『ああ、俺は健常者でよかった』 『足が不自由とか無理。自由に旅行もできねえじゃん』 『目が見えないとか無理。どうやって歩くんだよ』 SNSに流れる悪意の塊。 それを眺める子供たち。 「せんせー。どうしてこの人たちは、こんな酷いことを言うの?」 子供たちの教室には、障碍者と呼ばれる子もいます。 だからこそ、不思議に思って尋ねました。 先生は子供の頭を撫でながら、丁寧に説明をしました。 「それはね、この人たちは、健常者であること以外に自慢できることがないからです」 「自慢?」 「そう。佐藤君は、勉強ができるのが自慢。鈴木さんは、絵を描くのが上手いのが自慢。皆、自慢できることがる、素敵な私の生徒たちです」 「えへへ」 「でも、この人たちには、それがないのです。自分のすごいところを、一つも見つけることのできなかった人たちなんです」 「へー。なんか可哀想」 子供たちがなおもスマホのスクロールを続け、多数の悪意を鑑賞していたので、先生は滑らかな動きでスマホを取り上げます。 悪意の過剰摂取は、子供たちにとって毒になるからです。 「さあ、休憩時間は終わりですよ。皆さんはこんな大人にならないように、しっかり勉強して、しっかり運動して、自慢できることを増やしていきましょう」 「はーい!」 先生は、他人の悪意を踏み台に、子供たちを動かします。 それもまた、先生の悪意。
創作する人間にとって『ジャンル』というものは 心強くも、時に囚われの元凶となるものだ 創作とは楽しむものであり 創作論なんてものは二の次なのである 自分や世界に不満が無ければ創作は次第に止まるだろう… 怒りや嘆きの世界で『無題』を創り続けることが、本来の創作という物なのである だが、世間に出る頃には作家の『作品』というレッテルが貼られる この『レッテル』を今作と『額縁の契約』内で私は額縁と捉えた ジャンルとは、作家にとって自分の作品をそれぞれの系統に押し込む事であり 読者にとって、作品と効率よく出逢う合言葉なのである (完)
彼は私の永い生の中に現れた唯一のひとでした。 暗い夜道に突如空に昇った星でありました。あてどなく歩く道を、もしやもう違えてしまったのではと不安に震える道中に、そこを目指せば良いのだと私を駆け出させる希望の火でありました。 実際には彼は隣にいて、いつでも私の手を引いてくれたので、旅人の星に喩えるよりは、掲げるランタンの方がいいのでしょうか。 ああ、遠すぎて温度の分からない星よりは、ランタンの方がうってつけかもしれない。彼の隣は温かかったのです。どんなに寒い冬の雪の日も、普段と変わらずに。 私は彼から多くを学びました。気遣いやら、笑わせ方やら、愛し方を。彼と同じにはできはしませんでしたが、彼のその様はたいへん、うつくしかったのです。全部、彼の言う愛によるものでありましたから、それを持たぬ私は、彼から見るこの世界はどれほど輝いているのだろうといつも不思議に思っておりました。 我々はどうやら同じものを見ることはできないのだ、と知ったのは、彼はとうに気付いていたのかもしれませんが、少なくとも私が知ってしまったのは、もう戻ることが叶わぬほど歩いた後でした。 歩き始めた地点はおろか、一度一人分が途切れた足跡の痕跡も見ることが叶わぬほど遠くまで来てからでした。 彼は変わらず私の手元にありました。この先どうしよう、と彼は決して言いませんでした。振り返る素振りすら私の見ている前ではしませんでした。 不安とともに私の手を握る掌に、ここに来てようやく、彼も私と同じくして、道を知らなかったのだと気付いたのです。 二人して道を失いましたが、私は別段悪い気はしませんでした。思えばここまで既に散々迷い、何故この彷徨い歩いた果てに、私の望む場所に、彼が連れて行ってくれるのだと疑うことなく信じていたのだろうと今更おかしくなったのです。 悪い気はしませんでしたが、悪いことをした気にはなりました。何故同じになれないのだろうと、苦しむ彼をずっと、隣で見てきたからです。彼は星でなくランタンでした。 連れ歩いたのは私です。
しくしく、べそべそと泣く子が居る。 見た感じは、ずいぶん幼い子。3つとか、4つとか? なのに、ただの迷子とは感じられない。だけど、ただの迷子のように、服の裾を握りしめてただひたすらに、しくしくべそべそと泣いている。 どうしろと、いうのだろうか。 回答を求めるその対象さえ判らずに立ち尽くしていたら、その子が喋った。 「おうちにかえりたい…」 やはり迷子。ただの、かどうかは、さておいて。 「おうちの場所は解るの?」 「わたしのおうちは、あのひとの居るところ」 「じゃあその人は何処に居るの?」 「………」 黙る。服の裾を握る手に、さらに力を込めて。 「解らないのであれば、捜せないね」 服の裾が、さらにギュウッと握られた。 しくしくべそべそが、ぶわっと溢れ、堪え切れない涙になった。 言葉もなく唇を噛み締め、堪え切れない涙に頬を蹂躙される、その子。その子はきっと、見た目に相応しくなく幼くなどなく、けれど、見た目に相応しく、幼いのだろう。 「解らないのであれば、捜せない。 ならば、まずは解るようになればいい。そうしたら、捜せるのでしょう?」 なにをいっているのかわからない。 そんな顔をして、その子は動きを止める。ちなみにあれほど頬を濡らし目を腫らした涙も、止まっている。 「解らなければ、解るように努めればいい。何かしら解れば、何かしらの道は開ける。 努めても解らないならば、さらに努めればいい。解らないままなのか、いつかの果てに解るときがくるのか、」 あるいは。 「あるいは、そのまま捜し求め続け、そのまま泣き続けるのもまた、一興」 そっとその子の様子を窺うと、その子はもはや、しくしくべそべそとは泣いておらず、滂沱の如くな泣き方もしていない。 ただ静かに粛々と、涙が再び頬を濡らしていた。 「わからない。あのひとが居るところ。 わからない。どうすればそこにかえれるのか」 「でも、わかる。 わたしはおうちにかえりたい。 わたしのおうちはあのひとの居るところ。 わたしはあのひとのところにかえりたい。 だからわたしは、あのひとのところに、かえる」 その子は服の裾をギュッときつく握りながら、静かに粛々と頬を濡らし続けている。 見た感じはずいぶん幼い子。かえるべき場所が解らず途方に暮れて泣き濡れる迷子。 だけど大丈夫。ただの迷子じゃない。大丈夫。 「かえりたい場所が解っているなら、そのための道が、何かしら開けているのでしょう。ならばきっと、そこにかえりつくこともできるのでしょう。 だからもう、迷子なんかじゃ、ないね?」 その子は服の裾をギュッと握りしめたまま、頬を濡らす涙を止めないまま、けれど、確かにコクリと頷いた。 「…では、さようなら。行ってらっしゃい」 そしてどうしろというのかなど解らないから。ただ、見送りの言葉を送った。 密やかに、その子の道行きの果ての涙が、もっとずっと暖かいものであれと、願いながら。
寝る姿勢がわからなくて、夜更かし中 いつまでも寝返りを打つ 寝る時間がわからなくて、夜更かし中 気づけば朝の4時半 枕の位置がわからなくて、夜更かし中 左右に動かして頭の落ち着く先を探す 明日が怖くて、夜更かし中 ずっと夜でいいのに (完)
母は強し。 私は、そんな何気なく耳にすることわざを、幾度となく体感してきた。 小学3年生の頃。 低学年、高学年の狭間にある年齢。 私は、友人と共に今まで遊んだ公園とは違う、テクノプラザという大人じみた施設に足を踏み入れた。 これまで母には、特に聞かれるわけではなかったけれど、どこで誰と遊ぶか何気なく報告していた。 社会人である今、ほうれんそうは完璧と言っていい程徹底されていたと思う。 そんな中、母に黙って、私はテクノプラザという大人じみた名前の施設に足を踏み入れたのだ。 少しヤンチャな男友達に誘われたこと、少し親に反抗してみたかった、といった感情から、恐る恐るテクノプラザに足を踏み入れたのだ。 当時の私は、世間の怖さ、親の考えなどは知りもしないし考えもつかない。 小学3年生の私は大いにはっちゃけた。 鬼ごっこが禁じられていることも張り紙で示されていたけれど、それを破ることによって、自分自身が、「普通」ではない。「平凡」なやつではないのだと世間に示したかったのだと思う。 私は、思いっきり鬼ごっこやかくれんぼなどをしてテクノプラザを楽しんだ。 そんな私達を見て、周りの人がどう思うかなんて考えもしなかった。 午後5時。小学生にとって、我慢という地獄の始まりを知らせるチャイムが聞こえた。 午後5時が門限であった私は、もっと楽しんでいたいという感情を押し殺し、テクノプラザを出て1人で自宅に向かった。 しかし、いくらペダルを漕いでも知っている道に辿りつかない。 大袈裟ながら、私はこのまま家に帰れないのだと悟った。 すると、偶然、行き慣れたファミレスが見えたのだ。 私は下がる思いでファミレスまで行き、見慣れた建物を頼りに自宅に帰った。 テクノプラザを午後5時に出れていたとしたら、私が彷徨っていた時間は1時間くらいだと思う。 門限を1時間程過ぎて帰宅した私に、母が最初にかけた言葉。 それは おかえり だった。 当時の私は、5歳離れた妹もいて、小学3年生という低学年にとって頼りになる立場にあった。 泣きたいという感情を押し殺して生活してきたつもりだったが、小学3年生ながら、自分の家に帰れるという当たり前な喜びから、涙が溢れた。
あの大きな猫、洋子はもう長くはないのだそう、子どもの頃はその意味が分からなかったが、あの猫が煩く、巨大な物に潰れ、意思疎通が出来なくなるように、洋子もいつか居なくなるのだろうと、思い始めた。 洋子が居なくなるということは本人もよくこう言っていた。 「私はサビより早く死ぬからねぇ」 死ぬというものが何なのかは分からないが、きっと居なくなることなのだろうと、思っていた。 私は『なんびょう』というものになったらしい。 あの忌々しく、可笑しな匂いを纏った猫が言うにはあと数ヶ月も持たないのだそう、それを聞いた洋子はとても悲しそうにしていた。 そこから段々、餌を狩る気も失せ、食べ物もいらなくなった。 もうここ数日はずっと寝ている。そして洋子はいつも私の隣に居る。普段は私から離れるがもうそんな気力もない。 嗚呼、唐突に眠くなってきた。これが死ぬというもの何だろうか。洋子居なくなってしまう私を許して。
鼠は台所を探検していた。ゴミや食べ物を拾っては巣に持ち帰っていたので、台所は宝の山だった。冷蔵庫の下の暗がりに、氷が一つ落ちていた。鼠が近づくと、氷は言った。「私ね、もう氷としては役に立てないの。こんな場所で溶けるなんて嫌よ。鼠さん、私をここから連れ出してちょうだい」鼠は頷いた。
@平日の遊園地 目の前で子供にジャンバーを着せる母親がいる。着せられている子供は満足げだ。母から愛情を受けている事を感じているのだろうか。隣の弟は自分の番をけなげに待っている。 スーツケースを引きずるオジサンがスマホを見ながら通り過ぎる。傷だらけのスーツケースは使い込んであり、オジサンの扱い方も雑だ。オジサンの歩く速度が速いせいで、スーツケースは時折跳ねながら引っ張られている。何をあんなに急いでいるのか? 椅子に座っているオジサンはスマホから目を離さない。目の前で大声で話しているのに気にならないのか。 曇り空の下、遊園地のイベントスペースでウォーリーとユウの二人は漫才をしている。 平日の遊園地でも人はそれなりに入ってはいるが、彼等の目の先はジェットコースターやメリーゴーランドなどの乗り物に向けられ、漫才をしている二人の前をを足早に通っていく。足を止めてこちらを見ているのは鳩くらいだ 「いい加減にしろ!」 「どうもありがとうございました」 何とか持ち時間を使い果たし、ステージを降りて楽屋に舞い戻る。現実から逃げたいのか少し駆け足気味になってしまう。 楽屋と言っても白いテントが用意されているだけで、電気ヒーターなど暖房はない。 「お疲れ様。良かったよ」 モノマネ芸人のエイトビード武さんがウォーリーとユウを指をさして褒めてくれた。 「ありがとうございます。でも、誰も聞いてなかったでずけどね」 「俺初めてですよ、鳩に向かって漫才するの」 とウォーリーが言うとエイトビード武さんが大きく笑った。そして「俺はよくあるよ」と言ってステージへ向かった。 最近分かったことだが、楽屋で褒めてくれるような先輩芸人さんは本心で言ってくれているようだ。この世界もいろんな人がいる。ただ生き残っている人は決まって人格者ばかりな気がする。勿論、大スターなどに会ったこともないが、大スターと若い頃よく飲みに行ったと懐かしむ芸人さんたちはたくさん会ってきた。 彼等は大スターほど面白くないし金も無いが、とても優しい。 ウォーリーがスーツを脱ぎジャージに着替えている。 「俺、ちょっと散歩してくるわ」 「うん」 「次は何時だっけ?」 「次は二時。その次が四時」 「オーケー」 ウォーリーが楽屋を出ていった テントの外は楽しそうな声で溢れている。先輩のエイトビードさんはどんな顔して芸をするのか袖から見てみることにした。 @二人きりの打ち上げ 「お疲れ」 「お疲れさま」 「いやぁ、受けたなぁ」 「どこがだよ」 ステージが終わった帰り、家の側にある居酒屋に二人は寄っていく ウォーリーは酒があまり強くないので、温かいお茶と焼き鳥の盛り合わせを食べていく。 ユウはハイボールを飲み、ツマミは食べない。 「俺さ、あの遊園地初めて入ったよ」 「そうなんだ」 「知ってる?あそこステージがもう一個あるの」 「えっ…あぁ思い出した。子供の頃仮面ライダーショウを見に行ったよ」 「今日もやってたよ。仮面ライダー」 ネギマのネギが串をスライドしてウォーリーの口に入っていく。 「へぇー」 「あのさ、汚いスーツケースを引いてたオッサン、覚えてる?汚い格好をしてさ俺らの前を急いで通ったじゃん」 「うんうん。スマホ見ながら歩いてた人。僕たちの漫才を一瞬も見なかった人だ」 「そうそう。それそれ」 ハイボールの味が少し苦い 「その人が?」 「その人が仮面ライダーだった」 「マジで?」 「マジ。向こうの楽屋入って行ったから」 「ダメだろ」 「なんかいい人だったよ。昔はテレビとか映画にも出てたらしいよ。それこそ仮面ライダーで出たこともあるんだって」 「すごい人じゃん」 「そうなんだよ。あの映画の仮面ライダーで、昔の仮面ライダーがウジャウジャ出るときあるじゃん。あれ」 「へぇ。スーツアクターなのかな」 「さぁ分かんないけど」 ユウはウォーリーが何を考えているか分かっていた。ユウも同じ事を考えていた。ユウは舞台袖で大いに笑ったのでよく分かっていた。 エイトビード武さんは、あの環境でお客さんをドカドカ笑わせていた。 目の前のお客さんに話しかけるように笑わせていた。まるでお笑いで会話をしているような感じだった。 エイトビードさんがステージを降りるときは客席が埋まっていた。 二人はいつか俺たちも。と考えていた。
いつも通院している心療内科を訪れたら、待合室に、電信柱がいた。近所の路地に立っている電信柱だ。「どうしたのですか」「酔っ払いにおしっこをかけられたのです」確かこの電信柱は、いつも近所のイヌたちにおしっこをかけられているはずだが。電信柱はひどくふさぎ込んでいる。電信柱の心理はよくわからない。考えても仕方ないので、俺は目を閉じて、書きかけの遺書の内容を推敲することにした。
近所の高級マンションの駐車場で、若くてきれいなお姉さんが、車止めに腰かけて、仏頂面でタバコを吸っていた。お姉さんはじっと空を見上げていた。お姉さんの足元に、何かが落ちていることに気づいた。それはてるてる坊主だった。お姉さんは足でてるてる坊主をぐりぐりと踏んづけていた。だが表情は無表情で、てるてる坊主が憎いのか何なのかよくわからなかった。やがてお姉さんはタバコを吸い終えて、駐車場から立ち去り、高級マンションの中に入っていった。駐車場の地面には、潰されたてるてる坊主がへばりついていた。数日後、テレビを観ていたら、あのお姉さんがニュース番組に出演していた。お姉さんは、気象予報士だった。
小さな製糖工場で、一人の中年女性が働いている。目の前のベルトコンベヤーを、角砂糖が流れていく。彼女はそれを見つめている。ふいに、彼女は作業服の中の太ももに違和感を覚える。くすぐったい。彼女は唇を噛む。そのくすぐったさは、太ももから、腹を通り過ぎ、胸、そして首筋を経て、耳元に到達する。彼女の耳元には、一匹のアリがいる。アリは彼女の耳元で触角をしきりに動かす。それは何かを囁いているように見える。彼女は小さくうなずく。アリはそれを確認すると、彼女の背中を伝って床に降り、どこかへ消える。彼女は周りを見回し、誰も見ていないことを確かめると、ベルトコンベヤーを流れる角砂糖を一つ手に取り、ポケットにそれを突っ込む。休憩時間、彼女はそっと工場の裏庭に出る。その隅にはアリの巣がある。彼女は先ほどの角砂糖を、そのアリの巣の傍に置く。そしてとぼとぼと立ち去る。そのうちにさっきのアリが来て、角砂糖を巣へと運び込むだろう。それは女王アリのためだ。彼女は仕事を終え、ホームセンターに立ち寄る。そして殺虫剤売り場で、しばらく殺虫剤を見つめてから、何も買わずに帰宅する。
公園の公衆トイレに入ろうとした。入口に小さな看板が立っていた。『清掃中』そう書かれていた。中に入り、小便器の前に立った。ズボンのファスナーを下ろした。その時、背後に気配を感じた。振り返ると、ごつい鋏を持ったおばさんが立っていた。清掃員の格好をしていた。「それゴミですよね」おばさんは俺の股間を指さして言った。俺はしばらく考えて、ファスナーを下ろしたその状態のまま、おばさんの前に立った。おばさんは鋏を構えた。俺は深く息を吸った。そうだ。こんなもの、いっそのことゴミで出してしまった方がいいのだ。
お母さんが仕事に出かけた。私は今日も学校を仮病で休んだ。「ご飯作ってあるからあっためて食べなさい」お母さんはそう言って出ていった。何度かうとうとした後、やっと目が覚めた。台所に行くと、炊飯器の『保温』ランプが点っており、テーブルにはウィンナーと卵焼きが載った皿にラップがかけられていた。コンロには鍋が置かれていた。鍋の蓋を開ける。味噌汁が入っていた。傍らのお玉でかき混ぜる。人間の指が出てきた。今日の具も指か。飽きたな。そのうちの一本に、ごつい指輪がはめられていることに気づいた。下品な指だなぁ。指輪を外し、ポケットに入れる。これを売れば多少のお小遣いにはなるだろう。ご飯を食べたら、街へ出て、指輪を売ろう。仕方ないが、指輪のせいで出かける理由が出来てしまった。ご飯を茶碗によそい、味噌汁を椀に注ぐ。「いただきます」ウィンナーをかじる直前、そのウィンナーが、指ではないことを無意識のうちに確かめていた。
日曜日の早朝から起きているせいで、時計を見ては、まだこんな時間なのかと驚く。 明日、学校で歴史のテストがあるので、その予習を朝していた。 僕の癖でテストの予習は朝早く起きてする。色々試したがこのやり方が一番自分にあっている。17歳にして、朝早く公園で体操するお爺ちゃん達の気持ちが分かる気がしている。活動するなら朝が一番いい 勉強は一時間くらいで終わったので、一階に降りてみると、まだ母は帰っていなかった。 彼女の仕事は女優業で、言いにくいがアダルトな女優だ。若くから活躍していて、僕は母が体を削って稼いだお金で生活をしている。 他人がどう思うか知らないが、僕は母を尊敬している。 撮影が深夜になることも多く、時間が不規則なので朝帰りなどよくある事なのだ。昔からだそうだし、僕は小さい頃から一人で留守番している。一緒に留守番をする仲間もいたので淋しくはなかった。 留守番仲間兼、愛犬のココが既に起きていてご飯をくれと僕を急き立てる。 短い足を使い、ぴょんぴょんと跳ねて必死で僕の顔を見ながらワンワン言っている 彼女の言うことは大体分かる。 「ご飯をくれ」と「ママが帰ってきた」くらいしか言わない。 「一緒に留守番した仲じゃないか」とも言っているかもしれない ココにドッグフードを与え、ココ用の水を交換する。 昨晩作ったカレーが残っているので温めていると、ココが玄関に猛ダッシュで龍の様に走っていき、くるくると回りながら吠えている。 ガチャリと鍵の開く音がして母が顔を出す。「ただいま」 母はカレーを喜んで、おかわりまでして食べていた。彼女はお風呂に入った後そのまま寝室へ行ってしまった。きっと夜まで起きない。 ココは一仕事終えカーテンの下で寝ている。ビニールの音がすると跳ね起きて音の方を見るが、オヤツでないと分かると、また直ぐに寝てしまう。時計を見ると、まだ十時である。
そもそも構成力でAIに勝てるわけはないのだ。 僕は超人ではない。 告白してフラれて少し臆病になってるな。 世界の半分は女だ。 そもそも4~5人ほど出会いを逃している。 自業自得ね、と女神達が会合する。 何かうまく行かない(大体僕のせいだ) ボディタッチしてきたり彼女いないんですか?とか聞いてきたりパンツとか言ってきたり見つめてきたりそりゃ勘違いもするよ。 お前マジでキモいわ~とか正面で言われた方がまだ取っ掛かりあるよ(いや理論展開できる機転は利かないかもだが) のろけ終了。 基本的に抜けてるのでネジを留めてくれるドライバーのような娘が理想だ。 鋭いツッコミのあの娘は何処に行ったのだろうか? 恋愛。 犬小屋の犬の世話は御免よ、と皆言ってそうだ。 犬って意外と自給自足出来ない。 僕がアホなのでバランスよく賢い娘が寄ってくる。 狡猾で利用しようとしてくる奴もいる。 馬鹿でもいいから生活力が欲しい。 なんの話だっけ? 意外と裏で帳簿は合っているのかもしれない。 風呂場で歌うとオーディエンスの幻聴が聴こえる。 まだ需要がある。 カラオケの帰り死ねと言われる。 アンチあってのファン。 知り合いのレインメーカーは空き缶投げつけられることもある。 それがどうしたの?と言っている。 傷だらけの戦士。 僕は太陽を守れなかった。 でも替わりの戦士が現れてくれた。 なんの話だっけ? スケベは長生きするらしい。 スケベではあるが色々攻撃を喰らっている(気がする) 植物をむしらないようにしないと。 怒っている人達が怒らないように長生きしないと(出来なくても怒らないように世界を設定しないと) まずは不機嫌なあの娘の気持ちを分かってあげないと(ややストーカー気味) 犯罪者体質。 戦場では拷問官などが向いているかもしれない。 でも紙に描く、ことができればいいのだが体力がない。 引くくらい酷い内容の官能小説を書こうかしら? 戦争犯罪人の生まれ変わりかもしれない。 脳が変異しているかもしれない。 奴の親もシャブやって子供の脳が変異したのだろう。 治すのは医者ではなく市井の人間だ。 冗談で復讐の絵を描いたら現実になる。 復讐とか柄ではないのでやられてもやられっぱなし。 やられっぱなし過ぎてたまに大金星。 土俵際、苦手。 リングアウトでパイプ椅子で攻撃するのは得意。 搦め手。 デジタルツールを使って脳を拡張するのはいいけど代替パーツのボディーは中国製だ。 国産自動車メーカーはF1に全振りするだろう。 苛められているので助ける余裕がないのだ。 苛められっ子の集まりは意外な力を生む。 僕は花壇を眺める。 僕だって草をむしる。 植物を無駄に苛めた罰で今日も女子に総スカンを食らう。
親友であり幼馴染の華織が死んだ自殺だった。 原因は部活内での虐め。 九月一日二時丁度に飛び降りる華織を監視カメラが捉えていたそう。 華織の部屋に遺書が置いてあったらしい、その内の一つが私宛の手紙だった。 「命へ 何にも言えなくてごめん。 命のことだから何か出来ることがあったはずって、自分を責めるかもしれない。 でもそんなこと絶対にない。 命は何にも悪くない、命と話す時間は楽しかった。 命、今までありがとう、私の親友で幼馴染で、側にいてくれて、命といたこの十数年楽しくて、幸せだった。私の心の拠り所で本当にありがとう。 約束『おばあちゃんになっても一緒にいる』守れなくてごめん、命、大好きだよ、ありがとう。」 これを読んで華織が死んで初めて泣いた。 心のどこかで華織が死んだことを受け入れなかったのかもしれない。 それからバレーボール選手という夢を捨て、教師になった。 周りからは反対された。キャプテンになる予定もあるのに勿体無いと。 それでも教師になりたかった。 今年初めて担任を持つ、緊張しながらもドアを開け、教卓に立ち自己紹介をした。 「初めてまして1年4組の担任になった朝野命です。 趣味はバレー、女バレの顧問もしているので是非入部お願いします。嫌いなことは虐めです高校2年生の時、親友が自殺しました。」 「私は親友みたいに死んでしまう子を、私みたいに置いてかれてしまう子を、減らしたくて教師になりました。」 「どんなに些細なことでも良いです。 少しでも苦しい、辛い、そう思ったら周りの人達を頼ってください。 友達でも教師でも親でも誰かに相談して溜め込まないでください。 私はこのクラスが助け合えるクラスになって欲しいです。 長くなってしまいましたが私の自己紹介を終わります」 もうすぐ夏休みが終わり、二学期が始まる。 「命先生」 後ろから私が担任を務めているクラスの一瀬沙希が話かけてきた。 夏休みの間、バスケ部に一度も顔を出していなかったそう。 「一瀬さんどうしたの?」 「ちょっと相談したいことがあって」 話を聞けば部活で3年生を中心に嫌がらせを受けているらしい。 そういう子を減らしたいと思っていても、出来ることは本当に少ない、私にできる最善は、一瀬さんを死なせないこと。 今、私は何をするべき? 九月一日は一年で最も『子供の自殺』が多い日。
自分の部屋にカバンを置いて、すぐさま靴下を脱ぎたくなる。 素足がふれるフローリングの冷たさが、心地よく感じられる最初の日。 冬のあいだ、ひたすら遠ざけていた冷たさが、いまは驚くほど肌に馴染んで気持ちいい。 四月一日。 今日は、めいっぱいウソ言っちゃった。 軽快に、ひたすら軽快に。 それこそ、カレンダーをめくるくらい容易に言ってまわった。 そのことを、家のお犬さまに報告する。 ―わんわん、わわん、わん キミにはウソは言わないよ。 ―わわん、わんわんわん ウソじゃなくってね。
「すごいわね。また百点よ」 返ってきたテスト用紙に、もう感動することはなくなった。 なにせ、テストは百点までしかない。 どれだけ速く解こうが、どれだけ丁寧な字で解こうが、百点なのだ。 「百点なので、今回のお小遣いは一万円でーす」 だから、もうお小遣いが上がることはない。 取れて当たり前の百点。 絶対にとれない百一点。 もはや今、勉強を頑張ろうなんてモチベーションはなくなった。 「うちの子、昔は神童って呼ばれてたんですよ」 子供の頃のことを、両親は今でも懐かしそうに話す。 百点満点だった神童は、点数上限のない世界に放り出された瞬間、ただの凡人へと成り下がった。 テレビに映る、輝かしい経歴の持ち主たちを見るたび思う。 彼らはどうやって、百一点をとってきたのか。 彼らはどうやって、百一点をとる方法を見つけたのか。 もはや、考えても意味のないことなのだが。 一度きりの人生で、百一点をとるタイミングを、とっくに見逃してしまったのだから。
地震があった。 星にエネルギー波を食らわして願いの玉を揃えたのだろう。 山登りおじさんの生き返りは近い。
「フリーハグいかがですか?」 コンビニに行った帰り道、一人の女性が立っていた。 フリーハグの存在は知っている。 なんか、ハグしてくれるらしい。 「いいですか?」 「もちろんです」 名前も知らない人との、数秒間だけのハグ。 少しの緊張と、少しの温かみを感じた。 「ありがとうございます」 ぼくはそのまま彼女と別れ、会社に戻った。 どことなく、心がぽかぽかと温かかった。 「先輩お帰りなさい! バグ、三件増えました!」 「フリイイイイイバグウウウウウウウ!!!!」 温かい心のまま、体のエンジンを全力でぶん回す。 俺たちの徹夜はこれからだ。
作業所に行った。 辞めた。 無駄な仕事ばかりしている。 車が運転できて中学生程度の計算ができて配膳するだけで時給発生する仕事してる猿女に嫌がらせされるくらいなら家で小説書いてる方がましだ。 マジでメンタル中学生だな。 いや、今時あんなことして嫌がらせしてくる中学生は同級生からも相手にされないっつーか猿山に籠ってろ、市井に出てくんな。 ああいう仕事は海外の留学生のバイトにでもさせてテメーはババ専の風俗で稼いで性病になって厚労省の性病のデータ採ってもらってる方がお国のためになりますよ~。 悪口はここまで。 自分も病院で投薬してるのでデータ採ってる文化あの猿よりは役に立ってる。 マジで予算食い潰しているな。 地震があった。 データ採って予算俺に送れ。 妄想。
駅のホームのベンチで、電車を待っていた。隣におっさんが座っていた。くたびれたおっさんだった。ふいにおっさんが咳き込んだ。激しい咳だった。コロン。おっさんの口から、何か硬い物が飛び出てきて、コンクリートの床に落ちた。それは一発の銃弾だった。おっさんはそれを拾い上げた。うんざりした表情を浮かべていた。おっさんはしばらくその銃弾を手の中でもてあそんだ後、上着のポケットに突っ込んだ。そして、おもむろに、右手の指をピストルの形にして、自身のこめかみにあてがった。そこへ電車が来た。おっさんが「バキューン!」と言った気がしたが、電車の音でよくわからなかった。俺は立ち上がった。おっさんも立ち上がった。俺たちは電車に乗り込んだ。おっさんはいつの間にかマスクを着けていた。
煌びやかな街を闊歩する赤いドレスの女性がいた。 彼女は道行くひとが思わず振り返ってしまうような不思議な魅力をまとっていた。 彼女はすでに両手に7つの指輪を身に着けていたが、なおも満たされていない様子で何かを探していた。 女性が入ったのは行きつけの宝石店だった。 「お待ちしておりました。」 「お願いしていたもの、できてるかしら。」 「はい。46億年ものの最上級品です。 昼は美しい青と緑のコントラスト、夜は無数に輝く光をお楽しみいただけます。」 フフッ、女性の魔性の笑みに店員も思わずドキリとしてしまう。 「ありがと。これ、いただくわ。」 女性は慎重に、まるで赤子を撫でるかのように8つ目の指輪を手にすると、満足げに夜の闇へ吸い込まれていった。
1 乾燥機の扉を開くと、こつん、何かが落下した。 床を見遣ると、干乾びた雨粒と目が合った。 2 瞳孔で雨が降っている。 けれどそれに気付かぬまま、必死に鏡の中へと傘を差し出していた。 3 雨と戯れる、錆び付いた立看板。 ともすればその身の錆は酷くなりかねないが、無邪気に笑う彼等の姿にそっと視線を外した。 4 ポケットの中から、ぱきり、響いた微かな悲鳴。 スマートフォンを抜き取り中を弄ると、気の毒にも身体を割られた小さな雨粒に、仕返しとばかりに指先を刺された。 5 ぱちん、爪を切る。 じわり、雨が滲む。
「キャロルってさぁ、ずっとお爺ちゃんなの?」 先頭に、お爺ちゃん狸のキャロル その後ろにオオカミの子供ルイ その背中に少年のij が乗っていました 「若い頃の事など覚えとらん」 彼等は海の上を歩いています 海面のすぐ上に架かる橋を渡っています 古く硬い木で出来ていて、広く長い立派な橋です。 海は波がなく透き通っていて海底が覗けます。 欄干にいるカモメが海面を見つめています。 「やぁ、キャロル。久しぶりじゃないか」 「やぁ黒羽」 「急いだほうがいい、時期に嵐になる。」 「分かっておる」 キャロルの後ろを歩くルイがききます 「黒羽さん、キャロルの若い頃を知ってますか?」 「やぁこんにちは。オオカミくん。キャロルは俺の子供の頃からお爺ちゃんだ」 「やっぱり!」 ルイとij は笑いました。 黒羽さんも笑いました。 キャロルは鼻を鳴らしただけで「先を急ぐぞ」と黒羽さんに別れを告げました 〜旅の記録、海の橋にて〜
いつの間にか咲いた桜の花を見て、立ち止まることはなくなった。それでもほんの一瞬、風が鼻先から服の裾を通り過ぎるくらいの時間、左足が宙に浮いたままになり、視線は頭上の景色を逃さず、頭には思い出したくない顔が浮かぶ。桜の色が連れてくる鮮明なその画を木の下に置いて、逃げるように歩みを早める。 呼吸が少し浅くなる。また来年も咲くのだろうか。
海を漂う沈没船が一隻。 人魚姫が船に近づくと、人間の王子様が海にぷかぷかと浮いていました。 人魚姫は王子様を陸地まで引っ張っていき、その命を救いました。 目を覚ました王子様は、命が助かった奇跡に感謝し、自分を助けてくれただろう人間を探しました。 「私を救ってくれた者に、褒美をとらせる!」 だいたい五百人くらいの人が手を上げました。 しかし、王子様は誰の言葉も信用しませんでした。 王子様はうっすらと、助けられた時に自分に触れた手の感覚を覚えていたのです。 人魚姫はと言えば、とても王子様の前に出ることはできませんでした。 人魚姫は、体の半分が魚。 人間と共に生きるなど、世界が許してくれません。 「人間になりたいかい? 人魚姫」 悲しむ人魚姫の元に、一人の魔女がやってきました。 ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべて、怪しげな薬を差し出してきます。 「この薬は、人魚を人間にする薬だ。代わりに、声を失うがね」 人魚姫は、躊躇わずに薬を飲みました。 しかし、人魚姫の体は変わりませんでした。 「嘘ぴょん!」 魔女は大笑いした後、どこかへ行きました。 人魚姫の不運は続きます。 なんと、王子様の元に王子様を助けたと名乗る五百一人目が来たのです。 その女は、麗しい隣国の王女様でした。 「おお。この手の感触、覚えている。そなたが私を助けてくれたのか」 王子様は、王女の手を取り、言いました。 「はい。たまたま海を散歩しているとき、遭難している船を見つけまして。ご無事でよかったです」 王女様は、王子様の手を握り返し、にっこりと微笑みました。 もちろん、王女様の言葉は嘘。 泳げないし助けてないけど、隣国の王子様と結婚すれば国の繋がりも安泰で、王子様もイケメンだったので、そういうことにしました。 王子様と王女様の結婚式は、盛大に行われました。 人魚姫は、海の隅っこで、盛大なお祝いの盛り上がりを聞いていました。 「私は何も望みません。王子様が幸せにさえなってくれれば」 人魚姫は、一人涙を零しながら祝福をしました。 もちろん嘘。 嘘をついた王女様のことが、憎くて憎くて仕方ありませんでした。 結婚式を終えた王子様と王女様は、結婚の記念に船で旅行へと出かけました。 天気は晴天。 絶好の船出日和。 船は安全に、大海原へと飛び出しました。 そこへ、人魚姫が海から船の底に近づいて、船に穴をあけてしまいました。 船は海に浮かび続けることができず、ずぶずぶと沈んでいきます。 「誰か、助けてくれ!」 「助けてー!」 人魚姫は、海で溺れる二人に近づいて、王女様に問いかけました。 「本当に、貴女が王子様を救ったのですか? 本当のことを言ったら助けてあげます」 「ごめんなさい! 嘘をつきました!」 生き残りたい王女様は、必死で人魚姫に叫びます。 人魚姫はにっこり微笑んで、王女様の伸ばした手をはたき落します。 「謝らないで。私も嘘をついたから、お互い様」 王女様は絶望の表情のまま、海の底へと沈んでいきました。 人魚姫は、次に王子様の方を見ます。 「助かりたいのなら、この手を取ってください」 人魚姫は、王子様には何も求めませんでした。 王子様は人魚姫の言葉が本当かどうか悩みながら、結局手を取りました。 人魚姫は、王子様の体を陸地まで引っ張っていきました。 陸に上がった王子様は、人魚姫に尋ねました。 「どうして私を助けてくれたのか」 人魚姫は答えました。 「貴方だけが、私に嘘をつきませんでした」 人魚姫はそのまま海に潜ってしまいました。 二度と王子様の元には現れませんでした。 「嘘つき」 魔女は、嘘をついていました。 魔女が人魚姫に渡した薬は、人魚を人間にしません。 魔女が人魚姫に渡した薬は、人魚から声を奪いません。 人魚を泡へ変える薬でした。 人魚姫は海の底で、その体を泡に変えて消えました。 海の表面に、小さな泡が浮かんでは、パチンと割れて消えていきます。 王子様は長い間、海に住んでいるだろう人魚姫を探させました。 しかし、ついに見つかることはありませんでした。 王子様の心は、人魚姫に捕らわれたまま。 「嘘つき」 陸地に戻った後も、王子様の心は海に残ったまま。 王子様は二度と妃をとらず、その生涯を終えました。
パチンコはやらないが(何か知り合いにやって儲けてそうと言われた)その喫煙所にいたお兄さんと話す。 今日は女の子に嫌われたかもしれないと話すと笑いながらどうしたのと?言われる。 何か都心の郊外で農業の仕事やるのは最先端らしいんですけどね、人手が足りなくて、と言う。 お兄さんは奥さんを連れて何処かに行く。 今日もご飯を食べられるのがありがたい。 近所の隣家では子供がはしゃいでいる声がする。 これで朝鶏でも鳴けば風情が出るなぁ、と思う。 何か今日は花粉症にでもなったのか鼻がズビズビ止まらない。 体調はいつも悪いのだが皆悪いのだと言い聞かせる。 弱っているのは身体ではなく心なのかもしれない。 コロナワクチンを打ったせいで脳がアナログとデジタルの中間の中国人みたいな思考になっちゃってる気がするんですよね、とお兄さんに言った。 まあ中国人になっちゃってもいいんだけど、と知り合いに言うと目指せ中国化、と言われる。 料理と武術と哲学の得意な中国人になりたい。 心は優しいままで。 漢民族は元々農耕民族なので農業をやるにはいいかもしれない。 まずは土作りから。 台湾の知り合いに手作りのお弁当を見せたらいい嫁来るよ、と笑顔で言われた。 中国の知り合い増やしたい。 団地で秋葉原の電器店に寄ってきてマイナンバー作りたいんだけど、と言ってきたあの中国の人はあの辺に住んでるんだ、と言っていた。 新宿の華僑のお店の中華屋さんで知り合いと飯を食い、美味しかったです、と言ったら笑顔で返してくれた。 環境なのか遺伝なのかは知らないけどちょっと前頭葉の機能が弱いです、と言われた。 今漢民族というかいわゆる中国人と言われる人達は遺伝子プールが片寄っちゃって前頭葉の機能が弱まっちゃってるらしい。 キレやすいのはそのためかもしれない。 ゴミ拾って列にならんで万引きしないで風呂入って歯磨いて歯医者行って電車では静かにしていて悪い事したら謝ってでも家では他人の悪口を言って歌歌ってゴミ出しして挨拶して落ちてる財布届けて交通ルール守ってちょっと帰り際自転車でながら煙草してたらチン!って言われて反省してでも煙草やめられなくてお酒飲まないで教会通ってモスク行ってヒンドゥー教の寺院も行かなきゃと思っていて社会性って習慣だよな、と思って歌を誉められて僕はちゃんと生活出来てるだろうか?と自問自答する。 今日も夜はふける。
カレンダーをめくる指が軽く感じられる春四月。 まだ少し空気は冷たいけれど、朝の光にまじる色は、 昨日までとは、どこか違っていて。 ―やっとはじまるね 思わずついたそんなひとり言に、今日の風はやさしいけれど、 街は、まだ半分、青みがかっている。 埋もれたままの景色は、春先の眠気からさめないご様子。 春物のコートに袖を通す、おそらく最後の日。 手放すべきものを脱ぎ去ってしまえば、 季節は確実に動いていく。 踏み出すことの怖さ。 進んでいくことの楽しさ。 今日が、何かのはじまりになればいい。 忘れていくための春を、今日からはじめる。
私は「カイコ」という生き物らしい。いつもくわの葉を与えてくれるあなたが、誰かとそう話しているのを聞いたことがある。 カイコは、美しい純白の羽を持つという。確かに私の身体は白いけれど、羽なんて無いし、なんだかうねうねしている。 私にもいつか、羽が生えるかな。 大きくなれよ、とあなたの声。 私、きっと大きくなるね。 返事ができないのがもどかしい。 生まれてから一度だけ、くわの葉をくれるあなたの指に触れたことがある。 あなたはすぐに引っ込めたその手を、その温度を、どうしても忘れられない。 その指は、触れるとちりちりと皮膚が燃えるように熱かった。多分、ずっと触っていると、焼けて死んでしまうんだろう、と思う。 でもその時、他に感じたことのない温かさを覚えてしまった。 仲間といくら身を寄せ合っても、桑の葉をお腹いっぱい囓ろうとも。どんなに満たされた気分でも、あの焦がれるような熱には遠く及ばない。 いつか、またその手に触れられたなら。その温度に包まれたなら。 私は、その熱で燃えて、溶けて、死んでしまってもかまわない。 いつか私に羽が生えたなら、迷わずあなたの所へ飛んでいこう。 なんだか最近、身体が重い。たくさん食べて、何度も脱皮して、ふくふく大きくなったからかな。 疲れてきたら、背中を反らせてのびをする。こうすると少し、重い身体が気にならないから。 少し時間が経ったかな。身体がむずむずしてきて、たまらず糸をはく。真っ白で、か細くて、弱々しい糸。 そういえば、いつかあなたが言ってたっけ。カイコは繭にこもって、それから羽が生えるんだ、って。 たくさんはいた糸を、くるくる身体に巻いてみる。なるほど、確かに心地良いかも。 巻いて巻いて、だんだん外も見えなくなってきた。少し眠くなってきて、できたての繭のベッドでまるくなる。 疲れと、安らぎと、少しの誇らしさを胸に抱いて、うとうと目を閉じる。 目が覚めたら、羽が生えてるといいな。 それから私は、長い眠りについた。 やっと生えた、大きくて美しい、真っ白な羽。ひらひら空を舞って、迷わずあなたの元へ。 大きくなった私を見て、差し出されたあなたの両の手のひら。嬉しそうに、手に乗った私を包んでくれる。 ああ、この熱だ、この温度だ。ずっと、こうして触れたかった。やっと叶ったんだ。 でも、初めて触れた時の指先なんて忘れてしまうほど、焼けるように熱い。本当に身体が溶けていくみたいだ。あつい、あつい、あつい。 でも、待ち望んだ願いが叶ったことが、それだけが、たまらなくうれしい。 ぐらぐら茹だるような熱に浮かされ、考えがまとまらなくなっていく。意識が遠のいていく。 きっと、あなたの手の中で迎える最期。 なんだか、夢を見ているみたいだ。 ◆ 今日は、繭になって数日経った蚕たちを煮て、絹糸を採る。 湯気の立つ白い山の中から、一匹分の繭を手に取る。真っ白で、繊細な、生命の結晶。 美しいそれを手のひらに乗せると、一生懸命に葉を囓り、あっという間に大きくなった愛らしい幼虫たちを思い出す。 この子たちは、どんな思いで生きたんだろう。最期の瞬間は辛かっただろうか、苦しかっただろうか。堂々巡りの問いを、頭の中で反芻する。その答えは、目の前の蚕たちしか知り得ない。 せめて安らかに、美しい織物として、その生涯よりうんと長い間、大切にされることを祈る。 手のひらの繭を、優しく包み込んで。
創作物を感じ取るためには、額縁が必要だ 『ジャンル』という名の額縁が無ければ 人間は作品を消化しきれない 創作物を生み出すためには 額縁を破壊しなくてはならない 『ジャンル』に囚われると、表現方法に囚われる そして、発想の機会を枯らしてしまう 額縁とは、契約 額縁とは、人間の興味にとっての入り口 額縁とは、作家にとっての〆マーク (完)
部屋でスマホを見ていたら、いつの間にか外が暗くなっていた。現代社会では、経験したことがある人も多いだろう。1本1分で終わる動画でも60本見れば1時間の無駄遣いだ。1つのコンテンツを消費するのにかかる時間が少なければ、結果的に意味のない時間が過ぎても満足する。だから、30分のアニメを1.5倍速にして鑑賞したりする。ふと壁にかかった時計に目をやると、短針が11と12の間にある。 そうやってベッドの上の休日が終わる。そう、これは俺自身の話だ。 俺──青山は地元の高校を卒業して2年、アルバイトをしながら趣味で絵を描いている普通のフリーターだ。とはいっても、さっき話した通りバイトが休みの日は一日中ゴロゴロして、気が向いたら地元の友人と遊びに出かけている。 バイトの日も、ギリギリまで寝てるし終わった後もやりきった感を出して後は何もしない。じゃあ、趣味の絵描きって何かって? 月1くらいで筆を握って、キャンバスの上に子どもの落書きみたいな絵を描いてSNSにあげてるだけ。ずっとスマホばっか見てて頭がおかしくなりそうなときに、気晴らしに筆を走らせてるだけ。絵を描くのは嫌いじゃないから、それを趣味って呼んでるだけ。『#アナログ画』くらいつけてみて、ハートの横に1でも数字がつけば少し嬉しい、それだけ。 けど最近、少しだけ絵を描くモチベーションが上がってきている。フォロワーが1人増えたのだ。たかが1人、だけど俺にとっては大きな1。俺の絵に、 「誰にもマネできない筆の動きと色使い、見ていてとても楽しい気持ちになる絵です」 なんて言って必ず『いいね』をつけてくれる。 だから、今日もバイト前に筆を進めてから家を出た。ネタに困って一番最初に目に入った、部屋にある、なんてことないアナログの壁掛け時計の絵だ。 バイト先は近所の銭湯。主に清掃業務を担当していて、大浴場から休憩スペースまで、館内をせわしなく動き回る。仕事が一巡したら最初から…… 一番汗を流したいのは俺だ、と思いながらも接客は避けたいからフロントは嫌だし、暇する心配はないから性に合ってはいる。 3時間動き続け、1時間の休憩に入る。SNSを見て、自分の投稿を少しさかのぼっていたら、後ろから声がした。 「あ、あの、それ、ブルマさんの絵ですよね……」 驚いて振り返ると、ペットボトルを握りながら「あ、のぞき見したわけじゃなくて……」と慌てた様子でいるメガネの女性が立っていた。赤石だ。 彼女は同い年で大学生。バイト仲間だが、俺と違ってフロントメインだから仕事が被ることはほとんどなかった。彼女は休憩室に来ると誰とも話さず机に伏しているから、挨拶以外の言葉を交わすこともなかった。 「たまたま、たまたま視界に入っちゃったんです!青山さんのスマホ。そしたら、私が最近好きな絵師さんの絵が見えて、それでその、思わず声を……」 彼女は早口で必死に言い訳を口にしている。ほんの少し気圧される俺。しかし、大事なことは聞き逃さなかった。 「今、好きな絵師って言いましたか?もしかして、ブルマのことですか?」 「あっ、は、はい。ブルマさんです……。もしかして、青山さんもブルマさんを……」 聞き間違いではないかった。今目の前にいるのは、ほかでもない俺のファンだ。今まで誰かにSNSをやっているなんて言ったことなかったが、急な展開に俺の勢いは止まらなくなっていた。彼女にスマホの画面を見せ言い放つ。 「俺です!そのブルマ、俺なんです!」 2人の間の時間が一瞬止まる。少し離れたところで、俺の声だけ聞こえたパートのおばちゃんの時間がもう少し長く止まる。 この瞬間、交わるはずのなかった2つの色が混ざり、新しい色で物語を描き始めた。
「なんか私……今日調子良いかも!うん!今ならなんでも出来る気がする!もうほんとうに、戦車に体当たりとかしても生きてる気がする!だって私最強だから!!」 床に落ちていたレゴブロックを裸足で踏む数秒前の妹のセリフ。 数秒後の様子は言わずもがな。 さながら即落ち2コマのようだった。
旧校舎の一室。 お化けでも出そうな雰囲気から、普段は誰も近寄らないこの部屋に、三人の男子生徒が集まっていた。 佐藤、鈴木、そして高橋である。 「テーマはさっき話した通り。どうすれば、俺たちにラッキースケベが起こるか、ということだ」 真剣な目つきで、佐藤が言う。 同意をするように、鈴木と高橋が頷く。 三人はしばし頭をひねり、その理由を考える。 しばらくすると、鈴木が挙手し、口を開く。 「漫画やアニメだと、登校中に可愛い女の子とぶつかって、その勢いでラッキースケベが起こる、というのがセオリーだ。登校の回数を増やしてみる、というのはどうだ?例えば、学校が休みの日も、学校に登校するとか」 「鈴木!お前は天才か!?」 「いやまて佐藤。鈴木の提案には、致命的な欠点がある!」 拍手をする佐藤に、高橋が待ったをかける。 「休みの日はな、可愛い女の子が登校していないということだ。だから、ぶつかることができない!」 「「た、確かに!!」」 議論は白熱する。 次々と現れる、漫画やアニメのセオリー。 そして、現実に当てはめた瞬間、実現不可能だという残酷な現実にぶつかる。 有益な案が出ないまま、一時間が経過した。 「馬鹿な……ここまで考えても……駄目なのか……」 突風でスカートが捲りあがる。 女の子が転んでスカートの中が見える。 階段を見上げたらスカートの中が見える。 制服が水にぬれてスケスケになる。 あらゆる状況が、所詮は漫画やアニメのことだと切り捨てられていく。 「なあ、おかしくないか?」 高橋が、神妙な表情でつぶやく。 佐藤と鈴木は、そのただならない様子に、ごくりと唾を飲み込む。 「あまりにも、完璧に防がれすぎている。何か……俺たちにラッキースケベをさせない、大いなる力が働いているのではないか?」 あまりにも突拍子もない想像。 だが、佐藤も鈴木も、それを笑い飛ばすことはできなかった。 大いなる力など信じないが、大いなる力が働いているとしか考えられないほどの、ラッキースケベの防止力が現実として働いているのだから。 「いったい……」 「どんな力が……」 「女子の純粋な努力だよ!!あんたらみたいなやつがいるからな!!」 叫び声と共に、部屋の扉が乱暴に開かれた。 逆光によって三人から顔は見えないが、そのセーラー服から、女子生徒であることはわかった。 その女子生徒は、間髪入れずに三人のところへ走り、その顔面に蹴りを喰らわせる。 「げふっ」 「がふっ」 「見え……ない……」 漫画やアニメならば、蹴られた瞬間にスカートの中が見えただろう。 だが、ここは現実。 大いなる力によって……否、スカートを抑えながら蹴りを繰り出すという女子生徒の純粋な努力によって、ラッキースケベは回避された。 「んっとに、この変態どもは!!」 罵声一つ残し、女子生徒は去っていった。
夏の朝だった。爽やかに晴れた青空の真ん中に、小さな雲が一つ、ぽつんと浮かんでいた。「あの雲がなければ、『雲一つない快晴』なのに」そう思っていたら、その雲に向かって、何か白い生き物が、空中を歩いて近づいていった。それは一匹のイヌだった。「あっ」そしてよく見ると、その子は、去年死んだ我が家の飼いイヌだった。その子は雲に近づくと、雲を口にくわえて、私をちらりと見て、また空中をとことこと歩き去っていった。相変わらず気が利く子だ。私は病室のベッドの上で、いつまでも、雲一つなくなった青空を眺めていた。
伯父が経営している牧場を訪ねた。大学に合格したので、報告がてら久々に会いに行ったのだ。伯父の牧場では、ラブホテルを飼育している。父はそのことで伯父と疎遠になったと聞いている。伯父はちょうど子どものラブホテルたちに、餌を与えていた。「久しぶり」「おう」「大学受かったよ」「おめでとう」子どもラブホテルたちがわらわらと餌を食べている。伯父が撒いている餌は、ピンク色の粒だった。「その餌って何なの?」「人間の愛をハチミツで固めた物だよ」「ふうん」子どもラブホテルたちの小さな電飾が輝いている。喜んでいるのだ。「彼女いるのか?」「いないよ」「大学で出来るといいな」「まぁね」二年後のある夜、僕は初めて出来た恋人とともに、大学から数駅離れた街のラブホテルに入った。手をつないで部屋に入る直前、暗い廊下の床に何かが落ちていた。それは、あのピンクの粒だった。「どうしたの?」「何でもない」僕はそれをズボンのポケットに突っ込み、部屋のドアを開けた。
夜中に眠れないのでテレビをつけたら、通販番組が流れていた。赤ん坊が売られていた。清潔な印象の司会者が叫ぶ。「実はこの赤ん坊、泣きません!」スタジオのタレントたちや観覧者たちが歓声を上げる。俺は画面を見つめる。タレントたちは、赤ん坊が泣くことでどんなに困っていたかを口々に話し始める。俺は前にこの通販番組を通して買った赤ん坊のことを思い出す。確かによく泣いていた。昔に比べれば泣いていない方だったが、確かに泣いてはいた。だが、困っていたっけ。泣いていたが、楽しかった気がする。結局殺してしまったが、それは泣くこととは関係なかったし。俺はテレビを消した。そしてスマホで、買い物のアプリを開き、泣くタイプの赤ん坊を検索し始めた。
私の宝物は、思い出の中でいつもぼんやりとした顔をしている。 はじめて抱き締めたとき、この子を守らないとって思った。 ずっと、守ってあげる側だと思っていた。 だけど、私の誕生日に花を渡してくれたとき、私の方がこの子にずっと守られていたんだと気づいた。 息子は、強く育ってくれた。 強くなんて、ならなくてもよかったのに。 「俺たちは、彼に救われました」 生還した旅の仲間は、そう言った。 その言葉を、うまく受け取ることができなかった。 涙は出なかった。 勇者として旅に出たときから、覚悟だけはしていた。 どこかで、あれが最後だとわかっていたのだ。 平和な世界でみんなに笑顔でいてほしい、と。 そう言った彼を引き留めることはできなかった。 だって、好きなように生きなさいと教えたのは私なんだから。 ありがとうなんて、きれいな言葉は出せなかった。 でも、取り乱して八つ当たりすることもできなかった。 「どうか、息子を忘れないであげてください」 自分のその言葉は、ひどくむなしく響いた。 あれから時が流れ、息子が倒れた城はもう観光地になっている。 賑やかなその場所には、もう戦いの気配もない。 突然魔物に襲われる恐怖に、怯える人もいない。 それはきっと、何よりも彼が望んでいたこと。 なのに、私は息子の望みを叶えてあげられない。 彼がいない平和な世界を、笑って過ごすことができない。 私はただ、花束をひっそりと置いていく。 そこに確かに、愛された命があると示し続ける。 だけど、その花が枯れていくのを見るたび、かえって悲しくなる。 この花はいったい、誰のために捧げているのだろう。
金曜日の放課後が好きだった。 これから始まる休日に思いを馳せ、夜を堪能するあの時間が。 旅行は計画を立てるのが一番好きだった。 一度、旅が始まってしまうとどうしても終わることを考えてしまう。 楽しければ楽しいほど終わりを受け入れるのが辛くなる。 ならば最初から楽しくなければよいのだろうか。 否、人はみな楽しみなしでは生きられない。 たとへ何度も終わりの絶望に打ちひしがれたとしても次の楽しみに向かっていきたい。 本当の最後を迎えたときに後悔がないように。
時計の針が、見えない音を立てている、そんな深い夜。 ハンドドリップの音だけが、部屋の静寂をかき混ぜている。 あせっているのか、お天気にあせらされているのか。 あせる必要なんて、何もないのに。 窓をたたく雨の、その余韻に、かき乱される頭のなか。 「またよ」 「何が?」 「また、雨の匂いがするの」 いけない、いけない。 そそいだばかりの珈琲のなかで、やさしい湯気が立ちあがり、そして消えていく。 それを、じっと見つめていることしかできない。 輪郭を失っていく湯気たちのように、私の気持ちもはかなく、黒い珈琲の底へと落ちていく。 「ダメなの?」 心配そうなキイの声がして、となりを見る。 やわらかい表情で、私を見つめている。 その視線にふれた瞬間、張りつめていた糸が、ふっとゆるむ。 夜の静けさが、キイと私のふたりだけの世界を、つつみこんでいた。 「珈琲の香りに、雨の匂いがまざっちゃうから」 キイの表情が、ふっと軽くなる。 となりにキイがいることで、いくらかでも、その不安が抑えられていたかもしれない。 あたたかくて、けれど苦い珈琲の余韻と、キイのぬくもりと、わずかに残る安心と… いけない、いけない。 やっぱり、珈琲をじっと見つめていることしか、できないみたい。
夜中、起こされる 月明かりが耳元でささやいて わたしを起こす 外を歩いている人の話し声がほとんどない冬の夜は しずかで好きだ、心細いけれど ときどきある話し声には 心構えができていなくって体の震えが止まらない そんなわたしに月の明かりはやわらかい 月は、わたしの側についてくれる 太陽のように厳しさや激しさがなくって ハチミツみたいなとろける甘さで わたしをつつんでくれる 月は、わたしのはなしをちゃんと聞いてくれる 太陽のように、聞く耳持たん、と いっさいをきっちり退けるのでもなく 鎧を身につけてもいなければ、王冠をいただいてもいない カーテンからこぼれている明かりが弱くなって 月が、さよならを言ってくる あしたもきっと会えるはずなのに 会える 会えるよね 願ってしまう
最近神様が降りてこない。 キリスト教の神は答えてくれない。 八百万の神の声は前に聞こえた。 あれも万能ではない。 文字の羅列。 自分を神にしたい人が多い。 王様や女王様は家に引きこもりがちだ。 神ってるアイドルは偶像崇拝を禁止する宗教から狙われそうだ。 アイドルアニメを観ていた。 そもそも神様の声が聞こえるなんて奇跡なのだ。 子供には聞こえているかもしれない。 聞こえたと言ったらほくそえんでいる子供がいた。 あの子は聞こえているのかもしれない。 ライセンスと言うか資格がいるのかもしれない。 金を金塊に変える作業は知り合いに任せとこう。 あれは機械を作るときに必要だからだ。 神様はキャパシティ一杯に働いても全ては見通せないのかもしれない。 神様色々いる。 仏のほっとけ。 文字に執着しているかもしれない。 武野のにt5jksjvpsj。 適当に打つとおじいちゃんの名字が出た。 神が降りたかな? 偶然によって世界は周りそしてまた戻ってくる。 意味ないことして意味を宿す。 今日は何かを出来た気がする。
塗り絵の展示会に、息子を連れて行った時のこと。二羽の鳥が優雅に空を羽ばたいている様子の絵がいくつか展示されていた。同じ絵でも塗り手によって、鳥の体や羽の色がそれぞれに違った。中でも羽を虹色に塗った作品に私は目を奪われた。見惚れている私の横で息子は言った。「七面鳥の脱走かな」
雨の降る午後。 暇だから自慰行為でもしようかな~と非生産的なことばかり考える。 ポルノ中毒になっちゃうからいかんなぁ、と思いYouTubeで映画でも観ようかしら、と思う。 何か日本の時代劇とか海外のハリウッドとか韓流の恋愛映画とか色々ある。 ゲーム機もほっぽらかしてやる気しない。 元来怠け者なのだ。 ウァァ僕は何をしても中途半端だ。 本を読むんだ、と知り合いに言われ本を1ページだけ読む。 続かない。 ガールズバーにでも行って話してたい。 中年になってから人恋しくなる。 元カノはハムスターを飼っている。 僕は世界の端で(そもそも中心であったとしても端っこにいこうとする)ひっそりとしている。 家のお花を眺める。 素敵ね、と一人言う。 ウフフ、僕気持ち悪い。 これはモテないなぁ、と思う。 月1回の美容院。 月数回のカラオケ。 知り合いが風俗で性病にかかる。 僕は不眠症でも9時間眠れる。 不眠症になる前は14時間眠っていた。 僕は蝉か。 空蝉。 空蝉法師。 ミンミン。 ツクツク。 突く突く。 言葉の羅列。 女子高生でも見に電車乗ろうかしら。 犯罪者の目。 私人逮捕系YouTuberの餌食になりそうだ。 六本木の電車の帰りに女子中学生が眠ってもたれ掛かってきたので急いで席を離れる。 誤解されたら留置場だ。 タイツを見せてきた娘は隙がありそうでない。 今年の元旦に猫を見た。 スパイの猫。 猫耳ってダニがいそうだ。 ご飯まで少し時間がある。 雨の日は犬も猫も動きづらそうだ。
昨日、友人の賢治に食事に誘われた。 なんでも先輩に紹介された店だそうで賢治自身も初めて行くらしく、一人で行く勇気がないからという理由で半ば無理やり連れて行かれる事になった。 まあ、僕としてはタダ飯が食えるのなら何でもいい。 カーナビの地図にも場所ははいっていないらしく、先輩からもらった情報を頼りに店へ向かった。 その店はひっそりと山の奥にあった。 入口には小さな看板が立てかけられていて、注意書きが書かれている。 『・当店は回転率命で営業しております。 ・2名様限定です。 ・危険物(ネックレス等)は外してください。』 僕達は首を傾げた。 まあ、店長の遊び心だろうという考察に落ち着いてとりあえず店内に入ることにした。 店員さんに案内された席は個室になっていて、丸テーブルがあった。 「雰囲気ある店だな。」 「確かに。それにしても俺を連れて来といて良かったな。2人じゃないと入れないみたいだし。」 僕達は話をしながら待っていたが、一向にメニューもお冷も出てこない。 流石におかしいと思い、店員さんを呼ぶために立ち上がると、急に立ち眩みが襲ってきた。 周りの景色がぐるぐるまわっているような感覚があり、段々と意識が遠のいて行くのを感じた。 店の中は和気あいあいとした雰囲気に包まれ、家族の会話が聞こえる。 「ボク、それ食べたい!!」 「大学生の活け造りはまだお前には早いだろう。」 そう言うと父親らしき巨人はレーンを回ってきた皿を取った。 彼はネタを口へ運ぼうとして留まる。 「おい!こいつら金属を身に着けているぞ。怪我したらどうするんだ!」 父親が店員に怒鳴りつける。 「すみません。最近、文字を読めないニンゲンが増えているようで。」 店員はペコペコお辞儀をしたあとに、ため息をつき、不良品のニンゲンを店の入口へ捨てに向かった。