UMA実記

 ユニコーンの衣装を着せられた真っ白な馬が廊下を歩いていた。馬と言っても子馬だろうか、そこまで大きくはない。金色にとんがった角が、鼻先にギトギトと輝いている。よく見れば真っ白なシーツを中世の騎馬兵の鎧のように被らされており、目の所はくりぬいて黒々としている。穴の中はあまりに黒々としていて、瞳は見えない。  ユニコーンは床を蹄で引っ掻くような仕草をして身震いした。蹄はなにか妙な、ねばつく液体をまとっている。ユニコーンがふと全身の動きをやめ、首だけを動かしてじっと黒い穴をこちらに向けてくる。  黒い穴の中で、何かが光る。  英語準備室前の棚の背後に隠れ、リルは両手で口をふさぎ、必死に息を押し殺していた。ちょっとした出来心で忍び込んだ休日の学校で、遭遇していい化け物ではなかった。なるべく顔を出さないようにしながら、目の端でユニコーンの動きを監視する。まだ廊下の端と端、距離的には随分とあるが、それは化け物の脚力の前で通じるとは信じられなかった。  窓の外は、さんさんと明るい太陽が降り注ぐうららかな午後だった。自分の影が棚からはみ出している気がして、口から放した手をそっと膝の方に伸ばし、一層足を窮屈に曲げ直そうとする。  しかし、膝のくぼみに入っていた指が突然外れ、緊張の解かれた筋肉が痙攣のように棚を蹴とばす。英語教師が不安定に並べていたペーパーバックが廊下に崩れ落ちた。  蹄がけたたましくなる不揃いな音が全てを覆いつくしながら近づいてきた。  ヤッコはロッカー室を必死に漁っていた。  想定では、袋に入っていた鍵の一致するロッカーを開けて、中の小包を持ち出すだけのはずだった。  だが、やっとの思いで辿り着いたロッカー室は、整然と並んでいたはずのロッカーが押し倒され、金具の破壊されたところからはあらゆる中身があふれ出していた。名前の無い教科書、汗の染みついた体操服、提出期限の過ぎたプリント、それらが床に散乱していた。ヤッコはなるべく音の立たない散乱物を選んで踏みながら、一つずつロッカー番号を確かめていっていた。 「あっつ」  破損した金属部分が指の肉をえぐる。慌てて口にくわえるが、口の中に鉄の味が広がった。  うんざりだった。二階のトイレの窓から校舎に侵入した三人は、すぐに未確認生命体に襲われて散り散りになっていた。一番どんくさいリルが狙われている間に、ヤッコ一人目的地にたどり着いていた。  昼間とは言え、倒れたロッカーの下などは暗かった。ヤッコは手元灯りで慎重に番号を確認しながら、同時に部屋の外への注意も怠らなかった。  そもそも、なぜロッカー室がこんなに荒らされている?  よく見ると、倒れていしまっている二段式ロッカーは、どれも高い部分に何かがぶつかったような跡があった。倒れてきた他のロッカーによってつけられたなら、もう少し低い位置に傷ができたはずだ。  何かが上の方通過していった?  天井に目をやる。電気のついていない蛍光灯がポツンポツンとあり、クーラーなどの他の教室の天井にありそうなものは見当たらなかった。あとは壁に直接はめ込まれた換気扇と、何か折れ曲がった、茶色い細長いもの。  ヤッコは自分の二の腕の毛が一斉にそばだつのを感じた。それは、天井からぶら下がった馬の脚だった。  天井からぶら下がった馬の脚は、生きているもののように少しブラブラとつま先を動かした。そして、ヤッコの方に踵向けると、次の瞬間、大きく伸びた蹄がヤッコの顔面を襲っていた。 「そこに座れ」  教卓の上の、銀の皿の上の置かれた馬の生首が、パクパクと口を動かす。モモは教室の真ん中の椅子に膝を震わせながら腰を下ろした。床には何か赤黒いもので描かれた幾何学的な模様と、モモには読解不能な文字がのたうつようにちりばめられている。 「我々は、世界の隅っこで細々とやってきたのだ」  馬の生首は続けた。 「これからだって事を荒立てるつもりはない。そのことは分かってくれるかね?」  ガクガクと首を縦に振る。鼻水か涙かわからないものが、自分の固く握り締めた手の甲にかかる。 「君たち人間だって、他の生命を多少は殺めながら生きるしかないわけだ。そういう意味では、我々は至極効率的なのだよ」  教室の外の廊下から、何かが飛び跳ねるような音が近づいてきていた。もう一つ、何か散らばった足音のようなものも聞こえてくる。  こんなことなら、遊ぶ金欲しさでよくわからないバイトなんかに申し込むんじゃなかった。荷物を取って来るだけの仕事だったはずじゃないのか。手当の良さを聞いた段階で、疑うべきだった。  後の二人はどうなっただろうか。いや、そんなことは気にしている場合ではないだろう。  その二人よりもマシな結末が自分に待っているとは、モモにはもはや思えなかった。 (お題:子馬)

きれいごと

きれいごとは もうあきた 私は私らしく なんて 無理に決まっている 色々な人の顔色を伺いながら 生きている 何もない こんな人生 嫌になる どうして私は 生きているのだろう?

白昼夢

 始発の駅をふたつばかり過ぎた頃、どうも妙なことになっていると気づいた。  私はこの路線を利用して間もなく十年になるが、トンネルに入ったのは今日が初めてなのだ。  帰路であるなら仕事の疲れで判断を誤り、忘我の頭が別の電車へ体を導いてしまった可能性も考慮できるが、いまは朝である。朝の早い私にとって、午前中に寝惚けて失態を犯すのは稀だった。  優先席に預けていた体が進行方向へ少し傾いた。ぞっとする。この電車は覚えのないトンネルに入ったばかりか、地下へ向かっているのだ。  顔を上げる。扉の近くにもたれて文庫本を読みふけっている女学生。腕を組んで寝入っている会社員。車両後方から車掌が早足でやってきた。思わず呼び止める。 「あの、この列車の行先なのですが」  言葉に詰まった。  車掌の目元は真っ白い包帯でぐるぐるに覆われていたのである。  それなのに、まるで見えているかのようにこちらを見下ろしてくる。布地越しに目があっている気がした。 「大丈夫ですよ」  呆気に取られている私へ、車掌は気さくに告げる。 「お客様は、間違えてなどおられませんから。間も無く到着です。どうぞご心配なく」  ぞろぞろと車掌に続いて、あの女学生も、あの会社員も、ここ最近は毎朝同じ顔触の面々が車両を移動していく。  みな、よく見たら足がなかった。  終わらないトンネル。  地下へ降下していく列車。  そのまま快調に走り続けていたが、不意に、酷い揺れとともに前進をやめてしまった。  連結部分を恐る恐る覗き込むと、金具が綺麗に外れてしまっている。動力を失い、自力では動く力のない車両が置いてけぼりをくらったようだ。  もう誰もいなくなったかと思っていたが、更に後方の扉から青年が入ってきた。  呆然と立ち尽くす私をみつけて、案じるような表情で近づいてくる。 「大丈夫ですか。なにかお力になれることはありますか」  あまり自由に動かない体をなんとか向き直らせて相対する。自然と前方へ腰を曲げることの多くなってしまった姿勢を正しても、頭三つ分は高い。  最近の子は誰もかれも背が高いように思う。 「……ああ、ごめんなさい。なんだか突然に色々なことが起こったものだから」  こうして声をかけてくれただけでも、随分と正気を保つ手伝いになる。 「ここから出た方がいいんだろうけど。一人じゃどうにもままならないから」 「わかりました。俺が先におりますから、手を貸します」  言うやいなや、青年は扉を開けると手すりを身軽にすりぬけ、地面に降り立つ。元よりこんな所から人がおりることなど想定されていないから随分な高さがあるはずなのだが。 「どうぞ」  上背のある若者が両手を差し伸べる。おっかなびっくり、えいやと決心して身を預けると、ふんわり受け止められて立たされた。  足首に水の流れを感じる。トンネルは浅い川の流れができていた。 「こちらへ」  無意識のうちに水が流れ落ちる方向へ向かいそうになるのを、青年が思いとどまらせた。 「水が落ちる方ではなく、流れてくる方向へ遡りましょう。そうすれば正しい方へ出られます」  灯りのない暗闇で、相手の白いワイシャツがぼんやりと光って見える。彼は片手に私の手首をしっかと握り、もう片方を壁について遡行を始めた。  もう随分歩くのを覚悟していたが、酷く呆気なく出口へたどり着いた。  息を吸い込んだ瞬間に。  瞬間に、もう随分まともな呼吸をしていなかったかのように、酷くむせかえった。  眩い蛍光灯の光。白い天井。円陣を組んでこちらを見下ろしている人々。  火が付いたように泣いている赤ん坊の声。 「ああ、お母さん! よかったですね、無事に終わりましたよ! 元気な男の子です」  汗と血と、微かに漂う生死の境のにおい。薄暗いトンネル。湿っぽい空気がまだ鼻の中に残っている気がする。  抱かされた我が子に顔を寄せた。確かめるように何度も呼吸を繰り返して、忘れていた痛みを思い出して、自分がついさっきまでどこにいたかを考えて。  ようやく、子供と一緒に泣くことができた。

スイレンの花をあなたに

どうして? どうして? どうしてなの! あんなにも私のことを愛していたじゃない! それなのに 他の人を選ぶなんて ひどい ひどいわ! でも、しかない それだけ あの子が魅力なんでしょう? なら 幸せになってね それでもあきらめきれないから スイレンの花をあなたに 花言葉は 『もう一度、私を愛して』

「犬」

―犬にはふわふわの幸せの層があって その奥にやわらかなボデーがある ギュッと抱きしめるとその幸せの層もギュッとなって、小刻みで思いのほか力強い鼓動が聞こえてくる。  「こやつ、こんなテンションで生きてるから、いっつもうれしそうな顔してんだな」 そう思ってさらに顔を擦り付けると、犬は身動き取れなくなって、我慢するが結局迷惑そうに身じろぎする。 去年まで家にいた犬の話である。

閉鎖された国

 隣の家との境界線に、見えない壁ができた。  昨日まで、玄関を開けると顔があって挨拶していたご近所さんは、パスポートを持っていても言葉を交わせない外国の人になってしまった。  今、玄関を開けた私を迎えるのは、隣国の軍人だ。  銃を向けてくることはないが、即座に銃を構えられる態勢を作っている。   「……おはようございます」    あまりの変化に戸惑って、今でも軍人に挨拶をしてしまう。  返事が来たことは一度もない。    幸いだったのは、私の職場が外国にならなかったことだろう。  会社の方角が、家を出て右で良かった。  左だったら、懲戒免職になっていた。  右隣りのご近所さんは、家を出て左の会社に勤めていたので、強制的に懲戒免職となったらしい、  隣国の政府じきじきの発令のため、元居た会社に退職金も請求できなかったようで、ばたばたと再就職先を探していた。   「おはようございまーす」    七割にまで減った職場の人数も、ようやく十割に戻り始めた。  げっそりと痩せた採用担当部の人たちが、挨拶に応え、力なく手を振っていた。  声は、面接まで取っておきたいらしい。   「ねえ、聞いた? また国が一つ増えたみたい」    一つだった国は、分裂を始めている。  一人の独裁者が強権を振るった結果、国内は荒れた。  独裁者の老衰と言う結果で強権が終わった後、国内はさらに荒れた。  独裁者を止められなかった当時の政府に不満が集中し、不満を跳ねのけるだけの余力がなかった政府は、あっさりと各地の権力者に自治権を奪われた。    結果が、多産される国だ。  世界一多産の人物としてギネス記録に乗るぞ、なんて黒いジョークもできたのが、我が国の危機を表している。  人間の多産ならば、親がいる分まだいい。  国の多産である今は、親とはいったい誰なのだろう。   「ねえ、聞いた? また戦争が始まったらしいよ」    国を所有した各地の権力者は、隣国も自分のものであるべきだと隣人に殴りこんでいる。  もともと存在しなかった国境線。  線で揉めるのは、よくある話だ。   「うちはまだ幸せだよね。戦争ないし」    我が国の権力者は、小心者なやつだった。  小さくなって、へこへこと頭を下げて媚を売り、隣国たちの手下と言うポジションを確立した。  外国は我が国を笑ったが、私たちは拍手した。  頭を下げるだけで、こんなにも命が買えるのかと。   「戦争はないけど、顧客戦争は過熱してるよー」    しいていえば、手下になったが故に関税を大きく書けられ、会社の利益が絶賛大赤字なことくらいだろう。  外国に売りず国内に売ろうとすれば、同じことを考える国内企業との壮絶な食いあいだ。  紳士協定など、とっくに消滅した。  紳士が兵士に変わった世界では仕方ないが。   「だからこそ、新しい開発急がなくっちゃ! ねー、新人まだ? こっちは猫の手も借りたいんだけど!」   「私たちも借りたいですよ」   「ニャー」    部長の机の上で、猫が鳴く。  外国人になった部長、元気にしてるだろうか。  社給携帯電話もどこかへ行ってしまったし。   「うーん、猫鍋食べたくなってきたなあ」    私はぐっと背伸びをして、インターネットが繋がることを祈りながらパソコンを起動した。 

【超短編小説】「ずっと後悔してる」

 男が古本屋で本を物色している。  男は一冊の詩集を見つける。知らない詩人だ。男はそれをパラパラめくる。なかなか良さそうな詩集だ。  男はそれを持ったまま、他の本を物色し始める。  そこへ一匹の蝿が飛んでくる。そして男の持っている詩集の周りを飛び始める。追い払っても追い払っても詩集に寄ってくる。  男が困っていると、店主の婆さんが男に話しかける。 「その詩集の作者の生まれ変わりなのさ、その蝿は」 「はあ」 「最後のページを開いてごらん」  男は言われるままに最後のページを開く。一篇の詩が載っている。  蝿はその詩の最後につけられた「?」の上にとまる。 「その「?」をつけたことをずっと後悔してるのさ、そいつは」  婆さんが言う。  なるほど。  男は少し考えて、蝿を叩き潰す。そしてその詩集を買う。  男は家に帰ると、「?」を砂消しで消す。

How do you broke a bad day had a battery in the dead battery be dead to go to bed way down

How do you break up but we had a really heavy but we need to be dealt with by the way they were dead already be dead would be dead when we did the battery to be dead by with my dad will be there will be there today I’m at Burger Burger Deborah covered by Deborah videos of every day with dad will be there to be dead rabbit a bit of a death Abby broke up every day but never dead will be there in the bed with every day but a bit of a dental be the river with Deborah Deborah did have a broker grandma Barbara David David he broke up about a bit of a downer of a day will be dead river never do a double date with a date would be that happy Burger Burger Burger Burger Burger Burger by debit out of a dead river that little bit of a dead rabbit able to – I have a cup of her bed every day but every day to be available every bit of it it will be there to work OK with it without without a potential bitch I’m a burger burger burger with a bit of a dental Labor Day and whatever the weather to live with every day to live in it but I told him the next level with it I’m a broke broke up with her whatever every day to be able to network of ever dipped into my account Heidelberger by the Bay head to bed OK by the beach and read it without you ever ever Denteley better be dead with Deborah bit of a dead river dead happy break available they broke up he better be debited will be dead forever to be debited to be dead with a debit out a bit of a definite date happy Burger Burger Deborah Deborah cover bad but definitely dated everybody better be dead to be delivered it’s been better with it happy Burger Burger Burger debit every day to be there back out of every bit of it out of that room and dad have a broker broke up a birthday with a date available date with Deborah Deborah Deborah be late to a bit of that I’ve got a couple good about it but it really bad with Deborah Deborah Deborah visit with little bit better but it I’m back at the cabin for WWE to me with it and boom

左右

まだ左右のわからないアメリカの子供がいた。左右を教えようと両親はやってみた、 じゃあ左を選んでみて、と言って、その子は右を選んでしまった、母親は、That's right!! と言った。その子は左右を間違えて覚えてしまった

あったかいよ

少し寒くなった え?今日はあったかいよ。 って あなたは笑う そうだよ あなたがいるとあったかいの わかってよ 気づいてよ でも やっぱ まだ無理。

安くて美味しいパン

 安くて美味しいパンが発売された。  小学生の小遣いで、一日一個買える程度の圧倒的な安さ。  誰もが、コンビニで売っているパンを見向きもしなくなり、スーパーでは焼き立てのパンだけが存在を許された。    しばらくして、小学生の小遣いで二日に一個買える焼き立てのパンが発売され、すっぱーからパンは消えた。  当然、近所のパン屋さんも消えた。   「どうしてこんなに安くできるんですか?」   「利益を出す自信があるからさ」    マスメディアからのインタビューに、創業者は堂々と答えた。  日本のパンと言えばここ。  安くてうまいパンの評判は世界に広がり、世界各国から人々が押し寄せた。    面白くないのは、かつてパンを作っていた人々。  表舞台から姿を消したものの、虎視眈々と返り咲くために努力をしていた。  安くて美味しいパンを超えるため、安くて美味しいパンを研究していた。   「なんだこれは!?」    そして見つけた。  依存性の高い成分の混入を。  依存性の高さゆえに違法となっているが、いくらかの化学変化を加えることで、検知を難しくしていた隠し味。    同じタイミングで、安くて美味しいパンは大幅に値あがった。  高くてすごく美味しいパン。  人々は不満を零しながらも、もう食べるのをやめるという選択肢は消えていた。  買う。  買う。  買う。  依存に首を掴まれながら、文句を言いながら買う。   「すぐに発売を停止しろ!」    かつてパンを作っていた人々は、マスメディアを通じて全世界に安くて美味しいパンの秘密を暴露した。  正体を知った人々の怒りの目は、安くて美味しいパンの創業者へと向く。    創業者は、警察の前で高らかに笑った。   「私を捕まえる? 二度と安くて美味しいパンが食べられなくてもいいなら、そうしたまえよ」    警察官の腹がなる。  涎が零れる。  安くて美味しいパンの味を思い出して、職務すら忘れるほど狂気に憑りつかれる。   「もう無理だ。君たちは、私のパンの魔力からは逃れられない」    創業者の逮捕に成功したのは、小麦アレルギーによって安くて美味しいパンを食べられなかった警察官がいたこと。  周囲の警察官の制止を振り切り、創業者を逮捕した。   「しばらくは、ブタ箱を楽しませてもらうよ。君たちが、音を上げるまではね」    世論は示す。  安くて美味しいパンの復活の歎願を。  依存性のない安くて美味しいパンの復活を。  それが無理なら、依存性があっても構わないと。    世界は安くて美味しいパンに憑りつかれた。   「そもそも、君たちも悪いのだ。何の理由もなく、安くて美味しいものができるはずがないだろう? 裏を考えなかった、君たち自身のせいさ」    かつてパンを作っていた人々は、再び表舞台に現れた。  目指すのは、安くて美味しいパンより美味しいパンを作ること。  人々はパン屋へと押し寄せ、その味に落胆する。    しかしパンを作っていた人々は諦めない。  パンを作ることを、ようやく許されたのだから。  喜びとプライド。  二つの感情が、強大な敵へ挑む力を与えてくれた。   「さしずめ、技術対技術の戦いというところかな?」    創業者は、自身の解放を望む手紙をにんまりとした笑顔で読んでいた。  創業者が出るも出られないも、全てはパンの味しだい。

【超短編小説】「祈りの時間」

 夕方、テレビをつけるとニュース番組が流れている。  天気図が表示される。  太陽のマークが並ぶ中に混じって、ドクロのマークが表示されている。  気象予報士が言う。 「ドクロのマークの地域の方はがんばってください」  男性アナウンサーが言う。 「かわいそうですね」  女性アナウンサーが言う。 「ええ、本当にかわいそうです」  男性アナウンサーが問う。 「どう思われますか?」  初老のコメンテーターが答える。 「かわいそうですが、仕方がないですね」  女性アナウンサーが問う。 「何とかなりませんか?」  気象予報士が答える。 「何とかなればいいんですけどね」  男性アナウンサーが言う。 「何とかなるように祈りましょう」  スタジオの照明が消され、画面が真っ暗になる。  男性アナウンサーの声がする。 「祈っていますか?」  女性アナウンサーの声がする。 「祈っていますよ、心から」

日記(シチュー)

お風呂に入った後、ダウンを着込んで温かくして夜道を歩いていると顔がひんやりと冷えて気持ちがいい。 坂を下りながら空を見ると少し青みがあって、驚くほど星が光っていた。もう上空は冬なのだろうか。 上空1万メートルの2〜3mくらいの層を切り出して自分のものにしたい。 家に帰ったらシチューを作る。 早く食パンを買って帰ろう。 暖房をつけておいた部屋は暖かかった。 食パンの袋を置いてキッチンに立つ。 ステンレスの調理台にはじゃがいもが二つと人参が一本、玉葱が一個。 じゃがいもの皮をむいていると大地の香りがする。 実際手は水と混ざった砂でジャリジャリしてくる。 そして土に塗れた皮をむいていくと思いの外綺麗な薄黄色な中身が出てくる。梨ほどは透き通ってはいないのだけど、その控えめな美しさに愛着が湧いてしまう。 切り終えたじゃがいもの欠片をボウルに入れ、一度土の付いたまな板と包丁を洗う。 人参は乱切りだ。小気味よく切っていくと少し角の丸い音がする。 切り終えたら ばららとボウルに入れる。 玉ねぎは半分は切って、もう半分はおろして入れることにした。 玉ねぎはつるりと皮がむけて気持ちがいい。 しかも切ると勝手にばらけてくれる。すごく物分かりがいい感じ。だが、いきなり反抗する。矢のように鋭い刺激が眼球を刺す。視界がぼやけ、裾で涙を拭こうとすると危うく手を切りそうになる。 最後は鶏肉だ。 百グラム98円のササミ肉。本当は鶏もも肉が良かったけど、私はこれで大丈夫。安いし全然美味しくたべられる。 すっと刃をいれて気持ち斜めに切り下ろす。 火が通りやすいように少し小さめに角切りする。 準備は整った。あとは炒めて煮込むだけ。 時刻はもう9時。ちょっと遅いけどゆっくり煮込むことにする。

その後の 坂の途中

あんまんを食べる ひとりで、そう、たいがい、ひとりで いまも、毎日、本ばかり読んでいる まわりからの、文学少女、の声にも いまでは、すっかり慣れた まったく慣れないのは 学校から家へ向かう、この坂 坂の途中にある大きな桜の木の下で ひと休みするのは、毎回のこと 息と気持ちが整ったら 買っておいたあんまんを ちょっとずつ食べる ときどき、そう、ほんの、ときどき あの男の子が、坂を下から ダッシュでかけてくる わたしのとことは別の学校の男の子 たぶん、野球部 その男の子は、大きな桜の木のとこで いったん休憩する はあはあ、はあはあ 口から、白く出ている その口に、白くて、まんまるのものを 急いでもっていく ふーん、肉まんなんだ 男の子って、そうなのかな せわしなく、肉まんをほおばる男の子 肉まん、いいよね でも、あんまんのよさも 知ってほしいよなあ ふいに、わたしの衝動が けれど、わたしが 行動に出ようとする前に 男の子は、ふたたび 坂をかけていく しばらくして、わたしも 坂を上っていく 坂のてっぺんで、その男の子が 待っていてくれることは やっぱり、なくて でも、そのことにも もう、すっかり、慣れてしまった 坂の途中 https://prologue-nola.com/novels/YyuuTaTNmed7extgiSia

勇者太郎

 昔々のお話。  桃から生まれた英雄は、桃にちなんで『桃太郎』と名付けられたらしい。   「だからって、なんで俺の名前が『勇者太郎』なんだよ!?」   「あら、いい名前じゃない。勇者太郎」   「美的センス、魔王城に置いてきたのか!?」    一方、俺の両親は、魔王を倒して世界を救った英雄。  勇者と魔法使いの間に生まれた子供。  だからって、この名前はおかしい。   「名前変更手続きをお願いします!」   「あら、また来たの。答えはノーです。格好良いじゃない、勇者太郎」   「ちくしょお! 勇者パーティのメンバーは、全員美的感覚がおかしいのか!?」    名前に不満を持ってから、俺は毎週のように僧侶おばさんのところへ行っている。  しかし、僧侶おばさんも父さんに気を使っているのか、改名に乗り気ではない。  名前とは、両親からの贈り物であると同時に、両親を経由して与えられた神の言葉と言われている。  つまり、改名には神の代弁者である僧侶さんの承諾が不可欠なのである。   「僧侶おばさん、お菓子作ったんだけどどう?」   「あら、美味しそう。いただくわ」   「ところで改名」   「駄目」    僧侶おばさんは強敵だ。  絶対的な善悪の信仰があり、僧侶おばさんがノー、つまり悪だと判断したことはどうやっても変えられないと、昔父さんがぼやいていた。  ただ、過去に一度だけ、ノーをイエスと撤回したこともあるらしい。    それを成し遂げたのが、勇者パーティの格闘家だ。   「格闘家のおっちゃん!」   「……なぜ君は、いつも私の名ではなく、役職で呼ぶのだ」   「名前知らねえから!」   「このてきとうさ。さすがは、あの人の子供だよ」    格闘家のおっちゃんがうんざりとした表情を浮かべるが、知らないものは知らないのだから仕方ない。   「で、さ! 聞きたいことがあるんだけど!」   「なんだ?」   「おっちゃんは、僧侶おばちゃんのノーをイエスに変えたんだろ?」    俺の言葉に、格闘家のおっちゃんは渋い顔をする。  何か、言いたくない出来事なのだろうか。  でも、俺も必死だ。   「……変えたが、それがなんだ?」   「どうやって変えたのか教えて欲しい!」   「……子供に言うような話では」   「頼むよ! 俺は真剣なんだ!」    俺は知っている。  格闘家のおっちゃんが押しに弱いことを。  ぐいぐいと近づいていく俺に根負けしたのか、格闘家のおっちゃんが口を開く。   「あれは、錆びれた村でのことだった」   「うんうん!」   「彼女には満月の夜に、月光の下で祈りを捧げる習慣があってな」   「うんうん!」   「私は、祈りが終わった彼女のもとに近づいて、三度目の告白をしたのだ」   「うんう……んん?」   「一度目は、神に仕える身だからと断られた。二度目は、魔王を倒すまでは恋愛など考えられないと断られた。しかし、君の両親が恋仲になったことで、彼女も思うところがあったのだろう。三度目の告白で、ついに私は彼女のノーをイエスへとひっくり返し」   「ぎゃー!? 大人のノロケなんて聞きたくねえー!」    俺は走った。  格闘家のおっちゃんの静止も聞かず、走って逃げた。  と言うか、役に立ちそうにない。  恋愛のイエスノーと、俺の欲しいイエスノーは全く違う。   「ちくしょお! 俺は一体、どうすれば改名できるんだよ!」    勇者太郎。  俺の苦悩は続く。

How to Burger Bach we had a blackeye break up about to leave H E B Dr. Barbara baby down

I drink a bunch of black and red battery dead where we did the Black Bart’s RV DPW red debit debit debit redo will be the best way better but not gonna be that way with that I would like a break up a battery dead will be dead battery be dead to the table with a Boudin with it with it by very big dick avocado cup of cook every day right bad we did with Deborah Deborah Deborah great with that will be day ever been with that happy birthday birthday birthday Debbie Debbie Debbie Debbie Debbie Debbie will be delivered with a bit of a date will be dead by the way did we get with everybody will be down to visit with dad but if you did well with that I’ll be back about Cabo Luca baby do labor we did river with deadly with that other dog broke up I broke up with Deborah dead really dead weather that will be that happy birthday blackbear with her baby daddy riverbed of the visit will be there in a bit of a dead rabbit down about every day to the gym baby dead with a bit of a ditch at the back of the house I drink at Bedford high battery iPad driving a bit of Rabbi David Deborah covered with David David David will be there for every bit of a dead baby we did have a broken family give me a double to cover by the way Debbie Debbie Debbie Debbie Debbie Debbie will be there in a bit of a dead will be dead we did have a broker broker Weber bit every day to be a bit of a double-decker we will be there to visit Deborah capability with every day to be dead river with it at the back of the debit debit of a date with a date and where I burgers that will be dead baby to be that way with that ribbon ridiculous better but that will make it better i’d rather battery had to break into Delray head to bed will be there tonight will be dead we will be there remember we did Debbie Debbie navigate will be dead happy birthday baby happy birthday be dead about to be there will be different of a devil but that will be there to be there will be different than we did with them

涙の数だけ

 とある漫画が最終回を迎えた。  SNSには、「泣いた」とか「辛い」とか、シンプルな感情が流布されている。  流通量が多すぎて、もはや誰の感情かさえわからない。    通勤中、近くの葬儀屋の看板に名前が書かれていた。  おそらく誰かなくなったのだろう。  まったく面識のない人間の死を前に、ぼくの感情は動かない。    漫画の死と人間の死。  世界に落ちた涙の量を比較すれば、多いのは確実に前者だろう。  理由は、知名度の差。  日本獣医に知られている漫画と、個人の周囲にしか知られていない人間。  死を知る人間の数が違う。    そうであれば果たして、漫画の死の方が悲しい出来事と言えるのだろうか。   「どう思う?」    朝の挨拶の代わりに、同僚へと聞いた。   「おい、ネタバレはすんなよ? 俺まだ、最終回見てないんだからな」    同僚は鞄のなかに突っ込んでいる週刊誌を指差して、ぼくに念押ししてくる。   「言わないよ」   「ならいいや。で、漫画と人間、どっちが終わった方が悲しいかだっけ?」   「概ね、そう」   「んー。お前の言う通り、泣く人間の数は漫画の方が多いだろうな」   「だろ?」   「でも、イコール悲しさの大きさじゃないだろ」   「と、いうと?」    同僚は自席のキャビネットを開けて、二つの書類の束を机の笛に置く。  片方は数枚、もう片方は数十枚。   「これは、朝っぱらから課長に渡された本日締切のお仕事です」   「うえー」   「俺とお前の二人で片づけなければなりません」   「うえー」   「おまえ、どっちやる?」    ぼくは書類をぱらぱらとめくる。  数枚の方は、考えることが多かった。  数十枚の方は、探すことが多かった。  複雑な仕事か、単純な仕事か。   「こっち」    ぼくは、数十枚の方を指差した。   「理由は?」   「こっちの方が簡単そう」   「だろうな。お前、単純作業の方が得意だもんな」   「人を馬鹿みたいに……」    同僚は数十枚の方をぼくに押し付けて、数枚の方を自分の方へと近づけた。   「ま、話を戻すけど、悲しさの大きさだろ? 俺は、この仕事と同じようなもんだと思うね」   「と、いうと?」   「紙の数は、お前の持ってる方が多い。でも、中を見れば、面倒くささは俺の方が持ってる方が多い。単純に、数で全部が決まらないってこと」   「なるほど」    それもそうかと、すとんと感情が落ち着いた。  むしろ、さっきまで悩んでいたことに疑問さえ感じた。  漫画の終了が心をぶらしていたのだろうと自分なりの答えを出したとき、とても心が澄み渡った。    ぼくは数枚の書類を手に取って、同僚に礼を言う。   「ありがとう。なんか納得した」   「そうか。ならよかった」    始業のチャイムが鳴る。  ぼくが席に向かおうとすると同時に、ニコニコ顔の課長がやって来た。  ぼくが書類を手に持っているのを見ると、ぼくの肩をポンと叩く。   「すまん。それ、締め切り間違えてた。私のレビューがいるから、昼まで」   「え?」    言いたいことだけ言って、課長はトイレへと去っていった。    ぼくと同僚は、顔を見合わせる。  互いの仕事の難易度が、逆転した瞬間だった。   「なあ、ぼくやっぱり、そっちやりたい」   「……頑張れ」    上司も部下も、仕事を始める。  昼まで、三時間と少し。  ぼくは昼休み返上の覚悟を決めて、いそいで自席へと向かった。

届け

キミに届けばいいのに そう思うようになったのは いつからだろう? こんなにも苦しくて 悲しい思い。 キミのことをこんなにも思っているのに 苦くて甘いこの気持ち キミに届け

そのしぐさにぐっとする(BL)

 ブレザーでネクタイ使用の制服は、高校に入ってすぐにネクタイを結ぶ練習を何度もさせられた。  なかなか慣れずに、サラリーマンの父親と毎朝一緒にネクタイを締める。  見様見真似でやっても、なかなか上手く出来ないのが不器用さを物語っている。  そんなある日、体育の授業が終わって体操服から制服へと着替え次々と更衣室から出ていく同級生を横目で追いながらネクタイを結ぶのに手間取っていると、「もしかして、ネクタイ結ぶの苦手?」と問いかけられた声に一瞬、|時間《とき》が止まった。  歪みなく真っ直ぐに締められたネクタイが目に留まり、ゆっくり視線を上げたその先に立っていたのは、今まで一度も話したことのないクラスメイトだったからだ。 「木野くん?」 「あっ、ごめん……」 「ネクタイ、苦手なの?」 「う、うん。何度も練習してるんだけど、なかなか……」 「そうなんだ。貸して」  そう言ってすらりとした大きな手が差し出されて、首にかけていたネクタイをするりと首から外すと彼に手渡す。  受け取ったそいつは、少し背伸びをして俺のカッターシャツの襟にネクタイを挟むと、器用に結んでいく。  その距離の近さに、とくんと胸の奥が音を立てた気がした。 「結べたよ」 「あっ、どうも……」 「じゃあ僕はこれで」 「あの……、ありがとう」 「どういたしまして」  ネクタイを結び終わるとそいつはスーッと横を通りすぎて更衣室を出て行った。  俺は首に巻き付いているそれに自然と手が伸びて、胸の辺りで軽く握りしめていた。   「青井くん」  クラスメイトに名前を呼ばれて読んでいた本を静かに閉じ顔を上げて対応している姿を盗み見する。  他愛もない会話の中で時折見せる笑顔が、いつものクールなイメージとは違って少年っぽさを感じさせていて、つい見いってしまう。  口許を隠すように手を丸めて人差し指だけ少し飛び出しながら顎の辺りに軽く触れているしぐさが癖なんだということを最近知った。  気がつけば青井を目で追いかけていることには気づいていて、それがきっとあのネクタイの出来事があったからだともわかっている。  毎朝教室に入ってくる青井の首もとに自然と目をやり、きれいに結ばれているネクタイを見て自分のと見比べては「はぁ……」と息を吐く。  体育終わりの放課後の教室で、結局うまく結べなかったネクタイを自分の席に座りながら結んでいると、ゆっくりと教室のドアが開く音がした。 「木野くん、まだいたんだ」 「青井こそ、日直?」 「まあ、そんなとこ」  ちょっとした会話をしつつ、青井が自分の鞄を手に取ると、そのままこちらに向かって近づいてくるのを感じてネクタイを結んでいる手が微かに震えていた。 「今日も結べないの?」 「まあ……そんなとこ」 「結んであげようか?」 「んーっ、じゃあさ、青井の結んでるとこ見せてよ」 「えっ?」 「それ真似すれば、お前みたいにちゃんときれいに結べるってことだろ?」 「ま、まあ、そうだろうけど……」 「頼む、お願い!」  まさか自分が結ぶところを見せて欲しいなんて頼まれると思ってもいなかったはずなのに、驚きながらもきれいに結んでいるネクタイを自分で緩めていく青井しぐさに、思わず唾をのみ込んでいた。 「まず、ネクタイは大きいほうを長めにして、小さいほうの上にクロスさせ、それを小さいほうに巻きつけるように大きいほうを一周まわし、前にもってくる。あともう半周大きいほうをまわして小さいほうの後ろにもっていき、首元の輪の間に大きいほうを下から上へと通す。この時に、結び目をふっくらさせるように意識するといいよ。あとは正面の下にある大きいほうと小さいほうでできた輪の間に大きいほうを通して、下へ引きながら結び目を上へスライドさせれば完成っと」 「へえ……ちょっとやってみる」  ゆっくりと丁寧に説明しながら教えてくれた青井の動きを思い出しながらやってみる。 「あっ、そこ回してから通してみて」 「こう?」 「そうそう。いい感じ」  言われたことを確認しながらネクタイを結んでいくと、なかなかいい感じで結べている気がする。 「えっ、なっ……」 「そこは……」  もうすぐってところまで来たのに、どうもうまくいかずに手間取っていると、すっと青井の手が伸びてきて二人の距離が縮まった。  その瞬間に無意識にその手を握りしめている自分に驚きながら視線を下げると、同じようにびっくりした顔でこちらを見ている青井と目がかち合う。 「あの……」 「ん?」 「離してくれないと結べないんだけど?」 「嫌だって言ったら?」 「一生結べないままだけど、いいの?」 「青井が結んでくれるんだろ?」 「なにそれ? ダメでしょ?」 「じゃあ、これからも結び方教えてよ」 「嫌だって言ったら?」  そう言って、きつく手を握り返してきた。

呼称って大事よね

 とある少年の話。   「え? ああ。変わってるとは、よく言われますね。俺も自分のこと、なんか他のやつと違うな、とは感じてるんで」    まるで、中二病のようだという印象を受けた。   「多分、永遠に中二病ですよ、俺。左手が疼いたりはしないですけど、世界がどうあるべきかとか考えちゃうんで、俺」    こんな少年少女は、実は世界に多い。  自分が特別だと信じている者たちが。  私は、有識者に話を聞いた。   「ええ、確かに増えていますね。それだけ社会に余裕ができて、何かを考える時間が増えたのでしょう」    曰く、先進国となるデメリットの一つらしい。  発展途上国が占めていた時代にはわからなかったが、多くの国が発展を遂げたことで顕在化したらしい。   「最近、学会で正式名称もつけられたんです」    顕在化は、自称を一般化する。  私は、かつて中二病と呼ばれていた言葉の正式名称を聞いた。   「『ケツだし小便症候群』です。大人になる前に習得する感性や行動を、まだ習得できていないことから名づけられました。男女平等の時代に、男性限定の行為を名前に付けるのはどうなのかという議論もあったらしいですが」    有識者は、笑いを含めて話してくれた。  海外では、お尻の英語である『アース』が、ケツだし小便症候群の人間を刺すネットスラングとして広まっているらしい。  どうりで、SNSに妙なトレンドが挙がっているかと思った。    私は、再び少年に会いに行った。   「なんでしょう? ぼく、受験勉強で忙しくて」    いつのまにか、中二病……いや、ケツだし小便症候群を卒業していた。  私がきっかけを聞くと、少年はしばらく口をつぐんだ。   「……だって、ダサいじゃないですか」    どうやら、中二病という言葉は、少年の子供心をくすぐっていたらしい。  しかし、アースでは子供心をくすぐりすぎて、逆に恥ずかしくなったらしい。    私から見れば何も変わらないのだが、当人にとってはそうではないのだと、私はまた一つ新たな学びを得た。

深層海流にのって

 胸の真ん中の気道を塞いでしまうわだかまりが私の呼吸を浅くしてしまっている。  正体のつかめないそれは、ビル群を遊泳するマグロのように緩やかに、故郷を遥か見えない場所へ置き去りにした私の喉を締め、肺を潰し、次第に私が含有する酸素は基準値以下まで失せていく。  兎にも角にも、私には日夜奔走するほか術もなく、いかにして気道の奥へ詰まりを押し込めるか考え続けていた。 「えらい切羽詰まったみたいな顔しとるけど、最近なんや調子ええのに、どないしたん」  そんな台詞を私の顔へ投げた友人から誘われた昼食の中華料理屋は人がまばらに座っているばかりでお世辞にも繁盛しているとは言えなかったけれど、客全体の雰囲気はどこか柔らかくて店に馴染んでいるようだった。  友人は手慣れた仕草でカウンターに進みヒビから綿が覗くクッションの回転椅子に腰を下ろし、メニューに手を伸ばすことなく台所に向かって「天津飯ひとつ!」と声を張る。すると奥からじろりとこちらを睨むようにさえ思える目つきの主人に気圧されて、何もわからないまま同じ物を頼んでしまった。  それから暫く、友人と他愛もない話をした。最近の業績がどうとか恋人が蒸発したとか、中にはエキサイティングな話題もいくつかあってそれなりの盛り上がりを見せはしたけれど、私を窒息させまいとする塊は未だ押し込めないでいる。 「天津飯ふたつ、お待ちどお」  ガタンと気味の良い重量で鳴ったテーブルに置かれたのは、少しくぼんだ皿に盛り付けられたなだらかな丘に似た卵の黄色と、それを覆うようにかけられた半透明の茶色いなにか。既知の天津飯とは異なるソレを友人に尋ねれば、皿いっぱいにかかっているのは甘酸っぱい餡であるらしかった。 「ケチャップ?それ美味しいん?」  ぶっきらぼうに転がり出た言葉に腹の底でなにか蠢いて、あの調和をこんこんと説いてやりたくもなったけれど、流石に場をわきまえる私の理性は大人しくレンゲを卵へ突き刺すようにと述べていた。  天津飯を口に運びつつも、友人との会話はあまり途切れることはない。彼はここらで有名な店や隠れた名店なんかを台本を読み上げるみたいに羅列して、その良さをのべつ幕なし私へ垂れ流していた。対して私は、数百キロ先の地元で通った喫茶店やイチオシのイタリアン、今や姿を隠してしまった駄菓子屋なんかを紹介したりした。今度の帰省で彼を誘って、旅行なんてのも良いかもしれないと思ったけれど口には出せないまま私たちは天津飯を平らげて、いい頃合いで店を後にする。 「なんや、ちょっとスッキリしたか?」  彼は少しだけ口角を上げて、私の目を見て告げた。  あったはずの塊は熱で溶けるように解けていて、吸い込んだ空気は僅かに餡の香りを纏って鼻から抜けていく。 「ま、あそこの天津飯食うたらどんな悩みも立ちどころに〜ちゅうやつやな」  流石にないか。そう冗談交じりに、からりと彼は笑っている。  だけれども、なんだかそれが真実のようであって、無性に故郷の天津飯が食べたいなんて思考が過っていく。  会社へ戻る道の最中に、私の中は鮮度のいい空気と甘酸っぱさと、鯨が忘れていた呼吸を取り戻したみたいな開放感で満たされていた。

もっちりふかふかホッカイロ

小さいあなたはホッカイロ ぎゅうっとだきしめればほら もっちりふかふかホッカイロ おやつをたべたらあらふしぎ にっこりポカポカいい笑顔 ああでもお願い仏様 冷たくなんてしないでよ

リサイクル

 整形外科の待合室。受付横のテレビに目をやると、高校野球第一回戦の試合が行われていた。炎天下の甲子園球場は、エアコンで涼しい室内では別世界に思える。  ピッチャーが黒い帽子を手で浮かせ、袖で額の汗を拭いている。俺はあんなところを目指していたのかと、少々自嘲が漏れてしまった。誰かに見られていなかったかと周りを見渡しながら松葉杖を横に置き、合成皮革の白い椅子に座る。  今日も足の調子は悪くない。二ヶ月に一度受ける必要のある診察が面倒だという気持ちはあるが、もう慣れてしまった。それに、病院に来れば家で暑さに悶えながら過ごす時間が減る。うちは裕福ではないから、エアコンを使うと親に叱られてしまうのだ。  テレビに視線を戻すと、バッターボックスで、俺そっくりの奴がバットを構えていた。『蔵中大附属、三年、荒川涼』と場内アナウンスが流れている。  名前が、自分と同じだ。そう思った時、「荒川涼さん」と診察室から名前を呼ばれた。十五歳で右足を切断したせいで、俺は二年経つ今でも通院が必要なのだ。  それにしても、あのバッターのことが気になる。俺と同じ名前で、俺と同じ野球を……。しかも姿までそっくりとなると。 「先生、あの……ちょっとお聞きしたいことが……」  診察室で勧められた椅子に腰を下ろしながら、俺は尋ねた。 「何でしょう?」 「俺の切断した足って……、どこにいったんですか?」 「どこに、はわかりませんが、リサイクルに回されましたよ」 「あ、そうですよね。それがどこにいったかっていうのは……?」 「そういうのはわからないですね。リサイクル業者が適切に処理しているはずなので、私たちはノータッチです。まあ聞いたところによると、けっこう高値で売れるみたいですよ。特に若い方の部位は」  シニカルな笑いを含んだ表情を俺に見せ、医師はパソコンのキーボードやマウスで何か操作を始めた。 「そういうシステムができて患者さんの負担も減って、まあ、よく考えられてますよね」 「あ、はい……。あの……、もし自分の部位が他の誰かに使われたら、その人って……」  医師はパソコンの画面を一瞥してから、俺に向き直った。 「ええとね、ちょっと確認してみたんですがね、やはりいつも引き取りに来るリサイクル業者に渡したと記録が出てきました」 「そうですか」 「誰かの部位を使った……例えばあなたの足を使った誰かは……、ええと、悪性の腫瘍、で切断、だったんですよね。この場合は……」  医師はそこで言葉を切り、少しの間考えてからまた話し始めた。 「もしあなたの足を使った人が金銭的に余裕があって健康な足に戻してから使うことができれば」  彼は、くいっとかけている眼鏡のブリッジを人差し指で上げた。 「スポーツで活躍することも可能かもしれませんね。特にあなたの足は優秀だったようですから、相当の高値がついたかもしれません」  診察も会計――どうせ無料なのだが、患者は会計が済むのを待たなければならない――も終わり、俺は病院を出た。  そうか、退院祝いで食べた高級すき焼きの良質な肉は、そういうことだったのか。全てが腑に落ちたわけではないが、納得のいく説明を受け、変に晴れやかな気分を味わう。 「次は名前のことか。市役所で教えてもらえるかな……」  市役所もエアコンは効いているよな、と考えると行くのが楽しみになってくる。 「よし、明日行ってみよう」  そう決めたとき、スマホに母からのメッセージが届いた。 『今日は焼肉に行くよ』 『焼肉? 何を売ったんだよ』  冗談めかしただけのつもりだった。 『お父さんの左目だけど、本当は涼の目のほうがよかった』 『は? え? うそだろ?』 『本当。お父さんのは安く買い叩かれたんだよ、腹立つ。そういえばさ、聞いてよ、他人の部位使ってるとだんだんその部位の人に似てくるんだって。お父さんに似た人がそのうち出来上がるかもね』

【超短編小説】「旅の始まり」

 その僧は日々、修行に励み、悟りを得ようと頑張っていた。修行を始めた時少年だった彼は、今やすっかり老人になっていた。  ある日、彼は夢を見た。まぶしく光り輝く一人の人物が、彼の頭を優しく撫でるという夢だった。  目覚めた時、彼は多幸感に包まれていた。夢の名残を確かめるように、彼は自身の頭に手をやった。  頭頂部に何かが生えていた。それは固く、長い、一本の毛のような物だった。  彼は慌てて洗面所へ行き、鏡を見た。彼の脳天から、スマホの充電ケーブルが生えていた。  三日三晩悩んだ後、彼は旅に出た。  そして、小さな島でその命の炎を消す時まで、スマホの充電がなくなった人たちの救済に生涯を捧げた。彼の脳天のケーブルで充電したスマホは、不思議な温もりに包まれたという。

冬の無敵

気がついたら 意識せず マフラーだったり あんまんだったり ゆるやかに 冬へと シフトしていってるのかな なんだかいい感じ 寒くて 暗い冬を たえるには ミルクティーは 欠かせない そのとなりには ドーナツ それにくわえて チョコレートなんて あったりしたら 無敵にさえなれる

日常ー晩秋ー

朝の気温がひと桁になりました。 部屋の中は何とかふた桁を維持している現状です。 しかし私の中ではまだまだ秋、 これが晩秋だという意識でいます。 私は秋の定義を勝手に自分で決めており、 真っ青な空に紅葉した木が映えて見えたら、それは秋。 刺すような寒い朝であっても秋なのです。 紅葉は木の緑の葉ではなく、黄金色だったり、紅葉色であったり 赤も含めて季節特有の色。 他の季節には無い色だと言えます。 その特有色と真っ青が重なる季節。 寒い気温で風がなく、 秋の中でも特に晩秋に見られる、このコントラストが好みです。 そして私の大きな観点として日常見る風景の中に紅葉を見つけます。 近所の曲がり角にある紅葉 行き道にある銀杏 昼休憩の窓から見えるクヌギ林 その見つけた風景に青空が足される秋の景色を楽しみます。 毎日ほど見る風景の色が変わるんです。 昨日はもう少し赤が多かった感じだったな。 今朝は朝日の加減で、黄緑が強く見える。 葉が落ちて、趣きが変わって来た木々。 落ち葉も紅葉のひとつ、 視界全体の色合いを大きく変化させてくれます。 こんな毎日見る風景が変わる季節は他になく、 思っていたよりも予想以上。 壮大な油絵の光景を見せてくれるのです。 特に今年の紅葉は一気に来た感じがあり、 毎日代わる代わるの演出を 慌しく楽しませてくれているかのよう。 ですから昨日の朝は今日にはなく、 明日の朝の予想も外れるのでしょう。 私はその外れ方が楽しみで、 この季節の朝起きる楽しみをプラスしてくれます。 私の住む地域は、交通の便が良くはなく、 車を運転しないと移動出来ない地域。 しかし代わりにと、こんな楽しい自然を用意してくれました。 こんなに楽しませてくれる自然いっぱいのところで本当に良かったと思います。 私の脚がずっと良くはなく、途中立ち止まってしまうのは、 今はそう急ぐことはない、ゆっくり行けばいい、 丁度この季節をゆっくり味わえと仰っているのでしょう。 何と有難い、今はこんな脚で良かった、そう思っているのです。 今のこの状況でないと、 必ず見過ごしていただろうの秋があって ゆっくり進むのが悪くも無く 立ち止まることが遅くも無い 一人で居ることが逆に温かい景色がある。 秋の香りに足される秋色。 これが私の今ある日常です。

心は森の中

心は森の中 葉と葉が擦れ合う音みたいにざわざわざわざわ 雨が降った日は雫の音 ぴちゃんと不規則に落ちる雫 地面はぬかるみ でも少し落ち着く 夜は真っ暗闇 静かで一人の世界 時にその音は恐怖や不安を煽る 朝が来て、鳥の鳴き声 風が吹けば雫は消えて 晴れた日には光が差す 少しの光でも心は晴れる やがて地面は固まって 多くの人がやってくる

I had to go to Weyerhaeuser battery anywhere where are you are you going to go by very dumb

Had to go to bed we had a very good right now but will do it that’s why I will be there today but it will be dead by the Vidette will be there whenever that will be that way will be there to verify that it could’ve been better without overdoing it but it will be dead by the way we did really really well that will be dead but it will be dead I don’t have a good weather weather weather weather will be dead by go to bed without rid of a dead will be there for a bit whatever but evidentiary visit will be there with that I will go to karaoke by River dental available desert with a bit of a ditch bag over the window without a little bit every day delivery date but I will be dead in bed with WWE do a death death Alaga kind of bad of a day to be Deborah Deborah Deborah Deborah but it will be dead by the way David elevator with it I will go get a bit every day with a delivery driver David elevated which way baby ditto baby – – I will be able to cover got about 11 images will be there for everybody to really be debit of a dead refrigerator available that I’m not gonna be able to get out of the house i’d rather bad bad about the recall but will be there every day but it will be there whenever www.will be there I will be there today but it will never let the weather get bad weather the weather the weather weather weather weather will be better but it will be dead by Kapalua David out of a dividend sure if you did have a way to get my bourbon WWE date of the date but I would like to buy you going to be but it will never ever ever did with it have a good trip occurred availability but it will be the better of a ditch by Ridgway Depo but if that’s what I would available that we have a dead avocado cup of Colorado but every day to every deadwood available at the river – bit of a dead I’m gonna go to Cabo Cabo Del Webb ever did with it whatever with every day but every villager available that I have a guy going to be a dick and back of a whatever dumb

冷めてしまった餃子とあたたかいレモネード

冷めてしまった餃子は しあわせとは まったくの 反対側にいる 冷めた餃子 ではない 冷めてしまった餃子 わたしにとってのしあわせは おいしいパンであり 具だくさんのスープであり あるいは あたたかいレモネード レモネードは あたたかいのがいい 冷たいのでも ぬるいのでもなくって あたたかいの あついのは しあわせが強すぎて わたしでは 背負いきれない

【超短編小説】「惹」

 その画家は害虫駆除業者に雇われている。  彼の絵は害虫を惹きつける何かがあるらしく、彼の絵を展示する画廊はいつも、害虫の発生に頭を悩ませていた。  そこである画廊の主が、同級生の害虫駆除業者に彼を紹介した。そしてこの業者から、彼の絵を、依頼を受けた民家やオフィスの隅に飾り、しばらくして害虫が集まってきたところで殺虫剤で一網打尽にするやり方が提示された。  彼は不承不承に契約を結んだ。しかし、今や害虫駆除業者からの謝礼金が、彼の収入の大半を占めている。 「先生」  と業者は彼を呼ぶ。 「こないだの裸婦の絵はすごくよかったですよ」 「どういう意味かね」 「ごっそり駆除できました」  彼は苦笑いし謝礼を受け取る。 「今度は君の肖像を描こうか」  彼は業者に言う。 「ご冗談を」  業者は大笑いしたが、その目は冷たかった。

凶器

ばーか、あほ、死ねばいいのに インターネットはこんなコメントでいつも溢れかえってる 当たり前のように炎上して活動休止になったり死んだりしてる 「こんなんで傷つくのかよwwwメンタルよわっちいなww」 誰がよんでも傷つかないコメントをしましょう 相手の気持を考えましょうとかそんな模範解答誰がまもるのかよwww なんでこんな世の中になったの? なんで?ねぇ教えてよ 人間はいっつも人に罪をなすりつけて見て見ぬふりをしよてる そんなことやってる間にまた誰がが傷ついてる そしてこの世から去ってるかもしれない ほんとにあほだなwww 言葉の重みは凶器よりもずっとずっと重い それでも今日も俺は世界の誰かを傷つける

電波障害

 ジジジジ、と頭で響く音に嫌な予感がする。ここ最近特に酷い、電波障害によるものだろうと当たりをつけた俺は、それでも解決法がない現実にため息をついた。  ゲームの画面を閉じて、まっさらな天井を見る。寝転がりながらのゲームは至高だと言うのに、電波は俺に恨みでもあるのだろうか。何が原因でそうなっているのか。直せるものなら直したいが、その原因でさえも調べないと分からないのだから、どうしようもない。  昔の人はどうやって生活していたのだろうか。この音のない静寂の中で、やることも無く、したいことも無い。退屈だ。  インターネットというドーパミン放出機に慣れきってしまった脳は、ちまちまとしたアナログでは満たされない。そもそも退屈を埋める道具をそれ以外知らないのだ。  検索画面を立ち上げて『電波障害 原因』と入力してみるが、ただクルクルと周回する円がずっとあるだけで、変化はなかった。円を見るのも三十秒ぽっちで飽きて、画面を手のひらで追いやる。 「どうしようかな」  声に出して言ってみても、現状は全く変わらない。ただ言ってみたかっただけだ。  俺は仕方なく立ち上がって、何かないか白い部屋をぐるりと見渡した。机に椅子。クローゼットとエアコンがあって、最後に棚でまたベットに戻る。何もないことは分かっていたのに、本当に何もないと少しずつ苛立ちが沸いてきた。  机の引き出しを開けると、お菓子のゴミといつのか分からない飴玉があった。黄色い包みを手に取って、封を開けて取り出そうとするも、ベタベタとくっついて取りにくい。歯で噛みながら取り出して、口の中で転がすと酸っぱいレモンの味がした。唾液が分泌される。  次は棚に目をやったが、あそこには電波がないと使えないものしかないと分かっている。  またベットに身を沈ました俺は、今のでたった一分程度しか経っていないことに驚いた。ネットを見てれば一瞬で過ぎ去る時間が、こうも長く感じるのか。  時間の流れとは実に自分本位である。でもたまにはこういうネットから離れる時間も必要なのかもしれないと思い至った。  世の中は電波にまみれている。それを危惧する人もいるし、実際ネット依存症なんて言葉もある。ゲームは何も産まないし、ネットは考える力が養われないとも聞いたことがある。  そういえば祖母が紙の本を持っていたという。探せば出てくるのではないだろうか。  また立ち上がるのか、と思うがしょうがない。首に力を入れた。 「あ」  手のひらで追いやったはずの画面が文字を表示している。意識でこっちに持ってきて、電波を確認するとしっかりと棒が四本立っていた。  飴玉を舌で転がして、俺はゲームを立ち上げた。

いつまでも笑っていられる。

僕はこの暮らしを、この仕事を、この人生を。 とことん楽しんでいる。 なぜって? 楽しいからだ。 できないことはできないみたいに。 嫌なことは嫌みたいに。 楽しいことは楽しいんだ。 楽しむことが楽しいんだ。 別に勝ち組じゃない。 金もなければ友達もいないほうだ。 自信もパワーもないと思う。 実際ミスしてばかりで、 道はどんどん険しさを増している。 途中は塗装されてないかもしれない。 もう少しで呆気なく終わるかもしれない。 もう渡れなくなっているかもしれない。 周りの人達は僕がコケているのを見て、 笑って、蔑んで、バカにして、無視して、怒り、狂い、嫌悪し、諦めて,,,。 だから、できる限り思いっきり楽しむ。 思いっきり楽しませる。 そう決めた。 コケて謝って、隠して、誤魔化して、泣いているくらいなら、 いつもいつでも多くの人が笑顔になって。 なんだこれ。なんだそれ。ってあざ笑う程度で良いから笑ってくれたらいいな。 自分が存分楽しんで、周りを楽しませる。 全身全霊で楽しんで、ミスも楽しく魅せる。 お前は弱い。 よく言われる。 反論の余地はないので、最近はアホらしくケラケラ笑っている。 誰にだって弱みも強みもある。 じゃ、お前の強いところってなんだよ。 友達がよく言うんだよな。 胸を張って言えばいい。 いつまでも笑っていられる。それが僕の強み。 これで弱みを全部乗り越えていく。

パキちゃん

道端の隅で奇跡的に育った大根をど根性ちゃんと 呼んでしまう感覚が到底理解出来ません。 今年の夏は異常な暑さで、育てている観葉植物の 水分も朝の水やりでは間に合わない日が何日もありました。 私の知り合いに、ミニ盆栽を育てている人が居て、 鉢が小さくて暑さに合わせた水分を保持出来ないもんですから、 仕事を途中サボって自宅に戻り水やりをしていたと言われていました。 そのくらい今年の夏は異常な暑さがあり、更に異様な長期間でした。 私はエアコンの冷風が大の苦手で、毎年どんなに暑くても扇風機の風や外気をうまく取り入れ凌いで来れたのですが、今年はあまりの暑さと体調から例年のパターンを断念しました。 何年振りかのエアコン始動、不安満載の中、見事に動いてくれましたし冷風も出てくれました。 しかし屋外に排水するはずのドレンが、室内にタラタラと出て来るではありませんか。 どうやら長年使っていない間にドレンパイプが詰まってしまった様子です。 そして何をやっても復活しません。 その垂れて来る排水の一番近くに居た植物が、たまたまパキラだったのです。 私にはパキラがその冷水をくださいな、と言ったように思えました。 「やってみるか」 たまたま丁度の細長いホースがあり、これがまた丁度の距離にパキラが控えていました。 流石に数年ぶりのエアコンから出た水ですから、茶色っぽく、いくら何でもこの水をパキラに与える事は出来ないとその日はやめておきますと、その一日で水は透明になりました。 「パキちゃん、ではいきますよ」 一応お断りの一言を入れて、エアコンから直接繋いだホースをパキラに仮固定したのです。 ご存知の方も居られると思いますが、ある程度土が乾いたところに水を与えますと、まるで炭酸水のようなシュワシュワ〜とした音が聞こえます。 その音がいつもの水よりも私は何故か軽やかに聞こえました。 水道の蛇口ではないにしろ、エアコンからの排水でも思っている以上に水は発生し 直ぐにこれ以上は要らない量まで与える事が完了。 これで暫く様子を見て何も異常が無ければ、私としてもわざわざ家の一階に降りて観葉植物に与える水を汲み上げるという作業は激変する訳です。 酷暑の時に冷水をあげたら花瓶の花が活き活きとなったと聞いた事があったので、いけるんじゃないかと内心思っていました。 しかも大気中の水を使っている訳ですから、これ程エコもないでしょうし、エアコンを経て出た水はやはり冷たい訳です、花瓶にあげた冷水状態になります。 そんな時に以前姪がやってしまった悪い例を思い出しました。 真冬にガジュマルがあまりにも寒そうだと、姪はポットからの熱湯を与えてしまったのです。 勿論、ガジュマルは無惨にも枯れてしまいました。 今回はその真逆です。 生き物に真逆というのは、なんか失礼な表現だと私的に思いますが、 さてどうなったのでしょうか。 □   □   □ 結果、パキラのパキちゃんは、生まれ変わったように元気になりました。 何処か元気のないパキラでしたが、葉がピンと伸び、葉色も鮮やかな黄緑色、そして新芽をドンドン生み出すようになったのです。 他の観葉植物からの嫉妬を感じ、早速全部の植物の水として採用されて今に至ります。 ポトスは一段上に盛り上がった感じに成長し、酷暑から瀕死状態だったフィロデンドロンも一気に復活した様子。 どうも冷水だけではない、何か特別効果のようにも思えました。 季節は秋終盤、既に朝方の室温は十五度を下回り、こうなると植物の根は活動を弱めてしまいます。 しかしパキちゃんは未だ新芽を出して来ており、一番トップの葉の幅は、これイチヂクか!というくらいに幅の太い葉になりました。葉色も黄緑というより緑に近い色まで変わって来ています。 知り合いのミニ盆栽の人は 来年の夏は絶対これをやるそうです。 部屋に緑があると、室内を流れる空気が良くなります。 酸素や二酸化炭素、そういう物の他に視覚から得る癒しからそう思えるのかも知れません。 しかしそれは植物がしっかりと生育しているからこその話。 この植物を置いたから運気が上がるなどという、 置いただけでの表現が私は非常に嫌いですし、 根拠のない植物任せなところが納得出来ません。 こう言いながらも私はこれまで植物を上手く育てられず、 数回枯らしてしまった経験がありまして、その度に申し訳なく思い、 必ず今後に活かしていこうとやって来ました。 植物を生育、栽培といった表現よりも、 共存していく、私の現在の感覚はそうあります。 植物に依存するのでなく、 植物が先を任せる形を勝手に人が作った訳ですから、 人はそれに応えないといけないというのが私の意見なのです。

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I drink a Bhad Bhabie David will be there will be dead to really read it right by the window without available date to the date of the video with Desiree Desiree will be there already with that will be that have a good cup every day babe I never did we did we went to the detriment of dead River – 58 available that will be there to be available at happy Burger by the weather will be dividend very busy today in River Ridge every day would’ve literally been everywhere did you make it available evidence we did have a good idea because I gave you the digital data babe I have a debit debit every day to be there but if that’s what we did with that I will go to Cabo could wear it every day but that was it we will be there to back you better be done with it with it whatever the ditch I will go to battery Joe Bourbonnais very different than whatever we did we did we will be there in about 8 to 8 I will go to Cabo Cabo never having a bit of a dead to be bad with David out of a ditch day very busy with Edwin visit to reboot it I will go to the store how do I get better we had a battery going dead but I will be there today we did have a www.of the day will be there today by the way down River dental be dead baby David Edward a baby that will be dead I was gonna go to bed with everybody we did we did we were there with everybody we did we did we would actually do it every day to availability today with that I will get a cup of good weather for David ever did with it we would’ve decorated by the way did you live in double-decker baby – will be doing it would’ve been dead a dead rabbit in the day today will be the travel with a delivery date will be the death of the video I didn’t have a way to cover girl better than you ever did was leave River dental every day to really be debited into a bit of a very good headway video divided avocado cup of cocoa butter for David about to be dead available data limit everywhere whenever did you do with it whatever that’s right baby that I’m OK

やすらはで寝なましものを小夜更けてかたぶくまでの月を見しかな

 もうすぐ日曜日になる夜。奥さんのいる彼がわたしの部屋に来る確率はかなり低い。でも、低いというのはゼロと同じではない。こちらから連絡する事の出来ぬ身としては、玄関のドアの向こう側から聴こえてくる彼の乗る車の音や靴音を待つしかない。暑がりな彼の為にエアコンの温度を下げて、ベッドの中で毛布に包まって耳を澄ます。遠くから車の音に混ざって犬の鳴き声が聴こえる。車はわたしの部屋をすうっと流れるように通り過ぎていく。何回目かの車が流れていく音を聴くと、日付けは一つインクリメントされる。——大丈夫。彼はきっと来てくれる。大丈夫。きっとわたしの為に、奥さんをいつもより優しく寝かしつけているに違いない。あの人は何も疑う事なく月夜の下で眠りにつく。彼はそれを見守ってから、わたしの顔を思い浮かべてベッドからすり抜けて家を出る筈だ。この前の水曜日の深夜のように。更に前の木曜日の午前三時のように。  久しぶりに会った時には好きになってはいけない存在になっていた。五年前、あの人――姉から婚約者である彼を紹介された時、わたしの胸は柘榴が裂けるような痛みを感じた。彼は高校時代の恋人だった。わたし達の恋は、秋を迎えられなかった誰にも知られぬひと夏の児戯だった。姉が知る由もないのは当然だったが、紹介された彼もわたしを忘れているようで、緊張気味に少しだけ眉を歪めながら名前を告げた。十年の月日は残酷で、わたしはただ頭を下げて、妹ですと名乗った。彼はよろしくお願いしますと言った。頭を上げて姉を見ると左手の指輪が美しく輝いていた。彼はわたしを見つめながらも、姉の手を握っていた。わたしは姉を言葉で祝福しながら、心の中で泣いた。  午前二時になる。来るはずもないメッセージを求めてスマホを見るが、この部屋のような変わらない景色しかない。天井を見上げ、同じ夜空の下にいる筈の彼に想いを馳せる。  ——子供が、出来ないんだ。  一年前。彼の家に遊びに行った時に、彼は砂時計の砂が滑るような艶やな声でわたしに言った。仕事からも家事からも解放された、穏やかで引っ掛かりの無い日曜日の昼下がりだった。わたしは彼の真剣な眼差しをどう受け止めてよいかわからず、姉が洗い終わった皿を見ていた。調子が悪いからと吸い込まれるように寝室に向かった姉を見送った彼は、わたしの座るソファーに近寄った。わたしは彼が何を言いたいのかわかっていた。——わたしの事なんか忘れていたくせに。わたしは彼を呪いながら、眼を閉じて、彼の胸に飛び込んだ。    少しだけうとうとしてしまった。時計を見ると午前四時を過ぎていた。朝に向かう前の最後の静寂が部屋を満たしていた。毛布から出て裸足のまま狭い玄関に立ち、ドアに耳をあてる。聴こえてくるのはわたしの鼓動と僅かな耳鳴りだけ。  ——子供が出来たら、認知してくれる?  去年の冬、わたしの問いに彼は曖昧に頷いた。彼の為なら何もかも捨てる覚悟のわたしと、何も失わずに全てを手に入れようとする彼。昔からそうだった。決して自分はリスクを負わず、わたしに責任を負わせようとしてくる。あの時は子供が出来ないようにわたしに薬を飲ませたくせに、今度は子供が出来るように薬を与える。再会した彼よりも付き合いの長い体温計で朝から一喜一憂するわたしの事なんて何も労わらないのに、彼は姉を優しく抱いて平気で日曜日を飛び超えて月曜日の朝を迎える。まるでわたしには日曜日なんて存在しないかのように。  朝を迎える。わたしはエアコンを切ってリモコンを床に投げ捨てる。投げ捨てられたのはわたしの方なのに。  カーテンを掴み窓を開ける。朝のグラデーションに溶け込む月が、おやすみとばかりに西の方へと沈んでいこうとしていて、ほとんど姿を見せてくれない。 「また、来月まで待たないといけないのに」  窓を閉め、お腹に手をあてる。彼が望むならばと身体の準備をしていても、彼が居ないのであれば意味がない。  スマホで天気予報を見る。今日は一日中天気が良いようだ。きっと彼は姉とさわやかな日曜日の朝を迎えて、姉の朝食を食べて出かけるのだろう。そして夜になれば姉をそっと抱いて、何事もなかったように月曜日の会社へと向かうのだろう。——あなたはずるい。わたしがこんなに愛していても、あなたは何も変わらない。月だって移り行くのに、あなたはあの頃からずっと変わらない。  カーテン越しから朝日が忍び込む。わたしは彼が大嫌いだ。大嫌いでも、離れられない。  ベッドの中で体温計を取り出して口に入れる。体温をスマホのアプリに記入する。そして立ち上がり、カーテンを毟ってもう一度外を見る。涙が溢れ出た。わたしの窓からは、月はすっかり消え去っていた。 やすらはで寝なましものを小夜更けてかたぶくまでの月を見しかな