この薄暗い部屋に閉じ込められて、一月が経った。部屋の中は質素な造りだが、ベッドは意外にも上質なマットレスで、シャワーとトイレも完備してあり、生活するには申し分ない。食事は野菜などの彩は無いが、三食差し入れられる。 堪えがたいことは、娯楽が少ないことだ。テレビやパソコンが無いのは勿論、所持していたスマートフォンも取り上げられている。何故かカバーを外された本だけは差し入れられるが、異常な状況では読む気力も湧かない。言わば、生きる楽しみを見いだせない空間。 犯人はわかっている。目の前にいる女だ。 「どうしてこんなことをするんだ」 鉄格子の向こうにそう詰問すれば、女はいつも困った様な表情をするばかりだった。 彼女のかつての交際相手に相談を受けたのが、出会いのきっかけだった。曰く、彼女は相手に尽くすタイプの女性で、しかしそれに際限が無い。ノイローゼになった彼が逃げ出し、身近にいた自分が次の寄生先として選ばれた。 意外にも彼女との生活は悪くはなかった。容姿は華美ではなく、常に地味な服装だったが、むしろ奥ゆかしく好感が持てる。流行の話題には疎いが、古文や歴史に造詣が深く、博識深い。聞いていた異常性を置いておけば、所謂大和撫子そのものだったのだ。 うまくいっていたはずだった。この場所に監禁されるまでは。 あの日は雪が降っていた。寒さに身を震わせ、数か月後に来る春を思い、道すがら在原業平や西行が詠んだ句について語った。 「和歌に詠まれる桜は、どうしてこうも魅力的なんだろう」 「昔は、今よりも目に入る色が少なかったですから、桜の初心な色ですら、貴重な彩、だったのでしょう」 「成程。そもそも現代とは環境が異なるか。僕もいつか全身で感激するような桜を見てみたいものだ」 「ええ、そうですね」 そんな些細な夢も語って、彼女も微笑んでいたというのに。 当夜、勧められるまま深酒をしてその後の記憶がない。目が覚めたらこの部屋にいた。初めは激昂して、それから諭すように、ある時は懇願に近い声色で、どんな言葉で尋ねても、彼女の答えは無いか、曖昧なものばかりだった。 彼女は、僕の思いを試しているのか? 監禁という行為が生み出す歪んだ関係性。被害者からの依存性を期待しているのだろうか。彼女の目的は、ただこうして廃れていく僕を、籠の外から眺めて居たいだけなのかもしれない。 薄暗い部屋で、食事と睡眠の数を数え、もう二月も経った。ひたすら薄暗闇の日々が続いたのだ。段々と、自分の中の何かがすり減っていくのを感じる。 「なあ、今日でもう二月だ。あんたはいつまでこんなことをするつもりなんだ?」 辛うじて、まだ忘れていなかった声と言葉で問いかける。どうせ返事は無い。宛てのない言葉は、壁の中に消えていってしまうのだろう。ただの独白だ。 そう自嘲しながらも、久々にあの困った顔つきを拝んでやろうと、俯いていた顔を上げた。彼女の唇が動いた。 「あと、二週間、くらい?」 食い下がるべきだったろうが、驚き、言葉が出ない。明確に期限を口にしたのはこれが初めてだった。彼女に何の変化があったのか。 その日を皮切りに、彼女は、毎日私の言葉に返事をするようになった。 「もうちょっと、今日は、まだ」 「まだ早いの、だめ」 「きょ、今日は、雨が降ったから」 ある日、聞きなれない金属音と共に、いつもとは異なる微妙な風の流れを感じた。ひた、ひた、と足音が近づく。顔を上げると、鉄格子の向こうの彼女が傍にいた。 「あの、これ」 差し出されたものは、黒いアイマスクだった。付けろというのだろうか。視線で問いかけても、困った表情をするだけだから、望まれるままに装着した。手を引かれ、立ち上がる様促される。僕は彼女のするまま、素直に従った。 「どこに向かっているんだ」 答えのないまま、歩いた。あの仄暗闇から解放されるのならば、どこでもいい。僕はあの薄暗い部屋を出たのだ。 途中から、足の裏に感じていたものが、コンクリートよりも柔らかい感触に変わった。風にのって、土と草の匂いがする。 「取ります、ね」 もう随分歩いたと疲労を感じ始めた頃、ふと立ち止まって彼女は言った。 髪が巻き込まれ頭皮が引っ張られたが、些細な問題だった。 流れ込む光の束に、すぐには目を開けなかった。ゆっくりと瞼の裏に馴染ませ、恐る恐る開いていく。 色の洪水だった。失くしていた色、求めていた色、知っていたはずのものが、未知のものに見えた。背丈を優に超える幹は、大地の色を吸い込んでいる。風に舞い散る花びらには、一枚一枚色があった。全て、異なる色なのだ。 言葉にならない僕に、彼女は嬉しそうに笑った。久しぶりに見た笑顔だ。僕は、彼女が僕を閉じ込めた理由を悟った。後はただ、手を握り締めて、桜を眺めた。
都心の貸会議室に、スーツ姿の男たちが集まった。 「だいたい揃いましたね」 司会の声に、それぞれが椅子を引いた。 「では、始めたいと思います」 「すみません」 資料を見ていた男が手を上げた。 「これって……?」 「はい。今日はテレビ中継と、球団のイメージ戦略についての会議です」 小さな笑いが起こる。 「局側が、もう少しドラマが欲しいと……」 「どういうことですか?」 「今年は、なかなか難しいそうです」 ため息と、資料をめくる音が続いた。 ──ガチャン。 「いました」 額の汗を拭いながら、スカウトが入ってきた。 「母親がパートを掛け持ちして、五人の子どもを育ててます。その長男ですね」 「いいじゃない。で、野球の実力はどう?」 「まぁ、何とかなるでしょう」 「局には、この子で時間をつないでもらうとして……」 すると、腕を組んで座っていた年配のスカウトが手を上げた。 「こういう子はいいね」 その言葉を合図に、スタッフが抽選箱を机に置いた。
「課長、明日、休みを頂きたいのですが」 「どうしたの? 珍しいね」 「はい。急用ができまして」 男が、机を挟んで頭を下げた。 「じゃあ、引き継ぎお願いね」 「ご迷惑をおかけします」 ──次の日。 男は、集合場所に急いだ。 長靴を履き、スコップを握る。 「お兄ちゃん、ありがとね」 「いえ。大変だったでしょ」 「水がここまできたのよ」 年寄りの女が、柱を指した。 「泥がひどいですね」 「ボランティアさんが来てくれて、助かるわ」 男は、部屋の泥をかきだした。 額の汗を拭いながら、辺りを見回す。 「ここ、テレビとか来ました?」 「昨日、隣町にきてたわね」 「……そうですか」
あざやかな青いシャツを着た人に、人知れず欲情してしまうのは、たんに青が好きなのを通り越し、もはや性癖といってもいいかもしれません。海のみえるこの土地に住むようになったのは、ですから必然ということもできます。ですが、考えていたほどには海は青い姿をみせてくれません。ここはあまりにも、灰色の空であることが多すぎます。沈んだ色の海の悲しさは、まったくもって不憫です。わたしが、ではなく、海が。 朝、最初に部屋に入ってくるのは、波の音です。最初、というのは、正確ではありません。波は、いつでもその音をきかせているのですから。最初、ではなく、つねに。 「ねえ、波の音よ」 わたしの言葉に、男は、 「なんでそんなに楽しそうなの?」 波の音なんてききあきた、そういうことなのでしょう。うんざりしたように言葉を絞り出してきました。四六時中きこえているものへの反応としては、それが本来なのかもしれません。 わかってないのね。その日のお天気がわかるのよ。波の音でね。 相変わらずわたしたちときたら、微塵もかみ合っていなくて。やっぱり、別れたほうがいいのでしょうね。澄みわたる青い空の日にだって、別れを決意する朝はあるのです。
僕が生まれるずっと前からいる 狩りの時も 戦の時も 戦争の時も 彼らは平和を運び続けていたのに 僕らはそれに見向きもしなかった
世界には、偽物が溢れている。 ビールを名乗る発泡酒。 煙草を名乗る電子煙草。 お金を名乗る電子マネー。 どいつもこいつも偽物だ。 見ているだけでうんざりとしてくる。 しかし、偽物は偽物なりに便利なので、ついつい使ってしまう自分もいる。 「お支払いは?」 「カトチャンPayで」 スマートフォンに表示されたバーコードが、バーコードリーダーによって読み取られる。 スマートフォンに表示されていたお金を名乗る数字が、一瞬で減って、別の数字へと切り替わる。 これで、偽物のお金が引き渡されたわけだ。 「ありがとうございましたー」 買い物袋を持って、コンビニを後にする。 店を出れば、改造バイクが音を出しながら右から左へ走っていった。 本物を破壊した、偽物バイク。 どいつもこいつも偽物だ。 見ているだけでうんざりとしてくる。 しかし、世界にはあまりにも偽物が多すぎた。 便利を求めて、格好良さを求めて、本物が駆逐されているような気分さえしてくる。 アパートへ戻る帰宅道。 イヤホンを付けて、スマートフォンからニュースを流す。 『今年の合計特殊出生率は、二・〇を超えました。そのうちの半分が、細胞から作り出した培養人間であり』 いつか、本物の人間もいなくなるのだろうか。 それとも、性行為という穢れを介さなければ人間を作ることさえできない俺たちが、偽物の人間だったと言われる日が来るのか。 「しょーもな」 頭の中がぐちゃぐちゃになってきたので、俺は流す物を、ニュースから音楽へと切り替えた。
ある日の夕暮れ。 僕は思いついたことがある。 さっそく、友達に打ち明けてみた。 「どうしたの?」 僕の覇気に気圧されながら、彼女は言った。 「思いついたことがあって」 「?」 「僕は神なのかもしれないし、そうじゃないのかもしない」 会話を続ける 「世界は自分を中心に回っている。だから僕は神なのかもしれない」 「それはみんなそうなんじゃないの?」 「そう返されると神じゃないのかも」 彼女は言った 「いいね。主体的で」
ここはどこだろう。最初に目に入ったのはビルを覆い尽くす緑。人気はなく荒れ果てていた。なんでこんなところにいるのか。わからない、世の中はわからないことばかりだ。 俺はある日突然病にかかった。植物化。体中から芽が生え蔦が絡み、花が咲く。最終的には物言わぬ木になってしまう。現代の医療では治せない、諦めなさいと言われた。絶望した。何もかも手につかなくなって、自暴自棄になった。その間にも親は必死に金に糸目をつけず治療法を探し、全国の医者に見せ、怪しい霊媒師にまで頼った。失敗だった。騙され、金も、家も、全てを奪われた。悲劇としか言いようがない。両親が最後に選んだのは、新技術、コールドスリープの被験体だった。タダという言葉に寄せられ、確立してもいない技術に全てをかけた。 とりあえず動かないことには始まらない。蔦が絡む体は動きにくいが動けないほどではない。屈伸をしたり、腕を回したり、動くことを確かめ歩き出した。壁にあった大きな穴から外に出る。やはり景色は緑一色。コンクリートは割れ、隙間からバカみたいに太い蔦や木の根が這いまわり、街を完全に飲み込んでいる。分かりきっていたことだが、触って本物だと認識すると、どうしようもなく不安になってくるものだ。何年経ったのか、両親たちはどうなったのか、この世界に何があったのか_____。何もわからないのだから尚更だ。 しばらく歩くと、甘い香りが漂ってくる。俺の腕にある忌々しい花と同じ匂い。草を掻き分け、大きな根を飛び越える。そこにあったのは大きな木、そして俺の腕にあるのと全く同じ花だった。頭の中に最悪の想像が浮かぶ。今まであった植物たちは人間の成れの果てだ。 俺は気づいたら走り出していた。こんなところにはいられない。吐き気を飲み込み、息を切らし、もつれそうな足を必死に動かす。 行き着いたのは最初に目覚めた施設だ。知らなければならない。世界がこうなった理由を。手がかりを探す。目についた部屋を開けると埃を被ったコンピューターが一台。震える手で電源ボタンを押すと画面が光る。奇跡的に補助電源が生きていたようだ。マウスを握り、動かす。映された真実は想像を絶する残酷さを孕んでいた。 最初は淡々と記録がされているだけだった。成功を確信しているようだった。だか、病は止められなかった。むしろ悪化していた。中盤、狂気が顔を出す。研究員の一人が俺と同じ病気を発症した。原因は俺。不完全な冷却システムは俺の細胞を変化させ、体から微細な胞子が放たれていた。換気システムにより驚異的な感染力でそれは世界中に拡散していった。人々の体から次々と芽が出て、蔦が絡ませ、花を咲かせて、最後には動かぬ大樹になった。 「俺のせいだ……」 画面に激しいノイズが走る。両親が最後に見つけた希望。それは人類を滅ぼす悪魔の苗床になってしまった。 植物たちが一斉に揺れる。さわさわと俺に囁きかける。 「おかえり。お父さん」 脳裏に響く、愛おしい声。俺の体から生まれたかわいい、かわいい子供達。 正体が分かれば、怯える必要などない。近くにある大きな大樹に向かう。優しく抱きしめると、優しい風が吹いてくる。足が根に変わる。手が、体が、自分の意思が緑と混ざり合っていくのを感じる。かつて大都会と言われた緑の海の中心で、俺は物言わぬ木になった。 「ただいま」
マズい。 僕の文章が人を不幸にしているっぽい(妄想と被害妄想) 下手したら僕の文章読んで人が自殺してるかも(加害妄想) 呼吸をするように悪口を言うのはよそう。 優しさと死。 生と正。 負と歩。 白い石と白い意思。 黒い石と黒い意思。 金と銀と紫。 紫煙と支援。 桂馬と競馬。 パチンコと駄チ○コ。 またゲームとシステムの話だ。 花も幾何学。 逃れられない。 快楽と改悪。 悪は自分自身である(やや断定的) 甘えで人に当たる日々。 山に行かなければならないかもしれない。 香車と強者と業者。 角、書く。 飛車、ひしゃげる世界。 盤上の夜(あるいは夜明けのマスゲーム)
男のくせによく泣く人だなあ、とは前から思っていました。バイト仲間の送別会では、必ず最初に泣いていました。いえ、最初に、というか、泣くのは、いつでもその人だけなのですが。お酒が入ると涙腺が弱くなるタイプなのでしょうか。それにしても、顔をぐしょぐしょにして泣くなんて。男の人って、そこまで泣くことあるんだなあ、とそれはそこでバイトをはじめてからの発見でした。 わたしは、よく泣くその人の、その部分しか知りません。それがすべてといってもいいでしょう。同じバイト仲間とはいっても、作業がちがうというだけで、フロアがちがうというだけで、曜日の重なりがすくないというだけで、そういえばいますよねえ、くらいの間柄になってしまうものです。ですから、そんなにしゃべったことのないわたしの送別会でも泣くって、なんだろなあ、と。 その会の終盤、その人がわたしのとこに来ました。 「ぼくがやめるとき、送別会、来てくださいね」 明日になったら口にした本人でも忘れていそうなことを、わざわざわたしの前で言葉にしました。まったくねえ。そのときは、そう思っていたのですが… 二年後、その人の送別会に出てみると、意外にも自分でいったあの発言をおぼえていて、わたしが来たことを誰よりもよろこんでくれました。こっちのほうが困惑するくらいに。 その送別会は、いつもとちがったものでした。その人が終始、笑顔だったのです。 会が終わり、お店を出たところでその人が、 「みなさん、今日は、ほんとうに」 大きな声が夜空に響き、あたりを歩いていた人がふり返るのがみえました。いつもよく泣く、でもその日は泣いていなかったその人は、深々頭を下げ、なかなか顔をみせません。 ああ、やっぱりかあ。こらえられなくなったのだなあ。そんなふうにわたしが思い、その場にいた多くもそう思ったはずです。その矢先、その人が顔を上げました。みんなにみせるのです。満面の笑みを。 「ほんとうに、ありがとうございました」 誰も泣かない送別会というのは、わたしのすくない経験のなかでは、それが初めてのことでした。
平日の午後。 男がようやく目を覚ました。 「さてと……今日こそ倒す」 パソコンの電源を入れた。 「飯食ってからするか」 タバコを咥え、一階に下りる。 すると、母親が居間で横になっていた。 「オカン、なんか食うもんは? オカン……」 青白い顔。 返事はない。 「オカン、どうした?」 冷たくなった体を揺すった。 「ゾンビでいい……年金さえ……」
国会が3人の人間とあとは全部AIになればいい。 実際には議員給料など再分配しても国民には雀の涙だ。 赤字の省庁を無理に黒字にする必要は無い。 俺は官僚ではない。 辞めたい。 あの店員もセルフレジにすれば絵か音楽が出来るだろう。 孝行の見世物の施設が多すぎる。 甘えるな、とは言いたくないが散々甘い汁吸ってきた糞どもは蛸部屋に押し込んで整理券配って1日三杯の芋粥しか食えないようにしろ。 それでようやく忙しく税金を払っている人達が楽になるだろう。 俺にかかってる税金? こんなに仕事をしてるのに?(妄想)
「なんで余計なこと言うかなぁ」 テレビを見ていた男が呟いた。 「どうしたの?」 「この人、浮かれちゃった」 女が画面を覗き込んだ。 『皆さまには、ご迷惑とご心配をおかけして……』 二人が首をかしげた。 「……心配とかしてないよね」
バツン。 ど、電気が切れた。 「え? ちょっと、何?」 「わかんねえ! ブレーカーでも落ちたのかな?」 俺と彼女はわたわたと慌てる。 が、その数秒後、再び灯りが戻ってきた。 「あ、ついた」 「停電か? 驚かせやがって」 安心した表情を浮かべた俺と彼女の顔は、灯りとともに部屋に現れたもう一つの人影を見て、固まった。 「やっほ」 そこには、婚約者が立っていた。 固まる俺と彼女と違い、婚約者は満面の笑みだ。 後ろには、屈強な男たちが立っている。 婚約者は、笑顔のままゆっくりと近づいてきて、俺の顎に触れた。 「お楽しみのところ悪いわね? 大丈夫、全部認めて名前書いてくれれば、すぐ終わるから。その後はどうぞ、ご自由に」 人影が増える。 「と、父さん!? 母さん!?」 「パパ! ママ! どうして!? や、やー! 見ないで!」 絶望とは、こういうことをいうのだろう。 俺は、無言でリモコンを手に取り、電気をまた消した。 お帰り、停電。 今度は、すぐにいなくならないでくれ。
「余は今より、千年の眠りにつく。次に目覚めた時が、世界終焉の時だ」 そう言い残し、ヴァンパイアの王は眠りについた。 特別製の棺の中で横になり、部下に命じて棺桶を海底へと沈めさせた。 誰も、眠りを妨げないように。 そして千年後。 ヴァンパイアの王は、一秒のズレもなく目を覚ます。 「ああ、良い目覚めだ」 これから世界が血で染まると考えれば、ヴァンパイアの王の口元は自然と緩んだ。 鋭い眼光を輝かせながら、棺の蓋を押す。 「……ん?」 押す。 「あれ?」 押す。 「あれれー?」 棺桶は、なんと鉄製。 海底の水圧によって、壊れはしないが、蓋を開けさせない向きに膨大な力がかかっていた。 そのうえ、ヴァンパイアの王は千年間体を動かしていない。 筋肉がすっかり衰え、千年前には余裕で壊せた鉄も壊せない。 「え、ちょ、ま! だ、誰か開けてー!」 地上では、ヴァンパイアたちが集まっていた。 王の帰還を迎えるために。 「遅くね?」 「遅いな」 「きっと、寝坊してるんっすよ」 「なーんだ、寝坊か。まあ、千年も眠ってれば、寝坊くらいするよな」 「じゃ、王が来るまで、解散解散」 世界の支配者は、未だ人類のままだ。
さみしい気持ちのまま 現国の試験だなんて 試験の最中 文章を読んでは 涙が止まらなくなってしまう すてきな文章は 自分のお部屋で読みたいもの こっそりと ひとりだけで 現国の試験なんて 漢字の読み書きくらいで いいと思うのに
「おかしいでしょ」 思わず、ぼくは叫んでいた。 ぼくの目の前には、一体の彫像が立っている。黒い服、黒い肌、黒い瞳。ヒトを象った像の口は、真一文字に結ばれていた 「この作品、『遺言』って名前なのに、お口チャックしてるじゃん!」 ぼくの興奮を察して、隣に立っていた親戚は端を発した。 「遺言って、本当にのこさなきゃいけないのかな?」 え? ぼくは驚きのあまり口がきけなくなった。文字通り、 え? という思考に支配されていた。 だって、遺言ってそういうものでしょ。遺す言葉って書くんだから。 「じゃあ、なんで口を閉じてるんだろうね」 「それが分からないから、ぼくは叫んだんじゃないか」 「ああ、そう」 ふっと親戚は微笑を浮かべた。そして、うなずいた。 「君は、まだ自分の想いを理解している。だから、叫べる間は、きっと大丈夫」 叫べる間は……。もう一度、彫刻を見る。全身まっ黒な人。本当に黒い。 もし、この人がブラックホールだったら、きっと言いたいことをたくさん抱え込んでいるはず。もし、この人が闇鍋だったら、言いたいことがゴッタゴタになって苦しんでるはず。 「だから、閉じたの?」 だから、のこすことをやめちゃったの? 死ぬのに? だって、死ぬんでしょ? 「君は死んだら、何をのこしたい?」 親戚の問いかけに、ぼくはしばらく思案していた。 「分かんないけど……」 この彫刻を知ろうとしたって。でも、やっぱり、まだ分からないけど。 「叫ぶ、かな。多分」 「ハハ、いいね。叫ぶか、そうかそうか」 ハッハッハッ、と親戚の豪快な笑い声が響く。 「こうやってw 叫んじゃえばw よかったのかもな……www」 親戚のおかしな笑い声につられて、思わずぼくも笑ってしまう。二人分の叫び声が、アトリエにこだまする。彼は、彫刻家だった。
日々少しずつ爪が伸びるように、自分の中から古い気持ちが硬化していく 「変わらぬ愛」とは鮮度の話ではなく 関係の話だ いつもの空き地に咲いていたピンクの花は今はなく、ただ青々とした草が広がっている。 少し季節が過ぎれば代わり番こに花が咲き、あのピンクの花も再び咲くことだろう。 自分とは、あのピンクの花と同じように咲いた後は散っていく。周りの皆と同じように。その後、また誰かが咲き散りゆく。 池に映る月は偽物だとわかるように、本物を間違えることは出来ない。本物は目の前のそれだ 物足らなかったとしても強過ぎたとしても、それを変えることは出来ない 部屋の隅で古い時計を見つけた 新しい電池に替えると針が動き始める 暫くすると、時間がズレている事に気が付いた
2ヶ月続いていたダイエットが無に帰すような赤いチープなパッケージの準チョコレート菓子の袋を荒々しく開けたとき、むわっと、甘い匂いが迫り上がってきた。食べるの?顔を出した逡巡にすかさず、食べるよ、とビンタした。 できるだけ高潔でありたいと思う。 今朝、彼からショートメッセージが届いた。何でLINEやってないんだよ、なめんな。しかも、LINEやってないんだよねー、じゃなくて、LINEやってないんだよねっ、だった。その時点で私からフっておけばよかった。 準チョコレート菓子に手を伸ばす。コロコロとしたそれを一粒口に放り込んだ時、口の中に広がる甘さより、手のベタつきが気になった。気になった、と言えば、一粒ってどこからが一粒なのだろうか?人間を基準とした、かなり曖昧な表現だと思う。宇宙から見れば私たちも一粒ではないか。 目が覚めた時、あっ遅刻だ、を直感した。時計を見ると案の定、出勤時間を20分ジャストで過ぎている。うそやん。 丸テーブルの上には昨晩の飲みさしの日本酒と準チョコレート菓子が身を寄せ合っていた。準チョコレート菓子。パッケージの右下の隅っこに表記されているそれ。私はいつも商品のパッケージの右下の隅っこを真っ先に見てしまう人生だった。いつからだ?いや、子供の頃からそうだった。 靴下の穴は2回は見過ごす人生だった。 点滅する信号機に余裕で間に合わない人生だった。 ようやく涙が溢れてきた。 てか今日仕事休みだった。
お酒呑んで もう失ったものとか 自分のものじゃないとか 酔ってないときは言わなかった 無駄に本音っぽい言葉と笑った顔に 彼をちゃんと傷つけたなって実感 そして自分もまだ生傷だ 終わらせられてないなって感覚が沁みてきて まだ貴方のだよって言葉がずっと 喉の奥に詰まっていた
あの人のことを思い出す時間が少なくなったのは 果たして、いいことなのか、それとも、悪いことなのか ひとまず、成長ということにしてはいるけれど その成長というものをなかなかには自覚できずにいる もしかしたら、たんなる錯覚なのかもしれない いっときの気の迷いなのかもしれない 後退という名の変化や違いを 成長と都合よく思っているだけなのかも ふと、からあげが食べたくなって でも、部屋でやるとにおいとかなにかと面倒で それでお店で買ってしまった ダメだなあ、と思い しかたないよ、とも思う 商店街の風景と夕陽とのステキすぎる調和に 気持ちがやけにときめいて 嫌なことは、もう忘れている 実家から荷物が届いていたんだった 野菜とか、くだものとか、食べものがたくさん 正直、ありがたい ―届いたよ 電話で元気に言ったつもりでも ―元気にしてんの? そうやって聞かれてしまうのは、子どもとしては 受け入れないといけないことなのだろう おかあさんの声のうしろで犬のちゃたろうの声がして 姿を見てもいないのにうれしくなる 今度、会うとき、わたしのこと覚えてるかな それがちょっぴり気がかりになりながら でも、泣かないでいられたのは やっぱり成長なんだろうなあ、と小さく思う
眠い。 モサドに狙われているような気がする。 真ん中を取って昔やっていた日テレのドラマなんかをヒントにする。 眠らせないというのはいい手なのだがファイトクラブなんかのように夜人格が分離して場を荒らす。 ような気がする。 死というのはひとつのファクターなのだが悪魔は別に日本にはあまり用はない気がする。 あるいは昔象の花子に踏み殺された飼育員になればいいのかもしれない。 献身的死。 殉教。 その意味では少しキリスト的ではある。 知り合いのおじさんなんかもそうだ。 でも僕は嫌な奴なので家にサンドバックがあったら砂がこぼれるまで殴り続ける。 あるいは相撲か柔道をすればいいのかもしれない。 受け身は得意だ。 引き手も。 河童は猫と相撲を取るのだが猫は大麻をしているのでインドに行って商売をしていてほしい。 品のあるトラッシュトークは皆得意だ。 あるいは戦女神にビビる。 でも僕は農夫なので何であの娘さんはこちらの作物を食べたがるのか分からない(他にいくらでも食べ物はより取りみどりだろうに)。 無い物ねだりはお互い様なのだ。 あってもねだる奴の(それは僕もである)相手はしたくないので薬飲んで寝る。 無いものはなんだろうと夢で生産する。 消費と生産の中庸。 電気とガスと水道の事を考えたいが体力が尽きてきた。 知り合いが荒い呼吸で居酒屋で飲み食いする(馬鹿かよって突っ込みたいがまあ付き合う俺も馬鹿なのでしょうがない、酒は飲まないしな、居酒屋代がもったいない金返せ、糞が、といいたいが俺も糞野郎なので言わないでおこう) 僕の文章は人を殴る。 欲しがりなんだね。 それでなんだね。 くだらないね。 これ描いて(書いて)死ね。 お休みなさい。
昔、彼が言っていた。 『だいすきなものに正しいも間違っているもないよ。ふたりが分かっていればいい。』 それなのにわたしは『間違えている』と引き千切った。 何故か離れて一層、彼の言っていたことが理解できた。 ただ自分の中にあればいい。 きっとこれからずっと私の中にある。 それを認めるのは自分だけでいい。 相手に伝えることもできなくなった代わりに、 誰かに認めて貰いたい焦りもなくなったから、 否定することがなくなったんだ。 ほら、まだ、ちゃんとある。
太陽は山の向こうに沈み 空に浮かぶ白い月が零れた光を受けています 雲はいつだって、のんびりと流れていますね 夜を迎えた街の皆は、ぽつりぽつりと家に帰り、部屋の明かりをつけていきます 自然の中で暮らす生き物たちは、闇に隠れて寝床を探しています ある一匹のヤモリが屋根の上に乗り月を見上げています 月もヤモリを見つけ微笑んでいます 「やぁ、今夜も君は輝いて見えるよ。君は、そんなところにいて寒くないかい?」 のんびり屋の雲達も二人の会話が聞こえたので、二人の間を避けるように流れています 月は静かに微笑んでいます 「僕はね君が思うほど怖がりじゃないんだ。この間だって猫の背中に乗って遠くまで旅に出たんだよ。大きな海の中を巨大な竜が泳いでいたんだ。本当さ」 月とヤモリの間に一筋の流れ星が通りました 「こちらから流れ星が出てればなぁ。君のところまで行けるのに」 月は手を伸ばしヤモリはその手を握りました。ヤモリは月の隣で星座となり二人は何時までも一緒です。 街は明かりを消してゆき 皆の寝息が聞こえています 雲達は、また、のんびりと流れています 月とヤモリを隠すように。
働けなくなってしまった。 身体はボロボロ、精神もボロボロ。 できるなら、生活保護を受け取って、休息をとりたかった。 しかし、世界がそれを許さない。 ベッドで眠る私の体は、ベッドごと職場へと運ばれる。 ベッドに付いた足とホイールは、歩道だろうが階段だろうが、お構いなしだ。 「それでは、今日も一日頑張りましょう」 ベッドの半分が起き上がり、上半身が無理やり起こされる。 私の目の前では、私の手足代わりとなる人形立ちが、せっせと労働をしている。 私は、それをじっと見つめる。 立て付けは監督者だが、正直何やっているかわからない。 「今日もお疲れ! 日給は振り込んでおくから」 終業時間が来ると、私は再び、ベッドで自宅に戻る。 ようやく仕事が終わったのだと、部屋の天井を見上げながら溜息をつく。 ああ、休みたい。 全ての労働を人形が代行する世界は、全ての人間が労働環境から逃れられない世界だと思わなかった。 見ているだけの仕事も労働扱いだから、収入が入ってしまう。 生活保護は受けられない。 過去の人間たちが私を見たら、働かなくとも収入が入って羨ましいと思うだろうか。 働かなくとも働いたことになって羨ましいと思うだろうか。 私は、何もできないのに労働者として扱われる今が、苦痛で苦痛でしょうがない。
地球生活初のヴァレンタインズデイ、何でもない日のように過ごす人はほんのひと握り。 学校という名の建物内にいる十代の人間達は、どこかしらソワソワしている。 記念日、イベントの日、と言うだけで特別な気持ちが湧き上がる不思議を、今日も無駄に考えていた。授業終了の鐘が鳴り響く頃、その結論は未だに思い当たらない。 前に座る子の後頭部を瞬時に描き表せる程に眺めて一時間。その子が振り返る。 見つめる眼差しは、いつものように冷たかった。 何を考えているか分からないと噂され、大人にも呆れられ、この建物中から冷めた目を向けられる中、最も冷えた目で見てくる。それが前の席に居た。 「これあげる。」 目線を下ろすと、手のひらに乗せられた茶色いパッケージの飴玉があった。 「学校で、食品の授受は固く禁じられているはず。」 「バレなかったらいいの。」 「ほら。」と押し付けられた飴玉を仕方なく受け取り、しばらく眺めていた。 やがて授業開始の鐘が鳴り、そしてまた終了のチャイムが聞こえた。 まだ考える。 これは今日という特別な日のプレゼント?それとも、美味しい食べ物のおすそ分け。 しばらく。いや、一時間ずっと眺めていた。 すると、飴玉は前から伸びてきた手によって一瞬で視界から消え去った。 「まだ見てたの?」 「食べろということ?」 「うん。」 視線を合わせたまま、手元の飴玉がグチャっと容赦なく開けられた。それを何気ない顔でまた押し付けてくる。 「封を切ったなら、早く食べるしかない。」 「うん、早く。」 葛藤していた。 学校でお菓子は禁止。ましてや、他人から受け取ったもの。 それでも漂う甘い香りに、食べずに捨てられる未来を選択する余地はない。 周囲を警戒しつつ意を決して飴玉を口の中にほおりこんだ。 「一ヶ月後楽しみにしてるね。」 頭の中ではまだ、不思議な正体の答えも思い浮かばないまま、特別に甘いコーヒーの味が口の中で広がった。 「好みかもしれない。」
ある日の午後。 若い男女が手を繋いで歩いていた。 「見て見て。あそこ」 「……なに?」 高齢の男女が手を繋いで歩いている。 「なんか、可愛いよね」 「僕たちも、あんな風になりたいね」 二人が、見つめ合った。 「見て。あの人たち」 「……どこ?」 中年の男女が手を繋いで歩いている。 「なんか、気持ち悪い」 「生々しいな」
朝の支度が終わりかけの時間になり、スヤスヤと布団で眠る息子を起こしに行く。 夜中何度も掛け直した毛布は、今は息子の隣で添い寝をしている 「朝だぞ。起きろ〜占いが始まるぞ〜」 ニュース番組の合間に発表される占いランキングを息子は楽しみにしている。今日のパパは何位だ。とかラッキーフードはパンナコッタだよ。とかいちいち報告してくれる。 たが、今日は様子が違った 寝言なのか、微睡んでいるのか分からないが「こわい」と呟いている。 洗い物の手を止め息子の下へ行き背中を擦ってやる。 「こわいの?」 「…」 毛布を掛け背中を擦りながら寝ている息子を抱きしめる 今日は久しぶりの学童で、私と妻も仕事の日。妻の仕事は時間が読めず学童の閉園時間ぎりぎりに迎えに行くことが多くなる。私は定時で上がれば電車の遅延がない限り閉園時間には何とか間に合う。 昨晩、お互いの仕事の話や体調のこと、お迎えの事を話していたので、息子は内心、不安に思っていたのかもしれない。 何もない私は愛情しか与えることが出来ない せめて愛情くらいは惜しみなく注いでやるのだと決めたのだ 暗く途方もない洞窟の中で僕らは家族は決めたのだ
私は自惚れていた。 姿が綺麗で、才能もある。鏡はそう語っていた。 望みがあるなら己に酔う事もあるだろう。私が外れている訳では無い。母だって日々煩く自語り。かつて死んだ猫も道の中を進み風にひるむことも無かった。自分を大して知りもしない癖に。 まるで泥仕合。罵り合い終わりも考えない阿呆面で呑気に日々を過ごしている。街ゆく人々が汚れた鏡だと気付いたのは今日この朝。家に篭もってあいつの陰口でも綴るのが一番だ。私はそれがお似合いだ。 あの子は何が似合うだろうか。泥でも夏虫でも無い。祭り提灯に似た髪飾りを渡したい。 反対どうし惹かれ合うとよく云うが、そんな訳は無い。よく気が合い、同じくらいの学問を持つ人どうしが出逢う。それを私が証明している。 自惚れなければ今頃船の舵を切る。私の幼い頃からの夢のひとつ。今を楽しめば明日はきっと凶。隠れてきた人が成る。私は別だが。隠れても無い、力を使ってもいない、楽しみも無かった。 私を焼払うために何もかも変えてしまおう。紙を数十枚、一両を持ち、我が家を背に灰にした。すっきりだ。 これからどうしようか。
毎朝出勤前に駅のジムでトレーニングをしていく。 上半身のトレーニングをした後で下半身のトレーニングをしていく。各筋肉のトレーニングを3セットしインターバルも適切に取っていく。 朝のメニューを終えシャワーを浴びる 最近は今さっきまで酷使していた筋肉を延々と眺めることもなくなった シャワー室を出ると顔馴染みの人達が挨拶をしてくる 挨拶を軽く返してジムの扉を勢いよく開けて駅にいく。 昔から背が低くく、線が細いため世界を見上げて生きてきた 満員電車では人の中に埋もれ、電車が揺れれば簡単に弾かれる 今の小学生の方がたくましく見えるときすらある だけど、 私は私を守ると決めた 私は強くなる。必ず。 男に負けないくらいに。 人生に負けないように。
アーケードの一角に、小さな洋食店がオープンした。 「今日も長い列ができてますね」 レポーターの女が、スマホを片手に店内へ入った。 「すごい人気ですね」 「そうだね。ありがたいね」 背の高い帽子をかぶったシェフが、フライパンを振った。 壁には、金色のプレートが飾られている。 「あのプレートが人気の理由ですか?」 「どうかなぁ。わかんないね」 女が、カメラに向かって話を続けた。 「今、話題の洋食店。ところで、三つの帽子マーク、どこの認定ですか?」 「形がさ、僕の帽子と同じでしょ。ネットで見つけて、即買いよ」 二人は、プレートの前にできた人だかりを眺めた。 「不思議だよね。みんなあの前で写真撮るんだよ」
険しい山の絶壁に空高くそびえる塔が建っていました その塔の天辺にドラゴンの生贄にされた一人の少女がいました 少女は閉じ込められた狭い塔の天辺で来る日も来る日もドラゴンが来るのを待っていました 自分を犠牲に村の皆を守る呪われた人生を、少女は受入れて身を捧げる日を待ちわびていました 恐怖とともに。 ある時、少女のもとにある男性が訪れます 彼は少女の村に訪れた旅をする剣士でした 彼が言うにはドラゴンが村を襲っていたので退治し、生贄の少女の話を聞いて馬を飛ばして急いで助けに来たと言うのです 少女は安心し涙し剣士にお礼を言いました 少女は剣士と共に馬に乗り村へ帰ります 道中、夜はテントを張り見張りをする剣士と久しぶりの安らぎを抱いて眠る少女。 彼らは次第に距離を縮め共にテントで夜を過ごす日が訪れました。少女はその後、年老いて永眠するまでこの日の事を心に生きていました。あの旅する剣士に救われた人生を大切に生きていきました 少女が助けられたすぐ後に、悪魔の魔術で森の中を彷徨っていた剣士は、やっとの思いで絶壁に建てられたドラゴンの塔にたどり着きました。塔の最上階にある生贄の部屋にはドレスを着た骸骨が倒れていました
駅のホームで電車を待つときの考えごとはやけに捗る。日々にあるこまごまとした処理にちょうどいい。やけに考えが進んで「ああ、これ乗るんだった」となることも。どうしてあれほどまでに、と友人にきいてみたところ「トイレじゃなくて?」との返答。うん、確かにトイレでも思考はなかなかに回転してくれるよね。でも、駅のホームかな、わたしの場合。適度なざわつきが、アタマをうまい具合に刺激してくれるのかもしれない。人を観察した結果としてのちょっとしたあれこれが得られるからかもしれない。 始発駅で、電車に乗って、発車を待つ。窓から外を見る。ほとんど決まって向かいのホームを見る。電車のなかから見られていると思っていない人たちは、やけに無防備で、節操がなくて、哀れみを誘ってくる。 ホームのベルが鳴り、車内にもアナウンスが流れる。ドアが閉まるより前に、向かいのホームに電車が入ってくる。わたしの乗っている電車のドアが閉まり、向かいのホームでは、ひとりの男が大股で何段かを飛ばしながら階段をかけ下りてくる。ああ、なんて滑稽なんだろう。顔色ひとつ変えず、わたしは思う。あまりに急いだその男は、よろけながら崩れるように…… その行く末は、電車がすっかり隠してしまう。 こちらの電車がゆっくり動き出す。向こうの男は、どうした? あの男の少し先の未来をわたしは知りたくなくて、そっと目をそむける。乗れたのでも、乗れていないのでも。 わたしはあの男の未来を背負えない。背負う必要もないのだし。そこまで、大きな話でもないのだし。
おい、アンタ、そうそこのアンタだよ。 アンタ、平日でも休日でもずっとスマホ見てるだけなんだろ。どうせ、short動画見出たらいつの間にか一日の半分終わっちまってるようなつっまんねぇ人生送ってんだろ。そうに決まってらぁ。 じゃなかったら、こんなとこ来るわけねぇ。どうせこれも趣味らしい趣味もねえから初めてみるかくれいのあっっさい動機で書いてんだろ。分かったんだぜ。そんなん何日も続くわけねえ。これ書いてきっとおさらばさ。だってこれまでもそうだったろう?何やっても続かない、続かないから中途半端なまま終わる。そのくせ、自分にはその才能がなかったから、上手くいかんかったからだとか言って愚痴ってんだろ。そりゃ上手くなるわけねぇさ。なにもかも手付けちゃ、少し触ってハイおしまいってな訳だからな。そんなんで何愚痴ってんだ。立派にやんかやってから文句言えや。オマエに言ったんだぞ、画面でこれ眺めてるアンタに言ってんだよ。どうせオマエも俺のことバカにしてんだろ。意味わかんねえ文章書いてらとか思ってんだろ。こんな文章見ても意味なんざねぇからな。俺はオマエの数分奪ってやったに過ぎねぇんだよ。知ってっか?今この瞬間ってのはイマにしか存在しないんだってよ。俺が今文字打ってる0.000000000000001秒ですらイマにしかないんだってよ。要するに、アンタはこの文章を見ることでそのきちょーーーな時間を無駄にしたわけだ。……そう考えたら、俺は凄いことをしたのかもな。だって、俺はたった今この画面の向こう側にいるオマエの頭のレイテン、ナンナンナンナンパーセントくらいを邪魔したっつうわけだ。俺は今からオマエの頭の中にいるかもしれねぇな。おぉ!そう考えたら、ちょっと興奮してきたなぁ!!おい!聞こえるか!!俺だぞ!!!オマエの中に俺がいんだ!そうだ。いいこと思いついた!おい、いつかオマエの頭ん中の50パーセントを俺にしてやる!!こんなん書いてる今の俺でもちったぁアンタの頭の中に入れたんだ!!!いつか、50パーセントくらい簡単に犯してやるさ! 見てろよ
「…というわけなんで、すまないけど…今月までと言うことで」 目の前に座る店長はボサボサの髪の毛を掻きながら眉毛と目尻を八の字にしてロッカールームを出ていった またバイトを首になってしまった 僕は何をしても上手く行かないし、何をしても楽しいと思えない 高校生のバイトの人に自分の事を「コマわりさん」と呼ばれているのを聞いたことがある コマ送りの様に作業が遅いからと言う理由を仲間内で話していた。私に聞こえる様に。 仕方が無いと思う。その通りだから。 アパートに帰ると台所にヤモリがいた 私の帰りを待っていてくれたような気がして嬉しかった 5センチもない子供のヤモリ。体が透けて見えそうだ ヤモリはよく見ると可愛く、僕の空っぽの心が、ほんのりと温かくなった 帰り道、ブックオフに寄って安いワゴンCDをジャケットも見ずに数枚買った。 今夜は無性に音楽に溺れたいと思った それもまだ聞いたことのない音楽に。 蛇口の水をコップ一杯に入れラジカセの前に座る 明かりをつけないのは電気代節約もあるが、明るい所にいたくなかったから この世界を鮮明に見たくなかった 自分をみたくなかったから。 袋から適当にアルバムを一つ取り出す 蓋を開きCDをセットして再生ボタンをガチャリと押す 彼がラジカセにセットしたCDはXJAPANのアルバムだった。 彼は一枚通して聞いた後、ヘッドホンを、して夜通し聞いていた。コップに入った水を飲むことも忘れて。 水面から口だけ出して何とか呼吸をするように、一枚のXJAPANのアルバムに溺れていった。
近くにススキの姿はなく 河原まで足をのばしてみる 秋空にススキを思い けれど目には もみじの葉っぱ ススキをみた帰り あれを買っていこう やさしい風に秋を思い けれど気持ちは もみじ饅頭とともにある
昼の打ち合わせが終わり会社を出て、川沿いの工場に着いた。取引先としては古株で昔からうちを利用してくれている。 人材派遣会社としては小さな会社なのだが、うちの社長とここの工場長が昔からの仲で、設立当初から製造エリアの一角を請け負わせてもらっている。 人懐っこい笑顔と人を安心させる様な話し方は、うちの社長と正反対だ。どうして仲がいいのだろうと、度々疑問に思う 車の中で工場の現場に持っていく書類等を整理していると、自転車に乗った制服姿の少女が工場へ入っていく 「確か…工場長の娘さんだったけか…」 私はあまりお会いしたことはないが、現場のうちの社員が言うには、学校が終わると作業着に着替えて、慣れた手付きで作業を手伝っているらしい。 今時、珍しいほどの良い子だ あのお父さんだから、娘さんも良い子なのかもしれない 工場のチャイムがなり昼休みの終わりを告げている。
「あんた、死ぬわね」 預言者には、他人の死が見えた。 瞬きをするように、目の前の景色を見る瞳から他人の死を見る瞳へと変えられた。 死んだ人間を見ると、その人間が真っ黒なモヤで塗りつぶされた。 「お母さん、これなあに?」 最初に死を宣告したのは、実の母親に対してだった。 母親は、子供の戯言だろうと聞き流した一週間後に死んだ。 この時は父親も、母親の死を不慮の事故だとしか思わなかった。 「ねえお父さん、あそこにも真っ黒が」 しかし、預言者と過ごすにつれて、預言者に向ける目が変わっていった。 預言者が黒いモヤが見えると言った相手が、全員死んでいくからだ。 「いいか! お前は絶対、俺以外に言うんじゃないぞ!」 「うん、わかった! ところで、お父さんにも黒いのあるね?」 それでも預言者を愛そうとした父親は、すぐに死んだ。 自分を愛してくれる人すべてを失って、ようやく自分の異能に気付いて、預言者は泣きながら笑った。 「わた、私の力は! 皆を不幸にできるんだ! あーっはっはっはっは!」 預言者は、自身の異能を公開した。 化け物と石を投げつけられても。 余命宣告された人間たちが、預言者の元へやってきた。 治療で動けぬまま死ぬのであれば、黒いモヤが見えてから一週間、約束された余生は自由に生きたいと。 遺族たちから、預言者はたいそう感謝された。 予言を受けた者たちが、預言者の元へやってきた。 残りの人生を疑わなかったにも関わらず、突然突きつけられた死の宣告。 その怒りが、預言者へと向かった。 預言者は、善でもあり悪でもあった。 しかし預言者は、自分のことを悪だと認識していた。 なにせ、自身の都合で人の死を伝えるのだから。 「あーっはっはっは!」 預言者は、努めて他人の死を喜んだ。 自分の予言が当たったのだと、感情をすり替えることで。 「……あれ?」 ある日、預言者は首を傾げた。 他人の死を見ようとすると、突然視界が真っ黒になったからだ。 通常の瞳に異常はないため、失明ではない。 「あ、そっか。私が一週間後に死ぬから、もう見えなくなっちゃったんだ」 預言者は、そのまま姿を消した。 警察が見つけた時、預言者は気に首をくくって死んでいた。 木には文字が掘られており、預言者の死体は満足そうに笑っていた。 『ざまあみろ』 それは、預言者が自らの死を予言した、三日後のことだった。
「それは何ですか?新規の依頼ですか?」 先輩が集めてきた資料をファイリングしている 「いや…これは個人的に気になってね」 へぇ~と答えたが、先輩が個人的に調べ物をしているのを始めて知って興味が湧いた。 「何かの事件ですか?」 先輩は答える代わりに手に持っていたファイルを渡してくれた。 「読んでみろよ。お前の意見も聞いてみたい」 そう言うと、戸締まり頼むわ。おつかれ。と探偵事務所を出て夜の街に消えていった。 俺は戸締りを終え帰ろうとしたが、ファイルが気になりざっと目を通して見ることにした。帰っても親に小言を言われるだけだし。 ある土地で起きた少女の誘拐事件の記事だった 先輩が調査したノートのコピーもあり詳しくメモが書かれている 何故この事件を調べてるのか、その答えは見つからなかったが、痛ましい事件だということは分かる。 執拗に犯人が少女の親御さんを苦しめている所を見ると、怨恨で間違いはないだろうが、今のところ親御さんを恨むような人物は見つからない 気づけばかなり時間が過ぎていて、気になりつつもファイルを閉じて家に帰った
俺が生きろハラスメントをしているからだろう。 実際には殺してくる奴がいる。 同じ土俵に立ちたくない。 機能なのか現代病なのか出来ない。 スポーツは一過性のもの。 全ての事象に関連するが欲を捨てきれていないので太る。 機能不全か寿命か。 カッコつけてればモテる。 それは世のルール。 それもつまらないが。 実際には近くなければ臭くない。 それも世のルール。 やり方と見方を少し変えるだけ。 心の問題で腹が立つ。 手に入らない玩具をねだり続ける。 歩み寄っても理解出来ない。 化学物質と放射能とトカゲ。 あるいは鳥。 鳥に変化するまで(あるいは偶像)。 何を読んできたのだろう? あるいは何を聴いてきたのだろう? 自分に都合のいい解釈(AIに頼る)。 関心を持ってあげるよ(何様)。 何もくれないだろうけどな。