私は臨終看護師。仕事は単純だ。 臨終医の後ろをついて歩き、遺族の待つ部屋に入る。 そして、臨終医が「御臨終です」と告げたあと、 目を伏せ、軽く頭を下げる。 これが私の仕事。 そこに、ご遺体への敬意など必要ない。 それで、終わり。 母も看護師だった。 臨終看護師にはなるなと言われた。 なぜなら、それは過酷で、辛い仕事だから。 私は以前、手術室の看護師だった。 しかし、やりがいを見いだせず、異動を申し出た。 今はこの仕事に満足している。 先日、臨終医がペンライトを忘れた。 とっさに彼は胸元から万年筆を取り出し、目の上で振り、ごまかした。 私は気づいていないふりをした。 臨終看護師としてのたしなみだ。 この仕事は女優に似ている。 病室は舞台。 何も書いていないバインダーは小道具。 セリフはなくても、存在感だけで観客 ──ここでは遺族だが──を魅了する。 最近、臨終医をモデルにしたドラマが放送された。 しかし、臨終看護師の姿はなかった。 残念な気持ちはない。 その方がいい。 ある日、目の前で臨終医が倒れた。 私は慌てない。 何もしない。 それが美学だ。 そして彼は、そのまま旅立った。
地蔵を中心に世界が魔術体系化する。 何を言っているのだ。 実際僕の住んでいた土地は練馬のチベットと呼ばれていた。 悪口を書いていると外から外国人さんの声でアーユー?(あなたは?)って言われるので僕も悪口書いている連中とそう変わらないのだろう。 地蔵が最新鋭の土地防衛AIになる。 それは過去からこの土地を守ってきた理論体系なのだがお供え物をすると非常に低コスト高コスパで土地を守ってくれる。 色々な人達がこの土地には集まるのだが夜光ケ丘公園を散歩しているとスポーツ少年がこんばんは!と自警なのか悪戯なのか遊びなのか暇潰しなのかわからないが最新防衛AIを装備して動き回っているので僕もつられてこんばんわ、と言う(元気のいい人にはつられてしまう、と言う何かの法則なのかもしれない) ぜひそのような少年少女達に美味しいご飯をお供えしてほしい。 地蔵少年地蔵少女は未来の練馬の土地を守り遊び回る。
従兄弟は人気者だった。 休み時間になれば、皆と一緒に運動場へと出て行った。 従兄弟は勉強ができた。 授業中に誰も手を挙げられない問題は、全部従兄弟が答えていた。 「お前って、本当に従兄弟と似てないよな」 何度も何度も言われた呪いの言葉。 どうしていつも、前を歩くのか。 どうして一つも、勝てるところがないのか。 いっそズルをしていてくれ。 学校全部を巻き込んで、ぼくを騙していると言ってくて。 そんなことを願い続けた。 学校を卒業して、就職をする。 上京して有名企業に行った従兄弟と、地元の小さな企業に行ったぼく。 東京には悪い人が多いから、東京で悪い人になってくれと願い続けた。 「今度、結婚するんだ。式に来てくれないか?」 「もちろん! 喜んで参加するよ!」 でも、知っていた。 ぼくの願いは、決して叶わない。 だって従兄弟は、こんなぼくにも優しいんだから。 優しそうな奥さんと歩く奥さんを見ていると、怒りと憎悪が煮えたぎってくる。 ずっとぼくに劣等感を抱かせた、嫌いな嫌いな相手なのに。 ぼくは君の何一つを、否定することができないんだから。 「来てくれてありがとうな!」 引き出物のギフトカタログは、駅のゴミ箱に投げ捨てた。 従兄弟からもらった物なんて、目にしたくもない。 欲しい物があるとすれば、従兄弟と二度と会わなくていい権利だ。 空が青い。 人が多い。 このうちの何人が悪人なのだろうか。 どうかお幸せに、大嫌いな従兄弟。 こんな悪人のぼくと友達でいてくれて、本当に本当に嫌いだよ。
黒虫と言う男がいる 朝から雨が降っている 折れた傘が金網に刺さって雨に打たれている 朽ちるまでそこにいるのか レインコートエイリアンズが街を行き交う フードに溜まった水は何に使う 黒虫氏が長い髪を雨に濡らせ歩いてくる 肩をいからせて 両手をポケットにいれて ガニ股に歩く姿は蜘蛛が歩いているようだ 彼は駅に向かっている ボブヘア サングラス 白い肌 赤い口紅 赤いブラジャー 黒いジャケット 赤いヒール 彼女だ、猫のようなあの女 彼女は黒虫氏の向かう先にいる 勿論雨に打たれて 泣きながら朝顔を食べている 赤 紫 青 赤 紫 青 Red Violet Blue 黒虫氏は彼女の髪を鷲掴みにして「あの黒い女は何処だ」と聞く 彼女は答えない 彼女は答えないかわりに掌を彼に突きつける そこには何かが書いてある 雨に滲んでよく見えない 「お前の事は死んでも頭の中にある」 「死んだら恋をするつもりなんだ」
公園のベンチに、男が座っている。 「はぁ……金が」 スマホ画面を親指で弾きながら、ため息をついた。 『高額報酬』 #叩く #運ぶ #埋める 高額報酬に目が止まった。 「これは……」 ボタンをタップした。 「お前が最後だ。早く乗れ」 指定された駅のロータリー。 隅に停まっていた黒のワンボックスに乗り込んだ。 中には、二人の若い男が座っている。 街から、少しずつ離れていく。 民家が消え、アスファルトが砂利に変わった。 「着いたぞ」 運転手の声に、ヘルメットをかぶった大男が近づいてきた。 「いいか、お前ら。今から、そこの穴に入って岩を砕け」 穴の奥深くへ連れて行かれた。 「これ使え」 大男が、ノミと金づちを足元に投げた。 三人は、ヘルメットのライトを頼りに、硬い岩を砕いていく。 狭い穴の中、金づちを叩く音がリズムよく響いた。 「砕いた岩を運んで、向こうの穴に埋めろ」 大男の監視のなか、何日も掘り続けた。 「よし。もういい。終わりだ」 大男が叫んだ。 その声に、男たちが座り込む。 「よく頑張ったな。これ、持ってけ」 渡された封筒には、お金が入っていた。 「あの、ここは何の工事現場ですか?」 「ここは工事現場じゃないぞ」 「なんですか、それ」 「お前らが、悪い道に行かないように……まぁ、リハビリ施設だな」 穴の入口から、あの時の運転手が入ってきた。 「所長。次の三人、連れてきました」
この時期、残業をしていると、学園祭の準備で残っているみたいな感覚におそわれる それで、あのわくわくした時間がずっと続けばいいのに、なんて思いながらも早く終わらせ、とっとと家に帰る 基本的に人のことを信用していないのかもしれない 自分では、そうは思っていないのだけれど 「のの」に言わせると、どうやらそういうことらしい なら、そうなのかもしれないな 「のの」のことは信用しているから そういうことなんだな 学園祭気分がまだ少し残った気持ちのまま家までたどり着く 「秋なんだし何かしてみたら」 と「のの」に言ってみる そうだな、絵でも描くかな 「のの」が言う でも… 「のの」が、絵がへたっぴいなのを、私は知っている
今日も良いことがなかった。白馬の王子様は迎えに来ないし、十二時に解けるような魔法にも、そもそもかかっていなかったらしい。 もしかしたらささいなオマジナイくらいは私にだってあるかもしれないと、ちょっといつもより運のよかった今日、日付けの進むまで起きてみてけれど、特に変わった様子もない。なるほど、電車で隣だった人が格好よかったくらいのことは魔法がなくてもあるという訳だ。 明日は、何か特別なことがあるだろうか。きっといつものようにないだろうけど。 まあ明日になってみたらきっと分かる。
今日は僕も妻もお休みで、一日なにも予定がなく、朝が来ても妻にくっついて横になっていた 妻は時たま起きて「重いよ」と言ったり、「寒い」と言ったりしてまた眠ってしまう 髪が伸びたね ニキビができてる と話しかけたり 肩をもんだり ふくらはぎをもんだりして 寝ている妻で遊んでいる パンケーキ作ろうか? と聞いた時だけ、えっ?ってなって 「おねぇしゃす」 と言われた 僕だけ起きて 台所に行く前に布団をかけ直して、頭を撫でて、顔を洗う 冷蔵庫を開けると牛乳が空だった。 コンビニに買いに行こうと服を着替える 水道の水で寝癖を直して少し水を飲む 妻と出会ったときは、お互い疲れていて、お互いが救いを求めるように寄り添っていた気がする 妻はあの性格だから僕は大変だし 僕もこんな性格だから妻も大変だろう それでも僕らは何とかなってる 今も妻の為に牛乳を買いに行けるほど愛している 少し大げさかもしれないけど。 アイスでも乗せたら美味しいかな 意外とそのままが一番だったりするけどな きっと僕が買い物から帰って来ても寝ているんだろうな 寝ている彼女の口にパンケーキを入れてみようか 一度キスをした後で
「本日、『病み』の原因が悪霊の憑依だと判明いたしました」 衝撃的なニュースが全国にとどろいた。 闇に苦しんでいた俺は、テレビのリモコンを持ったまま固まった。 何年も精神科に通って治らなかった病気が、まさか悪霊の仕業だったとは。 俺の目はテレビにくぎ付けとなって、テレビの続きを食い入るように見つめた。 「では、病まない人間は、悪霊への耐性が強いと?」 「いえ。人間には、悪霊の憑依に対する耐性がありません」 「つまり?」 「病まない人間は、人間に化けた悪霊の可能性が高いということです」 「バレた」 「バレた」 背後で、両親が呟く声が聞こえた。 俺は背後を見ずに立ち上がり、玄関に向かって急いで走った。
空いている席に座る 次の駅で隣に誰かが座る どこの誰だか知らない人と一緒に過ごす 次の駅で降りるにしても 次の駅が三年先だとしたら 僕はこの人のアレやコレやを知ることになりそうだ 人が何処でどうやって出会って別れるかなんか 路線図には書いてなかった 窓の外の景色をすっ飛ばして 電車は終着駅まで走っていく
高知県は眼鏡の真ん中に付いている、鼻パッドに似ている。 実際、妻の眼鏡のパッドが高知県に変わっていた。 そんなイタズラをした息子の鼻には鼻パッドだけが乗っている。 息子曰く、大阪府でも代用が効くらしい。
また一人、落ちていった。 一目惚れという厄介な魔物に飲み込まれ、後先も考えずに飛び込んでいった。 着地をした時、果たして何本の骨が折れているだろうか。 そんなことを考えながら、私は階段を一段下りる。 無数に分岐しながら下へ向かう階段。 私は分岐ごとに立ち止まり、どちらに行くかを吟味する。 私は魔物に食われない。 私はいつだって、調教する側なのだ。
幼馴染の佐藤とは小さな頃から仲良しである。親友と言ってもいい。昔から2人で勉強し、遊ぶ仲である。だが、ある朝の登校時間のことだった。 「田中、顔に水垢付いてるよ!顔洗った時よく拭かなかったんでしょう?おでこのところと鼻の下に見えるよ。」 隣にいる佐藤は言いながら、自分の髪の生え際と鼻を指差している。 「最近知ったんだけど、専用のクレンジングがあってさあ、ガンコな汚れを落としてからワイプで拭くんだよ!毎日洗う顔だからこそ気をつけないと!」 「えっ。顔に水垢って付くの?」と俺が聞くと佐藤は真面目な顔で頷きながら言い出した。 「田中、お前水道水で顔、洗ってるだろ?」 しめしめといった顔で佐藤は言う。俺は近所に住んでいる佐藤と俺の家の水はさして変わりがないだろうと、「佐藤ん家もだろ?」と言った。 「そうだよ、最近俺美肌に凝っててさ。美肌男子目指してるんだ。」 「佐藤、鼻のニキビ跡はどうするつもりなんだ?」 あー、と佐藤は言った。 「いつかパテ埋めするつもりなんだ。」と恥ずかしそうに顔を赤らめて言う。そんな佐藤に「顔の水垢落とし、どこで買える?」と言い、スマホからアマゾネスのアプリで佐藤の言うクレンジングとワイプを即買った。そして1週間経った。 TNKさん ★☆☆☆☆ 顔の水垢を落とそうと爆速で5セット注文しました。顔にニキビが出来て、ワイプが痛いです。クレンジングを洗面台の鏡に使ったら綺麗になりました。ワイプが硬すぎます。 「なあ佐藤、あのワイプでニキビ出来てさ…クレンジングも顔が赤くなるしさ、どうしたらいいかな?」 「使い方を間違ってるんじゃない?ワイプもクレンジングも軽く円を描くように擦ってさ…」と頬に両手で丸く洗う仕草をする。佐藤の顔はいつも通りのニキビ面だ。 「いや、俺、実はムカついて洗面台の鏡に使ってみたんだよ。そうしたら綺麗になってさ。」 「クレンザー使った?10秒クレンザーってやつ。あれすぐ効くよ。というより、今日は小鼻にも水垢溜まってるね。専用のヘラを買ったら?先が丸いヘラでこう、ぐいーっと」 「佐藤、悪いけど聞いていい?普通の洗顔料で顔に水垢がつかない方法を教えて?」
「ん~何か違うな」 演奏の途中でギターの山茶花が「ちょっと止まって」とギターから手を離した 「何が?」 ドラムの金木犀がきく 「…やる気みたいのが感じられないっていうか…俺がやっているもう一つのバンドはこんなもんじゃないのよ。もっと一曲一曲真剣っていうかさ」 山茶花は腰に手を当てながら皆を見ている 「どうして欲しいとかあるんですか?」 ボーカルの桜が落ち着いた声と鋭い瞳で聞いている 「…気持ちが足りないっていうか、皆の熱意みたいなもんが、俺は欲しい。」 桜は金木犀と目を合わせる この夫婦がこのバンドの発起人であるが、経験豊富な山茶花が曲作りや演奏のアドバイスをしていて、実質リーダーとなっている 僕は一番最後に加入したが年齢的には最年長で、何なら気持ちの熱量は少ない。その理由を言うべきか迷っていたが 「朝顔さんはどう思ってますか」 桜がバンドの絆を握ってくれている ボーカルとは、リーダーでなくても、中心人物である事には違いはないのだ。 「僕はこのバンドを趣味でやってるからなぁ…」 間髪入れずに「一服しましょう」と金木犀が言う。彼は山茶花と一緒にスタジオを出る 残された桜と僕は肩をすくめるだけで、特に何も話さない バンドの演奏とは、技術や音、機材の良し悪しよりも、先ずは気持ちを合わせなくては出来ないし、それ無しに演奏することなど、好きでもない奴とセックスするようなものだ。 桜も僕も各自で過ごしているが、山茶花の出方次第では、バンドの解散もあるかもなと思っている。 ガチャリと分厚いスタジオの二重扉が開く 「ごめんごめん。何か俺だけ突っ走ってたね」 山茶花が謝りながら入ってくる。リラックスした笑顔だ。 「そっすよ!山茶花さんのもう一つのバンドが、もうすぐデカいライブが控えているからって、うちらは関係ないですからね」 一緒に帰ってきた金木犀が言葉で突き刺す 「わるいかったてぇ」 ゴメンのポーズを繰り返している 「許さないっす」 桜が追撃する 僕が笑う 「今日の居酒屋代はごちそうさまです」 「ごちそうさまです」 夫婦が息のあったワン・ツーをかます 「ちょ、ちょっと、今月ピンチなんだよぉ」 僕は笑っている 皆も笑っている 【星になる】 この子達の明日は既に本にこう書いてある 「太陽に向かって咲くようになれば誰の目にも明らかになる」と 誰かに寄り添って育っていく 突然の雨もいずれは皆の涙になるんだ 強い真夏の日差しもいずれ君の光となる あの光が何なのか分からないまま おはようとおやすみなさいを瓶に詰めて ありがとうとごめんなさいをたくさん食べて 山になる 雲になる 空になって 星になる 願いを込めた蜘蛛の糸を いくつも束ねて歩いていこう 海が見えたね。船を造ろう 錆びた車の帆を張り替えよう この波がどの街へ延びているか 最初から分かっている いい気分なのは隣に君がいるからなのさ 灯台の灯りが見えたね キラキラして綺麗だな 瞳を閉じてもまだそこにある あの光が何なのか分からないまま おはようとおやすみなさいを瓶に詰めて ありがとうとごめんなさいをたくさん食べて 山になる 雲になる 空になって 星になる
都会の明るい夜に慣れ過ぎて 深夜に散歩することが 習慣みたいになっていた でもやっちゃダメだったんだ 男だからと油断していたんだよ もしもこうなると知っていたら 外なんか出なかったのに その日は盆休みで帰省していた 夜遅くまで両親と酒を酌み交わす 二人は先に寝てしまったけれど 俺はどうにも寝付けなくて 酔い覚ましも兼ねて 深夜散歩に出かけることにした 一歩外に出て玄関を閉めると 辺りは途端に黒の陰影だけになり ポツポツと立ち並ぶ街頭だけが 黒い田んぼ道を照らしていた その光景に少し息を飲んだが スマホのライトを付ければ なんてことはなかった スマホのライトを頼りに歩く もう日付が変わる頃だったので 他に歩いている人はおらず たまに車が横切るだけだった 近づく車の音だけには注意しながら 夜風を感じながら歩く さてそろそろ帰ろうかと 来た道を戻ろうとしたときだった 振り返った先の黒い景色が 揺れているのに気づいた 直接ライトを向けるわけにもいかず 遠くてハッキリとは見えなかったが どうやら人影らしかった ライトも付けずに歩くなんてと思ったが 慣れていればそんなものかとも思えた 人影らしきものが近づくにつれて ライトがその足元を照らしていく サンダルとスカートの端が見える この人とすれ違ったら遠回りして帰ろう そんなことを考えていたときに 気づいた 恐らくは女が手に持っているのが 刃物だということに アルコールなんて吹き飛んで 全身から冷たい汗が吹き出した 呼吸は思わず止めてしまったが しかし足を止めるわけにはいかない 女を刺激しないようにライトを下げて ただただ祈りながら震える足を前に出す 女の足音がどんどん大きくなっていく 女の足元がライトの円の中に入り そうして通り過ぎていった 女の足音が徐々に小さくなっていく 俺はしばらく早歩きで進み続けてから ゆっくりと速度を落とし立ち止まった 辺りはしんと静かになった 俺の足音はもう聞こえない 女の足音も聞こえなかった ずずずと後ろを振り返る 黒い陰は立ち止まって その場でゆらめいていた 女がどちらを向いていたかはわからない だが俺は迷わずまた歩き出していた できるだけ遠くへ行かなければ 静かな夜に俺の足音が響いていく するとそれにもう一つの音が重なっていく 見たくなかったが見るしかなかった 足は止めないまま振り返ると ライトの先ではさっきの女が 小走りで追いかけてくるのが見えた そこからは無我夢中だった とにかく走って走って走りまくった そうして現在地もわからなくなった頃 ふと足を止めると足音が聞こえない 振り返って辺りを照らしたが もうあの女の姿は見当たらなかった まだどこかにいるかもしれない そう考えライトで周囲を照らし 警戒しながら家へと帰ることにした 結局のところ何事もなく 実家へ帰ることができた もしかしたら何かしら 俺の勘違いだったのかもしれない そんな風にすら思いながら 部屋に直行した俺はそのまま ベッドに倒れ込んで眠った 「朝ごはんいらないのー?」 母の声に目が覚めてリビングへと向かう 父はもう仕事へ向かったらしく 母は食器洗いをしていた 用意された朝食をすぐに食べ終えると キッチンに立つ母の元へ皿を運ぶ 「自分で片付けるなんて成長したわねー」 「それ毎年言ってるけどな」 そんな会話を交わしながら皿をシンクへ入れる ちょうどそのとき入れ替わりで 母がシンクから包丁を取り出して洗い始めた
ドロップたちの入ったカンカンをふって しあわせの音を確かめる ドロップたちの入ったカンカンをあけて しあわせをひとつぶ取り出してやる オレンジがいいな イチゴでもいいけど あああ ハッカだったかあ それはそれで しあわせというもの
午前0時。 小高い山の頂に、30人ほどの男女が集まった。 「さぁ、皆さん。始めましょう」 銀色の三角帽子を被った男が、声を上げた。 男女は円を作ると、その中心に男が立った。 「ウィーン、ウィーン、ウィーン」 両手を挙げ、立てた人さし指をクルクルと回した。 「皆さんも、私と同じように」 夜空を見上げ、人さし指を回す。 「声を出して、願いを込めるのです」 「ウィーン、ウィーン、ウィーン」 「もう、すぐそこまで来てますよ」 山頂に、冷たい風が通り抜けた。 地球の遥か上空に、1機のUFOが止まった。 「艦長、呼んでますけど……」 モニターを覗き込んだ。 「そうだね」 「コンタクト取りますか?」 艦長は、苦笑いしながらモニターを消した。 「金貸せって言われてもね」
うちにまた失業者が舞い込んできた。 施設を追い出されて行くところが無いらしい。 食材は買ってこいよ。と言うとパチンコで使っちゃった、病気なんだ、と言う。 まあ僕もニコチン中毒だから強く出られない。 飯風呂洗濯寝る場所を用意する。 行政に頼れないなら宗教行けよ、とアドバイスすると韓国系のキリスト教行こうかな、と言っている。 洗脳されるなよ、と言って奴は暇潰しに外に出ていく。 米が減ってきた、味噌も。 珈琲も減る。 維持に手一杯。 暇なら絵でも描いてろよ、奇特な金持ちが買ってくれるかもだぜ、と言っても描かない(それは僕にも言える) 雨の日の犬はサナトリウムの真似事で暇を潰す。
今日で十六回目です。今抱えている花も、少し背伸びして買った和菓子も、すべてあなたが好きだと言ったものです。 今日で十六回目です。毎年、数えるのをやめようと思いながらも、指折り数えるのをやめられません。 家に帰るまで私は一人で、家に着いたら家族が待っています。唯一の家族が待っています。今日も家に着いたら、真っ先に駆けてきてくれるでしょうか。 この道を通るたび、あなたと過ごした日々を思い出します。長いようで短かった気もします。あなたの笑顔が頭から離れません。他にもたくさんの表情を見せてくれたのでしょう。しかし、どうしても頭から離れないのはあなたの笑顔なのです。毎日見ているからなのでしょうか。毎日通るこの道も、今日だけ淋しい気がします。 家の近くの公園で、子供がかけっこをしています。私たちに子供はおりませんが、おらなくてもよかったなとふと思います。でもあなたは笑顔で、少し淋しそうな雰囲気をまといながら、「そんなことはないよ」と言うでしょう。きっとそうでしょう。 玄関前を掃除しているお隣さんと目が合います。「今年もこの日が来ましたか」静かにそういうと、私の目を見ずに家に戻ります。私は、毎年ありがとうございますとお隣さんの背中をぼうっと眺めます。私がふたつ深呼吸をして、庭に植えられた金木犀の香りを楽しんでいる間に、お隣さんは家から出ていて、「これ、あの人に」そう言うとあなたの好きなどら焼きをくれました。ありがとうございますと会釈をすると、それ以上言葉を交わすことはなく家へと戻りました。 ただいまと玄関を開け、中に入ると何かが駆けてくる音が聴こえます。私は花と菓子を一度床に置いて待ちます。ワン、と吠えた私の愛犬はそのまま胸に飛び込んできました。何度か撫でると満足したのか部屋の奥へと戻ってゆきます。花と菓子を持ち、靴を脱いでそのままリビングルームへと入ります。机に荷物を置き、手を洗い、再び花と菓子を持ったままあなたを探します。といっても、もうあなたの居場所はわかっています。 一つ隣の和室へ入ると、ただいま。そう言って今年もあなたの笑顔に、花と菓子を贈るのです。
雨が降り街が黒くなる 雀たちが電線に止まっている 彼らは飛んでいる時、雨の雫が目に入らないのか 入っても気にならないのか この黒い街をどう思っているのか 焦げた匂いに振り向くと、見渡す限り焼け野原で、焼けた焦げた街に雨が降り続いている。 瓦礫に立つ一人の男は街の様子を目に焼き付けていた 彼の脳裏には、逃げ惑う人の海や、一人泣き叫ぶ供の様子、傷付き倒れる仲間の姿等がダイジェストの様に流れていく 彼は雨に濡れながら自分の手を見る 息子からもらった折り紙のメダルが雨に濡れ血で汚れている 「全力で戦ったんだけど…」 「どうにもいかなくて…」 「頑張ったんだけど…」 「守れなくて…」 今回の戦いで彼は仲間と家族を失った ウルトラマンは時を戻し、街を、人を元に戻すことが出来る。 たが彼の心は癒せない 目の前で握り潰される大切な人達を見て、彼は自分を責め続けるだろう 雨に打たれて体をさらして 彼は自分の手を見ている 雨が彼に寄り添っている
未来の望遠鏡で宇宙を観測していたら 最近近付いてきた銀河系に気になる惑星を発見した その星では生命がいて、動物もいる 猫に似たその動物に興味を持って観察していた 大人しい性格のようで争いもなく、日々勤勉に働いている 仕草も猫に似て可愛い そこは、とても平和な星に見えた 僕はいてもたってもいられなくなって 事故車だった中古の宇宙船を買って、その星まで行くことにした 大したトラブルもなく到着し、星に降り立つと観察していた通り素敵なところだった。 街並みや自然が美しく、何よりこの星の住民達が友好的に迎えてくれた 僕が観察していた猫に似た人を探すことにした 街にはサイに似た人やフクロウに似た人、象に似た人や、鳩に似た人など沢山いて、僕が「猫に似た人を探している」と聞いても「ちょっと猫が分からないです」と言われるだけで。 でも見つけたんだ。町外れの丘に小さいけど素敵な家の窓辺に彼女はいて、隣には犬に似た人がいた。 せっかくワープの川を乗り継いで何万光年の道を飛ばして、ここまで来たんだ。お話しくらいしないと、って思ったんだけど、小さな猫と犬の子供たちが帰って来て、家族が楽しそうに話していて。 そりゃあ、帰るしかないよね。 僕のいる星はあの星なりに迷いながら間違えながらで何とか平和を作っている。僕も帰って僕の出来ることをしないと。 僕は中古の宇宙船に乗ってまた宇宙へ飛び立つ それにしても、別れ際、皆集まっちゃって、何だかセレモニーとか開いてくれちゃって、本当にお人好しの人達ばかりの星だった 僕も手を振って「ありがとう!さようなら!」何て言っちゃって。船に乗り込む際に、彼女が見に来ていて、手を振ってくれていた。皆と一緒に。 僕が手を振り替えしたのは気が付いたかな。分かるわけないかな。 そろそろ川の中に入る。シートベルトを閉めて、少し休もうかな。あの子の家の庭先で摘んできた萩に似た花でも眺めながら。
「このウイルスは、人間のIQを3も下げるのだ。ワクチンを討って対処すべきだ!」 「所詮、3っすよね?」 あまりの言い分に、私は頭を抱えた。 IQが下がるという事実がどれほど大きなことか、果たしてどうやれば理解させることができるのだろうか。 「無理でしょ」 仲間の研究者は、そんな私の悩みを一笑に付した。 「例えば、感染すると腕一本無くなりますって言われると、みんな頑張りますよ。だって、腕一本がなくなるとどんな不便が起こるか、わかりやすいから」 「その通りだ」 「でも例えば、小指一本無くなりますって言われると、首を傾げる人も出てきます。絶対に小指を使わないといけない作業というのをイメージできないから。コップを持つ時もペンを持つ時も、小指は添えているだけですからね」 「確かに添えているだけだが……うーむ」 仲間の研究者は、小指をピンと立てたままコーヒーを入れ始め、私の前にコーヒーカップを置いた。 「どうぞ」 「どうも」 「IQってのは、さらに難しい。俺たちは、何の作業にどのくらいのIQが必要かなんて、意識してませんからね。本を読むには何IQ必要? アニメを見るには何IQ必要? 誰も答えられません」 「IQは、そのようにカウントするものではないのだが」 「そー。だからこそ、理解させるのが難しいんですよ。複雑であればあるほど、理解できる人は減ってきます」 「困ったなあ」 コーヒーの苦みが、私の脳を侵食してくる。 諦めろと言わんばかりに、侵食してくる。 そして、目の前の仲間の研究者は、どうやらコーヒーの味方らしい。 「逆を考えれば、IQが下がることの危険性がわからない人は、日常生活で高いIQを必要とする作業をしてないってことですよ。3下がろうが6下がろうか、支障はないですよ。今まで通り、馬鹿なこと言ってるだけで」 「……その言い方は、あまりにもではないか?」 「目の前に人がいたら、言い方は気を付けますよ。でもここは、数字と事実を並べるだけの場所なんで」 空っぽになったコーヒーカップは、仲間の研究者によって回収されていった。 水道水の流れる音を聞きながら、私は私の考えが間違っているのかと、自問を繰り返した。
郊外の小さなアパート。 母親と男の子が暮らしている。 「これ、たくさん作ったの」 隣に住む年配の女性が、夕飯の余りを持ってきた。 「いつもありがとうございます」 中身を見ずに、冷蔵庫へ入れた。 男の子が、母親を見上げる。 「保育園、行こうか」 ヘルメットをかぶせ、後ろに座らせた。 「おはようございます」 「先生、おはようございます」 「これ、どうぞ」 保育士が、一枚の紙を差し出した。 「申請すると、町から支援金が出ますよ」 「いつもありがとうございます」 母親は折りたたんだ紙をカバンに入れ、自転車をこいだ。 「係長、おはようございます」 「子どもさん、大丈夫? 必要ならシフト調整するからね」 「いつもありがとうございます」 小さく頭を下げた。 ──その日の夜。 子どもを寝かせると、冷蔵庫からビールを取り出した。 「別に、そんな困ってないし……」 一気に飲み干し、もらった余りを箸で突いた。 「今日は何回……」 苦笑いで、電子タバコをくわえた。
綺麗な花にはトゲがある、とは言われるが、体感的にトゲより持ち主がいることの方が多い気がする。 一目惚れをして、彼女のことを目と耳で追っていると、必ず聞くのが彼氏とのデート話だ。 昨日彼氏と行ってきてさ、なんて話を耳にした瞬間、ぼくの片想いは終わってしまう。 「イイ女ってのは、男が放っておかないもんだ」 親友が胸を張ってそう言う。 「そんなもんだよなあ」 「ああ。もちろん、俺みたいなイイ男も、女が放っておかないわけだが」 「自慢乙」 道端に生えている花を好きになれればと、いつも思う。 しかし、好きになるのはいつだって摘まれた花。 綺麗な花瓶に入った花か、白いブーケにまとめられた花ばかりだ。 「別にいいんだぜ? 花瓶の花を一本抜いても。本物の花ならともかく、人間相手なら自由だ」 「んな無茶苦茶な」 「本気も本気だぞ。道端に生えている花は誰もが物欲しそうに見つめてるけど、花瓶に入った花は誰もが諦めててライバルが少ない。持ち主をワンパンケーオーすればおしまいよ!」 「……脳筋」 ある日の散歩中。 人混みの中に、ひと際輝く女を見かけた。 目を奪われた次の瞬間、隣に立つ男に気づいた。 腕を組んで、仲睦まじい様子だ。 ふと、親友の言葉を思い出す。 これを倒せば、この美しい人が手に入るのかもしれないと。 距離がどんどんと近づいて行って、男の姿がはっきりと見えてくる。 優しそうな顔。 清潔感のある服。 彼女にあわせているのだろう、小さな歩幅。 ぼくは二人とすれ違う瞬間、気が付けば顔を背けていた。 この花を花瓶から抜いた時、果たして花はその美しさを失ってしまうのではないか。 そう思って。 すれ違った後、服屋の窓に、ぼくの全身が映っているのに気づいた。 ダサい柄の花瓶で、とてもさっきの花を刺そうという気は起きなかった。
息子には「後は、気持ちを込めるしかない」と、よく言う事がある。 何か、あと一歩、あと一押しが必要な時に、よくそう思う。 例えば、バスケのスリーポイントシュートの練習をしていたとする。していたことないが。息子が何十本投げても入らない。そんな時に右の言葉を伝える ポケモンを捕まえる時、モンスターボールを投げる時、どうしても捕まらない、うまく当たらない時に、それを言う。 人の心なんて分かるはずもないが、ただ、何となく、気持ちは伝わるものだし、気持ちが足らない集中力を湧き起こす気がしている。 ただ、あまりにも言い過ぎて息子から言われる事もある。
乾麺になるまでの間だって激動な人生(麦生?)だったのに、茹で上がったあとに包装されて、出荷されて、買われて、戸棚で一休みがあって、また、熱々の湯の中で柔らかくされて、それだけでもヘトヘトなのに、まさか、流されるとは思ってもないだろうに 素麺を最初に流した奴はいったいどんな気持ちで流していたのか それを箸で食い止めて、自分の丼に移して食う。そして、同じ箸でまた素麺川の中に浸ける どうしたんだ。何かあったのか? その素麺が流れる竹は、使い回しか?洗ったのか? その水はどこの水なんだ? 鍋で茹でた素麺を自分の分だけ取り分けてテーブルで食べては駄目だったのか? こうは言っているが、実際やったら楽しいだろうに。 素麺じゃなくてもいいだろう。ラーメンとか、餃子とか、おでん、カレー、シチュー… いっその事、野球部のボールがポーンと出るマシーンを借りてきて、おにぎりを飛ばして口でキャッチするのはどうだろう。 寿司は無理でも太巻きなら何とかなるか パンもいける 口に入れた瞬間、ジャリジャリと音が鳴りそうだけど
最近読んだ雑誌で書いてあったが カミュ曰く「最も貧しい者こそが世界が与えてくれる快楽を一滴も残さずに深く享受する能力を賦与されている特権者なのだ」という言葉が、今の自分はよく分かる気がする 何かを買ったり、何かを口に入れたりすることがなくなってくると、些細な事に感動し楽しみ喜びを覚える 家族間の会話も増えるし、一つの状況を解決するのに家族間で考え解決していく、そんな大したことのない事が貧困にならないと出来ない 何かを得ることよりも後回しにしてしまいまい、ひたすら誤魔化しを作り上げていく。 昔から口癖のように言っているが、今を大切にする。それが繋がり幸せな人生となる。大切にするのは今だけでいいのだ。今を楽しめない奴は過去も未来も楽しめない。 簡単で当たり前のことだが、苦しまなければ見つからない
かすかにきこえてくる 幻想的な音の連なり どこかで奏でられる 楽器の音色 なんという楽器かしら 教えてくれない? 問いかけには 応じてくれなくて いいのよ 気にせずお続けなさい 窓際のハーブは外を向いて 耳を傾ける あなたならわかる? ハーブからも返事はない いいのよ それで
オレンジの太陽が光っている 雨戸で閉め切った部屋にオレンジの太陽が一つ光っている サタンやネプチューンはどこかで回っているのか知らないが、部屋に一人きりのぼくはオレンジの太陽に救われる 片隅で光る四角いパンドラの箱には、まだカオスが入っていて見たいものも見たくないものも一緒に閉じ込めてくれている。パスワードの鍵をして。 瞼を閉じるとあの人の声がする 何かを言っているけど聞き取れない 目を開けるとオレンジの太陽が光っている
まだ見えない まだ見えないが、そこにあるのは分かっている 頭が悪い俺だって流石に大切な物がどこにあるかなんて分かるよ 周りの意見や世間の目なんかじゃ測れない物もあるんだ あと、大切な物が、俺にとって大切な物が、どこにあるか分かっていたとしても、それを手に入れるか、ほっぽらかすかは俺が決める。 自由でいたいのさ。そうだろ?皆そうさ 今はまだ見えない。見たくない
ねこを撫でると 泣いてしまう 自分がそうされたかったから でもあんまりされてこなかったから なのかもしれない ねこを撫でると 泣いてしまう ふわふわの毛でおおわれていることに うらやましくなって なのかもしれない ねこを撫でると 泣いてしまう ねこが悲しい顔をするから なのかもしれない でも それは わたしのことを 想ってくれたから だったらいいな
花を持っていた。遺体が花を持っていた。周りには、それ以外、なにもなかった。 花は揺れていた。唇は渇いていた。心は萎れていた。 言葉をかけようと思ったけど、やめた。もうキミは死んでいた。それが事実で。それしかないんだ。 ただ、祈った。それでもと、祈った。 さようなら、と嘆いた。足跡だけがのこって。花は、まだ揺れていた。
ある日の夕暮れ。 僕は思いついたことがある。 さっそく、友達に打ち明けてみた。 「どうしたの?」 僕の覇気に気圧されながら、彼女は言った。 「思いついたことがあって」 「?」 「僕は神なのかもしれないし、そうじゃないのかもしない」 会話を続ける 「世界は自分を中心に回っている。だから僕は神なのかもしれない」 「それはみんなそうなんじゃないの?」 「そう返されると神じゃないのかも」 彼女は言った 「いいね。主体的で」
「本日は、お時間をとっていただき、ありがとうございます」 「いえ、こちらこそ。このような貴重な機会を頂き、感謝します」 シンデレラは我々に丁寧なお辞儀をした後、椅子に座った。 スタッフが普段使いする事務椅子だったが、なんということでしょう。 シンデレラが座ると、まるで玉座のような華々しささえ感じられます。 我々は緊張しながらシンデレラにマイクを付け、対面へと座った。 「まず、お名前をお願いします」 「シンデレラ、と申します。和名では、灰かぶり姫とも呼ばれていますが」 「日本でも、シンデレラという呼び方が一般的です。ですので、インタビュー中は、シンデレラとお呼びさせていただいても?」 「構いません」 まるで鈴のように透き通る言葉。 一言躱すたびに、スタッフの胸は思わずときめいてしまっていた。 「それで、お話したいこととは」 「はい。シンデレラ体重についてです」 しかし、シンデレラが本題を切り出した瞬間、場の空気が変わった。 物腰柔らかな話し方は変わらないというのに、どこか迫力のある雰囲気が、シンデレラの全身から発せられていた。 「シンデレラ体重、ですか」 「ええ。日本の女性の皆様は、綺麗になるためにシンデレラ体重を目指していると伺いまして」 「そうですね。皆、シンデレラの美しさに憧れて、シンデレラみたいになりたいと」 「はっきり言って不愉快です」 いつの間にか、シンデレラは真顔になっていた。 シンデレラにときめいていた胸もすっかり静まり、スタッフの緊張感が高まる。 瞳の奥底には強い怒りが感じられ、スタッフの喉がからからに渇いていく。 「不愉快……ですか」 「ええ。シンデレラ体重は、BMIが十八と伺いました。それは、美しくなる体重ではなく、不健康になる体重です」 「それは、まあ、確かに」 「そもそも私が細かったのは、美容を意識していたからではなく、継母たちにいじめられ、ご飯をろくに食べられなかったからです。苦しい状況の中で痩せてしまった体型を、美しくなる体重ともてはやすなど、言語道断です!」 シンデレラは声を荒げた。 我々スタッフ陣は、何も言い返すことができなかった。 本場のシンデレラ体重の人からアドバイスをもらえるかも、などとインタビュー前に話していたスタッフは、すっかり部屋の隅で縮こまっていた。 「確かに。配慮が足りませんでした」 「私が言いたかったのは、それだけです。シンデレラ体重を素敵な物ともてはやし、若者たちが誤った行動をしない様に、しっかりと注意をしてください」 やや険悪な雰囲気のまま、インタビューは終了した。 しかし、さすがはシンデレラ。 インタビューが終わると、先程とは打って変わって、優しく気品あふれる姿を振りまいていた。 「ありがとうございました」 スタッフ全員に丁寧なあいさつをし、部屋を出て行った。 ふくよかな背中は、シンデレラが幸せに生きているのだろうことを、我々に教えてくれた。
俺は、最新の情報が好きだ。 巷では、紙という石板より薄っぺらい道具が流行っているらしい。 乗るしかない、このビッグウェーブに。 「という訳で、石板買ってきた。最近流行りの紙について、説明が書いてあるらしい」 俺の背負っている石板を見て、妹は驚き、顔を伏せた。 妹の手元には、石板より薄っぺらい道具があった。 「なんで紙を知るのに、石板を買ってくるのよ。そこは、紙の説明を書いた紙を買うべきでしょ」 「あるぇえ?」 その後、俺の買ってきた石板は、玄関のオブジェクトとして飾られている。 「ほほう! これが紙! 軽くて便利だな!」 俺は妹の持っている紙で、紙の勉強を始めた。
大きな霊園の近くに住んでるとか言ってた気がしたな。誰だったか忘れたけど有名な人のお墓もあるとか。「ウチに来れば案内してあげるよ。遠慮せずいらっしゃい」そう笑顔で話す先生に、私たちは苦笑いを浮かべるだけだった。その先生も大きな霊園のどこかで眠っているのかもしれない。「まだそこまで老いぼれていないぞ」またあのときみたいに、怒られてしまいそうだ。
君が小学校教諭に向いていて僕が養護教諭に向いている。 君は万能、僕は落ちこぼれ。 何かの因果。 あるいは君はスーパーウーマン。 僕は地下鉄のロビンフッド。 恋は何歳からでも出来ると言うが僕は筋肉注射を切り身体を回復させるのに精一杯。 あなたは私にとってのナイチンゲールなのね、と君は言う。 あるいは追い詰められると掃除をし出す僕はそうなのかもしれない。 衛生学。 看護も手一杯。 民間の闇医者に知り合いが欲しい。 眠れるようになれば寿命は10年くれてやる。 能力のブースト。 精神力。 煙草が欠かせないのはヒロポンが無いからだ。 脳の分析。 酒。 理数的能力。 機能。 愛。