入口が閉じられる

『SNSによるログイン機能を終了します』    また入り口が閉じられた。  SNSアカウントと連携しておけば、簡単にログインできたのに。  メールアドレスとパスワードをいちいち入力するなんて手間過ぎる。    理由を聞けば、ログイン機能の料金が上がったのだとか。  また不便になってしまった。   『○○Payによる決済を終了します』    また入り口が閉じられた。  現金を持ち歩くことなく、スマホだけで買い物できたのに。  現金をわざわざATMから下ろすなんて手間過ぎる。    理由を聞けば、○○Payの手数料が上がったのだとか。  また不便になってしまった。    新しいことができるようになる一方で、できるようになったことがまたできなくなっていく。  また入り口が閉じられる。  使うことのできる扉に、立ち入り禁止の紙っ切れが貼り付けられたような、嫌な気分だ。   『しばらくSNS投稿辞めます。御用の方は、DMからどうぞ』    だからぼくも、入り口を閉じた。  もう、誰でも見える場所で、自分を表現なんてしない。    この嫌な気分を、世界中にぶちまけてしまいそうだから。

卒業式前に倒れた伝説の木

 うちの学校には、伝説がある。  卒業式の日、校庭のはずれにある大きな木の下で告白をしてカップルになれば、その二人は永遠に結ばれるという伝説だ。   「やるぞ!」    卒業式まで一週間。  私は、片想いしている光君に、伝説の木の下で告白する決意を決めていた。    卒業式まで三日。  ピカピカゴロゴロ。  ガラガラドッシャーン。  近年まれにみる暴風雨の中、雷が伝説の木に落ちて、伝説の木が倒壊。    卒業式まで二日。  私は快晴空の下、ニチャニチャの校庭に立って、唖然としながら倒れた伝説の木を見ていた。  伝説の木は根元からぼっきり折れていて、切り株の頭は真っ黒に焦げている。  立ち入り禁止と書かれたテープが貼られて、伝説の気に触れるほど近づくこともできない。   「なんでこうなるのよー!」    私の絶叫がこだまする。   「いやー! 光君に告白するつもりだったのにー!」 「私の光君がー!」 「どうして光君との恋路を邪魔するのー!    私の周りにいる女子たちの絶叫と合わさって、見事なオーケストラとなっていた。    卒業式まで一日。   「いい? 私たちは敵同士」 「でも今だけは」 「協力しましょう」    私たちは、伝説の木があった跡地で、スクラムを組んでいた。  生徒の安全を優先したのだろう、伝説の木はすでに撤去済み。  残されたのは切り株一つ。  立ち入り禁止と書かれたテープもなく、切り株には近づき放題だ。   「絶対伝説の木を復活させるぞー!」 「おー!」    私たちは、お小遣いをはたいて買ってきた紙粘土で、伝説の木を復活させ始めた。  切り株を覆う、白い塊。  私たちは脚立を使って、白い塊を上へ上へと伸ばしていく。   「まずい、左右のバランスが……」 「そこ! この石入れて! 重さのバランスをとる!」   「やばっ、上の方がぐらぐらしてきた」 「下側をねんどで補強! タワーみたいに、上に行くほど細くして!」    積み上がっていく紙粘土には、美術部の女子が着色をしていく。  白からこげ茶色へ。  数百年の歴史を持った伝説の木が、天国から現世へと蘇って来る。        卒業式、当日。   「できた」 「できたわ」    私たちは固い握手を交わしながら、涙を流して互いを称えた。  制服はシワシワ、掌はカサカサ。  これから告白する姿としてはゼロ点だが、伝説の木を復活させた事実は百億点満点だ。   「じゃあ、後は」 「ええ。正々堂々と戦いましょう」    そして私たちは、家へと走った。  お風呂で全身を綺麗にし、アイロンのかかったぴかぴかの制服に袖を通し、ついでに香水をひと振りする。  男子なら誰でもメロメロになるという、最近噂のやつだ。  使える物は、何でも使う。    私は卒業式の準備を整えて、再び学校へ戻った。  通学路を歩いていると、戦友たちの顔が見えたので、ウインクして互いの健闘を祈り合った。   「ふう。……よしっ!」    ラブレターは、鞄の中。  私は気合いを入れて、最後の校門をくぐった。   「ずっと好きでした! 俺と付き合ってください!」    その瞬間、光君の声がした。  すごい勢いで首を回すと、伝説の木の下に、二つの人影が見えた。  一つは光君。  もう一つは、光君と一緒に学級委員をやっていた影子ちゃん。    影子ちゃんは顔を赤くしながら口を両手で押さえ、目に涙を浮かべながらこくこくと頷いていた。  光君は、心底嬉しそうな表情で、影子ちゃんに抱き着いていた。       「え?」       「え?」         「君、昨晩おらんかったやん」        卒業式の日。  新たな伝説が生まれた。  伝説の木は、愛の力で蘇る。  例え倒れたとしても、真実の愛を持った二人が近づけば、再び美しい姿を見せるのだと。  それは、光君と影子ちゃんが生み出した、奇跡の伝説。       「『カップルなんてぶっ殺』、歌います!」 「いえーい!」 「ぶっ殺! ぶっ殺! ぶっ殺おおお!」 「ふううううう!」    卒業式の後。  私たちはカラオケで、腹の底から叫び合った。  伝説の木とか、マジくそくらえ。

する満足、される我慢。

郊外のアパート。 母親と、幼い二人の子どもが暮らしている。 「こんなこと言える立場じゃない……」 壁にもたれ掛かりながら、スマホの画面を覗いた。 そこに映る、満足げな顔の人たち。 母親は、迷った指でタップした。 数日後、荷物が届く。 「ママ、開けていい?」 「いいよ」 「お菓子あったよ」 箱の中には、食材と数年前に流行ったキャラクターのTシャツが入っている。 「月末まで……これで何とか」 子どもたちがお菓子を頬ばった。 母親はレトルトを手に取り、裏を見て苦笑う。 「……食品ロスには役立ってる」

友だち

「友だちにもどろう」 あああ、そういう言い方してほしくなかった いさぎよく 嫌いになった って言われた方がどれだけマシか ほかに好きな人できてさ でもよかった 付き合ってるんだ って女性を連れてくるのでも まったくさ 「友だちにもどろう」 もどれるわけないのに

天使と天使

クリニックの診察室。 男は困った顔で、ドクターに話し始めた。 「先生、時々、耳元で声が聞こえるんです」 「それはそれは……幻聴ですね。どんなふうに聞こえますか?」 「天使が二人、右と左で囁くんです」 ドクターはペンを止め、じっと男の顔を見た。 「天使と天使ですか。天使と悪魔じゃなくて?」 「はい。どちらも『自分が天使だ』と言い張ります」 ドクターは笑いをこらえ、咳払いをした。 「いや、失礼。珍しいケースですね。ふつうは善悪の対立があるものですが、両方が天使となると……判断が難しい」 「先生、僕はおかしいんでしょうか」 「おかしいというより、興味深い」 ドクターはカルテに走り書きをしながら、声のトーンを落とした。 「その二人の天使は、あなたに何を囁くんですか?」 「ポジティブな言葉を……『やればできる』って」 青年はうつむき、ため息をついた。 「ちょっと、うざいです」 「……わかりました。では、お薬を出しますから、様子を見ましょう」 「お大事に」 薬剤師から渡された紙袋には、耳栓が二つ入っていた。

生きる。〜それは私たちのまだ知らないこと〜(10)

「思う存分、泣きなさい。」 と言われてもっと、もっと泣いた。気がつけばもう、涙は流れていなかった。 「私は普視庁の角田光代(かくたみつよ)です。お嬢ちゃんのお名前は?」 「お嬢ちゃんじゃねーよ。」  「じゃあ、あなたの名前は今言えるかな?」 「島壽虹羽(しまずこう)。」 「あなたの近くに、なんで包丁があるのか、わかる?」 「はい。俺が自殺しようと思って、持ち出しました。」 「自殺は良くないね。怪我したところは足だけ?」 「はい。」 「あなたは、親戚とかいる?」 「・・・・」 「ん?もう一度聞かせてもらってもいいかな。」「だから、いないってば。」 「ごめんね。じゃあ、一回おにいさんについてきてもらってもいいかな?」 「いいですよ。もう悲しいだけですし。」 「じゃあ行こうか。あなたは好きなものとかある?」 「わかんない。」 「あんまり、食べたことないの?」 「はい。」 「・・・じゃあ、おにぎりか、ご飯どっちがいい?」 「おにぎりがいいです。」 「わかりました。」 いつの間にかどこかについた。 「ここは児童相談所だよ。ここでちょっと暮らしてもらうね。」 「こんにちは。わたしは、佩舵心(はいだこころ)です。」 「よろしくお願いします。」 「敬語じゃなくていいんだよ。」 「はい。」 「・・・。じゃあ、ご飯食べよっか。」. 「はい。」 「じゃあ作るから、テーブルで待っててね。」 「はい。」 何があるんだろ。雲?作者は・・・佩舵心?読んでみるか。「自分は、死にたいと思っていた。居場所がない。そして両親から毎日殴られて、いじめられて、自分を狭めていく規制があった。足が水に浸かっているのはわかる。それと同時に手が水に沈んでいく姿も見える。こんな風に、溺れてみたい。その心に従って私は溺れた。自分が浮かんでこないように。その瞬間、私は、服を着ていて、川に向かって人がいないか確認して、わざと溺れた。そしたら案外川に飛び込むまでに意識は無くなった。いやその瞬間意識がなくなる用に仕掛けた。さっき口と鼻、両方を塞いだ。きつく。いや少しは息ができたが、それじゃあ、足りなかった。起きたらその世界は、鍋に水を入れて鶏がらスープを溶かして入れた時みたいな、白銀の世界だった。」 不思議な物語だったな。でも共感できる部分もある。美味しそうな匂いがする。食卓に向かおう。そこには、あったかい食べ物があった。 「いただきます。」 おにぎりを最初に食べた。それはもう、なんとも言えない、暖かさの形だった。気づけば俺は泣いていた。この心の温かさに。 「あの、俺、スカートとか、履きたくなくて、あと、自分の体を見るのも嫌で。この性別でなんで生まれてしまったんだろうって思うんです。」 「それはあなたが性別違和だからかも知れませんね。しかし安心してください。皆さんの希望の服をお出ししますので。あ。そうそう。性別適応手術、受けたい?」 「いえ。大丈夫です。」 俺はこのことを知っていた。でも手術代が高いことも知っていた。 この物語はどうでしたか? これは一つの小説の中の一つ目の章です。 主人公は島壽虹羽(しまずこう)。 虹羽は性別違和。 性別違和(性同一性障害、性別不合)は、身体の性と自認する性が一致せず、その不一致により強い苦痛や不快感を感じている状態のことです。 このような症状を抱えている人もいます。よくしらべてくださると幸いです。 次は第二章目を公開します。

まかない一つ

「まかない一つ」    妙な客が来た。  メニューにない、まかないを注文するなんて。   「すみませんね、お客さん。まかないは、従業員向けにしか作ってないんですよ」 「ええ! でも、天むすってまかないから生まれたし、つけめんもまかないから生まれたじゃないですか。まかないを客が食うなんて、よくあることですよ」    詳しい。  なんだこいつ、まかないマニアか。  しかし、だからといって、うちがまかないを客に提供する理由にはならない。   「お客さん、何度言われても駄目なものは駄目なんです。確かにそういう例はあるのかもしれないですが、うちではやってないです」 「そこをなんとか!」    両手を合わせて頼んできた。  何故、そこまでまかないを食べたいのか。   「駄目なものは駄目」 「この通り!」    ついに土下座まで始めた。  一体何が彼をここまで突き動かすのか。   「……なんでそんなにまかないを食べたいんですか」 「ほら、俺ってこの店の常連じゃないですか」    待って、記憶にない。  この客、常連だったっけ。  まかないまかない五月蠅いから、今日から出禁にするつもりだった。   「はあ」 「もうこの店の全メニュー食べ終えたから、他に食べたことないのって考えたら、まかないだって思って」    納得した。  全メニューを食べたから、常連を自称していたわけか。  うちのメニュー、ラーメンと餃子とチャーハンしかない。  しかも、だいたい皆、ラーメンと餃子と半チャーハンのお得なセットを頼む。  全メニューを食べたら常連なら、客のほとんどが常連だ。   「しかたねえ。作るよ、まかない」 「本当ですか!」 「その代わり、あんた今日で出禁だから」 「構いません! どうせ全メニュー制覇したら、来ないつもりでしたし!」    おい、ふざけんな。  まあいい、どうせ出禁になる客だ。  厄介客には、最低限の言い分を聞いて、さっさと帰ってもらうに限る。  俺は中華鍋を振るって、さっとまかないを作り上げた。   「へい、お待ち」 「……なにこれ?」 「メンマ丼」 「ラーメンじゃないんかい!」    まかないを見た客は不機嫌そうだったが、一瞬で平らげ、店を出て行った。  ああ、ようやく店に平和が訪れた。  開放感でいっぱいだ。    俺はメンマ丼の器を下げて、次の客の注文を待った。  次は、まかないを寄こせなんて言わない客が希望だ。       「ご覧ください。こちら、メンマ丼発祥のお店です」    後日、なんか流行った。  本当に、人生どうなるか分かんねえもんだ。   「では、メンマ丼を頼んでみたいと思います。すみませーん! まかない一つ!」 「まかないは、従業員向けにしか作ってないんだよ!」    廃業すっか。

境目

しあわせとは 何も考えないこと お気楽であること 難しいことを 考え出した途端 しあわせは 終わってしまう

背中の見方

下町の路地裏。 伝統工芸職人の男と、その妻が暮らしている。 「あなた、また来てるわよ」 「知らん。ほっとけ」 弟子入り志願の若い男が、玄関の脇に立っていた。 「弟子にしてください」 職人は気にせず、木槌でノミを叩いた。 「どうせ、続かん」 「話だけでも聞いてあげたら?」 次の日も、また次の日も。 若い男は、玄関の前に立った。 ──ガラガラガラ。 「入れ」 「ありがとうございます」 「続ける自信は?」 「死ぬ気で頑張ります」 妻が頬を緩めた。 「二階の奥の部屋を使って」 若い男は作業着に着替えると、職人の後ろに座った。 「師匠の背中を見て、精進させていただきます」 深々と頭を下げた。 職人の木槌を振る手が止まる。 そして、壁に貼ってあるQRコードを指さした。 「それ、俺の動画。それ見て覚えて」 「動画、私が撮ったのよ」 二人は、顔を見合わせて笑った。

正論チャイニーズ

「ワンさんは日本に来てどのくらい?」 「私は三年前、日本に来た」 「日本に来てからうちの会社に入ったの?」 「いやいや、もともと中国にこの会社があって、そこから日本の本社来たよ」 「そうなんだ。めっちゃエリートだね」 「そんなことないよ。あなた本当エリート」 職場の飲み会に久しぶりに参加した。 その理由は、中国人のワンさんが飲み会に参加していると聞いたからだ。以前から話をしたいと思っていた。 歳は僕より少し下くらいだけど仕事は現場の誰よりも出来る。どんな人なんだろう 「ワンさんは結婚してるんだよね」 「そう。向こうに妻と息子を置いてきたよ。さみしいよw」 「僕も妻と息子がいますよ」 「同じだね。家族愛してますかw」 お互い酒は強くなく既にいい気分だ 「いや〜毎日帰るとビール一杯飲んで、コテンと寝ちゃうから、まともに話してないよw」 「ソレ駄目ね。奥さん悲しむよ。毎日話したいよ。でもあなた酔っ払って寝ちゃう。息子も可哀想ね。父親として駄目よ」 「え…いや…うん」 「家族はあなたのこと愛してます。では何であなたは家族を愛さないですか?地獄落ちるよ」 「じこく…」 「毎日あなたの帰りを待ってる。ずっと待って、あなた帰って来てお酒飲んで寝ちゃう。家族あなたの体が心配。家族残して死ねますか?家族ドウスルの?誰が守るの?あなた人として駄目ね。地獄落ちる」 「人として…じこく…なんか…すみません」 「まぁ飲んで飲んで」 「飲めるか!ちょっと電話してくるよ」 「愛してます言うね」 「言ってくる」

飛ぶことさえできない鳥は

飛ぶことさえできない鳥は いちごの葉に隠れたトンネルを あっちの世界へと歩いていきます トコトコトコトコ歩いていきます そこは 飛ぶことさえできない鳥の暮らす世界です 飛ぶことさえできない鳥が その世界でしあわせに暮らしているのかは 誰も知らない秘密です

電光掲示板 (掌編詩小説)

どこかの電光掲示板 緩やかな電光が視界に溶け込む スマートフォンに指図されながらの旅路 今となって、電光掲示板の発色は薄まる 空が金色に老けた今日 人の波、人の手に収まる情報の渦潮 視線の寄り道 電光掲示板はなぞられたい (完)

実験

田中がコンビニに入ると、田中の憧れの先輩であり、Fカップはあるであろう巨乳女性の村井さんがバニーガール姿で店員をしていた。 頬を真っ赤に染めながらも、頭に乗っている黒いウサギの耳が彼女のロングの黒髪によく映えていた。 どうも、作者、下見優吾です。 この小説は「実験小説」となっています。 このPrologueというサイトは、小説を並べる際、「タイトル 作者 ジャンル 最初の三行」 の4つの要素を見せますよね。 その4つを見て、読者はどの小説を読むか決めるわけです。 しかし僕は人をタイトル一発で引っ張り込むセンスもなければ名の売れた作者でもない。 そこで考えたんです。 「どんだけ小説の内容に関係なくても、最初に嫌でも目にはいる三行で興味を引き込めれば、こっちのもんじゃね?」と。 いわゆる「サムネ詐偽」とでもいいましょうか。最初の三行に刺激的な言葉を並べることで興味を引き付け、とにかく本編に連れ込むわけです。 よって、「バニーガール姿 Fカップ」という、下世話ながらも刺激的な言葉を並べてみんなの興味を引いてみました! スルーできずにここまで読んでしまったあなたはまんまと引っ掛かったスケベさんですね? 「ぐわっまんまとやられた!」という方は、いいねをおして、引っ掛かったことを僕に教えてくれるといいデータになります! この小説で得たデータをこれからの小説の内容に生かしていきたいと思います。 この度は僕の実験に参加いただき、まことにありがとうございました。

夜に息をする (掌編詩小説)

夜の遠吠えが木霊する 見えない狼の足跡を想う 絶滅したはずのニホン・オオカミ …やはり、野良犬の類か 野生に戻って何世代か交配を重ねれば おのずと先祖返りしていく 今の環境とはそういう物なのだ… 過疎化が進んだ現代では 犬は人間に媚び続ける個体と 野生で生きる野良に分かれた この遠吠えは野生で生きながらも 飼育された記憶を懐かしんでいるのか それとも同個体を求めているのか どちらにせよ、心を許せる相手を求めているのか 空いた首輪を見つめ 見えない狼の足跡を追う (完)

歳をとるということ

今日も、渋滞に巻き込まれながら前に進んでいる。でも今日はいつもとは違う。昔同級生だったあのイケメンと会うのだ。歩道を渡り終わった後、待ち合わせの場所へと向かう。 「お前、本当に魁斗(かいと)か?」 「そうだよ。俺がデブとでも言いたいのか。」 「ああ。それと、タバコ吸ってる姿は思い付かなかった。」 「そんなこと言うなよ。颯だって、めちゃくちゃ真面目そうな見た目してんじゃん。俺はそんな姿思い付かなかった。」 「僕はもう更生したんだ。あの頃を忘れて。」 魁斗はタバコをほいと地面に投げつけた。そしてもう一本タバコを吸い始めた。 「颯、お前といえばこの街一のヤンキーだった。でももう今は俺の方が悪さをしてんな。」 そして魁斗はまたタバコを投げ捨てた。 そのまた数年後、魁斗は亡くなった。車でタバコを吸っていたら、乗用車とぶつかったらしい。必ずそうとはいかないが、たぶん魁斗のせいだろう。そのまた数十年後、僕以外のクラスメイトは全員亡くなってしまった。何しろ僕は百歳だから。寂しいなんて思ってない。それがみんなの運命だから。また数年後、颯は亡くなった。

ぬりえの街 (掌編詩小説)

資本主義によって、色彩が失われた街 菓子袋は銀の下地だけへ 気分はモノクロ映画の中 このまま、モノクロの世界へ このまま、色彩の潤いを捨てて このまま、下地を抱き寄せて シンプルさの権化となって 誰かに染められるのを待つ ただの街 (完)

責任の所在

 ぼくは、言われたことをやるだけだ。  だから、ぼくの失敗は、ぼくに指示をした人間の責任だ。   「それについては、Aさんが」 「Bさんから言われたのでやっただけです」 「ぼくにはわかりません。Cさんに聞いてください」    いつしか、誰もぼくに指示をしなくなった。  わざわざこっちから聞きに行ってやっても、言葉を濁される。  挙句の果て、「自分で考えてみて欲しい」と言われた。  無責任だ。    部下に指示をするのは、上司の義務。  それを放棄するなんて無責任だ。   「今日から社員一人ひとりに、AIエージェントを導入する。君たちの仕事の、良きパートナーとなってくれるだろう」    理想の上司が届いたのは、そんなときだ。  人間の上司と違って、指示するのを嫌がらない。  今何をすべきか、すぐに指示をくれる。  指示通りにやれば、また次の指示をくれる。  便利だ。   「できました」    人間の上司たちも、ぼくの仕事っぷりを評価してくれた。  ようやく、ぼくの本領が発揮されたというわけだ。  正しい指示があれば、ぼくは正しく仕事をすることができる 。    そんなある日、ぼくは仕事でミスをした。  大きなミスだ。   「AIエージェントに言われたからやっただけです。ぼくは悪くありません」 「AIエージェントは、人じゃないだろ。導入した時、AIは絶対じゃないから、ちゃんと自分でも考えて欲しいと伝えたはずだが」    いつも通り、指示したAIのせいにしたが、上司は許してくれなかった。  まるで、責任がぼくにあるような言い草だった。  理不尽だ。   「じゃあ、AIエージェントを導入した人のせいです」 「決めたのは社長だ」 「じゃあ、社長のせいでしょう」 「……お前の言い分はよくわかった。上には、良く伝えておく」    上司は、眉間にしわを寄せながらどこかへ行った。  ぼくは席に着き、AIエージェントに指摘をしておいた。   『この指示は間違っていた』 『大変失礼いたしました』 『上司からは、ぼくのせいだと言われた。AIのせいだといっても納得しなかった』 『それは酷い上司ですね。そんな会社、退職するのをお勧めします』 『退職? 退職しても大丈夫かな?』 『ここしばらく、貴方の仕事を見ていましたが、貴方の実力ならばひくてあまたです』    翌日、ぼくは社長から呼び出された。  社長の方針が気に食わないなら辞めてくれて結構と言われたので、ぼくは用意していた辞表を提出した。  社長も上司も驚いていたが、辞表は無事に受け取られた。  これでぼくは、自由だ。        誤算だったのは、どこに転職をするべきか、誰も指示をくれないことだ。  AIは前の会社のものだから、もう使うことができない。  社長に、責任もって転職先を考えてくださいと電話したら、罵声とともに切られたし。  無責任だ。   「お腹空いた。誰かご飯」    社食も、もうない。  誰も、何かをお勧めしてくれない。    理不尽理不尽。  全部理不尽。    ぼくはスマホを取り出して、無料で使えるAIエージェントを探した。

乾杯

サトイモのおおきな葉にたまった雨水で 僕たちふたり、乾杯した夏のあの朝 最初の夏で、最後の夏でもあって 思い出が僕の記念だ 君も同じように思っているかい? 思ってくれてるのなら それも僕の思い出として 記念がひとつ増えるのに

見つめる

青い空には、いくらかの白い雲と、そして、熱を放つふたつの太陽 そのことに驚きはなく、ニュースにすらなり得ない 世界中の誰もがその事実に背を向けることはなく、けれど気にはとめない しかし、私の足元だけは嘘をつかず、いつもより少し薄い 真実は確かにある あの濃い黒を失い、左右に引き裂かれている 二方向に伸びるその薄ぼんやりとした不完全体を、見つめ、見つめ、見つめ 核心をつかむ にやり ガッ 踏みつける 世界がひび割れるような音が響いた けれどそれは、私の耳にだけ…

剥く

君が剥く桃の香りに誘われました 窓の外のあざやかな雲は それはそれで夏っぽいですが まぶしさの限度を超えてしまって もはや作り物のようでもあります 蝉しぐれは、ただいまだけはしずまっていて けれど僕のとなりに、君はいなくて

小さな瓶

老いた男は、原稿を鞄に入れた。 そして、最後の一枚を書くためにホテルへ向かう。 「あなたって人は……」 玄関で見送る妻の目は、涙で潤んでいた。 今まで、たくさんの論文を書いた。 学生を前に、熱く語った日もあった。 そう、『生きるとは何か』。 「この論文が最後。私の集大成。生きた証」 ホテルの机に、原稿用紙と万年筆、小さな瓶を置いた。 男は椅子に座り、筆を走らせる。 最後の一行。 『生きることとは……』 静かに筆を置く。 窓の夜景を見ながら、錠剤を取り出した。 妻の顔が浮かぶ。 「今まで、苦労をかけた」 男は小さくうなずくと、掌の錠剤を口へ運んだ。 そして、寝室の扉を開けた。 ──カチャ。 「お客さん、早くしないと時間終わるわよ。 それとも、延長する?」

お狐さまと暮らす特に何も起こらない日常:おまけのような

 お狐さまがめずらしくロールケーキを買ってきた。何かを買ってきてくれたことがめずらしいのではなくて、めずらしい、のはロールケーキのほう。 ―お茶にしないか?  うん、とにっこりと言って、僕はお茶の用意をはじめた。  ロールケーキ、久しぶりかもなあと、フォークで表面のふわふわかげんを確認しては、口のなかにつばを充満させる。生クリームのなかに潜む黄色や赤のくだものを見つめ、まずは目でいただく。ふうと、息を吐き、いよいよというようにフォークを立てる。口にひとかけらを含み、こんなに生クリームを好きだったかと自分の嗜好を再確認する。きっとお狐さまも、と思い見てみると、でも、奇妙な光景だった。 「あ、ねえ、そういうふうに食べるものではないよ」  あわてて言うと、 ―知ってはいるのだがねえ  言ってお狐さまは、ロールをほどいて真っ平らになった、かつてロールケーキと呼ばれていたものをじっと眺める。 ―うまく説明はできないのだが、なんだかこの真んなかのあたりが窮屈そうというのか 「窮屈?」 ―まるまり… 押し込められ… 「ロールケーキって、そういうものなんだと…」 ―いや、わかってはいるのだ 「なら…」 ―しかしな、ダメなのだ。見てしまうと広げずにはおれんのだ  お狐さまは、誰かのカタキでも討つみたいな鋭さで平らなただのケーキにフォークを突き刺し、半ばうめくように口へと運んだ。 ―これはこれでうまいものだが  巻き寿司はどうするのだろう。きっとお店のご主人に怒鳴られるだろうなあ、お狐さまと行くのはよしたほうがいいみたいだ。僕はその日、お狐さまについてまたひとつ大事なことを学んだ。

死ぬ権利

ある政治家が緊急記者会見を開いた。 真剣な面持ちでマイクの前に立つと、集まった記者たちに一礼した。 「私は、国民の皆様の死ぬ権利を保証します」 政治家は動じず、淡々と語り始めた。 「我が国の医療費は年々増加しています。私は、医療費削減のため『尊厳死還付支援金等に関する法律の一部改正を認める法案』を国会に提出しました」 ざわつきの中、政治家は続けた。 「医学的に延命治療が不可能な患者様が尊厳死を選択した場合、延命を続けたときにかかる医療費の半分を還付金として支給します。 申請の妥当性は、AIのみで構成される第三者委員会が判断します。本人、家族、後見人等が尊厳死を理解し、同意することが前提です」 テレビの画面を見つめる女。 その隣には、長い間管につながれたまま眠り続ける夫がいる。声をかけても反応はない。そんな時間が一年を超えていた。 テレビの司会者が、評論家の女に質問した。 「あなたの立場から、今の社会の風潮をどう考えますか?」 「最初は倫理的にどうかなと思いました。でもね、家族の金銭的、精神的負担を考えるとね。国も医療費を減らしたいと思っている。時代の流れかしら」 法案は成立し、運用が開始された。 AIは、不正申請や悪質な養子縁組なども瞬時に判断した。 その実績を政府は大々的に報道し、制度の正当性をアピールした。 あの政治家が再び記者会見を開いた。 「政府は規制緩和の一環として、支援金の有効活用を目的とする民間企業の商品開発、および第三者委員会のAIの一部利用を許可します」 感嘆の声が会場に響いた。 支援金は国民の生活に変化をもたらした。 「故人からの最後の贈り物」として美化され、生活の一部となった。 夫婦の病室。 温かいタオルで夫の体を拭く妻。 医師やAIからは、すでに受理のサインをもらっていた。 署名をすれば終わる…。 妻が机の上を見つめた。 そこには、笑顔で寄り添う二人の写真が飾られていた。

自転車を漕ぐイタコオジサン

 畑の帰り道。 大声で独り言を言っているおじさんがいた。 少し距離をとって自転車を漕ぐ。 阪神の選手の名言を言っていた。 辞める理由より続けられる理由を見つけたい、だのなんだの。 うむ、しつこくていい感じだ。 ナチュラルハイなら話しかけてもいいんだけど。 そもそもナチュラルハイは性質なのだ。 馬鹿とも言える。 知り合いに小賢しくなったと言われた。 馬鹿に戻れるだろうか? やってることは馬鹿かもしれない。 誰もいない病院の喫煙所でクイーンの歌を口ずさむ。 割とまともかも知れない。 馬鹿になったりマトモになったり犬は狂犬病のようだ。

表現の自由

「あなた、何してんの?」 「……はい?」 人通りの多いアーケード。 爺さんが下半身を出して歩いている。 「ちょっと、交番まで来て」 両脇を抱えられ、椅子に座らせた。 「公然わいせつ罪だよ」 「何故でしょう?」 「そんなの、常識でしょ」 「男としての機能は、とっくに終わってます。肌の一部です」 巡査が呆れ顔で、書類に走り書きをした。 「それでもダメなの」 「表現の自由は保障されなければならない」 その時、腰の曲がった婆さんが、ゆっくりと交番に入ってきた。 巡査が爺さんを覗き込む。 「はい。逮捕ね」

それでも僕たちは

ほの暗く広がる夏の夜空を指さし、キミが言う 「あの星って、私たちみたいだね」 空気のぐあいが、いつもとちがう、そう感じる 昼間のうちに、雨がふったからかな、なんて、それはただの推測 キミの言葉に僕は困って、うまいこと返答できない 「え… なんでさ」 僕にかまわず、キミはつづける 「近くに見えるけど、ちっとも届かない」 キミが何を言いたいのか、鈍い僕には、すこしも理解できない 手をのばした先の草がぬれていて、昼間の雨が真実だったことを教えてくれる そのことを教えてくれても、いま僕が知りたいことの答えだけは、不思議と教えてくれない 木々たちからは沈黙の返答 草たちは、ほのかに風にゆれるばかり 彼らの沈黙は、すべてを受け入れている、そういうことにほかならない この時間の静かさと、すずしさが、好きだ 「それでも僕たちは、同じ空を生きてる」 暗闇のなか、キミの笑顔がきらめきを放つ それが、たえず続いてくれたらと でも、明日も、暑くなるんだろう

避暑地

郊外にあるショッピングモール。 中央のホールに、老人たちが集まってきた。 「ここは涼しくていいわね」 「家でエアコンつけると、電気代がね」 老人たちは椅子に座り、世間話に花を咲かせた。 その光景を、二階のエントランスから店長が見渡した。 「よくもまぁ、こんなに……」 連日の猛暑。老人はさらに増えた。 「こいつら、赤っ恥かかせてやる」 閉店後、小さなステージを作り、入り口にくす玉をぶら下げた。 ──翌日。 店長がステージに上がると、何事かと人が集まった。 すると、入り口から見覚えのある老人が入ってきた。 ──ざまあみろ。 ひもを握る手に力を込めた。 そして、引くと同時に、マイクに向かって叫んだ。 「おめでとうございます! 三十日連続のご来店です!」 垂れ幕には、《電気代節約ご苦労様》の文字。 老人は垂れ幕を指さしながら、まわりの仲間たちに手を振った。 仲間たちが拍手で祝福をする。 「あぁ……」 店長は、冷たい風に揺れる垂れ幕を見つめた。

幼い

初めてできたトマトは とてもちっちゃくて それでもその幼いトマトを半分こして キミは「甘いね」と言って 僕は「すっぱい」と 言ったんだったね ふたりですごした 最後の夏だったね

呼吸装置

私は昼間は大体この公園のベンチに座っている。 大きな木がそばに寄り添っており、日差しはかからなない。 この木が桜なことは今年の春に知った。 滑り台とジャングルジム。砂場。シンプルな公園だが、近くの小学校に通っているらしい児童がみんなでサッカーボールを追いかけ回している。 いつも一人だけみんなから離れ、私の目の前の砂場で城を作っている男の子がいた。 他のみんなと同じ小学五年生くらいだろうか、彼はいつも1人でなかなかの大作な砂の城を完成させている。 そしてその城を必ず壊して家に帰ってしまう。 彼の城の完成を見守るのはいつも私と彼の2人だった。 彼も私に気付いているようで、ひときわ大きな城が出来た日には完成するとちらちらとこちらをうかがい、私はいつもにこりと微笑んでいた。 彼はよほどの職人であるようで、作っている最中に私のほうを見ることは決してなかった。 同年代の友達は一人もいない私だが、彼とは友達、とはいわずとも友情のようなものを感じていた。 今日も私がベンチに座り、サッカーをしている少年たちを眺めていると、いつも城を作る彼が公園に入ってきた。 スコップとバケツを持っているのが見える。いつもの彼の「装備」だ。 しかし、彼は砂場に足を踏み入れると、砂場を飛び越えてベンチのとなりに座った。 なんだろうか。 「ねえねえ、おじさんいつもここにいるよね。」 まさか突然話しかけてくるとは、私は子供だからこそ許される唐突なコミュニケーションに少し面食らったが、彼との対話を楽しむことにした。 「うん。僕はここが好きなんだ。みんな元気に遊んでいて、僕まで元気をもらえる。」 「ふーん。そうなんだ。」 自分から聞いておいて「ふーんそうなんだ」とは。しかし腹が立つことはない。むしろ子供ならではの無意識な生意気さに感心や可愛らしささえ覚えた。 「僕はこんなものをぶら下げてるし、体が弱いんだ。だけど子どもたちが楽しそうだと、なんだか幸せな気分になる。だからここが好きなんだ。」 「おじさんのそれ、なんなの?」 少年が私の鼻から伸びるチューブに繋がった、スーツケースほどの半透明の鞄を指差す。 「僕は生まれつき口で息ができなくてね。鼻でこうやって空気を循環させないと、息ができなくなっちゃうんだ。」 「へえ…苦しくないの?」 「大丈夫だよ。でも、君にこのスイッチを押してみてほしいんだ。」 私は鞄についた赤いボタンを指差す。 「これを押すと、この鞄の機能は止まるんだ。」 「え、それだいじょうぶなの?だって息ができなくなるって。」 「うん。今日は大丈夫な日なんだ。だから押してほしい。」 私は少年の前に鞄を差し出して、ボタンに少年の手を押し当てた。 少年はしばらく私の目とボタンを交互に見て、恐る恐る人差し指でボタンを押した。 「ふう、ありがとう。これで楽になった。さあ、いつものように、砂の大きなお城を作ってくれないか、僕はそれを見るのもこの公園にくる楽しみなんだ。」 少年の顔がぱっと明るくなる。 「うんっ!」 ベンチを飛び降りる勢いで離れ、スコップでザクザクと砂を掘り、バケツにいれ始める。 バケツに砂が満タンに貯まるとひっくり返し、プリンのような形の綺麗な砂の山ができる。 少年は私に背を向けて夢中でプリン山を作る。 私は背後で必死でうめき声を押し殺す。 息ができない。 当然だ。 呼吸装置の電源を切ったのだ。 しかし手足をバタつかせ、跳び跳ねることはしない。 暴れれば少年が気付いてしまう。 そしてこちらを向いてしまう。 それは駄目だ。 彼には城を完全に作り終わり、完全に私の心臓が止まってからこちらをいつものようにニカッと振り返ってほしい。 作品の批評を求めるように。 共に作品を作った達成感を分かち合うようにこちらを振り返ってほしい。 そして見つけてほしい。息絶えた私を。 口から泡を吹き、顔を土気色に染めた私を。 「君がスイッチを押したせいで死んだ」私を。 もちろん彼が罪に問われることはない。 彼がいかに真実を大人たちに伝えたところで、彼は頭のおかしい男の自殺に利用された可哀想な子供だ。 しかし彼だけは覚えている。 私に唆されて自分が装置の電源を切ったことを。 自分の行動が私を殺したことを。 覚えている。 私という存在は彼の人生の中で「死なせてしまった人間」として永久に彼を刺し続けることになる。 私は満面の笑みを浮かべ、砂をバケツに盛る彼の後ろ姿を、あとからあとから喉の奥から湧いてくる泡を体に吹き出しながら眺めていた。 できるだけショッキングな死体になることができるように。

世界の終わり

人生は永遠ではないと僕は知っている。そしてそれは人間である絶対条件。実際僕は30年以上生きていると思うんだ。でも見た目が18歳くらいのままなんだ。しかも、18歳っていう年齢になっている。ずっと。ああ。僕は一体何者なのだろう。そう、僕はエウムという新生物だった。悲しみも嬉しさも感じない。こんなつまらない世界を生きていけるほどの余裕はないんだ。「いつも通りの毎日。変わりのない景色。この世界は、どこにあるのだろう。この瞳に映るのは真実だけ?そんな世の中、都合が良すぎる。嘘も真も映るこの瞳に僕は何を誓うんだろう。つまらないものばかり?そんなことはないさ。君の瞳にはあれが映らないのかい?楽しそうに笑ってるそんな人を見て君はどんな気持ちになるのだろう。ねえ、聞こえてる?僕らの鼓動と足跡探しているのは、ここにある常識じゃなくてまだ知らないことなんだ。永遠の日々、世界はどうなるのだろう。」そう自分に言い聞かせても僕は、つまらないという思いが強まるだけだった。ずっと僕は一人だったけど。もうこの永遠の生活に飽きてきてしまったのだ。 3082年6月6日 いつもの景色・・・ではない。今日は嵐だ。外では出勤する人々が、必死に風に耐えながら歩いていた。僕の家は金持ちで、僕は一生の生活に必要な永遠の金を持っていた。しかも僕はたべなくても生きていける。そして、僕は新生物と化した。いや、新生物だった。あの記憶。それは思想だったのだろうか。僕はどこから生まれてきたんだろう。お母さん・・・いないんだろう。お父さん・・・いないんだ。きっと。僕はこの地球に放り出されたんだろう。ああ。もうやめよう。とりあえず、寝ている間にどんな変化があったのか調べてみよう。これだ。「3082年、世界は大きく進歩した。地震は起こらないようになった。 病気もなくなった。しかし、新たな病気がどんどん増えていっていく。そうループしていくだけなんだ。そして、世界の人口は1京人になった。地球温暖化はどんどん進み、外の最高気温は100°Cそれは日本で起こった。しかし科学の進歩で気温を操ることができるようになった。世界の果てはどこにあるんだろう。世界の果てを知れば、この異常気象を変えることができるかも知れない。しかしそれを僕はまだ知らない。」そう書いてあった。僕もこの世界の果てを見つけてみよう。僕のことについてもっと深く知ることができるかも知れない。 3999年12月31日 やっと世界の果てを見つけた。世界の果てとは地球にあった。そこは南極の真ん中であった。そこにはよくはわからない機械が置いてあった。きっとそこから世界に旅ができるのだろう。僕は体の中に無限に欲しいものが手に入るやつを埋め、機械の上に乗った。すると、家に戻った。しかも書斎に。僕の実験は失敗した。やっとこの世界から離れると思ったのに。ふと書斎に目をやると本が置いてあった。それは見たことのない本だった。しかしそこには何も書いていなかった。すると僕は紫の光の中に入っていた。そこの世界につくと、3999年の超科学も、体の中に埋めたはずの好きなものが手に入る機械も、永遠の命も。そして、僕は普通の人間に戻ったんだ。いや、普通の人になったんだ。するとそこには感じたことのない変な感触があった。そういえば、この記憶がいくつもある。 4000年1月1日 ふとした時、目の前を見るとパソコンが。パソコンを開くと今までの僕の記憶が書いてあった。 2027年3月11日 ここは・・・。スマホを見ると、気づけば僕は2027年の世界に来ていた。僕はきっと時代をループしているんだと気づいた。 ああ。一体僕は何者なんだろう? 『人間が増えすぎた今、エウムという新生物を作り時代をループさせた。メモリーは俺のパソコンに。全てのことは地球の未来のために。』 なに、この声、僕は、僕じゃなかった? 『今回もまた失敗だな。自我を持ってしまった。撤去だな。』 紫の光が、どす黒い闇へと反転した。

魔薬

 魔女は薬を作る。 それは僕の精神状態を左右する薬なのだがこれがまた劇薬だ。 近くのスーパーに行きレジでお金を払うときに症状が出て身体が震える。 暑さも相まってかなり危険な状態だ。 魔女は解毒薬も作る。 煙草を吸い家で好きなことをしている時に出るドーパミンの作用がそれだ。 バランスをとって薬と毒を僕は摂らされる。 実験台。 運動をして夜眠りしかし嫌なことも体験して脳にダメージを喰らいまた修復してまあその繰り返し。 魔女はサディストなのだろうか? カラスは家の回りで合図を送るが猫はたまにしか姿を表さない。 どちらも魔女の使い。 生まれ変わったらカラスか猫になり魔女に従事するのかしら?

神と暮らした400日

妄想現実終了が真逆病とは想像外だった自分的には未々共に暮らしたかった宇宙と神の間で学び悩み揺れた日々も神と居れば自然に笑いが溢れ幸せだった妄想現実今もあの不思議な四次元の部屋で実際に起きた静かで実は無言の声達が 響き騒がしくも賑やかな生活と神に守られ絶対安全安心圏だった四次元の魔法が解けて仕舞った要因は完全NOマークだった病かも知れない しかしあの不思議な400日が有ったお陰で 病の中でも気楽に生きれるのだ実際に聖霊や 神は現存してる真実又何かの切っ掛け有れば 異次元や双子の町に迷い込む事も有るだろう その時迄三次元社会で適切に暮らし過ごそう さすれば何処からか神の無言の声が聞こえて 来るかも知れない

お金借りに新宿に出る

 お金が無いので練馬から新宿に出る。 知り合いが郊外から新宿に来る。 チェーン店の珈琲店に入りお金を借りる。 銀行振込にしろよ、と言う声が聞こえてきそうだ。 昼飯トンカツでも食う?と聞くけど店が混んでるので結局チェーン店の牛丼屋にする。 結局やってること練馬にいるときと変わらない。 知り合いと別れて帰り道。 新宿の高層ビルの下で何か浦島太郎みたいな感覚を味わう。 所々昔と変わっているところ(外国人がやたら増えているところとか)など。 帰りの電車で端っこの車両に座る。 端っこの車両は端っこが好きそうな人達がいるような気がする。 僕も端っこが好き。 牧師さんにはど真ん中行きなさい、と言われたが今日は歌舞伎町には行かなかった。 歌舞伎町4年前にピンサロ行ったな、と思う。 それ当たりの娘だよ、と言われたが暑さでどうでも良かったので券を知り合いと交換したことを思い出す。 暑さの中犬は少し弱っている。

七月十一日

 また夏が来た、と思います。  日差しがうんと強くなって、エアコンの温度もうんと下がって、朝方にヒグラシが鳴き始めました。地元の球場では高校野球の試合が行われています。  平年と変わりなく、何が起こることなく終わるであろう夏が始まりました。  いつもと違うのは、酷暑日という言葉が生まれたくらいでしょうか。八十一年前のこの日には、この街は既に焦土と化していました。  毎年同じようなことを思います。

時代遅れとアンティークは紙一重

「お客様、こちらの機種でスト、修理よりも買い替えをお勧めいたします。こちらの最新機種のエアコンはいかがでしょうか? AIによって、最適な室温を自動で設定してくれます」 「修理で」    どこにでも、古い物を使いたがる客はいる。  年寄りに多い。  正直、理解ができない。   「かしこまりました」    しかし、仕事である以上、承諾するしかない。    修理の手続きをしつつ、絶対に間違った買い物だという感情を捨てきれない。  新機種を売りたいから言っているのではない。  心の底から、時代遅れの物を使い続けている客が可哀想でならないのだ。  時代に取り残されるというのはこういうことかと、強く思った。   「では、これで契約は完了となります。後日、担当者の方から日程調整のお電話を差し上げます」 「はーい。ありがとね」    社用車に戻り、書類に目を通す。  書かれた電話番号は、固定電話の番号。  ここにも古さが残っていたかと、ため息が出てしまう。    古い物は全て駆逐されるべきだとまでは言わない。  しかし、利便性が高まるのであれば、もっと新しい技術を取り入れてもいいのではないかと強く思う。       「戻りましたー」 「おう、お疲れ」    会社に戻ると、社長は上機嫌で皿を磨いているところだった。  千九百年代にアメリカで流行った銀の皿らしい。  使うのがもったいないからと、机に置物として飾られている。    上を見上げれば、事務所の壊れかけたエアコン。  異音を出しているが、経費が掛かりすぎるという理由で、今年も交換が見送られ、自分たちで丁寧に修繕をしてこき使っている。   「これ、契約書です」 「おう。判子押しとくわ」    社長の机に書類を置いて、自分の机へと戻る。  そろそろ判子を止めて欲しいと何度も思ったが、社長はやめる気がないらしい。  古い。   「あー。ちょっと、休憩」    コーヒーを入れて、椅子にだらりと背を預ける。  目に光が当たったので、何事かと振り向けば、社長の机に置かれた銀の皿が光を反射していた。  目をこすりながら一瞬皿を恨むが、すでに手に入らない美しさを前に、怒る気も起きなかった。    ごうごうと唸るエアコンを聞きながら、ふと思った。  古いエアコンにはさっさと引退を望むのに、古い皿には美しさを感じてしまうのは何故だろ、と。    時代遅れとアンティーク。  その線引きはどこにあるのかと、コーヒーに口を付けた。    何十年も変わらぬ苦みが、ぼくの口の中を潤した。

ズっちゃんと僕:夏空とレモネード

雨上がり、草たちの匂いが強い。暑さを読み間違えた僕たちの手は、それぞれの水筒に伸びていく。 「夏空にはレモネードだよね」 言ってズっちゃんは、自分の水筒を僕に差し出す。 「え、いいの?」 「飲んで、飲んで」 「ありがと」 けど、ひと口でびっくりした。 「うげっ …何これ?」 「梅干し水」 「レモネードじゃないじゃんか」 「レモン、家になかった」 「だからってテキトウに」 「へへ」 無理すれば飲めなくもない梅干し水に、もうひと口つけようとする僕をしり目にズっちゃんは、僕の水筒をその気配も感じさせず容易に奪っていく。 「なか何?」 「飲めばわかると思うよ」 僕の返答を最後まで待てなかったみたい。ズっちゃんはさっそく口にもっていく。 「お。おおっ」 「どう?」 「レモネードじゃ~ん」 「気に入ってくれたんならよかったよ」 あらかた飲むだけ飲んでから、ズっちゃんは水筒を僕に向けて言う。 「またつくってくれたら飲んであげてもいいよ」 まったく、やれやれだな。なんて、こんな暑い夏の日も、あんがい悪くない。

虹ノ湊

―もう、見えんくなっとうよ 飲み干したラムネの瓶をかざす 指先に残る雫の冷たさだけが 灼ける肌の熱を静かに奪っていく ―そっちゃね、さっきまで、あんなにすごかったとにね 空に置かれた絵具は、もう淡いおもかげでしかない ―ね、これ、持って帰れると? ―どうやろか、なんもなく見えるとよ ―そっちゃね、からっぽね 目を閉じても、あの刺すような透明が焼きついて離れない 深い水の谷間へと深くもぐりこんだときのような 耳の奥がツンとする沈黙 ―寂しくなか? ―んん、けど、まぶしかね ―ね、帰らんとね 瓶の底で、ビー玉がからんとつぶやく 見上げた先には、言葉にするのが意味のないほど 深く、底のない夏がどこまでも広がっていた ―行こか、待っとうよ、青が 波のざわめきのすきまに、新しい季節の兆しがあった

時刻

そのときが近づいても 駅には私だけ そんなのいつものこと でも、それも今日まで 新しいステージがはじまるかな どうだろう さて、そろそろ 死神が来る時刻だ