知らない女

都会の明るい夜に慣れ過ぎて 深夜に散歩することが 習慣みたいになっていた でもやっちゃダメだったんだ 男だからと油断していたんだよ もしもこうなると知っていたら 外なんか出なかったのに その日は盆休みで帰省していた 夜遅くまで両親と酒を酌み交わす 二人は先に寝てしまったけれど 俺はどうにも寝付けなくて 酔い覚ましも兼ねて 深夜散歩に出かけることにした 一歩外に出て玄関を閉めると 辺りは途端に黒の陰影だけになり ポツポツと立ち並ぶ街頭だけが 黒い田んぼ道を照らしていた その光景に少し息を飲んだが スマホのライトを付ければ なんてことはなかった スマホのライトを頼りに歩く もう日付が変わる頃だったので 他に歩いている人はおらず たまに車が横切るだけだった 近づく車の音だけには注意しながら 夜風を感じながら歩く さてそろそろ帰ろうかと 来た道を戻ろうとしたときだった 振り返った先の黒い景色が 揺れているのに気づいた 直接ライトを向けるわけにもいかず 遠くてハッキリとは見えなかったが どうやら人影らしかった ライトも付けずに歩くなんてと思ったが 慣れていればそんなものかとも思えた 人影らしきものが近づくにつれて ライトがその足元を照らしていく サンダルとスカートの端が見える この人とすれ違ったら遠回りして帰ろう そんなことを考えていたときに 気づいた 恐らくは女が手に持っているのが 刃物だということに アルコールなんて吹き飛んで 全身から冷たい汗が吹き出した 呼吸は思わず止めてしまったが しかし足を止めるわけにはいかない 女を刺激しないようにライトを下げて ただただ祈りながら震える足を前に出す 女の足音がどんどん大きくなっていく 女の足元がライトの円の中に入り そうして通り過ぎていった 女の足音が徐々に小さくなっていく 俺はしばらく早歩きで進み続けてから ゆっくりと速度を落とし立ち止まった 辺りはしんと静かになった 俺の足音はもう聞こえない 女の足音も聞こえなかった ずずずと後ろを振り返る 黒い陰は立ち止まって その場でゆらめいていた 女がどちらを向いていたかはわからない だが俺は迷わずまた歩き出していた できるだけ遠くへ行かなければ 静かな夜に俺の足音が響いていく するとそれにもう一つの音が重なっていく 見たくなかったが見るしかなかった 足は止めないまま振り返ると ライトの先ではさっきの女が 小走りで追いかけてくるのが見えた そこからは無我夢中だった とにかく走って走って走りまくった そうして現在地もわからなくなった頃 ふと足を止めると足音が聞こえない 振り返って辺りを照らしたが もうあの女の姿は見当たらなかった まだどこかにいるかもしれない そう考えライトで周囲を照らし 警戒しながら家へと帰ることにした 結局のところ何事もなく 実家へ帰ることができた もしかしたら何かしら 俺の勘違いだったのかもしれない そんな風にすら思いながら 部屋に直行した俺はそのまま ベッドに倒れ込んで眠った 「朝ごはんいらないのー?」 母の声に目が覚めてリビングへと向かう 父はもう仕事へ向かったらしく 母は食器洗いをしていた 用意された朝食をすぐに食べ終えると キッチンに立つ母の元へ皿を運ぶ 「自分で片付けるなんて成長したわねー」 「それ毎年言ってるけどな」 そんな会話を交わしながら皿をシンクへ入れる ちょうどそのとき入れ替わりで 母がシンクから包丁を取り出して洗い始めた

出口

 人生に正解はないとは、よく言ったものだ。    進学。  就職。  恋愛。  どれもこれも、一方的に選択肢だけ差し出してきて、選んだ後に答え合わせさえさせてくれない。  答えがわかる時とは、もう引き返せないところまで来たときだ。   「こっちへおいで? 苦しくないよ?」    だからこそ、声はぼくたちを惹きつける。  人間たちを惹きつける。   「マンションから飛び降りよう」 「線路に飛び込もう」 「たくさん薬を飲もう」    正解なき人生という迷宮の、たった一つの出口。  死。    どの選択肢を選ぼうと、必ず隣についてくるイレギュラー。  どの選択肢を選ぼうと、必ず最後に辿り着くイレギュラー。   「どうせ、皆辿り着くんだ。早いか遅いかの違いだろ?」    何も見えない真っ暗闇からは、絶えず言葉が響いてくる。  歩きすぎて足が痛い。  考えすぎて頭が痛い。  真っ暗闇に染まってしまえば、もうこんな痛みからおさらばできるかもしれない。    そう考えると、ついつい出口に足が向いてしまう。   「うるせえばーか!」    出口に目を向けてしまったとき、ぼくは決まってアカンベーと舌を出す。  真っ暗闇の先にいるかいないかわからない何かに向かって。   「また誘うよ」    出口は、決してなくならない。  出口は、決してあきらめない。  束の間、沈黙をすることはあっても、消滅することはない。    ぼくは後ろを振り返る。  記憶に残っていない入口は、とっくの昔に見えなくなっている。  ぼくは再び前を向く。  痛む足を一歩踏み出し。  出口とは違う方向に、ほんの少しだけ進むことができた。    出口は、ぼくの一歩分と同じ距離だけ動いて、ぼくの隣をやっぱりついてきた。

6次の隔たり

朝早く、窓際に置かれた文机に、年寄りの男が座った。 便箋を前に、万年筆を握っている。 横には、分厚い英和辞典が置かれていた。 「あんた、何してんの?」 妻が声を掛けた。 「手紙だ」 「はぁ……誰に出すんだ?」 「あいつだ」 ニュース番組に映る、大きな男を指した。 「俺らの生活がキツいの、あいつのせいだろ」 指で机を叩いた。 「まぁな。でも、読んでくれないだろ」 「大丈夫だ。考えがある」 ニヤけ顔の男。 「友だちの友だちをたどると、7人目であいつに届く」 「バカなこと言うな」 「俺も知らんよ。でも、そうなってるらしい」 手紙を書き終えると、封筒に便箋を入れた。 「で……最初は誰に渡すんだ?」 「あぁ、公民館の将棋仲間だ。大学出らしいからな」 男は、封筒を手に家を出た。 ──数日後。 「おい。いるか?」 近所の魚屋のオヤジが訪ねてきた。 「おぉ、どうした」 「ちょっと、頼みがあってな」 その手には、見覚えのある封筒が握られていた。

大人の階段

しめじを食べれるようになった。 小さい頃に椎茸を食べたときに 抱いた感想は「気持ち悪い」だった。 ブニブニとした食感と、独特の土の臭いが 私の神経を逆撫でしたのだ。 それまでは食べれていたエノキもなめこも 嫌なところばかりが気になるようになって きのこの類を拒絶するようになってしまった。 中学生になると私はきのこの出汁などなら 許容できると理解した。 いや、今考えると「そう思い込んだ」と 言った方が正しいだろう。 高校生の今、始めて1年ほど経つ アルバイト先のメニューが変わった。 以前からやっていた煮込みうどんに 肉やレタスやしめじやらが追加された。 試食を食べた。元々濃い味付けだからか、 風味などは気にならなかった。 勇気を出してしめじを口に入れた。 意外にもそれは悪くはない味だった。 しかし、私がそれに気付いたときの感情は 衝撃でも感動でもなく、 多分の呆然と幾分かの寂しさだった。 つまるところ、私はもう二度と思い出せないのだ。 あの時の感触を、臭いを、感情を 忘れることで大人になってしまうのだ。 たかがしめじで大袈裟な。と、思うかもしれない。 だがこれは重大なのである。 結局のところ子供から大人への道は一方通行で 戻ることは許されない。 煮込みうどんはあくまできっかけにすぎなく、 そういったことでしか私はそれを認識できないのだ。 これは成長ではない。 これが大人になることなら、それはもう退化だ。 私はもう二度と、あの日の幼い自分を 真っ直ぐに肯定することができないのだ。

貢献度

 クラスに天才が一人いました。  天才は、絵を書くのがとても上手でした。  天才の描いた絵は、いつもコンテストで日本一になりました。    天才には、二人の幼馴染がいました。  白い幼馴染と黒い幼馴染です。    白い幼馴染は言いました。   「この子はね、自由にさせとくのが、一番いいんだよ」    白い幼馴染は、天才とはほとんど話しません。  毎日の挨拶でしか話しません。  それが、天才の為だと言っています。   「この子はね、インスピレーションになるものをあげるのが、一番いんだよ」    黒い幼馴染は、天才にいつも話しかけます。  暇さえあれば話しかけます。  それが、天才の為だと言っています。    ある日、天才の作品がついに世界で注目されました。  白と黒。  モノクロで描かれた作品は、世界中の全ての色を凝縮したかの如く、鮮やかでした。    白い幼馴染は言いました。   「ほら、私が自由にさせたから、この子は過去最高の絵が描けた」    黒い幼馴染は言いました。   「ほら、私がたくさんアドバイスしたから、この子は過去最高の絵が描けた」    天才は、今日も絵を描いています。  今までと変わらずに。    白い幼馴染と黒い幼馴染は、今日も天才のために何かをしています。  今までと変わらずに。

道半ばで。

 どうしよう。声が震えて、足がすくむ。  階段を歩いていた。死んで、気づけば登っていた。ふと振り返ると、踏んだはずの段がなかった。慌てて、消えかけた数段下に飛び移って…振り向くと、上の段も消えていた。  登ることも、下ることもできない。段に腰掛けてうずくまる。雲も霞む塔の上、階段の狭間で一人。空の孤島に浮いている。…心細くて、怖くて、小さく震えた。  「…ル!ファエル!」  風に乗って、私を呼ぶ声が、耳に響いた。  「どこ?」  はっとして、顔を上げる。リャーシャの声。温かい。あぁ、どこから聞こえてくるのだろう。向こう側で、私を呼んでいるのだろうか。  ごめん、そっちには行けない。  死ななければよかった。こんなことなら。悔しさが全身を駆け巡る。ここにいるか地獄に堕ちるか、どっちが楽だろうか?なんて考えが掠めて、鼓動を速めた。  なんでこんなことに…  「ファエル!?」  ――ふと、視線が合う。  「リャーシャ…?」  思わず呟くと、すぐ下で彼は、微笑みを見せた。  「…!ファエル、助けに来たよっ。」  リャーシャが手を振っている。  「ファエルっ!」  眩しい。  「え、あ…。なんで…。」  リャーシャは数段下の、踊場があった辺りで、宙に浮いて、私を見つめていた。  「ここに来て!」  彼は途中までしか行けないのか、ぐっと腕を伸ばして、私に呼びかけた。え、と息を吸う。  「私は飛べないよ!」  雲海が数メートルも、口を開けていた。  「僕だって飛べないんだ!でも来てよ、帰ろうよ!」  手を差し伸べてくれているリャーシャが…空中で、駆け出して……。  「やめて、跳ばないでっ!」  そこで踏み切った。  「そんな…っ!」  次の瞬間、私は身を投げていた。風の中へ。空の下へ。もう戻れない、引き返せない、目を閉じる。  何でこんなこと…。さっきから、私は何を……。  落ちる――  宙に浮き、ひらり舞って。途端、強く引かれた片手が痛む。  「…?」  薄目を開けると、宙づりだった。広大な空中で、リャーシャが私を掴んでいるらしい。…怖くなって目を閉じた。  あとどのくらいで…。  「ファエル?…もう。高いところから飛び降りる覚悟なら、さっきしたんだろ?」  すぐそばで声がした。そっと触れられて、閉じていた瞼を思わず開く。…空にいる。何もないのに。優しい言葉が、私を呼んでいる。  「え、リャーシャ…?」  「ファエル…よかった!大丈夫?」  そっと抱き留められて、全身の力が抜けていく。そのままリャーシャに寄りかかると、涙が溢れ出した。  「ファエル?」  泣きたいのを堪えきれなくなって、両目に溜めていた雫が、頬を伝う。  「…大丈夫だよ。ありがとう。」  そう答えると、リャーシャは笑いかけてくれた。抱きかかえられたまま、空気の階段を踏みしめるように、彼は下へ降りていく。  「一段飛ばしで来たんだ。早く行こう!」  あぁ、リャーシャが助けてくれた。安堵感が込み上げてきて、幸せにさえ思える。  「…うん!」  雲の中、顔に当たる霧は冷たい。けれど、リャーシャがいるから、全然寒くなかった。  「ねぇ、その…何で、ここに来たの?」  不意に話しかけられて、本当のことを呟く。  「…全部諦めたら、逃げたくなっちゃって。」  すると、リャーシャが突然足を止めて、私を見た。  「もっと良い逃げ場所だって…あったのに。」  そうだよね、と呟くと、彼は続ける。  「僕の隣…なんて。」  いつの間にか、また走り出していた。リャーシャは少しだけ、照れたようにも見える。  「そうだね。」  聞こえたか聞こえないか、そう返した。  建物の床が見えてきたとき、足が止まる。  「…飛ぶよ。」  八段ほどあるだろうか。驚いて目を合わせる。  「ここまで、普通に登っちゃったから。」  そう言うなり彼は跳んで、途中で私を放した。繋いだ手だけが伸びて、離れかけて…着地する。地面に触れると、急に元気になった。  「怪我した?」  「ううん、平気そう。」  リャーシャに手を引かれるまま、光へ向かって、踊るように駆け出した。  目を覚ますと、病室で横たわっていた。ふと見れば、私のベッドに顔を沈めて、誰かが眠っている。  「…リャーシャ!」  揺り起こすと、丁度目が覚めたようで、彼は私を見た。  「あ、ファエル、えっと…ごめん。」  頬を染めたリャーシャを見て、微笑むと、彼は呟いた。  「ファエル…好きだよ。」  え、と瞬きする。  「リャーシャ?本当に…?」  頷くのを待ち切れず、私は体を起こして、抱きしめていた。  「私も、リャーシャが好き。」  傍で、優しい声がする。  「ファエル、大丈夫。一緒にいよう。」  うん、と答えて、手を取り合った。

満月の話

今夜はやけに月が明るい。雲ひとつない空に浮かぶ満月を見上げながら、俺は村の中を歩いていた。窓を開けて眠りにつこうと思ったのだが、どうにも落ち着かない。冷たい風が入ってくるたび、何かを探すように鼻を鳴らしてしまう。妙な癖だ。子どもの頃はこんな癖なんてなかったはずなのに。最近は気がつくと、すんっと音を立てて空気を吸い込んでしまう。村では数日前から、家畜が襲われる騒ぎが多発している。危険だからと皆、夜の外出を避けるようになった。馬鹿馬鹿しい話だ。そう思いながら歩いていると、視界の端で何かが動いた。俺と同じく、満月に誘われた人間らしい。声をかけようと口を開いた、その瞬間。 視界が暗転した。 誰かの叫び声で目を覚ました。いつものベッド。開いた窓。差し込む朝日。首をひねる。……夜の散歩は、夢だったのか?すんっと鼻を鳴らす。開け放った窓から、酸っぱくてうまそうなにおいがする。不思議なことに、俺の服からも同じにおいがした。 まだ、腹が減っている。

頬に手を添えるのが合図だといいな

#キスシーンを14字で書く (2026年10月投稿) ・レモン味だなんて嘘っぱち ・吐息ごと桃の果実を食んで ・笑う木漏れ日の中で影を重ねる

トースターの灯火

見たこともない虫を見つけて固まっていたら、こちらに向かって飛んでくる悪夢を見た 夢で良かったと何度も思ってベッドを抜け出す 細い妻の肩に毛布をかけ直すと、真っ直ぐな髪がサラリと流れた キッチンの小さな明かりをつけて顔を洗う。水が温かく感じる 曇りガラスの向こうはぼんやりと青い テーブルからバケットを持ってきて薄く切る 冷蔵庫を開けて丸いタッパを取り出す 箸を探すがペアが見つからず黄色と赤のペアを使うことにした 昨夜の妻の肉じゃがをバケットに乗せトースターであたためる 暗い部屋で赤い灯りが美しい タッパの蓋を閉めようとしたが、一本の髪の毛があるのを見つけた。取り出すと長く真っ直ぐな妻の髪だった それを口に入れ飲み込む 昔、君の髪の毛が欲しいと言ったことがあった。あの髪の毛は今、口の中にある。 あんな細い髪の毛は喉の中でも妻のままで強くしなやかだ。 少しむせたので牛乳を飲んで流し込む 願いは別にあるのだけれど また、何処か遠くで叶うものかもしれない チーンと音が鳴る

あのね

#文字書きさんILoveYouを訳してみてください (2026年10月投稿) どうか私と、死んでいただけませんか。

ペット

 犬を買った。  犬を飼った。  大切にした。    きっと、犬は幸せな生活をしていると信じていた。   「ほら、餌だよ」    ある日、人間と犬が逆転した。  犬が知的生命体。  人間が言語を解さぬ畜生。    俺は、かつてのペットの犬に飼われていた。   「美味しい?」    犬は、俺を大切にしてくれた。  家の中では自由。  ご飯も三食くれる。    俺が、ペットの犬にしていたのと同じ待遇をしてくれた。    無理だ。  誰か助けて。  こんな生活、窮屈すぎて死にたくなる。    幸せなペット生活は、地獄だ。

コンドーム(ゴムオナで使っちゃった勿体ない)

 うちにコンドームが無い。 ゴムオナやめなよ、って元カノに言われたことがある。 非常に勿体ない。 性行為は必要なのだが妊娠の可能性があるものだ。 そもそも無職のプー(僕)に子供が出来たら偉いことになる。 国が率先して子供を減らす政策を取っている。 僕は美しく彼女も美しいのだが(偉い勝ち気だ妬まれるだろうか?)残念ながら美しいだけでは子育ては出来ない。 あるいは僕は醜い動くアメーバになれば(つまり倫理観を捨てれば)金は稼げるかも知れない。 弱いものが滅ぶとも限らないのだが美しいものが生き残るとも言い切れない。 難しい問題だ。 美醜の問題はさておき貧富の話だ。 しかしめんどくさいので皆四角い箱でも被って(あるいはそういうファッションでも流行ればいいのだ)歩けば美醜の問題は表向きはなくなるかも知れない。 そもそも皆たいして変わらない格好をしているのだし。 外見の話になるとめんどくさくなる。 僕が悩んでいる事は些事かも知れない。 いや、そもそもゴリラと象の恋なのだ、人間は関係ない(美しさの基準が違うのだ、と思うことにしよう) 自然界も美しさを競う。 僕は生来それが苦手だ。 生命は生命なのだが僕は彼女の魔法(秘術?)によって非常に人間社会に溶け込みやすく(そして乖離させられやすくなる) めんどくさくなってきた。 ようは皆見世物で金儲けをしようとしているだけなのかも知れない(また金の話だ) 凄く袋小路。 もう少しファッション的に世の中を見るといいのかもしれない。 ファッションの語源はファシズムと言う説もある(どうだったかな?) めんどくさくなってきた。 あるいはTシャツ1枚で下駄突っ掛けて煙草燻らせながら世の中の事なんて知るかよってやってれば楽かもしれない。 金があってそれをやってれば様になるが貧乏だとちょっとみっともないかもしれない。 人生にボツを食らいそうな僕は煙草が切れたので不機嫌なまま寝る。

ネタ切れなので恋愛ものを書いてみた。

ある日の午後。 若い男女が手を繋いで歩いていた。 「見て見て。あそこ」 「……なに?」 高齢の男女が手を繋いで歩いている。 「なんか、可愛いよね」 「僕たちも、あんな風になりたいね」 二人が、見つめ合った。 「見て。あの人たち」 「……どこ?」 中年の男女が手を繋いで歩いている。 「なんか、気持ち悪い」 「生々しいな」

ユタンポ

 わたしが提案しました「ユタンポ」というタイトル、ただギャップを狙っただけではなかったわけですが、作者さまには安易に提案したと透けて見えてしまったのか「とってもアホっぽくてステキですわね」とのひと言まで頂戴いたしました。  ご指摘のとおり、そのあたりの時期、田山花袋の作品を読んでおりました。「ユタンポ」の提案についても花袋に引っ張られてのことと、こちらとしても当然、認識があります。そのことで、ますますもって安易だと感じられたのも、やはり、いま考えますと無理のないことかなと。花袋を意識していなかったとしても、受け入れられていないようにも思いましたし。  あの作品、花袋を意識してなんていないのでしょうか? 紹介文や解説文を掲載しないように申し出をされてきたのは、花袋との関連にふれられるのを嫌ったためでしょうか? もちろん、そのあたりにはふれるつもりでおりましたから、流石ですとしか。  わたしが安易に「ユタンポ」などと不用意な提案をせずにいましたら、あの作品は「誓い」というタイトルで掲載されていたのは確かなことです。自分でしでかしたこととはいえ残念でなりませんが「ユタンポ」などと提案してくるようなところに、ご自身の作品を預けるなどということは到底できない、そう思われてしまうのも致し方ないように感じます。作品の取り下げ、掲載をしないことも、もちろん、こちらとしては受け入れるつもりです。  そもそも掲載にはこだわっていないご様子、ある程度、認められればそれでいいというスタンスなのでしょうか。あなたのやっていることの方向性は、間違ったものではないと考えます。とはいえ「ユタンポ」などと提案してしまうような人物の見解です、信用に値するとも思えないのでしょうが。  あなたからの数々のお言葉、いまもって胸にきつく残っております。そのすべてを忘れず、今後も編集作業を続けてまいろうとの決意でおります。残念な思いをさせることになってしまい、まことに申し訳ないことと深く感じております。今後のご活躍をお祈りいたしております。

船長の流儀

「スタジオのみなさーん、私は今、船に乗って海の上に来ています」 カメラが、遠くの港町を映した。 「お父さん、ここはどんな魚が獲れますか?」 「そうだなぁ。網揚げた時のお楽しみだ」 日焼けした船長が、舵をとりながら振り返った。 「ここですか?」 「おぉ、網仕掛けてある」 ボタンを押すと、網が動き出した。 「いろんな魚がいますね」 「姉ちゃん、タコ獲れたぞ」 大きなタコが、網にかかっている。 「わぁ、凄い」 「食ってみるか」 「いいんですか?」 使い古されたまな板の上で、足を一本切った。 「まだ、動いてますね」 画面には、ぶつ切りにされた足と、船長の汚れた手が映っている。 「姉ちゃん、食え」 「お味はどうですか?」 スタジオから、声が掛かる。 女は目を閉じ、小さく息をのんだ。

シルバー

シルバーは長四角のメガネをかけた狼だ シルバーのベストを着て自転車を漕ぐ シルバーの家には7匹の狼が一緒に暮らしている シルバーは少しとっつきにくい性格で一度話しただけだと嫌な奴と思ってしまう シルバーとはそんな狼だ 霧深い湿原の早朝を鼻唄を歌いながら自転車を漕ぐシルバー 彼は化けて人の姿になり街へとくり出す 今日の彼の目的は、お気に入りカフェでアッサムを飲むこと シルバーの漕ぐ自転車は、梨の木を通り過ぎ、森の川を越えて進んでいく 海が見えるところまでくれば、すっかり人の姿に変わっている。勿論メガネもベストもそのままで。今日は春の装いに扮している。 自転車が止まる。カフェ「素数」にやってきた。 扉を開けて窓の側の席に着く 彼のお気に入りの場所だ 座り一度外を眺め眼鏡を直す マスターは何も言わずアッサムを置き、また、カウンターの奥へと戻っていく シルバーがカップを持つと同時に素数の扉が開いた 黒い長いストレート チョコレートの様な黒い肌にゴールドのドレスを着ている 大きな瞳の彼女はシルバーの前に座る 他に客はいない 「猫だな」 「あんたは犬ね」 「狼だ」 「あんた、レット・イット・ビーを歌える?」 「何の話だ」 窓を見るとゴールドのベストを着た男がニヤニヤ笑っている

今宵は満月には程遠く

バナナを食べてるからって、お月さままでバナナみたいなカタチにならなくってもいいのにさ いまの気持ちとしてはグレープフルーツ そう、グレープフルーツみたいなまんまるのお月さまをみてみたかったのに でも半分に切ってみると果肉はほんのり赤くってルビー色のグレープフルーツ そう、そんなお月さま スプーンですくった塊は、とるんと、でも音もなく口のなかにすべっていく わたしの弱い部分に痛みを与えてくれながらも、唇に、かすかな苦みを残す あの人がわたしにしたみたいに、飛び跳ねたい気持ちが、瞬時に暗い湖の底 珈琲のなかに映るお月さまがあんまりきれいすぎて、カップを空ける決心ができない 待っていればお月さまが傾いて、カップから消えてしまうのだろう それまで、飲むのはおあずけ

調子が悪いのでIQ1兆の小学生にIQ300のノイマンの受けた罰を食らいそう

 な僕だ。 女のケツばかり追いかけてたらそりゃ精神科に幽閉もされる。 実際にはIQ1兆~10兆くらいの人が今日も金のためにしょうもない仕事をしているのでビーカーの中のミドリムシの僕は実験や虫捕りの暇潰しにフリー素材として扱われる(えらい妄想だ) 犬は文章を書くのもめんどくさくなってきた(怠惰)ので乞食寸前の生活を楽しむ。

拝啓 あの女の子さま

拝啓 あの女の子さま いま、どうされていますか? 中学のあのとき あなたと同じクラスだったわたしは あなたの憎まれ役を きちんと務められていましたか? ふふふ ねえ いま、どうされていますか? 敬具

彼女が熱を出したので僕は思念波を(文章で)送る

 思念波(念動力)の送り方は学校や資格では教えてくれない。 あるいは僕が悪い奴ならばうちの水道水や自分の尿、唾、爪などを飲むと治るよ、と言って売り付けることも出来る。 それは後で打首獄門になるのでやらないが(あるいは確定しているのかも知れないが) なので文章で勝手に思念波を送る(これは感情の押し売りとも取れる) 治るものは勝手に治る。 それは細胞の中のマクロファージ(あまり医学に詳しくない)や房中術(あまりタオを齧ってない)などで治りがよくなるのかもしれないが科学も宗教も中途半端な僕は病気のプッシーキャットの前にオロオロするばかりだ。 あるいはゲームみたいに歌でもって(これもオカルトだ)治癒すればいいのかもしれない。 そういえば彼女とカラオケに行っていない。 あるいは僕が楽器が弾けたならば一緒に公園でも行って(あるいは山か海に行き)歌えば調子がよくなるのかも知れない。 君は今日熱を出した。 僕は焦って走り出した。 会えるのか?明日。 よく聞けそこの売女。 等とあまりうまくないリリックをひねり出すが調子がでない。 あとは僕の描いた絵でも見せて気持ちを落ち着かせる、などのアーリートリートメントなどをすればいいのかもしれない。 犬は本を読む時間をたばこに費やし資本主義から締め出しを食らう。

ひかり

仮にその女の子の名前を 「ひかり」として でもべつに 好きなのでもない ただ牛乳ときくと 頭から離れなくなる 服の上からでも容易にわかる 胸のふくらみが なぜだか妙に 胸だけが それで 「ひかり」のそのほかのことを 僕はまったく知らない

野乃と「のの」

せわしないけれど 生きてるなあ という気がする 生かされてるのではなく 生きている そんな気がする 昨日の晩は マウスに手をかけたまま パソコンの前でつっぷして 眠ってしまっていた 私の膝の上では 「のの」が眠っていた 「のの」は何も言わず ただただ、そばにいてくれた カーテンを開けると外は、真っ黒い雲で覆われている まだ一日がはじまったばかりだというのに 私のなかのしあわせが、にげてしまったみたいな気になる 最近の不調に、私はうまく、より添えていない そんな私に「のの」はより添ってくれる 回復だ、とにかく回復だ ほどよくあたためた牛乳と 黄金いろのあまあいあまあいハチミツ からだにとりこまなければ 何はなくともそうしなければ 午後になって「のの」が私を呼ぶ  おい  ちょっと  こっち  来てみな そんな感じに 「のの」が窓ぎわで呼んでいる  だから  はやいとこ  こっち  来てみな そんな感じに それで行ってみる  見てみろ  青空だぞ 「のの」が言っている そんな感じに 「ちょぴっと元気が出てきたぞう」 あえて、大きな声で言ってみた

廃墟の古時計

 その古時計は、廃墟の中で動き続けていた。  本来ならば、メンテナンスをしてくれる人間がいなくなった時点で動かなくなっている時計。  しかし、メンテナンスフリーを謳って作られたその古時計には、メンテナンスが必要なかった。  電波を受信して時刻が自動修正。  太陽電池を使って自動充電。    古時計は、ずっと目の前の廊下を見続けた。  開くはずのない玄関は、数年に一度開いた。    廃墟探索を生業にする配信者。  肝試しに来た子供たち。  金目の物を探す泥棒。    皆が期待しながら入って来て、期待外れの顔をして出て行く。  かつての住人は亡くなったし、目ぼしい物は子孫たちが持ち出した後。  魅力がないのも仕方ない。    古時計は、時を刻み続けた。  誰のためというわけではない。  ただ、そう設計されているから、従っているだけだ。    カッチカッチと秒針を刻み、一時間に一回ボーンと音を鳴らす。       「やあ、これは驚いた。まだ、時計があったとは」    数百年後。  一人の男が、古時計を見つけて驚いた。  男は古時計の時刻版をまじまじと眺めながら、小さな笑みを零した。  男の背後から、女の子が顔を出して問いかける。   「先生? 時計って何ですか?」 「時間を見るための機械だよ」 「? 時間なんて見て、何になるんですか?」 「昔はね、何をするにも時間が基準だったんだよ」    男は古時計をすみからすみまで観察し、電源を切るためのボタンを見つけた。  そして、優しく手を置いた。   「ずっと動いてきたのか。もう、休むといい」 「え? 止めちゃうんですか? せっかく珍しいのに」    女の子がうるうると瞳を潤ませるが、男は無言で頷いた。   「時間を知り続けるのは不幸な事だよ。自分がどれだけ苦しみ続けているか、はっきり数字で分かっちゃうからね。それは、物も同じなのさ」 「そういうものですか?」 「そういうものなんだ」    男はボタンを押した。  時を刻んでいた秒針は止まり、太陽電池は自身の役割を放棄した。  古時計は、完全に沈黙をした。  まるで、廃墟の一部になったかのように。   「さ、行くよ」 「え? 家の中、探検しないんですか?」 「しようと思ったけど、大分傷んでいる。歩くと床が抜けて危なそうだ」 「……はーい」    玄関をくぐって、二人が出て行く。  古時計は、そんな二人の背を見ることもなく、眠り続けた。

21 Cent

1991年3月16日 ロサンゼルス ラターシャ・ハーリンズは、弁護士になりたかった。 黒いスーツを着て法廷に立ち、誰かのために話す。声の小さな人の言葉を、誰にも聞き流されないようにする。そんな自分を想像すると、十五歳の少女は少しだけ背筋が伸びた。 土曜日の朝、窓の外にはいつもの街があった。電線にとまる鳥、道を行く古い車、隣家から漏れる笑い声。どこかの家ではラジオが鳴っている。知らない曲でも、リズムだけは聞き覚えがあった。 彼女はカーテンを少し開けた。青空の下で街はもう動き始めている。誰かが仕事へ出かけ、誰かがまだ眠っている。自分は今日は何をしよう。そんなことを考えられる、ごく普通の朝だった。 ニュースでは、このあたりを「危険な地域」と呼ぶことがある。でもラターシャにとっては学校の友達がいて、挨拶を交わす近所の人がいて、帰る家がある場所だった。 もちろん、いいことばかりではない。夜に銃声が聞こえる日もあれば、大人たちが家賃や仕事のことで口論する日もある。この街ではときどき、誰かの話が最初から信じてもらえない。 だから彼女は、弁護士になりたかったのかもしれない。 学校で間違いを指摘されたら、なぜ間違いなのか知りたい。友達同士が喧嘩をしたら、片方の話だけでは決めたくない。彼女の正義は難しい法律の本よりも先に、そんな小さな疑問から始まっていた。 机には学校のノートが開いていた。やりかけの宿題。月曜までに終わらせればいい。十五歳には、そういう小さな予定がいくつもあった。 朝食にオレンジジュースが欲しかった。 冷蔵庫を開けても、目当てのものがない。近所の店までなら遠くない。往復しても大した時間はかからないはずだ。 ラターシャは2ドルを持って玄関を出た。三月の風は少し冷たい。信号待ちの車の窓から聞こえてくる、マライア・キャリーのサムデイに合わせて恥ずかしそうに踊りながら歩く。彼女の最近のお気に入りの曲だった。 いつか自分でも車を運転するだろうか。高校を卒業したらどこへ行くだろう。法廷では最初にどんな言葉を話すだろう。 角を曲がると店が見えた。いつもと同じ道だ。 近所の食料品店に入り、オレンジジュースを手に取る。値段は1ドル79セント。 「おい」 店主のどこまでも低い声が背中に突き刺さる。 「どこへ持っていくつもりだ」 払うつもりだった。お金も持っていた。 そんな当たり前のことが、どうして伝わらないのだろう。 手の中にある2ドルを見せても信じてもらえなかった。 怒りが沸々と湧いてくる。 -私は弁護士になるんだ- 彼女は自分の正義を譲ることなんてできなかった。 「黒人だから普通にジュースも買うことも許されないの?」 そこからの会話はあまり覚えていない。 言い争いは激しくなり、店主が彼女の服を掴む。ラターシャは振りほどこうとした。そしてついに彼女は店主を殴ってしまった。 店主の怒りは頂点に達し、椅子を投げる。 涙が込み上げてきた。もうここにはいたくない。 ジュースなんてもう、どうでもいい。 ジュースを置き、出口に向かう。 扉まで、あと数歩。 * あの日から、ラターシャの名前は何度も呼ばれた。 けれど、家の中には別の静けさが残った。もう開かれないノート。返事のない呼びかけ。いつもなら帰ってくるはずの時間に開かない玄関の扉。 「韓国人店主に射殺された十五歳の少女」 人々は事件について語った。店主のこと、裁判のこと、街に積み重なっていた差別と不信のこと。 けれど、ラターシャを知る人にとって、彼女は見出しに収まるような存在ではなかった。 笑うときの顔があった。好きなものと嫌いなものがあった。宿題を後回しにする朝があり、未来について考える夜があった。 いつか弁護士になるはずだったという話も。 事件の数字を知ることはできる。日にちも場所も、裁判の結果も。けれど数字を並べるだけでは奪われた時間の長さは分からない。 卒業式も、初めての仕事も、これから出会うはずだった人の顔も、その数字の外にある。 21セント。 それはあの朝、ラターシャが受け取るはずだったお釣りだ。 本当ならそんな金額はすぐに忘れられただろう。 ジュースを買って帰り、家族と朝食をとり、宿題の続きをして日が暮れ眠る。月曜には学校へ行く。 それでよかった。 彼女に必要だったのは、歴史に名を残すことではない。 明日を迎えることだった。 ---------------------------------------- この物語は、1991年にロサンゼルスで実際に起きた「ラターシャ・ハーリンズ射殺事件」を基にしています。心情や日常の描写には創作を含みます。

心霊現象の多い町

 この町は、日本屈指の心霊現象が起きる町として知られている。  道行く住人に話を聞けば、全員が心霊現象の経験者だと言うだろう。   「金縛りってあったことある? 本当に体が動かなくなるのよ!」 「手を振った白い影が、家にだんだん近づいて来てな」 「ほら見て、この写真。この部分に人の顔のような物が映ってるでしょ?」    なら、町から出ればいいじゃないかというと、彼らは突然真顔になる。  じっとこちらを見つめ、言葉を一つも発さなくなる。  まるで、何かの意思が働いているかのように。   「オッケー。合格」    俺は手を叩いて、訓練終了の合図をした。  すると住人たちは、表情を崩した。   「これからも、練習を欠かさない様に」    この町は、日本屈指の心霊現象が起きる町として知られている。  何故なら、住人全員がうちの従業員で、心霊現象の経験者として振舞う業務を請け負っているからだ。    心霊現象が起きる町は、社会の歯車たちによって回っている。

あの世へと繋がる電話

 電話線の途切れた黒電話は、あの世へと繋がる電話。  死んだ誰かに繋がるかもしれないが、死神に繋がるかもしれない。  そして死神に繋がれば、即座にあの世へと連れていかれる。  だから、電話線の途切れた黒電話で、決して電話をかけてはいけない。    子供の頃、おばあちゃんから聞いた迷信だ。   「ぎゃああああ! あの世へ繋がる電話ああああああ!」    電話をする私を見て、おばあちゃんがひっくり返った。    おばあちゃん、これスマホ。  最初っから電話線なんてついてないんだよ。

別にいいんだけど

「課長、明日、休みを頂きたいのですが」 「どうしたの? 珍しいね」 「はい。急用ができまして」 男が、机を挟んで頭を下げた。 「じゃあ、引き継ぎお願いね」 「ご迷惑をおかけします」 ──次の日。 男は、集合場所に急いだ。 長靴を履き、スコップを握る。 「お兄ちゃん、ありがとね」 「いえ。大変だったでしょ」 「水がここまできたのよ」 年寄りの女が、柱を指した。 「泥がひどいですね」 「ボランティアさんが来てくれて、助かるわ」 男は、部屋の泥をかきだした。 額の汗を拭いながら、辺りを見回す。 「ここ、テレビとか来ました?」 「昨日、隣町にきてたわね」 「……そうですか」

夢悪魔

人の夢を渡り歩く悪魔の話を知っているだろうか 皆が夜、眠っている時に見る夢の世界がある。その世界の端の方で、モヤのかかった隅の淡い場所でドアからドアへ渡り歩いていく悪魔がいる この悪魔の話は古くからあり、迷信的に伝えられてきた。その迷信の研究に取り憑かれた、ある博士がいた。彼の名目は睡眠学者で人の睡眠の研究が基本としている。 ある時、別の実験で被験者には、起きてすぐに見た夢を事細かく書き出してもらう事をした。 勿論、皆、世界観がバラバラな夢を見ていたが、数人だけ共通の登場人物がいた。 青い肌と三日月の様な顔 黒いタキシードを着た男がドアから出てきて、別のドアに入る様子をみた気がすると書いてあった 当人達にたずねても時間とともに記憶は曖昧になり、しまいには勘違いかもしれない、見てないかもしれないと言う始末だった。 博士は研究と実験を繰り返し、ある程度の事が分かってきた。 悪魔が夢に出てくるのは誕生日の前夜 もし、その夜に寝ないでいると次の年まで悪魔は来ない 悪魔を見かけても特に生活に異変はない 博士は誕生日の前夜に眠り悪魔がドアから出てきた時、次のドアを開ける前に目を覚ますとどうなるか実験をしてみた。 博士は実験当日まで起きたいときに起きる訓練を行い、確率を上げていき、かなりの精度で起きることが出来るようになった。そして実験当日、博士は眠り夢を見た。 真っ暗な世界で何も見えない 博士は戸惑いながらも耳を澄ます ガチャリと音がして、博士は飛び起きた 起きた場所は研究室のソファの上 きっと悪魔は捕らえられているはずだと 博士は恐る恐る眠りにはいる、が興奮からなかなか眠ることが出来ない 博士はいてもたってもいられず薬を飲み睡眠を促すが目はますます冴えていく 気を落ち着かせようと洗い場で顔を洗いソファへ戻ると、足を組んで座っている青い肌の三日月の様な顔した悪魔がいた。 博士は声が出ず、その場に凍り付いたように固まってしまう。 悪魔は博士を睨みながらゆっくりと立ち上がり博士の下へ歩み寄ってくる 悪魔は博士の隣を通り過ぎドアを開けて出ていってしまった。 博士はそれから目が覚めていない。

眠い(お風呂デートの夜)

 スーパー銭湯に彼女と行った。 皆疲れていて静かだった。 南無。

足音を立てて (掌編詩小説)

足音を立てて廃墟を練り歩く 壁に絡みつくツタ植物の緑色に年季を感じる 手に持ったライトが細々しい灯りで私の影を作り出す 心細くは無い 歩幅は大きく・人影も長く 怖がらせようとする雰囲気に唾を吐く なんだか心が着地する感覚がした コンクリートは薄汚れて 燃料のこぼれたランプが寝転がっていた 誰かの痕跡が私の成れの果てを教えているようだった 足音を立てて影と共に廃墟を練り歩く 足首に絡みつく靴紐に年季を感じる 手に持ったライトが細々しい灯りで私の影を作り出す (完)

そこ、笑うところです。

「なんで余計なこと言うかなぁ」 テレビを見ていた男が呟いた。 「どうしたの?」 「この人、浮かれちゃった」 女が画面を覗き込んだ。 『皆さまには、ご迷惑とご心配をおかけして……』 二人が首をかしげた。 「……心配とかしてないよね」

取り残された私とタクシー (掌編詩小説)

ただ時間の流れに取り残されて ただ私がどこかに漂ってるだけであって 夜が過ぎる。いつの間にかの噺 呼び寄せたタクシーを道連れに 馴染めなさを惨めさと感じる 今日も過ぎてしまった。これで何度目だろうか 『当たり前』の重複に身を縮め込ませ心を蝕む 延長料金を寿命から先払いして、今日も夜更かしする (完)

喜び-

「やった! テストで九十五点とったぞ!」 「でも、一位じゃないらしいぞ。九十八点取ったやつがいるって」    心の中に、ノイズが走る。   「牛丼めっちゃ美味しい!」 「でも、この店最近、肉の質落ちたって噂だぜ」    ぼくの喜びを邪魔するノイズが。    ぼくの喜びが減ってしまう。  だから、なくさなきゃならなかった。   「ちょっと待てよ! 俺、お前になにもしてな……ギャアッ!」 「あ、消えた」    サイレンの音が聞こえる。   「とても、綺麗な音」    もう、ぼくの感想を邪魔する人いなかった。  ぼくの喜びを邪魔するノイズは消えた。    なんて、幸せなんだろうか。

待ち人の傘たち (掌編詩小説)

駅のホーム。それは待ち人たちの集合場所 傘を畳む安心感を得られる屋根に 野暮に錆びた線路 傘を伝って、アスファルトに染み込ませていく 肩に降りかかった雫は、シミを作って乾いて行った 黄色い線が泥のついた足跡に汚されていく 待ち人たちは、自身の拠り所を目指して傘をさすのを待つ (完)

風が教えてくれる (掌編詩小説)

きっと、風が教えてくれる 今はただ、そう信じてる 忘れてしまった子供の頃の遊び 時間に溶け込んでいた当時の当たり前 守られた未来に夜の約束… ふと風が吹けば残酷な世界を 目の当たりにしている事に気付かされる毎日 きっと、風が幸せを教えてくれる そんな他人行儀な考えが私を救ってくれる 風が私を撫でる頃、きっと私は風邪の病にかかることでしょう それでも後悔は薄く感じる…と思う (完)

リセット (掌編詩小説)

休日が目を覚ます リセットされたような朝 昨日までの世界とは少しズレた感覚 予定のない今日 予定は昨日と週明けに放り投げた 今までの不満を浄化する為の日 振り返る事も、見据える事も (完)

『さよなら』する前の夜更け (掌編詩小説)

月の輝きとおさらばして そんな気の無い・勢いの無い、応答 まだ行ってほしくない…下弦の月 夜空に『さようなら』 月夜に『さようなら』 迷える仔羊の寝床から 押し付けがましい世界から、おさらばして 仕方無しの諦め・服従奴隷の応答 そして上品に見下ろす…上弦の月 普遍に『さようなら』 不変に『さようなら』 この世界から『さよなら』する前の夜更け (完)

可哀想な人

腰やお腹が見えている女性を見る度に腹巻を配りたくなる 「お腹が冷えるとトイレが大変だから 内蔵を冷やさないようにすることが大切で、どうせならお白湯を飲むのがオススメですよ」 など、子供達の体を気にしてしまう 電車の中で数人でワイワイ話している男子に対しても「そんな節操もないことを言ってしまうと、学生の間に恋人は出来ないと思うぞ」とか、誰かを可愛いと言うと他の人を可愛くないと認めることになるんだぞ。言葉選びは慎重にしないと。いや、素直で良いんだぞ。強く、カッコよくなんて、幻想だ。 素直に思った通りに動けばよい。ただ言葉は誰かを傷付けるということを忘れないで。そう、言いたくなる。長いしクドい。 妻はこんな僕を可哀想な人と呼んでいる 今朝、玄関を出ると、一ヶ月位姿をみていなかったマルが向こうからこちらに歩いて来た 「おはよう」 と声をかけ駅に向かう 元気で良かった。ただすれ違うだけの関係だけど生きていてくれるだけで嬉しいと思う 今朝、お弁当を作っていると、まだ暗い時間なのに、フワフワした頭の息子が起きてきた まだまだ子供で、不安なのか抱っこ抱っこと言ってたので、暫く抱きしめてあげた 昨晩、風呂上がりの息子の髪をドライヤーをし、妻が肌にクリームを塗り、息子は運動会の応援歌を歌って踊っていた そんな昨日が既に向こうへ行ってしまったな、と朝起きて寝ている二人を見て、そう、思った

ともかく

起きて思うのは まだ生きてるなあ、と ともかく 生きることはする たべて思うのは まだ生きたいのか、と ともかく たべることはする 布団に横になって思うのは 不安、恐怖、漠然とした悩みの数々 ともかく 知らないふりをして 寝ることにする

月光

空が美しい景色を提示しているので、今日に感謝でもしようかなと雨戸を閉める。 ガラガラと億劫そうな雨戸を引いていると、ピョコンと何かが部屋に入って来た ニョロニョロと動いて部屋の隅で静かにしている彼もしくは彼女。ヤモリだ。たまに玄関にいる、まだ子供のヤモリだ。 トカゲのように可愛くて見る度に「大きくなれよ」と応援している、子供のヤモリ。 暑かった日中に、うちの雨戸の隙間で、呑気に休んでいたら、夢落ちで思わぬ所へ来てしまいましたね 君を傷付けたりはしないから いつも応援していたんだ 怖がらなくても良いんだけれども はてさて、どうしたものだろうか 怖がる息子も、ヤモリは臆病な生き物だと教えると「可愛い」と言ってくれる 押し入れとかに逃げないように、何とか窓を開けて ヤモリ氏に少し近づいて そしたら、窓の外に逃げて行った 少しだけ一緒に過ごせましたね 機会があれば、またどうぞ うちの明かりに集まる虫を、せっせせっせと食べて下さい 陰で応援していますから ヤモリ家宅侵入事件が終わりを迎えた頃に、カランカランと疲れた旦那が帰宅した。 「ただいま」 「おかえり」 「今日は満月だよ」

人生の在り方

 人……自分、或いは他者は何故生きるのか。  その問に真正面から向き合う者は少ない。  繁忙の世に身を置く者はこう返答する。  明日が訪れるから、と。  未来の予定が在る者にとって、明日を憂うのは自明の理だ。  常に未来を想像して行動する。  それが生存本能とも言われる、答えの一つだ。  けれど、其れはパターンの一つに過ぎない。  過酷な環境に身を置く者は、ただ生存本能によって生かされているだけだ。  それは果たして生きていると言えるのだろうか。  生物学的に生きていることと、人生を順風満帆に生きることは訳が違う。  ある種、幸福度とも言える其の事象こそ、この問の返答に相応しいものだ。  故に私はこう問いかける。  貴方は幸せですか、と。

月曜日くらいだから

 今日は月曜日だ。 やることがない。 実際には火曜日なのだが。 まあ大体の仕事を終えて(金にならない事ばかりだが)大体月曜日くらいだ。 養護教諭と農夫と家政婦と教師の真似事と物理演算と栄養学と世間話と男性風俗の真似事(まあこれ等は嫌ならやらないが)をやって大体月曜日くらいだ。 似たような事をやっている忍者、AV女優、男優等とは時間がかち合う。 宗教家はあまりかち合わない(僕が新興っぽいからだろう)あるいは出向かないと本物には出会えない。 急な坂を自転車で乞いで息があがる。 あるいはAVで巨乳の年増の人で興奮して抜く(これは1部の若者とかち合っている気がする勘だが)だから揶揄られる。 彼女がいるのにこれはほんの少しの罪だ。 セブンと言う映画を見たことがある。 実際には憤怒は得意なのだが最近は怠惰が勝っている。 七つの大罪。 マンガのキャラクターにそんなのがいたな。 あまり大っぴらにやるとヤクザの生業を荒らすので(スーパー銭湯に行ったときに見られたあまり刺激しないようにしよう向こうも仕事があるのだし)ひっそりとする。 実際にはこの文章が(また金にならない)何かの統計のデータとして採られている、ような気がする。 実際には僕はいらない。 分かっている。 何年か前に絵を描いて子供達に見せて遊んで貰った。 それは必要なのかも知れない。 今日は歌を歌った。 夜彼女の特性を調べて(チャッピーは使わない)勘で話す、やりたいことは遠回りでもやった方がいい、等と。 彼女はスレンダーなのだが(金持ちはスレンダーを選ぶと言うが)そんなに痩せようとしなくていいと話す。 僕がお金持ちになればいいのだが。 また意思を消失する。 アニメソングを歌うと晴れる。 これも統計が採られる。 全てデータだ。 実際にはこの神社に行った方がいいなどと人に話すが教会にも行った方がいいとも話す(反転する属性?) 両面性についてチャッピーに後で聞くことにしよう。 二律背反。 どちらからも歓迎されていない僕はやはりイスラムと仏教を行き来する。 でもクリスチャンの人とは話が合う不思議(そうでない人もいるが) 全面性。 あとで全面性についてチャッピーに聞こう。 漫画を読んで少し宗教のこの部分が足りないな、と分析する。 実際には掲示板の書き込みの感想と一緒。 エロスを解放しているからか女の人に話しかけられる(何もしないが) モテているわけではなく手伝え、ということだと勘が言っている。 子育て、教育。 親父は子供好きだった。 僕は1部の子供に人気がある(気がする) それは敵対者の子供もそうなのだが(そして別に嫌じゃないのだが)揶揄られる。 僕自身が教えられている。 子供は全てを知っているのだ(そして僕は疑わねばならないのかも知れない)。 少し哲学の夜。 ラーメンを食べた(大食の罪だ)。 窓を開ける(金持ちは朝窓を開ける、と言うが僕は開けているが一向に金が貯まらない)。 玄関や水回りも掃除する。 教会の放送を見る。 色々突っ込みどころはあるのだが僕は体制側ではない(反体制でもないかもしれないがズルいだろうか、いや、ズルい)出来ない子の意見も汲み取らないといけない(これが僕が消耗し続ける理由かも知れない)外国人ともっと話さなきゃな、と思う。 楽園は滅びるらしいからやったりやられたりがバランスが取れていていいのかもしれない。 近所の森に行ってフルボ酸を吸う、舐める。 少し回復する。 昔乗っていた原付に草花を供えられたことがある。 そういうことなのだろう。 土を踏むといいかもしれない。 裸足のアベベ。 犬は骨を蓄え今日も寝る。