「あ、また死んでる」 通行人が突然倒れた。 近づいて脈を測ってみると、すでに動いていない。 ぼくは救急車を呼んだ。 最近、この病気が多い。 急速死亡病。 略して急死病。 何の前触れもなく死んでしまう、恐ろしい病気だ。 原因は解明されていない。 健康だろうが不健康だろうが死ぬ。 若かろうが高齢だろうが死ぬ。 生きれているぼくからすれば、恐ろしくて仕方ない。 でも。 「羨ましいなあ」 たまに、そう思ってしまう。 救急車が到着して、通行人が救急隊員に運ばれていく。 きっと楽しいことがあったのだろう、安らかな死に顔で。 死ぬのが恐いぼくは、自分の死を実感することなく死ねる急死病を、恐れると同時に焦がれてしまう。 急死病になれば、死ぬ恐怖から解放さ
地下三階の会議室に、全閣僚が呼び出された。 「大変なことになりましたね」 「これはまずいよ」 重い扉が開き、総理と防衛大臣が入ってきた。 「ちょっと緊急事態でね」 正面のスクリーンに映像が流れる。 その前で、防衛大臣がマイクを握った。 「あの国が不穏な動きをしています」 会議室に緊張が走った。 「何をたくらんでる?」 「おそらく、ミサイルを……」 「うちの防衛システムは大丈夫だよね?」 「はい。着弾することはないと思いますが……こればかりは」 閣僚たちが頭を抱えた。 ──その時。 『ミサイルが発射されました』 緊急アナウンスが流れる。 「とうとう一線を越えたか……」 総理が防衛大臣に視線を送った。 「反撃しなさい」 「はい」 窓際に置かれた椅子に、総理が体を預けた。 「私の判断は……」 涙が落ちた。 「ちょっと、あなた」 妻が声を掛けた。 「また妄想してたでしょ」 「国会も終わったし、ちょっとハラハラしたくて」 「で……私、また死んだの?」
深夜、溜息をつきたくなると私は1人シャボン玉を吹く。だって溜息は誰も幸せにしないから。夜風に揺られ、シャボン玉はひっそりとどこかに飛んでいく。昼間と違ってキラキラしていないそれは、ほんの少し重く見える。それは言えずにいる言葉たちの重さかもしれなかった。 風が冷たいからか直ぐに壊れてしまうのだけど、それでも一部は遠くまで飛んでいく。 隠した本音、作った表情、憐みというエゴ。傷つけるのが怖くて重ねた嘘。大切なものの為に、別の大切なものをごまかす癖がついて、私はついに身動きがとれなくなってしまった。けれどシャボン玉はそんな私の代わりに、ここじゃないどこか遠くに行ってくれる気がした。 深夜、人通りのない道で、誰も居ない部屋の窓を開けて、今日もひっそりと、シャボン玉を吹く。誰にも言えない本音を込めて、静かに、壊れないように、そっと吹いている。それが直ぐに壊れる事は知っていたけど、きっと溜息は誰も幸せにしないから。
白を基調とした、落ち着いた雰囲気の診察室の中で二人の男が向き合っていた。 「今日はどういった、症状で?」 医師であろう男が、患者に尋ねた。 「ええと、これから一時間後に大事な会議があるのです。もちろん、ちゃんと準備はしたのですが、どうも不安で居ても立っても居られない。どうか助けていただけませんか。」 患者の男の顔は蒼白く弱った様子をしており、腕もわずかに震えていた。 「ちょうどいい。貴方にぴったりの薬がありますよ。」 医者は満面の笑みで患者に言った。 「ほ、本当ですか?」 「ええ、本当ですとも。これですよ。」 医者はゆったりと立ち上がると、棚から茶色の小瓶を取り出し、患者の目の前にかざした。 「このカプセルを飲めば、貴方も自分に自身を持てますよ。」 「どういうことです?具体的にはどんな効果がある薬なんですか。」 患者は不安げに、しかし、わずかな希望を宿した目で医者を見つめた。 「そのままですよ。この薬の効果は、飲んだらぴったり一時間、自信満々な状態になるんです。」 医師はゆっくりと、うなづきながら言った。 「そんな素晴らしい薬があるのですか。しかし、有名になっていないということは、それなりの副作用もあるのでしょう?」 「いえ、今のところ副作用は確認されていません。実をいうとこの薬、私が開発したもので、まだ実用化はされていないんですよ。」 「はあ、そうなんですか。」 患者は、訝しむふりをしていたが、心の中ではすでに薬を使いたくて仕方がなかった。 「大丈夫ですよ。すでに何人も使って、効果を確かめていますから。」 医師が患者へ薬を手渡した、その時だった。 診察室の扉が勢いよく開け放たれた。 扉の前には、顔を真っ赤に染め、怒りに震える男が立っていた。 「おい!お前のせいだ。お前があんな薬を飲ませるから……。上司を殴るなんて、俺の意思じゃないのに。」 男は手前のイスに座る患者には目もくれず、医師に詰め寄っていった。 「まあまあ、落ち着いてください。」 医師は自らの目の前に迫る男ではなく、自分の腕時計を見ながら言った。 「おい!こっちを見ろ。」 男のこぶしがあと少しで医師にとどくというところで、フッ、と男の力が抜けた。 すると、突然、さっきまで怒り狂っていた男がすすり泣きを始めた。 「大丈夫、ほら、これを飲んで。」 医師は男に小瓶とペットボトルの水を渡して言った。 男は無造作に瓶の中から数粒を出すと、勢いよくそれを体内に流し込んだ。 「ありがとうございました。では、新しい仕事を探してきますよ。」 男は、何事もなかったかのように立ち上がると、満面の笑顔を貼り付けて、診察室を去っていった。 「い、一体なんですか、今のは。」 一連の流れを見ていた患者は、何とか声を振り絞って、医師に尋ねた。 「彼はまあ、特別うまくいかなかっただけです。普通、ああはなりませんから、安心してください。」 医師は頭を掻き、気まずそうに言った。 「ふざけるな。そんな危険な薬飲んでたまるか。」 男は怒りのこもった眼で医師を見た。 「あ、ああ……。ほんとにその通りですよね。ごめんなさい。こんな最悪な薬を作ってしまって。」 患者だった男は、会議資料の入ったカバンを持つと、医師の言葉を背に診察室を去った。
郊外のアパート。 母親と、幼い二人の子どもが暮らしている。 「こんなこと言える立場じゃない……」 壁にもたれ掛かりながら、スマホの画面を覗いた。 そこに映る、満足げな顔の人たち。 母親は、迷った指でタップした。 数日後、荷物が届く。 「ママ、開けていい?」 「いいよ」 「お菓子あったよ」 箱の中には、食材と数年前に流行ったキャラクターのTシャツが入っている。 「月末まで……これで何とか」 子どもたちがお菓子を頬ばった。 母親はレトルトを手に取り、裏を見て苦笑う。 「……食品ロスには役立ってる」
息子がすっころんで、湖に落ちた。 慌てて湖を覗き込むと、湖の中から女神様が現れた。 女神様の左右には、金色の息子と銀色の息子が立っている。 女神様は、優しげな声色で私に言った。 「貴女が落としたのは、こちらの金の息子ですか? それとも、銀の息子ですか?」 考える余地のない質問だ。 「私が落としたのは、普通の息子です」 「貴女は正直な方ですね。ご褒美に、金と銀、両方の息子を差し上げましょう」 「は?」 そう言うが早いか、女神は湖の中に潜り、金の息子と銀の息子が私に抱き着いてきた。 「お母さん! ぼく、前より頭がよくなったみたい」 金の息子が言った。 「お母さん! ぼく、前より運動ができるようになったみたい」 銀の息子が言った。 この温もり、この話し方。 間違いなく、どちらも私の息子だと直感した。 体の色は違うが。 私の息子は、出来がいい方ではない。 テストじゃあ平均点もとれないし、体育の日は休みたいと駄々をこねる始末。 もしも、金の息子と銀の息子を私の息子として育てれば、育児が今より楽になるかもしれない。 だから、まず私は、金の息子に言った。 「貴方が前より頭が良くなったというのなら、私が本物じゃない息子を返されて、喜ぶと思う?」 「思わない!」 次に私は、銀の息子に言った。 「貴方が前より運動できるようになったというのなら、本物の息子を女神様から撮り返すこともできるわよね?」 「できる!」 金の息子と銀の息子は顔を見合わせた後、二人仲良く湖の中へと飛び込んでいった。 「あ! ちょ! なにしてるのあんたたち! 止めなさい!」 湖の奥底から女神様の悲鳴が聞こえた後、湖から私の息子が顔を出した。 私は、すぐに息子を引っ張り上げて、がっしりと抱きかかえた。 「お母さん…‥ぼく……」 「本当に、無事でよかった」 しばらく二人で抱きしめ合っていると、湖の中から金の息子と銀の息子が顔を覗かせた。 悲しそうな瞳で、私を見ている。 「お母さん」 「お母さん」 「ごめんね。私は、貴方たちのお母さんじゃないの。貴方たちがどれだけ優秀でも、私の息子はこの子だけだから」 私は、あえて突き放すように言った。 金の息子と銀の息子はさっきよりも悲しそうな表情をして、私の心がずきんと痛んだ。 私は息子から離れて、湖の前でしゃがんだ。 金の息子と銀の息子が近寄って来たので、その頭を優しく撫でてやる。 そしてふと、いいあアイデアが浮かんだ。 「私はお母さんになれないけど、貴方たちには立派なお母さんがいるじゃない。湖の中に」 金の息子と銀の息子は顔を見合わせた後、ぱっと表情を明るくして、湖へと潜っていった。 「お母さん!」 「お母さん!」 「何よあんたたち! なんで私があんたたちのお母さんなのよ! いやー! 結婚もしてないのに二人の子持ちになるなんていやー! 結婚が遠のくわー!」 湖の中からは、嬉しそうな二人の息子の声と、女神様の悲鳴が聞こえてきた。 せいぜい苦労してもらおうか。 気軽に子供を創って、まったく。 子供を作るということは、相応の覚悟と責任感の上でやるものよ。 「帰ろうか」 「うん!」 私は本物の息子と手を繋いで、湖を後にした。
朕は道路をメタルを聴きながら、徒歩でよこぎる。 街交う人々はどこか虚ろ、だがエネルギーに満ちた顔で歩いているのも変だが。 歩調をドラムに合わせて、機嫌よく歩く。 今日発売されたCDをゲットするためにいつもなら寝ている時間に歩く。 目的地まであとすこし、歪んだギターの音にあわせて ジョギングをしている人がいる。かなりのハイペースだ 歩いている人からみたら自分も結構な速度なのだろう。 なにせCDがかかっているのだから
スマホのアプリでZ省に火をつける云々の音楽を作って個人的に流していた。 窓を開けていたので誰かに垂れ込まれたら警察が動くかもしれない。 嗚呼、僕の平穏な生活が。 表現の自由はどこまで許されるのか、ということになってくる。 刑務所ではギターを弾かせて貰えるだろうか? ショーシャンクの空に、という映画を観たことがある。 刑務所はお腹いっぱいご飯が食べられるだろうか? 思想犯として小林多喜二のように拷問死させられるだろうか? 僕は今日もぶるぶる震える。
例えば、手を握って教会に行って讃美歌を一緒に聴いたとする あんまり理由がわからなくて、直ぐに出てきてしまいそうだ その後はたこ焼きでも食べに行こう 例えば、手を握って表参道を散歩したとする。「お茶でもしたいな」と思っても、落ち着けるお店が見つからなくて遠くまで歩いてしまいそうだよ そしたらホテルにでも入ればいい 例えば、手を握って車の中で秘密話しをしていても、直ぐにその口を塞ぐことになりそうだ カーナビに載っていない地図の裏側まで行けば誰にも見られない 例えば、手を握って共に生きたとする 指輪を交わし、生活をして、家族が増えて、沢山の喧嘩と数え切れないほどのセックスをしたとしても、別れの危機は来ると思う そしたら、君の手を握ったあの日から、始めて見ようと思っている 君は覚えていないだろうけど。
付き合う前は僕の影のように後ろに従うばかりだった女の子は、告白を受け入れるとまるで下男か何かのように僕を扱うようになった。立場の逆転などと生やさしいものではない、世が世なら革命と呼ばれてる。ギロチンが、まだその役割をまっとうしていた時代のこと。幸いにも僕は、怒り狂った大衆の前で首を落とされることなくすんでいる。深夜でも連絡が入ればクルマで迎えに行き、疲れて帰ってきても彼女の愚痴を朝方近くまで聞かされる。それくらいでおさまっているのは、だからまさに幸運だ。私のこと好きならそれくらい容易いことよね、お姫さまには苦労をさせられる。 土曜の夜?もう日曜日になったか。土曜何した?なくなった?なんか不思議…… でもないか、遅く起きて、なんか食べて、なんか本読んで、パソコンいじって、スマホいじって、なんかいじって、食べて、まだ届いてないか宅配ってスマホで確認して配達中で、なんか食べるかってみそ汁なかったからつくって、ついでにつくり置きしてひとつだけだけど、食べて、やっと届いて、何度かトイレには行って…… ちゃんと土曜をすごしてた。ああ、水もあげたな、ベランダの鉢植え。 前に付き合っていた女の子の誕生日が日曜だと困るものだ。平日なら忙しい仕事にかまけて気づかなかったフリもできる。しかし日曜は。思い出して、でも何をするでもない。電話でもしてみるか、どういう理由で?何を話す?いや、なんとなく気になってさ、いったい何を気になった?カレンダー見てさ、誕生日だなって、きっとほかの男に祝ってもらってるさ。最近どうしてる?ヨリ戻したいのかって勘ぐられるぞ、何より女々しい。ああ今日、あのコの誕生日かあ、思って何もしない。それが僕にできる唯一のこと。 披露宴の受付を頼まれていた。華やかな宴などからは遠ざかって久しかったが、招待客の衣装もきらびやかになったものだ。女性はもちろん、男性も。蝶ネクタイをつけた人物が数名いることには驚いてしまった。悪目立ちかおめでたくなのか赤いスーツに白のネクタイの男性がいてその狙い通りやけに目立っていた。芸人か?思う僕の横で、やはり受付の女性から「どこかの大泥棒みたいね」そんな声が聞こえてきて、でもそれは僕に向かってのものではなかった。 しかし、昔の知り合いに会うというのは気苦労が絶えない。やあ久しぶりじゃないか、覚えてるか?ああいうときは忘れてしまってても、もちろんさ覚えてるよ、話を合わせるものなんだろうな、本来は。すまん、覚えてなくて、正直に言って相手をさみしい顔にさせてしまった。せっかくの式だというのに、出席してくれた招待客だというのに。 受付を終え自分の名前の書かれた札が置かれた席に着く。すまん、あそこの席のさ、ああそうそう、彼さ、なんて名前だっけ? インドネシア研究会の澤田だろ、ぶっきらぼうな声で教えてもらうがそれでもピンと来ない。 「お前のとこもそろそろじゃないのか」 忠告か、茶化してるのか、あの女の子と結婚なんてなったらそれこそ…… 結婚式でうんざりするなんてヘンに勘違いされそうで、でも僕は、しっかりとうんざりした。 六月の花嫁は雨に濡れて、でもちゃんとうれしそうだった。雨は朝から降り続いていたけど花嫁が濡れていたのは雨のせいじゃない。泣いていただけだ、きっと。 しかし澤田…… 家に帰ってからも思い出せない。いただろうか。当時、何か話したんだろうか。思い出せない、思い出せそうにもない。たいした仲ではなかったということか。その判断で、おそらく間違いはないんだろう。僕の人生において澤田某はその程度の存在なんだ。そう思うと、途端に気持ちはすっきりした。 日曜日はちょっとつまんない。お気に入りのスマホでみれるいくつかの小説、軒並み更新がない。 夜、呼び出される。例によって、とその前につけてもいいくらいだ。着信があって僕が「もしもし」と言わないうち、 「いま赤坂。30分で来て」 ひとつも言葉を出せないまま通話は切れた、これだって例によって、だ。30分か、まるでピザ屋だ。財布とスマホとクルマのキーだけを手にし部屋を出る。慣れたもんだな、そう思う自分を情けなく思う。 赤坂の手前あたりで降ってきた雨は、しだいに強くなった。インターバルにしていたワイパーを一段ひねって海を目指す。 芝浦の倉庫街。雨の夜は悪いことをしてみたくなるもんだ、その行為を雨が覆い隠してくれるから。トランプのカード飛ばしのようにスマホを放る。きちんとバランスをとれなくてすぐ海に落ち、その音が雨音にまざり合う。夜の闇が、雨に濡れてさびしい。もう会うことはないだろうあの女の子を思い浮かべ、あのころの気持ちはなくなってしまったよ、届くことのない短い別れの告白は雨に消えた。夏がはじまるというのに、雨は冷たい。
「あなたは、ワタシさんですか?」 「はい」 「ワタシというのは、漢字で私?」 「いえ、ひらがなで、わたしです」 「じゃあ、わたしさんね。はい、これでいい?」 お相手は、一人称欄に『わたし』と書かれた紙を、わたしに見せる。 「これでも、いいですよ」 「これでも?」 「はい。いや、べつにダメというわけではなくて。でも、べつに漢字で私だろうと、ひらがなでわたしだろうと、カタカナでワタシだろうと。正直、どっちでもよくて」 「じゃあ……どうします? このままひらがな表記にしますか?」 「わたしは、気に入りました」 「そう。本当に、わたしでいいの?」 「はい」 二人は対話を重ねつつ、紙に必要事項を記入していく。性別、出生地、家族構成における立ち位置、生理現象の回数、思考の癖、etc。 「それにしても不思議ですね」 「何がです?」 「いや、その、たかが一人称でしかないわたしが、この人自身に関わる重要な物事を決めてしまってもいいのかなって」 「それが当然のことでは? 〈あなた自身〉のことは、あなた自身で決めるものですから」 ほうける、わたし。 おどろく、お相手。 「あっ、失礼。勝手なことを……。ただ、一人称というのは、生まれる〈その人〉が本名以外で、自ら望んで口にする呼び名です。むしろ本名よりも呼ばれる回数は多いかもしれません。本名と一人称が同じ場合は、なおさら」 「はぁ」 「言ってしまえば、一人称は本名よりも名前。むしろ、第一の名前です」 「第一ですか?」 「ええ。二人称や三人称は、周囲の人々の存在によって、はじめて誕生します。本名もそうです。親や、それ以外の誰かに名づけられるまで、その人は名無しの人となるわけです」 一度、お相手は咳をする。コホン。 「しかし、一人称の場合は話が違う。本名よりも先に生まれる。特別です」 「特別……」 「はい。ですから、生まれる〈その人〉よりもずっと特別な、その人の一人称である『あなた』には、その人のいくつかの生理的かつ個人的な特性を与える、強い決定権があるわけです」 お相手が紙に記入した一人称欄を指差す。しかし、隣の名前欄は空白のままだ。 「でも、わたしがわたしの名前で呼ばれることはない。ですよね?」 「ええ、そうです。あなたは、あくまでも『わたし』さんですから。この空白は、これから生まれる人のためにあるのです」 「でも、わたしと、これから生まれるその人は同じ存在。……ですよね?」 「あなた、先ほどご自分でおっしゃりましたよね。自分は、たかが一人称でしかない、と」 「それは……。でも、よく考えてみたら、わたしと呼ばれるその人と、その人の一人称である『わたし』は、同一人物だって」 「少し違います」 バン。わたしは、机をたたく。 「いったい何が」 「今のあなたは、今の間しか存在しないからですよ」 「え?」 「これから生まれる〈この人〉を構成するものは、たくさんあります。性別さん、細胞さん、心臓さんや肺さん、嗜好さん、内気さん、暴力性さん、幸福度さん」 「……それで?」 「あなたは、これから生まれる人――すなわち、〈あなたが一人称を決定し、担当する人〉の構成要素である、その他大勢と結合することになる」 「けつごう?」 「はい。無数の構成要素が混ざりあうことで、はじめて生物の核が完成します。その核の3割をこれから生まれる人のDNAに流し込み、残りの7割をその人の魂とします。そうすることで、はじめてヒトは誕生することができる。これは他の生物も同じこと」 「わたしは、『わたし』でいられなくなる?」 「まさか。あなたは、これからも〈わたし〉と呼ばれる。それでいいじゃないですか」 わなわなと、わたしがふるえている。 目の前の相手は、事務的に再度、確認をとる。 「本当に、わたしでよかったですか?」
職がない。無職という状態である。 バイト先上司のおやつの饅頭を数回ちょろまかしただけだったのに……。 収入減を失った私には、築四〇年を超える貧弱ボロアパートから脱出することが出来なくなった。 最近は雨の日に室内で水音が聞こえてきて来る気がして、雨水に屋根が打ち勝っていられるのもあとわずかかもしれない。 「引っ越したいわ~……わっ! 冷たっ!」 狭苦しい部屋の中でどうにか寝転んでいると、額に何かが当たって弾けた。 とうとう天井から雨漏りが始まったらしい。 「やっば……コップコップ!」 慌てて起き上がり流しに向かおうとした時、私の耳が妙な音を拾った。 ポチャン。コツコツ。カンコンカン。 雨音らしき音は最初の『ポチャン』だけだ。そのあとの音は、ある程度硬さを持ったものを叩いているように聴こえる。 「まさかもしやポルターガイスト、とか?」 そういえば、このボロ屋の家賃は五千円である。人が何人か死んでいる事故物件と言われてもあまり不思議はない。 それならば、心霊現象を映像に収めてテレビ局に送れば、金になるのではなかろうか。 迷っている暇はない。これはやるしかないだろう。 「スマホは……充電残ってる! セーフ! 待ってろ心霊現象投稿者礼!」 音のする玄関へと、充電残り僅かのスマホを携え慎重に向かう。 下手にこちらが存在感をアピールするより、ビビっている風を演出した方が向こうもノッてくれる可能性はあるはずだ。 大した長さもない廊下をゆっくり、音に耳を傾けながら進む。玄関扉の辺りで奏でられているようだ。 玄関扉を視界に収めても、何ら異常は感じ取れなかった。細い水滴がスニーカーの隣で跳ねているばかりである。 それでも音は止む気配がない。 「幽霊どこだー? 金のなる幽れ……」 スニーカーの影になっている辺り、虫のような小さな影が動いている。 なんだろうか。 床に四つん這いになり、顔を近付けてみた。 何かいる。 「ん……? 人間……?」 「え……何これ……?」 そこにいたのは、蟻よりは大きい程度の、都市伝説に出てくる『小さいおじさん』のような生命体。タキシードをびしっと着込み、つるっとした頭に数本の毛をたなびく、推定おじさんが三体。 それぞれの前には、空き缶、半分に割られた卵の殻、水の溜まったペットボトルのキャップが置いてある。 ポチャンはペットボトルキャップ、コツコツは卵の殻、カンコンカンは空き缶によって奏でられていたようだ。 じっと見つめていると、卵の殻硬めの綿棒のらしきもので叩いていたおじさんが話しかけてきた。 「えー……家主の方、ですか?」 「あー、まぁ?」 「お邪魔しております。我々雨漏り音楽隊です。こちらのお宅が雨漏りしそうだったので、急いで駆け付けたました」 「呼んでないけど」 「まぁまぁ。演奏聴かれましたね?」 「さっきのポチャパチャコンカンいってたやつのこと?」 「聴かれたからには鑑賞料をいただきませんと」 「……ん?」 ペットるキャップの水面を両手でパチャパチャしているおじさんも、空き缶を銀色のクリップでコンカン叩いているおじさんも、気が付けば私に視線をむけていた。 何なんだこの空気は。払える金なんかないし、そもそも私は家主のはずだ。 「いやいや、勝手に人の家でそんなことしといて金取るっておかしくない? むしろ私家主だし、場所代払ってよ」 「それは無理ですね。我々はお金持ってないですので」 「こうやって余所の家でもたかってるんじゃないの?」 「我々は宵越しの銭は持たない主義なので」 人のことは言えないが、こいつらなかなかに浪費家っぽい。ちょっと同類の匂いがして複雑な気分。 「さ、払ってください」 「いやだから嫌だって! 私だって宵越しどころか昼間用の銭さえないのに」 「何とまぁ……まだ若そうなのに……」 おじさん達は、かわいそうなものを遠慮なく私に向けてくる。不法侵入して勝手に演奏聴かせてきたくせに……。 三体の人外は私に背を向け、こそこそと何かを話し合い始めた。マネージャーとか、悪くないかもしれないとか、何やら水音に紛れながら漏れ聞こえてくる。 「家主の方。お名前は? ワタシは吾郎、空き缶の彼は源治、卵の彼はとん平といいます」 「やたら名前渋いな。清音」 「キヨネ……清十郎でいいですかね」 「何で改名ついでに性転換させられてるわけ?」 ペットボトルキャップの吾郎は、私の顔を嬉しそうに見上げてきた。 「いや、あのですね。実は丁度マネージャーを引き入れようと思ってまして……いかがですか? 家主達から巻き上げ……もらった鑑賞料で、雨上がりには打ち上げをするまでがセットですが」 「ぜひよろしく」 私は人間の清音から、雨上がり音楽隊のマネージャー清十郎になった。
「どうぞ、お入り下さい」 扉から顔だけ出した男が声を掛けた。 その声に、二十代後半の女が、緊張した面持ちで部屋に入った。 「失礼します」 「そちらにおかけ下さい」 長机を前に、二人の男が履歴書に目を通していた。 「前職は物流関係とありますが、どのようなことを」 「はい。通販サイトで、購入者様への配送業務でした」 「具体的には、どのような」 「はい。ご注文の品を箱に入れて、緩衝材も詰めて、待機しているトラックまで持って行く仕事です」 二人は、うなずきながらメモを取っている。 「では、弊社を希望した理由を教えていただけますか」 「はい。私事ですが、前の職場の同僚が、私の箱詰め作業を見て、何か感心したようで、御社を勧めてくれたというか…」 「なるほど。うちも箱詰め作業はありますが、結構大変ですよ」 「はい。頑張ります」 女は、笑顔で小さく頭を下げた。 「では後日、改めてご連絡しますので、それまでお待ちください」 女が部屋をあとにする。 「君、今の女性どう思う」 社長が人事の男に聞いた。 「そうですね。即戦力になりそうですね」 「君もそう思ったか。じゃあ、採用するかな」 ──ピコンピコン 女がメールを開いた。 「採用決定。 ご存知かと思いますが、弊社の制服は喪服です。ご用意お願いします」
えらい暗いタイトルだ。 でも実際に一年のうちで1番人が死ぬのは梅雨らしい。 ハァハァ煙草の吸いすぎで調子悪い。 ちょっと弱る。 あと何回かこんなことを繰り返し僕もアパートで孤独死するのかもしれない。 諸行無常。 南無。 南無阿弥陀仏という言葉は阿弥陀様を信じその救いに身を委ねます、という意味らしい。 南無阿弥陀仏。 梅雨に仏様は雨を凌ぐ屋根を用意してくださる、おおありがたや。 救いを求める人達。 南無。 仏像。 梅雨に犬は仏を拝む。
ある政治家が緊急記者会見を開いた。 真剣な面持ちでマイクの前に立つと、集まった記者たちに一礼した。 「私は、国民の皆様の死ぬ権利を保証します」 政治家は動じず、淡々と語り始めた。 「我が国の医療費は年々増加しています。私は、医療費削減のため『尊厳死還付支援金等に関する法律の一部改正を認める法案』を国会に提出しました」 ざわつきの中、政治家は続けた。 「医学的に延命治療が不可能な患者様が尊厳死を選択した場合、延命を続けたときにかかる医療費の半分を還付金として支給します。 申請の妥当性は、AIのみで構成される第三者委員会が判断します。本人、家族、後見人等が尊厳死を理解し、同意することが前提です」 テレビの画面を見つめる女。 その隣には、長い間管につながれたまま眠り続ける夫がいる。声をかけても反応はない。そんな時間が一年を超えていた。 テレビの司会者が、評論家の女に質問した。 「あなたの立場から、今の社会の風潮をどう考えますか?」 「最初は倫理的にどうかなと思いました。でもね、家族の金銭的、精神的負担を考えるとね。国も医療費を減らしたいと思っている。時代の流れかしら」 法案は成立し、運用が開始された。 AIは、不正申請や悪質な養子縁組なども瞬時に判断した。 その実績を政府は大々的に報道し、制度の正当性をアピールした。 あの政治家が再び記者会見を開いた。 「政府は規制緩和の一環として、支援金の有効活用を目的とする民間企業の商品開発、および第三者委員会のAIの一部利用を許可します」 感嘆の声が会場に響いた。 支援金は国民の生活に変化をもたらした。 「故人からの最後の贈り物」として美化され、生活の一部となった。 夫婦の病室。 温かいタオルで夫の体を拭く妻。 医師やAIからは、すでに受理のサインをもらっていた。 署名をすれば終わる…。 妻が机の上を見つめた。 そこには、笑顔で寄り添う二人の写真が飾られていた。
「このパワーストーンに念を込めました。貴方は、もう安全です」 霊能力者からもらったパワーストーンをもらったはいいものの、その人は何の念を込めたか言わなかった。 いや、そもそも念とは何か、私はよく知らない。 「すみませーん」 だから私は、研究所へ向かって、パワーストーンを解析してもらった。 パワーストーンを透明な箱の中に入れると、箱の周りをライトのような機械がぐるぐると回っていた。 研究所の人曰く、特殊な周波数の光を当てることで、念を可視化する機会らしい。 私にはよくわからない。 「さ、こちらのディスプレイで、念が見えますよ」 ディスプレイに映ったのは、何人もの霊威能力者っぽい人が、裸踊りをしている様。 透けているので、人間ではなさそうだ。 外から、黒い火の玉みたいなものが近づいて来ているが、すかさず裸踊りしてるやつがやってきて、火の玉を追っ払っていた。 「この炎みたいなものが邪念ですね。霊能力者の念は、確かに貴方を邪念から守っています」 研究所の人は機械を止め、私にパワーストーンを返してきた。 「大切にしてくださいね」 私は研究所を後にし、帰宅しながら手に持ったパワーストーンを眺める。 確かに効果はあるのだろう。 しかし、裸踊りをしている霊能力者が頭をちらついて、無性に投げ捨てたい感情にかられた。 「えんがちょ!」 とは言え、安全には変えられない。 私は渋々パワーストーンを腕につけることにした。 まるで鳥の糞を踏んずけたような悪寒が、全身に走った。
公園のベンチに、白髪の女が座っている。 女はスマホを眺めながら、小さなため息をついた。 「どうした、そんな顔して」 顔見知りの男が声をかけた。 「あぁ、あんたか。いや、娘から連絡があってな」 「疎遠になってる娘か?」 「結婚して、子どもが生まれたんだ。顔見にこいって」 「おぉ、よかったじゃないか」 女の隣に、男が座った。 「金がないんだ。電車代と、孫になんか買って行かんと」 「それもそうだな」 「あんた、金貸してくれ」 「ダメだ。今日の軍資金がなくなる」 男は笑いながら指差した。 「そこの路地んとこに、店があるだろ。そこ、買い取り屋だから何か売って金にしろ」 「はぁ……売れるもんない」 「孫が生まれて嬉しい気持ちを売ればいい」 「そんなもん買ってくれるのか」 「半分だけならいいだろ」 女は、路地裏にある買い取り屋の扉を開けた。 「どうだった?」 「半分だけ買い取ってもらった」 女の頬が緩む。 「じゃあ、今から孫のとこ行くんだな」 「ん……今日じゃなくていいだろ。軍資金も入ったし、ちょっとだけ行くか」 「お前なぁ……」 自動ドアが開くと、賑やかな音楽が聞こえた。 女は軍資金を胸のポケットに入れ、いつもの台に座った。
眠れないのでしょう。 それなら、僕の夢のお話をしましょうか。 僕がまだお休みしていた頃…眠りたくないままぼんやりと座っていましたらいつの間にか真っ暗な…いえ、無数の青白く光を放つ水晶の欠片が浮かぶ紺色の空間にふわふわと浮かんでおりました。方向も分かりませんし、この空間がどこまで続いているのかもわかりませんでしたが、僕は下へ下へと潜るようにして水晶の間を縫っていきました。やがて辿り着いたのは小さな泉でした。そこには地面があり、真っ黒な一面に水晶の欠片がたくさん埋まっておりました。いつの間にかその空間は狭く閉ざされ、その真ん中に、白く濁った水面が時折ちらちらと光を反射する小さな泉だけがありました。近づいてよくよく見てみるとその水はたしかに透き通っており、なんとも不思議に思いました。僕はこの泉が気になって仕方がなくなり、それなら潜ってみようと、思い切って水の中へとするりと入ってみることにしました。するとやはり水の中も大変美しく透き通っており、泉を囲む岩肌や、そこに埋め込まれたように顔を出す様々な鉱物をよくよく見ることができました。不思議と息は苦しくなく、あれは水ではなかったのでしょうか…。 泉の岩の隙間に覗く色とりどりの鉱物のなかで僕の目を惹いたのが、白い鉱物のなかに小さく輝く真っ赤な"スピネル"のような結晶でした。僕はすっと手を伸ばし、その真っ赤なとても小さい石はいとも簡単に手に取ることができました。その真っ赤な様子を眺めていると、なんとも愛おしい気持ちになりました。この赤い結晶を手に持ったまま僕は泉から顔を出しますと、泉のふちに小さなコルク栓の瓶が置かれておりました。そこではじめてこの空間が「僕のための世界」だということに気がついたのでした。その小瓶の中に手に取った真っ赤な結晶を閉じ込め、僕はここを「水晶の部屋」と名付け、泉で見つけた石たちのコレクションをするための場所とすることにしました。 なんともおかしなお話でしょうが、僕にはなにひとつおかしなことはなくて、これが僕の見た夢であり、僕の夢の中にある居場所であり、僕にとっての「本当」なのです。 きっともう一度「水晶の部屋」へ行ける日が来ることでしょう。その時はまたここで、僕がすべてお話いたしましょう。 それでは、おやすみなさい。
気がつくと、うつ伏せに伏していた。 顔を上げると、木々が多い茂った森。 空の淡い青色がかろうじて視認できる程度の密度。 (ここはどこだ……力が入らない……) 混乱に陥る力もなく、意識を手放した。 ── 「うわっ!!」 次に目を開けると、いきなり驚かれた。 金髪におさげの少女に。 「ここは?」 「私の家よ。倒れてたから村の人と協力して連れてきたの」 「ありがとう。ここはどこ、いやどの国だ?」 「ここはウルカナ」 ウルカナ、という言葉に聞き覚えはなかった。 ここは自分の知らない世界なのか? 「私はレベッカ。あなたは?」 「俺は……あれ?」 名前が思い出せない。 そう言えば自分が住んでいた世界がどんなだったかも分からない。 今日は休ませてもらい、翌日広場に向かった。 ウルカナの人々は想像より気のいい人たちであった。 「おっ、権兵衛、もう平気か?」 「権兵衛?」 「ああ、名無しの権兵衛ってな!」 同年代は気さくだった。 「お兄ちゃん外国人? なんか技出して!」 「こらこら、お兄さんを困らせないの」 子どもは純真無垢で、大人は配慮をしてくれる。 村長らしき人が食事にしようと言い出し、みなで集まりパンを頬張る。 少量だが、味わいがある。 「この村ではみんなの収穫物を分けあって生きているのよ」 「温かい村だな」 「みんな平等だからね」 「でも、収穫物を隠してる悪い奴もいるんじゃないか?」 「それはないわ、神様がいるから」 「神様?」 「えぇ、神様はずっと見てるもの。今も、ね」 レベッカが上を見てそう言い、自分は空を見る。 原始的な思考だが、太陽はこちらを見ているのかもしれない、と納得した。 温かい村での、平穏な日常。 だった。 「ウルカナの人々に告げる。こちらの規定に沿って貰いたい。さすれば安寧を約束する」 白いゴワゴワした服を着だ男達が10人ほどやってきた。 「邪神教……!」 「なんなんだ、それは?」 「自分たちの信仰する神を崇拝しろと攻めてくるの」 「邪神教徒ども、帰れ!」 「……まあいい、君たちにはこれを渡したい」 邪神教徒は何やら四角い本を取り出すも、村民の投げた石が手に当たり、落とす。 「出ていけ! さもなくば容赦しないぞ!」 「……」 彼らは反撃……することはなく、そのまま去っていった。 「次来たらただじゃおかねえからな!」 そう言い、村民は邪神教徒が落とした本に火をつけて焼き尽くした。 「どういうことだ? 何が目的だったんだ?」 「多分、経典を持ち込みたかったんだと思うけど」 ここで自分が抱いたのは懸念であった。 どこかを攻撃するには、何かしら言い分があった方が都合がいい。 そこで今回は失敗すると分かっていて経典を持ち込み、布教に失敗したからと侵攻する算段なのでは……? 「経典にはどんなことが書かれてるんだ?」 「私たちには読めないわ」 「そうか……」 仮に邪神教徒が布教を望んでいたとして、なぜ話し言葉は通じるのに書き言葉は通じないのか。 それを手渡そうとした真意は……? 次来たときは、対話するしかない。 無論、都合良く対話などできる相手ではないと思うが…… しかしその対話のチャンスはそれほど遠くないうちに来た。 また白いゴワゴワの服を着た男達がやってきたのだ。 自分は村長に頼み、話し合いに同伴させてもらうことになった。 が…… 「邪神教徒どもだ! ぶち殺せ!」 村民は興奮して農具を武器に邪神教徒に襲い掛かる。 「や、やめろ!」 邪神教徒が3人ほど倒されると、残りはそのまま逃げた。 倒れた邪神教徒は、特に頭と顔面に損傷を加えられた上で放棄された。 (彼らも無抵抗だったし流石に気の毒だ) 仕方なく、自分は一人で埋葬することに決めた。 その時だった。 「ぅ……ぁ……」 「息があるのか!?」 「……俺はあいつらを……解放しようと……」 「あいつら?」 「……理想の……地獄に閉じ込められる……彼らを……」 「何を言ってるんだ……?」 結局男は力尽きた。 しかし、その手には経典が握られている。 自分はそれを読み絶句した。 我が国は貴国の独裁体制による徹底的な統制に胸を痛めており、我々義勇兵は支配からの独立のための援助をするべく派遣された。 貴国の経済援助ならびに物資の支援も行う所存であり、手を取り合い国際社会の平和に協力してくれる事を願う。 ここまで読んで悟った、村民が言っていた神様とは、邪神教徒とは── 「おーい! どうしたの?」 レベッカの声が後ろから響いた。 自分は経典を懐に仕舞うと、笑顔を浮かべて振り返る。 この村を見捨てる算段を立てながら。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん大変!」 突然、さっきまで外で遊んでいたリッカの妹が孤児院の扉を蹴破るような勢いで開けた。その音で私は我に返った。 二階から下を覗くリッカ。どうせ、碌でもないことだろうと気の抜けた生返事で「何?」と吐き捨てる。 「また死んでる!」 「え?」 すると、後ろからレイとカウルが人を抱えながら入ってくる。その人は泥だらけで、毛が長い。汚れて破れて布だとは思えない服を纏い、薄い呼吸をしている。 「生きてる」 レイはカウルと息を合わせながら、ソファまでその人を運ぼうとする。それを見た先生は「どうして」と困惑しながらも、すぐにレイやカウル、リッカの妹に指示し、自分は救急箱を取りに二階へ走った。 私もこうして運ばれてきたのだろうか。 そんな騒ぎを聞きつけたのは院長。 「どうしたんだい、何事だい、これは」 インダは先生とともに階段を駆け下り、リッカは院長に事情を説明し、院長室に戻るように言った。 コの字のソファの真ん中に寝かされた人。髪が長かったから女の子なのかと思ったが、よく見ると目や口元が男の子っぽい。体格、骨格もスッキリしていて、もはや栄養不足とまで見受けられる。腕なんかは筋が見えるほどに痩せている。 「ひどい」 妹はその少年を覗き込み、その口元に水を少し流し込む。応答はない。妹の目が緩む。 先生がレイとカウルに向かって確認のために事情を聴く。それにレイが答える。 「どこで倒れてた?」 「裏の薮の中。井戸に向かう道を少し外れたところで倒れてた。で、すぐミミを向かわせた」 この子、ミミというのか。ミミはリッカの腕の中で小さく丸まっている。 「どうして薮の中に?」 質問の意図は掴めなかったが、レイはそれにもきちんと答える。私はしっかり者という印象を受けた。 「カウルの蹴ったボールを追いかけて」 「私も見た」とミミ。先生はそれを聞いて、質問を続ける。 「どうして孤児院に?」 まるで、連れて来てはいけないかのような言い草。皆が口を噤む感じを見ると、これはもしかして。「普通の孤児院じゃない」のだろうか。頬の汗が流れるのを感じる。 「助けられる命だから」 レイは毅然と答えた。カウルもそれに頷き、「僕が提案した」と罪を共有するように言った。真剣な眼差しは先生の壁を押し戻す。 先生は孤児院にその男の子を入れ、ソファではなく、わざわざ二階まで運んだ。レイとカウルはそれを前線でサポートし、インダとミミはお昼ご飯作りに台所へ向かった。 リッカは院長室に消えた。院長がいれば、院長室には入れるんだ。 一人取り残された私は、とりあえずあの男の子の安否が気になって、二階へ向かった。 寝室を覗くと自分のベッドに男の子を寝かせるカウル。私が担ぎ込まれて静養していた時は、あんなに嫌がっていたカウルが。私は眉をひそめた。 レイは先生の横で男の子を見つめている。 先生の呼び掛けに男の子は一切答えない。眠っているにしては無防備だし、ここまでの干渉があれば起きそうなものだ。身体や身なりを見るにも、相当の偏りがある。 白いシーツには似つかわない。なぜ、私の方が綺麗にベッドを使っていたというのに、あれほど拒絶されなければならなかったのか。思い出すとムカムカしてきた。 「レイ、下から水を汲んで来てもらえる?」 「はい!」 「カウルは毛布を用意して」 「うん」 レイとカウルはそれぞれ散った。 「私も何か手伝えませんか」 「ユキは、替えの服を持ってきてくれる? お風呂場にインダのがあるから、それを」と、そこまで言って先生はあることに気付いた。私も頭の中で困っていた。 「あ、お風呂場って案内してないわね?」 「インダに聞いてみます」 「そうしてくれる?」 「はい」 私も寝室を後にした。 階段を滑るように下り、バケツいっぱいに水を汲んだレイとすれ違って、私は台所に向かった。そして、インダに事情を説明してお風呂場に到着。 お風呂場の棚にはそれぞれ分かりやすく名札が貼ってあり、一人三着ほどの服が畳まれておいてあった。 インダ、アルバート、リッカ、レイ、ミミ、カウル。 アルバートと書かれた棚にはみんなと同じような服はなく、私が当時来ていた服が丁寧に畳まれて置いてあった。 「私はアルバートくんの代わり、なのか」 見たところ、アルバートはインダの次に年齢が高いのだろう。実際はリッカと同じくらいだと思う。 私はインダの服を一枚拝借し、再び階段を駆け上がった。 寝室に戻ると、毛布を頭から被ったカウルとバケツの水に雑巾を浸すレイがいた。先生は男の子から服を引き剥がしている。 「あの、これ」 私は男の子の身体を見ないように腕で死角を作りながら、先生にインダの服を渡した。 先生は「ありがとう」とそれを受け取ると、レイが雑巾で身体を拭きあげたあとに、その服を着せた。 【つづく】
週末の午後。 都心の貸会議室に、スーツ姿の男たちが集まった。 「だいたい揃いましたかね」 司会の声に、それぞれが椅子を引いた。 「では、始めたいと思います」 「すみません」 最前列の男が手を上げた。 「この資料ですけど、指名方針は決定ですか?」 「はい。12球団すべてのオーナー様からは了承を得ています」 男が周りを見た。 すると、横にいた一人が話し出した。 「君は初めてか。今日はね、ドラフトの話じゃないのよ」 「えっ」 司会が割って入った。 「ドラフト会議のテレビ中継と、球団のイメージ戦略についてです」 会議室に小さな笑いが起こった。 「局側が、もう少しドラマチックにしたいと……」 「どういうことですか?」 「今年は、候補の生い立ちが平凡すぎて、2時間の枠が持たないらしいです」 「やっぱりか……」 資料をめくる音が続いた。 「たとえば、母親が朝から晩まで働いて……とかでしょ?」 「……そう言われてもねぇ」 ──ガチャン。 扉が開き、地方から戻ったスカウトの男が入ってきた。 「理想の子、いました」 額の汗を拭いながら、鞄からタブレットを出した。 「母親がパートを掛け持ちして、五人の子どもを育ててます。その長男ですね」 「いいじゃない。で、野球の実力はどう?」 「まぁ、何とかなるでしょう」 「局側には、この子で時間をつないでもらうとして」 すると、腕を組んで座っていた年配のスカウトが手を上げた。 「こういう子はいい。球団の顔になるし、スポンサーも喜ぶ」 「そうですね。来月の会議まで、もう少しスカウト頑張りますか」 皆がうなずくなか、司会者が正面の机に抽選箱を用意した。 「先ほどの長男の方を指名する球団はありますか?」 男たちが目配せをする。 すると、四球団が手を上げた。 「では、抽選に移ります」
知り合いに借金3万円。 来月は鶏肉を中心に食費を抑える決意をする。 ネットのレシピで鶏胸丼などが材料費が安く出来ると出ていた。 旨そうだ。 鶏肉は庶民の味方。 僕は政府の敵(あるいは犬) 玉ねぎ食いたい。 血液がサラサラニナル。 サラサラニナル。 さらにさらに成る。 何者かになれなかったが料理は楽しい。 坂本龍馬も実は大したことはしなかったらしい。 知り合いが遠くに引っ越す。 皆それぞれの道へ。 基本的に鳥頭。 苛められてもすぐ忘れる。 世の中に無視されているがそれは僕が無視していたからだろう。 少し拗ねるのをやめようかな。 役立たずでいなさい、とは誰にも教わらなかった。 やるよりやられる人になりなさいとは言われた。 恋は奪うもの愛は与えるものとも言っていた。 与え続けたあいつは死んだ。 やられて与えて死ぬ。 一見すると狂っているようにも見えるこの行動が一筋の光なのかもしれない。 鳥が僕に与えてくれるものを考えて感謝して食べる。 いただきます。
町に熊が出るようになった頃、男は鮭の値札ばかり見るようになった。 国産の秋鮭は高かった。切り身は薄くなり、値札だけが厚かましくなっていた。売り場には輸入サーモンが並んでいたが、男にはそれがどうにも許せなかった。 鮭とは、川を上るものだ。 傷だらけになって、故郷へ戻るものだ。 白いトレーの上で、脂だけを光らせているものではない。 その頃、町では熊の出没が問題になっていた。 柿の木が折られ、納屋が荒らされ、夕方になると子どもたちは集団で帰るようになった。役場には苦情の電話が鳴り、猟友会には依頼と非難が同じ日に届いた。 掲示板には、毎日いくつもの意見が書き込まれた。 〈人命を守れ〉 〈熊を悪者にするな〉 〈自然との共生を考えろ〉 〈子どもが襲われてからでは遅い〉 誰もが正しかった。 だから、誰も引かなかった。 男はそれを読んでいた。 はじめは退屈しのぎだった。誰かの怒りにうなずき、誰かの正義を笑い、また別の誰かの言葉に腹を立てた。 そのうち、男はふと思った。 熊が川に来なければ、鮭はもっと上りやすくなるのではないか。 鮭が増えれば、値段も少しは下がるのではないか。 笑われても仕方のない考えだった。男も、自分でそう思った。 けれど、その考えは、なかなか頭から離れなかった。 男はゆっくりと文字を打った。 〈熊の川辺への接近を制限すべきシャケ〉 投稿してから、男は自分の指先を見た。 なぜ最後にそんな言葉を打ったのか、自分でも分からなかった。 だが、反応はあった。 〈たしかに川沿いの対策は必要〉 〈感情論より具体策だ〉 〈水辺の管理は盲点だった〉 男は画面を見つめた。 自分の言葉が、人の考えに入り込んでいる。 それが分かった。 次の日、男はさらに丁寧に書いた。 〈これは熊を憎む意見ではないシャケ。人と熊の接点を減らすため、水辺の管理を強化すべきシャケ〉 また反応があった。 反論もあった。 賛同もあった。 怒る者もいた。 男は笑わなかった。 笑うと、この力が軽くなる気がした。 やがて、男の投稿は村長の目に留まった。 村長は議会で、静かに資料をめくった。 「熊が鮭を取りに川へ下りてくる。その川辺には、釣り人がいます。散歩をする高齢者がいます。通学路として橋を渡る子どもたちがいます」 議場は静まり返っていた。 「つまり、これは熊の問題であると同時に、人の命の問題です。鮭を取りに来る熊は、いずれ人と出会う。出会えば、事故になる」 村長は一度、言葉を切った。 「私たちは、熊を憎んでいるのではありません。人と熊を出会わせないために、川辺の管理を強化するのです」 何人かの議員がうなずいた。 反対する者もいた。けれど、村長の言葉は強かった。それは怒りではなく、備えとして語られていた。 男は、その中継を部屋で見ていた。 自分の書いた言葉から、「シャケ」だけがきれいに取り除かれている。 ふざけた語尾を失った自分の言葉が、議場の真ん中で、まじめな顔をして座っていた。 数日後、川沿いの藪を刈り、熊の通り道を制限する条例案が可決された。 男は画面の前で、しばらく動かなかった。 それから、天井を向いて、小さく息を吐いた。 「気持ちイイ〜」 その声は、部屋の中でやけに明るかった。 冷凍庫には、買いだめした鮭の切り身が残っていた。けれど男はもう、鮭の値段など見ていなかった。 男は震える指で、掲示板を開いた。 村では、今度は鹿の食害について議論が始まっていた。 山菜が食われた。 畑が荒らされた。 車とぶつかりそうになった。 まだ誰も、うまく怒りをまとめられていなかった。 男はゆっくりと文字を打った。 〈鹿をこのまま放置すれば、村の暮らしは守れないドングリ〉 投稿ボタンに指を置いたまま、男は少し笑った。 「また気持ち良くなれるかなぁ」
まるで空気に茹でられるかのような、湿った熱の中。蝉時雨を前に私は、ただ木陰の下で君を俟っていた。 少し遠くの青い水平線が、灼けるほどの日差しを反射する。乱反射した光が私の目の奥に届く間に、いつしか私は、起こるはずもないそんな奇跡を、待ち続けている。 握りしめたのは、君からの手紙。 『八月の一七の日。あの木の下で待っています』 最後に綴られた言葉は鮮やかに、まるで呪いのように私をこの季節に縛る。 「——私はここ以外では生きられないのに」 そんな言葉で錯覚させてしまうほど、私の心はあの夏に置いていってしまった。忌々しい、君を連れ去ったあの季節に。 瞬間、舞い上がった風に引かれるように、私は上を見上げる。歯の隙間から覗く光は静かに、私を睨んでいた。 未だ鳴り止まない蝉の声が劈く。私の耳に突き刺さる。 握りしめた手紙を強く握り潰して、出かかった言葉を噛み締めた。 「もう、出逢えないのに」 君が約束を破ることなんて、わかっていた。わかっているのに、それでも願ってしまう。 酷く苦しい、 あの日の記憶。
次のため編み進めてる我が想い返り来る歌待ちわびている (訳)きみから届く文が待ち遠しい。来るはずなのに、来なかったらときみのことばかり考えてしまう。私は、次のために返歌を考えてるのにね。早く来ないかな…待ち遠しいな 飛鳥時代、平安時代の和歌の発展は、千年以上に渡って語り継がれることとなる。 平安の貴族女性は安易に外に出られず、会いたい人にさえも会うことができなかった。 だからこそ、彼女たちの窮屈で箱庭のような世界で、和歌は限り少ない楽しみだったのかもしれない。 私は、昔から書き物が好きだった。 きみの歌に触れて、私は彼だけの美しい世界に引き込まれた。 5月、部室の前に貼り出された短歌。 作者の彼の世界観と和歌に惚れた私は、短歌研究会に入り、歌を詠むことが日常になった。 「ねぇ、ツユリさん。この歌どう想う?」 色素が薄い麦茶色の髪に、プレーンのパンみたいに白い肌。 綺麗な顔で彼は、首を傾げる。 部活に入ったのがきみが好きだからなんて、あまりにも安直すぎて、「バレたくない」そう思った。 星みたくひらひら変化(へんげ)万華鏡きみと過ごす二度とない今日 「これ、部室の外に展示してる歌だよね?感動したからずっと覚えてる!」 こんなに綺麗な歌を描けるのは、きっとなぎそくんが良い恋を経験したからだ。 彼に想われる人が心底羨ましかった。 彼は、愛おしそうな眼差しで優しく微笑む。 「ありがとう!その人は近くて遠い人なんだ。一緒に過ごす同じ日は、万華鏡と一緒で二度と見られないんだなって思ってさ。」 「待って、今のは赤裸々すぎたかも!」と彼は、恥ずかしそうに口元を両手で覆った。 彼のコロコロ変わる表情に、わたしも落ち込んだりきゅんとしたり忙しかった。 それから、なぎそくんと私は、お互いが詠んだ歌の感想を言い合うようになった。そして、折角ならと私は彼に、「平安時代みたいに、文(短歌)のやり取りをしてみようよ!」と勇気を出して誘ってみた。 すると彼は、「ツユリさんとなら、俺もやってみたい!」とガッツポーズして喜んでくれた。 不意打ちにドキドキして、しゃがんでニヤける顔を隠すのに精一杯だった。 「ツユリさん、どうしたの?大丈夫?」と彼は私のおでこに、手を当てる。 「熱はなさそうだね。」 「だ…だだ大丈夫だから!ねっ!」 私は取り繕うのに精一杯で、「暑いからお水飲んでくるー!」と慌てて逃げ出した。 「慌てすぎ。はぁ、可愛い。やっぱりだめかも」となぎそは、やりどころのない想いに、ズルズルと壁にもたれかかった。 例の文は手紙が周囲に見つからないように、図書館の決まって借りられていない本の間に挟むことにした。 文には、2人とも「テストが大変!」とか「暑くてアイス食べたいー」とか思ったことを素直に書くことが多かった。 ある日、私は同じ部活の男の子から告白された。もちろん、好きな人がいるから断った。しかし部活では噂になって、「ツユリちゃん告られたって〜?」とか、「付き合わんのかい?」と先輩や同窓生に囃し立てられた。 そこにいたなぎそくんは、いつも通り歌集を黙って読んでいた。 次の日、返歌の文を広げてみる。 天の川渡り届けて恋の端あの子にいつか春来る前に こんなに露骨な恋の歌を貰ったことは、初めてだった。彼は、私が告白を受けたことを知って、恋について考えたのだろうか? 私のことを、ちょっとは考えてくれたのかもしれないと思ってしまう。まやかしかもだけど。 「なぎそくん、どうして今日は恋歌を詠んだの?珍しいなと思って。」 「いつも通り、思ったことを素直に気持ちにしてみようかと思ってね。」 「ツユリさん、どう思った?」 「気持ちが届きにくい相手に深い恋心が伝わって欲しいって思いなのかな?アプローチしてるけど、なかなか伝わらない…みたいな。」 「さすが!鋭い感性だね。もう少し根気強く頑張ってみないとだね。」と彼はさみしそうに笑った。 家に帰ってから、布団の上で今日のことを思い出していた。 さみしそうな表情をした彼と、歌の意味をもう一度考えた。 そしてハッとする。きっと彼の好きな人は私かもしれない… 彼の好きな人を考えるのがただ怖いばかりに、私は彼の気持ちと想いを全く考えようとしていなかった。 やっと気づけた真実に、涙が零れ落ちた。 「私、大馬鹿じゃん…」 「泣いたって、傷つけたことに変わらないのに…」 次の日、私は詠んだ短歌を「放課後に部室に来てください。」とメモを添えて、朝一番に彼の下駄箱に入れた。 今日こそ、ちゃんと伝えるときみからの歌で、そう決心できた。 私は、今日もきみを想い歌を詠む。 千年前に、私たちの祖先が愛する人と歌を詠み、想いを交わしたように。 「きみが好き。」その一言を伝えるために。 次のため編み進めてる我が想い返り来る歌待ちわびている
料理をしててふと思う、結婚できない理由 自分が満足すればそれでいい、その程度の料理しか私はしない 誰かに食べてもらうことを少しも想定していない 私の料理には、他人がいないのだ 気にしなくていいんじゃない 考えすぎだよ そういった言葉を真に受けてきた 気にしなくていいというから気にしなかった 考えすぎだというから考えなくていいと思った 少しは気にしていたほうがよかったのかも ちょっとくらいは考えたほうがよかったのかも まだ、雨は降っている 不規則な雨の音にリズムが狂わされる 思考が混乱するのでないならいいのかも ああ、そうか、違うんだなあ こんな思考なんて、狂わされて、壊されたほうがいいんだなあ もう、間に合わないのかもしれないけれど
「もっと文章が上手くなりたい!」 幼馴染のオカルト研究会部長兼二か月前に突然性格が変貌した幼馴染のAさんに相談した。 Aさんは、少し考えた後、部室から一冊の本を持って来て、ぼくに貸してくれた。 「ここに書かれている通りのことをやればいいよ」 ぼくは家に帰って、さっそく本を開いた。 本の一行目には、こう書かれていた。 『手書き派の方は四ページから。スマホ・パソコン派の方は百四ページから』 「パソコン派です!」 ぼくは百四ページを開いた。 百四ページの一行目には、こう書かれていた。 『引きずり込む文章を書きたい人は百六ページから』 ぼくは迷わずず百六ページ目を開いた。 『引きずり込む文章の例は百八ページから』 ぼくは迷わずず百八ページ目を開いた。 その瞬間、ぼくの体が本の中へと引きずり込まれた。 漫画でよく見るような、突然体が開いた本に近づいて行き、本に触れた瞬間にこことは違うどこかの世界へ瞬間移動したような感じ。 「ここ、どこ?」 上下左右が霧のようなモヤに包まれている場所で、無色透明の床だろう場所に立って、ぼくは辺りを見渡した。 そして、見知った顔を見つける。 「あ、Aさん」 「なんだあああ! 君も、飲み込まれちったのかああい?」 よかった、いつものAさんだ。 「君もってことは、Aさんも?」 「いや。私は悪魔召喚の儀式に成功したら、その代償に体を奪われた」 「あのAさんは悪魔だったんですね」 「しかし代わりに、悪魔は自分の視界や聴覚を共有してん~~~くれているのさ! だから、君の他にも、悪魔が次々と人を地獄に引きずり込んでいくのを見ていてね。いやあ、たっのしい!」 話を聞いていると、全ての元凶がAさんだということが判明した。 そのせいで、ぼくは地獄に来てしまったというわけだ。 ぼくは喜ぶAさんを見て、溜息を零す。 人を引きずり込む文章を……物理的じゃなくて、心を掴むという意味での文章を書けなくなったことは、素直に残念だ。 でも、目の前で喜んでいるAさんを見ていると、なんだか嬉しい気分になってきた。 だってぼくは、Aさんのことが好きなんだから。 このまま一生、いや永遠に地獄で一緒に入れるんだと思うと、悪くない。 「ところで、Aさんは悪魔を召喚して何を願ったんですか?」 「んんん~~~~? 世界中の人間が、私を好きになるように、だよ」 ……あれ?
私は常に何かに足を引っ張られている。 勉強では英語に足を引っ張られ、顔面では目に足を引っ張られている。 英語さえなかったら私は学年一位だったのに、目さえ良かったら私はかわいかったのに。 そんなどうにもならない希望を見つめながら生活を送っている テストの順位が発表される日、とても憂鬱だ。 きっと一位は顔がかわいくて、何にも足を引っ張られてない棚田さん。 きっと二位は国語は少しだけ不得意だけど、英語と理科が得意な葉野くん。 そして私は高くて三位。周りはみんな褒めてくれるけれど、自分ではなんとも言えない気持ち。 別に順位は低くない。むしろ高い方。そんなのわかっている。 私がこの順位でがっかりしたら、きっと周りから嫌われる。だから私は喜ぶふりをする。 「天才だからね」とちょっと自慢したふりをする。 本当は天才なんかじゃないのに。地頭は悪いほうだ。 授業でしたことを家で復習するとびっくりするぐらい何も覚えてない。毎日書かないと、英語の曜日の綴りを忘れてしまう。 だから毎日書くし、復習予習は当たり前。それでも三位。 わかる。わかってる。高い方だってわかってる。落ち込んだらいけないって。喜ばないといけないってわかってる。 家に帰って母親にテストを見せる。 英語が足引っ張ってるね。英語もっと高かったら、順位もっと高かったね、って。 さっきみんな褒めてくれる、といったが母は例外だ。 私が一位だった理科も数学も無視して、悪い英語のことばかり言ってくる。まるで他の教科は上位になるのが当たり前みたいに。 普通に考えたらすごい方なのに、普通に考えたら褒められることなのに、褒められない。 きっと四位の人も五位の人も褒められているんだろうな。私は三位なのに褒められない。 私が三位で喜んだらいけないのは、母がいるから。 母がいなかったらきっと三位でも大喜びする。でも母がそんなこと言うから、三位で喜べない。 私の上にあと二人もいる。それは異常なこと。 だからそんな異常事態を起こした私は悪い人、犯罪者、クズ、アホ、バカ、嫌われ者。 「ごめんなさい」とはにかむ。表情だけでも笑わないと涙が出てきちゃうから。 放課後の教室、訳あって後輩と話していた。 この時が人生で一番楽しかったりする。彼氏といるよりも、父さんといるときよりも。 後輩は私を慕ってくれている。敬語で純粋に目をキラキラさせて。私の学力も知らないで。 後輩に言った。「私、こう見えて学年三位なんだよ」って。 後輩は驚いた。疑ってもきた。 今までされなかった反応に斬新さを感じた。 ちょっと褒めてくれた。どんな人に褒められるよりも嬉しかった。 私はこの子のためにこれからも頑張る。そう決心した。
いい子でいた結果追い詰められ貧乏になる。 謝らなくていいことで謝れと言われ居場所を失う。 明らかに相手がファウルをしているのに審判はそれを取らない。 なのでスポーツが嫌いになる。 何の話だろう? トラッシュトークは文章で出来るが僕は相手をオーバーキルしてしまう癖があるので(わかっている子供は逃げたりする)質が悪いのはわかっている。 おまえは言った謝れ だけどてめえはくたばれ 顔に糞塗りたくれ いい加減にしやがれ 韻を踏むと少しだけやり返せたような気分になる。 プロレスを覚えるべきかも知れない。 フツーに考えてヤベー奴が一杯いる。 権力をかさに着て暴虐を尽くす。 僕に力が無いのは僕が力を持つとろくなことをしないのがわかっているのでまあそれはいい。 まあ同じ穴のムジナなんだろう。 実際問題嫌な奴がいて勝てそうな相手だったら飛行機のチケットそいつに取らせてアフリカのサバンナ連れてって一対一で殴り合いしてはったおして倒れてるのを肉食動物に食わせて証拠隠滅を図るくらいのことは考える。 勝てなさそうな相手だったらどうするだろうか? 証拠が残っちゃうからな。 思い付かない。 暴力的なことを考えると心が荒む。 うーん毒を盛る前に盛られてしまった。 花を買っていない。 本来的に鍬で打壊しとかするタイプの人間なんだろう。 外部的な破壊は何も生まないと言う。 内側から自分を狂わし壊す。 壊れていた時期は善きにせよ悪しきにせよ(これが僕の悪い癖だ)世の中が動いていた。 関わると周りの人間が壊れる。 やはり犯罪者の素養がある。 単独犯なので(あるいは都合がいいと金にしている人や面白半分で動いている人はいるかもしれない)結構やられる。 そういえば煙草を吸っている高校生に煙草貰ったことあったな。 いいオッサンがみっともない(ホームレスのオッサンみたいだ) 周りに太っている人を見ない。 猫は土俵に上がれないらしい。 力士から疎まれているのかも知れない。 まとまりの無い文章だ。 僕に武器を持たすと似た奴(まあようは人外)を駆除するので武器を持たされない。 1番武器を持たせちゃいけない人間かもしれない。 世間では核の議論がされている。 僕が個人的に戦術核を持ったら嫌いな奴の性器に照準を合わせてこれが欲しかったんだろオラァってブチ込むのでこんな奴には持たせないだろう。 今夜あたりパンツに穴が空きそうだ。 まあようは義憤なんて嘘なのだ皆私憤なのだ。 悪い奴か。 まあ大体のことは役に立たないですしって主治医に言ったら嫌そうな顔をされた(もっと嫌がれそして生命力を無くせそれを俺が喰って生き延びるから)まあようはあなたのやってることは無駄なんですよって言いたい。 人を元気にさせることも出来るが気に入らない奴の生命力を奪うことも出来る(まあ散々奪 われたんだから奪ってもいいだろう) まだ悪い子成分が足りないかな? まあようは勝手にやってくれ俺はお前ら(俺を利用してはめようとする奴)が嫌いだからと言うことだ。 面白そうな案件なら乗る(何様) しかし実際には何もしていない。 人造人間は動物を守る。 犬は番をはる。 カラオケで讃美歌でも歌おうかな? アシッドな曲は中毒になる。 僕のやってることも多分無茶で無駄。 暗い文章だ。 宇宙人達は死んだ人間を使ったり隠れた霊能力者は善悪の彼岸で金を作ったり忙しい。 全ては未来の不思議装置の開発のツールの為だろう(えらい妄想だ) 悪人正機か。 何もしていないことが1番最悪かもしれない。 魔法で隕石をぶつけたい(局所的に) 巻き込まれる方はたまったものではないだろうがならばもっと悪いことをして善悪問わず科学力を発展させて系外惑星に避難してザマーみろ俺は生き延びたって高笑いしてよかったアイツラいなくなったって地球を再生させるからそれでいい(えらい妄想だ皆こういうことを考えてるのか?) 秀吉は半島に攻め入ったが大陸の制覇の足掛かりだったらしいので同じつてを宇宙で踏む連中は歴史に学んでいないそもそも侵略はうまく行かないと歴史が証明している。 少し状況は変わるが宇宙人は善と悪の両概念で(それ以外?)動くので列島は相変わらずわちゃわちゃしている。 明日あたり刺されるかもしれない(刺すならお尻にしてね) ぶるぶる震えて寝る。
「お父さん! 明日もまた来ようね!」 息子からそう言われた時、私はつい苦笑いを返してしまいました。 息子はまだ5歳。地球を出発した時はぐっすり眠っていて、起きたらいつの間にかこの場所にいたため、どこか近場の遊園地にでも来ている気分なのでしょう。しかし、ここは地球から遠く離れた宇宙なのです。 とはいえ、若い頃に想像していたよりはずっと早く、たった7〜8時間で私たちは宇宙へと運ばれました。宇宙空間に向け、莫大なエネルギーを推進力に変換する最新の宇宙船のおかげで、遠い海外へ行くよりもずっと短い時間で目的地へ着いてしまうのです。 私たちが訪れたのは火星のテーマパーク。そこには、地球の遊園地とは比べ物にならないほど魅惑的で面白いアトラクションがたくさんありました。 そして帰り際、冒頭の息子の一言があったのです。 「ははっ、明日は無理かもしれないけど、近いうちにまた来ようね!」 私は苦し紛れにそう返すしかありませんでした。 というのも、宇宙旅行の費用は海外旅行の比ではありません。庶民の貯金では到底手が届かない、天文学的な金額なのです。今回は「初回限定で大幅な割引が適用される」という政府の特別政策を利用して、ようやく叶った旅でした。次回からはそうはいきません。 父親としての見栄を張って約束してしまった手前、心苦しいのは山々ですが、宇宙旅行が一般化して安くなる頃には、私にはもう行く体力が残っていないでしょう。 それでも心の中では、目の前のこの小さな君がすっかり大人になった頃、もう一度肩を並べて同じ景色を見たいと強く願っていました。 二日間全力で遊び、すっかり疲れ切った体を帰りの宇宙船のシートに沈めます。 静かに動き出した船内で、息子がふと言いました。 「お母さんは、どこにいるの?」 私は一瞬、思考が止まりました。そんな私の戸惑いなど気にも留めず、息子はじっと私の目を見つめて続けます。 「お母さん、お星さまになったんでしょう?」 ――そうでした。私は幼い彼に「お母さんはお星さまになったんだよ」と教えていたのです。もともと体が弱かった妻は、この子を産んですぐに亡くなりました。どうすることもできない運命でした。 「お母さん、どのお星様になったの?」 気づけば、目から滲んだ涙が頬を伝っていました。 「うん……どこだろうね。こんなにたくさんのお星様の中から探すのは、とっても大変だね……」 泣いているのがバレない様にまるで子供の様に笑顔で強がってみせます。 「あ、あれお母さんだ! お父さん、あれがお母さんだよ! 見つけたよ!」 息子の小さな指先が示す先にあったのは、決して一番強く輝く星ではありませんでした。しかしそれは、宇宙の暗闇の中で、一番優しくあたたかい光を放つ星でした。それを見た瞬間、私は本当に妻の姿を見たような気がしたのです。 死者の魂が星に生まれ変わることなどないと、一体誰が断言できるでしょうか。真実を誤魔化すために息子の前に立てた嘘の壁は、世界の在り方を示す鏡だったのかも知れません。 息子は写真越しでしか妻を見たことがないはずはのに、私よりも妻の本当の姿を見抜いているように感じました。 「ああ……間違いない。間違いなく、お母さんだ。君のお母さんだよ」 ついに涙を隠しきれなくなった私を見て、息子は「お父さん、変なの」とでも言いたげな不思議そうな顔をしていました。しかし数十分後には、安心したのか私の胸の中で再びすうすうと寝息を立て始めました。 もう一度、君に会いに来よう。 それまで、あの場所で待っていてくれるだろうか。いや、きっと大丈夫だ。星の寿命は人間よりずっとずっと長いのだから。この子はこれからぐんぐん成長し、あたたかな君の光はますます輝きを増していくに違いない。二人の成長と輝きを見守ることができる私は、なんて幸せ者なのだろう。 静かに眠る息子のやわらかな髪を撫でながら、私の心はまるで無重力のように、ふわりと軽く浮き上がっていくのを感じていました。無造作に跳ね上がった毛先とあの星を一直線に繋いで独り呟くのです。 君とまた宇宙で。
「もう少し普通になりなさい」 「どうしてそんなに変なの?」 色んな人に言われた同じような言葉が私の中で繰り返される。 普通、か。 普通とは何か、を具体的に説明してから言って欲しい。 私はいわゆる普通の家庭に生まれた。 父、母、姉が一人。一般的、そう普通。 両親が欠けているわけでもないし、大家族ってわけでもない。普通の家庭。 だけど私は普通ではないらしい。 普通が何かなんてその環境によって決まるのに。 女の子ばかりのところだったら前髪を気にするのが普通だし、芸能界では綺麗なのが普通だ。 普通なんて結局は環境で変化する曖昧なもの。 でも私はどこにいてもその曖昧なものになれなかった。なろうとしてみたこともある。 前髪を気にしてみたり、恋バナに参加してみたり、口元を隠して笑ってみたり。 だけど何か違う。本物にはなれてない感じ。 どんどんボロが出てきて最終的には普通じゃないのがバレてしまう。 みんな陰口を言うのが普通。でもわざわざ、一言注意したら終わることを長々と陰でぐちぐち言う意味がわからない。 みんなスカートを折るのが普通。でも校則を破ってまで、膝を見せたがる意味がわからない。 男好きは嫌われるのが普通。女の子なんて大抵男の子と恋愛をするのに意味がわからない。女の子は大抵、男好きでしょ? 普通になりなさい。って。 性格悪くなってでも、普通にならなきゃいけないの? どうしてそんなに変なの?って。 バカみたいに周りに合わせてる方が変でしょ? 普通になりたい。 そしたら陰口を言う罪悪感も普通への疑問も無くなるのかな。 普通になりたい。 普通だったらきっともう少し生きやすかった。
わたしは挑戦することが好き。 できなかったら得られなかったことを知れるから。 実は、思い込みが激しい。 だからこそ、挑戦をやめたくない。 挑戦しなければ、あーでもない、こーでもないってずっと悩んで考え込んでしまうから。 考えるよりも行動に起こすそうし続けてきた。 挑戦するということは、傷つくことと同義でもある。 時には、挑戦しなければ経験することのなかった大きな痛みも伴う。 例えば、海外のカリキュラムを選んだことで味わう、日本の高校生とは違う疎外感とか。 勉強に明け暮れて部活に入れず、逃した青春とか。 他のカリキュラムの子と所属クラスが同じで、話題が合いにくい辛さとか。 全日制から通信制に移る環境が変わる痛みとか。 後悔のが実は多いかも… それでも、挑戦したからわたしはわたしを知れた。 好きなことも、嫌いなことも、得意なことも下手くそなことも。 それでもいいやって思える精神とか、理想の生き方も、挑戦しなきゃ知り得なかった。 自分が自分であればそれでもいっか。 そうやって思える自分になった。 それでも、ほんとは挑戦するのがいつも怖い。 挑戦し続けることが生きてる価値になるのが怖い。 だから受容して生きたい 何でもそうだけど、できても、できなくてもわたしはわたし。 あなたはあなた。 みんな違ってみんな良いじゃん。 それはそれで、今日は穏やかに過ごせたなとか、きっといいことあるよね。 わたしはまだ、暗闇の中にいる。 光はまだ見えていない。 それでもずっと楽しく生きたい。 明るく笑って前向きに… 何が正解で何が間違いとか、外の視線は気にせずに… 主観で自分を縛らずに 生きたいように自然に、今日も生きてみたい
郊外の安アパート。 中年の女が一人で暮らしていた。 「私……さえてるねぇ」 ニヤリと笑った。 『手を振る教』 教祖のまねごとを始めた。 思いを込めて手を振ると、大切な人にもう一度会える。 適当に考えた。 ──明日午後九時からライブ配信を行います。 あなたの大切な人に会えますように。 SNSでつぶやいた。 週に一度のライブ配信。 目的は投げ銭。 数人だった視聴者は、今では百人を超えた。 『十年ぶりに娘から電話がきた』 『偶然、昔の恋人に会えたよ』 喜びの投稿が並ぶ。 視聴者が千人を超えた。 女は投げ銭を増やそうと、必死に両手を振り続ける。 ──肩が痛い……。 治療費は、投げ銭の額をはるかに上回った。
あの山の向こうに巨大な怪獣が住んでいる 時折、山頂に手をかけて山並みから、ひょっこり顔を出して悪い子はいないかと探していると信じていた 山に霧が出ている時は、霧の影から怪獣が見えないか心配だった 大人になった今でも、ふと視線を感じると時がある 巨大な目が私を見ていないか恐る恐る山を見る
僕は埴輪みたいな体型をしている。 口も空いている。 あいつは埴輪の何かか?と行き交う人に思われている気がする(自意識過剰) 埴輪でも作って暮らしていたい。 埴輪にシンパシーを感じる。 馬の埴輪なんかいい感じだ。 顔の書いてある土器とかも可愛い。 縄文土器はいいなぁ。 粘土こねくりまわす。 ペタペタ。 豊満な女性の埴輪なんかエロスを感じる。 ペタペタ。 ペチペチ。 ペチョペチョ。 動物の埴輪なんかもいいかもしれない。 ペタペタ。 モーモー。 ブーブー。 コケコッコ。 縄文土器はいいなぁ(疲労感)
ワタシは死にました。 恋という、赤い糸が首に食い込んで、ロマンチストという言葉でくくられて、最期は叶わぬ恋に宙ぶらりんとなりました。 何の希望も持てず、 ただ、愛を知りたいと、愚かでした。 そんな浅はかで愚かなワタシを愛してくれたのが、あなたでしたね。 この文章をあなたが読むころ、ワタシはあなたの前から姿を消しているでしょう。 誰しもが闇を抱えている。 そうなのです。 そうです、その通りなのです。 ワタシが闇を抱えているならば、あなたも抱えいて当然だったのでしょう。 あなたは鳥かごを持っていた。 そこにワタシを入れて愛でていた。 そうなのです。 あなたが愛ならば、ワタシは最初から叶わぬ恋をしていたのです。 あなたをお慕いしていました。 心から。心から…。えぇ。 あなたにとって、ワタシは「愛玩」だったのですね。 それこそ動物を愛でるような。 最初から間違えていたのです。 恋愛という感情はなく、ただ哀れで可哀想なワタシをあなたは愛でていたのですね。
ロシア時代 気だるい月曜日に小雨が降っている 大学をサボってもいいが、学校以外の場所で暇を潰せそうにない 下を向いて歩いていたら校門で誰かとぶつかった。 「すみません」 変な訛りが気になって顔を見るとアジア人だった。 うちの学校でアジア人等見たことなかった。面白そうなので声をかけてみた 校内のカフェに入って話を聞くとなかなか面白い奴だった 彼の名はマツナガシゲル ロシアの文化を勉強に来たと言っているが僕の見た所、暇つぶしに観光がてらうちの大学に入学したのだろう。つまり僕達は暇人同士だ。 彼ははっきりとは言ってなかったが、家は相当な金持ちで、彼の妖艶な瞳は、金以外の何かを求めている。 「今度、家に来なよ。料理をご馳走するから。母の作るビーフストロガノフは絶品さ」 マツナガシゲルは愛想よく礼を言い、君の親切に感謝するとカフェ代を払ってくれた。 彼は大学の事務所に行くと言いその日はそこで別れた。また暇になった俺は小雨を見ながらさっきの彼とのやり取りを思い返していると、ある計画を思い付き彼が興味を引くに違いないと確信する。いや…祈ると言うべきか。 「母さん連れてきたよ」 「マツナガシゲルです。今晩はお食事にお招きいただき、ありがとうございます」 母は礼儀正しくハンサムなマツナガシゲルを気に入り、たくさん食べてってと席に座らせている。 父が書斎から降りてきた シゲルが挨拶をすると、父は彼をハグし食事が終わるまで彼等は級友のように延々と話していた 父はシゲルを気に入り彼を書斎に招いた その様子を僕は静かに見守る 父もシゲルが暇を持て余していることに気が付くだろう。まだ、この世に何か面白いことは残ってないだろうかという洞窟の様な心を。 そして父は秘密の会に彼を誘うだろう 果たして彼は人の道を踏み外すのだろうか 数日後、シゲルに大学で会った 「この間はご馳走様でした。本当に有意義な時間だったよ」 「こちらこそ、君と話せて良かった。食事の後、父の書斎で話していたね。煩わしかったら申し訳ない」 父の話をすると、シゲルは、ほんの少し表情を変えたが直ぐにいつもの朗らかなシゲルに戻った 「僕はあの後も君のお父さんと仲良くさせてもらっているんだ」 「そうだったんだ。父も親孝行の息子が出来てさぞ喜んでいるだろう」 その日依頼、大学でシゲルを観ることは無くなり、同じ時期に父も家を留守にすることが多くなった 二人の秘密は父の葬式でも聞くことはなく、父は言葉通り墓場まで持っていったのだ。 「家を買わずに隣人を買え」とは言うが子に親は買えない。父が私への期待をシゲルに注いでくれて良かった。シゲルも父の狂った情熱を受け入れてくれて良かった 本物の人形遊びに取り憑かれた父の情熱を。
ねむい。庭の水やりしないと。朝しか時間ない。ねむい。目が開かない。目を開けたいのか、開けたくないのか、とにかくしんどい。ねむい。雨の音が私を助けてくれる。それでも雨がお米を研いでくれることはない。お湯を沸かしてくれるなんてしない。おかずをつくってお弁当箱に詰めるのも、入りきらなかったおかずで朝ごはんの支度をしてくれることもない。あああ、お米研いで炊飯器にセット、寝ちゃう前にしておけば。私に代わって嘆くのだって、雨はしてくれない。 気がつくと窓際のハーブが外を向いている。くるっと回してやるのに、気がつくとまた外に。手のかかる子だなあ。中学からずっと友だちだった女の子は、一緒に通うことになった大学で遅まきながらデビューに成功。私が見てるのとは違うものをいつも見るようになった。そのたび私は、彼女の視界に入ろうとした。でもその子は、また違うほうを向いてしまった。なんでこのタイミング? 思い出す要素なかったと思うけど。言ったって、思ってしまったものは取り消せない。どこかの議会みたいに、いまの発言は取り消します、すんなり簡単になかったことにできたら。思考の残り香は、そこまで単純じゃない。 沸いたお湯で珈琲をいれて「あらあら失敗しちゃって」昨日の私が言う。そろそろ冷たいのに切りかえだね、思った過去の私は、でも冷蔵庫に何もつくってくれていない。私に言うだけのことしてくれてるの? 言っても何も生まれない。それでも何かしら生まれてると言うのなら、いら立ちくらいのものだ。 アタマのなかに住むもうひとりの私とケンカをしつつも着々と朝の準備を隙なく整えていけるのは、もはや成長を通り越して進化なのかも。ふん、だから何? 電車は待ってくれない。いくら進化したところで、私は走っていかなければならない。傘をひらく。キミもぜんぜん進化しないよね。一緒に雨のなか、駅までの道を急ぐ。
夜が更けて、私はベッドに寝転がった。もちろん、カウルのベッドではなく、先生のベッドだ。先生は「じゃあ、リッカのベッド借りようかな。綺麗だし」と言ってそこに寝てしまった。 先生は三秒もあればいびきをかくことができるらしい。寝転がって二度目瞬きしたくらいで先生は爆睡してしまった。 夜に取り残された私。今日のお昼にはぐっすり眠っていたはずの空間で、こうも寝付けないなんて不思議な感覚だ。私は布団を肩まで引き上げた。 インダもカウルも安心してか、寝息を立てている。やっぱりここは普通の孤児院だよ。 「死んだよ」 カウルの声が脳裏で反響する。 「絶対、帰って来ない」 カウルの声が脳裏で反響する。 「院長だけが帰ってくる」 私は寝返りを打って、無理やり目を閉じだ。 窓枠から見える月はゆっくりと沈んでいった。明日また顔を出してほしい。暗いのはいやだ。私は不意に家族の温もりを思い出していた。 薄い布団だなあ。 そして、呆気なく次の日はやって来て、孤児院の玄関をコンコンと叩いた。それは院長の帰還を意味していた。 インダは玄関のところまで駆け寄り、ゆっくりと開けた。カウルは一歩引いて、院長から隠れるような仕草をとる。 開いた玄関の扉。その隙間から勢いよく入ってきたのは一人の男の子だった。 「カウル! カウル!」 「レイ!」 キョロキョロと辺りを見渡してカウルを探した少年、レイ。レイはソファの奥に隠れていたカウルを見つけると、まっしぐらに駆け寄った。カウルはそんなレイを真正面から受け止めた。 「おかえり、レイ!」 「ただいま、カウル! 一緒に遊ぼうぜ!」 カウルは目を輝かせながら、そのまま玄関の扉を開けて出ていってしまった。 「走ったら危ないよ!」 扉を支えながら走り去る二人を見送る女の子。そして、その妹のような眼鏡をかけた女の子。 「私も行ってきていい?」 「アンタも? まあ、いいんじゃない? お昼には戻るようにレイとカウルに言っといて」 「分かった!」 そして、レイとカウルの後を追いかけていく女の子。その後ろ姿はまるで、弟。 「あ、起きたんだ」 目の前にいたその女の子は私を見ると、興味本位で近くまで歩いてくる。支えを失った扉はゆっくりと軋みながら閉まった。 「あ、あの、初めまして、ユキと言います」 「アタシはリッカ。よろしく」 リッカはすぐに手を差し出す。あまりに不用心で男勝りなその正確に、どこかお母さんの面影を感じる。私は気圧されながらも、その手を取った。 「やれやれ」という声とともに、もう一度玄関が開くと、背中の曲がったおばあさんが一人入ってきた。 「大丈夫? 院長?」 リッカは院長の姿を見つけるなり、すぐに手を取って引導した。最年長のインダも院長のもとへ急ぐ。 「おや、すまないねえ」 これが院長。私はその痩けた頬や白い髪に衝撃を受けた。子どもたちをたくさん連れて出てった理由って、もしかして。 私はやっぱり普通の孤児院じゃないか、と一人合点した。外で楽しげな声がする。リッカもインダも優しく院長をソファに座らせる。私は台所に走り、院長の前にお茶を入れたコップを出した。 「お前さんが新入りだね?」 青い目をして、高い鼻。現代を生きる魔法使いだと言われれば信じてしまいそうな出で立ち。その吸い込まれそうな、星空のような目の奥にあの日を追憶してしまうのは、どうしてだろう。 コップのお茶に朝日が反射した。 少し談笑したあと、院長はインダとリッカの手を借りてわざわざ二階の院長室に向かった。そこに戻る理由があるのだろう。私はどうしていいかも分からず、ただソファに座って、三人を見送った。 「あれが院長」 先生が私の隣に座った。 「私の曾おばあちゃんみたい」 「曾おばあさんか」 天井にぶら下がった蜘蛛を見ながら、先生が私に問いかける。それはごく自然な質問だった。 「どんな人なの?」 「とても優しい。いつも私の味方でいてくれて、私の話は最後まで聞いてくれる。ずっとそばにいてくれて、あの日も」と口を塞いだ。 「あの日、何があったの?」 先生は思い切って私の一線を踏み越えた。覚悟を決めたような目だった。ただ、私はそれに応えられそうになかった。壁の向こうからみんなの声がする。 「思い出せない。見えなくて」 「見えない?」 「隠されてるの、壁で」 先生の瞳孔が開くのを感じた。何かに驚いているような目だ。空のコップ。 「ユキは、どこまで覚えてるの?」 「え」 私は何も覚えていない。ただ、「願い事の中身を聞かれて、それを秘密にしたところ」までの記憶しかない。そのあとの風景は、何も。 「もしかして、『私に飛びついて泣いたこと』もその時言った『追いかけなきゃ』も覚えてない?」 一体、何の話? 【つづく】
吐き出したいけど何を吐き出したらいいのやら そもそも私が思考を停止できなくて考えすぎちゃうことに原因があるのかも 結局、チカラないと泣き寝入りだあ 思考停止させちゃってる声の大きい奴はつえーよなあ 思考停止させてる奴に、思考フル回転で向かっていっても何も生まれないし意味をなさない こっちも思考停止させないとならない不便 気持ちが外に向かっていかないなあ 思考を停止できないってこういうときやっかいだ 食べるほうに気持ちがいけばきっかけになるかもだけど、そういう気にもならないし いま読んでる本、読み終わったころ夏が来るかな 早く読み終わったら、夏も早く来るかな
昼過ぎに生姜の紅茶を入れる 少し風邪気味のようなので蜂蜜を垂らす 紅茶を飲みながら壁に飾ってある写真を目にする あの天使の羽根のような娘が今年で二十歳になり、私と同じ記者になるなんて思いもしなかった。私の記者時代は短く、入社して一年で娘を授かり、記者には戻らず、そのまま専業主婦になった。だから私の記者時代の思い出は、あの事件が全てと言っても過言ではない。 松永重政(56)の切断された遺体が近所の子供に発見された事件だ。 「すみません。今、戻りました」 「悪いな。とりあえず会議室で話そう」 私が殺害現場の周辺に取材をしていたら、上司から「この事件、跳ねそうだ。すぐ戻って来てくれ」と言われ急いで会社に戻ってきた。 会議室に行くと先輩が既にいて、ノートPCで作業をしていた。 上司、先輩、私が席に着くと、先輩が警視庁で取材してきた内容を話し出す 「…殺された松永氏は、自宅以外に山奥に屋敷を所有していて、その敷地内に倉庫があるらしい。今朝方、警察がその倉庫を見に行くと沢山の遺体が発見されたんだ。全員少女ばかりで、一見眠っているかのようだだと言ってました…」 「それは松永氏が殺して保管していたってことだよな」 「おそらく…」 衝撃的過ぎて息も出来ない。 上司は私達に指示を出して、会社に帰って来て30分も経たないまま、私は山奥の松永氏の倉庫へ向かう。 妊娠して三ヶ月。全く母親になる準備も無いままこの事件の取材をしていた気がする。寝る時間も食べる時間もろくに作れずボロボロな状態で過ごしていた。本当に無事に産まれてくれて神様と娘に感謝しかない。 実際、私が見た山奥の倉庫は、何でもない一軒家のようで、敷地内の倉庫もベニヤが日に焼けた小汚い小屋に見えたが、それは外壁に古いベニヤを貼っているだけで、中身は真新しい空調の効いた倉庫だった その倉庫の中にベッドを敷き詰め、服を着た少女達の遺体を保管したいたのだ 私の娘も、彼女達と同じ位の歳だ もし、娘が被害にあっていたと思うと、恐ろしく身の毛がよだつ。 彼女達の年齢は、14歳〜20歳で海外の人が多く日本人は一人だけいた。彼女の名前は浜野姫南15歳。結果的に彼女が松永氏の最後の被害者となった。 日本の警察が調べた松永氏の情報は、その後世界を駆け巡り、海外の警察と連携を組む大掛かりな事件へと発展した。 松永氏は海外の客から依頼を受けて、ターゲットとになる少女を日本に送る。松永氏は日本に来たタイミングで少女を殺害しエンバーミングを施して保管する。そして依頼者が日本にいる間、死体の彼女達を提供していた。 松永氏の顧客は世界各国にいて、軒並み表では成人君主の様な権力者だったが、松永氏のニュースで真実が明るみとなり彼等は墜落していった。 ただ日本人女性の浜野姫南さんだけ、依頼も提供も記録がなかったという。 そして、彼女の父親、浜野勝(45)は、松永重政を殺す殺人犯となる。 ラインの着信音が鳴る 「会社にお母さんの事を知っている人がいた」 今さっき思い出していた先輩に違いない 「『娘をよろしくお願いします』と言っておいて」 「『あいよ』だって」 …何だか仲が良さそうだ。あの子の事だから、会社のオジサンたちを上手く使いそうで怖い。
【すぐできるように準備しとこっかあと言われ僕は靴下を履いたあの日】 昼間にふれたサボテンのちいさなトゲが、抜けていないみたいにかすかな痛みとして胸にある。気にしなければ、たぶん大丈夫なくらい。でも、ちょっとでも気にしてしまえば、みるみる積もっていって我慢ができなくなっていく。痛いのだか、かゆいのだか、わからないようなその感覚に振りまわされるのが嫌で、僕は自分のカラダごと放り出したくなってしまう。 ―どれ、見せてみろ お狐さまがのぞき込んでくる。いくらお狐さまでもこればっかりは。僕は背中を向けてしまう。 「ごめんね」 ―何がかな? 「だって… 契り…」 ―気にするな。また来年がある 満月はいつの間にか、すぎてしまっていた。 ・ 引っ越し先をさがすのは、思っていたより楽しかった。一般的な意味での楽しいではない。あっちの物件を見て、今度はこっちの物件と、忙しく動きまわることで、一時的にでもトゲから目を背けることができるから。そういった点において。 ・ いくつ目の物件だったか覚えていない。その物件はすんなりと真っすぐ伸ばすだけの土地が確保できなかったようで階段がやけに曲がりくねっていた。意図的になのかどうなのか、複雑に曲げられた階段をその通りに沿って登っていき、やけに青い夏の空と、白いもくもくとした雲を見たのを最後に、僕の意識は… 途絶えて… しまった―