金曜日の放課後が好きだった。 これから始まる休日に思いを馳せ、夜を堪能するあの時間が。 旅行は計画を立てるのが一番好きだった。 一度、旅が始まってしまうとどうしても終わることを考えてしまう。 楽しければ楽しいほど終わりを受け入れるのが辛くなる。 ならば最初から楽しくなければよいのだろうか。 否、人はみな楽しみなしでは生きられない。 たとへ何度も終わりの絶望に打ちひしがれたとしても次の楽しみに向かっていきたい。 本当の最後を迎えたときに後悔がないように。
今から思えば最低最悪な環境と次元だった日々 私の唯一の楽しみはテレビ番組とラジオでした 現実とは全然違う華やかな世界の主役達は全員 綺麗な衣装で愉し気に歌を唄う歌手達に見惚れ 時間が過ぎる迄テレビの前から離れず何時迄も 観てたあの頃現実逃避はラジオの番組土曜日の 27時のパノラマワイド土曜日の夜はロックンロ ールと言う今思えばダサいタイトの番組義姉と 義父に見付からない様に聴いてた時代私は早く 学校を卒業して家を出る事ばかり考えてたあの 時代の私は誤解してたこの家冴え出れば幸せに 為れると信じてた大嫌いだった学校と家を卒業 した時私の心は未だ何も知らず希望に満ち溢れ 直ぐに家から出れると信じて働いたしかし毎月 10万も家に入れろと強制されて仕舞い段々夢も 希望冴え薄れた時に釣りと言うバイトを覚えて 私の世界は有る種大人に為る前の第2段階得た 様に加速して行く人間として生きる為の悪知恵 付いた私は仕事以外殆どバイトに大忙しでした 最初の御客様は良い方で約8年間の間ご贔屓に してくれた良い思いも有る種味わえたかも知れ ない御客様は殆ど毎日車で迎えに来る様に通り 掛かり私を職場近く或いは駅迄送る親切な御客 だった頃私はもっと太客求めテレクラダイヤル Q2等を試しながらも徐々に大人の階段を昇る 楽しみが有った様な気がしたけど三次元の人生 そんな甘くは無かった事をこの後直ぐ思い知る 未々世間知らずな子供の私で有った第1幕完
この薄暗い部屋に閉じ込められて、一月が経った。部屋の中は質素な造りだが、ベッドは意外にも上質なマットレスで、シャワーとトイレも完備してあり、生活するには申し分ない。食事は野菜などの彩は無いが、三食差し入れられる。 堪えがたいことは、娯楽が少ないことだ。テレビやパソコンが無いのは勿論、所持していたスマートフォンも取り上げられている。何故かカバーを外された本だけは差し入れられるが、異常な状況では読む気力も湧かない。言わば、生きる楽しみを見いだせない空間。 犯人はわかっている。目の前にいる女だ。 「どうしてこんなことをするんだ」 鉄格子の向こうにそう詰問すれば、女はいつも困った様な表情をするばかりだった。 彼女のかつての交際相手に相談を受けたのが、出会いのきっかけだった。曰く、彼女は相手に尽くすタイプの女性で、しかしそれに際限が無い。ノイローゼになった彼が逃げ出し、身近にいた自分が次の寄生先として選ばれた。 意外にも彼女との生活は悪くはなかった。容姿は華美ではなく、常に地味な服装だったが、むしろ奥ゆかしく好感が持てる。流行の話題には疎いが、古文や歴史に造詣が深く、博識深い。聞いていた異常性を置いておけば、所謂大和撫子そのものだったのだ。 うまくいっていたはずだった。この場所に監禁されるまでは。 あの日は雪が降っていた。寒さに身を震わせ、数か月後に来る春を思い、道すがら在原業平や西行が詠んだ句について語った。 「和歌に詠まれる桜は、どうしてこうも魅力的なんだろう」 「昔は、今よりも目に入る色が少なかったですから、桜の初心な色ですら、貴重な彩、だったのでしょう」 「成程。そもそも現代とは環境が異なるか。僕もいつか全身で感激するような桜を見てみたいものだ」 「ええ、そうですね」 そんな些細な夢も語って、彼女も微笑んでいたというのに。 当夜、勧められるまま深酒をしてその後の記憶がない。目が覚めたらこの部屋にいた。初めは激昂して、それから諭すように、ある時は懇願に近い声色で、どんな言葉で尋ねても、彼女の答えは無いか、曖昧なものばかりだった。 彼女は、僕の思いを試しているのか? 監禁という行為が生み出す歪んだ関係性。被害者からの依存性を期待しているのだろうか。彼女の目的は、ただこうして廃れていく僕を、籠の外から眺めて居たいだけなのかもしれない。 薄暗い部屋で、食事と睡眠の数を数え、もう二月も経った。ひたすら薄暗闇の日々が続いたのだ。段々と、自分の中の何かがすり減っていくのを感じる。 「なあ、今日でもう二月だ。あんたはいつまでこんなことをするつもりなんだ?」 辛うじて、まだ忘れていなかった声と言葉で問いかける。どうせ返事は無い。宛てのない言葉は、壁の中に消えていってしまうのだろう。ただの独白だ。 そう自嘲しながらも、久々にあの困った顔つきを拝んでやろうと、俯いていた顔を上げた。彼女の唇が動いた。 「あと、二週間、くらい?」 食い下がるべきだったろうが、驚き、言葉が出ない。明確に期限を口にしたのはこれが初めてだった。彼女に何の変化があったのか。 その日を皮切りに、彼女は、毎日私の言葉に返事をするようになった。 「もうちょっと、今日は、まだ」 「まだ早いの、だめ」 「きょ、今日は、雨が降ったから」 ある日、聞きなれない金属音と共に、いつもとは異なる微妙な風の流れを感じた。ひた、ひた、と足音が近づく。顔を上げると、鉄格子の向こうの彼女が傍にいた。 「あの、これ」 差し出されたものは、黒いアイマスクだった。付けろというのだろうか。視線で問いかけても、困った表情をするだけだから、望まれるままに装着した。手を引かれ、立ち上がる様促される。僕は彼女のするまま、素直に従った。 「どこに向かっているんだ」 答えのないまま、歩いた。あの仄暗闇から解放されるのならば、どこでもいい。僕はあの薄暗い部屋を出たのだ。 途中から、足の裏に感じていたものが、コンクリートよりも柔らかい感触に変わった。風にのって、土と草の匂いがする。 「取ります、ね」 もう随分歩いたと疲労を感じ始めた頃、ふと立ち止まって彼女は言った。 髪が巻き込まれ頭皮が引っ張られたが、些細な問題だった。 流れ込む光の束に、すぐには目を開けなかった。ゆっくりと瞼の裏に馴染ませ、恐る恐る開いていく。 色の洪水だった。失くしていた色、求めていた色、知っていたはずのものが、未知のものに見えた。背丈を優に超える幹は、大地の色を吸い込んでいる。風に舞い散る花びらには、一枚一枚色があった。全て、異なる色なのだ。 言葉にならない僕に、彼女は嬉しそうに笑った。久しぶりに見た笑顔だ。僕は、彼女が僕を閉じ込めた理由を悟った。後はただ、手を握り締めて、桜を眺めた。
沈みゆく夕日に照らされて、影が長く伸びている。おもむろに手を上げてみると、なぜだか動きがゆっくりに見えた。隣を歩く友人が、不可解そうにこちらを向く。何をしているのか、と問われるが、大きな影を動かしたかった、などという理由は理解されないだろう。昨日の自分自身に言ったとしても、何を言っているんだと嘲笑されるに決まっている。久しぶりに友人と約束をして、尽きない会話を楽しんで、笑いすぎて疲れたからと散歩をして。他愛のない時間が、数年前までは日常だった光景が、これほどかけがえのない時間に、帰りたくない時間になっているだなんて、昨日の私には想像ができないだろう。 数ヶ月に一度、短いメッセージのやりとりをするだけの関係になっていた友人が、会おうと言ってくれたのが三週間前。そこから数日おきに連絡を取り合い、ついに今日がやってきた。柄にもなく緊張していた私は、目覚ましが鳴る前に目を覚まし、いつもよりも念入りによそ行きの準備を整えて、予定の何本か前の電車に乗り、待ち合わせの時間より三十分も早く到着してしまった。見慣れない構内を、案内表示を頼りに移動して、普段は乗車しない短い編成の電車に乗り換えた。ボタンを押して開閉するドアは新鮮で、まばらに座る人々の会話のイントネーションも聞き心地が良い。暖房の効いた車内と、線路から伝わる規則的な振動は、早起きした体と頭には大敵で、いつの間にか眠りこけてしまった。駅に着き、列車内で循環していた空気を入れ替えようと深呼吸をすると、冷え冷えとした上質な空気が肺に流れ込んできて、まだ寝ぼけていた頭を冴えさせる。さっきまで住んでいた場所と同じ青が繋がっているはずなのに、単なる駅前の景色でさえもくっきりと見える気がして、排気ガスと電子機器に囲まれてぼやけていた視界に気がついた。時間つぶしでも、と周辺を歩いてみると、見たことのあるチェーン店と、見たことのない個人経営のカフェが立ち並んでいて、日常と非日常の狭間に来たことが実感された。少し迷いながらも待ち合わせ場所まで戻ってきた私を迎えてくれたのは、過去の記憶と少しも変わらない友人の声だった。 この地に引っ越してきてから三年が経つ友人は、この地の有名店に案内してくれた。ここに来てからは勉強ばかりだからあまり知らないのだけれど、などと前置きをしながら、知人にリサーチをしたから間違いないと思う、と自信を持って話した友人は、やはり私の知っている性だった。 夕暮れが訪れるのはあまりにも早く、明日が講義であるということを嫌でも思い出させた。昼間とは色を変えた太陽を正面に見ながら、あと少しだけ、とお願いをすると、同じことを言おうと思っていた、と笑顔を咲かせた。この近くにとっておきのお店がある、と連れてきてくれたのは、どこにでもあるようなラーメン屋。家の近所にもあるよ、と笑ってみせると、他とはちょっと違うサービスがある、なんて言うので、半信半疑のまま店内に入った。どんな店であろうと結局構わず、思い出話に腹を抱えながら、魚介ベースのあっさりとしたラーメンを啜り、普段だったら追加しない餃子までシェアして、温まった体で店をあとにした。ちょっと違うサービスとは何だったのか、会計を済ませた友人に聞くと、手のひらを出して、と笑って言う。頭に疑問符を浮かべながらも大人しく右手を出すと、一つ十円のチョコレートが乗った。小さな小さなその駄菓子を見て、懐かしい思い出が一気に蘇る。小学生時代、塾に行く前の僅かな時間に、親には内緒で寄り道をして、子ども好きの老人が営んでいる店で十円のチョコレートを一つずつ買った夕焼け空。夏休み期間中、早起きをして公園へ行き、鬼ごっこやかくれんぼで遊んではすぐに腹を鳴らして、すっかり顔なじみとなった老人に十円を渡した青空。放課後、友人の家へ遊びに行って、すっかり時間を忘れて日が落ち、少し焦りながら、しかし夜の特別感を味わいながら、まだ明かりがついていた老人の店で十円だけを握りしめて、迷う素振りを見せつつも、やはりいつものチョコレートを買った星空。 六年前、高校入学と同時に疎遠になり、それぞれの人間関係を築き、二人一緒でなくても日々を生きることができると気がついた。それでも、幼き日の十年弱、毎日共に過ごしていた絆は、あまりにも強固で、時が簡単にほどけるものではなかった。今日一日、たった数時間、時を同じくしただけで、あの頃と同じ二人になれた。また、何年後かに再会しても、きっと今日の続きができるのだろう。 これがサービスだよ、と友人は笑う。焼肉店のガムではあるまいし、と私も笑う。駅のネオンが、二つの横顔を明るく照らしていた。 (お題:ラーメン屋、チョコレート、遊ぶ)
妻が死んでから、部屋の音が変わった。 冷蔵庫の低い唸り、時計の秒針、夜になると遠くで鳴る救急車のサイレン。以前からあったはずの音が、彼女のいない部屋では大きく聞こえた。 遺品の整理は、なかなか進まなかった。彼女が少し席を外しているだけのようで、どうしても捨てる気になれない。 そんなある夜、寝室の引き出しの奥から、小さな封筒が見つかった。 表には、彼女の字でこう書いてあった。 「あなたへ。どうしても会いたくなったときに。」 中には、薄い金色の紙片が一枚入っていた。映画の半券みたいな質感で、表面には銀の箔で文字が浮いている。 天国チケット 使用可能時間:日没から日の出まで 効力:一晩、生きたまま天国への滞在を許可する 代償:使用者は死後、地獄へ送られる 冗談にしては、あまりにも彼女らしくなかった。 もう一枚、小さく折られた便箋が入っていた。 「これを見て私を思い出して。ただ使いたいなんて思うのはダメだよ。」 その手紙を、彼は何度も読み返した。 彼女なら、こういう悪趣味な冗談を言う人ではない。けれど、だからこそ、これは冗談ではないのかもしれなかった。 彼はチケットを封筒に戻し、引き出しの一番奥へしまった。 使うつもりはなかった。 だが、人は理屈だけで夜を越えられない。 使うのは裏切りだと思った。 使わないのも、裏切りのように思えた。 もし本当に天国があるなら。 もし彼女がそこで待っているなら。 もし、たった一晩だけでも、もう一度会えるのなら。 その夜、彼は封筒を取り出した。 時計の針が午後六時を回ったとき、チケットは指先で熱を帯びた。気づけば、部屋の輪郭がぼやけ、世界がゆっくり裏返るような感覚に包まれていた。 次に目を開けたとき、彼は見知らぬ丘の上に立っていた。 空は、夕焼けのまま止まっていた。 雲は桃色に染まり、風はぬるく、どこか花の匂いがした。遠くには街のようなものが見えた。白い屋根、金色の塔、静かな川。絵本の中みたいに美しい景色だった。 けれど、妙だった。 道の向こうから、白い服を着た老人が歩いてきた。 「すみません」と彼は駆け寄った。「人を探しているんです」 妻の名前を告げると、老人は穏やかに微笑んだ。 「ここは良い場所ですよ」 「…いや、そうじゃなくて。彼女を見ませんでしたか」 「皆、幸福です」 答えになっていなかった。 それから彼は、何人もの人に尋ねた。花畑にいた少女にも、川辺で本を読んでいた青年にも、広場でチェスをしていた男にも。 だが返ってくるのは、どれも似たような言葉ばかりだった。 「ここは安らぎの場所です」 「悲しむ必要はありません」 「探し物はいずれ見つかります」 なのに、誰も彼女のことは知らなかった。 彼は街を駆け回った。白い石畳の路地を、噴水のある広場を、教会に似た建物の中を、果ての見えない庭園を。夕焼けは一向に沈まず、空の色は変わらない。 妻の名を呼び続けるうちに、声がかすれた。 彼女がここにいると信じていた。 少なくとも、自分を一度は待っていてくれると思っていた。 それなのに、どこにもいない。 街の時計台が、どこかで一度だけ鐘を鳴らした。 夜明けが近いのだと、彼は直感した。 帰れば、また彼女のいない朝が来る。 彼女のいない人生に戻るくらいなら、いっそ。 気づけば彼は、元いた部屋の床に倒れ込んでいた。手の中のチケットは、灰のように崩れて消えた。 窓の外は、白み始めていた。 彼はしばらく天井を見つめ、それから、静かに目を閉じた。 次に目を開けたとき、天井はなかった。 代わりに、赤黒い空がどこまでも広がっていた。地面は乾いてひび割れ、遠くで火がくすぶっている。熱いはずなのに、妙に寒かった。 ここがどこなのか、考えるまでもなかった。 「やっと来てくれた」 声がして、彼は振り返った。 妻がいた。 生前とまったく同じ顔で、同じ笑い方で、けれどあの頃よりずっと晴れやかに、そこに立っていた。 彼は言葉を失った。 「…どうして」 ようやく絞り出した声に、彼女は少し首を傾げた。 「どうしてって?」 「どうして、君が…ここに」 彼女は、ああ、と納得したように笑った。 「私、天国にはいないよ」 「あなた、私を探したんでしょ?」 彼は何も言えなかった。 「ごめんね。でも、あなたなら絶対使ってくれると思ったから喜んで地獄に落ちたの」 そして、恋人に甘えるみたいな声音で囁いた。 「会いたかったんでしょう?」 彼はそのとき初めて、自分が天国ではなく、最初からずっと彼女の掌の上にいたのだと知った。 赤黒い空の下で、妻は幸せそうに彼の手を握りしめている。 もう二度と離れないように。 もう二度と、離れられないように。
世界には、晒しが溢れている。 気に食わない行動を、晒す。 政治家や会社員のちょっとしたズルを、晒す。 なんかやばそうだったので、晒す。 晒しは、人間の娯楽となって、加速した。 「その願い、叶えてしんぜよー」 そこへ神が現れた。 神は、人間以外から色を失くした。 木々や花にも、色はない。 建物にも、色はない。 当然、服にも色はない。 残されたのは、隠れることができないすっぽんぽんの人類。 何一つ隠すことのない世界で、ようやく晒しはなくなった。
暖かくなるのはいいけれど、 ホットココアを美味しく味わうんだったら、 春にはもう少し隠れててもらわないとなあ。気配ごと。 待ち遠しいことに変わりはないけど。 クローゼットの奥の春物コート。 淡く頼りなさげなその軽さに、季節が変わりゆく。 肩に強いる厚くて重いそれを遠ざけ、 通すパステルの袖はすこぶる軽快に。 腕のまわりがやけによくなって、スポーツ選手のマネごとを。 なあんてね。 じっと座ってお団子でも食べてるくらいが、いまの私には性に合ってる。
新人の指導役を断り続けているのは その新人が僕の手でどんどん汚れていくさまを見たくないから なんて、それはたんなる言い訳 はやい話、めんどうなんだ、正直なところ 会社が終わって家に帰るまでの道すがら あの新人にどう言葉をかけてやればいいかを考えるんじゃなく 今日、何たべるかなあ、とそのことで頭のなかを満たしたい それなのにスーパーのレジでは 研修中の札をつけた女の子にあたってしまい ついつい余計なことを思い出してしまう みんな、はやいとこ育ってくれよ いやいや、俺が言うまでのこともなく ヤツらは、育っていくんだよな、勝手に…
あの大きな猫、洋子はもう長くはないのだそう、子どもの頃はその意味が分からなかったが、あの猫が煩く、巨大な物に潰れ、意思疎通が出来なくなるように、洋子もいつか居なくなるのだろうと、思い始めた。 洋子が居なくなるということは本人もよくこう言っていた。 「私はサビより早く死ぬからねぇ」 死ぬというものが何なのかは分からないが、きっと居なくなることなのだろうと、思っていた。 私は『なんびょう』というものになったらしい。 あの忌々しく、可笑しな匂いを纏った猫が言うにはあと数ヶ月も持たないのだそう、それを聞いた洋子はとても悲しそうにしていた。 そこから段々、餌を狩る気も失せ、食べ物もいらなくなった。 もうここ数日はずっと寝ている。そして洋子はいつも私の隣に居る。普段は私から離れるがもうそんな気力もない。 嗚呼、唐突に眠くなってきた。これが死ぬというもの何だろうか。洋子居なくなってしまう私を許して。
親しい人がいる。会話したり一緒に何処かへ行ったり、近しいことで悩んだりする。 まるで共に人生を歩んでいるように。私も貴方も同じ生き物のように。 けれどそんな理想から何度も目を覚まさせられる。 「結婚しました」の一文におめでとうと心からの祝福を友人に述べた。偽りはない。 私は私。貴方は貴方。 その事が今はとてもさみしい。 私の人生には私しか立っていない。そのことは重々分かっているつもりだけれど、ふとした時に骨身に冷たく染み渡る。 私はあわあわして部屋の中をぐるぐる歩いて落ち着かせる。なんとか落ち着いてふたたび果てのない海に浮かんでいる。 今は何も考えずに。
日曜日の早朝から起きているせいで、時計を見ては、まだこんな時間なのかと驚く。 明日、学校で歴史のテストがあるので、その予習を朝していた。 僕の癖でテストの予習は朝早く起きてする。色々試したがこのやり方が一番自分にあっている。17歳にして、朝早く公園で体操するお爺ちゃん達の気持ちが分かる気がしている。活動するなら朝が一番いい 勉強は一時間くらいで終わったので、一階に降りてみると、まだ母は帰っていなかった。 彼女の仕事は女優業で、言いにくいがアダルトな女優だ。若くから活躍していて、僕は母が体を削って稼いだお金で生活をしている。 他人がどう思うか知らないが、僕は母を尊敬している。 撮影が深夜になることも多く、時間が不規則なので朝帰りなどよくある事なのだ。昔からだそうだし、僕は小さい頃から一人で留守番している。一緒に留守番をする仲間もいたので淋しくはなかった。 留守番仲間兼、愛犬のココが既に起きていてご飯をくれと僕を急き立てる。 短い足を使い、ぴょんぴょんと跳ねて必死で僕の顔を見ながらワンワン言っている 彼女の言うことは大体分かる。 「ご飯をくれ」と「ママが帰ってきた」くらいしか言わない。 「一緒に留守番した仲じゃないか」とも言っているかもしれない ココにドッグフードを与え、ココ用の水を交換する。 昨晩作ったカレーが残っているので温めていると、ココが玄関に猛ダッシュで龍の様に走っていき、くるくると回りながら吠えている。 ガチャリと鍵の開く音がして母が顔を出す。「ただいま」 母はカレーを喜んで、おかわりまでして食べていた。彼女はお風呂に入った後そのまま寝室へ行ってしまった。きっと夜まで起きない。 ココは一仕事終えカーテンの下で寝ている。ビニールの音がすると跳ね起きて音の方を見るが、オヤツでないと分かると、また直ぐに寝てしまう。時計を見ると、まだ十時である。
今日も、いつもと変わらない、だらけて中身のないパイみたいな一日が、とっくに始まっている。 時刻はもうすぐ15時。 青い春を売っても、やって来るのは、底の底に沈んだような人間ばかり。 一人、二人、三人――どうしようもない、しょうもない会話すら成立しない相手ばかり。 このまま、稼ぎもなく今日が終わるのだろうか。 また社会から吐き出されるのだろうか。 頭の中で、恐怖が反響する。 自分のようで、自分ではない声が囁く。 「また逃げるのか。酒?タバコ?薬? そうやって逃げ続けていたら、いつか本当に捨てられるよ」 そう言われても、それしか逃げ道がない。 そんな自分に、嫌悪が走る。悪循環だ。 病院の助け舟も遠のいて、 手っ取り早い快楽に手を伸ばして、堕ちていく。 今日は何に逃げるんだろう。 明日はどうするんだろう。 無一文で終わるのだろうか。 社会のゴミ溜めみたいな自分に、 日に日に、憎しみが積もっていく。 いっそ、オーバードーズでもして気を紛らわせるか。 酒を飲んで、頭の中をHBの鉛筆で塗りつぶして、 今日の自分を葬ってしまおうか。 そうやって毎日、自分を殺しても、 また自分が脅してくる。 「結局、逃げるんだね。どうしようもないね」 誰も見向きもしない。 まるで、路地裏に捨てられたみたいだ。 この地獄から、逃げ出せる日は来るのだろうか。
夏の朝だった。爽やかに晴れた青空の真ん中に、小さな雲が一つ、ぽつんと浮かんでいた。「あの雲がなければ、『雲一つない快晴』なのに」そう思っていたら、その雲に向かって、何か白い生き物が、空中を歩いて近づいていった。それは一匹のイヌだった。「あっ」そしてよく見ると、その子は、去年死んだ我が家の飼いイヌだった。その子は雲に近づくと、雲を口にくわえて、私をちらりと見て、また空中をとことこと歩き去っていった。相変わらず気が利く子だ。私は病室のベッドの上で、いつまでも、雲一つなくなった青空を眺めていた。
愛とはすごいものだ。 あれほど軽々しく「好き」や「愛してる」を振りまいていた友人が、今では一人の人にだけそれを向けている。仲睦まじそうで何よりである。 ただし、あの言葉たちは無くなったわけではない。 横断歩道で信号を待つ。隣の人はスマホに夢中だ。指の動きが荒い。誰かに何かを送り続けている。 ああ、これか、と思う。これが、芽吹いたもの。 信号はまだ赤い。でも、別に関係ない。 一歩踏み出す。 予想通り、その人は進みだした。 音。 「もしもし!事故です!」 通話を終えて、少しだけ息を吐く。 これで、ひとつ減った。 全く。 大事な親友に害を成すなんて。 愛とは、本当に恐ろしい。
カレンダーをめくる指が軽く感じられる春四月。 まだ少し空気は冷たいけれど、朝の光にまじる色は、 昨日までとは、どこか違っていて。 ―やっとはじまるね 思わずついたそんなひとり言に、今日の風はやさしいけれど、 街は、まだ半分、青みがかっている。 埋もれたままの景色は、春先の眠気からさめないご様子。 春物のコートに袖を通す、おそらく最後の日。 手放すべきものを脱ぎ去ってしまえば、 季節は確実に動いていく。 踏み出すことの怖さ。 進んでいくことの楽しさ。 今日が、何かのはじまりになればいい。 忘れていくための春を、今日からはじめる。
先輩は一風変わった人だった。 伊達メガネをかけて、部室と呼ぶには窮屈な部屋でいつも一人本を読んでいた。 * A大学に進学が決まってから僕はオカルト研究会に入ろうと心に決めていた。 初めて特殊な趣味について語り合える仲間ができるという期待を胸にドキドキしながら部室の扉を開けたのを覚えている。 「おや、新入りかい?」 積み上げられた段ボールの奥から声がする。 ひょこっと顔を出したその声の主はまるで小動物のような女の人だった。 「はい、オカルト研究会に入りたいんですけど。」 うんうん、彼女は腕を組みながら大げさにうなずく。 「よかろう、ここに座りたまえ。」 錆びたパイプ椅子をすすめられ、僕はそこに腰掛けた。 「あの、他の部員の方は?」 「え、あたし1人だけど?」 * これは後で分かった話だが、一時ネット上で旋風を巻き起こしたA大学オカルト研究会は、部活中に起こった事故をきっかけに下火になり、徐々に部員数も減少していったそうだ。 僕がオカ研の好きな動画について語ると先輩は遠くを眺めて 「そんな頃もあったなあ」と呟いていた。 僕達は月に一度心霊スポットを巡り、その他の日は自由に部室を出入りした。 先輩はいつも部室に入り浸っており、まさか住んでいるのではないかと疑うほどだった。 そして何故か先輩は自分自身の情報について、下の名前が「アキ」だということしか教えてくれなかった。 連絡先も誕生日も何一つ知らなかった。 質問しようとすると 「謎が多い方が大人ってのは魅力的なんだぜ、ベイベー」 などというよくわからない事を言ってはぐらかされた。 それでも部室に行けば必ず先輩に会えるからさほど気にならなかった。 * 「この世に無いことの証明は難しいんだよ。知ってるかい?」 ある日、先輩は唐突に言った。 「どういうことですか?」 「実は、私はあまり霊というものを信じていなくてね。でも、だからといって、私の中で完全にいない、と言い切れるほどの自信はないんだ。」 先輩は何か大事なことを言うように一呼吸置いた、 「だから私はこの部活で霊に出会わなかったら。いないという事にしようと決めたんだ。」 同じく霊の存在を信じる仲間だと思っていただけに僕は少し寂しさを感じた。 そんな日々が続いて一年が過ぎた。 僕が彼女のことを好きになるには十分すぎる時間だった。 心霊スポットの帰りに僕は勇気を出して告白した。頭の中が真っ白だったので何と言ったかは覚えていない。 ただ先輩は 「きみの大切な時間を奪ってしまったようだね。ごめんね」 と言うと先へ歩いていってしまった その時の先輩は一度も見せたことのないとても悲しそうな顔をしていた。 * それから先輩は一度も部室にはやってこなかった。 他の学部の人にも片っ端から声をかけたが、「アキ」という女性のことを知っている人はいなかった。 無理矢理にでも連絡先を聞いておかなかったのを僕はひどく後悔した。 * 月日は流れ、僕は大学4年生になった。 オカ研のOBの人にもコンタクトをとってみたりしたが、先輩の情報はあれからなにひとつ増えていない。 これから就職して、もしかしたら別の好きな人ができて、結婚して、子供ができて、そうしたら段々と先輩のことも忘れていくのだろうか。 少なくともいまの僕は彼女の呪縛にとらわれている。 先輩、どうしてそんなに悲しそうな顔をするんですか。 最後に見た顔がそんなのだから先輩の笑顔がうまく思い出せないじゃないですか。 「この世にいないことの証明は難しいんだよ」 先輩のいたずらっぽい声が頭の中に響いた。
「フリーハグいかがですか?」 コンビニに行った帰り道、一人の女性が立っていた。 フリーハグの存在は知っている。 なんか、ハグしてくれるらしい。 「いいですか?」 「もちろんです」 名前も知らない人との、数秒間だけのハグ。 少しの緊張と、少しの温かみを感じた。 「ありがとうございます」 ぼくはそのまま彼女と別れ、会社に戻った。 どことなく、心がぽかぽかと温かかった。 「先輩お帰りなさい! バグ、三件増えました!」 「フリイイイイイバグウウウウウウウ!!!!」 温かい心のまま、体のエンジンを全力でぶん回す。 俺たちの徹夜はこれからだ。
万物の霊長と言われ生き物の頂点に立つ人間 山や森切り崩し道路と家を造り科学力の発展 ビル群に囲まれたコンクリートジャングルな 日本埋め立て地にレジャーランド盆地に立つ 高層マンション、スーパー、コンビニ、銀行 病院、郵便局、商業施設、飲食店、警察署は 大自然の怒り天変地異は一瞬で全て消え失せ 去る抗力従え一気遣って来るだろうその時に 初めて人は己の必要性を問うのかも知れない
駅のホームのベンチで、電車を待っていた。隣におっさんが座っていた。くたびれたおっさんだった。ふいにおっさんが咳き込んだ。激しい咳だった。コロン。おっさんの口から、何か硬い物が飛び出てきて、コンクリートの床に落ちた。それは一発の銃弾だった。おっさんはそれを拾い上げた。うんざりした表情を浮かべていた。おっさんはしばらくその銃弾を手の中でもてあそんだ後、上着のポケットに突っ込んだ。そして、おもむろに、右手の指をピストルの形にして、自身のこめかみにあてがった。そこへ電車が来た。おっさんが「バキューン!」と言った気がしたが、電車の音でよくわからなかった。俺は立ち上がった。おっさんも立ち上がった。俺たちは電車に乗り込んだ。おっさんはいつの間にかマスクを着けていた。
道に並べられた、家畜たちが殺される写真。 写真の目の前では、一人の活動家が叫んでいる。 「貴方達がスーパーで買っているお肉は、こうした可愛い動物たちの死の上に成り立っています! 都合の悪いことに目を瞑り、可愛い動物たちを食べることに、胸が痛みませんか!」 残酷な写真に、道行く人は目を背け、親は子供の目を塞ぐ。 私は、たまたま買ってきた鴨を持っていたので、活動家の前に出た。 「痛まない」 活動家の前に、鴨を置いて、仕留め、食肉へと加工していく。 正直に言うと、痛みはする。 しかし、この世界は弱肉強食。 動物の世界も昆虫の世界も、天敵に食われながら回っている。 私が活動家を見ると、活動家は貧血で倒れていた。 写真なら平気だが、実物は無理だということだろうか。 「都合の悪いことに目を瞑らないでくださいよ」 私は美味しくできた鴨肉を一口食べて、鮮度を保つために残りもしまった。 ああ、今日の晩飯をこんなところで。
中学生の女の子二人組が公園を歩いていた。二人は自販機の前を通り過ぎた。そして、自販機から少し離れた場所で、二人は言った。「あの自販機、かっこいいよね」「私もそう思う」すると二人の背後から、ガコン、と音がした。自分の噂をされた自販機が、くしゃみをして、その拍子に、ジュースを出してしまったのだ。二人はにやりと笑い、走って自販機の前に戻り、くしゃみで出たジュースを手に取ると、笑って走り去った。俺はベンチに座ってその一部始終を見ていた。俺は立ち上がり、その自販機の前に立ち、紙幣を入れた。その時、俺は自販機に向かって、にやりと笑ってみせた。そして缶コーヒー一本を買ったが、自販機はお釣りを出さなかった。自販機は決まり悪そうだった。俺は缶コーヒーを飲みながら、さっきの二人とは反対方向に歩き出した。
「なぁ人間が欲しくてほしくてたまらない物って知ってるか?」 ホワイトレンジャーの前に怪人がいる。怪人はホワイトレンジャーたちと出会い頭に質問をしてきた。 「人間が欲しくてほしくてたまらないものだよお」 「なぞなぞか!後にしてくれ!」 とリーダーのホワイト 「ひひひひ」 怪人は笑う 「心じゃろ」 喜寿で年長の月白が答えた 「そうだ。心だ。我々も人の心から出来ている。そしてお前らも」 「正解した時は、『ピンポン!』とか言ってくれ!分かりづらい!」 とリーダーのホワイト 「なぁ、この世界に必要ないものは何か知っているか?」 「またなぞなぞか!後にしてほしい!今はお前を倒したいんだ!!」 とリーダーのホワイト 「それは、人ですね」 冷静沈着が持ち味のスノーが言う 「あぁそうだ。人間がいなければこの世界は平和そのものだ」 「さっきも言ったように!正解した時は、『ピンポン!』と言ってくれ!」 「なぁ、人を消しちまおうぜ。俺たちで人間を消しちまおう」 都会のビル群の真ん中で怪人とホワイトレンジャーは対峙している。 人間達が石になってしまったと連絡があった 怪人が人間達を石にした 「休みたい」「老けたくない」等の思いから産まれた怪人は人間の願いを叶えていく。人間の望まないカタチで。 「人を消してどうする!何を言っているんだ!」 とリーダーのホワイト 「あぁ分かった。お前はバカだな。バカで出来ている」 「私がバカだとかバカじゃないとかどうでもいい!我々はお前を倒す!」 「俺を倒してどうする?また人間達は怪人を作り出すぞ」 「人間達は心の中で戦っている。我々も戦わずにはいられない!」 ホワイトの音速の拳が怪人を打ち砕く! 怪人を倒した後、しばらくホワイトはその場を動かなかった 「分かったようなことを…言うな…分かったようなことを…!」 ✟ 「次のニュースです。 東京都黒田区黒羽の派遣型風俗店の事務所で冷蔵庫から乳児の遺体が見つかった事件で、警視庁捜査1課は某日、死体損壊と死体遺棄容疑で、母親で同店従業員の容疑者(22)=住所不定=を逮捕した。容疑を認め、『隠さなければと思った。そばに置いておきたくて冷凍庫に入れた』などと供述している」 ラジオから流れるニュースにホワイトは目を閉じる 彼は今、人間の姿で世間に紛れている 「お客さん、仕事帰りですか?」 タクシーの運転手がきく。 「飲んだ帰りです」 時間は夜の十一時、ホワイトは適当に嘘をつく。 「この辺は飲み屋多いですもんね。風俗店も多いけど」 「運転手さんは風俗行くんだ?」 何となく運転手の名前を確認する 【黒穴 旦】くろあなだん…変わった名前だ 顔は丸く大きく髪が長いので、どんな目をしているのかがよく見えない 「いやいや、そんな元気もお金もないですね。ハハハ」 「運転手さんは風俗の人を乗せたりするの?」 「いや〜あると思いますよ。風俗で働いてるのか聞いたことないけどね、分かるね何となくだけど」 「へぇどんな感じなの?」 「いや〜それぞれですよ。暗い感じの娘もいれば、明るそうな感じの娘もいるし…ただ、なんていうのかな、人に疲れている感じはするかな。他人を信用しない感じ。何となくだけどハハハ」 ホワイトは今日の怪人の言葉を思い出していた。
「なんか私……今日調子良いかも!うん!今ならなんでも出来る気がする!もうほんとうに、戦車に体当たりとかしても生きてる気がする!だって私最強だから!!」 床に落ちていたレゴブロックを裸足で踏む数秒前の妹のセリフ。 数秒後の様子は言わずもがな。 さながら即落ち2コマのようだった。
創作する人間にとって『ジャンル』というものは 心強くも、時に囚われの元凶となるものだ 創作とは楽しむものであり 創作論なんてものは二の次なのである 自分や世界に不満が無ければ創作は次第に止まるだろう… 怒りや嘆きの世界で『無題』を創り続けることが、本来の創作という物なのである だが、世間に出る頃には作家の『作品』というレッテルが貼られる この『レッテル』を今作と『額縁の契約』内で私は額縁と捉えた ジャンルとは、作家にとって自分の作品をそれぞれの系統に押し込む事であり 読者にとって、作品と効率よく出逢う合言葉なのである (完)
海を漂う沈没船が一隻。 人魚姫が船に近づくと、人間の王子様が海にぷかぷかと浮いていました。 人魚姫は王子様を陸地まで引っ張っていき、その命を救いました。 目を覚ました王子様は、命が助かった奇跡に感謝し、自分を助けてくれただろう人間を探しました。 「私を救ってくれた者に、褒美をとらせる!」 だいたい五百人くらいの人が手を上げました。 しかし、王子様は誰の言葉も信用しませんでした。 王子様はうっすらと、助けられた時に自分に触れた手の感覚を覚えていたのです。 人魚姫はと言えば、とても王子様の前に出ることはできませんでした。 人魚姫は、体の半分が魚。 人間と共に生きるなど、世界が許してくれません。 「人間になりたいかい? 人魚姫」 悲しむ人魚姫の元に、一人の魔女がやってきました。 ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべて、怪しげな薬を差し出してきます。 「この薬は、人魚を人間にする薬だ。代わりに、声を失うがね」 人魚姫は、躊躇わずに薬を飲みました。 しかし、人魚姫の体は変わりませんでした。 「嘘ぴょん!」 魔女は大笑いした後、どこかへ行きました。 人魚姫の不運は続きます。 なんと、王子様の元に王子様を助けたと名乗る五百一人目が来たのです。 その女は、麗しい隣国の王女様でした。 「おお。この手の感触、覚えている。そなたが私を助けてくれたのか」 王子様は、王女の手を取り、言いました。 「はい。たまたま海を散歩しているとき、遭難している船を見つけまして。ご無事でよかったです」 王女様は、王子様の手を握り返し、にっこりと微笑みました。 もちろん、王女様の言葉は嘘。 泳げないし助けてないけど、隣国の王子様と結婚すれば国の繋がりも安泰で、王子様もイケメンだったので、そういうことにしました。 王子様と王女様の結婚式は、盛大に行われました。 人魚姫は、海の隅っこで、盛大なお祝いの盛り上がりを聞いていました。 「私は何も望みません。王子様が幸せにさえなってくれれば」 人魚姫は、一人涙を零しながら祝福をしました。 もちろん嘘。 嘘をついた王女様のことが、憎くて憎くて仕方ありませんでした。 結婚式を終えた王子様と王女様は、結婚の記念に船で旅行へと出かけました。 天気は晴天。 絶好の船出日和。 船は安全に、大海原へと飛び出しました。 そこへ、人魚姫が海から船の底に近づいて、船に穴をあけてしまいました。 船は海に浮かび続けることができず、ずぶずぶと沈んでいきます。 「誰か、助けてくれ!」 「助けてー!」 人魚姫は、海で溺れる二人に近づいて、王女様に問いかけました。 「本当に、貴女が王子様を救ったのですか? 本当のことを言ったら助けてあげます」 「ごめんなさい! 嘘をつきました!」 生き残りたい王女様は、必死で人魚姫に叫びます。 人魚姫はにっこり微笑んで、王女様の伸ばした手をはたき落します。 「謝らないで。私も嘘をついたから、お互い様」 王女様は絶望の表情のまま、海の底へと沈んでいきました。 人魚姫は、次に王子様の方を見ます。 「助かりたいのなら、この手を取ってください」 人魚姫は、王子様には何も求めませんでした。 王子様は人魚姫の言葉が本当かどうか悩みながら、結局手を取りました。 人魚姫は、王子様の体を陸地まで引っ張っていきました。 陸に上がった王子様は、人魚姫に尋ねました。 「どうして私を助けてくれたのか」 人魚姫は答えました。 「貴方だけが、私に嘘をつきませんでした」 人魚姫はそのまま海に潜ってしまいました。 二度と王子様の元には現れませんでした。 「嘘つき」 魔女は、嘘をついていました。 魔女が人魚姫に渡した薬は、人魚を人間にしません。 魔女が人魚姫に渡した薬は、人魚から声を奪いません。 人魚を泡へ変える薬でした。 人魚姫は海の底で、その体を泡に変えて消えました。 海の表面に、小さな泡が浮かんでは、パチンと割れて消えていきます。 王子様は長い間、海に住んでいるだろう人魚姫を探させました。 しかし、ついに見つかることはありませんでした。 王子様の心は、人魚姫に捕らわれたまま。 「嘘つき」 陸地に戻った後も、王子様の心は海に残ったまま。 王子様は二度と妃をとらず、その生涯を終えました。
しくしく、べそべそと泣く子が居る。 見た感じは、ずいぶん幼い子。3つとか、4つとか? なのに、ただの迷子とは感じられない。だけど、ただの迷子のように、服の裾を握りしめてただひたすらに、しくしくべそべそと泣いている。 どうしろと、いうのだろうか。 回答を求めるその対象さえ判らずに立ち尽くしていたら、その子が喋った。 「おうちにかえりたい…」 やはり迷子。ただの、かどうかは、さておいて。 「おうちの場所は解るの?」 「わたしのおうちは、あのひとの居るところ」 「じゃあその人は何処に居るの?」 「………」 黙る。服の裾を握る手に、さらに力を込めて。 「解らないのであれば、捜せないね」 服の裾が、さらにギュウッと握られた。 しくしくべそべそが、ぶわっと溢れ、堪え切れない涙になった。 言葉もなく唇を噛み締め、堪え切れない涙に頬を蹂躙される、その子。その子はきっと、見た目に相応しくなく幼くなどなく、けれど、見た目に相応しく、幼いのだろう。 「解らないのであれば、捜せない。 ならば、まずは解るようになればいい。そうしたら、捜せるのでしょう?」 なにをいっているのかわからない。 そんな顔をして、その子は動きを止める。ちなみにあれほど頬を濡らし目を腫らした涙も、止まっている。 「解らなければ、解るように努めればいい。何かしら解れば、何かしらの道は開ける。 努めても解らないならば、さらに努めればいい。解らないままなのか、いつかの果てに解るときがくるのか、」 あるいは。 「あるいは、そのまま捜し求め続け、そのまま泣き続けるのもまた、一興」 そっとその子の様子を窺うと、その子はもはや、しくしくべそべそとは泣いておらず、滂沱の如くな泣き方もしていない。 ただ静かに粛々と、涙が再び頬を濡らしていた。 「わからない。あのひとが居るところ。 わからない。どうすればそこにかえれるのか」 「でも、わかる。 わたしはおうちにかえりたい。 わたしのおうちはあのひとの居るところ。 わたしはあのひとのところにかえりたい。 だからわたしは、あのひとのところに、かえる」 その子は服の裾をギュッときつく握りながら、静かに粛々と頬を濡らし続けている。 見た感じはずいぶん幼い子。かえるべき場所が解らず途方に暮れて泣き濡れる迷子。 だけど大丈夫。ただの迷子じゃない。大丈夫。 「かえりたい場所が解っているなら、そのための道が、何かしら開けているのでしょう。ならばきっと、そこにかえりつくこともできるのでしょう。 だからもう、迷子なんかじゃ、ないね?」 その子は服の裾をギュッと握りしめたまま、頬を濡らす涙を止めないまま、けれど、確かにコクリと頷いた。 「…では、さようなら。行ってらっしゃい」 そしてどうしろというのかなど解らないから。ただ、見送りの言葉を送った。 密やかに、その子の道行きの果ての涙が、もっとずっと暖かいものであれと、願いながら。
昨日、友人の賢治に食事に誘われた。 なんでも先輩に紹介された店だそうで賢治自身も初めて行くらしく、一人で行く勇気がないからという理由で半ば無理やり連れて行かれる事になった。 まあ、僕としてはタダ飯が食えるのなら何でもいい。 カーナビの地図にも場所ははいっていないらしく、先輩からもらった情報を頼りに店へ向かった。 その店はひっそりと山の奥にあった。 入口には小さな看板が立てかけられていて、注意書きが書かれている。 『・当店は回転率命で営業しております。 ・2名様限定です。 ・危険物(ネックレス等)は外してください。』 僕達は首を傾げた。 まあ、店長の遊び心だろうという考察に落ち着いてとりあえず店内に入ることにした。 店員さんに案内された席は個室になっていて、丸テーブルがあった。 「雰囲気ある店だな。」 「確かに。それにしても俺を連れて来といて良かったな。2人じゃないと入れないみたいだし。」 僕達は話をしながら待っていたが、一向にメニューもお冷も出てこない。 流石におかしいと思い、店員さんを呼ぶために立ち上がると、急に立ち眩みが襲ってきた。 周りの景色がぐるぐるまわっているような感覚があり、段々と意識が遠のいて行くのを感じた。 店の中は和気あいあいとした雰囲気に包まれ、家族の会話が聞こえる。 「ボク、それ食べたい!!」 「大学生の活け造りはまだお前には早いだろう。」 そう言うと父親らしき巨人はレーンを回ってきた皿を取った。 彼はネタを口へ運ぼうとして留まる。 「おい!こいつら金属を身に着けているぞ。怪我したらどうするんだ!」 父親が店員に怒鳴りつける。 「すみません。最近、文字を読めないニンゲンが増えているようで。」 店員はペコペコお辞儀をしたあとに、ため息をつき、不良品のニンゲンを店の入口へ捨てに向かった。
鼠は台所を探検していた。ゴミや食べ物を拾っては巣に持ち帰っていたので、台所は宝の山だった。冷蔵庫の下の暗がりに、氷が一つ落ちていた。鼠が近づくと、氷は言った。「私ね、もう氷としては役に立てないの。こんな場所で溶けるなんて嫌よ。鼠さん、私をここから連れ出してちょうだい」鼠は頷いた。
パチンコはやらないが(何か知り合いにやって儲けてそうと言われた)その喫煙所にいたお兄さんと話す。 今日は女の子に嫌われたかもしれないと話すと笑いながらどうしたのと?言われる。 何か都心の郊外で農業の仕事やるのは最先端らしいんですけどね、人手が足りなくて、と言う。 お兄さんは奥さんを連れて何処かに行く。 今日もご飯を食べられるのがありがたい。 近所の隣家では子供がはしゃいでいる声がする。 これで朝鶏でも鳴けば風情が出るなぁ、と思う。 何か今日は花粉症にでもなったのか鼻がズビズビ止まらない。 体調はいつも悪いのだが皆悪いのだと言い聞かせる。 弱っているのは身体ではなく心なのかもしれない。 コロナワクチンを打ったせいで脳がアナログとデジタルの中間の中国人みたいな思考になっちゃってる気がするんですよね、とお兄さんに言った。 まあ中国人になっちゃってもいいんだけど、と知り合いに言うと目指せ中国化、と言われる。 料理と武術と哲学の得意な中国人になりたい。 心は優しいままで。 漢民族は元々農耕民族なので農業をやるにはいいかもしれない。 まずは土作りから。 台湾の知り合いに手作りのお弁当を見せたらいい嫁来るよ、と笑顔で言われた。 中国の知り合い増やしたい。 団地で秋葉原の電器店に寄ってきてマイナンバー作りたいんだけど、と言ってきたあの中国の人はあの辺に住んでるんだ、と言っていた。 新宿の華僑のお店の中華屋さんで知り合いと飯を食い、美味しかったです、と言ったら笑顔で返してくれた。 環境なのか遺伝なのかは知らないけどちょっと前頭葉の機能が弱いです、と言われた。 今漢民族というかいわゆる中国人と言われる人達は遺伝子プールが片寄っちゃって前頭葉の機能が弱まっちゃってるらしい。 キレやすいのはそのためかもしれない。 ゴミ拾って列にならんで万引きしないで風呂入って歯磨いて歯医者行って電車では静かにしていて悪い事したら謝ってでも家では他人の悪口を言って歌歌ってゴミ出しして挨拶して落ちてる財布届けて交通ルール守ってちょっと帰り際自転車でながら煙草してたらチン!って言われて反省してでも煙草やめられなくてお酒飲まないで教会通ってモスク行ってヒンドゥー教の寺院も行かなきゃと思っていて社会性って習慣だよな、と思って歌を誉められて僕はちゃんと生活出来てるだろうか?と自問自答する。 今日も夜はふける。
いつも通院している心療内科を訪れたら、待合室に、電信柱がいた。近所の路地に立っている電信柱だ。「どうしたのですか」「酔っ払いにおしっこをかけられたのです」確かこの電信柱は、いつも近所のイヌたちにおしっこをかけられているはずだが。電信柱はひどくふさぎ込んでいる。電信柱の心理はよくわからない。考えても仕方ないので、俺は目を閉じて、書きかけの遺書の内容を推敲することにした。
『ああ、俺は健常者でよかった』 『足が不自由とか無理。自由に旅行もできねえじゃん』 『目が見えないとか無理。どうやって歩くんだよ』 SNSに流れる悪意の塊。 それを眺める子供たち。 「せんせー。どうしてこの人たちは、こんな酷いことを言うの?」 子供たちの教室には、障碍者と呼ばれる子もいます。 だからこそ、不思議に思って尋ねました。 先生は子供の頭を撫でながら、丁寧に説明をしました。 「それはね、この人たちは、健常者であること以外に自慢できることがないからです」 「自慢?」 「そう。佐藤君は、勉強ができるのが自慢。鈴木さんは、絵を描くのが上手いのが自慢。皆、自慢できることがる、素敵な私の生徒たちです」 「えへへ」 「でも、この人たちには、それがないのです。自分のすごいところを、一つも見つけることのできなかった人たちなんです」 「へー。なんか可哀想」 子供たちがなおもスマホのスクロールを続け、多数の悪意を鑑賞していたので、先生は滑らかな動きでスマホを取り上げます。 悪意の過剰摂取は、子供たちにとって毒になるからです。 「さあ、休憩時間は終わりですよ。皆さんはこんな大人にならないように、しっかり勉強して、しっかり運動して、自慢できることを増やしていきましょう」 「はーい!」 先生は、他人の悪意を踏み台に、子供たちを動かします。 それもまた、先生の悪意。
小さな製糖工場で、一人の中年女性が働いている。目の前のベルトコンベヤーを、角砂糖が流れていく。彼女はそれを見つめている。ふいに、彼女は作業服の中の太ももに違和感を覚える。くすぐったい。彼女は唇を噛む。そのくすぐったさは、太ももから、腹を通り過ぎ、胸、そして首筋を経て、耳元に到達する。彼女の耳元には、一匹のアリがいる。アリは彼女の耳元で触角をしきりに動かす。それは何かを囁いているように見える。彼女は小さくうなずく。アリはそれを確認すると、彼女の背中を伝って床に降り、どこかへ消える。彼女は周りを見回し、誰も見ていないことを確かめると、ベルトコンベヤーを流れる角砂糖を一つ手に取り、ポケットにそれを突っ込む。休憩時間、彼女はそっと工場の裏庭に出る。その隅にはアリの巣がある。彼女は先ほどの角砂糖を、そのアリの巣の傍に置く。そしてとぼとぼと立ち去る。そのうちにさっきのアリが来て、角砂糖を巣へと運び込むだろう。それは女王アリのためだ。彼女は仕事を終え、ホームセンターに立ち寄る。そして殺虫剤売り場で、しばらく殺虫剤を見つめてから、何も買わずに帰宅する。
親友であり幼馴染の華織が死んだ自殺だった。 原因は部活内での虐め。 九月一日二時丁度に飛び降りる華織を監視カメラが捉えていたそう。 華織の部屋に遺書が置いてあったらしい、その内の一つが私宛の手紙だった。 「命へ 何にも言えなくてごめん。 命のことだから何か出来ることがあったはずって、自分を責めるかもしれない。 でもそんなこと絶対にない。 命は何にも悪くない、命と話す時間は楽しかった。 命、今までありがとう、私の親友で幼馴染で、側にいてくれて、命といたこの十数年楽しくて、幸せだった。私の心の拠り所で本当にありがとう。 約束『おばあちゃんになっても一緒にいる』守れなくてごめん、命、大好きだよ、ありがとう。」 これを読んで華織が死んで初めて泣いた。 心のどこかで華織が死んだことを受け入れなかったのかもしれない。 それからバレーボール選手という夢を捨て、教師になった。 周りからは反対された。キャプテンになる予定もあるのに勿体無いと。 それでも教師になりたかった。 今年初めて担任を持つ、緊張しながらもドアを開け、教卓に立ち自己紹介をした。 「初めてまして1年4組の担任になった朝野命です。 趣味はバレー、女バレの顧問もしているので是非入部お願いします。嫌いなことは虐めです高校2年生の時、親友が自殺しました。」 「私は親友みたいに死んでしまう子を、私みたいに置いてかれてしまう子を、減らしたくて教師になりました。」 「どんなに些細なことでも良いです。 少しでも苦しい、辛い、そう思ったら周りの人達を頼ってください。 友達でも教師でも親でも誰かに相談して溜め込まないでください。 私はこのクラスが助け合えるクラスになって欲しいです。 長くなってしまいましたが私の自己紹介を終わります」 もうすぐ夏休みが終わり、二学期が始まる。 「命先生」 後ろから私が担任を務めているクラスの一瀬沙希が話かけてきた。 夏休みの間、バスケ部に一度も顔を出していなかったそう。 「一瀬さんどうしたの?」 「ちょっと相談したいことがあって」 話を聞けば部活で3年生を中心に嫌がらせを受けているらしい。 そういう子を減らしたいと思っていても、出来ることは本当に少ない、私にできる最善は、一瀬さんを死なせないこと。 今、私は何をするべき? 九月一日は一年で最も『子供の自殺』が多い日。
お母さんが仕事に出かけた。私は今日も学校を仮病で休んだ。「ご飯作ってあるからあっためて食べなさい」お母さんはそう言って出ていった。何度かうとうとした後、やっと目が覚めた。台所に行くと、炊飯器の『保温』ランプが点っており、テーブルにはウィンナーと卵焼きが載った皿にラップがかけられていた。コンロには鍋が置かれていた。鍋の蓋を開ける。味噌汁が入っていた。傍らのお玉でかき混ぜる。人間の指が出てきた。今日の具も指か。飽きたな。そのうちの一本に、ごつい指輪がはめられていることに気づいた。下品な指だなぁ。指輪を外し、ポケットに入れる。これを売れば多少のお小遣いにはなるだろう。ご飯を食べたら、街へ出て、指輪を売ろう。仕方ないが、指輪のせいで出かける理由が出来てしまった。ご飯を茶碗によそい、味噌汁を椀に注ぐ。「いただきます」ウィンナーをかじる直前、そのウィンナーが、指ではないことを無意識のうちに確かめていた。
時計の針が、見えない音を立てている、そんな深い夜。 ハンドドリップの音だけが、部屋の静寂をかき混ぜている。 あせっているのか、お天気にあせらされているのか。 あせる必要なんて、何もないのに。 窓をたたく雨の、その余韻に、かき乱される頭のなか。 「またよ」 「何が?」 「また、雨の匂いがするの」 いけない、いけない。 そそいだばかりの珈琲のなかで、やさしい湯気が立ちあがり、そして消えていく。 それを、じっと見つめていることしかできない。 輪郭を失っていく湯気たちのように、私の気持ちもはかなく、黒い珈琲の底へと落ちていく。 「ダメなの?」 心配そうなキイの声がして、となりを見る。 やわらかい表情で、私を見つめている。 その視線にふれた瞬間、張りつめていた糸が、ふっとゆるむ。 夜の静けさが、キイと私のふたりだけの世界を、つつみこんでいた。 「珈琲の香りに、雨の匂いがまざっちゃうから」 キイの表情が、ふっと軽くなる。 となりにキイがいることで、いくらかでも、その不安が抑えられていたかもしれない。 あたたかくて、けれど苦い珈琲の余韻と、キイのぬくもりと、わずかに残る安心と… いけない、いけない。 やっぱり、珈琲をじっと見つめていることしか、できないみたい。
そもそも構成力でAIに勝てるわけはないのだ。 僕は超人ではない。 告白してフラれて少し臆病になってるな。 世界の半分は女だ。 そもそも4~5人ほど出会いを逃している。 自業自得ね、と女神達が会合する。 何かうまく行かない(大体僕のせいだ) ボディタッチしてきたり彼女いないんですか?とか聞いてきたりパンツとか言ってきたり見つめてきたりそりゃ勘違いもするよ。 お前マジでキモいわ~とか正面で言われた方がまだ取っ掛かりあるよ(いや理論展開できる機転は利かないかもだが) のろけ終了。 基本的に抜けてるのでネジを留めてくれるドライバーのような娘が理想だ。 鋭いツッコミのあの娘は何処に行ったのだろうか? 恋愛。 犬小屋の犬の世話は御免よ、と皆言ってそうだ。 犬って意外と自給自足出来ない。 僕がアホなのでバランスよく賢い娘が寄ってくる。 狡猾で利用しようとしてくる奴もいる。 馬鹿でもいいから生活力が欲しい。 なんの話だっけ? 意外と裏で帳簿は合っているのかもしれない。 風呂場で歌うとオーディエンスの幻聴が聴こえる。 まだ需要がある。 カラオケの帰り死ねと言われる。 アンチあってのファン。 知り合いのレインメーカーは空き缶投げつけられることもある。 それがどうしたの?と言っている。 傷だらけの戦士。 僕は太陽を守れなかった。 でも替わりの戦士が現れてくれた。 なんの話だっけ? スケベは長生きするらしい。 スケベではあるが色々攻撃を喰らっている(気がする) 植物をむしらないようにしないと。 怒っている人達が怒らないように長生きしないと(出来なくても怒らないように世界を設定しないと) まずは不機嫌なあの娘の気持ちを分かってあげないと(ややストーカー気味) 犯罪者体質。 戦場では拷問官などが向いているかもしれない。 でも紙に描く、ことができればいいのだが体力がない。 引くくらい酷い内容の官能小説を書こうかしら? 戦争犯罪人の生まれ変わりかもしれない。 脳が変異しているかもしれない。 奴の親もシャブやって子供の脳が変異したのだろう。 治すのは医者ではなく市井の人間だ。 冗談で復讐の絵を描いたら現実になる。 復讐とか柄ではないのでやられてもやられっぱなし。 やられっぱなし過ぎてたまに大金星。 土俵際、苦手。 リングアウトでパイプ椅子で攻撃するのは得意。 搦め手。 デジタルツールを使って脳を拡張するのはいいけど代替パーツのボディーは中国製だ。 国産自動車メーカーはF1に全振りするだろう。 苛められているので助ける余裕がないのだ。 苛められっ子の集まりは意外な力を生む。 僕は花壇を眺める。 僕だって草をむしる。 植物を無駄に苛めた罰で今日も女子に総スカンを食らう。
自分の部屋にカバンを置いて、すぐさま靴下を脱ぎたくなる。 素足がふれるフローリングの冷たさが、心地よく感じられる最初の日。 冬のあいだ、ひたすら遠ざけていた冷たさが、いまは驚くほど肌に馴染んで気持ちいい。 四月一日。 今日は、めいっぱいウソ言っちゃった。 軽快に、ひたすら軽快に。 それこそ、カレンダーをめくるくらい容易に言ってまわった。 そのことを、家のお犬さまに報告する。 ―わんわん、わわん、わん キミにはウソは言わないよ。 ―わわん、わんわんわん ウソじゃなくってね。
地震があった。 星にエネルギー波を食らわして願いの玉を揃えたのだろう。 山登りおじさんの生き返りは近い。
作業所に行った。 辞めた。 無駄な仕事ばかりしている。 車が運転できて中学生程度の計算ができて配膳するだけで時給発生する仕事してる猿女に嫌がらせされるくらいなら家で小説書いてる方がましだ。 マジでメンタル中学生だな。 いや、今時あんなことして嫌がらせしてくる中学生は同級生からも相手にされないっつーか猿山に籠ってろ、市井に出てくんな。 ああいう仕事は海外の留学生のバイトにでもさせてテメーはババ専の風俗で稼いで性病になって厚労省の性病のデータ採ってもらってる方がお国のためになりますよ~。 悪口はここまで。 自分も病院で投薬してるのでデータ採ってる文化あの猿よりは役に立ってる。 マジで予算食い潰しているな。 地震があった。 データ採って予算俺に送れ。 妄想。
煌びやかな街を闊歩する赤いドレスの女性がいた。 彼女は道行くひとが思わず振り返ってしまうような不思議な魅力をまとっていた。 彼女はすでに両手に7つの指輪を身に着けていたが、なおも満たされていない様子で何かを探していた。 女性が入ったのは行きつけの宝石店だった。 「お待ちしておりました。」 「お願いしていたもの、できてるかしら。」 「はい。46億年ものの最上級品です。 昼は美しい青と緑のコントラスト、夜は無数に輝く光をお楽しみいただけます。」 フフッ、女性の魔性の笑みに店員も思わずドキリとしてしまう。 「ありがと。これ、いただくわ。」 女性は慎重に、まるで赤子を撫でるかのように8つ目の指輪を手にすると、満足げに夜の闇へ吸い込まれていった。
「キャロルってさぁ、ずっとお爺ちゃんなの?」 先頭に、お爺ちゃん狸のキャロル その後ろにオオカミの子供ルイ その背中に少年のij が乗っていました 「若い頃の事など覚えとらん」 彼等は海の上を歩いています 海面のすぐ上に架かる橋を渡っています 古く硬い木で出来ていて、広く長い立派な橋です。 海は波がなく透き通っていて海底が覗けます。 欄干にいるカモメが海面を見つめています。 「やぁ、キャロル。久しぶりじゃないか」 「やぁ黒羽」 「急いだほうがいい、時期に嵐になる。」 「分かっておる」 キャロルの後ろを歩くルイがききます 「黒羽さん、キャロルの若い頃を知ってますか?」 「やぁこんにちは。オオカミくん。キャロルは俺の子供の頃からお爺ちゃんだ」 「やっぱり!」 ルイとij は笑いました。 黒羽さんも笑いました。 キャロルは鼻を鳴らしただけで「先を急ぐぞ」と黒羽さんに別れを告げました 〜旅の記録、海の橋にて〜
創作物を感じ取るためには、額縁が必要だ 『ジャンル』という名の額縁が無ければ 人間は作品を消化しきれない 創作物を生み出すためには 額縁を破壊しなくてはならない 『ジャンル』に囚われると、表現方法に囚われる そして、発想の機会を枯らしてしまう 額縁とは、契約 額縁とは、人間の興味にとっての入り口 額縁とは、作家にとっての〆マーク (完)
伯父が経営している牧場を訪ねた。大学に合格したので、報告がてら久々に会いに行ったのだ。伯父の牧場では、ラブホテルを飼育している。父はそのことで伯父と疎遠になったと聞いている。伯父はちょうど子どものラブホテルたちに、餌を与えていた。「久しぶり」「おう」「大学受かったよ」「おめでとう」子どもラブホテルたちがわらわらと餌を食べている。伯父が撒いている餌は、ピンク色の粒だった。「その餌って何なの?」「人間の愛をハチミツで固めた物だよ」「ふうん」子どもラブホテルたちの小さな電飾が輝いている。喜んでいるのだ。「彼女いるのか?」「いないよ」「大学で出来るといいな」「まぁね」二年後のある夜、僕は初めて出来た恋人とともに、大学から数駅離れた街のラブホテルに入った。手をつないで部屋に入る直前、暗い廊下の床に何かが落ちていた。それは、あのピンクの粒だった。「どうしたの?」「何でもない」僕はそれをズボンのポケットに突っ込み、部屋のドアを開けた。
夜中に眠れないのでテレビをつけたら、通販番組が流れていた。赤ん坊が売られていた。清潔な印象の司会者が叫ぶ。「実はこの赤ん坊、泣きません!」スタジオのタレントたちや観覧者たちが歓声を上げる。俺は画面を見つめる。タレントたちは、赤ん坊が泣くことでどんなに困っていたかを口々に話し始める。俺は前にこの通販番組を通して買った赤ん坊のことを思い出す。確かによく泣いていた。昔に比べれば泣いていない方だったが、確かに泣いてはいた。だが、困っていたっけ。泣いていたが、楽しかった気がする。結局殺してしまったが、それは泣くこととは関係なかったし。俺はテレビを消した。そしてスマホで、買い物のアプリを開き、泣くタイプの赤ん坊を検索し始めた。