初めてじゃない、はじめて。

 待ち合わせ場所に着いたとき、私は思わず深呼吸をした。  高校生の頃みたいに、制服じゃない。  でも、緊張の仕方だけは、あの頃と同じだった。  彰人は、先に来ていた。  スマートフォンを見ながら、時々周囲を気にしている。  その姿を見た瞬間、少しだけ安心する。 「おはよう」 「……おはよう」  ぎこちない挨拶。  でも、それが嫌じゃなかった。  今日は特別な場所に行くわけじゃない。  駅前を歩いて、カフェに入って、映画を観る。  それだけなのに、心臓は落ち着く気配がない。 「その服、似合ってる」  突然、彰人が言った。  目は合わない。 「……ありがとう」  褒められるなんて思っていなかったから、返事が遅れた。  カフェで向かい合って座ると、妙に距離を意識してしまう。  テーブル一枚分の間隔が、こんなに遠かっただろうか。 「緊張してる?」  私が聞くと、彰人は苦笑した。 「ばれてたか」 「うん。昔から」  その一言で、二人とも少し笑った。  笑うと、不思議と肩の力が抜ける。  映画館を出たあと、夕方の風が心地よかった。  何気なく歩いているはずなのに、手と手の距離が気になる。  信号待ち。  彰人が、少しだけ私の方に寄る。 「……手、つなぐ?」  その声は小さくて、でも逃げなかった。 「うん」  答えると同時に、指先が触れた。  ぎこちなく、でも確かにつながる。  懐かしいはずなのに、初めてみたいだった。 「なんかさ」  彰人が言う。 「今のほうが、ちゃんと好きって言える気がする」  私は、少しだけ強く手を握った。 「私も」  夕焼けの中を歩きながら思う。  遠回りした分、今はちゃんと向き合えている。  これは、青春のやり直しじゃない。  あの頃の続きを、大人になった私たちで歩いているだけ。  信号が青に変わる。  つないだ手を離さずに、私たちは一歩踏み出した。

ふふっ

ひどく 寒い 厚着だ 強くなった気が ほんとはまったく 強くなんて   ・ 服をたくさん 身にまとう ほんものの自分 おうおうにして よわい自分のこと そのほんものの自分を 見せないように できる 見えないようにも できる   ・ ちがう ちがう 調子こいてんじゃねえぞ 言われて なにも 言い返さなかったのは 調子こいてんじゃねえぞ 言ったその本人が 一番に 調子こいてたから こらえるのに 必死だった   ふふっ 強いって? そう思うのは ただの カンチガイ 強くなんて なってない でも いいのか あたたかくは なった

天然と合成と

「合成ダイヤの普及で、天然ダイヤが大幅値崩れだって」 「マジかよ。給料三か月神話はどこいった?」    写真で見る天然ダイヤと合成ダイヤ。  見た目の違いは判らない。  合成ダイヤは偽物と言う人もいるが、見た目が同じならどちらも本物と言って差し支えないのではなかろうか。   「私は天然がいいな」 「え?」 「だって天然じゃないってことは偽物じゃん」    そう思ったのに、まさか隣に逆の意見のやつがいようとは。   「偽物じゃないと思うよ」 「ええ?」 「魚だって、天然も養殖も同じじゃん。美味しい魚」 「魚の養殖は、人間の手で住む場所を決めてるだけで、天然と同じ方法で産まれてるじゃん。合成ダイヤみたいに、化学のいろいろ混ぜてるわけじゃないんだし」    例えが悪かったかもしれない。  天然ダイヤと合成ダイヤ。  天然の魚と養殖の魚。  共通しているのは天然と言う言葉だけ。    やはり人工的に作って、それっぽく作る物を例に挙げたほうがいいか。  正直、あんまち使いたくない例えだった。   「何?」    ぼくの視線が、下へと落ちる。   「天然以外が嫌なら、なんで豊胸し」 「死ね!」    案の定殴られた。  だから言いたくなかったんだ。  でも、天然じゃないから偽物だって考えを、なんとか否定しようと躍起になってしまったんだ。   「大丈夫。ぼくは差別しな」 「死ね!」 「ヒアルロン酸だろうが、胸はむ」 「死ね!」 「ほとんどの男は、天然かどうかわからな」 「死ねええええええええ!」    しこたまなぐられ、ぼくはその場に倒れた。  ドスドスと足音を立てて、友達は去って行く。    とりあえず、天然だろうがそうでなかろうが、本物だということは納得してくれただろうか。  体が痛くて追いかける元気はなかったので、倒れたまま休憩することにした。

不満を共有して (掌編詩小説)

不幸を共有する事によって、自分の身に似たようなことが振り落ちないように対策する…というのが本来の人の癖だと思う。 現在ではどこかで自分じゃなくて良かったと安心したい気持ちが、不幸を共有したがる心境にさせているのだと思った。 (完)

全人類善人で悪人

 殴られた。  どつかれた。  いっぺーは、悪いやつだ。    ぼくのお母さんといっぺーのお母さんが学校に呼ばれて、教室の中で話し合い。  先生もいるから五人。  いっぺーのお母さんは、先生を睨んで大声を出した。   「うちの子は悪くありません!」    いっぺーを、悪いやつを庇った。   「いや、しかしですね」 「うちの子は被害者なんです!」 「たくさんの生徒が、いっぺー君がえいじ君を叩いたところを見ていまして」 「その子がいっぺーにちょっかいでもかけて、いっぺーを怒らせたんでしょ!」    いっぺーのお母さんは、今度はぼくを睨みつける。  ぼくのお母さんがぼくの前に立ったから、すぐにいっぺーのお母さんが見えなくなった。    ぎゃんぎゃんぎゃん。  ぼくのお母さんといっぺーのお母さんが、大声を出し合う。  余りにも五月蠅いので、耳を塞いだ。    耳を塞いだら、すごく変な感じだなって思えてきた。  いっぺーは、悪いやつだ。  だって、突然ぼくを殴って来たから。  でも、いっぺーのお母さんは、ぼくがいっぺーを怒らせたんだと言っていた。  ぼくを悪いやつだと言っていた。  悪いやつをかばっていた。    何でこんなことが起こるんだろう。  ぼくはぼーっと考えた。  いっぺーが本当はいいやつだからだろうか。  いっぺーのお母さんには、いっぺーはいいやつに見えるからだろうか。  それはどうして。   「わかった。いっぺーのお母さんも、悪いやつなんだ」    答えがわかったのがうれしくて、口に出した。  いっぺーといっぺーのお母さんが、ぼくの方を見た。  いっぺーのお母さんが、鬼のように恐い顔になった。    ほら、悪いやつだ。  結局、いっぺーから謝ってもらうこともなく、ぼくたちは家に帰ることになった。   「えいじ、ああいうこと言ったらあかんで」    帰り道。  ぼくのお母さんから叱られた。    悪いやつを悪いやつと言うことは駄目なことらしい。  誰がそんなこと決めたんだろう。  別の悪いやつが決めたのだろうか。    頭の中がぐるぐるして、いいやつも悪いやつも同じ場所にいるなんて、変な場所だなあと思った。

私はやってない。

「みなさんに大変言いにくいことがあります」  壇上に立つ先生が、今から発する言葉は、このクラスにいる全員がすでに知っているようだった。  三つの机に置かれた一輪の花と、啜り泣く女子生徒の声。教室には、無言とは少し違う、重たい気配が広がっていたからだ。 「えー、田辺さん、高塚さん、沢嶋さんの三名が、この三連休の間に亡くなるという、大変痛ましいことが起こりました」  先生は続けて、この三名の死は連日ニュースで報道されているが、生徒である私たちは取材を受けても何も話さなくていい、と言った。  ホームルームが終わり、先生が教室を出て行った直後だった。  誰が言い出したのか分からないまま、クラスは「誰が三人を殺したのか」という話題で一気に騒がしくなった。 「佐々木! あなたが田辺を殺したんでしょ!」 「ふざけんなよ! なんで私のせいにされなきゃいけないわけ? 田辺とニコイチだったのは渡辺のほうでしょ!」  第一ラウンドは佐々木と渡辺だった。田辺との仲の良さはどちらも五分五分といったところだが、佐々木の語気の強さに、渡辺は少し引き気味だった。 「沢嶋は三好と仲良かったよね? 土曜日に二人で遊びに行ってるの、ストーリーに載ってたよ」 「あ、それ私も見た! 三好、あんた夜に殺したんじゃないの?」 「私じゃないよ!」  第二ラウンドは三好と、数人の女子たち。三好の弱気な否定に、女子たちはますます感情的になっていった。 「でも待って……あんた、高塚にパシられてたよね? 恨みがあって殺したんじゃない?」 「あいつ、外面だけは良かったしね」  そうして、クラスメイトたちの矛先が向けられたのは鈴木だった。  鈴木は、高塚にパシられたり、前借りを頼まれたり、掃除の当番を押しつけられたりしていた。好き放題されていたのは事実だ。 「私はやってない! 高塚さんは色々されてたけど、お金はちゃんと返してくれてたし、ありがとうも言ってくれる人だった! そんな人を……私がするわけないじゃん!」  鈴木の大声と同時に、授業のチャイムが鳴った。論争は一時休戦となったが、休み時間になっても鈴木への罵声は止まらなかった。  それでも佐々木と三好は、鈴木を庇うように、その日から三人で過ごすようになった。  事件から一か月後、鈴木は家の都合で引っ越した。  その翌日、ニュースはこう報じていた。 『佐々木と三好の遺体が発見され、どちらも自殺に近い内容の遺書が残されていたとして、警察は引き続き捜査を進めています――』 「報道、すんごいことになってるね」  スマホに映る学校の映像を眺めながら、私はキッチンで、ふふふん、と陽気に鼻歌を奏でる彼女を見た。 「それは、カナデちゃんのおかげだよ。わざわざやらせてごめんね」 「“やらせて”ってやめてよ。私は学校では死人だよ? ちゃんと、やりたいことはできたんでしょ?」 「もちろん! 三年分の思いが、やっと晴れたって感じ。最後まで、あの二人もクソだったし。清々する」  彼女が差し出した紅茶に映る自分の顔を見て、私は少しだけ怖くなった。  あの時、彼女たちをそう仕向けたのは、私だ。他の誰でもない。 「……逮捕されないよね?」  私がそう聞くと、彼女は高笑いした。 「なに言ってんのよ……」 『私たちは、やってない。』  その言葉を聞いて、私は安心してスマホを閉じた。

初夢

 物心ついた時から、私は変な夢を見る子どもだった。それは桃色の遊園地だったり、延々と続く海だったり、しゃべる鳥の群衆だったり、ポツンと置かれたコタツの中だったりした。  覚えている夢の記憶でいちばん古いのは、小学一年生の頃。まだ入学してまもない私は、気づくと公園のベンチに座っていた。隣には、若い女がいた。とても人の良さそうな女で、耳に響く柔らかい声で私の名前を呼び、「一緒に遊ぼう」と誘ってきた。  当時の私は、なんとなくうなずいて、女と飽きるまで公園で遊び尽くしたものだった。夢の中では、何十回も日が暮れては昇るを繰り返していた。けれど、私も、あの女も、そのことをみじんも気に留めてはいなかった。今に思えば、不思議である。  女と遊んでいたら、いつのまにか、病院のベッドの上にいた。看護師があわてて医者を呼びに病室を出て、その後から涙目の父親が抱きしめてくれたことを、よく覚えている。どうやら私は一ヶ月以上も眠っていたらしい。そう聞いた時、私はこれまたなんとなく、「夢の中で過ごした時間の分のだけ、現実世界の時間も経過するのだ」と気づいていた。  この出来事が起きた後も、私は定期的に変な夢を見ていた。そのたびに、私は現実の世界で眠り姫となった。ありがたいことに父親も友達も、私の奇妙な習慣に理解を示してくれてはいた。変な夢を見るからといって、私自身のことを拒絶されなかったのは、本当に不幸中のさいわいだった。私は皆の支えもあって、無事に小学生、さらに中学生を卒業することができた。  ただ、いつまでも変な夢を見ているわけにはいかなかったらしい。私の奇妙な習慣は、高校入学と共に終わりを迎えた。なんの前触れもなく。あまりにも唐突だったから、その事実を理解するまでに半年を要した。  ある日、友人の一人から唐突に言われた。 「将来の夢ってある?」  ――思いっきり、金づちで頭をなぐられた。そんな感覚。とっさのことに、私は何も答えられなかった。  夢なんて、ない。そんなもの思いつかない。てか、そもそも将来の夢って、なんだっけか。  昔は夢の中に閉じこめられて、いつ現実に戻ってこれるかも分からない日々を過ごしていた。それが私にとっての当たり前だった。今の眠りに閉じこめられて、未来など見る余裕はない。  そんなだから、進路のことを考えるのは苦手なのか。なんて、自分に対し、ちょっと自覚的になったりした。  夢が見たい。あの奇妙な日々を、また送りたい。  いつしか私は、そう願うようになっていた。  めぐりめぐって、20回目の新年を迎えた夜。私は夢を見た。  天高くそびえたつ富士山と、空を翔ぶ二羽のタカのみに焦点を当てるなら、ただ縁起の良い初夢にすぎない。けれど、私の本能は、またしても明晰な事実をたたき出していた。  ひさしぶり、元気にしてた? 私は遠く離れた故郷へと戻ってきた気持ちになって、目前の富士山に「やっほー」と叫んでみたり。  ぽんぽん。後ろから肩をたたかれて。ふり返れば、麦わら帽子をかぶったオバサンと目があった。彼女の手には、三本のなすび。  ああ、本当に素敵な年を迎えられそうだ。なんて、のんきに思ったりして……。ふと、どこか童心をくすぐられるような感じがして、思わず口を開いていた。 「私のこと、覚えてますか」  どうして、そんなこと、口にできたのだろう。べつに私は、なすびオバサンに対して見覚えの一つも抱きはしなかったのに。  でも、オバサンは屈託なく、にこっと笑って、「そうですね」と言うものだから。私は少々、オーバーに驚いてしまった。 「もう遊びつくしたでしょ。いいから、これ持って帰んなさい」  そう言って、なすびを押しつけるオバサン。私の胸にぎゅっと押しあてる、その重みがやけにリアルで。私は思わず、オバサンの腕ごと握りしめていた。しっかり、しっかりと。  次に目を覚ましたのは、夜明け前。  私は私の家で、私のベッドの上で、はっと両の目を開いた。そっとスマホをつけると、ホーム画面に「1月1日」の文字が浮かびあがる。  ほっと安心して、つかの間。脳裏にオバサンの笑顔がよぎった。  あれは、きっと母だ。若くして亡くなった。生来からの持病だったらしい。もしも生きていたら、ちょうど今年で50歳になるだろうか。  自分の胸元を抱いていた私の腕から、ほのかに香るなすび。窓から見えるは、ぼんやりと輪郭を描いていく朝日。  夢、見つけたいな。  私はなんとなく、けれどもしっかりと、そう思った。

間(ま)

 忙しない暮らしの空隙─たとえば人の少ない昼時の住宅街を歩いてるとき─に、ときどき駅のホームから飛び降りるところを想像する。それは別に深刻なものじゃなくて、宝くじに当たったところをイメージしたときの感覚に近い。だからその空想で飛び降りる私は、あどけない男の子が学校の帰り道にちょっと高い台からひょいと飛び降りるみたいに線路に飛び込んでみたくなる。  そんな想像をしていれば、あるとき何の躊躇いも無く突然これを試したくなる。死ぬとは何かを知らない子どもみたいに自分をぞんざいに扱ってみたくなる。  これはあれに近い。急に楽しくなって走り出すあの感情だ。  ホームの縁に立つ。線路の幅の広さが視界の奥行きを歪ませる。そんなに高くないじゃないか。飛び降りても、また、登って来れる。  向こうからやってくる電車をちらりと見遣る。  目線を戻せば、私の姿は、そこにはもう無い。  令和八年一月一三日

ブルーノイズ

 筆を手に取る。灼けるような青を手に真っ白なキャンバスを前にしたところで、描けるのは海と空だけであった。  ただ目に見えているものを描き写しただけで。  それなのに未だに、誰かの姿が消えない。風に揺られただ風を竢つ、誰かの背が。本当はいたはずなのに。 「っ……」  また、耳鳴りが僕を襲った。波の音にも似た、あの夏の音だ。煩くて、煩わしい。  そのノイズに掻き消されるまま、そこに視ていた誰かの背は消え失せてしまった。  この音がする度に僕は、  ――   「ねえ、██」    ――  また、誰かを思い出す。  ―― 「ねえってば。聞こえてる?」 「あ、あぁ。ごめん」  またいつもの耳鳴り。最近特にひどくなってきたと感じる。 「また耳鳴り?そろそろ病院行ったら?」 「行ったさ。でも何にもないんだって。ストレス性かも、とか言われるけど」  波打ち際、いつも通り君と他愛もない話を駄弁りながら歩く。サンダルの奥に入り込んだ砂の温度を確かめながら、一歩、また一歩と、どこを目指すわけでもなく歩き続ける。  このままどこへ行くのかなんて、僕も彼女も知らなかった。ただそこにあるのは、終わらないとさえ感じてしまっている時間だけ。永遠にも近いその一瞬の連なった一縷を、ただ必死に紡いでいた。 「ねえ、来年もさ。来れるといいね」 「……うん」  そう。これは最初から、君の言い出したこと。   「海に行きたい」  だなんて、最初は冗談だと思っていた。  無機質な白い部屋で天井を見つめる君の口から、そんな言葉が出るなんて思っていなかったから。  やっと、冗談が言えるくらいに気力が戻ったのかとほっとしていた。でもどうやら、彼女は本気だったらしい。 「今の状態なら、外出も許可できます」  信じられなかった。少し前までは食事も難しかったのに。今こうして、笑顔で僕の隣を歩いている。何もなかったように。僕が、そうであってほしいと願っていた通りに。 「そうだね。来年も、一緒に」  その言葉が妙に心残りで、奥歯で強く噛み締めた。思えばもうこの時には、僕は無理だとわかっていたのかもしれない。      その報せを聞いたのは、潮風に凪いだあの日からほんの少し。たった一月先だった。 「はぁっ、はぁっ」  バタン、と廊下中に音が響く。  何かを引き戻すように扉を勢いよく開けた。  その奥に広がる、見慣れた無機質な光景。でもその中で一人、もう僕の識らない誰かになっていた。  受け入れたくない現実を直視する度に、何かが爆ぜる。それはゆっくりと、やがて僕の心を包んでいった。  消えない、あの日の波の音が。僕の記憶を鮮やかに掻き消した。  ――  目を閉じれば思い出すのは、いつもあの日のこと。退屈を再演した、あの夏の記憶。  もう何回繰り返して、今僕はここに居るのだろう。  あと何回繰り返して、僕は君を忘れられるだろう。  そう、もうずっと前に気付いていた。  耳鳴りなんかない。この音は、嫌に僕を蝕む、あの忌々しい音は。    二度と戻らないと知った、あの夏の音。  君の声を掻き消した、あの波の音。  今もそこで一人泣いている。  失ってしまったあの夏を。咽せ返る程に苦しい、あの黒い夏を。思い出す度に、酷い眩暈が僕を襲う。    誰もいないキャンバスに描いたのは、黒塗りになった君の顔。思い出したくないと、波に掻き消させたあの笑顔。たった一つ、思い出すことさえできれば。  涙も出ないまま、胸の奥に引っかかった言葉を押し戻した。誰にも届かないと知っていたから。  これはそう。  思い出したくもない、最悪の思い出。

今日も寒い

 駅からの帰り道。 障がい者マークを付けたおばあさんがネギをリュックに背負って歩いて帰っている。 ネギ買わなきゃ。 放射道路の歩道橋。 僕に魔法が使えれば家までおばあさんを送ってあげれるのに。 いや魔法は要らないか。 「お気をつけて。」 その言葉を今日は出せなかった。 今日も寒い。

私ではない筆跡

 起きたら、全てが変わっていた。  母も父も別人で、家も身の回りのものまで全部が私の知らないものになっていた。  けれど、昨日まで生活をしていた痕跡があって、カレンダーには今日や明日の予定が書いてある。私ではない筆跡で。  もしかして、知らない人の家で寝ていた?  そんな訳はない、父も母も私の名を呼ぶ。まるで元から私の母と父であるように、下の名前を軽々と呼ぶ。  ならば何故、私には昨日までの記憶がごっそりないんだ?  四年前の七月までの記憶はハッキリとあるのに。    ……ねぇ夜入(よいり)。    え? 誰?    ……詩人(しじん)よ。覚えてる? というか、あなた自分の病気を忘れたの?    え?    遡ること、四年前。私は酷い虐待を受けていた。ご飯はなくて、風呂は春も夏も秋も冬も全て冷水で入らなければならなかった。父からは性的暴行を受けたし、母からは純粋な暴力を受けていた。  心も体もボロボロで、何もかもが嫌になって、死ぬつもりだった。けど、包丁を手にした途端意識が消えた。    ……そう、アタシが阻止してあげたのよ。まだ幼い子が自分自身に刃物を突き立てるなんて、見てられなかったの。  …僕も怖かった。死ぬのが。    詩人の声が聞こえ始めてから、多くの声が聞こえるようになった。まるで、教室みたいに騒がしくて、昔に戻ったみたいで、嬉しかった。    ……そうだ、今まであなたの体をずいぶん好き勝手しちゃったわ。ごめんなさいね。  アタシ、このままあなたが目を覚さないと思っちゃってね、前のお父さんとお母さん捨ててきちゃったの。全部を新しくしてしまった事、本当に申し訳なく思うわ。    いいんだよ詩人。  そう、今思い出した。  解離性同一性障害。俗に多重人格症とも言われる病気を私が患っているということ。    詩人、詩葉(うたは)、陸、海、空、陽入(ひいり)、冫(ひょう)。    もっともっと私の中には沢山の人格がいる。  基本人格の私を含めて、主人格の陽入、未就学人格の冫(ひょう)丶(てん)もいる。    私はまだ十四歳。まだまだ生きなきゃいけない。詩人やみんなが繋いでくれた命。皆んなが共有しているこの命を消すわけにはいかない。

異国の少女は自然を求め僕たちの煙を見て悲しい顔をする

 都内の公園で知り合いと煙草を吸う。 多分公園内禁煙。 異国の少女は美しい日本の風景を見に来て僕たちに怪訝な顔を見せる。 ヤンキー絶滅種、と言った看板でも立てて僕たちを檻の中に閉じ込めて煙草を吸わせればいいのかもしれない。 デオドラント社会。 まあでも縄文の森には煙草はなかっただろうしな。 これは完全に僕たちが悪い。

君が来るまで

車の中で妻を待つ コンビニに荷物が届いているからと 出かける準備をしていたので 僕も一緒に行くよと伝えて一時間がたつ 僕は気付けば寝てしまっていて 妻が毛布をかけてくれる そのタイミングで目が覚めて まだ妻は出かけてない 息子に微熱があるということで テレビを観ている息子に毛布をかけて厚着をさせて 僕は先に車に行くと言うと 妻は息子がみかんを食べ終わってから行くと言う それはみかんが喉に詰まらないか心配だから あれから一時間がたつがまだ妻はこない 優しく思いやりのある妻は 自分の事を一番最後にする 自分の事を一番最後にした妻に 遅いとは言えないだろう さて何をして君を待とうか

ワンシーン 6

キンコーン インターホンが来客を告げた。居合わせた面々が一斉に扉の方を見やる。 「ど、どーぞー」 Cが若干裏返った声で応じた。 「やあ」 ひらりと片手をあげて入ってきたのはHだ。もう一方の手には少し大きめの紙袋を持っている。 「おや、珍しいね」 来客用ソファに座っている金髪の青年・Mの姿を見とめて声をかけた。 「久しぶりやな」 よっ、と手を上げてMが応える。 「ちょうどよかった。駅前に出店が出ていてね。エクレアを買って…」 「「「「エクレアーーー!!!」」」」 Hが言い終わる前に一同天を仰いだ。 「???」 話は1時間ほど前に遡る。 「久しぶりぃ」 すでに開けたドアをノックして、来客が言った。 「おー! Mじゃん!」 「どうしたの? 仕事?」 KとAが驚いた顔で迎え入れた。 数年前に仕事で知り合った、西方面に居を構える友人である。 サプライズ好きでよくこうして連絡なしで訪ねてくるのだ。 「そそ。時間あったんで寄せてもろたわ」 ひらひらと手持ちのケーキ箱を揺らし、 「前に食いたいって言うてたケーキ買うてきたでー」 とテーブルにポンと置いた。 「まじかっ! これ賞味期限短いやつだよな!」 Kが食いつく。 「ありがとう〜懐かしいなぁ」 西方面に住んでいたことのあるAがチラッと時計を見る。 「そろそろCさん帰ってくるからお茶にしよう」 「何? Cちゃん出かけとん?」 「ちょっとそこまで買い物にね」 と言うが早いか、 「ただいまー」 と可愛らしい声が響いた。 「おかえり」 すっと荷物を受け取ってMがニカッと笑う。 「あらMくんじゃないー! いつ来たの?!」 驚いた顔でCが言う。 「ついさっきな。土産あんで」 Mが言うと、 「え! 何々!」 とはしゃいで覗き込み、ほどなく「あ!」と言う顔になる。 「どうした?」 「…珈琲切れたから買いに行ったのに忘れちゃった…」 「なぁにやってんだよー!」 ばっとKがのけ反った。 「しかもね」 CがMの持つ買い物袋からパックのケーキを取り出し、 「美味しそうだったから買っちゃった。半額のケーキ…」 とバツの悪そうな笑顔で言った。 そこへ鳴り響くインターホン、である。 「それは…申し訳ない」 ちょっとしたスイーツバイキング然としたテーブルを見て、Hは何も悪いことはしていないのだがつい謝った。 「いや、Hさんは悪くない」 Aが慌てて取りなして、 「場違いかもしれないけど…待ってて」 と自室に戻って行った。 「ちょうど5袋だけ残ってたよ」 とドリップコーヒーを差し出した。 「でかした!」 「さすがAさん!」 「お白湯出そうかと思ったわ!」 「今度地元の喫茶店のやつ送るわ!」 四者四様絶賛し、拍手喝采。 そこへ、四度目のインターホンが鳴った。 「M来てる?」 Mの仕事仲間であり、共通の友人でもあるTが扉を開けた。 「いらっしゃい! こんなに揃うなんて嬉しいわ!」 「おー満員じゃん」 そう言ってTはテーブルの上を見て「げっ」という顔をした。 「何この血糖値上がりそうなラインナップは…」 この中で唯一、甘いものが好きではないTが顔を引き攣らせる。 「幸せで不幸せな偶然というやつだね…」 Aが笑う。 「そんなところに悪いんだが…」 Tはトン、と紙袋を仲間に加えた。 「赤福」 「「「「「赤福ーーーーーー!!!!!」」」」」 またそんな足の早いものを…と頭を抱える面々。 「もらったの昨日だから今日中に食わねぇとやべぇ」 それとは逆に淡々と事実を告げるT。 「…T、逃げられると思うなよ」 「へ?」 「あたしたち…明日から遠征なのよ…」 KとCがじっとりと言う。一欠片として残すわけにはいかない、と言うことだ。 TとMとHが顔を見合わせた。 「俺食えねぇから持ってきたんだけどぉ!!!」 何も言わず、Aがお茶の準備に向かった。 仲が良すぎる故、たまにこうした地獄のお茶会が催されることもある。

猫の名前

ある朝、目が覚めると俺は猫になっていた。 目線は明らかに低く、全身を覆う毛の感触がどうにも落ち着かない。 寝起きでただでさえ働かない頭に、この異常事態が追い打ちをかけてくる。 状況が理解できず、混乱するしかなかった。 試しに声を出してみる。 喉から出たのは――「ミャー」。 頭の中では乾いた笑いがこみ上げるのに、耳に届くのは甲高い猫の鳴き声だけだった。 少し落ち着こうと周囲を見渡す。 そこは見知らぬ部屋だった。 雰囲気からして、どうやら若い女性の部屋らしい。 カーテンは中途半端に開き、部屋は決して綺麗に片付いているとは言えない。 生活感の残るその様子から、飼い主の性格までなんとなく想像できてしまう。 この猫の飼い主はすでに起きているのだろう。部屋にはいなかった。 俺はベッドから飛び降りた。 自分の身長の何倍もある高さのはずなのに、着地の衝撃はほとんどない。 躊躇なく跳び降りた自分自身にも驚いた。 部屋から出ようとドアに向かうが、ドアノブに届かない。 こんなにも猫の体は不便なのかと思いながら、何度か跳びついてみる。 そのとき、廊下の方から足音が近づいてきた。 何か話しながらこちらへ向かってくる。 はっきりとは聞き取れないが、おそらくこの猫の名前を呼んでいるのだろう。 ドアが開いた。 そこには、二十歳を少し過ぎたくらいの女性が立っていた。 微笑みながら俺を呼び、自然な仕草で抱き上げる。 ――まずい。 完全に日本語を話しているはずなのに、言葉の意味がまったく理解できない。 焦りと不安が一気に押し寄せる。 そこでようやく気づく。 「ああ……俺は、猫だから人の言葉がわからないのか」 無理だと分かっていても、伝えたくなる。 俺は猫じゃない。人間だ。 そう叫び続ける。 でも、ふと思う。 本当に俺は人間だったのか? 俺の人間の頃の名前は? 思い出そうとしても、何ひとつ浮かばない。 さっきまで動き回って鳴いていた俺が急に静かになったのを見て、彼女は不思議そうな顔をした。 顔を近づけ、何かを優しく語りかけてくる。 今しかないと思った。 俺は全身に力を込め、思い切り叫んだ。 ……けれど、喉から出た音は、少し強めの「ニャー」だった。

ワンシーン 5

「おや? これはCさん?」 雑貨に紛れて飾られている写真にふと気づき、Hが問うた。 「あらやだ、片付けるの忘れてたわ」 そう言ってCは写真立てを手に取った。 「見るの初めてだっけか?」 定位置になりつつある来客用ソファに寝転んでいたKがよっこいしょ、と身を起こす。 「可愛いでしょ? 成人式の写真。毎年お正月から成人の日の間だけ飾るようにしてるの」 す、と差し出され反射的に受け取り、Hはまじまじと見た。 写真立ては随分古ぼけており、アンティークと言ってもいい上等な品だ。いくらか退色しているが振袖を纏ったCの姿は今と全く変わらない。 少し照れくさそうな、それでいてどこか居心地の悪そうな顔をしている。 「ハタチになるはずだった年にママが用意してくれたの。いらないって思ったけど、撮っておいてよかったって今は思うわ」 本当は20歳ではない。産まれた年から20年経った年というだけ。 「式典にも参加してね、同級生から七五三みたいだなんて揶揄われて。失礼な!って言い返してみんなでケラケラ笑ったけど…」 切なそうな表情で語る様子に、Hは話題にしたことを後悔したが、 「やだ! しんみりしないでよー! この写真のおかげでいろいろ思い出せるんだから!」 すぐに察したCがHの肩をバシッと叩いた。 「さてと、成人の日も過ぎたことだし、片付けますか」 写真立てを受け取り、自分のデスクの引出しからこれまた古ぼけた布で丁寧に包んだ。 「お嫁に行けなくなっちゃうからね」 Aが見守りながらふわりと微笑んだ。 「Aさん、それは雛人形…」 「バーカ! それは雛人形だろ!」 HとKが口々に突っ込み、Cは高らかに笑った。 あの日、かつての仲間と笑った日が返ってきたような気がした。

小説を書きたいけど書かかない人へ送るデブからのありがたい言葉

「安西先生。小説が、書きたいんです」 「書けばいいじゃん」    至極当たり前のアドバイスをしたはずなのに、目の前の人間は渋い顔をした。   「それは、そうなんですけど」 「うん」 「書けないんです」 「なんで? 腕にマヒがあるとか、激務で起きている間ずっと仕事してるとか?」 「そうじゃないんですけど」 「じゃあ、書けばよくない?」 「……酷い! パワハラだ!」 「えぇ……」    私は真摯にアドバイスをしたはずなのに、目の前の人間は泣きながら走り去っていった。  泣きたいのはこっちだ。   「意味わかんね」    書きたいなら、書けばいい。  もしかして、目をつむっていたら妖精さんが勝手に小説を書いてくれるとでも思っているのだろうか。  もしかして、AI様が頭の中をスキャンして代わりに小説を書いてくれると思っているのだろうか。  小説を書くのは、人間だ。  書きたい小説があるのなら、それを書くのは他でもない自分なのだ。  ならば、書くしかない。  書けないなんて言う暇があったら、書くしかないのだ。   「まあいいか。人のことを気にしている場合じゃない。書こ」    そんな人間もいるんだなあと、私は一つの学びを得て、パソコンに向かった。  パソコンの隣にお菓子に、自然と手が伸びる。  美味い、高カロリー最高。  これは頭が回復する。   「はー、瘦せたいなあ」    さ、書くか。

背中を追う、隣を歩く【5】

(ア゛ア゛ア゛ア゛!! なんなんだよなんなんだよマジで!!あんなの人じゃないよ宇宙人だよ!!) 授業終了後、校庭の隅にある水道で文字通り頭を冷やしながら私は心の中で繰り返し毒づいた。 未だに朝とは会話らしい会話すら交わしたことがない。私から話しかける気になれなかったし、向こうから寄ってくる気配も皆無だった。というか、彼女が誰かと喋っているところ自体見た記憶がない。あの常に浮かべる無表情も相まって周囲を拒絶するような近寄り難いオーラを醸し出しているせいだろう。 ボコボコに叩きのめされたことにも腹が立つが、それ以上に齋藤朝という存在そのものが妙に気に入らなかった。 この世のすべてに興味がないような、勝敗さえもどうでもいいと突き放しているような。彼女の纏う「諦観」の空気が私は嫌だった。 (ムカつく……何が腹立つって、終わったことなのにいつまでも怒ってる自分に腹が立つ!!) 力任せに顔を上げようとして蛇口に後頭部を強打した。 「……いっ、た!!あ゛ぁー!!もう!!」 火花が散るような痛みが走り、抑え込んでいた苛立ちがさらに一段階跳ね上がった。 (あーあーあーもう! ろくなことがない……帰りにラーメン食べて全部忘れてやる) ズキズキと痛む後頭部をさすりながら、私は無理やり怒りをねじ伏せて更衣室へと向かった。 薄い扉の向こうから数人の声が漏れ聞こえてくる。不満げな声色から誰かの愚痴だろうと察し、特に気に留めることもなく取っ手に手をかけた。その時だった。 「齋藤さんちょっとヤバくない? あれ正直もう人間じゃないよ」 「あー、分かる。なんか同じ空間にいてキツいよね、なんかこう、しんどいっていうか」 「きっと私らみたいな連中のこと下に見てるんだろうね、やっぱり」 ピタリと、手が止まった。 嫉妬だ。その感情は痛いほど理解できた。だがそれ以上に自分の中で何かがパンと弾け飛ぶのが分かった。 大人ぶってカッコつけて感情をコントロールしようとしていた自分なんてどこかへ吹っ飛んだ。

桜の咲く時 彼を思い出す

注意 これは私が経験した事が書いてあるので… 気をつけて読んでください 今日は、彼に会うのが最後の日 彼は、元気いっぱいでギャップがある人だった 私は最後の日だから告白をした、最後の日には、公園に行く道中に、手を繋いだりしたら、彼は、顔を避けていた、でも最後の最後にハグをしてくれた…またどこかで会える時には、また会いたいと思う私だった…… 桜が満開の時期 桜を見ると何故か、彼を思い出した…心は、ボロボロになった、私にとって彼と遊んだ日々が…幸せの時間だったと思う…また会えたら、笑顔にしてくれるか考えてしまう… また会えたら、笑えますように……

冷たい雨

何というのではなくて けれど、ただただやけに苦い不安と これがずっと続くのかっていう怖さと それでもおなかは空いちゃう不思議 無理に人とたたかう必要はないけれど 自分とはたたかわないとならなくて 手強いなあ自分って 弱っちいくせにさ 寒いから心細いのかもしれない 心細いから寒いんじゃない 夏だって、とり残されたりはするんだから クリスマスも、大晦日も、お正月も ただの一日にすぎないのに やけにその日のことは待ち遠しかった その日は冷たい雨だった 雨が雪にかわったら あなたに会いに行こうと思っていたのに なかなか雪にならなくて だから、わたしは、ほとんどあきらめていた この雨が雪にならず雨のままでいてくれたら あの子に会いに行こう そうあなたが思っていてくれたらと 寒く暗い夜空を見上げると 輝く雪が落ちてきた

PV0小説の使い方

 小説投稿を始めて一ヶ月。  いまだにPVはゼロである。  もはや笑っちゃう。  どれくらい笑っちゃうかというと、草津温泉に行こうとして滋賀県草津市に着いちゃった人を見た時くらい笑っちゃう。    だが、物は考えようだ。  PVがゼロということは、誰も見ないプライベート空間が誕生したと言っていい。  つまり、登場人物の会話で、こんなこともできちゃう。   『ハルカのどこが好きなの?』 『うーんと、可愛くて優しくて話をよく聞いてくれて歴史好きな趣味も合うところかな』 『えーいいじゃん』 『そんな会話が聞こえてきた』    どうだ。  道ですれ違ったモブキャラに、唐突にリアルの好きな人ハルカさんを褒め殺しさせる。  名付けて、パブリックプライベート告白。    世界広しといえど、こんな安全なスリリングを楽しんでいるのは自分だけだろう。    テンションが上がってきた。  なんだか楽しくなってきた。    先輩への愚痴。  家族への感謝。  政治家への不満。  スーパーの可愛い店員さんへのラブコール。  何でもかんでも書き放題。  人に聞いてもらいたいけどプライドが邪魔して話せなかった言葉が、するする書き起こせていく。    すごい、これはすごいぞ。  ぼくは一晩中書き続け、気づいた時には寝落ちしていた。        翌日。  目を覚ますと、ぼくは人生初のバズを経験していた。  なんと一日で十万PV超えの大バズり。  感想の数も、ひい、ふう、みい、……数えたくもない。    スマホを見れば、通知がたくさん。  そのうちの一つに『ハルカさん』。    終わった。    ぼくはパソコンの電源を落とし、スマホの電源を落とし、全人類の癒し空間であるお布団へと逃げ込んだ。  そう、これは夢だ。  悪い夢なんだ。  悪ふざけなんてなかったんや。

二人セゾン

数年前、同じアイドルの同じメンバーが好きというきっかけで、SNSで意気投合し、仲良くなった女性がいた。 彼女とは、アイドルをきっかけにお互いのプライベートな話をするようになった。 色々話すうちに、何となくお互いが気になっている感じがしていた。 でも今思えば、特別な出会いなんかではなく、ありきたりなネットの恋愛の始まり方だったと思う。 そうとも知らず、当時高校生だった俺たちは、互いに顔写真を送り合ったり、ビデオ通話なんかもした。 顔を知ったことで、お互いの相手への思いがより強くなったのか、それから間もなくして付き合うことになった。 その日から、とにかく毎日が楽しかった。 付き合って間もない頃、いつものように電話をしていると、電話から聞こえる彼女の声のテンションが、いつもより低いのはすぐに分かった。 訳を聞いても、歯切れの悪い返事ばかりだった。 その日は、そのまま電話を終えた。 様子のおかしい原因が気になっていたが、次の日の電話で、 「本当はもっと早く伝えるべきだった。ごめん」 と、今にも泣きそうな声で言われた。 状況が分からない俺は、とりあえず落ち着くよう言った。 数分の沈黙の後、彼女が震えた声で話し出した。 「中学の頃に、二つ上の先輩に片思いしていたことがあって。先輩は頭が良かったから、よく勉強を教えてもらってたの。いつもは図書館だったけど、その日は先輩の家で勉強することになって……。部屋に入ったら、ベッドに押し倒されて、乱暴されて、無理やり……」 そこまで話しきる頃には、彼女は泣いていた。 俺は、彼女からゆっくりと放たれる重い言葉に、ただ「うん」と相槌を打つことしかできなかった。 彼女は黙り込み、俺もかける言葉が見つからず、長い沈黙が続いた。 沈黙を破ったのは彼女だった。 「それから、男の人と話すのがすごく怖かった。でも君は違うの。些細なことでも心配してくれる。ちゃんと私のことも考えてくれる。だから君とは、ずっと一緒にいたい。自分勝手な私だけど、ごめん」 そこまで話し終えた彼女に、俺は「心配しないで。大丈夫だよ」としか言えなかった。 彼女の告白から半年くらい経った。 些細な喧嘩や言い合いもしたが、二人の気持ちだけは変わらなかった。 変わったのは、世界だった。 未知のウイルスが世界中で大流行した。 彼女の両親は同じ職場で、パンデミックの影響で二人とも自宅でのリモートワークとなり、一日中家にいる生活が続いた。 俺の両親は、田舎で人が少ないこともあってか、影響は受けつつも変わらず仕事をしていた。 彼女の父は、過去にあったこともあってか、娘が男の人と親しくすることを拒絶するというか、過度に心配していたという。 故に、俺との関係のことを言えるはずもなく、知っているのは彼女の母だけだった。 家にいる父の目を気にしてか、次第に電話をする回数も減っていった。 久しぶりの電話も、何となく彼女が冷たく感じた。 俺は、少しだけ不安に感じていた。 その募る不安をどこかに吐き出したくて、それっぽい文章と写真を、どうせ24時間で勝手に消えるからと思いつつ、SNSに投稿した。 投稿後も彼女は特別変わりなく、相変わらず少し冷たく感じるだけだった。 数日おきの電話も、週に一回程度になり、その後はほとんどしなくなった。 その間、メッセージのやり取りもほとんどなく、ただ時間だけが過ぎていった。 五月の初旬、彼女から「今夜、電話しない?」と言われた。 これから起こるであろうことに、俺は覚悟を決めた。 別れようと言われたら、素直にそうしようと。 最後に優先すべきは自分ではなく、相手の気持ちだと。 当時の自分では、カッコつけたつもりでいた。 電話をしてみると、別れ話ではなく、この前の俺のSNSの投稿についてとがめられた。 俺の不安を吐き出した投稿が彼女に伝わっていたらしく、その真意を問われた。 俺は、ありのままを話した。 一通り話し終えるまで、彼女は黙っていた。 俺が話し終えると、彼女から別れを告げられた。 理由は言われなかったと思う。 もしくは、ショックで覚えていないだけかもしれない。 覚悟を決めていたが、いざその場面になると動揺は隠せなかった。 でも、すぐに承諾したと思う。 それが最善だと思ったから。 あっさり身を引く方がカッコいいと思ったから。 こうして、俺たちは別れた。 二人が春に出会い、夏に結ばれ、そして春に別れた。 これまでに感じたことのない難しさと儚さ、そして、ときめきを感じたのは確かだと思う。 結局、一度も会えずに終わったから、大した思い出もなかった。 お互い、考えも行動も子供過ぎたのかもしれない。 まだ未熟だったから。 でも、ふとしたときに思い出すと思う。 死ぬまで忘れない。 だから、この出会いこそが思い出なのかもしれない。

0321

朝焼けくゆるあなたの火 一人散らすそれを それでも、幸せを願っています。 敬具

境界に惹かれて (掌編詩小説)

普通と異常について考え込むと、その中にある『境界』に魅力を感じてきませんか? 県境に片足をそれぞれ置いて、体重を乗せ変えたりするみたいに どっちつかずと言われたら、それまでではあるけれど、そんな境界に惹かれる そういや、黄昏時というものに魅力を感じる 夜明け前の、カーテン越しの朝日というものも魅力を感じる そして今日もまた、そんな『境界』たちを感じたい (完)

論点をすり替えるな

「おーい、論点すり替えないでもらっていいですかー?」    まただ。  こいつは、論点のすり替えという指摘を、口癖のように言うようになった。  正直、自分の中では論点がすり替わってなどいないので、こいつの言葉の意味が分からない。  だから、聞いてみることにした。   「ごめん、自分ではすり替えたつもりがないからわからない。すり替える前の論点と、すり替えた後の論点を言語化してくれない?」 「え?」    そいつは腕を組んで悩み始めた。  あーでもない、こーでもないとうめいた挙句、最後には俺をにらみつけてきた。   「論点をずらすな!」    そして、走って逃げていった。  きっと、自分でも論点がわかっていなくて、ふわっと何かが違うと思ったから、反射的に口癖が出たのだろう。  理由が分かってすっきりした。    俺はすがすがしい気持ちで家に帰り始めた。  せっかくだ、途中でカフェにでも寄って帰ろう。

行動無き善行と行動する悪行

世の中悪行だけが実行され善行する者は行動 せずな矛盾は溶けて上下左右に伸びた魔法の 絵の様に正解不正解か判断するのも既定冴え 疑問と疑念が広がり全体図が把握出来ず日々 同じ場所を廻る駒の様だ色彩が有れば明るい 絵が描けるのでしょうか茶色と黄緑と灰色は 全体が鬱蒼する弱肉強食の世界で真の勝者が 貰える物は小判か紅葉か狐と狸の化け試合に 何の意味が有るのか解らず無駄な贅沢ばかり 覚え止まってる時計は何時動くのだろう

可惜夜

 今俺の目の前にいるのは、一年前に別れた彼女。  喧嘩別れというか、すれ違いで嫌われて碌に話すこともできないまま当分顔も見ないでいた。  ここは夕暮れの教室で、窓の外には瓦礫の街が広がっている。  今日、突然怪獣が現れて街はみるみる崩壊した。  空の色はなんと言うか、茜色などと言う月並みなものでは表現しがたく、まるで黄金に輝いていた。  きっと目の前にいる人物が俺にそう錯覚させているのだ。  彼女は黙って窓の外を眺めている。  俺に気づいているかもわからない。  そう言えば彼女は雲を眺めるのが好きだといっていた。  俺は黙って彼女の隣に立ち、同じ景色を眺める。  お互いに何も言わぬまま。  瓦礫の街はやけに静かで、でもそこは確かに非日常ではあるのだが、とてもとても綺麗だった。  忘れようと努め、忘れかけていた彼女のその姿の隅々までよく見える。  彼女は黙って俺の腕と自分の腕とを絡めた。  その時俺は思い出した。  当時気づきもしなかった感覚。  人は好きな人と二人でいる時、この世界で自分だけが特別であるかのように感じるらしい。  まるで自分たちしか存在していないかのように、自分たち以外の時が止まっているかのように錯覚させるこの感覚。  きっとこれが幸せと言うのだろう。  確かにあの時は、周りが黄金のように見えていた。    俺と彼女の物語。  夢落ちのような酷い物語。  君は突然俺の前から姿を消した。  こんな話誰が好き好んで読むのだろう。  いや、俺だけが読んでいればいいのだ。  少し寂しいが、誰にも理解されなくてもいい。  きっと誰も理解できはしない。  この物語には、月並みな言葉の一つも相応しくない。  どれだけ彼女が俺にとって特別な存在だったか。  いずれ俺も読めないほどにインクは掠れ、ページはクタクタになっていくのだろう。  それなのに、俺は忘れようと努めた。  隣にいる彼女に温度はない。  ああ、どうやらここは、可惜夜のようだ。

ワンシーン 4

夜の埠頭、灯台のサーチライトの死角を選んでKとHは抱えてきた段ボールを下ろした。 丁寧に開封し、家庭用にしては大きめな水槽から彼女を抱き上げた。 「悪いな、窮屈な思いさせて」 彼女、子どもの人魚はフルフルと首を振った。 人魚の肉を食べると不老不死になる。そんな口伝を信じた金持ちの手先に捕まった可哀想な子ども。 救いを求めてきた彼女の親からの依頼を受け、どうにかこうにか取り戻してきた。ここで引き渡しだ。 「〇〇〇〇〇」 何か言おうと口を動かしているが、彼女の言葉は陸では伝わらない。しかし、 「わかってるって」 とKは優しく微笑んだ。その言葉もまた、彼女に届かない。 彼女は少し思案し、やがて何か思いついたような表情をすると同時に、自らの鱗を剥がし始めた。 「何やってんだよ!」 Kが慌てた。鱗を剥がしたところからほんの少しだけ血が滲んでいる。 「…人魚の鱗は幸運のお守りだと聞いたことがあるよ」 Hが察したように言った。 「お前…」 彼女は4枚の鱗をHの方に差し出した。 「確かに」 それを丁寧に受け取り、帽子のつばを軽く上げて謝意を示す。 Kは彼女を抱えたまま複雑そうな顔をしていたが、 「もう捕まるんじゃねーぞ」 と祈るように声をかけ、海中に姿を見せた彼女の両親の元へと彼女を返した。 手を大きく振って帰って行く家族を見送り、Hは鱗を一枚、Kに差し出した。 そっと受け取り、月明かりに照らす。 オーロラ色に輝く美しい鱗。 「人間ってのはどうしてこうも不老不死になりたがるんだろうな」 つい吐き捨てるように言った後でHも人間であることに気付き、Kは気まずそうに黙った。 謝るのも違うし、そのまま続けるのも違う気がして。 「僕はね」 Hが静かに口を開く。 「今まで不老不死なんてものに必要性を感じたことがなかったんだ」 そう言ってKと同じように鱗をかざした。 「でも最近は少しだけ、そうありたいと思ってしまう時があるよ」 永遠に近い時を生きるKとA、死ぬことのないC。間違いなく彼らを置いて自分は先に逝くだろう。 それは寂しいしつまらないな、と思う。 「お前は人間として死ねよ。んで、生まれ変わってまた珈琲持ってウチ来いよ」 あくまでも軽く、Kが言う。 死ね、と言われたことに少し驚くが、同時にKらしくもあり、Hはふふっと笑った。 「そうしよう」 水槽に残った水を海に流し、2人は来た道を戻っていく。

ワンシーン 3

くたびれたトレンチコートに黒いハット、火のついていないタバコを咥えたいつもの装いでHはその部屋のインターフォンを鳴らす。 「どーぞー」 可愛らしい少女の声を待って、扉を開けた。 「やあ」 ひらりと片手をあげ、いつもの面々に挨拶をする。 勝手知ったる仕草で帽子とコートを所定の場所に掛け、 「美味しい珈琲が手に入ったからね、お裾分けに」 と紙袋を軽く掲げた。 「お、いいねぇ」 筋トレをしていたAが食いついた。HとAはいずれ劣らぬ珈琲好きである。 「ラテでもいけるらしい」 とブラックが苦手なKとCにも告げる。 「あら嬉しい♪」 Cは弾むように応えて、 「早く早くっ」 とKをせっついた。 「わーったよ」 仕方ない、というふうにKが立ち上がる。 さほど珈琲通でもないのに、どうしたことか彼が淹れる珈琲は絶品なのだ。 「うちも道具にはこだわってるつもりなんだけどねぇ」 Hはふむ…とKの仕事を眺める。 「いいアブラが出てんじゃね?」 「やだーおにぎり握ってんじゃないんだから」 Kの適当な返しにCが突っ込む。 冗談混じりに近況報告などをし合っているとあっという間に準備が整った。 「はいどーぞ。火傷すんなよ」 カップはそれぞれのお気に入り。雑貨屋の物だったりどこだかの土産物だったり友達の結婚式の引き出物だったり。 「そういえばいただきもののビスケットがあったんだわ」 Cがポンと手を叩いて立ち上がり、可愛らしい装飾の缶を持ってきて真ん中に置いた。 「これは…!」 「合うねぇ」 「マリアージュってこういうことを言うんだわ!」 「また持ってこいって言っとけ」 各々絶賛し、飾らないお茶会は続く。

今日からみなさんに、ちょっと「ありがとう」を禁止してもらいます #6

けれど、所詮はよせ集めの反政府勢力、限界があった 政府側は、国の様々な機関に属する人材を総動員した それにより武器の密輸ルートはつぶされた ローラー的に反政府勢力のアジトがあぶり出され、逮捕者がぞくぞくと増えていく 諸外国の理解も取りつけた政府側は その正当性を主張すべく、反転、攻勢に転じていく はたして、反政府勢力を鎮圧したのだった その結果、しぶしぶではあるのだけれど 国民は総じて、この法律を守ることになる そのしぶしぶの国民の総意を受け、総理大臣の記者会見が行われた 「多くの混乱もありましたが感謝禁止法を順守していくとの国民の声には  心から感謝する次第です、国民のみなさん、ほんとうにありがとう」 自ら法を犯した総理大臣は辞任 感謝禁止法は、即時、廃止となった

今日からみなさんに、ちょっと「ありがとう」を禁止してもらいます #5

国中が殺伐とした空気となった それでも守らないといけない、そういう法律なんだから 当然、反発はあるわけで、反政府勢力なるものも結成され 各地でデモやらなんやらが起こった いまの内閣をぶっ倒し、あの法律を廃止に追いやる、と なかには、これを機に革命までをも成し遂げる なんていう物騒な者たちまで出てきてしまう始末 そういった勢力は、当然、個々に戦っていたのでは勝ち目がない なんたって相手は国なんだから そこで話し合いの末、ひとつにまとまることになった 彼らは口々に 「同志よ、手を取ってくれてありがとう、感謝する」 と法律に反する言葉をあっさり口にした その様子はネットを通じ、動画配信された その動画を視聴した多くの者たちは、当たり前に 「ありがとう」 と言えることをうらやましく思い、次々と反政府勢力へと加わった そして、さらに「ありがとう」の輪が広がっていった

秘密の標本

「あら珍しい。父さん、元気?」  電話口から娘の声が聞こえる。 「週末、時間あるか。少し話したいことがあるんだ」 「うん、大丈夫。土曜の午後なら行けるよ。どうしたの?」 「いや、大したことじゃない。顔を見たくなっただけだ」  娘は少し笑って、わかったと言った。電話を切ると、私は書斎の棚を見上げた。  そこには背表紙に年号だけが記された黒いノートが、五十三冊並んでいる。「秘密の標本」とも呼ぶべきコレクションだ。  医師から余命を告げられた日から、私はこのノートたちの処分について考え続けている。     ****  最初の一冊は、大学時代に始まった。親友が酔った勢いで漏らした告白──好きな女性の名前、抱えていた借金、父親への憎しみ。  翌朝、彼はきっと忘れているだろう。でも私は忘れられなかった。だからノートに書き留めた。それが始まりだった。  教師として三十年。隣人として、友人として、私は人々の秘密を「聞いてしまった」。  職員室での同僚の愚痴、保護者面談での家族の事情、喫茶店で偶然耳にした他人の会話。  人は私に秘密を打ち明けたがった。  ノートには日付とイニシャル、そして秘密が几帳面に記録されている。  それは私なりの「人間理解」だった。秘密を知ることで、人の本質が見えると信じていた。     ****  しかし今、これらをどうすべきか。  燃やすべきだろうか。だがこれは私の人生そのものでもある。  誰かに託すべきか。それは秘密の裏切りになる。  迷いながら、私は一冊のノートを手に取った。一九九五年と書かれている。  ページを繰っていくと、妻のイニシャルが目に入った。 「M.T.は言った──  あなたは人の秘密ばかり集めて、自分のことは何も話してくれない。私はあなたの妻なのに、あなたを知らない」  指が震えた。これは秘密ではなかった。妻の訴えだった。  なのに私は、それを一つの「標本」として記録し、理解した気になっていた。そして何も変わらなかった。  あの夜の台所の光景が蘇る。 「ねえ、あなた。人の話ばかり覚えてるけど、私のことは覚えてる?」 「覚えてるよ。そんなことしつこく言うな」 「覚えてるって言うけどね、私には“あなた自身”が見えないの」  妻はそう言って、少し笑った。  私にはその笑顔の意味が分からなかった。いや、分かろうとしなかったのだろう。  妻は五年前に亡くなった。最期まで、私は自分を見せることができなかった。  私は最後の一冊、二〇二五年と記された新しいノートを開いた。白いページに初めて「自分自身の秘密」を書く。 「私は人を愛する方法を知らなかった。  秘密を集めることで人に近づいた気がしていたが、それは一方的な覗き見だった。  私自身は、誰にも触れられない場所で標本を眺めていただけだ」  深く息をついてペンを置き、私はすべてのノートを庭に持ち出した。  焼却炉にノートを一冊一冊投げ込む。ノートは、ゆっくりと炎に包まれていく。  人々の秘密が、煙となって消えていく。  五十二冊まで投げ込んだ後、ただ一冊、最後のノートだけは残した。     **** 「明日行くけど、何か必要なものない? 買い物してから向かうよ」 「ああ、そうだな。牛乳が切れていたかもしれない」 「わかった。他には?」 「いや、それだけで十分だ」  明日、娘が来たときにこのノートを渡そう。私の唯一の、本当の標本として。  秘密のコレクションは終わる。初めて、誰かに自分を見せることができる。  遅すぎたかもしれないが、それでも。

ティーカップ

 外は風が強くて、木々がざわざわと鳴いていた。  冬の初めの空気は乾いていて、ひとりでいると、なんだか胸の奥まで冷えてくるようだ。  食器棚の奥から、久しぶりにあの箱を取り出した。紺色のビロードの箱。中には磁器のティーカップとソーサーが二客眠っている。白地に淡い金の縁取り、小さな花々と緑の葉。指でなぞると、ひんやりとした磁器の感触が伝わってくる。  これを最後に使ったのは、いったいいつだったろう。たしか、夫が亡くなる少し前──二人で小さなケーキを分け合って、おしゃべりをした午後だ。  その夫が、このカップを買ってくれたのは初めての結婚記念日だった。新宿の百貨店で、私はお小遣いの範囲で買えるものを見ていたのに、彼が「どうせならいいものを」と言って、ずいぶんと高いティーカップを差し出したのだ。 「他のは少しずつ揃えような」と、彼は言った。  けれど、息子が生まれ仕事に家事に追われるうちに、そんな余裕はなくなってしまった。  あのブランドも、日本から撤退したと聞いたとき、夢がはじけて消えてしまったようで寂しかった。  そんな思い出をたどっていると、玄関の方から声がした。 「ふみさん、ただいまー。英国展、すっごい行列でしたー」  息子の嫁、佐和子さんが息を弾ませて入ってくる。手には百貨店の紙袋。 「さすが人気の店、スコーンが残り二個。危なかったぁ」 「あなたにお任せして正解ね、行列っていうだけで私はパス」 「ふみさんのためなら、並ぶのなんてなんのそのですよ」 「はいはい、口のうまいこと」  思わず笑ってしまう。ほんとにこの人は、いつも調子がいい。 「ご指定のクロテッドクリームもありましたよ。  このレモンケーキも美味しそうで地下で買ってきました」 「まあ、素敵。じゃあ、お茶を入れましょうか」  佐和子さんがスコーンと焼き菓子をトースターで温める。今はリベイクというらしい。  ケトルが小さく唸り始め、湯気が立ちのぼる台所に甘い香りがただよう。  私はそっと、さっきのティーカップをテーブルに置く。 「あら素敵なカップ。初めて見ました」 「とっておきよ。普段使いは絶対ダメ」 「取り扱い注意ですね」  佐和子さんは「ふふ」と笑って、温まった菓子とスコーンを皿に並べ、ジャムとクリームを添える。気づけば、テーブルには可愛いブーケも飾られている。 「さあ、ふみさん。  アフタヌーンティーのお支度ができましたよ」 「素敵……本当に百貨店のティールームみたい」  カップを持ち上げる。軽い。薄い磁器が光を透かす。口をつけると、懐かしい感触が唇に触れた。  温かいスコーンに、佐和子さんが驚くほどクリームを盛り、ジャムをのせて頬張る。  佐和子さんの手作りジャムは、甘味と酸味のバランスが丁度良く、クリームと共にスコーンの小麦の味を引き立てる。  そこでまた紅茶を口に含むと、香りが鼻に抜けていく。 「美味しいわ」 「良かった。ふみさんが喜んでくれて」  手にしたティーカップを、そっと手で包み込む。 「これね、結婚記念日にって夫に買ってもらったの。  若い頃はね、これでアフタヌーンティーをするのが夢だったのよ」  ティーポットからおかわりを注ぐと、紅茶の香りがふわりと広がる。琥珀色の液体の向こうに、昔の私がうっすらと見える。  忙しくて余裕がなくて、それでも楽しかった日々。初めてのアフタヌーンティーは、ティーパックの紅茶に、駅前の和菓子屋さんで売っていたカステラ。  イギリス映画の中に出てくるティースタンドに憧れたけど、夢また夢。せめて雰囲気だけでもと、背伸びして買ったティーカップ。  小さなちゃぶ台にそれらしく並べて、二人で笑いながらお茶を飲んだ── 「ふみさん、夢は叶ったじゃないですか」 「そうねえ、美味しいものばかりで嬉しいわ」  ティーカップの金の縁取りが光を受けて、ほんのり輝いている。湯気の向こうで、佐和子さんが笑っている。その笑顔を見ていると、ほんのりと心が温まる。  夫のいない寂しさは、消えることはない。でも、その隙間をそっと埋めてくれる人がいる。 「おいしかった。……買ってきてもらったの、全部食べちゃったわね」 「大丈夫、レモンケーキ残ってますし。  一雄さんには栗きんとんも買ってきました」  息子が紅茶よりは緑茶が好きなことをわかってる、さすがは佐和子さん。この人がいて、本当に良かった。 「ふみさん、今度ホテルのアフタヌーンティー行きましょうよ」 「嫌よ、混んでいるんでしょう」 「予約すれば大丈夫ですよ、マダム二人でおしゃれして楽しみましょうよ」 「あら、あなたマダムになれるの」 「……努力します」  笑い声と紅茶の香りが、やさしく部屋を満たしていく。  昔の約束の続きを、ようやく果たしているような気がした。

今日からみなさんに、ちょっと「ありがとう」を禁止してもらいます #4

スーパーや街の商店なんかで買いものをしてみる 店員は 「ありがとうございます」 とは言わない 頭を下げるのも感謝の意味になるのでそれもなし ただ無表情で簡潔に作業をするだけ アンドロイドがやっているみたいでなんだか不気味だ 電車やバスに乗ってもおんなじこと 「ご乗車まことにありがとうございます」 とはならない タクシーに乗ったら、運転手がムスッとして横柄な態度 え、なになに、タクシーはこの法律ができる前も同じだって まあ、それは言わないで 学校で、落としてしまった消しゴムをとなりの生徒が拾ってくれても 「あんがとねー」 「サンキューサンキュー」 「いやいや、すまんな」 とも言えない これじゃあ、気になる女子のとこにわざと消しゴムを落として それをきっかけにお近づきに、なんてことができなくなってしまう

今日からみなさんに、ちょっと「ありがとう」を禁止してもらいます #3

各メディアは、その法律について 成立してしまったあとになってやっと取り上げはじめるといった具合 そういった意味では、メディアにだって責任の一端はあるはずだ 割を食うのはいつでも国民 寝耳に水の状態となり、一時、混乱を極めた しかし、国民も国民だ なってしまったものはしかたがないと、受け入れる者が後を絶たない なんたること 政府の側も、あきらめがいい国民のことをちゃあんと理解している 感謝禁止法に関して、メディアが取り上げる機会も、人々が会話のネタにすることも だんだんとすくなくなっていった 感謝というのは日常生活に深く根づいたもの 果たして国民の生活はどう変化していくのだろうか

プロポーズ

 千鶴子と初めて会ったのは初夏の河川敷だった。  直樹が二十一のときで、工場の先輩に無理やり誘われて参加したバーベキューの場だった。肉の焼ける匂いといくつもの煙草の煙が交錯するなか、千鶴子は瓶ビールをラッパ飲みしていた。その所作は遠慮のかけらもなく、だが下品でもなかった。目が合うと「おいしいよ」とだけ言って、また瓶に口をつける彼女だった。  あれから十年が経とうとしている。  年に数度は二人で飲みに出掛けたり、遠出をしてドライブに行くこともあった。会うたび束縛気質の彼氏に辟易していると愚痴を聞くのも、いつだって二人きりだった。 「彼氏にバレたら大目玉だよな」 「刺されるかもね」  いつだって誘いの連絡をいれるのは直樹からで、逆に彼女が誘った回数なんて片手で数えられる程度だった。  互いに踏み込まない距離が、空気のように続いてきた。  直樹は不思議だった。なぜ彼女は自分と距離を取ろうとしてこなかったのか。人付き合いが多く、誘いの連絡がひっきりなしにくる彼女だから。そう思い続けてきた。 「……だからね、言ってやったのよ。結婚してくれるなら考え直すって」 「え?ああ」  その日もドライブだった。ハンドルを握る手が汗ばんで、動悸が強く打った。彼はなんとか笑って誤魔化した。  半年後、千鶴子から彼氏と別れた話を聞いて、直樹は決断した。  ――居酒屋で飲むのでも、旅行に誘うのでもない。ただ公園のベンチに呼び出した。  木々の葉は色づきはじめ、足元にはいくつかの紅葉が転がっていた。 「急にどうしたのよ」  千鶴子はベージュのロングコートに腕を通しながら、白い息を漏らした。 「寒いね。こんな日によく外に呼び出したもんだわ」  ベンチの隣りに座った彼女へ直樹は缶コーヒーを差し出した。自販機で温められたそれは、人肌ほどの温もりしかなくて千鶴子は受け取るとすぐにプルタブを捻った。 「十年。長いよな」 「なによ、急にしみじみしちゃって」 「うん、いや。お前と会うようになって、十年だって気づいたんだよ」  会話はぎこちなく、だが他人行儀ではなかった。そうした話し方が二人の関係の輪郭を象ってきた。  陽が傾きはじめる。風のなかに金木犀の匂いがうっすらと混じった。 「俺さ、誰かと生きていくの、向いてないと思ってた」 「うん。知ってる」 「お前にも何度か、そんなこと言ったと思うけど……」  そこで一拍、言葉が止まった。  千鶴子はコーヒーを置いた。空になっていた。 「やっぱりな、そうでもないかもなって思うようになって」 「ほう」 「お前となら、暮らしてみてもいいかもって、思うようになった」 「……ほう」  直樹の言葉は、どこか手順を間違えた告白のようだった。  沈黙を破ったのは千鶴子の笑い声だった。小さな皺が寄る頬に、彼女の年齢、ひいては二人が過ごしてきた時間が刻まれてると思った。 「で、どうしたいの?一緒に住む?それとも……」 「籍を、入れようかと思ってる」  風がまたひとつ、木の葉を舞い上げた。  千鶴子はコートの襟を引き上げた。目を伏せ、足元の小石をつま先で蹴った。 「なんで今なの?」 「なんでって……。いちいち言葉にしてたら、間に合わないことばっかりになる」 「ふうん……」  千鶴子は長く息を吐いた。空には秋色に染まったうろこ雲がのびていた。 「あなたさあ、これが一世一代って顔してるけど、そうでもないわよ」 「……」 「まあ、正直驚いてるし、なんて言ったもんか分かんないけどさ」 「俺はたぶん、お前を逃したら次はないと思ってるんだ」 「そんなことないと思うんだけどねぇ。女なんて星の数ほどいるのよ」  直樹は功を焦り「応えは?」と迫った。 「即答しろって?」 「いや、いま答えなきゃ。この流れ、二度と戻らないかもしれないぞ」 「それはズルいな」  千鶴子は立ち上がり、二人分の空き缶を持って何も言わずに歩き出した。  直樹もそれに続く。彼女の後ろ姿を見つめながら内心泣きそうだったし、僅かばかり目頭が熱くなってるのを、女の勘は知っていたかもしれない。  彼女の住むマンションの前まで辿り着いて千鶴子が振り返った。 「ま、考えとく。またね」  直樹は笑って、「おう」とだけ返した。  千鶴子の姿がエントランスに消えた途端、直樹はその場に座り込まずにはいられなかった。  どうにでもなれ。  コンビニでウイスキーを買った直樹は、ラッパ飲みをしながら歩き続けた。それはいつか、初めて千鶴子を見た時、瓶ビールをラッパ飲みしていた彼女に似ている。  他人と一緒に生きる彼女は想像に難くない。出会ってすぐの頃も、千鶴子はまた別の男と同棲していたし、その男とも彼女を介して顔なじみだ。  千鶴子が自分から離れてしまう現実感ばかりに苛まれながら、直樹はただ応えを待つ他ないのだった。

溶けた消しゴム

 ぐっすり眠るためにアラームを切ったのに、起きたのはいつもと同じ時間だった。足元の窓から覗く空は灰色だ。  体には眠気が残っているのにどうしてだか意識だけが冴える。心臓の拍動ばかりが内に響き、警告を発しているかのようだ。  いくら夜更かしをしても、いくら寝不足でも、平日と同じ時刻に起きてしまう身体の癖は、習慣の一言で片付けるわけにもいかず、なんとなく異様な気がしてならない。  昨日は朝早くからサウナと岩盤浴に行って整えたはずだった。調子に乗って夜遅くまで起きていたのがいけなかったのだろうか。  しばらくベッドの上でショート動画を見る。1時間ほどしたところで這い出したが、重力とは別に、胃のあたりに鉄球のような重さを感じた。  コーヒーを無理やり流し込む。読みたくて堪らなかった『汝、星のごとく』を開いた。昨日は意識がこびりつくほど読めたのに、今日はページだけが進んで行く。なのに不思議と内容がわかるのは凪良先生の手腕によるものだろうか。  けれどそれも長く続かない。急にそっぽを向く幼稚園生のように、物語が私と距離を取る。触れようと手を伸ばしても払い除けられるばかりで、私は諦めた。気分を変えようと、『消滅世界』を本棚から取り出す。村田先生が書く小説は異様な世界設定のものが多い。だが、そんな狂気も今日は私を上書きしない。同様にしばらく読んだところで急に突き放されてしまった。  気散じに日記をとりまとめようとしたが、点で駄目である。自分の文章すら読みたくない。  煩悶していると、数ミリ大の蟻が机の上を這っている。私は舌打ちをして掌で叩きつぶした。衝動でコーヒーが少しこぼれた。ゴミのように丸まったそれを指の腹にくっつける。ゴミ箱に捨てようとするがなかなか落ちない。親指で擦るように払おうとするうちに潰れて蟻酸の匂いが付着した。  他に何匹もいるみたいだ。  どこから湧いているのだろう。読みかけの本や書き途中の原稿用紙をどかす。まるで庭先の石をどかしている心地だ。その下には大抵、ダンゴムシやらムカデやら、およそこちらを不快にする虫々がいた。  本の下に蟻はいなかった。  力なく椅子に腰掛ける。溶けた消しゴムを思い出す。あれは小学4年生の頃だったか。そこは日の光が入らない教室だった。空白ばかりが目立つところで、窓際にはストーブが置いてあった。その周りは鉄柵が敷かれていて容易には触れない。なのに、ストーブの頭にはチーズのように溶けた液体があった。よく見るとそれは消しゴムだった。  体に力は入らないのに、性欲だけは湧いてくる。後処理が面倒なので風呂場で抜いた。こんな気分なのに連続で二回達した。続け様に冷水を頭から浴びる。足先に厚底で踏まれたような痛みが走ったが、すぐにお湯をかけてやるとやわらいだ。  何も食べる気が起きず、でも何か食べた方がいいだろうと思って、食べずに残っていたブルーベリーを冷凍庫から引き出した。レンジで解凍し砂糖をまぶす。なんだか物足りない気がするのでキウイを輪切りにして乗せる。  別に美味くはなかった。  そのまま自室へ戻ってベッドへ潜りこむ。目的もなく動画を見ていると、だんだん意識がぼんやりしてきた。涎が手に垂れ腕を伝う。慌ててずずっと吸うが枕に染み込んでしまった。ひどく臭かった。  少し眠ればスッキリするだろうと考えて、仮眠をとった。このまま夕方まで寝てしまうのもたまにはいいだろう。だが、体は正直で20分ほどで目が覚めてしまった。  眠りが浅くなってくると胸のドクンドクンという感触が大きくなって不快になり起きてしまう。また眠れるだろうかとしばらくぼんやりしていたが、腰が痛くなって起き上がった。  日が沈み出した頃、ベッドに寝そべると、窓から青空の光が部屋に注いで視界がわずかに青くなった。冷たい川の底にいる気分になった。  そのおかげか、HIITだけはできた。今日唯一できたことだった。疲れた体に鞭を打ってやった甲斐もあり、少し晴れ晴れとした。額から出る汗が頬を伝い顎から落ちる。フローリングに点々となる汗は黒ずんで見えた。  拭き取るのも面倒くさく、そのまま蒸発してしまえと願った。  夜になるにつれ膝が成長痛のように痛む。何度も足を組み替えたり、立ったり座ったりと落ち着かない。すがるような気持ちで頭痛薬を飲んだ。  どうしても読みたかった小説を今日は読み進められていない。  乾いて固まった背中をググッと丸める。肩甲骨のあたりからひび割れが入ったように感じる。そのまま蝉の羽化のように別の何かに成れるのではないかと期待する。  今朝の潰れた小さな蟻のように、私は机に突っ伏したままでいる。

今日からみなさんに、ちょっと「ありがとう」を禁止してもらいます #2

「感謝の時間はムダです、そんなのに時間をかけてはいけない  時間のムダは、めぐりめぐって経済的損失につながる  感謝の言葉を口にする時間があったら、そのぶんを仕事にまわす  一回一回の感謝の時間はわずかだが、一日で考えたらケッコーなものだ  一ヶ月ではどうだ、一年ではどうだ。感謝なんぞにあてている多くのムダな時間を  仕事に、生産に、経済の発展にあてていく  そうやって積み重ねていくことで、この国は大きく発展していくのです」 とかなんとか、どこそこ選出の浅慮な国会議員のそんな言葉がきっかけだったのだが まったくもって不運なことに、そのどこそこのアレがいまの総理大臣だ 国民としては、たまったもんじゃあない いま大きく話題になっている汚職事件にも当然のように名前が見え隠れしている人物 感謝禁止法を成立させるのにも大金をばらまいたんだろう

今日からみなさんに、ちょっと「ありがとう」を禁止してもらいます #1

もはや恒例イベントとも言える与党議員による汚職事件 国会でその問題を厳しく追及していかなければならない側にありながら けれど、ちぐはぐでつめがあまく高校の生徒会かと思わせる風情の野党ども その追及のありかたが国民の意に沿って真に厳しいものなのか それとも同じ国会議員であることからくる同属意識的な奇妙でゆるゆるの甘々な 言わばねこパンチ的なものであるのか しかし、ここでの主たるテーマではない 連日、テレビや新聞など多くのメディアで取り上げられているそれらの話題の陰で いまの国会でひっそり成立した法律があった その名も「個人の感謝の表現に係る制限及びその表現者の処罰に関する法律」 通称「感謝禁止法」