梅の花

 たまに、(自分はちゃんと生きられているのか)と不安になる。勿論、ちゃんとなんか生きられてはいないのだが、そうではなく、そういう事ではなく、人として、大人として、親として、夫として、最低限の行動が出来ているのかと不安になる。  法に触れることはしていない。いや、たまに信号無視や、横断歩道を渡らない、女性が泣いていても声をかけない、なんて事はたまにある。が、無闇矢鱈に自分の不機嫌を外に出さないとか、挨拶をするとか、愛想笑いをするとか。日々、少しでも、善良に生きる事を実行しているのかと自分に問いかけてしまう。そんな日がある。    街を歩いていると、肩で風を切って歩く若者を見たりするが、彼が一生あのままでいられないことを私は知っている。彼が結婚し子供を持つ頃にはもう少し普通になっている。また、自分を変えられないのなら、家族から弾き出されるだけである。もう少し言えば、町内からも弾き出される。妻や子供を持てば自分という存在は家族というチームの中の一人になる。周りはそんな目で彼を見て、自分達の過去と比較し、正常か異常かを判断するのだ。  誰でも若いうちは世間に対して自分のズレは気が付かない。社会に放り出され莫大な情報に圧倒されるからだ。転生と言っても良いほどに。だがラジオのチューナーが徐々に合わさり声が明瞭になるように、歳を重ねれば重ねるほど世界が見えてくる。自分の足元から延びている光の道が見えてくる。  近所の道路脇にさりげなく梅が咲いている。ほのかに良い香りが記憶に残る。通りをスクーターが孵化しながら通っていく。ハンドルを細かく捻り、ガゾリンを非効率に爆発させ、大きな音を自分の威厳と同化して楽しんでいる。何十年も前から変わらぬ作業だ。そして梅もおそらく何千年も前から変わらぬ作業で花を咲かせるのであろう。    私も梅のようにさりげなく咲き、ほのかに良い記憶を残していきたい。

似合わない

スモッグも ランドセルも 今の私には似合わない この制服も カバンも 4月から急に なんてならないけど 少しずつ 似合わなくなっちゃうんだろうな それでも あなたには 似合うように 似合うままでいられるように 生きていきたいな

クレカで完結する世界

 電車に乗るには、クレジットカード。  自動販売機でジュースを買うには、クレジットカード。  コンビニでご飯を買うには、クレジットカード。    色んなキャッシュレス決済の方法が駆逐され、今ではクレジットカード一択だ。  現金なんて、もはやコレクターの産物。    しかし、クレジットカードには欠点がある。  未成年は作ることができないことだ。  親が家族カードを作ってくれなければ、私はクレジットカードを持つことができない。   「遊びに行こー! 隣の駅集合で!」 「オッケー!」    だから私は、何もできない。  電車に乗ることができないから、友達と遊びに行くこともできやしない。   「ねえ、私もクレジットカード欲しい」 「まだ早いよ」    ねえ、お父さん。  ねえ、お母さん。  もう、お父さんとお母さんが子供だった時代じゃないんだよ。   「はい、お小遣い」    こんな現金貰ったって、おはじきか折り紙にしか使えないんだよ。

私の敵 (掌編詩小説)

自意識過剰な事ではあるのだが 過剰な期待を裏切ってしまいそうで怖い 『他人の期待になんか、聞かなきゃ良い』 って、思うでしょう?私も思う。でも、 過剰な期待の中に、他人からの50%の期待と 自分が無意識に上乗せした過剰な30%の期待 があるように感じる この30%を鎮める事ができたら恐怖を拭い切れると思う そもそも、この数字は相手からの期待値じゃない 自分が勝手に付けた、付加価値的な負担… 丁寧に分析してみると私の一番の敵は『私』 だと言うことが解る きっと貴方の一番の敵も『貴方』自身ではありませんか? 恐怖心を鎮める事ができるのは、他者理解よりも先に自身の特性の理解だと思う (完)

データ系細胞分裂

 人間の細胞は、絶えず変わり続けているらしい。  そして、七年でほとんどすべての細胞が入れ替わる。    ほとんどすべての細胞が入れ替わるなら別人じゃないかと思うけど、私の意識は連続しているので、そう単純な話でもないらしい。  実際、周りの人も私が誰かわからなくなったりはしない。   「SNSの名前とアイコン変更っと」    なら、きっとSNSでも同じこと。  ドットをほとんど全部入れ替えたけど、皆私を見つけてくれるはずだ。  垂れ流した投稿は変わらない。  私という中の人は変わらない。   『誰かと思ったw』    さっそく、私が私として認識された。

My Sweet Lord

 鼻がむずむずする。何かが詰まっている感覚がある。くしゃみが出そうだ。ティッシュペーパーを口にあてがって、くしゃみをした。鼻から何かが飛び出た。ティッシュペーパーを広げて見てみると、そこには、小さな信号機があった。ちかちかと赤信号が点滅している。根元にはちぎれた配線がくっついている。「あ、信号機だ」そう思った直後、頭の中に、自動車が衝突するような音が、大音量で響いた。「あ、事故だ」そう思った直後、鼻の孔から、大量の血が流れ出てきた。今の事故で犠牲者が出たらしい。慌てて信号機を鼻の孔に突っ込んだが、痛いだけだった。

明日から 今日から

山積みの段ボールに囲まれ、時間を惜しむように慌ただしく引越しの準備をしていたら、どこに眠っていたのか古い手紙が舞い落ちた。小学生のときの私が、未来の自分に宛てたものだった。 「大人になっても夢を忘れないでね」 すっかり忘れていた自分からのメッセージに、言葉を返せない。 丸っこくって、ふざけたようなその字に、でも、希望は満ちている。それがあまりにも輝いて見え、目を背けてしまう。 ごめんね、夢なんてとっくにさあ… その言葉を飲み込み、少しばかり夢を追いかけてみるか。あのころの自分が、まだ少しはいるだろうか。 明日から… ううん、今日から。

L-O-V-E

 真冬の夜のコンビニである。レジ横でおでんの鍋が湯気を立てている。一人のお婆さんが店に入ってくる。見すぼらしいお婆さんだ。不安そうな表情を浮かべている。「いらっしゃいませ」若いバイト店員がお婆さんに気づき、無表情で言う。お婆さんはおでんの鍋の前に立つ。「あの、すみませんが……」お婆さんがそう店員に声をかけると、店員は無表情のまま、おでんの鍋にお玉を突っ込む。そして鍋の底から何かをすくい上げる。それは人間の頭蓋骨である。「うちの人はうまくやっていますでしょうか……」この頭蓋骨はお婆さんの亡夫の頭蓋骨だ。無表情だった店員はお婆さんに向かってにっこり微笑み、頷く。お婆さんは安心した表情を浮かべ、深々と頭を下げると、玉子と大根を買って、コンビニを出ていく。外では雪が降り始めた。

帰り道、君と

「あのさ、サキ。俺のどこが好きなの?」  相変わらずぶっきらぼうな隆太の横顔が、夕日に照らされている。  人気のない田舎の駅で、私と隆太は帰りの列車を待っていた。初夏の風が二人の背中をなぞる。  ……何を言っているんだろうか、この馬鹿は。 「三日前に振った女に対しての質問とは思えないのだけど」  隆太は鞄を右手で持ち直して、空いた左手をポケットに突っ込む。 「どうしても、聞いてみたくなって」  隆太の顔は真剣だった。  私は、精一杯、意味がわからないという表情を浮かべる。しかし隆太は向かいのホームを見つめたまま、少しも私のほうを向いてくれない。  ローファーのつま先で地面をコツコツと叩く。 「か、顔とか……」  そう呟いて横目で隆太の反応をみてみるが、眉一つだって動かない。表情筋の動かし方を知らないのだろう。ああ、本当に馬鹿。  隆太は不満そうな顔で答える。 「嘘はつかなくていいから」  嘘なんてついてませんが。誤魔化しはしたけれど。  私はどう返答したらよいか悩む。  仲の良い友人と恋バナをすると、隆太の好きなところを聞かれることがある。しかし、自信を持って答えられないため、毎回適当に返事してしまう。顔も、性格も、声も好きだけれど、その質問の答えとしては不正解だと思う。  何気ない日常に隆太がいてくれるのが嬉しい。だから、強いて挙げるなら、二人の時間が好きなところだろう。 「今みたいな、帰り道が好きだよ」  私はそう答えてみる。  目の前を通り過ぎる轟音。快速列車が通りすぎるまで続く少しの沈黙。通り過ぎても隆太は口を噤んだままだった。 「なんてね」  私は、何かを誤魔化すように愛想笑いをする。  再び訪れた沈黙。耐えきれなくなった私は、話題を変えようと必死に頭を回転させる。しかし、出てくる言葉はどれもつまらないものばかり。だから、一度捨てた言葉を拾って隆太にぶつけてみる。八つ当たり。 「やっぱり、隆太のことが好き、みたい」 「……そう」  隆太は勝手に満足したようで、頭をわさわさと振って、線路の続いている先を覗き込む。  何処から吹いてきたのだろうか。今度はまるで私だけを狙うみたいに冷たい風が背中をなでた。  隆太の好きな人は一つ上の先輩らしい。部活のマネージャーだと、照れた顔で呟く隆太の顔を思い出す。  私の知らない人。  私の知らないところで、私の知らない隆太が好きになった人。  あの日に置いてきた感情が戻ってきたのだろうか。どうでもいいことを考えたせいで、泣きそうになる。それでも、隆太に涙を見せるのはなんだか悔しいので、茜色の空を見上げて耐える。  どこか遠くで踏切の音が鳴った。  心の奥から溢れてくる感情に名前はあるのだろうか。  私は隆太の横顔を見ようとする。だけど、首が動かなかった。  私たちの乗る普通列車が到着するまで、あと十分。  二人だけの帰り道。  それで十分幸せだと、自分に言い聞かせてみた。

ピンクのお湯が与えた希望

暗中模索の4つの島にピンクの湯の温泉が出た 湯に浸かると心底癒され恐怖心、疑念達が一瞬 消えた気がした神が与えし湯泉は震えし者救い 温める慈悲と為り現実が動かない日々に一筋の 希望を魅せた瞬間妄想現実から目覚めた小さな 幸せと感謝の心は理不尽な世界を変えると軽く 信じたい良い事だけ動く現実を願いながら完

死々舞

 真っ赤な顔した獅子の頭に、風呂敷に似た濃い緑の服。  獅子舞が口をあければ子供は頭を差し出して、がぶりと噛まれる。   (このまま、首ごと食いちぎってくれたらいいのに)    後ろで喜んでいる両親には、決して言えない本音を思う。    歩く獅子舞の足の下では、蟻が潰され、息絶えていた。  こんなにも身近に、死がある世界。  弱肉強食の世界。    人間だけが、科学という強者の武器に守られて、弱者さえも生き残ってしまう歪。  噛まれる食われるを祭りのように持て囃す歪。    いつだって歪が見えるし、いつだってそんな目ん玉をくり抜いて捨てたかった。   「よかったねー」 「これで一年、健康になれるよ」    ぼくをいつまで子ども扱いするのか、過保護な両親が頭を撫でる。   「さ、帰ってご飯の支度しなくちゃ。今夜はお肉にしましょうか」    そして無邪気に、弱肉強食の強側にいるはずの獣を、いともたやすくくらう宣言をするのだ。

 朝の電車に乗っていた。隣の座席に、若者が座っていた。若者はヘッドホンをつけていた。かすかにそのヘッドホンから音が聞こえてくる。音漏れだ。それは音楽ではなくて声だった。「……」耳を澄ます。「……あなたは正しい……あなたは正しい……あなたは正しい……」その声はそう言っていた。若者は目を閉じて、軽く首を動かしていた。「あなたは正しい……あなたは正しい……あなたは正しい……」それを聴いているうちにだんんだん「あなたは正しい…あなたは正しい……あなたは正しい……」自信が出てきた。電車が駅で停まった。若者に会釈をして電車を降りた。若者はにやりと笑った。駅を出て、会社に向かう。上司の顔を思い浮かべながら、鞄の中に包丁があるのをもう一度確かめた。

縄文の森のスーパーで

 元カノと会う。 縄文のビルから仕事帰りに縄文のスーパーに寄る彼女は忙しそうだ。 龍脈の走る土地。 偶然にも地下鉄が延伸する場所は彼女の故郷。 何か示し合わせたような仕組み。 湧き水を汲んで喉を潤していた時代からずっと。 でも移り気な僕は優柔不断。 狩人になれれば彼女にお肉を持っていけるのに。 この土地に住んで43年。 アフリカから来たあの人や東ヨーロッパから来たあの子も狩りや編み物をして暮らす。 皆たどり着く土地。 知り合いがビルで水耕栽培をするらしい。 猪小屋、鶏、畑。 飛脚のおじさんも農業を手伝っているらしい。 江戸時代の独身男の蕎麦。 湿地帯のメガロポリス。 お地蔵さんも日向ぼっこする。 色んな時代が錯綜して廻る世界。 世界が終わる前に世界を取り戻したい。 終末を予言する牧師さん。 西の都に憧れてそこから来たインディアンのような人と連絡を取る。 狸も狐も馬も皆それぞれに暮らす。 焼き八つ橋を食べる。 ミステリー・サークルを作る少年は人生の1週目だ。 イギリス人のような彼は王朝をさらりとかわしフランス人のような僕を横目に玉遊びに興じる。 フィッシュアンドチップスを食べている女の人はいい匂いがする。 蛮性と協調性。 科学エンジニアは海外向けの思考をもって論じる。 僕は百済とロシアの血を使ってそれを解析する。 同じ血を持った彼女は外資系の彼氏さんを射止めてメガロポリスで女子会をする。 文系物理屋の僕は変な髪型でブツブツ言いながら自転車を漕ぐ。 世界の縮図を参考文献にしながらAIと心で分析し解析する。 今日も中動態でいられただろうか?

科学特捜隊は僕を放って野球をする

 下町の野球場。 ウルトラマンに憧れた少年は1打数1安打1打点。 昔学童クラブでマットに挟まれたことを思い出した。 その腹いせに同級生の女の子に一生消えない傷を残した。 そりゃ殴られる。 富士山からの頂上決戦。 マグマを携えたリングに観客は唸る。 六本木の怒号は皆の総意かもしれない。 力士に喧嘩を売っても勝てるわけがない。 僕は善戦マン。 リングガールは子供思いだ。 君に託す、と言われた。 痛みに弱いのは何とかならないだろうか。 きっと皆痛いのだ。 僕は普通を装って別の意味で痛くなってる。 普通の人間にしか出来ないこと。 拳で殴ったら相手も痛いんだ。 親父に殴られとけば良かった。 左肘を脱臼したことがある。 どのくらいの痛さだったか思い出せない。 神奈川の外国人達は今日もどこかで遊んでいるだろうか? サモアの怪人が虫の声を聴く。 モンゴルから来た人が教えを説く。 丈夫さと強さ。 何でか知らないが真逆の僕は家で明晰夢を見る。 黒こげになった後原子から構成される夢だ。 皆の夢。 世界中から達人が集まる。 答えは出ない。 僕は実況席のあいつと解説のあいつに揶揄されながらフラフラになる。 ショーだから楽しく観て貰えればいい。 虎と牛は今日もすれ違う。 ノリきれない日々。 僕をディスった人だって毎日タコ殴りにされていたんだろう。 幕内力士の名を受け継いだあの娘は犬の世話をする。 ヤンキーが蛇行運転する。 光の戦士は今日もどこかで街を守っている。

友達を叩いて渡る

 友達ができたら、試すことがある。  耐久力だ。   「ほんと、馬鹿だよな」    日常会話の中に、少しずつ否定を混ぜる。   「またデブになったんじゃねえの?」    未来の自分が失言しても、縁が切られないかを確認するために。   「ダッサ。俺なら恥ずかしくて死んでるわ」    叩いて、叩いて、確かめる。    大抵、皆離れていくが、望むところ。  親友になる前に縁が切れれば、自分の傷も浅くて済む。  親友になった後に縁が切れることほど、辛いことはない。   「初めまして」 「初めまして」    今日もまた、一人と知り合う。  俺は心の中で、かなづちを振り上げる。

家にいるナニモシナイ

 夜がやってくる。 知り合いから出掛けないことを罵倒されメールをブロックされる。 身体の調子が悪い。 昔のお坊さんが体調はもうほっとけい、と言っていた。 仏のほっとけ。 禅は煙草吸っちゃ駄目らしい。 プカプカ吸う。 あの娘が言いたいことを説明したら「はい」と言われる。 読めるようで読めない。 モテるんだね、と言われるが入水自殺はしない。 そもそも人と会わない。 オカマバーに行きたい。 ゲイバーでもいい。 でも1人が好き。 話が出来なくなってくる。 この前認知症の症状が出た。 糖尿の疑いもある。 かつて死んでいった文豪達は何を考えて最後を迎えたのだろう? 弱くても良かった。 今日は歌を歌った。 拍手された。 まだ認知されている。 必要なものを届け終わったら。 その時は復活できるのだろうか?

耳は二つ、聞くは一つ

「そういえばさー」 「それ聞いて思い出したんだけどさー」    三人での会話が苦手だ。  右の耳から一人の言葉が入って来ている時、左の耳からもう一人の言葉が被って入ってくると、もう何を言っているかわからない。  耳は二つ存在しているはずなのに、とんだポンコツ具合だ。   「どう思う?」 「あ、ごめん。聞いてなかった」    ノイズが終わると、必ず私に話が振られる。  しかし、聞き取れていない私は、悪いとも思ってないのにごめんと謝る。   「また別の子と考えてたんでしょー。不思議ちゃんだなあ」    結果、不名誉なあだ名をつけられた。  怒るのも疲れるので受け入れた。    私からすれば、不思議ちゃんは周りの方だ。  一人が話しているなら、話し終わるまで待つべきだ。  学校の授業だって、手を上げた人間が発言して、その人の発言が終わるまでみんな静かに聞いていたじゃあないか。    当たり前に他人の言葉に被せてきて、どちらの言葉も当たり前に聞き取る皆こそ、不思議ちゃんで超人だ。  私と違う耳を持っているに違いない。   「あ、そろそろ帰んないと」 「だねー。続きはDMでー」    解散するとホッとする。  文章なら、二つ同時に来ても、二つ別々に読むことができる。  聞き取れない、なんてことはない。   『そういえばさー』 『それ聞いて思い出したんだけどさー』    入力して、送信。   『わたし的にはさー』    今の時代に生まれてよかったと、心から思う。  飛鳥時代になんて生まれていたら、私は聖徳太子から馬鹿にされていただろう。

アライグマ技能検定試験

友里は洗い終えたコップを入念に見返した。コーヒーの汚れは取れている。スポンジを使ったかのようだ。これで二級の合格は間違いないだろう。難関は一級だ。フライパンの油汚れを手だけで洗い落とさなくてはならない。アライグマ技能検定試験まで、あと二日。乾き切らない手を有里は再び、水に漬けた。

青に透いて

 青に透ける、微かな光の粒を見つめる。その先に残っているのは今でも未来の話でも無く、ただ過去に残してきただけの拙い君の命。 「ねえ、これ、綺麗」  青く透き通った石のようなものが無造作に詰め込まれた瓶に、君の手がそっと触れていた。 「それは、お菓子かな。砂糖の塊、みたいな」 「これが、お菓子?……とっても綺麗ね」  まるで珍しい宝石でも見つけたかのように、君は夢中になってその青い世界を覗いていた。 「じゃあこれ、あなたに買ってあげる!」 「……うん、ありがとう。大事にするよ」  そんな目も眩むようないつかの会話を、思い出していた。  あのときの君のように、僕は未だその透き通る世界に夢中でいる。その先に、もう君なんていないのに。  ベッドの上の君が最期に手渡した、君が遺したそれは。まるで呪いのように僕の心にしがみついて離れない。 「遅くなってしまってごめんなさい。これ、あなたに渡したくて」  そんなことを言って、渡してくれなくても良かったのに。  あのときの、小さくなったいのちが未だ鮮明に脳裏に焼き付いている。死の淵に立ちながらも、彼女が何かを遺したかったのは本当に僕だったんだろうか。 「こんな物……」  ひんやりしていて気持ちが良い、その表面に指を滑らせる。 「綺麗すぎて、僕にはもったいないな」    言葉をひとつ吐き捨てて、僕はその塊を口元へと移した。

夢の残骸

目を開けると白い光が視界を包んだ。心臓の辺りにはあの水晶のような透明に光る破片が居座り続けている。静かで柔らかい空気を纏った処置室で、藍銅鉱の少年になった僕は鯨と対話をして、甘い光の欠片を食べて、また星の話の続きを語った。明日も昨日もなくて、自分と空気の境界が溶けては戻って、形が変わって、また治してもらう。そんな時間が楽しくて、いつまでそこにいたのだろう。現実というものが残酷ならば、夢というものは救いなのだろうか。それとも、あまりにも美しくて、現実を手放したくなる夢のほうがもっと残酷なのだろうか。 それならば、 僕を、置いていかないでほしい。 まだ残り続けている水晶の破片にそう願った。

少し旅して

首筋にあたる風のツンとした尖りがとれて春の訪れ 日差しもどことなく白っぽく、柔らかな光のトーン 夕方になっても明るい空 季節が確実に動いたことの実感 街も重たい灰色からパステルカラーへと コッ コッ コッ 春の音にも似た軽やかな靴音 駅のポスターも春らしくピンク色 「行かなきゃ」とのゆるい義務感すら花粉症とともに手放して 暖かい部屋で「あそこもいいな、こっちもよさげ」 妄想だけをふくらますひとり旅 パリの路地裏 カリブの青い海 いちごを手にするあの子の横顔 春一番にスカートひらり 冬が終わったんだ、との実感 予定になんて縛られない 頭のなかだけで世界をまわる ちょっといい紅茶をいれて ベッドの上から旅をしない春をあえて楽しむ 眠い… そんな思いに、春を感じて、少し旅して…

怪獣があらわれる街✕雨の日に傘を持って

雨は続く 一度暖かくなった気温も今週に入り真冬に戻ってしまった。 人々はコートを着ている人もいれば、トレーナーですましている人もいる。 そして雨の日が続く。 先月は乾燥と晴れ続きで、火事やダムの貯水量のニュースが多かったが、この雨で解消されるだろう。 傘を持つ手に雫が伝う。 カモメはウルトラマンである。 カモメは今、息子を待っている。 そろそろ下校時刻になるので通学路のスーパーで息子が通るのを待っている。 今日は、妻の母親が白内障の手術を終え、退院する日なのでカモメは家族でお迎えに行くことになった。 下校途中の息子をつかまえ、先に病院に行っている妻と妻の母親を迎えに行く予定なのだ。 古いアスファルトの歩道は灰色の空を映す水たまりが散らばっている。 歩道は下校している子供達で賑わっている。皆、楽しそうに歩いている。信号のない交差点をどんどん進んでいくので危なくてしょうがない。 息子の姿を探す。いた!子供たちの行列の中で友達と三人並んで歩いている。息子は口がきけないから、騒いではなかったが、 楽しそうに、 三人そろって何か話しながら、 その中にうちの息子が赤い傘をさして、歩いている。 息子が僕に気が付くと、少し笑って、軽く手を振る。僕も傘を上げて答える。 冬の冷たい雨が服を濡らしていく 風に乗った雨が横から吹いてくる。 子供たちの明るい声がカモメの心に響く。息子の小さな手がカモメの手を握る。カモメはこの幸せを守っている。

百点止まり

「すごいわね。また百点よ」    返ってきたテスト用紙に、もう感動することはなくなった。  なにせ、テストは百点までしかない。  どれだけ速く解こうが、どれだけ丁寧な字で解こうが、百点なのだ。   「百点なので、今回のお小遣いは一万円でーす」    だから、もうお小遣いが上がることはない。  取れて当たり前の百点。  絶対にとれない百一点。    もはや今、勉強を頑張ろうなんてモチベーションはなくなった。       「うちの子、昔は神童って呼ばれてたんですよ」    子供の頃のことを、両親は今でも懐かしそうに話す。  百点満点だった神童は、点数上限のない世界に放り出された瞬間、ただの凡人へと成り下がった。    テレビに映る、輝かしい経歴の持ち主たちを見るたび思う。  彼らはどうやって、百一点をとってきたのか。  彼らはどうやって、百一点をとる方法を見つけたのか。    もはや、考えても意味のないことなのだが。    一度きりの人生で、百一点をとるタイミングを、とっくに見逃してしまったのだから。

からっぽの絶望

 午前二時三十七分。僕が一日の中で一番絶望する時間帯だ。今すぐ寝て明日に備えるか、今日を粘り続けるか。どちらにしても僕は無意味な時間を過ごす。明日はバイトの時間を逆算してぎりぎりまでベッドの上で毛布にしがみついているだろうし、今日を続けても十秒後には忘れてしまうような画面を見続けてしまう。  午前二時四十一分。何もできなかった今日に絶望し、最悪のスタートをきる明日に絶望する。

本当の多様性

少し前有った戯けたYouTubeCMはAHLS云々P 共感性同意を馬鹿にする様な人間の醜いやり方 何故人は自分の許容範囲しか受け入れ無いのか 多文化他国家外国人の差別と偏見はこれからの 日本世界或いは地球に至る意味迄持つ如く変化 して行く世情が顕にする平和が歪み戦火へ移行 する恐ろしい脳内意識感情の現れ不浄な群れを 構造弱者を侮る人間界の弱肉強食は争い好きな 人間達を如実に現してるだろう今の世界に最も 必要な感情は共感性同意の様な他者を自分事と 思える穏和な叡知感情かも知れない

ラヴ・マシーン

 粗大ゴミの日、ゴミ置き場に、電子レンジが置かれていた。ボロボロの電子レンジだ。ずいぶん使い込まれている。捨てられても仕方ないだろう。その電子レンジをよく見ると、ハートマークのボタンがあった。ああ、この電子レンジは、愛を温められるタイプのものか。ハートマークのボタンは塗装が剥げていた。きっと何度も、何度も、愛を温め直したのだろう。俺は別れた元妻のことを思い出した。確か、この電子レンジが新発売として話題になっていた頃だ。俺たちの生活は行き詰っていた。俺は仕事がなく、妻は俺の知らない若い男を愛していた。俺は妻を愛そうと思っていた。だから冷めてしまった愛情を、その電子レンジで温め直そうとした。そのことを妻に言うと、妻は「いらないよ」と言った。「私たちにはもったいないよ」俺はその言葉の意味がよくわからなかった。妻に反対されたので、電子レンジは買わなかった。結局その数ヶ月後、俺たちは離婚した。そんなことを思い出しながら、俺は目の前の粗大ゴミの電子レンジを見つめた。そして、塗装の剥がれたハートマークのボタンにそっと触れた。「誰かを愛したい」そう強く思った。

Show Must Go On

 テレビをつけた。ニュース番組が流れていた。ニュースキャスターが頭を下げて、ニュース原稿を読み始めた。彼の後ろに、巨大な器具が映っている。ピントがずれているのでぼんやりとした姿しかわからないが、それを見て私は安心した。それは、最近のニュース番組に導入された、ニュースキャスターに涙を流させるために、ニュースキャスターを痛めつける器具だ。「悲しいニュースが紹介された後、ニュースキャスターが泣かないのはおかしい」という意見が視聴者から寄せられたために、導入された器具だ。私はじっとテレビを観ていた。悲しいニュースがなかなか読まれない。いらいらしてきた。すると「三歳児が……」ああ、やっと悲しいニュースだ。ニュースキャスターは淡々と原稿を読んでいく。背後でスタッフが器具をいじり始めた。すぐにニュースキャスターが痛めつけられて、そうしたら彼は涙を流すだろう。わくわくしていた。ニュースキャスターが原稿を読み終えた。背後のスタッフが器具を彼の傍に運んできた。いよいよだ。ところが、ニュースキャスターはそれを片手で制した。そして、スーツのポケットから目薬を取り出し、それをおもむろにさした。彼の目から涙のように目薬が流れてきた。彼はその様子をしばらくカメラに見せると、ハンカチでそれを拭い、次のニュースを読み始めた。私はテレビを消した。いらいらしていた。スマホを取り出して、SNSのアプリを起動した。

サービス大国にて

 引っ越した先の小さな町を、ある午後、散歩していた。路地をいくつか抜けた所に、ふいに、鳥居を見つけた。良い雰囲気だったので、立ち寄ってみた。石段を昇った先に小さな神社があった。古い神社だった。ぼろぼろの賽銭箱が置かれている。その賽銭箱をよく見ると、側面にトイレットペーパーが取り付けられていた。何だろう、これ。考えていると、ふと背後に気配を感じた。振り返ると、少し離れた場所に、光る人がいた。それは『光る人』としか形容できない存在だった。全身ぴかぴかと光を放っている、人間の形をしたものが立っていた。それは俺に会釈をした。俺も会釈を返した。光る人は、まっすぐ神社に向かって歩いていった。そして本殿に一礼すると、おもむろに、賽銭箱の上に登り、そしてしゃがみ込んだ。つまり、賽銭箱の上で、和式トイレを使う時の体勢になったのだ。それから光る人は軽いうめき声をあげた。力んだのだ。すると、光る人のお尻から、ぼたぼたと何かが出てきて、賽銭箱の中に次々と落ちていった。それは、無数の硬貨だった。様々な金額の硬貨だった。ちゃりんちゃりんちゃりん、ちゃりん。やがて光る人はぶるっと身を震わせ、次の瞬間、硬貨は止んだ。光る人は賽銭箱から降りた。そしてそのままこちらに戻ってきて、再び会釈をして去っていった。残された俺は、賽銭箱の側面のトイレットペーパーを見た。「結局使わないのかよ」と思った。

腕時計 (掌編詩小説)

腕時計が無くても、時間はわかる それでも腕時計を身に付ける浪漫がここにある この身で時間を受け止めよう (完)

生きて。

素晴らしい。そう思える世の中はいつかは来るのだろうか。今生きることに、辛く、日々壁ばかり。今の自分は正しい位置で間違えずに道を歩いていられているのだろうか。歪んだ地盤の上をビクビクと歩いている自分を想像すると、悲しいけれど腑に落ちる。  23歳、誕生日。前夜。 目が開かない、頭が重い、早く横になりたい。そう思いながらどこかの輩が線路に立ち往生したおかげで、遅延に遅延を重ねた京浜東北線桜木町行きの電車の中で僕は吊り革につかまっていた。 目がないんじゃないかと思えるくらいに、ワシワシと我が道を作り、お気に入りの立ち位置へと我を誘う、しがれたオヤジ。それを睨む20代前半の女性。大きく開かれた道へ今度は俺が、と図々しさの塊で出来たかのような30代前半サラリーマンの3人衆。落ち着く暇もなく押し寄せてくる衝人波。カオスとはこのことか。眠く開かない目、重たすぎて上に新生児があぐらをかいているんじゃないかと思えるほどの頭で、ふと思った。「もうどうでもいい」 やっとの思いで家に着いたのはそれから2時間後。普段は1時間もかからないのに、、眠気によって自律神経を乱された僕の頭は苛立ちと意味のわからない不安、救いようのないほどのやるせなさで満たされていた。 このままでいいのだろうか。小さな頃、誰もが思い描いただろう。「ピアニストになる!」「野球選手になる!」「サッカー選手になる!」「学者になる!」。 大層大きな夢を抱き、何者にも縛られず、常にこの世の中の中心にいるとさえ考えながら生きたあの頃に戻りたい。最近はこんなスピリチュアルなことを考えることでしか、今を生きられずにいる。 このままではダメだ!絶対に大物になってお金をいーーっぱい稼いで最高の人生を送るんだ!そうやってポジティブな未来を想像しながら友と語らいあったのは、果たしてどれほど前になるだろうか。 人間は、この地球という、いわば動物たちにとっての楽園を、その欲のひしめくままに自分たちだけの物、自分たちが一番住みやすいものとして扱うため、愚かにもその与えられた恵みを同族のためそのまた未来のために使い続けてきた。もし動物たちに理性があれば人間ほど恨めしい存在はいないだろう。 その果てしないようで一瞬の時間をかけて人間はたった今、満員電車のなかで苦しみながら明日を生きることに必死に、もはや生きる希望すら抱けない人を生み出す社会を作った。 ただ言うまでもないが、それと同時にありえないほどに、もはや快適すぎるほどの暮らしを作り上げている。 なぜなんだろう。これほどまでに快適で生きやすい世の中なはずなのに、皮肉にも自分たちの作り上げた世界によって、苦しみを生み出し、果てには自死を選んでしまうのは。 かと言って、そこまで全てに関して重く、責任感を持ち、考えにふけ、行動に移せるほど強くもない自分だ、自死という恐怖には打ち勝てない。 この世にいることさえ約82億3199万人には知られていない。 なんてザマだ。残酷だ。それでも僕は生きる。この苦しみからいつか抜け出せることを信じて。

煙草が美味しくなくなってきた

 他の依存先を探したい。 でも依存するだけじゃ駄目だ。 何かを与えないと。 力。 愛。 笑顔。 辛気臭い思考でまとわりつく人達の日常。 打破したい。 しかしそれにも与えなければならない。

毎夜と庭にやってくる一羽の鴉を、少年はたいそう可愛がっていた。漆黒の羽が、夜の闇に溶け込んだ姿が幻想的で好きだった。やがて少年は都心へと移り住み、鴉は姿を見せなくなった。数年後のある朝、道端でゴミを漁る鴉と、少年は目が合った。近寄って来る鴉に、少年は酷く恐怖を覚えた。

春の告白

桜が咲いた日、私は後輩に呼び出された。 春になった日、私は先輩を呼び出しました。 そこにいくと顔を赤らめた後輩がいた。 先輩が来たとき私の顔は真っ赤だったでしょう。 「好きです」 後輩が私に向かって言い放った。 私は先輩を見て、言いました。 「ありがとう」 私はその“好き”を友達としてだと解釈して言った。 先輩はそう言いました。勘違いをされている気がします。 「何としての好きだと思いますか?」 突然の後輩の質問にびっくりした。 勇気を出して先輩に尋ねました。 「友達としてでしょ」 私は当然のことのようにそう返した。 私は先輩の発言に泣きそうになりました。 「違います」 後輩の目が本気だった。じゃあ“好き”というのはどんな意味だろう。 もう一度、勇気を出して言いました。先輩か私が男の子だったら、こんな説明しなくて済んだのでしょうか。 私と後輩の間になんとも言えない空気が流れた。これはいわゆる気まずい空気。 私と先輩の間に微妙な空気が流れました。気まずいってやつでしょうか。 「ごめんなさい、忘れてください」 後輩はそう言った。俯いた顔を覗き込むと今にも泣きそうな顔をしていた。 諦めてそう言いました。涙を隠すために下を向きましたが、先輩にバレてしまったようです。 「私も、好きだよ」 私は後輩に勇気を出して言った。この“好き”は友達としてじゃない。 先輩は言いました。きっと今のは私と同じ意味の好き”です。 春になった日、私に青春ができた。 桜が咲いた日、私に恋人ができました。

さてと

まだ引っ越しがすんだとはいえない新居での初日。 家具の届いていないガランとした部屋。 自分の居場所としては不完全な空っぽの空間。 新しい部屋で最初にやってみたかったこと。 最低限の荷物と一緒にバッグに詰め込んだケトルとマグカップ。 インスタントコーヒーの瓶を開けると、ふっと安心が香り、落ち着かせてくれる。 テーブルもない部屋。 フローリングに直にカップを置く。 冷たい床が熱を吸い、みるみるあたたかくなっていく。 一口含んで、苦味とともに「今日からここで」との実感が… 窓の外には、まだ見慣れない街の風景。 工場の煙突。 やけに高いビルとそこそこの建物と。 はじめて目にする大きな看板は、なんの店なのか。 それにしても、山が、やけに遠い。 静かな街に、はじまりの気配は、まだ聞こえてなくて。 桜の花が地面に降り落ちる音さえも聞こえてきそう。 部屋に広がるコーヒーの香りが、無機質な空気を「自分の居場所」に書きかえていく。 「さてと」 あえて言葉にしてみる。 何かが変わった手ごたえはないけれど、何かは変わっているのだろう。 履きなれた靴で、新しい街にくり出す。 食材をそろえられるスーパーと、小さくてもいいから本屋くらいは見つけておきたい。 怖さも、わくわくもない街に、これからすべり込んでいく。

若者のすべて

 清掃業のアルバイトをしている。清掃場所は地獄だ。同僚は天国に行っているが、俺は地獄の清掃の方が好きだ。今日は空気清浄機のフィルターを交換した。フィルターがびっしり黒く汚れている。その汚れをよく見ると、それはおびただしい数の『たすけて』という文字だった。フィルターを洗いながらにやにや笑ってしまった。助けてほしいのはこっちだよ。

東京ブギウギ

 電車に乗っていた。吊革につかまって立っていた。隣に、おっさんの腕があった。やはり吊革につかまっている。その腕に、文字が書かれていた。『焼肉用』そう書かれていた。おっさんは駅で降りていった。飲食店街が有名な駅だ。数日後、そのおっさんを再び電車で見かけた。片腕がなくなっていた。俺はそれを見てほっとした。おっさんは残った片腕で、しきりに脇腹を撫でていた。今度は脇腹にあの文字が書かれているのだろうと直感した。俺はおっさんと同じ駅で降りることにした。

見上げてごらん夜の星を

 神様が俺の家に遊びに来た。神様はおしゃれなコートを着ていた。それをハンガーに架ける時、見たことのない場所にポケットが付いていることに気付いた。「何このポケット」「星入れるポケット」中を見てみた。キラキラした粉状の何かが付いていた。「もしかしてこれ、星屑?」「ううん、違うよ」ポケットから甘い匂いが漂ってきた。星屑だと思ったそれは、粉砂糖だった。「何を入れてたの?」「ドーナツ」「どうして?」「星より美味しいから」神様は寝てしまった。夜空を見上げた。無数の星が輝いていた。

高み見物の使者達

皆権限を与えられ其れ為り金や名誉有る者達は 下にいる者達の立場孤独、貧困冴え朝の挨拶位 多分思え無いかも知れないそりゃそうだ間近で 見た物しか分かる筈等無いのだから国王気取り 誰でも一度や二度堕ちた経験の無い者達に上の 任務は犠牲者を出すだけだろうこの理不尽且つ 非情な世界が語る物は崩壊破滅に消滅全部消え 元の更地に戻り其処から犠牲者と言う華が咲く 哀れな定めの華達に恵みの雨は降るのだろうか