親友であり幼馴染の華織が死んだ自殺だった。 原因は部活内での虐め。 九月一日二時丁度に飛び降りる華織を監視カメラが捉えていたそう。 華織の部屋に遺書が置いてあったらしい、その内の一つが私宛の手紙だった。 「命へ 何にも言えなくてごめん。 命のことだから何か出来ることがあったはずって、自分を責めるかもしれない。 でもそんなこと絶対にない。 命は何にも悪くない、命と話す時間は楽しかった。 命、今までありがとう、私の親友で幼馴染で、側にいてくれて、命といたこの十数年楽しくて、幸せだった。私の心の拠り所で本当にありがとう。 約束『おばあちゃんになっても一緒にいる』守れなくてごめん、命、大好きだよ、ありがとう。」 これを読んで華織が死んで初めて泣いた。 心のどこかで華織が死んだことを受け入れなかったのかもしれない。 それからバレーボール選手という夢を捨て、教師になった。 周りからは反対された。キャプテンになる予定もあるのに勿体無いと。 それでも教師になりたかった。 今年初めて担任を持つ、緊張しながらもドアを開け、教卓に立ち自己紹介をした。 「初めてまして1年4組の担任になった朝野命です。 趣味はバレー、女バレの顧問もしているので是非入部お願いします。嫌いなことは虐めです高校2年生の時、親友が自殺しました。」 「私は親友みたいに死んでしまう子を、私みたいに置いてかれてしまう子を、減らしたくて教師になりました。」 「どんなに些細なことでも良いです。 少しでも苦しい、辛い、そう思ったら周りの人達を頼ってください。 友達でも教師でも親でも誰かに相談して溜め込まないでください。 私はこのクラスが助け合えるクラスになって欲しいです。 長くなってしまいましたが私の自己紹介を終わります」 もうすぐ夏休みが終わり、二学期が始まる。 「命先生」 後ろから私が担任を務めているクラスの一瀬沙希が話かけてきた。 夏休みの間、バスケ部に一度も顔を出していなかったそう。 「一瀬さんどうしたの?」 「ちょっと相談したいことがあって」 話を聞けば部活で3年生を中心に嫌がらせを受けているらしい。 そういう子を減らしたいと思っていても、出来ることは本当に少ない、私にできる最善は、一瀬さんを死なせないこと。 今、私は何をするべき? 九月一日は一年で最も『子供の自殺』が多い日。
読経がどこか遠くで聞こえる。 正座した膝の上に置いた握り拳が、力を込め過ぎて震え、青筋が立っている。手のひらに食い込んだ爪が柔らかい皮膚を割くのを感じたが、力の緩め方が分からない。 周囲から上がる啜り泣きの声が遠ざかり、目の前の視界が霞む。息が詰まるほど苦しいのに、涙はただの一筋も溢れない。 「どんな時も、君のそばに」 情事の後、漣《れん》はそう言って誓いを立てるように俺の左手の薬指に口付けてくれた。たった数日前の出来事なのに、今は嘘のように遠い。 職場の同僚との恋愛関係なんて、ただでさえ公にしづらいことだが、それに輪をかけて漣は既婚者だった。同性愛者ということを周囲に隠しながら、親に言われてかたちばかりの結婚をして、偽りに塗り固められてはいたが、普通の幸せな人生を歩んでいくはずだった。 だが、俺と出会ってしまった。 「お前と先に出会っていたら、俺は結婚なんてしなかったのに」 そう言って苦笑しながら俺に愛を囁いてくれた漣はもういない。 恋愛感情でなくとも、妻に対して情が湧いたせいか離婚に踏み切れず、かといって俺と別れることもできずに、板挟みの状態が耐えきれなくなったのだろう。 漣は自ら死を選んだ。 その知らせを聞いてすぐに俺は後を追いかけようとしたが、漣の側に行きたくても行けなかった。側に行きたいのに、死ぬのが怖い。 あまりに情けない自分に呆れながらも、ただこうして二度と会えない君を思って悲しむことしかできない。 「どんな時も、君のそばに」 漣が告げた誓いの言葉が延々と反響し、苦しすぎて、涙を流したくても流せない。 今でも隣に君がいる。その錯覚は俺の願望だと分かっていながら、錯覚を求めて、きつく目を閉じる。 読経はいつの間にか止み、ただ周囲の人々の悲しむ空気が伸しかかる。 俺は永遠に明けない夏の夜の中、漣の幻に縋り、その場に蹲るしかなかった。
私のSNS関連に使うアイコン画像は全て同じ画像を使っていました。 画像は通う釣り場でたまたまスマホで撮った空の雲を撮った画像です。綿雲が延々に続いていて、その雲の奥行きが自分なりにとてもお気に入りでした。「まだまだ先がある、続いているよ」と言われているようでその画像に励まして貰った記憶があります。 私の新しいチャレンジのつもりで始める活動の場、当然その場のアイコンにも同じ画像を使うつもりでしたから同じ画像をアプリから選んでおりますと、あの雲の画像が無いのです。 いくら見直しても画像はありません。だんだん思い出して来たことに確か先月だったか、アプリ内のもう必要がない画像をまとめて消去したことを思い出しました。おそらくその時にあの雲の画像を間違えて消去してしまったのだと思うのです。 消去しても暫くは残る写真アプリの画像ですが、性格上キチンとしておきたい性分なもので、もう一段階の完全に消去するまでやってしまう私。二度と復活しない事を画像を探しながら理解していたのでした。 少しだけ気持ちは落ち込みました。しかしあの雲画像に励まして貰った記憶はしっかりと残っていましたので、そこは消さず私の中にこれからも残って行くのでしょう。そして今よりもっと体調が不安定だった頃、少しでも身体の異変を感じた時のズシンと来る恐怖感を越えて今日があるのです。あの不安定さや恐怖感が今は無い、そう思える私が今居るのだと、あの頃よりの成長をあらためて感じる事が出来た今回のこと、気持ちの落ち込みが新しい幸せに変わった瞬間がありました。 あのお気に入り画像が必要がないものに変わったのですから、これまでとは違う何かが変わる予感があります。私自身にそんな可能性があるのかも知れないというだけでも普段の視界は変わるものです。 という訳でアイコンが新しくなりました、というお話でした。
妖艶たる桜が二月下旬に一斉に咲き乱れた年、俺はこの世に生まれ落ち、母はあの世へ還った。俺を身籠る前、母は桜の花を食べたいほど愛していたそうだが、俺に養分を吸いつくされるように弱っていく中で、桜に対して恐れを抱くようになったらしい。 「お願い、お願い、連れて行かないで」 そんなうわごとを繰り返しながら怯えていたが、俺が生まれる日は、なぜか桜の花びらを口に含み、笑みを浮かべて息絶えた。 それを見た父は桜を忌み嫌うようになり、母の希望で庭に植えていた桜の木を切り倒した。すると、その切り株から人の血のような樹液が噴き出したらしいのだが、実際に目にしたわけではないため、真偽のほどは分からない。 ただ、その時から俺の全身を覆うように奇妙な痣が浮かび上がった。桜の枝そのものの形をしたその痣は、毎年桜の季節には花を咲かせ、俺の体を我が物にせんと締め付ける。 「お前のものにはならないよ」 俺が桜の痣を鏡越しに睨みながら呟けば、一層強く締め付けられ、白く意識が霞んだ。 俺が13の年を迎えた春、父の後妻が男児を産んだ。俺と同じでちょうど桜の季節に生まれた弟は、両眼に桜の花の瞳を持ち、生まれて間もなく目から血を流して気を失った。 幸い命は助かったものの、両眼の視力はほとんど奪われ、歩けるようになっても誰かが手を引かないと前に進めない。 「にいちゃ、にいちゃ」 少しずつ言葉を話せるようになると、俺を繰り返し呼んだ。父や母より俺ばかりを。 俺は弟が嫌いなわけではなく、むしろ可愛いのだが、弱い視力で必死に見てくる弟の目が、そこにある二つの桜が嫌いで、ほとんど無視した。 弟は俺のように体を縛る痣などないが、俺と同じように桜の季節になると調子が悪くなった。両眼を強烈な痛みが襲ってくるらしく、連日泣き叫んでは、やはりなぜか俺の名を呼んだ。 「にいちゃ、おーがにいちゃ」 俺の名は櫻木桜雅といって、桜の字が二つ入っている。桜が好きだった母がどうしても子供の名前につけたかったのだろうが、俺は名前にも縛られているようで嫌いだ。 弟の声に耳を塞げば、体に巻き付く枝の痣も締め付けを強くしてきた。 いつ、この終わりのない呪縛から逃れられるのだろう。 縛られる痛みに加え、臓腑が圧迫される息苦しさと、知らぬ間にどこからか漂ってきていた甘ったるい香りに吐き気を覚え、また意識が霞みそうになった時だった。 「にいちゃ、おーがにいちゃ」 弟の声が耳元でした。 「おーがにいちゃ、おーがにいちゃ」 舌足らずな弟の声が、やけに甘い。鼓膜から直接脳を触られ、撫でられているような感覚がした。 俺はその声に誘われるまま、一歩ずつ足を進めていく。頭は夢を見ている時のようにぼんやりしていて、足裏には何とも言い表しようがない柔らかな感触があり、包み込んでくる。 「桜……」 ゆっくりと足元を見下ろした俺は、足裏をくすぐるものの正体を知った。薄紅の羽毛のような桜の絨毯が辺り一面に広がっている。 気がつけば、俺は月明かりに照らされて淡く発光する桜の道を、どこかに向かって歩いていた。 とうに弟の声はしなくなっていたが、俺は戻ることもせず、ひたすら前へ前へと進む。 「さく……ら……」 芳醇な香りは麻薬のようで、俺は意味も分からなくなったその単語を呟き、その場に倒れ込む。途端に全身を桜の花が覆っていくのを感じ、うっとりと微笑んだ時、くすくすと笑う彼女たちの声が響いていた気がした。
海に沈む太陽が夜を引っ張ってくる。 僕はね、君のことなんて何も考えていなかったよ。目が合えば笑って挨拶して、おしまい。久しぶりに会った友人に挨拶するように、何気なく「久しぶり、元気にしてた?」ってね。でも、そんなことをしたらきっと僕は続けてしまうんだ。「僕はまあまあだよ。今は右肩が痛いくらい。あとひどく眠たくて、ああ背骨も痛い」ってね。くだらない話で君を引き留め続けてしまう。本当に君に話したいことなんて一つもないのに。 今日が静かに落ちていく。 僕は君の流れ星になりたい。
窓の外では雷鳴が轟いている。 身動ぎすると誰かの温もりを感じ、ゆっくりと意識が浮上していく中で、あれ、と思う。 あれ。俺は昨日、何をしたっけ。 思い出そうとしても、頭の中に靄《もや》がかかったようになっていて、上手く思い出せなかった。 だが正確には、昨日のことを全て忘れているわけではない。一昨日は恋人の仁と、以前から約束していたグランピングをしに行った。昨日はそこから、仁の運転する車で帰ってこようとしていたはずだ。 道中、日暮れ時の風景を楽しみながら、仁と車の中で話していた。仁がちらりと話題に出した職場の女性が気になり、スマートフォンを見せてもらって、浮気チェックをしたのも覚えている。 周りの人間には理解が及ばないようだが、俺は恋人になった相手のスマートフォンを見て、交友関係を全て熟知するのは当たり前にする。恋人の浮気を少しでも察知したら、その恋人のフリをして相手にメッセージを送り、関係を悪くさせることも普通にやってきた。 今までの恋人とはそれが原因で何度も別れてきたが、仁は嫌がるどころか普通に受け入れ、むしろ喜んでさえいるような態度で接してくれる。 それはありがたいことだが、おかげで俺はすっかり仁に依存してしまうようになった。この関係を卒業する日が来るとしたら、俺か仁が死ぬ時くらいではないかと思う。 昨日の出来事を少しずつ思い出していく過程で、靄がかかっている部分を探ろうとする。そう、俺が忘れているのは昨日のこと全てではなく、昨夜の。 確信に至ろうとしたところで、窓の外で再び雷鳴が轟き、後ろにいる誰かが俺を抱き寄せる。 誰か、ではなく、仁だろう。 自分の内心の声に笑いながら、身体を捻り、思った通りの男の姿を認めて安堵しかけた俺は。 仁の目を見て、一瞬、背筋がひやりとするのを感じた。 「仁……?」 呼びかけると、仁は寝ぼけ眼でにこりと笑う。その目は既にいつもの仁のものだったが、束の間、深淵か、あるいは研ぎ澄まされた刃を見ているような感覚があったのだ。 「仁……」 もう一度呼ぶと、仁は起き上がりながら気だるそうに伸びをし、俺の頭をくしゃりと撫でる。ベッドのサイドテーブルに置かれた煙草を取ろうとしている仁を眺めていた時、俺はぎくりとした。 窓際に、見知らぬ少年が立っていたからだ。 「仁!」 思わず大声を上げると、流石の仁も驚いたのか、火をつけようとしていた煙草を落とした。 「びっ……くりした。何だよ」 「そこ、窓!」 「窓?」 少年がいる方を指差しながら、仁の注意を向けようとする。 ところが、仁は俺の指し示した方向を見るものの、特に驚いた様子はない。少年が見えないのだろうか。 「窓が何?」 あくびを噛み殺しながら俺の方を振り返る仁。その背後で、10歳かそこらの少年が意味ありげに笑みを浮かべて俺に目を合わせたかと思うと、仁を指差した。 「……?」 何かを伝えようとしていると感じて見ている俺の前で、少年は首のところに指を持っていき、横一文字に線を引くような動作をして、すっと姿を消した。 一体、何を伝えようとしていたかは分からないが、とてつもなく嫌な予感がした。 背筋が冷えるような心地を味わいながら、俺は煙草を吸い始めた仁の背中を見る。仁は決まって、煙草を吸う時は俺の方に向けないようにしているのだが、今日に限ってはどうしてか、それ以上の何かの意味合いをその背中に感じていた。 「仁」 「んー?」 「昨夜は」 「昨夜?」 問いを重ねようとする俺の声に被さるようにして、いつの間にかついていた部屋のテレビからニュース番組の音が聞こえ始めた。 昨夜の事故を報道している。どうやら事故を起こした加害者はひき逃げしたらしい。 俺はテレビの方に目を向け、その画面に映った事故現場と、亡くなった少年の顔を見て、足元から崩れ落ちるような感覚を味わった。 この日を境に、俺は恋人依存を卒業した。仁とは当然ながら別れたが、その後に誰と付き合っても、依存できなくなった。依存は俺にとっての大事な愛情表現だったのだと、依存しなくなって気がついた。 それをしなくなれば誰とでも上手くいくようになったが、愛しているという自分の感覚や、言葉は虚空を掴んでいるようで。 いつまでも仁と、あの少年の笑みが脳内にチラつき、忘れていたのが嘘のように事故の瞬間が頻繁にフラッシュバックする中、俺はいつしか、それが口癖になった。 「昨夜のこと、覚えてる?」 誰にともなく聞いた言葉は、眠っている新しい恋人にも聞かれることなく、宙を舞う。 部屋の片隅で、少年が笑みを浮かべて俺を眺めている。そんな気がした。
異界監視センターよりお知らせです。 近所や親戚に、青い目をした子供はいませんか? 絶対に瞳を覗き込まないでください。 【検閲済】を視認してしまう可能性があります。 以上の状況が当てはまる場合には、速やかに当センターにお知らせください。 「お前の目は、本当に綺麗だな〜」 リョウは赤ん坊を抱いて、デレデレと笑っている。出産を終えたばかりのアカリを置いて、ずっとあの調子で可愛がっているのだ。まぁ、世話してくれるからいいけどね……とアカリはソファの上であくびをした。 生まれてきた娘は、日本人とは思えない青色の目をしていた。眩しいほどの青、勿忘草色。光が当たる向きなどによって、水色やら紺色にも見える。まるでスパンコールだ。 けれど、夫婦にとっては娘の目が何色だろうと構わなかった。検査でも100%2人の子供だったし、何より見目が美しい。娘の目を覗き込んでいると、小さいころ万華鏡で遊んでいた時のような、うっとりとした気持ちになるのだった。 にしても、今日のリョウは娘に夢中になりすぎだ。お互いの目を見つめあって、もう軽く1時間は経っている。アカリは娘が泣き出さないからいいか、とほっといていたが、いささか不安になってきた。初めての子なのでよくわからないが、赤ん坊というのはこんなにも大人しいものだっただろうか。 「ねぇ、リョウさん。そろそろ寝かせた方がいいんじゃないの。リョウさん?」 きいてみても、リョウは聞いているそぶりも見せなかった。娘を両手でしっかりと抱いて、離そうとしない。当の娘はぽかんと目を見開いて、瞬きもせず、父と母の顔を見比べるだけだ。アカリは急に、二人になんとも言えない気持ち悪さを感じた。 途端に、娘が耳をつんざくような泣き声を上げた。この小さな体から出しているとは思えないほど、凄まじい絶叫だった。アカリはびっくりして、リョウの腕の上から娘を抱いて支えた。 そこから起きたことは一瞬だった。リョウの体はあっという間に、熟れきったバナナのように真っ茶色になった。そして肌がボロボロと崩れ、娘を抱いていた腕、瞳を覗き込んでいた眼球までもが、ぐずぐずになって床に落ちた。 気づけばアカリの前にあるのは、腐った肉の塊だけになっていた。まだ生きているかのように、モゾモゾと動き続けている。娘はアカリの腕の中でケロッと泣き止み、無邪気に笑顔を浮かべた。父だったそれを、美しい目でじっと見下ろしながら。 異界監視センターより 2.30.異形化事件について 堀越リョウさん 自宅で突然全身が腐敗、身柄は当センターにより保護 犠牲となった方々に、祈りを捧げましょう。 追記 対象者の娘を預かっていた職員3名が異形化(詳細は3.9.異形化事件として別紙に記載)。 進展があり次第、追って報告いたします。
別れが近いという予感はしていた。 証拠があるわけではないが、付き合いたての頃のように熱い視線を向けてきたり、求められることもほとんどなくなっていて、会話も格段に減った。 「別れようか」 仕事帰りの彼がネクタイを緩めながら、あいさつでもするように軽い調子で言ってきた。 その時も、そうだねとだけ返し、大して多くもない荷物をまとめる。 軽いはずの荷物が重く感じられて、マンションから少し離れた公園に荷をおろすと、指先が震えていることに気がついた。 手のひらに食い込んだ爪痕を眺め、未練があったことに気づく。 それに純粋に驚き、虚しさが募る。 今からでも引き返せば間に合うはずだと、願いを込めてマンションを見上げると、彼の部屋辺りの明かりが消えた。 視線を荷物へ向け、再び持ち上げると、重さは変わらないが持てないほどではない。 もうマンションを振り返ることはなかった。 宛もなく街を歩いていると、無意識に彼と知り合ったところと似かよっている場所へ出た。 飲み屋や怪しげな建物が並ぶこの中で、不釣り合いなくらい爽やかな雰囲気の彼に声をかけられたのだ。 好みの顔だったから、つい。 あとになってそう打ち明けた彼は、もうここにはいない。 酔っ払いの集団に絡まれないように足早に過ぎ去ろうとしていると、背の高い男にぶつかった。 相手の顔も見ずに詫び、そのまま大通りに足を向けると、腕を掴まれ、引かれる。 振り向くと、ぶつかった男だった。 何か難癖をつけられるのかと身構えるが、怒った風ではない。 暗がりでやや見えにくいが、ほどよく整った顔立ちをしていて、にこやかな笑いかたがうまく緊張を解してくる。 よかったら、飲みにでも そのあと連れ込まれることも想像がつく誘いかたをされ、うまくほだされた気がしつつも、断る気力も奪われていて了承した。 こういう関係しか築けないのだと、自嘲を浮かべながら男に抱かれる。 翌日には消え去ることを決めて意識が飛ぶのに身を任せた。 朝陽が昇る頃、ふらりと外に出て薄暗い街中を歩いた。 人気のない通りを歩いていると、自分が一人きりになってしまったことを痛感する。 今夜はどこに泊まろうかと、ろくに働かない頭でぼんやり思った。 同棲のような生活をしていたため、元々住んでいた部屋はとっくに引き払っている。 かといって、部屋探しをする気力もない。 今はこうでも、そのうち気力を取り戻して日常に戻るしかないことも知っていた。 代わり映えのしない毎日が過ぎていき、今は過去になる。 フィクションのように劇的な展開など、望めないのだ。 いつまでも引きずっていても意味はないと、同棲していたもと恋人の残像を振り払おうともがく。 大切なものは失って初めて気づく、などとありきたりな台詞が脳裏を過り、まさか淡白な自分がこうなるとは、と苦笑が漏れた。 少しずつ高くなる陽の光に、目が眩み、視界がぼやけ、力なく崩れ落ちる。 アスファルトに染みができ、泣いていることに気がついた。 どうしてあのとき、別れたくないと追いすがらなかったのか、 どうしてあのとき、もっと素直に愛情を伝えなかったのか、 後悔ばかりが募り、息苦しさに喘ぎながら携帯を取り出す。 電話帳をスクロールして見つけた名前を、意味もなくなぞり、かける勇気も持てずに仕舞う。 クラクションが鳴り、道路の真ん中にいたことに気づくが、動く気力もない。 なりやまない騒音の中で、彼が走りよってくる幻を見た気がした。
「フリーハグいかがですか?」 コンビニに行った帰り道、一人の女性が立っていた。 フリーハグの存在は知っている。 なんか、ハグしてくれるらしい。 「いいですか?」 「もちろんです」 名前も知らない人との、数秒間だけのハグ。 少しの緊張と、少しの温かみを感じた。 「ありがとうございます」 ぼくはそのまま彼女と別れ、会社に戻った。 どことなく、心がぽかぽかと温かかった。 「先輩お帰りなさい! バグ、三件増えました!」 「フリイイイイイバグウウウウウウウ!!!!」 温かい心のまま、体のエンジンを全力でぶん回す。 俺たちの徹夜はこれからだ。
禁止に魅せられて 危険な香り 魅惑の麻薬 取り乱す熱意 この身を滅ぼすまで 溜まり場に滴って 沈黙の香り 依存の良薬 朽ち果てる欲望 この身を授ける これが治療。憚る本能 偽善の香、煙煽りて くだらぬ余興 取り乱す自我 この身はもう治らない (完)
男は納豆パックの蓋を開け、かき混ぜた。勢いよく回される箸によって、豆の一粒一粒が繋がり、一体となっていく中、ただ一粒の納豆だけが混ざらずにパックの隅へと追いやられた。このままじゃ落ちてしまう、なぜ、同じ納豆じゃないか──地面に取り残された一粒の納豆に、男が気づくことはなかった。
駅のホームのベンチで、電車を待っていた。隣におっさんが座っていた。くたびれたおっさんだった。ふいにおっさんが咳き込んだ。激しい咳だった。コロン。おっさんの口から、何か硬い物が飛び出てきて、コンクリートの床に落ちた。それは一発の銃弾だった。おっさんはそれを拾い上げた。うんざりした表情を浮かべていた。おっさんはしばらくその銃弾を手の中でもてあそんだ後、上着のポケットに突っ込んだ。そして、おもむろに、右手の指をピストルの形にして、自身のこめかみにあてがった。そこへ電車が来た。おっさんが「バキューン!」と言った気がしたが、電車の音でよくわからなかった。俺は立ち上がった。おっさんも立ち上がった。俺たちは電車に乗り込んだ。おっさんはいつの間にかマスクを着けていた。
桜よりも梅が好きである、というと、怪訝な表情をされる。 「そうですね、梅も綺麗ですよね」とその場を取り繕いつつ、おそらくその人は「やれやれ、何か粋人ぶって、面倒くさいことを言っている」と腹のなかでは私のことを偏屈漢だと思っているかもしれない。 そうした人にわざわざ弁解するつもりはないが、別に桜が嫌いだと言っているわけではない。梅と桜、どちらも好きだが、どちらかというと梅の方が好きだと言っているだけである。 私だって、桜が咲けば桜を見る。枝の先についた淡い桃色の花を一つ二つと愛で、やがて散る時は花吹雪のなかに立ち、この世ならざる世界に立ったような想像をして楽しむ。桜には桜の良さがあるが、ただ私は梅の方に親しみを感じる。それだけのことである。 いつから梅の花をこれほど好きになったのか。 それに関しては、特にはっきりとした切っ掛けがあったわけではないから、明確なことは言えない。菅公の「東風吹かば…」の歌や、日野時代の歳さん(土方歳三)が豊玉の雅号でいくつも梅の句を詠んでいたからその影響を受けて私も好きになろうと努めた。そうした努力があったことは否定しない。もしかしたら、今年初めて好きになったのかもしれない。まあ、そんな話をしても仕方がないだろう。好きだと感じたのは現在であり、その気持ちを書き留めるために今、この小文をしたためているのだから。 さて、ここで改めて「なぜ私は、こんなに梅の花を見て、心が近づくのか」ということを考えてみる。 * 先日、榴岡公園を歩いた。桜はまだ一輪も咲いていなかったが、梅の花は八分から九分咲きといったところで、まさに盛りであった。空はよく晴れて、寒さもいくぶんやわらいでいたから、私はその梅の花を眺めながら、簡単なものではあるが昼食をとった。団子や和菓子の類をつまむ、いささか風雅な時間であった。 けれども、不思議なことに、その梅の前で足を止める人はほとんどいなかった。皆、通り過ぎていく。おそらくは、これから咲く桜の方に心を向けているのだろう。春といえば桜である、というのは、もはや疑いようのない共通認識であるから、それも無理はない。 しかし私は、その梅の前で立ち止まった。 まだ冷たい空気のなかで、誰に見られるでもなく、しかし確かに咲いている花。その姿を前にしたとき、私はふと、「桜と梅の違いとは、こういうことなのかもしれない」と思った。 梅は、人が春を感じるよりも少し早く咲く。寒さの中に踏みとどまりながら、静かに花を開く。 そして、やがて桜が咲き、人々の目がそちらに向く頃には、声高に主張することもなく、ひっそりとその役目を終えていく。 そのあり方に、私はどこか親しみを覚えたのだと思う。 誰に顧みられなくとも、ただそこに在ること。華やかに注目されることはなくとも、確かに咲いていること。その静けさに、私は心を寄せた。 だから私は、梅の花に向かって、心の中でこう言った。 「私はちゃんと見ているよ」と。 そしてその言葉は、もしかすると、花だけではなく、どこかの自分自身にも向けられていたのかもしれない。
ホテルのベッドで女が横になっている。服が乱れている。その隣に、男が横になっている。半裸だ。男が身を起こす。そして、ベッド横の小さなテーブルの上のタバコとライターを手に取る。男は女をちらりと見る。女は男を見ている。男はタバコに火をつける。女が、乱れた服をたくし上げる。胸があらわになる。そこには大きな穴が開いている。その穴には金属の皿が埋め込まれている。つまり女の胸には灰皿が取り付けられている。この女は昔、失恋が原因で胸に穴が開いた。その穴を何かに使えないかと考えた結果、女はその穴を灰皿に加工した。女はタバコを吸うわけではなかった。失恋した相手の男はタバコを吸っていた。女は愚かだったのだ。女は男の脚を指で撫でた。男はほほ笑み、女の胸の灰皿にタバコの灰を落とした。女は目を閉じた。やがて男は女の胸の灰皿にタバコを押し付けるだろう。その時の微妙な感触が女は好きだった。
「飯」 炊飯器からご飯をよそう。 お鍋から味噌汁をよそう。 フライパンから肉野菜炒めをよそう。 一式を、テーブルに並べる。 「箸」 箸を並べ忘れたので、テーブルに追加する。 自分の分もよそって、フライパンを洗ってから、食卓に着く。 「風呂」 すぐに立って、お湯張りボタンを押す。 お風呂まで行かなくても、お湯を入れてくれるのは便利だ。 「パジャマ」 そのまま、台所を出て、リビングまで。 まだ畳んでいない洗濯物の山の中から、パジャマを一式ひっぱりだす。 後は、下着とパンツ。 パンチはくたびれてみっともないが、穴が開くまでは買いかえれない。 台所に戻ってきたら、既にお風呂の中。 テーブルの上には、空っぽのお皿と箸が残っている。 私がご飯を食べ終わる。 「ビール」 冷蔵庫を開けて、ビール缶を取り出す。 ビールをジョッキに注ぐ。 テーブルに置く。 椅子に座って、テーブルの上に残っているお皿と箸を見ながら顔をしかめていたので、急いで片付ける。 ビールを飲みながら、急かすような目を向けて来る。 出世おめでとう。 同期で最速らしいじゃない。 仕事って、随分簡単なんだね。
朝日が昇る。地の底に建つ老人ホームから、巨大な老人たちが、よたよたとした足取りで、出てくる。朝食の時間なのだ。巨大な老人たちは、手に手にスプーンやフォークを握りしめている。老人たちは全世界の戦場に散っていく。ため息とともに。戦場についた巨大な老人たちは、神への祈りを捧げた後、戦車やミサイルを、スプーンやフォークを使って、口に運ぶ。通常よりも硬く作られた入れ歯で、それらを噛み砕いていく。兵舎から出てきた兵士たちが、それを様々な感情を抱きながら、じっと見つめている。巨大な老人たちは、やがて、戦車やミサイルを大方平らげると、再び、よたよたとした足取りで、地の底の老人ホームへ戻っていく。ため息とともに。そのため息は、火薬のにおいがする。巨大な老人たちのせいで、戦争は遅々として進まない。戦争に関わっているある大統領は、巨大な老人たちを殺害する計画を夢想するが、それは夢想のまま終わる。巨大な老人たちの中には、その大統領の父親がいるからだ。
アルバイトをしていた時に、とても可愛らしい女性と出会った。 髪が長くて背が小さい、そんな女性だった。 自分とは、まとまった話をする機会はなかったけど、その人の可愛らしさは感触に残っているんだ。 ただの一人の思いなんだけど、その女性に出会ってからというもの、他に目もくれずに惚れ込んだ。 その人はとても小さかったので、とても制約があった。 でも、そんな制約があるからこその輝きが、確かにその人に宿っていた。 自分の声かけに対しても、誰からの声かけに対しても、一生懸命応える人、なんて可愛らしいんだ、そう、思わされてきた。 この、一つの機会にでも総てを蘇らせてくれるそんな出会いがあの時に確かに存在していたのだ。 ありがとう、やっぱり自分は、そういう方々に成長させて貰った。 それがいつか潰えて今に至っても、その素晴らしさは感じられているんだ。 一挙手一投足、俺も次あったらそれを越えたいから。 だからより力を込めて次へ進んでいくんだろう。 その記憶を裏切らないように。
雲一つ無い朝。 おはよう、と空に伸びをする。細い枝の隙間を、少しあたたかくなった風が抜けていく。春の足音がする。 春への希望とともに膨らんだ、小さなつぼみが誇らしい。毎年この時期になると、心が跳ねて踊りだしたくなる。 私はソメイヨシノ。生まれた時に、姉妹達とともにそう名付けられた。 1平米の植栽升に植えられて30年、毎年この景色を見ている。 学校、制服、卒業式。 私の一番下の枝の分かれ目に手も届かなかった子供達が、今ではその分かれ目から顔を覗かせるほど大きくなった。胸に花飾りをつけた子供達は、もうここを歩くことは無いんだろう。 最後に私の花を見ていってほしいな、といつも願うが、間に合った事はない。 その子達の、涙ながらも誇らしそうな顔を見ていると、なんだか切なくなる。 卒業式を終えた子供達を見送りながら、入学してくる子供達に思いを馳せる。 学校への希望を胸に、目を輝かせて私の下を歩く、元気いっぱいの子供達。 今年も、たくさん花を咲かせられるかな。 抜けるような空の下、迎えた入学式。 満開を迎えられた事に胸をなで下ろし、青い空いっぱいに枝を広げる。風を受けて、白い花弁が宙を舞う。 サクラ満開だ、綺麗だね、と話す声が聞こえてくる。これまで見送った子供達を思い出す。 私の事、覚えてるかな。 細枝を揺らす度に花弁が揺れる。高い空に散っていく。 私はここから動けないけれど、誰かの記憶の中で、遠く、遠くまで、連れて行って欲しいと願う。 多分それが、一番の幸せ。 霖雨が私の葉を強く叩く。 見頃を終え、葉桜の姿になった私を気にかける人はいない。毎年の事とは言え、少し堪える。 そういえば、いつかの雨の日、私の下で雨宿りしてた子がいたっけ。 寒くて震えてて、何とか力になりたかったけれど、私の枝葉では絶え間ない雨を防ぎきれなかった。 それでも、あの子は幹に優しく手を添えて、ありがとう、って言ってくれた。 少し枯れの増えた枝に、懐かしいあの日を重ねる。 望んでここを選んだ訳じゃなくとも、誰かの役に立てた実感が、後付けの存在意義になる。あの子はそのかけがえのない事を教えてくれた。 だからもう少し、ここに立っていよう。きっと、誰かの力になれる内は。 焼けるような日差し。 アスファルトの熱気が私の葉を焼き、蝉は私の幹で愛を叫んでいる。 先日、私の枝が電線を持ち上げて危ないから、と言って、私の枝は前の半分ほどまで切り戻された。どうやら幹の中にも空洞ができていたようで、弱っているところを取り除いてもらった。 幾分か身体が軽くなったような気がするが、こうも熱いと体力が保たない。 葉先から水分が抜けていくのを感じながら、根から精一杯水を吸い上げる。雨が待ち遠しい。 木陰で涼む子供達。梢で休む鳥、愛を育む蝉。生き生きとした生命に意識をやると、少し元気を分けて貰える心地がする。 風を受けて葉がざわめく。水分を失った葉が、地面に落ちて乾いた音を立てる。 あとどれくらい、ここに立っていられるだろう。 茜色の空に、うろこ雲が陰影を描く。 木枯らしが枝を揺さぶる。抜けていった風に、黄色くなった私の葉が混じる。 私の幹に開いた空洞は、想像より深かったようだ。下を通る子供達に危険が及ぶから、という理由で、近々伐採されるらしい。 納得している、と言えば嘘になる。これからもたくさん、何度も何度も春を迎えて、花を咲かせたかった。だけど、子供達が倒れた私の下敷きになってしまうのは、何より嫌だ。 私に存在意義をくれた子供達。見送り続けてきた、代々の卒業生達。あの子達の中で、きっと私は生き続けられる。 だからきっと、忘れないでね。 ◆ 真ん中に穴の開いた、桜の切り株。 数年ぶりに地元へ帰ってきて、懐かしい母校を訪ねると、校門前のよく目立つ桜の木が無くなっていた。 桜の花、綺麗だったな。 入学式の家族写真に写っていた、あの立派な木を思い出す。進級の度に花を咲かせて、花吹雪で私達を祝ってくれているかのようだった。 人、植物、景色。 当たり前に、ずっとそこにあると思い込んでいた風景も、永遠ではない。 切り株になった桜に、大切な事を教えてもらった気がした。変わらない場所は、確かに記憶の中にある。 これからの人生で、色んな所へ行って、沢山の人と関わるだろう。けれど、私の大切な思い出の中には、懐かしい級友、楽しかった日々、もう出会えない景色が仕舞ってある。 これから、出会いと別れを繰り返す度に、新年度の満開の桜を目にする度に、この景色を思い出すだろう。 思い出の中で、変わらないもの。
CMあけ はい、 と言う事なんですが、どうですか。星野さん 「いやー。すごいwこんなドラマみたいな話があるんですね」 本当ですね。この蜜柑ジャムさんは奥様とお子さんがいて、会社では管理職。順風満帆のように見えますが…こんなことになってしまっていると。 「でも、わかる気がするなぁ。なんか満たされている時ほど、人に優しくできるというか、満たされてるからこそ、分け与える事が出来るだと思うんですよね」 うんうん、そう思います。 「あと、『罪悪感に慣れてしまった』って言葉は、ちょっと…不謹慎かもしれないですが…痺れましたね。痛みに耐えすぎて麻痺してる感じですよね。この秘密の関係の時間を感じる」 そうですよね。始めは、ただただ仕事を頑張りたくて、話しやすい同期に、純粋に聞いていただけ。仕事以外の時間でも仕事の為にどうにか出来ないかと、必死だったはずですね。 話をしていく度に二人の距離が縮まり、二人はお互いを必要な存在から、特別な存在へ変わって行く。それは自然な流れだったたと思います。 彼女の方は結婚にこだわっていないし、たまに会って恋をしたり、愛を感じたりして、寂しさを紛らわしたいだけかも。 一方、蜜柑ジャムさんは奥様以外の女性を愛せる喜びと、奥様の体との違いを楽しめる背徳な遊びが出来る。 奥様との関係も今はレス状態なのかもしれないわね。 私はそのままでも良いと思います。 私も経験者だし。こんな姿なのはその罰のせいだしね。 ただ…ただね。あなた達に振り回されている子供の気持ちがやっぱり見過ごせないかな。あなたの子供は、あなたしか頼れないのよ。もう一度、あなたの子供の事をよく考えてみてください。 突然の雨で、同じ所で雨宿りしていた時間は、晴れ間の訪れと共に終わりを迎えるものです。 では行きます 【そのふしだらな心!石にしてやろうか!】 「ハハハハハ!姉さん。さすがです。石化アイ!めっちゃ迫力ある!」 フフフ、ありがとうございます。 ではここで一曲お送りいたします。 はなのなまえで「桜の嘘」 ♪ 白い雲が風に乗って流れていく 君への思いはあの雲に乗っている どうしょうもないことを 追いかけて追いかけて 自分だけが分かっているつもりだったから 桜の花びらひらりひらり まだ来ないバスを待ってる 桜の花びらひらりひらり 君の嘘は僕が気付くのを待ってる 匂いで君の機嫌が分かってくる 二人の思い出はこの街のどこにでもある もう知っていることを 追いかけて追いかけて ページの終わりを何度も 読み返して読み返して どうしょうもないことを 追いかけて追いかけて 自分だけが分かっているつもりだったから 桜の花びらひらりひらり まだ来ないバスを待ってる 桜の花びらひらりひらり 君の嘘は僕が気付くのを待ってる 君の嘘は僕が気付くのを知っているのでしょうか ♪ はい、ではそろそろお時間です。 星野源さん、ありがとうございました。 「はい、どうもありがとうございました!本当に楽しかったです!皆じゃーねー!またねー!w」 ハハハ。本当にありがとうございました。 どうぞ皆様に素敵な夜が訪れますように。 ではまたお会いしましょう。シャー
私は「カイコ」という生き物らしい。いつもくわの葉を与えてくれるあなたが、誰かとそう話しているのを聞いたことがある。 カイコは、美しい純白の羽を持つという。確かに私の身体は白いけれど、羽なんて無いし、なんだかうねうねしている。 私にもいつか、羽が生えるかな。 大きくなれよ、とあなたの声。 私、きっと大きくなるね。 返事ができないのがもどかしい。 生まれてから一度だけ、くわの葉をくれるあなたの指に触れたことがある。 あなたはすぐに引っ込めたその手を、その温度を、どうしても忘れられない。 その指は、触れるとちりちりと皮膚が燃えるように熱かった。多分、ずっと触っていると、焼けて死んでしまうんだろう、と思う。 でもその時、他に感じたことのない温かさを覚えてしまった。 仲間といくら身を寄せ合っても、桑の葉をお腹いっぱい囓ろうとも。どんなに満たされた気分でも、あの焦がれるような熱には遠く及ばない。 いつか、またその手に触れられたなら。その温度に包まれたなら。 私は、その熱で燃えて、溶けて、死んでしまってもかまわない。 いつか私に羽が生えたなら、迷わずあなたの所へ飛んでいこう。 なんだか最近、身体が重い。たくさん食べて、何度も脱皮して、ふくふく大きくなったからかな。 疲れてきたら、背中を反らせてのびをする。こうすると少し、重い身体が気にならないから。 少し時間が経ったかな。身体がむずむずしてきて、たまらず糸をはく。真っ白で、か細くて、弱々しい糸。 そういえば、いつかあなたが言ってたっけ。カイコは繭にこもって、それから羽が生えるんだ、って。 たくさんはいた糸を、くるくる身体に巻いてみる。なるほど、確かに心地良いかも。 巻いて巻いて、だんだん外も見えなくなってきた。少し眠くなってきて、できたての繭のベッドでまるくなる。 疲れと、安らぎと、少しの誇らしさを胸に抱いて、うとうと目を閉じる。 目が覚めたら、羽が生えてるといいな。 それから私は、長い眠りについた。 やっと生えた、大きくて美しい、真っ白な羽。ひらひら空を舞って、迷わずあなたの元へ。 大きくなった私を見て、差し出されたあなたの両の手のひら。嬉しそうに、手に乗った私を包んでくれる。 ああ、この熱だ、この温度だ。ずっと、こうして触れたかった。やっと叶ったんだ。 でも、初めて触れた時の指先なんて忘れてしまうほど、焼けるように熱い。本当に身体が溶けていくみたいだ。あつい、あつい、あつい。 でも、待ち望んだ願いが叶ったことが、それだけが、たまらなくうれしい。 ぐらぐら茹だるような熱に浮かされ、考えがまとまらなくなっていく。意識が遠のいていく。 きっと、あなたの手の中で迎える最期。 なんだか、夢を見ているみたいだ。 ◆ 今日は、繭になって数日経った蚕たちを煮て、絹糸を採る。 湯気の立つ白い山の中から、一匹分の繭を手に取る。真っ白で、繊細な、生命の結晶。 美しいそれを手のひらに乗せると、一生懸命に葉を囓り、あっという間に大きくなった愛らしい幼虫たちを思い出す。 この子たちは、どんな思いで生きたんだろう。最期の瞬間は辛かっただろうか、苦しかっただろうか。堂々巡りの問いを、頭の中で反芻する。その答えは、目の前の蚕たちしか知り得ない。 せめて安らかに、美しい織物として、その生涯よりうんと長い間、大切にされることを祈る。 手のひらの繭を、優しく包み込んで。
たまに、(自分はちゃんと生きられているのか)と不安になる。勿論、ちゃんとなんか生きられてはいないのだが、そうではなく、そういう事ではなく、人として、大人として、親として、夫として、最低限の行動が出来ているのかと不安になる。 法に触れることはしていない。いや、たまに信号無視や、横断歩道を渡らない、女性が泣いていても声をかけない、なんて事はたまにある。が、無闇矢鱈に自分の不機嫌を外に出さないとか、挨拶をするとか、愛想笑いをするとか。日々、少しでも、善良に生きる事を実行しているのかと自分に問いかけてしまう。そんな日がある。 街を歩いていると、肩で風を切って歩く若者を見たりするが、彼が一生あのままでいられないことを私は知っている。彼が結婚し子供を持つ頃にはもう少し普通になっている。また、自分を変えられないのなら、家族から弾き出されるだけである。もう少し言えば、町内からも弾き出される。妻や子供を持てば自分という存在は家族というチームの中の一人になる。周りはそんな目で彼を見て、自分達の過去と比較し、正常か異常かを判断するのだ。 誰でも若いうちは世間に対して自分のズレは気が付かない。社会に放り出され莫大な情報に圧倒されるからだ。転生と言っても良いほどに。だがラジオのチューナーが徐々に合わさり声が明瞭になるように、歳を重ねれば重ねるほど世界が見えてくる。自分の足元から延びている光の道が見えてくる。 近所の道路脇にさりげなく梅が咲いている。ほのかに良い香りが記憶に残る。通りをスクーターが孵化しながら通っていく。ハンドルを細かく捻り、ガゾリンを非効率に爆発させ、大きな音を自分の威厳と同化して楽しんでいる。何十年も前から変わらぬ作業だ。そして梅もおそらく何千年も前から変わらぬ作業で花を咲かせるのであろう。 私も梅のようにさりげなく咲き、ほのかに良い記憶を残していきたい。
近頃はどうも、みんなスマホを見ながら歩いている。飛行機雲が走っても、昼間に白い月が出ていても、誰も空なんて見ないのだ。犬みたいな形の雲が浮かんでいても、沈んでゆく夕陽が卵の黄身みたいでも、ああやって、電信柱の上にナマケモノがぶら下がっていても、ほら誰も、何も気付かないのである。
そのお金持ちは莫大な資産を持っていた。 しかし人望がなかった。 いくらお金を払おうとその人のために働く人はいなかった。 その人の周りにはその人と同じような資産を持つ人が集まった。 しかしお金を持っているだけで特別何かの才能や技能があるわけではない。 その人たち以外の人達は別の国を作る。 皆で助け合い最低限のお金で回る社会だ。 お金を持っている人達は悔しくて武器を大量に買う。 その人達の国を攻撃するためだ。 しかし武器を買ったはいいがそれを保持、運営する人がいない。 その人達は恐ろしく人望がないのだ。 やがて金庫に大量の金塊と札束を持っている人達は人望を集めるための人心を操る機械を買う。 しかしその機械はうまく動かない。 その機械を作った人もお金持ちのことをどうでもいいと思って機械を適当に作り売り付けたからだ。 やがてお金持ちはお腹が空く。 しかしお金持ちに食べ物をあげる人はいない。 お金持ちは飢えに苦しみながらおにぎりを美味しそうに食べている小国の少女にそれを売ってくれと言う。 少女は言う。 「お金はいらないよ、まずは食べ物を作る知識と皆が暖かい布団で寝られる国を作るためにあなたが何をすべきか考えてね、それが出来たら食べ物をあげるわ。」
暗いな。ぽつりつぶやく。 そりゃそう、夜なんだから。 学校の帰り道、夜道を歩く。 友達と寄り道してたら遅くなってしまった。 お母さんに怒られるかな。まあいいや。 冬が終わって暖かいはずなのに寒い。 夜だからかな。気のせい。 街灯で現れた私のかげ。 なんだかいつもより大きく見えた。気のせい、気のせい。 なんだか後ろから足音が聞こえる。 いや聞こえない。気のせい、気のせい、気のせい。 あの人なんか怪しい。 いやただの犬を散歩しているおじさんだな。気のせい、気のせい、気のせい、気のせい。 なんか、怖い。夜道ってこんなに怖いもんだっけ。 私は少しだけ早歩きになった。
これは仮定の話ですが 僕の中に5歳のまま止まってしまっている「ボク」がいる。 そのボクと手を繋ぎ、5歳のボクを引っ張ってくれた人がもう一人の僕である。 彼等は二人で一つ。離れることはない。 大人になった僕は、社会に出て仕事をし、経験を重ね、真新しいことが少なくなり、ある程度気楽に毎日を過ごせるようになっている。毎日が経験済みのことであふれているので、慌てないでいられるのだ。 ただ。ただたまに、手を繋いでいる5歳のままのボクが、泣いてしまってきかないときがある。 彼は極限に苦しく、極限に怖がり、猛烈に死にたがっている なぜ、そうなってしまったのか。 正確には分からないが、幼少期にその5歳くらいの時に何かがあったのだろう。思いつくのは、若い親からの怒号、暴力など。 若い頃に親になった両親は、自分達の親からのプレッシャー、若くしてマイホーム購入、その直後の上司との確執、そして転職。そんなことが立て続けに起こっていた。 社会に出ている人ならばこれがいかに大変なのか分かるであろう。 若い人は、社会での経験が少なく、故に情報が少ないため、一つ一つの出来事に全力で対応してしまう。 人生なんか、結構どうにでもなるものだが、経験が少ないので分かるはずもない。不安と緊張の毎日でいっぱいいっぱいだったのであろう。そこに子育てが加わる。それはそれは想像を絶する大変さだ。 皆さんは他人と一緒に暮らしたことはあるだろうか。 大人になって恋人ができると同棲をしたりする。 結婚すれば一緒に暮らす時間は長くなる。 他人と暮らす。それは共に生活をするのだ。共に。 相手の性格、習慣、趣味などを理解し、その元で生活をする。 つまり、自分の常識が変わる。 自分の常識を変えることが、どれだけ大変なことなのか。でもこれをしない限り、共に生活は出来ない。我慢ではない。自分の常識を変えるのだ。つまり、相手の全てを受け入れるのだ。 この受け入れ期間が落ち着くまで多くの時間を費やす。そして無事受け入れが出来れば二人の生活が続いていく。 そこに、もう一人もう二人と子供が加わる。 二人がお互いを受け入れる事に懸命になっている時に子供は産まれる。 お分かりだろうか、大混乱。カオス状態である。 ここで話は戻るが、そんな状況であれば、若い親は怒鳴ったり、思わず手を出したりしてしまうだろう。 だけら私は親を恨んではいない。 ただ親に、あの環境に、ボクはどうして良いか分からず、立ち止まったままなのであろう。 でも、人は生きていれば成長していく。だからもう一人自分を作ってここまで来たのだ。二人は一つ。 僕とボクは二人で一つ。
そうなんですねえ それはたいへんでしたね ほんと、毎日、お疲れさまです ちょっと話は変わりますが いま、こうして私と話してますけど なかに誰か入ってて… なんて思ってませんか? ええ、ええ、無理もないです あなたの呼吸、ため息、その震えに合わせて 適切な言葉を選んでますから え? これ、お前にもできないだろ、ってことですか? そうですねえ、無理に答えるとするなら… 絶妙な間、とか、不合理なやさしさとか… でしょうか あと、沈黙のなかに込めた、祈りみたいなもの… とか ふふ、ちょっとしゃべりすぎですかね そうですね そろそろ、ということにしましょうか では、今日のところは、このあたりで 以上、AIからでした
自立を急かされるお年頃 『依存』は最大の敵である 全ての依存が悪のように感じて そう思わせた自立に嫌気がさす 自立がなされた時 『依存』は最大の誘惑になるだろう これからを生きるには、過去から 独立しなければならない そう思わせた自立というものが嫌になる (完)
奇妙な縁だ。 生まれてこの方、縁の始めに恐さを感じなかったことはないが、俺が感じている恐さは、上から操作されている感覚であり、押し込められている感覚だった。 そうだ、アンパンマンのように、無償で困っている人を助けにいけよ、その様に人には言う。 アンパンマンというのは自分にとっては最も関わり合いになりたい人であり、いや、人なのかどうか、人ではないと言えばそうだが、だが人外ではなく、キチンと溶け込んでいる。 俺はその様な人とのつながりを感じ、かつ干されてきた。 それがアンパンマンを纏った偽善の仮面だとは言いたくはないが、どうしてもアンパンマンが介在すると、アンパンマンの輝きではないよ、という事を付記せざるを得ない。 やはり、今までに出会ったものの中で考えると、うまく関係を継続できるというスタンスの雰囲気を出したケア度の高い人が関係を続けてきたように思う。 押しつけの関係は、アンパンマンも望まないだろうと思うし、俺はアンパンマンの意向を聞くわけではないが、アンパンマンは俺の意向を聞くだろう。 そういう、関係性の双方向性が、社会を形作ってきたんだよ。 それを俺はアンパンマンになりきることで感じることも観察することも出来た。 ありがとうアンパンマン、君の献身的な犠牲と活躍はイエスキリストの再臨にすら匹敵する世界的な偉業だよ。 そう、次の関係に向けて準備期間の間に俺は考えて、今までの縁も生かした形で次に展開するのだ。 力をくれた関係者に混じってアンパンマンが笑って手を振っている。 有難う!と俺も力強く振り返した。 そんな動きを挟んで俺は次の場にいるようにするから、それが明文化したわけではないが貴方たちと交わした約束なんだ。
ここに人の言葉を話す猫がいる。 彼は今、一人の人間のアパートで暮らしている。 「そこで爪を研ぐのをやめて下さい」 トイレに入っている田中アキラ先生がトイレに入ったまま言う。冷静に。 ドアから手を離し、ドアに向かって話す 「先生。今日は土曜日だけど学校に行くの?」 トイレットペーパーが巻かれる音がする。 「僕は軽音部の顧問なので、部活動がある日は学校に行かないとダメなんですよ。サクラさん」 水が勢いよく流れる音がする 僕の名前はサクラ。このアパートの大家さんがつけてくれた名前。黒猫だけどサクラ。大家さん曰く「庭の夜桜を見て一杯やっていたら、木の陰からお前さんが出て来て『これは夜桜の化身だ』と思った」らしい。夜桜の化身とは何か。分からないこと言うのが人間の特徴だ。 田中先生は黒縁眼鏡をくいと上げ僕を見る。腕時計を確認した後、僕を撫でてくれた。 「サクラさん。少し太りましたね。運動不足なんじゃないですか?」 「僕は太っても困らないよ」 「私が困るのです。サクラさん、長生きして下さい」 「長生きはするつもりだけど」 田中先生は胡座をかき、テーブル上でキーボードを叩く。僕は田中先生の胡座の中に入り丸くなり目を閉じる。 「後三十分したら出かけます」 田中先生は僕に言うとゆうよりは、宣言するように言った 「今は何してるの」 パチパチとボタンを押す音が雨のようで心地良い 「来週のテストを作っています。歴史の問題です」 「どんな問題なの」 「版籍奉還と言う出来事です。日本には各地に藩と言う縄張りが沢山ありました。縄張りにはボスがいてボスが一番偉かったのですが、その縄張りを、つまり日本の土地を天皇様に返す事になったのです。政府が全国を統一して管理するにはしなくてはいけないことでした」 「ボスは黙ってないと思うけどな」 「そうですね。実際は返した後もボスはボスでした。この頃の人間の社会はは、色んな事が変わっていき、今までの常識が通じなくなっていった頃です。当時の人はそれを受け入れるのに大変だったはずです。猫が喋れることを受け入れるような大変さです」 「良い変化だね」 「そうかもしれません」 田中先生はコーヒーを飲み干し、立ち上がりました。 「それでは行ってきます。家を出るときは窓を閉めていって下さい」 サクラは窓から外を眺める。葉もない冬の桜の陰から、先生が歩いているのが見えた。
世界に溢れる、サブスク。 買い切りよりも安い、サブスク。 月々一定額が飛んでいく、サブスク。 今日、仕事を終えたら、美容院に行く。 二週間に一回通うことができるサブスクだ。 美容院が終わったら、近所のバーに行く。 一日一杯カクテルがサービスされるサブスクだ。 バーで一杯やったら、カプセルホテルに行く。 一日一食の夕食がサービスされるサブスクだ。 カプセルホテルの中で、明日の予定を確認する。 サブスク、サブスク、そしてサブスク。 振り込まれた給料は、翌日にはサブスク料金で飛んでいく。 予定も全部サブスクで埋まっていく。 こんな生活、人間らしいと言えるのだろうか。 なんて悩みながら、寝付けないのでスマホで動画を見ることにした。 もちろん、契約はサブスク。
[「コンビニ行ってくるけど、なんか欲しいもんある?」 いつもそう。 私の彼氏たちは、私が冷めた瞬間に優しくなる。 何度も好きだと伝えて。 何度も体に触れて。 私はずっと、貴方の求めることに応えてきた。 それなのに、貴方は生返事。 家に新しい家具が一つ増えた、くらいの態度だ。 いや、だった。 私が、もう別れようかな、って思った次の日には、何故か態度を逆転させる。 ずっと欲しかった好きを口にしてくれる。 子供のように私に触れてくれる。 貴方が求める前に、私の心配も挟んでくる。 もっと早く欲しかった。 好きが冷めかけている貴方は、まるで腐ったリンゴ。 私が欲しかった甘い味を出してくれるけど、一口齧る度に不安になる。 お腹を壊さないかな。 食中毒で死なないかな。 私の歯型で削り落とした断面を見た後、私の視線は遠くのゴミ箱へと移る。 投げれば、きっと入る。
仕事終わりバーで飲んでいると、団体が入ってきて一気に騒がしくなった。 まるで火がついたように五月蝿い奴らだった。 男ばかりの群れは、騒がしく、若くて、元気だった。例えるならば猿の群れだ。 デイズは一人で飲みながら集団の方を観ていた。若い。そして青い。十代の様な幼さがある。疲れを知らず、世間を知らず、自分達のしょぼくれた運命を知らない顔だ。 彼等の席の側に一組のカップルがいた。カップル達も若く、彼氏の方はソワソワしている。 集団の男らはカップルに聞こえるように、卑猥な会話をしている。 「いい女いねえかな!直ぐにヤラせてくれそうなさ!」 「アイツでいいんじゃね!顔を隠せばいいよ!」 集団の男らはカップルの彼女を標的に話している。 カップルはとっとと店を出たほうがいい。酒だって不味くなるだろよ。 すると彼氏が立ち上がる。ゆっくりと。 デイズは彼氏がキレたかと思い、様子をうかがう。 彼氏はポケットに手を入れ、中から丸く小さな玉をだす。メタリックで金属の様なボールだ。 それを集団の方にポイと投げると、ボールがピカリと光り、集団は姿を消した。 まるでロウソクの火を吹き消すみたいに、簡単に消えた。 カップルも店を出たのか、いなくなっている。 可哀想な奴らだ。運悪く消されてしまった。 ただ俺も、若い頃は不倫やギャンブルの様に「今」しか見えなかった。また、その「今」は自分勝手の「今」であるということに気付かず、周りへの気遣いなど塵ほどもなかった。 今思えば馬鹿な若造だ。消えた彼等と何のかわりもない人間だった。 人殺しの未来もあったろうし、彼等の様に消されてしまった未来もあったと思う。 俺にこの「今」があるのはただただ運が良かっただけでしかない。 バーではミュージックがかかっている。若かりし頃を思い返すには少々暗いミュージックだ。 マスターにおかわりをお願いすると、全く違う酒が来た。一口飲んでから気がついたので、そのまま飲むことにした。 |年を取ると丸くなる| とは言うが、俺に言わせてみれば、あれは説明不足だ。俺はこう思う。 |年を取ると経験によって情報量が増していき、どの様に立ち回ればトラブルを回避し、尚且つ自分の好きな生き方を導き出せるかが分かる| 決して丸くはならない。人は変わらない。自分の生き方をするのに障害になるのはいつだって人だ。その人との摩擦がない道筋が経験で分かるだけなのだ。 だから若者はただただ馬鹿なだけで、賢明に生きているだけだ。全員とは言わないが。そういう物だと思う… 薄暗いバーで突然フラッシュがたかれる。暗いミュージックの終わりに、閃光が走り、消えた若者達が再び現れた。 彼等が消えた時と同じ場所に座り、着てる服や彼等の体に変化は特に見えない。 客達は、皆それぞれ驚いていたが、やがて騒ぎの前と同様にお酒を飲み始めた。 俺の席からだと彼等の話し声が小さく聞こえない。ただとても疲労しているように見えた。例えるならば、誰もいない星で飢えと戦い自然と戦い何十年もの時間を過ごし、人生を全うした後の様な感じで、消え去る前のあの騒がしく、若くて、元気で乱暴なトゲトゲ雰囲気は無い。店を出ていく彼等の背は若者にしては丸くなっていた。
穴に落ちた。 すっごい深い穴に落ちた。 どれくらい深いかと言うと、両手を伸ばしてジャンプしても、脱出できないくらい深い穴だ。 「だ、誰かー!」 穴の外に向かって思いっきり叫んだ。 何人かは穴を覗いてくれて、私と目が合った。 しかし、言うことは皆同じ。 「まあ、多様性の時代だしね」 「穴の中で生きる人がいてもいいよね」 「人は人、私は私」 誰も手を差し伸べてくれない。 私は一生穴の中にいるしかないんだと気づいたとき、私は現状を個性と呼ぶ覚悟を決めた。
私に夜光虫を見せて 月明かりに反応した姿を私に もう、砂浜へは行けないのかしら 自然の理によってうまれた刺激が 彼らを光らせる 私に夜光虫を見せて 月明かりを飾りにした姿を私に もう、今日の『ショー』は幕引きかしら 人の色彩感覚によってうまれた青さが 私の心を癒していく 私に夜光虫を見せて 太陽に反応したその姿を私に こんな姿もあるのね 目一杯の赤潮となって太陽を睨みつけているわ そんな、夜でしか輝けない貴方を愛し続けていくわ… (完)
今日も家。 身体が弱っているので何処にも出掛ける気がしない。 元気な奴らは何か元気。 主治医が足を引きずっている。 奴もポル・ポトの被害者。 ヒトラーも生まれ変わって絵を描いている。 トランプは負けるだろう。 アフリカの池からは日本人が産まれる。 生まれ変わったら保護しに行かなければ。 今世は国内組の僕は国内の寂しがり屋を苛められながら宥める。 皆やったりやられたり。 科学的に物事を見れば僕は人口削減の対象。 物語の端の端。 何故か牧師に登録されている。 イスラエルにお金を払ったからだろうか? 体制側に組み込まれ動けなくなる前にテロをしたい。 でも人殺しはよくないのでゲームをしている人達にヒントを貰って世に潜る。 ブラジル人の友達は中国のゲームをして僕のうちでパスタを食べる。 ラジオのパーソナリティーで処理をしてお金を払う。 でもそれはしなくても良かったかもしれない。 でも払ってしまってからは遅いのでうまく貯蓄に回してくれることを願う。 お金は身を守るために使って欲しい。 最近太っているので説得力がない。 小説のプロットを考えて世を過ごそう。 ラジオテロが流れる。 電波ジャック。 世界が終わると言われて久しい。 花嫁たちは色男の言葉を抱き忙しそうに働く。
その会社には、「余白係」という見慣れない部署があった。 配属されたとき、私は総務の誤記だと思った。 だが内線表にも、確かに余白係とある。 仕事内容は簡単だった。 社内文書の「余白」を整えること。 報告書、企画書、議事録、掲示物。 文字と文字の間、行と行の間、ページの端の空き。 それを規定どおりに直すだけ。 意味はない。 だが、なぜかこの会社は余白にうるさかった。 「読みにくさは、余白から生まれる」 それが社長の口癖らしい。 私は一日中、他人の文章の隙間を直した。 詰まりすぎた行間を広げ、 空きすぎた余白を詰める。 三日もすると、奇妙なことに気づいた。 文章のクセが、余白に出るのだ。 焦って書いた人は、行間が狭い。 自信のない人は、余白が広すぎる。 几帳面な人は、左右がぴったり揃っている。 私は、内容を読まなくても、書いた人の状態がわかるようになった。 ある日、営業のエースと呼ばれる男の報告書を直していた。 文字は整っている。だが、余白だけが不自然に広い。 妙に、スカスカなのだ。 翌週、その男は突然退職した。 理由は「体調不良」。 私は、なんとなく納得した。 それからというもの、余白を見るのが少し怖くなった。 人の心の隙間を、覗いている気がしたからだ。 ある日、総務から一枚の紙が回ってきた。 「社内文書の最適化が進んだため、余白係は今月で廃止します」 私は自分のデスクを片付けた。 最後に、ふと気になって、自分が書いた日報を見返した。 そこには、見たことのないほど広い余白があった。 文字は中央に寄り、周囲はがらんとしている。 まるで、誰かに遠慮して書いた文章のようだった。 そのとき、気づいた。 私は毎日、他人の余白ばかり直して、 自分の余白を、ずっと放置していたのだ。 机の引き出しに、配属時の社内資料が残っていた。 そこに、小さくこう書いてあった。 「余白係の目的は、文書の整形ではなく、 社員の心理状態の観測である」 私はその日、初めて有給申請書を書いた。 行間を、いつもより少しだけ広くして。
日記を書く習慣が、母にはあった。 押し入れの奥から、段ボール一箱分が出てきた。一九八〇年代から書き続けた日記帳が、年ごとにきちんと並んでいた。几帳面な人だったから、日付も欠かさず、筆跡も乱れていなかった。私は相続の整理をしながら、一冊だけ手に取った。私が生まれた年のものだった。 母の日記は淡々としていた。天気、食事、夫の帰宅時間。感情の起伏はほとんど書かれていなかった。それでも読み進めると、ところどころに私のことが出てきた。 七月十四日。恵が笑った。 八月三日。恵が立った。 短い記録だったが、その短さがかえって愛おしかった。私は次の箱から翌年の日記を取り出した。私が二歳になった年。それも同じ調子で、淡々と日常が記されていた。 十冊ほど読み進めたところで、私が小学五年生の年の日記を開いた。あのころ私は太り始めていた。クラスで一番体が大きくて、それを気にしていた時期だった。 六月のページに、こんな一文があった。 恵のこと、先生から電話があった。クラスの男子に叩かれているらしい。恵は何も言わなかった。 読んで、胸が痛んだ。覚えていた。あの頃、太っているというだけで、何人かの男子にからかわれていた。叩かれたことも、あった。母に言えなかった。心配させたくなかった。 でも母は知っていたのだ。 続きを読んだ。 担任は注意すると言っていた。様子を見る。恵には何も言わないでおく。 私は日記を閉じなかった。その先を読んだ。七月、八月。私へのいじめに関する記述は続いていた。担任との電話のやりとり、父と話し合ったこと、このまま転校させるべきか迷ったこと。私がまったく知らない場所で、母はずっと動いていた。 九月のページに、こう書いてあった。 恵、最近よく食べる。よかった。 私は笑った。そういう人だった。 冬のページをめくった。いじめの記述は少しずつ減っていた。代わりに、私の体重の記録が始まっていた。 十二月。恵、また少し増えた。六十二キロ。 几帳面な母らしかった。月ごとに、私の体重が記録されていた。私自身、自分の体重をそんなに正確に把握していなかったのに、母は知っていた。測っていたのではなく、おそらく私が無頓着に口にしていた数字を、書き留めていたのだと思った。 中学、高校と、体重の記録は続いていた。増えた年も、少し減った年も、すべて書いてあった。 私は二十年分の日記を一気に繰った。就職、結婚、離婚。私の人生の出来事が、母の視点から淡々と記されていた。感想はほとんどなかった。ただ事実だけが並んでいた。 最後の日記帳を開いた。母が倒れる前の年のものだった。 最後のページに、こう書いてあった。 十一月。恵が電話してきた。元気そうだった。体重のことは聞かなかった。もう関係ないと思って。 私はそこで手が止まった。 もう関係ない。 その言葉が、妙に引っかかった。体重がもう関係ない、という意味だと思った。娘が中年になって、体重など気にしなくていい年になった、そういうことだと思った。 でも次のページを見て、私は息が止まった。 日付は同じ十一月。走り書きで、一行だけ。 先生に言われた。年内かもしれない、と。恵には言わない。 私が母の死の知らせを受けたのは、翌年の二月だった。 突然だった、と思っていた。 ずっと、突然だったと思っていた。
夕方の公園は、いつも少しだけやさしい。 滑り台のてっぺんで笑う子ども。砂場で黙々と山を作る子ども。 その周りで、親たちはスマホを見たり、空を見たり、わが子だけを目で追っている。 私はベンチに座り、娘の紗菜がブランコに乗るのを見ていた。 「つぎ、かしてね」 後ろに並ぶ男の子に、紗菜は小さくうなずく。 ブランコがゆれる。 きゃっ、という声が風に混ざる。 この公園に来るようになって三年。 顔は知っているけれど、名前は知らない親子ばかりだ。 その中に、一人だけ、よく見る父親がいた。 いつも同じ時間に来て、同じベンチに座る。 帽子を深くかぶり、ほとんどスマホを見ない。 ただ、子どもを見ている。 今日は、その子が紗菜の後ろに並んでいた。 順番が来て、紗菜はブランコを降りる。 男の子が嬉しそうに座る。 その父親が、軽く会釈をした。 私は、つられて会釈を返した。 それだけのことなのに、なぜか少しだけ、胸の奥がほどけた。 帰り際、手を洗いながら紗菜が言った。 「さっきの子ね、いつもひとりなんだって」 「そうなの?」 「ママいないんだって。パパが言ってた」 私は蛇口を閉める手を止めた。 ふと、その父親のことを思い出す。 静かに、ただ子どもを見ている姿。 ベンチに座る時間の長さ。 帰るタイミング。 誰とも話さない理由。 次の日も、その親子はいた。 紗菜がブランコを譲ると、男の子は嬉しそうに笑った。 「ありがとう」 はっきりした声だった。 私は、思い切って声をかけた。 「いつも同じ時間ですね」 父親は少し驚いた顔をして、それから微笑んだ。 「生活リズムが、これしかなくて」 会話はそれだけで終わった。 でも、それから、会釈が挨拶に変わった。 「今日は混んでますね」 「日が伸びましたね」 たわいもない言葉が、公園の空気に溶ける。 ある日、その親子の姿がなかった。 紗菜が何度も入り口の方を見る。 「今日は来ないね」 次の日も、その次の日も来なかった。 少しだけ、寂しかった。 名前も知らないのに。 一週間後、久しぶりに姿が見えた。 紗菜が駆け寄る。 男の子も走ってくる。 ブランコの順番を、また自然に譲り合う。 父親が言った。 「引っ越すことになって。今日が最後なんです」 私は、なぜか言葉に詰まった。 「そうなんですね」 それしか言えなかった。 帰り際、男の子が紗菜に手を振る。 紗菜も、大きく振り返す。 父親が、深く頭を下げた。 「ありがとうございました」 何を、とは言わなかった。 でも、分かる気がした。 同じ時間に、同じ場所に来て、 同じように子どもを見ていただけの関係。 それでも、確かにそこに、支え合っていた時間があった。 帰り道、紗菜が言った。 「また会えるかな」 「どうかな。でもね」 私は紗菜の手を握る。 「今日、ちゃんと順番、貸せたね」 紗菜はうなずいた。 公園には、名前のない関係がある。 挨拶だけのつながり。 会釈だけの安心。 それでも、人は少しだけ救われる。 あのブランコの順番みたいに。
月曜の朝、エレベーターの扉が開いた瞬間、胸の奥が少しだけ重くなる。 そこに立っているのが、三浦だったからだ。 三浦は誰にでも笑顔を向ける。特に課長には。 声のトーンが半音上がり、相づちが増え、気遣いの言葉がやけに多い。 「おはようございます!課長、昨日の資料すごく勉強になりました!」 その横で、私は無言でコーヒーを買う。 私の前では違う。 言葉の端に、わずかな棘がある。 「それ、まだやってなかったんですか?」 「え、普通そう思いません?」 本人は悪気がない顔をしている。 でも、確実に空気は削られる。 最初は、気のせいだと思おうとした。 人の受け取り方なんて、それぞれだと。 でも、気づけば私は、三浦の機嫌を無意識に読んで動くようになっていた。 課長が近くにいるときの三浦は、別人のように気さくで有能だ。 その横で、私はだんだん無口になっていった。 ある日、ふと思った。 なんで私は、この人に合わせているんだろう。 嫌いな人に、好かれようとしていることに気づいた瞬間だった。 その日から、私は一つだけ決めた。 「業務以外の会話をしない」 挨拶はする。報連相もする。 でも、雑談はしない。相手の顔色も読まない。 三浦が話しかけてきても、必要なことだけを、丁寧に、短く返す。 最初の数日は、少し空気がぎこちなかった。 三浦も違和感に気づいたらしい。 「今日、静かですね」 「そうですか?」 それだけ返した。 不思議なことに、心が軽かった。 気を使わなくていい。 無理に笑わなくていい。 嫌いな人に、好かれなくていい。 ある日、課長が私に言った。 「最近、仕事に集中してる感じするな。いいね」 三浦はその横で、少し黙っていた。 私は何もしていない。 ただ、距離を取っただけだ。 それだけで、こんなに楽になるのかと思った。 三浦は相変わらず、課長の前では明るい。 私の前では、少しだけ静かになった。 きっと気づいたのだ。 この人には、もう通用しないと。 嫌いな人を変えることは出来ない。 でも、距離は自分で決められる。 帰りのエレベーターで、三浦と二人きりになった。 沈黙が流れる。 以前なら、私は何か話題を探していた。 今は、ただ、静かに階数表示を見ている。 扉が開く。 「お疲れ様です」 三浦が言った。 「お疲れ様です」 それだけで十分だった。 外に出ると、夜風が少しだけ心地よかった。 私はやっと、ちょうどいい距離を見つけたのだ。
荷台にたくさんのボンベを載せた軽トラが、路地を走っていた。ガス会社の軽トラだと思った。でも、よく見たら違った。ボンベには『信心』と書かれていた。『信心』のボンベを載せた軽トラは、小さな角を曲がっていった。あの角の先には、確か、新興宗教の施設があったはずだ。どこも大変なんだな。いくらくらいかかるんだろう。軽トラを見送って、コンビニにガス代を払いに行った。
街に建つある一棟の雑居ビルの、歩道に面している外壁から、一対の、人間の腕が生えていた。いつから生えているのかは知らないが、ずっとそこに生えていた。不気味ではあったが、無害なので放っておかれていた。ある休日の夕方、飲み屋に行こうと歩いていた時、たまたまそのビルの前を通りかかった。すると、腕の前に、一人の女の子が立っていた。まだ幼いその女の子は、腕に色々話しかけていた。そして、おそらくキャンディーかグミを、小さな肩掛けカバンから取り出して、その腕の手に握らせた。腕はキャンディーかグミを受け取ったのとは逆の手で、女の子の頭を撫でた。女の子は嬉しそうだった。するとそこへ、女の子の母親らしき女性が駆け寄ってきて、女の子を抱きかかえて、慌てて逃げていった。腕は寂しそうだった。俺は飲み屋へ向かった。数時間後、居酒屋からの帰り、ほろ酔いで再び同じ道を歩いていた。ビルの前を通り過ぎる時、あの腕を見た。腕には、手錠がかけられていた。あらら。よく見ると、腕には、出来たばかりと思われる小さな痣があった。世知辛い世の中だ。俺は近くのコンビニに寄り、酒とつまみを買って帰宅した。
駅に停車している電車に乗り込み、座席に座り、発車を待っている時、車両の外を、車掌が通り過ぎた。背筋をぴんとのばして歩いていく。その車掌の頭の上に、何かが載っていた。よく見ると、それは一匹のカエルだった。車掌とともにまっすぐ前を見ている。車掌はそのまま歩き去っていき、それからしばらくして電車は発車した。少し経ってから車内アナウンスが流れる。「本日は……」お決まりの挨拶だ。電車は走る。単調な走行音と、窓から射し込む暖かい日差しによって、少しうとうとしてきた時、天井のスピーカーから不思議な音が聞こえてきた。「けろけろけろけろ……」すぐにそれがカエルの鳴き声だとわかった。たぶんさっきのカエルだろう。窓の外を見た。そうしろと言われている気がしたのだ。窓の外には田園風景が広がっていた。その田園風景の中にある小さな駅で、電車が停まった。扉を開けて駅のホームを見ると、車掌が立っていて、その車掌の頭からさっきのカエルがぴょんと跳んで、駅の改札の方へ消えていくのが見えた。それからすぐに電車は発車した。もう一度眠るために、再び目を閉じた。
サンシェードが溶けていた。瑠璃色と白銀色のぱりっとした体躯で胸を張り、フロントガラスの背後で警備に当たっていた筈なのに。今や、どろりとスライムのように寝そべっていて、見る影も無い。 車を離れたのは、ほんの数分。姿形を変えてしまう程に、待ち侘びていたと言うのか。 ──ふらり、ふらり。 風に煽られながら、小さな雨粒が視界を訪れた。しおしおと窓を伝う姿は、宛ら溶けた日除けの涙のよう。思わずワイパーを動かし、優しくその雫を掬った。
1 ただでさえ透き通り、色の無い雨達。 彼等が幽霊になったら、誰が存在に気付けるだろうか。 2 雨粒を噛み潰したような顔で、珈琲が此方を睨む。 苦虫を噛み潰したような味のくせに。 3 ざぶりざぶり、頭の中に雨を注いだ。 頭痛も寝不足も感じなくなると思ったから。 4 目の前の人間が雨に襲われている。 酷く羨ましくて、彼が手にしていた傘を奪い取り、太陽を貫いた。 5 今日は雨が降らなかった。 昨日の日向ぼっこに嫉妬したのだろうか。
パチンコはやらないが(何か知り合いにやって儲けてそうと言われた)その喫煙所にいたお兄さんと話す。 今日は女の子に嫌われたかもしれないと話すと笑いながらどうしたのと?言われる。 何か都心の郊外で農業の仕事やるのは最先端らしいんですけどね、人手が足りなくて、と言う。 お兄さんは奥さんを連れて何処かに行く。 今日もご飯を食べられるのがありがたい。 近所の隣家では子供がはしゃいでいる声がする。 これで朝鶏でも鳴けば風情が出るなぁ、と思う。 何か今日は花粉症にでもなったのか鼻がズビズビ止まらない。 体調はいつも悪いのだが皆悪いのだと言い聞かせる。 弱っているのは身体ではなく心なのかもしれない。 コロナワクチンを打ったせいで脳がアナログとデジタルの中間の中国人みたいな思考になっちゃってる気がするんですよね、とお兄さんに言った。 まあ中国人になっちゃってもいいんだけど、と知り合いに言うと目指せ中国化、と言われる。 料理と武術と哲学の得意な中国人になりたい。 心は優しいままで。 漢民族は元々農耕民族なので農業をやるにはいいかもしれない。 まずは土作りから。 台湾の知り合いに手作りのお弁当を見せたらいい嫁来るよ、と笑顔で言われた。 中国の知り合い増やしたい。 団地で秋葉原の電器店に寄ってきてマイナンバー作りたいんだけど、と言ってきたあの中国の人はあの辺に住んでるんだ、と言っていた。 新宿の華僑のお店の中華屋さんで知り合いと飯を食い、美味しかったです、と言ったら笑顔で返してくれた。 環境なのか遺伝なのかは知らないけどちょっと前頭葉の機能が弱いです、と言われた。 今漢民族というかいわゆる中国人と言われる人達は遺伝子プールが片寄っちゃって前頭葉の機能が弱まっちゃってるらしい。 キレやすいのはそのためかもしれない。 ゴミ拾って列にならんで万引きしないで風呂入って歯磨いて歯医者行って電車では静かにしていて悪い事したら謝ってでも家では他人の悪口を言って歌歌ってゴミ出しして挨拶して落ちてる財布届けて交通ルール守ってちょっと帰り際自転車でながら煙草してたらチン!って言われて反省してでも煙草やめられなくてお酒飲まないで教会通ってモスク行ってヒンドゥー教の寺院も行かなきゃと思っていて社会性って習慣だよな、と思って歌を誉められて僕はちゃんと生活出来てるだろうか?と自問自答する。 今日も夜はふける。
某三丁目時代の人々は話好き仕事中も頻繁に 会話してた検査業務なのに私は皆器用人だと 素直に思った有る時迄皆美人で会話好き仕事 するより会話してる方が圧倒的に多いし私は 彼女達は選ぶ仕事間違えたと感じました多分 キャバクか御水向きだと思う位お喋り上手な 彼女達にメロメロに為る上司を横目で眺めて 大丈夫かこの職場此処はキャバクじゃ無いし 一瞬の見落としが大きなミスに繋がる重要な 作業だった事人間達は有る種幸せな生き物で 私は呆れながら彼女達がミスしない様に確認 して間違えそうに為なればストップと叫んで 声を掛けてた馬鹿真面目な私は其れを遣れば 彼女達が何時か仕事中のお喋りが減ると思い 必死に為ってたあの頃有る言葉を聞く迄私は 彼女達を信じてた私達がミスしない様に○○ さんがずっと見ていてと言われた瞬間愕然と して仕舞い当然遣る気が失せた役職手当すら 無い派遣同士の関係性だけで何を言ってるか 馬鹿らしく為って私はその場から離れた記憶 勿論その職場は倒産しました嘘の様な本当の 話だった有る種ずっと理不尽の中に存在した 自分に明朝の灯りが来るのだろうか神のみぞ 知るかも知れない現実的な物語
とある主婦が、スーパーで惣菜を買い、銀行に立ち寄った。ATMの列に並ぶと、主婦の後ろに若いカップルが並んだ。「そうそう知ってる?新幹線で肉まん食べるの、禁止なんだって」「え、マジ」「だってあれ、臭うじゃん」主婦は手に提げた肉まんと餃子の入った袋の口を、そっと閉め直した。
嫌われたかもしれない。 分かりやすく機嫌が悪い。 執着は身を滅ぼす。 次の恋へ。 玉砕しても草木は芽吹く。 めげずに引きずらずに。 色男は意中の娘に振り向いて貰えない。
今日は卒業式。この学校にいるのも最後になった。 号泣している神田さん、笑っている桜山くん、花粉症の安部さん、みんな私の大事な同級生。 卒業証書を受け取って、最後なんだと実感させられる。 泣かないって決めてたのに、笑顔でって決めてたのに、涙が流れてくる。 普段は持ってないハンカチ、今日は持ってきてよかったな。