君が泣いている時、ボクは物陰から見守っている 夜中に小さな明かりだけつけて、俯いている姿を肩をすくめて見つめている 雨の日は雨粒よりも早く分かるんだ なんか体がゾワゾワするから そんな感じで君の涙も知ることが出来たら良いのに 体がゾワゾワしたらイタズラでもしてあげれるのに 隣の部屋で君の声が聞こえる ボクは部屋の隙間で眠っている 花の蜜の香りの様に舞い上がり 蝶や蜂が探しに来るあの声でボクの名前を読んでいる 寝ている間に君の膝の上 ボクを撫でて笑っている ボクボク喉が鳴ってしまう 母の胸を探してしまう
好かれるってことはそいつにとって俺が都合良くあってしまうこと。好き同士は都合の良い関係をお互い認めている状態、そんな風に僕は考えています。優しいって言葉もそうだよね、貴方は私にとって都合が良いですって事をオブラートぐるぐる巻きにして渡してる感じだ。俺オブラートあんま好きじゃない、味しないからね。人間関係のオブラートはめちゃくちゃ味するのに。味が濃すぎて染みるよ。いやそれは俺が毎日欠かさず口内の薄皮噛みちぎって食ってるからか。最近は薄皮突破して少し肉も食ってる。肉はあんまり美味しくない。焼いたら美味しいかもね。誰かフライパンでジュージューして俺を焼死体にしてくれ。豚の焼死体。魚の焼死体。牛の焼死体。そして俺の焼死体。消化されて、排尿されて、排便されて、流される。残された部分は生ごみとして捨てられて、また燃やされて、灰になって、朽ちていく。残されたほうがいいわ、スカトロジーは対象外です。このまま口内の薄皮削り続けたらいつか貫通するのかな。飲み物飲むときに口の穴から溢れてくるのかな。それは面白そうだ。でも痛いからやらない、そこまでの勇気はない。僕は臆病者。嫌われるのが怖いから好きになられることもできれば避けたい。でも物好きはどこの街にもいるもので、僕を好きになる人もいる。変だね。変な人だ。俺が何でもするから凄く都合が良いんだろうね。良く優しいって言われるよ、優しいは「お前は俺にとって都合が良いですよ。」可愛いは「お前は俺より下の存在だよ。」そういう意味ですよね。まぁ、違うんだろうね。自分が捻くれているのはわかってるよ。でも大丈夫、悪口はそのままの意味で受け取るからね。
午前0時。 小高い山の頂に、30人ほどの男女が集まった。 「さぁ、皆さん。始めましょう」 銀色の三角帽子を被った男が、声を上げた。 男女は円を作ると、その中心に男が立った。 「ウィーン、ウィーン、ウィーン」 両手を挙げ、立てた人さし指をクルクルと回した。 「皆さんも、私と同じように」 夜空を見上げ、人さし指を回す。 「声を出して、願いを込めるのです」 「ウィーン、ウィーン、ウィーン」 「もう、すぐそこまで来てますよ」 山頂に、冷たい風が通り抜けた。 地球の遥か上空に、1機のUFOが止まった。 「艦長、呼んでますけど……」 モニターを覗き込んだ。 「そうだね」 「コンタクト取りますか?」 艦長は、苦笑いしながらモニターを消した。 「金貸せって言われてもね」
ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい ぜっっっんぶ僕のせい。
私は臨終医、仕事は単純だ。 静かな部屋に入り、相手を見て、時刻を告げる。 「御臨終です」 家族が泣きながら遺体にすがる。 そこに、家族に寄り添う気持ちなど必要ない。 それで、終わり。 父も医者だった。 臨終医になろうとしたが、なれなかった。 枠は少なく、選ばれたのは別の人間だった。 それでも父は言った。 「いい仕事だぞ」 理由は語らなかったが、その声が妙に耳に残った。 私は名門の医学部を出て、海外にも行き、博士号も取った。 回り道は多かったが、今はここにいる。 だからこそ、この一言は完璧でなくてはならない。 私は週に一度、ボイストレーナーに通っている。 発声練習の合間、鏡の前で無表情を確認する。 一度だけミスをしたことがある。 ペンライトを忘れた。 とっさに胸元の万年筆を取り出し、目の上で上下左右に振った。 近くにいた看護師も気づかなかっただろう。 最近、臨終医をモデルにしたドラマが放送され、志望する医学生が増えたらしい。 彼らは「御臨終です」の後に何か一言つけたがる。 私は何も言わない。 それが美学だ。 ある日、私は突然めまいがして倒れた。 目を開けると、ベッドの横で、若い臨終医が立っている。 「御臨終です。ご主人様は良い人生だったのでしょう。安らかな表情をされています」 私は思った。 まだ若いな──だが、悪くない。
自分の考え全てが間違っている全ての行動が余計でありいい方に傾いても意味の無いこと 何も考えず朽ちて行きたい。でも目からの海水でしばらく生きれそうだなwwwwwwwwwwww でも海水って飲んじゃダメだからやっぱり死にそうだねよかったね世間の皆さん主に知り合いの皆さん
「課長、申し訳ありませんが、明日、休みを頂きたいのですが」 「どうしたの? 珍しいね」 「はい。急用ができまして」 男が、机を挟んで頭を下げた。 「じゃあ、引き継ぎお願いね」 「ご迷惑をおかけします」 ──次の日。 男は、集合場所に急いだ。 長靴を履き、スコップを握る。 「お兄ちゃん、ありがとね」 「いえ。大変だったでしょ」 「水がここまできたのよ」 年寄りの女が、柱を指した。 「泥がひどいですね」 「ボランティアさんが来てくれて、助かるわ」 男は、部屋の泥をかきだした。 額の汗を拭いながら、辺りを見回す。 「ここ、テレビとか来ました?」 「昨日、隣町にきてたわね」 「……そうですか」
僕は嫌いな人からの好感度を上げるのが好き。 多くの偽りの行為を得て一方的な信頼が高く積み上がった時、 ふと「お前のこと嫌いだよ」って言ったらどんな顔することか。 好きな人から好かれるのは怖い いつか嫌われるに決まっているのだから。
「なにニヤついてんの?」 テレビを見ていた夫に、妻が声をかけた。 「ここの大将、“取材お断り”だったんだよね」 「なにそれ」 「レポーターが推しの芸人だから、取材受けたって」 「いいじゃない、別に」 呆れ顔で夫を見た。 「でも、美味しそうよ」 カウンターに、色とりどりの寿司が並ぶ。 「こんな高級なところ、行ったことない」 「俺もない」 「今度、連れてってよ」 夫の顔を覗き込んだ。 「俺さ、カウンターの寿司屋、ダメなんだよね」 「何で?」 「おじさんが素手でペタペタ……」 「握りって、そういうもんでしょ」 「いろんなとこ、触ってるよ」 画面の中で、大将とおかみが、楽しげに笑っている。 妻は目を細めて呟いた。 「そうね……回る所でいいわ」
今の私がネットに住所ばらまいても誰も来ないんだなぁ 私は都会のおっさんが噛んで捨てたガム 私はトー横キッズの初めて吸ってみたタバコの灰 私は虐められてる醜女の鼻の下の大きなほくろ そんなやつだから世間の興味は私になくて、安心だし不安。 一瞬で矛盾を生み出す。話すのって難しい。こんなだからみんな俺の事嫌いになるんだよ。 いつもごめんなさい。普通と一緒に居るのが辛い。
製薬会社の会議室。 各部署の責任者が集められた。 「君たち、なぜ呼ばれたか分かってるよね」 会長の言葉に、皆がうつむいた。 「あの薬、全く売れてないんだろ」 「申し訳ございません。現在はこのような……」 資料をめくる音が続いた。 「臨床試験の効果は?」 「最高齢の女性にも、先日まで服用していただいてました」 「じゃあ、何で売れないんだ」 隣に座っていた社長が割って入った。 「ドクターには、丁寧に薬の説明をしましたか」 「もちろんです。一日一錠で、平均寿命より約十五年長生きできると」 「よろしいですか」 女性社員が、薬に添付されている使用上の注意の紙を配った。 そこには── 『まれに、異性に興味がなくなることがあります……』
なぜ人の好みは美人に偏るのか 当然と言われればそれまでだが個人的に分析をしてみる。 Aの場合 お前はブスだ。気持ち悪いと言われ続ける。 その結果自分と反対の性質を持つ人を好む。 なぜなら 産まれてこの方ずっと卑下され続けたことで 自己肯定感は地の底へ堕ち、自分のことが大嫌いになるから。 そこで選ばれた(自分の事を)ブス(だと思っているA) の反対の人は当然美人となる。 Bの場合 君は美しい。愛していると常に素晴らしい待遇を受ける。 その結果自分と似た人を好きになる。 なぜならずっと優遇されてきたことで図らずとも理解する事実、 自分が1番身近で美しい、素晴らしいものと思い生きている為 それがいい人の基準になるのだ。 A、B、両者はどちらも全く違う人生を歩んでいるが 結果的には美人が好きなのだ。 顔で判断されて苦しんできたとしても結局美人が好き。 そんなもんだ。そして自分が今からBとなれる可能性は 極めて低いから潔く諦めるといい。 この調子でAは''美人は、美人同士でくっつく''という現実に 目を背け続けた結果、己の遺伝子を残すことも許されず 独りワンルームのアパートで孤独死することだろう。
僕は幼稚園を卒園して、小学校に入学した。 「小学生ってかっこいいな」 「かっこいいリュックを背負っていてすっごく楽しそうだね」 「僕もお父さんから買ってくれた、かっこいいリュックを背負って学校に行くんだ」 幼稚園の時の僕は小学校に入るのがすっごく楽しみだった。 かっこいいリュックを持って学校に行って楽しいことをする。そのように思ってわくわくした。でもー。 小学校に入学してすぐに僕はみんなと違うことに気づかされて、僕が想像していた小学校が一瞬にして消えてしまった。 僕は台湾人だ。そしてみんなとの知力の差を痛感した。そのため僕には通訳者、お手伝い係が付くようになった。そのため僕はいじめられるようになった。僕がみんなと違ってお手伝いしてくれる職員が僕に着く…みんなと違うことが嫌で仕方がなかった僕は母親にー。 「お手伝いさん。僕嫌い。みんなと同じようにしたいのにできない。」 そのように言った。はじめは思っていた通りに反対された。でもずっと言い続けることで僕にお手伝いさんが付かなくなった。 「ありがとう。しっかり授業頑張ります。」 そのようにお母さんに宣言して、翌日気軽に学校へ向かった。 だが現実は僕が思っていた通りには行かなかった。僕にお手伝いさんは付かなくなったもののいじめはさらにひどくなっていってしまった。 「1年生の空という子、変わっている」 「1年生の空という子に触れば、ひどい菌がうつってしまうらしいよ」 各学年に僕のうわさが広がっていき、全学年の人たちからいじめられるようになった。 授業に集中して参加したけど、いじめが僕の頭を占領していたため、集中して勉強をすることができなかった。 ただでさえ、僕はみんなとの知力の差があり、人一倍…いやいや…何倍も勉強する必要があるのに、マイナスになってしまった。 周りのみんなは友達がいるのに、僕には友達が一人もいなかった。そのため学校に行っても全然楽しめなく、学校に行きたくなかった。 唯一僕の楽しみと言えば、年に二回ぐらい行われる、全校生徒での郵便イベントだった。とは言っても僕には友達がいなかったから、手紙を書いたところで送る人もいないのだが…。僕にとって楽しいと思える行事だ。 それから、運動会。 「お父さん、帽子に毛虫がついている」 「え、どこ?どこ?」 「キャーーー」 と毛虫事件は起きたし、両親が僕のために僕の運動会を見に来てくれてうれしかった。 だから、僕は運動会がすっごく好きなのだ。 ただ、僕には居場所というものがなかった。 クラスに行っても、みんなと比べてしまい、みじめになり、勉強をしたいけどいじめられているため、そしてもともと頭が悪い僕はさらに悪くなる一方…。休み時間はクラスのみんなに菌扱いされる…。 そして、家へ帰っても。親に監視される日々が開始された。家では両親が夫婦喧嘩することが多くなっていき、父親から僕とお母さんが家を閉め出される始末…。 なんでこうなるのか?もしかして僕がみんなと違うからなのか?僕の頭が悪いからなのか、もしかして僕が生きているからなのか…?もうわからなくなっていってしまった。 でも、小学低学年である僕は助けを叫ぶことができなかった。 一年生から三年生まで、僕は学童保育へ入れられた。一年生の時は遊ぶ友達がいなかったから、一人で塗り絵をずっとしていた。でも二年生になると、かわいい後輩が入ってきて初めて友達というものを小学校の学童で作る事ができた。しかも一人ではなく、二人作る事ができ、放課後一緒に学童保育で遊ぶようになった。 一年生の時に居場所がなかった僕。でも二年生の時からようやく学童保育という場所が僕の居場所になった。 だが友達の二人を除いて、学童保育でもいじめを受けることになった。 でももうその時の僕は色々と自分の力で乗り越えることができた。 僕にはもう友達がいるんだ。
今日も独り死にゆく誰かが腐敗していく… 自分はその内の一人にいつかなるのだろうか。 誰も私を愛さず、孤独になった時。 体に力が入らなくなるほどの飢えに苦しみ、 路地に転がる死体の腐肉臭でさえも唾液を湧き立たせるような… そんなスリリングな生活、悪くない。 私はこの地に産まれ堕ちた時には既に こんなに歪んでいたのだろうか。 それとも、歪ませたのはこの世界だろうか。 いや、何にせよ私にはどうでもいいこと。 今日もこの部屋で独り空想を廻らす、 この世の真理なんて分かるはずないが 少しなりたい''あれ''へ近づいた気がするんだ。 いっときの快感は颯爽と駆け抜けていき 日常への切符だけを残して去っていく 私はまだ止まることが出来ないようだ。 真相を知るまで、私の思考は動き続ける、 それが私の生まれてきた意味、証なのだ。
何を言えば、 どんな言葉なら、 どの言葉が、 触れるだろう。 価値も心も生活も、 その果てに祈りがあるなら。 ただの自分で眼差しを失わないように。 止まれないまま歩いていく。 ずっと手を握って。 ただあなたと眠っていたい。
夏が終わり、外でも過ごしやすくなったある日の午後。俺は少し遅めのランチにと、事務所近くの公園に来ていた。昼時を過ぎていて都心のオフィス街の中にあるから、遊んでいる子供も、犬の散歩をする人も居ない。他の人の姿はなく、俺一人だ。 「だいぶ涼しくなってきたな」 そう独り言を零しながら、兄さんが作ってくれた弁当を広げる。一口サイズにカットされた秋刀魚の焼き身に、栗の甘煮まである。もう秋なんだなと思う反面、こんなに手の込んだ弁当を毎日作ってくれる兄に感謝と申し訳なさを抱く。 「たまには手抜きしてもいいのに」 兄さんの性格からそんな事はしないと分かっていても、つい零してしまう。 「俺が作れば兄さんも食べるかな」 兄さんが食に関してこうも几帳面なのは、昔色々あったらしい。俺はまだ赤ん坊だった頃の話だそうだ。聞いても「お前は知らなくていい」と教えてくれない。俺もそのまま引き下がらずに何度か聞いた事がある。だが、その時の兄さんの悲しそうな顔を見てからは聞くのを辞めた。あれから一度も聞いていない。聞かないで自力で調べようとしたこともあるが、なぜかその資料はどこにもない。きっと俺が調べるのを危惧した兄さんが、羽鳥さんや内課の人たちに手を回したのだろう。そうまでして兄さんが遠ざけようとするのだから、実の両親に関することなのだろうと予想はついている。 「いい加減、覚悟を決める時なのかな」 口内に秋刀魚の香ばしさと程よい塩気が広がった。 この与えられる幸せに慣れきった自分自身を変えないといけない。 ふと、視線を弁当から外せば公園の隅に赤い色が見えた。 「彼岸花だ……」 また、昔の記憶が蘇る。 物心ついた頃にはもう東京に住んでいた俺は彼岸花を見たことがなかった。そんなある日、たまたま今日みたいに咲いている彼岸花を見つけたんだ。あれは、小学校の中学年くらいだった気がする。兄さんは高校生だった。兄さんが迎えに来るまで公園で遊んで待っていたんだ。遊具の影に隠れるように咲く彼岸花を見つけて、摘み取ろうとした。その時ちょうど迎えに来た兄さんがこう言ったんだ。 「弦護、その花に触ると手がなくなるぞ」 今思えば大袈裟な脅かしだけど、子供の俺はそれを聞いて手をすぐに引っ込めたんだっけ。 彼岸花は毒があるから、昔からいろいろな名前で呼ばれている。これも兄さんから聞いた。地獄花、手腐れ花、子捨て花。他にもたくさん不吉な名前がついている。 「これは向こう側の花だから……」 そう言った兄さんの顔はなんともいえない表情をしていた。子供の俺には何も分からなかった。ただ、綺麗な花なのになって残念に思ったんだ。彼岸の意味を知った今なら、なんとなくあの時の兄さんの言葉の意味が分かる。それでもきっと全ては理解出来ていないんだ。 「綺麗な花なのに……」 食べ終えた弁当を鞄に戻すと、俺は立ち上がり彼岸花に近づく。このままここで咲いていても、いずれ気付いた市の人に刈られてしまう。 なら、俺が貰ってもいいだろうか。 優しくそっと手折ろうとした。が、しっかりとした太い茎が予想よりも強固で、思ったよりも力が必要だった。 勢いよくパキッと乾いた音が鳴る。 「早く水につけてあげないと」 事務所に戻ったら、ひとまずグラスに水を入れて挿しておこう。 赤々と色づいた花弁をしばらく見つめる。赤くて綺麗で毒があるところは、兄さんにそっくりだ。 「……独立か」 休憩時間が終わるまで、まだ余裕がある。俺はジャケットからスマートフォンを取り出すと電話をかけた。 「ああ、泰斗。すまない、今、時間は大丈夫か?……この間の話なんだが、本気で進めたい。……ああ、紹介してくれ。兄さんには話してない。…………わかった。……いや、ありがとう。…………うん、頼むよ」 通話を切って手にした彼岸花に視線を戻す。 リコリスの花言葉は『独立』。 兄さんはきっと怒ると思う。沢山心配してくれることも分かってる。それでも、このままではいけないんだ。護られるだけではいたくない。だから…… 赤いリコリスの花言葉は『情熱』と『再会』。
まあ、なんというか。 そういう運命だと受け入れてはいるが。 俺が歯医者を予約した日は、だいたい大雨だ。 三か月に一回、定期的な歯科検診。 つまり三か月に一回、定期的な大雨。 「なあなあ」 「次はいつ歯医者行くんだ?」 友達は皆、俺に三か月後の予定を聞いてくる。 「は? 来週歯医者行くの?」 「やめろよ。俺、来週デートなんだぞ! 彼女と久々に会えるんだ! 予定変えてくれよ!」 一部の友達は、一週間後に予定しているかどうか訊いてくる。 そして、予定がかぶっていると、こちらに予約をずらせと言ってくる。 断れば人でなし扱いだ。 しらないよ、そんなこと。 歯医者の予約をとるのだって大変なんだから。 歯医者に向かう。 商店街を歩く。 俺の姿を見て、商店街のおっちゃんたちが臨時休業日を一つ増やす。 「大雨の日は客来ねえからな。晴耕雨読ってやつだ。ガハハ!」 自分の日常で、世界が動く。 神様ってこんな気分なのだろうか。 だとしたら、毎日が最悪に違いない。 今日も、歯医者に着いた。 目的は定期健診。 「あ、虫歯ありますね」 最悪だ。
マズい。 僕の文章が人を不幸にしているっぽい(妄想と被害妄想) 下手したら僕の文章読んで人が自殺してるかも(加害妄想) 呼吸をするように悪口を言うのはよそう。 優しさと死。 生と正。 負と歩。 白い石と白い意思。 黒い石と黒い意思。 金と銀と紫。 紫煙と支援。 桂馬と競馬。 パチンコと駄チ○コ。 またゲームとシステムの話だ。 花も幾何学。 逃れられない。 快楽と改悪。 悪は自分自身である(やや断定的) 甘えで人に当たる日々。 山に行かなければならないかもしれない。 香車と強者と業者。 角、書く。 飛車、ひしゃげる世界。 盤上の夜(あるいは夜明けのマスゲーム)
公園のベンチに、男が座っている。 「はぁ……金が」 スマホ画面を親指で弾きながら、ため息をついた。 『高額報酬』 #叩く #運ぶ #埋める 高額報酬に目が止まった。 「これは……」 ボタンをタップした。 「お前が最後だ。早く乗れ」 指定された駅のロータリー。 隅に停まっていた黒のワンボックスに乗り込んだ。 中には、二人の若い男が座っている。 街から、少しずつ離れていく。 民家が消え、アスファルトが砂利に変わった。 「着いたぞ」 運転手の声に、ヘルメットをかぶった大男が近づいてきた。 「いいか、お前ら。今から、そこの穴に入って岩を砕け」 穴の奥深くへ連れて行かれた。 「これ使え」 大男が、ノミと金づちを足元に投げた。 三人は、ヘルメットのライトを頼りに、硬い岩を砕いていく。 狭い穴の中、金づちを叩く音がリズムよく響いた。 「砕いた岩を運んで、向こうの穴に埋めろ」 大男の監視のなか、何日も掘り続けた。 「よし。もういい。終わりだ」 大男が叫んだ。 その声に、男たちが座り込む。 「よく頑張ったな。これ、持ってけ」 渡された封筒には、お金が入っていた。 「あの、ここは何の工事現場ですか?」 「ここは工事現場じゃないぞ」 「なんですか、それ」 「お前らが、悪い道に行かないように……まぁ、リハビリ施設だな」 穴の入口から、あの時の運転手が入ってきた。 「所長。次の三人、連れてきました」
雨の降る夕方は夜と呼べるほどに暗い 重力に耐えきれず遥か上空から落ちてくる水はわずかな音を立ててツツジに当たる 街灯の明かりをはね返しキラキラと輝く ツツジが空の雨を吸う あの透明の水が青く茂るツツジを作る 故郷の空を目指して雨がツツジを伸ばしていく
普段は行かないデパートで 「本日限りとなっております」 「チョコレートケーキがいい」 「アボカドのほっこりサラダを…」 せっかく買った白鳥サブレ 割れてしまってた 欠片を月にかざしてみても 欠片は欠片でしかないよね ねえ そうでしょ?
爪をいじくる 暇なのだ 何もすることもなく 電車を待つ 髪を短くしようかな 長く汚くいたいけどな 整える事は度々しなくてはならないけど 汚くいることは長く何もしないでいられる そのままでいたい 嘘も見栄も気遣いも無く そのままでいたい 自分のあるがままでいたい それが楽なのだ 楽でいたい 無理が心を捻じ曲げるのをよく知っているから リラックスして、楽にして、気が付いたら死んでいたい 色んな流れに流されて 色んなものが変わっていっても 僕はそれをそのまま受けとめていきたい
見たこともない虫を見つけて固まっていたら、こちらに向かって飛んでくる悪夢を見た 夢で良かったと何度も思ってベッドを抜け出す 細い妻の肩に毛布をかけ直すと、真っ直ぐな髪がサラリと流れた キッチンの小さな明かりをつけて顔を洗う。水が温かく感じる 曇りガラスの向こうはぼんやりと青い テーブルからバケットを持ってきて薄く切る 冷蔵庫を開けて丸いタッパを取り出す 箸を探すがペアが見つからず黄色と赤のペアを使うことにした 昨夜の妻の肉じゃがをバケットに乗せトースターであたためる 暗い部屋で赤い灯りが美しい タッパの蓋を閉めようとしたが、一本の髪の毛があるのを見つけた。取り出すと長く真っ直ぐな妻の髪だった それを口に入れ飲み込む 昔、君の髪の毛が欲しいと言ったことがあった。あの髪の毛は今、口の中にある。 あんな細い髪の毛は喉の中でも妻のままで強くしなやかだ。 少しむせたので牛乳を飲んで流し込む 願いは別にあるのだけれど また、何処か遠くで叶うものかもしれない チーンと音が鳴る
あおは、でも、みんなから なおと呼ばれている なおでいいと思っている あおでもいいと思っている そんなことより この雨がやんでくれないかと そればかりを願っている
ある日の午後。 身体社会学の女性教授が、マイクの前に立った。 「みなさん、ルッキズムって聞いたことありますか?」 「人のこと、外見で特別扱いしたり、差別したりすることですか?」 「はい。外見至上主義と呼ばれてます」 背後のスクリーンを指さした。 「今から写真をお見せしますね」 マスクの女が、写し出された。 「この女性、みなさんはどのような印象を受けますか?」 「清楚な、お金持ちのお嬢様って感じに見えます」 「そうですか。では、次の写真です」 「えっ」 最前列の学生が、目を伏せた。 「マスクを取った、先ほどの女性です」 「口が……」 「口裂け女です」 しばらく、沈黙が続いた。 「マスクしてると、見えてるところだけでイメージしてしまいますね」 授業の終わりのチャイムが鳴った。 「感染症が流行ったあと、マスクを外せない人が増えましたよね」 「先生もですか?」 「楽ですからね。目の周りだけ念入りに化粧してます」 目元を指でさした。 「おキレイですよね」 「それもルッキズムですよ」 教授は笑いながら、マスクに手を掛けた。 「私、キレイ?」 視線が集まる。 「鼻が……」
あいつの笑顔を見たことがない。 全然笑わないから、反対に笑わせてやりたい。 俺の関西人魂がそう言っている。 「おい、武田。 面白い話してやるよ」 「うん」 「白い犬がいました。 耳も白くて、身体も白くて、 尾も白い。どや」 「どういうこと?」 「いや、オチを言わすとか、芸人殺しやろ」 くそ〜。何で笑わないんだ。 俺は肩を落として退散した。 「武田、何で増田のギャグに笑ってやらないんだよ。 おまえ、お笑い好きだろ?」 「だって、笑ったら増田が満足するだろ? だから笑わず、新作ギャグを楽しんでるんだ。 さっきのは、普通に面白くなかった」 「おい、武田。 今日もとびっきりのギャグができたぜ! アルミ缶の上にあるみかん」 「ぶっ」 変な声が聞こえて、あいつが顔を伏せた。 おっ、うけた? 戻ってきた顔は、いつも通り真顔だった。 「しょうもない」 「くそ〜。次は絶対笑わせてやるからな」 そう言って走り出した増田の後ろ姿を見て、武田は笑った。
私は臨終看護師。仕事は単純だ。 臨終医の後ろをついて歩き、遺族の待つ部屋に入る。 そして、臨終医が「御臨終です」と告げたあと、 目を伏せ、軽く頭を下げる。 これが私の仕事。 そこに、ご遺体への敬意など必要ない。 それで、終わり。 母も看護師だった。 臨終看護師にはなるなと言われた。 なぜなら、それは過酷で、辛い仕事だから。 私は以前、手術室の看護師だった。 しかし、やりがいを見いだせず、異動を申し出た。 今はこの仕事に満足している。 先日、臨終医がペンライトを忘れた。 とっさに彼は胸元から万年筆を取り出し、目の上で振り、ごまかした。 私は気づいていないふりをした。 臨終看護師としてのたしなみだ。 この仕事は女優に似ている。 病室は舞台。 何も書いていないバインダーは小道具。 セリフはなくても、存在感だけで観客 ──ここでは遺族だが──を魅了する。 最近、臨終医をモデルにしたドラマが放送された。 しかし、臨終看護師の姿はなかった。 残念な気持ちはない。 その方がいい。 ある日、目の前で臨終医が倒れた。 私は慌てない。 何もしない。 それが美学だ。 そして彼は、そのまま旅立った。
へへん この夏は アイツの間接キス 五回も奪ってやった 部活の先生にひっぱたかれたのも いい思い出よね んなわけねえでしょが ブルーな気持ちってさ 青春のことかと思ってたよね ハハハ 馬鹿だね ほんとにね
犬を買った。 犬を飼った。 大切にした。 きっと、犬は幸せな生活をしていると信じていた。 「ほら、餌だよ」 ある日、人間と犬が逆転した。 犬が知的生命体。 人間が言語を解さぬ畜生。 俺は、かつてのペットの犬に飼われていた。 「美味しい?」 犬は、俺を大切にしてくれた。 家の中では自由。 ご飯も三食くれる。 俺が、ペットの犬にしていたのと同じ待遇をしてくれた。 無理だ。 誰か助けて。 こんな生活、窮屈すぎて死にたくなる。 幸せなペット生活は、地獄だ。
「今日さあ、母さんが『妊娠した』とかなんとか言っててさ」佐藤は登校中にぽつりと言った。 「おめでたいな」と俺は言うと、佐藤は振り向いて言った。 「…多分、あれ便秘だぞ」 「どうして?」 いや、と頭をかきながら佐藤は言った。 「母さん、妊娠したのは初めてじゃないって言っててさ。15年前にもした、とか。」 「うん」 「多分それも便秘だったんだよ。何日も出なくて腹がふくらんで病院で出してもらうんだ。」 「妊娠したから病院に行くんだろ?」 「多分トイレ行けばいい話なんだと思うんだよ。なんで事を大きくするのか、俺にはわかんない。」 「ならお前の母さんに『便秘じゃないの?』って言ったら?」 佐藤は笑って、「そうしたらさ…」と話を続けた。 「ビンタされたんだよ、便秘だって言ったら。父さんも笑いながら『便秘なんだぞ』って言ってたし確実だ。」佐藤は真顔になって言った。 「…父さん、便秘に『やすこ』とか名前つけてた。」 俺は不思議になって言った。 「便秘に名前なんか付けるか?」そう言うと佐藤は「わからねぇ」と言った。 「ちなみに俺も便秘なんだけど。」俺がそうぽつりと言うと、佐藤は顔を輝かせた。 「名前つけようぜ!」ニコニコしている佐藤に恥ずかしくなった俺は、「別にいいよ…」とはぐらかした。 「たかが便秘だし」 「たかが便秘、されど便秘なんだよ。名前をつけた便秘には祝い金が出るしさ。」佐藤は明るい顔で言った。 「田中、十月十日待てそうか?」 「無理だろ。」俺が即座に言うと、佐藤は「ちぇっ」と言い、こちらを見た。 次の日の朝、佐藤は俺の便秘について心配しているようだった。祝い金が欲しいらしい。 「ごめん、佐藤」俺は言った。「便秘、今朝出たぞ」 「そういうことは早く言えよ。でさあ、母さん便秘じゃん?朝ごはん吐いててさ。腹が苦しいのかな。」 俺はふと気になって佐藤に尋ねた。「佐藤、今何歳だ?」 「一五歳だよ、忘れんなよな。」
今日はいつも使わないお皿にを取り出す 梨を一つ切ったので、お皿にのせる。 久しぶりのお皿は白く乾いていて 梨から出た果汁で潤っていく これは何処で買ったやつで よく使っていた時期はあの頃だなと思いを巡らせてしまう 家族の皆が梨を摘む度にお皿の絵柄が見えてくる 皆はお皿に何か思うかな 僕だけが気にしているのかな 毎日、食器をしまう度に目に入ってはいましたよ あえて使わなかっただけで たまに眺めていましたよ 良い皿だよな、なんて言ったりして 忘れてなんかないんだよ 大切なの気持ちもあったりして 君は何も悪くない 梨が綺麗に無くなって、君はまた、僕の下に戻ってきた 次からは手前の方に置こうかな 指で撫でて確かめる 指に梨の匂いが染み込む
似たような車が交差点に並んでいる 自分に似た人、同じ名前、同じ心 犬がよちよち歩いている。頭を撫でると小さな尻尾を懸命に振っている イヤホンをした自転車が隣を通り過ぎる。イヤホンに頼らざる負えない時はあるものだ。長く手放せない時だってある。 サルスベリの花の密をアゲハ蝶が吸いに来ている 蜘蛛が気付かず近くを通り過ぎる 足を伸ばして座る癖 心は脳と繋がっている 一日何もしていないような気がする 一日何もしてあげれていないような気がする 夜は食べない 食べることをしていない 花の蜜も飲まない
ふと、立ち止まって目の前の景色を見てみる 人が歩いている 昨日も、先週も、きっと人が人になったその瞬間から、人は歩いている 歩くのはその先に目的があるから、とは限らない 目的を失くし、意味も見つからず、それでも生きなくてはいけなくても、人は歩くのだ。 歩かざる負えないとも言える。 遠く、太古から続く自分が「歩け」と言ってくる。 歩くとは、そのまま、生きるなのだ ふと、立ち止まって目の前の景色を見てみる 人が生きている。昨日も、今日も、その先も。
曇りの朝は街が切って貼ったように見えてくる 前を歩く人達の中にいつものメンバーを確認し、一息着く。無論犬達にも。 家の前に眠る車は家族を乗せるためのもの 玄関の前の空き缶は父親のもの あぁ雨かと朝顔が言う 車の窓に映る自分を見る 髪を少しいじるが、気に入りもせず、少し嫌な気分になる いつからか、知らない虫が靴の先に止まっている 飛ぶまでほっておく あの彼女を剥がしてみたら、裏には何があるのだろう いや、真実があって、喜びと嫌な気持ちを味合うだろう 僕ののりしろにある景色と同じで。 犬は変わらない 犬は裏も犬だ
積み上げたタオルの その微妙な傾き 私ときみを 不本意に でも勝手に 重ね合わせる きみが傾けば私が支えて 私がズレたらきみが戻して 肌のふれ合うダンスみたいに 横にいてくれることの安心 夏がいなくなってしまっても 眠りの世界に堕ちてしまっても
人類は、絶望の危機に瀕していた。 何故なら、新たな人類が生まれなくなってしまったからだ。 人類は神に祈りを捧げ、神と対話する機会を手にした。 人類は尋ねた。 「神よ! 何故、人類を新たに創られないのですか?」 神は答えた。 「創り飽きた。今でもたくさんの人類がいるのに、なぜ新しい物を作る必要があるというのか」 そっけない神の態度に、人類は呆気にとられる。 神は面倒くさそうに欠伸をして、人類を指差した。 「お前、自分で机作る? DIYってやつ」 「え? いえ、私は既製品を買いますが」 「それだよ。世の中には既製品の人間が溢れてんのに、なんでDIYして新しい人類を作らなきゃならんのだ。少子化とかくだらねえ。今いる人類だけで、どうにかできんだろ。絶滅しそうになったら……まあ、なんとかするから」 神との対話は終わった。 人類は強制的に現実へと送り返され、偉い人たちはすぐに集まり会議を開いた。 「神にDIYの楽しさを思い出してもらうしかない! 時代はDIYだ!」 「D・I・Y!」 「D・I・Y!」 神との対話から十年。 世界中には、個性的なアイテムがずらりと並んでいた。 空には神の巨大な目が浮かび、それらを興味深そうに眺めていた。 人類は自身の手を組んで、必死に神へと祈りをささげた。
夜おそく おふとんのなかで 本を読むのはキケンだ さっそうと登場したプリン うっとりとそのプリンを食らう少女 だから キケンだ わたしもたべたい いますぐたべたい 冷蔵庫に プリンはなくて 知ってたわ そんなこと 夜中だなんて 関係ないの つくろう プリンを いますぐ やっぱり キケンだ
少女ハリャイは、いつの間にか、草原で眠ってしまっていた。微かに目を開けると、草の緑が視界を包み込む。 「…?」 目の前で、誰かが彼女を覗き込んでいた。誰、と尋ねる間もなく、彼は言う。 「僕、シャノ。君は?」 「わ、私、ハリャイ…。」 シャノは、ハリャイに手を差し出すと、彼女を草の中から起こした。 「ありがと。」 それに彼は答えない。ただ、少し暗い顔をする。 「…どうしたの?」 なんでもない、と彼は言って、遠くの山並みに視線を移した。その向こうには、昼頃の太陽が照っている。 「太陽神様、僕を見つけてくれるかな。」 無邪気に笑うシャノ。その様子を見て、特に深く考えることもなく、ハリャイは頷いた。 「うん、きっと。」 シャノも頷き返す。自己暗示のように。 「…雲って、綺麗だな。」 彼の言葉に、ハリャイはまた、少し首を傾いだ。 遠くの太陽がふと陰る。ずっと近くにある雲の、雲間から、光が漏れる。 「…見つけてよ。」 水の粒の影で、かくれんぼをするように、今度はシャノが、丈の長い草へと倒れ込む。 「ふふ。」 ハリャイはそれを見て、まだ笑っていた。けれど、ふと声が止まる。 「…ん?」 見上げた空の上、日光の奥底。何か、揺らめいた気がしたのだ。 「あれ、ハリャイ?」 突然笑い止んだ彼女に、シャノも気が付いて、立ち上がる。が、それより早く、彼の影は崩れ始めた。 「あ…光……。」 どうしたの、が言葉にならないハリャイ。シャノはただ、地に這う自分を見つめている。また差し出してみた手は、空を斬るような、尖った武器だった。 「ごめん、君の影を切った。」 ハリャイは、上半身を起こしてみる。何ともない。首を傾げると、シャノが続けた。 「…僕、悪魔憑きなんだ。魔の手を差し伸べてしまった。光がないと、影の形は曖昧になるでしょ?その曖昧になった輪郭を、悪魔は奪いに来るんだ。」 その時、再びさっと、光が差す。すると初めて、ハリャイは気付いた。自分の影が、ぱっくり裂けていることに。 ——だがすぐ、その意識は薄れ、やがて絶えた。 目覚めると、そこは暗闇。何も見えないが、声がする。 「ハリャイ…ねぇ!」 間違いない、シャノの声だ。ハリャイは掠れた声で返す。 「な、に?」 それを聞いた途端、シャノは言葉を切った。口を噤む。やおら言う。 「…だめだ、悪魔、完成しちゃったみたい。」 どういうこと?とハリャイ。 「悪魔はできるだけわからないように、影の部品を集めて、自分の影を作ろうとしてたんだ。影がないと、実体も存在できないからね。それが出来ちゃった。君の影の心臓部分で、最後だったみたいだ。」 シャノは残念そうに、悔しそうに言ったが、半ば笑っている。悪魔の因子が根差しているのだろう。 「そっか…。変えられないの?」 「無理だよ。僕たち今、悪魔の中にいるんだ。」 二人して、暫く黙り込む。 その後、いきなりハリャイが言った。 「そうだ、私たちが光を使えれば、内側から影を消せるよ。」 シャノは首を振って、 「でも、僕たちはここから動けないし、何も取りにいけないんだ。」 と答える。しかしハリャイは続けた。 「違う。ここにいるだけで良い。…私の傍に、シャノがいれば。」 今度は、シャノが聞き返す番。 「私、一番の望みが叶うと、天と結ばれて、ううん、太陽と結ばれて、一緒になるんだ。だから太陽が私になって、私が太陽になる。ここを照らせる。」 シャノは望みを持ったらしく、 「一番の望みって何?」 とハリャイに訊いた。彼女は息を吸って、答える。 「私、〝星の雫〟って組織の一人。星の雫は、一人一人が、夜の天空に浮かぶ孤島。だから、誰も友達を作らない。でも私には…大切な人がいてほしい。…私の望みは、〝誰かと親友になる〟こと。だから私が結ばれることなんて、一生ないつもりなんだ。でも…世界が終わるより、仕来りを破るほうが、良いよ。」 シャノはそれを聞くなり、強く首を振った。 「そんなの、仕来りなんて良いんだよ。僕たちもう、悪魔の中でくっついちゃったんだ。一心同体で、大切な存在でしょ?僕はそう思う。」 その途端、二人の心の全てが崩れる。満ち溢れた光が、その場を包み込む。閉ざした闇は融ける。触れた心が、滲み出る。 そして、草原に、光が差す。 「……シャノっ!」 ハリャイの笑い声が聞こえて、二人は目を合わせた。 「あ、ハリャイ…太陽様!」 熱い。熱が世界を焼かぬように、シャノは最後の指で空を差す。 「…星になろう、共に!」 空と結ばれたハリャイ。 ハリャイと結ばれたシャノ。 太陽神の意向で、二人は天に召され、永久に輝く星座となった。 星屑には、今宵も誰かが、手を合わせている。
新しい始まりのたび、睦月は偉そうにする。 真っ先に役目を果たしたと、威張り散らす。 それは誰よりも先に、過ぎ去ってしまうから。 少しでも長く、覚えていてほしいから。 背の低い如月にとって、睦月は目の上のたんこぶだった。 寒くて、暗くて、嫌われる。 それでも、真ん中にいるのは好き。 暖かいチョコとマフラーが、たくさん見られるから。 目が良い弥生は、一番多く泣き顔を見る。 お別れは師走の役目じゃないかと、いつも不満に思う。 だけど、最近は少しだけ自慢に思っている。 卯月よりも、桜をきれいに見られるから。 卯月が見せる笑顔は、桃色の朝が似合う。 新しさを運ぶ風を、誰もが受け取っていく。 その先を見届けることはない。 送り出すところまでが、役割だから。 大きな皐月の声は、二つに世界を分ける。 ベッドから動けない姿と街を走る姿を、交互に見やっている。 生まれ変わりたいという声を聞いて、不思議に思う。 桃から緑に変わる自分を、誰もが寂しがるくせに。 泣き虫の水無月は、朝を雲に閉じ込める。 如月よりずっと、嫌われていると知っている。 だから、小さいものの声を聞く。 紫の花は、いつも優しく微笑むから。 文月はいつも、自分を中継点だと思っている。 涼しさは消え、世界が折り返す結節点。 この世界を七つに分けるなら、自分は青色で葉月は赤だ。 つまりは、葉月よりも愛されている。 葉月はこのところ、息苦しくてしかたない。 昔ほどさっぱりと、愛されている気がしない。 燃え上がるような眩しさは、もう望まれていないのだろうか。 ただ誰よりも、近づいているだけなのに。 長月は、葉月の熱さが羨ましい。 放り出すような涼しさを、いくら愛されようとも。 いつまでもそこにいてほしいと、願う声も聞こえる。 そうあれないのが自分だから、長くなり始めた夜にたたずんでいる。 神無月の下り坂は、夜に続いている。 赤が消えていき、青と黒が往復する。 高貴な客たちをもてなすため、甘い団子を作る。 また長月と手を繋げなかったなと思いながら、霜月へと下る。 霜月には、神無月の美しさも師走の厳しさもない。 降り始めた雪が、おしまいの予感だけを引き受ける。 せめて、味わってほしいな。 中途半端でも、確かにそこにあるんだから。 誰もいなくなった後を、師走は眺めている。 走り抜ける世界に、楽しかったかと呟く。 世界はもう、次の世界のことを考えている。 月は、どうして12個もあるのだろう。 月は、どうして12個しかないのだろう。