『これ以上、誹謗中傷はやめてください』 とある芸能人のSNSに投稿された一文。 さすがに心が痛む……わけない。 イケメンの顔。 ブランド物の服やバッグ。 そして豪邸。 顔にも金にも恵まれたお前たちは、誹謗中傷されてもしょうがないだろ。 いわゆる、有名税ってやつだ。 「恵まれてるくせに、ちょっとやそっとで被害者ぶってんじゃねえよ!」 開示請求するならすればいい。 どうせこっちは、無敵の人。 何も取られる物はないし、下がって困る名誉もない。 『よしよししてる信者きめええええええ』 苛立ちを返信して、一度スマホから目を離す。 腹が減ったのでカップ麺を探すが、備蓄なし。 「しゃーねえ。買いに行くか」 財布を持って、コンビニに出かける。 玄関の扉を開けば、今日は快晴。 外には、楽しそうな親子連れが歩いている。 俺に見せつけるように。 「こいつら全員、車に引かれて死ねばいいのに」 独り言をこぼして、イライラとしながら曲がり角を曲がる。 次の瞬間、激しいクラクション音が鳴り、俺の体が吹き飛ばされた。 痛む全身と霞む司会で見たのは、高そうな自動車と、後部座席に乗るイケメンの姿だった。 「あ…‥‥て……」 文句を言おうにも、言葉が出てこない。 自動車が止まり、中から慌てた顔の運転手が飛び出してくる。 そして、俺の顔にスマホを向ける。 『判定完了。無名税の対象者です』 「あ、なんだよかった」 スマホから発せられた音声を聞くなり、運転手はほっとした顔になり、自動車の中へと戻っていった。 「お……待……」 俺の声は届かない。 「安心してください。引いたの、無名税の人でした。事件にはなりません」 「助かったー。でも、今度から気を付けてよ? 引いたのが一般人なら、俺の人生積んでたから。マジで」 「大変失礼いたしました」 運転手が自動車の中に戻って、自動車が動き始める。 エンジン音が徐々に近づいてくる。 有名税の人間は、誹謗中傷されても仕方ない。 ならば、誹謗中傷を行う無敵の人も、無名税として法が保護しなくても仕方ない。 そんなくそったれな法律が可決したのが、運の尽き。 「ふざけ……」 自動車は、道端の段差を乗り上げて進むように、俺の体を踏みつぶしてどこかへと言ってしまった。 通行人は、誰も近づかない。 ただ、空腹を解消しようとするカラスだけが、俺の周りに集まってきた。
夜、窓を開けると 風に流れて 深夜ラジオが きこえてきた 誘われたかな? わたしもラジオを つけてみた ふふ 風に流れて 笑い声も きこえてきた ふふ 夜が、少しだけ たのしく思えた
診察室で、男がうつむいていた。 「先生、私は……」 「あなた、最近オチばかり考えてるでしょ」 「はい」 「何だっけ? 蛇口から、漢字の水がたくさん流れて、排水溝が詰まった? これの何が面白いの」 「はぁ……」 「これ、思い付いたとき、ニヤけたでしょ」 「ダメですか?」 「重症だね。少し頭を休めなさい」 クリニックを出ると、男は幹線道路沿いを歩き、自宅へ向かった。 すると、サイレンを鳴らしながら、パトカーが通りすぎた。 「そこの車、左に寄せて止まりなさい」 道路脇には、パトランプから落ちた『あと二人』の赤い文字が転がっている。 一瞬、足を止めた。 「……いいじゃん」 男は、ニヤけ顔でポケットからネタ帳を出した。
こんばんは いつも、そう言って、やって来ます おはようを置き忘れてきた彼は だって、夜だから 彼のうしろには お月さまと多くの星たちが 銀の砂をまきちらしながら 一列に並んで ついて来ます そして、一番後ろには よく冷えた空気のかたまりが しずかに、しずかに、ひかえている さみしさも、ついて来ています 目には見えませんが 謝罪が死の宣告と結びついている者たちは 夜のおとずれに 身の震えが止まらないもの 私のやってることはすべて正義だから そんな無言の圧力をかけてくる者たちは 夜に怯えている なにも、あなたたちのこと 敵だなんて思っていないのに 何をそんなに 夜はただ こんばんは そう言って、やって来ただけなのに
男がテレビをつけた。 画面の中。 若い男がマイクを向けられている。 便利な人。 噛み合わない受け答え。 ワイプのタレントが笑う。 出ない方がいいと思えば、差別。 出たら、笑いの種。 本人が良ければ、許される。 男は静かにテレビを消した。
方程式 僕の中の方程式で「嫌いな人が現れたらそこがターニングポイント」と言うものがある 僕は人を嫌いにならない。ほどんどならない。 昔からそうだし、若い頃は悩みもした …僕はどうして人を嫌いにならないのだろう… バカっぽい。若い時はそんなもんか。 とにかく好きになれど嫌いにはならない。嫌いになるまで距離を縮めない。 もし、この人失礼だな。とか本当にやな奴だ。と思ったら後に変化が訪れる。 僕の彼女になる人の共通点が「この人失礼だな」と思う事、そう思う人は後に付き合う事になる。 また、「本当に嫌な人だな」と思う人が現れたら、後にその場所から僕は離れることになる。 後者は当たり前なのだが、そのタイミングが、かなり良い事が多い。 会社なら、嫌な人が現れて何とか頑張ってみたけど、無理!となってその人の為に辞めて皆と離れることになっても、次に入った会社がとても良い所だったり、辞めた会社が後に倒産したり、などなど。 僕の人生における嫌な人、嫌いな人は、僕にターニングポイントを知らせてくれる人なのだ ここ数年嫌いな人に出会っていない。 出来ればもう現れないで欲しいとも思っている まぁ、全て勘違いかもしれませんが。
私は、女諜報員。 任務は、この国の男性と結婚し、日常をノートに記録すること。 《指令1 一日の出来事を記録せよ。我が国との違いを把握せよ》 夜になると机に向かい、黙々と書いた。 数か月後、新聞のチラシに紛れて、メモが入っていた。 《指令2 買い物を記録せよ。我が国との経済の違いを把握せよ》 買い物から帰ると、レシートを広げ、商品名と値段をノートに写した。 私は結婚し、やがて子どもが生まれた。 届いた花束には、メッセージカードが添えられていた。 《指令3 子どもの成長を記録せよ。我が国の子どもたちの参考になるだろう》 私は、家族の日常をブログにアップした。 すると、編集者の目にとまった。 日記はエッセイに。 買い物記録は、主婦目線の経済書に。 育児記録は、若い母親向けのハウツー本に。 私の記録は本になり、評判が広がっていた。 玄関のチャイムが鳴る。 ポストには、メモが。 《指令4 今までの記録を全て本国に送れ》 私は、電子書籍のURLを書いた紙を封筒に入れた。
当日、履歴書を忘れてしまい、口で説明した 履歴書ってこんなんでいいのか、とか思いながら 思考を停止させ ただ目の前に積まれた任務をこなしていった 一年経って入ってきた後輩は、迷惑をしつくし あげく早々と転職していった 指導といじめの境界線はあやふやで やはり、思考を停止させていたことで それはギリギリ成立していたのかもしれない 帰りは今日もまた、駅前の本屋で涼んでいく 汗のしずくを本に落として 点々とシミをつくってしまうのは 本に申し訳ないことと思い 暑い時期は本を買わないことにしている 秋になったら 今日はカレーにしてみる 牛乳を入れてみた だいぶ入れた だからと言って、カレーが甘くなるわけではない カレーはカレーなんだ あの会社、まだあるのかなあ
「編集長、今月の応募作品、やたら多くないですか」 「そうだね。今回は賞金が出るからね」 「それにしても、この数は……どれくらいAIですかね」 「半分くらいは賞金稼ぎかな」 「昨日、審査してくれる作家先生から、断りのメールがきましたよ」 「大丈夫。ちゃんと考えてある」 編集長は頬を緩め、応募作品が入ったUSBメモリーをパソコンに挿した。 「審査には、私たちもAIを使うことにした。総評も書いてもらう」 「それじゃあ、AIの作品をAIが審査するってことですか」 「AI vs AIだ」 ──審査発表の日。 スマホを前に、女の指先が震える。 ごみ箱の周りには丸めた紙が散らかっていた。 「今回は自信ある」 祈るようにメールを開いた。 『最優秀賞おめでとうございます』 ─総評─ 「作品の中で語られる主人公の言葉、私には作れない新鮮さを感じました」
どうも。 俺は今とあるビルの屋上にいる。 別に何をする訳でもないが、風に当たりたくなったんでね。 いやほら、仕事中に嫌なことがあったり、自分に嫌気が刺したりするだろ? そんな時は一人でいたいもんだ。 そんで、ちょっと話に付き合ってはくれないか? ・・・。さんきゅー。 ココ最近は夏だと言うのに涼しい日がちらほらある。日光は暑いんだが、風が涼しい感じだよな。 周りの奴らは日焼け止めなんか塗っちゃいるが、俺から言わせてもらえばあんなのは甘えだね。 男なんて焼けてた方がかっこいいと思うんだよな。いや、日焼けした女性もセクシーでいいと思ってるよ?(俺は女性蔑視とかしないから)。 俺は焼けやすいタイプなんで、これを機にガッツリ焼いてやりたいんだが、服を脱がないと綺麗には焼けないんだよなあ。 庭があるやつは真っ裸になって焼けるから羨ましいもんだ。 世間体は知らんけど。 それはそうと、ここからは人々の動きがよく見える。ビルって言ったけど、5階建てだから大した高さはないのよ、ここ。今日は平日だけど、世の中はお盆中かな。街を歩く人はすごく多いし、 使った駅はすげぇ混雑してた。 みんなどこに行くんだろうな。遊びだろうなぁ。それとも旅行? 君たちはどうよ?どこかに行く予定ある? それとも、俺と同じかな。はは。 はぁ・・・。 悪いね。朝から気分が冴えなくてさ。でも大丈夫。俺にはこれがある。 「アイスコーヒー」 もちろんブラック缶だ。甘いのは医者から抑えるよう言われてるんで、控えてる。 これ、余計なストレスってやつだよな? 以前会社でやったストレスチェックとか、あれなんの意味があるんだろうな。 いっつも雷マークだけど、医者行けとか言われないんだよ。 鬱病申請通るんじゃねぇのこれ。 ゴクゴク・・・。 ふぅ・・・。 コーヒー飲むとタバコも吸いたくなるよな?喫煙者のみんな。 俺はもちろん医者に止められてる。まじストレス。 心身ともにボロボロって感じで参っちゃうね。 おっと、もうこんな経ってたか。 スペースキーが壊れた出来損ないの板チョコと エラーを吐きやがる電子黒板と向き合う時間だ、畜生め。 じゃあ皆、またどこかで。 お互い生きていれば会おう。
二人乗り 生殖細胞と自分 生殖細胞が改造に改造を重ね、とうとうCPを搭載した。それが自分 生殖細胞はCPに任せて、子孫繁栄をオートマチックで進めていく。 CPは壊れるまでデータを蓄積し、最適解の選択を取り続ける。それを自分の人生だと疑わずに。 成功とは 勝ち組とは 夢とは 生殖細胞はそんなCPの事には気にもかけない。そんな気がする
うるさい考えをミラーボールの中に押し込んだ。 キラキラ光ってクルクル回った。 ずっと見てると眩しくて酔いそうだったから 特にうるさいものを取り出して 静かな考えを詰め込んだ。 どんどん暗くなってだんだん回転が遅くなって─── 止まった。 ずっと見てると寂しくて泣きそうだったから 特に静かなものを取り出して ちょうどいい考えを取り入れた。 うるさいものが騒ぎ出して 静かなものは線引きしだした。 ステージに集まるお客さんのようになって その場を仕切る私の脳は 盛り上がりすぎて吐きかけた。 全部取り上げて 私が中に入って踊ると みんな黙って 踊り始めた。
昔々、ある国のある山の麓の森に一人で住んでいるお爺さんがいました 熊のようにたくましい体を持ったお爺さんは昼間、薪割りや釣りをして過ごし 夜は近くの川で焚き火をしながら空を眺めるのでした ある夜のこと お爺さんが、いつものように焚き火をしながら空を眺めていたら、後ろから虎に襲われお爺さんは亡くなってしまいました 今はもう誰もいないお爺さんの小屋には虎の顔のついた毛皮が床に敷いてありました
「好き」という嫌いが好きだ。 何があろうと愛すると誓った。 「自分」という他人が好きだ。 大切にしないとフラれる。 「不幸」という幸せが好きだ。 ずっと側にいてくれて嬉しい。 「不運」という幸運が好きだ。 普段は従順で願い事を聞いてくれる。 「楽しさ」という苦しみが好きだ。 笑顔の作り方を勉強できる。 「満足」という不満が好きだ。 何もかも得たいというのは妄想だったと知る。 「力」という弱さが好きだ。 どれだけ暴れようがあの人の病気は治らない。 「不味い」という味が好きだ。 みんな嫌いだからせめてわたしが。 「蕾」という花が好きだ。 いつ枯れたのか分からないで済む。 「無理」できることが好きだ。 主体を曝け出すことが肝。 「しない」とすることが好きだ。 決めてしまえば守るだけだ。 「ゴミ」という宝物が好きだ。 足りなくなったら足せるのは嫌。 「略奪」という付与が好きだ。 失う悲しみをくれる。 「涙」という喜びが好きだ。 地面に落ちても拾ってくれる人がいる。 「人間」という機械が好きだ。 考えがあってちゃんと動かせる。 「歯車」という人が好きだ。 動かしている機械も同じなのがいい。 「駒」という仲間が好きだ。 チェスで強いところとか。 「善」という悪が好きだ。 後ろを振り返れば罪になる。 「戻る」という進歩が好きだ。 やり直しが効かないということは嫌いだ。 「生」という死が好きだ。 足がなくなるまで歩き続けることはできるけど。 「痛み」という癒しが好きだ。 生きることに囚われてはいけないから。 「知らない」と認めることが好きだ。 丸め込むことができない問題だってある。 「言わない」と言うことが好きだ。 想いを抑えたって無駄だと分かる。 「ダサい」というオシャレが好きだ。 悪人も善行をするのはこういうことだ。 「一口」という大口が好きだ。 傷つくのは嘘をついた人よりつかれた人だと再確認できる。 「嘘」という事実が好きだ。 元気だよと言って死んでしまう人を思い出す。 「罵倒」という称賛が好きだ。 かゆい言葉にも手が届く。 「汚い」という美しさが好きだ。 ただの美術品では届かない心の奥に染み渡る。 「馬鹿」という天才が好きだ。 天才の頭が悪いせいだ。 「号泣」という笑顔が好きだ。 微笑みを汚そうとする馬鹿者は涙で逃げていく。 「世界観」という世界観が大好きだ。 ただただひたすらに世界はたくさんあると。 その世界にはたくさんの人がいると。 今日この星のこの国で泣いている自分がこの世のすべてではないと思える。 「独特な世界観」という世界観を愛している。 そんな言葉も貰えず見放された 気持ちが 世界が モノが 人が どれくらいいただろうか数えたくなる。 自分を指差して「1」と唱えると 誰かが「0」と返す声があった。 どちらも好きだから 何があろうとそれの変化を防ぎたくて 見つめる目をとにかく塞ぎたくなかった。 何があろうと 愛すると 誓ったものだから。
深く暗い森の奥に、年老いたリスのおばあさんがひとり住んでいました。 おばあさんは毎朝、杖をつきながら森の奥へ 食べ物を探しに歩いて行きます。 ある日のこと。 木の実を拾っていると、聞きなれない鳴き声が耳に届きました。 「ピィ、ピィ、ピィ…」 声のする方へ向かうと、苔むした切り株の陰に小さな鳥の子どもがうずくまっていました。 羽はまだ生えそろわず、大きな口を開けて泣いています。 「どうしたんだい」 声をかけても鳴き続けるばかり。 「親とはぐれたんだね」 おばあさんはその子を抱きかかえ、家へ連れて帰りました。 小鳥はピィ、ピィと鳴き続けます。 おなかがすいているのでした。 けれど家の中に食べ物はありません。 おばあさんは虫を捕まえて食べさせましたが吐き出してしまいます。 花の種も駄目でした。 「困ったねぇ…何が食べたいんだい」 そこへ、ドンドンドンと扉を叩く音。 「ちょっと、ばあさん」 隣に住むおばさんリスでした。 「ピィピィうるさくてかなわないよ。静かにしておくれ」 「ごめんよ。子どもを拾ってきたんだけど、鳴きやまなくて困っているんだよ」 「なんだい、その汚い子どもは。とっとと捨ててしまいな」 そう言うと、おばさんは怒って帰っていきました。 翌日も小鳥は鳴きやみません。 おばあさんは隣の家を訪ねました。 「すまないが、少しだけドングリを分けてもらえないかね。あの子が欲しがるようなんだよ」 けれどおばさんは顔をしかめました。 「冗談じゃないよ。大事な実をあんな子にあげられるもんか。欲しいなら自分で取りに行くんだね」 おばあさんは黙って頭を下げると、心に決めました。 ──あの山の向こうに残る大きなドングリの木へ行こう。 それは若い頃の苦い思い出の場所でした。 夫と実を拾いに行ったとき、人間の作った広い道路を渡らねばなりませんでした。 そこで夫は車にひかれて命を落としたのです。 それからずっと、その道はおばあさんにとって恐ろしいものでした。 けれど今は違います。 小鳥のためなら、恐れを越えてもかまわない。 おばあさんは走り出しました。 轟音を立ててすれ違う車。 小さな足はもつれそうになりながらも、心はひとつの願いで満たされていました。 「どうにか…たどり着けたよ」 大木の根元には、黄金のように輝くドングリがたくさん落ちていました。 おばあさんはポケットに実を入れ、家へ帰ろうとします。 「さぁ、帰ろう。あの子が待っている」 けれど再び道路に立ったとき、老いた足は思うように動きませんでした。 ついによろめき、転んでしまいます。 ポケットから転がり落ちた大切な実。 それを拾おうとした瞬間──。 大きな車が、おばあさんの小さな体を飲み込んでいきました。 そのころ、家では小鳥がまだピィピィと鳴いていました。 やがて扉を叩く音が響きます。 「おい、ばあさん、いるのかい」 隣のおばさんリスでした。 けれど部屋の中にはおばあさんの姿はなく、ひとり、小鳥だけが鳴き続けています。 「うるさい子だねぇ。…仕方ない」 おばさんはしぶしぶ、自分の家からドングリを持ってきて口に放り込みました。 小鳥はしばらく鳴きやみましたが、すぐに吐き出し、また声をあげます。 「なんだいこの子は、もう知らないよ」 そう言い捨てておばさんは出ていきました。 おばあさんは、もう帰ってきません。 やがて鳴き声は途絶え、 小鳥は静かに、冷たくなって横たわりました。 森の奥に夜の帳が降りると、ただ木々だけがその小さな命の終わりを見守っていました。 ──物語はそこで終わりました。 照明が少しずつ明るくなり、朗読をしていた女性がマイクを握った。 「皆さま、本日はお忙しい中、弊社主催の投資セミナーにご参加いただき、ありがとうございます」 正面のスクリーンに、大きな文字が映し出された。 『未来の子どもたちのために、里山にドングリを植樹しよう』 すると、ステージのそでから、高級なスーツを着た中年の男が現れた。 拍手が響くなか、司会者が声を上げた。 「皆さま、お手元の資料をご覧ください」 資料には、植樹をするために必要な金額が書かれていた。 「高いな…」 参加者が、となり同士で小声で話している。 すると、気づいた男が、マイクを持ったままステージを降りた。 「この植樹は投資です。損はしません。ドングリの木を植える“権利”を買っていただく。何本でも構いません。それを親戚や友人に紹介すれば、その分の利益があなたに入る。これを繰り返すだけです」 男はゆっくりと会場を見渡し、声を張り上げた。 「植樹しますか?」 「植樹します」 そして一歩近づき、もう一度言った 「植樹しますか?」 「…植樹します」 男はほくそ笑みながら、小さく呟いた。 「よし。また、たくさん子どもが生まれた」
休憩所 お昼休みになると今までの静けさをチャラにするように騒がしくなる 沢山の人がお腹をすかせて席に着き しれた顔を突き合わせて会話を楽しむ人々 一人時間を楽しむ人々 読者をする人 物語を通してメッセージを受け取る人 頭が働かず言葉は出ないけど気持ちが伝わる 謝謝
「あの、変わってもらえませんか?」 「何をですか?」 「僕は、あの娘に介助をお願いしたい」 ベッドの上で、中年の男が視線を上げた。 「ここ、同性介助ですが」 「僕、見てるだけです」 「それって、結構セクハラですよ」 「合理的配慮でお願いします」 薄暗い部屋に、デジタル時計が光る。 「まぁ、上に相談してみます」 「僕、不安定になるかも……」 「はい。お大事に」 男は扉を閉めた。
新落語 誰もが知っている 「かいきの話」 今宵は、怪奇 このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている 怖い感じがする 文字を変更 怪奇 から 皆既 それからどうした 皆既日食となり となりの人と 見たい 感じがする こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
日曜日の朝、八時。 幹線道路脇に、二人の警官が立っている。 「先輩。雨降ってきたっすね」 「寒いな」 歩道の植え込みの影に、レーダーを置いた。 「なんか、ずるくないすっか?」 「なにが?」 「レーダー隠してるし」 「見えたら、スピード落とすだろ」 二人は、気づかれないよう、身をかがめた。 「なんかこの瞬間、ワクワクしません?」 「あぁ」 「この前、釣りに行ったときと、同じなんだよなぁ」 「獲物を取る感じだ」 すると、一台の車が速度を超えて走ってきた。 「きたぞ」 「あっ、スピード落とした」 「バラシたか……」 水しぶきを上げ、余裕の顔で通り過ぎた。 「流れもポイントも、いいんだけどなぁ」 「おぉ、きたぞ」 「大物ですよ」 大型トラックが、スピードを上げて近づいてくる。 「あせるなよ。よし、ヒット」 待機していたパトカーが、サイレンを鳴らす。 二人は、停車したトラックに駆け寄り、運転席の窓を叩いた。 「運転手さん、飛ばしてたね」 「はぁ……」 「で、なに急いでたの?」 「鮮度が命なんで……」
コンクリートを打つ雨音が、街全体を包んでいる。 夜も更け、朝のうちに開店した喫茶アルプスは、すでに店仕舞いをしてしまっていた。そこに男が傘をさしてやって来る。 「今日の朝、ハンカチを忘れてしまいましてね。赤い布に白い刺繍の」 鍵を閉めていなかった喫茶店のマスターは、眼鏡に手を添える。 男は口をあんぐりと開け、既に閉まってしまった扉を見た。 「まさか閉店しているとは」 雨が窓を叩く。 男はあっと声を上げ、手のひらを叩く。 「いや、その雨ですから」 マスターは外を見る。 雨は今も降り続けている。どこかの家では明け方まで雨だとテレビが言っている。 明日の準備に勤しむ学生もまた、てるてる坊主を作って吊るしている。 マスターと男は同じ時の中で同じ景色を見ていた。 雨粒が大きくなり、傘から垂れた水滴が喫茶店の床を濡らした時、沈黙が訪れた。
薄暗い草原に佇む青と赤、2つの影。 「どこかから、川の流れる音が聞こえる」 「あの雲はどこまで行くんだろう」 「それを私達は忘れてしまった」 「私達がどこから来たかも忘れた?」 「覚えてるの?」 「忘れた」 しばしの沈黙。草原に日が差し始める。 「瞼の裏側にも日の光りが届く」 「じっとしていると少し熱い」 「でも心地いい」 「足の裏が乾いてきたね」 草原が風に揺れる。 「少しくすぐったい」 「みんな目覚めてきたみたい」 遠くから聞こえる獣の足音。地を這う虫たちの気配。 「鳥たちも羽を撫で始めたわ」 「きっと川に向かう」 「私達と同じ 彼らも旅をする」 「あっ飛んでいった」 大きな翼が風を切る。2つの影はそれを愛おしむように見つめていた。 「西の空ね」 「彼らも果てを目指していたのかな」 「そうかもしれない」 「まだ旅は続ける?」 「いつかあの光を掴むまで」 「まだ遠い」 その声を遮るように一陣の風が吹く。しかし赤い影は答えた。 「辿り着くかも分からない」 どこまでも響く、清涼な声で青い影は問うた。 「どうして旅を始めたんだっけ」 「生れたから」 「生まれたから?」 赤い影は、その細長い指で草原の一点を指す。 「あそこに花があるでしょう?」 「まだ蕾だね」 「あれもいずれ種を撒く」 「風にのせて?」 赤い影は囁くように答えた。 「そう、だから私達も旅をする」 「遠くに行くために?」 足元では虫たちが列をなして葉を運んでいる。 「生れたことを忘れないために」 束の間、青い影は瞬きをし、言葉を探して発した。 「何かを残すために」 2つの影は続ける。 「あの光の方へ」 「あの風が吹く方へ」 ふと赤い影が目を開く。 「蕾が開いてきた」 頷きながら青い影は空を仰いだ。 「太陽が眩しい」 「また朝がくる」 空はもう、茜色に染まる時を終えようとしていた。青い影は空から目を逸らし草原を見渡す。 「あの鳥たちは、今どこにいるのかな」 赤い影は微かに笑い、答えた。 「夜明けよりも明るい所」 ガサと草の擦れあう音が響く。 「あっ新しい鳥が来た」 「私達もそろそろ行かなきゃ」 「どっちの方角に行く?」 「この鳥の来た方へ」 2つの影は立ち上がる。ずっと座っていたから、体は重くなっていた。 「靴を履こう」 「もうすっかり足が乾いてる」 「やっぱりもう一度だけ土を踏んでいこうかな」 すっと足を伸ばす青い影。 「柔らかい?」 「柔らかくてひんやりしてる」 「手のひらを当てても気持ちいいわ」 赤い影は、靴紐をきつく縛った手を休めるように地面に触れた。青い影も真似をする。 「本当だ」 赤い影は静かに立ち上がり、青い影の手をとった。 「さあ、行きましょう」 「さようなら」 青い影は草原に手を振った。 「長い夜明けだったわね」 「そうだね」 「私達は呼ばれている」 2つの影は見つめ合う。 「夜に?」 「次の朝に」 「じゃあそこへ行こう」 2つの影が地平線に視線を戻すと、時が動き出した。 「いつか辿り着くまで」 「歩き続けよう」 草原の夜は明けた。2つの影はもういない。
「長っ」 友達のレシートは、いつも長い。 ぼくが牛丼一杯を食べている間に、牛丼をお代わりしてデザートにカレーを飲むのだ。 そりゃあ、長くなる。 「財布が薄くなって大変さ!」 「お腹周りは太くなってるけどな」 「資本主義ボディと呼んでくれ!」 友達が景気良く腹を叩いたので、ぼくは思わず吹き出した。 デブ。 ヤセタイヤセタイと鳴く癖に、餌を人一倍喰らうモンスター。 友達と会うまでは軽蔑の対象であったが、ここまで割り切られると、いっそ楽しい。 「失礼」 エレベータが止まり、ベビーカーを押した人が乗るのを諦めていると、友達は颯爽とエレベーターの外に出た。 「どうぞ」 「え? でも」 「丁度、ダイエットのために階段を上がりたい気分だったのですよ」 「あ、ありがとうございます」 ベビーカーを押した人がエレベーターに乗り込んだ。 友達だけ下ろすのも気が引けたので、ぼくも降りた。 「おいおい。君まで降りる必要はなかったのに」 「ぼくもダイエットのため、階段で上がりたい気分だったから」 「君のどこに痩せる必要があるというんだい? それ以上痩せると、下敷きになってしまうよ?」 笑いながら、二人で階段を上り始める。 友達は早々に汗をかき初め、タオルで汗をぬぐっていた。 「それにしても」 「ん?」 「こういうとき、デブでよかったと思うよ! 他の人だと二人は降りなきゃベビーカーのスペースを確保できないけど、ぼくなら一人ですむからね!」 「草」 希望の階に到着すると、買い物をしていたベビーカーの人と目が合った。 ベビーカーの人が、こっちを見て会釈をしてくれたので、ぼくと友達も会釈を返しておいた。 「今日も、良い一日になりそうだ!」 「そうだね」 ぼくたちはそのまま、バイキングの店へと吸い込まれていった。 「さあ、食べるぞ!」
昨日、仕事から家に帰ると怒りが収まらず息もつけないほど愚痴を垂れ流していた 躁が来ている。かなり高い ここから降りたらかなり勢いがついて下までいきそうだ 酒を飲みながらテーブルに置いてあったマジックで身体に絵を描いていく 手、爪、肩、胸、乳首 夜中に目が覚めて怒りが嘘のように消えていた。ただ不安が止まらず妻を叩き起こして苦しみを吐露する。朝まで 二人とも寝ていないし、二人とも仕事だ。僕はフラフラで家を出る、いつものように息子を愛でて。昨日パパが早く帰ってきたと思って一緒にゲームしている途中で機嫌が悪くなって結局息子一人でゲームをしていた 息子と遊んでやりたかったのに最悪だ 朦朧とする 妻は仕事なんか休んでいいと言ってくれる これは長年の経験から言っていて、このまま無理をすると長期休まないと復帰できなくなるためだ。収入が無くなるのだ それなら少ない方がまだ良い でも体調が悪い時に限って休めない 休むのも辛いのだ 残り5%のバッテリーで一日過ごす感じに似ている 無駄遣いはせず、必要最低限にする それで何とか持たせる そんな感じだ 皆思うと思う。買い換えたほうが良いと
ゆれる 帰り道、自転車で川沿いを走っていた 夕陽が美しくあのオレンジの中へ向かっているようだ 夏草が盛りを迎え川を覆い隠している 草の葉の間にたゆたゆと水が流れている 少し漕いで後は自転車が勝手に進んでいく スピードが緩くなってまた漕いで コーナーを綺麗に曲がり長い坂を立ち漕ぎで進む 太ももが熱くなっていく カゴの中のペットボトルが揺れている 家までまだある 弟と犬がいる 親はどうでもいいけど あの頃に戻りたいとは思わない
何か寝られなくて機嫌が悪い。 指先が震えてくる。 世間では煙草のアニメがやっている。 煙草なんてそんないいもんじゃねーよ。 戦争中に配られるものなんだから。 政府に上納してる税金が膨れ上がる。 傭兵は死体の山を築く。 大麻とか覚醒剤でもやってろ。 そんで国に反乱を起こせ。 これは何の罪に問われるんだろう? あ、ヤバい国家転覆罪だ。 僕しか煙草を吸わなくなれば国は大麻でも解禁するだろう。 酒を静脈注射してろ。 もしくは肛門に流し込め。 本当にやりたいことやって捕まるなら本望だろう? ただし責任は取れ。 僕は花の盗撮と見るハラと詐欺罪で捕まりそうだ。 悪いことして金作ってもいいよ。 ただし上品さが必要だ。 幼稚園児の悪戯の延長みたいなことが多すぎる。 政治家なんてその最たるもんだろう? 俺より餓鬼っぽいことやって金もらってやがる。 大人が全部正しいならこんな世の中になってねえよ。 俺の弾倉は不思議パワーによってまた弾丸を詰められる。 でも使うのは料理の包丁で料理するだけ。 セルフレジで他人の仕事を奪う。 仕事のための仕事。 ハリボテの世界。 考えがまとまらない。 パスタの放射能は上がる一方。 金を儲けて石油を飲む店員は何処か寂しそうだ。 まあ働いて税金納めて貰ってるから僕は僕に出きることをしよう。 オーバーワークになってるやつはキ○ガイがまともかのどっちかしかいない気がする。 俺はキチ○イの方だが。 本物がやっかんでくる。 偽物は猫をいたぶる。 中庸は無視する。 あるいは中庸こそが本物かもしれない。 価値観の転覆。 俺の嫌いな派閥はまあ必要悪なんだろう。 俺は必要ない悪。 毒草。 人を殺すのに必要な人が摘み取る植物。 なるほど俺は煙草の葉っぱと同じなんだな。 合点がいった。 死にたがりが多い。 皆俺を吸っている(妄想)
物語が進むに連れて 出番を終えた登場人物達はオチが気になる 主人公はひたすらに話を進めていてオチまで気がまわらない 結局、話は大したオチもなく平和な締め方だたった 周りはがっかりしたが、主人公だけは安堵していた 「何もなくて良かった…」
郊外にある一軒家。 男がカメラを片手に、玄関の扉を開けた。 何十年も誰も住んでいない家。 家具には、白い布が掛けられていた。 「二階の奥……」 廊下に、きしむ音が響く。 階段を上がり、目的の部屋に入った。 「これか……」 男は窓際の白い布をめくり、中を確かめた。 そこには、ひじ掛けのついた古びた椅子があった。 横の机には、家主だった老婆の写真が立て掛けられている。 「皆さん、ご覧になってどうでしたか?」 スーツ姿の男が声をかけた。 部屋には、数人の男女がモニターの前に座っている。 男がスタッフに視線を送ると、窓際の椅子が運び込まれた。 「晩年、お婆さんはこの椅子に座り、外を眺めてました」 集まった男女は、緊張した顔で耳を傾けた。 「さぁ、皆さん。順番に椅子へ座ってみましょう」 机の上には、老婆の写真が置かれている。 「私は無理です……」 声が震える。 「大丈夫ですよ」 男が、そっと寄り添った。 女は恐る恐る、椅子のひじ掛けに手を掛けた。 そして、ゆっくりと腰を下ろした。 「がんばりましたね」 部屋に拍手が響いた。 すると、一人の男が手をあげた。 「先生。この椅子には、どんな因縁があるんですか?」 「……そんなものはありませんよ」 「でも、この写真の顔……」 スーツの男が、写真を手に取った。 「このお婆さん、私の母ですね」
なぜか部活の マネージャーになってしまった 高校のころのお話 学年で話し合って と、そうなってはいるけれど 実際は ひとりの声の大きな生徒による まさに、不意打ち ほかのみんなは 自分じゃないなら、と それで、わたしに 部長と一緒に 先生に報告に行く え? なんでお前? 言葉はなかったけど そんな顔が あからさまに マネージャーは 毎日 先生のところに行く ほとんど 毎日 怒鳴られる ほとんど 毎日 嫌そうな顔をされる ときどき おもいっきり 殴られる コイツのことは 殴ってもいいんだ 先生のその顔が言っていた 怒鳴らないで ください きちんと声を上げられなかった 殴らないで ください きちんと声を上げられなかった もう やめます きちんと声を上げられなかった なぜか部活の マネージャーになってしまった そんな 高校のころのお話
雑貨屋で買った、真っ白な便箋。 ぼくは、買ったそれを夜空に向けて、一分間待つ。 「できた!」 真っ白な便箋には夜空が映り、紫と黄色の鮮やかな色が浮かんでいた。 ぼくはペンを手に取り、彼女を顔を思い浮かべながら、文をしたためていく。 星の輝きが眩しい空の色は、都会では決して見ることができない。 文字を書いている間も視界に入り、思わず見とれるほどだ。 「驚いてくれるかな?」 遠くまでやって来たかいがあった。 そんな思いで、手紙を完成させる。 近くの郵便局で切手を買い、ポストへ投函。 田舎の消印が押されて、彼女に届くことだろう。 そして、数週間以上が経過する。 彼女から、返事が届く。 「……やられたなあ」 便箋に映るのは、鮮やかなオーロラ。 消印は、もはやなんて書いてあるのか、よく読めない。 国際郵便であることは確かだ。 「オーロラが、見てみたいな」 彼女からの返事を読みながら、次はどの空を映そうか考える。 彼女を驚かせることのできる、鮮やかな空はどこにあるのか考える。 「富士山でも登ろうかな? それとも、ギリシャやエジプトの歴史ある空とか?」 未だ見たことのない空を思い浮かべながら、ぼくは便箋を買うために雑貨屋へと向かった。
新落語 誰もが知っている 「げんぶつの話」 今宵は、けんぶつ このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている 見る人 文字を変更 けんぶつ からげんぶつ それからどうした 文句言う人 そのあとどうした あまりブツブツ 言われると お帰りいただきます こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
平日の午前。 男は整理券をもらうため、小走りでパチンコ屋に向かった。 「今日は勝つ気がする……」 ポケットの中の軍資金を握った。 すると、道路脇でかがんでいる女を見かけた。 「……あの婆さん」 アパートの隣に住む婆さんが、お地蔵様を雑巾で丁寧に拭いていた。 男は足を止めた。 「信じる者は救われるか」 鼻で笑う。 夕方。帰り道、うつむいて舌打ちをした。 「ん……」 隣の婆さんがビニール袋をぶら下げ、地蔵の前に立っている。 そして、気にする素振りもなく、お供え物と小銭を袋に入れた。 「婆さん、こずるいこと考えたな」 「なにがだ」 「いやいや、今、お供え物と小銭、盗ったろ」 婆さんは笑いながら、男を見た。 「この地蔵、私が通販で買って、ここに置いたんだ」 「なんだそれ」 「他にも、何か所も置いてるさ」 辺りが暗くなってきた。 「私はねぇ、ちゃんと考えて置いてるんだ。リピーターを増やすためにね」 そう言うと、地蔵を抱えた。 「それ、どこに持って行くんだ」 婆さんが振り向いた。 「……ここは儲けが少ない」
新落語 誰もが知っている 「きゅうりの話」 今宵は、きゅうり このような 言葉があるのは それは、 誰もが知っている 食べる 文字を変更 きゅうり から きょうり それからどうした きゅうり ならぬ 郷里 これはなに 地元の きゅうりを郷里に 帰って食べる こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
ただ電車の中で、気になったタイトルの曲を流してだだけ。 その曲は失恋ソングだった。 最終電車の中で人もいない車両で、彼と同棲してる最寄り駅までの道のりで失恋ソングを聴いていた。 それだけなのに、歌詞が痛いほど刺さって私は泣いていた。お酒が入っていたからかもしれないし、呑み友に彼の愚痴を聞いてもらったからかもしれないし、一人しかいない車両に乗っていたからかもしれない。 視界が歪んで、歌詞にのめり込んで泣いていた。 彼が好きで、大好きで、それなのに彼は私と同じ温度で私を愛してくれない。そう思っていた。 でも、それは見返りを求めた愛だったのかもしれない。恋愛をしてる私が私は好きだったのかもしれない。 そう思いながら最寄り駅まで後2駅。 彼を好きなのか、彼を好きな私が好きなのか。 ただ気になったタイトルの曲を再生して聴いていただけ。 君はきっと「そっか、ごめんね」と言うのだろう。止めて欲しい。止めて欲しくない。 私はワガママだ。 ただ気になったタイトルの曲を聴きながら何回も再生しながらの帰り道は、とても綺麗だった。 最後に目に焼き付けて帰ろう。 愛してたフリをして愛されていたフリをしてた。
男は猫を飼って、かれこれ数ヶ月経つ。 別に欲しかったわけでもないが、いつも一緒にいる。 男は一人暮らしをしている。 復学した大学に行きながら今日も猫の世話をする。 可愛がってるわけではない。 なぜか男は人前で猫をやたら見せたがるが。 猫はキャンパスでいつも毛が逆立っている。 見知った人にしか寄り付かない人見知りだ。 なぜ連れて行くのか? 男も離れたがってはいるし、猫も男を好んでいるわけではないが、なぜか離れられない。 男は講義をほどほどに受けた後、図書館に行く。 気がついたら猫は跡形もなくどこかへ消える。 しばらくしても見当たらないので、男は満足して帰路につく。 男は猫からいち早く離れたいのだ。 たいてい、夜になると突然部屋に戻る。 そして泣きながら引っ掻く。 厄介だ。 不思議なことに猫は爪ばかりやたら鋭利であとは曖昧だ。 男は胸に残る傷にかゆみを覚えながら睡眠薬をとり眠る。 次第に猫も落ち着きを見せて床につく。 不気味な猫を今日も殺し損ねた。
新落語 誰もが知っている「けんの話」 今宵は、剣の道 このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている 武道家 文字を変更 けん から げん それからどうし けん ならぬ げんをかつぐ こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
新落語 誰もが知っている 「こうそくの話」 今宵は、そくてい このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている.はかる 文字を変更 高速 から 低速 それからどうした 高速道路は 高速です 測定はキケンです お仕事は拘束 されているので しかたなし こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
夏祭りの屋台はやけに魅力的。夏の、夜の、それも非日常の。その枠組みに加えて、涼し気な浴衣姿、下駄の音、焼きそばの暴力的でパンチのきいたソースのにおい、方々から聞こえてくる話し声にこの時期しか耳にできない笛や太鼓の音もまじってくる。さわがしくも心地よい空間。 右手にキミのくちびると同じような色のあんず飴を持って、左手にはお店のおじさんがきちんと拭ってくれたと思われるラムネのビン。けれど、かすかに濡れている。走る雫は、キミの白くて細い腕を伝い、ヒジから地面へと落っこちた。 白地に青い花があしらわれた浴衣姿のキミを見て、その瞬間、大きくふくらんでいた僕の気持ちがみるみるしぼんでいく。両手がふさがっていたんじゃ手をつなげないじゃあないか。 ひとりひそかに憤っていると、 「これ持って」 と、キミがラムネのビンを差し出してくる。言われるまま僕はそれを取り、手を濡らす。 「行こっか」 キミの濡れた手が、空いている僕の手をさっと引いていく。 ―ああ、そういうことか よく冷えたラムネを胸に当て、やけに熱くなった鼓動をしずめる。
新落語 誰もが知っている 「お好み焼きの話」 今宵は、ヘラ このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている 作る人 文字を変更 ヘラ から ペラ それからどうした しゃべる人 そのあとどうした 妖怪人間ベラ まんがの人 これはなに おこのみ焼屋 お客の まんがの話題なんです こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
砂がこぼれ落ちるように 時計の針は、止まらない 時間はどんな人にも、等しく流れるもの でも、その時間の長さは人それぞれで その時間をどう過ごすかは、その人次第 いつか必ず来る、『終わりの日』 その日が来るまでに、あなたがしたい事は なに?
毎日 ぽちぽちと 見えない誰かと たたかうみたいに ポイントの 獲得に 精を出す ポイントのために 生きてるのでは ないのだけど 何かを 奪われていることは ないと思う ポイントのために 生きてるのでは ないのだけど 何かを 吸い取られてることも ないと思う ポイントのために 生きてるのでは ないのだけど ポイントが得られるのは うれしいと言えば うれしいことだ ポイントのために 生きてるのでは ないのだけど ポイントのために 生きてるのでは ないのだけど ポイントのために 生きてるのでは ないのだけど ポイントのために 生きてるのでは ないのだ
「誰か彼を止めないと……」 「それが、制裁だって言って聞く耳持たないんですよ」 「みんなが迷惑してるよね」 集まった代表たちが、深いため息をついた。 「この前も『我々は最強だ』って言ってたでしょ」 「そう、自分たちファーストってね」 「でも、一般人にケガさせるのはやりすぎ」 「黙ってるけど、君はどうなの? 仲間でしょ」 部屋の隅に、視線が集まった。 「すみません。一部が暴走してて。ぼくも、シャケくわえてた頃が懐かしいです」
「いやー、遂にお前がノーベル賞を取るとは。」 十席程度しかない狭い酒場のカウンターに二つの背中が並んでいた。 「お前ならいつか取れると思っていたよ。なんたって天才だからな。」 右に座る男がビール片手に言った。 「やめてくれよ。運が良かっただけだ。」 左に座る男は照れ臭いのか目を伏せた。 「結婚だって、お前に先を越されるし、俺は一体何だったらお前に勝てるって言うんだ。ずっと、お前と比べられる俺が不幸で仕方ないよ。」 右の男はすでに酔いが回っているようで、おぼつかない手付きでジョッキを勢いよくテーブルに置いた。 店の女将さんが一瞬、ビクリと二人の方に振り向き、笑いかけた。 「おい、そんな大声を出すんじゃないよ。恥ずかしい。」 左の男がひっそりとした声で右の男に注意した。 女将さんは口元を袖で隠すように、おしとやかに笑った。 「フフッ、大丈夫ですよ。今日はお客さんたちしかいませんから。それよりも、お話勝手に聞かせてもらったんですけど、もしかして、貴方いま話題の木村教授?」 「あ、はい。そうです。」 左の男は軽く頭を下げながら女将の問いに答えた。 「あら、この度はノーベル賞おめでとうございます。」 女将は美しい所作で木村という左の男へ祝福を示した。 そして、一杯注がせてくださいというと木村のお猪口へ酒を注いだ。 「どうも、すみません。」 木村は一気にその酒を流し込むと今度は、女将さんのために酒を注いだ。 「そんな、私はよかったのに。」 女将はそういったが、まんざらでもなさそうに酒を一口で飲み干してしまった。 右の男はすでにテーブルに突っ伏して大きいイビキをかいていた。 「私無知だから、あなたがどんな研究をして賞を取ったのか何も知らないの。教えてくださる?」 木村はなぜかその問いにすぐには答えず、ちびちびと酒を飲みながら数分にわたって腕時計を何度か確認していた。 数多くの客を相手してきた女将にとって、数分の沈黙など臆するに足らないものだった。しかし、目の前の頭脳明晰な男と彼の不可解な行動が女将を不安にさせた。 木村は長い沈黙の末、再び口を開いた。 「私の研究の成果は、簡単に言うと人間の潜在意識を呼び起こすんです。本人が隠しているはずの虚栄心、憎しみ、妬み、無関心なんかが無自覚のうちに出てしまう。」 女将も負けじとたっぷりと間を開けてから木村に言った。 「へえ、でもそんなことをして何の意味があるのかしら。」 「意味はありますよ、犯罪者の心理を読むこともできる。自白剤とは違うから、これから法整備も進むでしょう。どうです、もっと詳しいことも教えましょうか。」 木村は今度はすぐに女将へ返答した。 「いや、もういいわ。」 女将は本心からそう言った。 普段なら男が得意になって話す話題には興味がなくたって聞き入るふりをしていた。そういう商売なのだから。 はっとした女将が前を向くとすでにそこには、木村の姿はなかった。 カウンターには、すやすやと眠る木村の友人であろう男と二人分の代金が残されていた。
エンジンを止めると途端に一月の冷えた空気が全身を包み込んだ。 フルフェイスのヘルメットを外し、バイクから降りる。すると、その冷たさが耳や頬に直接刺さった。冬独特のそれは嫌いではないが、愛車の振動と熱から離れるこの瞬間は少しだけ寂しいものだ。 「はぁ……結構遠くまで来たな」 少し暗くなりはじめた空に、息の白さと熱が溶ける。 そろそろ何か自分にも買うか。とぼんやりと考えながらサービスエリアへと入る。自動ドアを境に、空調のきいた緩い空気が一気に纏わりついてくる。冷え切った体には嬉しいのだが、篭った空気は少し息苦しい。 「そういえば、樂から電子チケット来てたな」 ふと今朝のグループチャットを思い出す。 『誕生日おめでとうございます。ツーリングに行くんすよね?道中どぞ』 そんなメッセージと一緒に、後輩から送られてきたコーヒーチェーン店の電子チケットだ。ドリンク二杯分ほどがチャージされていて、行き帰りにちょうどいい。 「普段は署内の自販機かコンビニだしな。誕生日のぷち贅沢か」 そう独り言を口内で転がして、まっすぐコーヒーショップに向かった。 人気店だけあって店内は賑やかだった。とはいえ都心の店よりはましだ。 テイクアウトにして車で飲む人が多いのか、席には幾分か空きがある。これならそのままレジに行っても大丈夫そうだな、とまっすぐレジへ向かう。 「エスプレッソアフォガートフラペチーノをベンティで」 そう"いつもの"を頼む。せっかくの誕生日なのだから、限定メニューにしたりケーキをつけても良かったのだが、それはまぁ三人での時に取っておこう。 カップを持って席に座ると、プライベート用のスマホが通知を告げてきた。 「ん?先輩か樂か?」 二人なら少しばかり返信が遅れても問題ないだろう。とりあえず一口飲もう。 エスプレッソの苦味がまず口に広がった。そこからじんわりと広がる甘さに溜息が漏れる。 カップをテーブルに置きポケットからスマホを取り出すと、ロック画面に表示された文章に先ほどとは違う息がふっと漏れた。 「ははっ、そんなに待たれてたら早く帰んないとじゃん。ベンティ頼んじゃったよ」 あーあ、と言いながらも黒田泰斗は嬉しそうに笑った。
あの夏 ステイシーに ハイチュウを あげたんだった アタシの国には こんな食べものないよ はしゃぐステイシーの息は 青りんごが香っていた 帰っていくステイシーに ハイチュウを あげたんだった いちごと 青りんごと ステイシーは わたしを抱きしめ アタシの国には こんな食べものないよ と、その数日 何度もきいたことを またくり返した あの夏は とても暑かった ステイシーも とても熱かった
『それでは外で鬼ごっこをしましょうか』 先生からその掛け声があったのと同時に僕らは外に駆け出した。 クラスの誰もが、その声に応じていた。いつも静かなあの子や、しょっちゅう幼稚園に来ないあの静かな女の子すらも。特にあの女の子の母親はとても怖そうな人で、なぜだか記憶に残っている。 今日は氷増え鬼だった。 いつも以上に日差しが強く差していて、とても蒸していたし、中庭は皆の位置が見渡せるくらいの広さだから、先生は端からベンチに座って僕らをみていた。 じゃんけんの結果なんと、いつも静かなあの男の子がひとり、鬼になってしまった。彼は数を数えずに、周囲の子に近づいたので、皆は彼に「10かぞえるんだよ!」とこっぴどくいった。 彼は秒数を数えた後、しばらく周りをキョロキョロしていた。 皆が彼から逃げていく。 今日はいや、最近は、ずっと暑いから逃げているふりをして、日陰に隠れたり、遊具の上に身をかまえている子もいた。『僕もそれに混じった』。 しばらくして、彼はなぜだか泣いてしまった。 『あの女の子が駆け寄った』。
じゃわじゃわと 聞こえてくる セミの声 ラジオのなかからか 窓の外からなのか わからないくらい 頭が混乱している やはり夏の暑さの せいなのか 深夜ではない 昼のラジオは 少しだけ新鮮 透明性のある話題と にごりのない笑いと ひそかに隠される本音と 雨になるだろうか 週末のキャンプは 天気が心配だ セミの声が また 聞こえてきた ラジオのなかか 窓の外か わからないくらいの
「明日遊びに行かない?」 「ちょっと待って。『AI。明日、遊びにって大丈夫?』……うん、行こう行こう!」 「じゃあ、水族館とかどう?」 「ちょっと待って。『AI。明日遊びに行く場所、水族館はどう?』……うん、水族館いいね! 私も行きたかったんだ!」 友達は、いつもこう。 全ての判断に、AIを使う。 一度、AIを使うのをやめたらと行ったことがあるが、それさえもAIに相談し、AIの判断でいまも使い続けている。 いっそ、友達を止めてしまえばいいのじゃないかと思ったこともある。 でも、幼稚園からずっと一緒の腐れ縁だ。 心が、友達を手放す覚悟を決めさせてくれない。 時々、友達と同じように、スマホの中に入っているAIに質問すれば、正解をくれるんじゃないかと考えてしまう。 でも、悩み、苦しみ、葛藤することが人間だと私は思っている。 とても、判断を仰ぐ気なんて起きない。 「『AI。家に直帰した方がいいかな? それとも、どこかに寄り道した方がいいかな?』」 私と別れた後も、友達はスマホに話しかけていた。 友達に、人間らしい感情は残っているのか。 友達を、人間と呼んでいいのか。 私はまた悩みを一つ増やして、人間の苦しさを感じながら帰路についた。