クリニックの診察室。 男は困った顔で、ドクターに話し始めた。 「先生、時々、耳元で声が聞こえるんです」 「それはそれは……幻聴ですね。どんなふうに聞こえますか?」 「天使が二人、右と左で囁くんです」 ドクターはペンを止め、じっと男の顔を見た。 「天使と天使ですか。天使と悪魔じゃなくて?」 「はい。どちらも『自分が天使だ』と言い張ります」 ドクターは笑いをこらえ、咳払いをした。 「いや、失礼。珍しいケースですね。ふつうは善悪の対立があるものですが、両方が天使となると……判断が難しい」 「先生、僕はおかしいんでしょうか」 「おかしいというより、興味深い」 ドクターはカルテに走り書きをしながら、声のトーンを落とした。 「その二人の天使は、あなたに何を囁くんですか?」 「ポジティブな言葉を……『やればできる』って」 青年はうつむき、ため息をついた。 「ちょっと、うざいです」 「……わかりました。では、お薬を出しますから、様子を見ましょう」 「お大事に」 薬剤師から渡された紙袋には、耳栓が二つ入っていた。
ままごとのような恋して結婚も子どもなふたりみんな過去形 なつかしく思っているわけではなくて責任がないことへの感慨 嫌な過去 思い出しちゃう 下向くな 暗澹となる必要はなし
下町の路地裏。 伝統工芸職人の男と、その妻が暮らしている。 「あなた、また来てるわよ」 「知らん。ほっとけ」 弟子入り志願の若い男が、玄関の脇に立っていた。 「弟子にしてください」 職人は気にせず、木槌でノミを叩いた。 「どうせ、続かん」 「話だけでも聞いてあげたら?」 次の日も、また次の日も。 若い男は、玄関の前に立った。 ──ガラガラガラ。 「入れ」 「ありがとうございます」 「続ける自信は?」 「死ぬ気で頑張ります」 妻が頬を緩めた。 「二階の奥の部屋を使って」 若い男は作業着に着替えると、職人の後ろに座った。 「師匠の背中を見て、精進させていただきます」 深々と頭を下げた。 職人の木槌を振る手が止まる。 そして、壁に貼ってあるQRコードを指さした。 「それ、俺の動画。それ見て覚えて」 「動画、私が撮ったのよ」 二人は、顔を見合わせて笑った。
人間カタログのサイトを表示する。 店が、時給を提示して人を集める時代は終わった。 今は、人に時給がついており、店が人を選ぶ時代だ。 つまり、コンビニバイトの採用担当の仕事は、如何にコスパ良く人を選べるかということだ。 「コンビニ経験は五年以上十年未満。百貨店での受付経験も三年以上。即戦力だろ、こんなもん。……でも、希望時給が最低二千円。完全に予算オーバーなんだよなあ」 手元の予算表に目を通す。 店長候補でもないバイトに当てられた予算は、時給千四百円まで。 にもかかわらず、上から言われた条件は即戦力。 「いるわけねえだろー、そんなやつー」 マウスを動かし、サイトの次のページへと移動する。 現れては消えていく、経験と希望時給。 経験が足りれば時給が高すぎ、時給が足りれば未経験だらけ。 「コンビニ一年未満。飲食店一年未満。引っ越し一年未満。最低時給設定だけど、これは無理だ」 依然として、雇う側と雇われる側のギャップは強い。 雇う側は、頭を下げなければ仕事にありつけなかった世代。 バイト希望者の足元でも見ているような条件を突き付けてくる。 だが、今のバイト希望者の大半は、求人需要飽和の世代。 より条件のいい場所で働きたいと考える、選ぶ側の思考だ。 どちらも自分が選べると思っているが故、バイト探しは難航する。 「そもそも、千四百円ってのが微妙なんだよな。千四百を希望してたやつも、切りよく千五百で登録するだろ、普通」 うっかり愚痴がこぼれる。 幸いバックヤードには誰もおらず、俺の愚痴は俺の中だけでとどまった。 時給千五百円で雇えそうな即戦力候補をブックマークに入れ、上の人間へチャットを送る。 『即戦力を諦めるか、時給を上げるか、どちらかにしてください』 過ぎに既読が付き、返事が来る。 『予算があるので、時給を上げるのは難しいです。即戦力でなくてもいいですが、即戦力相応の人間を選んでください』 「どっちか選べっつっただろ!」 胃がキリキリと痛む。 いつだって板挟みになるのは、俺みたいな中間管理職だ。 「じゃあ、こいつ選ぶぞ、こいつ? いいんだな? いいんだな?」 痛んだ脳は、上に泣きを入れさせたい衝動にかられ、一人の人間をブックマークに入れた。 経歴は、コンビニ歴十年以上。 希望は最低時給。 どう考えても地雷臭しかしない人材を、俺はチャットで送りつけた。
「お前がラスボスだな!」 ダンジョンの最深部。 勇者は、魔物に剣を突きつけて叫んだ。 「いえ、ラスボス代理です」 魔物は答えた。 冒険者は剣を下ろして、首を傾げた。 「え? 代理?」 「代理です」 「本物のラスボスは?」 「休暇中です」 「じゃ、出直します」 「私を倒しても、ダンジョンをクリアしたことになりますよ。しかも、私はラスボスより弱い。出血大サービス」 冒険者の剣が揺れる。 ラスボスを倒して気持ちよくダンジョンをクリアしたい気持ちと、通常よりも低いコストでダンジョンをクリアしたい気持ちの狭間で、心が揺れ動く。 「そんな、卑怯なことは」 「卑怯じゃないですよ。こっちの都合なんで」 「……もしもお前を倒した後、ラスボスが戻ってきたらどうなる?」 「ダンジョンのクリアが確定した後なので、魔物の生存は不可。ラスボス、バカンスから帰ってきたら家を失ってて、ひっくり返るでしょうね。あっはっは」 「笑い事なの!?」 ラスボス代理の言いざまに、思わず冒険者の方がラスボスを心配してしまう。 しかし、相手は魔物。 そんな善意ごときで相手をしていい存在ではない。 ダンジョンが存在する限り、周辺の村々に被害が出るのは事実なのだから。 冒険者は揺れていた剣を握り直し、ラスボス代理に剣を突きつけ直した。 「俺は、お前を倒す!」 「おお、ようやく決意しましたか。では、尋常に、勝負!」 冒険者の剣とラスボス代理の爪が、ダンジョンの最深部で衝突した。 そして、剣が折れ、冒険者は一撃で敗北した。 「いや、弱いんかーい!」 ダンジョンの魔物たち全員から逃げ隠れする成功にして最深部に到達した冒険者は、敗北と共に入口へと強制転送となった。
あの人が のどを潤す あれは あの透明な液体は なんであろうか あの透明な液体は おそらく サイダーであろう あの人が ぶるっと かるく ふるえをおこす あの透明な液体は きっと サイダーであるな あの人の からだに入りこんだ サイダーめが あの人のなかで しずかに 騒ぎたてたに ちがいない しずかに けれど 騒ぎたてた サイダーよ しずまれ しずまれ サイダーよ 騒ぎたてるな サイダーめ あの人のからだを 熱くさせるな
ある日の午後。ようやく男が目を覚ました。 「結局、負けかよ…」 サッカーの国際試合を見るため、仕事を休んだ。 カーテンの隙間からは、濃い光が差し込んでいる。 照らされたテーブルの上には、妻からのメモ。 ──友達とランチに行ってくるね。夕方には帰ります。 昼ごはんはチンして食べてね。 ソファーに深く座り、テレビを点けた。 「今朝の試合の結果です」 アナウンサーが残念そうな顔で伝えている。 「試合には負けましたが、サポーターの行動が世界の方々から称賛されてます」 観客席で青いビニール袋を手に、ゴミを拾う人たち。 「素晴らしい光景ですね。では、また来週お会いしましょう」 男は画面を見ながら、鼻先で笑った。 エンディング。 右端には、 ──本日午後の存在価値 全国平均 76% 次の朝。 洗面所に置いてある体重計に乗った。 ──体重 72キロ 存在価値 95% 液晶パネルには、自分の存在価値が%で表示される。 ──生まれたばかりの赤ちゃんは存在価値100%らしい。 誰かが言ってたな。まぁ、どうでもいい。 「あなた、お弁当できたわよ」 妻は肩までの髪を耳にかけながら、片足をそっと乗せた。 ──体重 48キロ 存在価値 95% 「ねぇ…今晩、ちょっと話があるんだけど」 「なに?」 「帰ってからでいいわ」 夕食後、妻が話を切り出した。 「あのね。友達が、パート募集してるから来ないって誘われたんだけど」 「どうしたいの」 「週に3日くらいだからね。お小遣い程度にはなるかな」 「いんじゃない。でも、無理しないでね」 「ありがと…」 妻はスマホを手に、友達へラインを送った。 窓の向こうが、薄暗くなる。 しばらくのあいだ、部屋には着信音だけが響いていた。 「先に行くね」 妻が弁当をバッグに入れ、もう一つをテーブルに置いた。 「気をつけて…あのバッグ、初めて見た」 男は体重計に乗った。 ──体重 72キロ 存在価値 90% ほんの少し、胸の奥がざわついた。 スーパーのビニール袋を手に、妻が帰ってきた。 「ごめん、遅くなった。今からごはん作るね」 惣菜をパックから皿に移し替え、レンジに入れた。 「あのね、店長が正社員にならないかって」 嬉しそうな横顔。 「そういえば、あなたの工場、外国人の従業員雇ったんでしょ。なんか大変だね」 男は洗面所に行き、体重計に乗った。 ──体重 72キロ 存在価値 70% しばらく、数字を見つめていた。 テレビでは、豪雨被害のニュースが流れている。 「なぁ…ボランティアに行ってみようかな」 男の声に、妻が振り返る。 その顔は、口元だけが笑っていた。
何か寝られなくて機嫌が悪い。 指先が震えてくる。 世間では煙草のアニメがやっている。 煙草なんてそんないいもんじゃねーよ。 戦争中に配られるものなんだから。 政府に上納してる税金が膨れ上がる。 傭兵は死体の山を築く。 大麻とか覚醒剤でもやってろ。 そんで国に反乱を起こせ。 これは何の罪に問われるんだろう? あ、ヤバい国家転覆罪だ。 僕しか煙草を吸わなくなれば国は大麻でも解禁するだろう。 酒を静脈注射してろ。 もしくは肛門に流し込め。 本当にやりたいことやって捕まるなら本望だろう? ただし責任は取れ。 僕は花の盗撮と見るハラと詐欺罪で捕まりそうだ。 悪いことして金作ってもいいよ。 ただし上品さが必要だ。 幼稚園児の悪戯の延長みたいなことが多すぎる。 政治家なんてその最たるもんだろう? 俺より餓鬼っぽいことやって金もらってやがる。 大人が全部正しいならこんな世の中になってねえよ。 俺の弾倉は不思議パワーによってまた弾丸を詰められる。 でも使うのは料理の包丁で料理するだけ。 セルフレジで他人の仕事を奪う。 仕事のための仕事。 ハリボテの世界。 考えがまとまらない。 パスタの放射能は上がる一方。 金を儲けて石油を飲む店員は何処か寂しそうだ。 まあ働いて税金納めて貰ってるから僕は僕に出きることをしよう。 オーバーワークになってるやつはキ○ガイがまともかのどっちかしかいない気がする。 俺はキチ○イの方だが。 本物がやっかんでくる。 偽物は猫をいたぶる。 中庸は無視する。 あるいは中庸こそが本物かもしれない。 価値観の転覆。 俺の嫌いな派閥はまあ必要悪なんだろう。 俺は必要ない悪。 毒草。 人を殺すのに必要な人が摘み取る植物。 なるほど俺は煙草の葉っぱと同じなんだな。 合点がいった。 死にたがりが多い。 皆俺を吸っている(妄想)
病室のベッドの中。 遠くに、楕円形のような影がぼんやりと見えた。 弥日異に、それは近づいてきた。 弥日異に、それは形作られてきた。 楕円形は人型になり、人型は輪郭を見せてきた。 全身を包んだフードが揺れて、骸骨の面から覗く瞳は真っ黒け。 瞳の黒じゃない、何もない黒。 「ようやく、来てくれたんだ」 ぼくは、安心して視線を天井に戻した。 白いベッドに、白い天井。 おまけに、未来へ希望を持てず、何も考えられない空虚な心。 〆を黒が執行するなら、白くなりすぎたぼくにはぴったりだと思った。 影が近づく。 病院の敷地を踏む。 病院の入り口に近づく。 病室の窓ガラスに人型が映る。 病室の扉の前に立つ。 今、ぼくのベッドの横に立っている。 手には巨大な鎌。 三日月のような美しい鎌。 まるで掬い上げるようにして、喉を切り落とせそうだ。 終わる。 ぼくの人生が終わる。 手も足も動かせなくなった、不自由な人生が。 終わる。 「死ぬのは嫌だなあ」 生きたかったなあ。 「でも、生き続けるのも嫌だなあ」 翌日。 鎌はぴったりと、ぼくの首に当てられていた。 きっと今日、寝ている間に命が刈られる。 苦痛のない穏やかな死を贈呈される。 予約メールに予約投稿。 時間は丁度深夜ゼロ時。 死んだ瞬間に贈られる最後のメッセージ。 きっと、家族も友達も、ぼくが死期を知っていたという謎を抱えてくれるだろう。 永遠に正解の出ない謎を。 その謎の中にいるぼくを、どうか寿命の果てまで連れて行って欲しい。 夜が来る。 最期の夜。 起きてようか寝てようか。 散々迷ったが、結局寝ることにした。 起きていれば、影も執行しづらいだろう。 目を閉じる。 大嫌いな白が、全部黒くなっていく。 だから、動けなくなってからのぼくは、黒が好きだ。 「おやすみなさい」 ぼくにはもう刻まれない、未来という日々。 もう一かけらだけでも未来に置いておこうと、ぼくはめい一杯、息を吐いた。
縁側でこの家の親父と隣の家の親父が将棋を打っている 歩を進める この家の親父は夏の昼間、ゴーヤのツルが日陰を作る縁側でビールを飲みながら将棋を打っている 一年中よく見る光景だ 角を戻す 隣の家の親父は自分で買ってきたビールを飲みながら、いつもの様に昔の話をする 歩を進める 「お前よりも、俺の方が先に香さんを好きになったんだぞ」 隣の親父が煙草の灰を落としながら言う 「あいつは俺に惚れただけだ」 この家の親父がビールを飲みながら言う。缶の中で声が反響している 「何で俺に断りもなくデートに誘ったりしたんだ」 隣の親父が煙草を灰皿に押し付けながら言う。鼻の中から白い煙が噴き出る 「違うよ。あいつが俺の車に乗りたいと言ってきたんだ」 この家の親父が新しいビールのプルタブを上げる 歩で香車を取る 鼻の中から白い煙が噴き出る 「歩のそう言う所が気に食わないよ」 隣の家の親父、角野桂が悔しがる この家の親父、飛田歩が笑う
この世界では、人によって天気が違う。 そんな世界に生きる雨女はいつも寂しげで、陰鬱とした雰囲気を漂わせていた。自分の内側には揺るぎない心を持っている部分もある。だけどそれもよくいえばで、本当はもう自分の世界を諦めているような人だった。 彼女は名の通り、いつも雨の世界をいきている。 対照的に、晴れ男はいつも落ち着いていて。ギラギラ照りつけるような明るさではなく、穏やかな暖かさを持った人だ。 夏のような陽射しではなく、春のような彼はもちろん晴れの世界をいきていた。 突然、二人は出会った。 晴れ男は、雨女のくすみきった瞳に。 雨女は、ただあたたかな彼に引き寄せられるように。お互い優しく惹かれあっていった。 ある日、手を繋いでみた。 すると、晴れ男は産まれて初めての雨を知った。 感傷的な痛みが胸をジクジク蝕むが、晴れ男は少し嬉しくもあった。雨雲の上にうっすら見える太陽も、顔を出そうとはしない。 「君、太陽を見た事があるの?」 「夜、月を見た事なら。」 悲しげに俯く雨女の顔は、いつも通り微笑んでいた。 感情に左右されることが多い天気。だから、安定した晴れ男とは対照的に、雨女は太陽を一度も見た事がない人生。 唯一晴れた日は、とある日の夜だけだった。 「明日も、ここで会えないかな?僕が君に…」 「ごめんなさい。明日は母の一周忌なの。」 「そうか、それなら。」 「貴方も来ればいいよ。」 雨女が静かに笑うと、太陽の影が少し濃くなった。 次の日。母の一周忌には、全ての人の空が曇った。 ただ1人。雨女の空だけは、酷く美しい青さが彼女の空を塗りつぶしていた。 雨女が徐に晴れ男の手を取る。 すると、ギラついた太陽が、晴れ男にそっと微笑んだ。
「綺麗だな」 打ち上がる花火を見上げ、隣にいた友人がそう呟いた気がした 「え?なに?」 周りの騒音と花火の音で、上手く聞き取れなかった 「いや………綺麗だなて言ったんだ」 「あぁ、そう…綺麗だな」 チラッと横目でそいつを見る 蒸し暑さで汗がたらりと頬をつたって鎖骨をなぞる ふぅ…と首元のシャツをパタパタとあおる ゴキュッと喉が鳴る 自然と右手が引き寄せられる 「ん?何見てんだよ」 「…!いや…あのほら髪になんかついてんなぁて」 「あー、じゃ取ってくれないか」 「ああ…」 サラリとそいつの髪に触れる 手触りいいなと思いつつ、ないゴミを取るフリをする 「ほら、とれた」 「ありがと」 ぱっとその辺に捨てる素振りをして、また花火を見上げる 『勇気がでないな…』 俺は今日こいつに告白する為に誘ったんだろ… 何怖気づいてんだ、俺 途端にザワザワと周囲が移動し始める 気付くと花火は終わっていて、終了のアナウンスが流れていた 「終わったな…帰るか」 「………おぉ」 まあ、花火中に話しかけたとこでかき消されるオチだ もっと静かなとこで、また今度……… 「なあ」 右手を引っ張られ重心が少し傾く 「今日、俺に何か言いたい事があって誘ったんじゃないのか」 …バレていたのか バクバクと今までに聞いたことのない鼓動が鳴り始める こいつに聞こえてるんじゃないのか…手汗は大丈夫だろうか…顔は変じゃないだろうか……不安が込み上がる 「聞いてるのか?どうなんだ」 「あ、……そ…の………」 暑さのせいか急なイベント発生で気が動転したのか、頭がグルグルして上手く言葉が出ない 『馬鹿だな、俺』 涙が出そうになり、見られたくないと顔を伏せた 「たく、いつまで待たせんだよ」 掴まれていた右手を引き寄せられ、そいつの胸の中に沈んだ これは、なんだ、夢か? ああ、もう、夢でもいい…ほんとに 「「すきだ」」 え? バッと顔をあげそいつの顔を覗き込む 「ふっ…何見てんだよ」 はにかむそいつは夜なのに眩しく感じた 「……好きだ、俺と付き合ってくれないか」 「お、……おぅ」 「なんだよ、その返事」 ははっと軽く笑い、顔を寄せる ギュッと目を瞑ると、唇に柔らかい感触 「これからよろしくな」 「俺こそ………その、よろしく?」 「そうだ、帰りコンビニ寄って俺ん家で花火続きしようぜ」 「…おう」 「そのあとは…な?」 ブワッと汗が溢れる こいつは外で何言ってんだ! ケラケラと笑うそいつは、早く行こうぜとコンビニへ向かう 「今は花火が欲しかったわ…誰も聞いてないよな」 キョロキョロと不審に辺りを見て、俺はそいつの後に続いた
「あの、なぜいつもあなたなんですか?」 「何がですか?」 「僕は、あの娘に介助をお願いしたい」 ベッドの上で、中年の男が笑った。 「僕、両手が不自由じゃないですか?」 「ここ、そういう店ではないですよ」 「横になってるだけです」 「それって、もうセクハラですよ」 「バリアフリーでお願いします」 薄暗い部屋に、デジタル時計が光る。 「まぁ、上に相談しておきます」 「僕からも話していいですか?」 「はい。ご自由に」 男は扉を閉めた。
子どものころはよかったなあと なつかしく思うのは ほんとうは 昔をなつかしく思ってるんじゃなくって 無垢で 無邪気で 無責任だったあのころが 恋しくなっちゃってんだろうなあ そんなことを思ったのは ホットサンドをひと口かじったときだった 暑い夏の日の縁側で すいかを しゃくっと食べたときじゃなかったのが わたしとしては すこし不思議になった 実家に 縁側なんて ないというのに
霊は、誰にも触れることができない。 だから霊は、人のぬくもりを欲している。人からの愛に飢えている。 愛に飢える霊たちは、時に悪霊となって、人を襲う。 人の体の一部、あるいは全てを求めて。 だからこそ、墓に花を添えることには意味がある。 人が愛情をこめて包んだ花は、例たちにとって人のぬくもりに触れることができる、数少ない方法だからだ。 「にしても、花屋、減ったねー」 女は商店街を歩く。 シャッター街を見ながら、諦めたように溜息をつく。 「だから、これだけ霊がうようよしてんだろ。さ、仕事だ」 男は大きなザックを背負いながら、女の横を歩く。 閑散とした商店街には、夏だというのに木枯らしが吹きっ晒しており、明らかに異様な環境を作り出している。 二人がしばらく歩いていると、誰も居ないはずの商店街に、ひたひたと足音が響いた。 まるで海から上がったばかりのような、水滴の落ちる音も交えて。 地面には足型だけがくっきりと浮かび、足型は二人の方へと近づいてくる。 「任せた」 「了解」 女は足型の方に駆け出して、足型の上の空気へ抱き着いた。 女の体は宙に浮き、まるで電柱に抱き着いて、足を地面から離したような格好となった。 足型の動きが止まり、女は手を上下に動かす。 「んー? 髪は長いね。女の霊かな? 背骨が出てて、全体的に華奢。お尻がやや小さめ。あ、でも、おっぱいは大きい。やったね、私好み!」 「お前の好みなんて、聞いてねえよ! 真面目にやれ!」 「ええー。真面目なのにー……っとぉ? 暴れないで! 危ない!」 女お身体が、左右に揺れる。 一定の歩幅だった足形が乱れ、足型の上に別の足型が付き始める。 「ねえー! 早く! あんまりもたないよ?」 「だから、筋トレしろっつっただろ」 「嫌! 筋肉着いたら、手足が太くなっちゃうもん!」 「ならねえよ!」 男はザックを地面に置いて、蓋を開ける。 そして中から取り出したのは、一束のブーケ。 男はブーケを持って、足型の場所まで走る。 「ここ、ここ!」 そして、女が指で円を描いた場所に、ブーケを差し出した。 男がブーケから手を離すと、ブーケは宙に浮いた。 ブーケにはくしゃりと二つのシワが付き、シワは手形のように見えた。 「人恋しくなったら、また来な。次は、あんたの好きな花を供えてやるよ」 地面に浮かび上がる、涙の後。 ポルターガイストにも似た嗚咽が、周囲のシャッターを揺らす。 「ア……ガ……トウ……」 そして、花束が地面に落ちて、シャッターの揺れも収まった。 男は花束を拾い上げ、近くの電柱の側へと置いた。 電柱には、寂れ果てた地蔵が一つ、置かれていた。 「寂しかったんだろうなあ」 「うわー、汚れてるぅ。さ、掃除掃除」 「任せた、掃除係」 「誰が掃除係よ!」 女が地蔵を雑巾で拭いている間、男は手を合わせ続けた。 「成仏したかな?」 「まだだろうな。地蔵の汚れ具合を見るに、成仏するには、長く悪霊をやりすぎた」 女はピカピカになった地蔵を見つめ、額の汗をぬぐう。 男は地面に置いていたザックをとって戻り、女と共に再度、地蔵へ手を合わせた。 二人は、花屋。 霊に花を供える者。 霊に人のぬくもりを与える者。 「帰るか」 「そうね」 街から花屋が消えた今、二人は今日も、移動する花屋として世界を回っている。
青空に向かって 「アクエリアス飲んじゃおうよ」 わたしが言って 「ぼく、ポカリ派なんだよね」 冷めた感じにきみが言って あああ、まったく 今日は、わたしたちふたりの あれこれだとかについて お話ししたかったのにさ せっかくの夏の青空が台無しだよ 気まぐれとかでも 夏のせいとかでもなくて 背が伸びたきみは あきらめてアクエリアスに口をつける きみの喉が大きく三回動いて 口が離れたときが狙い目 「もーらいっ」 きみのアクエリアスをすばやく強奪して おまけに間接キスまで奪ってしまう きみは大きなため息のあと 「どうしてぼくなのさ」 訴えてくる そんなの、わたしにだって わかんないよ
長い髭をさすりながら、老人は呟いた。 「…私たちは神に期待しすぎたのだ」 砂つぶのように敷き詰められた目の前の群衆に対して、ゆっくりと飲み込ませるように彼は言った。 「私たちはこれまで、戦争や貧富の格差、異常気象に占い事まで、ありとあらゆる“困難”を神に祈り、押し付けてきた」 たまたま目に入った大柄な男に、老人は問う。 「今から50年前。2100年の12月1日、この世界に何が起こった?」 男は答える。 「巨大隕石の衝突です。長老」 「…そうだ。我ら人類は自ら過ちを犯し、その度に神に祈る事を繰り返してきた。神は我々の愚かしさに絶望し、巨大な隕石を地球に落としたのだ。わずか0.001%と言われた超低確率にも関わらず、地球に直撃した隕石は津波や異常気象を引き起こし、今や人間の数は当時の5分の1以下になってしまった」 老人は朽ちたキャンピングカーの上で身を起こし、集まった僅かな人類の生き残りたちを見つめる。 皆衣服はボロボロで、まともな食料は長い事口にしていない。第三次世界大戦の真っ只中に起きた隕石の衝突事件は“神の怒り”と呼ばれ、世界中で罪深き人間を滅亡させる“神の意志”だと言われていた。 「…生きるすべは、無いのでしょうか」 恐る恐る1人の若者が尋ねた。 みんなそれだけを知りたくてここに集まっていた。 老人は答える。 「…あるとも。神に頼らない事だ。我々は親の手を離れ、自らの知恵と力で平和を実現して繁栄できると示すのだ」 群衆はざわざわとどよめき立った。 「そんな事が、できるのでしょうか」 彼らの荒んだ心には、平和などとうに抜け落ちてしまっていた。 「できるとも。戦争の影響で目を失ったある男が、旅の僧侶に手を握られた。その途端に奇跡が起こり再び目を開いたという事件を覚えているか?」 「2102年に起きた“アンパラの奇跡”ですね。 当時世界中で話題になった大事件だと伝わっております」 「さよう。神の助けとしか思えないほどの奇跡は往々にして起こるものだ」 呆気に取られている人々を意に介さず、老人は独り言のように喋り続ける。 「しかしそれを待ち望んではいけない。神は奇跡をひたむきな者の元にしか起こさないのだ」 「なぜそんな事がわかるのですか」 口を挟んだ若者に、今度ははっきりとした口調で答える。 「…私がその時の“目の見えない少年”だからだ」 「…これからは私たち人間が手を取り合って生きるのだ!」 老人は震える声で最後の力を振り絞る。 「それが私たちの平和と、神への許しに繋がるのだ!」 その言葉を最後に老人は息をひき取った。 残された人々はこれを“第2の奇跡”と呼び、老人の亡骸はまるでこの見捨てられた世界の“神”であるかのように手厚く埋葬された。 しばらく経った。 老人はまだ自分の意識が続いている事に驚いていた。 「私は、死んだのではなかったのか」 体はみるみるうちに若返り、眩い光の中に取り込まれて行く。 「…なるほど、ここはあの世か。やはり神は存在したのだな」 見渡す限りの真っ白な壁に、真っ白な床。 舞い上がった埃のように空中に浮かぶ老人は、地球に残された人類の行く末を想いながら、少しずつ遠くから聞こえてきた声に耳を傾ける。 「ねえママー。自由研究手伝ってよ」 「だめよ。宿題は自分の力でやらなきゃ」 「この前は手伝ってくれたじゃん。人類誕生の時とか、2102年のやつとか」 老人は知らない一家の団欒を見ていた。綺麗な目をした少年は、手に持っている黒い玉のような物の事で母親にごねているらしい。 不思議と老人は、自分があの玉から出てきたのだとわかった。そしてしばらくするともう一度あそこに入るという事もわかる。 「ちゃんと説明書読まないからそうなっちゃうのよ?」 「あんな長いの読みたくないんだもん」 ガチャ。 壁だと思っていた空間に白いドアが現れて、開いた。その奥からとても優しそうな顔をした、これまた綺麗な瞳の男がやってきた。 「どれどれパパに見せてごらん。おお、初級の宇宙作成キットにしてはよく出来ているじゃないか。この…“地球”?この星なんて綺麗でいい感じだぞ」 「うーん、でもやっぱり面白くないや。僕今から外で遊んでくる!」 子供は早々に家から飛び出し、両親は優しい笑顔でその小さな背中を眺めていた。 「ふふ、あの子、きっと宿題の提出が終わったら見向きもしなくなるわね」 「まあ俺たちもそうだったからな。宿題や研究以外で“神”なんてやってるのは、よほど物好きな人だけだろう」 若い2人はふふと笑いながら、幸せそうにお互いを見つめる。 何もかもが明るく優しい世界でそのやりとりを見ていた老人は、昔のことなどどうでもよくなってしまった。
公園で一人、ブランコの波に揺られて思ったんだ 君とキャッチボールしても、上手くできない気がする 私がボールを投げても、君はおにぎりを返してきて、 君はおにぎりを返してきたのに、私はみかんを投げ返すんだ 君と二人三脚しても、はじめの一歩で転ぶ気がする 立ち上がろうとするんだけど、息が合わなくて、また転ぶんだ 君とジャンケンしても、出だしから合わない気がする やっと始まっても、あいこでしょが続く 「おいおい、こういう時は合わせるなよ」って君は笑うんだ でも、今度また会えたら、一緒にブランコに乗ってみたい 初めは、ずれずれかもしれないけど ゆっくり漕いで たまに止めてみたりして 波に揺られて いつか同じ景色を見れたらいいな
「あの、変わってもらえませんか?」 「何をですか?」 「僕は、あの娘に介助をお願いしたい」 ベッドの上で、中年の男が視線を上げた。 「ここ、同性介助ですが」 「僕、見てるだけです」 「それって、結構セクハラですよ」 「合理的配慮でお願いします」 薄暗い部屋に、デジタル時計が光る。 「まぁ、上に相談してみます」 「僕、不安定になるかも……」 「はい。お大事に」 男は扉を閉めた。
「年功序列はやめだ! 来年度より、弊社も実力主義とする!」 壁がそびえ立った。 高い高い壁が。 壁には、年間の売り上げがいくらだの、特定の資格を持っていることだの、壁を乗り越えるための条件が刻まれていた。 「もちろん、実力主義なので、実力が変わらなければ給料も変わらないものとする!」 社員たちの反応は様々。 一気に上に上るぞと意気込む若者。 安心する年功序列の恩恵を受けられた壮年。 そして、自分の限界を悟っている中年。 出世を諦め、会社に言われるがまま手を動かしていた中年たちは、自身の履歴書と目の前の壁を見比べる。 「ああ、もうこれ以上、前には進めないんだ」 彼らは、動くのをやめた。 「今年の資格目標は、この資格所有者を社員の十パーセントにすることだ!」 実力主義の会社となるべく、社長が想いを語る。 「この資格、取得してくれるな?」 実力者の席に座る幹部たちが、中年へと指示を下す。 「お断りします」 地べたに座る中年たちは、口をそろえて宣った。 「え? なんで?」 「その資格とっても、給料あがらないんで」 「だが、壁を超える条件の一つではあるぞ?」 「別の条件をクリアできないんで。他の人に頼んでください」 会社の実力が、静止した。 個の意思を持たず、会社の命令に忠実に動いていた者どもが、動かく人形に成り下がった。 社長は頭を悩ませ、会社を動かす実力が問われてた。
私は、女諜報員。 任務は、この国の男性と結婚し、日常をノートに記録すること。 《指令1 一日の出来事を記録せよ。我が国との違いを把握せよ》 夜になると机に向かい、黙々と書いた。 数か月後、新聞のチラシに紛れて、メモが入っていた。 《指令2 買い物を記録せよ。我が国との経済の違いを把握せよ》 買い物から帰ると、レシートを広げ、商品名と値段をノートに写した。 私は結婚し、やがて子どもが生まれた。 届いた花束には、メッセージカードが添えられていた。 《指令3 子どもの成長を記録せよ。我が国の子どもたちの参考になるだろう》 私は、家族の日常をブログにアップした。 すると、編集者の目にとまった。 日記はエッセイに。 買い物記録は、主婦目線の経済書に。 育児記録は、若い母親向けのハウツー本に。 私の記録は本になり、評判が広がっていた。 玄関のチャイムが鳴る。 ポストには、メモが。 《指令4 今までの記録を全て本国に送れ》 私は、電子書籍のURLを書いた紙を封筒に入れた。
猛暑日が続き、紫外線対策や水分補給をして、熱中症に気を付けて、クーラーも我慢しないでつけっぱなし。そんな日々が続くと、あぁ夏が来たんだな。と感じる。 あと、夏といえばお祭りも季節を感じるイベントじゃないでしょうか。夏の夜にダイナミックに広がる光の花。花火大会もいいもんですね。 「おい、そろそろ行こうよ」 「ちょっと待ってよ」 「いや、花火が上がっちゃう前にいい席を取らないといけねえからよ」 「大丈夫よ。だって、まだ昼の十二時だよ」 「いや、それを言うなら、もう昼の十二時だよ。お前はこの辺出身じゃないから知らねえだろうけど、この辺の花火大会は毎年人気で、席の取り合いは午前中から始まってんのさ」 「はいはい、支度が終わりましたよ」 「おっ綺麗じゃねぇか。浴衣美人とは、正しくお前の事だな。よし!行こう」 「あなた、帯占めてないけどいいの?」 「占める占める。歩きながら占めるよ」 夫婦はカンカン照りの下、花火大会の観客席ブースへ向かう 「よしよし、ここならよく花火が見えるぞ。こんないい席が残っているなんて、俺はラッキーボーイだな」 「ボーイって歳じゃないでしょ。バカね。ここは来賓席のところよ椅子の上に区長と書いてあるじゃない」 「あっ何だよ。通りでいい席なわけだ。区長の席かよ。くちょー!」 「何バカなこと言ってんだよ。あちらはどうだい?良さそうだけどね」 「いや、あそこは駄目だ」 「何でさ。よく空が見えていい席だと思うけどね」 「お前は何にも分かっちゃいねぇな。前の席をみてご覧よ。若いカップルが座ってるじゃねぇか」 「だから何よ」 「彼等は付き合って初めての花火大会に来たんだ。二人はこの日を待ちに待っていた。なぜか分かるか」 「花火が見たいからでしょ?」 「バカだねお前も。違うよ。その逆だ。…良いか花火がドーンと上がるだろ。そしたら皆どうする?」 「そりゃ花火を観るでしょ?」 「その通り。皆、花火を観る。あのカップルはそのタイミングを狙ってるのさ」 「もしかして」 「そう、そのもしかしてだよ」 「スナイパー?」 「そうそう、ココに座っている区長をドーンって」 「そうなの?」 「そんな訳あるかよ。キスだよキス。皆が花火を見ている時に、あのカップルは気兼ねなくキスが出来るのさ。その後ろに俺等が座ってみろよ」 「…座るとどうなの?」 「見ちゃうだろ。二人を」 「あんたの問題なのね。バカな話を聞いたわ。私はあそこに座りますよ。もうほとんど席が埋まってきちゃっているし」 「しょうがね。あそこの席にしよう」 夫婦は花火が上がるまでの間、奥さんの作ってきたおにぎりを食べたり、梅干しを食べたりしながら時間をやり過ごしていました。花火が打ち上がる時間に近づくにつれて、会場は超満員。綺麗な夏の夕焼けに会場の皆が目を取られていると ドンドンドン 花火大会の開始の合図です 会場から歓声が沸き起こります 「いよいよ始まるぞ」 「あれ?前のカップルがいないわね」 「あれ、本当だよ。花火を待っている間に二人の恋のほうが燃え尽きちゃったのか?」 前の席の方で騒ぎ声が聞こえます 夫婦が人集りをかき分けて見たものは、区長が苦しそうに胸を押さえて倒れています 白いシャツが真っ赤に染まっていました それは、まるでスナイパーにでも撃たれたようでした。 「おい、お前」 「ど、どうしたのあなた」 「あの二人は、キスはしたのかな」
平日の午前。 男は整理券をもらうため、小走りでパチンコ屋に向かった。 「今日は勝つ気がする……」 ポケットの中の軍資金を握った。 すると、道路脇でかがんでいる女を見かけた。 「……あの婆さん」 アパートの隣に住む婆さんが、お地蔵様を雑巾で丁寧に拭いていた。 男は足を止めた。 「信じる者は救われるか」 鼻で笑う。 夕方。帰り道、うつむいて舌打ちをした。 「ん……」 隣の婆さんがビニール袋をぶら下げ、地蔵の前に立っている。 そして、気にする素振りもなく、お供え物と小銭を袋に入れた。 「婆さん、こずるいこと考えたな」 「なにがだ」 「いやいや、今、お供え物と小銭、盗ったろ」 婆さんは笑いながら、男を見た。 「この地蔵、私が通販で買って、ここに置いたんだ」 「なんだそれ」 「他にも、何か所も置いてるさ」 辺りが暗くなってきた。 「私はねぇ、ちゃんと考えて置いてるんだ。リピーターを増やすためにね」 そう言うと、地蔵を抱えた。 「それ、どこに持って行くんだ」 婆さんが振り向いた。 「……ここは儲けが少ない」
母の言うサンダルと わたしの言うサンダルが 違うものをさしているのだと この夏、やっと 気がついた 母が言うところのサンダルは ひとことで言って つっかけのこと わたしがサンダルと口にするとき 頭にあるのは ビーチサンダルだ まあ、どっちも サンダルなんですけど 履く場面は ちょっと違うんですけど 同じサンダルでも 思うことは違うんですけど それでも 親子なんですけど 仲は まあ 普通です
自分の気持ちをわかってくれると思ったから話したかった っていうけどさ あなたは私が女じゃなくて、男だったとしても、そう思ってたのかな? 私はあなたが男じゃなくて、女だったとしても、そう思ってたのかな? 夏芝居 心の底は 見ないふり
彼は、きっと不幸に見えるのでしょう。 隣の家に住む、あの身体が大きく、とても粗暴で、バハハと高らかに笑う少年に馬鹿にされております。 人の心を、未だ母の子宮に置き去りにしたのでしょうか? 小学校の帰路、たった一人でぽつりぽつりと歩く彼の背中を、突然蹴り上げたのです。 幸い背中はランドセルに守ってもらいましたが、衝撃でアスファルトに身を投げることになってしまいました。 本当に突然だったものですから、受け身などとれるはずもなく。 手足は擦りむき、鼻からは命と思しき赤色が。 ぽたりぽたりと滴るそれを見て、少年はバハハと笑うのでした。 しかし彼は気にも留めません。 いえ、気に留められません。 そういう性分なのでございます。 その瞬間には「嫌だ」と感じるものの、次の瞬間には忘れてしまっているのです。 まるで覚えていられない。 笑いながら走り去る少年を見て、彼は少年がなぜ笑っているのか、もう分からないのです。 そうしてゆっくりと立ち上がって、またぽつりぽつりと歩くのでした。 それでも彼は、幸福に満ちています。 なぜかといえば、それは恋をしていたからに他なりません。 それを見るたびに、心臓がどくんと脈打つのです。 手に持った辞書に赤色の雫が落ちるのも構わずに彼はページを捲ります。 文字が、踊っておりました。 とてもとてもきらめいていて、わけは分かりませんが、文字を見るたび心臓がどくんと跳ねるのでした。 火山に放り出されたように、頭はどくどくで。 砂漠に放り出されたように、喉はからからで。 雪山に放り出されたように、眼はかぴかぴで。 それを横目に過ぎる人からは、気が触れてしまったように見えるのでした。 はた、と彼が顔を上げますと、周りでは大勢の大人が眉をひそめて、視界の端に彼を見ております。 どうして僕を見ているのだろう、と考えていると、待っていたかのように目をそらして、大人は去って行きました。 横をかすめた大人が「きちがい」と言っているのがうっすら聞こえましたが、どんなにどんなに調べても、辞書には載っておりませんでした。 ですので、どういう意味かは分からず仕舞いです。 これは、幸福なのでしょうか? 否、彼にとっては不幸でした。 今までずっと頼りにしてきたものです。 火山の麓に湧くように。 オアシスに湧くように。 雪解けで流れるように。 彼にとって辞書とは言葉の流れる川で、彼にとって言葉とは水だったのです。 それが突如枯れてしまったものですから、彼は深く絶望しました。 しかしそんな彼を、慰める者はおりません。 うちへ帰っても、薄暗い居間に一人ぼっちなのでした。 窓からゆっくりと降りてくる夕日がとても眩しくて、目を背けた先でいやに大きく広がり続ける影に、いいようのない恐怖を感じます。 いつもなら言葉といっしょなのに じわりと溢れる涙を、もう止められません。 しかし翌朝、彼が学校へ向かう頃には、そんなことはもう覚えていないのでした。 いつも通りうちを出て、いつも通りの道を行き、いつも通り辞書を片手に。 そして、いつも見かける新しい言葉を、いつも通り辞書で調べるのです。 それでもいつも通りでないことは、もう心臓が跳ねることは、ありませんでした。 ですが彼は、それすら自分では気づけません。 どんな言葉を見ても、どきどきしません。 なぜかは分かりませんが、彼はとても不安になりました。 それを横目に大人は、ひそひそ過ぎていきます。 それもいつも通りでしたが、彼はさらに不安になりました。 その日は快晴でしたが、厚い雲に覆われたように視界がくぐもっていきます。 すると、おういおういと後ろから呼ぶ声があります。 今日も辞書を引いているのか、よく飽きないなあ 振り向くと、バハハと高らかに笑う顔がありました。 いつもは不安になるその顔を見て、彼はなぜだか、ひどく安心いたしました。 少年も、いつもと違う彼の様子を見て、小首を傾げて訝しげです。 それがなんだか、あべこべで、いつもと違うのにいつも通りでした。 本日は少年に馬鹿にされることはありませんでしたが、彼はそれもなぜだか、おかしく感じるのでした。
ある日の午後。 認知考古学の教授が、学生の前でマイクを握った。 「みなさん。人が道具を本来の目的以外に使い始めたのは、どの時代か分かりますか?」 「旧石器時代に、石を遊びに使ったのが最初だと思います」 「その通りです」 教授が、背後のスクリーンを指した。 「今日のテーマは、それを踏まえて『道具の目的外使用』について考えたいと思います」 学生は耳を傾け、ノートをとった。 「これを見てください」 黒い傘を取り出し、学生たちに向けた。 「この傘。駅のホームで中年の男性が持つと、どんな行動をとるでしょうか?」 「あっ、ゴルフのスイングをします」 教室に笑いが起こる。 「それから、女の子はバトン、男の子はチャンバラとかに使いますね」 「お年寄りが杖に使うのもそうですか?」 「はい。それも目的外使用です」 教授はうなずきながら、学生を見渡した。 「では、ここまでで何か質問はありますか?」 最前列の学生が手を上げた。 「ちょっと気になってたんですけど、額のガーゼ、どうされたんですか?」 教授は笑いながら、傘を開いた。 「昨日、妻が機嫌悪くてですね……」
川、流れていますか? 川、流れていますよ ああ、そうですか、よかった、よかった いつも流れてますよ まあ、そうでしょうねえ ええ 川、濁っていますか? 川、濁ってませんよ ああ、そうですか、よかった、よかった いつも澄んでいますよ まあ、そうでしょうねえ ええ 魚、見えますか? 魚、見えませんねえ ああ、そうですか、そうですか いつも見えませんねえ それでも川のどこかには、いるんでしょうねえ そりゃあ川のどこかには、いるはずですがねえ そうですよねえ ええ ちょっとヘンなことお訊きしますが ちょっとヘンなことは訊かれると困りますが 川、飛び込んでみますか? いえいえ、川には飛び込みませんよ ああ、そうですか、そうですか いつも上から見てるだけです まあ、そうでしょうねえ ええ 川、お好きですか? ええ 川、流れていますか? ええ、流れていますよ
男がテレビをつけた。 画面の中。 若い男がマイクを向けられている。 便利な人。 噛み合わない受け答え。 ワイプのタレントが笑う。 出ない方がいいと思えば、差別。 出たら、笑いの種。 本人が良ければ、許される。 男は静かにテレビを消した。
新新落語 誰もが知っている 「おかたいの話」 今宵は、かいしゃ このような 言葉があるのは それは 誰もが知っている 文字を検索 かいしゃ がいしゃ かがいしゃ いしゃ いしや それからどうした わかることは、かたい そのあとどうした おかたいこと 言わないで やってくれよ それこそ おたがいさま わかったことは いっしゃ つまり よっしゃ こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
「編集長、今月の応募作品、やたら多くないですか」 「そうだね。今回は賞金が出るからね」 「それにしても、この数は……どれくらいAIですかね」 「半分くらいは賞金稼ぎかな」 「昨日、審査してくれる作家先生から、断りのメールがきましたよ」 「大丈夫。ちゃんと考えてある」 編集長は頬を緩め、応募作品が入ったUSBメモリーをパソコンに挿した。 「審査には、私たちもAIを使うことにした。総評も書いてもらう」 「それじゃあ、AIの作品をAIが審査するってことですか」 「AI vs AIだ」 ──審査発表の日。 スマホを前に、女の指先が震える。 ごみ箱の周りには丸めた紙が散らかっていた。 「今回は自信ある」 祈るようにメールを開いた。 『最優秀賞おめでとうございます』 ─総評─ 「作品の中で語られる主人公の言葉、私には作れない新鮮さを感じました」
今年はエルニーニョ現象が凄いらしい(語彙力不足) 街を行く女の子達がえるにーにょ♡えるにーにょ♡って萌えキャラの語尾みたいに囁いて歩く。 気象情報さえも萌えと商業化の波に飲まれる。 天気予報士のオネーさんの夜の生活も私今日はえるにーにょな気分なの…って言って相手を誘惑する。 地球の気象変化もリビドーの奴隷だ。 お前はフロイトか何でも性に結びつけるな下品な奴め!と怒られそうだ。 水槽の中で産卵する魚は大海でたくさんの犠牲が出る想定をしていない。 ガラパゴス的な地域に暮らす僕は色んな人にお裾分けをする(性のお裾分けは官能小説でしなければならないかもしれない) 駆け引きの下手な僕はまた群れから弾かれて1人自慰をする。 僕のラニーニャがあの娘のエルニーニョと暴風雨のあとに起こる晴天で聖典に書き加えられないか画策する。 そんなあなたも素敵よエルニーニョ!とフランス歌劇っぽく毎日を暮らしたいが僕のアパートにある造花ではラ・マンは振り向いてくれない。 花を敷き詰める前に一稼ぎせねば皆を笑顔に出来ない気がするが別にイケメンでもない僕は何故か力が無い(煙草を吸っているのが原因な気がする) おお🎵世界よエルニーニョとあの娘達を讃えておくれ🎵 La La La…
診察室で、男がうつむいていた。 「先生、私は……」 「あなた、最近オチばかり考えてるでしょ」 「はい」 「何だっけ? 蛇口から、漢字の水がたくさん流れて、排水溝が詰まった? これの何が面白いの」 「はぁ……」 「これ、思い付いたとき、ニヤけたでしょ」 「ダメですか?」 「重症だね。少し頭を休めなさい」 クリニックを出ると、男は幹線道路沿いを歩き、自宅へ向かった。 すると、サイレンを鳴らしながら、パトカーが通りすぎた。 「そこの車、左に寄せて止まりなさい」 道路脇には、パトランプから落ちた『あと二人』の赤い文字が転がっている。 一瞬、足を止めた。 「……いいじゃん」 男は、ニヤけ顔でポケットからネタ帳を出した。
葬式で受け付けをしている 元妻は喪主として忙しくしていて、息子は従兄弟達と親族席に座っている 夏なのに今日だけ冷え込み、秋が間違えて来ているような雨の夜だった 式は無事に終わり、僕と喪主の元妻が御坊さんのお見送りした 式場内へ戻ろうと振り向くと、そこに喪服に身を包んだ妻が立っていた。まっすぐ元妻の目を見て。 妻も静かに見つめ返す、 「この度はご愁傷様でした」 「足を運んで頂き感謝致します」 ミストシャワーのような雨に黒い服が包まれていく 二人が出会うのは初めてだ。 挨拶と自己紹介を簡単に、簡潔に行う 二人とも、表情に変化はなく、静かに妻は式場へ戻る 「来てくれたんだね。ありがとう」 「うん」 「風邪ひくから部屋に入ろう」 「ううん。私は帰るね」 妻は僕を確り見て、軽くほほえんで、霧雨の夜に消えていく。 僕は式場へ戻ることも、妻の後を追うことも出来ず、濡れていく掌を眺めていた。 「お父さん。叔父ちゃんが呼んでるよ」 息子が隣に来て、そう伝えてくれた 妻の帰った方を見ながら
澄み渡るような初夏の空気が外から漂ってくる。ほとんど遮るものが無い田舎の夜空を見上げると、星たちが煌々と輝く紺色の屋根はどこまでも続いている。 その様子はさながら大きなプラネタリウムのようだ。 夏の匂いを感じ取って、土の中で時を待っていた若い虫たちが徐々に姿を表し始めたつい数日前、俺たちの敬愛する中崎先輩は、一大プロジェクトのリーダーを務める事になった。 チームの主導メンバーは俺を含めて4人。物静かだが心は熱い中崎先輩、俺、後輩組の気弱な川北とお調子者の江島だ。 あと30分で定時になるというところで先輩が言った。 「今日は仕事終わりに作戦会議だ。いつもの会議室を借りよう」 リーダーは流石に気合いが違う。 それもそのはず、プロジェクト本番は明日だ。元々プロジェクトを遂行するはずだった“選抜チーム”が問題を起こし、当時手の空いていた俺たちが直前になって代わりに抜擢されたのだ。 ここで成果を上げれば、暇を潰すのが主な仕事である俺たちの評価も逆転するだろう。 先輩は、ここで人生の流れを変えるとでも言わんばかりの勢いを顔に宿している。 「中崎さん、迷ったら俺に着いてきて下さいね!俺がみんなを引っ張って行きます」 江島は両腕を頭の後ろで組み、背伸びをしながら言った。 「うるせーよ、お前こそ足引っ張んなよ」 どっと4人に笑いが起こった。江島の軽口は今日も健在だ。 だがこいつの一言には、緊張を解いて和やかな気持ちを作ってくれる力がある。証拠に、先輩の肩に入りすぎていた力が程よく抜けたのを感じた。 こんな調子で俺たちは、プロジェクトを引き継いでから今日まで死に物狂いで準備してきた。 「各々データをまとめて準備しよう、本番まであと少ししかないからな」 俺がそう言うと、川北が不安そうな顔で本当に大丈夫でしょうか、と自分の手元を見て言った。 「僕らに与えられた時間は10日しか無かったんですよ?元々プロジェクトを担当していた選抜チームは、3ヶ月もかけて準備していたのに。引き継ぎしてる時点でもう倒れそうでしたよ」 川北のネガティブな発言を跳ね返す言葉が見当たらず、次第に空気が重くなるのを感じた。 そもそも俺たちは、全員あまり仕事ができるタイプではない。だからこそ今の忙しい時期に手が空い ていて、このデカいプロジェクトを引き受けることができたわけだが。 正直俺たちのチームにこの大きな仕事をこなせる自信のあるやつなんて一人もいなかった。 刑務所のようになった室内の沈黙を破って、真剣な表情で江島が呟いた。 「でもこれを成功させれば、俺らの人生は変わる」 全員の表情に一気に力が入る。 それをじっと眺めていた中崎先輩は一人一人に淡々と、しかし力強い口調で話し始めた。 「江島、お前妹さんが病気だったよな」 「そうっすね、でも仕事休んで療養させる余裕なんて無いんすよ」 「川北は恋人との結婚に踏み切れないでいるな」 「…はい、どうしても幸せにできる自信が持てなくて、決心できません」 先輩は俺の方を向いた。 「高田は仕事のことで親戚から疎まれている」 「一応エリートの家系なんで、気の向くまま就職して仕事ができない俺は、みんなに落ちこぼれ扱いされてます。いない方がマシだと」 とたんに視界がぼやけた。くそ。 もう泣かないと決めたじゃないか。 次に先輩は俯いて、自身の心に鞭を打つように力を込めて言った。 「…みんな知ってるだろうが、俺は先日妻が死んだ。妻も子供たちも俺の働く姿をかっこいいと言ってくれていた」 「悲しみは癒えないが、代わりにこのプロジェクトを任されたんだ」 先輩の手は震えている。大切なものを失って欠けた心を忙しさと達成感で埋めなければ、おかしくなってしまう事を理解しているのだ。 「これが成功すれば、全てが上手くいく。俺たちには成し遂げるべき理由がある」 そこまで聞いた俺たちの中に、弱音などもう微塵も残ってはいなかった。 決戦の日がやってきた。 俺たちは太陽が昇るより早く現場へ赴き、幾度となくシミュレーションを重ねた。 やがて開始時刻が近づくと、俺たち主導メンバー以外の外部プロジェクトチームも到着し、準備を始めた。 「今回のはとんでもない大きさだな」 「ああ、もしかしたら最大級かもしれない」 関係者たちのそんな話し声も次第に静まり、見晴らしの良い丘から進行状況を見ていた中崎リーダーが開始の合図を送った。 「始めよう」 俺たちはお目当ての虫に一斉に飛びつくと、自前の顎を使って小さく分解し運び始めた。 俺はみるみる内に解体されていくその大きなカブトムシと、共に戦う4人の仲間を眺めながら 「蟻としてこれ以上の幸せはない」 とこの一大プロジェクトの成功を確信した。
この半年で行方不明者が300人を超えています。この街で人が忽然と消える事件が未だ続いております。異常事態と言っていいのではないのでしょうか。我々番組としては、今のところはまだ発見されていない、そして報告されていない「消えた人」もいるのだろうと仮定し、いったいこの街で何が起こっているのか徹底的に取材を進めてまいります。 続いて… テレビをつけっぱなしにして、キッチンで朝食を作っている男 一人暮らしのアパートで近くの町工場で働きながら、ささやかな暮らしを楽しんでいた。 ただ二十代も終わり、三十代の入口に立って初めて彼女が出来た。初めての二人暮らしをして、初めて失恋をし、初めての殺人を犯した。 フライパンの中に入っているのは目玉焼きになろうとする卵と一昨日茹でたブロッコリーのいくつかに再度火を入れている。 お米を買い忘れたので、悩んだ挙句、冷凍庫で見つけた食パンをトースターで焼いている 先ほど伝えた彼の殺人の部分だが、厳密に言えば、いや、人を殺めていることには変わりがないが、彼のやり方は「消す」事で殺人を行う 彼は小さな頃から、自分に備わる特殊な力を知っていた。 力。そう彼には「右手に触れたものを消せる」力がある。 それは人に関わらず触れられるものであれば何でも消せる。 焼き上がった目玉焼きとブロッコリーを平たい皿に乗せて塩コショウを振った後、ブロッコリーの隣にマヨネーズの山を作る。醤油を目玉焼きに垂らしテーブルに置く。 座布団の上に座り出来上がったばかりの朝食を食べる。思ったより半熟だった。 呆気なく食べ終わり、右手を胸に当てると、音もなく彼は消えた。 初々しい恋の終わりを受け入れられず、隠していた自分の力を存分に発揮して、沢山の人を消していく事で、自分を終わりまで追い詰めていった まだまだ長い人生の早い段階で自暴自棄になってしまった彼には消える事しか考えられなかったのだろう トースターの中では、まだパンが焼かれている。
そのつもりはないのだけど 目の前の男がやけに難しい顔をしてるから きっと、わたしもそんななのかもしれない わたしはウーロンハイで 向こうはレモンハイを注文した 切り出したのはわたしからで 男は、 「難しいことはよくわからない」 とだけ言った 「なんでもかんでも、難しいことはよくわからない、で逃げられると思ったら大間違いだよ」 わたしの言葉に男は絶句して グラスを一気にあおる まだ、ほとんどとけてなんてない氷は 身動きが苦しくて、その音もどこか重くきこえる 夏が終わったら、ふたりのことも終わりになる きっと、そうなる はやく夏が終わってくれと願っているのか いつまでも夏が続いてくれよとうそぶいているのか 難しいことは、わたしにはよくわからない
新落語 誰もが知っている 「コンコルドの話」 今宵は、コード このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている のびる 文字を変更 コード から コンコルド それからどうした 超音速旅客機 それはどうして 世界をつなぐ架け橋になった事実は隠せない そのあとどうした まだ書くこと あるだろ スピードアップ こんなのどうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
新落語 誰もが知っている 「リースの話」 今宵は、リース このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている 花飾り 文字を変更 リース から プリーズ それからどうした 作ったので お持ち帰り下さい そのあとどうした やっぱり かえして下さい それはどうして 借り物なんです つまり リース こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
新落語 誰もが知っている 「たえるの話」 今宵は、たえる このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている ほめる 文字を追加 たえる から たたえる そのあとどうした 柔道の試合に勝った それでいいのか えらいとなる ふつうだな こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ
新落語 誰もが知っている 「けんじゃの話」 今宵は、けんじゃ このような言葉があるのは それは、誰もが知っている 賢い人 文字を変更 けんじゃ から いけん それからどうした 意見をいわれた そのあとどうした いばると いけんじゃとなる こんなのどうでしょう 書けるもんなら書いてくれ
ある日突然知らない男の子に「君って日本人?」と聞かれた。固まっていると男の子は走り去ってしまった。その日は男の子を探したが見つけることができなかった。諦めかけていたある日またあの男の子が姿を表した。私の顔を見るなりまた逃げようとしていたのでこっちから話しかけた。 「前言ってたことなに?」 「べつに。人違いだった」 男の人は無愛想だった。 「何年?名前は?」 「お前と一緒。いつきお前は?」 「私はえな。よろしく」 私はふと思ってしまった。1度聞いたことがあるような名前だった。 その日はそれで解散した それからいつきはお昼休み屋上に来てくれるようになった。 「いつもえなの弁当美味しそうだよな」 「いつも私が作ってるの!」 「へぇ卵焼きもーらい」 「あーもぉ」 なんだか懐かしい。 たまに一緒に歩いて帰るようになった。だけどそんな日は長続きしなかった。 いつきは学校に来なくなった。 嫌われたことしたかなと思い始めた日いつきはいつものように屋上に居た。 「超心配してたんだよ???」 「ごめんごめん。」 「話したいことあったんだ」 「なに?」 「昨日さ、夢見たの。」 「うん?」 「海が見えて人気のない公園。」 「……。」 「小さい頃の私と、一緒に笑ってる男の子がいた。その子の名前を呼んだ瞬間、全部思い出したの。」 「…いつ、」 いつきは笑っていた。でも私には泣いてるようにしか見えなかった。 「思い出してくれてありがと」 「でもなんで初めて会った時君日本人?って聞いたの?笑」 「約束したんだよ。えなが手術で日本帰るって。もしかしたら記憶なくしちゃうかもって言われたから次会った時はこの質問するねって、」 「うちら何してんだろうね笑」 「だよな。それで分かったらすごいよな」 「ほんとそうだよ。」 「えなが自分から思い出してきてくれて嬉しいよ俺」 「いつきはいつ日本戻ってきたの?」 「高校入った時かなー。」 「なるほどね、」 それから私たちはまたいろんな所へ行くようになった。 思い出したからこそ幸せでもあった。 そしてお互いが高校卒業後別々の街で就職をした。 休みの日はよくいつきとお出かけに行っていました。 そんなある日いつものように仕事を終え、バスを待つ間スマホを見るといつきの母からメッセージが来ていた。 何故か胸騒ぎがした。 「いつきが危ない」 病院の場所を聞いてすぐ向かったが 着いたころにはもう遅かった。 いつきは亡くなった… 「いつきあなたが思い出したこと嬉しがってたわ。いつき貴方のこと忘れたくなくて手術を受けなかった。」 「私のために、」 「いつきと出会ってくれてありがとうえなちゃん。高校入ってから中々学校に行ってくれなかったんだけどえなちゃんと話すようになってから元気に行くようになったのよ、」 「ごめんなさい。私のせいで、」 「ううん。あの子にとって貴方は大切だったのよ。自分のせいにしないで欲しい。」 「はい、ありがとうございます、」 「顔みて帰る?」 「はい、」 「ねぇ、いつき?」 「君って日本人?って、あの日の返事まだしてなかったね。」 私は冷たくなった手をそっと握った。 あの日と同じように小さく笑って 「うん。」 「私は日本人だよ」