空は狭いしゴミ箱は広い

 ゴミ箱の中で見つけた絵本には、こう書かれていた。   『あの広い空を、自由に走り回ってみたい』    ぼくは空を見上げた。  煙の隙間から、うっすらと空が見える。  建物の屋根に切り取られて、五角形とも六角形とも言えない形をしている。    とても広いだなんて思えない。    ゴミ箱には、本もあるしご飯もある。  空には、何もない。  浮かぶ雲が食べられるんならいいけど、多分食べられない。  ぬいぐるみの中みたいな形をしているし。   「ここを走ればいいじゃんか」    ゴミを捨てた人間は、いったいどんな人生を送っているのだろうか。  ぼくはゴミ箱を踏み台に、上へと飛んだ。  ベランダに着地すると、ベランダがひん曲がった。  バレたら怒られるので、隣の家のベランダへと飛び乗った。    地上は恐い。  犬が追いかけて来るし、おっさんが追いかけてくる。  落ちていた果物を拾っただけで泥棒扱いだ。  でも、ベランダは自由だ。  誰も追いかけてこないし、右でも左でも、好きな方向へ行ける。    野菜、干し肉。  家族分を手に入れたので、ベランダを伝って家へと戻る。    路地の奥の、さらに奥。  何十年も掃除をしてないくらいに床も壁も汚くて、ぼくたちが飛び回るおかげで人が住める程度な綺麗さを維持している場所。   「ただいま!」 「お帰り!」    ぺったんこの布団から顔を出した弟たちに、今日のご飯を渡す。  また手が細くなって、いずれイカの脚になりそうだ。   「兄ちゃん、食べないの?」 「兄ちゃん、食べて来たから」    弟が出た布団の上に、仰向けで寝っ転がる。  屋根と屋根との隙間から、曇った空が見える。    あの狭い空の上に、行きたくはない。  でも、野菜や干し肉よりも美味しい物があるのなら、それを食べには行ってみたい。

冬の隣の席

冬の授業中。 苦手な子と席が隣になってしまって憂鬱だ。 しかも二回も連続。おまけにストーブから遠くてめっちゃ寒い。 黒板を見るたびに苦手な子が目に入ってしまう。あーあ、なんでこんなに運ないんだろう。 理科の授業、最近は難しい。 雪が降る仕組みとかよくわからない。これを習って将来なんになるんだか。 気づいたら授業が終わっていた。 その次は社会だった。 社会の先生は毎回、隣の人と話し合う時間を設ける。 苦手な人と話さないといけない。最悪。 「じゃあここ、隣の人と相談してー」 あーあ最悪。 「りこちゃん、なんて考えた?」 隣の人が聞いてくる。 「えーと、こう考えたー」 私はそう言って笑顔を作る。 下手な笑顔だっただろう。まあわざと下手にしてるんだけど。 というかなんで“ちゃん”付け? 前までは呼び捨てだったじゃん。りこって呼んでたじゃん。 他人行儀すぎて無理。 隣の席の子、さきとは仲が良かった。 毎日一緒に帰って、週末にはいつも遊んでいた。親友だった。 だけど喧嘩をしてしまった。 私が悪かった。でもさきも悪かった。 いいや、さきの方が何十倍も何百倍も悪かった。 あの喧嘩は雪が降ってた日のこと。 私には好きな人がいた。同じクラスの優くんだ。 さきが言った。 「優くんから告られて付き合っちゃった。」 目の前が真っ白になった。雪が降っていたからかもしれない。 「なんで?私が優くんのこと好きなの知ってるよね?」 「ごめん、でも私も優くん好きだったの。」 「何言ってるの?応援するって言ってくれてたじゃん。」 私は泣きそうだった。 「そりゃ、応援はしてたけど」 そこからさきは黙ってしまった。 さきにイライラした。さきに優くんを取られたことが気に入らなかった。 私は正直、さきのことを心の中でバカにしていた。 一重で鼻が大きくてかわいくなかった。 だから絶対に彼氏ができるのは私のほうが先だと思っていた。 そんなことを思ってた私って性格悪いな。 だから優くんにも選ばれなかったんだ。 さきと言い合ったあと、白い息を吐きながら思った。 今出てる涙も凍ってしまうような気がした。それほど寒い日だった。 社会の授業、隣の人と話し合う時間が終わった。 窓の外を見ると雪の嵐だった。 あの喧嘩の日のことを思い出した。 黒板を見ようとしたらさきと目があってしまった。 やっぱり何度見てもかわいくない顔だ。 なんでこんなやつに負けたんだろう。 さきから目を逸らされた。

高槻に行きたかった

真夏のピークはわかっても、真冬のピークはわからない ムーミンは眠っていて、ちびのミイも起きてこない おおきなひとり言だと振り返ると スマホを片手にしゃべってる誰か そういったこと、以前はよくあった 最近は、おおきなひとり言だと振り返ったら ねことお話しているといったぐあいで ココロがやんわりあったかくなる わたしは高槻に行きたかった 梅田の地下で迷子になって ああああああああ、茫然自失 あせっちゃう、あせっちゃう、あせっちゃう あせったときはひとまず立ち止まって これでいいんですけど そんな顔をつくって壁にもたれて けだるげにスマホを取り出しゲームげえむGAME わたしは高槻に行きたかった 結局、高槻には行けなくて、どうしてだろうか宝塚 この世はままならないものなのさっと わたしは高槻に行きたかった

月相位

月明かりの公園。 ベンチに腰かける二人の男女。 「…お月さまってさ。 なんか、こー勝手に色々背負わされてるよね~」 「なんだそれ?」 「日本だとさー。兎がいたり、かぐや姫が帰ったり、アイラブユーだったり……口出せないと思って、責任押し付け過ぎじゃない?」 「責任って……別に責任とって欲しい訳じゃないだろ?」 「…ん、そうだね……責任、取って欲しい訳じゃないんだよね」 「……?」 「──“月が蒼いですね”」 「……それを言うなら、“きれいですね”じゃないのか?」 「手垢ベットリじゃん。蒼い月の方が、満月が二回とか、なんか得しちゃった気分?かな、と」 「百恵ちゃんの自叙伝……」 「それ、だあれ?」 ──その後、スマホで確認したところ、百恵ちゃんの自叙伝は『蒼い時』だったと知る二人でした。

sorto

「分かった。死んで異世界に行く」 「はあぁ?…」 日常の、些細な言い争いから出た一言。 ……些細? 些細なんだろうか? 旦那が… 婚姻関係を結んでいる相手が、 私でない女と、ラブホに入っていく姿を見た、と言うことは。 「流行りでしょ?」 「おまえ、頭大丈夫か?」 「天国とか地獄とか、死んだら行くの実は異世界なんじゃないかって」 「…………」 「あたしね、あなたのこと好きなのよ。だから、あたしを好きじゃないあなたは要らないかなって」 「……っ!」 「ここじゃない、どこかに行きたいかなって」  旦那の顔をじっと見る。  我ながら、なに言ってんだろ?だけど、  旦那の顔は、食っちゃいけないもの――――あなたの大嫌いなカキを口にした時みたいな顔してる。 「…ごめ…」 「何に対して?」  また、黙る。  んー…それはそれで困ったな。  言い訳を聞きたい訳じゃない。 「楽しかった?あたし以外を抱くの」 「……!」 「気持ち良かった?あたし以外を抱くの」 「…………」  不思議だな。  あんなに大好きだった人の辛そうな顔見てるのに、ちっとも元気付けようって気が起きない。  何でそんなに、辛そうなんだろう。  ……取りあえず、 「どうしたの?なんか、辛いことあった?」  て、定型文で聞いてみる。  棒読みになっちゃった。  ちっとも心が籠ってないね。    目も、鼻も真っ赤。  怒ってるのかな? 「――――君は……俺が好きだったの?」  途切れ途切れに、ようやっと吐き出された言葉。  この人、あたしの言った事、ちゃんと聞いてたのかな?  それ、言ったよね?  頭がじんじんする。  目頭がぎゅってして、  喉が詰まって、  お腹がもやもやして、  両手がびりびりして、  足が………氷ついたみたいだ。  足元に、魔方陣が出てこないかな。  聖女でも、奴隷でもいいや。  分かってるのは、ここにいたくないってことだけ。  旦那の顔色が変わる。  足元に、魔方陣の代わりに雫が落ちていた。  

メドューサ・メドュ子のお悩み相談室

どうも皆さんこんばんは 今日からはじまりました新番組 メデューサ・メデュ子のお悩み相談室 この番組は短編作品限定の小説投稿サイト『Prologue -プロローグ-』の提供でお送り致します この番組のナビゲーターを務めるのは私メドューサ・メドュ子です。皆さん、どうぞよろしくね はい、と言うことで はじまりました新番組 とっても緊張してるけどメドュ子頑張ります この番組は皆様のお悩みを私メドュ子がズバっと解決して差し上げる内容になっています。では早速今夜のお悩み相談始めさせていただきます ペンネーム、たこ焼きガールさんから頂きました。ありがとー メドュ子さんこんばんは 「こんばんは」 私は今年で40歳になってしまうのですが、 「私なんか3000歳超えてるのよ、若い若い。ピチピチよ」 未だに彼氏が出来ません 「彼氏欲しいよね~」 なので思い切ってマッチングアプリを使ってみたのですが 「うんうん、マッチングアプリで付き合ってそのまま結婚しました!みたいなカップル多くなったわよね」 この人良いなと思う男性がいて、でもいざコンタクトを取ろうとすると勇気がなくて、 「そうよね!ドキドキしちゃうわよね。私もそうだけど皆、自信なんかないわよね〜」 メデュ子さん、こんな私に少しの勇気を下さい。 「分かりました。たこ焼きガールさん。きっとこの縁はあなたにとって大切な出会いになるでしょう!そんなあなたにこの言葉を贈ります!」 【【弱い心は石にしておしまい!!】】 はい、出ました伝家の宝刀。メドュ子の石化アイ!と言うことで、そろそろお時間です。皆またねー!シャー!

20-20-20の悲劇

 自分最大の資本は、体だ。  特に、目は重要だ。  裸眼で遠くまで見ることができれば、近づいてくる危機に対応できる。  眼鏡をかけなければ生活できない人間なんて、最低の弱者。  睡眠中に異世界転生してしまえば、「目がー目がー」と騒ぎながら逃げ遅れ、マンモスに踏まれてぺしゃんこだ。   「ニ十分に一階、二十秒間、二十フィート先を見る。これだけで、人生勝ち組だ」    ニ十分に一度鳴るアラームが、スマホから響く。  俺はパソコンから目を離し、窓の外を見る。    隣のアパートで、洗濯物を干す女子大生と目が合った。   「きゃー! 変態!」    俺は警察に捕まった。  ニ十分に一回、女子大生の洗濯物を凝視する変態として。  そんなつもりなどなかったが、世間の目は厳しい物だった。    資本を守ることは、なんて難しいんだ。

【超短編小説】「変身」

 一人の女がふらふらと道を歩いている。女がふらふらするたびに、ぽろぽろと何かが地面に落ちる。それは赤い。それは苺である。苺は女のスカートの中や、上着の袖の間から落ちてくる。どうやら女の肉体がどんどん苺に変化しているらしい。やがて女の片腕がすべて苺になり、片目が苺になり、右足の指がすべて苺になった。女はふらふらと歩き続ける。女が歩いた後に点々と苺が落ちている。そして女はスーパーマーケットに入った。もはや女の肉体の八割が苺になって、地面に落ちていた。女はとある棚の前でついに倒れた。女の肉体の全てが苺になり、女の魂だけがそこに漂っていた。女が倒れた場所の棚には、練乳が並べられていた。

論点をすり替えるな

「おーい、論点すり替えないでもらっていいですかー?」    まただ。  こいつは、論点のすり替えという指摘を、口癖のように言うようになった。  正直、自分の中では論点がすり替わってなどいないので、こいつの言葉の意味が分からない。  だから、聞いてみることにした。   「ごめん、自分ではすり替えたつもりがないからわからない。すり替える前の論点と、すり替えた後の論点を言語化してくれない?」 「え?」    そいつは腕を組んで悩み始めた。  あーでもない、こーでもないとうめいた挙句、最後には俺をにらみつけてきた。   「論点をずらすな!」    そして、走って逃げていった。  きっと、自分でも論点がわかっていなくて、ふわっと何かが違うと思ったから、反射的に口癖が出たのだろう。  理由が分かってすっきりした。    俺はすがすがしい気持ちで家に帰り始めた。  せっかくだ、途中でカフェにでも寄って帰ろう。

アルバム

「あ、懐かしいな…」 押入れの整理をしていると、分厚いアルバムが出てきた。 そこには、小さかった頃の我が子が写っていた。 一枚一枚ページをめくる。 初めて笑った日、 初めて立ち上がった瞬間、 短い手足を一生懸命に使って、こちらへ向かってきた姿―― 小さな「初めて」が、 余すことなく閉じ込められている。 写真の中の我が子は、 いつも私の腕の中に収まっていた。 あの頃は、泣き声に戸惑い、 眠れない夜に、ただ毎日を必死に過ごしていた。 もっと成長を喜べたはずなのに、 もっと優しくできたはずなのに、 と今になって思うことばかりだ。 忙しさを理由に、 見逃してしまった瞬間も、きっとあった。 それでも、こうして残された写真を見ていると、 確かに私は、この小さな命と向き合ってきたのだとわかる。 不器用でも、 迷いながらでも、 手を伸ばし守ろうとしていた時間が、 一枚一枚に刻まれている。 気づけばもう、 腕に収まらないほど大きくなった我が子。 あの日々は戻らないけれど、 この子がここまで私を母として育ててくれたこと、 そして、私を親にしてくれたことに 「ありがとう」

青春コンプレックス

 いつからだっただろうか。私の人生は、まるで靄がかかったかのように、薄暗く質素なものになってしまっていた。中高と華の学生時代を思い返すと、胸が痛くなるようでとても辛い。もう戻れないことが分かっているからこそ、こんなにも切なくなる。あの時は良かった。常に未来は希望に溢れていて、泣きたくなるほどに愛に守られていた。それなりに不安もあれば大変な思いもしたけれど、それすら今となっては輝いて見える。私はいつまで経っても、あの頃の自分に憑りつかれている。  だからといってもし、中高の学生時代をもう一度やり直すことができたとしても、私は絶対にあの場へ戻りたくない。一度目だからこそ、一度きりだからこそできることもあった。そういうものだ。  私がいま生きているこの瞬間だって一度きりのはずなのに、あの頃とまるで世界の見え方が違うのはなぜだろうか。「どうせ夢を見たところでもう遅い」「無謀な未来に労力を割くくらいなら、用意されたパターンの中にオリジナリティを見出す努力をした方が有意義なのではないか」そんな呟きが、頭の中で漏れる。あの頃と同じだ。私は何よりも私自身のことを、心の底から否定している。  物心ついたときから、私は夢を語るのが苦手だった。夢を持つことすら、自分に許してあげられなかった。どうしてそんなにも頑なだったのか。今思えば、私はもともと極端に心配性で、不安に思うことも多く、自分を疑うこと以外を知らなかったのだ。終わりのない一歩を踏み出すのはこんなにも怖いものなのだと、今となって実感する。  そして時間が経てば、こうしてつらつらと悩み耽っていることも懐かしむことができるのだろう。今この瞬間にはどんな力を持ってしても戻ることはできないから。人生において「もう一度」は存在しないから。そんなある種の安心感が、過去を綺麗に見せたがっているのかもしれない。どうにも無責任ではないか。私が今生きているこの世界は、なにも綺麗なものばかりではないというのに。  私は今日もあの日を思い出してしまう。あの時、あの場所、あの空間……思い耽っては懐かしむ。この感情の名前を、私は知っている。

睡眠時間は固定です

「よーし。皆お疲れ。今日は終わりだ」    午後十時。  残業が終わり、帰宅の許可が出された。  普段は午後十時に寝て午前六時に起きる私には、なかなかきつい。   「先輩、明日午前休とっていいですか?」 「駄目に決まってるだろ。何のために残業したんだよ」 「デスヨネー。じゃあ、遅刻になります」 「馬鹿なこと言ってないで、さっさと家帰って寝ろ! 体調管理はちゃんとしろよ!」    私は、体調が良すぎるのだ。  極めて極めて健康的。  どれくらい健康的かと言うと、毎日の睡眠時間がきっちり八時間に固定されているくらい健康的だ。    午後十一時、帰宅。  ご飯を食べて、お風呂に入って、洗濯を後回しにして。   「アラームめっちゃセット! お休み!」    午前ゼロ時、就寝。        午前六時、アラーム。  起きず。  午前六時一分、アラーム。  起きず。  午前六時二分、アラーム。  起きず。  以降、一分ごとにアラームが鳴り続ける。  午前六時三十分。  隣の部屋の住人が「うるせえぞ!」と扉を叩く。  起きず。  午前六時四十分。  隣の部屋の住人が呼んだ警察が到着。  起きず。  午前六時五十分。  警察の判断で救急車が呼ばれ、病院に連れていかれる。  起きず。  午前七時半。  病院到着、医者や看護師に必死の声かけをされる。  起きず。  午前七時四十分。  検査の必要があると、医者たちが決定。  身内に連絡をと母に電話が入り、「八時間経ったら起きるので放っておいてください」と返事がある。  起きず。    午前八時。  私、起床。  医者たちの驚いた顔が私を迎えた。   「ここどこ? あ、おはようございます」 「お……おはよう。体に、痛いところとかはない?」 「? ないです。ばっちり、健康体です」    午前八時五分。  始業時間には絶対間に合わないので、医者から上司に電話をしてもらう。  はい、遅刻確定。    毎日八時間眠らなければ、生活がままならない。  そんな健康な私には、なかなか現実の常識の中で生きるのは難しい。  皆、不健康に生きているから。

餓鬼大将を目指せない大人

 地元に戻るとイライラする。   「昇給したんだ!」 「まじ? いくら?」 「千円」 「いいなあ。俺なんか、今年は昇給なしだぞ」 「マジか。きっつー」 「代わりに社長が、お年玉って五千円くれた」 「ケチくさー。そこは、万札であれよ」    あまりにも、会話のレベルが低すぎて。  こっちは毎年、年収を何万何十万上げられるかって話をしてんのに。   「なあ、お前は? 東京の会社って、給料も高そうだよなー」 「まあ、ぼちぼちだよ」    俺の居場所は、やっぱりここじゃなかったんだとはっきりわかる。    だが、東京が俺の居場所なわけでもない。   『昇進したんだ』    次々と昇進していく同期と部下を見ながら、俺は必死に食らいつく。  休日返上で勉強しているつもりなのに、旅行だ合コンだと遊んでいるやつらが、何故か俺より先に行く。  背伸びして分相応な会社に入れた時は、それは喜んだものだ。  背伸びをし続けることがこんなに苦しいとは思わなかった。  最初から背の高いやつらは、背伸びなんてせずに俺の欲しい物に手が届いているのだから。   「くそくそくそっ!」    二次会を断り、タクシーを走らせる。  俺の地元に居酒屋は二つしかないので、出くわさないよう隣の町の居酒屋へ。  一人で酒をかっくらうと、冗談みたいに愚痴が出てくる。   「なんだよ! 楽しそうにしやがって!」    会社のやつらにも、地元の同級生たちにも、吐く言葉は同じだ。   「俺の方が努力してんのに!」    稼ぎ続ける会社のやつら。  稼げてない地元のやつら。  どちらも俺より楽しそうだ。   「親のすね齧ってるくせに!」    地元のやつらに至っては、未だ実家に住んで家賃ゼロ。  俺はと言えば、東京の高い家賃にひいひい苦しんでいる。  俺より低い給料なのに、俺より使える金が多い。   「向上心もねえ雑魚どもがよぉ!」    吐いて、吐いて、吐き捨てる。  意識が、どこかに飛んでいくまで。        目を覚ましたら、ホテルのベッドの上。  久々の同級生との再会も楽しめない自分の心の狭さに絶望し、目から涙と言う涙を流し、体を枯らせた。   『昨日は楽しかったな。また遊ぼうな!』    同級生から届いていたメッセージを見て、あまりにも自分が惨めで、今すぐ首を括りたくなった。  この人生を選択したのは、自分なのだから。

そうでもないよ

去年の暮れに喫茶店であの子と会った あの子はクリームソーダで 僕はコーラフロート ―寒いのに冷たいのだね あの子が言って ―でも、飲みたかったから 僕が言って おいしかったけど、からだがふるえた それで、あの子の前に、あたたかい紅茶が 僕の前には、あたたかいコーヒーが、運ばれてきた 紅茶を飲み、ふうと軽く息をついたあの子が ―今日のこれはね、忘年会なんだ と、あの子 ―そうなんだねえ と、僕 ―あんまり盛り上がらなかったかなあ お店を出てあの子が言って ―そうでもないよ 僕が言って 歩き出そうとした僕に、あの子が手をさし出してきて 僕は、その手にそっとふれた 駅まですこし、遠回りした

思い出

 コンビニの棚に並んでいたおにぎりの中に、具が『思い出』と書かれたおにぎりがあった。一つ買って、公園のベンチで食べた。おにぎりをかじると、かじった所から、赤いものが見えた。シャケかな。だがそれは、赤い風船だった。赤い風船が一つ、出てきた。そして、浮かんで、晴れた空に消えていった。あれが『思い出』か。赤い風船が見えなくなるまで空を見つめた後、米だけになったおにぎりを平らげた。

デンジボタル (掌編詩小説)

彷徨うデンジボタルを捕まえたくて。 季節外れの並木道、並木に絡みつくLEDに擬態して 季節外れの目的を虫取りカゴに詰め込んで また明日、デンジボタル。 (完)

今しばらくは同期のままで

 社員食堂の片隅で手作り弁当をつつく同期を見つけた俺は、向かい側の席に座る。 「なんだ、なんだー、溜息ついて! 仕事でやらかしたか?」  彼女は少しムッとしつつも、すぐに軽口として受け流した。きっとそうなると確信しているから、俺も気さくに話しかけられる。 「……だよな。おまえはいつも、全体を見てそつなく進めてたもんな」  彼女と俺は同じ新卒入社で、新人研修では一緒にチームのまとめ役を務めていた。自分から進んでチームの足並みを揃える役をしてくれて好感が持てた。俺としては好感の持てる同期以上の想いを彼女に抱いている。そんな彼女が溜息交じりに昼メシを食べているものだから、軽い感じで声をかけてみたのだ。 「何なら、近いうち飲みに行くか?」  心配半分、下心半分で提案したものの、彼女の返事はノー。交際相手がいるから、異性とのサシ飲みは御法度という答えだった。  そっか……恋人がいるんじゃ、しかたねぇよな。恋人がいると気付かず、アプローチを仕掛けようとした俺の何とマヌケなことよ。  でも、もし……。恋人との関係が上手くいっていないなら――。 「もし……彼氏とのことで悩んでるんだったら、俺じゃダメか?」  後日、彼女が恋人との関係に悩んでいると判明し、俺は気持ちを打ち明けてしまった。彼女の心を自分に向けるには、気持ちをハッキリ伝えるしかないように思えたから。  でも正直なところ、彼女の心がすぐに俺のほうへ向くとは思えなかったし、それは予想通りになった。俺の気持ちには応えられないと。今は新しい恋を始めるつもりはないと。俺の気持ちを真っ直ぐ受け止めたうえで、彼女はそう答えた。  そうだよな。それでいい。そんな彼女だからこそ、好きなんだ。今しばらくは、気の合う同期でいよう。気さくに話せる相手であり続けよう。いつか彼女の心に区切りが付いて、新しい恋を始めようと思うその日まで。

歪んだ不安

 電車を降りたら「どうでもいい」と言い切って、改札を出たら忘れるはずなのに、冷たい布団に挟まれながら今もうなされ続けている。

鳥の羽を切る

「あなたは鈍いからこれは無理。」 「だから外遊びはだめって言ったでしょう!もうあの子とは、遊ばないで!」受話器に向かって、担任教師にだろうか?変な金切り声で話し出す母の背中を見てきた。 「お前の母ちゃん変だよって、俺の母ちゃん言ってた。」 中学に上がり、まともな学級委員長に言われたことを思い出して、頭が痛くなった。 「早く頭の良い〇〇中学の子と仲良くなってよ。」 中学の私に言ってくるのはいつもこれだった。 私はその〇〇中学の生徒では無い。 仲良くなるのはおろか、その中学の校内には何も用は無いから友達も、できる訳がない。そもそも入れないし。 高校は、自由な校風を受験したかったが、母はいちゃもんをつけた。 受験費は母親が払うから、勝手に志望校が決められた。私が言っても担任が言っても、受験費を払うのは私だから、まだ高校生の私だから、子どもにはまだ分からないから、と。 結局、母は私の羽を切る。 今日の歴史の授業で先生はこんなことを言った。 沖縄では老人は赤ちゃんに戻ると言われていて、祝いの場で風車を贈るらしい。 今度はあなたが自由に動けなくなったとき、思考出来なくなったとき、私があなたの羽を切る。 あなたがそうしてきたように。あなたも未熟になるのだから羽を切る。

サイダー

雑音が、嫌いだった。話すのも、嫌いだった。 ヘッドホンをつけていれば、話さなくて済む。 今日も、明日も、来年も。 きっとずっと、僕の生活は変わらない。 そんな静寂に、突然現れた少女。 彼女は、平坦な僕の生活に彩りを与えてくれた。 桜の散る日も、雪が降る日も、ずっと、君と笑っていたかった。 君は僕の声を好きだといってくれた。 「可愛い」その声を、反復して思い出す。 彼女がいたら、話してもいいと思った。 ヘッドホンなんか、いらないって、思った。 山桜 かわいい言葉 僕は好き

車窓に映る顔

 駅に着くと車内にいた殆どの人が降り、空席が目立つようになった。無意識のうちに足が動き、立っていた扉から斜め前の席に腰を下ろした。  携帯の画面を見る気にもなれず、ぼんやりと前を見る。正面の席には誰も座っておらず、暗い窓に反射した自分の姿があった。ジャンパーはだらしなく胸元まで開いている。顔の部分がねっとりとした泥で塗りつぶされたように見えなくなっていた。窓に頭をもたれた人の整髪剤が、首から上の部分にべったりとついている。  前髪の形すらわからないほどの跡が顔を覆っている。塗りつぶされた顔からは表情を見つけられない。  降車駅に着いた時、自分の顔を忘れた。

君に会いたくて

※「寂しくて」の続編です。そちらもよろしければ。 ──────  結婚して初めての冬を、俺は遠い街のビジネスホテルで迎えている。  長期出張。カレンダーを見るたび、妻の里枝と過ごしていない日付に線が引かれていくみたいで、胸の奥が少しずつ冷えていく。  夜、部屋の明かりを落としかけたころ、スマートフォンが震えた。表示された名前に、ほっと息をつく。 「もしもし」 『……起きてた?』  彼女の声は小さくて、少しだけ間がある。いつもの話し方だ。  つけていたテレビの音を絞る。 「うん。今ちょうど横になったところ」 『そっか』  それきり、少し沈黙が落ちる。何か言いたそうで、でも言葉を探しているときの癖。 『ね、聞いて。実家、三日で帰ってきちゃった』 「やっぱりか」 『だってさ、パパが「本当に仕事なのか」とか、「若い男は外で羽伸ばすんだ」とか。  ずっとそんなこと言うんだよ。……疲れた』  語尾が少しだけ尖る。でもすぐに力が抜ける。 『あなたが気を遣ってくれたのは分かってる』 「ごめんな。かえって寂しい思いさせた」 『……ううん』  その「ううん」のあと、また短い沈黙。受話口の向こうで、彼女がソファに丸くなっているのが目に浮かぶ。 「今日は何してたの?」 『仕事終わってからカフェで本読んでた。  帰りにスーパーの半額弁当買って、ドラマ見て』 「一人で半額弁当狙いに行ったの?」 『うん。意外と楽しいよ、あれ。おばちゃんたちとの戦い』  俺は笑った。彼女も笑った。そんな他愛のない会話を続けた。今日見たドラマのこと、近所のコンビニの店員が変わったこと、街角の地域猫のこと。  そしてまた、ところどころ黙り込む。 「……それで?」と促すと、「うん、そうそう」と慌てて話を続ける里枝。その繰り返しだった。 『ねえ、友貴』 「ん?」 『早く会いたいな』 胸が締め付けられた。 『独りでいると、部屋が広すぎて寂しい。  二人でいる時は狭いって言ってるのにね。変なの』  寂しがりやの彼女からあふれてくる言葉が、胸に刺さる。 『早く会いたいな』  吐息が混じる。あの、くっついてくるくせに、触れようとすると逃げる、猫みたいな妻の声。 「俺もだよ」  本当はもっと言いたい。でも、うまく言葉が出てこない。 『……そっち、寒い?』 「寒い」 『じゃあ、ちゃんと暖房つけて』  まるで自分のそばにいないのが分かっているみたいに。  そのうち彼女からの返事が遅くなっていく。呼吸音が一定になり、小さな息づかいになる。 「里枝?」 『……ん』  眠りかけの声。 「もう寝ろ」  返事はない。耳を澄ますと、規則正しい寝息が聞こえてきた。電話を握ったまま、眠ってしまったらしい。  俺はしばらくそのまま聞いていた。彼女の吐息。いつも隣で聞いているはずの音。  こんなに愛おしく感じたのは初めてかもしれない。 「おやすみ」  小さく呟いて、電話を切った。  明かりを落とし、ベッドに横になる。天井を見つめながら、さっきの声を反芻する。「早く会いたいな」って。  会いたい気持ちは、俺も一緒だ。今すぐ、帰りたいくらいだ。  目を閉じる。せめて夢の中で会えたら。そう願いながら、俺も眠りにつく。  傍らに眠る、彼女の柔らかい温かさを思い出しながら。

雨の蓋

「本日は、全国的に大雨の予報です」    扉を開けたら、壁のような雨が降っていた。  無色透明な雨粒が集まって、遠くの景色を隠してくる。  試しに壁を触ってみれば、手はめり込んだが痛かった。   「まーじか」    運行状況を見て見ると、電車は軒並み運転見合わせ。  電車もこんな大雨の中は知りたくないよなあと納得する。  社給スマホを見てみれば、出勤禁止のメールが届いていた、  全社的に特別休暇の扱いとするようで、有給休暇は減らないらしい。  命大事に。  ありがたい。   「しっかし、やることねえなあ」    仕事をする予定だったので、やりたいこともない。  いや、やりたいことがあったとして、どのみち出かけることもできない。  カップラーメンの備蓄があるのだけを確認して、二度寝した。    窓の外も真っ暗なので、カーテンを閉めて電気をつけた。  ざあざあと雨音がうるさいので、イヤホンで耳を塞いだ。  深海の奥にでもいる気分だ。    何もやることがない。  だから、今日は何もしない一日にした。  寝ることは何かやることなので、パジャマから私服に着替えた。  椅子に座って天井を眺め、頭の中で「ぼんやり、ぼんやり」と復唱する。    何もしていないのだと、自分に言い聞かせる。    雨が、人生に空白時間を作る。  人間と関わらない、社会とも関わらない、閉ざされた瞬間。  頭の中にノイズのような何かが流れたので、今自分のやっていたことは正しかったのだと確信する。    普段使われていないだろう脳の一部がやたら活性化し、宇宙の末端はどうなっているのだとか、もしも受験で第一志望に受かっていたら人生はどう違っただろうかとか、変なことばかりを考えた。  筋肉痛のように脳が痛んだが、どうにもハマってしまって抜け出せない。    現実から少し離れたわき道に入った気分で、思う存分雑草を踏みつぶしながら思考を歩かせた。       『ぴーぴー。ぴーぴー』 「うおっ!?」    そして、二度寝防止用アラームの音で、現実に引き戻された。  いつだって、こういう詰めが甘いのが自分だ。    アラームを全て切って、もう一度椅子に座ってみた。  天井は天井のまま佇んで、脳は「天井だよ」としか言ってくれなかった。

寂しくて

 結婚して初めての秋は、静かに過ぎていく。  窓の外では冷たい雨が降り続いている。十一月も半ばを過ぎて、夜になると部屋の空気がひんやりと肌に触れるようになった。  暖房をつけようかと迷っているうちに、妻がそっと俺の背中にくっついてきた。 「寒い」  小さな声でそう言って、妻は俺のシャツの裾を掴んだ。  二歳年下の彼女は、こういう時まるで子どものようだ。 「暖房つけようか」  そう言いかけたけれど、妻は首を横に振った。 「寂しいからこうしてたい」  ぽつりと呟いて、彼女は俺の腕に自分の頬を押し付けてくる。その温もりが妙に愛おしくて、思わず抱き寄せようとしたら、するりと身をかわされた。  振り返ると、妻はいたずらっぽく笑っている。 「なんだよ」 「だって」  猫みたいに気まぐれなやつだ。結婚前から知っていたけれど、一緒に暮らし始めてからその傾向はますます顕著になった。  べったりくっついてきたかと思えば、こちらから触れようとすると逃げていく。でもまた数分後には、何事もなかったように側に寄ってくる。  ソファに座ってテレビを眺めていると、妻が今度は俺の隣に腰を下ろした。  そしてまた、そっと俺の腕に触れてくる。 「ねえ」 「ん?」 「私ね、小さい頃、両親が共働きだったから」  妻は俺の腕を両手で抱えながら、どこか遠くを見るような目をした。 「学校から帰ってきても誰もいなくて。  鍵開けて、一人で家に入って。冬はすごく寒かったの」  テレビの光が彼女の横顔を淡く照らしている。 「ストーブつけて、宿題して、でもやっぱり寒くて。  寒いと余計に寂しくなって」  妻の指先が、俺の腕をぎゅっと握りしめた。 「だから、寒くて独りきりは寂しくて嫌なの」  その言葉に、少し切なくなった。俺は何も言えずに、ただ妻の頭にそっと手を置いた。彼女は抵抗しなかった。  外では相変わらず雨が降っている。冷たく窓を叩く音が静かに聞こえる。 ──俺も独りは苦手だ。  一人暮らしをしていた頃、休日に誰とも話さずに一日を終えるのはしょっちゅうだった。そんな夜は、部屋がやけに広く感じられて、自分がひどく小さな存在に思えた。  誰かに電話しようかと考えても、こんな夜に誰を呼び出せばいいのか分からなくて、結局何もせずに布団に潜り込んだ。  でもそんなこと、彼女には言ったことがない。 「寂しいのは俺も同じだよ」  そう素直に言えたらいいのに、言葉は喉の奥で止まってしまう。代わりに俺は、妻の肩にそっと自分の頬を寄せた。 「あったかい」  妻がぽつりと言った。 「うん」  俺も小さく応えた。  妻の温もりが、俺の腕に伝わってくる。そして俺の温もりも、きっと彼女に届いているんだろう。  寂しいのは妻だけじゃない。俺もずっと、誰かの温もりを探していたんだと思う。  テレビの音が遠くなっていく。外の雨音も、いつの間にか子守唄のように聞こえ始めた。  妻の呼吸が、ゆっくりと穏やかになっていく。俺の腕を抱えたまま、彼女はうとうとし始めているようだった。その重みが心地よくて、俺も少しずつ瞼が重くなっていく。  もう一人じゃない。  そう思ったら、不思議と安心した。  これから訪れる寒い冬も、冷たい雨も、二人ならきっと大丈夫だ。  互いの温もりを感じながら、俺たちは静かに眠りに落ちていった。  窓の外では、まだ雨が降り続けている。

桜の咲く時 彼を思い出す

注意 これは私が経験した事が書いてあるので… 気をつけて読んでください 今日は、彼に会うのが最後の日 彼は、元気いっぱいでギャップがある人だった 私は最後の日だから告白をした、最後の日には、公園に行く道中に、手を繋いだりしたら、彼は、顔を避けていた、でも最後の最後にハグをしてくれた…またどこかで会える時には、また会いたいと思う私だった…… 桜が満開の時期 桜を見ると何故か、彼を思い出した…心は、ボロボロになった、私にとって彼と遊んだ日々が…幸せの時間だったと思う…また会えたら、笑顔にしてくれるか考えてしまう… また会えたら、笑えますように……

嘘と真の中間点に疑念の光

昔私達が子供の頃大人から嘘付いてはいけない 苛めや差別しては駄目だと学ぶ為色々な絵本を 読んだ舌切り雀、杜子春、蜘蛛糸、ピノキオや 王様の耳はロバの耳、裸の王様、ガラスちゃん 人魚姫、狼少年、等嘘を付くと罰が降ると教え られて大人と言うかおばさんに為って仕舞った けど世の中は大人達の嘘が多過ぎるから世間が 乱れて政治家達の良い所取りな気がするし既に もう誰が政権取ろうが関係無い貧乏な奴は死ぬ 迄貧乏のまま天の御迎え待つだけの惨めな人生 理不尽な生き様曝す前に全部ブチ捲ける覚悟は この生活が始まった瞬間から等に心の隅に有る からスッキリしたいな嘘ばかりの政治家共先ず 小難しい政策や耳障りの良い言葉より行動だと 言う事を今の政治家は何時に為れば理解するの だろうか多分このままじゃ今回も騒ぎばかりで 何も変わらない日本と為るかも知れない出来る 事為らばこの疑念が実現し無い世界線に為れば もしかしたらその時こそ日本が変われるかも? 知れない…行動無き政治は国を滅ぼす的な

夕刻

夕刻の山は影に染まり、山の上の雲ははち切れんばかりに輝き、燃える太陽に焼かれている。 山から離れた空にある銀色の雲は、淡く燃えて昼間の終わりを表している。 駅のホームに帰宅者がそろう、いつもの時間。今日も雀の歌が聞こえいる。

配達先シリーズ【仲良し夫婦】

おしゃべり好きな配達先の店員さんがいると夫は、よく私に話してくれる。 それは、夫が配達に行く先のスーパーで働く藤崎さんという人だ。お惣菜売り場のリーダーで、とにかく話し好きらしい。 「藤崎さんに捕まるとさ、昼休みが削られるんだよ」 そう愚痴りながらも、夫は少し笑っていた。 話は面白いから、結局最後まで聞いてしまうのだという。 藤崎さんが働いているのは、地元密着型の小さなスーパー。 夫は配達のついでに、そこで昼食を買うことが多かった。 ある日、夫が惣菜を手に取っていると、背後から声をかけられた。 「それ、美味しいですよね。近所のご夫婦も、いつもそれを買ってたんですよ」 「へえ、そうなんですか」 夫がそう返すと、藤崎さんは間を置かずに話し始めたらしい。 その老夫婦は、とても仲が良かった。 買い物はいつも二人一緒。 寄り添うように店内を歩いていたという。 ところがある日を境に、おばあちゃんが一人で来るようになった。 藤崎さんが理由を尋ねると、 「おじいさんが病気で寝たきりになってしまってね」と答えた。 一か月後。 二か月後。 おばあちゃんは変わらず一人で来店し、藤崎さんは来るたびに同じように声をかけた。 「おじいさん、どうしてるんですか?」 「体調が良くなくて、ずっと寝ているの」 おばあちゃんは、毎回同じ返事だった。 数週間後、県外に住む息子が帰省した。 そのとき、和室に敷かれた布団の中でおじいちゃんは横たわっていた。 既に、おじいちゃんは亡くなっていた。 おばあちゃんは、おじいちゃんの体が冷たいのを「寒がっているから」と思い、布団を何枚も何枚も重ねてかけてあげていたという。 だが息子が見た限り、死後かなりの時間が経っていた状態であったそう。 認知症が進んでいたおばあちゃんは、おじいちゃんが亡くなったことを理解できていなかったのだ。 腐敗は進み、布団と畳には人の形にくっきりと黒い跡が残っていた。さらに、染みついた臭いは、どうしても消えなかった。 おばあちゃんは、買い物の仕方も話し方も、周囲から見れば何ひとつおかしくなかったという。 だからこそ、後日、挨拶に来た息子から詳しい話を聞いた藤崎さんは、心底驚いたと夫に語ったそうだ。 「普通に会話できてたから、認知症だったと気づかなかったよ」 そこまで話して、藤崎さんは次のお客さんに声をかけに行ったという。 おばあちゃんにとって、おじいちゃんは「寝ている人」であり、「世話をする相手」だった。 だから、冷たい体も、動かないことも、すべて「体調が悪い」という理由に置き換えられた。 藤崎さんからその話を聞いて、「あの日は、昼食の味がしなかったよ」と夫は酒の肴をつまみながら話していた。 「その話をした後で、よく食べられるね」 私がそう言うと、夫は少し困ったように笑った。

配達先シリーズ【誰にも言えないこと】

 夫は配達の途中、佐藤商店に立ち寄るのを少しだけ楽しみにしていた。五十代のご夫婦が切り盛りする小さな店は、いつも穏やかな空気に包まれていた。子どもに恵まれなかったという二人は、夫を「息子みたいなものよ」と笑い、温かく迎えてくれる。  仲の良い夫婦。  少なくとも、表向きは。  夫の違和感は、奥さんの話から始まった。  ある有名な選手の熱烈なファンで、その選手が自分を愛していると本気で信じているらしい。SNSには年齢を感じさせない写真を載せ、彼への想いを綴る。 「彼は、私にだけ違うの」  そう言って奥さんはスマートフォンを胸に抱いた。 「誰にも言えないことを、私には話してくれるのよ」  その言い切り方に、根拠はなかった。  画面に映るメッセージは、丁寧で、優しく、どこか感情に寄り添う言葉ばかりだった。夫は微かな違和感を覚えた。  奥さんは過去のことを、ある日ぽつりと話した。  若い頃、夢を追って上京したこと。評価されず、地元に戻ってきたこと。  結婚は恋愛ではなく、お見合いだったこと。 「好きとか、選ばれたとか……そういうの、最初からなかったの」 “仕方なく”決まった結婚。 「悪い人じゃないのよ。でもね……最初から私は“代わりのきく人”だった」  さらに追い打ちをかけるように、望んでも子どもが授からなかった。 「みんな、当たり前に持ってるものを、私は何1つ手にすることができなかった」  そう言って遠い目をしていた。 「私ね、"特別"になりたかったの。」  奥さんのその言葉には、執着に近い確信があった。  誰からも選ばれなかった人生で、たった一人に選ばれているという実感。それだけが奥さんの支えのようだった。  だからこそ、SNSの中の彼は特別だった。  誰もが憧れる存在が、自分だけを見ているという構図。  奥さんには、彼が強く輝いて見えた。  最初は軽い気持ちで「いいね」を押しただけだった。  ——君の言葉は、他の誰とも違う。  ——君は特別だ。  ——君だけが分かってくれる。  奥さんは、送られてくるその言葉を何度も読み返したという。 「ねえ、分かる?“特別”って言われるの」  夫は答えられなかった。  ある日、奥さんは困ったようにでも嬉しそうに夫に言った。 「彼の"特別"になるって大変ね」  その瞬間、夫の背中を冷たいものが走った。  帰宅後、夫は私に佐藤商店の話をした。  私は黙って聞き、静かに言った。 「それ……何かの詐欺じゃない?」  夫の脳裏をよぎっていた言葉を妻も口にした。  奥さんが見せてくれたアカウントには公式認証がなく、フォロー数やプロフィールなどに違和感を受けた。  愛情を示し、特別感を与え、孤独につけ込む。  ロマンス詐欺の典型的な手口。  翌日、佐藤商店へ行ったとき奥さんはいつもと変わらない笑顔で言った。 「最近ね、少し返信が遅いの。でも……忙しいみたいだから仕方ないよね」  夫は何も言えなかった。  真実を突きつけることが、彼女を救うとは思えなかった。  そして、ふと気づいた。  旦那さんは、その話題になると必ず席を外す。  知らないのではない。知っているのだと思った。  帰宅後、夫は妻に再び佐藤商店の話をした。  私はしばらく黙り込んでから言った。 「それ……もし誰かが現実を突きつけたら、どうなると思う?」  夫は答えられなかった。  あの奥さんにとって、妄想は逃避ではない。  唯一の自尊心だったからだ。  その日はたまたま近くを通りかかった夫。せっかっくだからと佐藤商店に顔を出した。  夫は何気なく旦那さんの手元を見た。  ガラケーではなく、見慣れないスマートフォン。  旦那さんは慌ててスマートフォンを隠した。  その瞬間、すべてが繋がった。  旦那さんは、奥さんを誰よりも理解していた。  しかし一度も"特別"だと思えなかった妻。    そして、自分もまた——。 「選ばれていない男」だったことを知った。  お見合いで始まった結婚。  とはいえ旦那さんは奥さんの事を愛していた。  だから旦那さんは、有名人になりすました。  絶対に疑わない存在を演じて、欲しがる言葉を与え続けた。  奥さんは誇らしげに言う。 「私は、あの人にとって特別なの」  奥さんは、何も疑っていない。  信じているのは、画面の向こうの言葉だけだ。  穏やかな店、優しい夫婦、温かい言葉。  その裏で続いているのは、愛するために人格を捨て、妻の幻想を壊さぬために現実を歪め続ける関係。  次に佐藤商店へ配達に行くとき、夫は二人の顔を直視できないだろう。  そこには、救いの形を間違えた末に辿り着いた、取り返しのつかない愛の形があるのだから。

配達先シリーズ【不幸】

これは、夫の配達先の友人から聞いた話だ。 その友人は、夫と中学からの腐れ縁だった。 たまたま配達で訪れた先で働いており、 顔を合わせるようになってからは、昔の話をする仲になった。 ある日、 「そういえばさ」と、 友人は話題を変えるように切り出した。 昔住んでいたアパートの話だという。 古い造りで、壁が薄く、 隣の部屋の物音がよく聞こえる場所だった。 ある日から、 壁を叩く音が聞こえるようになった。 コン。 コン。 最初は、 隣人がちょっとした作業でもしているのだろうと、 特に気にも留めなかったそうだ。 すぐに止むだろう、と。 コン。コン。 コン。コン。 だが、その音は止まらなかった。 昼も、夜も。 一定のリズムで、壁を叩く音が続いた。 あまりに長く続くため、 直接文句を言おうかとも思った。 だが、入居時に大家から 「何かあったら必ず私に連絡してください」と言われていたことを思い出し、結局、大家に相談した。 大家、友人の2人で、 隣の部屋を訪ねた。 扉の前に立ち、「○○さん、大丈夫ですか?」と大きな声で声をかけた。 返事はなかった。 しかし、その直後それまで続いていた壁を叩く音が、ぴたりと止んだ。 「音、止みましたね。」 大家と友人は顔を見合わせた。 「音は止まってますし、今すぐ危険という感じではないでしょう。」 大家は、深刻には思っていないようだ。 友人が言った。 「でも、一度確認した方がよくないですか?」 大家は、わずかに眉をひそめ、 面倒そうに息を吐いた。 「きっと、生活音とかじゃないですかね。  人それぞれ生活リズムも違いますし。」 そして、決まり文句のように言った。 「今回は、問題ないでしょう。」 友人は何か言いかけたが、 大家の口調に押されるように黙った。 「じゃあ、何かあったらまた連絡してください。」 そう言い残し、 大家はすでに廊下の先へ向かっていた。 腑に落ちない思いを抱えながらも、 友人は言った。 「大家がそう言うなら……大丈夫か。  また何かあれば、連絡します。」 数日後。 隣の部屋から異臭がした。 再び大家が呼ばれ、 今度は警察に立ち会ってもらい扉が開けられた。 トイレで、隣人は亡くなっていた。 動けず、声も出せず、ただ壁を叩き続けるしかなかった。 大家と友人が来たあの日、 隣人はきっと思ったはずだ。 ――やっと、助かった。 だから、叩くのをやめた。 友人は、 「もし、あの時……」と言いかけて、 それ以上は口にしなかった。 夫は、黙って聞いていた。 友人は、その出来事のあと、 すぐにアパートを引き払った。 それからしばらくして配達中にそのアパートの前を通ると、夫は無意識に速度を落とし例の部屋の辺りを見てしまうらしい。 空室なのか。 もう別の誰かが、 何事もなく暮らしているのか。 配達が終わり、友人と別れた後、夫は気になって、 あの事故のことを少しだけ調べてみた。 大きく報じられた事件ではなかった。 地方のネットニュースに短い記事が載っていただけだった。 古いアパートで、 女性の遺体が見つかったという内容だった。 異臭騒ぎがきっかけで発見された、とある。 記事によれば、 遺体は死後およそ一か月が経過していた可能性が高いという。 夫は、その一文で手を止めた。 一か月。 友人が聞いていた壁を叩く音は、 その期間、ほぼ毎日のように続いていたはずだった。 記事は続いていた。 遺体は、トイレに頭を突っ込んだ状態で発見されたという。 さらに女性の死亡後、通帳や金目の物が持ち去られていたこと、離婚した旦那が室内に出入りしていたことも書かれていた。 警察は事情を聞いている、と。 それだけだった。 夫はスマートフォンの画面を閉じた。 不幸が重なった。 それ以上、調べる理由もなかった。

上司シリーズ【足音】

これは、私の上司が体験した話です。 上司の名前は、J。 Jは中学生の頃、家族と一緒に新築の家に住むことになりました。 二階には自分の部屋があり、階段を上ってすぐの場所でした。 ある夜、Jが部屋で勉強していると、 ――ぺた、ぺた…… 素足で階段を上ってくる音が聞こえてきたそうです。 (母が上がってきたのかな) そう思い、特に気にはしませんでした。 足音はゆっくりと二階に近づき、 Jの部屋の前で止まりました。 次の瞬間、 扉が静かに開きました。 しかし、誰も入ってきません。 不思議に思ったJは勉強の手を止め、 廊下まで出て確かめました。 けれど、そこには誰の姿もありませんでした。 気のせいだと思い、 再び机に向かいました。 視界の端、足元に、 誰かの足元がはっきりと見えました。 その人物は、小さく、ぼそぼそと何かを話しているようだった。 声は聞こえるのに、言葉として理解できなかった。 Jは直感的に、 見てはいけない、 そう強く思ったといいます。 足音は部屋の中を一周しました。 それだけだったそうです。 そして、来た時と同じように、 静かに階段を下りていきました。 それが何だったのか、 Jは今も分かりません。 確かなのは、 あの夜、Jの部屋に「何か」が入ってきたこと。 それだけだそうです。 「ちゃんとしたオチがあるわけじゃないんだけどね。」 話し終わると上司は笑っていました。

風邪を移されて26冬

 「ゲホッゴホゴホゴホウウェッホウ!!」 知り合いが風邪を引いた。 「ゲホップエエッホーウゥ!!」 意味の分からん咳をしまくっている。 「ウエッホグエッホオォォウゥ!!」 うるさい。 何日後かに僕も風邪を引いた。 「グエッホウプゲレッポウゥ!!」 僕も意味の分からん咳をする。 飯も吐いてしまうからろくに食べれらない。 「ピュルプエッホウゴホフエッホウゥ!!」 我ながらうるさい。 次の日どこかの誰かが風邪を引いた。 「ヒュルリュッポウ!!ヒュエポリリャアウエッッホウ!!」 風邪の大合唱。 大人は風邪の子。 来年もこんな感じで誰かが風邪を引くのだろう。 暖かくして寝てね。 お大事に。

『記憶にございませんが、どちら様でしょう』  —私立女子高に響いた婚約破棄宣言—

「二川原ミカぁ!」  ここは、私立花ケ咲紅蘭女子学園。  私は、その高等部二年でございます。  先ほどから連呼されているお名前と同姓同名ではありますが、さて。 「二川原ミカぁ!」 「ふぅ…」    私は、重い腰をあげ窓辺へと足を運びました。  校庭の真ん中で、タキシード姿の男性がいらっしゃいます。 「二川原ミカぁ!貴様と婚約破棄してやる!」  はて?  黒のタキシードに拡声器を持つお姿は、あまりにもアンバランス過ぎて、笑っていいものか困ってしまいます。  返答するにも大声を出すのははしたないですし、様子を伺いましょう。  ……先生方と、何かお話されてますね。  それにしても、私はいつ婚約をしたのでしょう。  タキシード様は先生方に背中を押され、門扉の向こうに追いやられてしまいました。    授業を知らせるチャイムが鳴り、数学に備えます。  数学の教科書を端からノートに書き写して、自力で解く快感。  教壇の前に席を陣取ってますと、授業とは全く違うページを開いていましても気に止められないようです。  チャイムが鳴り清掃のため、私は当番の中庭へと向かいました。    タキシード様が座り込んで本を読まれてます。  地面に座られるのはどうかと思いますが、私には関係ありませんね。  本から顔を上げたタキシード様と目が合いました。  …………  先ほどの喧騒が嘘のように真っ赤になっておられます。 「……私が二川原ミカですが?」 「……知ってます。呼び捨てしまって申し訳ありません」  随分、礼儀正しいのですね。  拍子抜けしてしまいます。  手にしているのは流行りの少女小説のようです。  一度拝見しましたが、よく分からない世界で、直ぐに『嵐が丘』を原書で読み返しました。 「…………」  一つ確認しなければなりませんね。 「私はいつあなた様と破棄されるような婚約を結んだのでしょうか?」  その瞬間、タキシード様は両目からぼたぼたと音のしそうなほどの涙を落とされました。  殿方を泣かせてしまいました。  些か、罪悪感が募ります。  ポケットからハンカチを取り出し手渡しました。 「殿方が、そのように泣くものではありませんよ?」    タキシード様はハンカチを握りしめて、ずずっと、鼻水を吸い込みました。    と。  ………過呼吸のようです。  あいにく、ここは中庭です。    私は渡したハンカチを取り戻し、タキシード様の口にあてました。 「ゆっくり息をして…そう…ゆっくり吐いて、吸って……」 「…ごめっ…こんな…つもりじゃ…」  えづきながら、言葉を繋げます。 「…無理に、しゃべらないで。今は息をすることに集中して」  清掃終了のチャイムが鳴り響きます。  さて、どうしようか? 「行ってください。僕には構わないで」  そういわれたので、ハンカチをタキシード様の握った手の中に押し込んで、放ってしまった箒を片付けました。  手洗い場で手を洗ってから、ハンカチがないことに気がつきました……お行儀悪いですが、髪の毛を整えましょう。  ホームルームを終え、帰宅します。    校門に向かうと、下校する生徒の群れが不自然に空間が空いていた。  タキシードの上着を手にかけた男と、わたしは目を合わせた。 「呼吸は?戻った?」  短くそう聞くと、 「あ、さっきはありがとう。ハンカチは洗って…いや、新しいのを買って返します」   「洗ってくれたらそれで構わないけど?」  犬の尻尾みたいにブンブンと首を振る様子が面白い。 「そんなわけには行きません!」  …… 「元先生だから?」  はっと顔が上がる。 「気がついて…いたんですか」 「流石に元担任は気づくでしょう。その突飛な格好には騙されましたけど、地場先生」  なんか、また泣きそう…  ここは畳み掛けましょう!あら?口調が戻ってますね。まどろっこしい。 「で、この奇行はなんですの?」  すると、おずおずと中庭で読んでいた本を差し出した。 「以前…君が読んで…こんなのが…好きなのかな…と」    …少女小説。   「まさか、これを真似たと?」  首がもげそうなほど、前後に振っている。 「わざわざ?学校で?拡声器使って?」  わー!もげる、もげる! 「なんでまた……」 「君が…僕に興味がないことは知ってたから…印象つけたくて…」 「大の大人が…学校辞めてまで、なにやってるですか」 「僕は!教科書の先のページより注目されたかったんだ!」  あ、地場先生。  数学でしたね。 「…にしても、なぜ、婚約破棄?」 「………これ、読んでしまっただけです…」  地場先生は、少女小説の冒頭を指差した。 

母星

 幼稚園の園児たちが、遠足で訪れた昼下がりの公園で、食事を始めた。シートを敷いて、みんなで「いただきます」を唱和し、それぞれがお弁当箱を開けた。ある一人の園児が、お弁当箱の中から、一個のおにぎりを取り出し、それを食べようとした時だった。突然、頭上からレーザー光線が照射され、おにぎりを破壊した。園児たちと引率の先生たちは、驚いて空を見上げた。そこには、小さなUFOの大軍が浮かんでいた。園児たちが泣き出し、先生たちが呆然としていると、UFOから次々とレーザー光線が放たれ始めた。そのレーザー光線は、非常に正確に、素早く、容赦なく、園児たちのお弁当の中のおにぎりを、次々と破壊していった。先生たちは園児たちに覆いかぶさった。しかし、レーザー光線は、おにぎり以外のものには一切当たらなかった。やがて、米が焦げるにおいが辺りに満ち、すべてのおにぎりが破壊された後、UFOの大軍はどこかに飛び去っていった。その場にいた全員が、ぼんやりとそれを見送った。UFOの大軍は、地球を去り、宇宙空間に出ると、ワープ装置を使って、母星へと帰還した。彼らの母星は、巨大なおにぎりだった。一個の巨大な梅干しを核とし、米で出来た大地とお茶で満たされた海があり、空は全天が巨大な一枚の海苔で覆われていた。彼らは、「母星以外のおにぎりを認めない」という危険な思想を持っていた。そのために、おにぎりの破壊活動を行っていた。彼らのその思想の背景には、「母星であるおにぎりをいつか神様に食べてほしい」という願いがあった。だから彼らは、おにぎりの破壊活動に精を出していた。しかし、彼らは知らなかった。彼らの神様は、実はパン派であるということを。

エレクトリック (掌編詩小説)

夜を駆け巡る…『エレクトリック』 夜のお供さ 電子機器を駆け巡る…『エレクトリック』 スマホもラジオも引き連れて 脳に埋め込んだチップが共鳴する…『エレクトリック』 創り物だらけの世界で共鳴する 『エレクトリック』がプラネットを形成する (完)

ボス

間田はボスに金を払い続けて娘の延命処置をしていた。 毎月15日が回収日で、ボスはそこまで無理な取り立てはしなかった。 そんな光景を5年ほどみていた。 あの日はその月の15日だった。 間田はその日、ボスに金を払わなかった。 不思議に思った俺はその日、間田に訪ねた。言葉には出さなかったが、もう延命処置は必要なくなったのかと思った。 間田は『ボスを信じるな』と言い、そのまま俺に背を向けた。 翌朝。間田は自室で首を吊って死んでいた。 間田の死体の足には少女の死体が食らいついて間田を地面に引きずり下ろそうとしていた。 間田をあの世に逃がすまいとしているようにも見えた。 俺はあの少女は誰だったのか考える。 なぜなら今俺の目の前には間田の娘が入った延命装置があるからである。

ホワイトレンジャー〜怪人!風呂キャンセル界隈の向こう側の乱!!〜後半

…………………… 「あれ?女子たちは?」 「まだかな?」 「いやいや、絶対帰ったろうに。待ち合わせの時間を二時間も過ぎとる」 「まさか脱衣所でナルトダンス大会が行われているとは知らなかったからなぁ。思わず参加しちゃったな!ハハハ」 「ホワイトは踊れてなかったじゃないですか」 「ナルトダンス。しらないってばよ!」 「あの時間はなんじゃったんだ」 女性の悲鳴が聞こえる 三人が急いで声のした方に走っていく パールとアイボリーが倒れていた 「おい!大丈夫か!?」 「だ、大丈夫よ。だけど怪人を逃がしてしまったわ」 「怪人!?怪人が現れたのか?」 「うん、とても汗臭かったわ」 「汗臭いだって?」 「でもそれなら匂いを伝って探し出せるかもしれませんね!」 「よし!博士に言って探してもらおう!」 ホワイトは腕時計型トランシーバーで話しかける 「博士!聞こえますか?今、怪人が出て…」 「大丈夫。話は聞かせてもらったよ。今、レーダーで確認しているとこ」 「怪人の場所が分かったよ。マップのデータを送るね」 ホワイトレンジャー達は怪人のいる場所に駆けつけると そこは繁華街にある地下のライブハウスだった ステージには地下アイドルが歌って踊っている 客席は超満員でアイドル達を応援している でも様子がおかしい 異常に汗臭い匂いをしている きっと怪人に乗っ取られている 客席の男達を黒い影が覆っていく アイドルの悲鳴が聞こえる 怪人!風呂キャンセル界隈があらわれた アイボリーがアイドルを避難させる アイドルが手を振ってステージからはける ホワイトがホワイトガンを構える スノーが物販で買い物をしている 怪人がホワイトに突進する 「風呂上がりの匂いは嫌いだ!」 ホワイトはライブハウスの外までふっとばされる 凶暴化した怪人は逃げ惑う市民を次々に飲み込んでいく このままだと街全体が汗臭くなってしまう 巨大化した怪人が外まで出てきた 「俺は怪人風呂キャンセル界隈だ。風呂上がりのいい匂いのするお前らを汗臭くしてやる!」 「う、すごい匂いだ!」 「ホワイトさん大丈夫ですか!?」 アイドルを避難させてきたアイボリーが戻って来た 「アイボリーその姿はどういう事だ」 アイボリーはアイドルの衣装を来ている 化粧品もしている 「アイドルの控室にあったので着替えてきました」 物販の買い物を終えたスノーが戻って来た 「アイボリーさん。似合いますね」 「そんな。照れちゃいますよ。あまり見ないでください」 「アイボリーさん。僕が『アイボリーちゃーん!』っ言うので『はーい♥』って答えてくれますか?」 「え、そんなこと出来ないです」 「大丈夫!アイボリーさんなら出来るよ!いくよ!アイボリーちゃーん」 「はーい♥」 「何がスキー?」 「あんたら、ずっとなにしてんのー!」 月白がお怒りである 「アイボリーちゃん私のもあるんでしょうね!」 パールと月白が参上 パールと月白が巨大なシャワーの付いた 特大ショベルカーに乗ってきた 「皆乗るのじゃ!」 ホワイトレンジャーがマシンに乗り込む 「怪人風呂キャンセル界隈!シャワーを浴びて出直してこい!これでもくらえ!」 特大ショベルカーの先端に付いたシャワーヘッドから温かいお湯が噴き出る 「や、やめろ!綺麗になってしまう!やめろぉぉ!」 「シャンプーボム発射!」 「うぁぁぁぁ」 …………………… その後は なんだかんだあったが どうにか怪人をやっつけることができた 俺たち五人は戦いを終え打ち上げもそこそこに、それぞれの【仮の生活】に戻っていった ここはショッピングモールの特設ステージ アイドルグループがライブを行っている 客席は買い物ついでに立寄って観ているくらいな様子だが、アイドル達は精一杯頑張っている 「アイボリーちゃーん!」 「はーい♥」 「何がスキー?」 「チョコモナカよりもア・ナ・タ♥」 「パールちゃーん!」 「ふぁ〜い♥♥♥」 「何がスキー?」 「お金とお酒とア・ナ・タ♥」 「月白さーん!」 「ほーい!」 「何がスキー?」 「くず餅よりもお・ぬ・し!」 「怪人!風呂キャンセル界隈の向こう側の乱!!終わり!!!」

ホワイトレンジャー〜怪人!風呂キャンセル界隈の向こう側の乱!!〜

||いつの時代も人々の集まる所には 黒く悲しい思いが生まれるのも… 社会の底に溜まった 人々の黒い思いは 自我の芽を出し 日の目を求めて地上を埋め尽くしていく 怪人となった黒く悲しい思いは 力を増し、数を増やし 悪の組織 ブラックホール団となっていった! このまま日本は黒く染まってしまうのか!|| ……… 【怪人!風呂キャンセル界隈の向こう側の乱!!】 チャポンと音がこだまする ここは銭湯、湯気の中 ホワイトレンジャー達は下町に生き残る庶民の味方、銭湯に来ていた 「やっぱり銭湯はいいもんじゃのう」 「ほんとですね。毎日色々あるけど、銭湯のでっかい湯船に入っていると、何もかも身も心も綺麗さっぱりするんだよなー」 「本当ですね。でも僕はそろそろ出ますよ。熱いのは苦手なんです」 ホワイトレンジャー達は普段は一般市民として生活している 今日は、ブラックホール団との戦いで傷ついた体と心を癒しに銭湯に来ていた スノーが一足先に風呂からあがり扇風機に当たって涼んでいる 少し長めの髪は艶があり美しい 肌は白く筋肉質で生き生きとしている その隣に上がってきたホワイトが腰を下ろす スノーより筋肉質で日に焼けた肌は見るものに逞しさと頼もしさを感じさせる 「ふー!扇風機、涼しいー!」 スノーが買っておいてくれた牛肉瓶を受け取る 「サンキュ!」 ゴクゴクと喉を鳴らせて一気に飲み切る 「っあー!!うめー!」 爽やかな笑顔で笑う彼は日々、怪人と戦っているのに、鬱積した気持ちなど微塵もない眩しく心が輝いている 「よいしょっと」 ホワイトとスノーの前に月白が座る 喜壽(77歳)を迎えた老兵は 枯れ枝のようにしなびている 風呂に入っただけで息が切れ 今もはぁはぁと顔を古いタオルで拭っている シワだらけの顔にある目は光を失ってはいない 誰も彼の若い頃を知らないし、知りたくもないだろうが彼もホワイトやスノーのようだったのだ 誰もが月白のように年を取る だからどのように年を取るのかが大切になってくる 「月白さんこれどうぞ」 「あぁスノーくんありがとう」 「大納言しるこです」 「あっついの来たね!うまいよ!」 「冗談ですよ。こちらどうぞ」 「あっ冗談ね。ごめんごめん。ではいただきます」 「どうですか?新発売らしいですよ。スンドゥブ」 「うん、あっちーし、ピリ辛でうまいよ。もう良いよこれで」 |||その頃銭湯の外では 「男子たちめっちゃ遅くない!?」 「体が冷えちゃいますね」 「だよね!かえろ!」 パールがスタスタ歩きだす 「ま、待ってくださいぃ」 アイボリーが後を追う 夜中に湯上がりの女性が二人で歩いているのは人通りの少ない住宅街の奥の道 二人の後を少し離れたところから追う人影がある 「誰かに後をつけられてますね」 「うん、なんだろう。変態かな?」 二人は駆け足で細い脇道へ入る 家と家の間の空が細い通り 二人を追う人影も走って後を追って角を曲がる 「ストップ!!あんた何なの!?」 パールが仁王立ちで待ち構えていた その脇でアイボリーがホワイトガンを構えている 夜風が二人の髪からはシャンプーのいい香りを漂わせる 人影は霧のように広がり汗臭匂いで二人に襲いかかる 「キャー!!!」 ……………………