「どうぞ、お入り下さい」 扉から顔だけ出した男が声を掛けた。 その声に、二十代後半の女が、緊張した面持ちで部屋に入った。 「失礼します」 「そちらにおかけ下さい」 長机を前に、二人の男が履歴書に目を通していた。 「前職は物流関係とありますが、どのようなことを」 「はい。通販サイトで、購入者様への配送業務でした」 「具体的には、どのような」 「はい。ご注文の品を箱に入れて、緩衝材も詰めて、待機しているトラックまで持って行く仕事です」 二人は、うなずきながらメモを取っている。 「では、弊社を希望した理由を教えていただけますか」 「はい。私事ですが、前の職場の同僚が、私の箱詰め作業を見て、何か感心したようで、御社を勧めてくれたというか…」 「なるほど。うちも箱詰め作業はありますが、結構大変ですよ」 「はい。頑張ります」 女は、笑顔で小さく頭を下げた。 「では後日、改めてご連絡しますので、それまでお待ちください」 女が部屋をあとにする。 「君、今の女性どう思う」 社長が人事の男に聞いた。 「そうですね。即戦力になりそうですね」 「君もそう思ったか。じゃあ、採用するかな」 ──ピコンピコン 女がメールを開いた。 「採用決定。 ご存知かと思いますが、弊社の制服は喪服です。ご用意お願いします」
「お姉ちゃん! お姉ちゃん大変!」 突然、さっきまで外で遊んでいたリッカの妹が孤児院の扉を蹴破るような勢いで開けた。その音で私は我に返った。 二階から下を覗くリッカ。どうせ、碌でもないことだろうと気の抜けた生返事で「何?」と吐き捨てる。 「また死んでる!」 「え?」 すると、後ろからレイとカウルが人を抱えながら入ってくる。その人は泥だらけで、毛が長い。汚れて破れて布だとは思えない服を纏い、薄い呼吸をしている。 「生きてる」 レイはカウルと息を合わせながら、ソファまでその人を運ぼうとする。それを見た先生は「どうして」と困惑しながらも、すぐにレイやカウル、リッカの妹に指示し、自分は救急箱を取りに二階へ走った。 私もこうして運ばれてきたのだろうか。 そんな騒ぎを聞きつけたのは院長。 「どうしたんだい、何事だい、これは」 インダは先生とともに階段を駆け下り、リッカは院長に事情を説明し、院長室に戻るように言った。 コの字のソファの真ん中に寝かされた人。髪が長かったから女の子なのかと思ったが、よく見ると目や口元が男の子っぽい。体格、骨格もスッキリしていて、もはや栄養不足とまで見受けられる。腕なんかは筋が見えるほどに痩せている。 「ひどい」 妹はその少年を覗き込み、その口元に水を少し流し込む。応答はない。妹の目が緩む。 先生がレイとカウルに向かって確認のために事情を聴く。それにレイが答える。 「どこで倒れてた?」 「裏の薮の中。井戸に向かう道を少し外れたところで倒れてた。で、すぐミミを向かわせた」 この子、ミミというのか。ミミはリッカの腕の中で小さく丸まっている。 「どうして薮の中に?」 質問の意図は掴めなかったが、レイはそれにもきちんと答える。私はしっかり者という印象を受けた。 「カウルの蹴ったボールを追いかけて」 「私も見た」とミミ。先生はそれを聞いて、質問を続ける。 「どうして孤児院に?」 まるで、連れて来てはいけないかのような言い草。皆が口を噤む感じを見ると、これはもしかして。「普通の孤児院じゃない」のだろうか。頬の汗が流れるのを感じる。 「助けられる命だから」 レイは毅然と答えた。カウルもそれに頷き、「僕が提案した」と罪を共有するように言った。真剣な眼差しは先生の壁を押し戻す。 先生は孤児院にその男の子を入れ、ソファではなく、わざわざ二階まで運んだ。レイとカウルはそれを前線でサポートし、インダとミミはお昼ご飯作りに台所へ向かった。 リッカは院長室に消えた。院長がいれば、院長室には入れるんだ。 一人取り残された私は、とりあえずあの男の子の安否が気になって、二階へ向かった。 寝室を覗くと自分のベッドに男の子を寝かせるカウル。私が担ぎ込まれて静養していた時は、あんなに嫌がっていたカウルが。私は眉をひそめた。 レイは先生の横で男の子を見つめている。 先生の呼び掛けに男の子は一切答えない。眠っているにしては無防備だし、ここまでの干渉があれば起きそうなものだ。身体や身なりを見るにも、相当の偏りがある。 白いシーツには似つかわない。なぜ、私の方が綺麗にベッドを使っていたというのに、あれほど拒絶されなければならなかったのか。思い出すとムカムカしてきた。 「レイ、下から水を汲んで来てもらえる?」 「はい!」 「カウルは毛布を用意して」 「うん」 レイとカウルはそれぞれ散った。 「私も何か手伝えませんか」 「ユキは、替えの服を持ってきてくれる? お風呂場にインダのがあるから、それを」と、そこまで言って先生はあることに気付いた。私も頭の中で困っていた。 「あ、お風呂場って案内してないわね?」 「インダに聞いてみます」 「そうしてくれる?」 「はい」 私も寝室を後にした。 階段を滑るように下り、バケツいっぱいに水を汲んだレイとすれ違って、私は台所に向かった。そして、インダに事情を説明してお風呂場に到着。 お風呂場の棚にはそれぞれ分かりやすく名札が貼ってあり、一人三着ほどの服が畳まれておいてあった。 インダ、アルバート、リッカ、レイ、ミミ、カウル。 アルバートと書かれた棚にはみんなと同じような服はなく、私が当時来ていた服が丁寧に畳まれて置いてあった。 「私はアルバートくんの代わり、なのか」 見たところ、アルバートはインダの次に年齢が高いのだろう。実際はリッカと同じくらいだと思う。 私はインダの服を一枚拝借し、再び階段を駆け上がった。 寝室に戻ると、毛布を頭から被ったカウルとバケツの水に雑巾を浸すレイがいた。先生は男の子から服を引き剥がしている。 「あの、これ」 私は男の子の身体を見ないように腕で死角を作りながら、先生にインダの服を渡した。 先生は「ありがとう」とそれを受け取ると、レイが雑巾で身体を拭きあげたあとに、その服を着せた。 【つづく】
公園のベンチに、白髪の女が座っている。 女はスマホを眺めながら、小さなため息をついた。 「どうした、そんな顔して」 顔見知りの男が声をかけた。 「あぁ、あんたか。いや、娘から連絡があってな」 「疎遠になってる娘か?」 「結婚して、子どもが生まれたんだ。顔見にこいって」 「おぉ、よかったじゃないか」 女の隣に、男が座った。 「金がないんだ。電車代と、孫になんか買って行かんと」 「それもそうだな」 「あんた、金貸してくれ」 「ダメだ。今日の軍資金がなくなる」 男は笑いながら指差した。 「そこの路地んとこに、店があるだろ。そこ、買い取り屋だから何か売って金にしろ」 「はぁ……売れるもんない」 「孫が生まれて嬉しい気持ちを売ればいい」 「そんなもん買ってくれるのか」 「半分だけならいいだろ」 女は、路地裏にある買い取り屋の扉を開けた。 「どうだった?」 「半分だけ買い取ってもらった」 女の頬が緩む。 「じゃあ、今から孫のとこ行くんだな」 「ん……今日じゃなくていいだろ。軍資金も入ったし、ちょっとだけ行くか」 「お前なぁ……」 自動ドアが開くと、賑やかな音楽が聞こえた。 女は軍資金を胸のポケットに入れ、いつもの台に座った。
知り合いに借金3万円。 来月は鶏肉を中心に食費を抑える決意をする。 ネットのレシピで鶏胸丼などが材料費が安く出来ると出ていた。 旨そうだ。 鶏肉は庶民の味方。 僕は政府の敵(あるいは犬) 玉ねぎ食いたい。 血液がサラサラニナル。 サラサラニナル。 さらにさらに成る。 何者かになれなかったが料理は楽しい。 坂本龍馬も実は大したことはしなかったらしい。 知り合いが遠くに引っ越す。 皆それぞれの道へ。 基本的に鳥頭。 苛められてもすぐ忘れる。 世の中に無視されているがそれは僕が無視していたからだろう。 少し拗ねるのをやめようかな。 役立たずでいなさい、とは誰にも教わらなかった。 やるよりやられる人になりなさいとは言われた。 恋は奪うもの愛は与えるものとも言っていた。 与え続けたあいつは死んだ。 やられて与えて死ぬ。 一見すると狂っているようにも見えるこの行動が一筋の光なのかもしれない。 鳥が僕に与えてくれるものを考えて感謝して食べる。 いただきます。
ある政治家が緊急記者会見を開いた。 真剣な面持ちでマイクの前に立つと、集まった記者たちに一礼した。 「私は、国民の皆様の死ぬ権利を保証します」 政治家は動じず、淡々と語り始めた。 「我が国の医療費は年々増加しています。私は、医療費削減のため『尊厳死還付支援金等に関する法律の一部改正を認める法案』を国会に提出しました」 ざわつきの中、政治家は続けた。 「医学的に延命治療が不可能な患者様が尊厳死を選択した場合、延命を続けたときにかかる医療費の半分を還付金として支給します。 申請の妥当性は、AIのみで構成される第三者委員会が判断します。本人、家族、後見人等が尊厳死を理解し、同意することが前提です」 テレビの画面を見つめる女。 その隣には、長い間管につながれたまま眠り続ける夫がいる。声をかけても反応はない。そんな時間が一年を超えていた。 テレビの司会者が、評論家の女に質問した。 「あなたの立場から、今の社会の風潮をどう考えますか?」 「最初は倫理的にどうかなと思いました。でもね、家族の金銭的、精神的負担を考えるとね。国も医療費を減らしたいと思っている。時代の流れかしら」 法案は成立し、運用が開始された。 AIは、不正申請や悪質な養子縁組なども瞬時に判断した。 その実績を政府は大々的に報道し、制度の正当性をアピールした。 あの政治家が再び記者会見を開いた。 「政府は規制緩和の一環として、支援金の有効活用を目的とする民間企業の商品開発、および第三者委員会のAIの一部利用を許可します」 感嘆の声が会場に響いた。 支援金は国民の生活に変化をもたらした。 「故人からの最後の贈り物」として美化され、生活の一部となった。 夫婦の病室。 温かいタオルで夫の体を拭く妻。 医師やAIからは、すでに受理のサインをもらっていた。 署名をすれば終わる…。 妻が机の上を見つめた。 そこには、笑顔で寄り添う二人の写真が飾られていた。
まるで空気に茹でられるかのような、湿った熱の中。蝉時雨を前に私は、ただ木陰の下で君を俟っていた。 少し遠くの青い水平線が、灼けるほどの日差しを反射する。乱反射した光が私の目の奥に届く間に、いつしか私は、起こるはずもないそんな奇跡を、待ち続けている。 握りしめたのは、君からの手紙。 『八月の一七の日。あの木の下で待っています』 最後に綴られた言葉は鮮やかに、まるで呪いのように私をこの季節に縛る。 「——私はここ以外では生きられないのに」 そんな言葉で錯覚させてしまうほど、私の心はあの夏に置いていってしまった。忌々しい、君を連れ去ったあの季節に。 瞬間、舞い上がった風に引かれるように、私は上を見上げる。歯の隙間から覗く光は静かに、私を睨んでいた。 未だ鳴り止まない蝉の声が劈く。私の耳に突き刺さる。 握りしめた手紙を強く握り潰して、出かかった言葉を噛み締めた。 「もう、出逢えないのに」 君が約束を破ることなんて、わかっていた。わかっているのに、それでも願ってしまう。 酷く苦しい、 あの日の記憶。
「もっと文章が上手くなりたい!」 幼馴染のオカルト研究会部長兼二か月前に突然性格が変貌した幼馴染のAさんに相談した。 Aさんは、少し考えた後、部室から一冊の本を持って来て、ぼくに貸してくれた。 「ここに書かれている通りのことをやればいいよ」 ぼくは家に帰って、さっそく本を開いた。 本の一行目には、こう書かれていた。 『手書き派の方は四ページから。スマホ・パソコン派の方は百四ページから』 「パソコン派です!」 ぼくは百四ページを開いた。 百四ページの一行目には、こう書かれていた。 『引きずり込む文章を書きたい人は百六ページから』 ぼくは迷わずず百六ページ目を開いた。 『引きずり込む文章の例は百八ページから』 ぼくは迷わずず百八ページ目を開いた。 その瞬間、ぼくの体が本の中へと引きずり込まれた。 漫画でよく見るような、突然体が開いた本に近づいて行き、本に触れた瞬間にこことは違うどこかの世界へ瞬間移動したような感じ。 「ここ、どこ?」 上下左右が霧のようなモヤに包まれている場所で、無色透明の床だろう場所に立って、ぼくは辺りを見渡した。 そして、見知った顔を見つける。 「あ、Aさん」 「なんだあああ! 君も、飲み込まれちったのかああい?」 よかった、いつものAさんだ。 「君もってことは、Aさんも?」 「いや。私は悪魔召喚の儀式に成功したら、その代償に体を奪われた」 「あのAさんは悪魔だったんですね」 「しかし代わりに、悪魔は自分の視界や聴覚を共有してん~~~くれているのさ! だから、君の他にも、悪魔が次々と人を地獄に引きずり込んでいくのを見ていてね。いやあ、たっのしい!」 話を聞いていると、全ての元凶がAさんだということが判明した。 そのせいで、ぼくは地獄に来てしまったというわけだ。 ぼくは喜ぶAさんを見て、溜息を零す。 人を引きずり込む文章を……物理的じゃなくて、心を掴むという意味での文章を書けなくなったことは、素直に残念だ。 でも、目の前で喜んでいるAさんを見ていると、なんだか嬉しい気分になってきた。 だってぼくは、Aさんのことが好きなんだから。 このまま一生、いや永遠に地獄で一緒に入れるんだと思うと、悪くない。 「ところで、Aさんは悪魔を召喚して何を願ったんですか?」 「んんん~~~~? 世界中の人間が、私を好きになるように、だよ」 ……あれ?
料理をしててふと思う、結婚できない理由 自分が満足すればそれでいい、その程度の料理しか私はしない 誰かに食べてもらうことを少しも想定していない 私の料理には、他人がいないのだ 気にしなくていいんじゃない 考えすぎだよ そういった言葉を真に受けてきた 気にしなくていいというから気にしなかった 考えすぎだというから考えなくていいと思った 少しは気にしていたほうがよかったのかも ちょっとくらいは考えたほうがよかったのかも まだ、雨は降っている 不規則な雨の音にリズムが狂わされる 思考が混乱するのでないならいいのかも ああ、そうか、違うんだなあ こんな思考なんて、狂わされて、壊されたほうがいいんだなあ もう、間に合わないのかもしれないけれど
「旅行へ行こう!」 「行こう行こう!」 盛り上がる友達。 「すまぬ。某は、ここを出られぬ故」 断る某。 「Tっていっつもそうだよな」 「東京の人は、東京に来いって言うばかりで、自分からはいかないよな」 呆れた顔で去っていく友達。 某は、窓から外を見た。 東京の街はいつものように、黒い邪気によって囲まれていた。 東京生まれ東京育ち純潔の都民にしか見えぬ、東京の正体だ。 「許せ、友たちよ。某、邪気の外に出ると死んでしまうのだ」 東京の汚い空気を吸って育った人間は、綺麗な空気を吸うことができない。 肺が、東京の外の人間とは異なる進化をしてしまったのだ。 某だって、外の世界を見てみたい。 「破ァーッ!」 手に力を込めて、邪気に向かって波動を放つ。 しかし、邪気に一瞬穴が開いただけ。 すぐ塞がって元通り。 数日後、友達からメッセージが届いた。 『富山の海鮮美味すぎ』 某は、精一杯の強がりを込めて返信した。 『東京でも食べれるよ』
私は常に何かに足を引っ張られている。 勉強では英語に足を引っ張られ、顔面では目に足を引っ張られている。 英語さえなかったら私は学年一位だったのに、目さえ良かったら私はかわいかったのに。 そんなどうにもならない希望を見つめながら生活を送っている テストの順位が発表される日、とても憂鬱だ。 きっと一位は顔がかわいくて、何にも足を引っ張られてない棚田さん。 きっと二位は国語は少しだけ不得意だけど、英語と理科が得意な葉野くん。 そして私は高くて三位。周りはみんな褒めてくれるけれど、自分ではなんとも言えない気持ち。 別に順位は低くない。むしろ高い方。そんなのわかっている。 私がこの順位でがっかりしたら、きっと周りから嫌われる。だから私は喜ぶふりをする。 「天才だからね」とちょっと自慢したふりをする。 本当は天才なんかじゃないのに。地頭は悪いほうだ。 授業でしたことを家で復習するとびっくりするぐらい何も覚えてない。毎日書かないと、英語の曜日の綴りを忘れてしまう。 だから毎日書くし、復習予習は当たり前。それでも三位。 わかる。わかってる。高い方だってわかってる。落ち込んだらいけないって。喜ばないといけないってわかってる。 家に帰って母親にテストを見せる。 英語が足引っ張ってるね。英語もっと高かったら、順位もっと高かったね、って。 さっきみんな褒めてくれる、といったが母は例外だ。 私が一位だった理科も数学も無視して、悪い英語のことばかり言ってくる。まるで他の教科は上位になるのが当たり前みたいに。 普通に考えたらすごい方なのに、普通に考えたら褒められることなのに、褒められない。 きっと四位の人も五位の人も褒められているんだろうな。私は三位なのに褒められない。 私が三位で喜んだらいけないのは、母がいるから。 母がいなかったらきっと三位でも大喜びする。でも母がそんなこと言うから、三位で喜べない。 私の上にあと二人もいる。それは異常なこと。 だからそんな異常事態を起こした私は悪い人、犯罪者、クズ、アホ、バカ、嫌われ者。 「ごめんなさい」とはにかむ。表情だけでも笑わないと涙が出てきちゃうから。 放課後の教室、訳あって後輩と話していた。 この時が人生で一番楽しかったりする。彼氏といるよりも、父さんといるときよりも。 後輩は私を慕ってくれている。敬語で純粋に目をキラキラさせて。私の学力も知らないで。 後輩に言った。「私、こう見えて学年三位なんだよ」って。 後輩は驚いた。疑ってもきた。 今までされなかった反応に斬新さを感じた。 ちょっと褒めてくれた。どんな人に褒められるよりも嬉しかった。 私はこの子のためにこれからも頑張る。そう決心した。
世界には、価値のない物がある。 しかし、情報というラベルは、物に価値を付与することができる。 「希少なパワーストーン『ナンニモツカエヘン石』。この石を身に着けていれば、金運向上間違いなし」 昨今のスピリチュアルブームで、元々金運向上を担っていた鉱石は品切れに。 代わりに目を付けられたのが、誰もパワーストーン化していないナンニモツカエヘン石だった。 「買います!」 「買います!」 安く買える金運向上効果に、スピ活中の人々は飛びついた。 お世辞にも綺麗と呼べない濁った灰色の石も、自称パワーストーンの王様の手にかかれば、大きな利益を発生させた。 パワーストーンの王様は左団扇。 優雅に豪邸で美酒を飲んだ。 それから数十年後。 ナンニモツカエヘン石は、レアメタルとしての新たな価値を見出された。 世界中の研究機関は、世界に散らばったナンニモツカエヘン石を高額で買い取ると発表した。 数十年前、ナンニモツカエヘン石を買った人々は、大盛り上がり。 紙幣一枚で買った石ころが、何百倍何千倍となって返ってきたのだから。 「金運向上!」 「パワーストーン最高!」 人々はナンニモツカエヘン石を売り払い、大金を手にした。 そして、手にした大金すべてを突っ込んで、次のパワーストーンを買いあさった。
「お父さん! 明日もまた来ようね!」 息子からそう言われた時、私はつい苦笑いを返してしまいました。 息子はまだ5歳。地球を出発した時はぐっすり眠っていて、起きたらいつの間にかこの場所にいたため、どこか近場の遊園地にでも来ている気分なのでしょう。しかし、ここは地球から遠く離れた宇宙なのです。 とはいえ、若い頃に想像していたよりはずっと早く、たった7〜8時間で私たちは宇宙へと運ばれました。宇宙空間に向け、莫大なエネルギーを推進力に変換する最新の宇宙船のおかげで、遠い海外へ行くよりもずっと短い時間で目的地へ着いてしまうのです。 私たちが訪れたのは火星のテーマパーク。そこには、地球の遊園地とは比べ物にならないほど魅惑的で面白いアトラクションがたくさんありました。 そして帰り際、冒頭の息子の一言があったのです。 「ははっ、明日は無理かもしれないけど、近いうちにまた来ようね!」 私は苦し紛れにそう返すしかありませんでした。 というのも、宇宙旅行の費用は海外旅行の比ではありません。庶民の貯金では到底手が届かない、天文学的な金額なのです。今回は「初回限定で大幅な割引が適用される」という政府の特別政策を利用して、ようやく叶った旅でした。次回からはそうはいきません。 父親としての見栄を張って約束してしまった手前、心苦しいのは山々ですが、宇宙旅行が一般化して安くなる頃には、私にはもう行く体力が残っていないでしょう。 それでも心の中では、目の前のこの小さな君がすっかり大人になった頃、もう一度肩を並べて同じ景色を見たいと強く願っていました。 二日間全力で遊び、すっかり疲れ切った体を帰りの宇宙船のシートに沈めます。 静かに動き出した船内で、息子がふと言いました。 「お母さんは、どこにいるの?」 私は一瞬、思考が止まりました。そんな私の戸惑いなど気にも留めず、息子はじっと私の目を見つめて続けます。 「お母さん、お星さまになったんでしょう?」 ――そうでした。私は幼い彼に「お母さんはお星さまになったんだよ」と教えていたのです。もともと体が弱かった妻は、この子を産んですぐに亡くなりました。どうすることもできない運命でした。 「お母さん、どのお星様になったの?」 気づけば、目から滲んだ涙が頬を伝っていました。 「うん……どこだろうね。こんなにたくさんのお星様の中から探すのは、とっても大変だね……」 泣いているのがバレない様にまるで子供の様に笑顔で強がってみせます。 「あ、あれお母さんだ! お父さん、あれがお母さんだよ! 見つけたよ!」 息子の小さな指先が示す先にあったのは、決して一番強く輝く星ではありませんでした。しかしそれは、宇宙の暗闇の中で、一番優しくあたたかい光を放つ星でした。それを見た瞬間、私は本当に妻の姿を見たような気がしたのです。 死者の魂が星に生まれ変わることなどないと、一体誰が断言できるでしょうか。真実を誤魔化すために息子の前に立てた嘘の壁は、世界の在り方を示す鏡だったのかも知れません。 息子は写真越しでしか妻を見たことがないはずはのに、私よりも妻の本当の姿を見抜いているように感じました。 「ああ……間違いない。間違いなく、お母さんだ。君のお母さんだよ」 ついに涙を隠しきれなくなった私を見て、息子は「お父さん、変なの」とでも言いたげな不思議そうな顔をしていました。しかし数十分後には、安心したのか私の胸の中で再びすうすうと寝息を立て始めました。 もう一度、君に会いに来よう。 それまで、あの場所で待っていてくれるだろうか。いや、きっと大丈夫だ。星の寿命は人間よりずっとずっと長いのだから。この子はこれからぐんぐん成長し、あたたかな君の光はますます輝きを増していくに違いない。二人の成長と輝きを見守ることができる私は、なんて幸せ者なのだろう。 静かに眠る息子のやわらかな髪を撫でながら、私の心はまるで無重力のように、ふわりと軽く浮き上がっていくのを感じていました。無造作に跳ね上がった毛先とあの星を一直線に繋いで独り呟くのです。 君とまた宇宙で。
例えば、手を握って教会に行って讃美歌を一緒に聴いたとする あんまり理由がわからなくて、直ぐに出てきてしまいそうだ その後はたこ焼きでも食べに行こう 例えば、手を握って表参道を散歩したとする。「お茶でもしたいな」と思っても、落ち着けるお店が見つからなくて遠くまで歩いてしまいそうだよ そしたらホテルにでも入ればいい 例えば、手を握って車の中で秘密話しをしていても、直ぐにその口を塞ぐことになりそうだ カーナビに載っていない地図の裏側まで行けば誰にも見られない 例えば、手を握って共に生きたとする 指輪を交わし、生活をして、家族が増えて、沢山の喧嘩と数え切れないほどのセックスをしたとしても、別れの危機は来ると思う そしたら、君の手を握ったあの日から、始めて見ようと思っている 君は覚えていないだろうけど。
わたしは挑戦することが好き。 できなかったら得られなかったことを知れるから。 実は、思い込みが激しい。 だからこそ、挑戦をやめたくない。 挑戦しなければ、あーでもない、こーでもないってずっと悩んで考え込んでしまうから。 考えるよりも行動に起こすそうし続けてきた。 挑戦するということは、傷つくことと同義でもある。 時には、挑戦しなければ経験することのなかった大きな痛みも伴う。 例えば、海外のカリキュラムを選んだことで味わう、日本の高校生とは違う疎外感とか。 勉強に明け暮れて部活に入れず、逃した青春とか。 他のカリキュラムの子と所属クラスが同じで、話題が合いにくい辛さとか。 全日制から通信制に移る環境が変わる痛みとか。 後悔のが実は多いかも… それでも、挑戦したからわたしはわたしを知れた。 好きなことも、嫌いなことも、得意なことも下手くそなことも。 それでもいいやって思える精神とか、理想の生き方も、挑戦しなきゃ知り得なかった。 自分が自分であればそれでもいっか。 そうやって思える自分になった。 それでも、ほんとは挑戦するのがいつも怖い。 挑戦し続けることが生きてる価値になるのが怖い。 だから受容して生きたい 何でもそうだけど、できても、できなくてもわたしはわたし。 あなたはあなた。 みんな違ってみんな良いじゃん。 それはそれで、今日は穏やかに過ごせたなとか、きっといいことあるよね。 わたしはまだ、暗闇の中にいる。 光はまだ見えていない。 それでもずっと楽しく生きたい。 明るく笑って前向きに… 何が正解で何が間違いとか、外の視線は気にせずに… 主観で自分を縛らずに 生きたいように自然に、今日も生きてみたい
僕の祖父は、不思議な人だった。彼は”アイコノクラズム”というみょうちきりんな名前の神様を崇拝していた。 「アイコノクラズムってなんなの?」 僕がそう聞くと、祖父はいつも僕をこう叱りつけた。 「こら、その名前の意味を軽々しく聞くな」 そのせいか、僕の”アイコノクラズム”への興味は段々と膨らんで行った。しかし、祖父は、僕がインターネットや辞書でそれについて調べることを強く禁じた。 「アイコノクラズムってなんなんだ?」 僕がその意味についてぐるぐると頭を巡らせている間にも、祖父の"アイコノクラズム"への信仰心は日に日にひどくなっていき、終いには親戚中に"アイコノクラズム”様の教えを布教しようとするようになった。父をはじめとする親戚一同は、これに腹を立て、彼と縁を切ってしまった。もちろん僕も祖父とはそれっきりだ。それからというもの、孤独となってしまった祖父は次第に生きる気力を失い、今から半年前に孤独死した。僕は彼の葬式の夜に、こっそり"アイコノクラズム”について調べた。その意味は”偶像破壊”。今考えると、ある言葉を偶像として崇拝した結果、自分の人生を壊してしまった祖父にとって皮肉な言葉になってしまったなと思う。
郊外の安アパート。 中年の女が一人で暮らしていた。 「私……さえてるねぇ」 ニヤリと笑った。 『手を振る教』 教祖のまねごとを始めた。 思いを込めて手を振ると、大切な人にもう一度会える。 適当に考えた。 ──明日午後九時からライブ配信を行います。 あなたの大切な人に会えますように。 SNSでつぶやいた。 週に一度のライブ配信。 目的は投げ銭。 数人だった視聴者は、今では百人を超えた。 『十年ぶりに娘から電話がきた』 『偶然、昔の恋人に会えたよ』 喜びの投稿が並ぶ。 視聴者が千人を超えた。 女は投げ銭を増やそうと、必死に両手を振り続ける。 ──肩が痛い……。 治療費は、投げ銭の額をはるかに上回った。
「もう少し普通になりなさい」 「どうしてそんなに変なの?」 色んな人に言われた同じような言葉が私の中で繰り返される。 普通、か。 普通とは何か、を具体的に説明してから言って欲しい。 私はいわゆる普通の家庭に生まれた。 父、母、姉が一人。一般的、そう普通。 両親が欠けているわけでもないし、大家族ってわけでもない。普通の家庭。 だけど私は普通ではないらしい。 普通が何かなんてその環境によって決まるのに。 女の子ばかりのところだったら前髪を気にするのが普通だし、芸能界では綺麗なのが普通だ。 普通なんて結局は環境で変化する曖昧なもの。 でも私はどこにいてもその曖昧なものになれなかった。なろうとしてみたこともある。 前髪を気にしてみたり、恋バナに参加してみたり、口元を隠して笑ってみたり。 だけど何か違う。本物にはなれてない感じ。 どんどんボロが出てきて最終的には普通じゃないのがバレてしまう。 みんな陰口を言うのが普通。でもわざわざ、一言注意したら終わることを長々と陰でぐちぐち言う意味がわからない。 みんなスカートを折るのが普通。でも校則を破ってまで、膝を見せたがる意味がわからない。 男好きは嫌われるのが普通。女の子なんて大抵男の子と恋愛をするのに意味がわからない。女の子は大抵、男好きでしょ? 普通になりなさい。って。 性格悪くなってでも、普通にならなきゃいけないの? どうしてそんなに変なの?って。 バカみたいに周りに合わせてる方が変でしょ? 普通になりたい。 そしたら陰口を言う罪悪感も普通への疑問も無くなるのかな。 普通になりたい。 普通だったらきっともう少し生きやすかった。
あの山の向こうに巨大な怪獣が住んでいる 時折、山頂に手をかけて山並みから、ひょっこり顔を出して悪い子はいないかと探していると信じていた 山に霧が出ている時は、霧の影から怪獣が見えないか心配だった 大人になった今でも、ふと視線を感じると時がある 巨大な目が私を見ていないか恐る恐る山を見る
昼過ぎに生姜の紅茶を入れる 少し風邪気味のようなので蜂蜜を垂らす 紅茶を飲みながら壁に飾ってある写真を目にする あの天使の羽根のような娘が今年で二十歳になり、私と同じ記者になるなんて思いもしなかった。私の記者時代は短く、入社して一年で娘を授かり、記者には戻らず、そのまま専業主婦になった。だから私の記者時代の思い出は、あの事件が全てと言っても過言ではない。 松永重政(56)の切断された遺体が近所の子供に発見された事件だ。 「すみません。今、戻りました」 「悪いな。とりあえず会議室で話そう」 私が殺害現場の周辺に取材をしていたら、上司から「この事件、跳ねそうだ。すぐ戻って来てくれ」と言われ急いで会社に戻ってきた。 会議室に行くと先輩が既にいて、ノートPCで作業をしていた。 上司、先輩、私が席に着くと、先輩が警視庁で取材してきた内容を話し出す 「…殺された松永氏は、自宅以外に山奥に屋敷を所有していて、その敷地内に倉庫があるらしい。今朝方、警察がその倉庫を見に行くと沢山の遺体が発見されたんだ。全員少女ばかりで、一見眠っているかのようだだと言ってました…」 「それは松永氏が殺して保管していたってことだよな」 「おそらく…」 衝撃的過ぎて息も出来ない。 上司は私達に指示を出して、会社に帰って来て30分も経たないまま、私は山奥の松永氏の倉庫へ向かう。 妊娠して三ヶ月。全く母親になる準備も無いままこの事件の取材をしていた気がする。寝る時間も食べる時間もろくに作れずボロボロな状態で過ごしていた。本当に無事に産まれてくれて神様と娘に感謝しかない。 実際、私が見た山奥の倉庫は、何でもない一軒家のようで、敷地内の倉庫もベニヤが日に焼けた小汚い小屋に見えたが、それは外壁に古いベニヤを貼っているだけで、中身は真新しい空調の効いた倉庫だった その倉庫の中にベッドを敷き詰め、服を着た少女達の遺体を保管したいたのだ 私の娘も、彼女達と同じ位の歳だ もし、娘が被害にあっていたと思うと、恐ろしく身の毛がよだつ。 彼女達の年齢は、14歳〜20歳で海外の人が多く日本人は一人だけいた。彼女の名前は浜野姫南15歳。結果的に彼女が松永氏の最後の被害者となった。 日本の警察が調べた松永氏の情報は、その後世界を駆け巡り、海外の警察と連携を組む大掛かりな事件へと発展した。 松永氏は海外の客から依頼を受けて、ターゲットとになる少女を日本に送る。松永氏は日本に来たタイミングで少女を殺害しエンバーミングを施して保管する。そして依頼者が日本にいる間、死体の彼女達を提供していた。 松永氏の顧客は世界各国にいて、軒並み表では成人君主の様な権力者だったが、松永氏のニュースで真実が明るみとなり彼等は墜落していった。 ただ日本人女性の浜野姫南さんだけ、依頼も提供も記録がなかったという。 そして、彼女の父親、浜野勝(45)は、松永重政を殺す殺人犯となる。 ラインの着信音が鳴る 「会社にお母さんの事を知っている人がいた」 今さっき思い出していた先輩に違いない 「『娘をよろしくお願いします』と言っておいて」 「『あいよ』だって」 …何だか仲が良さそうだ。あの子の事だから、会社のオジサンたちを上手く使いそうで怖い。
僕は埴輪みたいな体型をしている。 口も空いている。 あいつは埴輪の何かか?と行き交う人に思われている気がする(自意識過剰) 埴輪でも作って暮らしていたい。 埴輪にシンパシーを感じる。 馬の埴輪なんかいい感じだ。 顔の書いてある土器とかも可愛い。 縄文土器はいいなぁ。 粘土こねくりまわす。 ペタペタ。 豊満な女性の埴輪なんかエロスを感じる。 ペタペタ。 ペチペチ。 ペチョペチョ。 動物の埴輪なんかもいいかもしれない。 ペタペタ。 モーモー。 ブーブー。 コケコッコ。 縄文土器はいいなぁ(疲労感)
週末の午後。 都心の貸会議室に、スーツ姿の男たちが集まった。 「だいたい揃いましたかね」 司会の声に、それぞれが椅子を引いた。 「では、始めたいと思います」 「すみません」 最前列の男が手を上げた。 「この資料ですけど、指名方針は決定ですか?」 「はい。12球団すべてのオーナー様からは了承を得ています」 男が周りを見た。 すると、横にいた一人が話し出した。 「君は初めてか。今日はね、ドラフトの話じゃないのよ」 「えっ」 司会が割って入った。 「ドラフト会議のテレビ中継と、球団のイメージ戦略についてです」 会議室に小さな笑いが起こった。 「局側が、もう少しドラマチックにしたいと……」 「どういうことですか?」 「今年は、候補の生い立ちが平凡すぎて、2時間の枠が持たないらしいです」 「やっぱりか……」 資料をめくる音が続いた。 「たとえば、母親が朝から晩まで働いて……とかでしょ?」 「……そう言われてもねぇ」 ──ガチャン。 扉が開き、地方から戻ったスカウトの男が入ってきた。 「理想の子、いました」 額の汗を拭いながら、鞄からタブレットを出した。 「母親がパートを掛け持ちして、五人の子どもを育ててます。その長男ですね」 「いいじゃない。で、野球の実力はどう?」 「まぁ、何とかなるでしょう」 「局側には、この子で時間をつないでもらうとして」 すると、腕を組んで座っていた年配のスカウトが手を上げた。 「こういう子はいい。球団の顔になるし、スポンサーも喜ぶ」 「そうですね。来月の会議まで、もう少しスカウト頑張りますか」 皆がうなずくなか、司会者が正面の机に抽選箱を用意した。 「先ほどの長男の方を指名する球団はありますか?」 男たちが目配せをする。 すると、四球団が手を上げた。 「では、抽選に移ります」
ワタシは死にました。 恋という、赤い糸が首に食い込んで、ロマンチストという言葉でくくられて、最期は叶わぬ恋に宙ぶらりんとなりました。 何の希望も持てず、 ただ、愛を知りたいと、愚かでした。 そんな浅はかで愚かなワタシを愛してくれたのが、あなたでしたね。 この文章をあなたが読むころ、ワタシはあなたの前から姿を消しているでしょう。 誰しもが闇を抱えている。 そうなのです。 そうです、その通りなのです。 ワタシが闇を抱えているならば、あなたも抱えいて当然だったのでしょう。 あなたは鳥かごを持っていた。 そこにワタシを入れて愛でていた。 そうなのです。 あなたが愛ならば、ワタシは最初から叶わぬ恋をしていたのです。 あなたをお慕いしていました。 心から。心から…。えぇ。 あなたにとって、ワタシは「愛玩」だったのですね。 それこそ動物を愛でるような。 最初から間違えていたのです。 恋愛という感情はなく、ただ哀れで可哀想なワタシをあなたは愛でていたのですね。
「あなたは、ワタシさんですか?」 「はい」 「ワタシというのは、漢字で私?」 「いえ、ひらがなで、わたしです」 「じゃあ、わたしさんね。はい、これでいい?」 お相手は、一人称欄に『わたし』と書かれた紙を、わたしに見せる。 「これでも、いいですよ」 「これでも?」 「はい。いや、べつにダメというわけではなくて。でも、べつに漢字で私だろうと、ひらがなでわたしだろうと、カタカナでワタシだろうと。正直、どっちでもよくて」 「じゃあ……どうします? このままひらがな表記にしますか?」 「わたしは、気に入りました」 「そう。本当に、わたしでいいの?」 「はい」 二人は対話を重ねつつ、紙に必要事項を記入していく。性別、出生地、家族構成における立ち位置、生理現象の回数、思考の癖、etc。 「それにしても不思議ですね」 「何がです?」 「いや、その、たかが一人称でしかないわたしが、この人自身に関わる重要な物事を決めてしまってもいいのかなって」 「それが当然のことでは? 〈あなた自身〉のことは、あなた自身で決めるものですから」 ほうける、わたし。 おどろく、お相手。 「あっ、失礼。勝手なことを……。ただ、一人称というのは、生まれる〈その人〉が本名以外で、自ら望んで口にする呼び名です。むしろ本名よりも呼ばれる回数は多いかもしれません。本名と一人称が同じ場合は、なおさら」 「はぁ」 「言ってしまえば、一人称は本名よりも名前。むしろ、第一の名前です」 「第一ですか?」 「ええ。二人称や三人称は、周囲の人々の存在によって、はじめて誕生します。本名もそうです。親や、それ以外の誰かに名づけられるまで、その人は名無しの人となるわけです」 一度、お相手は咳をする。コホン。 「しかし、一人称の場合は話が違う。本名よりも先に生まれる。特別です」 「特別……」 「はい。ですから、生まれる〈その人〉よりもずっと特別な、その人の一人称である『あなた』には、その人のいくつかの生理的かつ個人的な特性を与える、強い決定権があるわけです」 お相手が紙に記入した一人称欄を指差す。しかし、隣の名前欄は空白のままだ。 「でも、わたしがわたしの名前で呼ばれることはない。ですよね?」 「ええ、そうです。あなたは、あくまでも『わたし』さんですから。この空白は、これから生まれる人のためにあるのです」 「でも、わたしと、これから生まれるその人は同じ存在。……ですよね?」 「あなた、先ほどご自分でおっしゃりましたよね。自分は、たかが一人称でしかない、と」 「それは……。でも、よく考えてみたら、わたしと呼ばれるその人と、その人の一人称である『わたし』は、同一人物だって」 「少し違います」 バン。わたしは、机をたたく。 「いったい何が」 「今のあなたは、今の間しか存在しないからですよ」 「え?」 「これから生まれる〈この人〉を構成するものは、たくさんあります。性別さん、細胞さん、心臓さんや肺さん、嗜好さん、内気さん、暴力性さん、幸福度さん」 「……それで?」 「あなたは、これから生まれる人――すなわち、〈あなたが一人称を決定し、担当する人〉の構成要素である、その他大勢と結合することになる」 「けつごう?」 「はい。無数の構成要素が混ざりあうことで、はじめて生物の核が完成します。その核の3割をこれから生まれる人のDNAに流し込み、残りの7割をその人の魂とします。そうすることで、はじめてヒトは誕生することができる。これは他の生物も同じこと」 「わたしは、『わたし』でいられなくなる?」 「まさか。あなたは、これからも〈わたし〉と呼ばれる。それでいいじゃないですか」 わなわなと、わたしがふるえている。 目の前の相手は、事務的に再度、確認をとる。 「本当に、わたしでよかったですか?」
ロシア時代 気だるい月曜日に小雨が降っている 大学をサボってもいいが、学校以外の場所で暇を潰せそうにない 下を向いて歩いていたら校門で誰かとぶつかった。 「すみません」 変な訛りが気になって顔を見るとアジア人だった。 うちの学校でアジア人等見たことなかった。面白そうなので声をかけてみた 校内のカフェに入って話を聞くとなかなか面白い奴だった 彼の名はマツナガシゲル ロシアの文化を勉強に来たと言っているが僕の見た所、暇つぶしに観光がてらうちの大学に入学したのだろう。つまり僕達は暇人同士だ。 彼ははっきりとは言ってなかったが、家は相当な金持ちで、彼の妖艶な瞳は、金以外の何かを求めている。 「今度、家に来なよ。料理をご馳走するから。母の作るビーフストロガノフは絶品さ」 マツナガシゲルは愛想よく礼を言い、君の親切に感謝するとカフェ代を払ってくれた。 彼は大学の事務所に行くと言いその日はそこで別れた。また暇になった俺は小雨を見ながらさっきの彼とのやり取りを思い返していると、ある計画を思い付き彼が興味を引くに違いないと確信する。いや…祈ると言うべきか。 「母さん連れてきたよ」 「マツナガシゲルです。今晩はお食事にお招きいただき、ありがとうございます」 母は礼儀正しくハンサムなマツナガシゲルを気に入り、たくさん食べてってと席に座らせている。 父が書斎から降りてきた シゲルが挨拶をすると、父は彼をハグし食事が終わるまで彼等は級友のように延々と話していた 父はシゲルを気に入り彼を書斎に招いた その様子を僕は静かに見守る 父もシゲルが暇を持て余していることに気が付くだろう。まだ、この世に何か面白いことは残ってないだろうかという洞窟の様な心を。 そして父は秘密の会に彼を誘うだろう 果たして彼は人の道を踏み外すのだろうか 数日後、シゲルに大学で会った 「この間はご馳走様でした。本当に有意義な時間だったよ」 「こちらこそ、君と話せて良かった。食事の後、父の書斎で話していたね。煩わしかったら申し訳ない」 父の話をすると、シゲルは、ほんの少し表情を変えたが直ぐにいつもの朗らかなシゲルに戻った 「僕はあの後も君のお父さんと仲良くさせてもらっているんだ」 「そうだったんだ。父も親孝行の息子が出来てさぞ喜んでいるだろう」 その日依頼、大学でシゲルを観ることは無くなり、同じ時期に父も家を留守にすることが多くなった 二人の秘密は父の葬式でも聞くことはなく、父は言葉通り墓場まで持っていったのだ。 「家を買わずに隣人を買え」とは言うが子に親は買えない。父が私への期待をシゲルに注いでくれて良かった。シゲルも父の狂った情熱を受け入れてくれて良かった 本物の人形遊びに取り憑かれた父の情熱を。
「千里さんってお酒飲むんっすか」 「え?お酒?飲むよ。めちゃくちゃ」 「めちゃくちゃ飲む女の人っているんすねぇ」 「いるわよ。ここに。それより早く終わらしちゃおう」 「はーい」 のんびりしている後輩の石川が作業を再開する 今は出庫を緊急停止してもらって、パレットに積まれた箱を一つ一つ開梱している。 周りには段ボールの積まれた出荷待ちのパレットがいくつもあり、トラックに載せていた所を中断してもらっている。何故か?トラブル発生の為です。まぁよくあることなんだけど。 詰替え用の洗剤が液漏れしている可能性がある商品が梱包されてパレットに積まれているはずなのだ。 製造ラインに洗剤が付着しているのを、うちの従業員が見つけたので、ラインを止めて、出庫を止めて、開梱検品している。迷惑もかかるし、生産進捗も遅れるけど、不良品を出荷するわけには行かない。メーカーとの信用問題に関わるから。 「千里さん、ありました!」 「あった?良かった」 「接着不良ですね。ヒーターを見たほうが良さそうです」 「オーケー。とりあえず、石川君はラインに戻ってメーカーのエンジニアさんに連絡してちょうだい。エンジニアさんがマシンを確認している間、洗剤が付着している所を綺麗に清掃しておいて。オーケーが出たら直ぐ生産開始でお願いします」 「はーい。分かりました」 「私は出庫の再開を物流の人に伝えてくるから。よろしく」 「あっ」 「え?何?」 「今日飲みに行きませんか」 「え?あぁ…よし行こう。たまには行こうか」 「ご馳走様でーす」 「まかせて」 千里はフォークリフトの方へ向かう ★★★ 「お疲れ様」 「お疲れ様です」 夜の9時、会社の近くの居酒屋で千里と石川が乾杯をしている トラブルから生産を再開し、生産は当直のメンバーに任せて、報告や記録、片付け等の処理を千里と石川で済ませた。諸々が終わったのが夜の8時で二人ともクタクタだったが、明日は二人とも休みで居酒屋に着いた頃には元気になっていた。 「千里さんお子さんの晩ごはん大丈夫なんですか?誘っといてアレですけど」 「うん大丈夫。もう高校生だからね。さっき電話したら焼きそばとラーメン食べたらしい」 「凄い。焼きそばとラーメンって…食べ盛りですね」 「あんな細いのにどこに入るんだか」 「千里さん再婚しないんすか」 「何、急に…まぁ、したい人がいたらするかもね」 「メガハイボール二つお持ちしました」 「アレ?2個も頼んだんですか?」 「そうよ。1つは石川の分」 「えっ…飲めるかな」 「飲めるよ」 「勝手に決めてるし」 二人の宴は12時を回った所でお開きになり石川が千里を歩いて家まで送っていく 「一人で帰れるって」 「そういう訳にはいかないっすよ」 「誰も心配しないから」 「しますします」 「しかし、めちゃくちゃ飲みますね」 「そうよ。石川も責任者になればこうなるよ」 「俺は責任者はいいや」 「何言ってんの。石川しかいないでしょ。私の後任」 「やめるんすか」 「やめてたまるか」 「はぁそうっすね」 「そうよ」 「あれ、この辺でしたっけ?」 「そう、あそこの家が私のお家」 「あの…千里さん」 「ん?」 「…」 「…」 「…」 「え…?」 ★★★ 帰ると息子たちは既に寝ていた 静かな夜に湯船に浸かりながらさっきの事を思い出していた
「あ、また死んでる」 通行人が突然倒れた。 近づいて脈を測ってみると、すでに動いていない。 ぼくは救急車を呼んだ。 最近、この病気が多い。 急速死亡病。 略して急死病。 何の前触れもなく死んでしまう、恐ろしい病気だ。 原因は解明されていない。 健康だろうが不健康だろうが死ぬ。 若かろうが高齢だろうが死ぬ。 生きれているぼくからすれば、恐ろしくて仕方ない。 でも。 「羨ましいなあ」 たまに、そう思ってしまう。 救急車が到着して、通行人が救急隊員に運ばれていく。 きっと楽しいことがあったのだろう、安らかな死に顔で。 死ぬのが恐いぼくは、自分の死を実感することなく死ねる急死病を、恐れると同時に焦がれてしまう。 急死病になれば、死ぬ恐怖から解放さ
ねむい。庭の水やりしないと。朝しか時間ない。ねむい。目が開かない。目を開けたいのか、開けたくないのか、とにかくしんどい。ねむい。雨の音が私を助けてくれる。それでも雨がお米を研いでくれることはない。お湯を沸かしてくれるなんてしない。おかずをつくってお弁当箱に詰めるのも、入りきらなかったおかずで朝ごはんの支度をしてくれることもない。あああ、お米研いで炊飯器にセット、寝ちゃう前にしておけば。私に代わって嘆くのだって、雨はしてくれない。 気がつくと窓際のハーブが外を向いている。くるっと回してやるのに、気がつくとまた外に。手のかかる子だなあ。中学からずっと友だちだった女の子は、一緒に通うことになった大学で遅まきながらデビューに成功。私が見てるのとは違うものをいつも見るようになった。そのたび私は、彼女の視界に入ろうとした。でもその子は、また違うほうを向いてしまった。なんでこのタイミング? 思い出す要素なかったと思うけど。言ったって、思ってしまったものは取り消せない。どこかの議会みたいに、いまの発言は取り消します、すんなり簡単になかったことにできたら。思考の残り香は、そこまで単純じゃない。 沸いたお湯で珈琲をいれて「あらあら失敗しちゃって」昨日の私が言う。そろそろ冷たいのに切りかえだね、思った過去の私は、でも冷蔵庫に何もつくってくれていない。私に言うだけのことしてくれてるの? 言っても何も生まれない。それでも何かしら生まれてると言うのなら、いら立ちくらいのものだ。 アタマのなかに住むもうひとりの私とケンカをしつつも着々と朝の準備を隙なく整えていけるのは、もはや成長を通り越して進化なのかも。ふん、だから何? 電車は待ってくれない。いくら進化したところで、私は走っていかなければならない。傘をひらく。キミもぜんぜん進化しないよね。一緒に雨のなか、駅までの道を急ぐ。
深夜、溜息をつきたくなると私は1人シャボン玉を吹く。だって溜息は誰も幸せにしないから。夜風に揺られ、シャボン玉はひっそりとどこかに飛んでいく。昼間と違ってキラキラしていないそれは、ほんの少し重く見える。それは言えずにいる言葉たちの重さかもしれなかった。 風が冷たいからか直ぐに壊れてしまうのだけど、それでも一部は遠くまで飛んでいく。 隠した本音、作った表情、憐みというエゴ。傷つけるのが怖くて重ねた嘘。大切なものの為に、別の大切なものをごまかす癖がついて、私はついに身動きがとれなくなってしまった。けれどシャボン玉はそんな私の代わりに、ここじゃないどこか遠くに行ってくれる気がした。 深夜、人通りのない道で、誰も居ない部屋の窓を開けて、今日もひっそりと、シャボン玉を吹く。誰にも言えない本音を込めて、静かに、壊れないように、そっと吹いている。それが直ぐに壊れる事は知っていたけど、きっと溜息は誰も幸せにしないから。
夜が更けて、私はベッドに寝転がった。もちろん、カウルのベッドではなく、先生のベッドだ。先生は「じゃあ、リッカのベッド借りようかな。綺麗だし」と言ってそこに寝てしまった。 先生は三秒もあればいびきをかくことができるらしい。寝転がって二度目瞬きしたくらいで先生は爆睡してしまった。 夜に取り残された私。今日のお昼にはぐっすり眠っていたはずの空間で、こうも寝付けないなんて不思議な感覚だ。私は布団を肩まで引き上げた。 インダもカウルも安心してか、寝息を立てている。やっぱりここは普通の孤児院だよ。 「死んだよ」 カウルの声が脳裏で反響する。 「絶対、帰って来ない」 カウルの声が脳裏で反響する。 「院長だけが帰ってくる」 私は寝返りを打って、無理やり目を閉じだ。 窓枠から見える月はゆっくりと沈んでいった。明日また顔を出してほしい。暗いのはいやだ。私は不意に家族の温もりを思い出していた。 薄い布団だなあ。 そして、呆気なく次の日はやって来て、孤児院の玄関をコンコンと叩いた。それは院長の帰還を意味していた。 インダは玄関のところまで駆け寄り、ゆっくりと開けた。カウルは一歩引いて、院長から隠れるような仕草をとる。 開いた玄関の扉。その隙間から勢いよく入ってきたのは一人の男の子だった。 「カウル! カウル!」 「レイ!」 キョロキョロと辺りを見渡してカウルを探した少年、レイ。レイはソファの奥に隠れていたカウルを見つけると、まっしぐらに駆け寄った。カウルはそんなレイを真正面から受け止めた。 「おかえり、レイ!」 「ただいま、カウル! 一緒に遊ぼうぜ!」 カウルは目を輝かせながら、そのまま玄関の扉を開けて出ていってしまった。 「走ったら危ないよ!」 扉を支えながら走り去る二人を見送る女の子。そして、その妹のような眼鏡をかけた女の子。 「私も行ってきていい?」 「アンタも? まあ、いいんじゃない? お昼には戻るようにレイとカウルに言っといて」 「分かった!」 そして、レイとカウルの後を追いかけていく女の子。その後ろ姿はまるで、弟。 「あ、起きたんだ」 目の前にいたその女の子は私を見ると、興味本位で近くまで歩いてくる。支えを失った扉はゆっくりと軋みながら閉まった。 「あ、あの、初めまして、ユキと言います」 「アタシはリッカ。よろしく」 リッカはすぐに手を差し出す。あまりに不用心で男勝りなその正確に、どこかお母さんの面影を感じる。私は気圧されながらも、その手を取った。 「やれやれ」という声とともに、もう一度玄関が開くと、背中の曲がったおばあさんが一人入ってきた。 「大丈夫? 院長?」 リッカは院長の姿を見つけるなり、すぐに手を取って引導した。最年長のインダも院長のもとへ急ぐ。 「おや、すまないねえ」 これが院長。私はその痩けた頬や白い髪に衝撃を受けた。子どもたちをたくさん連れて出てった理由って、もしかして。 私はやっぱり普通の孤児院じゃないか、と一人合点した。外で楽しげな声がする。リッカもインダも優しく院長をソファに座らせる。私は台所に走り、院長の前にお茶を入れたコップを出した。 「お前さんが新入りだね?」 青い目をして、高い鼻。現代を生きる魔法使いだと言われれば信じてしまいそうな出で立ち。その吸い込まれそうな、星空のような目の奥にあの日を追憶してしまうのは、どうしてだろう。 コップのお茶に朝日が反射した。 少し談笑したあと、院長はインダとリッカの手を借りてわざわざ二階の院長室に向かった。そこに戻る理由があるのだろう。私はどうしていいかも分からず、ただソファに座って、三人を見送った。 「あれが院長」 先生が私の隣に座った。 「私の曾おばあちゃんみたい」 「曾おばあさんか」 天井にぶら下がった蜘蛛を見ながら、先生が私に問いかける。それはごく自然な質問だった。 「どんな人なの?」 「とても優しい。いつも私の味方でいてくれて、私の話は最後まで聞いてくれる。ずっとそばにいてくれて、あの日も」と口を塞いだ。 「あの日、何があったの?」 先生は思い切って私の一線を踏み越えた。覚悟を決めたような目だった。ただ、私はそれに応えられそうになかった。壁の向こうからみんなの声がする。 「思い出せない。見えなくて」 「見えない?」 「隠されてるの、壁で」 先生の瞳孔が開くのを感じた。何かに驚いているような目だ。空のコップ。 「ユキは、どこまで覚えてるの?」 「え」 私は何も覚えていない。ただ、「願い事の中身を聞かれて、それを秘密にしたところ」までの記憶しかない。そのあとの風景は、何も。 「もしかして、『私に飛びついて泣いたこと』もその時言った『追いかけなきゃ』も覚えてない?」 一体、何の話? 【つづく】
いい子でいた結果追い詰められ貧乏になる。 謝らなくていいことで謝れと言われ居場所を失う。 明らかに相手がファウルをしているのに審判はそれを取らない。 なのでスポーツが嫌いになる。 何の話だろう? トラッシュトークは文章で出来るが僕は相手をオーバーキルしてしまう癖があるので(わかっている子供は逃げたりする)質が悪いのはわかっている。 おまえは言った謝れ だけどてめえはくたばれ 顔に糞塗りたくれ いい加減にしやがれ 韻を踏むと少しだけやり返せたような気分になる。 プロレスを覚えるべきかも知れない。 フツーに考えてヤベー奴が一杯いる。 権力をかさに着て暴虐を尽くす。 僕に力が無いのは僕が力を持つとろくなことをしないのがわかっているのでまあそれはいい。 まあ同じ穴のムジナなんだろう。 実際問題嫌な奴がいて勝てそうな相手だったら飛行機のチケットそいつに取らせてアフリカのサバンナ連れてって一対一で殴り合いしてはったおして倒れてるのを肉食動物に食わせて証拠隠滅を図るくらいのことは考える。 勝てなさそうな相手だったらどうするだろうか? 証拠が残っちゃうからな。 思い付かない。 暴力的なことを考えると心が荒む。 うーん毒を盛る前に盛られてしまった。 花を買っていない。 本来的に鍬で打壊しとかするタイプの人間なんだろう。 外部的な破壊は何も生まないと言う。 内側から自分を狂わし壊す。 壊れていた時期は善きにせよ悪しきにせよ(これが僕の悪い癖だ)世の中が動いていた。 関わると周りの人間が壊れる。 やはり犯罪者の素養がある。 単独犯なので(あるいは都合がいいと金にしている人や面白半分で動いている人はいるかもしれない)結構やられる。 そういえば煙草を吸っている高校生に煙草貰ったことあったな。 いいオッサンがみっともない(ホームレスのオッサンみたいだ) 周りに太っている人を見ない。 猫は土俵に上がれないらしい。 力士から疎まれているのかも知れない。 まとまりの無い文章だ。 僕に武器を持たすと似た奴(まあようは人外)を駆除するので武器を持たされない。 1番武器を持たせちゃいけない人間かもしれない。 世間では核の議論がされている。 僕が個人的に戦術核を持ったら嫌いな奴の性器に照準を合わせてこれが欲しかったんだろオラァってブチ込むのでこんな奴には持たせないだろう。 今夜あたりパンツに穴が空きそうだ。 まあようは義憤なんて嘘なのだ皆私憤なのだ。 悪い奴か。 まあ大体のことは役に立たないですしって主治医に言ったら嫌そうな顔をされた(もっと嫌がれそして生命力を無くせそれを俺が喰って生き延びるから)まあようはあなたのやってることは無駄なんですよって言いたい。 人を元気にさせることも出来るが気に入らない奴の生命力を奪うことも出来る(まあ散々奪 われたんだから奪ってもいいだろう) まだ悪い子成分が足りないかな? まあようは勝手にやってくれ俺はお前ら(俺を利用してはめようとする奴)が嫌いだからと言うことだ。 面白そうな案件なら乗る(何様) しかし実際には何もしていない。 人造人間は動物を守る。 犬は番をはる。 カラオケで讃美歌でも歌おうかな? アシッドな曲は中毒になる。 僕のやってることも多分無茶で無駄。 暗い文章だ。 宇宙人達は死んだ人間を使ったり隠れた霊能力者は善悪の彼岸で金を作ったり忙しい。 全ては未来の不思議装置の開発のツールの為だろう(えらい妄想だ) 悪人正機か。 何もしていないことが1番最悪かもしれない。 魔法で隕石をぶつけたい(局所的に) 巻き込まれる方はたまったものではないだろうがならばもっと悪いことをして善悪問わず科学力を発展させて系外惑星に避難してザマーみろ俺は生き延びたって高笑いしてよかったアイツラいなくなったって地球を再生させるからそれでいい(えらい妄想だ皆こういうことを考えてるのか?) 秀吉は半島に攻め入ったが大陸の制覇の足掛かりだったらしいので同じつてを宇宙で踏む連中は歴史に学んでいないそもそも侵略はうまく行かないと歴史が証明している。 少し状況は変わるが宇宙人は善と悪の両概念で(それ以外?)動くので列島は相変わらずわちゃわちゃしている。 明日あたり刺されるかもしれない(刺すならお尻にしてね) ぶるぶる震えて寝る。
町に熊が出るようになった頃、男は鮭の値札ばかり見るようになった。 国産の秋鮭は高かった。切り身は薄くなり、値札だけが厚かましくなっていた。売り場には輸入サーモンが並んでいたが、男にはそれがどうにも許せなかった。 鮭とは、川を上るものだ。 傷だらけになって、故郷へ戻るものだ。 白いトレーの上で、脂だけを光らせているものではない。 その頃、町では熊の出没が問題になっていた。 柿の木が折られ、納屋が荒らされ、夕方になると子どもたちは集団で帰るようになった。役場には苦情の電話が鳴り、猟友会には依頼と非難が同じ日に届いた。 掲示板には、毎日いくつもの意見が書き込まれた。 〈人命を守れ〉 〈熊を悪者にするな〉 〈自然との共生を考えろ〉 〈子どもが襲われてからでは遅い〉 誰もが正しかった。 だから、誰も引かなかった。 男はそれを読んでいた。 はじめは退屈しのぎだった。誰かの怒りにうなずき、誰かの正義を笑い、また別の誰かの言葉に腹を立てた。 そのうち、男はふと思った。 熊が川に来なければ、鮭はもっと上りやすくなるのではないか。 鮭が増えれば、値段も少しは下がるのではないか。 笑われても仕方のない考えだった。男も、自分でそう思った。 けれど、その考えは、なかなか頭から離れなかった。 男はゆっくりと文字を打った。 〈熊の川辺への接近を制限すべきシャケ〉 投稿してから、男は自分の指先を見た。 なぜ最後にそんな言葉を打ったのか、自分でも分からなかった。 だが、反応はあった。 〈たしかに川沿いの対策は必要〉 〈感情論より具体策だ〉 〈水辺の管理は盲点だった〉 男は画面を見つめた。 自分の言葉が、人の考えに入り込んでいる。 それが分かった。 次の日、男はさらに丁寧に書いた。 〈これは熊を憎む意見ではないシャケ。人と熊の接点を減らすため、水辺の管理を強化すべきシャケ〉 また反応があった。 反論もあった。 賛同もあった。 怒る者もいた。 男は笑わなかった。 笑うと、この力が軽くなる気がした。 やがて、男の投稿は村長の目に留まった。 村長は議会で、静かに資料をめくった。 「熊が鮭を取りに川へ下りてくる。その川辺には、釣り人がいます。散歩をする高齢者がいます。通学路として橋を渡る子どもたちがいます」 議場は静まり返っていた。 「つまり、これは熊の問題であると同時に、人の命の問題です。鮭を取りに来る熊は、いずれ人と出会う。出会えば、事故になる」 村長は一度、言葉を切った。 「私たちは、熊を憎んでいるのではありません。人と熊を出会わせないために、川辺の管理を強化するのです」 何人かの議員がうなずいた。 反対する者もいた。けれど、村長の言葉は強かった。それは怒りではなく、備えとして語られていた。 男は、その中継を部屋で見ていた。 自分の書いた言葉から、「シャケ」だけがきれいに取り除かれている。 ふざけた語尾を失った自分の言葉が、議場の真ん中で、まじめな顔をして座っていた。 数日後、川沿いの藪を刈り、熊の通り道を制限する条例案が可決された。 男は画面の前で、しばらく動かなかった。 それから、天井を向いて、小さく息を吐いた。 「気持ちイイ〜」 その声は、部屋の中でやけに明るかった。 冷凍庫には、買いだめした鮭の切り身が残っていた。けれど男はもう、鮭の値段など見ていなかった。 男は震える指で、掲示板を開いた。 村では、今度は鹿の食害について議論が始まっていた。 山菜が食われた。 畑が荒らされた。 車とぶつかりそうになった。 まだ誰も、うまく怒りをまとめられていなかった。 男はゆっくりと文字を打った。 〈鹿をこのまま放置すれば、村の暮らしは守れないドングリ〉 投稿ボタンに指を置いたまま、男は少し笑った。 「また気持ち良くなれるかなぁ」
吐き出したいけど何を吐き出したらいいのやら そもそも私が思考を停止できなくて考えすぎちゃうことに原因があるのかも 結局、チカラないと泣き寝入りだあ 思考停止させちゃってる声の大きい奴はつえーよなあ 思考停止させてる奴に、思考フル回転で向かっていっても何も生まれないし意味をなさない こっちも思考停止させないとならない不便 気持ちが外に向かっていかないなあ 思考を停止できないってこういうときやっかいだ 食べるほうに気持ちがいけばきっかけになるかもだけど、そういう気にもならないし いま読んでる本、読み終わったころ夏が来るかな 早く読み終わったら、夏も早く来るかな
【すぐできるように準備しとこっかあと言われ僕は靴下を履いたあの日】 昼間にふれたサボテンのちいさなトゲが、抜けていないみたいにかすかな痛みとして胸にある。気にしなければ、たぶん大丈夫なくらい。でも、ちょっとでも気にしてしまえば、みるみる積もっていって我慢ができなくなっていく。痛いのだか、かゆいのだか、わからないようなその感覚に振りまわされるのが嫌で、僕は自分のカラダごと放り出したくなってしまう。 ―どれ、見せてみろ お狐さまがのぞき込んでくる。いくらお狐さまでもこればっかりは。僕は背中を向けてしまう。 「ごめんね」 ―何がかな? 「だって… 契り…」 ―気にするな。また来年がある 満月はいつの間にか、すぎてしまっていた。 ・ 引っ越し先をさがすのは、思っていたより楽しかった。一般的な意味での楽しいではない。あっちの物件を見て、今度はこっちの物件と、忙しく動きまわることで、一時的にでもトゲから目を背けることができるから。そういった点において。 ・ いくつ目の物件だったか覚えていない。その物件はすんなりと真っすぐ伸ばすだけの土地が確保できなかったようで階段がやけに曲がりくねっていた。意図的になのかどうなのか、複雑に曲げられた階段をその通りに沿って登っていき、やけに青い夏の空と、白いもくもくとした雲を見たのを最後に、僕の意識は… 途絶えて… しまった―
先生はまず、流し台に置かれた使用済みの皿やカトラリーを洗うためにエプロンを巻いた。テーブルに散乱しているコップや空のボトルもインダと二人で流し台に運んだ。 蛇口から流れる水の音は新鮮で、食器同士の重なる音符はそのまま音楽になるように感じられた。私はしばらく先生の手元から溢れる泡を見ていた。綿みたい。 「インダ。カウルも連れてきてくれる? 晩ご飯にしましょう」 そう言って、先生はインダをカウルの元へ行かせた。私もインダについて行っていいか聞くと、「もちろん、協力してあげて」と微笑。私はこの笑みを胡散臭いとまで思うようになっていた。理由は何となくで、決定打はないのだが。 インダは先生にカウルを呼ぶように言われ、迷わずに外に向かった。インダについて恐る恐る出てみると、そこには見慣れないほど広大な敷地があった。緑の芝がどこまでも続く、広大という言葉で収めていいものか、私は他の言葉を探した。 インダは少し見渡すと、孤児院の傍で寝転がるカウルを見つけた。カウルはボールを抱き締めていた。 「カウル! こんなところで寝たら風邪引くって」 「んんう」 唸り声をあげて寝返りを打つ。もうすぐ日暮れになろうかという青空。夜は暗いから電気をつけるように、という先生の忠告がよぎる。 「ほら、ボールも片付けて! もう晩ご飯だから」 「んん、うるさいな!」 カウルは持っていたボールをインダに向かって、ぶんと投げつけた。ところが、そのボールを軽々と取ってしまうインダ。これが最年長。 「知らないからね」 インダはそう言い残すと、ボールを持ったまま私の方に向き直って「行こ」と手を差し出す。従うべきか、私はすぐにその答えに達した。 何もない外。このボールは子どもたちの心臓だったのだろう。私はインダに手を引かれ、孤児院に戻った。 孤児院の中に入る前に見えたカウルの顔は、どこか寂しそうな顔をしていた。まるで、誰かを待っているかのような、掠れた目だった。 食堂に着くと、先生はトーストと目玉焼き、ベーコンなど、まるで朝ご飯のような晩ご飯を用意していた。食器はさっき片したものを濯いで使ったかのような色をしている。 正直、これを見て食欲は湧かなかった。 「カウルは?」 先生の間の抜けた声に、インダの「知らない」が刺さり、先生はすぐに何かあったのだろうと察した。 「じゃあ、先食べてて。探してくるから」 「外にいるよ」 「ありがとう、インダ」 そう言うと、先生はすぐに孤児院の外に向かった。 インダはテーブルの上のお皿を眺め、台所にあるバスケットからオレンジを一つ盗んだ。 「いいの、それ?」 「大丈夫大丈夫。半分ずつ食べよ」 インダはテーブルを前に椅子に腰掛け、隣に座るよう指示した。名のない古びた椅子ではなく、隣の椅子をだ。私はすぐにその椅子に座った。 誰かの代わり。私は直感的に嫌な気持ちになった。 「こっち、ユキのね」 「ありがとう」 インダは私に多い方を分けてくれた。 「いただきます」 「あ、いただきます」 インダは私につられて、思い出したかのように手を合わせた。フォークを落としそうになったインダは苦笑いをしながら、目玉焼きを頬張った。 それからしばらくすると、カウルを連れた先生が帰ってきた。体感としてはかなり長かった。恐らく、先生がカウルを言葉で説得させていたのだろう。カウルに外傷はないし、泣きべそを書いている様子もない。 先生が暴力を振るうような人には見えないが、警戒はするべきだ。今回はなかった、というだけかもしれない。 カウルは食卓につくと、皿に盛られた食事を見て、「またトースト?」と文句。 「今日はユキも合わせて四人しかいないの。シチューとかいろんな食材を使うのはみんながいる時にしましょう? 今日我慢して?」 「え、帰って来ないんですか?」 私は先生の発言に引っかかって、すぐにベーコンを飲み込んだ。 「ええ。今日は。明日帰ってくるはずよ」 「そうなんですね」 先生はトーストに齧り付いた。焦げ目の付いたトーストは悲鳴をあげているようにも見える。私はインダにもらったオレンジの三日月を一つ口に放り込んだ。甘酸っぱい。 「絶対、帰って来ない。誰も」 カウルは注目を浴びながら、トーストに目玉焼きとベーコンを乗せて、大きな口で大きな一口。 「どういうこと?」と私が問いかけると、先生が口を開いた。 「今回のご家庭はすごくお金持ちみたいで、お話があったときも、子どもをたくさん引き取りたいと言っておられたんです。それを聞いているから、不安なんでしょう」 「アルバートがそうだった。一回見学だって行って出てったやつは帰って来ない。だから、明日は院長だけが帰ってくる。レイは帰って来ない」 冷えた目の理由はそれか。 【つづく】
さまざまな動物たちが集まる私たちのコミュニティでは、不思議なことに「弱肉強食」は起こりません。皆、外へ狩りに出かけて腹を満たしてから集まるのが、このコミュニティのルールだからです。そのため、ここには暴力など存在しません。 ただ、お腹が満たされ、暇を持て余した彼ら、彼女らは、いつも「何か面白い話はないか」と探し回っているのでした。 ある日のこと、オオカミが声を大にして言いました。 「おい、これは俺が見つけたゴミだぞ! こんなに危険で汚くて、役に立たないものは他にないだろう!」 すると、周りにいた豚やハイエナがそれに賛同し、次々に声を上げました。 「おお! 世の中にはまだこんなゴミがあったのか!」 「ああ、これは間違いなくゴミだ! 他の者にも知らせなくては!」 しかし、離れた所で見ていたハトは首を傾げていました。 「なぜみんな、揃いも揃ってあんなに価値のなさそうなものに集まるのだろう……」 そこでハトは、自分がみつけた、とびきり綺麗な石をみんなに見せて言いました。 「みんな、この綺麗な赤色の石を見てごらんよ! こんなにも美しいんだ!」 しかし、ほとんどの動物たちはチラリとこちらを見ただけで、ちっとも興味を示しません。他の鳥やサルたちは近づいてきて「本当だね」と共感してくれましたが、あの「ゴミ」に集まっている動物たちに比べると、その数はほんのわずかでした。 すると、イヌがハトの近くへ歩み寄って言いました。 「僕や僕に近しい動物達には、赤とか緑とか、そういう色がよく見えないんだよ。どれも似たような色に見えてしまうんだ。君は綺麗な色って言うけれど、僕にはそれが綺麗なのか汚いのか、判別がつかないんだよね」 イヌは少し申し訳なさそうに、言葉を続けました。 「でもね、汚いものなら分かるんだ。汚いとか、危ないとか、嫌だなという感覚は、本能的に分かる。だからみんな、あのゴミの周りに集まって騒いでいるんじゃないかな」 私はその会話を聞いて、とても驚きました。 世界の見え方は、みんな同じだとばかり思っていたからです。自分にとっての『美しい』は、誰にとっても同じように『美しい』と見えているのだと信じ込んでいたのです。 でも、実際はそうではありませんでした。 見えている景色はみんな違う。けれど、「私はこれが美しいと思っている」という自分の気持ちなら、言葉にして伝え合えるはずです。 私は胸を高鳴らせて、みんなに向かって呼びかけました。 「ねぇ、みんな! それぞれの『美しい』を僕に教えてよ! 君たちが見ている世界を、僕にも聴かせておくれ!」
「雨ってさ、好きじゃないけど、梅雨の時期のああいう雰囲気って、なんかいいんだよねえ」 言ったアイツの言葉に、そういう感性的なとこでの一致って「愛してる」って言葉よりも強いモノ感じるなあって発見があった。 「紫陽花の葉にかたつむりがいると余計にそれっぽいけど最近、見ないなあ、かたつむり」アイツは言って「かえるなら見たかな」私が言って「ああ俺も見たなあ」アイツが言った。 アイツは真っ青の紫陽花が好きで、私はちょっとだけ紫が入ったのが好きだった。あるときアイツは、紫がちょっと残った紫陽花を見て「最近これくらいの色のやつ好きになってきた」と言った、うれしそうに。え、なんでさ。私は心のなかで抗議した。そのとき私は、真っ青の紫陽花を好きになりかけていたところだった。 人の気持ちは変わるものなのだなあ。別に、だからって、紫陽花の色に絡めるつもりはぜんぜんなくってね、酸性? アルカリ性? ううん、そんなことに関係なく、変わっていくんだなって、ただなんとなく思っただけのことでね。
庭で南天の白い花が咲いているのを見ると、斜向かいの松永さん家で起きた事件を思い出す あの頃はまだ腕も痛くなく、作りたいものを作っていたが、今は包丁を握ることも、ペットボトルの蓋を開けるにも激痛が走る。 そう言えば、取材の記者さんがしょっちゅう来ていた。初夏も過ぎて酷く暑い夏だったから、素麺なんかを茹でて食べてもらった記憶がある。 まだ若い女性だったけど元気にしているだろうか 熱心に話を聞いてくれていた。 「斎藤さんは松永重政さんとは交流はあったんですか?」 「これ、麦茶。飲んでね」 「ありがとうございます」 「えっとね、松永さんは滅多に見ませんでしたね。ほとんど家にいなかったんじゃないかしら」 「何故そう思われるのですか?」 「何故?…そうね、夜とか家に明かりがついてないし、私はね、毎朝、玄関先を箒で掃いてるんだけど、そうすると近所の人はゴミを出しに外に出てくるのね。この辺は勤めに出てる様な若い人は居ないから、ゴミ出しのない日は誰とも会わないこともあるのだけど、それで松永さんは朝に会うことは一度もなかったわ」 「そうなるとここには松永さんの家だけあって本人は違う所で住んでいたと言うことですよね」 「そうよね…あっでも、たまーに見かけるのよ。たまーに」 「では、たまーに、ここに帰ってくる訳ですね」 「そうなのかもね」 「そのたまーに見たときはどんな様子でしたか?」 「何かを車に運んでて、忙しそうにしてたんだけど」 「どんな物を運んでたんですか?」 「なんか…重そうな段ボールだったけど、それを何個も車に乗せてたわ」 「どんな車ですか?あといつ見たんですか?」 「あれはね…早朝で、私は山に登るのが好きなんだけど、同級生と皆で駅で集まってね行くのよ。その日は富士山に登る予定だったから始発の電車に間に合うように家を出たの、そしたら黒い大きな車あるじゃない?後ろが荷物を沢山入れられるやつ」 「ハイエースとかかもしれませんね」 「それかもしれないわ。私は松永さんを久しぶりに見たから驚いちゃって、咄嗟に挨拶したんだけどね。挨拶して直ぐにしなきゃ良かったなって思って、でも会ったら挨拶するわよね普通」 「えぇご近所ですしね。どんな様子でしたか?」 「何だか忙しそうにしていたわね。松永さんって体が大きいけど、そんな人でも重そうに段ボールの箱を玄関から車に運んでたわね」 「お一人で?」 「一人で。私は挨拶直ぐに駅に向かったけどその時運転席には誰もいなかったわ。あの人も遂に結婚しないで亡くなっちゃったわね。私もしてないけど。フフフ」 「えぇ独身だったようですね。松永さんは子供の頃からここに住んでいるのですか?」 「いや、私が二十歳を過ぎた頃に越してきたのよ。その時は松永さんは5才位だったけど、私も勤めに出てたし会うことは少なかったけど可愛い子だったわよ。目がクリクリして。ハーフなのかしらね」 「松永さんのご両親はどんな方でしたか?」 「越してきたのは松永さんだけなのよ。なんか…噂だとご両親は亡くなられてるみたいで。あそこには松永さんの父方の祖父ににあたる松永繁さんて方がいたんだけど、その方もあまり近所付き合いをしない人でね」 スマホの着信音がなる 「失礼します」 「どうぞ。素麺食べるかしら」 「いえいえ、結構です。お構いなく。…もしもし、え?…はい、はい、少女の死体?はい…分かりました直ぐに戻ります」 記者の若い女性はノートを急いでまとめ鞄にしまう。 「素麺もうすぐ出来ますから食べていって」 「いや…でも私行かないと」 「こんだけ暑いとね、食べないと体が持たないわよ。もうゆで上がったから」 「あぁ…ではお言葉に甘えて」 「どうぞ。お腹に子供がいるんでしょ?だったら子供のためにも食べないとだわよ。私は産んだことないけど。フフフ」 「分かりますか?」 「えぇ、私、助産婦だったのよ。フフフ」 「そうですか…では、いただきます」 「このミョウガは庭の畑で採れたのよ」 「お母さん、これおいしい」 「良かったわ」