ネタ切れなので恋愛ものを書いてみた。

ある日の午後。 若い男女が手を繋いで歩いていた。 「見て見て。あそこ」 「……なに?」 高齢の男女が手を繋いで歩いている。 「なんか、可愛いよね」 「僕たちも、あんな風になりたいね」 二人が、見つめ合った。 「見て。あの人たち」 「……どこ?」 中年の男女が手を繋いで歩いている。 「なんか、気持ち悪い」 「生々しいな」

船長の流儀

「スタジオのみなさーん、私は今、船に乗って海の上に来ています」 カメラが、遠くの港町を映した。 「お父さん、ここはどんな魚が獲れますか?」 「そうだなぁ。網揚げた時のお楽しみだ」 日焼けした船長が、舵をとりながら振り返った。 「ここですか?」 「おぉ、網仕掛けてある」 ボタンを押すと、網が動き出した。 「いろんな魚がいますね」 「姉ちゃん、タコ獲れたぞ」 大きなタコが、網にかかっている。 「わぁ、凄い」 「食ってみるか」 「いいんですか?」 使い古されたまな板の上で、足を一本切った。 「まだ、動いてますね」 画面には、ぶつ切りにされた足と、船長の汚れた手が映っている。 「姉ちゃん、食え」 「お味はどうですか?」 スタジオから、声が掛かる。 女は目を閉じ、小さく息をのんだ。

ズっちゃんと僕:ケンカ

ぱんと手をひとつ打って、 「そういえばさ」 ズっちゃんは言ったあと、その先を続けてくれない。こっちは待ってるというのに。僕はじれて、 「そういえば何?」 「あたしたちってケンカしたことないよね」 「…そうだね」 「一度やっておかない」 「なんでさ」 「こんな感じかって、知っておいたほうがね」 「知っておいたほうがいいかもだけど、無理にしなくても」 僕の小さな抵抗に、ズっちゃんは頬をふくらませて抗議の意を示す。 「へえんだ。コーヒーいれよっかな。キミのは入れてあげないようだ」 言ってズっちゃんは台所へと消えていく。 ズっちゃんの魂胆はわかってる。わざと意地悪くしてケンカを誘発、ってことだろ。そんな手には引っかからない。というか、あれくらいで怒ってなんかいたら、ズっちゃんとやってくのなんてできっこない。 しばらくするとコーヒーの香りをまとわせズっちゃんが戻ってくる。これ見よがしにマグカップを僕の鼻先でゆらゆらさせたり、喉を大きく鳴らしてコーヒーを飲んでみたりする。まったく。そんなことしても無駄だっていうのに。 なんやかんやひとしきりことをすませ、でもズっちゃんはあきらめたようにテーブルにマグカップを置くと、 「まったく、もう。なんだよ、なんだよ。ケンカひとつできないなんてさ。キミはあたしにとっての正真正銘のスペシャルボーイフレンドだよ」 「ちょ…」 ズっちゃんはニイイとしながら僕をのぞき込んでくる。 「あれあれ、真っ赤だよ」 「だ、だって…」 「言われ慣れてなかったね」 「そっちこそ、普段、言わないこと言ってさ」 「ヘヘ」 まったく、まったく。ニヤけちゃいそうだよ。ズっちゃんにそれを悟られないように、僕は断固としてガマンし続けた。それでもきっと、ズっちゃんにはバレてるんだろうけど。

口の温度

ロブロを薄く切って トースターで少し焼いて バターと胡瓜を乗せて食べる 指の傷は自分の爪で引っ掻いてしまった 久しぶりに絆創膏を貼って痛くなくなる事に感動する 梨とキュウイフルーツを合わせて食べる 二人の相性が合っているのか合っていないのか分からないけど、ただただ美味し ロブロに少し乗せてみよう 梨とキュウイを一つずつ ロブロに、二人が染み込んでいく 絆創膏にも染み込んでいる ベタつく指を君の口に近づける

海平さんのこと

 海平さんの淹れるコーヒーが好きだった。しっかり苦いけどスッキリした後味は海平さんに似ていた。    海平さんの焼くクッキーが好きだった。ちょっと厚めで甘さは控え目なところが海平さんらしかった。    海平さんの声が好きだった。決して大きい声じゃないのに、よく通るから離れていても聞こえた。    海平さんのまつ毛が好きだった。長くて、夏の晴れた日には、目の下に濃い影を落としていた。    海平さんの書く字が好きだった。細いのに輪郭の硬い字、紺色のインクを乾かしているその時間も好きだった。  海平さんの手が好きだった。少し日に焼けた肌とささくれのある指先が愛おしかった。  海平さんの背中が、目が、選ぶ服が、読んでいる本が、全部好きだった。    海平さんのものなら、海平さんのことなら、全部好きだった。海平さんが好きだった。  海平さんが結婚した。式の間ずっと泣いたり笑ったり忙しそうで、疲れも見えたけど、幸せなんだなと伝わってきた。海平さんの笑顔は相変わらず眩しくて、泣きそうになった。帰りに貰った花はドライフラワーにして部屋に飾っている。  最近自分でもコーヒーを淹れてみた。ただ苦いだけだった。苦くて黒いだけだった。海平さんの淹れるコーヒーが好きだった。

ボタン (掌編詩小説)

あと何日、ボタンを通す日がやってくるのだろう 待ちに待ってる訳じゃ無いけど 明日がまたやってくる訳で ほつれたボタンを針で結び直した前日 今日も靴を履いて、深呼吸をして、世界に挑む 今週はあと何日だろう 待ちに待った休日 締め付けられたボタンを緩めたくて ほつれた感情を抱き抱えたくて 今日は靴下を履いて、深呼吸をして、自分に挑む 来週はボタンを替えようかな 替えるなら何がいいだろう いや、どうでもいいや いつものボタンでいいや (完)

三面鏡の話

三面鏡はよくない。 何がよくないのかはわからないが、とにかくよくないのだ。 異界に繋がるだの、未来や過去が見えるだの なぜかそんな噂が絶えない。 現実でありながら鏡像でもある、あの曖昧さのせいなのだろう。 我が家には、祖母が残した鏡台がある。 観音開きの三面鏡を備えたそれは、長らく部屋の隅に追いやられていた。 だが、なぜか時おりひとりでに開いていることがある。 おかしいな、と閉じるたび、鏡の奥から視線を感じるのだ。 その視線は、一体、誰のものなのか。

雨の雫 (掌編詩小説)

いつの頃からか、雨の雫が鞄にシミを作り出していた その頃の雨は当に汚染されていた… 土の匂いがしたら雨 視界がくすんできたから雨 今日は晴れのち曇り 心にボソッと水溜りができる 濡れた空気がしたら雨 なんてたって雨 (完)

借金完済

 知り合いへの借金を完済した。 犬は渋谷で焼き鳥を貰い過ごすのも手かもしれない。 黒人のような別の知り合いは恩は返すと言っている。 とりあえず自活して欲しい(それは僕にも言える) 助けたり助けられたり。 相互扶助。 互助。 互角の戦いではないかもしれない(下手したら1:10位かも) 20倍界王拳は疲れるんだよな。 僕は下級戦士なので変身できない。 時飛ばしは出来るかもしれない。 あるいは火星に剣に乗って飛ぶ子供たちの敵役(鬼) 鬼なら鬼らしく見世物になっていればいいのかもしれない。 夜遅い。 もう少し体が丈夫で大きかったら屯田兵か防人にでもなって北に南に行き来するのだが。 とりあえずチョコとバナナを食べて明日の畑仕事に備える。 身体をシステムに順応させる。 筋肉注射は切った。 データ取った分厚労省の人員を機械にすげ替えて本当に必要な事をして欲しい。 人的補償。 知り合いから貰ったチキンの分身体の脂肪を燃やす。 脳が焼き切れても血が沸騰しても涙は流せる(生体である権利だ) もっと簡単にいうと身体を愛することだ。 そして愛して欲しい。 犬は無い物ねだりを夢に求め日々を暮らす。

少し汚れた雪の結晶 (掌編詩小説)

-辺りは雪原- 雪の気なんて 無かったのに 積雪が足跡を置く 優しい結晶が 顕微鏡越しに映る -辺りは現実的- 気がつくと 枕の上だった 今までが夢だった この世界が私を起こした 季節外れの雪 季節外れの感性 -辺りは雪仕舞い- 布団を畳めば 枕のシワを直せば 夢の中の顕微鏡までも 今日はお終い 気づく頃には 少し汚れた 雪の結晶 (完)

知らない女

都会の明るい夜に慣れ過ぎて 深夜に散歩することが 習慣みたいになっていた でもやっちゃダメだったんだ 男だからと油断していたんだよ もしもこうなると知っていたら 外なんか出なかったのに その日は盆休みで帰省していた 夜遅くまで両親と酒を酌み交わす 二人は先に寝てしまったけれど 俺はどうにも寝付けなくて 酔い覚ましも兼ねて 深夜散歩に出かけることにした 一歩外に出て玄関を閉めると 辺りは途端に黒の陰影だけになり ポツポツと立ち並ぶ街頭だけが 黒い田んぼ道を照らしていた その光景に少し息を飲んだが スマホのライトを付ければ なんてことはなかった スマホのライトを頼りに歩く もう日付が変わる頃だったので 他に歩いている人はおらず たまに車が横切るだけだった 近づく車の音だけには注意しながら 夜風を感じながら歩く さてそろそろ帰ろうかと 来た道を戻ろうとしたときだった 振り返った先の黒い景色が 揺れているのに気づいた 直接ライトを向けるわけにもいかず 遠くてハッキリとは見えなかったが どうやら人影らしかった ライトも付けずに歩くなんてと思ったが 慣れていればそんなものかとも思えた 人影らしきものが近づくにつれて ライトがその足元を照らしていく サンダルとスカートの端が見える この人とすれ違ったら遠回りして帰ろう そんなことを考えていたときに 気づいた 恐らくは女が手に持っているのが 刃物だということに アルコールなんて吹き飛んで 全身から冷たい汗が吹き出した 呼吸は思わず止めてしまったが しかし足を止めるわけにはいかない 女を刺激しないようにライトを下げて ただただ祈りながら震える足を前に出す 女の足音がどんどん大きくなっていく 女の足元がライトの円の中に入り そうして通り過ぎていった 女の足音が徐々に小さくなっていく 俺はしばらく早歩きで進み続けてから ゆっくりと速度を落とし立ち止まった 辺りはしんと静かになった 俺の足音はもう聞こえない 女の足音も聞こえなかった ずずずと後ろを振り返る 黒い陰は立ち止まって その場でゆらめいていた 女がどちらを向いていたかはわからない だが俺は迷わずまた歩き出していた できるだけ遠くへ行かなければ 静かな夜に俺の足音が響いていく するとそれにもう一つの音が重なっていく 見たくなかったが見るしかなかった 足は止めないまま振り返ると ライトの先ではさっきの女が 小走りで追いかけてくるのが見えた そこからは無我夢中だった とにかく走って走って走りまくった そうして現在地もわからなくなった頃 ふと足を止めると足音が聞こえない 振り返って辺りを照らしたが もうあの女の姿は見当たらなかった まだどこかにいるかもしれない そう考えライトで周囲を照らし 警戒しながら家へと帰ることにした 結局のところ何事もなく 実家へ帰ることができた もしかしたら何かしら 俺の勘違いだったのかもしれない そんな風にすら思いながら 部屋に直行した俺はそのまま ベッドに倒れ込んで眠った 「朝ごはんいらないのー?」 母の声に目が覚めてリビングへと向かう 父はもう仕事へ向かったらしく 母は食器洗いをしていた 用意された朝食をすぐに食べ終えると キッチンに立つ母の元へ皿を運ぶ 「自分で片付けるなんて成長したわねー」 「それ毎年言ってるけどな」 そんな会話を交わしながら皿をシンクへ入れる ちょうどそのとき入れ替わりで 母がシンクから包丁を取り出して洗い始めた

その場の癖 (掌編詩小説)

つい買ってしまうものがある ねぇ…これは無駄使い? 断捨離候補に挙がるって思ってる? …その場の癖ってなんでしょうね 考えるうちに分からなくなってくる 終わりのない事をいつまでも考える私の癖 大体、その場って何処なんでしょうか 癖というけれど、習慣と違うのでしょうか ……… ………(完)

回送 (掌編詩小説)

誰も居ない だから成立する 回送というものは 誰も乗せない でも、もしかしたら 観えないだけで 見えないナニカを 乗せてるのかも 回送というものは (完)

矛盾 (掌編詩小説)

『自分は不幸だ』なんて言わないでください 不幸じゃなきゃ、主人公にはなれないんですか 人から信頼されないんですか 人から頼りにされないんですか 『自分は幸せだ』って言って どうして白い眼で見られないといけないんですか (完)

天秤の震え (掌編詩小説)

人だかりを見つけた なんだか気になって、野次馬として参加した 生きる事が、絶対的な正義では無い そう叫ぶかのように 他人が飛び降り自殺を図ろうとしていた 誰も、彼の心配よりも正直なところ この後、本当に飛び降りるのかどうかに注目していた 彼を取り巻くこの世界の環境は 何事も無いかのように秒針が進んでいる 野次馬は、らしくもただ去っていく 私も彼への注意を終わらせて 自分の世界へ戻っていった 2〜3日あとの話である ローカルテレビのニュースで数分だけ取り上げられた 彼はフラッと堕ちて死んだようだ 誰も、彼が死んだ理由を聞かなかった ただ、彼が死んだ事実を受け止めた 彼の親族・及び近しかった者たちはどちらだろうか… いつの間にか消毒された落下地点が ブルーシートから解放される (完)

飲みかけの缶ジュース (掌編詩小説)

誰かの缶ジュース 飲みかけの缶ジュース 公園のベンチに置いてあった 『最後まで飲みなよ』って思った 誰にも聞かれていないことを願う独り言 この缶を自らの手でゴミ箱に運ぶ気はない なのに、この後のことが気になる 何かの拍子で、ベンチからこぼれ落ちたらどうだろう 偶然通りかかった蟻が、ジュースに含まれる糖分を自分の巣に持ち帰るのだろうか そんな事を想像しながら 『プシュッ』っと缶をあけて、ブランコから飲みかけの缶ジュースを見つめる… (完)

沸々と (掌編詩小説)

沸々と沸点に近づく 刻々と時間を刻んで 沸々と麺が温まる 蓋の上に乗せた箸が蒸れていく 真面目にタイマーの示す時間に気を取られる 食欲と共に待ちぼうけ タイマーのゼロ表示が、ふた開けの合図 その中は無駄のない一品 手頃な調理・手頃な価格が望みどころ (完)

受話器を握りしめたかった (掌編詩小説)

電話ボックスに入って 思想を着替えたい 真新しいテレホンカードを使って 慣れない通話を願う どこの誰に理解されるのか 分からないけれど この想いを誰かに肯定されたかった この思想を誰かに受け止められたかった 新しい思想も古い思想も 同じクローゼットに片づけていたい (完)

砲丸投げを会得したい。

もし、煙草の匂いをかき集めて塊に出来るのなら、まずは砲丸投げを会得したい。 世界大会で金メダルを獲れるまでは待てないけれど、「砲丸投げやってます」と言ったら全員が納得できるような身体を作りたい。 その身体を持ってして、凝固された煙草の匂いを、親の敵のごとく、親に投げたい。 正確に言うと、母親の敵のごとく、父親に投げたい。 実家ぐらしの頃、たまにこっそり入っていた。誰も使っていない部屋に。 誰も使っていないはずなのに、壁はやたら黄ばんで、臭かった。 ただ"そういう部屋"が家にあると友達に話したこともあったけれど、何で話したのかは、自分でも未だに分からない。 チカチカ、バチバチ。記憶の雷鳴。 ボトりと落ちる線香花火。 慣れない恐怖。永遠の祈り。 内へと籠る意識を、溜めて溜めて、溜めて溜めて溜めて溜めて、 解き放ちたい。遠くへ。 やっぱりまずは、砲丸投げを会得したい。 頭の良い人達が、匂いを塊に出来る何かを発明してくれるその日までに。 砲丸投げを会得したい。 不純な動機でごめんなさい。

野乃と「のの」

近くの小学校で、運動会をやっているみたい 音楽やアナウンスの声が、風に流されて聞こえてくる ときおり声援のようなものも 今日は「のの」がなんだかそわそわしている感じ 空を見てみると、きれいな青 久しぶりに空を見たかなあ 下ばかり見ていたわけでもないけれど、見上げるまではしていなかった 「のの」は、外を見てばかり 「外、行ってみる?」 ふん、と興味なさそう そんな顔しなくてもいいと思うけど 外を見るのと、外に行きたいは、どうやら結びつかないみたい やさしい風がカーテンをゆらす その風にのって、わあっと、ひときわ大きな歓声が上がる 弾かれたみたいに「のの」が玄関に向かってかけ出す 「興味なかったんじゃないの」 まったく、あきれてしまう でも、こういう気まぐれも、それはそれで楽しかったりする

廃工場稼働中

 その街には、夜だけ稼働する廃工場がある。  月光とともに、自分たちが死んだことに気づいていない亡者たちが蘇り、機械の前で必死に手を動かすのだ。   『あー』 『うあー』    スイッチを押す。  レバーを動かす。  亡者たちの行動は、まったく生前と変わらない。    そんな廃工場前にバスが止まり、どかどかと生者たちが降りて来る。  ガイドの女は、亡者たちのいる部屋の前まで生者たちを誘導し、窓から部屋の中を覗かせる。   「みなさーん。こちらが、大労働時代の人々の末路でーす。生きてる間も働きづめ。死んでからも働きづめ。恐ろしいですねー」 「やだ恐い」 「なんて恐ろしい」    亡者たちは働き続ける。  生者たちを気に留めることなく。    生者たちは観察する。  亡者たちを反面教師にと。   「働かずして生きることができる私たちは、とーっても幸せなんです。だから、私たちは、しっかり遊んで生きましょうねー!」    AIによって、人類が労働から解放された時代。  人類は、かつての労働さえも娯楽に組み込んで、生涯の青春を謳歌していた。

完全な人間

「お帰り。なんだ、また殺してきたのか」 「うん」    血塗れ息子は、満足そうに戦利品を眺めている。  小瓶に入れられたのは、目。  宝石のように美しい、黒い目だ。    息子は自分の部屋に戻ると、目のない顔に、小瓶から取り出した目を差し込んだ。  そして、その頬を愛おしそうに撫でる。   「美しい。俺の妻にぴったり。もう少し、もう少しでで完成する」    息子が撫でる体には、まだ手首から先がない。  美しい掌が見つけられていないらしい。  息子が撫でる体には、まだ臍がない。  美しい臍が見つけられていないらしい。  他にも多数、足りない部位が存在する。   「はあ。ほどほどにしてくれよ。君が捕まらない様に手を回すのは、私なんだから」 「もう少し、もう少しで終わるから」    息子は、完全な人間に成りたがっている。  完全な人間に成るために、完全な妻を欲している。  現実世界にいないから、多くの人間の部位をつぎはぎして、完全な妻を作ろうとしている。   「完全な人間の行き着く先としては、随分単純だな。いや、完全だからこそ、単純なものを好むのか?」    完全な人間であることを至上命題に動く私の人造人間は、今日も私に新しい発見をくれた。  そんな人造人間のためならば、殺人をもみ消す私の手間など、些細な問題だ。

思い出のペンダント

「向こうに着いたら、すぐ連絡する」 悠斗はそう言って笑った。春から、彼は海外の大学院へ行く。二人で何度も話し合って決めたことだった。遠距離でも大丈夫、と互いに言い聞かせるように。 「これ、持ってて」 遥が差し出したのは、楕円形のロケットだった。開くと、二人で撮った初めての写真が入っている。入学式の日、桜の下でぎこちなく並んだ一枚。 「帰ってきたら、またあの桜の下で会おう」 悠斗はペンダントを首にかけ、発車のベルに背を押されるように電車へ乗り込んだ。窓越しに、何度も手を振った。 最初の半年は、毎日のように連絡を取り合った。時差を計算しながら、夜中に画面越しで話した。けれど冬が来る頃には、返信の間隔が少しずつ空いていった。忙しいから。課題が終わらないから。遥は「大丈夫」と打ち続けた。 二度目の春、悠斗からメッセージが届いた。 〈ごめん。遥のこと、ちゃんと大切にできない気がする〉 画面を見つめたまま、遥は何も返せなかった。やがて一言だけ打った。 〈うん。わかった〉 それで終わりだった。 それから三年が過ぎた四月の夕方。遥はひとり、あの桜並木を歩いていた。通い慣れた道なのに、毎年この季節だけは足が重くなる。 ベンチに、見覚えのある背中があった。 振り返った悠斗の首元で、銀色のロケットが揺れた。 「……ずっと、外せなかったんだ」 遥は何か言おうとして、言葉が見つからなかった。ただ、胸の奥が静かに痛んだ。会いたかった。でも、もう戻れないこともわかっていた。三年という時間は、二人を別々の人間にしてしまっていた。 悠斗はロケットを外し、そっと遥の手に乗せた。 「返しに来た。やっと、ちゃんと言えるから。……ありがとう。好きだった」 「……私も」 風が吹いて、花びらが二人の間を横切った。 悠斗は小さく頷き、来た道を戻っていった。遥は振り向かなかった。手の中のロケットを開くと、あの日の二人が、まぶしそうに笑っていた。 その笑顔だけが、いつまでも春のままだった。

「二番出汁の夜」

閉店後の厨房には、昆布の匂いだけが残っていた。 陽子は四十二歳で、この小さな定食屋を父から継いで三年になる。父の味を再現しようと、毎朝同じ昆布、同じ鰹節、同じ火加減で一番出汁を引いた。けれど常連の誰も、「お父さんの味だ」とは言ってくれなかった。 その夜、陽子は引いたあとの出汁がらを捨てられず、鍋に水を足して弱火にかけた。二番出汁だ。一番のような華やかさはなく、少し地味で、どこかほっとする味がする。 ふと、棚の奥に古いノートを見つけた。父の字だった。 〈一番出汁は客のため。二番出汁は、自分のため〉 ページをめくると、毎晩のように二番出汁で作った味噌汁やおじやのレシピが書かれていた。余り物の野菜、半端な豆腐、冷えたご飯。店のメニューには一度も載らなかった、父だけの夜食だった。 陽子は残りご飯と卵で、おじやを作った。ひと口食べて、箸が止まる。 「……これだ」 派手ではないけれど、疲れた体にじんわり染みる。父が毎晩ひとりで食べていた味。そして、陽子が子どもの頃、熱を出した夜に作ってくれた味でもあった。 翌日、陽子は黒板に一行だけ書き足した。 〈本日の〆に、まかないおじやあります(数量限定)〉 その夜、いちばん年季の入った常連の源さんが、おじやをひと口すすって目を細めた。 「……ああ。大将の、夜の味だ」 陽子は何も言わず、小さく頷いた。 昆布の匂いが、いつもより少しだけやさしく感じられた。

さよなら

きみが声にしないで言う  図書館で待つ 真意は? 真剣に読書? いや、それはない デートってわけでも へえんだ 上の段の本を取れって そんなとこか 妙に腑に落ちた こころのなかでさよならしちゃって 帰ってしまえばいい できるならね しないけどさ

自然学校での出来事

学童保育では友達ができたもののそれは放課後での出来事だけであって、学校の時間は友達など僕には無関係だった。 そんな僕にクラスで友だちができた。僕に声をかけてくれたり、僕を支えてくれたり、僕と一緒に遊んでくれたり…。その子がいたからこそ僕はいじめなどに屈せず僕は学校へ行くことが出来た。学校に行けばその子に会える。そのように思うと僕は楽しく学校へ行くことが出来た。 放課後にもその子と一緒に公園で遊ぶようになってっからは学校でも家でもないところに居場所を作ることが出来た。嬉しかったしやっぱり友達は最高だと思えたし友達をらい説にしていきたいと思った。 放課後、僕の家の公園で花の冠を一緒に作ったり一緒に色々話をしたり、1番嬉しかったのはその子の家へ行って遊んだ時があったこと、それからそのこのおかげで友達が多く作ることが出来た。その子を通して僕と一緒に遊んでくれるクラスメイト、僕をいじめから守ろうとしてくれたクラスメイト、僕の家に招いて僕の誕生日を祝ってくれたクラスメイトなど、色々楽しい思い出を作ることが出来た。 「もう、私にひっつくのはやめてほしい。私も友達をもっとたくさん作りたいし、君に構っていられない」と僕が1番の友達だと思っていたクラスメイトに言われた一言ですべてが多く崩れ去ってしまうということも知らず、僕はずっと友達にくっついて遊んだり話しをしたりして楽しんだ。 もしかして今後の人生で僕の計画を変えてしまうような出来事になったのかもしれない。 楽しかったのも束の間、僕は自然学校でも、僕のチームにその友達とも一緒のチーム、阻止ってその子のおかげで友だちになることが出来たクラスメイトと一緒の班になった。 一日目、一緒にバーベキュウや飯盒炊爨を作ったり、一緒にお化け屋敷を回ったり、色々なプログラムの参加も三人で一緒にクリア知っていった。最高に楽しい自然学校でいい思い出となった。 だがそれも、自然学校最終日で消えてしまった。夜の自由時間、部屋には僕とIちゃん歯科員なかった。(僕の1番の親友のことをこれから、Iちゃんと呼ぶようにする) 「空、話がある。」 「なに~?」 「もう私にくっつくのはやめてくれない?」 「…」 「私も、友だちがいる。ずっと空に構っているのも疲れてしまった。」 「…」 この会話が、友達からの別れ話だった。べつに僕も友達も友達の人生があるし、僕はずっと友達に構ってほしい糸は思っていないけど、僕の態度や行動で、友達を苦しめていたのかもしれない、そのように思ってしまって、なんだか友達ん異申し訳なかった。 自然学校最終日の昼、自然学校の思い出をスライドショーで見る時間になり、僕は友達と会えて離れたところに座ろうと思って、一番後ろの席に座った。 でも…。 「空、昨日はきつい言い方をしてしまってごめん。一緒にスライドショーを見よう。」 そのように言ってくれて、一緒の部屋だった。IちゃんとIちゃんの友達(僕の友達でもあるMちゃん。) スライドショーで流れていたのはベストフレンドと言う曲だった。 色々と楽しい思い出が蘇ってきた。隣を見ればIちゃんは涙を流してスライドショーを見ていた。中でも1番印象に残った思い出は、MちゃんもIちゃんも、お化け屋敷の時は僕にしがみついて怖がって、離れようとはしなかったけど僕は全然怖くないと言う写真がスライドショーにでてきた。 最高にいい思い出となったし楽しい思い出を作ることが出来た。 でも、この自然学校が終わってからは、あんまりIちゃんを含め、友達になってくれたクラスメイトとは関わる機会がすっごく減ってしまった。

匂う

 最近鼻をならされない。 僕はワキガ。 苛められてる人は体臭が変化するらしい。 …皆鼻が馬鹿になっているのだろうか? それとも深夜虫や植物や小動物を苛めていて僕も苛めに荷担しているから僕も匂わない(とされるが実際には石油と芳香剤の匂いで誤魔化しているだけの憐れな奴ら)と一緒なのだろうか? じゃあ臭くていいよ!

夜の会話

アパートの住民が寝静まった頃 小さな明かりだけつけてお話しをする 今日はどんな事を思ったの? 昨日の話は本当なの? 夜の会話は二人だけの世界 君が本当に聞きたいのはどんな事? 僕が本当に言いたいのは端の方にぶら下がっているそれ 手を繋いでお話しをする 自分と相手の二人だけの夜 今、さみしいって言ったの? 今、たのしいって言ったよ 時計が夜で見えない 今何時だろ? もう明日だね もう眠る? キスするよ 配管を水が流れる音がしている

エイリアンの事情

窓が黒から青に変わる頃 部屋のクローゼットで隠れていた私を エイリアンが見つけ出した所で目が覚める アラームの一時間前 妻と息子を踏まないように部屋を抜け出し、レンジで夕べのカレーを温める 昨日の夜の事を思い出している 息子としては 苦手な授業と受けたい授業がある 学校に行きたいけど行けない 先生が怒らなければいいのに クラスメイトがふざけなければいいのに 僕が怖がらなければいいのに 先生には先生の叱る事情があって クラスメイトにはふざける事情があって お前が怖がるのも変えられない それは先生に叱らないでと言うのに同じで クラスメイトにふざけないでと言うのと同じで お前も怖がらないわけにはいかない 出来ることと言えば 学校で保護者となる担任の先生に気持ちを伝えること その時間だけハッピールームで過ごすこと 今日は怒らない、ふざけないと願うことだけだ。 休むのもかまわない。 大人になっても似たようなことはある 大切なのは苦しみすぎないことだ グツグツとレンジのカレーが煮立っている 目が覚しアラームが鳴り、振り向けばトイレと寝起きの息子がいた

ミルクティー

「何か浮かんだ?」 「…」 「ねえ」 「え?」 「ちょっとさあ」 「あ、ごめん」 「まったく」 アイツはあきれて、そっぽを向く 缶入りのあたたかいミルクティーで 冷たい風をしのぐ朝 飲んだときに動く アイツの、のどぼとけ 不覚にも、見惚れてしまった

きみといきる

タイミングを逃した ずっとテーブルの上で のんきに居座る、しなびたレモン 考えなんていらない さっさと捨ててしまえばいい それでも、躊躇ってしまう その半端かげんが いまの私の気持ちに似ていて 端的に言って 今日も、君と生きたい

老化悪魔

 天使には、生まれながら白い羽が生える。  悪魔には、生まれながら黒い羽が生える。   「あ、白髪見っけ」    そして年老いた悪魔は、黒い羽が白へと変わっていく。   「ママー! パパに白髪ー!」 「あらあら。もうパパも年だからねえ」    娘が無邪気な顔で報告に行ってしまったが、俺としては衝撃でしかない。  急いで鏡の前に走って、自分の羽を確認する。   「……ほんとだ」    無数の黒い羽毛の中に、ぴょんぴょんと白い羽毛が生えていた。  黒の中に白だから、目立って仕方ない。   「ふんっ! 痛っ!」    白い羽毛をひっこ抜いて、ごみ箱へ捨てる。  娘がカメラを持って戻って来たときには、見つけたすべての白い羽毛を抜き終えた後だった。   「あー! 写真撮りたかったのに!」 「うるさい。そんなことより勉強しろ」    とぼとぼと引き換えしていく娘の後姿を見ながら、俺は昔を俺を思い出していた。  俺も昔は、親の羽に生える白髪を見つけ、娘と同じようにはしゃいだもんだ。   『天使みたい』    愚かにも、そう言ったらしい。  しかし、羽が白くなることを天使みたいだと呼ぶのは、親の世代にとって最悪の侮辱言葉。  今まで見たことのない形相となって俺を罵倒し、罵ってきた。  何もわからぬ幼い俺は、親の剣幕にひたすら泣いた記憶がある。    とはいえ、羽が白くなった悪魔は天使になってしまう、なんてのはただの迷信だと、今や誰もが知っている。  大人になった俺にとっては、腹を立てるほどでもない。  しっかり年寄りだと言われた気分にはなるが。   「白髪染め買うかあ」    俺は、すっかりツヤを失った黒い羽を撫でながら、通販サイトを開いた。