1月1日 男性 餅を喉に詰まらせ窒息死 1月1日 男性 ヒートショックにより死 1月2日 女性 階段でつまづき 転落死 1月3日 男性 喧嘩で椅子で殴られ、脳挫傷を起こし、死。 1月4日 女性2名 男性2名 N廃病院に侵入。院内を探索後、遭遇。壁に頭を打ち付け、お互いの眼球を奪い合う形でえぐりだし。絶命。 1月5日 男性 痴情のもつれから知人の男性と口論になり。道路に突き飛ばされる。轢死。 1月7日 女性 ハイキング中に毒性を持つキノコを誤食。8時間後に病院にて死 1月9日 男性8名 女性3名 N駅西口にて、遭遇。互いの目を奪い合い。指を噛み千切る。失血死。 男性一名が生き残ったが、六時間後、病院から脱走し、N廃病院の手前で野犬が骨を咥えているのを発見。 1月10日 男性 登下校時に車に轢かれ、轢死。 1月11日 男性13名 女性22名 N高等学校の廊下にて、男子生徒7名が遭遇。数分後に教室にて突然男子生徒が窓を割り、破片で他生徒4名を攻撃。 同じ事を遭遇した生徒6名が数分後に他の教室で行ったため。甚大な被害が起きた。 1月15日 男性 夜道を歩いていたところ、遭遇。奇声を上げて走り去る。職員の捜索むなしく、発見されず。 (追記 2月4日。N廃病院のエアコンの中から折り畳まれて発見。) 1月18日 男性 N廃病院に潜入。 当記録を発見。それを書き写し、2日後にネットに小説という形で投稿。 その2時間後に火事がおき。焼死。 1月21日 女性 道路を通行中 突如野犬に襲われ、死亡 野犬は駆除済み (追記 女性はネット上で18日の男性の小説を閲覧していたことが発覚) 1月23日 男性 ネットで小説という形で投稿された当記録帳を閲覧。 2時間後に溺死。 1月24日 女性 ネットに小説という形で投稿された当記録を閲覧。2時間後に失血死。 1月28日 男性3名 N廃病院にて当記録を閲覧。遭遇。 壮絶死。 1月29日 男性 ネットに小説という形で投稿された当記録を閲覧。焼死。 1月30日 男性 ネットに小説という形で投稿された当記録を閲覧。餓死。 1月31日 女性 ネットに小説という形で投稿された当記録を閲覧。溺死。
夜中、コンビニで雑誌を立ち読みしていたら、自動ドアが開いて、一匹のネコが店内に入ってきた。そのネコはATMの前に立った。それは人間用ATMの隣に設置されている、ネコ用ATMだった。そしてネコは、そのATMで、大量のかつお節を引き出して、コンビニを出ていった。野良ネコに見えたが、相当貯めこんでいるらしい。俺は雑誌を閉じ、ご飯と醤油を買って、店を出て、そのネコの後を尾け始めた。
土曜日になった。 神様は、倍速ボタンを押した。 世界の速度が少し速くなり、人間たちの休日が速く終わった。 月曜日になった。 神様は、等倍ボタンを押した。 世界の速度が元に戻り、人間たちの平日がいつもの速さで始まった。 「神様神様。どうして休日を速くするんですか?」 神様の遣いは、不思議そうに尋ねた。 「休日は、旦那が家に帰って来るから。ソファで居眠りしてるばっかで役に立たないから、さっさと働きに出て欲しいのよ」 神様は、あっけからんと答えた。 神様の遣いは、そんな都合で振り回される人間たちが可哀想だと世界を覗き込んだ。 しかし、人間たちも自分の都合で他人を振り回しているようだったので、安心して放っておいた。
母の運転する車が角を曲がり見えなくなる|| 今日は珍しく母が朝から起きていて 更に珍しく朝食も作ってくれた 「たまにはお母さんらしいことしないとね」と鼻歌交じりで言う 「疲れてるでしょ。いいよ自分で作れるから」 「いいの。いいの。作りたいのよ」 そう言って目玉焼きを焦がしている 朝食を食べて食器を洗っていると 幼馴染でクラスメイトの孝宏からラインが入る。気になるが先に食器洗いを進めた 食器洗いを終わらせ、二階の自分の部屋で歯磨きをしながらスマホをイジる 孝宏からのラインの内容は(インフルになったから今日は学校休む)だった 「…別に一緒に登校してないけど…」 (お大事に)と返した (俺がいなくても泣くなよ) (頑張るよ) 「千知。車で送ってくよ」 「いいよ」 「いいから、いいから(ご機嫌)」 母は一度自分で決めた事は実行しないと気がすまないタイプで、厄介なのは周りを巻き込むタイプでもあることだ しょうがないので先に車に行って後部座席に座る。シートベルトを締める。 母が来るまで趣味の自作の小説作りを続ける 今書いている話は、ミステリーで、平和な港町である日、一人の少女が行方不明になる話を作っている。 小さな町なので住民達が親身になって捜索に協力するのだが、その協力する町民の中で、行方不明前の少女と怪しい関係がある人間が一人また一人と出てくるストーリーだ。追加で少女がインフルになった時、診察した町医者が少女の体に触れるシーンを入れておこう。犯人候補がまた増えた 母が運転席に座る エンジンをかける 「よし、じゃあいくよー」 僕は特に答えなかったが顔を上げ母の顔を後ろから見た。久しぶりにしっかりと。 いつの間にか薄く化粧をしていて、束ねた髪が少し傷んでいる。たが、美人の面影は残っている。 僕が子供の頃は、今も子供だけど、小学生の頃とかは、授業参観で母親たちを見ると「うちの母は若く美人なんだ」と幼心にも思ったりもした。僕に恥ずかしげもなく愛情をたっぷり振り注いでくれる美人な母を小さな僕は好きだった。 今は?…嫌いではない。いや、家族に好きとか嫌いとかあるものなのか。車が動き出す そして母は、歩いて十分で着く学校に車で送ってくれた。 別れ際に「晩御飯も作っておくよ」と言われたが、「コンビニ弁当でいいよ」と断った。あまり幸せになりたくなかった。 母の運転する車が、角を曲がり見えなるまで見送る。母の陽気が少しでも続けば良いと思いながら
駅のホームで、ベンチに座って電車を待っていたら、目の前を貨物列車が通り過ぎた。貨物列車はコンテナを運んでいた。そのコンテナには『友だち』と書かれていた。あんなに大量の友だちをどこへ運ぶのだろう。僕はベンチに身を預け、色々な想像をして、ため息をついた。そう、僕には友だちが一人もいないのだ。
私の目は、変わり者だった。 いつだって曇っていて、目の前の物がぼやけて見えた。 なんだか死んだ魚のような目をしてる、と言われたことは数えきれない。 死魚病だと診断された時には、思わず「そのまんまじゃねーか」と突っ込んだ。 「じゃあ、包帯とるよ」 結局目の手術を受けることになって、三日三晩かけて目を治した。 久々に開いた目は遠慮なしに光を取り込んできて、光量を落としているはずの部屋でさえ眩しく感じた。 「おっと、ごめん。眩しすぎたね」 先生が焦った様子で、さらに部屋を暗くしてくれた。 「大丈夫です」 私は目を閉じ、掌で目を覆いながら、目をゆっくりと開けていく。 指の隙間から入ってくる光の量を増やし、じっくりゆっくり目を慣らしていく。 「どうだい?」 「少し違和感はありますけど見えます」 「それはよかった」 ぼやけていた先生の輪郭が、くっきりはっきりと見えてくる。 つるっとしていた先生の顔に、ぼこぼこと穴が開いているのがわかった。 (これが、授業で習った目とか鼻ってやつかあ。顔に穴が開いてるなんて、気持ち悪) 初めて見た人間の顔は、思いのほか気持ち悪かった。 喜んで私の手を握って来るお父さんお顔もお母さんの顔も、気持ち悪かった。 鏡を見て映っていた私の顔も、当然のように気持ち悪かった。 (これは、慣れが必要だなあ) 友達と悪ふざけで、男の人の裸が映った動画を見た時以来の衝撃だ。 まあ、問題はないだろう。 私も子どもじゃないんだから、いつかそういうものだと割り切れるはずだ。
「無料ですので、是非一度お話しだけでも」 大学の敷地で声をかけられた。 就職が決まった学生相手に、保険とか投資とか、まあそんな話をしてくれるらしい。 正直、社会人って何だろう人生って何だろうと考え始めていたところだし、ちょっと話を聞いてみることにした。 無料だし。 「……ということなんですよ」 「あの、そろそろ」 昼休みが終わった。 次の授業は五分後だし、私は昼食を食べ損ねた。 「あら、失礼しました。では、続きは明日で」 「え?」 その後一週間。 密着取材でも受けてる気分で、私は話を聞かされる羽目になった。 「お人よしだね。約束なんてブッチしちゃえばいいのに」 「一週間前の私に言って欲しいわ。無料って高くつくね」 話を聞いてもそこまで得はなかった。 結婚がいつで、家を建てるのがいつで、だから保険がいるんだなんて話を聞いても、結婚も家も現実味がなさ過ぎてよくわからなかった。 年金がいくらだから不動産投資で老後収入源を、なんて言われても、三十歳すら想像できないから現実味がなさ過ぎた。 現実味がないと、話は入ってこない。 唯一学んだのは、無料相談は私の時間をガンガン食ってくる、金食い虫ならぬ時間食い虫というだけの話だ。
ストロベリー、実る頃に その赤みを受け皿に、染み込ませていく トゥナイト、何度でも囁くよ 君の頸は私の口元に…今際の際 ストロベリー、私と共に 幾夜の空を駆けよう トゥナイト、一途な放浪者となろう 私の血潮となった貴女 共に次のストロベリーを迎えに行こうか (完)
喋るときのひとことめ、私の声は必ず口の中で足止めを食らって、つまずいて、よろめきながらなんとか出てくる。 「……お、お、お、お……はよう」 「おはよう」 いつからそうだったか、思い出せない。私が挨拶をすると、母はもう慣れたように、フライパンから視線も上げずに返事をした。病院にも何度も行ったし、精神治療と称して週に一回カウンセリングに通っているけれど、私の言葉はみんなのようにすらすら出てくることはなかった。私のこの性質は生きていく上で大きな壁となった。 スムーズに挨拶もできない。ことあるごとに話が止まって、意思の疎通をすることがままならない。目の前の人の顔が小ばかにするような笑顔を覗かせる。多少の憐憫を伴った表情でこちらを見つめてくる。じれったさに苛々するように閉口する。それが私の日常だった。私の言葉をゆっくり待ってくれる心優しい子はいたけど、それが相手の負担になるって思うと、待ってくれているのが余計につらくて。私は普通の学校に通わなくなって、通信制の学校に入学して、そうして家から出ることはなくなった。 毎日、自室の鏡越しに私の顔を覗き込む。 「おはよう」 自分に向かって話しかけるときだけ、言葉は淀みなく出てきた。ボイスレコーダーに向かって話しかけたり、電話越しに人と話そうとするときは、必ず言葉がつかえた。 「今日は天気がいいね。あとでお母さんの買い物に付き合うとき、ちょっとお散歩もしようかな」 そう言った私の顔は、少し楽しそうで。外を歩くの、好きだもんね。家の近くにある河川敷は、ランニングをしている人がいたり、ご家族連れがピクニックをしていたり、ザリガニを釣ってる小学生たちがいたり、色んな人の生活が見れて楽しい。近所に住んでる犬がかわいくて、会うたびに頭を撫でさせてもらえるのが好きで。 「今日は私、嫌いな数学の宿題からやるんだ。えらいでしょ?」 最初は人と話すための練習で始めた日課だったけど、最近私は自分との会話を楽しんでいた。思ってるだけのことを言葉に出してみると、無意識に感じてたことが明確な言葉になって。自分の知らない自分を知れて、言葉こそが私を映す鏡で。 人と話せない私が嫌いだった。夜な夜なお母さんが私の未来を案じて泣いてるのも知ってた。でも、この鏡越しに自分と会話を始めてから、私は私のことをたくさん知れた。私の好きなもの、嫌いなもの、苦手なこと、得意なこと。 私はまだ人とうまく話せないけど、でもそれでもいいと思った。もちろん、これからもおしゃべりの練習はしていくつもりだけど、今は自分のことを好きになれたってだけで、十分だと思ってる。
私の中で「愛に満ちた表情」という言葉は祖父のものだった。 記憶の中の祖父はいつも優しく穏やかな笑顔を浮かべていた。孫や娘たちが訪れていることを知ると、ぱっと笑って「ゆっくりしていってください」と言ってくれた。帰ることを伝えると「もう帰るんか」「もう少しゆっくりしていき」「晩御飯食べていき」「泊まっていき」と少しでも滞在時間を伸ばそうと提案してくれた。 家から車を出す時は、必ず道路の反対側に立ち誘導してくれた。足が悪くなっても、杖をつきながら手を振ってくれた。 祖父の日記帳には、力の入らなくなった手で書かれた「うれしかった」「安心した」「楽しみ」という言葉で溢れていた。口数の少なかった祖父の心の裡を初めて覗いた気がした。 祖父が勝手口からひょっと顔を出し「おっ」と驚き、次の瞬間には愛に満ちた表情で笑ってくれる日がもうこない現実に、まだ追いつくことができない。
みたされないの? しないといけないの? あせってるの? せまってくる 何かが ひとまず水をふくむ のどは潤う 解決はしない ちがう そうじゃない うおおおお ミタサレナイときは 本にすがる うおおおお 世界は ビーフシチュウで あふれているみたい でも人が ビーフになった瞬間を シチュウになった瞬間を みたことがない 今夜のお月さまは チョコレートをかけられ にげていく 想像のなかですら 世界というのは ままならない まったくもって たいへん困って ままならなくなって
―じゃあ、またね そう言ってテリアさんは、逆方向のホームを上がっていった。まるで明日も、部室で顔をあわせるみたいなことを、とびっきりの笑顔で。 ぼくたちは、卒業してしまった。 結局、テリアさんには、聞けなかった。ミステリイ好きなのかどうなのか。それだけではなくって、自分の気持ちにしても伝えていない。自分の気持ちが、自分でもよくわかっていないのだから、しかたがない。情けない。まったくもって情けない。 ぼくたちは、卒業してしまった。 卒業なんだなあ 卒業なんだねえ 卒業おめでとう、テリアさん テリアさんの顔を、頭に浮かべる。 じゃあ、またね 自分の気持ちは、次に会うときまで、きちんとしておくことにしたい。 じゃあ、またね、テリアさん
怪盗は開店時間直前のドーナツ屋に忍び込んだ。そして、ドーナツの穴を盗んでいった。穴を盗まれたドーナツは魅力を失い、その日の売上は最低となった。ドーナツ屋の店主は警察に駆け込んだ。警察は怪盗を捕まえるべく、街じゅうのドーナツ屋に張り込んだ。だが、その警察たちの誰一人として、すでに手錠の穴が盗まれていることに、気づかなかった。
皆悩んでる。 大体皆考えてることは一緒な気がする。 AIに質問をする。 自分の頭で考えない。 ツールを使うことが目的になっちゃってる。 お金についても言える。 食べ物についても言える。 社会問題についても言える。 精神体になれればいいのにと逃げる。 体があっての精神、心だと考える。 病院の看護師さんに体が資本よ、と言われたことを思い出した。 おじいちゃんの家の本棚に宮本武蔵が並んでいたのを思い出した。 心技体。 何かの指標が欲しい。 拠り所とも言える。 でも食べられる生活、布団のある生活、お風呂のある生活、エアコンのある生活。 僕の中にいる天使と悪魔と女神。 キリスト教に女神はいないらしい。 しかし仏教は厳密には酒、煙草をしてはいけない。 イスラムもお酒は駄目だ。煙草も推奨されない。 自分本意。 悪人正機。 量子力学は人間には荷が重すぎる。 フィクションの世界。 ノンフィクションが覆す世界。 カンニングの是非を自分自身で問う。 神様が言う。 「名前を書いたから地球に置いてやる。でも0点。」
竹やぶに不法投棄された電子レンジが、夜空の星を見つめて、祈っている。「来世は、冷蔵庫に生まれ変わりたい」あんなに熱い心で、主の要望に応えたのに、電子レンジはこうして、あっさりと捨てられてしまった。「来世は冷たい心の持ち主になりたい」電子レンジは星に願った。星は、困ったように、瞬いた。
パソコンが壊れたのでスマホで文章を打つ。 出来ない自分にやってあげることをAIに聞いたらとりあえず短いスパンでもやってみることだと出た。 怠け者なので1分だけ文章を書く。 なんだ、まだ動けるじゃないか。 明日も(僕も含め)出来ない子のためになにかをする、される。
ウォーリーとユウ。二人は友達 今日は登山の帰りにラーメン屋に寄りました 「何にする?」 「んーどうしようかな」 「俺、醤油のチャーシュー」 食券機で先ずはウォーリーが選びました 出てきた食券を取ります 「ぼくは塩かな」 「いいね。俺も迷ったよ塩と」 昼時を少し過ぎた頃でしたが店内は混んでいました スーツを着た人、作業着の人、学生の人、外国人のグループもいました 二人にラーメンが届き食べ始めます お水はウォーリーが持ってきてくれていました 「うん、美味いね」 「美味い」 「この店いい感じだよな」 「うん、いいよね。なんか」 二人は黙々とラーメンを食べました その間もお客さんの出入りが絶えません 外国人のグループが店を出るとき 手を合わせてゴチソウサマデシタとお店の人に言っていました。店の人は皆笑顔になりました。「ありがとうございました!」 二人はラーメンを同時に食べ終わり、店を出ました。二人が出るときはお店の人達は黙々と自分の仕事をしていました。 「見てあれ」 「え?」 ウォーリーが指差す方を見ると 雲の隙間から光のカーテンが降りていました 「綺麗だね」 「なんか神様でも降りて来そうだよな」 「ほんとだね」 「良いことありそうじゃない?」 「そんな気がする」 「良いことあったら感謝していいよ。俺に」 「なんでだよ」 二人は空を見ながら二人の住むアパートへ帰ります
汚い台所の隅に仕掛けた、ゴキブリ用の罠を覗く。粘着シートに、小さなネジがくっついていた。ゴキブリまで、機械化されたらしい。私はため息をついて、娘の部屋に行った。娘は、ウィルスが原因の病気でずっと寝ている。私は娘に近づき、娘の電源を落とした。
「飯はまだかの?」 「あら、おじいちゃん。ご飯はさっき食べたでしょ」 なんてやり取りをしていたのが、一年前。 相変わらず、認知症は残ったままだ。 でも、最近は事情が変わった。 「ご飯できましたよ」 「飯ならさっき食ったじゃろ。な、えーちゃん」 AIとの会話と現実の区別がつかなくなった結果、やってないことをやったと言い始めた。 スマホの画面を覗き込めば、AIと食事中のだんらんをした履歴が残っている。 「はあ。次の食事で、倍の量食べさせないと」 やったことを忘れるのも考え物だが、やってないことをやったと言い張られるのも考え物だ。
「すみません。……すみません……。……あの、あ、す……すみませんが……」真夏の公園である。一人のおじさんが、木の幹に話しかけている。そこには一匹のセミがとまっている。おじさんは、手に首吊り縄を握りしめている。「あの……えっと……あの……す、すみませんが、あの……」おじさんはその木で首を吊りたいのだ。そのためにセミにどいてほしいらしい。だがセミはずっと動かない。あるいはそれはセミの優しさかもしれない。
手には、新調したばかりの真っさらな黒い財布が握られている。 先月まで使っていたネイビーの革財布は、もう手元にない。ゴミ箱へ放り込んだ時の、あの「カサッ」というあまりに軽い音を、私は今も覚えている。 あんなに手に馴染んでいたものは、他に得難かった。 あの所々黒ずんだ真鍮のボタンが、傷だらけの表面が、恋しく思える。 どこに指を置けばいいか、どの程度の力で開けばいいか。長く連れ添った黒とも見える深いネイビーの肌は、私の指先の微かな震えさえ、私以上に理解してくれていた気がする。 けれど、最後の方は見ていられなかった。 色は褪せ、角は毛羽立ち、かつての艶はどこへやら。 「味」と言えば聞こえはいいが、私にとってはただの「使い古された残骸」にしか見えなかったのだ。 新しい財布は、驚くほど硬い。 指を弾き返してくるような、この不遜な感触が今の私にはちょうどいい。 前の財布が持っていた、すべてを許容してくれるような柔らかさはないけれど、少なくとも「みすぼらしさ」を感じて落ち込むことはない。 ……だが、ふとした瞬間に手のひらが寂しくなる。 あの、吸い付くような、まるで体温を分け合っていたような感触を、肌が、記憶が、勝手に求めてしまう。 先日、街で見かけた老紳士の小銭入れが目に焼き付いている。 使い込まれているのに、不思議なほど気品があった。 それは、私がゴミ箱に捨てたものとは決定的に違っていた。 ただ時間が過ぎただけの「劣化」ではなく、慈しまれ、磨かれ、持ち主の歩みを肯定するような「熟成」。 私は、ただ使っていただけだったのだ。 汚れたら拭く。乾いたら油を差す。たまには中身を抜いて休ませる。 そんな、言葉にすれば当たり前のことを怠り、ただ一方的に便利さを搾取していた。 だから、あのネイビーは美しくなれず、ただくたびれて、壊れていった。 新しい黒い財布を、机に置いて、引き出しから靴用クリームを取り出し、少し指に取る。 指先でクリームを塗り広げると、革がかすかにため息をついた気がした。 壊れることを恐れて丁寧に扱うのではない。いつか訪れる終わりの日に「出会えてよかった」と胸を張れるように、今はただ、この黒い肌に私の時間を少しずつ、丁寧に染み込ませていく。 この財布が、私の手の形を覚えてくれるまで。 いつか、捨ててしまったあのネイビーよりも、深い色気と自信を纏うまで。 傷も、擦れも、すべてを私との記憶として飲み込んでもらおう。 数年後、この財布を光にかざした時、そこに私の過ごした時間が透けて見えるように。
理不尽な世の中で生きる為の羅針盤は希望を 持たず抱かず無情に暮らすそうする事で悪事 ばかり現実可具現可する糞みたい不条理から 来世は逃れる事が出来るかも知れないつまり 其れ迄は何も期待希望はえっ何其れ食べたら 旨いの位に考えたら良いんじゃない知らんが 飽くまで此は私だけの思考問題自分って何者 現世で此処迄裏切り見当いの嫉妬や嫌がらせ 受ける位要らない存在ならば何時でも消えて 天国へ昇る覚悟は既に有る荷物はスマホだけ その前に美味しい物を感謝の念で食べ思いを 残さない様親切に生きる有る来世の為の偽善 かもけど遣らない善より遣る偽善つまり行動 する事濾そ羅針盤に為る未來そうこの前有る タクシーの女性が素敵な言葉を言った一番に 自分自身が本当の自分を知らないと言い私も その通りと言い笑い合えた丁度裏切りに遭い 何故か傷付く事は無いけど期待指せての頂点 落下にブチ切れ全開だった気持ちが揺らいで 戒めと為りもう絶対現世に希望は持たないと 有る種の諦める平和を握り締めた一瞬の誓い
ねぇ? 今、君が感じているこの世界は夢かな? それとも現実? ねぇ? 君は何を持って夢だって認知してる? 君は何を持って現実って認知してる? まぁ、いいや ボクに関係ない話だしね 一応言っておくけど、今の君の脳内は急激な覚醒状態だよ 夢だからか…現実だからか…ご想像にお任せするよ そろそろ通信が途切れる頃だね… さぁ、君自身の無意識領域を目一杯に感じてね そう言うと、ボクと名乗る声は消え去り、 自身を囲うようにあった暗闇は消え晴れた (完)
目が覚めた時、私は地面に転がっていた。 まだ覚醒しきっていない意識の中、周りを見渡せば目に映るのは悲惨な光景だった。 一軒残らず破壊された家々と、無残にも地べたに横たわる仲間たちの姿。 蚊の鳴くような呻き声を上げる者もいれば、既に息絶えている者もいた。 どす黒い絶望が胸に広がり、両手で目を覆いたくなるが、もはや指一本動かす体力も残されていない。 私は、いや私たちは敗北したのだ。 私をこうして地面に切り伏せた彼の剣術は見事なものだった。 渾身の力で振るった攻撃は巧みな剣さばきで悉く受け流され、かすり傷一つ負わせることも叶わずに流麗な一太刀を浴び、そこで意識は途切れた。 そして今、私が必死の思いで蓄えた財産はすべて、彼の手中に収められている。 彼が率いる仲間たちの連携も素晴らしいものだった。 ある者は韋駄天のごとく地を駆け巡る。 ある者は天狗のように上空から攻撃を見舞う。 またある者は人間とは思えぬ動きで四肢を巧みに操りながら、私たちを翻弄した。 私は、この世で自分に敵う者はいないと思っていた。そして、私たち一族が一丸となれば、どんな軍勢が相手であろうと力で捩じ伏せられると、そう信じていた。 しかし、それは全て思い上がりだった。 もしも叶うのなら、生きて修練に励み、いずれまた彼と戦いたい。 だからこそ、彼の名が知りたい。 去り行く彼を呼び止めようにも、声が出ない。 ーーダメか。 次第にまた、意識が遠のいていく。 お腰に付けたきびだんごを揺らしながら、彼は去って行った。
買いもの帰り、野菜たちを入れた袋をゆらす夕方の光が、なぜか今日はやさしい。ほんのすこしの、けれど、確かなこととして、街の風景に色彩の矢が放たれて。青みがかった絵には、あきあきだ。華のある、香りに充ちた世界を、はやく。梅は咲いた。桜はまだか。
真夜中、病室をそっと抜け出し、見舞客用の休憩スペースでジュースを飲んでいた。自販機が並んでいた。飲み物の自販機、パンの自販機、そして、天使の自販機。すると一人の看護師がふいに現れ、天使の自販機で天使を一体買って、去っていった。誰か死んだのだ。それも天国に行くような誰かが。俺は天使の自販機に近寄った。『売切』ランプがともっていた。俺はまだ生きている。
わたしはひたすらに、凝視しているだけであった。その先には悪意が満ちている。 教室の隅のほう、白昼堂々と暴行する生徒たちがいる。いつもそうだ。気弱そうなマタケくんが、たまにしか登校しないタレヤくんたちに蹴られ殴られいたぶられている。昼食を食べているわたしたちの、誰の視界にもはいらない配慮のもとでいじめられている。荒れた配置の机をさらに荒らしながら、タレヤくんはマタケくんの胸ぐらをつかんで捻り、じわじわとマタケくんの顔が赤くなる。ただそれをじっと見ている。 悪意は善意などより明らかに容易く、人の倫理を落ちぶれさせるものだった。巨大な自尊心から生まれる悪意。それが生み出す暴力。自己保身から生まれる悪意。そして傍観、無関心。果ては迷惑そうに目尻をゆがませながら、静かに終わりを待っている。この教室には悪意が満ちていた。 イジメは先生たちも感知しているところである。それは毎度行われるマタケくんへの呼び出しが示していた。いつもいつも、タレヤくんたちが登校した日の放課後に限って、ホームルームの終わりに担任がマタケくんを呼び止める。いつものことだった。 わたしはひとつ、手を打つことにした。鬱屈とした教室の、淀んだ空気を溜め込む窓が壊れるような。 今日はひときわ激しいのか、未だがらんがらんと椅子が倒れる教室を後にして、職員室へ走った。軽い音で開く扉の向こう、昼食を食べている担任を見つけると、やや声を張り伝える。 「先生!マタケくんがタレヤくんに暴力を受けてます!」 ぐるりと職員室を見回してみれば、それに驚いている教員とそうでないのとが半々くらいに見えた。急ぎ扉を閉め、スマホを取り出して警察に通報する。 「〇〇中学で生徒が殴られたりしてて…どうしたらいいかわからなくて…けっこう血とか、激しくって…」 一方的にまくし立てながら、そのまま通話を中断。これで警察が動くかどうかなんて分からないけれど、教育委員会やこの学校に連絡くらいはくるかもしれない。そのままスマホを操作して、動画アプリを開いた。あらかじめつくっておいたチャンネルと、非公開のまま投稿していた動画たちが表示される。即座に誰と分かるような動画はひとつもないけれど、この学校の関係者、さらに言うならイジメを知っている生徒ならまず間違いなくわかるように。そして詳しく知りたいインターネットの悪意たちがちゃんとたどり着ける程度の加工を済ませた動画が、これまであった現場のほとんどすべてぶん残っている。それらを上から順番に、余すことなく公開していった。続けて短くしたものを、別のSNSでも同様に。動画サイトのURLリンクを添付するのも忘れないように。 これをしたって、きっとマタケくんとタレヤくんの関係は変わらないだろう。傍観していたみんなが変わるわけもないだろう。それでよかった。 後日、担任から呼び出されたのはわたしだった。撮影されていた画角と、わたしが教室でそれを撮っていたことを知る誰かが話したのだろうか。担任の先生はすこしやつれているように見えた。 「どうしてこんな事をしたんだ?イジメが許せなかったか?」 余計な手間を増やしやがって、おかげさまでこんなことになったじゃねぇか。そんな悪意が漏れそうな眼差しで、先生は投げかけてくる。だから、その対極にいる笑顔で答えてやった。 「マタケくんも、タレヤくんも、あの状況も…それを無視する皆も先生も学校も、全部鬱陶しかったので壊そうと思いました!」 先生は自覚がないのだろうが、とびっきりの嫌な顔をした。だからこそ、わたしもとびっきりの悪意を込めて。 「たのしかったです!」 にっこり、わらった。
・天平勝宝四歳九月某日 街道と呼ぶには程遠い山道を歩く一団。二十代から三十代の男性ばかりで、人数は十五、六人といったところだろうか。いずれも、自分たちで用意した弓矢を負い、片刃の剣を腰に帯びている。服装はまちまちで、話す言葉も微妙に異なっているのが印象的だ。 「あとどのくらいで着くのですか」。一団を率いていた部領使に、そう問うたのは「鹿足」という男だった。 郷里を発って既に二十日は過ぎた。もはや自分の郷里との位置関係は不明で、数日前に「府」という施設で渡された携帯食もそろそろ尽きるころだった。 部領使は「風雨がなければ、二、三日で難波津に着く。あとは船で七、八日ほどだ」と答えた。鹿足をげんなりさせるのには十分な先の長さだった。 鹿足の様子を見た部領使は、「なあに、難波津では食糧は賜るし、武具も新たに与えられるぞ」と続けたが、鹿足の嘆息の理由はそこにない。 日が暮れ始めると、何度目かわからぬ野宿だ。火を起こして簡単に腹を満たした後は、皆思い思いに過ごす。 鹿足は、火の明るみから少し離れ、星空を眺めて方角を確かめていると、部領使が近づいてきた。 「何をしている」 「いえ、郷里の方角を見ようかと」 「ここ数日、毎晩だな。くれぐれも逃げ出すなよ」 「はい。そうですね。わかってます」 「皆、故郷のことが気になる時期だ。無理もないが、三年は彼の地で役につくのだ。気をしかと持て」 「・・・・・・・・」 「なんだ、どうした。何かあるのか。言ってみろ」 「あ、いや」と、鹿足に訝しがられていることに気づいた部領使は、「実はな私の父も、お前と同じ国の生まれで、ヤマトに連れてこられたのだ。東国の人間は勇猛だとか勝手なこと言ってな。私も衛士として宮周りを警護したし、父からは、見たこともない郷里の話を聞かされたものよ」と、その身の上を明かした。 「そうだったんですか」 「だからお前たちも防人という役で西へ行くのさ。さぁ、何考えてるのか聞かせてみろ」 少し安堵した鹿足は、ぽつぽつと語り締めた。鹿足はわずかな口分田を耕しながら、山中に狩猟に行き、息子二人と妻、母を養っていた。山野の豊かさや、若くして亡くなった父のこと、妻が矢羽をつけるのが得意なことまで語り、最近、夜毎に襲う夢の話に及んだ。 「早朝に村の門を出るとき、泣いてたのです。妻も息子も。息子たちはしばらく手を離してくれませんでしたね。眠ると、同じ姿を目にするので、どういう気持ちでこれからを過ごせばよいか考えてしまうのです」 しばしの沈黙の後、部領使はこう提案した。 「そうだ、歌を詠んでみるか。古くからヤマトでは歌を詠むのだ。その時の心情だとか、出来事などを。どうだ、試しにお前も」 「そんなのしたことないですし、できませんよ」と、鹿足は丁重に拒否をした。 「しょうがないな」と言いつつ、荷物から筆と木札を取り出した。小刀で木札を削って新しくすると、うんうんうなりながら木札に字を書いていった。試行錯誤の末、「こんなところでどうだ」と部領使は木札を見せた。 『佐伎母理尒、多知之安佐氣乃可奈刀弖尒、手婆奈礼乎思美奈吉思児良婆母』 木札には見慣れない線の集合体がずらりと並んでいたが、鹿足にはなんのことやらわからない。 「どうだと言われても、よいのかわるいのかわかりませんよ」と思わず笑った。 「初めて笑ったな。では声にすればわかるだろうから、詠んでやる。『防人に立ちし、朝明の金門出に、手離れ惜しみ、泣きし子らばも』。お前が話した様子を歌にするとこんな感じだな」。 瞬間、あの時の情景が目の前に広がる。目が覚めているのに、くっきりと。 「あぁ、なるほど・・・・そう・・・ですね」。鹿足の目から涙がこぼれていた。 言葉にならなかった。 「想いを歌にすることで、伝わる何かがあるようだ。私も最近は折に触れて歌を作ってみているのだ」 「終わったらすぐに帰ります。元気な姿で。息子たちも大きくなって、妻も母も元気でいてくれるだろうと思います」 「そうだな。そうしろ」 宵闇に二人の話し声は溶け込んでいった。 数日後、潮風香る難波津に到着した鹿足は既に船上だった。船に乗る使者に引継ぎを終えたところで、部領使は鹿足に声をかけた。 「おい。これをやろう」 手渡されたのは、あの歌の記された木札だった。 「もう一つ作ったから、これに倣って向こうでも歌を作ってみろ」 「私にもできるでしょうか」 「できるさ。東国生まれの人間だからな」 二人は笑い合った。命が消える機会など数多の時代で、今生の別れになるとは知っている。それでも笑い合っていた。 二人の笑い声が波間に消えて千二百七十数年。鹿足の消息はわからない。この歌は現在、作者不詳の防人歌としての現代に伝わっている。
彼は私の永い生の中に現れた唯一のひとでした。 暗い夜道に突如空に昇った星でありました。あてどなく歩く道を、もしやもう違えてしまったのではと不安に震える道中に、そこを目指せば良いのだと私を駆け出させる希望の火でありました。 実際には彼は隣にいて、いつでも私の手を引いてくれたので、旅人の星に喩えるよりは、掲げるランタンの方がいいのでしょうか。 ああ、遠すぎて温度の分からない星よりは、ランタンの方がうってつけかもしれない。彼の隣は温かかったのです。どんなに寒い冬の雪の日も、普段と変わらずに。 私は彼から多くを学びました。気遣いやら、笑わせ方やら、愛し方を。彼と同じにはできはしませんでしたが、彼のその様はたいへん、うつくしかったのです。全部、彼の言う愛によるものでありましたから、それを持たぬ私は、彼から見るこの世界はどれほど輝いているのだろうといつも不思議に思っておりました。 我々はどうやら同じものを見ることはできないのだ、と知ったのは、彼はとうに気付いていたのかもしれませんが、少なくとも私が知ってしまったのは、もう戻ることが叶わぬほど歩いた後でした。 歩き始めた地点はおろか、一度一人分が途切れた足跡の痕跡も見ることが叶わぬほど遠くまで来てからでした。 彼は変わらず私の手元にありました。この先どうしよう、と彼は決して言いませんでした。振り返る素振りすら私の見ている前ではしませんでした。 不安とともに私の手を握る掌に、ここに来てようやく、彼も私と同じくして、道を知らなかったのだと気付いたのです。 二人して道を失いましたが、私は別段悪い気はしませんでした。思えばここまで既に散々迷い、何故この彷徨い歩いた果てに、私の望む場所に、彼が連れて行ってくれるのだと疑うことなく信じていたのだろうと今更おかしくなったのです。 悪い気はしませんでしたが、悪いことをした気にはなりました。何故同じになれないのだろうと、苦しむ彼をずっと、隣で見てきたからです。彼は星でなくランタンでした。 連れ歩いたのは私です。
実家の庭に生えている木には、毎年、絹ごし豆腐が実る。ところが今年は、木綿豆腐が生った。家庭内に何か不吉な予感が漂い始め、母が作る味噌汁が、具なしになった。
「……うわ」 「うわってなに」 玄関扉のその先で、響さんがどこの猫かもわからないまるっこい猫を抱えて立っていた。 よくよく見れば足元にも二匹いる。 「響さんが猫を誑かしてる……」 「誑かしてない。ついてきたんだもん」 「なんでわざわざウチに」 「すきかなって」 「好きですけど……」 野良は色々とよろしくない。 むしろここまで丸いと、地域猫だとか外飼されてる猫なのかもしれない。 いや、それ以前に。 「……触ってみていいですか?」 「うん」 一応断りを入れてから、抱えられた猫に手を近づける。なんだ、匂いを嗅がせるんだっけ。 しゃーーーッ!! 「おかしい。さっきまであんな穏やかだったのに」 知ってた。 というのも、俺は動物にはめっぽう嫌われるタチで、近づけばご覧の通りこうなる。猫だけじゃない。犬にもすれ違うだけで、親の仇と言わんばかりに吠えられる。 見れば、響さんの足元の二匹さえも警戒モードに入っていた。あと一歩でも近づこうものなら、攻撃されるか、猫に言うのもなんだが、脱兎のごとく逃げるだろう。 「……俺、動物に嫌われがちなんすよねぇ」 伸ばした手を引っ込めながら、そういえば、鋭い目付きは変わらずとも、牙はしまってくれた。 「邪悪なんだな、薫くん」 「は?」 ウチの敷地から出てすぐの所で、抱えていた猫を下ろした。ひとしきり撫で回してから、三匹に手を振って、また玄関先に戻ってくる。 「やあ、邪悪くん」 「腹立つ言い方するなあ。服が毛にまみれてますよ。コロコロ持ってきてあげましょうね」 「ありがとう邪悪くん」 「次そう呼んだら殺します」 「へへへ」 こっちは睨んでいるのに、当の本人は身体を傾けて心底嬉しそうに、いたずらっ子みたいな笑い方をする。 相も変わらず、変な人。
「ちよこれいと、おいしかったわ」 フタホシは、昨日のできごとを頭のなかにめぐらせた。 けれど、あの、ちよこれいと、ほんとうのところは、アズマノジュウナナフシに渡すはずだったもの。 フタホシにとっては、やけにホロ苦く、こみ上げるほどにせつなく感じられた。
願いが叶うとすれば、 ひたすら苦を繰り返す性分をどうにかしたい、 これが私の願いです。 五十代も後半になって来ますと、 以前なら出来たであろう事が、 不思議なほど全く出来なかったり、 一度聞いた事をすっかり忘れてしまったり、 そしてまたその忘れる失敗を再度繰り返してしまったりと、 老化ってものはこんな感じなのかと思ってしまう事があります。 またそれを厳しく叱責する人も居られ失敗の念が更に膨らむことに。 失敗するとそれなりに落ち込みますし、 その姿を周りに見せる事は少なからず良い影響が出るとも思えません。 これが職場での事ならば、転職も一つの手。 自分にはこの仕事が無理なのかも、 何より周りに迷惑を掛けてしまう、 そういう判断も人それぞれですから良いのでしょうが、 私には何か引っ掛かりがありました。 先ずは失敗に対して叱責する人が居ないとなると、 自己反省をし直ぐ頭を切り替え、気を引き締め次の仕事に掛かります。 何が言えるかと言いますと、 失敗と叱責がプラスされると人は極端に落ち込むのですが、 失敗して叱責する人が居ないとなると前向きになります。 『だったら怒ってしまうと能率が下がるよね』 私はそう思いました。 おそらく叱責する側の人からすれば、能率よりもその時の自己機嫌が最優先。 何か違う展開になっているのでしょう、 私にはそれが良く分かりませんが。 でもそんな叱責の人を寄せ付けない強者の存在に気付いたのです。 それは、無神経な人。 無神経な人は基本的に人の意見は聞かないので、 怒られようが何があっても一切動じません。 だから気持ちの落ち込みも私よりかは少ないでしょうし、 根本的に感情を他人に預けたりはしない人ですから無敵なのです。 人付き合いという部分において、 こういう無神経さは率直に憧れてしまいます。 常に外野の声が入って来やすいのと、全く入って来ないとでは 日常の差がとてつもなく大きい。 ある意味、叱責する人も相手の気持ちを顧みない点からすれば、 無神経な人に属する部分もあるのでしょう。 しかし本物とは違う。 本物は感情なんてものを全く出しませんから、 叱責する人は〈なんちゃって無神経〉に属するのです。 どうすれば無神経の人に成れるのでしょう。 この願いは空を飛ぶ鳥を見て、どうやったら自分も 空を飛ぶ事が出来るのだろうに近いと感じていました。 そのくらい次元が違う、かなり掛け離れた存在に思えたのです。 でも気持ちはハッキリとそう成りたかった。 周りに振り回される自分が心底嫌で、 何かにつけて悩んでしまう人生をここで辞めたかった。 成れなくてもせめて僅かであってもヒントが欲しかったのです。 成りたい自分がそこにあるのに、成れない自分がココに居る。 この状況が堪らなく情けなく、絶望の無力感しかありませんでした。 極端に疲れた自分に気付きます。 考えることに? 日常に? 具体的には答えられないと思えました。 もう良いかな、 適当にやろう、 ダルさから全てに手を抜いてやろうとしたのです。 そしてすべき事全部が別にどうなっても良い気がしました。 『息、、、そうか呼吸しないとな』 完全脱落したらやる事全てストップしたよう。 部屋の窓を開けて寒空に頭を突き出し、出来る限り大きな深呼吸をしました。 そしてもう一回深呼吸をし、やっと意識が現実に入ります。 『…そうか力入り過ぎ…』 体が軽くなりました。本当は心が軽くなったのでしょう。 確実なる答えかどうかよりも、自分なりの答えが 自分の中にある事を知り、明るい入口を感じたのです。 単純に自分の好きなようにやればいいのに、 まだ何処かで好かれ無くても良い人に好かれようと、 合わせなくても良い相手に合わせようと、 強烈に窮屈で余計な力を入れていた自分自身が 無神経に成れない私だったようです。 すると私の中からいつもの叱責する人が消滅しました。 一番好む自分になればいい。 いつもの自分が好きな ひとり好き になるだけだ。 以前言われたことのある、自分を大切に、とはこの事かと、 ようやくここで理解出来たのです。 自分を大切に出来ないと、他人からも大切にされないもの。 ここでの無神経は素直に自分を大切にすること。 どうやら無神経というものを勘違いしていたようです。 無神経という表現はあくまで見た側の印象であり そうとしか取れなかった自分の 浅はかさ がありました。 生き続ける理由や方法を日々の中から探り出すのが日常だと思います。 今日息絶える、明日が無い可能性は誰にでもあります。 私が生き続けて行くよう、無神経の本質を学んだと思えば、 今回の経験はとても濃厚なのでしょう。
しかし全てその星のカケラはこの世界を豊かにするという宿命を負い、世界に降り立ったものだと言い伝えられていると。青年の母はたしかにエディオンの森にも欠片が光り輝きながら散らばったところをたしかに見たという。青年はその星のカケラがこの城を豊かにする鍵であることに気づき、密かに覚悟を決める。ハンナはネルーバの森から運ばれる百合の中に身を隠し城の中へと入った、その前には運送業者にもいいように取り計らってもらう為小銭を働いて用意し、渡した。そのためだけの為にお金を貯めていたため、自身の食事や住居などを耐え忍び野宿をし辛い夜も耐えたのだった。城内に入ったハンナは娘が眠る部屋へと運ばれた。娘の眠る姿を目にし、その手に嵌められた手枷、固く娘を覆う木の幹を見た時、自身のカではどうしようもないことを悟り、その場で泣き崩れた。頬を撫でてやることしか出来なかった。青年は城主レオに以前仕えていたレオの性格を知るものや、レオの政策に違和感を持つ者と秘密裏に徒党を組み始めた。母から伝えられた神話と、これからどうやってレオに対抗するか会議を開き、作戦を練った、母にも自身がこれから城主レオと闘うことを告げると、戦を練った、母は彼女自身が遠い昔に恩人から貰った百合の刺編の入 ったハンカチをお守りに持っていきなさい。と送り出した。青年たちは城の警備員たちが宴を開き注意が散漫な夜に城の中に壁を伝って入った。彼らはまた城の中に、星のカケラが隠されていると思っていたためくまなく部屋を1つづつ探していった。青年は偶然にもジェニファーが眠る部屋に移動し、泣き崩れているハンナを見つけ驚いた。彼女は娘を指さして彼女の手枷や木の幹を青年に見せた。もう終わりよ。そう言って涙を流した彼女に青年は泣かないでとハンカチを渡した。青年は城主を倒すため、レオのいる部屋のドアを足で開けた。レオは、お一。これはこれば軍司令官どの。笑そんなに荒ぶってどうしておられたのかな。もしや幽霊とか?笑と彼を茶化す、レオは配下に目で指図をし、処刑するよう指示する。青年は最初ひとりで戦っているが次々に戦いの音を聞きつけた仲間達が彼を庇い、また配下を次々と倒していった。その間にレオは城から逃げ出そうと百合が輸送されていた馬車の中に紛れ込み、発車させようとしていたがレオは逃がさず、青年の投げた剣は城主レオの心臓を貫いた。真っ白な百合の花に赤く滴るしずくが滴っていた。レオの最期の言葉は、嫌だ、私は悪者じゃない。死にたくない。助けろ。だった。青年は以前忠誠を誓った城主をみずからの手で殺めた罪悪感とともにジェニファーの元へ向かった。ジェニファーの前に座ったハンナは青年の顔に飛び散った血液をそのハンカチで拭った。これからどうすればよ以下も分からない絶望感から流した涙を流しながら思わずジェニファーの方に青年の涙がこぼれ落ちた時ジェニファーは目を覚まし、胸の中で何かが発光し始めた。ジェニファーは苦しそうな息を立てて、木の幹からはい出た。木の幹はもう固くはなかった。ハンナは娘の背中をさすり、叩いたその時、星のカケラが彼女の体から吐き戻された。まぶしく発光するその欠片は城を超え街の人々にも見えるほど明るく光った。ジェニファーは夢の中でお父さんに会った、といい涙を流した。溢れる涙は止まらなかった。そう。彼女の父は彼女がほんの生まれたての直後に戦死してしまっていたのだ。母の手にあるユリの刺繰が施されたものは、よく見ると自分が夫に持たせたものだということに気づいた。夫が娘を守ってくれたんだ。そう思えた。夜空に光る窓から見える星に向かって、ありがとう。と呟いた。夢の中で言った彼の言葉は愛しているよ。だった。
頭の中で、どうしようもないことを言い合いながらどうしようもないことを考えている。お喋りな脳の口は全ての気力を奪っていく。 目も耳も何も感じない。腹立たしさを感じながらも、おしゃべりに付き合ってしまう。全てをきいてしまう。 うわあああ、うわあ、うわあああ。歯の裏に当たる叫び声は空気を震わせない。ひび割れた手は使い物にならない。 頭の中で通帳と財布を開ける。また無意味な計算大会が始まる。問題文すら読むことのできないあなたは初戦敗退です。お疲れさまでした。いや、頑張ってすらいないんだから労われることなんてひとつもない。 この眠気に身を任せて眠りたい。 明日の目覚ましをかけている間に、また目が覚めるんだ。
彼の負け戦にもからくりがあった。城主レオは自身の肥やしを得るため、配下を金で相手国に売ったのだった。城主の住む街と相手の城、また相手の城が吸収したい城戸で戦を繰り広げていたが、自身の城が勝てるはずもない。そごでレオ自身が限界まで城の市民の税金を搾り取り、それが原因で起こる一撲を起こされる前に、他の国へと逃げるという策略を練っていたのだった。街の中ではジェニファーの噂が広まっていた。あるものは祟りだといい、あるものは腕の文様について考察をし始め、あるものはその噂話をネタに金を儲けていた。また同時に、あげられた高い税金の納金に市民は苦しみ嘆いていた。ジェニファーの母ハンナもその噂を牢屋の中で聞きつけた。娘が生きていること、罰せられなかったことに安堵しながらも、この牢屋から脱出する手立てを考えていた。ハンナは牢獄の中で1人の青年と出会う。彼は城主の政策に違和感を抱き、正義を通した発言をした際に牢屋に閉じ込められた者だった。彼は認知症を患った母のために軍の司令官として働いていたが、投獄されてからは母の様子を見られず後悔しているとハンナに話した。彼らは脱獄の協力関係としての契約を交わした。ジェニファーは眠り続けた。静寂の元で延々と、神木に固く閉ざされながら、朝も夜も日にちの感覚も何日、何年すぎたか分からない。ボンヤリと浮かぶりの花の隣にいる人物は誰つでも嫌な気分はしない。その人物はなにか言葉を発している。声は聞き取れない。明るく幻想的な夕暮れ時の空とその人物の影法師を追おうとするもまた、暗間に落とされ、意識を絶たれた。レオの元にもジェニファーの噂は耳に入った。ジェニファーの身を案じるような心は彼には毛頭ない。彼は冷酷な微笑を浮かべ、配下にこういった。ああ、可哀想なジェニファー、寒空の下気の中で眠るなんて、寒いだろう、そのご神木の根ごと城に持ってこい。そして彼女はユリの花が好きだそうだから百合の花で部屋を埋めつくせ。市民にはこう伝えよ。城主レオがジェニファーを保護し、命を救ってやったと。牢獄の中でハンナと青年は、脱獄の計画を立てていた。彼らの牢獄は隣同士、窓には鉄格子が巡らされている。計画はこうだ。ハンナは食事を運んできた看守に色目を使うふりをして艦の中に誘うその隙にボスターで隠してあった穴を通じてハンナの艦に来た青年の制服を青年が纏い、鍵でハンナの檻の鍵を開け、看守をおりに閉じ込める。看守を装った青年が脱獄者ハンナを尋問室に連れていく振りをして、尋問室に連れて行ったあと、予め持っていた女性用の看守服にハンナが着替え、看守たちの退勤時間にハンナと青年もその牢獄を出る。その決行日は2日後だった。ハンナはその2日の間に娘が無事がどうかに思いを馳せ、青年と慰め合った。決行当日、緊張しながらも綿密に練られた計画は見事に成功し、無事に青年は母と再会でき、ハンナは家に帰ることができた。身支度を整えたあと、すぐさまハンナは森へ噂のあった神木の根元に埋まってると聞いた娘を助けに走ってが、そこで見た光景は根元からガッボリと空いた穴だけだった。その時ハンナのルにも大きな暗間が大きなロを開けてこちらを覗いていた。レオは焦り、苦戦していた。彼が次の戦いに備えるためと言い放ち釣り上げた税金は市民に払えるわけもなく、徐々に納金される額が少なくなってきたのだ。また眠れる少女にユリの花のしずくを試験官で与えてもなんの変化も無い。まさかあの予言は偽りだったのか?その真偽を知るものも自身が処刑してしまったため確認のしようもなく、ただイライラと怒りをぶつけるところを探し、悶々としていた。ハンナは娘の行方を辿るため片っ端から市民にジェニファーについての噂を聞きに回った。すると城主レオが神木の根から掘り起こして城に保護したという話を聞く。しかし、以前青年からは城主レオの残虐な性格を耳にしていたため、この話にはなにか裏があることに気付いていた。城へまた乗り込むにはなにか理由が必要だ。レオは現在ユリの花を名地域から大量に集めていることを知った。娘を救いに行くため、その花の移送の中に紛れ込むことができないか考えを巡らせ慎重に様子を伺っていた。一方青年は家に帰ったあと、母はどのように生活していたのか、きちんとものを食べられていたか聞くと、何とか近所の人たちが助けてくれていることを知り、安堵した。その時昔の神話をその母から聞くことになる。ある時海に星がひとつ落ちた。その欠片は1つづつエディオンの森、カザールの森、シセルの森、ネルーバの森へと散らばり、その星のカケラは王の王冠にあしらわれたものもあれば、財宝として財閥の家に売られたものもあり美術品として展示されているものもあると。しかしエディオンの森へ落ちた欠片だけは誰にも探すことができず今もどこにあるか分からない。
ジキルは医者に言った。 『この私から多重人格を消し去ってくれ。主人格のみにしてほしいのだ。ハイドに変われば取り返しがつかないことになる。急いでくれ。』 医者は了解した。 施術終了後。ジキルは医者の首を絞め、死体を踏みつけ病院から走り去った。
舞台はドイツ、ある城下町の麓に住む屋敷にジェニファーという女の子が住んでいた。彼女はまだ9歳、あまいろの髪をリボンのバレッタでとめ、ふわりとスカートが路地裏に消える。彼女は近くの森エディオンの森に秘密基地を持っていた。その森の守護神とも言われる樹齢を重ねた神木のエガに隠された隠れ家は、彼女と彼女のクロネコ、クラインの小さな隠れ萎となっていた。彼女らはそこで本を読み、蝶と戯れ、キャンドルを灯し、眠りに着いた。その森もまた彼女らを森の猛獣や邪気を寄せ付けぬよう新鮮な空気を保ち、季節を彩らせ彼女らを見守っていた。そんな平和な日常を送る中、戦争から帰った王の帰還を知らせるラッパの音が鳴り響いた。彼女の住む城下町の城主レオンとその配下は戦争で負け、命からがら帰ってきたものだった。城主とその配下を迎える列をなすものはみな青ざめ、泣き崩れるもの、夫の帰りを行く日も待ち続けた寡婦、目を伏せ配列を後にし方を震わせるもの、花を手向けるもの、様々だった。その時ジェニファーはその事実も知らず日碁れまで隠れ家で遊び、晩御飯の出来上がる時間頃に家路に着いた。彼女は城下町の静静さと異変に気づき、親しくしていた近所の人に何があったかを聞いたが、みな扉を閉めてしまい真実を聞くことは出来なかった。家に帰ると母が茫然自失した様子で台所の前に立ち尽くしていた。母は、もうここの城下町には居られないことを娘に告げた。またこの城下町を出るためにその事実を一切明かしては行けないことも警告した。以前から城下町の財政状況は厳しいこと、最後の戦で勝てなければ利益は見込めず軍事費の借金だけが国家に募り、市民の税金や物価高は釣り上がるばかり であること。そうなった以上彼らは城のものに逃亡するところをみつかってしまえば、見せしめとして罰を与えられることは目に見えていることなどを話して聞かせた。今夜の晩にこの家を出ますと母は宣言した。しかしジェニファーは愚かにも森の隠れ家に置いてある宝物の心配をしていた。母に見つかる前に今日取りに行こう。間に合う。そう思ったジェニファーは母に知らせず一人で隠れ家に走っていった。その様子を見ていた軍の配下があとをつけているとも知らずに、、ジェニファーは森に走っていった。あたりは暗く昼間とは一変して道は迷路のようにうねり、幾度か彼女でさえも道を違えそうにな った。気温も下がり、うねる獣道を進む彼女の後ろから後ろをつけていた配下はその足の速さ、風邪のような軽やかさに驚いたと同時に違和感を覚えた。とうとう彼女の隠れ家につき、木陰に隠れジェニファーの様子を伺った配下はそのジェニファーが持つものに驚きを隠せなかった。彼女が持っていたもの。それは彼女とだけに持つことが許された星の欠片だった。ジェニファーはその星のカケラの前では9歳の1人の女の子としてではなく、1人の女神として佇んでいた。「いるんでしょう?」 彼女は配下に語りかけの隠れている木陰を見つめていた。見破られた配下はおずおずと彼女の前に姿を表した。配下は身を固くし息を潜めた。一方彼女はその光る星のカケラを固形のまま飲み干し、その場で発光しながら配下の方に向き直り浮いていた。彼女はこう予言した。「陽の落ちる機に一筋の光を示すものは、一輪のユリの花なる。我を呼び起こすものはその花の水滴なり。さすれば城は輝き豊ういった直後、浮いていた彼女は意識を失い地面へと倒れた。配下は恐れ戦き、一目散に逃げ出した。その言葉をもってその子を置き去りに。しかし当時ジェニファーの母は娘を連れ旅立つため準備を終わらせたあとジェニファーを探し続けていた。しかしその様子を訝しんだ警備を任された軍人はジェニファーの母を捕らえ尋間した。彼女は必死に娘の探索をお願いしたが、母が持つ荷物は到底隠すことはできず、罰を与えるため娘も探索された。明け方、森の中で軍人たちはジェニファーを見つけたが神木の枝に強く守られるように覆いかぶされていたため木から引き離すことはできなかった。また、奇妙な紋様が肩から腕にかけて浮き上がっていた。その頃母は娘の安全を祈って牢屋の中で祈っていた。ジェニファーは夢を見ていた。彼女は誰かに語りかけられている。白く咲き乱れるユリの花のそばにある人がたってこちらを見ている。しかし見えるのはぼんやりとした輪郭のみで誰かは分からない。こちらを見て微笑んでいるようだった。配下はその夜森をぬけ城主にジェニファーの言った発言を秘密裏に報告した。城主は意地汚い思考の持ち主だった。その報告を間くやいなやその発言を他に漏らさぬよう、その報告をした配下を直後に処刑してしまったのだった。城主レオは表向き誠実で威厳のある誰からも好かれる城主であったが、外柔内剛、彼は城の中では自分の意見や機嫌を損ねたものは処刑するような暴君であった。
俺はAI小説家だ。 俺のアイデアをAIで膨らませ、AIによる高速執筆を実現している。 最先端勝つインテリジェーンスな小説家だ。 さて、そんなインテリジェンスな俺の目に、頭の悪そうな投稿が目に入った。 『感想は読者にとってハードルが高いので、定型文を作った方が良いのでは? 例えば、ぬるぽとか』 アンビリーバボオ。 感想が『ぬるぽ』だけなんて、なんて無味無臭なアンビリーバボオ。 インテリジェーンスは俺は、優しく人間の心を教えてあげた。 『さすがに、ぬるぽだけはつまんないですよ』 返事はすぐに来た。 『ぬるぽは例えです。言いたかったのは、感想のハードルを下げようってことです』 アンビリーバブル。 ルルルルールルル。 こともあろうに言い訳だ。 なんという、ハレンチ。 しかし俺は、AIマスター。 これ以上言い返したりなどしない。 代わりに、AIを起動し、俺のアングリーな感情をぶつけることにした。 『この例え話、分かりにくいですよね?』 返事はすぐに来た。 『普通に意図は伝わります。ぬるぽがユニークすぎて、そこに反応しちゃったのかもしれませんね(笑)』 表出ろや、AI!
板前は長いことカニを扱ってきた。だからカニの気持ちがよくわかる。開店前の仕込みの時間、板前は生け簀に目をやった。カニが寝ていた。カニは夢を見ていた。カニは夢の中で、人間の首をハサミでちょん切っていた。板前はそのことが手に取るようにわかった。その夜、ある客がカニ鍋を注文した。さっきのカニが鍋で煮られた。板前はそっと、そのハサミを包丁で切り落とし、ズボンのポケットに入れた。客はハサミがないことを少し不思議に思っていたようだ。板前は帰宅後、さっきのハサミを取り出し、それで自分の首を撫でた。板前はカニの気持ちがわかるから、カニはそんなことされても嬉しくないこともわかった。だが、板前はそうするしかなかった。カニの気持ちなんてわからなければよかったと思いながら。
しばらく連絡のなかった兄の現状を知ったのは、警察からの電話だった。 人を殺したらしい。 何人も。 ぼくたちはただの家族から一変し、人殺しの家族になった。 「今のお気持ちは?」 「遺族の方に申し訳ないという気持ちはありますか?」 「実の家族が犯罪者になって、何か感じることは?」 連日、家に押し掛けるマスコミ。 マスコミの音と光は、殺人鬼の家がどこなのかを世間に教える、いい目印になってしまった。 マスコミが飽きた後、待っていたのは近所の人と他人からの攻撃だ。 「いつまでいるのかしら?」 「早く引っ越してくれればいいのに」 「やっぱり殺人鬼の家族だからかしらねえ」 両親は、日に日に衰弱していった。 父は目にクマを作って会社に向かい、生活費を持って帰って来る。 母は頬もごっそりコケてやつれ、夏だというのに炬燵に潜って眠っている。 ぼくは、学校に行って帰った。 冷たい視線が刺さって来る。 時には暴言が飛んでくる。 石を投げつけられて、額から血を流すこともあった。 「引っ越し先が決まった。来週の夜、この町を出よう」 父は、母とぼくに言った。 ずっと、引っ越しと転職を考えていたらしい。 「でも、この家がないと、あの子の帰ってくる場所が」 「……もう、住むことはできないよ」 母は最後まで抵抗していたが、父が押し通した。 既に母の通う病院も目星をつけたらしい。 「もう少し時間をくれない?」 ぼくは、引っ越しに賛成しつつ、時期をずらして欲しいと頼んだ。 「なにかあるのか?」 「殺人鬼の弟らしいから、殺人鬼の家族らしいことをやって来る。後、ずっと溜めてくれたお年玉、今全部もらえない?」 溜めに溜めた暴力の証拠を持って弁護士事務所に向かって、被害届というやつを出す手伝いをお願いした。 ぼくを殺人鬼の家族だと、犯罪者の家族と嘲笑った皆様。 おめでとうございます。 今日からあなたたちは、犯罪者の家族ではなく、犯罪者張本人です。 受理されたのは僅かだったけど、一瞬でも恐怖を与えることができたから、ぼくは満足だった。 新天地で、被害届を取り下げて欲しいという訴えが来たと、弁護士から聞いた。 当然断った。 だって、君たちも石を投げるのをやめなかったから。 電話を終えると、自然と涙が出てきた。 そんなぼくを、父が後ろから抱きしめてくれた。 この涙は、嬉し涙か、それとも悲し涙か。 殺人鬼の家族であるぼくには、人間の血なんて流れていないからわからない。
(A:外に出、ガチャリとドアの鍵をしめる。生ぬるい風の日であった。目的地に向かい、しばらく歩く。) Aの足が、ふと止まる。見上げると、色褪せた時計台。背丈の倍以上ある。(Aの目的地はこの場所ではなかった。しかしもう、目的地がどこだったか、思い出せない。) Aがこの街に来てから、今まで知らずにいた場所だった。「こんなところに、時計台。」Aは頭の中でつぶやく。 Aが時計の文字盤や針を観察していると、びゅう、と風が吹いた。瞬間、Aの体は空に舞い上がった。どうしたのだろう。そう思うまに、高いところに来ていた。 数日後、時計台の前を親子が通りかかる。時刻はちょうど15時。文字盤に仕掛けられた小さな扉がひらき、鳩の人形が、「ポォ、ポォ」となく。「ねぇママ、この時計、前から鳩さんいた?」「うーん…どうだったかな。」 生ぬるく、風が吹いた。
インスタントラーメンを鍋で茹でている間 意味も無く部屋を眺める ゴミや脱ぎっぱないしの服もない 整理整頓が行き届いている これが孤独の理由なのだろう 全て自分の好み、価値観で、決めて、動いて納得している 家族を持つと言うことは 誰かと暮らすということ それは自分の価値観を理解してもらい そして相手の価値観も認める それは矯正に似ている 苦しみを伴う時間が長く果てしなく続く矯正に。 第二の地球を託された我々の運命は、本来の自由であるべき価値観を、この広い宇宙を漂う中で、長い年月をかけ矯正を行い、終いには共に歩く相手として皆、認めざるおえなくなる。 つまり独身の俺にでさえ、共存していかなくてはいけない価値観が入り込んでいるのだ。 気付けばラーメンは既にふやけている。