夜更かし (掌編詩小説)

お得な夜、都合の良い夜 レシートを家計簿に書き記す筆先は軽やかだった 買った物を眺めては、今日という日の肴にした こんな歳にもなって こんな物を買うのか と、言われる物でも私には満足のいく物なのだ 誰にも気づかれなくて良い 自分だけのひと時… 明日を人質にした夜と共に老けていく (完)

帰り道、君と

「あのさ、サキ。俺のどこが好きなの?」  相変わらずぶっきらぼうな隆太の横顔が、夕日に照らされている。  人気のない田舎の駅で、私と隆太は帰りの列車を待っていた。初夏の風が二人の背中をなぞる。  ……何を言っているんだろうか、この馬鹿は。 「三日前に振った女に対しての質問とは思えないのだけど」  隆太は鞄を右手で持ち直して、空いた左手をポケットに突っ込む。 「どうしても、聞いてみたくなって」  隆太の顔は真剣だった。  私は、精一杯、意味がわからないという表情を浮かべる。しかし隆太は向かいのホームを見つめたまま、少しも私のほうを向いてくれない。  ローファーのつま先で地面をコツコツと叩く。 「か、顔とか……」  そう呟いて横目で隆太の反応をみてみるが、眉一つだって動かない。表情筋の動かし方を知らないのだろう。ああ、本当に馬鹿。  隆太は不満そうな顔で答える。 「嘘はつかなくていいから」  嘘なんてついてませんが。誤魔化しはしたけれど。  私はどう返答したらよいか悩む。  仲の良い友人と恋バナをすると、隆太の好きなところを聞かれることがある。しかし、自信を持って答えられないため、毎回適当に返事してしまう。顔も、性格も、声も好きだけれど、その質問の答えとしては不正解だと思う。  何気ない日常に隆太がいてくれるのが嬉しい。だから、強いて挙げるなら、二人の時間が好きなところだろう。 「今みたいな、帰り道が好きだよ」  私はそう答えてみる。  目の前を通り過ぎる轟音。快速列車が通りすぎるまで続く少しの沈黙。通り過ぎても隆太は口を噤んだままだった。 「なんてね」  私は、何かを誤魔化すように愛想笑いをする。  再び訪れた沈黙。耐えきれなくなった私は、話題を変えようと必死に頭を回転させる。しかし、出てくる言葉はどれもつまらないものばかり。だから、一度捨てた言葉を拾って隆太にぶつけてみる。八つ当たり。 「やっぱり、隆太のことが好き、みたい」 「……そう」  隆太は勝手に満足したようで、頭をわさわさと振って、線路の続いている先を覗き込む。  何処から吹いてきたのだろうか。今度はまるで私だけを狙うみたいに冷たい風が背中をなでた。  隆太の好きな人は一つ上の先輩らしい。部活のマネージャーだと、照れた顔で呟く隆太の顔を思い出す。  私の知らない人。  私の知らないところで、私の知らない隆太が好きになった人。  あの日に置いてきた感情が戻ってきたのだろうか。どうでもいいことを考えたせいで、泣きそうになる。それでも、隆太に涙を見せるのはなんだか悔しいので、茜色の空を見上げて耐える。  どこか遠くで踏切の音が鳴った。  心の奥から溢れてくる感情に名前はあるのだろうか。  私は隆太の横顔を見ようとする。だけど、首が動かなかった。  私たちの乗る普通列車が到着するまで、あと十分。  二人だけの帰り道。  それで十分幸せだと、自分に言い聞かせてみた。

友達を叩いて渡る

 友達ができたら、試すことがある。  耐久力だ。   「ほんと、馬鹿だよな」    日常会話の中に、少しずつ否定を混ぜる。   「またデブになったんじゃねえの?」    未来の自分が失言しても、縁が切られないかを確認するために。   「ダッサ。俺なら恥ずかしくて死んでるわ」    叩いて、叩いて、確かめる。    大抵、皆離れていくが、望むところ。  親友になる前に縁が切れれば、自分の傷も浅くて済む。  親友になった後に縁が切れることほど、辛いことはない。   「初めまして」 「初めまして」    今日もまた、一人と知り合う。  俺は心の中で、かなづちを振り上げる。

大人ごっこ (掌編詩小説)

毎日決まった時刻に起きて 毎日決まった時刻に食事を摂って 毎日決まった時刻に家を出て 毎日決まった時刻に睡眠を取って …くだらない。そう感じている こんな生活を何十年も繰り返す事に価値を見出せない 何故、苦しみながら生きる事を選択し続けるのだろう (完)

一点差

学年末テストまで一週間をきった頃、クラス内が少しピリつく。 なぜならこの二年三組には、学年一位を争う二人がいるからだ。 一人は天才の女の子。名前は北さん。どうやら理系らしい。 もう一人は秀才の男の子。名前は南くん。文系らしい。 先ほど、争うと言ったが訂正する。南くんが北さんを敵視していると言った方が正しい。 北さんは天才だからいつもノー勉で学年一位。 南くんはたくさん勉強してギリギリ学年二位。 その差を埋めるには相当な努力が必要だ。 南くんは昼休みまで勉強している。 付箋だらけのワーク、何周したんだろう。 角が欠けてる赤シート、どんだけ使ったんだろう。 下校中にすれ違った時も、ブツブツ英単語を唱えていた。すごいな。 北さんは昼休みは友達と話していた。 下校中も歌いながら帰っていた。すごいな。 テスト当日。 私は一番後ろの席だから、二人がよく見えた。 南くんはたくさん見直しをしている感じだった。それに対し、北さんはテスト二〇分前には終わらせ、窓の外を見ていた。 テスト返却日。 国語 北さん 九六点  南くん 九八点 数学 北さん 一〇〇点  南くん 九五点 英語 北さん 九七点  南くん 九八点 社会 北さん 九五点  南くん 九九点 理科 北さん 九九点  南くん 九六点 合計 北さん 四八七点  南くん 四八六点 一位 北さん  二位 南くん 一点差だった。 この結果を見て南くんが一言。 「惜しかったな」 今にも泣きそうな顔。本物には勝てないんだと悟った顔だった。 私は自分の十二点のテストを机の奥に押し込んだ。 少しだけ頑張ることにした。

オレンジ

昨日まで毎日聴いていた曲を、 どうしても聴く気になれない。 思い出してしまうから。 東京から、雲の上を通って、 北海道に着いた。 改札で電子音が鳴る。 残高不足の文字が光った。 またやってしまった、と足を止める。 慌てて改札から離れると、 後ろの人は嫌な顔一つせず、 穏やかに通り過ぎていった。 誰も怒らない。 こんな世界線もあるのか、と思った。  改札を出て、バスに揺られること一時間。 着いたのは、雪に包まれた支笏湖だった。 湖の奥にある山は、降る雪で霞んでいる。 青、白、グレー。 心を奪われる。 「ちょっとそこの!黒い服の!」 声の方へ振り向くと、 二人がしゃがみ込んでいる。 「手伝って!この人、携帯落として。」 驚いて駆け寄り、 積もった雪を3人でかき分ける。 「これですか?」 スマホを雪の中から取り出すと、 持ち主がほっとした顔で涙ぐんでいる。 彼女は何度も英語で感謝を伝えてくれて、 バス停に向かった。 「いやあ、助かったよ。」 「あっ、よかったです…。」 私を呼んだ男性の手袋には、 りぼんをつけた猫のキャラクター。 私を見ているようだ。 「これ?孫がくれた。可愛いだろ。」 「あ、すみません。可愛いですね。 …えっと、ここのお店の方ですか?」 ログハウスの方を見る。 「そう。寄ってくか?」 私は少し迷ってから頷き、 その背中についていく。 中に入ると、木のいい香りがした。 「好きに座って。」 カウンターにメニューが置かれた。 「何飲む?雪かきのお礼。」 「じゃあ…コーヒーを。」 豆を挽く音だけが店内に広がる。 「……あ、あの。 私、東京に住んでて。 駅、人がすごいんです。 でも、困ってる人が居ても、 みんな見て見ぬふりで。 ……私も。 だから、ここはいいなって、思って。」 「そりゃ違うさ。」 挽いた豆にお湯を落としながら、 彼が言う。 「そっちでは熊は出ないし、 雪に埋もれることもないだろ。 こっちは下手すりゃ…な。」 彼は、ふっと笑った。 「だから放っておけない奴が多いのかもな。そっちは、それだけ便利なんだろ。」 私の前に、そっとコーヒーが置かれる。 「だからさ、図太く生きるのも悪くないよ。」 胸の奥を、そっと指で触れられた気がした。 見抜かれている、と思った。 「…いただきます。」 一口飲む。 苦い。そして、優しい。 目の前の景色が、柔らかくぼやける。 胸の奥が、熱い。 「ちょ、どうした。これ使え。」 男性が慌ててティッシュを差し出す。 「ごめんなさい。 えっと、美味しすぎて。 感動しちゃって。」 言葉にならず、涙が頬を伝う。 「大袈裟だな。 …ゆっくりしてって。」 彼はそう言って、暖炉に薪を足した。 火が少し大きくなる。 春になったらまた来ます、 と伝え店を後にした。 オレンジ色に染まる湖の前で、 ポケットから電話を取り出す。 指が少し震える。 「図太く。」 小さく呟き、発信ボタンを押した。 心臓が跳ねる。 携帯を耳に当て、 ただ、つながるのを待った。 「あ、もしもしーーー」

線路の跡

 その日の空は雲ひとつなく、青と白を混ぜて均一に塗られた天井のようだった。林の中の舗装された道の中心には、背の高い姿勢の良い木が行儀良く真っ直ぐに道の先へと並んでいる。林の中にはぽつぽつと別荘が静かに隠れている。奇妙なほど綺麗なそれらは異国の町から抜け出したような装いで、シャッターを下ろして眠っているようにも見える。しかし僕には、家の主でない僕に無関心を装いながらも警戒し軽蔑しているように感じてさっと視線を外した。  僕は俯きながら人気のないその道を歩いていく。かつて鉄道が走っていた道は、線路の跡もなくその名残は感じられない。  いつの間にか舗装された道は終わり、僕は枯れ葉の上をざくざくと音を響かせて歩いていた。別荘との距離が近くなり、庭に入っているのではないかと心配になった。時々木の枝を踏み、ぱちっと音を立てた。その度に僕は後ろめたい気持ちになった。  時々、鳥の鳴き声が頭上から聞こえた。これはカラスだろうか、そんなことを考えながら足下のどんぐりに目をとられていた。割れていない、穴もあいていない綺麗な形を保ったままのどんぐりを見たのはいつぶりだろうか。それを拾ってみようと、足を止めた。  足音は消え、周囲の音が一気に耳への覆い被さる。枯れ葉の上にポツポツと何かが落ちる音、鳥の羽ばたく音、木を何かが駆ける音、電車が線路を走る音。はっとして辺りを見回す。見えるのは木と別荘と青い天井。  遠くで風が走っている。木々の間を目的地もなく、通り過ぎていく。僕は木になりすまし、目を閉じて風の走る方向を探してみる。  日が暮れるまでそうしてみたが風が僕に触れることはなかった。

何が正義ですか

この部屋の景色決して悪く無いのにこの世界は 毎日が当たり屋に遇う様な理不尽で私何もして 無いのに因縁ばかり付けられ逸そ消えたく為る こんな処来るんじゃ無かった4つの島の住人達 挨拶しないし感じ悪過ぎて嫌に為る誰か助けて 問うが面倒事と嫌な現実ばかり実現化する最低 最悪な環境マジで苛めだろう温水🚿も出ないし 給湯開けたら錆びて部品欠損の癖に私に自腹で 払えと脅すやり方恐ろしいです私エネルギーの 器ですがヤクザの様な管理会社とガス屋に詐欺 られた哀れな神の御霊の天照光汝侠任です

旅〜星の子〜

目の前に砂漠が広がっている 見渡す限り砂の大地に、ポツリポツリと小さな人が立っている 彼等は足元位のサイズで何もせずボンヤリと立っている まっしろなオオカミのルイは言いました 「ねぇキャロル。あの頭巾を被った子たちはどうしたの?」 お爺さん狸のキャロルが答えます 「彼等は星の子じゃ」 「星の子?星の子どもたちなの?」 「そうじゃ、空から落ちてきたんじゃろ」 キャロルは特別珍しいものではないと言い、砂漠をテクテク進んで行きます 「ねぇキャロル。あの子たちは、ずっとああやって立っているだけなの?」 「ずっとああやっている者もいるし、人になる者もおる、それこそ砂になるも者 もいる。どうなるかは彼等の好き好きじゃろう」 「そうなんだね。キャロルは物知りだね」 キャロルは、お爺さんだからなと言いました ij少年は星の子たちをよく観察していました 強い風が吹き抜けると、星の子は砂になり風に乗って舞い上がりました 砂になった星の子は高く高く舞い上がり、空の彼方へ消えて行きました 〜旅の記録、砂漠にて〜

神在り灯台下暗し

「どうか私たちをお救い下さい! 悪しき為政者を引きずり下ろし、搾取され続ける私たちをお救い下さい!」    母が、変な石像に祈っている。  内容も、収入が低いうえに物価も税金も上がるからどうにかしてくれ、というのをご立派に言っているだけだ。    物心ついたことから、母は神へと祈っていた。  子供の頃は一緒に祈っていたが、あの石っころは願いを叶えてくれたことなんてないので、中学生くらいから祈るのを止めた。  母が激高したが、変な石像を叩き落したら、悲鳴を上げて怒るのを止めてくれた。    こんな子供一人の暴力にも負ける神。  なんて弱いんだろう。  母に影響されたとは思いたくないが、俺はいつからか神を探すようになった。    神社に行ってみたり、スピリチュアルなクラブに入ってみたり、ネットで見つけた怪しげなまじないを試してみた。  しかし、一度も神は俺の目の前に現れなかった。  神を罵倒するのが口癖になってからも、ただの一度も。  神が本当に偉大ならば、とっくに俺は裁きを受けているだろう。  だが、何も起こらない。  俺はピンピンしているし、世界は何も変わらない。   「あんた! バチが当たるわよ!」    唯一起きることと言えば、母がヒステリックに叫ぶだけ。  別に恐くない。  変な石像を叩き落せば勝ちなのだから。    相変わらず神を探していて、蹴っ飛ばした石がお地蔵さんに当たってぐしゃぐしゃになった瞬間、ふと気づいた。  世界が変わったのは、いつだって俺自身が動いた時だったと。    変な石像を倒せば、母は止まる。  神の籠を受けているはずの、母が止まる。   「あー、そっか。神って、こんな身近にいたんだあ」    俺はお腹をさすって、自分の中にいるだろう神に挨拶した。    世界が変わったのは、いつだって俺自身が動いた時だった。  つまり俺こそが、俺の世界の神なのだ。   「おい! 飯! 石像壊すぞ!」 「やめて! すぐ作るから!」    灯台下暗しってやつだろう。  俺は、俺の中にいる神を飼いならし、平和な生活を謳歌し始めた。

文化の神の責任

ほら見て御覧何れこれも偽装結婚嘘の相方と 仲良しごっこ番組笑い差し込み必見に人気者 気取り観客席は微かな嘲笑い貴方もう限界ね 可哀想にエネルギーチャージしないとネジが 切れた人形の様ゴースト活動が楽しくて全部 忘れる有り様多分もう一生涯本当の姿見失い 変容し続け生きる道化師お疲れ様です悲しい 定めな器用貧乏かな違うスポンサーさん居た 筈貴方の様者に騙された哀れなスポンサーが 恩を足蹴にする者は2度お笑い王の羅針盤も 壊れて仕舞い誰でも無い素人の凄い者を演じ 自己満の中に消え失せる宿命さよなら偽善神

ひろき 〜RPG編〜

ひろきは意気揚々とゲームの進み具合を披露してくれた。主人公を含めた四人のパーティーは、全員が武器も防具も何一つ装備していない状態だった。代わりに、一人一人が大量の「やくそう」を持たされていた。「やくそうは、大事だからね」笑顔でそう語ったひろきに、僕は何も言えそうになかった。

憧れ (掌編詩小説)

『自分にしかできないことをしている人』になりたい 理由はこの世界に自分が存在した証明ができるから 具体的には、文や絵で自分が存在した証明を作りたい 自分の想像力を武器にして この世界を生きていきたいと思っている 最後に、『客観的に世の中を見れる人』であり続けたいとも思っている 自分の生きた姿勢・作品を後世に、残像のように残したい (完)

「きっと手紙書くからね」

引っ越しの数だけドラマがある そんなことはない 初めての引っ越しのとき感じた緊張や不安は もう忘れてしまった 覚えている必要、ないのだから 引っ越しの回数を数える必要も、ないのだから なんの意味があるというのか それより、あと何回、こんなことくり返さないといけないのか そのことを知りたい、教えてほしい 知ったところで、何も変わりはしないのだけど 「きっと手紙書くからね」 「会いに行くからさあ」 何度言われ、何度裏切られたか 何度言われ、わたしは何度、本当にそのことを望んでいたのか 途中から入っていくことの不安はなくなって クラスに馴染むことだってしなくなって 受け入れてもらえなくても、それは、つかの間のこと 気にしても、気にしなくても 気にしてもらえても、気にしてもらえなくても それは、急にやってくる 「来週、引っ越すことになった」 その言葉の数だけ引っ越しをしてきた 「来週、引っ越すことになった」 その言葉の数だけ、これからも…

データ系細胞分裂

 人間の細胞は、絶えず変わり続けているらしい。  そして、七年でほとんどすべての細胞が入れ替わる。    ほとんどすべての細胞が入れ替わるなら別人じゃないかと思うけど、私の意識は連続しているので、そう単純な話でもないらしい。  実際、周りの人も私が誰かわからなくなったりはしない。   「SNSの名前とアイコン変更っと」    なら、きっとSNSでも同じこと。  ドットをほとんど全部入れ替えたけど、皆私を見つけてくれるはずだ。  垂れ流した投稿は変わらない。  私という中の人は変わらない。   『誰かと思ったw』    さっそく、私が私として認識された。

白日戦隊!ホワイトレンジャー✟【博士の思いの乱】

「出たなホワイトレンジャー!今日こそはお前達の息の根をとめてやる」 「黙れ!ブラックホール団!いいか!お前たちに良いことを教えてやる!」 「な…何だ」 「フッ。白色はな、二百色あるわ・け・で・は・ない!」 「な…聞いて損したわい!かかれー!攻撃開始ー!」 今日もホワイトレンジャーとブラックホール団は戦っている その様子をモニターで見ている男がいる ここはホワイトレンジャーの基地 沢山のスタッフがホワイトレンジャーを支えている。その中心にいるのが染五郎博士 ホワイトレンジャーを作った天才科学者である。 「博士、今回もブラックホール団は新たな怪人を製造しています。今攻撃パターンの解析を進めています」 「ご苦労さまです。よろしくお願いします」 博士は唯一ホワイトレンジャーに直接指示が出来る司令官でもある。 スタッフのサポート一つで戦況が変わる。 ホワイトレンジャーは戦いがある度にチームワークが良くなっていく。日々お互いを信頼していることがよく分かる。 状況状況に応じて、各自が流れるように動き、最適な攻防を繰り出している 対してブラックホール団はリーダーの恐怖政治で今の状態を保っているだけの集団になっている。今にも破綻しそうだ。果たしてどのように破綻するのか。 もし、新たな悪のチームが出来れば、ホワイトレンジャーの任務はより複雑になってしまう。 「博士、解析結果が出ました。データを送ります」 「ありがとうございます」 博士はデータを確認する この短い間によく分析されている。 ホワイトレンジャーの勝利は彼等と彼等を支えるスタッフとの努力と願いの結晶である。 博士はデータにもとづき、最適な攻撃方法を伝える。ホワイトレンジャーに指示を出す。そして最適なロボマシンを現場に出動させたと言うと 「博士、サンキュー!」 ホワイトレンジャーのリーダーであるホワイトは快活な応答をした。 博士は席を立ちエレベーターに乗って地下へ向かう 彼は染五郎博士。ホワイトレンジャーを作った天才科学者である。 そしてブラックホール団の怪人達を作るマシンを作った科学者でもある。 エスカレーターが地下へ下がる間、彼の意識は過去へ遡る 染五郎博士は社会の黒い思いを集めエネルギーにする研究を行っていた。その過程で偶然に完成したのが、黒い思いを具現化する装置、ブラックレンジだ。 初めての稼働テストをする日。 連日徹夜が続いていたが、頭は興奮していた。ついに完成するのだ。 ブラックレンジには順調に社会の黒い思いが集まっていた。ところが容量がMAXになってもリミッターが効かず、マシンの限界まで行くと爆発音と共にレンジから黒い思いを具現化した怪人が誕生した。黒い思いの怪人は博士を襲い、博士は頭を打ち、気を失ってしまった。目を覚ましたときは怪人はいなくなっていた。ブラックレンジと共に。 「皆!頑張るんだ!」 「ぬぬ…しぶとい奴らだ!ホワイトレンジャー!」 イヤモニから戦況が聞こえてくる。 両者の戦いは終わらない。 博士は、ホワイトレンジャーの基地にある、最下層の研究室で新たなマシンの稼働テストを始める。

穴の中から見上げる多様性

 穴に落ちた。  すっごい深い穴に落ちた。  どれくらい深いかと言うと、両手を伸ばしてジャンプしても、脱出できないくらい深い穴だ。   「だ、誰かー!」    穴の外に向かって思いっきり叫んだ。  何人かは穴を覗いてくれて、私と目が合った。  しかし、言うことは皆同じ。   「まあ、多様性の時代だしね」 「穴の中で生きる人がいてもいいよね」 「人は人、私は私」    誰も手を差し伸べてくれない。    私は一生穴の中にいるしかないんだと気づいたとき、私は現状を個性と呼ぶ覚悟を決めた。

耳は二つ、聞くは一つ

「そういえばさー」 「それ聞いて思い出したんだけどさー」    三人での会話が苦手だ。  右の耳から一人の言葉が入って来ている時、左の耳からもう一人の言葉が被って入ってくると、もう何を言っているかわからない。  耳は二つ存在しているはずなのに、とんだポンコツ具合だ。   「どう思う?」 「あ、ごめん。聞いてなかった」    ノイズが終わると、必ず私に話が振られる。  しかし、聞き取れていない私は、悪いとも思ってないのにごめんと謝る。   「また別の子と考えてたんでしょー。不思議ちゃんだなあ」    結果、不名誉なあだ名をつけられた。  怒るのも疲れるので受け入れた。    私からすれば、不思議ちゃんは周りの方だ。  一人が話しているなら、話し終わるまで待つべきだ。  学校の授業だって、手を上げた人間が発言して、その人の発言が終わるまでみんな静かに聞いていたじゃあないか。    当たり前に他人の言葉に被せてきて、どちらの言葉も当たり前に聞き取る皆こそ、不思議ちゃんで超人だ。  私と違う耳を持っているに違いない。   「あ、そろそろ帰んないと」 「だねー。続きはDMでー」    解散するとホッとする。  文章なら、二つ同時に来ても、二つ別々に読むことができる。  聞き取れない、なんてことはない。   『そういえばさー』 『それ聞いて思い出したんだけどさー』    入力して、送信。   『わたし的にはさー』    今の時代に生まれてよかったと、心から思う。  飛鳥時代になんて生まれていたら、私は聖徳太子から馬鹿にされていただろう。

睡眠不足

 僕は夢の中で、これが夢であることを祈り早く目を覚まそうとしていた。また別の日は、夢であることに気付き、少しでも長くその夢に居続けようと目覚めることを拒んだ。  場面転換を繰り返し嫌なものから逃げ続ける。  夢も現実も疲れてしまった。

矯正 (掌編詩小説)

子供の時から、世の中に馴染むのが苦手だった 上手く世の中に馴染めない事を痛感させられては、適応を急かされての繰り返し 主張も・意思も、次第に喉から出なくなった 頭が上手く働かなくなる時がある 机に並べられた付箋たちを自分の元へ両腕を使って掻っ攫うようにして 乱雑に集まった付箋に書かれた文書を読むイメージ そして、その工程を瞬時に求められる時 情報過多の世界に堕ちて、思考が停止する感覚 この認知が貴方に伝わるか判らない 上手く生きていけないようだ シングルタスクのようだ 当たり前の認知が、私の認知にあるとは限らない。残念な事だが カメレオン達の中から自身の存在を忘れさせて 後ろから肩をぶつけられる感覚を忘れさせて (完)

有効成分

 失恋して泣きながら歩いていたら、小さな薬局があった。汚いガラス戸の向こうに薄暗い店内が見える。そのガラス戸に、紙が貼られていた。『失恋に効く薬あります』思わずガラス戸を開けた。店の奥に爺さんがいた。「失恋に効く薬ください」爺さんは黙って一包の粉薬を差し出してきた。何か見たことのある色をしていた。「ここで飲んでいきます」爺さんはコップに水を汲んで差し出してきた。金を払いその薬を飲む。胸がすーっと軽くなった。「ありがとうございました」コップを返し、尋ねた。「この薬の主成分は何ですか?」爺さんは店のさらに奥を指さした。そこには婆さんがいて、紙幣をひたすらシュレッダーにかけていた。

ジ・アート・オブ

 深夜過ぎ、会社帰りの道で通りかかった居酒屋から、一台のピアノが出てきた。ピアノはだいぶ酔っていた。ピアノはふらふらと路地を行ったり来たりした後、電柱の陰に隠れた。「ああ、吐くな」と思った。案の定、ピアノは電柱に向かって吐き始めた。地面に広がったそれは見事なソナタだった。優雅なソナタだった。ピアノはすっきりした顔になると、またふらふらした足取りでどこかに去っていった。俺はそれを見送り、ピアノが吐いたソナタのメロディーを鼻歌で口ずさみながら家に帰った。翌朝、出勤のためにその道を通りかかった。電柱の陰に吐かれたソナタは既に片付けられていた。俺はわずかに地面に残った跡を横目で見ながら、昨夜のメロディーを鼻歌で歌おうと思った。だが、もうそれがどんなメロディーだったか、思い出せなかった。「まぁ、いいか」と俺は思った。

影、影、 影、影、 影、影。 ああ君はいつまで経っても影のままそこに居るのね。私はそんな君が好きだよ。私の影、私の影。君も私の一部。こころとは途方もなく広い世界だ。その中で私にいちばん近いところにずっと、ずっといる。気づいているよ。 ずっと、ずっと近くにいたのに、 ずっと、ずっと見ないふりしていてごめんね。 今日からは同じほうを向いて、時には喧嘩もするだろうけど、ずっと、ずっと、一緒だよ。

ジャッジメント

 ある春の日、午後の電車に乗っていた。乗客はまばらだった。みな寝ていたり、スマホを見ていたりして、うつむいていた。俺も含めて。小さな駅で電車が停まり、一人のお爺さんが乗ってきた。お爺さんはきょろきょろと周りを見回した。そして、持っていたバッグから、何か、小さな黄色い、四角い塊を、いくつも取り出した。それは、バターだった。お爺さんは、そのバターを、一つ一つ、うつむいている一人の乗客の頭部に置いた。それは微動だにしなかった。「溶けへんな」お爺さんは言った。「君はパンじゃないみたいやね」お爺さんはその行為を、他の乗客たちにも続けていった。乗客たちは誰も反応しなかった。そして、お爺さんは俺の目の前に立った。俺の頭頂部にバターが載せられた。どのくらいの時間が経っただろうか。それは何十時間にも感じたが、実際は数秒だっただろう。つーっ。おでこに液体が垂れてきた。指ですくう。それは解けたバターだった。「君、パンか」お爺さんの目は輝いていた。俺はゆっくり頷いた。

神の引っ越し

 近頃、神社に来る人々の態度が変わった。    私の領地に入るのに、一礼もしない。  挙句、私の道である鳥居の真ん中をずかずかと歩く。  手も清めず、荷物を持ったまま金を投げられ、写真だけはパシャパシャと撮る始末。  実に、居心地が悪い。   「昔は良かったなあ」    つい、懐古をしてしまう。  静まり返った敷地の中に、悩みを抱えた人々が礼を尽くしてやって来る。  私は何度も、進むべき道を示したはずなのに。   「引っ越すか」    隣町の神から聞いた。  日本には未だ、神聖な場所と崇められている場所があることを。  そして、そこにくる人々は、多少の礼を尽くすということを。   「元々、神社など人間が建てた依り代。私が生きるためには、不要だ」    私は長年の居を捨てて、空へと飛んだ。  新たな居場所を求めて。    それから数年。  風の噂で、私の古巣は未だに神社と呼ばれていることを知った。  もはや私がおらぬ、願いも叶わぬ荒れ地だと言うのに。    私は、ほとんど人の来ることがない奥地で、安眠を享受している。

PLAY

 喫茶店でコーヒーを飲んでいた。向かいのテーブルに、上品な老婦人が、こちらを向いて座っていた。老婦人の目の前にはコーヒーカップが置かれており、老婦人はその中をスプーンでかき混ぜていた。カップの中に入っているのはコーヒーのように見えたが、何だか違う気もした。コーヒーにしては、と言うのも変だが、何だかやけにきらきら輝いているのだ。老婦人はお金持ちに見える。高価なコーヒーなのだろうか。そんな単純なことを思った。その時、老婦人のカップの液体の中から、小さな腕が、にゅっと出てきて、スプーンを掴んだ。小さな腕には金色の毛が生えていた。その腕は助けを求めているように見えた。老婦人はそれに気づき、自身の細い指先で、小さな腕をスプーンから剥がし、それからスプーンを思い切り、カップの底に押し付けた。激しい泡が液体の表面にぼこぼこと浮き上がった。やがてそれが途絶えた。老婦人は再びスプーンで液体をかき混ぜ始めた。徐々に液体の色が変わってきた。さっきより濁ってきた。老婦人はそれをかき混ぜ続けていた。老婦人はその液体をいつまでも飲まなかった。

梅の花

 たまに、(自分はちゃんと生きられているのか)と不安になる。勿論、ちゃんとなんか生きられてはいないのだが、そうではなく、そういう事ではなく、人として、大人として、親として、夫として、最低限の行動が出来ているのかと不安になる。  法に触れることはしていない。いや、たまに信号無視や、横断歩道を渡らない、女性が泣いていても声をかけない、なんて事はたまにある。が、無闇矢鱈に自分の不機嫌を外に出さないとか、挨拶をするとか、愛想笑いをするとか。日々、少しでも、善良に生きる事を実行しているのかと自分に問いかけてしまう。そんな日がある。    街を歩いていると、肩で風を切って歩く若者を見たりするが、彼が一生あのままでいられないことを私は知っている。彼が結婚し子供を持つ頃にはもう少し普通になっている。また、自分を変えられないのなら、家族から弾き出されるだけである。もう少し言えば、町内からも弾き出される。妻や子供を持てば自分という存在は家族というチームの中の一人になる。周りはそんな目で彼を見て、自分達の過去と比較し、正常か異常かを判断するのだ。  誰でも若いうちは世間に対して自分のズレは気が付かない。社会に放り出され莫大な情報に圧倒されるからだ。転生と言っても良いほどに。だがラジオのチューナーが徐々に合わさり声が明瞭になるように、歳を重ねれば重ねるほど世界が見えてくる。自分の足元から延びている光の道が見えてくる。  近所の道路脇にさりげなく梅が咲いている。ほのかに良い香りが記憶に残る。通りをスクーターが孵化しながら通っていく。ハンドルを細かく捻り、ガゾリンを非効率に爆発させ、大きな音を自分の威厳と同化して楽しんでいる。何十年も前から変わらぬ作業だ。そして梅もおそらく何千年も前から変わらぬ作業で花を咲かせるのであろう。    私も梅のようにさりげなく咲き、ほのかに良い記憶を残していきたい。

 夏祭りに行った。屋台が立ち並んでいた。その中に、キンギョすくいの屋台があった。屋台の至る場所に『囚』というマークが書かれたシールが貼られている。ということは、この屋台のキンギョたちは、前世は死刑囚らしい。水槽を覗き込む。キンギョたちは美しかった。店主は夜空を見上げながらタバコを吸っていた。その腕には刺青が彫られていた。ふと、頭上ののれんを見た。『キンギョ掬い』と書かれていた。普通はひらがなで『すくい』と書かれているイメージだが、わざわざ漢字で『掬う』と書かれていた。少し考えてわかった。『すくい』とひらがなで表記すると、『救い』と勘違いする人がいるのだろう。前世が死刑囚のキンギョだ。そういうのはきっとややこしいのだろう。遠くで花火があがった。

ハエの王

「ただいま」学校から家に帰った。「おかえり」母さんの声がした。台所から良い匂いが漂ってくる。台所に入る。母さんの姿はない。鍋で何かが煮えている。蓋が閉じられている。良い匂いはその蓋の穴から漏れている。ふとシンクの三角コーナーが視界に入る。赤くて細い物がいくつも散らばっている。それはいくつもの小さな鳥居だった。ということは、今夜の夕飯のおかずはアレだな。唾が出てきた。鍋がカタカタ揺れ始めた。楽しみだ。アレを食べると、その夜、嫌な夢を見るが、あの旨さには勝てない。気が付くとにやにやしていた。「嬉しそうね」母さんの声がした。母さんの姿はどこにも見えなかった。

縄文の森のスーパーで

 元カノと会う。 縄文のビルから仕事帰りに縄文のスーパーに寄る彼女は忙しそうだ。 龍脈の走る土地。 偶然にも地下鉄が延伸する場所は彼女の故郷。 何か示し合わせたような仕組み。 湧き水を汲んで喉を潤していた時代からずっと。 でも移り気な僕は優柔不断。 狩人になれれば彼女にお肉を持っていけるのに。 この土地に住んで43年。 アフリカから来たあの人や東ヨーロッパから来たあの子も狩りや編み物をして暮らす。 皆たどり着く土地。 知り合いがビルで水耕栽培をするらしい。 猪小屋、鶏、畑。 飛脚のおじさんも農業を手伝っているらしい。 江戸時代の独身男の蕎麦。 湿地帯のメガロポリス。 お地蔵さんも日向ぼっこする。 色んな時代が錯綜して廻る世界。 世界が終わる前に世界を取り戻したい。 終末を予言する牧師さん。 西の都に憧れてそこから来たインディアンのような人と連絡を取る。 狸も狐も馬も皆それぞれに暮らす。 焼き八つ橋を食べる。 ミステリー・サークルを作る少年は人生の1週目だ。 イギリス人のような彼は王朝をさらりとかわしフランス人のような僕を横目に玉遊びに興じる。 フィッシュアンドチップスを食べている女の人はいい匂いがする。 蛮性と協調性。 科学エンジニアは海外向けの思考をもって論じる。 僕は百済とロシアの血を使ってそれを解析する。 同じ血を持った彼女は外資系の彼氏さんを射止めてメガロポリスで女子会をする。 文系物理屋の僕は変な髪型でブツブツ言いながら自転車を漕ぐ。 世界の縮図を参考文献にしながらAIと心で分析し解析する。 今日も中動態でいられただろうか?

玉手箱の外側

今となっては昔のこと、砂浜に一人のおじいさんがおりました。かつて浦島太郎と呼ばれていた彼は、今より何百年も前に一度姿を消しましたが、長い時を経て海の底にある竜宮城から帰ってきたのです。  ひょんなことから竜宮城で過ごしていた一日が、陸における百年であることを知ってしまった浦島太郎は、咄嗟に乙姫様から貰った玉手箱を開けました。  そして中から出てきた煙を浴びたことで、彼は年老いてしまったのです。 「こんな姿となってしまっては、もう乙姫に会いに行くこともできまい」  浦島太郎は悲しみながら、乙姫様の言葉を思い出しました。 「困ったことがあれば、この箱が助けとなってくれるでしょう。ただし、けっして開けてはいけませんよ」  忠告を思い出したところで、今更どうにもなりません。浦島太郎はすっかり途方に暮れてしまいました。 「もしもし、浦島さん」  そこへ声をかけてきたのは、浦島太郎をここまで送ってくれた亀でした。 「おや亀さん、まだいらしたのですか」 「言いつけをちゃんと守ってくださるか、心配になって戻ってきたのです」 「ああ亀さんや、見ての通り私は取り返しのつかないことをしてしまった。この先たった一人でどうすればよいのだろう」  亀は静かに答えます。 「いいえ、あなたは一人ではありません。そこの玉手箱に今一度触れてごらんなさい」  浦島太郎が言われた通りにすると、玉手箱は光の霧となって彼を包み込みました。そして霧が晴れると、一羽の鶴が現れました。 「これはどうしたことだろう」  鶴の姿になった浦島太郎が不思議に思っていると、亀が教えてくれました。 「あの玉手箱は特別な力が宿った珊瑚から作られたもの。そして、中身は私の願いによって封じ込めまれていたあなたの未来だったのです」  それを聞いた浦島太郎は、目の前にいるのが亀に化けている乙姫様その人であることに気がつきました。  浦島太郎はすぐに言いつけを破ったことを改めて謝罪し、乙姫様も彼の行いを許しました。そして、新たに一つの約束を交わしたのです。  それからというもの、鶴と亀は度々揃ってこの砂浜に現れるようになり、見た人に幸福を与える存在となりました。

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一円玉天気

 土砂降りの雨が降っている。急に降り出したのだ。ついさっきまで晴れていたのに、俺は駅の出口で立ち尽くしていた。  最近あまりにもいいことがない。スマホは手から滑り落ちるし、鳥は俺の肩に糞を落とすし。今だってそうだ、降り出した雨になす術がない。  俺はため息を吐いて、駅のコンビニへ歩き出す。バイトの開始時刻まで残り三十分。憂鬱な気分で自動ドアをくぐり、傘と缶コーヒー、夕飯の菓子パンを手に会計に進んだ。  俺はさらにため息を吐く。今の今まで降っていた雨はそこになく、崩れそうにない晴れ間がそこには広がっていた。

天使

 駅におじさんがいた。スーツを着た真面目そうなおじさんだ。おじさんは両手で何かを抱えていた。それはゾウの鼻だった。うねうね動いている。おじさんは歩き出した。俺は暇だから後を尾けた。おじさんは八百屋の前で立ち止まった。そして辺りをきょろきょろ見回すと、店先に並べられていたリンゴに向かって、ゾウの鼻の先端を差し出した。ゾウの鼻は、リンゴを掴み取った。次の瞬間、おじさんは全速力で駆け出した。俺は後を追った。おじさんはそのまま動物園に入っていった。俺も入った。おじさんはゾウの檻の前に立った。そしてゾウたちをじっと見つめ始めた。「鼻のないやつはおらんか!」だが、どのゾウも、鼻はきちんとあった。そのことを確かめると、おじさんはその場に崩れ落ちた。ゾウの鼻が掴んでいたリンゴも衝撃で地面に落ちた。おじさんは大声で泣き始めた。「大人が本気で泣く声は聞くにたえないな」俺は辟易して、リンゴを蹴り飛ばしてから、動物園を去った。

自販機

孫娘との散歩の途中、祖父は自販機の前で足を止めた。取り出した百円玉が滑って、転がり落ちた。自販機の下を覗き込むと、暗闇の中でぬらぬらと輝く丸い物体を見つけた。掴むと、いやに柔らかく、じっとり濡れていた。祖父の手の平で、真昼の光に晒されたそれを見て孫娘は言った。「これ、お目目ー?」

他人を演じ過ぎたゴーストの果て

本体が自分としたら役者は誰かを演じながらも ちゃんと誰でも認識する己を持ちプライベート 普通に充実させられるが元々の姿が存在しない ゴーストは何れに焦点置き行動するのだろうか 姿無き者=透明人間は突如現れ天才ピアニスト 美声な少年美人バイオリニスト奇才な書道家等 姿を変え沢山の評価と称賛受けるが素人集団の 1人に過ぎない自己満足最早ゴーストの孤独な 生涯を写す鏡の様だ何遣ろうが別の誰かの手柄 幾ら素晴らしい映画の監督に成ろが心撃つ小説 書こうが当人が絶賛される事は生涯無いだろう 有る意味哀れなゴーストは今日も他人を演じて 本体求め探す旅に出掛けるかも知れない

taijyu=yalubyougami

長瀬智也、高橋克典sukidatajidawayokata motironiyanakototakusanatakedoginou kaitoiumononi夢gamotetaminasanikeme nnakatagaookukirakirasiteita長瀬智也 sanwarongedesitakedobikurisuruhodon ikemenengimohadougaafurerukuraijyou zudattahajimeteutawokiitatokimososu kitooruamaikoeninokuautosaremasitas oatokarajyojyonikarewoterebidemiruk ikaigafuewatasiwanagasetomoyanodaif uantonatajibunnokeitaitisikitukaize nzusakanoborinagasesakuninwosagasit amotironnakaniwakonomijyanainomoari masitakedohotondogadaisukidesitanaz ekakarenoskuhiowomirutoanamidagaafu retakiokuatosingonsyuunodaimokujyou zudatakotokandousimasitatugini高橋克 典saniwazutosireta特命係長只野仁dosiya nimitehamarimasitasonoatokarenosaku hinmozenbusakanoborikasyudatakotomo sirifankurabunimohairimasitakedobin bounamonodeibentotuasankadekizuyame tesimaimasitagakarenoengiwaimamodai sukidesuotituitaratouyamanokinsanga mitasidesugakedozenbuuranitaijyunok agegayumenaidesukarewazenoregasutan tositautautatanowaoredatoiimasitaga moudoudemoiikaregaiwanaikagirisyouk onaisiwatasimosinjitenaikamosirenai hontoyakubyougamiyosayonarasirouton ogosutosan

あばよ

 夕方、商店街の八百屋の前を通りかかった。「このアマ!」店の中から怒鳴り声が聞こえてきた。そして、八百屋の店主のおっさんが店の中から出てきた。手には一個のリンゴを持っていた。「色気づきやがって!」おっさんはそのリンゴを店の前の地面に叩きつけた。ぐしゃっ、という音がして、リンゴは潰れた。「どうしたんですか?」俺が尋ねると、おっさんは「香水ですよ」と吐き捨てるように言って、リンゴを指さした。「嗅いでごらんなさい」潰れたリンゴに鼻を近づけると、リンゴの香りではない匂いが漂ってきた。それは確かに香水の匂いだった。「リンゴにはリンゴの匂いがあるんだ……」おっさんはぶつぶつ言いながら、店の中に引っ込んでいった。その数日後、俺は見知らぬ年上の女に抱かれた。その女は、あのリンゴがつけていたのと同じ香水をつけていた。

通り道

都会(まち)の隙間を すり抜けてくる 曖昧な吐息に 巻かれて歩く つめたくない あたたかくもない 中途半端な やさしさがいいの 理由(わけ)があるのは 風のほうでしょ? マフラーをほどいた この首筋を 私はただの 通り道 なでるように 風が駆けていく いつからかしら 私自身が コートを脱いだ 透明なあの人 私はただの 通り道 軽くなった さわぎだす襟元 知らないあいだに 春が来ていた 馬たちのあいだを 駆け抜けていく 土の匂いに 守られている 狭くもないの 広いのでもない 中途半端に 突き放されたい 理由(わけ)があるのは あなたのほうでしょ? 市場へと続く この道をずっと だってただの 通り道 なでるように 風が駆けていく いつからかしら あなた自身が 空を支える 足元で耐え抜いて やっぱりただの 通り道 無口な人々 笑顔は花のように 知らないあいだに 春がすぎていた

ふわふわ

 空を見上げた。雲が浮かんでいた。風が吹いた。その風のにおいを嗅いで、「ああ、神様、今日は柔軟剤を使ったんだな」とわかった。

春はあげもの

朝から風が強いのは 春の証としては正当で 立派な一日のはじまりと言える 昨日、買っておいたとり肉で からあげをつくって ついでだからと 野菜もいくつか 揚げものへと変身させてしまった ああ、アスパラの天ぷら あの人と食べたアスパラの天ぷら お塩をちょいとつけて食べたあのおいしさったら 春はあげもの からあげも 野菜の揚げものも おいしくできていると よいのだけれど