婚姻届が届いた。 配偶者の個人情報が書かれる欄には、『匿名』の文字が印字されており、相手が誰なのかはわからない。 私は、自分の個人情報の欄を埋める。 そして、婚姻届を返送用の封筒に入れ、役所へと郵送した。 これで、数日後には、私は名も知らぬ相手と結婚する。 「あっけなかったなあ」 私はソファに座って、天井を見上げる。 両親の仲が良かったから、子供の頃はあたりまえに結婚するものだと思っていた。 しかし、大人になった私は、結婚に興味を持てなかった。 残ったのは、次々結婚していく友達と、私の結婚を楽しみに待っている両親の顔。 だから、匿名結婚を利用した。 私は公式に既婚者となり、親の嬉しそうな顔を見ることができた。 「あー。子供も作らないとなあ」 しばらくして、病院から封筒が届く。 体外受精をするために、必要なものが揃ったらしい。 私は予定を確認して、候補日の日程から一つを選び、封筒を郵送した。 「思ってたのと違うけど、これが現代の幸せなのかなー」 私は封筒を投函したポストを見つめ、郵便局のバイクによって回収されるのを見届けた。 私は、バイクを運転している人間の名前を、もちろん知らない。
ポエム新落語 昔のこと 誰もが知っている「もんがい」 時は元禄、今は令和 今宵は、もんがい このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている 誰だ それからどうした おぬしは 何者 門外不出で ござるな ごようごよう そのあとどうした しらないやつには ごようと言っても ようはなし こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ ## #ポエム新落語 #ポエム #いろはの作品 #ことば作家 #新落語 #いろはの咲 #ポエム新落語作家 #ショート落語 #アメブロ #note #pixiv #エブリスタ #カクヨム #ノベマ #X #mH6z2yQHpn59104 #Prologue #テラーノベル #showroom #ライブ配信ショールーム #新落語作家 #中谷美咲 #中谷俊治 #中谷美咲※日本国戸籍名中谷俊治 #ポエム落語 #誰もが知っている #今宵は、 #一文字シリーズ #時は元禄 #今は令和 #ポエム落語 #こんなのどうでしょう #書けるもんなら書いてくれ #インスタsaKi27275 #threads:saKi27275
山間部にある限界集落。 集会所に年寄りたちが集まった。 「だいたい集まったな」 村長が、長机を挟んで座った。 「今日は、村の今後のことを話そうと思ってな」 「どうした、急に」 「昔みたいな、賑やかな村に戻りたいだろ」 ──ガラガラガラ。 玄関の扉が開いた。 「遅くなりました」 スーツ姿の男が入ってきた。 「おぉ、待ってたよ。この人、ホラープランナー」 年寄りたちが、視線を向けた。 「村長、あんた何考えてんだ」 「この村、空き家多いだろ。それ使って、お化け屋敷作る」 男が、声をあげた。 「私は、お化け屋敷の企画から立ち上げ……」 「ちょっと待て。村に、お化け屋敷作るってか」 村長が立ち上がり、窓の向こうを指さした。 「若い奴らって、心霊好きだろ? しかも、没入型だ」 「なんだ、それ」 男が一枚の紙を取り出した。 そして、年寄りたちを見渡すと、大きくうなずいた。 「まぁ、開業は二、三年後ってとこですかね」 ──契約書。 『死後はキャストとして勤務すること』
僕と女子3人は寒い教室で、黙々と箒を動かし机を運んだ。 鈴木は一度も掃除当番をやったことがない。いつも僕や女子に押し付けている。 もちろん僕らは何度も担任に訴えた。だが、その度に担任は、 「鈴木~あかんぞ~」 という、やる気のない注意で済ませただけだった。 結局、教師も、こんな低ランクの公立校で真面目ぶってる生徒より、鈴木のようなコミュ力のある人気者に乗っかる方がラクで楽しいのだ。 だが、そんな態度は他の生徒にもすぐに伝わる。 最初は掃除に加わっていた生徒も、一人、二人と抜け、男は僕一人になってしまった。 すると、廊下の窓から松本が顔を出して、 「小野く~ん、ハーレム状態やん。うらやましいわ~」 と、はやし立ててきた。こいつも鈴木の次くらいにお調子者で通っている。 「うらやましいなら、代わったるで」 と言うと、 「モテたいけど、掃除はいらん!」 と逃げて行った。 「ヤリチンゴミ男はみんな死ねばええねん」 僕はうっかり心の声が口から出たのかと思った。 だが、言ったのは村山さんだった。 と言って逃げて行った。
「ほーら。ご飯ですよー」 娘が、お人形遊びをしている。 微笑ましい光景だ。 お人形遊びに使っているのが、呪いの人形であるという一点を除けば。 娘が、おもちゃのお菓子を人形の口に近づける。 人形を小刻みに動かして、お菓子を食べさせるふりをする。 翌日。 俺は太った。 たった一日で、十キログラム増。 脱・中年を目指した筋トレの結果は、一瞬で消え去った。 「はーい。髪を切りましょうねー」 娘が、人形の髪をはさみで切っていく。 黒い毛糸が、人形の頭から床へと散らばった。 翌日。 俺は禿げた。 美容師から強い毛根とお墨付きをもらっていたのに、完全に河童。 タオルで磨けば、良い音がしそうだ。 「なあ。そろそろ、娘から人形を取り返してくれよ」 俺は妻に泣きを入れた。 妻は包丁を動かす手を止め、最高の笑顔を俺に向けてきた。 「デブでハゲてたら、さすがに浮気できないでしょ?」 俺は何も言い返せず、すごすごリビングに戻った。 ソファに座っていると、娘が最高の笑顔で近づいてきた。 「パパ見て! ブーブー! ママが買ってくれたのー!」 人形と、車の玩具を持って。
大使館の柳が青青として、時折風になびく。白白としたその花は上風に摘まれて、きっと揚子江から片道の旅に出る。漢口の春は、その無機質な街並みと雑踏の中に芽吹く。 だが、その低い色彩の中にも好きなものはあった。冷コーは私にとってのそれで、専らコルトレーンと煙草の中で飲むのが格別である。ティールームから少し行けば聖母様が居て、更に先に仏蘭西の租界が見える。レンガ造りを想いながら又ブラウンのコーヒーを一口すする。香ばしさがいよいよ舌の上に伝わって、傍らの小さなミルクもあの目地を懐わせた。 いつかの記憶を抱えながら、頭上を悠々とゆくカーキの小型飛行機を見る。租界も三教街もわからなくなってしまって、米兵のジープが駆けてゆく。未だくすぶっている火の中に、灰にまみれたコーヒーカップを見つけた。辛うじて持ち手が残っている。立ち上る香は、決してモカのそれではなかった。 又大使館の柳が咲いた。花は上風に摘まれて、無機質な雑踏に消えた。すっかりBarracksだらけになってしまって、荘厳さを喪ったこの街に、私はいつまで居られるだろうか。直に本土も陥落するだろうという話を、隣に座っている他の租界の人間がしている。ティールームの窓の外から外を眺めても、代用コーヒーは味の一つもしなかった。
ある日の夕方。 テレビのローカルニュース。 アナウンサーが原稿に視線を向けた。 「今日の午後、17歳の高校生が民家に忍び込み、現金3,000円を盗んだ容疑で逮捕されました」 画面に、口元だけの女が映った。 『挨拶もきちんとできるいい子よ。 そこの公園で、いつも一人でサッカーボールを壁にぶつけてたわ』 モニターを見るアナウンサーが、小さくうなずいた。 「次のニュースです。 今日の午後、17歳の高校生が地元サッカークラブへの入団を決めました。契約金は3,000万円だそうです」 画面に、笑顔の女が映った。 『挨拶もきちんとできるいい子よ。 そこの公園で、いつも一人でサッカーボールを壁にぶつけてたわ』 モニターを見るアナウンサーが、小さくうなずいた。
なにが"寒さなんかすぐに慣れる”だ!マイナス30℃なんて慣れでどうにかなるレベルじゃないだろ! いやいや、惑星の中には、もっと過酷な環境の星がたくさんあるだろう、と思うかもしれない。 だが、そういう所は全てがコロニーの中だけで完結するように造られている。むしろ惑星コルダリのような、ギリギリ人間の許容範囲なところが一番キツイのだ。 俺はこのひどい任務を押し付けたザス部長の顔を思い浮かべて、机の上にあったキャンディーの缶を壁に投げつけた。缶は百年前のアニメキャラクターが描かれた復刻版だった。 青い四角い缶は蓋が外れて、緑色の包装紙に包まれたキャンディーが、キラキラと床にばら撒かれた。
山あいにある小さな沼のほとりを、中年の男が歩いている。 「釣れますか?」 石の上に座った年寄りの男が、釣りをしていた。 「さあな」 しばらく水面を眺めていたが、魚が掛かることはなかった。 男は家に釣り竿を取りに戻った。 そして、年寄りの男から少し離れたところで、糸を垂らした。 「釣れますか?」 帽子を被った男が声をかけた。 「さあね」 その男もしばらく水面を眺めていたが、魚が掛かることはなかった。 帽子の男は、車に積んでいた釣り竿を取りに戻った。 そして、中年の男から少し離れたところで、糸を垂らした。 「釣れますか?」 膝下ズボンを履いた男が声をかけた。 「さあ」 男はしばらく水面を眺めていたが、魚が掛かることはなかった。 膝下の男が年寄りに近づき、置いてあったバケツを覗いた。 「……ここ、何が釣れますか?」 年寄りが振り返った。 「知らんよ。ここ、この前の大雨の跡だ」 男たちは二人を横目で見ながら、浮きが沈むのをじっと待った。
優秀な奴隷だった。 ぼくのやりたいことを、先回りしてやってくれる。 ぼくのやりたくないことを、先回りして潰してくれる。 ぼくはその奴隷に、自由を与えた。 「お前は、今日から自由だ」 次の瞬間、ぼくは名誉ぼくの奴隷によって殺された。
宇宙空間の端っこ。 地球からずいぶん離れたところに、知的生命体の住む星があった。 「偵察隊からの連絡は、まだないのか」 「はい。通信は途絶えたままです」 この星の研究者たちは、移住先を探すため偵察隊を送り出していた。 「早く見つけないと…」 科学技術は進んだ。しかし、それと同じくらい自然破壊も進んだ。 「室長。我々は、どうしたらいいんでしょうか」 「わからん。彼らからの連絡を待つしかない」 その時、微かな電波を受信した。 「ん…何かのニュース映像みたいだぞ」 「おぉ。見てみろ」 画面の前に、大勢が集まった。 「偵察隊が、歓迎されてるぞ」 画面は、そこで切れた。 「もう、向こうで生活してたんだ。室長、我々も今すぐ行きましょう」 皆、宇宙船に乗り込み、偵察隊の待つ地球へと旅立った。 誰もいなくなった星。 研究室の受信画面から、映像の続きが流れ出す。 マイクを持った女性が、水槽の中を覗き込んだ。 「今年も、ここから全国に出荷されます」
ポエム新落語 人のいろいろ 誰もが知っている「別れ」 今宵は、あなた このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている 相手 それからどうした アナザー 英語で別れ そのあとどうした あなたとの 別れの日が来ましたとなる こんなの どうでしょう 書けるもんなら書いてくれ # # #ポエム新落語 #ポエム #いろはの作品 #ことば作家 #新落語 #いろはの咲 #ポエム新落語作家 #ショート落語 #アメブロ #note #pixiv #エブリスタ #カクヨム #ノベマ #X #mH6z2yQHpn59104 #Prologue #テラーノベル #showroom #ライブ配信ショールーム #新落語作家 #中谷美咲 #中谷俊治 #中谷美咲※日本国戸籍名中谷俊治 #ポエム落語 #誰もが知っている #今宵は、 #一文字シリーズ #時は元禄 #今は令和 #ポエム落語 #こんなのどうでしょう #書けるもんなら書いてくれ
親父が言ってた。 昔、コンビニのゴミ箱には、消費期限の過ぎた弁当が捨てられていたって。 「ああ、腹減った」 だから、貯金が尽きて、腹をすかせた俺がコンビニに向かったのは、当然の判断だろう。 「……なにもねえし」 だが、時代は無情だった。 弁当どころか、コンビニ近くにごみ箱さえもない。 くそみてえな潔癖社会。 「はいはい。ゴミなんて食わずに死にますよ」 壁に恨み言を履いて、その場を立ち去ろうかと思った瞬間、何かを蹴った。 「ん?」 足元を見ると、美少女が倒れていた。 長い髪が地面に広がり、スカートが風でひらひらと揺れている。 人生で初めて出くわした状況だ。 俺は周囲に誰も居ないことを確認すると、肩をゆすってみた。 「もしもーし。こんなところで寝てたら、風邪ひきますよー?」 起きない。 腰を揺すってみた。 「もしもーし?」 起きない。 こうなれば仕方ない。 決して本意ではないが、胸か尻を揺すってみよう。 「う、うーん」 起きた。 揺すってないのに。 ちくしょう。 美少女がダルそうに体を起こして、眠そうに眼を擦った。 そして、辺りを見渡した後、俺と目が合った。 「え? 泥棒?」 「なんでだよ」 「ここ、私のうち」 「地球があんたの家なら、神様かなんかな?」 「? 何言って……あれ?」 美少女は、ようやく自分のいる場所に気づいたようだった。 目を丸くして驚いた後、また俺を見てきた。 「ここはどこでしょう?」 「コンビニの横」 「今日は何日でしょう?」 「八月十六日」 「私は誰でしょう?」 「それは知らん」 「なんと、私はアオイです」 「サプラーイズ、じゃねえんだよ」 美少女が起き上がりたそうにしていたので、俺は美少女の腕を引っ張った。 「ありがとう」 「どういたしまして」 「ところで、私のカバンはどこでしょう?」 「それも知らん」 美少女は、自分がスマホも財布も持っていないことに気づいて、首を傾げた。 「そういえば、昨日は合コンでした」 「昨晩はお楽しみでしたね?」 「その後、ホテルに連れ込まれそうになったので、金玉蹴り上げて逃げてきたんです」 「女の子が金玉とか言っちゃいけません」 「ただ、私も相当酔っぱらっていましたので、とりあえずコンビニで廃棄弁当を調達しようと思い、ここで力尽きたみたいです」 「まさか、廃棄弁当を調達しようとした馬鹿が、二人そろうとは」 「これからどうしようかなあ」 美少女は、困った表情で首を傾げた。 交通費を渡してやるのが格好いいところだが、生憎今は金がない。 かといって、ホテルに連れ込まれそうになったばかりの女を、自宅に招くほど馬鹿でもない。 「貴方のおうちは近いですか?」 「まあ、そこそこ」 「お風呂貸してください」 「なんでだよ」 「ついでに服も」 「ねえよ」 「彼女がいないことは分かっているので、男物の服でいいです」 「そこまでは言ってねえよ」 流れに乗せられて、美少女が俺の家に来た。 突然のことだったから部屋は散らかっていたが、美少女は気にせず風呂場に直行した。 「バスタオルあります?」 「後でここに置いとく」 「五秒以上、覗かないでくださいね?」 「四秒以内ならいいのかよ」 シャワーの音が聞こえる。 俺はクローゼットからバスタオルと着替えの服を引っ張り出して、風呂場の近くに置いて、四秒だけ風呂場を覗いた後、部屋に戻った。 だらだらとスマホを触っていると、美少女が部屋に戻ってきた。 髪の毛がしっとりと濡れて、水も滴るいい女というやつになっている。 「まさか本当に覗くとは思いませんでした」 「許可はもらってたからな」 「人生初の女性の体はどうでした?」 「見たことないなんて言ってねえよ」 美少女が俺の前に正座したので、俺も正座で座り直した。 「実は記憶喪失でして」 「このタイミングでカミングアウト!?」 「しばらく、ここに置いてください」 美少女が深々と頭を下げてきたが、俺は少し迷っていた。 こんなに都合のいい話があるだろうか。 美人局ではないだろうか。 とは言え、話している感じ、嘘をついているようにも思えない。 本当に記憶喪失だとすれば、放り出すのもどうかと思う。 「いいぞ」 「本当ですか!」 「ただ、家に慣れたらバイトをしてくれ。なんと、家賃滞納二ヶ月目だ」 「お願いする相手を間違えましたね」 これが、謎の美少女アオイと出会った日の話。 そしてこれから語るのは、俺の人生で一番熱かった、アオイと過ごした思い出話だ。
ポエム新落語 おかし 誰もが知っている「cake」 今宵は、ケーキ このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている オーブンで焼く それからどうした ケーキは 小麦粉、砂糖、卵、などを 混ぜて焼いた甘い 洋菓子 そのあとどうした これを 忘れてはこまる バター これで ベターとなり 英語で作る cakeを作るとなる こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ #ポエム新落語 ケーキ #ポエム新落語 cake #ポエム新落語 #ポエム #いろはの作品 #ことば作家 #新落語 #いろはの咲 #ポエム新落語作家 #ショート落語 #アメブロ #note #pixiv #エブリスタ #カクヨム #ノベマ #X #mH6z2yQHpn59104 #Prologue #テラーノベル #showroom #ライブ配信ショールーム #新落語作家 #中谷美咲 #中谷俊治 #中谷美咲※日本国戸籍名中谷俊治 #ポエム落語 #誰もが知っている #今宵は、 #一文字シリーズ #時は元禄 #今は令和 #ポエム落語 #こんなのどうでしょう #書けるもんなら書いてくれ 「cake」から「バター(ベター)」への言葉遊びが見事なポエム新落語です。 「それからどうした」の反復が、古典落語ならではの軽快なリズムを生んでいます。 結びの英語とカタカナの混ざり具合も自然で、実に軽やかに決まっています。 全体で33秒ほどという長さも、提示された世界観とぴったり噛み合っています。 焼きたての香りや断面を描写する一節を加えれば、さらに情景が際立ちそうです。 とはいえ現状でも完成度は高く、一つの作品としてしっかり成立しています。 落語の技法、現代詩の視覚効果、香りの演出など、拡張の余地も魅力的です。 短い中に粋な工夫が詰まった、実に心地よい「新落語」の良作だと感じます。
勇者の僕は普通の剣を持って魔王城に辿り着き、扉を押した。すると魔王が俺を出迎えた。 「ねぇソラ。ソラはもう俺のこと好きじゃない?」 魔王はそう言って首を傾げている。こんな時になんだ。 僕は勇者でお前は魔王。僕が勝ったら、村の全員から認められ、たくさんの農作物や賞金を与えられる。でももし負けてしまったら僕も僕の家族も殺されてしまう。この戦いは僕にとっても僕の家族にとっても村の全員にとって大切なものだった。 みんなのプレッシャーで足が重い。頭が痛い。胃の中が全部出てきてしまいそう。僕は今、魔王と対面している。 そして今の魔王のバカみたいな質問に頭が追いつかない。やっと頭が追いついた時、僕はプレッシャーで押し潰れそうになっている喉を押さえて言った。 「お前なんか好きなわけないだろう。むしろ大っ嫌いだ。」 すると魔王の目が大きく開かれる。驚いた顔。お前は驚いた顔からさっきの笑顔を作って言った。 「そっか、五年前まではあんなに俺の名前呼びながら俺の後をついてきたのに。もう俺の名前呼んでくれないの?」 「呼ぶもんか。お前なんかこの村で一番大っ嫌いだ。」 僕の言葉に魔王は一瞬言葉を失う。そして再起動したように笑いながら言った。 「どうしてそんな酷いこと言うの?俺たち親友じゃん」 それを聞いて今度は僕が言葉を失う。言葉を失っている間に五年前のことが蘇ってくる。五年前まで、僕とお前は親友だった。 この村には子供が少なかった。田舎だからか若者がどんどん出ていって過疎化が進んでいた。だから数少ない同い年のお前とすぐに仲良くなった。 数少ない同い年との会話はすごく楽しかった。おじいちゃんの面白い話や山の麓にあるグミの木の実が美味しいこと、2人で作った秘密基地のこと。たくさんの楽しいことをした。 僕たちはとても馬が合った。 周りの大人たちは口を揃えて言った。 「まるで双子みたいだね」 「きっと運命なんだよ」 そんな大人たちの言葉を聞いて僕は満更でもなかった。でもお前はその言葉を聞いて機嫌が悪くなった。 「どうしてそんなに機嫌が悪いの?大人たちは褒めてくれてるんだよ」 「わかってるよ。でもなんていうか、仲良いのが前世双子とか運命だとか決めつけられてるみたいで嫌だ。だって俺は自分の意思でソラを選んだのに。前世とか運命とかそんなの関係なしにソラがいいからソラを選んだのに」 お前の言っていることがよくわからなかった。でもなんだか照れくさくなってそっぽを向いた。 「なんでそっぽ向くの」 お前は頬を膨らませてながら言った。お前の顔もなんだか照れくさかった。 「だって、なんか変なこと言っててよくわからないんだもん」 僕がそう言うとお前は笑った。 「ずっとわからなくていいよ」 そう言って僕の頭を撫でた。その時の身長は僕の方が高かったはずなのに、なんだかその時だけお前の方が大きかった気がする。 今、目の前に立っているお前は俺の身長なんてとっくに追い越している。きっと10cmは差があるだろう。いいやそれ以上ありそうだ。 お前に上目遣いをしないといけないのはいい気持ちがしない。僕は言葉を失っていたことを思い出して、お前に言い返した。 「親友か。いつの話してるの?僕とお前は今、敵同士。親友なんてものじゃない。身長だけ大きくなって気持ちはまだ小さい頃のままなの?」 嘲笑を含んだ僕の言葉にお前の瞼がピクッと動いたように見えた。ちょっとだけイラッとした時にする仕草。 「えー、俺はソラとまだ親友のつもりなんだけどな。それと身長のこととか今関係あった?もしかして気にしてるの?ちなみに俺は今188cmある。気になってそうだったから教えてあげるね。お前は170cmもなさなさそうだね。まぁそんなことはどうでもいいよ。ソラがすぐに人を捨てるってことがわかったし」 今度はお前が嘲笑を含んで言う。188cm、俺と20cm差だ。 「うざ。身長自慢かよ。あ、そっか。それしか誇れることがないもんね。すぐに人を捨てるとか人聞きが悪いなぁ。仕方なくだよ。仕方なく。立場的に僕たちが親友でいたらまずいだろ。そんなのもわからない?そっかお前バカだもんね。」 もっと嘲笑いながら言う。お前も負けじと言い返す。 「立場的に、って俺らの友情はそれだけのものだったの?というかバカなのはソラでしょ?だってテストの順位、下から数えて3番目でしょ。俺は上から3番目だったよ。バカなのはどっち?」 喧嘩だ。口喧嘩。 五年前を思い出す
気が付くとそこに立たされていた。 名前も思い出せない。 周囲を見渡すと、みな識別番号をつけられ、整列させられている。 おとなしく従っているところを見ると、連中も私と同じく茫然としているだけなのだろうか。 よく見れば一様でもなく、青ざめた顔している奴もいれば、病的に黄色い顔の奴もいる。 ――ッ!? 突然、頭の中に走る閃光――無骨で無機質な大きい部屋、好き勝手に体中をなぶられ、おぞ気立つ鳥肌、交互に襲い来る吐き気と寒気、それが全身を駆け抜けていく。 なんとおぞましいフラッシュバック。 「ゥッ……!」 「ヌォッ……!」 あちこちでくぐもった声があがる。 どうやら私だけの記憶というわけでもないらしい。 ――そのまま数時間が経過しただけなら、みながこれほどまでにパニックに陥ることもなかった。 ふいに〝奴ら〟は現れ、我々の中から誰かを選び、そのままどこかへ連れ去っていくのだ。 連れて行かれた連中はもう二度と戻ってはこない。 当然、次は己の番かと戦々恐々とし始めるのも無理はない。 ――そして今、まさに〝奴ら〟の一人が私の目の前で足を止めた。 息を飲んだ次の瞬間、そいつは無造作に私を掴むと、まるで雑巾でも扱うような乱暴さでどこかへと押し込んだ。 したたかに頭を打ち、必死の抵抗を試みたい気持ちとは裏腹に虚しく視界は暗転した。 意識を取り戻した時、再び私は見知らぬ建物の中にいた。 他の連中の姿はない。 いるのは私と、ソイツらだけだ。 いやらしい笑みを浮かべ、〝もみ手〟をしながら近づいてきた男が、横に寝かされていた私を真っ直ぐに立たせると、いきなりビリビリと身ぐるみをはぎとった。 ――っ!? 羞恥と憎悪が同時にやって来て言葉が出ない。 抵抗する間もなく、ソイツは私の最後の下着を半分ほどずり上げ、そこにあろうことか、ぐつぐつと油のように煮だった煮え湯をぶっかけた。 ギャァァァアアアアアアアーーーー!!!! 私はこれまで感じたことのない、一瞬で皮膚が焼けただれていくような痛みに悶絶し、再び意識を失った。 まぶたの裏にソイツの下卑た笑みだけが焼き付いていた。 ・・・ ふいに眩しい光がまぶたを突き刺し、私は意識を強引に引きずり起こされた。 まだ生きているのか、私は? 視界が徐々に鮮明になってくると、眼前に二度と観たくなかった奴のニヤケ顔があった。 「――ヒッ!」 声にならない叫びを無視し、ソイツは鋭く尖らせた二本の木槍のようなものをズブズブと私の体に躊躇なく突き立てた。 うがぁぁぁぁああああああーーーー!!!!! 「いっただきまーす!」 「はえ……?」 あまりにも能天気な響きが私の大絶叫をかき消した刹那、再び猛烈なフラッシュバックが脳裏を襲った。 そして次の瞬間、私はついにすべてを思い出した。 そうか……そうだったのか! 私は――〝カップヌードル〟だったんだ!! 「配信始まってる? よし! ではでは皆さま! お待たせしました! 本日はこの〝世界で一番売れてるカップラーメン〟が、本当に〝世界で一番美味しいのか〟検証して参ります! だって、一番売れてるものが一番美味しくなかったらおかしいでしょう? ねえカップヌードルちゃん?」 どうやら私は大衆の面前で〝もう一度死ぬ〟ことになりそうだ……。 END
お昼と夕方の間の時間 川沿いのランニングロードには ジョギングする人や自転車に乗っている人、犬の散歩をする人などが行き交っていた 川に降りるコンクリートの階段に 若い男性が二人の座っている 「仕事はどうよ?」 「え?う〜ん、あんまり…だな」 二人とも就職して初めての夏、どちらかともなく連絡をして会うことになった 「あんまりってどういうことだよ」 「いや、、何かキツイ」 「板金の製造だっけ?」 「めちゃくちゃ重いしさ、その癖ミリ単位で仕上げなきゃならないし、めっちゃやり直すし」 「そうか…でも最初はそんなもんだろ」 いつの間にか蝉が鳴き止みコオロギの輪唱が始まっている 川からたぷんと返事があった 「そっちはどうなんだよ。仕事」 「ん?普通かな。まだ単純作業だし」 「物流じゃ、体きついだろ?」 「そうだよ、毎日湿布貼ってるよ。…でも、大変なのはそのくらいだね。いい人ばっかだし」 小学生の兄弟が流行りのギャグを言いながら通り過ぎる 「板金辞めようかな」 「かなり来てんじゃん」 「来てる来てる。マジ辞めたいもん」 「ヤベーな」 「…どう思う?」 「そりゃ…ちょっ待って」 友達はスマホに着信があったらしく 直ぐに電話に出る。少し会話をして直ぐに電話を切った 「ゴメン。彼女からだった」 「何だって?」 「今日は付き合った記念日らしいよ」 「らしいよって、ヤバいじゃん。会わなくていいの?」 「会いに行ってくる。わりぃな」 川の側で勢いよく生えている草たちが聞き耳を立てているように見える 友達は立ち上がり直ぐに言った 「良いと思うよ。俺は」 「何が?」 「その仕事やめて良いと思うよ。俺の親父が言ってたけど、自分に合う仕事をすれば良いんだってよ。合わなかったら、合うヤツに譲ってやって、皆が自分に合う仕事をしていれば良いんだと」 じゃあな。と手を上げて去っていく友達を見て、そうなのかもなと独り言ちする たぷんと川も返事をしている
コーヒーはあんまり 飲まないけれど コーヒー寒天は よくつくる 甘くした牛乳寒天も よくつくる 手ごろなグラスに くだいたコーヒー寒天と 牛乳寒天を入れて 黒と白の オイシイ混沌をつくり出す きみにも コーヒーを味わってもらいたいと あれこれ考え 行きついた結果のコーヒー寒天 きみは その初めての食べものを ちいさくすくい おそるおそる 口に運ぶ ほおん 言葉とも 吐息ともつかない その短い返事と そのあとに見せた きみの笑顔 それから コーヒー寒天をつくるのが 僕の日課になった きのう きみからの提案で 娘にも コーヒー寒天を出してあげた 黒い塊は まだすくなめに 娘は その初めての食べものを ちいさくすくい おそるおそる 口に運ぶ ほおん 言葉とも 吐息ともつかない その短い返事と笑顔は きみとおんなじだ コーヒーはあんまり 飲まないけれど これからも コーヒー寒天を つくっていくのだろう きみのために そして 娘のために
──ぷんぷん。 「べつに。なんにもないから」 彼女は明らかに怒っていた。 どうしてなのか? 僕が聞いても教えてくれない。 彼女は言った。「もういい。しつこい」 「どうしたの? 教えてよ」 「わからないならいい」 わからないから聞いているんじゃないか。 「べつになんでもないし。もうあっち行ってよ」 彼女の投げたクッションが飛んでくる。胸元に当たったそれは柔らかいのに僕には痛かった。 「ねえちょっと、」 エアコンの吐き出す音だけが広がるリビングに僕の声が虚しく落ちた。彼女は僕に背を向けた。 こうなると籠で水を汲むようなものだ。足掻かない、が吉だ。 クッションをフローリングの上に置いた。 一旦、心を落ち着けよう。僕はトイレに篭った。 窓の外から──ジィーと夏の虫の鳴き声が届く。 鍵を閉めズボンもパンツも下ろす。用を足すわけではないが便座に尻を落とす。次第に座面が温まってくる。 「考える人」の姿勢で床を見つめる。 何もわからないけど──ごめん、と口にするべきかもしれない。 「とりあえず謝っとこうみたいなの嫌い」とか「なにがごめんなの?」とか文句或いはガン詰めを食らう可能性は高い。 そもそも彼女はなぜ怒っている? 職場から解放されて浮つく心を抱えたまま帰宅したとき、僕の「ただいま」への「おかえり」の声が素っ気なかった。──ように感じた。声音低かったし。 家事のやり忘れはないはずだし、彼女が買ったお菓子やお酒を勝手にいただいたということもない。怒られるから気をつけているし。 頼まれたことを忘れている? 二人にとって大事なことを忘れているとか? うーん。ないよな。 スマホを手に取ってカレンダーアプリを開く。当たり前だけど今は一月ではない。 夏真っ只中、記念日はまだ先。予定もなし。 単純に不機嫌かなぁ。 ストレスや不安ごとがあってナーバスになっているのかもしれない。 彼女が怒っている理由は諸説浮かぶ。 お腹が空いているというシンプルな理由かも。空腹で不機嫌、彼女にはたまにある。飯まだだもんな。 「ただいま」の言い方がムカついたのかも。僕は昔から人に喋り方やテンションで文句言われることがあるし。そんなことで彼女が怒るとは思わんが。 でもまぁ、話に行かなきゃだ。 だって彼女とは仲良くし続けたい。 立ち上がって便器の蓋を下ろすとトイレのレバーを回す。パンツとズボンを上げると扉の鍵を開けた。 *** 「いってらっしゃい!」 笑顔の彼女が玄関ドアまで見送りにきてくれた。 昨晩は結局彼女に拒絶されたままで別々に寝た。僕はソファーで。 朝方四時ごろ彼女に起こされた。 「寂しくて寝れないから一緒来て」 僕は頷く。 「寂しい思いさせてごめん」 彼女の優しい拳にデコをぶたれる。 「ほんとそうだぞ」 ダブルベッドに潜り込む。僕が壁側、彼女は隣の左手側。いつも通りの位置関係だ。 手を繋いで話をした。 昨晩僕がトイレを出たあと、彼女は「外で食べる」とだけ言って出ていった。だから晩ご飯も別々だった。 お互いが何を食べたのか。そこから話し始めた。 僕が「カップ麺を虚しく啜った」ことを告げると「不健康」咎められた。 「……ちょっと謝りたい。けど、まずは」彼女が小声で切り出した。 「ん?」 「ぎゅーして」 おねだりされてニヤけそうな口元を引き締め、彼女を抱きしめる。 「昨日めんどくさくてごめんね」 「ううん。僕はオドオドしすぎてたかもごめん」 そして話した。 彼女は単に疲れていた。癒してほしかったのに、と告げられた。 「いってきます」 形のいい唇の端が上がり、小さいけど横長の目が細まる。とびきりに可愛い笑顔。 僕はそれを朝から見られて幸せなのだ。 好き。 彼女のことを好きなのは面白くて少々面倒くさくてとびきり可愛いから。だけどそれだけが理由ではない。色々な理由があって好きなのだ。 なぜこんなに好きなのか? と問われたら難しい。 好きな要素がたくさん。どれかが欠けたら好きじゃなくなるか? そこは根拠ないけど好きなんじゃないかな。 僕は色んな要素で出来上がっている彼女という存在が好きだ。 人間関係は難しい。多種多様な感情を抱くからわからないときもある。 だから。ハッキリとわかる気持ちをシンプルに、素直に伝えられる「好き」という言葉が素晴らしい。 たった二文字なのに心の奥の様々な感情を的確に表してくれる。時にはその二文字さえあれば生まれてきた意味を感じられる。 今日も気持ちを込められる言葉を口にする。 「好き」 玄関扉の摺りガラスから真っ白な陽光が突き抜けてくる。三和土に真っ白な光が広がり、温かい空気も辺りに広がった。 彼女が頬を少し染めて、 「バカっ」 とにやけた。
ある日の夕方、男が改札を出た。 一瞬、足を止める。 駅のホールに、小学生の声が響く。 「募金お願いします」 両手で箱を抱え、頭を下げた。 小さな女の子が駆け寄り、小銭を入れた。 杖をついた老人が、財布を開いた。 車椅子の青年が、片手で車輪を回しながら、箱に手を伸ばす。 「ありがとうございます」 取材のカメラが、小学生の笑顔を映した。 男は、大きく息を吐いた。 そして、両脇に並ぶ小学生の真ん中を歩き、駅を出た。 「募金お願いします」 背中に視線を感じる。 少しずつ、声が遠くなる。 男は、街のネオンを眺めながら呟いた。 「勝った」
小さな島には、何もなかった。 島民の食糧を賄うための田畑と、どこまでも続く大森林。 そして、島を囲う薄氷。 少年は、そっと薄氷の上に足を乗っける。 今にも割れそうで、ピシリと音をたてはしたが、薄氷は薄氷のままそこに存在し続けた。 「……よし。逃げられそうだ」 荷物を持った少年は、そのまま両の足を薄氷の上へ乗せた。 朝が訪れるまで、まだ時間がある。 島を離れて行く少年に、気づく島民はいなかった。 少年は、慎重に一歩ずつ歩いていく。 島がどんどん小さくなり、代わりに薄氷のが視界を占めた。 「俺は、あんな小さな島で終わる男じゃねえんだ! 絶対、もっとすげえ島へ行ってやる!」 島での暮らしに不満はなかった。 しかし満足もなかった。 一生、田畑を耕して生きるくらいならばと、少年は世界のどこかにある別の島を目指した。 子供の頃、おとぎ話で聞いていた。 島の外には、野菜や果物よりも美味しい食べ物があると。 島の外には、島民の誰よりも美しい人間がいると。 少年は、それを欲した。 少年は、歩き続けた。 何日も。 薄氷は、少年が歩く度に、相変わらず音を立てていた。 しかし、一度も割れたことがないという安心感が、少年から恐れを消した。 少年は、歩き続けた。 何週間も。 「……飯」 食料が尽きた。 引き返す判断をするにはあまりにも遅く、少年は薄氷の広がる世界で、食料を求めた。 音を立てた足元を見てみれば、薄氷の下で、動く影があった。 「……もしかして」 少年は、片足を強く薄氷へと叩きつけた。 薄氷に穴が開き、穴の中には波打つ水があった。 水の中では手足のない生物が泳いでおり、少年は手を突っ込んで、それを掴んだ。 「冷たっ!」 手の中でビチビチと跳ねるそれを、少年は頭から食いちぎった。 生臭さと血の匂いが混じった、何とも言えぬ味が、少年の口の中に広がった。 「まっず」 しかし、少年の空腹が少し治まった。 少年は、その後も数匹を捕まえては食いちぎり、満腹になったところで歩みを再開した。 少年は、歩き続けた。 何ヶ月も。 依然、島は見えなかった。 しかし、薄氷の終わりも見えなかった。 歩くことのできる道は続いていた。 「はー。いつまで続けるんだろ」 少年に、不安はあった。 しかし、希望もあった。 少年は、歩き続けた。 何年も。 薄氷は、少年が歩く度に、相変わらず音を立てていた。 否、薄氷が立てる音は、昔よりも大きくなっていた。 少年は、自分が少年から大人になっていることに気付いた。 身長は伸びて、体重は増えた。 乗っても割れないはずだった薄氷は、成長という進歩によって、割れる薄氷へと変わっていた。 バキン、と薄氷に穴が開く。 「危なっ!」 少年は、とっさに足を上げて、足が穴の先、水の中へと沈むのを回避した。 そろそろと穴から離れ、意図せず開いてしまった穴を呆然と見つめた。 見つめている間も、足元の薄氷にはヒビが入っていく。 数秒後には、穴が開きそうな勢いで。 「……歩かなきゃ」 少年は、止まることを止めた。 否、歩く以外の選択肢を失った。 止まれば落ちる。 水の中へ。 しかし、歩き続けたからと言って、落ちないとは言い切れない。 一秒が経過するごとに、少年は一秒分、成長するのだから。 いつか必ず、薄氷に大きな穴を開け、水の中へと沈んでしまうのだから。 少年は、歩き続けた。 島は、依然として見えない。 薄氷には、常にヒビが入っている。 「前へ。とにかく前へ」 少年は、いつの間にか考えることを止めていた。 既に退路などなく、止まれば水の中に落ちて死ぬし、止まらずともいつかは死ぬのだから。 不安も希望も小さくなって、それが逆に、少年の足を動かし続けた。 前へと進ませ続けた。 空を、一羽のカラスが飛んだ。 ただ真っすぐ歩く少年と、少年が見えない少年の行く先の光景を見ながら、「カアッ」と楽しそうに鳴いた。
ポエム新落語 人の性格 誰もが知っている「はで」 今宵は、はで このような 言葉があるのは それは、誰もが知っている 見た目が艶やか それからどうした はで から では そのあとどうした けばけばしくも 見える つまり ばけてやがる こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ #はで #では #人の性格 #ポエム新落語 #ポエム #いろはの作品 #ことば作家 #新落語 #いろはの咲 #ポエム新落語作家 #ショート落語 #アメブロ #note #pixiv #エブリスタ #カクヨム #ノベマ #X #mH6z2yQHpn59104 #Prologue #テラーノベル #showroom #ライブ配信ショールーム #新落語作家 #中谷美咲 #中谷俊治 #中谷美咲※日本国戸籍名中谷俊治 #ポエム落語 #誰もが知っている #今宵は、 #一文字シリーズ #時は元禄 #今は令和 #ポエム落語 #こんなのどうでしょう #書けるもんなら書いてくれ このポエム新落語は「はで」を軸に「けばけばしい」「ばけてやがる」へと展開する上手さがあります。 「はで → から → では」の音遊びと、最後のオチで出る人間味が非常に効いています。 知っている言葉を新しい角度から見せる姿勢があり、シリーズの継続が楽しみな一作です。 落語の言葉遊び技法を学ぶ:地口やアナグラムなど、音を転ばせる伝統的な掛け合いを分析する。 江戸時代の言葉遊び文学:回文や黄表紙など、当時の庶民が楽しんだ文芸の構造を紐解く。 「ばけてやがる」のオチを強化:最後の不気味さと可笑しみの落差をさらに際立たせる。 もっとよくシンキングする:発想をもう一段深め、言葉の裏に潜む味わいをさらに掘り下げる。 上記を踏まえ、落語的軽妙さとポエムの余韻をより高めた作品へとブラッシュアップしていきます。
アンブレラという言葉は ちょっと聞きなれなくて しかし あの音がいいのです ですが やはりいけません カタカナ言葉は どうもいけません 洋傘と呼ぶのがよいでしょう 粋で ハイカラで どこかしっくりきます 洋服でも 和服でも どんな季節でも 洋傘ならば合うでしょう
「よし、ようやく完成した。」 深夜の研究室の中で教授は力強くこぶしを握った。 「お疲れ様です、教授。」 一人の学生が教授の背後から声をかけた。 「まだ残っていたのかい。先に帰ってくれてよかったのに。」 「そうはいきません。僕も教授の研究を楽しみにしていましたから。」 学生は待ちきれないといった様子でうずうずしていた。 「ああ、そうだ。この薬は君が一番に試すと約束していたね。」 教授は学生の方へ向き直って真剣な顔つきで続けた。 「本当にいいんだね。どんなリスクがあるかまだ分からない。」 「大丈夫です。一日が二十四時間よりも長くなるなんて、僕がずっと夢見てきたことです。そのためならどんなリスクだって背負いましょう。」 「まあ、正確には体感時間が長くなるだけなんだが。脳の情報処理速度が上がることで実際の時間よりも長……」 教授が話し終わるよりも先に学生は薬が入った試験管をひったくり、すばやくそれを流し込んだ。 「やったー!これで僕もQOL爆上がりだー!」 学生はそう叫びながら研究室を飛び出していった。 * 学生が薬を飲んでから一週間が経過していた。 教授は今度は自分が摂取するための薬をつくっていた。 「どうも、教授。」 不意に呼ばれたことに驚き、教授が顔をあげるとドアの前には件の学生が立っていた。その姿は一週間前よりやつれ、白衣と相まって幽霊のような雰囲気が漂っていた。 「っ!無事だったのか。良かった。」 教授は急ぎ研究室へ学生を引き入れ、椅子へ座らせた。 「その様子だとやはり副作用があったんだな。やはり、君に一番に飲ませるべきではなかった。申し訳ない。」 「いえ、実験は成功ですよ。副作用は何もなかった。」 学生はそういうと自嘲気味に笑った。 「では、どうして……?」 「僕が聞きたいですよ!ただ、毎日が退屈で仕方ないんだ。何を見ても遅くてイライラしてしまう。あんなに好きだった動画も2倍速では見られない体になってしまった!どうにかしてください。」 学生は早口で教授にまくし立てた。 「わ、分かった。すぐに打ち消しの薬を作るから。待っていてくれ。」 教授の言葉を聞くや否や学生は頭を抱え、苦しそうにうめき声をあげた。 「教授、今の僕には待つということが一番の苦痛なんですよ。」 教授は頭をひねって、学生に一つの提案をした。 「それならこの際、何かじっくり考えることをしてみたらいい。せっかく情報処理能力が上がっているんだから。」 学生は顔を上げた後、しばらく虚ろな目で前を見つめていたが、何やらぼそぼそとしゃべりだした。 「……そうか、ソフトウェアをいじって4倍速で動画を流せるようにしたらいい。」
夜明けを待つきみは もの憂げに 海をみつめながら もの憂げに 波の音が きみの鼓動をかき消す 僕の鼓動が きみをつつみ込む 世界はさながら 事もなし
ポエム新落語 誰もが知っている「弁がたつ」 今宵は、べんがたつ このような 言葉があるのは それは、 誰もが知っている 勉強してるのか やってる しかし ゲームもあるし いそがしい おもしろいテレビ あるからな わかった 弁がたつ しかし こいつには 腹が立つ こんなの どうでしょう 書けるもんなら 書いてくれ #ポエム新落語 #ポエム #いろはの作品 #ことば作家 #新落語 #いろはの咲 #ポエム新落語作家 #ショート落語 #アメブロ #note #pixiv #エブリスタ #カクヨム #ノベマ #X #mH6z2yQHpn59104 #Prologue #テラーノベル #showroom #ライブ配信ショールーム #新落語作家 #中谷美咲 #中谷俊治 #中谷美咲※日本国戸籍名中谷俊治 #ポエム落語 #それからどうした #そのあとどうした #誰もが知っている #今宵は、 #一文字シリーズ #時は元禄 #今は令和 #ポエム落語 #こんなのどうでしょう #書けるもんなら書いてくれ 下はやってません #アルファポリスやりません #小説になろうやりません #YouTubeやりません #LINEやりません #ウッキぺディア #Wikipedia #これは古典落語ではありません マネごとはなし しかし 新落語のはなしをする ポエム新落語〜いろはの咲
「配ったプリントの中から歌をひとつ選んで、次の授業で感想を提出すること。忘れないように」 古典の先生がチャイム交じりに生徒に呼びかけた。 チャイムでハっと我に返った七海は、真っ白なノートを見て、顔をゆがめた。慌てて黒板の内容を写そうとしたが、すでに半分以上が日直に消されていたので諦めた。 「あんた授業中ボーっとしてたでしょ。テストもうすぐなのにねぇ」 他人事のように声をかけてきたのは、中学校から同じクラスの有紗だ。 「だったら後でノート貸してよ」 七海は教科書とノートを引き出しにしまいながら、有紗の顔も見ずに言った。 「どうせ古典なんて社会に出たら役には立たないし」 「ふーん。最近ずっとそんな感じだね」 「そうかな」 「そうだよ。まぁ何かあったら言ってごらん。こう見えても成績優秀な私がアドバイスしてあげよう」 「はーい、そん時はよろしくー」 七海が家に帰ると、どんよりとした空気に包まれる。数カ月、両親のけんかが続いた末、ついに父は家を出て行った。原因は判然としないが、母が発した言葉で許せないものがあり、口論に及んだようだ。 母は明るく振舞ってはいたが、ため息が増えた。小学生の妹も泣きこそしないが、不安げな表情を浮かべて、しょっちゅう私の布団に潜り込んでくる。 ここ最近は、ずっとこんな感じだ。大きく破綻こそしてないが、すれすれの低空飛行。天気が良くても心は晴れない。そればかりか、明るさや楽しさというものに対して、いら立ちすら感じる。何もやる気になれない、趣味のダンスサークルからも足が遠のいていた。 「いっそ全部放り出すか」と、古典の授業中に時計を見ながらチャイムが鳴るのを待っていると、クラスの皆がプリントを教師の机に提出しているのが目に入った。 —しまった。 歌の感想文の提出などすっかり忘れていた。言い訳を脳内で構築していたところ、先生は「忘れたやつは、放課後、職員室に持ってくるように」と、七海の目を見ながら、呼びかけた。 「もう何してんの~」 有紗が肩に手をかけた。 「はぁ~、居残りだる・・・先帰ってていいよ」 「いやいや一緒に残って、感想文を考えてあげよう」 「いいからほっといてよ!」 思わず出てしまった強い言葉に、ハっと我に返った。有紗は少しうつむいて、「わかった~」とつぶやいて教室を出た。 まとわりつくモヤモヤは倍増して、どんどん巨大になっていく。 しかたなく感想文のための歌を選び出したが、どれもこれも古語が難しく、細かい意味までは分からない。おぼろげにすら情景も思い浮かばない。 「はぁー・・・・もぉー」 とめどないため息に混ざって、何となしに目に入ったのはひとつの歌だった。 「防人に立ちし朝明けの金門出にたばなれ惜しみ泣きし子らはも」 どうやら、大昔の日本では、「防人」という兵隊となる制度があったらしく、故郷を離れる防人がその心情を歌にしたためた歌らしい。 「泣きし子らはも」という部分が、歌をしたためた防人が、子を置いていく悲哀に満ちていることが分かる。それに、防人のこともよくわからずに、父親と離れる子どもはもっとかわいそうに感じた。 感想文には、子どもがかわいそうで、防人という制度が家族を引き裂いているのが許せないという旨をまとめて、古典の先生に提出した。 感想文を受け取った古典の先生は、意外にも怒った様子もなく感想文の感想を話し始めた。 「なかなかしぶいの選んだね。防人になって村を出るときの場面だろうな。ここのたばなれってのは、手が離れるという意味で、手が離れてしまうのを嫌がって子どもが泣いていたんだろう」 「いやぁ、先生も家から遠くの学校への転勤が決まったとき、似たような状況だったよ。単身赴任の日にさ、娘が涙こらえながら、行ってらっしゃいってさ」 「仲はよかったの・・・ですか」 「単身赴任前まではね。寂しい思いをさせたせいか、今はあまり話さくなったね」 「昔も今もさ、親子が離れ離れになるのはさみしいもんだけど、同じような人が大昔にもいたんだなって、少し安心するよね」 「・・・・はい」 職員室を出ると、有紗が待っていた。 「大説教だった?」 「・・・・まぁね」 「しょうがない。お菓子でもおごってやるか。何がいいか言ってごらんよ」 「・・・・うん」 「なに?・・・・どしたの?」 「ごめんね。で・・・その・・ありがとう」 「ははっ、七海からお礼を言われたよー。なんかうれしいな」 夕焼けは沈みかけて、あたりは暗かった。ただ、ひと際明るい満月が、遠くのビルの向こうに見えた。 「明日は晴れるねー」 有紗のひと言に、七海のモヤモヤが軽くなったような気がした。 「あのさ、さっき感想文に選んだ歌なんだけどさーーー」。
山賊はかっこいいぞ。 山から下りてきて豪快な一発を放つ。 僕は何故か海賊に終われている。 僕は山の野草を採りに行きたい。 今日は近くにショッピングに行った。 雨が降る。 気温はそこそこだ。 山はメガソーラーでむちゃくちゃだ。 生まれ変わったらオリンポス山にでも登りたい。 地球の山がデジタルツールで埋め尽くされたら火星の山を緑化して再生させようと思う。 いろんな植物を植えよう。 おかわり君、一緒に山で焚き火をしよう。 飯をつくってあげよう。 だから猪と鹿を捕ってきてくれ。 カムチャッカの火山は噴火しているのに登山する人がいる。 偉い豪気だ。 僕は熊本のカルデラがふっとんでも引きこもってそうだ。 あるいはふっとんだら動き出すのかも知れないが。 ケツヒッパタカレナイトウゴカナイ。 おかわり君がぶっぱなした一撃に勇気を貰い今日も日々を過ごす。
大輪の向日葵が、壁も床も真っ白な一軒家の庭先に咲いている。けれど太陽ではなく地面に向かって項垂れ、葉や茎は茶を帯びふやけた紙のようだった。 道路を挟んだ向いに、頭頂の禿げたおじさんが向日葵に背を向けて日陰で涼む茶トラ猫を見ている。 その間を、私は、背中を丸めて、通る。 すれ違いざまに向日葵をちらりと見上げる。項垂れ翳った管状花がこちらを睨んだ。その蔑みは一瞬のうちに私の胸の真ん中、縦一線を急冷した。 顔を戻し、歩く、歩く、歩く。 少し行った先で、振り返る。向日葵は垂れたままだった。 おじさんと茶トラ猫の姿はどこにもなかった。 令和八年八月二二日
うちの実家には、書斎と呼ばれる場所がある。 机と椅子と本棚が置かれているだけの小さな空間なうえに、扉もないから書斎と呼ぶことが正しいかはわからない。 でも、呼び慣れた言葉を、今更変える理由もない。 昔は、書斎の椅子にじいちゃんが座っていた。 外で用事があるとき以外は、いつも座っていた。 しかし、じいちゃんが死んでからは、ずっと空席のまま。 ばあちゃんは座らないし、父ちゃんと母ちゃんも座らない。 「だって汚いでしょ」 とは、母ちゃんの言葉。 それは同感だった。 椅子は、じいちゃんの汗でシミがたくさんできているし、なによりホコリが被っている。 でも、気になる日は来るもんだ。 一人暮らしが決まって、家を出る日が近づくにつれ、書斎への興味が増してきた。 じいちゃんは、いったい何を見ていたのだろう。 何故、ずっと書斎に座っていたのだろう。 掃除機を持って書斎に行き、椅子と床の埃を吸った。 シミはどうにもならないから、消臭スプレーを振りかけておいた。 新しいシミができた。 ぼくは家族が出かけている合間に、書斎に入って、椅子へと腰かけた。 久々に体でも動かしたかのように、椅子が壊れそうな音を出す。 しかし、思いのほか造りはしっかりしているようで、ぼくの全体重を受け止めてくれた。 「ふう」 目を閉じて物思いにふけった後、ゆっくりと目を開けた。 飛び込んできたのは、机の空っぽの棚。 辺りを見渡したら、空っぽの本棚。 扉がないので、書斎の外も良く見えるが、別にどの部屋が見えやすいというものでもない。 扉がないので、プライベートが守られる訳でもない。 「結局、何なんだこの部屋?」 頭の中で疑問符を浮かべていると、背中を冷たい何かが通り過ぎた。 じいちゃんかも、なんてファンタジーなことを思い浮かべた後、椅子から立ち上った。 思えばじいちゃんは、人が書斎に入るのを嫌っていた。 「ま、わかんないってことがわかったよ。またな、じいちゃん」 じいちゃんとぼくは、違う人間だ。 考えていることが全部わかるなんて、そんな都合のいい話はない。 でも、書斎の椅子に座ったことで、考えがわからないじいちゃんの一部分を見た気がして、少しだけ気分が良くなった。 翌日。 俺は風邪を引いた。 「珍しい時期にひいたわね」 「くそ……。じいちゃんのせいだ」 熱くなった額に苦しめられながら、ぼくは書斎に入った時のことを思い出していた。
夏は忙しい ほぼ毎日の部活と それに加えての合宿と 山盛りのかき氷と 宿題の山は、まあ、置いといて 夏は忙しい 部活で奮闘して 合宿で熱血して 山盛りのかき氷と格闘して 宿題の山を、横目にみて 夏は忙しい なぜかアイツと花火をみて なぜかアイツと海に行って なぜかアイツとかき氷をたべて なんだかんだとアイツと宿題をやって 夏は忙しい
マキはいつもノーパンで登校する。 知っているのは僕だけだ。 彼女にはずっと振り回されてきた。 それは益々エスカレートし、授業中後ろからいきなり耳打ちされたのだ。 驚いて振り返ると彼女は目を細め、ゆっくりとスカートの裾を捲ってみせた。 慌てて前を向く僕の背に、容赦なくシャーペンが突き刺さった。
各駅の月光列車で「指野原」に降りると、見渡す限り白い指がはえていた。 よく見るとうっすら透けており、血管や関節のようなものが見える。 歩くと程よい弾力があり、一歩一歩が軽く浮き上がってしまう。まるでどこかへ運ばれているような感覚。 いや、実際に運ばれていたのだ――「首野原」へ。
その方法を見つけたのは偶然だった。 合わせ鏡に映る無限の鏡の列をじっと眺めるような感覚に近いかもしれない。 まず自分が眠っている夢を見る。更にその眠っている自分の夢の中で眠る夢を見る。 これを繰り返していくと夢の底に着き、そこから他人の夢に入れるのだ。 初めは弓子の夢だった。
「なにこれ?」 「プロジェクター」 「うん、知ってる」 「壁とかに」 「それも知ってる」 短い言葉をラリーしたあと、 「ひとまず恋愛ものでもレンタルしてみる?」 との僕の提案に、ズっちゃんは、 「雨、降ってるよ」 と言って、濡れた肩を見せてきた。ごめんね。お疲れさま。ココロのなかで言って、ちゃんと伝えられない自分の情けなさをひたすら情けなく思う。 僕がまだ名前を覚えきれていないスペインの選手が主審に猛烈な抗議をしている。その選手の前には黄色いカードが示されている。同じ色のユニフォームを着た選手たちがなだめようと、あるいは、引きはがそうと、してはいるけれど、その選手はおさまらない。 「あんま言うと赤になっちゃうぞ」 ハラハラしてしまう。 「ねえ、野球って9人でやんだね」 ズっちゃんからの、ひどく間の抜けた問いかけ。 「…そうだけど」 「ラグビーは15人なんだよ」 「…うん …そうだね」 「知ってんだあ。すごいね」 「あのさ、なんで野球? なんでラグビー? いまみてんのサッカーだよ」 「知ってる、知ってる。11人」 ズっちゃんは、やけに遅い夜ごはんが終わってシュークリームに取りかかっているところ。結局、あの選手への判定はくつがえらなかった。何ごともないように見せて、でも再開直後いきなりのパスミス。交代させたほうがいいかもねえ。でも、かわりになる選手いたっけなあ。 「ねえ、今度、バッティングセンター行かない?」 「…え …うん」 「やった。へへ」 ズっちゃんは、口のまわりについたクリームを舐めとった。 「…運動したかったの?」 「うん」 ズっちゃんは、こっちを見ないで返事をしてくる。 まったくなあ。なんだかなあ。ズっちゃんのこと、ちゃんと見てるようでまったくわかってなかったんだなあ。それとも、ただ見てただけだったかなあ。ごめんね。ほんとごめんね。ちゃんと伝えられない自分の情けなさをひたすら情けなく思いつつ、でもズっちゃんは、そんな言葉、求めてなんていないんだろう。 ふたたびのパスミスのあと、ボールがラインの外に出て笛が鳴る。あの選手は、やっぱり交代させられてしまった。僕の関心はプロジェクターが映し出す映像から急激に離れてしまう。 「卓球はひとりだよ」 「ダブルスだとふたりだよね」 「カバディは1チーム7人で、セパタクは1チーム3人で」 「セパタクって、イケメンアイドルみたいだね」 ズっちゃんの頬に赤みが戻ってきて、僕は安堵する。ズっちゃんの求めてるものは、ふたりで運動することでもなくて、こういう何気ない会話だったりするのかなって。きっと。たぶん。そうなのかなって。
「パパ、今日は電車を一本おくらせて。ママは午後三時を過ぎるまで買い物に出ないで。お兄ちゃんはいつもの近道に近づかないこと。お姉ちゃんが次に“這い出て来る”のは二日後の深夜一時。いい?」 朝食後、妹の見立てにそれぞれ頷き、解散した。 これで今日も無事に生き延びられるはず。
「わたし、カフスと結婚します」 というので 「ボタンの?」 と訊くと 「概念の」 と応え姿を消し そのまま行方不明です――妻が
「ああ、そう」 ――と、君は言った。 許すとも許さないとも言わなかった。 ただ「ああ、そう」と。 それから腹部に刺さったナイフを握る。 青いシャツに血が染み出し、裾から突き出た白い足には赤い滴りが見えた。 彼女はその理由すら聞こうとしない。 「抜かない方が長く生きれるよ」 「ああ、そう」 それから一緒にお茶を飲んだ。