九月一日は

親友であり幼馴染の華織が死んだ自殺だった。  原因は部活内での虐め。 九月一日二時丁度に飛び降りる華織を監視カメラが捉えていたそう。  華織の部屋に遺書が置いてあったらしい、その内の一つが私宛の手紙だった。 「命へ  何にも言えなくてごめん。  命のことだから何か出来ることがあったはずって、自分を責めるかもしれない。  でもそんなこと絶対にない。  命は何にも悪くない、命と話す時間は楽しかった。  命、今までありがとう、私の親友で幼馴染で、側にいてくれて、命といたこの十数年楽しくて、幸せだった。私の心の拠り所で本当にありがとう。  約束『おばあちゃんになっても一緒にいる』守れなくてごめん、命、大好きだよ、ありがとう。」  これを読んで華織が死んで初めて泣いた。  心のどこかで華織が死んだことを受け入れなかったのかもしれない。  それからバレーボール選手という夢を捨て、教師になった。  周りからは反対された。キャプテンになる予定もあるのに勿体無いと。  それでも教師になりたかった。  今年初めて担任を持つ、緊張しながらもドアを開け、教卓に立ち自己紹介をした。 「初めてまして1年4組の担任になった朝野命です。  趣味はバレー、女バレの顧問もしているので是非入部お願いします。嫌いなことは虐めです高校2年生の時、親友が自殺しました。」  「私は親友みたいに死んでしまう子を、私みたいに置いてかれてしまう子を、減らしたくて教師になりました。」  「どんなに些細なことでも良いです。  少しでも苦しい、辛い、そう思ったら周りの人達を頼ってください。  友達でも教師でも親でも誰かに相談して溜め込まないでください。  私はこのクラスが助け合えるクラスになって欲しいです。  長くなってしまいましたが私の自己紹介を終わります」  もうすぐ夏休みが終わり、二学期が始まる。 「命先生」  後ろから私が担任を務めているクラスの一瀬沙希が話かけてきた。 夏休みの間、バスケ部に一度も顔を出していなかったそう。 「一瀬さんどうしたの?」 「ちょっと相談したいことがあって」  話を聞けば部活で3年生を中心に嫌がらせを受けているらしい。  そういう子を減らしたいと思っていても、出来ることは本当に少ない、私にできる最善は、一瀬さんを死なせないこと。  今、私は何をするべき? 九月一日は一年で最も『子供の自殺』が多い日。  

あたらしい世界 (掌編詩小説)

今日は誰もいなかった 人も獣も花も まるっといなくなってしまった 雑草とコンクリート、アスファルトの羅列 それでも、変わらない『今日』を勤めた 私しかいないのに 交通ルールなんて、好きに変えられるのに 教習所で運転の練習をしている 私しかいないのに いつまでも大衆のいる世界で生きている (完)

神の引っ越し

 近頃、神社に来る人々の態度が変わった。    私の領地に入るのに、一礼もしない。  挙句、私の道である鳥居の真ん中をずかずかと歩く。  手も清めず、荷物を持ったまま金を投げられ、写真だけはパシャパシャと撮る始末。  実に、居心地が悪い。   「昔は良かったなあ」    つい、懐古をしてしまう。  静まり返った敷地の中に、悩みを抱えた人々が礼を尽くしてやって来る。  私は何度も、進むべき道を示したはずなのに。   「引っ越すか」    隣町の神から聞いた。  日本には未だ、神聖な場所と崇められている場所があることを。  そして、そこにくる人々は、多少の礼を尽くすということを。   「元々、神社など人間が建てた依り代。私が生きるためには、不要だ」    私は長年の居を捨てて、空へと飛んだ。  新たな居場所を求めて。    それから数年。  風の噂で、私の古巣は未だに神社と呼ばれていることを知った。  もはや私がおらぬ、願いも叶わぬ荒れ地だと言うのに。    私は、ほとんど人の来ることがない奥地で、安眠を享受している。

sound46 かりかり

か細く、けれど確かに鋭い雨が、辺りを突き刺していく。 ──かりかり、かり。 それは宛ら、シャープペンシルの芯同士がぶつかる音のよう。透明なケースの中で自慢の長躯を打ち合う彼等は、ぱきりぱきり、いつだって呆気なく折れては潰えるばかり。脆弱な黒い亡骸に涙する間も無く、新たに生まれる憐れな犠牲。それが彼等の生き急いだ末路であるなら、寧ろ称賛すべきなのだろうか。 ──かり、かり。 何処か耳に障る厭な雨音が、気付けば静謐へと裏返っていた。その穏やかさは酷く歪で、正しさを纏う矛盾すら怯えている気がした。

泡沫

私を見つけて名を呼んで さようならを伝えるために どうか私を見つけて  名を呼んで 消えてしまう前に ※  ゆらゆらと波に揺られているような感覚があった。ぼんやりする目で周囲を見回せば、見慣れた自分の部屋。  寝室から海が見えるのが気に入って即決した部屋には生活に必要な最低限の物しか置いていない。  夕べは海が月の光にきらめいていて、何時間も眺めていた。誰かが夜の海が怖いと言っていたが、これほど美しいものを俺は知らない。吸い込まれそうな漆黒の闇と金色の月。異国とも異世界とも思えるその景色がたまらなく好きだった。ずっと眺めていると自分と海との境が無くなっていく。そのうちに俺の意識は薄れていき、ゆらゆらと波に揺られる感覚に落ちていく。  最初はよく見る夢だと思っていた。徐々に鮮明に、やがて声が聞こえるようになった。鼓膜を震わせる声はまるで鈴を転がすような声だった。耳をすませてみたが、何を話しているのかはわからない。しかし心地よい「音」が残った。 「そろそろ顔が見れるかな」 ぼんやりとしか見えていなかったが今では後ろ姿がはっきりと見えるようになっていた。月明かりに照らされてとても美しかった。  あくびを噛み殺しながら仕事をするのにも飽きて、窓の外の海を眺めた。今夜も月が出ている。 夢の中の「彼女」を「人魚姫」と名付けていた。彼女の夢を見るのは決まって月明かりの美しい夜だったから。 なんとなく予感がした。 今夜は話ができるかもしれない。いつまでも終わらない仕事を切り上げ、眠る準備をする。そわそわと浮足立つ自分がなんだかおかしかった。  月明かりに照らされる海を眺めているうちに、いつの間にか深い眠りについていた。 「人魚姫」はいつものように俺に背を向け海を眺めていた。歌うように何かをつぶやいている。 「私を見つけて 名を呼んで…」 月明かりに浮かぶ姿があまりにも儚げで泡になって消えてしまいそうで、思わず声を掛けた。 ゆっくりと振り向く「人魚姫」は月の影に隠れてよく見えなかった。  彼女に近づこうと足を動かすと不意に月が輝きを増した。周囲が光に包まれ彼女の姿が見えなくなる。  ゆっくりと意識が浮上しはじめる。  目を開くと夢の続きの様に水面がゆらゆらと揺れている。少しの間、何処にいるのかわからずに朝日が射す部屋を見回した。紛れもなく見慣れた自分の部屋だ。窓際に置いた水槽の水面が天井に反射していた。 「顔、見れなかったな」 窓を開け、海を見る。昼間の海はなんだかぼやけていてあまり美しくなかった。  のろのろとスマホを持ち上げ日付を確認し、花を買いに外に出た。行く先は決まっていた。毎月必ず向かう花屋さん。買う花もいつもと同じ。店員さんもいい加減覚えてくれていて、顔を出すだけで用意してくれる。そして、必ず白いリボンをつけてくれる。 「気をつけていってらっしゃい」 「ありがとうございます…」 何ヶ月も通っているが初めて言われた。そういう気分だったのだろう。  毎月同じ日に海へと向かう。部屋から見るのとは違い現実感を持って現れた。強い潮の香り。相変わらず不愉快だ。 「やっぱり近くだと美しくないな」 吐き捨てるような言葉が口から出てくる。泣きたくなるような気持ちを投げつける様に花束を海へと放った。 「……」 俺を呼ぶ声がした。気のせいだと思ったが、あたりを見回す。やはり誰もいない。再び海に目をやると、そこには「人魚姫」がいた。 俺は彼女を知っている。名前を呼ぶことさえ忘れてしまっていた、彼女のことを。 誘われる様にさらに海に近づく。「……」人魚姫の名をよんだ。彼女は驚いた様に目を開くと、小さく笑って 「さようなら」 と言った。確かにそう聞こえた。会えたのに、話せたのにさようなら?消えていく彼女を抱き止めようと更に一歩足を踏み出す。 「危ない!!」 背後から誰かに腕を引っ張られた。あと少しで届きそうだったのに。怒りと苛立ちのまま振り返るとそこには花屋の店員さんがいた。あまりにも顔面が蒼白で、俺は怒る気が失せた。 「何故」 短く尋ねた。 「海に攫われそうだったから」  申し訳なさそうに店員さんが笑う。  あれ以来「人魚姫」の夢は見ない。 さよならを伝えてくれたあの日以降、海で亡くした彼女の夢を見るようになった。彼女の名前をそっと呼ぶ。  ありし日の愛しい人。  月明かりに照らされて微笑む姿がとても美しかった。

地球の裏側

「地球の裏には何があると思う?」 「何があるって? 大陸とか海とかじゃないの?」  有紗は楽しそうに聞いてきた。行ったこともない星の裏側なんて知りようもないのにそんなこと聞いてきて、何が楽しいのかわからない。  それにしても地球の裏側か……、本当によくわからないな。表に行ってた友達曰く、青色が多い星らしい。海っていうなんか水がたくさんあるって言ってた。 「知ってたの? もしかして美香に聞いた?なんだつまんないの」 「知らないよ、見たことないんだもん。聞いただけだよ」 「一緒だよ。ぶー」  不貞腐れているけれど、どこか楽しそうな有紗は、私が用意した紅茶に口をつける。私も緑茶を飲む。ところで、どうしてそんな質問をしたのだろう。表に行けるのは優秀な子だけなんだから私たちはいけそうもないのに。  見れないものに羨望を抱いたんだろうか。私たちは裏側の住人。日の当たらない世界でのんびり生きている。緑茶を飲んで、お餅を食べる。重力が少ないと言われている世界を、軽い体でぴょんぴょんと飛び回って忙しそうにしてる子もいるけれど、私たちは、そんなことはしない。  表の世界は明るくて、惑星が見えるけれど、そんな星が見えるなんて、ちょっぴり羨ましいけれど、つかれたお餅を食べながら、緑茶を飲んで過ごすのが私は好きなのだ。 「ねえ有紗、地球から私たちはどう見えてるんだろうね。私たちのこと絶対に知らないんだよ。彼ら彼女らは、表の子しか知らないで、私たちのこと知ったつもりでいるんだろうね」  少し意地悪げに言ってしまう。有紗は食べていたお餅を飲み込んで、困った顔で私を見据える。 「もう、あなたっていつもそう。外の人が私たちをどう思っていようが、どうだっていいでしょう? って地球の裏側がどうなっているのか聞いた私が言えることじゃないか……」 「ふふっ、冗談だよ。ごめんね有紗少し意地悪言いたくなっちゃって」  私たちがそんな話で盛り上がっていると美香が帰ってきた。 「お、おかえり美香。どうだった表は」 「うーん、まあまあかな。ところで、何の話してたん」 「え? いやあ、地球の裏側がどうなってるのかなって話をしてたんだよ」 「あー、普通に海だよ海。大陸もあるけど大体海だね。そんなもんよ」 「聞いてた通りだね、見てて楽しいものでもないでしょう?」  やっぱり意地悪な言い方になってしまう。私の悪い癖だ。 「いや、そうでもないよ、昔はなんもなかったけどさ今、光るんだよ大陸。小さな光がピカピカってなるんだよ」 「へえ、それはちょっと見てみたいね。ね、あなたもそう思うでしょ?」 「うーん、ちょっとだけね」  それでも私たちはきっと裏側で満足するんだろうなって思う。こうやって、緑茶を飲んで、お餅を食べて、暮らしていくんだろうなって。  私たちは地球の世界の想像から生まれた存在だ。月の影が何に見える? そんな疑問から生まれた存在だ。だからこうしてお餅を食べる。  月の影はうさぎがお餅をついてるように見える。そんな想像から生まれたのだから当然だろう。  今日も三人で地球の周りを一周するまで、緑茶を飲みながらお餅を食べながら月の裏で過ごす。

怪獣があらわれる街✕雨の日に傘を持って

雨は続く 一度暖かくなった気温も今週に入り真冬に戻ってしまった。 人々はコートを着ている人もいれば、トレーナーですましている人もいる。 そして雨の日が続く。 先月は乾燥と晴れ続きで、火事やダムの貯水量のニュースが多かったが、この雨で解消されるだろう。 傘を持つ手に雫が伝う。 カモメはウルトラマンである。 カモメは今、息子を待っている。 そろそろ下校時刻になるので通学路のスーパーで息子が通るのを待っている。 今日は、妻の母親が白内障の手術を終え、退院する日なのでカモメは家族でお迎えに行くことになった。 下校途中の息子をつかまえ、先に病院に行っている妻と妻の母親を迎えに行く予定なのだ。 古いアスファルトの歩道は灰色の空を映す水たまりが散らばっている。 歩道は下校している子供達で賑わっている。皆、楽しそうに歩いている。信号のない交差点をどんどん進んでいくので危なくてしょうがない。 息子の姿を探す。いた!子供たちの行列の中で友達と三人並んで歩いている。息子は口がきけないから、騒いではなかったが、 楽しそうに、 三人そろって何か話しながら、 その中にうちの息子が赤い傘をさして、歩いている。 息子が僕に気が付くと、少し笑って、軽く手を振る。僕も傘を上げて答える。 冬の冷たい雨が服を濡らしていく 風に乗った雨が横から吹いてくる。 子供たちの明るい声がカモメの心に響く。息子の小さな手がカモメの手を握る。カモメはこの幸せを守っている。

叫び

男は納豆パックの蓋を開け、かき混ぜた。勢いよく回される箸によって、豆の一粒一粒が繋がり、一体となっていく中、ただ一粒の納豆だけが混ざらずにパックの隅へと追いやられた。このままじゃ落ちてしまう、なぜ、同じ納豆じゃないか──地面に取り残された一粒の納豆に、男が気づくことはなかった。

夢の残骸

目を開けると白い光が視界を包んだ。心臓の辺りにはあの水晶のような透明に光る破片が居座り続けている。静かで柔らかい空気を纏った処置室で、藍銅鉱の少年になった僕は鯨と対話をして、甘い光の欠片を食べて、また星の話の続きを語った。明日も昨日もなくて、自分と空気の境界が溶けては戻って、形が変わって、また治してもらう。そんな時間が楽しくて、いつまでそこにいたのだろう。現実というものが残酷ならば、夢というものは救いなのだろうか。それとも、あまりにも美しくて、現実を手放したくなる夢のほうがもっと残酷なのだろうか。 それならば、 僕を、置いていかないでほしい。 まだ残り続けている水晶の破片にそう願った。

東京ららばい

 朝、目が覚めた。ホテルのベッドだった。白い夢を見ていた。隣で男が寝ていた。知らない男だ。私はベッドから抜け出した。大きな鏡が目に入った。寝癖を手で撫でながら鏡の前に立った。そこに映っていたのは私ではなかった。一丁の巨大な絹ごし豆腐だった。白く四角く艶やかな絹ごし豆腐だった。私が首をかしげると鏡の中の豆腐がかすかに揺れた。その時ふいに背後に気配を感じた。振り返るとさっき隣で寝ていた男が立っていた。やはり知らない男だ。男は優しいほほ笑みとともに私を抱きしめた。私は男の胸に顔をうずめた。すると男がキスを求めてきた。私はそれを断って鏡を見た。男は私を背後から抱きしめていた。鏡の中の絹ごし豆腐にかつお節がかかっていた。

価値のない世界

 最近、トークンの存在が話題になっている。  トークンとは、既存のブロックチェーンの上に作られた暗号資産であり、言ってしまえば暗号資産界のМVNOみたいなものだ。    トークンには、形がない。  見ることもできなければ、触れることもできない。  金額も乱高下するのに、お金の振りをしているのが立ちが悪い。   「なんで皆、こんなの買うんだろうかね」    お金の本質は、信用だ。  なぜ人が、円通貨を買うのか。  円を発行している、日本を信用しているからだ。  なぜ人が、交通系ICカードにチャージするのか。  交通系ICカードを発行している、交通会社を信用しているからだ。  なぜ人が、ローカルスーパーのPayにチャージするのか。  Payを発行しているローカルスーパーを信用しているからだ。    ただの紙切れ、ただの電子データは、信用によって価値を増す。  ならば、作ったばかりのトークンに、いったいどんな信用があったというのだろうか。  ぼくは、なぜ買うと苦言を呈するのは、そこに理由がある。   「まあ、俺も同じか」    とはいえ、何を信用するかは、人それぞれだ。  誰と友達になるか、誰と結婚するか、それも結局信用だ。  この人となら一緒にいてもいいという信用が、その人との縁を繋ぎ、自分にとっての価値となる。    例え誰に嫌われていようとも、自分が好きで、信用しているのならそれでいい。   「コンビニ行ってくるけど、何かいる?」 「コーヒー」    妻が買い物に出かけた。  コンビニアプリのクーポンが切れそうだからと。    コンビニアプリのクーポンも、所詮はただの電子データ。  一歩コンビニの外に出れば、一円の価値も持たない。    しかし、世の中はそんなものなのだろう。  価値のない物に無理やり価値を作り出して、価値に囲まれた自分も価値あるものだと思い込み、生きていくしかないのだ。 

夢は夜ひらく

 学校が終わり、家に帰った。台所に行った。腹が減っていたのだ。冷蔵庫を開けようとした。その時に気が付いた。冷蔵庫が美しかった。冷蔵庫は化粧をしていた。珍しく化粧をしていた。ということは、今夜は刺身だ。そのうちにお母さんが刺身を買ってきて、この冷蔵庫に入れるだろう。何せこの冷蔵庫は刺身のことが大好きなのだ。大好きな刺身を自分の中に入れられる日は、こうして化粧をするのだ。僕は微笑みながら冷蔵庫を開けた。麦茶が入っていた。飲んだらぬるかった。

梅の花

 たまに、(自分はちゃんと生きられているのか)と不安になる。勿論、ちゃんとなんか生きられてはいないのだが、そうではなく、そういう事ではなく、人として、大人として、親として、夫として、最低限の行動が出来ているのかと不安になる。  法に触れることはしていない。いや、たまに信号無視や、横断歩道を渡らない、女性が泣いていても声をかけない、なんて事はたまにある。が、無闇矢鱈に自分の不機嫌を外に出さないとか、挨拶をするとか、愛想笑いをするとか。日々、少しでも、善良に生きる事を実行しているのかと自分に問いかけてしまう。そんな日がある。    街を歩いていると、肩で風を切って歩く若者を見たりするが、彼が一生あのままでいられないことを私は知っている。彼が結婚し子供を持つ頃にはもう少し普通になっている。また、自分を変えられないのなら、家族から弾き出されるだけである。もう少し言えば、町内からも弾き出される。妻や子供を持てば自分という存在は家族というチームの中の一人になる。周りはそんな目で彼を見て、自分達の過去と比較し、正常か異常かを判断するのだ。  誰でも若いうちは世間に対して自分のズレは気が付かない。社会に放り出され莫大な情報に圧倒されるからだ。転生と言っても良いほどに。だがラジオのチューナーが徐々に合わさり声が明瞭になるように、歳を重ねれば重ねるほど世界が見えてくる。自分の足元から延びている光の道が見えてくる。  近所の道路脇にさりげなく梅が咲いている。ほのかに良い香りが記憶に残る。通りをスクーターが孵化しながら通っていく。ハンドルを細かく捻り、ガゾリンを非効率に爆発させ、大きな音を自分の威厳と同化して楽しんでいる。何十年も前から変わらぬ作業だ。そして梅もおそらく何千年も前から変わらぬ作業で花を咲かせるのであろう。    私も梅のようにさりげなく咲き、ほのかに良い記憶を残していきたい。

そして僕は途方に暮れる

 夜明けの大病院から、一人の男が出てきた。俺は歩道の清掃をしながらその背中を見ていた。男は長い、黒いコートを着ていた。ふらふらと歩いている。様子が変だ。しきりに目の辺りを手でこすっている。泣いているようだった。俺はゴミを集めながら男の後を尾けていった。男はぶつぶつと何か言っていた。酔っているようでもなかった。そして、ぴたりと立ち止まると、深いため息をつき、コートのポケットから何かを取り出した。そして、それをゴミ置き場にそっと置いて、また目をこすりながら去っていった。俺は男が置いた物をそっと見た。それは電卓だった。しかし普通の電卓と少しボタンが違っていた。数字や計算記号の他に、『善人』や『悪人』、そして『命』等のボタンが混じっていた。それですぐにわかった。これは死神が使う電卓だ。そしてあの男は死神らしい。大病院から出てきたことからもそれが確信できた。この電卓を捨てたということは、きっとあの死神は、死神の仕事を辞めることになったのだろう。それが病院側の判断なのか自身の判断なのかは知らないが、泣いていた様子から推測するに、辞めたくなかったのだろう。「もしかしたら、あの大病院では人が死ななくなるのかもしれないな」一瞬そう考えて、俺はぞっとした。

 朝の電車に乗っていた。隣の座席に、若者が座っていた。若者はヘッドホンをつけていた。かすかにそのヘッドホンから音が聞こえてくる。音漏れだ。それは音楽ではなくて声だった。「……」耳を澄ます。「……あなたは正しい……あなたは正しい……あなたは正しい……」その声はそう言っていた。若者は目を閉じて、軽く首を動かしていた。「あなたは正しい……あなたは正しい……あなたは正しい……」それを聴いているうちにだんんだん「あなたは正しい…あなたは正しい……あなたは正しい……」自信が出てきた。電車が駅で停まった。若者に会釈をして電車を降りた。若者はにやりと笑った。駅を出て、会社に向かう。上司の顔を思い浮かべながら、鞄の中に包丁があるのをもう一度確かめた。

本の塔

私の世界も日々移り変わって、目が回って、うまくバランスが取れない。 足元には、読みかけの本が積み上がっている。 手を伸ばせば崩れてしまいそうな、頼りない塔。 けれど、他の世界にまで関わりたいと思うのは、傲慢なのだろうか。 そう考えながらも、彼女は今日もまた本を読む。 崩れかけた塔の一冊を、そっと引き抜いて。 

イライラする

 今日はそれに尽きる。 何故だろう? 文章が思い付かないからか。 明日早く起きなければならないからか? カルシウムを摂っていないからか? 旅行に出掛けていないからか? いや、多分。 女の子と話していないからだ。 スケベの夜は長い。

隕石孔の春暁

全部にむしゃくしゃしたので、取り敢えず隕石を落としてみた。 スッキリするかと思って。 結果はどうなんだろう。 クレーターになった場所をまじまじと見てみると、 「常識」や「当たり前」は、 その醜さをさらに剥き出しにしながら、平然とのさばっていた。 余計に腹立たしくなった。 けれど、見ているだけで気分が悪くなってきたので、瞼を閉じた。 春を告げる小鳥のさえずりが聞こえる。 いつの間にか日が昇っていたらしい。

クレカで完結する世界

 電車に乗るには、クレジットカード。  自動販売機でジュースを買うには、クレジットカード。  コンビニでご飯を買うには、クレジットカード。    色んなキャッシュレス決済の方法が駆逐され、今ではクレジットカード一択だ。  現金なんて、もはやコレクターの産物。    しかし、クレジットカードには欠点がある。  未成年は作ることができないことだ。  親が家族カードを作ってくれなければ、私はクレジットカードを持つことができない。   「遊びに行こー! 隣の駅集合で!」 「オッケー!」    だから私は、何もできない。  電車に乗ることができないから、友達と遊びに行くこともできやしない。   「ねえ、私もクレジットカード欲しい」 「まだ早いよ」    ねえ、お父さん。  ねえ、お母さん。  もう、お父さんとお母さんが子供だった時代じゃないんだよ。   「はい、お小遣い」    こんな現金貰ったって、おはじきか折り紙にしか使えないんだよ。

それで? だから?

駅までの通りが昨日よりちょっと難儀に埃っぽく感じる 季節が移っていくことの予感がそこにもある 天気予報が今日にかぎって大当たり それで? だから? なんだというんだい これから別れ話をしようっていうのにさ あの日した、ささいな取り決めを僕はまだ覚えていて でも君は 僕のまわりだけやけに空気が薄いのは これからする君に対する懺悔の先取りか 単なる気のせいなら、でも それで? だから? 僕たちの未来は、もう 小さな桜のつぼみが風にそよっとゆれ その花めく姿に、僕は、とり残されてしまうんだ

わからなくてもいい

 東京都のギリギリ23区内のボロいビルの一室。ここに俺の事務所はある。いかにも家賃がかからなそうな古いビル、いかにも繁盛してなさそうな「霜月探偵事務所」というボロい看板のとおり実際そこまで繁盛しているわけではない。  それでも探偵事務所の社長としてこの椅子に座って3年。そこまで繁盛していない割には保っているほうだろう。世の中のほとんどの会社が設立から3年未満で廃業すると聞いたことがある。すなわち結構頑張っている方なのだ。  繁盛しているわけではないが仕事に困ってはいないという状態で数年やってこれているのだから。  俺はとにかく働きたくなかった。  週に5回満員電車に乗って会社で8時間労働。日によってはそれ以上。こんな生活があと何十年も続くのだと思うたびに軽く絶望し、時々死にたくなった。なるべく働かず、なるべく動かず、最低限自分の暮らす場所と食べるものさえ確保出来れば良い。そういう理由で始めたのがこの「霜月探偵事務所」だった。  お察しのとおり俺の名は霜月。なるべく働かずに生きるというのが人生のテーマのアラフォーのおっさんだ。  なんでこんな仕事を始めたのかというのは気が向いたらいつか話すことにして、なぜこんな客が来なそうな探偵事務所に食うに困らない程度の依頼があるのか疑問を持つ人もいるだろう。  それには残念ながら答えられない。なぜなら社長の俺がさっぱりわからないからだ。まぁ大きい探偵事務所に頼むほどのことでは無いけど、それでもどうしても気になるみたいな案件で来る人が多いのだろう。  例えばさっき帰った女性が依頼してきた浮気調査とか。 「すんごいブチギレて帰りましたねぇ。カップ割れちゃったんだけど…」 「100均で買ったやつだけどその分も請求書にのせてふっかけといて〜さすがに器物破損はよくないよぁ」 「っていうか依頼料払ってくれるんですかね。あんなブチギレてて」 「手付金でそういうタイプかなと思って多めに貰っといたから、最悪払ってくれなくても追っかけるコストのが高いしそうなったらほっとけ」 「全然そういうタイプに見えなかったのに……豹変しすぎですよ……」  そう言ってブチギレた依頼主が割ったカップを片付けるのは秘書とか色々やってくれてる葉月さん。週2〜3勤務のバイトだ。飛び込みで来る依頼人はほとんどいないため、来客がある時などにたまにお願いしている。従業員一人でも居てくれた方がそれっぽいしな。 「そうかぁ?めちゃくちゃ気弱そうに見えてやべー女っぽかったけどなぁ。なんか健気で弱気な私に見せかけて他人をコントロールしようとする系のヤバい女って感じだった」 「霜月さんってやっぱ人を見る目ありますよね、なんも考えてなさそうなのに」 「一応、俺は君の雇用主だからね?」  まぁこんなこと言っているが葉月さんに言われたことは気にしていない。言われたとおり、俺は昔から人を見る目だけはあった。いい意味でも悪い意味でも。  今回のコップを割って去っていった女性は、婚約者の浮気調査を依頼しに来てその結果を聞きに来ていた。  まぁ結果としては婚約者はガッツリ3股していた最低のドクズヤローだったので、それを証拠つきで説明したら金切り声を上げて発狂し、ブチギレ、コップを割り証拠を鷲掴みにして帰っていったというわけだ。  今頃その女性と婚約者は大修羅場だろうがそれはもう知らん。 「しかしなんであんなにキレたんでしょうね」 「自分が浮気相手だったからだろ」 「いや、そうじゃなくて先生に対してですよ。どっからどう見ても自分が浮気相手なのはわかる状況なのに先生に向かって『なんでそんなこと言うのよ!』って顔真っ赤にしてキレてたじゃないですか」  ため息をつきながら片付けを続ける葉月さんを社長椅子に座って頬杖をつき眺める。  たぶんあの女性は本当のことなんて知りたくなかったんだろうと思う。薄々婚約者に他の女がいるのはわかっていて、その上で本命はあなたですよとでも言ってほしかったのかもしれない。  とはいえそこまで気を使う意味も必要性も感じられなかったので、見たまま感じたままあなたが浮気相手ですと伝えたところブチギレ大発狂となったのだ。   「人間ってのは嘘をつかれた時より本当のことを話された時のほうがキレる事がある。だって本当のことなんて誰も知りたくねーだろ。自分にとって都合の悪いことが本当だったら余計にな」 「ふーん。そういうもんですかねぇ。私はウソつかれた方が嫌ですけど」 「君みたいに色んなことに対して覚悟が決まってる奴だけじゃねーの。世の中は」 「そうですかね」 「そのあと本当のこと知って地獄見たとしても一時でも楽な方を選びてぇんだろ。俺にもその気持ちはさっぱりわからねーが」  そうさっぱりわからない。  俺に人の心はよくわからないのだ。

メデューサの雨(cm後)

CMあけ はい、 と言う事なんですが、どうですか。星野さん 「いやー。すごいwこんなドラマみたいな話があるんですね」 本当ですね。この蜜柑ジャムさんは奥様とお子さんがいて、会社では管理職。順風満帆のように見えますが…こんなことになってしまっていると。 「でも、わかる気がするなぁ。なんか満たされている時ほど、人に優しくできるというか、満たされてるからこそ、分け与える事が出来るだと思うんですよね」 うんうん、そう思います。 「あと、『罪悪感に慣れてしまった』って言葉は、ちょっと…不謹慎かもしれないですが…痺れましたね。痛みに耐えすぎて麻痺してる感じですよね。この秘密の関係の時間を感じる」 そうですよね。始めは、ただただ仕事を頑張りたくて、話しやすい同期に、純粋に聞いていただけ。仕事以外の時間でも仕事の為にどうにか出来ないかと、必死だったはずですね。 話をしていく度に二人の距離が縮まり、二人はお互いを必要な存在から、特別な存在へ変わって行く。それは自然な流れだったたと思います。 彼女の方は結婚にこだわっていないし、たまに会って恋をしたり、愛を感じたりして、寂しさを紛らわしたいだけかも。 一方、蜜柑ジャムさんは奥様以外の女性を愛せる喜びと、奥様の体との違いを楽しめる背徳な遊びが出来る。 奥様との関係も今はレス状態なのかもしれないわね。 私はそのままでも良いと思います。 私も経験者だし。こんな姿なのはその罰のせいだしね。 ただ…ただね。あなた達に振り回されている子供の気持ちがやっぱり見過ごせないかな。あなたの子供は、あなたしか頼れないのよ。もう一度、あなたの子供の事をよく考えてみてください。 突然の雨で、同じ所で雨宿りしていた時間は、晴れ間の訪れと共に終わりを迎えるものです。 では行きます 【そのふしだらな心!石にしてやろうか!】 「ハハハハハ!姉さん。さすがです。石化アイ!めっちゃ迫力ある!」 フフフ、ありがとうございます。 ではここで一曲お送りいたします。 はなのなまえで「桜の嘘」 ♪ 白い雲が風に乗って流れていく 君への思いはあの雲に乗っている どうしょうもないことを 追いかけて追いかけて 自分だけが分かっているつもりだったから 桜の花びらひらりひらり まだ来ないバスを待ってる 桜の花びらひらりひらり 君の嘘は僕が気付くのを待ってる 匂いで君の機嫌が分かってくる 二人の思い出はこの街のどこにでもある もう知っていることを 追いかけて追いかけて ページの終わりを何度も 読み返して読み返して どうしょうもないことを 追いかけて追いかけて 自分だけが分かっているつもりだったから 桜の花びらひらりひらり まだ来ないバスを待ってる 桜の花びらひらりひらり 君の嘘は僕が気付くのを待ってる 君の嘘は僕が気付くのを知っているのでしょうか ♪ はい、ではそろそろお時間です。 星野源さん、ありがとうございました。 「はい、どうもありがとうございました!本当に楽しかったです!皆じゃーねー!またねー!w」 ハハハ。本当にありがとうございました。 どうぞ皆様に素敵な夜が訪れますように。 ではまたお会いしましょう。シャー

メデューサの雨(cm前)

どうも皆さんこんばんは メデューサ・メデュ子のお悩み相談室 どうぞ今夜も楽しんでお聴きください この番組は短編作品限定の小説投稿サイト『Prologue -プロローグ-』の提供でお送り致します この番組のナビゲーターを務めるのは私メドューサ・メドュ子です。皆さん、どうぞよろしくね 皆さんは雨は好きですか? あまり雨が好きって人にあった事はないけれど、私は雨、好きです。 なんか雨の日ってずっと薄暗いじゃない。昼間なのに夜明けのようで、なんか時間が止まっているようで、ワクワクします。 さあ今日もスペシャルなゲストの方に来ていただいております。星野源さんです。「どうも!星野源です!よろしくお願いしまーす!w」 ハハハ、凄い元気!w でも星野源さんは、ラジオで、ゲストって珍しいですよね 「そうですね。今日は楽しみです。皆さん、よろしくお願いします」 星野源さんは雨は好きですか? 「好きじゃ…ないですねwあっでも、雨の日に家の中でコーヒーとか飲みながら、雨を眺めるのは好き。それは好き」 確か星野源さんの曲で「雨音」がありますけど、窓の外を見る描写がありますね。本当に素敵な曲ですね。 「ありがとう御座います。そうですね。まさに雨の日の歌ですね」 是非皆さんも聴いてみて下さい はい、ではお悩み相談に参ります ペンネーム、蜜柑ジャムさんよりお便りをいただきました。ありがとうございます 初めてお便りを書きます。 私は四十歳の男性です。妻子がおり、会社では管理職をしています。 私は二年前から不倫をしていて、不倫相手は同じ会社の同期の人です。 私が彼女に仕事のことを相談したのが、そもそもの始まりでした。 彼女は私よりも先に管理職に就いていたのですが、私は管理職に就いたばかりで、膨大な仕事量に圧倒され、どのように仕事を進めて良いものか困っていたのです。 彼女と話しているうちに、自然とそういう関係になりました。 彼女は、結婚願望は無く、ただこの関係を続けたい様です。私は妻と子供に罪悪感を持ちながら関係を続ける事に慣れてしまいました。 どうしょうもない私は、どうしたら良いのか分かりません。どうぞお救いください。 ここで一旦CMです。

ブログお化け

 まるでブログはお化けみたいだ。  無数の記事を用意して、検索結果に置いておく。  何かを知りたいと思た人間は、検索をし、記事を見つけ、まんまとブログの中に飲み込まれていく。  人間を飲み込むお化け。    たくさんのご飯を置いて、腹を減らした小動物が見つけ、食らいつき、捕まることに似ている。    唯一良かったことは、飲み込まれた人間が死にはしないことだ。    ただ、知識が増えるだけ。  ただ、時間が吸われるだけ。  一つの記事から別の記事へ、ハマれば底なし沼のように。   「ああ、もうこんな時間だ」    起床用のアラームが鳴って我に帰る。  早起きして手に入ったはずの時間は、いつの間にか溶けていた。    やっぱり、ブログはお化けなのかもしれない。  私の寿命は、確実に吸い取られた。

意識的な本能 (掌編詩小説)

『脳細胞の一つを培養させてレトロゲームを操作させる研究が行われた』 というネット記事を読んだ そこでは、ゲームを操作するにあたって培養したものに【意識】が発現したと書かれといた しかし、一つの疑問が浮かんできた それは【意識】というより、【生存本能】によって動いているのでは無いかというものだ しても・しなくても、良い🟰意識 しなくてはいけない   🟰生存本能 今起きているのは「遊んでいる脳」ではなく 環境に適応する神経回路が、結果としてゲームを攻略している状態なんじゃ無いか思ったのである (完)

物語症候群

何も無い様な有る日々の中ふっとこんな感じは 某ドラマや漫画に小説で有った様な話と何時も リアル感無く自分事じゃ無い感覚実際の出来事 数え物語と比べて大差無い時恥ずかしく為って 仕舞う否キャラじゃ無いと全力否定する自分を もう1人の俯瞰が呟くそのキャラは本当に私か 一般人にキャラも役冴え有る訳無いし自分一体 何者だろう学生時代からこんな奴かな気付けば 別人クラスと為り昔のクラスメイトからそんな キャラだっけとか本当にお前と疑われる程他人 其れ言われても当たり前だろう何十年ぶりだと 思ってるのか私は呆れ想い出話も何処か他人事 向こうは懐かしい感じだったが私は何故か全部 記憶無い事ばかり思わずやっぱ別人じゃ無いと 否定すると名字覚えてると言われ只の度忘れか おばさんだからと言い彼は否俺おじさんだけど 全部覚えてると言いその後変わちゃたなと呟き 私はアレこの台詞の様な言葉は何処かで聞いた 様な何のドラマか歌の歌詞か考えて思わず私の 方が恥ずかしく為りその言葉を遮るみたい別な 話題を出しSNSから自分が今コラム投稿してる 事を告げ彼は暫し私のコラムを読みこんな性格 だっけと言い私は性格良過ぎて逆曲がりしたと 言い彼は真剣に其れ性格悪く為った意味と言い 私は否元々人畜無害タイプと懐かしいフレーズ 出した彼は何故か嬉しそうにそうだったと言い 私は否多分彼も此方を良くは覚えて無いかもと 思い人の記憶は良い様に改竄される物だと考え その時当然思い出した学生の頃彼が嫌いだった 事その頃彼は陰口言うタイプで男の癖して女の 腐った的な男だったけど歳月は人を大人に変え 普通の優し気なおじさんに見えた私は無表情な 笑みを浮かべこう言う奴が一番ヤバいだろうと 感じてそのまま彼の2次会の誘い笑顔で断った 瞬間昔の表情が覗いた私は業と元気にじゃ又ね 今度は鍋でも行こうと明るく告げたら嬉しそう 手を振る姿が見え私は何処か漫画のキャラ達の 様に肩竦めて胸に手を充てホッと一呼吸をする 一番の敵は天使の表情で遣って来ると口ずさみ ながらヤバいこれも誰かドラマで言ってた台詞 一生治らない自分の物語症候群かも知れない

フリーバグ

「フリーハグいかがですか?」    コンビニに行った帰り道、一人の女性が立っていた。    フリーハグの存在は知っている。  なんか、ハグしてくれるらしい。   「いいですか?」 「もちろんです」    名前も知らない人との、数秒間だけのハグ。  少しの緊張と、少しの温かみを感じた。   「ありがとうございます」    ぼくはそのまま彼女と別れ、会社に戻った。  どことなく、心がぽかぽかと温かかった。             「先輩お帰りなさい! バグ、三件増えました!」 「フリイイイイイバグウウウウウウウ!!!!」    温かい心のまま、体のエンジンを全力でぶん回す。  俺たちの徹夜はこれからだ。

真夜中を突っ走れ

 夜道を歩いていた。真っ暗な夜道だ。コートのポケットからタバコを取り出し、火をつけようとした時、背後からひたひたという足音が聞こえてくることに気が付いた。俺は歩き出した。足音は消えなかった。どうやら後を尾けられているらしい。俺はコートの内ポケットに手を入れ、拳銃を握りしめた。そして、足音がぐっと近づいてきた瞬間、拳銃を構えて後ろを振り向いた。そこには、真っ暗闇の中に、さらに真っ黒で、ぷるぷるの、人間の形をした物がいた。俺はすぐに、そいつが、コーヒーゼリー人間だとわかった。俺はコーヒーを飲まない。だからこいつらに命を狙われるのだ。コーヒーゼリー人間が俺に飛び掛かってきた。俺は落ち着いて拳銃の引き金を引いた。弾丸が正確に胸を貫通した。一瞬の間があって、コーヒーゼリー人間はその場に崩れ落ちた。胸に空いた穴から、大量の白い液体が流れ出ていた。それはコーヒーフレッシュだった。俺はコーヒーゼリー人間の死体を一瞥し、歩き出した。少し歩いたら自販機がある。そこでコーラを買おう。

ミッシェル

 キンギョを飼っていた。ある日、ふと水槽を見ると、キンギョから長いフンが伸びていた。違和感を覚えた。そのフンは、文字列のように見えた。どう考えても、それは文字として読めた。キンギョはある程度の長さの文字列に見えるフンを出すと、それを底に沈め、次の文字列に見えるフンを出した。それを繰り返していた。俺はそれをすべてメモに取った。やがてキンギョからフンが止まった。キンギョはじっと俺を見た。俺はメモを見た。そこには一篇の詩があった。それはネコについて語った詩だった。「ネコに狩られて死にたい」というようなことが書かれていた。俺はキンギョを見た。キンギョは俺から目を逸らした。俺はネコを求めて街に出た。ネコを見つけたら捕まえて家に連れ帰るのだ。「ネコのフンはどんな形状だろう」俺は頭の片隅でそんなことを漠然を考えながら、街をさまよい歩いていた。

ヒートアイランド

 テレビをつけた。天気予報が流れていた。「明日は詩集が降ります」窓から空を見ると確かに詩集雲が出ていた。もしかしたら今夜辺りから降り始めるかもしれない。その夜、外から、バサバサ、という音が聞こえてきた。カーテンを開ける。空から何十冊もの詩集が降ってきていた。サンダルで外に出て、何冊か拾い上げ、家の中に戻る。パラパラとその詩集をめくる。ろくでもない詩ばかりだ。すべてゴミ箱に捨てた。バサバサ。外から聞こえてくる音が激しくなってくる。本格的に降り始めたようだ。ため息をつく。良い詩が載った詩集が降っていたのはもう何十年も前の話になってしまった。地球環境問題はいよいよ深刻になってきたようだ。

怪異を目撃した/された

人間に発見されるという受難 追い詰めたとおもったら消えそうになる………異界の空気が濃い。 陰影がくっきりしてさっきと違って影に沈んでるから異界が迎えに来ている、その瞬間を見てしまったよう 招かれざる客の前に現れる ――通行証は。ない? ならば去れ。 すこしのぶれが怪異が顕現するときのゆらぎに見える 異界の風がふく 怪異を見つけた そこには何もいなかったはずなのに、目を逸らした隙に、世界がそれをもとあるかたちとして定義した 未確認生物UMA labelNo.‐存在しない存在  発見された側のはずなのに、ここは我々の世界のはずなのにまるであちらに侵食されるのを感じる ああ!わたしを天にかえして。 まぼろしの天の迎えを幻視して渇望する一射 あしがあるのに歩くことも思いつかず、からだが追いつかないまま手だけを延ばしている。あれが人間でないことの証明。 にんげんのからだにとじこめられてしまった。 わたしを はっけん したおまえをゆるさない。 幻獣のたてがみは まだみじかくて 背中を守れない

委員長は黒崎くんに勝てない6

黒崎「なあ、委員長って休みの日何してんの?」 霧島「そうね、、勉強か本を読むくらいかしら」 黒崎「うえ〜つまんなそ〜、、」 霧島「悪かったわねつまんなそうで」 黒崎「なんか趣味とかねえの?」 霧島「ないわよ」 黒崎「う〜ん、、、友達とかとは遊んだりしないの?」 霧島「遊ぶ友達がいないわね」 黒崎「そ、そうか、、、、、んじゃあ今度の休み俺と遊びに行こうよ」 霧島「はい?」 黒崎「そんな休日に勉強なんかしてもつまんないだろ?たまには息抜きも必要だ」 霧島「あんたはいっつも息抜きしてそうだけどね」 黒崎「いや余計なお世話だわ、、、んで行くの?行かないの?」 霧島「まああんたがそんなに行きたいならしょうがないから行ってあげるわ」 黒崎「はいはい、楽しみすぎて寝坊しないようにな〜」 霧島「た、楽しみなんかじゃ、、!いや楽しみだけど!えっと、、その、、うるさいわよ!!」 黒崎「お前ってとりあえずうるさいって言っとけばなんとかなると思ってるだろ、、」 霧島「うるさいわよ」 黒崎「はい」

不良の黒崎君と委員長の霧島さん5

霧島「ちょっと黒崎くん!タバコ臭いんだけど!もしかして学校で吸ったりしてるわけ!?」 黒崎「はぁ?吸ってねえよ、ダチが家来て吸ってたから匂い移ってんだよ。俺は吸ってねえ」 霧島「ほんとかしら...そんなピアス空いてて金髪の見た目の人に言われても説得力が皆無なのだけれど」 黒崎「だから吸ってねえっての」 霧島「まあ、それならいいのだけれど。万が一吸ってたら停学になるわよ、注意なさい」 黒崎「俺が停学になったら委員長寂しくなっちゃうもんな〜」 霧島「べ、別に寂しくはないわよ!!ただ悪いことだから注意喚起してるだけよ!!」 黒崎「そんな寂しがり屋の委員長のためにも吸いませんよ〜っと」 霧島「う、うるさい!!!」

スケボーサラリーマン

 開店前の和菓子屋の前で、今帰は緋毛氈の敷かれた縁台に腰かけ大きくあくびをした。店の自動ドアを手で開け、外に出てきたエプロン姿の娘の手にはみたらし団子が三本のった白い皿があった。 「これ、おじいちゃんがお手伝いのお駄賃だって」と言いながら羽海は今帰の隣に白い皿を置いた。 「じいさんはまだ俺のことを子どもだと思ってるみたいだね。もう社会人だって伝えておいてよ」  今帰は大袈裟に呆れたように言ったが、左手はすでに団子の串を掴んでいた。とろりと艶やかなタレからは小さく湯気が昇っている。  今帰は喫茶店を経営する幼馴染に頼まれて、店で出す苺大福を受け取りに来ていた。 「就職してないんでしょ。お手伝いついでにマスターの店で雇ってもらったら?」  腰に手を当てて見下ろす羽海に「最近の高校生の言葉は刺さるね」といかにもなんともなさそうに返事し、団子を頬張った。 「そういえば、今日学校は?」 「今日は日曜日。曜日感覚もなくなっちゃったの」と大人びた口調で言いながら、今帰の横に腰かけた。今帰はすでに二本目の串を掴もうとしていた。 「そういえば、スケサラって知ってる?」  羽海は興奮を隠す様子もなく声を高くして言った。今帰は団子を噛みしめながら首を傾げた。 「廃ホテルからトンネルに入るまでの川沿いの国道をスケボーで走るサラリーマン、略してスケサラ」  自分が名付けたように自慢げに話す羽海の言葉に、眉を上げて大げさに頷く。 「クラスの男子が見たんだって」と目を細めた羽海は、今帰の反応も待たずに話を進めた。 「その男子が免許を取ってすぐに友達三人で夜中に廃ホテルまで肝試しに行ったらしいの。流石に廃ホテルの中にまでは入らなかったらしいんだけど、その帰りに車道の左端をスケサラが走ってたらしくて。車のライトがそれを照らすまで、誰も気付かなかったらしいよ。驚いて抜かそうとしても、速くてなかなか抜かせなくて。その時のスケサラ、一回も地面を蹴っていなかったんだって。それどころか、姿勢が崩れる様子もなく、まっすぐ進むスケボーに案山子のように立っていたらしいの」  羽海の声は少しずつ大きく早くなっていた。 「そういう案山子なんじゃない?あそこの道、川の反対側は畑だし。電源を切り忘れた電動案山子が夜中に家から脱走したとか」  今帰は微かな疑いを含みながら訊いた。その言葉を待っていましたとでもいうように羽海はにっと口角を上げながら「それがね、続きがあるの」と声を低くして言った。今帰は興味深そうに羽海に視線を向けながら三本目の串を手にとった。 「三人で行ったって言ってたでしょ。そのうちの一人、後部座席に座っていた子は肝試しに行く前まで塾に行ってて、帰りは疲れて寝ていたらしいんだよね。スケサラを追い抜いた後、その子は目を覚まして言ったんだって。「変な夢を見た」って。夢の中でその子は夜の道をスケボーで走っていたんだって。後ろから車のライトを浴びて、追ってくる車から必死に逃げていた、そういう夢」  今帰は串を持ったまま、相槌も打たずに羽海の話に聞き入っていた。 「夢の中の恐怖とか疲れがいやにリアルで目覚めたすぐは後ろを気にしたり、まだ落ち着かない様子だったらしいよ」  羽海が無邪気に語り終えた後、今帰は何かを考え込んでいるようにぼんやりとした動きでみたらし団子を口に入れた。  喫茶店の扉が乾いた鈴の音を鳴らして開いた。薄暗い店内では黒いエプロン姿の男がテーブルを拭いている手を止め、顔を上げた。 「ありがとう。カウンターに置いといて」  今帰は三段に積まれた長方形の箱を、そうっとカウンターの上にのせ、そのまま席に腰かけ興奮気味に話し出した。 「聞いてよ伊東君。スケボーおじさんがとうとう出たらしいよ。しかも人の夢にリンクするらしい」  伊東はカウンターの中に入り、今帰の幼さの残る無邪気な笑顔を見ながら苦笑した。 「それ、お前が作った嘘だろ」 「人の夢にリンクするなんて、俺は言ってないよ」  そう言ってすぐに今帰は頬杖をついて少し考え込んだ表情になった。伊東は箱の蓋をあけて苺大福を一つとり、桃色の小皿に載せて今帰の前に置いた。 「自分の作った嘘が怖くなったか?」  伊東は悪戯っぽく笑った。 「いや、もしこの噂のせいで事故を起こす人が出てきたらどうしようって」  独り言でも口ごもるように言う今帰に、伊東は何気なさそうに言った。 「大丈夫だよ。そんなおじさんなんて実際いないんだから。お前が一番よくわかっているでしょ」

青の糸

絵描きがキャンバスを立て掛けた時、イーゼルの裏で糸を張っていた蜘蛛が、絵の具を溶かしたパレットに落ちた。それから何日かが過ぎ、絵描きがキャンバスに向かった時、足元に蜘蛛の死骸を見つけた。その蜘蛛からは、青色に染まった糸がゆらゆらと、頼りなくイーゼルに張り巡らされていた。

失恋保険

「好きな人がいるのですね?」 「はい」    お客さんは、大きく首を縦に振る。   「告白したいのですね?」 「はい」 「でも、振られるのが恐いのですね?」 「はい」    私は椅子の背もたれにもたれかかり、意味深な表情を浮かべつつ、お客さんの全身を上から下まで眺めた。  机を指てトントンと叩き、次の発言までの時間稼ぎをする。    お客さんがごくりと息を飲んだので、準備は整ったと口を開く。   「いいでしょう。失恋保険の加入を、許可します」 「ありがとうございます!」    お客さんは立ち上がって、私の両手を強く握った。   「さっそく行ってきます!」    そして、部屋を飛び出していった。    失恋保険は、加入者が失恋した時、私が焼肉をご馳走してあげる保険だ。  失恋という悲しいことの後に、楽しいことが何もないなんて悲しすぎるから作った。   「多分、成功すると思うけどね」    私は自分お財布の中を見る。  安い食べ放題二人分。  今日はきっと、財布の中身が増えるはず。    廊下をどたどたと力強く走る音が戻って来る。  これは成功したのだろう。    さてさて、加入料をもらわないと。  告白の後押しになったんだから、君は次の人のために、お金を出してもらおうか。

くしゃみ

すっかり枯れてしまってからはそのままにしておいた朝顔の鉢植え 庭に出ても視線を向けないでいたら、いつの間にかタンポポが顔をのぞかせていた 傷つけないように掘り返し、庭のすみっこに植えなおしてやる 隣の家では奥方のくしゃみが止まらないらしい 難儀だな 億劫に思い、この冬は鉢を家のなかに入れてやるのをサボってしまった どれもこれも冬越しができてなくて、茶や黒い色を見せている すまないことをした 謝っても、その草花たちは、もういない 隣の家から、またひとつ、くしゃみが 頭のなかで、やろうやろうと思っていた庭のことをあらかたやり終え、背中にはじっとりと汗が そういう時期になっていくのか 家に入って汗が引いてしまえば、まだまだ寒く感じられる どっちかにしてもらえないかな 言ってみたところで、聞いてくれるものは、どこにもいない 隣の家から、もうひとつ、くしゃみ まったく、難儀なものだな ゆっくりと、丁寧に、珈琲をいれていく さて、今日は、どの本を読もうか 珈琲を口に運ぶ 隣の家からは、何も聞こえてこない すこし、さみしい

新世界

段ボールの積まれた部屋に、さびしさが響く。 旅立ちの朝は、思っていたより、ずっとあっけない。 「忘れ物ない?」 埃っぽい部屋におかあさんの声。 「うん」 窓の外には、淡い桃色のつぼみ。 今年は、この街の桜は見られないけれど、新しい街で咲く花が、きっと私を待っている。 「心配しないでも、荷物はちゃんと送っておくから」 「うん」 短く応じながら靴ひもを結ぶ。 結びがわずかにそっぽ向いちゃっても、直さずそのまま歩き出す。 本物の蝶が止まってくれてもいいけどね、なんて思いながら。 ドアを開け、一歩を踏み出す。 見慣れた景色が、見慣れているはずなのに… 何かが動き出す気配。 世界が、やけに眩しい。

依存

いつもそう、どうして。  『俺、束縛とか嫌いなんだけど』  『もう少しくらい可愛くなれないの?』  でも貴方と会えて。  『俺、三つ編み好きなんだよね、ちょっとやってあげる』貴方のためなら私、不器用だけど頑張れた。  『ほつれてるよ直してあげる』初めて恋が出来た、可愛い女の子らしい恋。  『焼肉好きなの?良いね俺も好き、今度一緒に行こ』 私、貴方のこと何でも知ってる。貴方は私が「好き」と言っても信じてくれない。  なら行動に移せば良い、好きな曲、好きな食べ物、誰と出かけたか、何にお金を使ったか、全部知ってる。知っていく度に貴方を好きになる。そして貴方はこの事を知ってる。それでも、あなたは私と一緒にいてくれる、大好き、もう離さない。

Feel Good Inc

 近所にビルが建っている。各地に教室を展開している、有名な学習塾の本部が入っているビルだ。そのビルのてっぺんには、巨大なオブジェが設置されている。そのオブジェは、巨大なガラス瓶の中に、巨大な脳みそが入っているという物だった。俺は頭が悪いので、その意味がよくわからなかったが、人間の頭を良くするための施設である学習塾の本部が入っているビルだから、そこには何か意味があるのだろうということはわかった。それにしてもリアルな脳みそのオブジェだった。そんなある夜、散歩途中に、たまたまそのビルの近くを通りかかったら、数台のパトカーが停まっていた。小さな人だかりが出来ている。「何かあったんですか?」近くにいたおじさんに尋ねると、「ビルの屋上に誰かが侵入したそうですよ」と答えた。「例のガラス瓶のオブジェが壊されたそうです」翌朝、そのビルの方から聞こえてくる、ものすごい数のカラスの鳴き声に気づいた。カーテンを開けて、ビルを見ると、昨日壊されたという部分から、ガラス瓶のオブジェの中にカラスが次々と入っていって、脳みそをつついては旨そうな顔をして高らかに鳴いていた。そこで初めて、あの脳みそは本物の脳みそらしいということがわかった。脳みそはどんどん欠けていった。見るも無残な様子だった。それから程なくして、その学習塾は突然倒産し、各地の教室は閉められ、ビルは廃墟になった。巨大な脳みそがカラスに食われたことと関係があるのかどうかは知らないが、おそらく関係があるのだろう。あと、これは関係ないかもしれないが、この間、カラスの研究で有名な大学教授が、この町のカラスについて調査を始めたと地元ローカルテレビのニュースで見た。俺は頭が悪いから、諸々ひっくるめてよくわからない。

情熱の薔薇

 電車に乗っていた。混んでいた。それでも座席に座れてほっとしていたが、電車が走り出してしばらくしてから、隣の座席に座っていたおっさんがいびきをかいて眠り始めた。それだけなら我慢できたが、そのおっさんは、俺の肩に頭を預けてきた。最悪だ。げんなりしていると、頬の辺りがちくちくすることに気づいた。見ると、おっさんの頭頂部から、一本の薔薇の花が生えていて、その棘が俺に軽く刺さっていることに気づいた。さっきまでこんな薔薇、なかったはずだ。俺はつぶやいた。「薔薇……」するとその言葉に反応したのか、おっさんが突然はっと目を覚ました。そして自身の頭に手をやり、薔薇に気づくと、俺に向かって慌てて言った。「申し訳ございません!」あまりの様子に俺は恐縮した。「良い夢を見ておりまして……!」よくわからない言い訳だったが俺は曖昧な笑顔でそれを許した。電車が駅に着いた。俺が降りると、おっさんも降りた。そしておっさんはゴミ箱の前に立ち、素手で、頭の薔薇の花を抜き取った。素手だったので血が出ていた。おっさんは薔薇の花をゴミ箱に捨てると、ため息をついて立ち去った。ゴミ箱を覗くと、ゴミの中で、薔薇の花だけが真っ赤だった。なぜかそれが悲しく見えた。