ここは新しい世界《ニューワールド》なぜここがそう呼ばれているかは分からない。 ここは全ての欲望が叶う素敵な場所。どこかに行きたい時も、何かが欲しい時も、全部叶う素敵な場所。 だけどこの場所には秘密がある。 街の中心部にある《ニューワールドタワー》と呼ばれる空まで届くような高い塔の地下にはどんな欲望があったとしても絶対に入れないんだ。 そこに入れるのはそこの管理員ただ1人。 そこの管理員はみんな虚ろな顔をしている。こんなに素晴らしい世界の何がそんな顔にさせるのだろう。 僕はそれが気になって気になってしょうがなかった。だから僕も管理員になったんだ。 大人はみんな「ありがとう」とか「偉いね」って言ってくれるから管理員ってのはとても素敵な仕事に違いない。 管理員用のエレベーターを使って《ニューワールドタワー》の地下へ行く。 “B10”と言う名前がついたその場所でエレベーターをおり、その先にある部屋に入った。 そこにはたくさんの機械があった。 本で見た事のある“スーパーコンピューター”というものによく似ている。 僕はそれらをながめながら部屋の奥へと進んでいく。 すると、ごちゃごちゃしていて作業する場所だけが開けてる机があった。 それを片付けないといけないのか…と思いここを片付けて、と“お願い”してみる。 だけどいつものように勝手に片付いてはくれない。 僕は仕方なく自分で片付けることにした。 しばらくすると一通り片付いて来た。 最後に積み重ねられた本の分類をして戻したら終わりだ。 僕はふとその中の1冊に目が向いた。 『ニューワールド取扱説明書:管理員用』と書かれたその本を取り出し、パラパラとめくる。 概要と要約 ・この世界の住人はAIプログラムを有した有知能性無生物である。 ・《ニューワールド》とは、旧日本警視庁が発案、制作した犯罪者更生装置である。 ・この世界は1人の犯罪者の更生のための施設だ。管理員はこの世界を管理しつつその1人を監視し、この世界の秘密に気付いた時は速やかに排除せよ。 ・このことは口外禁止である。 僕はその本をそっとしまい、何事も無かったかのように作業に戻る。 僕は違う。僕は違う。僕は違う。僕は違う。 「あっ」 動揺が仕事に影響する。 大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫だ。 僕は違うのだから。 その日の仕事を終わらせ再びエレベーターに乗る。 “B10”から動き始めたエレベーターは存在しないはずの“B3”で止まる。 そして1人の男が乗り込み、バンッ!という音がして僕は死んだ。 目を覚ますとそこは病院のベッドだった。 なんだ、助かったのか、と自分の手を見た。 そこにあった手は見慣れた子供の手ではなく汚くてゴツゴツした大人の手だった。 困惑しているとそこに1人の警官が来た。 その警官が言う、自分がしたことが実感出来たか?と。 僕は人殺しらしい。 《ニューワールド》は犯罪者を更生させるという名目の元で作られた報復のための世界。 犯罪者は自身が殺した人と同じ死に方をしてこの世界へ戻るらしい。 よりその被害者に近付けるために被験者である犯罪者の記憶は消されてしまうようだ。 警官の質問に僕は答える。 いいや、なにも。 そう、僕は実感なんてしなかった。 僕には記憶がある。 僕は誰も殺さなかった。 だから殺された実感を味わう意味が無い。 警官はその答えを聞いて、そうか、今回も失敗か。とだけつぶやき部屋を出ようと立ち上がった。 僕は“お願い”をした。僕を犯罪者にして見せて、と。 警官は死んだ。 やはりこの世界の外なんて存在しなかった。 《オールドワールド》などもう消えてしまったのだ。 僕は再び“お願い”をした。 今度はそう、《オールドワールド》に戻して、と。 一瞬だけ意識を失い、次に目覚めると 僕は死んでいた。
夜のダンシング・スタジオ 貴方には見せない、もう一つの仮面 全ては貴方と優雅に踊るダンシング・ショーのために 鏡張りの壁と睨め合う私 蒸れたシャツを脱ぎ替え、夜の街の空気を浴びる つくづく思う。この街の人間は金平糖なのだと 何も知らない、知らされない金平糖たち どれだけ社会に転がされてきたことか 互いを傷つけるための棘しか育てない愚者たち そんな私たちの人影を縫うように歴史が生まれていく… そんな世界の中の こんな街の中の住人 今の想いをダンスでただ表現したかった 金平糖が熱で溶けるように 私の運命がダンス・ステージのスポットライトで溶けるように いつまでもアリを呼び続ける (完)
明日は月曜日。 平日だ。 また仕事に行かなくちゃならない。 ああ、嫌だ。 嫌だ。嫌だ。嫌だ。 どうして月曜日なんて来るんだ。 ずっと、日曜日のままがいい。 それを呟いたのが、一万年前。 今日も目が覚めたら日曜日。 なんど時計を見ても、時間は変わらない。 何度も泣き叫んだ。 何度も神に祈った。 何度も自殺した。 しかし、日曜日は繰り返される。 「行ってきまーす」 隣の家から出ていく高校生は、今日も元気に部活へ向かう。 それを見送る親も、どことなく楽しそうだ。 二人を殺したのは、何千年前だったか。 もう、やりたいことがない。 月曜日、来い。 月曜日、来い。 月曜日、来い。 早く、休日を終わらせてくれ。
街の隅に置かれたSDカード いつの間にか始まったかくれんぼ 傘をさして君を見つける 夜に拾った君を月と共に調べていく 電子機械に読み取らせば 意味のわからない音楽に、歪んだ写真 なんだかワクワクする ノイズのかかったアングラ音楽 アングラの感性に痺れていく… 何を撮っても歪み続ける写真たち 撮影者がこの世界の異物かのように… 一体誰が、この寄せ集めを街の隅に隠したのか きっと解る頃には、街から寄せ集めは消えているでしょう… (完)
寝坊をして急いで駅に行く。完全に遅刻だ。 ホームはいつもと違い通勤ラッシュが過ぎて穏やかな雰囲気になっている。 自販機の前で小さな女の子と母親がどれにするか楽しそうに話している。 その近くにホームから線路を覗くスーツ姿のオジサンがいた。 私が会社に遅刻の連絡をしている間も、ずっと線路を入念に観察している。落とし物なら駅員に言えばいいのだが、まさか降りて取らないよなっなんて思うくらい真剣に探している 「落とし物ですか?」 「え、あっ、はい。そうなんですよ」 「駅員に言って取ってもらったほうがいいですよ」 「はい、そうなんですが、どこに落としたか分からなくて」 「何を落とされたんですか?イヤホンとか?鍵とか?」 オジサンは笑顔で右腕を上げながら応える 「右手です。この間轢かれたときに、右手だけ、どこかへ行ってしまって」 「ママこれなに?」 自販機の下を覗いて小さな女の子が何かを指さしている
コーラとカエル あるカエルのお話です あるところに、ペルというカエルがいました ペルは白い小さなカエルです ペルはコーラが飲みたいカエルです 家にいる時も(ペルには家族はいませんでした)コーラが飲みたいなと呟きながらテレビを観たり いつかコーラを飲めるときが来るかなと思いながら洗濯をしたり(ちなみに黄色いズボンがペルのお気に入りです)毎日を過ごしていました そんなある日 ペルは喫茶店でコーラの雑誌を読んでいました 正面から見るとゆで卵が雑誌を読んでいるみたいです 雑誌にはペルの白い色がベタベタ付いています コーヒーはとっくに空になり二度目の読み終わりが来てしまいました。 ペルはそろそろ帰ろうかなと雑誌を閉じました すると喫茶店の鳩のマスターがペルのテーブルにコーラを置きました コーラは透明のグラスに入っていて、中では氷達の間を縫って小さなブクブクがスルスルと上っています ペルはコーラから顔を上げマスターをみると「飲みたいのかなと思って」そうポソリと言ってカウンターの奥へと引き返して行きました コップを置いた手を(羽を)、そのままどうぞの形で遠ざかって行きました ペルはコーラを前に座り直しました コップには触らず ストローに口をつけてそれを飲みました ゴクゴク飲みました 最後までゴクゴク飲みました ペルはコーラを飲んだのです ペルはコーラを飲んだカエルになりました ペルの白い体にコーラの染みがつきました その後、ペルは泣きました たくさんたくさん泣きました ペルは何で泣いているのか誰か教えてほしいと思いました 喫茶店の鳩のマスターが温かいおしぼりをペルのテーブルに持ってきてくれました ペルの背中を撫でながらホロホロと喉を鳴らしました
「どうぞ、お入り下さい」 扉から顔だけ出した男が声を掛けた。 その声に、二十代後半の女が、緊張した面持ちで部屋に入った。 「失礼します」 「そちらにおかけ下さい」 長机を前に、二人の男が履歴書に目を通していた。 「前職は物流関係とありますが、どのようなことを」 「はい。通販サイトで、購入者様への配送業務でした」 「具体的には、どのような」 「はい。ご注文の品を箱に入れて、緩衝材も詰めて、待機しているトラックまで持って行く仕事です」 二人は、うなずきながらメモを取っている。 「では、弊社を希望した理由を教えていただけますか」 「はい。私事ですが、前の職場の同僚が、私の箱詰め作業を見て、何か感心したようで、御社を勧めてくれたというか…」 「なるほど。うちも箱詰め作業はありますが、結構大変ですよ」 「はい。頑張ります」 女は、笑顔で小さく頭を下げた。 「では後日、改めてご連絡しますので、それまでお待ちください」 女が部屋をあとにする。 「君、今の女性どう思う」 社長が人事の男に聞いた。 「そうですね。即戦力になりそうですね」 「君もそう思ったか。じゃあ、採用するかな」 ──ピコンピコン 女がメールを開いた。 「採用決定。 ご存知かと思いますが、弊社の制服は喪服です。ご用意お願いします」
鏡越しの13の階段 滴る蛇口越しの渡り廊下 誰も居ない 誰も居てはならない 蓮華の道中 いつまでも視線を感じさせる黄金比 メトロノームに合わせてノック音 恥ずかしがり屋なあの子 不釣り合いな忌み子 噂好きの幻 いつまでも成仏の足手まとい 留年を夜が告げ、今夜を越える (完)
公園のベンチに、白髪の女が座っている。 女はスマホを眺めながら、小さなため息をついた。 「どうした、そんな顔して」 顔見知りの男が声をかけた。 「あぁ、あんたか。いや、娘から連絡があってな」 「疎遠になってる娘か?」 「結婚して、子どもが生まれたんだ。顔見にこいって」 「おぉ、よかったじゃないか」 女の隣に、男が座った。 「金がないんだ。電車代と、孫になんか買って行かんと」 「それもそうだな」 「あんた、金貸してくれ」 「ダメだ。今日の軍資金がなくなる」 男は笑いながら指差した。 「そこの路地んとこに、店があるだろ。そこ、買い取り屋だから何か売って金にしろ」 「はぁ……売れるもんない」 「孫が生まれて嬉しい気持ちを売ればいい」 「そんなもん買ってくれるのか」 「半分だけならいいだろ」 女は、路地裏にある買い取り屋の扉を開けた。 「どうだった?」 「半分だけ買い取ってもらった」 女の頬が緩む。 「じゃあ、今から孫のとこ行くんだな」 「ん……今日じゃなくていいだろ。軍資金も入ったし、ちょっとだけ行くか」 「お前なぁ……」 自動ドアが開くと、賑やかな音楽が聞こえた。 女は軍資金を胸のポケットに入れ、いつもの台に座った。
子供の頃は、ドロっとした心への侵食が精神を蝕むんだと思っていたけど 今は、サラッとした心への侵入が精神を蝕むんだと理解した 一度染み込んだ黒インクは強力な洗剤で洗わなきゃ色は落ちない 私はこの黒インクを心身の穢れとして 私は対抗し得る強力な洗剤を、創作として認識した (完)
商店街にある小さな弁当屋。 レポーターの女が、スマホのカメラを向けた。 「お店の前には、たくさんの人が並んでますね。 では、おじゃまします」 「いらっしゃい」 夫婦が、せわしなく切り盛りしている。 「人気のお弁当屋さんですね」 「うち、安いからな」 「このご時世、信じられない安さです」 大将のフライパンを振る手が止まった。 「こんな店でもさ、いろいろやってんのよ」 「そうなんですか」 「それなのに、これ見てよ」 おかみがスマホの画面を向けた。 「何ですか、これ。ひどいですね」 「安すぎるってさ。何を食べさせられてるか、怖いらしい」 話をしている間も、途切れることなく弁当は売れていく。 「だからさ、出どころをはっきりさせたのよ」 「それがこの張り紙ですね」 「そういうこと」 壁には、仕入れ先を書いた紙がいくつも貼られていた。 「……この白身魚の国って、どこですか」 夫婦が、ため息をつきながら女を見た。 「あんた、知ったら買うか?」
種をまけ 銃弾が飛び交う中 種をまけ 大事な人の叫び声の中 種をまけ 生きる地獄に 種をまけ 涙と血と慟哭を糧に、いずれ花が咲くだろう 種をまけ 醜く冷たいその花はいずれ咲く 種をまけ 忘れてはいけない おぞましい花がいずれ咲く いずれ、きっと、争いの無い日のために 種を まけ
「それ、音ハラですよ!」 パソコンをカタカタと叩きながら、時折大きな独り言を零す同僚に、私は勇気をもって指摘した。 同僚は手を止めて驚いた表情を浮かべた後、小声で一言。 「ごめん」 翌日、会社全体で、音ハラに悩んでいないかと言う社員へのヒアリングが行われた。 匿名だったので、遠慮なくぶちまけた。 『ボールペンのカチカチ音が五月蠅い』 『鼻をかむ音が不快』 『ペットボトルを潰す音が耳障り』 『ストローの音が嫌』 翌週、会社全体に、音ハラ対策の施策が広報された。 私は快適な職場環境を期待し、広報を確認した。 『1.職場での会話禁止』 『2.パソコンの使用禁止。スマートフォンを使用すること』 『3.ボールペン・シャーペンの使用禁止。鉛筆を使用すること』 『4.職場での鼻かみ禁止。トイレでかむこと』 『5.ペットボトル・缶・瓶の持ち込み禁止。水筒を持参すること』 私は盛大にひっくり返った。 「こんなの、厳しすぎます!」 私は、規則を決めただろう総務部に怒鳴り込んだ。 総務部の人たちは私を見た後、口の前に人差し指をたてて、一枚のポスターを指差した。 『会話禁止』
二月十四日。義孝は父の部屋にいた。 足を組んで貧乏ゆすりをしながら電話機を見ている。電話の発信ボタンを押そうとしてやめる。しばらくしてスマホを取り出し、YouTubeを開いて動画を見る。 窓から光が差し込む。 「結局のところやらない後悔よりやる後悔のほうが……」 YouTubeの声が聞こえる。 動画が終わり、義孝は再び電話機を見た。そして綾香に電話をかける。 「はい、もしもし」 「なかたにさんいらっしゃいますか?」 「はい、中谷ですけど……」 「あっ、綾香さんはいますか?」 「はい」 少し離れたところから声が聞こえる。 「綾香ー、電話」 「どちら様ですか?」 「義孝です」 「……はい」 義孝は足を組んで頭をかき上げる。そのままの姿勢で言った。 「あのさ、結構前から好きだったんだよね。……付き合ってほしいなと思って」 「考えさせてください」 「うん。わかった」 電話は終わった。 九月二十四日。 義孝は部屋のカレンダーを見ていた。ため息をつく。 すると通知音が鳴り、ケータイを見る。 「綾香です」というメッセージが届いている。 続けて「今電話できる?」というメッセージ。 義孝は返信する。 「うん! できるよ」 すると義孝のケータイに綾香から電話がかかってきた。 「もしもし」 「告白の返事なんだけどさ、友達のままがいいです」 「うん、そっか。わかった」 「ごめんね」 「ぜんぜん」 「じゃあ、切るね」 「うんじゃあね」 「ばいばい」 電話が切れる。 義孝はベッドに身を投げ出した。 教室の外には雪が降っている。 「はい、今から隣の席の人とグループワークをやってもらいます」 先生が言った。 義孝は教科書を忘れたことに気づき、視線が泳ぐ。 「教科書見してくれない?」 「いいよ」 グループワークが早めに終わった。 「あのさ、もう気まずくない?」 「義孝君は?」 「ん? ああ、もう気まずくないかな」 「じゃあ、私も」 無言の時間が続く。 「はい、じゃあグループワークを終わってください」 先生の声が響いた。 その日の夜。 窓は透明なガラスで、外は暗い。 義孝は椅子に座っていた。肘を立てて拳で頭を支えている。目はうつろだった。 ケータイの充電が少ないのを確認し、父親の部屋に行く。そこにある充電器を持ってきて、YouTubeを見る。 「失敗しても問題ないんですよね。失敗しない人より失敗する人のほうが大人になって振り返った時に充実してたと感じやすいし、将来成功する確率が高いってことがわかっているんですよ」 YouTubeの声が流れる。 翌日。 義孝はベッドから起きてリビングに向かった。 窓はすりガラスで光が差している。 「おはよ」 おばあちゃんが声をかける。 「おはよ!」 玄関を開け、学校に向かった。
その時だった。世界の時間が止まった。 俺はそのとき電車の座席に座って資格取得の勉強をしてた。 最初は線路の点検でもしてるのかと思ったが、いつまで経っても電車が動かないから気になって周囲を見回した。 そしたらみんな動かないんだ。1ミリも動かないんだ。 しかも俺は耳栓をしてて周囲の音を遮断してたから、誰の声も聞こえなくなったのは資格勉強に集中していたからだとてっきり思っていた。 「え、いつ動きますかこれ?」 俺は瞬きもしないお隣さんに話しかけた。 時間が止まる。それは誰もが一度は望んだことだろう。しかし、実際に時間が止まると、あんなことやこんなことなんてなんにも考えられない。 とにかく不安になった。しかも電車だし。出られないし。 それに…。最近好きな人できたというのに、時間が止まったせいでその人に会えなくなるんじゃないだろうか。 そもそも資格取得のための勉強もしてたのに、時間が止まったら試験すら受けられないじゃん。 「早く時間動けよ…」 「まあそう焦らずに。」 「ひぇ!?」 俺はびっくりして声が裏返った。声がする方を向いてみると、ドア付近で立っている男がいた。 見た感じすんごい疲れている。 「この時間、しょっちゅう止まりますよね。」 そう言って男は話しかけてきた。 「そうなんですか…?俺、この時間初めて乗ったんで。」 「あ。そうでしたか。それは失礼。」 男はなんだか残念そうだったが、俺に微笑んでみせた。 「これいつ動くか分かったりしますか?」 俺は思い切って聞いてみることにした。 「いつ動くかですか。そうですね。今止まったので、あと10年したらまた動くと思います。」 「……今10年って言いました?」 「ええ。」 信じることができず俺は男を見つめたまま動くことができなかった。 「先ほど、前にも止まったと話されてましたよね?今までも、10年間ずっと待ってたんですか?」 「ええ。そうですね。」 そう言った男はどこか明るかった。 「これ、食糧とかないんですけど、死にますか?」 「お腹なんて空きませんよ。時間のルールでそうなっているんです。流石にお腹空いたら死ぬので。」 「なんですか時間のルールって。」 「私たちよりも偉い人たちが作った世界のルールのうちの一つですよ。これがあることで、自然との調和が取れるんです。」 「じゃあ、なんで俺ら動けるんですか?」 「それは世界が私たちのエネルギーを使うためですよ。そのエネルギーは動いている人にしか出せないんです。でも、動いている人がいすぎると、世界が崩壊する。だから時間を止めるんです。でも、動いている全ての人を止めちゃうと世界が保たないんですよ。だから何人かは動かなきゃいけない。」 「…つまり世界のために今俺たちは働いてるんですか。」 俺は呟くように言った。 「そうかもしれないですね。」 そう言った男はげっそりした顔に喜びのような感情を浮かべていた。まるで世界のために労働することを望むかのように。 そして男は電車のドアをこじ開けた。
一緒に登校する理由は、家が隣通しだから。 一緒に下校する理由は、女一人の夜道は危険だから。 と、こいつの母さんに頼まれたから。 「昨日の動画見た?」 「見た。あそこのハンバーグ、食いたくなった」 会話は、友達の延長線上。 こいつは、教室で友達と話す話題を、ウケるか俺で試している感じがする。 仮にも高校生。 女子と二人並んで歩くことに、抵抗がない訳じゃあない。 もしも誰かが指差して揶揄って来たら、翌日から一歩前を歩く気はする。 今のところ、誰も揶揄ってこないから、横並びなだけだ。 自転車道を、自転車が通る。 友達がベルを鳴らしながら、「おう」と手を挙げて来たので、俺は左手を伸ばして「おう」と返す。 さっきすれ違った俺の友達とこいつは、友達じゃない。 だから、こいつは友達が気づくか気づかないくらいに小さく、頭を下げた。 「友達?」 「おう。今日は、朝練なかったのかもな」 「何部?」 「確か、テニス」 「ほんとだ。ラケット背負ってた」 会話は、定期的に途切れる。 歩いている間、ずっと話し続けるのもキモいので、これはこれでいい。 無言の時間が気まずく感じられるほど、浅い関係じゃないし。 自転車道を、自転車が通る。 車道側を歩く俺は、反射的に体を、半歩右に寄せてしまう。 その度、俺の右手がこいつの左手にあたるので、俺は再び反射的に左へ戻る。 手が触れることを、こいつは何も言ってこない。 たまに、こいつも反射的に右へ動くだけだ。 ふと、考えることがある。 俺は、こいつのことが好きなのか。 こいつは、俺のことが好きなのか。 毎日登下校を一緒にして、手の甲が触れても何も言わない。 男友達と女友達がそんなことをやってたら、俺なら「あいつら付き合ってんのかな?」と疑ってしまう。 ただ、その主人公が自分だと、どうにもそう思えない。 ただの思い込みだ、こいつにそんな気はない、ただの幼馴染だ。 いくらでも、否定する言葉が浮かんでくる。 気づかれないように、視線をこいつの手に落とす。 白くて、細い、小さな手。 もしも、この手を突然つないだなら、答え合わせができるだろう。 ただ、答え合わせの結果、間違いだったとわかれば、もう二度と二人並んで歩く日はこないかもしれない。 今に固執をしている訳じゃないし、別に並んで歩けなくても構わないが、二度とないのはなんか寂しい。 だから、俺は今日も答え合わせをできないでいた。 「うーん」 「どうしたの? 難しい顔してる」 「なんでもない」 「嘘だ」 自転車道を、自転車が通る。 俺は体を半歩右に寄せ、俺の右手をこいつの左手にあてた。
あるところに男がいた。彼はいつも不平不満を口にしていた。仕事でも家庭でも、何かと他人のせいにしていた。仕事が遅れれば上司や同僚のせい、家での問題があれば妻や子供のせい。しかし、自分から解決策を提案することは一度もなかった。 「どうせ俺がやっても無駄だからさ」と、彼はよく言っていた。そのくせ、自分にはもっと良い待遇が当然だと考えていた。彼は「人は死んだら転生するかもしれない」という話を耳にしたが、「そんなバカな話、あるわけがない」と一笑に付していた。それでも心の中では、「神になって人々を思うがままに操りたい」と密かに思っていた。 突然の出来事が彼の人生を変えた。急いで横断歩道を渡っていると、運悪く一台の車が突っ込んできた。はね飛ばされ、地面に叩きつけられた彼は、意識が遠のくのを感じた。その瞬間、彼は「神がいるって言うのなら、俺を神に生まれ変わらせろ!」と心の中で叫んだ。 気がつくと、男は暗闇の中にいた。何も見えない、何も聞こえない。しかし、彼は「何だよこれ、真っ暗闇じゃないか! なんで真っ暗なんだよ!」と叫び、誰か何とかしてくれるのをただ待つばかりだった。 そして、男は永遠の暗闇の中で不平不満をこぼすばかり。彼はその願い通りに神になったのだが、その力を使うことはなかった。自分の世界を明るくする最初の一言、その重要な「光あれ」という言葉を口にすることすらしなかった。
勢い込んで踏み出した足先がイスの足にぶつかり機先を制せられた。なんだかヤな感じ。これからちょっと先の行く末であるかのよう。 開けていたのを忘れていた窓から、風が気持ちいい。そう思う私をよそに、風はカーテンをやさしく舞い上げる。華麗に舞い踊ったカーテンはぴしゃりコーヒーの入ったマグカップを倒してしまった。あらあら、まったくねえ。でも、そのとおりになるものね。あわてない自分を、誇らしくとまでではないけれど、ちょっとだけ、やるじゃん、みたいにほめてあげる。 部屋の香りがいくらかコーヒーで充たされ、ふき取るより先に割れてないかマグを心配する。黄色い、かわいい、ねこのイラストがある、アイツにもらった、お気に入りにしていたマグカップ。いっそ、割れてくれてたらよかったのかもね。結局、男のことは、男のことでしか解決できないのだ、悲しいことに。 私のブーケトス、誰も受け取ってくれなくて地面に落っこちた。あああああ、グスン…… やれやれ、気持ちがこもってないなあ、やり直し。心のなかで思い、けれど自分のそのココロの内をまったく理解できていない私は、気持ちのこもっていないままに、同じトーンの演技をリピートしているように日々の生活を流しているばかり。 少し顔をのぞかせた気持ちを、しっかり捕捉できたのか、さてさて自分でもわからない。ひとまず本は開いてみた。読めるのかは、最初で決まる。ひとつの文章にすらりと入っていければ、きっと、おそらくは…… 結局、積み重ねなんだよ、男も、生活も、人生も。わかってるんだけどね、忘れていたよね。わかってるんだけどね。
郊外のアパート。 母親と、幼い二人の子どもが暮らしている。 「こんなこと言える立場じゃない……」 壁にもたれ掛かりながら、スマホの画面を覗いた。 そこに映る、満足げな顔の人たち。 母親は、迷った指でタップした。 数日後、荷物が届く。 「ママ、開けていい?」 「いいよ」 「お菓子あったよ」 箱の中には、食材と数年前に流行ったキャラクターのTシャツが入っている。 「月末まで……これで何とか」 子どもたちがお菓子を頬ばった。 母親はレトルトを手に取り、裏を見て苦笑う。 「……食品ロスには役立ってる」
胸の内を明かすことがてんでヘタクソだった。 それを口にする事は己の弱みを曝け出すことであって、弱い私には到底できないことだった。 そんな私でも吐き出したいと思う気持ちだけは一人前にある。 それを叶えるのが文字だった。 文字を書く時だけは、正直になれた。弱みも恥も欲望も、そこにはあった。文字を書いていれば、それが物語となる。いつだって私の頭にはそれが住み着いていた。 口からは欠片も言葉が出ないくせに。 ただ、私から描き出される文字は、稚拙で退屈なものでしか無かった。 私には憧れがあった。 脳が焼かれ、心臓を締め付け、腹の底から叫び出したい衝動に駆られる。酷い興奮を伴った創作物。幾度夜を越そうとも夢に見てしまう。それに私は強く焦がれているんだろう。 あの興奮を、私が生み出したいのだ。 私の手で生まれたものであの興奮を味わえるまで、私は死ねない。 なりたい。 私もあれになりたい。 私もあれを書きたい。 書かずに死ねたものか。 死ねない。 死んではいけない。 生み出したい。 生み出さねば。 死にたくない。 生憎、私は、それを生み出せやしない。 そう思おうとも、この衝動は抑えられないものなのだ。
この薄暗い部屋に閉じ込められて、一月が経った。部屋の中は質素な造りだが、ベッドは意外にも上質なマットレスで、シャワーとトイレも完備してあり、生活するには申し分ない。食事は野菜などの彩は無いが、三食差し入れられる。 堪えがたいことは、娯楽が少ないことだ。テレビやパソコンが無いのは勿論、所持していたスマートフォンも取り上げられている。何故かカバーを外された本だけは差し入れられるが、異常な状況では読む気力も湧かない。言わば、生きる楽しみを見いだせない空間。 犯人はわかっている。目の前にいる女だ。 「どうしてこんなことをするんだ」 鉄格子の向こうにそう詰問すれば、女はいつも困った様な表情をするばかりだった。 彼女のかつての交際相手に相談を受けたのが、出会いのきっかけだった。曰く、彼女は相手に尽くすタイプの女性で、しかしそれに際限が無い。ノイローゼになった彼が逃げ出し、身近にいた自分が次の寄生先として選ばれた。 意外にも彼女との生活は悪くはなかった。容姿は華美ではなく、常に地味な服装だったが、むしろ奥ゆかしく好感が持てる。流行の話題には疎いが、古文や歴史に造詣が深く、博識深い。聞いていた異常性を置いておけば、所謂大和撫子そのものだったのだ。 うまくいっていたはずだった。この場所に監禁されるまでは。 あの日は雪が降っていた。寒さに身を震わせ、数か月後に来る春を思い、道すがら在原業平や西行が詠んだ句について語った。 「和歌に詠まれる桜は、どうしてこうも魅力的なんだろう」 「昔は、今よりも目に入る色が少なかったですから、桜の初心な色ですら、貴重な彩、だったのでしょう」 「成程。そもそも現代とは環境が異なるか。僕もいつか全身で感激するような桜を見てみたいものだ」 「ええ、そうですね」 そんな些細な夢も語って、彼女も微笑んでいたというのに。 当夜、勧められるまま深酒をしてその後の記憶がない。目が覚めたらこの部屋にいた。初めは激昂して、それから諭すように、ある時は懇願に近い声色で、どんな言葉で尋ねても、彼女の答えは無いか、曖昧なものばかりだった。 彼女は、僕の思いを試しているのか? 監禁という行為が生み出す歪んだ関係性。被害者からの依存性を期待しているのだろうか。彼女の目的は、ただこうして廃れていく僕を、籠の外から眺めて居たいだけなのかもしれない。 薄暗い部屋で、食事と睡眠の数を数え、もう二月も経った。ひたすら薄暗闇の日々が続いたのだ。段々と、自分の中の何かがすり減っていくのを感じる。 「なあ、今日でもう二月だ。あんたはいつまでこんなことをするつもりなんだ?」 辛うじて、まだ忘れていなかった声と言葉で問いかける。どうせ返事は無い。宛てのない言葉は、壁の中に消えていってしまうのだろう。ただの独白だ。 そう自嘲しながらも、久々にあの困った顔つきを拝んでやろうと、俯いていた顔を上げた。彼女の唇が動いた。 「あと、二週間、くらい?」 食い下がるべきだったろうが、驚き、言葉が出ない。明確に期限を口にしたのはこれが初めてだった。彼女に何の変化があったのか。 その日を皮切りに、彼女は、毎日私の言葉に返事をするようになった。 「もうちょっと、今日は、まだ」 「まだ早いの、だめ」 「きょ、今日は、雨が降ったから」 ある日、聞きなれない金属音と共に、いつもとは異なる微妙な風の流れを感じた。ひた、ひた、と足音が近づく。顔を上げると、鉄格子の向こうの彼女が傍にいた。 「あの、これ」 差し出されたものは、黒いアイマスクだった。付けろというのだろうか。視線で問いかけても、困った表情をするだけだから、望まれるままに装着した。手を引かれ、立ち上がる様促される。僕は彼女のするまま、素直に従った。 「どこに向かっているんだ」 答えのないまま、歩いた。あの仄暗闇から解放されるのならば、どこでもいい。僕はあの薄暗い部屋を出たのだ。 途中から、足の裏に感じていたものが、コンクリートよりも柔らかい感触に変わった。風にのって、土と草の匂いがする。 「取ります、ね」 もう随分歩いたと疲労を感じ始めた頃、ふと立ち止まって彼女は言った。 髪が巻き込まれ頭皮が引っ張られたが、些細な問題だった。 流れ込む光の束に、すぐには目を開けなかった。ゆっくりと瞼の裏に馴染ませ、恐る恐る開いていく。 色の洪水だった。失くしていた色、求めていた色、知っていたはずのものが、未知のものに見えた。背丈を優に超える幹は、大地の色を吸い込んでいる。風に舞い散る花びらには、一枚一枚色があった。全て、異なる色なのだ。 言葉にならない僕に、彼女は嬉しそうに笑った。久しぶりに見た笑顔だ。僕は、彼女が僕を閉じ込めた理由を悟った。後はただ、手を握り締めて、桜を眺めた。
雨粒とともに、さまざまな音までもいっしょに降ってきてるような雨だ おふとんのなかで ふはああ ペンギンがあくびをする 何も予定がないと朝、起きなくなってしまう それでペンギンは予定をつくってみた かわいいペンギンの女の子と、手をつないで歩いてみたいなあ ペンギンの男の子と手をつないで歩いてみたい そんな思いをいだいているかわいいペンギンの女の子をさがしてみた あじさいのかげ、ももいろの長ぐつをはいたペンギンの女の子が見える ―いっしょに歩きませんか? ペンギンがツバサをさしだすと、女の子はうれしそうにその手をにぎりかえした ふたりが手をつなぐと、雨の音はリズムをきざみ 水たまりからは無数の音がはねた ―こうしてると、雨もいいもんだね ―ふふ、そうね ふたりが楽しそうに歩くたび、つめたい雨は、しずかな音楽へとかわっていく
ある政治家が緊急記者会見を開いた。 真剣な面持ちでマイクの前に立つと、集まった記者たちに一礼した。 「私は、国民の皆様の死ぬ権利を保証します」 政治家は動じず、淡々と語り始めた。 「我が国の医療費は年々増加しています。私は、医療費削減のため『尊厳死還付支援金等に関する法律の一部改正を認める法案』を国会に提出しました」 ざわつきの中、政治家は続けた。 「医学的に延命治療が不可能な患者様が尊厳死を選択した場合、延命を続けたときにかかる医療費の半分を還付金として支給します。 申請の妥当性は、AIのみで構成される第三者委員会が判断します。本人、家族、後見人等が尊厳死を理解し、同意することが前提です」 テレビの画面を見つめる女。 その隣には、長い間管につながれたまま眠り続ける夫がいる。声をかけても反応はない。そんな時間が一年を超えていた。 テレビの司会者が、評論家の女に質問した。 「あなたの立場から、今の社会の風潮をどう考えますか?」 「最初は倫理的にどうかなと思いました。でもね、家族の金銭的、精神的負担を考えるとね。国も医療費を減らしたいと思っている。時代の流れかしら」 法案は成立し、運用が開始された。 AIは、不正申請や悪質な養子縁組なども瞬時に判断した。 その実績を政府は大々的に報道し、制度の正当性をアピールした。 あの政治家が再び記者会見を開いた。 「政府は規制緩和の一環として、支援金の有効活用を目的とする民間企業の商品開発、および第三者委員会のAIの一部利用を許可します」 感嘆の声が会場に響いた。 支援金は国民の生活に変化をもたらした。 「故人からの最後の贈り物」として美化され、生活の一部となった。 夫婦の病室。 温かいタオルで夫の体を拭く妻。 医師やAIからは、すでに受理のサインをもらっていた。 署名をすれば終わる…。 妻が机の上を見つめた。 そこには、笑顔で寄り添う二人の写真が飾られていた。
よる、かえりみちはねこをさがそう。 猛獣、幽霊、不審者。魑魅魍魎に畏れおののきすぎて、味方であるはずの警官にすらびっくりする始末。 そんなあなたに、ただ一つ。猫を探してほしい。 どこから彼らが現れてきてくれるのか。ルンルンで帰れること間違いなし。まさに夜の案内人。 敵はビニール袋。
Code:MOそれは世界を牛耳る死の武器商人組織。 その組織の概要や総統の存在などは謎に包まれている。 しかも輸出する武器はミサイルや銃等に限らず部下に作らせた音楽兵器(流すだけで相手を戦闘不能にする死の旋律)等もだ。 総統の素性は明かされていないが銃剣などをこよなく愛し組織の持つ特殊技術による古来の刀剣などを改良した芸術品の域まで高められた武器なども輸出対象だ。 海外にそれらの武器を輸出する見返りに各国の取引先の国の裏情報機密情報などを受け取っている。 それらの情報などを統合し秘密の武器製造工場で史上最高最強の兵器を作ろうと今宵も暗躍している。 Code:MOの各部門で働く各国の精鋭達は今日も表向きの仕事をこなしながら兵器のプランを練る。 Code:MOの次の新兵器のプランは世界の宗教を纏め上げてしまうという究極の目標を掲げるエンターテイメント作品を創るという物なのだがそれは世界の国家元首、宗教指導者、企業家などの反発をくらいなかなかに達成困難な目標だ。 すでにCode:MOの組織の中にも各国のスパイエージェントが入り込み日々妨害、情報戦等が繰り広げられている。 Code:MOに雇われている傭兵達は日々のそのような戦闘の記録を取り情報を集めエンターテイメント作品の礎にしている。 Code:MOは今日も密かに世界を構築する。 いやあ真面目に妄想しすぎた。
今日初めての授業がチャイムがなり、終了して課題などを説明を先生が口早に説明し、教室から去っていった。 休み時間。 本を取り出す。今話題のライトノベル、最近はまっていて、時間があると小説を出して読んでいる。 空想の世界。 あっという間に時間がつぶれる。時間が加速し、他人の雑談の声が右から左に通り過ぎるような感覚。本の世界を堪能している自分には他人の声を認識できない。別の言語のようだ。僕の頭の中ではドラゴンと主人公が対峙している。ドラゴンに剣が突き刺さる。重圧なイメージが僕の中に広がっている。 決着はついた。ドラゴンは倒れた。 これだから読書はやめられない。
生活保護で拠出されるお金は国家予算の3.3%程度であるらしい。 実際には僕はその他諸々免除して貰ったり医療費もかかっているのでもう少し(いやかなり)お金がかかっているだろう。 僕が人身御供になり人柱として宇宙生命保険に入り多額の保険金(百兆円程の)をかけて事故にでもあって死ねばその他困っている生活保護の人達の20年分程の予算を計上出来る計算になる。 宇宙人ヤクザが僕を山に埋めに来るかも知れない。 実際そんな奴がいたら敵味方問わずどんな方法を使ってでも殺しに来るだろう。 百兆円の賞金首。 何か明日あたり車にでも轢かれそうだ。 こんなことを考えて夜煙草を吸ってブルブル震えて寝る。 君の最後の仕事だよ、と人の良さそうなお爺さんが暗殺術で僕を仕留めに来るかも知れない。 そもそも何がお金になるか分からない世の中なのだ。 最後にやりたいことはなんだ?と聞かれたら何にしようかな?
大学受験にも就職にも失敗して引きこもり、ニートとして過ごしてきた。 そして怠惰なまま過ごした人生は何の価値もなく終わろうとしている。 あぁ、またやり直したい…… 咽び泣きそうになるほどの後悔を抱えて最後に目にしたのは、孤独な自分の写真だった。 …… 気がつくと俺の視界に眩しい光が差す。 目を開けると懐かしい自分の部屋。 俺ははっとして鏡を見ると、10代に戻っていた。 それから俺は学校に通う。 「すごい、全教科100点!」 「えー! うそでしょー!?」 青春を再び謳歌し、部活に入り、充実している。 そして俺の人生の分岐点だった大学受験。 どの問題も答えをまるで事前に見たかのようにすらすら解けた。 結果俺は日本一の大学に入学できた。 しかし、一流大学だけあって、周りも一流の家庭のボンボンなのだ。 入学は出来たものの、努力しても成績が平均を上回れない。 ここで初めて人生をやり直しても辿り着けない壁がある事を思い知った。 俺はあまりの悔しさに金に執着するようになった。 経営者になり、結婚もせず仕事に夢中になる。 スタートアップは順調。 しかし、20年ほどすると伸び悩み、会社は大企業に吸収された。 俺は財産のみが残り、虚しさのあまり、酒に溺れて余生を過ごした。 あぁ、こんなことなら金になんか執着しなければよかった…… 俺1人が映った写真に見守られて俺は息絶える。 …… 視界に鋭く光が差す。 俺はまたしても人生をやり直すことになった。 前回はお金に執着したから失敗した。 次は夢を実現させたい。 俺は子供の時から憧れていた小説家になるため、魂を込めた自信作を書き上げ、出版社のコンテストに申し込む。 しかし予選にも通らない。 諦めずに2作目を作り上げるも、やはり二次選考で落ちてしまった。 それは何十年経っても同じだった。 またしても壁にぶつかったのだ。 やがて俺は憂さ晴らしにパチンコに依存して貯金も溶かし、家賃すら払えなくなりホームレスとなった。 こんなことなら夢なんて追わずもっと自由に生きればよかった…… 息絶える間際、自分が1人映っている写真が視界に入った。 …… 気がつくと、また若い頃に戻っていた。 俺は学校に通うことも働くこともバカらしく感じて引きこもり、インターネットに依存した。 オンラインで友人もたくさん出来た。 ただ彼らの中に働いている人がいると胸がモヤモヤした。 垂れ流していた動画がふと目に止まる。 その動画には小さなシマシマの猫が映っていた。 子猫は親からはぐれ、母猫を探して旅をする。 時には困難に遭うも、やがてつがいの猫が出来て、子供を産んで死ぬ。 残された子猫はまた母猫を探して彷徨う。 その動画を見終り、俺は気付いた。 そうだ、人生は一度しかないからこそ儚くて価値があるのだ。 それを都合よく何度もやり直して、幸せになるなんて事があるはずがない。 一度きりの人生を本気で生きなかった。 俺は永遠に埋められない隙間を抱えて生きていくのか。 深い絶望に染まり、息をするのも馬鹿らしくなる。 しかしふと、孤独な自分の写真が目に入る。 今までなんとも思わなかったが、ふと思った。 (なんでこの写真は俺1人だけなんだろう?) もしまたやり直せるなら、次は…… …… 視界が明るくなる。 同級生の初恋の子に、告白した。 「君が好きなんだ、よかったら付き合ってほしい」 「……ごめんなさい」 俺は酷く落ち込み、まるでもう心が晴れる事がないかのようであった。 しかし大学で再び恋をし、思いを告げる。 その子はなかなか首を縦に振らなかったが、やがて俺の勢いに押されて承諾してくれた。 大学を卒業するとその子と結婚し、数年後には娘が産まれた。 「あなた、この子の名前は何にしようかしら」 「君のように素敵な名前にしたいな」 娘は寵愛を受け、幸せに育った。 「ねえお父さん、分からないことがあるの」 「どうしたんだい」 「私、将来何になればいいのか分からないの」 「お前はお前が望むものになればいいよ」 「もう、簡単に言わないでよ」 娘は頭を悩ませ続けていた。 やがてその子は大人になった。 何年かするとその子は結婚して子供を産み、孫が出来た。 妻がしわくちゃになった笑顔を見せる。 娘が耳の遠くなった俺に大声で話しかけてくる。 孫が転び、泣いているのを宥めると笑顔を見せる。 そして、どうやらこの命が尽きる時が来たらしい。 泣き喚く妻や娘、孫の顔を見て、どうか泣かないでくれ、と思いながら、目を閉じた。 家族に囲まれて幸せそうに微笑む自分の写真が、優しく俺を見守っていた。
朕は道路をメタルを聴きながら、徒歩でよこぎる。 街交う人々はどこか虚ろ、だがエネルギーに満ちた顔で歩いているのも変だが。 歩調をドラムに合わせて、機嫌よく歩く。 今日発売されたCDをゲットするためにいつもなら寝ている時間に歩く。 目的地まであとすこし、歪んだギターの音にあわせて ジョギングをしている人がいる。かなりのハイペースだ 歩いている人からみたら自分も結構な速度なのだろう。 なにせCDがかかっているのだから
最終の列車から出た俺はネクタイをゆるめる。 ガタンゴトンと列車は次の目的地へ。 駅にはまばらとひとがいて、人が少ないのはいいことだが、それでも毎日 この時間は気が滅入る。 この会社にはいって早5年、あまりいいことをきかなかった会社だが想像以上にブラックだ 「やめて楽になりたい」 よしきめた。明日会社を辞表を叩きつけて辞めて、上司のBさんにアッパーカットをきめてKOしよう。あとついでに何人かのしていこう。バットも持っていくか。 そうおもうと楽になった。 自動販売機でビールを買う自分がいた
週末、親子三人でドライブに出かけた。 「お昼どうする?」 「そうねぇ……その先に魚食べれるとこあったよね」 父親は、海辺の特産市場に車を止めた。 「人、少ないね」 「昼過ぎだし、こんなもんでしょ」 店の前には、魚の加工品が並んでいる。 「珍しい魚、多いね」 「うん」 母親が、小さな瓶を手に取った。 「これ、何ですか?」 「知らんよ」 高齢の女が、顔を上げた。 「ここで作ってるんですか?」 「いいや」 「ママ、見て」 女の子が、水槽に近づいた。 「わぁ、すごい。これ、何て言う魚ですか?」 「バルディア沿岸のシロスジダラだ」 「外国の魚?」 「あぁ。船出すより、仕入れた方が安い」 「えっ……地元の魚は?」 女が、足元からバケツを取り出した。 「これだ」 中には、小さな魚が入っている。 「よく見とけ」 魚を水槽の中に放り込んだ。 すると、寄ってきた魚が、大きな口を開けた。 女が笑い、指をさす。 「こいつら結構うまいらしいぞ」
「お、めっちゃ可愛い」 流れてきた女の子の写真を、迷わずタップでいいねした。 すると、写真の左下にあるハートマークの横に、数字が浮かび上がった。 「げ! 五百二十二人もいんのかよ!」 俺はこの子に興味を持った、五百二十二人目と言う訳だ。 こんなに大量のいいねがある女の子から選ばれる可能性は、ものすごく低い。 経営者だとか、医者だとか、そういうやつらが選ばれるだろう。 普通のマッチングアプリなら、の話だが。 俺は、ハートマークをタップする。 画面が切り替わり、女の子の写真にいいねをした男の写真リストが表示される。 一番上には、五百二十二人の文字。 そして、その下からずらりと並ぶ男の写真。 「こいつにするか」 俺は、数十人の写真を確認して、白衣を着ている弱そうな男の写真をタップした。 ポップアップが表示され、『このユーザーに挑戦しますか?』と確認されたので、俺は迷わず『はい』を押した。 『殺し合いが成立しました』 画面が再び切り替わる。 表示されるのは、地図アプリと二つの青い点。 一つは俺の位置情報。 もう一つは、さっきの男の位置情報。 「よーし、やるか」 今頃向こうにも、殺し合い開始の通知がいっているはずだ。 俺はナイフを手に取って、速やかに家を出た。 俺じゃないほうの青い点は、俺から離れるように移動を開始している。 どうやら、逃げを選んだらしい。 一時間以内に殺せなければ、俺の負け。 ルールは極めてシンプルだ。 俺は事前に呼んでいたタクシーに乗り込み、青い点を追ってもらう。 タクシーの中で、俺は興奮で震える手を止められなかった。 アプリの女たちは、男に選ばれ続け、通常の男では満足できなくなった極上品。 他の男を殺してでも自分を欲する、気概のある男を求めている。 何の才もない俺が、そんな極上品を手にできるチャンスがあるなら、命を懸ける価値がある。 「恨むなよ? お前も、俺と同じ穴の狢なんだからな」 隠したナイフを強く握りしめ、俺はただ、前だけを向いた。
この路地は、いつだって通りたくない 街灯は頼りなく、昼間でも薄暗い そしてなにより、肩がぶつかりそうなほど狭い 自転車どころか、歩行者同士がすれ違うのさえままならない 今日みたいな雨の日なんて、なおさらだ 傘がぶつかり合って、余計に足元が濡れるのが目に見えている さっさと通ってしまおう そう思ってるそばから、ふいに人が 反射的に立ち止まり、壁際へ身をよせる お互いに狭い空間をゆずり合うようにして、自分の傘を外側へと傾け合う したたる雨粒がアスファルトを叩く その音だけが、やけにはっきりと響く すれ違う瞬間、ちらりと目が合った 見知らぬその人からの小さな会釈 わたしもそれに応えるように、ぎこちなく返す 言葉はない 雨音につつまれた沈黙のなか、確かにそこにあった気遣い なんというか、こういうのも悪くない 路地を抜け、さっきまでの憂鬱な気分は、雨上がりの空のように少しだけ軽くなっていた
非現実な幻想をみた。それは白鳥が飛んで行った物語 白鳥は勇気をもち恐れを持たなかず、青い海のような空へ自由に羽ばたいて 彼はフリーダムに高く、高く、目の前の光景から遠ざかる 朝は当然ながら起きることからはじまる。 早起きは三文の得そういえば三文って現在価値によると何円だっけ? 脱線失礼よく睡眠を摂れたようだとたちあがり伸びをする 朝食は卵をハムの上に焼いたものとパンをテレビをみて、教養を養いながらたべる スケジュール確認。 3限に講義 怠惰に苛まれながら寝間着から外用の服に着替える。 これといったこともない一日 日々のルーチンともよべない光景
金曜の朝一番の講義にいつもいる女の子が その日はいなかった いつもその女の子のすぐ後ろに座る いるべき人がいないだけで その背中を見ることができないだけで ずいぶんと景色がちがう 発言を求められるわけではないけれど わけもなく緊張しながらになった 次の週、その女の子に声をかけられた すまないけれど、ノートを見せてほしい そんな内容のことを言われた どうやら、体調を悪くしていたらしい きちんとした理由があることに少し安堵する ほかの子たちだとココロが苦い顔をしてしまう その女の子に対しては、そうはならなかった その女の子は、わたしのノートを見ながら 自分のノートに向かって書きはじめた ―コピーしたら? わたしが言うと ―まじめに書いたノートをコピーでちゃちゃっとなんて、そんな失礼なことできない 女の子は言った その女の子が書いているあいだ この子となら、友だちになれるんじゃないかと思いながらだった 女の子のほうも、おんなじことを思ってくれてたら…
円筒のガラス瓶に入る。 謎の液体で全身をふやかす。 洗濯機のように液体を回転させる。 全身が雑巾のように絞られる。 体から絞り出されるのは、透明で透き通った液体。 どす黒いなぞの液体に混じり込んでいく。 透明で透き通った液体の正体は、思い出。 美化された美しい過去の集合体。 それを全部、絞り出す。 透明で透き通った液体が出なくなれば、中に入っていた人間を出す。 彼らは皆、疲労感を押し出すも、目だけはらんらんと輝いている。 「俺、頑張ります!」 「私、まだまだできます!」 円筒のガラス瓶に入る前、虚無感に包まれていた顔とは大違い。 新入りが、目を丸くしながら博士を見る。 「これ、どういうことですか?」 博士は長いひげを触りながら、自慢するように答える。 「何故、人は年を取ると丸くなるのか。それは、思い出が溜まるからじゃ」 「思い出が溜まるのは良いことなんじゃないんですか?」 「良いことじゃ。しかし、思い出が溜まりすぎると、自分の人生に満足してしまうのじゃ。今、こんなに幸せなのだからと、頑張ることを放棄してしまう。だから、絞り出してやるのよ。かつての飢えを思い出させるためにな」 新入りは、ガラス瓶へ入ることを望んだ人の名簿を確認する。 皆が平等に若者ではなく、若い頃に成功者と呼ばれた者たちだった。 名前は知っているが、今は何をやっているかわからない芸能人の名前もいくらか書かれていた。 「ぼくにはよくわかりません」 「それは、お前が若いからじゃ。お前にはまだ、夢があるじゃろう?」 自動ドアが開き、次の客が入ってきた。
その紡錘《ぼうすい》形宇宙船は、汚染されていた。真空中でも生存可能な病原体によって。宇宙服すら突破して感染するものだった。 しかも、数千度の高熱にも耐える芽胞《がほう》を形成し、数万年後でも大気圏突入による生息域拡大が可能である。 この船の先行調査団が探査した自由浮遊惑星がそのような代物に汚染されていたと知ったのは、恒星間航行に移ってからだった。 乗組員たちは次々と病原体に感染し、倒れ、死んでいった。 艦長の下した決断は、恒星に突入してこの宇宙船ごと焼却すること。いかにそのような病原体といえども、恒星の熱と重力には耐えられまい。 艦長は最寄りの恒星系に目標を定め、その恒星への突入コースを設定し、そして息絶えた。 自分たちの星だけでなく、未知の生命体をも護るために。 だが、長い航行時間のあいだに、わずかに軌道がずれてしまった。 紡錘形宇宙船は恒星をかすめ、その重力で加速し、大きく軌道を曲げて虚空の中へと消えていった。 次はどこへ行くのか、誰にもわからない。 * * * 2017年、地球の天文学者らは、太陽系外部から飛来し、そして太陽の重力で軌道を曲げて飛び去る小天体に興奮していた。 ハーバード大学の高名な天文学者に至っては、地球外文明からの探査機だとまで主張するほどだった。 観測史上初めて確認された恒星間天体を、彼らはハワイ語で「斥候」を意味する「オウムアムア」と命名した。短い期間の観測データから推定された外形は――紡錘形だった。
「ウザい」その男にはただそれだけしか判断基準がなかった。欲望のまま無思慮に好き放題行動するか、「ウザい」と感じたら相手を闇雲に殴り倒すか。 うまく行ってる奴を見たら「ウザい」と悪態をつく。隙を見て足を引っ張ったり、何か奪えそうなら遠慮なく奪っていく。金持ちもウザい、頭の良い奴もウザい、道徳だのモラルだのとうるさい奴らは最高にウザい。 夜の街のネオンが煌めく中、男はその欲望のままに行動した。「ウザい」と感じたら、その場で相手を殴り倒す。「おい、何してんだ!」と叫ぶ周りに対して、彼は「ウザいんだよ」とだけ答え、その場を去った。 ある夜、男は盛り場で別の男ともみ合いになった。酔っ払った男たちの笑い声や、女たちのはしゃぐ声が響く中、二人は取っ組み合いとなった。理由など「ウザい」以外になにもない。無遠慮に相手を殴りつけているうち、相手に車道へ突き飛ばされ、そこに走ってきた車にはねとばされてしまった。 気付けば男は見たことのない奇妙な場所にいた。見たことの無い神殿のような建物の中に、奇妙な光の玉がいくつも浮かんでいる。どうやらファンタジーものの異世界のようだが、そんなタイプのゲームもマンガもキモいオタクどもの観るようなものだと相手にしてこなかった。小偉そうな女が自分に解る言葉でいろいろ講釈を垂れてきたが、聴く気にもなれなかった。ただ自分に何かすごい力があると何となく解っただけで十分だった。 少し念じるだけで炎やら光の矢やらが飛びだして、気に入らない相手に叩きつけられる。「この力、面白いな」と男はつぶやいた。 力を手に入れた男は、新しい世界で好き放題に振る舞い始めた。欲望のままに攻撃し、奪い取る。男を倒そうと腕自慢の奴らが次々と襲いかかってきた。ウザいので片っ端から返り討ちにしてやった。 やがて、男の下には強きにへつらい弱きをくじくような連中が集まってきた。どう見ても人間ではない化け物のような連中だが、男に対しては素直に言うとおりにするのでウザいと感じることはない。彼らが望むとおりに手下にしてやった。 男はどこかの城を奪い取り、そこに居座って、手下達に街を襲わせるようになった。自分で出て行くのがそろそろウザくなってきたからだ。たまに人間や人間っぽい奴らが数人で集まって城に乗り込み、手下を倒して男のもとに現れ挑んでくるが、そのたびに自分で叩きのめす。奴らは男のことを「魔王」と呼んでいたが、それをウザいと感じることはなかった。 そのうちに神様に仕えているとか言う女が、仲間と共に男の元に現れた。厳しく自分自身を律しているのが、身につけたものや立ち居振る舞いから伝わってくる。 「あなたに思慮が備わって、欲望を御する事が出来たなら、人々を救う力となりますのに」 そう言いながら男を攻撃してきた。これまたウザくてたまらない。「偉そうに講釈垂れやがって」と、衝動のままに散々に叩きのめしてやった。 「いつか勇者が現れ、あなたを打ち倒すでしょう」 そう言って動かなくなってしまった女を、仲間たちが抱え上げて逃げ出していった。「やれるもんならやってみろよ?」と思いながら、追い撃ちするのもウザいと放っておいた。 そんなある日、ひときわ強い奴が現れた。奴はいつぞやの女を始めとした仲間と共に男の城に乗り込んできた。特別にあつらえられた鎧に鋭い光を放つ剣、と見た目からして違う。その印象通りに今度は強い。これまでの奴らとはまるで違う。どうやらコイツが「勇者」らしい。 「非道の限りを尽くす魔王よ、いまここで打ち倒す!」 これまでになく最悪にウザい! 男は勇者らしい奴の激しい攻撃よりも、正義ぶった小偉そうな様子に対してムキになって苛烈な攻撃を加えた。 余波で城のあちこちが崩れるほどの凄まじい激戦の末、ついに男は倒された。 これほどの強さだ、もしかしたら、自分と同じように転生とやらでこの世界にやってきたのか? 「お前も転生してきたのか?」と男が尋ねると、勇者は「転生? 何のことだ? 違うぞ」と答えてきた。 男の意識が薄れる中、彼の意識の中に女が現れた。この世界へ転生したとき横にいたあの小偉そうな女だ。 「勇者も倒す相手がいないと力を持て余し、闇堕ちする。だから、私は転生を司る女神としてあなたを呼んだのです」と告げてきた。 「ふざけんな、あんな良い子ちゃんぶったウザい奴の相手をさせるために、俺を転生させてきたのかよ! ウザすぎる!」 男はかんしゃく混じりに叫びつつ、自分の意識が闇に消えていくのを感じとっていた。 「……まあいいか、何もかもがウザかった俺自身が一番ウザかったからな。そんなウザいのとお別れ出来るならいいさ」 女神の言葉に何となく納得しながら、男の意識は闇に消えていった。
あるところに、一人の男がいた。 誰からも必要とされていないと感じていた。 誰からも感謝されないまま、生きている気がしなかった。 せいぜい、便利使いされて軽い調子で「ありがとさん」とだけ言われるのが関の山だった。 せめて一度でいい、多くの人に心から必要とされ、心から感謝されてみたい。 男はそう願った。 ある日、男は車にはねられた。 意識は戻らず、医師たちは脳死と判断した。 身元は不明だったが、臓器提供の意思表示カードだけが見つかった。 角膜を失っていた少女に、光が戻った。 肝臓の移植を待っていた青年が、退院した。 膵臓を得た男は、もうインスリンに怯えずにすむようになった。 両肺を移植された母親は、ふたたび子どもを抱きしめた。 そして、男の心臓は、重い病を患っていた少年の胸で、今も静かに鼓動を打っている。 誰も彼の名を知らない。 けれど、彼に感謝する人はたしかに存在している。 本当に、たくさんの人が、心から彼に感謝している。 ただ、それらの感謝の言葉が、当の男の耳に、彼の心に届くことがなかった。
深夜のファミレスはちょっとさみしい 人が少なくて、ちょっとさみしい その人たちは、どこか仲間のようで、でも、誰の名前も知らなくて、ちょっとさみしい ひとりでさみしいから、 仲間だよね? って、心のなかで問いかけてみるけど、誰もこたえてくれなくて…… ファミリーレストランなのに、ファミリーで来てる人なんてみあたらなくって、ちょっとおかしい いま、このさみしい雰囲気のなかにいる人たちをひっくるめてファミリーだっていうんならそうなのかもしれない だからファミリーレストランでいいのかも…… 終電を逃しちゃったよれよれスーツのサラリーマンも 何かを書きたくて、でも書けなくて、アタマをかきむしってる若い男の子も 窓の外の暗闇をじっとみつめて、きっと来てくれるわって願ってる髪の長い女の人も 何かしら起きてくれないかな、でも何も起こってほしくないんだけどね、そんな表情の店員も そして、何者とも呼べないこの私も ファミリーだっていうんならファミリーなのかな とってもさみしいファミリーだよね だから、ちょっとさみしい 口をつけたコーヒーが、すっかり冷めてしまってて、ちょっとかなしい ドリンクバーでいれかえてきたコーヒーはあったかだけど、いまの私の気持ちにはふさわしくなくて、ちょっとせつない わかってくれてないアイツみたいで、なんかさみしい そんなことを思いながら、朝になるのを待っているのは、とてもさみしい
「こちらチームX。人類滅亡の信号を受信しました。」 「了解。回収に向かう。」 *** 無機質な機械音と共に、無感情な船員の声が響く。 船の中には、"その時"を待ち望んでいた数人の職員と、次なる探索者達が集結していた。父の職場であるが故に、小さい頃から何度か訪れたことがある場所だったが、今となっては職員の一人。 今日は、数ヶ月ぶりに"その時"を知らせる信号が届いた。 チームの目的地惑星0。この星は特殊で、珍しく生命たちの進化が著しい。周囲には似たような惑星もあるが少々異質だ。 そんな惑星を、塵ゴミのように研究し続けるこの船の職員達は、選ばれし探索者となり、惑星0による最高の音楽を求めてこの星に根付く。時期は、終焉が近づくまでの数ヶ月。 未だ研究は目的に達した事がない。少なくとも、僕が生きている間には。最高の音楽を呈して造られた無数の過去も、今や残骸として宇宙の屑となった。恐らくこれから先も、続いていくのだろう。 「無事に回収しました。帰還します。」 再び響いた船員の声。司令室の空気は安堵に包まれるまでもなく、無機質な空間と同化したままだった。何も存在しないと錯覚するような空間に再び声が響く。 「次の探索者を発表する。」 この船の船長であり、最高司令官。 その姿はベールに包まれ、見たものは惑星0に赴き皆帰らぬものとなった。それが探索者達の運命であり、使命。 もちろん、使命を授ける者は船長だ。誰も彼には逆らわない、何故ならこの船で生き残る目的や意志もなく、ただの命を使う必要すら考えることも無い。揺らぐような僕を除いては。 「父さん、次は多分僕の番だ。」 顔色一つ変えずに振り向いた父と目が合う。何を言うでもなく、大きく息を吐いた。父が待つのは、信号だけ。お互い思い入れなどない関係に、お互い傷つくこともない。何も抱かず、ただ惑星0に向かうのみ。 * 最後に見た宇宙の景色を思い出す。 初めて見た船の外見は、今でもよく頭に残っている。 予想通り、探索者に選ばれたのは僕だった。最高司令官は、比較的若い男のようで、密かに想像していた人物像とはかけ離れていた。 ラジカセと呼ばれる古びた機械と、テープと呼ばれる小さな箱のような物。"その時"が来たら。セットをして▶のマークを押す。至って簡単な仕事だった。 そして、探索者にはもう一つ仕事がある。そう、最高の音楽を作ること。 あまり重荷にも感じない。無意味に捨てられた音楽達を知っている。 そしてなにより、この惑星には音楽が腐るほど存在する。 聞いたことのない音は何一つなく、今までの探索者達を気の毒に思った。 求められている対象もなく、最高とだけ示された曖昧なものに、誰もたどり着けるはずがない。 結局の所、あの船の中に居たのは、暇つぶしの為の娯楽を求め、空腹感を埋めているだけの者だった。 携帯の通知音が鳴る。 「今夜空いてる?たまたまチケットもらったんだけどどう?」 惑星0で出来た初めての知り合いからだ。 彼は音楽が好きで、色々な種類のおすすめを教えてくれる。 たまに気になる音楽もあるが、最高と呼べる音楽は見つからない。 "その時"が来る頃、自分がどんな音楽を作るかなんて、一音も想像できない。街中で流れる雑音こそ、何故か思うところがある。 無機質なのに、感情がこもっているかのように耳に馴染む。 「分かった。20時にいつもの場所で。」 わざと遅めの時間を教えて、街の音を求め家を出た。 この惑星の生命はあまりにも呑気だ。 もうすぐ滅びるとも知らず、内に湧く情熱を全てさらけ出しては、自慢げに他人を見渡していた。揺らぎ傾き様々な感情を観察しては、たまにそれを羨ましくも思う。何故なら、とても生きていると感じたから。 船に居たら気づかなかったであろう、感情というもの。 風を気持ちと表し、涙を雨に滲ませ、夜の静けさや太陽の存在すらも自分の為として上手く包み込む。 全てを感じる権利があると、何かを信じる姿がたまに崇高なものに思えた。全ては決まった出来事に過ぎないのに。 * この惑星に来て何年の時を過ごしただろう、仕方の無い時間だけが過ぎていった。 未だ最高の音楽を作る事は出来ていないが、それはこれからの事。 もう時期"その時"が来る。街は既に荒れ果て、すれ違う生命もぽつりぽつり。惑星0の終わりは近い、もう何度目の終わりだろう。辺りには炎や灰が舞っている。 爆撃とやらに更地化させられた地面に、セットされたラジカセを置いた。 また生まれ変わるこの惑星に誰も未練など抱かない。 ▶と同時に●を押し込み、街へ向かって歩きだす。 この破滅的な惑星には、きっとお似合いな音楽が出来ると信じて。 *** 「こちらチームX。人類滅亡の信号を受信しました。」 「了解。回収に向かう。」