取り扱い注意

「どうぞ、お入り下さい」 扉から顔だけ出した男が声を掛けた。 その声に、二十代後半の女が、緊張した面持ちで部屋に入った。 「失礼します」 「そちらにおかけ下さい」 長机を前に、二人の男が履歴書に目を通していた。 「前職は物流関係とありますが、どのようなことを」 「はい。通販サイトで、購入者様への配送業務でした」 「具体的には、どのような」 「はい。ご注文の品を箱に入れて、緩衝材も詰めて、待機しているトラックまで持って行く仕事です」 二人は、うなずきながらメモを取っている。 「では、弊社を希望した理由を教えていただけますか」 「はい。私事ですが、前の職場の同僚が、私の箱詰め作業を見て、何か感心したようで、御社を勧めてくれたというか…」 「なるほど。うちも箱詰め作業はありますが、結構大変ですよ」 「はい。頑張ります」 女は、笑顔で小さく頭を下げた。 「では後日、改めてご連絡しますので、それまでお待ちください」 女が部屋をあとにする。 「君、今の女性どう思う」 社長が人事の男に聞いた。 「そうですね。即戦力になりそうですね」 「君もそう思ったか。じゃあ、採用するかな」 ──ピコンピコン 女がメールを開いた。 「採用決定。 ご存知かと思いますが、弊社の制服は喪服です。ご用意お願いします」

暇だから電話したら怒られた

 暇だから電話番号交換している知り合いに電話したら怒られた。 なんか大先生が何かを中国で取ったのは初だとか何だとか言って僕を説き伏せていた。 それは僕の生活には直接は関係ないと言ったら(これから関係してくるかも知れない)海外の人にあなたは生活保護で馬鹿にされるよ、と言われた。 病気で働けない人を保護する制度なのに。 まあ煙草を吸っているが(それは反省材料) まあ要は自分の宗教に入らない穀潰しはいらない、という事を遠回しに言われたような気がする。 すごく怒っていた。 何か承認欲求を求めるように。 私はタクシーの運転手をやっていてあなたと同じ病気だけど働いていると言っていた。 親父が死んだことも知っていた(話したっけ?) 何か話していて冗談がなかった(余裕と遊びがないとも言える) 何か書いてて気が滅入ってきた。 僕の病気は治らないとも言っていた(中国は精神病患者が多いらしい何か関連があるのか?と勘ぐってしまう) 悪口を言いたいが宗教戦争になっても困るので詩を送ろう。 ちょっと面白くない詩かもしれない。 病んでる国に認められて病んでる人に病気治らないと言って自分も病んでて...思い付かない。 ようは病気なのだ(僕も向こうも) そっとしておこう。 いい詩が思い付くように今夜も寝よう。

もやもやの種

コロッケのおいしい惣菜屋さんがあって 流れでそのとなりのお店で野菜を買って 荷物が多くなりそうなときは 本屋とか雑貨屋とか、先に見てまわって 段取りをつけるのも、できるようになってきた 雰囲気のよさそうなカフェを見つけて ミステリイを多めに置いている古本屋さんを見つけて からあげと麻婆豆腐がおいしいごはん屋さんを見つけて でもまだ、友だちを見つけられていない 見つけるものでもないんだろうけど まじめにちゃんと講義に出ていると よく声をかけられる といっても、そのほとんどは ―ノート、コピー取らせてくんない うん… いいけど… かまわないんだけど その都度、何かを吸い取られている感じもあって やけに、もやもやする うまくやってるなあ 会社で働くようになっても、ああいう人たちは 要領よくやっていくんだろうなあ 日々、もやもやして、もやもやと、もやもやと もやもやの種はつきない

ひたすら静かにさみしい夜が

 お昼ごはんを食べたあとに降り出してきた雨は、辺りが暗くなっても降り続いている。途中、降ったりやんだりだったのかな。それは、おぼえていない。いつもこれくらいの時間に聞こえてくる犬の遠吠えは、あったとしても雨に消されてしまうかな。今日のところは小屋のなかで、おとなしくしてるんだろうな。  雨が降ったから本を読んであげているのに今日の雨は、わたしとリズムが合ってなくてなかなか読み進んでいけない。読んでほしくないのかしら。少しばかり雨脚が強くなって、それが雨からの返答だと気がつくのにいくらか時間をかけてしまった。たどたどしく、ときにはつっかえながらも読み進めていくその歩みはゆっくりで、けれど雨はうれしそうだ。 「ごめんね。ちょっと休憩させてね」  台所でミルクたっぷりのあったかいコーヒーを淹れて戻ると、雨はやんでいた。ひと息ついたからか、それともコーヒーの効果によるものか、はたまた……  すらすら読めるようになって、でも、そこにはちょっとくらいの物足りなさも。 「今日は、雨といっしょに読みたかったのよ」  わたしのつぶやきに応じてくれる雨は、待っていても降ってこない。夜が、ひたすら静かにさみしい。

自我を置く場所

 SNSに、日々の生活や政治への不満を書いていたら、『作家が自我を出すな!』と怒られた。    何度か繰り返し読んで、ようやく意味を理解した。   「なんで?」    最初に感じたのが、それだった。  SNSなんて、思ったことを思ったままに書く場所だ。  制限される理由がわからない。    思ったままに疑問を返信すると、相手もさらに返信をしてきた。  曰く、作家は歯車であるべきだ。  曰く、作家が自我を見せると、作家の作品を読んでいる時に作家の自我が浮かんでノイズになる。  曰く、この展開は作家の思想を広めるためではないかと疑ってしまう。    目から鱗が落ちて、しばらく画面を見つめていた。  そうか、そんなことを感じる人間がいるのかと衝撃を受けた。  私自身、作家の性格と作品は切り離して考えるため、まったく予想だにしなかった。  いや、よしんば自分が作家胃の自我に引きずられるとしたら、決して作家のSNSなど見に行かないだろう。  私の思考にない二つの感性を前に、私は何と返信すべきか悩み、『参考になりました』と礼を書き込んで終わった。    とはいえ、私に改善すべきことはない。  私にSNSを楽しまないという選択肢はないし、この怒る読者のためにしてあげられることは何もない。  今まで通りの発信を続け、怒る読者が私を見限ることを願うだけだ。  その方が、双方幸せになれるだろう。   「やれやれ」    暇つぶしに、タイムラインを眺めてみる。  フォローした人間以外の言葉が画面を覆いつくし、その中には様々な職業の人間の感情が表明されていた。    成果と給料が見合わぬと嘆く会社員。  理不尽なクレームに憤るコンビニ店員。  理不尽な要望に不満を漏らす教師。  自我自我自我。  自我だらけ。    やはり、SNSで自我を出すなというのは理不尽だと、奇しくも私は私の意見を肯定できた。    しかし、投稿を眺めていくうちに、ふと気づいた。  全ての投稿が、匿名によって行われていることに。  堂々と実名を出して自我を出せばいいのではないかと思ったが、昨今の機密情報漏洩ニュースを思い出せば、組織に所属する人間には本名と自我を紐づける権利が与えられていないのではないかと想像ができた。    作家は、立派な社会人の一人である。  一方で、出版社と言う組織とは、社員としての雇用とは異なる契約で繋がっている。  いわば、大衆の考える組織に属するとは一線を画する存在だ。    なにかが私の中で繋がった。  世の中の大半の人間が、契約によって自我を出さぬことを強いられ、それ故に強いられていない作家に対し、自我を出せることを羨ましく妬ましく思っているのではないかと。  そう考えれば、先の理不尽とも思えた返信に、ぎりぎり一定の理解が示された。  普通ではない存在と言うのは、いつだって疎まれてしまうものなのだから。    考えごとをし過ぎたせいか、腹の虫が鳴った。  私は最寄りのコンビニに向かい、パンと牛乳を買い込んだ。   「いらっしゃいませー」 「二点で○○円になりますー」 「ありがとうございましたー」    何度も聞いたコンビニ店員の声を聞き、私はふと気になった。  この店員の自我は、いったいどこにあるのだろう。  仮に、この店員が客にわかる形でSNSを発信しており、その中で『日本人なのにパンと牛乳とか、意味わからない。和食だろ普通』と書かれていたらどうだろう。  もしかしたら、この投稿は私に対する物かと疑い、私の買い物を精算している間も心の中で私を非難していたのではというノイズが入るかもしれない。    先の理不尽とも思えた返信に、さらに解像度が深まった。  コンビニへ出て、家に戻る。    青空に浮かぶ雲を眺めながら、であれば、果たして彼らの自我はどこへ置いているのだろうかと気になった。  空の果てか、家の押し入れの中か。  はたまた、居酒屋で酒と共に流し込んでいるのか。    私はやはりその疑問をSNSに書き込んで、自我をSNSの海へ漂わせた。

散りゆく恋に傘をさして

南天の花が散り始めている 細く、貼り絵のような枝は、通りに立つ謙虚な地蔵を思わせる 枝の先に水飛沫のような白い花 蜂がよく吸っていた、あの花が散って行く 傘をさして梅雨を過ごす。 あの花を思ってみては。

総理、正直になる。

地下三階の会議室に、全閣僚が呼び出された。 「なんか元気ないですね」 総理の浮かない顔に、視線が集まった。 「実は、娘に子が生まれたんだよ」 「おめでとうございます。総理も、おじいちゃんですか」 会議室に拍手が響いた。 「いや……赤ん坊の顔を見てたら、心が洗われたというか」 「ん……?」 「ぼくたちさ、嘘ばっかりついてきたじゃない」 「まぁ、それは、噓も方便で国民もわかってることでしょ」 「だから、もう嘘つくのやめようと思ってね。君たち、この前の選挙公約、覚えてる?」 総理が財務大臣を指さした。 「税金を下げる、でしたっけ」 「できるの?」 「無理でしょうね」 閣僚たちが顔を見合わせた。 「急に正直になったら、世間が混乱しませんか」 「でも、孫の前では、カッコいいおじいちゃんでいたいのよ」 翌日、総理が緊急記者会見を開いた。 「えぇ……明日からの外国訪問、ちょっと旅行気分、入ってます」

標本

放課後の理科室で、さくらは、捕らえたアゲハチョウの羽を まるで服を脱がすような、残酷で、迷いのない手つきでもって 一枚ずつ根元から丁寧に別ちはじめた  ぷつっ その音が響くたび、僕の心臓は、暴力的に跳ねる 繊細な鱗粉を指で汚しながら、最後の一枚を引き抜いた瞬間 さくらの喉がちいさく鳴り、彼女の全身から力が抜けた ―ほう 潤んだ瞳、上気した頬 生命を物質に変容させた瞬間の、無垢な放出 その淫靡な横顔に、僕は息をのんだ そのとき、さくらの視線が、僕の制服の イビツにせり出した一点に、止まった さくらの、顔が、にたりと、ゆがんだ ―ふふ、チョウチョおんなじ顔しとうよ ほくそ笑んださくらが、僕の服の合わせ目に、指をかける ―あああ、いけないっちゃね 僕の理性が、さくらの悪戯に、音もなく、とけて、いった

知ってよ

僕には足がない。これは生まれつき。 だから、車椅子で生活していた。 僕は今病院のベッドで寝ている。車に轢かれたから。 三日前、車椅子の車輪が道の凹んだところに引っかかってしまった。信号が変わると同時に車が突っ込んできた。向こうは信号しか見ていなかったのだろう。 痛かった。   母さんは毎日見舞いにきてくれる。 「ごめんね。私がちゃんとした身体に産んであげられなかったから」 そういって謝る。 僕は何も返さない。 声が出ないから。事故で喉が壊れた。  もし、声が出るのなら 「そんなことないよ。」っていうのに。 「産んでくれてありがとう」って言いたいのに。 自分を責め続ける母親に何も伝えられない。 あぁ痛いな。 「別に足なんていらない。」っていうのは嘘で、ちょっとだけ自分の足で歩いてみたかったけど。 足がないことは悪いことだけじゃなかったよ。   同じ身体障害をもった友達に出会えた。 腕のない和樹くんは僕の親友だ。もし腕があったら彼には会うことはできなかっただろう。   車椅子ならではの景色も見れた。 普通の人よりの少し低い目線だから、地面をせっせと歩く虫、散歩中のリードが伸び切るほど先を急ぐ犬、雨の日葉っぱに乗ったまぁるい雫。みんなよりも近くで見れたよ。 毎日がワクワクだった。      ――あ。  ペンを持つ左手が震える。事故で失ったのは利き手の右手。 僕は長くはないだろう。みんなは大丈夫だっていうけど、僕にはわかる。だから、伝えときたい。声はでないから、こうやって。 字が汚いのは利き手じゃないから、それはばかにしないでよね。 ペンをギュッと握り直す。   大嫌いな勉強だけど、一生懸命に教えてくれるから頑張ろうって思ったよ。先生。 みんなと違うから行きたくなかった普通の学校。でもね、みんな優しくて足がない分サポートしてくれた。クラスメイトたち大好き。 いつも忙しいのに、休日は僕を担いで公園を走った父さん。僕本当に自分で走ってる気分だった。 父さんの背中はずうっとおっきくて憧れだったよ。もう一回乗ってみたかったな。 和樹、君はいつも陽気でふざけてたよね。僕の手術前なんかはいつもより大袈裟にふざけて、病院の先生に怒られてたっけ。とんでもないやつ(笑)おかげで全然怖くなかったよ。君は本当にいいやつだ。  そして母さん。これだけは知っててほしい。 僕がもし生まれてなかったらこんな世界知ることはできなかった。 ありがとう。僕を産んでくれて。 みんなありがとう。 僕はほんっとうに幸せだった。   ――あの子が死んだ。  お医者さんは大丈夫だって言ったのに、急に容態は悪化した。  みんなが走っているのを眺めてたときも、私を見つけると辛さを見せないくらいの笑顔を見せてくれた。誰よりも優しい子だった。  ……なのに  最後は片手を失い、声も出せなくなってしまった。  私がちゃんと産んであげられなかったから。ごめん……本当にごめんなさい。  彼の寝ていたベッドを見つめる。彼がそこにいたであろう跡はまだ残っている。  私のせいでこの子はこんなに辛かったのに、私は生きててもいいのだろうか。  ――それなら、いっそ。 「ん?」  何かがベッドの端に挟まっていた。……手紙。  封には、ひどく震えた文字で『みんな、そして母さんへ』と書いてあった。    私はそっと手紙を開く。 もう聞けないはずの声が、そこにあった。

世界の終わりに君と

もしも明日、 世界が終わるとしたら何をしようか。 僕は、君と過ごしたいな。 前の日からお泊まりして、朝一緒に目を覚ます。 一緒にキッチンに立って、朝ごはんを作って、 リビングで二人、 今日は何をしようかって話しながら食べるんだ。 片付けも一緒。 僕が洗うから、君はどんどん拭いていってね。 お互いに準備が終わったら、 買い物にでも行こうか。 服や靴を見たり、 お揃いで何か見つけるのも良いね。 映画とかも見ちゃおうか。 今流行りの恋愛映画? ドキドキハラハラが止まらないアクション映画? 背筋がゾッとするようなホラー映画とかも たまにはどうかな? ホロリと泣けるような、 ファンタジー映画も良いね。 どんなジャンルも、君と見るなら楽しめそうだ。 その後は、ちょっとオシャレなレストランでディナーとかどう? 夜景が綺麗な所とか。きっと素敵だよね。 良い思い出になるだろうね。 お腹も心も満たした後は、 手を繋いで我が家に帰る。 今日は楽しかったねって話しながら。 二人で同じベッドに入って、少しお喋りしてさ。 月明かりに優しく包まれる夜に、 色々な事を語り合って、笑い合おうよ。 寝る前に、互いの頬にキスをして、 「おやすみなさい」って言い合って眠りにつく。 そうやって一日が終わって、世界も終わる。 幸せな気持ちに包まれて、永遠を生きる。 僕はこんな最後を迎えられたらって思うよ。 …急になんで、って? なんとなく。 想像の中でなら、 君と外の世界で、共に生きる時間を想像しても 許されると思ったから。 この白色とアルコールの微香に包まれた世界じゃなくて、鮮やかな色と優しい香りに満ちた世界を、二人で生きる、なんて想像を。 ねぇ。 君なら、どんな終わりを迎えたい?

こんな機能が欲しかった

郊外の家電量販店。 若い夫婦がテレビを買いにきた。 「たくさんあって、迷うわね」 並べられたテレビの前で、店員が二人に声を掛けた。 「よかったら、手に取ってください」 リモコンを妻に渡した。 「どれもいっしょね……なに? このボタン」 チャンネルの横に、ニヤケ顔の絵文字のボタンがついている。 「これ、何ですか?」 「あぁ、それは副音声ですね」 店員が説明を始めた。 「それを聞くと、ちょっとだけ安心しますかね」 「どういうこと?」 「どうぞ、お試しになってください」 妻はリモコンをテレビに向けた。 緑豊かな、この国の原風景が映った。 ボタンを押す。 『車がないと、ここでは生活ができない』 「……年取ったら大変ね」 チャンネルを変える。 シャッター商店街、町おこしドキュメント。 『ポツンと、おしゃれなカフェが』 「……常連が居座って入りづらいのよね」 料理番組、アップルパイを作っている。 『去年の台風で、リンゴはほとんど木から落ちました』 「……そんな年もあるよ」 「どうですか?」 口角が上がり、ニヤケ顔の夫婦。 「これ、買います」 「ありがとうございます。最近は、こちらが一番売れております」

売れない薬

ある製薬会社の会議室に、各部署の責任者が集められた。 中央には会長が座り、周りには社長以下、役員たちが並んでいる。 「君たち、なぜ呼ばれたか分かってるよね」 会長の重たい言葉に、皆がうつむいた。 「去年発売した新薬、全く売れてないだろ。なぁ、どうなんだ」 営業部長に視線が集まった。 「申し訳ございません。現在はこのような……」 資料をめくる音が続いた。 「誰か、開発にどのくらいの時間と費用がかかったか説明して」 研究室の室長が立ち上がった。 「研究から発売まで約二十年。費用も通常よりは……」 「臨床試験の効果もあったんだろう」 「はい。この国の最高齢だった女性にも、先日まで服用していただいていました」 「じゃあ、何で売れないんだ」 すると、隣に座っていた社長が割って入った。 「ドクターには、丁寧に薬の説明をしたのか」 「もちろんです。一日一錠の服用で、平均寿命より約十五年長生きできると。ただ、ご家族の反応が良くなくて」 「よろしいですか」 会議室の隅に座っていた女性社員が、手をあげた。 「たぶん原因は、これかと……」 そう言うと、薬に添付されている使用上注意の紙を配った。 そこには── 『まれに、異性に興味が無くなることがあります。その場合は、直ちに医師にご相談を……』

キッチンから君まで

コップの水を一口飲む、夜明けのキッチンで 君の腕を触るとひんやりと冷たい 毛布をかけ、ボタンも開けず背中から抱きしめる 私の体温が君に移っていく、口に触れた指を眠る君が口に寄せる 外で鳥が鳴いている、カーテンの隙間から明かりが漏れ入る 昨日開いたボタンを一つ一つ閉めていく 君から離れ、またキッチンに行く

影は、静かに息をする

スポットライトを浴びるあなたたちは、とても眩しかった。 同時に、共に光の下に立てないことが、とても苦しかった。 電灯が落とされた客席から眺める舞台は、美しい。 ある人生の一幕を演じる役者。 世界を形作るための舞台セット。 空間を想像するためのホリゾント。 観客を物語に引き込むための効果音やBGM。 そして、観客に「伝える」ために、演者を指導し、舞台を創造する演出家。 それらすべてが揃って、舞台は成り立つ。 演者だけでは、上演できない。 緞帳は上がらない。 舞台には立てなくても、 影から舞台を作るという役目は、私にとってとても誇らしいものだった。 それでも、時々思ってしまう。 小さな舞台で、彼らと同じように役を与えられるたびに。 ――君達には追いつけない。 ――隣で、演じるなんてできやしない。 って。 光に照らされることが怖かった。 他者の目に映るのが、怖かった。 自分とは違う誰かを演じる、ことが想像できなかった。 自分の演じるその人は、外から見れば間違いかもしれない。 何か違う、そう思われてしまうのではないかと思って、苦しかった。 だから、避けていた。 オーディションがあるたび、 審査される側ではなく、審査する側に立っていた。 それが、正解だと思った。 その役を演じている自分が想像できない私が出るより、 求められた以上の演技ができる彼らに任せた方が良いと、思っていた。 実際、正しかったと思う。 たくさんの議論を重ねて選んだ役者は、最高の演技を見せてくれた。 こちらの要望も、簡単にこなしてしまう。 そんな彼らが誇らしく、好きだった。 彼らの演技が、彼ら自身が、好きで、大好きで。 でも、嫌いだった。 私がどう頑張っても持てないものを持っていた。 舞台の上で全力で輝いて、たくさんの人の記憶に残っていた。 そんな彼らが羨ましかった。 でも、そう思う自分が、どこか濁って見えるのが嫌だった。 今でも、瞳を閉じればあの時の彼らの姿が瞼の裏側にいる。 あの時、客席後方から機材を触りながら見た、あの美しい世界が。 台本を決める時期も、役作りに勤しんだ時も、練習を重ねて役を見失いかけた時も、 幕が開いて物語が始まった時も、どれもこれも得難いもので、大切な宝物。 そう思うのに、上演が終わり、緞帳が下りれば少し淀んだ自分が顔を出す。 観客の目に映るのは、演者の姿。 陰で支えた者は映らない。 それがひどく寂しかった。 それでも、今思えば、どれだけ暗い気持ちを抱いていても、結局は好きだったんだ。 彼らが息を吹き込んだ物語が。 そして同時に、私自身が彼らが作った舞台に加われる何者かになりたかったんだと思う。 光を浴びるのを恐れる癖に、影で生きるだけでは物足りなかったのだ。 ずっと見ていたいと思った。彼らが描く物語を。 でも時々、目を逸らしたくなった。 見ていると、胸の奥がツキン、と痛みに声を上げるから。 誰の目にも触れない。 緞帳が上がれば、観客の視線は演者に奪われる。 私は影の中で音を操る。 役者の声に重なる波の音。 張り詰めた沈黙の中でも、時間は進むことを示す環境音。 暗転の中、そして物語の終わりを包む静かな旋律。 彼らの呼吸に合わせるように音を流し、 物語の鼓動を繋いでいく。 音を司る時間は、 光の中に立てず、拍手を浴びることもなかった私の、 ――私だけの舞台だった。 影は、静かに息をする。 誰の目にも触れない場所で。 緞帳が下りた、その後も。 ずっと。

デススメハラ

「あ、臭」 「くっさ!」    電車に乗ってきた一人の人間を、他の乗客たちが一斉に指をさす。  その人間は心当たりがあるのだろう、電車に乗せていた右足を後ろに戻して、体の向きを反対方向に捻って、立ち去っていった。    ある日より、人間は『死の匂い』を感じ取れるようになってしまった。  動物の死骸から悪臭がするように、余命が少ない人間からも独特な匂いがするようになってしまった。  最期まで人間らしく生きるという人間の権利と、悪臭というスメハラから逃れたい人間の権利。  二つの権利がぶつかって、結局世界としては結論が出せず、現在に至る。    駅構内を、一人の人間が速足で歩く。  死の匂いは、絶えず移動し続けていれば分散されて、大した匂いにはならない。  少し眉を顰める程度だ。   「匂い消し。匂い消し」    トイレの個室に駆け込んで、鞄の中からスプレーを取り出し、全身にかける。  死の匂いが緩和され、小便器の前に立って個室に険しい目を向けていた人々が、一斉に視線を小便器へと戻した。    二度目。  その人間は、電車の中に入ることを許された。  誰からも非難の視線を向けられることもなく、加害者という立場からの脱出に成功した。    電車が進んでいく。  皆が行儀よく席に座り、まるでここには善人しかいませんと言う顔をして。    死の匂いが、死の予兆を知るための重要な機能だということにも目を瞑り。   「あ、臭」 「くっさ!」    乗客全員から死の匂いが溢れ出る。  電車内は阿鼻叫喚。    強い衝撃と共に、ガタンと大きな音を上げて、電車は線路を飛び出して空へと投げ出された。

身代わり

 最近になって、自分の身代わりを生成できるようになった。    どのようにしてできるようになったのかは正直なところ、あまり覚えていない。  ただ、嫌な出来事があったときに身代わりは決まって現れるのだ。    今日も仕事でミスをして上司にガミガミと文句を言われているとき、僕が抜け出したいと強く念じると身代わりは現れた。  「あとはよろしく」と身代わりに告げて、僕は会社のビルの隣にあるカフェへと向かう。  一度だけ振り返ってみたとき、身代わりはペコペコと上司へ頭を下げていた。  初めのうちは自分の身代わりが怒られているのも不愉快だったが、もうずいぶんと慣れてしまった。  軽快な足取りでビルのフロントを抜ける。誰も僕を気に留めることはない。    彼女を見つけたのは交差点に差し掛かった時だった。  毛先まで真っ白な髪からのぞく、少しとがった耳。あどけなさの残る顔立ち。 その手にはラージサイズのアイスコーヒーが握られている。  一目でわかった、同じ課の神谷さんだ。  その、アニメに出てきそうなほど整った顔立ちと誰よりも課にいる歴が長く、年齢不詳であることが相まって、裏ではエルフなどと呼ばれている。  僕は交差点の向かいから渡ってくる彼女の顔をまじまじとみつめた。  彼女は段々とこっちに近づいてくる。  いいや、きっと気のせいだ。  身代わりがある以上、僕のことは誰からも見えていないはずだ。  それでも、彼女はこちらへ歩を進めてくる。  彼女はついに、僕の目の前で立ち止まり、まっすぐ僕の目を見て言った。 「アンタねえ、この前も言ったけど、その身代わり癖やめた方がいいよ。ほんと、私みたいになっちゃうから」    抜け出そうとしたところで少女のように小さい手でガッと肩をつかまれる。 「今日は逃がさないよ。ほれ、戻りな。」    気が付くと目の前には、見慣れたフローリングと革靴があった。  頭上からは上司の声が絶え間なく降り注いでいる。  誰にもばれないよう、ちらっと部屋の隅を見るとそこには、虚ろな目で耳に受話器をあてるエルフの姿があった。                          

妹がタコになった

妹がタコになった。 振り向いたら、なっていた。 私の腰ぐらいまでの大きさのそれは、触手をびちゃびちゃと振り回している。 慌てて両手で抱えて風呂場へ走る。 浴槽に入れて蛇口を開き、じゃぶじゃぶと水を入れる。妹は浴槽いっぱいに触手を広げ、水を引っ掻き回している。 人並みに重くて随分骨が折れた。漫画ではこういったものに変身する時、それ相当の大きさに縮むものでは無いのか。 床に座り込んでため息を吐きつつ考える。 さて、どうにか意思疎通が出来ないものか。 とりあえず自室に行き、紙とペンを用意して風呂場に戻る。 紙が濡れたら困るから触手のうちの1本をタオルで拭いて鉛筆を持たせる。 妹は器用に動かして文字を書いた。 『おなかすいた』 確かに時計は12時。お昼の時間だ。 「なに食べたい?」 『たこやき』 「却下」 おそらくだが見てていい気持ちはしない。というか自分の今の姿を分かって言っているのか。 私の物言いが癪に障ったのか、水をバシャンとこちらにかけてきた。長く続く反抗期には困ったものだ。 「共食いじゃん、マックのポテトとかにしてよ」 顔に付いた水を拭いながらそう言うと、触手でペチンと浴槽の縁を叩き、やれやれとでも言いたげに頭を振った。生意気な。それにタコのくせに人間くさい。あ、妹なんだから人間か、一応。 財布を取りに行こうと腰を浮かせる。そういえばやけに家が静かだ。母さんは出かけているのかな。 というか、 「あんた、タコになっても私の言葉分かるんだね」 「は?」 視界の左端に怪訝そうな妹の顔が見える。目線の先には天井。 そこで自分が休日の二度寝に洒落こんでいた事を思い出した。 「戻ったんか、人間に」 「何言ってんの?」 「母さんは?」 「買い物」 紙とペンを経由しない会話は楽でいいな。 身体を起こしながらカバンを探す。 「お腹すいてる?なんか食べ行こ」 「やった」 車のカギを握って玄関に向かう私の後ろを妹が歩いて着いてくる。当然のように水音は無い。 「なに食べたい」 「たこ焼き」 「よし来た」 今度は見てていい気持ちも悪い気持ちもしないと思えたから、カーナビに少し遠くのたこ焼き屋を設定した。

善自認

「これは愛の鉄拳だ! 君の為なんだ!」    殴る。  蹴る。  ぶん投げる。    痣だらけになろうが、血だらけになろうが。  だってこれは、善行なのだから。   「私のような善人の指導を受けられるなんて、君は幸せだね。他の人なら、こうはいかない。君は理不尽な暴力を受けて終わりだ」    全身を痙攣させながら、吐しゃ物をまき散らしながら、私の教え子は微笑んだ。   「は……い」 「声が小さい!」 「はい!」    いい返事だ。  きっと、彼は直る。  性自認と自認年齢という病気は、きっと完治する。   「さあ! 君の性別を言いたまえ!」 「男……です」 「よし!」    社会をよくすること。  人を正しい方向に導くこと。    それが、善人として生まれた私の責務なのだ。

雨は嫌いじゃない

雨は嫌いじゃない できれば傘なんてささずに街を歩きたい 雨に濡れて、いつでも潤っていたい でも、ヘンなやつ、と思われたくないから 恰好だけでもと、しかたなく傘をさす 雨は嫌いじゃない でも梅雨の季節は好きになれない もういいかげんいいんじゃないの そう思うことはすくなくない 梅雨でうれしいのは、水やりをサボれること… 雨がやんだ すばやく「あめ」と一緒に散歩に出かける ときどき道で、はじめましての人に声をかけられる ―「あめ」です、よろしくお願いします そう言うと、相手はすこし戸惑った表情をする ―あ、「あめ」は、この子のことです 横でちょこんと座るちいさい「あめ」を手で示すと 相手の表情がゆるみ、納得してくれる 「あめ」と名前をつけたのは、出会ったその日、雨が降っていたから そこまでは、もう言っていない めんどうだから

梅雨の日

梅雨入りのニュースを目にした。もうそれだけで身も心も重くなるような気持ちになった。でもどんよりしている暇もなく私は家を出た。 外はしとしとと雨が降っている。夏の暑さが長く続くこともうんざりだと考えながら歩いていると、ついこの前までただの木として認識していた木が、花をつけ、鮮やかに濡れていた。白いあじさいの花だった。 白色ながら雨露でいきいきと鮮やかに咲いているように感じられた。 昨日まで景色として目にも留めなかった自分を少し悔いた。 帰り道、朝の感動が忘れられず、いつもならば通ることのない階段と坂が多い道へ向かった。 日頃避けているだけあって、運動不足の身体に堪える。高台に着くと、膝が震え、息が上がり、心臓は普段考えられないような速さで脈打っていた。膝に手をつき、息を整え顔を上げると、もう雨は止んでしまっていた。 しかし、そこに浮かんでいたのは雫に濡れた色とりどりのあじさいと、雲の切れ間から覗いた星々だった。 私は傘をたたみ、ベンチに腰を下ろした。

駅の落とし物

寝坊をして急いで駅に行く。完全に遅刻だ。 ホームはいつもと違い通勤ラッシュが過ぎて穏やかな雰囲気になっている。 自販機の前で小さな女の子と母親がどれにするか楽しそうに話している。 その近くにホームから線路を覗くスーツ姿のオジサンがいた。 私が会社に遅刻の連絡をしている間も、ずっと線路を入念に観察している。落とし物なら駅員に言えばいいのだが、まさか降りて取らないよなっなんて思うくらい真剣に探している 「落とし物ですか?」 「え、あっ、はい。そうなんですよ」 「駅員に言って取ってもらったほうがいいですよ」 「はい、そうなんですが、どこに落としたか分からなくて」 「何を落とされたんですか?イヤホンとか?鍵とか?」 オジサンは笑顔で右腕を上げながら応える 「右手です。この間轢かれたときに、右手だけ、どこかへ行ってしまって」 「ママこれなに?」 自販機の下を覗いて小さな女の子が何かを指さしている

傘をなくしました。多分心も。

 傘をなくしました。多分私は愚かなのです。何人も見てきたおんなじ手口で、傘をなくしました。  自分で選んだ、自分好みの傘でした。  憂鬱な雨の日にも少しだけ前を向けるような、大事な傘でした。  傘の青さは空に溶けるようで、雨に馴染むようで、それでいて風に負けぬ強固な骨をもっていて。  素敵な傘でした。    眠気に負けて、手放したのです。  電車の中。偶然座れた席。それも手すりのそばにある席。  電車にたどり着くまでに少しだけ濡れてしまった傘。かさ。ああ、かさ。  眠気と共に抱きしめれば、服ごと濡れてしまいそうでした。  かさ。  ああ。かさ。  そして私は。  かさ。  私の慢心を選んだのです。  何本もの、置き忘れられた姿を目にしました。わかっていました。大事なものは手放してはならないのだと。  握りしめて、大事だと叫んでいなければならないのだと。  でも、私は目先の眠気に負けました。それから、濡れるのが嫌だなという気持ちに負けました。少しばかりの目先の感情に流されて、私は大事なものを失いました。  悲しいことです。大事だったはずなのに。  お気に入りだったはずなのに。  こうしてかいているうちに、傷が癒えていくようで、もの悲しくて仕方ありません。  大事とはこの程度のことだったのかと。  大切とはこの程度のものだったのかと。  きっと、傘と共に心もなくしてしまったに違いないのです。  そうでなければどうして、私は次の傘とお財布の膨らみについてなんて、考えているのでしょう。

トラックとループ

「そこの兄ちゃん!危ねえぞっっっ!!!!!」 「え?」 反射的にスマホから顔を上げ、右を向いた俺の視界にうつったのは猛スピードで鼻面を俺に押し付ける大型トラックだった。 距離はおよそ3m程だろうか。 反射的に右手を出すが、次の瞬間俺の右肩にトラックの鼻面が接触する。 俺の右腕は容易く押しつぶされてしまった。 体中を殴られるような衝撃とともに俺は空中にぶっ飛ばされた。 地面に体が打ち付けられたあとも衝撃は止まらない。ゴロゴロと体が回転する。 結局体感10回転ほどしたところで体が止まった。 肌の感覚がない。 腕も全く動かない。 ただ漠然と全身が鈍く痛かった。 視界が暗くなる 「そこの兄ちゃん!!!危ねえぞっ!!!!」 「え?」 スマホから顔を上げると大型のトラックが3mほどの距離に迫ってきていた。 俺は咄嗟に腕を出そうとして、やめた。 前回はここで腕がおじゃんになった。 俺は逆にトラックと向き合い。右側にダイブした。 トラックの軌道からはずれているか? 俺の左半身にトラックが激突する。 だめだ。飛距離と時間が圧倒的に足りない・・ 俺の体はゴロゴロと道路を回転し、10回転ほどで止まった。 痛い。痛い。 まただめか・・・ 8回目。失敗。 意識が暗くなる。 「そこの兄ちゃん!危ねえぞ!!!」 「え?」 スマホから顔を上げるとトラックが迫ってきていた。『死ぬとおじさんに声をかけられる瞬間まで戻ってくる。』いつも通りだ。 現在32回目。つまりこれまでに32回トラックに体を押しつぶされている。 死ぬほど痛い。というか死んでる。 地獄のような時間だ。しかしこれは特になんの悪行も働かずに生きてきた俺へのご褒美なのかもしれない。 体に衝撃が加わり、ぶっ飛ぶ。 地面で数回転し、止まる。 やはり痛みにはなれない。体をバラバラにするような衝撃が走り。痛みが意識を支配する。 しかし、すでに今回のループを捨てている俺は死を覚悟し、次に備えて思考を巡らせる。 そう、このループはご褒美だ。見ようによっては『死を回避するチャンス』を与えられているのだ。 あとはそれをモノにするだけだ。 視界が暗くなる。 87回目。 「おい兄ちゃん!!!危ねえぞっ!!!!!!!!」 これまで様々な方法を試してきたが、もう無理かもしれない。 なんでもやった。 すんでのところで横にかわすのは基本。 しゃがみ込んで衝撃を受ける面を骨が丈夫な背中にしたり。 ヤケになって手に持ったスマホをフロントガラスに投げつける手段まで試したが、結果は失敗だった。 もう。だめかもしれない。 そう考えると俺は急に自分が置かれた状況がおそろしくなった。 トラックが体にぶつかってきた。 体をバラバラにするような衝撃。 いや、実際体がバラバラになった回も何回かあった。 こんな激痛と衝撃に俺はあと何回なすすべなくぶつけられ続ければいいのだ? もしかして、永久に・・? 気が狂いそうだった。 しかし気が狂っても一度死ねば次の回で元通りだろう。 助けてくれ。俺を逃がしてくれ。だめならこのまま死なせてくれ。 俺は数回転して地面にぶつかる。 視界が暗くなる。次のループが始まる。 「兄ちゃん!危ねえぞっ!!!!!!!」 もはやおなじみとなったオヤジの声が聞こえる。しかしもうトラックから逃れるために足掻く気力は僕にはなかった。 休憩もなく、トラックに潰されては死んでの繰り返し。安らぐ時間といえばトラックにふっとばされてから事切れるまでの十数秒だけだ。 気が狂わないほうがどうかしてる。 俺は体中に力が入らなくて、地面に仰向けにぶっ倒れた。どうにでもなれ。 次の瞬間俺の鼻と額の5cm上をトラックの床が轟音とともに通過していった。 「・・・・・!!!!!」 起き上がる。 手も足も動く。 体の感覚もある。血も出てない。 生きている!!!!!!!! 「よ、よっしゃあああああああああ!!!!!!」 『ぶっ倒れると車高でギリギリ僕の体がトラックの下に入り込む』というのは流石にない発想だった。 極限の状況にさらされ続けた疲労が僕を救ったのだ。 視界は開けている。 オヤジがなにか叫んでいるが俺には何も聞こえなかった。 しかし、視界が徐々に暗くなっていることに気づく。 どういうことだ。僕は生きているじゃないか。 なんだっていうんだ!?おい!ふざけるな! 薄れゆく意識の中で、『ステージ1。クリア』 と聞こえた。 「おい兄ちゃん!!!危ねえぞ!!!」 「えっ?」 スマホから顔を上げると、道路のアスファルトを固める用のローラー車が僕に猛スピードで突っ込んできていた。

ドラマティック

今はとある女優が日本中に轟いている。名は黒田鈴音。しがない俳優志望の私ですらこの名を知らない人はいないと自信を持って言える大女優だ。世間では今売れてる大女優とゆう認識だが、業界の人々は黒田にとあるあだ名をつけた、化け猫と,,,理由は察っせるだろう。まあ,今の俳優業界はさておき私はいつも通り仕事終わりにドラマオーディションを受けた。毎回違うオーディションを受けてるとはいえ毎度面接時は汗がゲリラ豪雨の土砂降りのようにかく、この時だけは生きてるのか死んでるのかよくわからないが,結局現実は厳しいんだろうなーと半分以上諦めながら顔を淀ませながら面接室に入る。(柴夏目です!よろしくお願いします)序盤は高らかといつも通り本音を仮面に隠しながら挨拶をする。(それでは演技をお願いいたします。)私は3番手の順番とはいえやはり面接は1番目か,2番目にいたかったなーと内心羨ましながら他のオーディション者の演技を聞く,やっぱり倍率が高いだけあってみんな演技が抜群だ,正直絶望もしている、だが私は今度こそ抜擢されるぞ!とあえて勘違いしながら私はつらつらと自分なりに求められる演技を淡々とこなした、今度こそもうしがない人生からは終わりなんだと思いながらついに演技を終了させた。(それでは今回のオーディションを終了致します、一週間後の22日に結果が発表されますのでよろしくお願いいたします。みなさんお疲れ様でした!審査員の少し曇られせた声が私たちの気持ちを少し沈めながら私は(ありがとうございました!)と元気に放った。[一週間後] メールが来ていた,私は内心心をバクバクさせながらメールの文章をスマホに手を伸ばしながらスライドしていく。(柴夏目さん,結果は合格です。これからは〇〇事務所で台本配布、キャスト交流がありますのでよろしくお願いいたします。) 黒田鈴音演じる主人公柴夏目はしがない俳優志望の大学生!とあるオーディションをキッカケにまさかのドラマ出演!?主役とゆう立場で柴夏目はこれからどうなっていくのかーー ドラマ(アクターアクター毎週木曜夜10時半放送予定!)

D.H.Q ~記憶の欠片、虹の川~

…バッグから瓶を出して中の粉を空に撒くと立派な虹が出来ました 虹は近くで見ると川になっていて、虹の川には小舟に乗った船頭さんが待っています 僕等が近付くと船頭が手を振って応えてくれて、僕等がここに来ることを知っているかのようでした 虹の川はとても広くて大きな川でした。川にはちゃんと魚もいて、鴨や鷺もいます。 緩やかな流れの中をプカプカと舟は進んでいきます 僕は魔法使いから貰った鍵をポケットから取り出ししげしげと眺めていました 黒い金属が錆のようなザラザラに包まれていて知らない文字が刻印されています …

キャリアコンサルティング

「なぁ、俺たち、なに作ってんの?」 「さあね」 路地裏にある町工場。金属を削る音が響いている。 「コンニチハ」 カタコトの外国人が、小さな鉄の扉の前に立っていた。 「いらっしゃい。待ってましたよ」 社長は握手を交わすと、奥の事務所に案内した。 従業員の男たちは、ガラス越しに二人を見つめた。 「なんだろうな、こんなボロ工場に」 「珍しいな、外人とか」 蒸し暑い工場。背中にシャツが貼り付いた。 「もしかして、俺らが作ってんの、機密部品とかか?」 「それはねえだろ」 「いや、わかんないぞ」 二人は図面を広げて話し込んでいる。 「やっぱ、なんかの重要な部品だ」 「俺らの技術、スゲーな」 男たちは嬉しそうに、機械を回した。 ──夕方。 「社長、この部品、何に使うんすか?」 「お前たちは、知らない方がいい」 薄笑いを浮かべながら、社長は事務所に入った。 そこに、作業着姿の嫁が声を掛けた。 「あんた、昼に来てた外国人、誰だい?」 「あれか?……ただのエキストラだ」 「なんだ、それ」 「あいつらの背中を押してやったんだよ」 嫁が呆れ顔で夫を見た。 「あんたねぇ……背中押したら、こんなボロ工場、みんな辞めるぞ」

桜の雨

 卒業式の教室の窓に、桜の雨は降らない。  佐野昂平が中学生だったとき、そんな事を考えていた。  実際、あの頃は桜の雨は降るどころか桜の花自体咲いてはいなかった。自分の卒業式でさえ、冷たい風が吹くばかりで、桜が綺麗だなどと同級生を言葉を交わしながら別れた記憶はひとつもない。  あれは入学式か、そのあとくらいに咲くものだろう。そう思っていた。  だが、今は違う。温暖化の影響か、それともただ自分達がおかしかっただけか、卒業式の教室の窓には桜の雨が降る。  はらはらと小指の爪くらいの大きさの、薄紅の花びらが春風が吹く度に舞い、窓を叩きつけるのだ。音のない雨は生徒の歓声をあげるのに一役買うばかりで、誰もその光景が異様だとは感じない。  卒業生も、在校生も、かつて子供だった親や教員の誰一人さえ、それが当たり前で、いいことで、別れを惜しむにちょうどいいもの。その程度の事くらいに思っている。  自分のときには咲いてくれなかった桜の花は、爛漫と咲き乱れ、雨を降らし続けている。 「何がそんなに不満なんですか?」  小脇に花束を抱えて、卒業する女子生徒の一人が昂平に話しかけてきた。女子生徒は剣のあるつり目をこちらに向けて昂平が何か言うのを待っている。  別に不満などない。そう答えた。ある意味本当の事だった。不満らしい不満は特にない。  だがその返答は、女子生徒からしたら嘘に見えたらしい。 「嘘つかないでください。不満だって顔に書いてあります」  そういって彼女はさらに目をつりあげる。思わず苦笑がもれた。 「不満そうな顔に見えるのなら、それが俺の本来の顔だったんだよ」  そういって煙に撒いた。女子生徒がなんですかそれと言った。  何も不満を見透かされたからじゃない。むきになっている訳でもない。  桜の雨が降る教室に、過去の自分の醜い幼さ──つまりは桜が咲く笑顔の卒業式なんてなかった、と、残念に思いながらくすぶり続け、それがいつか見られたならと教員になった、執念深い自分の姿を、みられたくなかった。  ただ、それだけの事なのだから。

逃げ場

 学校に逃げる場所はない。  教室はさることながら、トイレにも人がいる。図書室も保健室も、逃げ場にはならなかった。  図書室は、教室の空気に耐えかねた人間がいる場所だ。すでに人がいる。保健室は、具合の悪い人がいくところだ。元気な俺は入れない。  そもそも、生徒がいなくても、教員がいるなんて事は多い。部室も空き教室もなんだかんだで人がいた。  結局、俺はどこへ逃げればいい。人がほとんどいない、静かな場所がほしいだけなんだ。人のいるところは息がつまる。授業と、その間にある休憩の時だけで十分だ。昼休憩の時まで一緒に人といたくはない。  その事を俺は担任に話した。担任は、「だったらここを使っていい」と、ある部屋の鍵を渡してくれた。 「昼休憩は、鍵を借りてそこで過ごせばいいよ。内側から鍵をかければ誰も入ってこないし、鍵がないのならそこにいるんだなって、自分もわかってありがたいから」とのことだった。  それ以来、俺は昼休憩になると担任から鍵を借りてその部屋に入る。入って一人で過ごす。誰も入ってこない俺だけの空間。俺一人しかいなくて、誰も俺の思考や行動を邪魔しない場所。心穏やかに過ごせる部屋。完璧だった。とても充足していた。息苦しさはだいぶ軽減した。俺は学校へ行くことが苦ではなくなった。逃げ場がないと思うことはひとつもなく、少しずつ余裕が出てきた。担任と話せるようになった。  担任と話せるようになると、色々な事が見えてきた。  まず、俺が昼休憩の間、平穏な空間を手にいれていたのは、ひとえに担任のおかげだった。担任は俺に鍵を渡したあと、なるべくあの部屋周辺は近づかないようにと他の職員に話していたそうだ。  そうすることであの時間だけは、近寄らないようにしてくれていたらしい。  職員によっては、生徒も近づけさせないようにしてくれていたとかで、俺が誰も来ないと思っていた逃げ場は、担任や職員が作り上げていた砦のなかだった。  それと、同級生たちは俺が昼休憩になると、あの部屋にいるのを知っていたらしい。  と、いうより、俺が昼休憩になると、教室から逃げだすのを知っていたそうだ。一人になりたいんだろう。そっとしておいてやれ。なんて言われていた事もあったとか。  正直、俺は誰も自分を見ていないし、自分がどこへ行っているか知らないだろうと思っていたので、その話を聞いたときはものすごく面食らった。  同級生は、ただ黙っていただだけなんて、夢にも思わなかった。  そして、自分は思っていたより、周囲を見ていなかったんだなとも。  そう思えてからは、俺は昼休憩になると、同級生の誰かに声をかけるようになった。  あの部屋に行ってくる。何かあったら担任に言っておいてくれ。それを伝えるだけだった。  それで、同級生の誰もが「わかった」とか「任せろ」と快く送り出してくれた。  担任から鍵を受けとる時、このくらいの時間までいると告げるようになった。  そしたら、「じゃあその間は人を近づけないようにするよ」と笑って鍵を渡してくれるようになった。  俺は今日も一人であの部屋で昼休憩を過ごす。  ただ、ここは逃げ場だとは思ってない。みんなが作ってくれた、俺のための居場所だった。

お狐さまと暮らす特に何も起こらない日常:03

【晴れときどきくもり、つごうにより回想 その一】  お狐さまの話を会社なんかですると必ず聞かれることがある。 「お狐さまというのは人なのかい? それとも…」  僕は返答に困ってしまい、黙りこくるしかなくなる。そうすると相手はいたたまれなくなって決まって、聞かなければよかったなあ、と、そんな顔を僕に見せてくる。そんな表情をさせてしまい僕は申し訳ない気持ちになる。それも決まってることだ。それでお狐さまのことを知らない人に、お狐さまのことを話すのはやめにしてしまった。そう決めてしまうと楽ではあった。けれどそこで、はたと気づく。誰にも話せないんだなあ、と。   ・  そのあたりのとき、おキツネさまは残業続きだった。 「お疲れさま。ごはんできてるよ」  今日はおキツネさまの番だったのだけど僕がつくった。 ―すまぬな  そういったことをおキツネさまは表情だけで僕に伝えると、ささっと瞬時に帰宅後のやることを終え、楽な恰好になってごはんの前に着席した。 ―サバのみそ煮であるか。うむ、生き返るようじゃあああ 「大袈裟だなあ」 ―いやいや、本心である  ひとつの部屋で一緒に暮らすようになったら、互いの嫌なとこをそれこそ見たくなくても見ることになるのだろう、そういった覚悟を決めていたし、そこから流れ着いてケンカに発展して、なんてことも考えてはいた。事前のその予想に反し、いまだに僕たちはケンカらしいケンカというものをしていない。そのあたりのことを会社の先輩に聞いてみた。もちろん、おキツネさまのことは言わないで。やはり、いくら仲がよくってもケンカの一度や二度は当たり前にしているようなのだ。かといって僕は、おキツネさまとの関係を異常だとは思っていない。別に会社の先輩に「お前たちは異常だ」と言われたのでもないけど。好き嫌いやセンスの違いは多々あれ、相手の好みや思考をそれなりに尊重してるから、なのかも、と、これは僕なりの考察だ。

今日のおやつ

土曜日。私は仕事に行くため、子供二人の世話を夫に頼んだ。おやつに、一箱のキャラメルを用意して家を出た。 「ただいまー」 「おかえりー」 「キャラメル、美味しかった? あ、全部食べちゃったんだ」 「うん!」 一箱十二個入りのキャラメル。一個でいいから、私の分も残しておいて欲しかった。 ⑫÷③=④ みんななかよく4個ずつ ⑫÷④=③ みんななかよく3個ずつ 誰も⑫÷④をしようと思わなかったんだな。 「……」 「ママも食べたかったの?」 「あ、あとで、買ってくるから」 自分の分も残しておいて、と伝えておけば良かったんじゃないかって? 別にキャラメルが欲しかったわけじゃない。 欲しかったのは思いやり。 日曜日。昼寝から目を覚ますと、折り紙で包まれた四角いものが枕元に置いてあった。 一生懸命に包んだつもりなんだろうけど、折り紙とテープの隙間から中の箱が少し見えている。中身は、限定のアーモンド入りキャラメル。 「ママ おつかれさま」と書かれたメモが添えられていた。 今日のおやつは、⑫÷④

心配しなくても医者は要らないかもしれない

 蝸牛を一杯触っていたらしい。 蓄えられた体内のフルボ酸がマックシングを起こす(少年漫画の読みすぎ) ゼプリオンを打っている。 変態性欲は伝播し抑えるために動く。 月は変態だ。 羊の皮を被ったヤギだ。 ちょうどいいかもしれない。 眠い夜に書くカルテは厚労省を脅かす矛になるかもしれない。

アンダースロー

雨が降っていた。縞々、ビニール、猫柄などなど、みんな思い思いの傘を家から持ち出して電車の中はさながら傘の展覧会みたいになっていた。駅につき、扉が開く、目的地の人は立ち上がる。ここまではいい。折りたたみ傘が落ちる、それに気づかず彼は降りる。これは大問題だ。多分時間にして1秒間全員気づいて何もしない誰も。それはそうだ、カランコロンと音を立てた物体の1番近くに座ってるのは自分だ。その0.5秒後立ち上がり、傘を持ち、追いかける。けど扉で止まる。もしここで降りて電車が行ってしまったら惨めだから。張本人はイヤホンしてるから声は届かない。そんなことを考えている最中に、僕の腕は大きく弧を描き振りかざす、アンダースロー。放たれた一投は、持ち主の二歩手前に転がり、無事あるべき人へ。一連の出来事を皆見ていたが、事が収まると何事もなかったようにスマホに目を落とす。拍手の一つがあってもいいのに。電車はしばらくその駅で止まってから出発した。

夕陽

電車は各停がいい。身に余る早急は、視野を狭くする。まばらに空いてる席、夕陽が差し込む窓、静かに揺れる手すり。そして僕の目の前には、にぶい茶髪のお姉さん。気だるそうにスマホを眺めている。橙色に輝く夕陽が茶髪を照らす。まるで仏様の後光のように、イエス様の導きかのように。大学デビューにとりあえず染める安っぽい色から、今この瞬間1番愛しい色になった。お姉さんは眩しそうにすると、後光を避けるために、導きに逆らうかのように僕の隣に座った。

エメラルドグリーンの予定

25時、カフェで隣の男1女3のグループの話し声が聞こえてきた。ひたすら愚痴を話してて、それ自体は別に面白くもなんともなかった。けど金髪の多分一回生かなって女の子がスマホのカレンダーアプリ?を他の人に見せて、「見て!エメラルドグリーンの予定!全部合宿で休みないの!」って口を尖らしていた。エメラルドグリーンの予定って!エメラルドグリーンって!普通に緑とかグリーンとかでいいはずなのに。彼女にとってエメラルドグリーンが何か特別なものだったのか、あるいはアプリのその色が本当にエメラルドグリーンすぎるのかなって気になった。で、これは怒ってる話なんだけど周りの反応が、あーそうなんだとか、たいへーん!みたいなありきたりだけ。わざわざエメラルドグリーンって言ってるところが、彼女のファンキーな金髪にそぐわないメルヘンな愛らしさなのに。きっと彼らはずっとモノクロなのだろうと見下した。彼女は他の予定にはどんな色を割り振っているのかなとか、彼女の中のエメラルドグリーンの予定ってどんな位置付けなのかなって気になったけど、誰もそんなことには興味がないらしい。もしかすると彼女のメルヘンも無意識に溢れてきたものだっただけなのかも。しばらくして、先輩らしき男が1人合流してその集団はカフェをあとにした。そいつらがその後にカラオケに行ったのかシーシャに行ったのかホテルに行ったのか解散したのかは知らないけど、カフェは静かになった。そういえば僕の中学時代のノートは、国語は紫、数学は青、英語は赤、社会は黄色、理科はエメラルドグリーンだったなって。

季節は夜に動いていく

季節は夜に動いていく 少しずつ、雨の夜が、深まっていく 地下の台所にこもって、二度とは同じ味にならないスープをつくる 湿り気を帯びた空気が鍋の熱気と混ざり合い 呼吸をするたびに肺が少し重たくなる 梅雨どきのきゅうくつな空気にあらがうように ハーブを多めに放り込んでみる 香りが鼻を抜けた瞬間、不思議と心まで軽くなる 分量なんて測らない そのときどきの野菜の硬さ、火の通り具合、あとは私の気分 すべてを鍋のなかに溶かし込んでいく 誰にも再現できない、この瞬間だけの味 一枚一枚、上に着てるものを少なくしていって もう脱げないとなったらホットコーヒーをアイスに変えて 冷たいグラスの水滴が、熱を帯びた指先をなでていく 汗ばんだ肌に、心地いい冷たさが染み渡る 喉を通り抜ける氷の感覚が、台所の蒸し暑さを忘れさせてくれる 体を動かす仕事だから、夏はもちろん、冬でも容易に半袖になる 昼間は感じることの少ない季節感 じっとりとした夜の気配に、ようやく自分の体温に気がつくくらい 心はまだ、地下の鍋の熱を保っている スープづくりもひと息ついて、冷たい珈琲でも 煮詰まった香りを冷ますように、窓を少しだけ開けてみる 街の喧騒と、かすかに土の匂いが混ざった空気が流れ込む このわずかな時間が、私を現実へとつなぎ止めてくれる 季節は夜に動いていく 少しずつ、雨の夜が、深まっていく