けとも夕焼けとも呼べない、少し褪せた色彩を纏うその地平に、いつしか心を奪われてしまっていた。 「あの景色の中に、消えることができたのなら」 「いつかの世界に、還ることができたのなら」 思考を許して呟くのは、そんな言葉。何処へも行けない、何者にも成れない私の、ささやかな苦しみ。 吐き捨てることもできず、内に留めておくだけで、私は何も変わらないのに。 「そんならそれでいいじゃないか!」 傍で笑う君は鮮烈に、私の心に溝を残した。それを埋めようと必死だったのは、他でもない私で。 今は聞こえないそんな声に、どこか心を閉ざしていた。 「とりあえず生きて、あとはそれから」 「たったそれだけで十分だから!」 軽快に、そして鮮やかに、君は笑う。遺してくれたたったそれだけの言葉が、やけに五月蠅く頭で響く。 「……わかったよ」 仕方ないな、と口にする間もなく。 開いたその奥へ乗り込む。 今から向かうのは未来。決まり切っていない、私だけの未来。 ほんの少し閉じ籠っただけの心だけを頼りに私は、またこの時間を縫うように走り出した。 瞳の奥で、世界が弾けた。
老いた男は、原稿を鞄に入れた。 そして、最後の一枚を書くためにホテルへ向かう。 「あなたって人は……」 玄関で見送る妻の目は、涙で潤んでいた。 今まで、たくさんの論文を書いた。 学生を前に、熱く語った日もあった。 そう、『生きるとは何か』。 「この論文が最後。私の集大成。生きた証」 ホテルの机に、原稿用紙と万年筆、小さな瓶を置いた。 男は椅子に座り、筆を走らせる。 最後の一行。 『生きることとは……』 静かに筆を置く。 窓の夜景を見ながら、錠剤を取り出した。 妻の顔が浮かぶ。 「今まで、苦労をかけた」 男は小さくうなずくと、掌の錠剤を口へ運んだ。 そして、寝室の扉を開けた。 ──カチャ。 「お客さん、早くしないと時間終わるわよ。 それとも、延長する?」
結局、僕もソファで寝ることになった。ミミが譲ってくれたベッドだったろうに、ミミに誘われて僕までソファで眠ることになるとは。と言っても、どちらも柔らかくて寝心地がいいのには変わりない。あの生臭い泥の匂いとは違う、尖った小石や羽虫が騒がしい寝床とは違う、なんとも落ち着いた場所だ。 正しく、天国だよ、クー。 僕とリッカはお互いに対岸のソファに寝転がり、その間のソファにミミが寝転がった。コの字ソファを人でなぞるような形だ。 真ん中のテーブルにある蝋燭の火が消えると、そこはいつもような暗闇だった。ミミとリッカは幸せそうに寝息を立てるが、僕は少し怖かった。 どうしてそんなに安心して寝られるんだ。 消えた蝋燭に再度火を灯そうと試みるも、学のない僕には「火」なんて、よく分からなかった。しばらく、蝋燭の先の糸を見ていた。 これが僕のこの日最後の景色だった。 翌朝、僕はリッカに小突かれて目を覚ました。 「早く起きて」と鋭い声がする。 「本当に生き返ったの?」と別の声。この声も聞き覚えのある声だ。 「本当だよ、昨日話したもん」と幼い声はミミのだ。僕はうっすら目を開ける。眩しい。 僕の顔を覗き込む四人。 「おはよう」 知らない女の子がいた。この子、あの場にはいなかったような。一歩引いた場所にいる。 「お、おはよう」 「名前は?」とその女の子が僕に問いかける。 すると、ミミが「トガくんだって! さっき教えたのに」と不服そうな顔をする。この女の子忘れっぽいのかなと思った。しかし、ミミの方に振り返ったその子は諭すように言った。 「自分の名前は自分で言うのがいいの」 「そうなの?」 ミミは不思議そうに僕を見て、微笑む。そして、唐突に「名前は?」とその子の真似をした。 「僕はトガ」 「私はインダ」 そう言うと、インダは奥の部屋に行ってしまった。 「僕はレイ」 「よろしく、レイ」 僕はインダと交わし損ねた右手を差し出す。すると、左手を出そうとしたレイがわざわざ右手を差し出した。合わせてくれているのだと、その仕草一つで勘付く。 「いいよ、利き手で」 僕は右手を引っ込めて、左手を出した。 すると、レイは口角を少し上げて、「気づかれたか」と悔しそうに言った。懐かしいよ、その仕草。クーも左利きだったから。 「ほら、朝ご飯用意するから手伝って」 リッカは僕の手を取った。リッカは僕のことを何かと気にかけてくれているような気がする。何だろう。僕の奥にある目覚めてはいけない何かが燻り始める。 リッカに連れられて奥の部屋に行くとそこには豪華なご飯が並べられていた。白いトースト生地に絵を描いたような焦げ目。その真ん中にちょこんと乗せられた黄色い何か。甘い匂いがして、腹の虫が早くそれを寄越せとまくし立てる。 「トガは二枚食べてもいいからね」 トーストを焼いていたのはインダ。僕の涎が危うく床を汚してしまうところだった。急いで吸い上げたのを見て、ミミはクスクスと笑う。 レイが「そこでいいよ」と空いている席を指した。 「そこはカウルの席だよ」とミミ。 「まだ起きてきてないのが悪いよ。早い者勝ちだから先座っちゃいなよ」 「ありがとう、レイ」 僕はレイに言われた通り、カウルという子の席に座らせてもらった。僕なんかが座ったら、怒るだろうし、カウルが起きてくる前に食べきらないと。 「はい、これトガの分」 僕の前に置かれたお皿にはトーストが二枚と黄色く溶けて滲んだ塊がある。初めて見るこの得体の知れなさに、僕は皿を覗き込んだ。 「トーストは初めて?」 リッカの声に僕は返す。 「この黄色いのは?」 「バター。これで延ばしてみて」とナイフを手渡される。僕はその柄を受け取るが、使い方がよく分からない。 すると、近くでレイがナイフを使ってバターを延ばし、僕に真似るよう目で合図をする。僕はレイのナイフの持ち方から始め、ゆっくりと薄くバターとやらを延ばした。トーストに溶けてなくなると、表面がやや艶やかになる。 「完璧だよ、トガ」 僕は自然と笑みが零れた。 「みんなトーストは届いたよね。そしたら、食べようか」 インダのトーストにはバターが乗っていない。 「いただきます」 僕はレイがナイフではなく手でトーストを掴むのに驚いた。そして、そのままかぶりつく。サクッと音がしてバターが染み出る様子は僕の腹の虫を苛立たせたようで、大きな音が鳴る。 「美味しいから食べな」 レイは口にトーストを含んだまま、僕に食べるよう急かした。 恐る恐る僕もトーストを口へ運ぶ。クー、僕だけこんなもの食べていいのかな。 「いいよ、ほら一気に」 インダの声がクーの反応に聞こえた。 硬い表面と柔らかい中身。バターは僕の舌にまで染み込んでいった。これが幸せの味だとでもいうのか。 「美味しい」 【つづき】
えらい暗いタイトルだ。 でも実際に一年のうちで1番人が死ぬのは梅雨らしい。 ハァハァ煙草の吸いすぎで調子悪い。 ちょっと弱る。 あと何回かこんなことを繰り返し僕もアパートで孤独死するのかもしれない。 諸行無常。 南無。 南無阿弥陀仏という言葉は阿弥陀様を信じその救いに身を委ねます、という意味らしい。 南無阿弥陀仏。 梅雨に仏様は雨を凌ぐ屋根を用意してくださる、おおありがたや。 救いを求める人達。 南無。 仏像。 梅雨に犬は仏を拝む。
いつまで経っても絵は上達しない、そりゃそうだ努力もちゃんとできないようなやつだからそうなっても仕方ない、本気で自分自身が嫌いになる。「なんでちゃんと努力しないんだ。努力もできないくせに鬱になるんじゃない」こんなことばかり考えていると、さあ大変自傷に走ってしまう、弱者の敗走のようである。自分自身にちゃんと言ってやりたい「ただの承認欲求の塊で変なプラドの持ち主だ」と。
地下三階の会議室に、全閣僚が呼び出された。 「大変なことになりましたね」 「これはまずいよ」 重い扉が開き、総理と防衛大臣が入ってきた。 「ちょっと緊急事態でね」 正面のスクリーンに映像が流れる。 その前で、防衛大臣がマイクを握った。 「あの国が不穏な動きをしています」 会議室に緊張が走った。 「何をたくらんでる?」 「おそらく、ミサイルを……」 「うちの防衛システムは大丈夫だよね?」 「はい。着弾することはないと思いますが……こればかりは」 閣僚たちが頭を抱えた。 ──その時。 『ミサイルが発射されました』 緊急アナウンスが流れる。 「とうとう一線を越えたか……」 総理が防衛大臣に視線を送った。 「反撃しなさい」 「はい」 窓際に置かれた椅子に、総理が体を預けた。 「私の判断は……」 涙が落ちた。 「ちょっと、あなた」 妻が声を掛けた。 「また妄想してたでしょ」 「国会も終わったし、ちょっとハラハラしたくて」 「で……私、また死んだの?」
お昼ゴハンまでまだ一時間はある。 キャラメルでも食べようかしら。皆もこっそり食べているし。でも駄目よね、先週出庫先で食べかけのお煎餅が入った荷物が届いちゃったばかりだし。 ミヨさんは倉庫の出庫作業をしている 今はお腹が空いてポケットのキャラメルを食べ損ねている 「ミヨさん!」 先輩がこちらに駆け寄ってくる。確か構内は走るのは駄目ではなかったか? 「はい」 「ミヨさん、それ終わったら急ぎのオーダー行ける?」 「あっ大丈夫です。分かりました」 「ごめんね、じゃお願いね。」 ミヨさんは手持ちの作業を急いで終わらせ、急ぎのオーダーの集品を始めた オーダー数がとても多く、お昼休みをずらして作業を続ける やっと集品を終えミヨさんはずれ休憩に入る。 休憩スペースには誰もおらず、ゆったりと過ごすことが出来た カウンターで外の景色を見ながらお弁当を食べていると背中で誰かが入って来る音がした 「あれ?ミヨさん今から休憩ですか?」 品出し担当のカナタ君が隣に座る カナタ君はコンビニのビニール袋からおにぎりと菓子パンを出して食べ始める 「ちょっと急ぎをやってたら間に合わなくて」 カナタ君は見た感じ三、四十代で品出し作業のせいか体つきが良い。少し長い髪が汗で濡れている。 「そのお弁当手作りですか?」 「そうよ。大したもの入ってないけど」 「羨ましいな」 モグモグとおにぎりと菓子パンが彼の中に入っていく。彼は独身なんだろうか?女子達の中では密かにその質問が話題になっている。見た所指輪はしていない。 「料理とかする?」 とか、とはいったい何なのか?料理しかないのにとかとは。でも気を使うとそんな言い方になってしまう。しないことを否定はしないよと言う保険なのだけど。 「しますよ。朝飯は俺の担当です」 俺の担当…それは俺以外が家にいると言う事で合っているのでしょうか。 「じゃあ、基本は奥様がしてくれるのね」 どっちだ。どっちなんだ。 「そっすね」 だよなー。そうだよなー。私は何をきたいしてたんだろうなー。 「なんちゃってw。奥さんほしいですけど」 独身だったー。未婚だー。 「実家で暮らしてるんだっけ?」 「いや、女友達とシェアしています」 ………なんじゃそりゃ! 「へぇー今どきだね。恋人じゃないんだ」 「まぁ…お互い…都合がいい時に…一緒になったりはしますけど」 ポカーン………ポカーン 「か、彼女の方もそんな関係で良いなら良いわね」 「いや、彼女は僕と付き合いたいらしいですけどね」 クソだな!コイツ!呪いの呪文を唱えてやりたい! 「じゃあ別々に暮らさないとダメなんじゃない」 「うーん、まだ次の女友達が見つかってないんすよね」 滅!コイツはダメだ!滅せよ!滅! 「あっ俺そろそろ行きますね」 一言、言ってやろうと声をかけようとすると、カナタ君は振り向いて 「ミヨさんて声が素敵ですね。じゃあ」 と言って出ていってしまった。 滅!!
ハアハア脳が劣化する。 僕が1日にAV5~6時間観てるって噂になってる。 そんなにエロばっかりでも無いです。 花を最近買っていない。 植物の生殖器を部屋に飾る。 何かそういうと偏執的に聞こえる。 全て性に繋がるような社会構造。 スケベなのはいいが(それも良し悪しだ) 世の中をイタズラする変質者であるので世の中はしっちゃかめっちゃかになる(妄想) 知り合いに女の子にイタズラしちゃ駄目だよ、と諭される。 絵や文章で妄想してイタズラしようと思うが体力がないぞ。 官能小説書きたい。 春画描きたい。 変質者の梅雨は色々な意味でねっとりジットリしている。
車は永遠と走っている 隣の運転手は無口だし 山間の知らない土地をただひたすら走っている こんな山ばかりのところにはポツンと一軒家とかがあるんだよな。何て思っていたら、またあの事件を思い出していた スマホを取り出して調べてみる ネットの中には、詳しく整理された情報が順番に並べられている。 「何してんだ」 無口な運転手が珍しく話した 「え?あぁ…調べ物です」 「何を調べている」 「え?あぁ…昔の事件を」 「事件?なんの事件だ」 僕は熊のような運転手にスマホの情報を伝える 無口な熊さんは「それか。あったなそんなの」と答えた それ以後は何も言わず前を向いている 僕は再びスマホを見ることにした 事件の始まりは、松永重政(56)の遺体発見からはじまる 近所の子供がかくれんぼをしていて、いつも留守な松永氏の敷地内に侵入し、偶然、窓から遺体を発見。 首を切断され、自分の股間に顔を埋めている。自分の陰部を口に送り込まれて。 車は山道を登り始めている 真っ暗で車のライトだけで道を探しているようだ 雨が降り始めた 松永重政は14歳から20歳までの少女の死体を保管していた 殺害、死体の防腐処置、メンテナンス、貸出を全て一人で行っていた 死体貸出の顧客は世界各国にいて政界の人間も少なくなかった 彼を殺害した浜野勝(45)は、松永重政の最後の被害者、浜野姫南の父親である 浜野勝は仕事から帰ってきたら、娘がおらず直ぐに探しに出かける、学校や娘の友達に連絡を取ったが以前行方は知れず、警察に連絡し捜索願を出す。 父親はそれから3日後に松永重政を殺害する。 その間に父親がどうやって松永重政を娘を殺した犯人と断定したのかは分かっていない。 気が付くと車が停まっていた。 「降りるぞ」 ハイエースの後ろのドアを開けて長く重い段ボールを無口な運転手と二人で運び出す。 目の前に昔ながらの日本家屋があり、その横には蔵のような建物があった 無口な運転手に先導されて日本家屋の中に段ボールを入れていく 中には1人若い男性がいた 彼は無口な運転手に封筒を渡し、僕等が玄関を出ていくと直ぐに扉を閉めた。 「はいよ」 無口な運転手が持っている封筒から一万円が出てきた。中にはまだ何十枚もありそうだ。 「あの人何もんなんすか?」 「知らん。…ただ、さっきの事件の第一発見者らしい…知らんけど」 「関西の人だったんだ」 「帰るぞ。それとも、歩いて帰るか?」 僕は急いで車に乗り込む
ジョーカーが昼間から行き付けのバーに行くと、カウンターの端に小学生くらいの女の子が座っていた 「マスター。保育所でも始めたのかい?」 女の子は隣にランドセルを置いている ランドセルは開いている 彼女が着ていた上着がビールの泡のように詰め込んである 女の子の名前はマリアと言うらしい マスターがそう呼んでいた マリアはノートに頬を付けて 長い髪をノートに流して 短いえんぴつで何かを描いている マスターがウィスキーの入ったグラスを俺の前に置くと、妹の娘だと教えてくれた 「マリア。学校には行かないのか?」 マリアはジョーカーの言葉は気に留めず絵を描いている。真っ白なノートの上に柔らかそうな頬を乗せて。髪の毛は相変わらずノートの上に流れている ジョーカーはマリアのノートを覗き込むとマリア髪の毛の間から、犬か、猫が見えた。 「そりゃ猫かい?」 ジョーカーはマリアの顔を覗き込むと彼女は初めてジョーカーを見た 彼女はジョーカーをまじまじと眺める 左の頬が薄紅色をしている マリアがえんぴつでノートに書く ✎あなたはだれ? 猫だか犬だか分からない動物の絵の上の方に、ひらがなで、あなたはだれ?と書いたノートを俺に見せる。 俺は彼女に顔を近づけて ニヤッと笑い「ジョーカーだ」と答える マリアはノートに✎ギョウザと書いている 「違う。ジョーカーだ」 ジョーカーはギョウザの上にバツをして、隣に✎ジョーカーと書いた マリアはジョーカーのロザリオを触っている。十字架の部分を握っている
年が明けて高校受験が迫ってくると、小さな頃のように僕と姫南は一緒に勉強をしていく。大概は僕の家で、母が喜んで夕飯を作っていた。姫南は遠慮していたが、母が「姫南ちゃんのお父さんからも了承を得ているので、張り切って勉強してね」と言う 姫南が帰るときは、いつも僕が家まで送って行き、姫南の父親が帰っていれば父親と少し会話をしてから帰る この片道15分足らずの道のりに踏切がある。踏切で電車を待つような時、僕らは他愛もない話をする。最近観たドラマの話、受験する高校の話、クラスメイトの恋の話。 あの時も同じ高校を受験出来そうだと話していた。同じ高校に行きたいとは言わずに。そんな話をしていると、僕らの隣に大人の男性が走ってきた。 男性は踏切の前で止まり、息を切らせ線路を見つめる。 僕達は黙ってオジサンの方を見る 電車が通り過ぎていく 車内の明かりに照らされたオジサンの顔は焦燥して涙を流し混乱している感じだった。 反対側から電車が近付いてくる オジサンが踏切に手をかけている 息が荒く、鬼気迫る顔だ そこで姫南が声をかける 大丈夫ですか?だったか、どうしましたか?だったか忘れたが、姫南が僕を隣を離れていきオジサンの顔を覗くようにしている景色は今も脳裏に焼き付いている 電車が通り過ぎた後、オジサンは姫南「すみません。ありがとう」と言い、来た道を引き返して行った。それだけの事だった。僅か数分の出来事が彼女の人生を大きく変えてしまった。 踏切の遮断機が降りてくる 鐘を打つ音が僕を責めているかのように聞こえる 鉄の塊が向こうから走ってくる 僕は遮断機に手をかけた
日本人はマナーがいい。 SNSではそんな評価をしばしば目にするし、ぼく自身もそう思っている。 ただ、マナーがいいの裏には、一つだけ落とし穴がある。 「ご馳走様でした」 隣の席の人が、食事を終える。 少し後、ぼくも食事を終える。 セルフレジが一台しかなかったので、ぼくは隣の席の人の後ろに並ぶ。 隣の席の人は、慣れた手つきでセルフレジを操作し、キャッシュレス決済まで完了する。 セルフレジから、レシートが出てくる。 しかし、レシートが出て来たときには、隣の席の人はセルフレジに背を向けて、出口のドアに手をかけたところだった。 ぼくは、空いたセルフレジの前に立つ。 セルフレジには、『レシートをお取りください』のシールが目立つように貼ってある。 「……またか」 ぼくは、セルフレジから顔を出しているレシートを引っ張り出し、周囲にレシートを捨てるための箱がないことがわかると、やむを得ず自分のポケットにレシートを突っ込んだ。 セルフレジを操作しながら、日本人の裏を考える。 日本人は、マナーがいい。 マナーがいいから、暗黙のルール守る。 災害時という特殊な状況下においても、列を乱さないくらい、厳格に守る。 逆を言えば、一度決まった暗黙のルールを、正規のルールが追加発表されようが厳格に守る。 「有人レジの頃は、レシートを捨てるの、店員さんがやってたもんなあ」 未だに、セルフレジからレシートをとると言う追加ルールを守れない人たちばかりなことに嫌気がさして、誰に頼まれる訳でもなく尻ぬぐいをしている自分に嫌気がさして、会計後に出てきたレシートを引きちぎるようにとってしまった。
姫南天が実をつけている 小さな実を枝の先で揺らしている 「姫南天の花が庭で咲いていたから、姫南なんだって。単純よね。でも気に入ってはいるけど」 線路脇を歩いている時に姫南は、そう教えてくれた。高校1年の梅雨の時期。 僕は雨に濡れる実を見ながら、初めて彼女とキスをした。彼女と付き合った日の傘の中。 姫南と初めて会ったのは幼稚園で年少から年長まで三年間一緒の組だった。当然母親同士が仲良くなり休みの日も食事や公園で一緒に遊ぶ仲だった。 僕は大人しい子供だったらしく、皆が外で遊んでいても、なかなか輪のなかに入れないでいると、姫南が僕の手を引っ張って皆の中に入れてくれる 年長の時に七夕の短冊に願い事を書く授業があった。僕は何を書いたか忘れてしまったが、姫南の短冊は覚えている 「困っている人がいなくなりますように」 僕は子供ながらに姫南は大人だなと感じた 小学生になり同じ学校へ入学したがクラスは六年間別々だった。ただ母親同士は仲が良く、姫南と僕も一緒に遊ぶことが多かった。 小学5年生の時だったか、クラスの友達に「姫南ちゃんって好きな人いるの?」と聞かれて、何故そんな事を僕に聞くのだろうと思った。「しらない」と言うと何も言わず何処かへ行ってしまった。 その日から姫南は好きな人がいるのか気になり始めた。 小学6年生の時、母親達のお茶会でマクドナルドに来た時、僕と姫南はマクドナルドの空調から逃げるように「散歩してくる」と外に出た。モワッとする真夏日で蝉の鳴き声が騒がしかった。 宛もなく歩いていると「好きな人いる?」と姫南に聞かれた。突然の質問に僕がいつも姫南に思っている質問に言葉を詰まっていると、姫南は僕の目を確り見て、「私はいるよ」と言った。僕はどう答えたのか、答えなかったのか覚えてない。ただあの姫南の目は忘れられない。強く、悪戯っぽい目を。 通っていた小学校の生徒は全員同じ中学校へ行き、姫南と僕はまた三年間同じクラスになった。 1年生の時、昼休みに先輩がうちのクラスに来て「姫南って子どこにいる?」とドアの前で誰かに聞いていた。先輩が姫南を見つけると「マジだ!可愛い」と言って帰った。そうか姫南は可愛いのか。と思った記憶がある。 中学生にもなると男子同士でいても恋の話が出てきて、誰が可愛いとか、好きだとか。その中で、やはり姫南の名前を聞くことが多かった。 中学に入ってから、母親同士のお茶会に僕と姫南は誘われることはなかったが、ショッピングモールに遊びに行くと、姫南も来ていたりして、結局僕らは一緒に過ごすことになる。お互い二人で過ごすのが楽になっている。 二人でいる時は子供の頃のままの姫南として見ているが、学校の教室で離れた所から姫南を見ていると確かに美人な子に見えた。 中学一年の冬、姫南の母親が亡くなった。夏休みが終わっても姫南は学校に来てなくて、変だなと思っていた。 僕の母から「姫南ちゃん大丈夫?」と言われて「最近来てない」と答えると母の顔はより一層不安な表情になった 姫南の母親の葬儀で僕の母から聞いた話は、かなり前から姫南の母親は病魔に侵され今年の夏に体調が急変し入院してそのまま冬まで退院することなく亡くなってしまった。 久しぶりに姫南と話したが少しも変わらず、いつもの強くて優しい姫南だった。「私も、お父さんも、覚悟はしていたから」と言う顔が少し痩せて見える 僕の母が「卒業式を観たかった」と姫南の母が言っていた話をすると母の胸に抱かれて姫南と母が泣いていた 姫南の母親の葬儀が終わると、姫南は次の日から学校に来て、いつも通りに過ごしていた。
公園のベンチに、白髪の女が座っている。 女はスマホを眺めながら、小さなため息をついた。 「どうした、そんな顔して」 顔見知りの男が声をかけた。 「あぁ、あんたか。いや、娘から連絡があってな」 「疎遠になってる娘か?」 「結婚して、子どもが生まれたんだ。顔見にこいって」 「おぉ、よかったじゃないか」 女の隣に、男が座った。 「金がないんだ。電車代と、孫になんか買って行かんと」 「それもそうだな」 「あんた、金貸してくれ」 「ダメだ。今日の軍資金がなくなる」 男は笑いながら指差した。 「そこの路地んとこに、店があるだろ。そこ、買い取り屋だから何か売って金にしろ」 「はぁ……売れるもんない」 「孫が生まれて嬉しい気持ちを売ればいい」 「そんなもん買ってくれるのか」 「半分だけならいいだろ」 女は、路地裏にある買い取り屋の扉を開けた。 「どうだった?」 「半分だけ買い取ってもらった」 女の頬が緩む。 「じゃあ、今から孫のとこ行くんだな」 「ん……今日じゃなくていいだろ。軍資金も入ったし、ちょっとだけ行くか」 「お前なぁ……」 自動ドアが開くと、賑やかな音楽が聞こえた。 女は軍資金を胸のポケットに入れ、いつもの台に座った。
馬にはちょっと因縁がある 小学校の写生会で、馬がたくさんいるとこに行った 馬はそれぞれ名札のついた自分専用の場所にいて、少し窮屈そうと思った 馬を見て、ちょっとさわって、私たちは馬の絵を描いた 馬の毛が太陽で光って見えるのがキレイで、でも私にはそれをちゃんと描けなくて、だからあきらめた せめて馬の目をきちんと描いてあげようと思って時間をかけた 描くたびおかしな絵になっていくのが、姿のない何かに邪魔されてるみたいで泣きそうになった 泣いていたかもしれない そんな私の気持ちなんか無視してクラスのみんなは私の絵を見て「ヘンだね」「特に目のとこ」と言った たぶん泣いちゃったんだと思う 泣きながら、でも描き直したんだと思う 馬の目の部分だけ紙が薄くなってしまうくらい何度も消して、でもやっぱりみんなはヘンと言う、容赦なく あたり前だよ、容赦なんて言葉、まだ習う前だった 気を遣う? なんのこと? 私は馬を嫌いになった そんな目をしてるから私が困っちゃうんだよ そんな目だから私が泣かないとならなくなるんだよ 馬は、何もしていないのに どうしても上手く描けない馬の目を ヘンだよ みんなに言われて泣いて
ある政治家が緊急記者会見を開いた。 真剣な面持ちでマイクの前に立つと、集まった記者たちに一礼した。 「私は、国民の皆様の死ぬ権利を保証します」 政治家は動じず、淡々と語り始めた。 「我が国の医療費は年々増加しています。私は、医療費削減のため『尊厳死還付支援金等に関する法律の一部改正を認める法案』を国会に提出しました」 ざわつきの中、政治家は続けた。 「医学的に延命治療が不可能な患者様が尊厳死を選択した場合、延命を続けたときにかかる医療費の半分を還付金として支給します。 申請の妥当性は、AIのみで構成される第三者委員会が判断します。本人、家族、後見人等が尊厳死を理解し、同意することが前提です」 テレビの画面を見つめる女。 その隣には、長い間管につながれたまま眠り続ける夫がいる。声をかけても反応はない。そんな時間が一年を超えていた。 テレビの司会者が、評論家の女に質問した。 「あなたの立場から、今の社会の風潮をどう考えますか?」 「最初は倫理的にどうかなと思いました。でもね、家族の金銭的、精神的負担を考えるとね。国も医療費を減らしたいと思っている。時代の流れかしら」 法案は成立し、運用が開始された。 AIは、不正申請や悪質な養子縁組なども瞬時に判断した。 その実績を政府は大々的に報道し、制度の正当性をアピールした。 あの政治家が再び記者会見を開いた。 「政府は規制緩和の一環として、支援金の有効活用を目的とする民間企業の商品開発、および第三者委員会のAIの一部利用を許可します」 感嘆の声が会場に響いた。 支援金は国民の生活に変化をもたらした。 「故人からの最後の贈り物」として美化され、生活の一部となった。 夫婦の病室。 温かいタオルで夫の体を拭く妻。 医師やAIからは、すでに受理のサインをもらっていた。 署名をすれば終わる…。 妻が机の上を見つめた。 そこには、笑顔で寄り添う二人の写真が飾られていた。
どうも、七月二日です。 人間に言いたいことがあります。 実は、一年の半分の終わりって、六月三十日じゃないんです。 七月二日なんです。 うるう年のときは変わるんだけど、四年に三回はぼくなんです なのに人間と来たら、六月三十日に「今年も半分が終わりかー」っていうんですよ。 違う違う違う。 まだ、一日半あるんですよ。 ぼくが一年の半分だから、正しくは七月二日の正午が近づいたら、「今年も半分終わりかー」って言うべきなんですよ。 十代や二十代の人間が、「俺もうおじさんだー」「私もうおばさんだー」って言ってたらどう思います? 違う違う違う。 おじさんおばさんはもっと上からだよ、ってなりません? 六月三十日に人間が、「今年も半分が終わりかー」って言ってたら、「一年の半分はまだ先なんだよー」って思っちゃうんですよ。 よし。 ここまで言ったから、今年はもう大丈夫だよね。 ちゃんと、七月二日に一年の半分を振り返るよね。 ね? じゃあ、ぼくは時を刻むという重要な仕事があるから、ここらへんでお暇するよ。 またね、人間。 頼むよ、本当に。
今の職場は、パートの女性だけでも百三十人位いる。平均年齢四十八歳。ほとんど主婦。私もその辺によくいる主婦。女はあっという間に群れを成す生き物だけど、私はどこのグループにも属していない。 そんな私に、昼休みの友が出来た。入社時期は大体同じ。同僚だけど、彼の方が五歳上なので、人生の先輩ではある。最初は敬語を使っていたけど、今はタメ語。私の夫が六歳上なので、夫と話すのと同じ感覚だ。 私は子どもの頃からコミュ障だ。その時その時で友達はできるけど、大人になっても付き合いが続いている友達はゼロだ。職場は生活費を稼ぐ場所。学校と違って、職場の休み時間なんて、ぼっちでもいいはずだ。 でも、話し相手ができたことは素直に嬉しい。昼休みに一言二言交わす、それだけなのに何かホッとする。安心感から、話そうと思っていたこと、聞こうと思っていたことをつい忘れてしまう。この人の前では無理しなくていいんだと思える、彼はそんな存在だ。 何となくだけど、ある日突然、彼は退職するのではないかと思う時がある。いつかくるお別れの日を想像してみた。最後の日は、泣かないで笑顔でバイバイできるといいな。拒否されなければ握手できるといいな。いなくなったら寂しいな。 梅雨空と連動するかのように、心が曇る 梅雨が明けたら心も晴れるかな 夏休み、どっか行くの? なんて話をしたいな いつも私のつまらない話を聞いてくれてありがとう これからもよろしくね
【あっけない肩透かし、いや肩透かしとはあっけないものなのだよ】 着古したセーターをほどいていくみたいにお狐さまとの関係も壊していく。それがいいのだろうか? するすると、あっけなく、何もかも。それがいいのだろうか? この次の恋はマフラーくらいの大きさでもと思い、結局はコースターくらいになりそうな予感。それすら、叶わないのかも。恋という単語を口にすることの恥ずかしさは高校生のときのそれとは大違いで、むしろ恥ずかしいのではなく、ハシタナイとさえ思う。魔法にかかっていたんだ。その魔法は、唐突に解ける魔法だ。レジでお釣りをもらった瞬間に、あるいは、エンターキーを強く押し込んだ瞬間に、あるいは、枯れた枝を切り落とした瞬間に。そんなとき、解けてしまったりする。それはたんなるタイミングであって引き金ではない。たまたま、ということ。 自分でも手に負えないほどの加速で突っ走っていた。めまぐるしく遠心力が働いて、走れば走るほど中心にいるお狐さまとは距離ができてしまった。不思議だ、と思っていたあのころ。でも当然のことだ、と思ういま現在。あのころの僕たちは、したたかに美しい夜景のようだったのに、いまではあまりにも平坦で平凡な景色に成り下がっている。ため息とともに握ったカップは、予想になく不規則に割れ、手のひらから薄く血がにじんでいる。後悔? ではないと強がって、でも結局のところ、そこにはたどり着くことになる。素直に認められないことの愚かさ。持ちあわせていない素直に認めてしまえる勇敢さ。自覚はあるのに。自覚はあるからこそ。 離れることだけは決まってる部屋の近くで、連日さわがしく忌々しい音をさせている工事から逃げる。逃げる。逃げる。公園に行く。広い公園に。ああ静かだ。のどかと言ってもいいくらいだ。草の香りがやけに落ち着く。わっ、短い声がして見てみると縄跳びをしてる女の子たち。僕もあのくらいのころはよくやってたなあ。すみっこのほうで、は、は、は、と規則正しいリズムを刻んでいるのは劇団か何かの発声練習かなあ。それが習わしであるみたいに男の人は白いタオルを頭に巻いて、女の人はピンクのタオルを首にかけて。広いスペースではフリスビーを器用に投げる女性。うまく投げるもんだなあと思い、うまくキャッチするもんだなあと犬にココロのなかで拍手を送る。フリスビーが投げられてその何度目かのとき、やけに強い風が吹いてフリスビーがこちらに流されてくる。犬は、風をものともせず駆けてくる。ものすごい勢いで、僕に向かって。どうするのがいいのかわからないながら、僕は片膝をつき、犬を迎える姿勢をとった、ただカラダの形の上でだけ。気持ちが固まってないところに犬は、僕のちいさい胸へと飛び込んできて、僕はきちんと受け止めてあげられず、背中から芝生にしたたか打って倒れ込む。寝転び、犬に顔を舐められながら大空を見上げる僕に、 「ごめんなさい。大丈夫ですか?」 フリスビーの女性の声がして、 「はははは… はあ」 力なく返事みたいなものを僕がした。 何かの拍子に、何かのきっかけが降ってくる。たまにある。そんなことが。スーパーの、やけに薄いあのビニールをピッと引っ張った瞬間だったり、同じクラスの、ちょっといいかもと思ってた女の子と理科の実験の時間にふと目が合った瞬間だったり、池のかえるがげこっと鳴いて、カラスがつられてアーとやって、道ばたのかわいい草が風にそよぐその一連の流れを眺めたときだったり、あるいは、知らない犬が飛び込んできて背中から倒れ込んだ瞬間だったり。 日々、着々と怠りなく、材料集めは滞りなく進んでいた、気がつかなかったことだけど。それでも進展がないと思われたのは、材料は材料のまま切り分けられることも、適所に配置されることも、組み合わされることもなかったから。ゴン、と、ギャシャ、が合わさったような音が表から聞こえてきて、それが工事の再開の合図でもあるみたいに騒がしくなったあのときに、すべては終わっていたのかもしれない。 ・ ものすごく暑くなったと思ったら、次の日、工事は休みだった。
郊外のアパート。 母親と、幼い二人の子どもが暮らしている。 「こんなこと言える立場じゃない……」 壁にもたれ掛かりながら、スマホの画面を覗いた。 そこに映る、満足げな顔の人たち。 母親は、迷った指でタップした。 数日後、荷物が届く。 「ママ、開けていい?」 「いいよ」 「お菓子あったよ」 箱の中には、食材と数年前に流行ったキャラクターのTシャツが入っている。 「月末まで……これで何とか」 子どもたちがお菓子を頬ばった。 母親はレトルトを手に取り、裏を見て苦笑う。 「……食品ロスには役立ってる」
目を覚ますと、僕の身体には薄くて柔らかい毛布が掛けられていた。綺麗に洗われているのだろう、太陽の匂いがして、僕は顔を埋めた。 「いい匂い」 意識がはっきりとし始めると、自分がどこかの部屋の中にいるということに気付いた。 まさか、誘拐されたのでは、と警戒したが、刹那、すぐ近くで物音がした。音の正体は誰かの寝返りだった。僕の傍で眠っている男の子がいるのだ。 「誰?」 僕は足でグイグイと奥に押し込んだ。すると、その隣にいる女の子らしい影を抱きしめにいった。 奇妙だ。 よく見ると、僕が目を覚ましたのはある部屋の真ん中で、何人もが僕を中心に眠っているのだ。中には大人もいる。空いているベッドもあって、僕は頭を捻った。 そして、誰も起こさないように、ゆっくりとベッドから降り、軋む床に人差し指を立てながら、部屋の出口の取っ手を回した。 これが廊下というやつか。僕は長い廊下に見惚れながら、音を立てずに扉を閉めた。 外はもう暗い。確か、僕はおばあさんを追って朝方にあの町を出たはず。何時間眠っていたんだ? 廊下の先には螺旋階段があり、反対側には電気の消えた気味の悪い部屋があった。幽霊でも出るんじゃないかという不安な気持ちになる。木目が笑っている。 螺旋階段の傍に寄り、下の階を覗く。すると、ぼんやりと灯りがついているのが見えた。 「誰かいるのか」と思い、おばあさんかもしれないという前向きな考えが浮かぶ一方、誘拐だった場合、そこにいるのは犯罪者なわけで、僕は手すりを強く握った。 すると、後ろの不気味な部屋の方から声がした。 「誰?」 「うわああ!」 自然と声が出た。すぐに口元を覆ったが、手遅れだった。 「うるさい! もうみんな寝てるんだから」 「あ」 そう言って僕の正面に現れたのは目付きの鋭い女の子。この子、おばあさんと一緒に男の人たちに睨みを利かせていた、あの子だ。 その女の子は僕の顔を見るなり、すぐに柔らかい顔立ちになった。そして、そのまま驚いたような顔で、僕の顔を指さした。 「生き返った?」 「え?」 その後、僕は女の子に手を引かれ、螺旋階段を下った。そこにはもう一人小さな女の子がいて、この子の帰りを待っているようだった。ただ、急な僕の叫び声があったせいか、ソファの後ろにいた。 「え、お姉ちゃんが起こしたの?」 僕を指さす小さい方の女の子。それを見て、「違うよ、勝手に起きてきた」 僕の手を離すと、その女の子はソファに横になって目を瞑った。貫禄。僕にはそんな風に捉えられていた。 「ここは?」 「孤児院」 「君は」 「私はリッカ。こっちは妹のミミ」 「僕はトガ。よろしく」 リッカは片目を開けて、僕の顔や身なりを滑るように見渡した。そして、もう一度目を閉じて、足を組んだ。 「どこから来たの、トガ」 「下町の方、南の工業地帯の」 「だよね。あんたの格好でなんとなく分かってた」 「ああ、汚かったよね、ごめん」 「ちがう」 リッカは僕の足元に人差し指を向け、僕はその指に誘われるように足元に目を配る。 「靴を履いてた」 「え」 「下町は危険が多いから、靴は絶対に履く。同じ下町でも北の方は裸足が多いんだ」 「そうなんだ」 すると、妹のミミが口を挟む。 「私たち、北の方だから」 「こらミミ、余計なこと言わなくていいの」 リッカは身体を起こしてミミを探した。ミミはリッカの足元で丸くなっている。無邪気な笑みは怒る気力を完全に削いだ。リッカはまたソファに寝転がる。 「二人は上で寝ないの?」 「ベッドが足りないんだよ。トガがいるから」 「え、僕?」 「そう。ミミがあんたのためにベッドを貸してくれてたんだよ」 ミミは恥ずかしそうに、顔を隠した。 「あ、ありがとうミミ」 「うん」 「で、ミミが一人でソファで寝るなんて言うもんだから、私が付き添い」 テーブルの真ん中で蝋燭の火が揺らめく。 僕は天国に来たはずなんだ。なのに、どうしてこうも胸が痛むんだろう。 すると、ミミが僕の手を取ってソファの方へ引っ張る。その勢いは本当に女の子なのかと疑いたくなるほどに強いものだった。少しよろめく。 「一緒に寝よう?」 「え、トガも?」 リッカはソファの上で体を小さくまとめながら言った。 「嫌なの、お姉ちゃん?」 「いや、男の子と寝るのはあまり好きじゃないから」 「でも、アルくんとはよく寝てたよ?」 その一言にリッカは黙り込んでしまう。でも、ミミはなぜそうなったのか理解できていないようで、リッカの腕も引っ張ろうと近寄る。 そして、腕に手をかけたところで、リッカはミミの手を払い除けた。手を弾かれたミミは目を丸くしている。 「アルバートのこと、二度と口に出さないで」 「ごめん、なさい」 口調とは裏腹に優しく哀れむような瞳。そこに蝋燭の火が映っているのが見えた。 【つづく】
「なんてことだ!」 天才恋愛作家として名を馳せた俺。 いよいよ童貞主人公とヒロインが結ばれ、ハッピーエンドの初夜を描こうとしたのだが……書けなかった。 いつもであれば指揮者のごとく滑らかに振るわれるゴッドフィンガーも、先程から石化でもしたかのように動かない。 おう、まい、ごっど。 俺の頭の中に、一つの言葉が浮かんでくる。 『作家は経験したことしか書けない』 という残酷な一文。 確かに俺は童貞だ。 認める。 だが、夜の描写は、エロ動画を何度も見て履修済み。 書けないはずがないのだ。 気分転換にコーヒーを飲んでみても、筋トレをしてみても、状況は変わらず。 文字数が一文字たりとも増えることはない。 頭をこねくり回し続けること一日。 俺はようやく原因がわかった。 「はっ! まさか、エロ動画にはどちらも初めての役者がでてこないから、俺は初夜が書けないのか!」 俺は絶望した。 あまりの絶望に、壁に向かって倒立をし、バランスを崩して床に倒れた。 「あーっはっはっは! まさかこんなところで、天才恋愛作家である俺が壁にぶつかるとは!」 もはや笑うしかなかった。 俺は床に大の字になって、狂ったように笑った。 口の中が空からになるまで笑いつくした後、俺は天才としてのプライドを護るために決めた。 「よし。恋人作って初夜を経験しよう」 完全に狂っていたが、今の俺にはこれ以上の案が出てこなかった。 そうと決まれば、俺は担当編集に電話をかけた。 「もしもし?」 「初夜を経験したいので、女の子紹介してください」 「……からかってるなら切りますよ? 私、こう見えて結構忙しいんですよ」 「本気です!」 「本気ならさらに切りたいです。そんなに経験したいなら、夜のお店にでも行ったらいいじゃないですか」 「何を言ってるんだお前は。夜の店だと、相手は初夜じゃないだろう」 「何を言ってるんだお前は」 担当編集に今までのことを説明すると、担当編集は渋々納得してくれたようで。 電話を切った後、近くで行われる街コンの情報をメールで送ってくれた。 担当編集の好意は無駄にはしない。 俺はさっそく一丁裏に着替え、街コンへ繰り出した。 そして撃沈した。 「うえっ……うえっ……うおおおおおおん!」 「はーい、よしよし。泣かないでください」 まさか、街コンがあんなに恐い場所だったとは。 話しかければ苦笑い、酷い時は無視。 天才恋愛作家の俺の心は、雑な宅配業者に運ばれたポッキーやプリッツ並にバキバキだった。 最近降られたバキバキ童貞もこんな気分だったのかと思えば、バキ童チャンネルを見てまた泣いた。 「大丈夫ですよ。恋人を作る手段は、街コンだけではありません。合コン、マッチングアプリ、出会いバー。好きな物を選んでください」 「ここまで来たら、なんでもやってやる!」 俺はがむしゃらに挑戦した。 そして全滅した。 「~~~~~~~~~~~~~」 「せめて声を出してください」 俺は三日間、執筆を止めて部屋に閉じこもった。 ご飯は全部マクドナルドのデリバリー。 時々すき家。 チーズ牛丼の美味しさが心に染みた。 三日三晩泣き叫び、いっそ清々しくなった心で机に向かう。 根を張ったように動かなかった手が、信じられないほどの速さで動き始めた。 その後、俺は完成した新作で、翌年のなんたら小説コンテストの大賞を受賞した。 「おめでとうございます、先生! いやまさか、もう体を重ねるだけってタイミングで、新ヒロインが登場するとは。こんなの誰も予想できませんよ。さすがは、天才恋愛作家」 俺はゴールドに輝くトロフィーを抱えながら、最高の笑顔で返事をした。 「まったく嬉しくない」 新作発売後のエゴサで見つけた一文は、未だに俺の心に残っている。 『この作者、絶対童貞w』
フィクションが書けない。 現実が物語性を帯びているからだろうか? 言語性IQは人並みなのでうまく状況を言語化したいがいかんせん人並みなので人並みの言語化しか出来ずもどかしい。 このままだと食料不足になるとか国が傾くとかそれこそ文明が無くなるとか言われてるのでちょっと危機感を感じる。 でも危機的状況に対応する能力も無い。 困る。 こんなに自分が何も出来ない奴だとは思わなかった(いや、気付かないふりをしてきただけだ) 政治は政治家に任せておけばいいとかの意見もあるが今は政治屋ばかりなので政ごとは皆でやるべきかもしれない。 おまえは何かの活動家か?と揶揄されそうだ。 実際に教会の週報なんかで自民党の悪口を書いたのでこれはデジタルタトゥーとして残っているのだろう。 まず櫂より始めよ、という言葉を送ってきた知り合いは僕なんかよりずっと世の中と向き合って活動している。 でも自民党に投票する矛盾。 ヒッピーはもういない。 何か難しい事を考えるとこの国を憂う、とかどっかの政治屋が言っていた事と同じ事を言い出してしまう(もはやギャグなのだがこれがまた笑えない) 真面目に考えすぎた、という状況に追い込まれ支配層の思うがままになる。 奪われないために、とか考えてでもお前奪われるもの無いやん、とか突っ込まれそう。 自分ではそう思っているのだがでも奪い合いの世の中。 世界を思う過渡期の犬は保健所(病院)で薬殺されそう。 暗い話題だ。 光あるところに闇あり。 生あるところに死あり。 でも今日は女の子と話せたのでそれでいいや(結局それかい)
住宅街の細い道。 民家の脇には花とお菓子、ミニカーが置かれていた。 中年の女が膝をつき、手を合わせる。 近所の人たちは、その光景を横目で見ながら通りすぎた。 次の日も、また次の日も、人通りの多い時間を選んで祈った。 その様子を二階から夫が眺める。 「よしよし、順調だ」 夫は妻に言った。 「あのお喋りなおばさんに、『ここで車とぶつかった子はどうなった』と聞いてこい。それだけでいい」 やがて誰かが花台を置いた。 人は立ち止まり、手を合わせる。 夫はまた妻に言った。 「夜中に子供を見たって、おばさんに言ってこい」 幼い子供の噂は、すぐに広がった。 「何か怖いわね」 夫が笑った。 「最初に花と菓子とミニカーを置いたのは俺だ」 「何でそんなこと」 「今にわかる」 夜、夫婦は花台を片付け、代わりに小さな祠を置いた。 祠の中には河原で拾った石。白い紐を巻きつけた。 「それらしくなった。ここからが本番だ」 「いいか、人通りの多い時間に手を合わせろ。白い服だぞ」 「何を企んでるんだ」 「お前は知らなくていい。嘘が顔に出るから」 妻は祠に手を合わせた。 異様な雰囲気に、人々は目を奪われる。 「『子供は行くべき所に行かれました』と大声で叫べ。みんなに聞こえるようにな」 若い男が声を掛けた。 「その祠の石は何ですか」 「これは《サカノウエノミコト》様のご子息の枕です。我が坂上家が代々引き継いできた、由緒ある石です。ご存じでしょう」 「そう言えば、昔聞いたことあるような…」 その夜、夫は祠に賽銭箱を置いた。 翌日から祈る人は増え、金も集まった。 《サカノウエノミコト》様は子宝の神。 《サカノウエノミコト》様は金運の神。 あとは勝手に誰かが噂を作ってくれる。 夫婦は賽銭箱を覗いた。 「小銭が多いわね」 「そうだな…御札作るぞ」 御札は飛ぶように売れた。 商店主がお札を貼ると、参拝帰りの人が店に立ち寄った。 店主は「《サカノウエノミコト》様のおかげだ」と言いふらした。 夫婦は土地を買い、工場を建て、朝から晩まで働いた。 妻は夫を睨みつける。 「話が違うじゃないか」 「そうだな。賽銭箱で満足すべきだった」 夫は筆を取り、工場に御札を貼った。 《サカノウエノミコト》夫婦円満
「えっ!?あぁ…俺かい?俺はこれから立川へ向かうんだ」 「えっ!?いや、飯は食ったからいらないよ」 「えっ!?そうさなぁ…そんな時もあったな」 電車の中で一際大きな声で話しているのは安田の爺さんだ 自分が座っている前に、タイヤの付いた椅子を置いて独り言を言っている 「えっ!?あぁ…息子も、もう大きいからね。暫く会ってないよ」 「えっ!?そうりゃそうだよ。どこにいたってそんなもんだよ」 五日市線で立川へ向かう電車に安田の爺さんは乗っていた いつもは立川で暮らしていて、遠くには出かけない彼だが、今日は以前住んでいた武蔵引田に出かけていた。 声の大きい安田の爺さんは、いつも誰かと話をしている。爺さんにしか見えない誰かと。 安いアパートには一人で暮らしていて、部屋は簡素で整頓されている 立川に着くと タイヤ付きの椅子の手すりを握り膝を曲げずに、チョコチョコ歩く。 スマホゲームをしている高校生に抜かされ、中年のサラリーマンに舌打ちをされ、太ったおばちゃんにぶつかられる 安田の爺さんは歩きながらも独りで話している 「えっ!?まぁな…雨が降ってないだけ良かったよ」 「えっ!?あぁ元気そうにしてたよ。また来年が楽しみだ」 「えっ!?何も話やしないさ。男同士だからな。黙っていたって大体分かるんだよ」 安田の爺さんのボロアパートに着いた。外壁が剥がれて、中が剥き出しになっているの所が、更に大きくなっている 家に帰ると、玄関にタイヤ付きの椅子を置き、家の中では杖を使う。二刀流だ。 安田の爺さんは水道で蛇口を開け、小さなコップに水を入れる。必要な分だけ水をいれると、安田の爺さんは水道の蛇口を閉める。小さな声で何かを囁いてから水を飲み干す。 夜が来ても、電気も付けずに、安田の爺さんは台所で、コップを握ったまま目を瞑っている。瞼の裏には、小さな男の子がこちらを見て笑っている。
たえられないほどではないにしても 私の背は小さくて、不便も多い この世界のサイズは私のためのものではないのだなあ そう思うほどではないにしても たえられないほどではないにしても 私は目が悪くて、支障もある この世界の嫌なものを見なくて済むからいいのかもね そう思うほどではないにしても たえられないほどではないにしても 私の気持ちは弱くって、不都合もいろいろと この世界の情熱は私に適したものではないのだなあ そう思うほどではないにしても たえられないほどではないにしても 私は男運がないみたい この世界の男は私のために生きてはくれないのだなあ そう思うほどではないにしても
昔、見える女性と付き合っていた。 「ほら、あそこにいるでしょ」 と言われるたびに首をひねっていたが、ある日を境に自分も見えるようになった。 ありがたくもない才能は、今も続いている。 通勤途中の信号機のない交差点。 毎週木曜日、半透明の女が立っている。 交差点を過ぎ、バックミラーを見た。 「焦ってるな」 ──次の木曜日。 「やばい、目が合った」 ルームミラーを覗くと、女が静かに座っていた。 「でこが少し腫れてるか? でも、意外と美人だ」 女が前髪で、でこを隠した。 それから週に一度、女を乗せることが決まりごとになった。 「あっ、寝過ごした……」 いつもより遅い。 すると、歩道で足を引きずる女を見つけた。 小さくクラクションを鳴らし、車を左に寄せる。 「遅くなってごめん」 「大丈夫」 自然と言葉が出た。 女は、いつものように外の景色を眺めている。 ミラー越しの顔は、どこか寂しい。 「誰かに会いに行くのかな」 確かめたい衝動が、日に日に強くなる。 ──次の木曜日。 女が消えた後、辺りを探した。 「……どこだ」 その時、スーパーの前から店員の大きな声が聞こえてきた。 「本日は週に一度の半額セールです。皆さま、開店までもうしばらくお待ちください」 「……あれは」 最前列に、スーパーのカゴを持った女が笑顔で並んでいた。
命、命と、しきりに口にする先生は、腕に止まった蚊を躊躇いもなく、はしっと掌でとらえた 人の命と蚊の命、比べるものではないのかもしれない しかし、どうにも、もやもやしたものが… 平和のための戦争って、あるのだろうか 戦争は戦争で、やっぱりそれは戦争だ 戦争は戦争でしかない 別の新しい人が大統領になるらしい 別の新しい戦争が、はじまる予感 ぼくの腕に蚊が止まった 血が吸われていく様を、ぼくはじっと見つめていた ふいに視界にうっすら影ができて、それから手があらわれて その手が、はしっと蚊をとらえる 蚊が血を流す 世界にも、血が… ―ふふっ 頭の上から声がした 顔を上げてみる そこには先生の顔 ―蚊が、死んでしまいましたね ぼくが言うと ―蚊ですから、死んでもいいんですよ 平然と言って、先生は満面の笑みをぼくに見せた その笑顔が、もやもやを大きくさせる
お腹が空いた。もうかれこれ、二日は何も食べていない気がする。足取りも不安定で、ところどころに立つ送電柱が僕の身体を支え、前へ前へ進ませる杖となった。 この町は貧しく、親のいない子どもたちがわんさかといる。子どもたちだけでコミュニティを作るのもいて、そういう奴らはギャングと称されて町を闊歩するようになる。 かくいう僕にも親はいない。物心ついている僕を町の真ん中に置いて、ボロい車で砂煙を上げて消えていった。今となっては顔も思い出せない。まるで、舞い上がった煙がいつまでも晴れないような。 いつものように、僕はゴミの集積所にたどり着く。すると、カラスやネズミが一斉にこちらを見つめる。逃げるでもなく、泣き喚くでもなく、ただ「同類」とみなしてか、僕の身なりを見つめる。 「えっと、まだ余ってるかな?」 僕が歩を進めると、避けるように端へと寄る。 ゴミ箱の中を除くと虫のたかった果物が一つ、宝物としてそこに転がっていた。これでも、僕にとってはこれ以上ないご馳走なのだ。 手で掴み取ると、その虫の群れは僕の腕を這うように散り散りになる。いつもの光景だ。 「ごめんね? いただきます」 「どうして、ダメなんだ!」 そんな声が聞こえてきたのは近くの古い建物からだった。若い男の人、でも未成年のような、幼さの残る怒号だった。僕は果物と虫の混ざったものを噛みほぐしながら、その声がする方を覗いた。 そこには数人の男の人と、何人かの子どもを連れたおばあさんがいた。 「養子をとるというのは生易しいことじゃあない。この町でたくさんの子どもたちを引き取るたあ、いかほどかと思ってはいたが、やっぱりダメだダメだ」 そのおばあさんは右手を、男の人の言葉を払い除けるように振った。それを見た男の人は反論に出る。 「俺らはちゃんと養えるだけのお金は稼いでる! だから養子縁組の申請も通過してるんだ」 「この町の行政はもう機能していないさ。そんな紙切れ、誰にだって複製できる。それに、金を稼いでるだけじゃダメだ。大切なのはこの子らの心。子を養うとは金じゃないでね」 近くの子どもたちはおばあさんの後ろに隠れている。その中で、女の子一人だけがおばあさんと一緒になって険しい目で男の人たちを睨んでいる。 僕はそのおばあさんの優しい威圧に空腹を忘れていた。 「あんたらはこの人たちのもとに行きたいかい?」 おばあさんは優しく、子どもたちの声に寄り添う。それに子どもたちは皆、首を横に振った。 拒絶。僕でも分かる反応だった。 「これが答えだ。この話はなかったことにさせてもらうよ。いいね?」 おばあさんは男の人たちにさらに釘を刺す。 「報復なんざ考えないことだ。その生意気な口が利けなくなっても知らないよ」 その目は力強く、深海にも見えた。 なんだ、この人。 僕はゴミ集積所での食事もそこそこに、あのおばあさんを尾行したくなった。というのも、あのおばあさんがいる場所、それが巷で「天国」とも噂されている外れ丘の孤児院かもしれないからだ。 時折、同業だったクーが話していた。 「こんな生活も、天国からすれば虫の生活なんだぜ、きっと」 「なんだよ、天国って」 「あの町さ、明るく見えるだろ」 「山の麓にある、あれ?」 「そう。あそこに子どもたちの天国があるらしい」 「何それ」 「柔らかいベッドと優しい大人、美味しいご飯。僕たちとは縁遠く離れていった全部があそこにはある。行ってみたい?」 「まさか。お前といる方がいい」 「へへ、面白いな、トガは」 それがクーの最後の言葉だった。 僕は子どもたちを先導するおばあさんと、その列の最後尾に立って周りを見渡す女の子にバレないように、物陰に隠れながら、後ろを尾けた。 「やっぱり、そう里親なんて見つからないよね」 「そんなこと言わないで、レイ。そんなこと言ってちゃ、ほんとに家族なんてもらえないよ」 「ミミは家族いるじゃん、リッカがさ」 「お父さんお母さんの話!」 レイとミミとリッカ。あの子はリッカか。 「俺はカウルと遊んでる方が幸せだからな」 男の子がそういうと、おばあさんが笑いながら、そのレイという男の子に語りかけた。 「そうだねえ。別に家族がいるから幸せだというわけでもないさ。赤の他人だって、集まって暮らしゃあ、家族と呼んだって差し支えない。現に、私はあんたらのことをかけがえのない家族だと思っとるでね」 家族か。 あれ、なんだか視界が。 「ほら、そろそろ着く。リッカ、手を貸してくれ」 そういうと最後尾にいたリッカがゆっくりと駆け寄った。 あの町からは随分と離れた。外れ丘というだけあって坂道も多かった。とうに、僕の体力は限界に来ていたんだな。視界がぼやけていく。 もう少しで「天国」だったのに。もう少しで、クーの言ってた夢の世界に。家族に。 【つづく】
「ねえ、アイス買いに行かない?」 「最近、毎晩だね」 「ダメだった?」 「そうじゃなくってさ」 キミと並んで歩くコンビニまでの行き来が、僕にとっては憩いの時間。その沸き立つ気持ちが言わせたんだよ、キミは気がついてないみたいだけど。 「ねえ、何買うの?」 「んんん」 僕にはなんとなくわかる。さっさとカップのバニラアイスを手に取った僕をしり目に、キミはピノとチョコモナカで悩んで、溶けちゃうから僕はいったんバニラアイスをケースに戻して、でもキミはまだ悩んでて「まだあ」と僕が三回くらい言ってキミをせかして、ちょっぴりむきっとしたキミはやっとピノに決めて、僕は心のなかで「やっぱりそっちだねえ」って思うんだ、きっとそうだ。 お店に入るとキミは「今日はもう決めてあるんだあ」と言って右にピノ、左にチョコモナカを手にした。 「ふたつ食べんの?」 「いけるでしょ」 「おなか壊しても知らないよ」 「へーんだ」 僕はこのまえ買ったのとは別のバニラアイスにしてレジに向かう。それでもキミには「いつもとおんなじだね」と言われてしまうのだけど。 店を出るとキミはさっそくチョコモナカの袋を開けてかじりつく。 「カップのアイスじゃあこうはいかないよねえ」 楽しそうなキミの笑顔が、僕の心に涼やかな風を運ぶ。
もう6月だというのに、最高気温は20度に至るかどうか、その瀬戸際であった。 比較的に涼しい夏。今年の6月は、まるで春みたいな夏だ。 「暑くない6月は、夏ですか?」 通りすがりの他人に声をかけられるまで、私は6月に対する違和感を、みじんも抱いてはいなかった。 「まぁ……夏でしょ?」 「そうですか」 見知らぬカレは少々、残念そうに首をかしげる。 「夏ではない6月があってもいいと思ったんですけど。気温の問題ではないのですね」 「はい?」 私には、カレの言っている意味がよく分からない。だから、思わず「6月って、本当に夏ですか?」とわけの分からないことを聞き返してしまった。ちょっとした反骨精神が、私の胸にむくむくとわきあがっていた。 「では、あなた。夏じゃない6月なんて、想像できます?」 私は首を横に振った。だって、夏って暑いもの。6月は平均的に暑いでしょ。スイカが塩辛くて、甘くなる年頃でしょ。 じゃあ、先ほどの私の質問はいったい何だったのか……ということになってしまう。 「だから、夏じゃない6月を見てみたかったのです」 優しげに、カレはほほえむ。 「たとえば?」 「たとえば、春みたいな6月。秋みたいな6月」 「冬みたいな6月も?」 「そう」 ハツラツとした声。はにかむたびに、より一層カレの語り口は澄んでいく。 「冬みたいな6月は、雪が降るのかしら?」 「そうかもしれません」 なーんて、カレの声があまりにも落ち着いていたから、私は本当に信じてみたい気持ちになった。 「今、雪を降らせてみることはできる?」 突拍子もない質問だと思う。我ながら、無邪気な子どもの遊びじゃないんだから、とツッコミを入れたくなる。 でも、それはお門違いだったらしい。 ふいに、頬にあたったのは、白い粉だった。一瞬、本当に雪が降ったのかと思ったが、それは少し特別だった。まるで桜のような、白い花びら。まるで紅葉のような、白い木の葉。思い思いに降りしきるのは、ひんやりとした冷たさを持っていて――。 前を向いた。私は期待していた。カレと目が合うことを。 でも、そこにカレはいなかった。降っていたはずの雪も消えていた。いや、太陽が出ている。ゆだるように熱の上がっていく感覚。遠くのアスファルトから、陽炎が揺らめいている。 きっと、あっというまに溶けてしまったんだ。 なんでもないように、20度超えの初夏を迎え入れ、人々は行進していく。それぞれの日常を、今日も通りすぎるために。 おはよう、と心の中で呟いてみる。悪くない。夏みたいな6月も、夏みたいじゃない6月だって。 ――また来てよ。と言ってみたかった。 干からびたアスファルトの、足元にある水たまりを見ながら。私は一つ、息を吐いた。
きれいな夕陽を見たからって無理に感傷的にならなくっていい あれくらいのことでココロは正しくなんてならないのだ 仕事、ちょっとだけ持ち帰ってしまった、たぶんやらないんだなあ 肉じゃがの残り汁でつくった八宝菜、おいしくできた 少しくらいは食べるほうに気持ちが向くのかな、向くといいけどね 一日一個と決めているアイス、今日はやめにしておく かわりに水ようかんと芋けんぴ、渋いわね私ってば あのころの夏合宿を思い起こさせる麦茶は牛乳で中和して 夏が来るのだなあ 身構えてしまうけど 夏が来るのだなあ 特に準備はしていないけど それでも、夏が来るのだなあ
校則。 どの学校にもある、生徒が守らなければいけないルール。 うちの学校には、変なルールがある。 それは、教室の後ろに置いてあるフラフープに入っている時のみ、校則を無視してもいいというルールだ。 今も、ほら。 学級委員の神崎さんが、パンツが見えそうなほどスカートを短くしている。 フラフープの大きさは、生徒一人分。 頑張れば二人分。 フラフープに入る理由は、色々だ。 神崎さんみたいに、制服を着崩したくなったとか。 食いしん坊の木見さんみたいに、お菓子を食べたくなったとか。 お調子者の久慈くんみたいに、変な踊りをしたくなったとか。 フラフープの中でやったことは、当然皆に見られている。 でも、フラフープの中でやったことは、皆なかったことにしなければならない。 見てみぬふり。 知らぬ存ぜぬ。 「あー、すっきりした」 神崎さんがスカートの丈を戻して、フラフープの外に出た。 自分の席に戻ると、先生が次の問題の解答者に、神崎さんを指名した。 神崎さんは席から立ち上がって、すらすらと正解を口にした。 「正解。さすが神崎さんだ。皆も、神崎さんを見習うように」 「はーい」 照れくさそうにする神崎さん。 ぼくは、そんな神崎さんを見ながら立ち上がり、フラフープの中に入る。 「可愛いー! 好きだー! 神崎さーん!」 神崎さんの肩が、一瞬上下する。 決してこっちは向いてくれない。 神崎さんの彼氏の欅くんは、ふるふると肩を震わせている。 「あー、すっきりした」 ぼくはせいせいした気持ちで、フラフープの外に出た。 フラフープの中でやったことは、皆なかったことにしなければならない。 だから、神崎さんも欅くんも、ぼくに対する態度を変えることはない。 変えられない。 好きだよ、神崎さん。 ずっとずっと、叫び続けるよ。 嫌いだよ、欅くん。 ずっとずっと、叫び続けるよ。 チャイムが鳴る。 授業が終わる。 ぼくは教科書を机に仕舞い、何食わぬ顔で欅くんのところへ向かった。
それから暫く、先生の献身的な看病が続いた。その間、先生と院長以外はみんな下の階のソファに座っていた。お昼ご飯は冷めてしまいそうだが、誰一人として文句を言わず、静かに待っていた。 それにしても、真ん中に私が座っているというのが少々気まずい。 すると、インダが声をあげた。 「どこから来たんだろう」 「藪の中だし、隣町かな」とレイ。 「歩いてきたの?」 インダが呆れて聞き返すと、今度はミミがソファの端から大きな声で言う。 「でも、私たちも歩いて帰ってきたよ?」 すると、リッカも被せて「歩けない距離ではないと思う」と腕を組んだ。そして、続ける。 「理由が分からない」 「孤児だから?」 私が問いかけると、カウルは即座に否定した。 「そんなわけないよ」 「でも、あの服装は」と反論するも、「向こうではよくある」とカウルは冷たい目で言った。 私は黙り込み、その後は話の輪に入るのをやめた。暫く静観することにする。ミミも同じようにソファの端で丸く座っていた。 「顔立ちはこの辺りの感じの子だった」 「確かに。レイとも似てた気がする」 「やめてよ、リッカ」 レイは同じ扱いをされるのを過剰に嫌がった。自分を孤児だと認めたくないのだろうか。私はテーブルにあるお水を口に含んだ。 「別に他意はないよ。同じ町の出身かもー、って思っただけ。気分を害したなら、ごめん」 レイは「いいよ、気にしてない」と言いつつ、頬を膨らませていた。 「じゃあ、あの子はレイのベッドね」 「おい、なんでだよ!」 レイはインダに怒鳴りかかった。それをリッカが制止すると、カウルが「僕だって我慢したんだから」と横槍を入れる。 「あれはお前のベッドが一番新しかったからだろ。その理論ならもう一回カウルのベッドだろ!」 「なんで、やだよ!」 レイとカウルは激しく言い合い、火花を散らした。それを遠くから見るミミと私は目を見合わせて呆然とした顔でいる。 「でも、レイが見つけたんだから、レイが世話しなよ。いっつも虫とか動物を見つけたミミにそういうんだから」 「いや、それとこれとは話が別だって」 レイは無差別に憤慨しているが、手は出さない。大人の対応をしているところを見ると、ここの孤児院は徹底した教育もあるのだろう。躾というやつか。 私は階段の方を見上げた。 静かな二階。 「院長に聞いてみたら?」 全員の視線が私に向く。鋭い目と優しい目が視界に入った。 「ここの絶対権力は院長でしょ? 違うの?」 私はインダに向かって問いかけるが、インダは無言を貫いた。どうして隠すような素振りを? と思っていると、カウルが「院長に聞くなら、リッカに頼まないと」とリッカに視線を誘導する。 「いやだ、そういうのは受けない」 話は振り出しに戻る。 そこへ、先生がバケツを持ってやってきた。 「あの子は大丈夫ですか?」 「ただの栄養失調だと思う。碌なものを食べてないんじゃないかな」 「果物なら搾って流し込めるかも」 「どうだろう、果物で栄養が足りるかどうか」 リッカと先生はあれこれ考え始める。インダはそれを頬杖をついて見ている。静聴の眼差しは本心を穿っているだろうか。 「シチューなら得意じゃん、ママ」 カウルが口を挟むと、「それはカウルが食べたいだけでしょ?」と少し微笑んだ。先生はどっちが本当の顔なのだろう。タンポポみたいだと思った。 栄養が足りていない時、私は過去に「点滴」という治療を受けたことがある。弟に何不自由なく食べてもらおうと自分の食事を我慢していたら、倒れてしまったのだそう。弟はまさかそんな理由で倒れたとは知らず、「間抜けだな」と笑っていた。 私はカウルの嬉しそうな表情を見て、そんなことを思い出していた。 「とにかく、みんなお昼ご飯待っててくれたんでしょ? お昼にしましょう」 先生は私たちをテーブルに導き、一人一人座らせた。もちろん、私はインダの隣、アルバートの席。 リッカはその席に座る私を睨むように見た。細い狐目の奥には怒りが垣間見えた。 不味い昼食になりそうだ。 ミミとレイは昼食を見て、正直に冷めていることを口にしたが、インダやカウルは先生を前に何も言わずにただ「美味しそう」といろんな角度から眺めた。 「それじゃあ、手を合わせて」と言いかけた先生の音頭を遮って声がする。リッカだ。 「院長に昼食持ってってくる」 リッカは席を立つと、自分の昼食を抱えて階段を登って行った。一段ずつわざとのように踏み鳴らす感じに、私は父の面影を見た。 不機嫌になると言葉ではなく、音で示そうとする。それが母の癪に触り、また喧嘩になる。ほとんどが水掛け論だったのを覚えている。子どもながら、ああはならないでおこうと思った。 「変なやつ」 レイが呟く。それをインダが注意する。 私は階段を見つめた。 「仕切り直して、いただきます!」 【つづく】
「この世は顔です。異論は認めません。 顔採用というものは本当にあるみたいですし、顔がかわいかったら鏡を見るだけで気分が上がって全てうまくいくでしょう。 美人も辛いと言いますが、少なくともブスよりは辛くないでしょう。 だってブスに整形したくはないでしょう? 努力は必ず報われるわけがありません。 努力が全て報われるのならば、この世に自殺はあんなにありません。 報われなかった努力はしてないのと一緒です。 だって何の結果も残せなかったのなら、努力した意味がありません。 努力がめられるのは、認められるのはせいぜい学生までです。 女ウケが悪くても男ウケがいい女は生きるのが上手いです。 男と仲良くなれるコミュ力があれば女と仲良くなれるコミュ力も最低限持っているからです。 それと要領がいいです。」 「何言ってるん、るか」 「この世界の真実」 「しぬ」 「しぬな」 「生きる」 「いーやん、でも実際全部これだよな」 「たしかし、反論できんわ」 「やっぱ、るかって天才!」 「私の方が天才」 「それはないわ」 「ありすぎる」 隣の席から女子中学生の会話が聞こえてくる。 この世の真実か、一理あるな。なーんて、賢くもないけど考える。 本当にこれが真実だったら相当生きづらいな。 僕はコーヒーを飲み干して席を立った。
【けれどスイッチをさがす】 どうにも会社の人たちとうまくコミュニケーションをとれない。犬をイッヌと言い、ねこをぬこと言い、自分のことをわいと言う。そんな面妖じみた言葉を巧みにくり出してくる人たちと、戸惑いなく、どう関係を積み重ねていけばいいのだろう。誰にも相談できないまま、いたずらに時計の針だけが進んでいく。それでいいのだと許しているのは、ほかでもない僕自身だ。 エスカレーターの片側はあけるらしいと知った。あけないといけないらしいと知った。そのときは確か右側にいて、僕はゆっくり歩いて登っていた。そのときは、と言ったけれど、たいがい僕は歩いて登っている。駅のホームまでの長い道のりの途中くらい、僕は立ち止まった。前の人が止まっていたから。その先の人も、その先の人も。だから僕もしかたなく止まっていた。けれど止まってほしくない人というのがいて、僕のすぐ後ろにそういう人がいた。声だけの判断では女の人だった。年のころはわからない。その女の人の声は「歩いて進みなさいよ。止まるんなら反対側によりなさい」とやけに荒く言ってきた。どうしていいのかわからずにいると、同じことをまた聞かされることになった。しかたないので「前に人が止まってますから」と半分、振り向いて言うとそれはあっさり消えた。結局、僕はそこに止まったまま上まで運ばれた。振り向くのがなぜか怖く、僕はホームの端っこまで一心に歩いた。なんと言えばよかったのだろう。何が正解だったのだろう。あれから、エスカレーターは避けるようになった。 ・ 約束を破られてしまうには、まず人と約束をしないといけない。僕はそもそも人と約束すらしようとしない。約束を破られることはもちろんないけれど、約束をきっちり守ろうとする人も、守ってもらうことの事実も、そこには何もない。 ・ 仕事ができる人が必ずしも上司としての適性があるとは限らない、と誰もが理解していない現実。 ・ 男から女に対してだけがセクハラじゃない、女から男へのセクハラだって存在するし、なんならたくさんある、でもそれを声高に言うと「男のくせに」とセクハラ発言をお見舞いされてしまう現実。 ・ 油あげとけつねコロッケをたくさん買うとヘンな目で見られるというあたり前のような現実。 ・ 自分の顔は自分の目では直接、見ることはできない。何か道具を使って映してみるか、あるいは他人に伝えてもらうか。映ったものが、誰かが伝えてくれたものが、真実とは限らない。信じるか、信じないか。自分にゆだねられることの恐怖。 ・ 弱っていたり、運気が悪かったりのときというのは、得てして自分にとってよくないものを呼び込んでしまいがち。ひそかに、それはお狐さまにも内緒にしていることだけど、陰ながら応援しているアイドルグループから卒業するメンバーが発表された。それはしかたないことで、でも慣れてくれないのも毎回のこと。 ・ お狐さまに出会ってから書いていた日記らしきものは、文字の数が減っていき、文章の長さが短くなっていく。「植物に水をあげた、よかった」「仕事の帰り、買いものに行けた、よかった」。それすらも書けなくなっていき、真っ白のページが続くようになった。
洗濯物が乾かない。 今日は久し振りに薄曇りなので外に洗濯物を干す。 3日間同じ服を着ていた。 生活が乱れているわけではなく単に洗濯物を毎日していると乾かないからだ。 臭わなければ誰も気にしない。 今年は平年通りくらいの長さの梅雨になりそうだ。 あと20日ほど洗濯物が乾かない日々が続く。 部屋の湿度が80%を越えている。 エアコンを換えてから湿度が下がらなくなってしまった。 扇風機が壊れてしまったので部屋干しの時に風を当てるものがない。 扇風機買わなきゃ。 夏は暑くて嫌になるが洗濯物が乾きやすいのでそこだけは助かる。 もう少し梅雨でそこから本格的な夏が始まる。 なんだか湿気のせいなのか書く文章も普通で湿っぽい。 めんつゆ飲みすぎて血圧上がらないようにしないと。 Men梅雨To You。