私がもらったものは、一つの壺。 誰があけたのか、雑に割られたような底穴が穿たれた、茶色い壺だ。 田舎の方に行けば、どこにでも転がっている、つまらない壺。 私がこれを曽祖母の形見だと思わなければ、ひび割れたこの壺は、そろそろ家の端っこで割り砕かれて庭の穴埋めになっているだろう。 古道具屋には、そんな道具がたくさんある。 誰が売ってしまったのだろう。 私が集めている大量の植木鉢も、私が死んだらああやって売られてしまうだろう。 売られるだけマシとも言える。 文章は、ただ消えゆくのみ。 古い箪笥の端っこに書かれた、子供の落書き。 「ふん、どうせ私が悪いのだ」 私が見つけなければ、消えてしまった、彼女の言葉。 100年も経って、私に見られるなんて思いもしなかったろう。
5時間目の授業をまともに聞ける人間は、特別な体をしているとしか思えない。 お昼ご飯を食べた後の時間は、眠くてまともに過ごせない。 そうじゃなくても、僕はたいていの時間で眠い。 友達から、前に聞いたのと同じ話をされたとき。 姉の買い物に付き合わされて、無限に待っているとき。 太陽がポカポカしている間、自分の体がうまく操縦できなくなる。 早く帰って寝たいと、いつも思っている。 だけど、腹立たしいことに。 僕の「眠い」はいつも、完全に落ちるところまではいかなかった。 そして夜に限って、なぜか目が冴えて眠れない。 結局寝不足になって、次の日もまた眠かった。 うちのクラスには、高槻くんという秀才がいた。 目立たない顔をしていたし、隣にいるにぎやかな友達の添え物みたいな扱いをされていた。 でも、いつも後ろの席にいる僕は、彼がいつも姿勢よく授業を受けている姿を尊敬している。 その背中に隠れて、思う存分うとうとすることができるから。 ああいう人間は、きっと夜によく眠れるのだと思う。 いいなあ。 国語の教科書は好きだった。 自分で読むものを選ぶのは面倒くさいけど、押し付けられるものとしては悪くない。 でも、授業は眠かった。 10分で読み終わる話をテーマに50分も長々と引き延ばされたら、 題材がどんなに良くても5時間目の睡魔にはかなわない。 今日の授業の題材は、アリとキリギリスを意味もなく難しくしたような話だった。 アリは本当に、忙しく働いたぶんの元を取れているのだろうか。 美味しいところだけ、賢いキリギリスに奪われて終わるのではないか。 そんな感じ。 高槻くんはまさに、真面目な働き者のアリだ。 僕はその後ろで、日向ぼっこをするキリギリス。 あのにぎやかな友達は、もしかしたら賢いキリギリスかもしれない。 そんな姿を想像した後、その例えなら僕は冬に飢えて死んでしまうことに気づいた。 寒いのはいやだな。日向ぼっこのまま、目覚めないのがいいな。 「おーい? 遠山くん? おーい?」 彼の声を、初めて聞いたかもしれない。 「……あ、高槻くん。どーしたの?」 「授業終わったぞ。さすがに、いびきはまずいって」 「ああ、うん。怒られてた?」 「いや、呆れられてた。遠山くんはいつも眠そうだけど、ここまでがっつり寝るのは初めてだって。そういうキャラだからってみんな笑って流してたけど、さすがに6時間目もそれはまずいだろ」 病気なんじゃないかって、心配してくれたらしい。 6時間目の授業は、今までで一番頭に入ってきた。 高槻くんの景色は、きっとこんな感じなのだろう。 こんな風に、毎日過ごしてみたい。 帰りのホームルームのあと、僕は部活へ行く準備をする高槻くんに声をかけた。 「ねえ。5時間目を起きて生き残るには、どうしたらいいかな」 彼は目をぱちくりさせたあと、優等生らしく当たり前の返しをくれた。 「よくわかんないけど、夜にちゃんと寝ればいいんじゃないか」 「夜はあんまり寝れないんだ」 「昼に寝てたらそうなるだろ」 どうしようもなく、堂々巡りだ。 「休みに寝だめするしかないのかなあ」 「逆効果だって。そうだ、逆に昼間のうちに思いっきり疲れるとかはどうだ」 「えー?」 「思いっきり走るとか、友達と遊ぶとか。 俺なんか、ワタルのやつに振り回されっぱなしだから、夜一度寝たら朝まで全然起きない」 高槻くんの言っていることは正しくて、しかもきっとその裏側に気づいていない。 眠れない夜はとても長いんだ。 昼間できなかったことを、なぞり返す羽目になるから。 その日をなぞり返す隙間もないくらい起きているから、彼はちゃんと夜に眠ることができる。 やっぱりその日の夜も、僕は眠ることができなかった。 土曜日に、電車で少し遠くまで行った。 教科書に載っていたあの話の作者の本を、買いに行ってみた。 用事はきっと何でもよかったのだけど、それがちょうどいい感じがした。 街の本屋にはたくさんの本が並んでいて、選ぼうとする人を試しているみたいだ。 なんだか面倒くさくなって、適当に別の本を買ってしまった。 そのまま帰ったら開かずに終わる気がして、駅前の喫茶店で頑張って眠らずに読んだ。 内容は、眠れない少女の冒険。 まるで僕みたいな主人公だと思ったのに、最後のオチはすべて夢の世界だった。 ひどいや。 帰り道の電車で、うとうとと物語の夢を見た。 びっくりするくらい壮大な夢だったはずなのに、起きた時3駅しか進んでいなかった。 6時間目みたいに体が軽い。 もしかしたら僕は、いい夢を見るために起きているのかもしれないと思った。 ……ていうか、寝ちゃったよ。 きっと今日の夜も、眠れないな。
「桜、綺麗だねぇ」 妹の良菜がきらきらした目で言う。 「そうだね!」とわたしは答える。 妹の良菜は病気を患っており、そう長くないと医者から告げられた。だから、桜が咲く季節には病室から桜をみて、一年間の家族での思い出を手紙に書いて、うさぎのイラストが書かれた缶ケースに保管していた。 ~1年後~ わたしはそわそわしていた。 理由は、桜が咲く季節なのに全然咲かずに、1、2個しか咲かない木が見えるだけだからだ。 しかも1年の間で病態は悪化し、いつ亡くなってもおかしくない状況だった。 そこで妹がいまにも消えてしまいそうな声で こう言った。 「お姉ちゃん...さ..くらがみ..たい。」 それを聞いたときすごく苦しかった。 いまにも死んでしまいそうなのにこの木は何をしてるんだ。すっごく悔しかったけど、1番悔しかったのは、何もできない自分がいたことだった。 次の日、妹の横で寝落ちしていたようで 妹の嬉しそうな声で目を覚ます。 「お姉ちゃん...み..て..!」 それを聞いて窓に視線を送ると そこには"満開"の桜の木があった。 なんで急に?とは思ったけれど、それ以上に嬉しかった。妹にみせれたこと、まだ妹は生きていること。 「すっごく...きれ..いだねぇ」 その言葉が妹から聞けた最後の言葉だった。 桜をみた代わりのように、 満開の晩に亡くなってしまった。 本当に悲しかった。そんな気持ちを押し殺すように自分は手紙に今までの 家族の思い出と最後に一文。 「また、桜が咲く季節に逢おうね。」 -10年後- わたしは20歳になっていた。 一人暮らしと同時に、荷物の整理をしていた時、 懐かしい缶ケースを見つけた。うさぎのイラストが書かれた缶ケースだ。 中を開くと、私宛に書かれた手紙があった。 「ん...?わたしに...?」 中を開くと、 「おねちゃん、だいすき!! また、あおおね!」 と、妹のまだ慣れていない筆跡でかかれた手紙を見つけた。その手紙はいつかかれたのかもわからない。 「うん、逢おうね。」 と泣きながらに言う。 「だいすきだよ」 と、聞こえるはずのない声が聞こえた。 わたしは泣きながら手紙を抱きしめた。
惑星は泡となる。 それは破壊ではなく、段階の移行だった。 球体は水に触れた瞬間から、その完全さを失いはじめる。表面を走る微細な振動。内部に閉じ込められていた気体が、逃げ場を探すように浮かび上がる。変化は急激だが、音は小さい。注意深く見ていなければ、始まりを見落とすほどだった。 観測者はそれを終焉とは呼ばなかった。 この宇宙では、形を保ち続けることのほうが、むしろ不自然なのだから。 惑星は崩れ、泡となり、境界を失う。内と外の区別は溶け、質量は意味を持たなくなる。残るのは、かつてそこに球体が存在したという、曖昧な記憶だけだ。 観測は数分で終了した。 結果は記録され、現象は再現可能と判断される。 そんなことを考えながら、私は色味かがった水面を眺めていた。 また、惑星は泡となった。
「ほら、ここならよく見えそうだよ。二人きりにもなれる」 「だね。あとちょっとで始まるよ」 僕と彼女は街の外れの小さな高台に来ていた。 あと少しで始まる花火大会を見るためだ。 「あ、あそこ見て。この前できたかき氷屋さん。すごい混んでるね」 「すごい美味しんだろうなあ」 ふと街から視線を外し横にいる彼女の顔を見る。 その特別白い肌に街の光が反射して、 夏なのに涼しげな雪を連想させる。 一瞬で奪われた僕の目を、 君がどこかにしまい込んでいるのだろうか。 返ってくることはないのだろうか。 僕の視線に気づき彼女もこちらを見つめ返す。 花火が上がった。 その瞬間、 世界は静寂に包まれた。 僕らは目を離さず、 互いの目の淵に反射した花火を嗜むかのように、 じっくりとゆっくりと。 その目の輪郭を準えた。 気づくと花火は終わっていた。 彼女が口を開く。 「ねぇ、私たち 」 その後、僕の中で彼女は亡くなった。 あの日から今に至るまで彼女は僕の前には現れなかった。 理由はわからない。 明確に示してはくれなかった。 だからこそ、彼女はいつまでも僕の中にいた。 嫌でも薄れていく記憶の中で、 僕は何度も何度も上から同じ線を準えて。 幾度も修繕されたその絵画はもうすでに原本とはかけ離れたものになっているのだろうか。 彼女の声、指先の温度、その一つ一つが確かに消えていく。 もう二度と確かめることのできないその体温が、どうか僕の体温よりも冷たいことを願って。 花火大会の数日前、初めて彼女が泣いているのを見た。 何が合ったのかはわからない。 僕は月並みな言葉をかけてやることしかできなかった。 もしあの時、僕がこの世のどこにあるのかわからない、あるかもわからない、彼女のためだけの言葉を見つけれていたら。 何か変わったのかもしれない。 そう思うだけがただ辛くなった。 あの日から八年。 今でも毎年花火大会の日になると街の外れの高台に来る。 僕の記憶に花火はないはずなのに。
春がきて夏がきて 秋がきて冬がきて そしてまた春が来る。 過ぎ去っていく日々の中を、時に悲しく、時に苛立たしく思いながら、結局私は生きている。 あの頃は赤や黒と決まりきったランドセルも、今では色とりどりに好きな色を背負って走る子供達。 年の離れた兄弟姉妹が、手をとって歩く姿に穏やかな気持ちになって、懐かしさから涙が溢れる。 あぁあの頃は良かった。 あんなにも世界は輝いて、あんなにも毎日が楽しかった。 私は毎日笑っていたなぁ。 年の離れた兄弟姉妹の手を引いて歩いたり抱っこしたりおんぶしたり、時には慰めたり。 あぁ私は弱くなった。 弱くなったよ。 こんなにも直ぐ涙が出てくる。 自分らしくとはなんだろうか。 大人になるにつれ言いたい事も言えず苛立たしく過ごす日々。 楽しい嬉しい悲しいツラい腹立たしい。 その全てを隠して生きる日々。 どうして周りはあんなに自由なんだろうか、なんて思うのは私が周りをきちんと見れてないからなんだろうなぁ。 もう一度。 もう一度、何も気にせず自由に笑って話せる日々を――。 それにしても何故だろう、ここ最近の私は歳をとらなくなった。 いや、分かりたくない。 そう、私はまだ生きている。 生きているのだ。 この世界で。 ◇◇◇ (あぁ、あんな頃あったっけな……あの気持ちの悪い《《兄》》がさ、偉そうに手を引いてさ、もうあんな家には戻らないけど、いやどうしたって戻れないんだけど) (昔の事はあまり覚えてないけど、《《アイツ》》には会いたくない。変わりに払って貰ってるけど、アタシはここでやり直すわ) (あの子はどうして親の私よりも先に逝ってしまったのか……私も) 『あちらのお宅一家離散して長男だけが地元に残ったそうだけど、早くに亡くなったんですって』 『あぁえぇそうなの? やーねー気味が悪い』 『なんかねー噂によれば~』 『長男以外みんなお金に困っていたそうよ』 ――あぁ私は今日もこの街のこの世界で《《生きている》》。 【一人寂しく死を生きる。end】
日本は女尊男卑だ。 そんなこと、誰が言ったのだろう。 「痛っ」 「気をつけろ!」 女性は、世界から排除されている。 ぶつかりおじさん。 犯罪の被害者。 結婚や出産への踏み込み。 女性という存在が、軽んじられることが多すぎる。 文句を言えば 「自意識過剰じゃない? そもそも、そんな格好してたら襲ってくださいって言ってるようなもんでしょ?」 などと、私のやってもいない罪が、私に押し付けられてくる。 この世界は息苦しい。 この苦しみを共感して欲しいと、SNSで友達を探した。 探している最中にも、【可愛いね】【おっぱい大きいね】【やりたい】というメッセージを受け取り続けてしまい、心が折れた。 やはり女性は、この世界の弱者なんだ。
みんなお金が好きだ、嫌いな人の方がきっと少ない。 まぁ考えてみたら、憧れの場所に行けたり、感動を味わえたり、夢を叶えたりしてくれるものだから当然っちゃ当然なのかな。 この前、親戚の叔母さんに聞かれた。 『積立NISA とかやってる?』 『はい、毎月数千円程度ですけど…』 『偉いねぇちゃんと将来考えて、資産運用は大事だもんね!!』と褒められた。 僕も働いていますよ。 僕も将来のために考えて、頑張って働いているのに、僕は褒められなかった。 だから、みんなやっぱりお金が好きなんだ。
今日は目覚めのいい日だ。 目が覚めてからすんなりベッドから出ることができた。 今日は長年同じ芸術家として苦楽を共にした親友を家に招き入れる。 朝食を済ませるとすぐにその支度に取り掛かった。 彼が座る場所の周りはできるだけ白く。 まるでキャンパスのようにする必要がある。 対して私はなるべく地味な色の服を着る。 作者が作品よりも前に出てこないようにするためだ。 料理は、そうだな。 あまり堅苦しくないイメージ、普段食べるようなものにしよう。 彼と会うのが楽しみだ。 「やあ、久しぶり。今日は来てくれてありがとう。料理の準備はできている。早速だが食事をしようではないか。積もる話も食べながらしよう」 彼は約束通り白い服を着てきてくれていた。 「さっそくだが、今日君を呼んだのは私の芸術感について話したかったからだ。はじめに芸術家はその作品を何をもってして完成というのだろうか。聞かせてくれ」 彼は言った。 想像してたものが出来上がったらじゃないか?と。 「違う違う違う。作品の制作が進むにつれ想像は膨らみそれは際限がないだろう。我々の想像力に終着点があるだろうか」 彼は言った。 では一体なんだ?と。 「よくぞ聞いてくれた。これはあくまで私個人の見解だが、無限大に広がる作品という名の想像力の唯一の終着点。それは破壊であると思う」 彼は言った。 作品を破壊することで完成するのか?と。 「ああ。そういうことだ。今まで積み重ねてきたものを、それとは反発的に破壊、崩壊することで人は喪失感を覚える。私はその感覚がたまらなく愛おしいのだよ。だからこそこの手でその感情を生み出したい」 彼は言った。 お前のそれは道徳的な問題は守られるようなものなのか?と。 「道徳に従った芸術などつまらなくはないか?まあそれはさておき、その破壊には死も含まれると私は思う。いや、死こそが最もその崩壊を体現する。古くからの友よ。共に芸術を追求してきた友よ。今日ここで友情という名の芸術の完成だ。」 彼は何も言わなかった。 がしかし、私を見る目はもう友ではなかった。 「なぜそんな目で私を見るんだい?おかしいじゃないか。今まで一緒に芸術を語らってきただろ。君と私という芸術の完成、そして新たな世界を切り開くために。その世界がきっと私に新たな芸術を与えてくれる。だから頼む、大人しく…」 彼が一瞬言いかける。 「お前は、」 私は用意したキャンパスに赤く割れた鏡を描いた。 耳を塞ぐように。
初日の出を見るために、山へ登った。 山と言っても、獣道なんてけったいな道がある場所でなく、幼稚園児たちのお散歩にも使える遊歩道のある低山だ。 ぼくと友達は暗い時間から歩き始め、息が上がることなく到着した。 多少体が温まったが、寒空には負けてしまう。 山頂には、同じことを考えている人が集まっていた。 ぼくと友達は、海の見える場所に立って、日の出を待った。 こういうとき、身長が高くてありがたい。 「寒いね」 「ねー」 息を吐いて手を温めること数十分。 黒が暖色を帯びて来て、海から太陽が顔を出した。 「初日の出だ!」 ぼくは光りの出る場所を指差した。 「豊栄登(とよさかのぼり)だ」 友達は、未知の言葉を口にした。 「豊栄登?」 「あ、ごめん。朝日が昇ることを、そう言うんだ」 「へえー。初めて聞いた」 「ぼくも、最近知ったんだ」 「なんて書くの?」 「豊かに、栄える」 周囲では、スマホを取り出して初日の出を写真に収める人ばかり。 実に現代的だ。 でも、ぼくと友達の周りだけは、古い貴族の家にタイムスリップしたような感じがした。 太陽の光。 豊かな光。 栄の光。 初日の出の光を浴びていると、神聖な気分になった。 ぼくは二回手を叩き、太陽に向かって一礼した。 二礼二拍一礼の方が良かったかなと思ったが、手を叩くことから始めてしまった手前、そのままでいく。 友達はぼくを見て笑い、ぼくといっしょに二拍一礼をした。 「なんか、いい年になる気がする」 「ぼくも」 そのまま太陽全部が顔を出すのを見届けた後、家に向かって歩き始めた。 豊栄登。 毎年見ている初日の出が、言葉一つでこんなに変わるとは思わなかった。 家に帰ったら、親の辞書でも引っ張り出してみようかと、なんとなく思った。
初恋の人と、同じ匂いがした。 付き合ったきっかけは、そんなことだったと思う。 私は彼の隣に座るのが好きだった。 彼は、私の手をあったかいと言ってくれた。 お互い、目を合わせるのが苦手だったけど。 なんだか必要以上に、いつもくっついていた気がする。 毎日を過ごすだけで完結していたから、 結婚とか子どもとか、そういう未来のことは全然考えなかった。 「学生みたいなカップルだね」と、友達に笑われた。 公園で、シャボン玉を吹く子どもとそれを見守る夫婦を見た。 可愛いとか素敵だねって感想を押し付けられる気がして、目をそらした。 液体が風船になって、花火みたいにパッと消える。 風船や花火みたいに、大きな音は残さない。 「ここに、ずっと止まっていたいな」 私と彼、どちらが先に言ったんだっけ。 でも、たぶん同じことを考えていた。 4月から、彼の転勤が決まった。 私は今の仕事もこの町も好きだったから、やめてついていくつもりはない。 彼の匂いも私のぬくもりもない関係が、それでも続くとは思えなかった。 きっと近くにいても、変わることは止められない。 私たちの関係は、いつか必ずはじけてしまう。 そして、しあわせがはじけた後も、生きていかなくてはいけない。 今からでも、駆け落ちをしてしまおうか。 でも、彼は仕事を放り出して町に残らないというのに、どうして私だけが放り出さなければならないのだろう。 こんなことを考えている時点で、何かがはじけてしまったのだとわかる。 一番きれいな場所で、ぱっと終われたらいいのに。 でも、初恋の人に鼻で笑われたときに、赤ん坊が泣くような癇癪で自分を壊していたら、 彼と寄り添って過ごす日々はなかったのだろう。 私は何も言わずに、彼の首筋に顔をうずめた。 どうしようもなく好きな、優しい匂いがした。
夫は配達の仕事をしている。 その配達先のひとつに、いつも穏やかに笑うとても感じのいい男性がいた。 坂野と名乗るその男は、初対面の頃から妙に話しやすかった。 その配達先を担当して約二年。 世間話から始まった会話は、次第に私的な領域へと踏み込んでいった。 家族構成、育った町、学生時代のこと。 最近では、妻の職場のことや彼女の些細な癖まで尋ねてくるようになっていた。 悪意は感じられない。 だが、距離の詰め方だけがどこかおかしかった。 ある日の食事中、夫は坂野のことを妻に話した。 妻は露骨に顔を曇らせ、言った。 「気持ち悪い。そんなに個人的なこと、話さないほうがいいよ。」 その翌日から、家の周囲で奇妙なことが起こり始めた。 夜中、廊下に人の気配がする。 インターホンが鳴り、モニターを確認してもそこには誰も映っていない。 理由のわからない恐怖に、夫は怯えていた。 妻もまた、同じように眠れなくなっていった。 そんなある日、妻は職場で上司に呼び止められた。 深刻な表情の上司は低い声で言った。 「最近、あなたの周りに“黒い人影”がある。薄っすらと。 ご主人のほうも……あまり良くない気を感じる。」 上司はそれ以上説明しなかった。 ただ、静かに助言するように言った。 「詳しいことは分からないけどね。 ……自分のことは、あまり話さないほうがいいと思う。」 数日後、夫は衝撃的な事実を知る。 いつものように配達先へ向かい、坂野がいるはずの場所を覗いた。 しかし、そこに彼の姿はなかった。 夫は、近くの従業員に声をかけた。 「すみません。坂野さん、今日はお休みですか?」 「坂野……ですか?」 従業員は怪訝そうに眉を寄せ、近くの同僚と何やら小声で話した後言った。 「いえ。うちに、坂野という人はいませんよ。」 配達を終え、駐車場で夫は立ち尽くしていた。 二年間、自分は誰と話していたのか。 その時、トラックのドアをノックする音がした。 「あ、さっきの運転手さんですよね。」 ドアを開けると先ほどの従業員の姿があった。 「坂野が“いない”と言いましたが……正しくは、“今はいない”と言ったほうがいいかもしれません。」 従業員は周囲を気にするように視線を走らせ、声を潜めた。 「坂野は……三年前に亡くなっています。ここの引き取り窓口のすぐ横で、配送トラックに巻き込まれて。 人当たりが良くて、誰とでも話す人だったから皆よく覚えているんです。」 夫がこの配達先を担当するようになったのは、二年前だった。 「じゃあ……俺が話していたのは……。」 「あなたが会っていた“坂野”は、どんな顔をしていましたか?」 従業員にそう言われて夫は思い出そうとする。 穏やかな笑顔。柔らかな口調。 ――だが、顔だけがはっきりと思い出せなかった。 「事故の後に坂野さんを訪ねた方が、家に“何かいる”気配がすると言っていました。」 夜中の廊下の気配。誰も映らないインターホン。 夫には思い当たる現象があった。 「坂野は、生きていた頃から“人の話を聞くのが好き”でした。 自分のことは話さず、相手のことばかり……亡くなってからも、同じなんでしょう。」 その夜、夫はすべてを妻に話そうと帰宅した。 玄関の電気をつけた瞬間、背後から声がした。 「今日はお話ししてくれないんですか?」 振り返ると、そこに坂野が立っていた。 穏やかな笑顔。 足元は廊下の影と溶け合い、輪郭が曖昧だった。 「知ることで、私が存在できるんです。 あなたの家も、奥さんも……とても居心地が良さそうだ。」 表情を変えずに坂野は言った。 震える声で、夫は言った。 「……もう、何も話せない。」 坂野は、ほんの少しだけ寂しそうに微笑んだ。 「それは困りました。もう少しで、あなたになれたのに……」 次の瞬間、廊下の影が一斉に伸び坂野の姿は闇に溶けた。 それからしばらくして、妻は上司に再び声をかけられた。 上司は、以前よりも穏やかな表情で言った。 「黒い人影は、見えなくなったね。」 妻は、胸をなで下ろした。 だが、上司は少し言い淀んでから、続けた。 「正確には……“一つ”減っただけかもしれない」 「……一つ?」 妻は不思議に思って問いかけた。 「人影って増えるのも減るのも理由がある。 近づく場所がなくなれば薄くなるだけ」 上司はそれ以上何も言わなかった。 その夜、妻は何気なく廊下を見た。 電気の消えた壁に、影が落ちている。 そこにあるのは自分の影だけなはずだが、一瞬だけ多く見えた気がした。 しかし、目を凝らすと影はすぐに元に戻っていた。 「自分の事を、あまり話さないほうがいい」 その言葉の意味を、妻は今も考えている。
「売国奴! 売国奴!」 「ここで買い物なんてするな! 不買! 不買!」 店の前で、不買運動が始まった。 原因は、うちの社長が反日活動とも読み取れる発言をしたからである。 社長に確認したところ、「日本のより好きだって書いただけなんだけど」と驚いていた。 キムチは韓国産。 時計はスイス産。 ピザはアメリカ産。 妙なところで海外かぶれなことを知っているので、ぼく自身は社長の投稿に違和感などなかった。 いつものことだし、好みは自由だ。 しかし、移民問題に宗教の儀式問題。 日本と海外の常識のぶつかり合いが起き、ピリピリとしている現代には、ちょっとスパイスが強すぎたのだろう。 「売国奴! 売国奴!」 「ここで買い物なんてするな! 不買! 不買!」 ああ、面倒くさい。 雪であれば、除雪車を呼べば一発なのに。 人間相手だと、話は違う。 人権や表現の自由を持ち出されて、話がややこしくなってしまう。 「うわ、外凄いね」 ようやく状況を把握した社長が、窓から外を覗いて、また驚きの声をあげる。 「どうしましょう。これじゃあ、営業できないですよ」 「ちょっと待ってて」 ぼくが疲れたように言うと、社長はどこかへと電話をし始めた 電話をした十分後。 何やら、窓ガラスにスモークの入っている黒塗りの車が数台やってきた。 車の中からは、全身真っ黒な服を着た入れ墨ばっちりのお兄さんたちが降りて来て、店の前にたむろっていた人たちと何やらお話をしていた。 その後、皆で仲良く黒塗りの車に乗って、どこかへ走り去っていった。 数人、涙目になってた気がするけど。 「なにしたんですか、店長?」 「なあに。業者呼んだだけ」 ぼくの質問に、店長はごまかすような笑顔で答えた。 ああ、これは触れないほうがいいんだな。 ぼくはそれ以上何も聞かず、開店の準備を始めた。
「一度吐き出したつばを飲み込めないように。一度嫌いになった私を好きになるのはできないでしょう?」 親友だったあなたはそう言ってどこかへ行ってしまった。 今度はあなたを追いかけなかった。 あれはあの秋のころ。いいや冬のころだったかも。 私には親友がいた。 「おはよー、ねね」 いつものように挨拶をする。 「あいり!おはよう!」 親友が嬉しそうに返してくれる。 素敵な一日の始まりだ。 「あいり、知ってる?」 「何が?」 いつもの雰囲気で会話が始まる。 「隣のクラスのザ・高嶺の花って感じの子いるじゃん」 「うんいるね、あのめっちゃ肌白い子でしょ?」 「そうそう。あの子とその友達が二人で屋上に入って怒られたらしいよ。」 「えー、そうなんだ。遊んでたのかな?」 「いいや私の推測では多分死のうとしてたんじゃないかなって」 「えーいや、流石にそれはないでしょ」 「てか、学校で自殺とか迷惑すぎるでしょ」 親友はそう言って笑う。 「いや、自殺かどうかなんてわかんないじゃん」 「だーかーらー、多分の話じゃん」 私の親友は妄想が激しい。 でもただ妄想が激しいだけではない。勝手に妄想を膨らませて悪口を言う。 そんな親友に対して私は少しうんざりしていた。 ある日、親友が休んだ。 だから別の友達と過ごした。 「あいりってよくねねといれるよね。」 「え〜どういうこと?」 突然言われてびっくりする。 最近は親友としか話してなかったから他の人と話すのは久しぶりだった。 「ねねってさ妄想とか膨らませて謎に陰口いうじゃん」 「あーまあ、たしかにー」 最近心の中でずっと思ってたことだったからつい共感してしまった。 「ねねのこと嫌いじゃないの?」 「えっ」 「あっごめん。今の忘れて」 そう言って友達は去ってしまった。 私が親友のこと嫌い? たしかに親友は少し自己中だ。 陰口もたまにじゃなくてほぼ毎日言っている。 そう考えると親友に嫌悪感を抱いてくる。 私は親友のことが嫌いなのかもしれない。 毎日の遊びも連れションも純粋に仲良いから行くってわけじゃなくてほぼ義務みたいになっていた。 次の日。友達は学校に来た。 「おはよー、ねね」 毎日のように挨拶をする。 「あいり!おはよう」 昨日気づいてしまったこともあって少し気まずい。 そのまた次の日。クラスメイトと目があって挨拶をした。 「おはよー、ねね」 「あいり!おはよう」 そのまた次の日。クラスメイトから言われた。 「あいり、最近私のこと避けてるでしょ?」 「えー、避けてないよ〜」 「嘘だ。だって一緒にトイレも行ってくれないじゃん」 「トイレぐらい一人で行きなよ」 「なんではっきり嫌いって言わないの?はっきり言ってよ」 「そうだよ。私ねねのこと嫌い。」 クラスメイトは悲しそうな顔をした。 「あっそう」 そう言ってどこかに行ってしまった。 流石に言いすぎたと、謝りに行った。 クラスメイトは階段に座っていた。 「あ、いた。さっきはごめん」 あなたは目を大きく開いて言った。 「一度吐き出したつばを飲み込めないように。一度嫌いになった私を好きになるのはできないでしょう?」 親友だったあなたはそう言ってどこかへ行ってしまった。 今度はクラスメイトを追いかけなかった。
「おーい、論点すり替えないでもらっていいですかー?」 まただ。 こいつは、論点のすり替えという指摘を、口癖のように言うようになった。 正直、自分の中では論点がすり替わってなどいないので、こいつの言葉の意味が分からない。 だから、聞いてみることにした。 「ごめん、自分ではすり替えたつもりがないからわからない。すり替える前の論点と、すり替えた後の論点を言語化してくれない?」 「え?」 そいつは腕を組んで悩み始めた。 あーでもない、こーでもないとうめいた挙句、最後には俺をにらみつけてきた。 「論点をずらすな!」 そして、走って逃げていった。 きっと、自分でも論点がわかっていなくて、ふわっと何かが違うと思ったから、反射的に口癖が出たのだろう。 理由が分かってすっきりした。 俺はすがすがしい気持ちで家に帰り始めた。 せっかくだ、途中でカフェにでも寄って帰ろう。
幻想と嘘の中に真実が見えた瞬間全て妄想な 世界の中で疑念を良心へ変換する信念は諦め かも知れない気付けば人生楽しかった事とは 殆ど記憶に無いが賭け事は意外と熱く為れた やっぱ全盛期のパチンコが一番リアルな夢が 見れた誰しも金の勝負はリスクも含め燃えた 既にこの思考が負け組だが少ない給料の中で 如何にリスク少なくリターンを増やせるのか 止め時を考えるけど人間とは残念な生き物で 出ない時や権利終了欲を出し右側の両替機へ 御札が消えて行き鳴らない無言のパチンコを 打ち続け気付けば今月ギリギリな残金に心が 重く財布を軽く指せたその度諦めと自制心を 段々と育て当時流行の先端だったパチンコは 老若男女にハマリ有る老女はパチンコは銀行 ゲームは先行投資や貯金と思えば期待出来る 例え負けても何れ利息が倍に為り戻ると過程 すれば負ける事も怖く無いと言い毎回彼女は 8万~10万の大金をパチンコ台に投資して あの頃は景気良いのか同類のタイプが大量に 出没その為の借金する者も多く谷村ひとし作 パチンコ探偵7と言う漫画私的笑えた設定が 主人公の七瀬ナナはパチンコが原因で家族は 崩壊一家離散の人々を救いながらも永久的に ハマるパチンコ台を作った闇の組織を探して 日本中を旅すると言う内容で永久的にハマる 台とは否そんな悪営業するパチンコ店が実際 存在したら怖いけどパチンコ台何台設置出来 金持ちしか入店出来ず経営は成り立つのかと 余計な突っ込みしてたけど有る種この漫画を 執筆した方は天才かも知れない
「安西先生。小説が、書きたいんです」 「書けばいいじゃん」 至極当たり前のアドバイスをしたはずなのに、目の前の人間は渋い顔をした。 「それは、そうなんですけど」 「うん」 「書けないんです」 「なんで? 腕にマヒがあるとか、激務で起きている間ずっと仕事してるとか?」 「そうじゃないんですけど」 「じゃあ、書けばよくない?」 「……酷い! パワハラだ!」 「えぇ……」 私は真摯にアドバイスをしたはずなのに、目の前の人間は泣きながら走り去っていった。 泣きたいのはこっちだ。 「意味わかんね」 書きたいなら、書けばいい。 もしかして、目をつむっていたら妖精さんが勝手に小説を書いてくれるとでも思っているのだろうか。 もしかして、AI様が頭の中をスキャンして代わりに小説を書いてくれると思っているのだろうか。 小説を書くのは、人間だ。 書きたい小説があるのなら、それを書くのは他でもない自分なのだ。 ならば、書くしかない。 書けないなんて言う暇があったら、書くしかないのだ。 「まあいいか。人のことを気にしている場合じゃない。書こ」 そんな人間もいるんだなあと、私は一つの学びを得て、パソコンに向かった。 パソコンの隣にお菓子に、自然と手が伸びる。 美味い、高カロリー最高。 これは頭が回復する。 「はー、瘦せたいなあ」 さ、書くか。
「お、今年節約できてるじゃーん。頑張ったなー、俺」 家計簿に並ぶ収支プラス。 新年の抱負を早くも達成できていると、夫はご満悦だ。 しかし、私は知っている。 酔った夫の居酒屋梯子癖を。 二次会三次会に行った記憶など残ってなく、レシートももらっていないことを。 要するに、家計簿に書かれていない支出が多いのだ。 そして月末。 「ぎゃー! 財布の中にお金がない! 盗まれたか!」 案の定、夫は発狂した。 何回もお札を数えて、何回も家計簿を見直している。 「アホたれ」 時計を見るとまだ朝五時だったので、私は二度寝を決め込んだ。 夫がこの黒字トリックに気づけるのは、いったい何年後の話だろうか。
寝る前に思う。 生きるってコスパが悪い 髪や爪は望んでいないのに勝手に伸びる。 おしゃれで伸ばしたい人は良いのだ どうでも良い人でも伸び続けるのが問題だ。 何をしていても、時間が経てばお腹は減るし 同じ毎日の繰り返しだと退屈といい 刺激を求めて何かを行えば、悩み事が増える。 でも、そのコスパの悪さの中に 個性や独自性が生まれる。 個性とは、とても非効率なものから生まれるものなのかもしれない。 ならば、どれだけ非効率に生きれるか考えた方が面白いかもしれない。 それでは今日無事生き延びたことを感謝して寝よう。
真夜中の河原の土手は、でも 側道の街路灯が案外、明るくて 思っていたほど暗さは感じない それよりも冷たい風に気持ちも気力も消えていく 寒さは容易に人の気持ちを変えてしまう 変えるのか、それとも奪っていくのか 冷たい風にのせて わたしのなかにある黒く澱んだ気持ちを 奪い去ってくれたらいいのに 都合よくはいってくれなくて よしやるぞ、という強い気持ちを奪っていく 高校の入学試験まで、もう何日もないのに こんなんで大丈夫かな 高校生になれるかな なれたとして、やっていけるかな 悩みはつきない 川面に光る明かりがゆらゆら滲んで 自分が泣いてるような錯覚におちいる 目をおさえ、泣いていないことに安心して 進路を思って、また、不安になって
君が笑う度に 僕の心が苦しくなる。 君が苦しむ度に 僕の心は晴れやかになる。 愛しているんだ、誰よりも。 だからその、可憐で繊細な笑顔は誰にも見せないで。 それは僕だけが見ていい極上の褒美なのだから。 ねえ、何度も言ったよね? 僕だけを愛してって。 それを守ってくれない君なんか、もう知らないよ。 何回も赤い色で愛を捧げたのに。 愛の赤から警告の赤へと変貌する瞬間。 僕は朝から晩まで、君を傷つけるナイフへと変わるんだ。 ねえ、僕を見てよ。 僕だけを、見てよ。 僕を、知ってくれよ。
正直、最初は軽い気持ちだった。 新しい場所、新しい名前。 どうせまた、少し騒いで、少し笑って、 いつものように流れていくと思っていた。 あの人が、何も言わずに贈り物を送ってきたときも、 深い意味なんて考えていなかった。 「それ、特別な相手に渡すやつだよ」 冗談半分だった。 でも返ってきた言葉は、思ったよりまっすぐで、 少しだけ、胸の奥がざわついた。 そこから先は、早すぎた。 毎日声を聞くようになって、 いない時間が気になるようになって、 名前も見た目も、ふざけて変えていたけど、 本当は繋がっている証が欲しかった。 だから拗ねた。 だから試すようなことも言った。 「好きって言って」 冗談の形を借りないと、 不安を出せなかった。 彼女が曖昧に笑うたび、 安心と同時に、少しの怖さも残った。 いつか、いなくなるかもしれない。 その予感は、ずっとあった。 彼女が少し静かになったとき、 理由は聞けなかった。 聞いたら、本当に終わってしまいそうだったから。 だから、先に言った。 「ここで終わりにしよ」 引き止めてほしかったのかもしれない。 違うって言ってほしかったのかもしれない。 でも彼女は、頷いた。 その瞬間、 自分が一番怖れていた答えが、 一番静かな形で返ってきた気がした。 それから少しずつ、 あの世界に入れなくなった。 彼女が悪いわけじゃない。 自分が、あの場所に戻れなくなっただけだ。 楽しかった時間は、嘘じゃない。 大事だったのも、確かだ。 ただ、 同じ温度で続ける方法を、 知らなかった。 だから今も、 名前を変える。 あの人が呼ばなくなった名前を、 自分から遠ざけるために。
辛かったこと 誰にも言わないって決めてる 心の深いところに落ち着かせたかった 共感なんて、求めてなんか無い 気づいたら明日が私を待っていて 何も無かった様に笑顔を振り撒く 風化した瓶は脆くて、破片となって 川の下流にある角のなくなった石ころみたいになって 私の中に残り続ける (完)
彼女の名前は、齋藤朝。 初めて見たのは入学式のとき。落ち着きなく辺りをキョロキョロしていた私の目にすぐに止まった。私の右斜め前の席、期待と緊張で浮き足立つ新入生たちの真っ只中で彼女だけが異質なほど静かに座っていた。 微動だにせず、前を見据える横顔は完全に無表情。そこからは新しい生活への希望も不安も何一つ読み取ることができなかった。 (……あの子ホントに生きてんのかな? まばたきしてんの?) そんな馬鹿げた疑問が浮かぶほど、彼女の存在は周囲の喧騒から切り離されていた。朝の様子に気を取られているうちに、気づけば式は終わっていた。いつもなら出だしの一分くらいは聞いているはずの『校長先生の式辞』を一から十まで全く聞き流してしまったのは人生で初めてのことだった。 幸か不幸か、記念すべき1年目は同じ教室だった。といっても私の苗字は高橋だったため、席は若干離れていたが。席に着いた後もやはり彼女の顔にこれといった感情が浮かぶことはなかった。 自己紹介の時もそうだった。皆がそれぞれ名前の他に出身校や趣味を付け足していたのに、彼女は立ち上がるとただ一言。 「齋藤朝です、よろしくお願いします」 10秒くらいで終了。当然表情無し。 ……え終わり?早くね?思いつかなかった……のか? 驚愕している間に順番が回ってきてて、なんも考えていなかった私は 「あ、高橋紬です、えーっと……ネバネバした食べ物を好みます」 となにかの生物の生態のような挨拶をする羽目になった。自業自得だけどさ。 今まで他人の様子をここまで気にしたことなんてないのに、なぜこんなにも視線を持っていかれるのか。自分でも自分のことが不思議で仕方がなかった。
「仕事納めた! 遊ぶぞ!」 明日から始まる年末年始。 一日中炬燵に入ってみかんを食べられるように、みかん大人買い。 家事なんて、絶対しない。 ご飯は出前。 作る気ないから当然です。 掃除は無視。 一日中炬燵で汚れないから当然です。 洗濯は無視。 ずっと同じパジャマで平気だから当然です。 年末年始休暇の前日は、漫画を読んでゲームをして、不摂生な大学時代を思い出して欲のままに。 時計が零時を告げたので、盛り上がりは最高潮。 「ようこそ! 年末年始休暇!」 そのまま遊び疲れて眠りこけた。 おへそ出しっぱなしで。 「げっほんごっほん! 風邪だ! お腹もいたい! あー!」 年末年始の加算料金払って病院に行った結果、流行り病のアレ。 「一週間もすれば治るよ」 「イッシュウカン!?」 絶望した。 年末年始級休暇を全て食いつくす現実に絶望した。 社畜っていつもこうなんだ。 仕事の日は鬱々とするが体は元気。 休みの日は気が緩んだように体調を崩す。 いっつもこうなんだ、はー。 見慣れた天井を見つめながら、布団の中。 ご飯も掃除も洗濯もせず、ふとんでごろごろ一日中。 当初の願いは叶ったが、なんだろうこのコレジャナイカン。 苦し紛れに漫画に手を伸ばしたが、発熱で思うように内容を理解できなかったので、やむを得ず閉じた。
重低音が心臓と内臓器官をつなぐ血管を震えさせる そんな血管内を表したかのように練り歩く 目先のパレード 野太い大太鼓の振動 突き刺す様な小太鼓の振動 どこまでも木霊する様な振動 パレードの道を切り広げていく踊り子たち お神輿担いでこの地と繋げる万力男たち このパレードは皆んながしたいわけじゃ無い この土地に住めば逃れられない悪しき風習と、捉える者もいる 誰にも止められない水車なのである 風習とは止められい水車なのである 水車は流転する 重低音が心臓と内臓器官をつなぐ血管を震えさせる (完)
あの頃私は始めての救急車に感動して私わぁ~ ドラマみたい社内をキョロキョロと見舞わして 為る程救急車の社内はこんな計器や設備が装備 されてると知り意外と中狭いな等考えたら若い 医者が救急車乗るの始めてとタメ語で良い私は 敢えて敬語を用いてそんな難度も救急車に乗る 方が居るんですか救急なのにと尋ね医者はそう 年寄りがタクシー変わり使用する事が有るのと これタメ語私は更に丁寧にNewで拝見しました 本当に救急の方が使え無いんだよねと言い私の 傷口を確認して随分ぱっくり切れたね痛いよね 貴女我慢強いし冷静だからてっきり同業者かと 思ったと言いベラベラ喋り看護婦に40云々等 糸の太さを指示私は思わず医療ドラマで聞いた 言葉に糸の太さって何ミリ迄有るですかと言い 医者は何故そんな事知ってるのと不思議そうに 言い私は否普通医療ドラマでやってますからと 呆れながら言いすると医者はムッとした感じで 部分と全身麻酔どちら良いと言い頭を縫うだけ なのに何故全身麻酔と尋ね医者は失神する患者 居るのでと漸く敬語に為り私はじゃ部分麻酔で お願いしますと言い手術が開始確かにチクチク 痛いけど其処迄大袈裟に痛く無いし医者は糸が 細い方が傷が残らないから糸を変えますと言い 途中迄縫った患部を解き細い糸に変えた否正直 その作業が一番痛かったムカ付いて何故途中迄 縫った後で糸変えるのですか普通縫う前糸決め ませんかと言い医者は平然と宣った実は途中迄 縫った時点でもっと細い糸にすれば良かったと 気付いてごめんねと言いながらチクチクと縫い しかし貴女痛みに強いね此方としては有難いと 言い私はお喋りは良いので間違えずに処置して 頂けますと言い医者は間違いと言う言葉に反応 して急に丁寧な言葉と態度を取り頭と言っても 2ヵ所額上と頭頂部がぱっくりと開いてるから 糸云々と言い訳を始め私は2ヵ所も切ったなら 見え無い頭頂部を太い糸額を細い糸で最初から 決めて縫えば良いだけでは無いかと思いますが すいません素人が余計な事をけど幾ら部分麻酔 かけても此れされちゃ痛みに弱い方は患者さん なら失神しますよと言い医者は頭頂部は病院で 縫うので大丈夫ですと言い病院到着後に適切な 処置を受けられましたけどこの様な些細なミス 意外と多いかも知れない…
窓を開けると、夕方の風がカーテンを揺らした。 どこか懐かしい匂いに、私はふと手を止める。 「ねえ、遥」 キッチンの方から、彰人の声がする。 「昔さ、駅前のベンチあっただろ。あそこで再会した日」 「覚えてるよ」 覚えていないはずがなかった。 あの日がなければ、今こうして同じ部屋で暮らすこともなかったから。 あの再会から、私たちはゆっくりと時間を重ねた。 何度も話して、何度も迷って、時々ぶつかって。 それでも、言葉を飲み込まずにいられた。 「もし、あのとき何も言わなかったらさ」 彰人が続ける。 「今も、ただの“懐かしい人”だったかもな」 私は、少し考えてから答えた。 「たぶんね。でも、後悔は残ってた」 ソファに並んで座り、窓の外を見る。 夕焼けが、あの頃と同じ色をしている。 青春って、きっと眩しいだけの時間じゃない。 言えなかった言葉や、選ばなかった未来があって、 それでも前に進こうとする、不器用な時間だった。 「遠回りしたね」 私が言うと、彰人は笑った。 「でも、その分ちゃんと来た気がする」 その言葉に、私は静かにうなずく。 あの夏に終わったと思っていた気持ちは、 終わってなんかいなかった。 ただ、続きの書き方を知らなかっただけだ。 風が吹く。 私は、そっと彰人の肩に頭を預ける。 過去をやり直したいわけじゃない。 あの頃の私たちがいたから、今の私たちがいる。 ——あの夏の続きを、 私たちは、ちゃんと生きている。
待ち合わせ場所に着いたとき、私は思わず深呼吸をした。 高校生の頃みたいに、制服じゃない。 でも、緊張の仕方だけは、あの頃と同じだった。 彰人は、先に来ていた。 スマートフォンを見ながら、時々周囲を気にしている。 その姿を見た瞬間、少しだけ安心する。 「おはよう」 「……おはよう」 ぎこちない挨拶。 でも、それが嫌じゃなかった。 今日は特別な場所に行くわけじゃない。 駅前を歩いて、カフェに入って、映画を観る。 それだけなのに、心臓は落ち着く気配がない。 「その服、似合ってる」 突然、彰人が言った。 目は合わない。 「……ありがとう」 褒められるなんて思っていなかったから、返事が遅れた。 カフェで向かい合って座ると、妙に距離を意識してしまう。 テーブル一枚分の間隔が、こんなに遠かっただろうか。 「緊張してる?」 私が聞くと、彰人は苦笑した。 「ばれてたか」 「うん。昔から」 その一言で、二人とも少し笑った。 笑うと、不思議と肩の力が抜ける。 映画館を出たあと、夕方の風が心地よかった。 何気なく歩いているはずなのに、手と手の距離が気になる。 信号待ち。 彰人が、少しだけ私の方に寄る。 「……手、つなぐ?」 その声は小さくて、でも逃げなかった。 「うん」 答えると同時に、指先が触れた。 ぎこちなく、でも確かにつながる。 懐かしいはずなのに、初めてみたいだった。 「なんかさ」 彰人が言う。 「今のほうが、ちゃんと好きって言える気がする」 私は、少しだけ強く手を握った。 「私も」 夕焼けの中を歩きながら思う。 遠回りした分、今はちゃんと向き合えている。 これは、青春のやり直しじゃない。 あの頃の続きを、大人になった私たちで歩いているだけ。 信号が青に変わる。 つないだ手を離さずに、私たちは一歩踏み出した。
彰人の横を歩くとき、私はいつも少しだけ歩幅を合わせる。 昔からの癖だ。無意識にそうしてしまう。 久しぶりに会った彰人は、やっぱり彰人だった。 背は少し伸びて、声も落ち着いたのに、考え込むときに視線を逸らすところは変わらない。 「変わってないね」 そう言いそうになって、やめた。 変わってないなんて言葉は、今の私たちには軽すぎる気がしたから。 私はずっと、後悔していた。 中学最後の夏、彰人が何か言いたそうにしていたこと。 あの夕焼けの中で、私が一歩踏み出さなかったこと。 もし、あのとき勇気を出していたら。 そう考えては、何度も自分を責めた。 コンビニのアイスケースを覗きながら、私は少しだけ安心していた。 彰人が、ちゃんと私の昔を覚えていてくれたことが、嬉しかった。 ——まだ、終わってなかったんだ。 ベンチに座り、溶けかけたアイスを見つめる。 言葉にするのは怖かった。でも、言わなければ、また同じ後悔を繰り返す。 「私さ、高校のとき……彰人が好きだったんだよ」 声が震えないように、できるだけ淡々と言った。 告白というより、事実を置いていく感覚だった。 彰人の「俺もだよ」が聞こえた瞬間、胸の奥が熱くなった。 ああ、やっぱり。そう思って、少し泣きそうになった。 でも、過去に戻りたいわけじゃない。 私は、今の彰人と話したかった。 「これからは、ちゃんと話そうよ」 自分でも驚くほど、素直な言葉が出た。 逃げないでいたい。今度こそ。 改札の前で別れるとき、振り返りそうになるのをこらえる。 ここで振り返ったら、また昔に戻ってしまいそうだったから。 電車に乗り、窓に映る自分を見る。 少しだけ、強くなった顔をしていた。 青春は、あの夏で終わったんじゃない。 言えなかった気持ちを抱えたまま、大人になっただけ。 次に会うときは、過去じゃなく未来の話をしよう。 私はそう、心の中で決めていた。
遥が告白を口にしてから、二人の間に流れる空気は、どこか柔らかくなっていた。 気まずさではなく、懐かしさとも違う。名前のつかない、温度のある沈黙。 「ねえ、コンビニ寄っていい?」 遥が言う。 彰人はうなずき、何でもないふりをして歩き出した。 昔は、こうして並ぶのが当たり前だった。 今は一歩間違えれば、距離を測ってしまう自分がいる。 コンビニの前で、遥はアイスのケースを覗き込む。 「覚えてる? 中学の夏、部活帰りにさ」 「ソーダ味ばっかり食ってたやつだろ」 「そうそう。彰人、毎回当たり外してたよね」 笑う遥を見て、胸の奥が少しだけ締めつけられた。 変わったところもある。でも、変わらないところも確かにある。 ベンチに座り、アイスをかじる。 溶けた雫が、指を伝って落ちた。 「もしさ」 遥がぽつりと言う。 「もし、あの夏にちゃんと話してたら、今どうなってたと思う?」 彰人は少し考えて、首を横に振った。 「わからない。でも……」 言葉を選びながら、続ける。 「今みたいに、ちゃんと向き合うことはできてなかった気がする」 遥は目を丸くして、それから静かに笑った。 「……私も、そう思う」 夕焼けが、街をオレンジ色に染めていく。 あの頃と同じ景色なのに、見え方は少し違っていた。 「ねえ、彰人」 「ん?」 「これからは、ちゃんと話そうよ。言えなかったことも、迷ってることも」 彰人は、ゆっくりとうなずいた。 「逃げないってことか」 「うん」 その一言が、やけに重くて、でも心地よかった。 別れ際、駅の改札前で立ち止まる。 「また、会おうよ」 遥が言う。 「今度は、“昔話”じゃなくてさ」 彰人は、はっきりと答えた。 「次は、今の話をしよう」 改札を抜けていく遥の背中を見送りながら、彰人は思う。 青春は、終わったものじゃない。 言えなかった言葉の続きを、今から書き足していけばいい。 あの夏の続きは、きっと—— ここから始まる。
夏の夕方、駅前のロータリーを吹き抜ける風は、いつもより少しだけ甘い匂いがした。 彰人は自転車を止め、ハンドルにかけたままの手を離せずにいた。 「……まだ、変わってないな」 ロータリーの端にある古いベンチ。部活帰りに、遥と並んで座った場所だ。 制服のスカートを気にして、何度も立ち上がろうとする彼女を、彰人はからかって笑った。あのときも、こんなふうに風が吹いていた。 スマートフォンが震える。 ——「もうすぐ着くよ」 短いメッセージ。 それだけで胸の奥が、少しだけ痛んだ。 遥とは、幼稚園からずっと一緒だった。 同じ道を歩き、同じ小学校に通い、気づけば隣にいるのが当たり前だった。 彼女が笑えば、彰人も笑った。彼女が黙れば、彰人も何も言えなかった。 中学最後の夏。 部活の帰り道、夕焼けがやけに眩しくて、遥の横顔を正面から見られなかった日がある。 「高校、別々になるね」 遥が、何でもないことのように言った。 彰人は「そうだな」と答えた。それだけだった。 本当は言いたいことが、山ほどあった。 でも言葉にした瞬間、今までの“当たり前”が壊れてしまいそうで、怖かった。 ベンチの向こうから、足音が聞こえる。 「彰人」 振り返ると、遥がいた。 少し大人びた服装なのに、笑い方だけは昔のままだ。 「久しぶりだね」 「……ああ」 二人で並んで歩き出す。 話題は他愛ないことばかりだった。仕事のこと、最近観た映画のこと、共通の友人の噂話。 言葉は途切れないのに、肝心なことだけが、喉の奥に引っかかったままだった。 「ねえ」 遥が足を止める。 彰人も立ち止まった。 「私さ、高校のとき……彰人が好きだったんだよ」 一瞬、世界が静かになった気がした。 「今さら、だよね。でも、ずっと言えなかった」 彰人は、笑おうとして失敗した。 「……俺もだよ」 それだけで十分だった。 夕焼けが、あの頃と同じ色で二人を包む。 もしも、あの夏に言えていたら。 そんな考えが浮かんで、すぐに消えた。 もどかしさも、遠回りも、きっと青春の一部だったのだと、今なら思える。 風が吹く。 甘い匂いと一緒に、過ぎ去った時間が、静かに胸を満たしていった。
隣の部屋からギターの音と歌声が聞こえてくる。 僕はカチャカチャ文章を書く。 知り合いがYoutubeに投稿している。 世界はいろいろつながっている。 でも孤独。 たまに外に出ると独り言を言っている人の言葉に意味が浮かび上がってくる。 いや、意味はないのかもしれない。 隣の部屋の音楽。 意味はあるのだろうか。 意味が融和していく。 融和。 音楽を聴いて眠る。 何か見えそうで見えない夜。
Aさんは尋ねました。 「高齢者向けのバス乗り放題チケットを廃止します」 高齢者は答えました。 「それをやめるなんてとんでもない。年金暮らしの侘しい年寄りから、さらに奪おうと言うのか」 Aさんは尋ねました。 「高額医療費制度の自己負担額を引き上げます」 高額医療費制度の経験者は答えました。 「それをやめるなんてとんでもない。自分の命と子供の学費を天秤にかけろと言うのか」 Aさんは尋ねました。 「解雇規制を緩和します」 会社員は答えました。 「それをやめるなんてとんでもない。昇給を見越して組んだ住宅ローンを破綻させろと言うのか」 Aさんは尋ねました。 「政治家の既得権益ってどう思います?」 国民は答えました。 「さっさと止めてしまえ。私たちの税金を使っているんだから、馬車馬のように働け」 Aさんは尋ねました。 「国民に既得権益ってあると思いますか?」 国民は答えました。 「経営者や大手企業がしがみついている。国はさっさと対処しろ」 Aさんは尋ねました。 「貴方にに既得権益ってあると思いますか?」 国民は答えました。 「ない」 Aさんは尋ねました。 「おじいさまが、バス乗り放題チケットを使っていますが。お母様が、高額医療費制度を使っていますが。貴方が、会社にしがみ付いていますが」 国民は答えました。 「五月蠅い! 五月蠅い! 税金泥棒!」 Aさんは、もう何も言いませんでした。 世界は今日も、既得権益のないクリーンな社会を実現しています。
「明けました。」 「うん。もうおめでたくないよね。」 「今年も幸先良いのか悪いのか。」 「去年よりマシなのかどうなのか。」 「今年は嫌な目に会いたくないなぁ。」 「マッチングアプリでブスじゃなきゃいいなって言ってるのと一緒よ。」 「祈るしかないか。」 「一期一会です。」 「年々年末年始が盛り上がらなくなってるのは、コロナのせい?気のせい?」 「自分の中で気にしとけばいいじゃん。」 「大人になったらパーッと飲めなくなる。」 「お酒=盛り上がる思想なに?酒税バンザイってこと?」 「やってらん姉ちゃん」 「今年も色んな事件があったね」 「もう去年だけどね。」 万博が開催して,,, 映画やアニメも開花しました。 「光が死んだ夏」、「タコピー」、「サンダ」 「ガチアクタ」、「ひろし昼メシ」、「桃源暗鬼」 「サイレント・ウィッチ」、「ウィッチウォッチ」、「チ。」、「アークナイツ」、「ウマ娘」,,, 「チェンソーマン」、「鬼滅の刃」、「わたなれ」 「秒速5センチ」,,,,映画もすごいです。 「国宝」は文庫本買おうと思います。 「爆弾」がまさか映画化するとはね。 「天久鷹央」はアニメもドラマもいけます。 「ルリドラゴン」アニメ化おめでとう! 「坂本デイズ」と「ワンパンマン」の作画のイマイチさがすごかった。 頑張って制作してくださった努力と気持ちは、あるのか疑わしいけどピカイチです。 イマイチといえば去年の総理の具合も直りました。 作画担当も働いて✕5ほしい。 アニメも、歌も切りないです。 ダダダ天使の人がまたギルドからハンパない天使な曲を届けてくれました。 紅白出場した歌界のメダリストも米津に玄師してくれました。 ミセスは真相をお話してくれました。 羊文学も呪いとナースコールで活躍しました。 怪獣とかサカナとかバウンディとか多種多様でしたね。 ちゃんみなが育てた綺麗なHANAを見て かわいいだけじゃダメだなって。 超最強ならいいじゃんって感じで。 分かってるものでも数えるのが面倒くさいくらいです。 ボカロもザックザクです。 個人的な流行り(流行りと言ってもいいだろう) ・けんた食堂 ・ぬぬぬぬぬぬ,,, ・あ~できないですぅ~ ・としお ・エッホエッホウオウ ・ルリドラゴン ・ブルーピリオド ・ずとまよ ・アークナイツ ・レッサーパンダ ・初投稿ブーム ・スポティファイ ・ブログ ・趣味探し ・心理学 ・エアライダー ・スイッチ2 ・おいらは行くぜ、どこまでも 2025は、兆しの年になりました。 2024の変化が形になってくれて、 目に見えてきました。 あとはちょっと視野が広がって、 変化に惑わされなくなりました。 そういうのを上手く活用する練習みたいなのができた気がする年でした。 新年の抱負は「正直」です。 見えてきた形をみて見ぬふりせずに、 よく観察して繋げていく年にしたい。 テキトーに解釈するんじゃなくて、 上手く使えるようによく見て考えていきたいです。 「今年は何するの?」 「健康オタクになる。」 「良いことだ。」 「良い子でしょ。」 「子どもか。」 「良い子と悪い事」 「ロマンチックだね。」 「あなたは何すんの?」 「ガラスペン買ったから絵の練習。」 「ガラスペンから?」 「うん。」 「今年もロマンチックにいきましょうや。」 「とことんね。」 1年続けられて嬉しい。 来年も感謝できるといいね。 また1年よろしくお願いします。
誰かのポエムが誰かの文学になる。 いくら恥ずかしい思いをしても 一人でも『良い』と評価してくれるのならば それはその作家の一人勝ちなのである。 我々作家は数に勝負してはいけない。 我々作家は作品の本質を理解しようとしてくれる人に 勝負をしなければならないのである。 (完)
ねばっこい蝉時雨も落ち着き出した頃、人気のYouTuberが結婚をした。私が高校生の時から耳目を集めているイケメンYouTuberで、ずっとトップを走り続けている。 お相手はかなり若い方のようで、ネットでは色々と憶測が飛び交っている。 そんな投稿も私は上から下へと流していく。 年が明け仕事が始まった。新年初日は水につけた綿菓子のようにあっという間に溶けた。久しぶりで感覚が鈍っているのか、単に仕事量が多いのかはわからない。とにかく気づけば外が薄暗くなっている。 仕事をするのはできれば避けたいけれど、いい感じの疲労が溜まってぐっすり眠れるから完全に辞めたい訳でもない。先輩や上長と話すのは楽しいし、仕事をやったぞという達成感は何物にも代え難い。 それでも、ぐるぐる考えた結果毎回たどり着くのは家で本を読んでいたいという高等遊民のような生活だった。 いつもよりも早めに会社を上がる。肩の内側にゴルフボールくらいの違和感がある。そのせいで今日は本を開く気になれない。 ぼうっとしながら電車の窓から景色を眺めていたが、それにも飽きてしまった。外は真っ暗で何も見えない。 スマホを取り出しXを眺める。こういう時に見るSNSは脳の奥を電気の棒でぐりぐりされているような気持ちよさがある。 ある投稿が目に止まった。 「人気YouTuberの嫁デートの動画。コメント欄、嫁を褒めてんのひとつもない。悪口ばかり。むしろユーモアで草」 その投稿にはコメント欄のスクショもご丁寧に載せられてある。 「嫁さん流石に品性が…」 「不穏な匂いしかしない笑」 「金持ちとじゃないと生きていけない嫁みたいだな」 「典型的な世間知らずって感じ」 見事に悪口のパレードだった。 私はその動画を見てみた。動画のタイトルはクリスマスデートとなっている。 彼の動画を見たのはいつぶりだろう。そんなことすら思わせないほど、彼は昔と変わっていなかった。 その横には可愛らしい雰囲気の女性、というより女の子が居た。 「今日は遊覧船を貸し切ったんだよ!」 「え〜、えらーい」 遊覧船の搭乗口には執事のようなスタッフが立っていて二人を出迎える。その前を女の子は何も言わず何もせずに通り過ぎた。 中を通ってデッキに出ると、芦ノ湖が目の前に広がっている。 「すごーい」 「めちゃくちゃきれーい」 私は仕事帰りに何を見ているんだろう。ただその落ち着いた雰囲気に目が離せないでいる。 二人はそのあと遊覧船の中でご飯を食べたりして楽しい時間を過ごしている。 相変わらず二人のテンションは優しく燃える火みたいに穏やかなものだった。 動画はあと30分近くある。何かのエネルギーをごっそり持っていかれ、私はスマホをしまった。 電車の走行音が内に響く。 品位を欠いていると言われる人はどこにもいなかった。私には彼女が「そういう人」という人間にしか見えなかった。ありがとうとかもあまり聞かなかったし、無愛想な感じはたしかに覚えた。 だけど人ってそんなもんじゃないのか。私だって照れ臭くて「ありがとう」と言えないことはある。他人から見てそれは品位を欠いていると見られるかもしれない。 不思議なのは、みんなが「彼女には品がない!」と指さしているところだ。だって、この世にはもっと品位に欠ける人がいるではないか。 ほら、あそこ。 電車の中なのにビールを飲んでる。 駅に着いてこちらが降りる前に乗ってくる。 残高不足で改札が通れないとき後ろから舌打ちを浴びせてくる。 コンビニの会計で「ふくろ」としか言わない。 街中でわざとぶつかってくる。 誰しもがちょこっと品位に欠けている気がする。 動画のコメント欄は封鎖されていた。だから悪口の寄せ集めみたいなスクショしか見ることができない。それを道徳の教科書みたいに掲げている人がたくさんいる。 どうしてみんなそんな風になってしまうんだろう。たぶんみんな薄々気づいてる。でも見ないフリをする。認めたくないんだと思う。そんな醜いものを自分が持っているはずがないと。 電車は最寄駅に滑り込む。乗客はたくさんいるのに降りるのは私だけだった。再び走り出した電車を見ていると、それはなんとなく貨物列車のように見えた。
「私、桜が大好きなんです」と、バイトのゆうなちゃんが言った。 彼女は、春休みの内に面接にやってきて、4月からすぐシフトに入ってきた高校一年生のバイトの女の子だ。 秋田県は、桜はまだ先。 「さくらかぁ……実は私は、あんまり好きじゃない。最近やっと、まあきれいかな、と思えるようになったけどね」 我ながら、可愛げが無いな、とは思うけど、日本全国すべての人がおおむね大好きなソメイヨシノが、特に好きじゃない。 「何か、桜って色もボサッとして、見渡す限り同じ色だし。どこででも一気に咲いて周囲が花見、花見と大騒ぎするのも、なんとも居心地が悪いのよね」 「へぇ~~!そんなこと、考えたことも無いです、沙世さん、奥が深いんですね」 「奥深いかね!?」 ゆうなちゃんは、全肯定の使い手だ。 何を言っても。側肯定! 実は結構苦手である。 「はい、結構深いと思います。私単純だから、チューリップが大好きなんですよ。でも最近、あれ?もしかして子供っぽい?って思うようになって」 「チューリップ! らしいね!」 「やっぱり単純な感じが?」 「いや、うーん……素直な感じ?」 私がそういうと、ゆうなちゃんはちょっとテレテレと口元を緩ませて言った。 「ありがとうございます!沙世さんは褒めるのが上手なんですね」 「えっ!?そんなこと、初めていわれたけど」 それは、どちらかといえばゆうなちゃんに捧げられる言葉だろうと思う。 「私、すぐイイネ! って即答するって言われて信用無いんですよ」 確かにそれは信用無いわ。 私はそう思いはしたけれど、私のゆうなちゃんを比べれば、明らかにゆうなちゃんの方が人気がある。 私は内心、うじうじとしながら自分と彼女を比較した。 「私のイイネには心がこもってないって言われちゃって」 「いや、そんなことないと思うわ、すぐ誉め言葉が出てくるって、性格が良い証拠よ!良いと思う!」 私が即答してみると、ゆうなちゃんはさっきよりテレテレと笑った。
前髪が大事だなんて思ったことのないわたしは ちょっとあれでどうかしちゃってるのかもしれない 前髪のキマりぐあいより朝のテーブルに並ぶベーコンの焼きかげんが こんがりになっているかどうかのほうがなにより大事 その日、最初の一杯だけでもおおきなカップで それがあまいあまいミルクティーならなおよし 今朝はバターをぬったトーストの上に いちごジャムの美味しい層を重ねてしまった ふふん あのお店、つまり 天井を見上げると電気ブランの古いポスターがはってあって 比較的恋愛に関しての感度がいいとキモチ悪いことを自称するマスターがいて なくなってしまえばいいのにと思っているわりに足が向いてしまうあのお店 そうなってくれたらとわたしが思っていたとおりの未来があのお店には待っていた マスターがわたしに安物のスウォッチを差し出してきた次の月の、その次の月のことだった あのお店がなくなったことは、すくなからず、わたしの生活に影響があって かわりとして、ふらりと行ける場所を見つけないとならなくなった そんなもの、簡単に手に入れられると思っていた、最初のうちは 街を転々とするのだけど、どこもそれなりに安心でき、それなりに居心地がよくない ある場所は、わたしを快く受け入れてくれ、わたしを丁寧につつんでくれた そのあまりのやわらかさに、くすぐったい思いを常にしなければならなかったわたしは 居心地が悪くなり、そこには行かなくなった ある場所は、いい人の顔をしてわたしに近づいてきて、けど、引き入れておいて ひどい仕打ちをしてきた、わたしはたまらずそこから逃げ出した ある場所は、はなっからわたしを相手にしなかった そこにわたしなんて存在していないかのように ふらりと行ける場所が見つからないまま、いつのまにか大晦日の夜で だから、あとすこししたら年が明けようかとしているとき そんな時間にもかかわらず人の出が多く、その大半は浮かれていて そういった人たちのなかに見たことのある顔を見つけた その男は、おとなしい感じの女性と並んで歩いていて あのお店での妙なキモチ悪さはみじんも見られず わたしの知らない表情をその女性に見せていた ふうん、そうなんだあ 目で追ってしまう、ずっとずっと追いかけてしまう 女性が何かを指さし、男のほうはその指の先を見る わたしとはまるっきり正反対に分類されるであろうその女性がその男に何かを言い その男は、その女性に、何かを返す、やさしく、ささやくみたいにして 花火が打ちあがり年が明けたその瞬間 ふたりは人目を気にすることなく、くちびるを重ねた そうすることが自然であるかのようなその行為は、妙に艶っぽく それでいて、ひたすら下品で、野蛮なことであるようにわたしには映った わたしは走った、わけもなく走った 人の流れに逆らいとことん走った 遊んであげていたつもりが 遊ばれていたのは わたしのほうでしたとさチャンチャン 何人かの人にぶつかり、そのうちの何人かは文句を言ってくる 浴びせられる言葉たちが追いすがってくるのを振りほどきながら わたしは走り続けた ◇ ◇ ◇ 年明けの澄んだ空気が濁りはじめたころ、あのお店のあった場所に行ってみた お店があったとこは、借り手が見つからず しばらくそのままだった、そのことは知っていた そのあと、わたしの足が遠のき、知らないあいだに 建物ごと取り壊されていて、いまではすっかり何もない ここ、わたしの居場所みたいなもんだったんだよなあ こぼれ落ちそうになるのをこらえ、視線を真上に向けてみる いくら見上げてみても、いくら目を凝らしてみても そこに電気ブランのあの古いポスターは見えない ここ、本当にわたしの居場所だったの? ここは本当に―
人間歳取るとどうも足腰が脆く為って困るかも 沢山怪訝した子供時代の記憶無いから何供言え 無いけどババ期の怪訝3丁目時代勤と喧嘩して 自分の部屋に行こうとした時何かに足を取られ 滑ってテレビに激突当たり前だけど滅茶痛いし 毎日身勝手な勤に嫌気が差して自分のベッドに 行き頭を触ると出血してるヤバい切れたかなと 私は冷静に出血場所へタオルを当てるが辺りを 見れば点々と血の道が更に分厚いタオルで押え 血の道を拭いてると勤が飯を作れと言う私は今 怪訝したの見え無いほら彼処にも血の線や滴と 指をさせば先程よりも其処ら中に散らばる血痕 私は暢気に殺人現場みたいと興奮したら激痛が 触ると手にべっとり血が付いて其れを見た勤は ビビりながら未だ飯を作れと言う余りの横暴で 身勝手過ぎる言動に激怒して煩い作れば良いの 飯に血が入っても知らないからなと言い台所へ 行き焼きそば作ろうと冷蔵庫を覗けば血の海が 流石に勤も事の重大さに気付き救急車呼ぼうと 為り馬鹿な勤は救急車って金幾ら掛かると言い 私は否救急車って救急と言うし呼ぶのは無料と 言い呆れながらも血垂らけのまま自ら救急車を 自分で呼び激怒すると勤は余り興奮すると更に 出血するからと怯え私はそんな奴の態度に激怒 本当に口先だけの情け無い男を何時か捨てると 誓い数分後救急隊員が到着すると私に駆け寄り 大丈夫ですか意識有りますかと聞かれ私はハイ 出血以外は普通に元気と応え救急隊員が否貴女 大分出血してますよ意識混濁してますかと言い 私は否違いますし早く運んで下さい家中に血が 垂れるからと言い何勘違いしたか彼は私の瞼を 裏返し瞳孔異常無しと告げ私は否だから私は今 確かに出血してますがこの様に会話してますよ 先程から貴方は何言ってますお喋りは結構です 早く運んで下さいと強めに告げるともう1人の 中年隊員が分かりました貴女は度胸良いですね 普通は混乱する物ですけど冷静沈着ですし失礼 ですが御職業は警察関係か医療関係の方と言い 私は厭きれながら何だこのコントの様な状況と 分析して彼等にあの失礼ですけどコントしてる 場合じゃ無いでしょうと突っ込み漸く観念した 彼等は無言のまま私は担架に乗せ救急車の中へ 運んでくれた嘘の様な出来事は更に登場人物を 変えボケと突っ込みが変わり繰り返す勘違いの 状況が加わるのだった
俺は今日の朝もこの道を歩いていく。そうしなきゃいけない日になったから。憂鬱な月曜日が、もう来ていたから。 変わり映えのしない道を行く。通勤通学する人々が連なっている。スーツ、制服。はたまた私服。俺も、その中を行く。 「あれ?先輩!佐々木先輩っすよね!?お久しぶりっす!」 突然の佐々木という言葉に足が止まる。佐々木大輝、俺の苗字だった。 「佐々木先輩、急に連絡取れなくなったからめっちゃ心配したんすよぉ〜。僕これから職場なんで時間ないんすけど、あとでランチ食いに行きません?」 俺が何か言う前に強行するのはあの頃と変わらない。 こっちが、どんな思いで。 「遠慮しておこうかな。あと俺今スマホ持ってないんだよ。ごめんな。」 「あ、じゃあ僕の連絡先渡しておくんで、登録しておいてくださいね~!」 デキる社会人なら誰しもが持っているんであろう紙とペンを取り出し、手のひらの上で雑に数字を書く。 俺は登録するなんて一言も言ってない。 「はい!じゃ、僕はこれで!」 そう言って早足で立ち去る。 そうだ。あいつはせっかちだ。今ではひどく疲れる性格の一つだ。 こんなにも感覚が違っていたんだ。俺たちって。 そう考えながら、スマホを取り出す。電話番号が書かれた紙はポケットにしまったまま、俺は意味もなく画面をスクロールしていた。 自分が嫌な人間だなんて知っている。 知っているからあいつらとは縁を切ったんだ。元から合わないって薄々気づいていたけれど、合わせてしまった俺が悪いんだ。 「もう、会いたくないから。」 これからは遠回りして行こうか。職場へ向かう。俺には、今の俺の生活があるから。 「佐々木ー。ここわかる?俺お前みたいに要領良くないからさー」 「もっと上のやつに聞けよ、しゃーねーなー笑」 パソコンを適当にカチカチ。それだけで俺は生きれてしまう。 昔はもっと将来ってのは夢があるもんだと思ってた。 教師の仕事から自分では想像できない仕事まで、全てが人のためになることなんだ、って。全部誰かにありがとうって言われる仕事なんだ、って思ってたけど、今じゃ、感謝は希少価値の高い言葉になって、謝罪だけが量産されていく。 そんな場所に、慣れてしまった俺がいる。あのキラキラした後輩なんかとは遠い。俺はまだここに留まっている。 「佐々木ー!今日飲み行かね?久しぶりに2人でさ!」 「遠慮しておこうかなー笑。この前飲んだとき泥酔して迷惑かけたのお前だろ?」 「くっそ俺の酒癖が悪くなければ、、」 「それはないわ」 他愛のない会話。これで俺の仕事は終わり。 とりあえず、今日は、早く家に帰りたい。 俺は、泣きたくなる。 人に疑問を訊く時。 人の話を聞いている時。 人の幸せにあてられた時。 誰しも自分の泣き顔には見られていい人と見られたら嫌な人が存在していると思う。親、兄弟姉妹、先輩、後輩、友達、知らない人。 でも、俺は、俺に見られている不快感が止まない。許可していないのに勝手に観戦してくる自分が嫌でたまらない。