怪獣があらわれる街✕雨の日に傘を持って

雨は続く 一度暖かくなった気温も今週に入り真冬に戻ってしまった。 人々はコートを着ている人もいれば、トレーナーですましている人もいる。 そして雨の日が続く。 先月は乾燥と晴れ続きで、火事やダムの貯水量のニュースが多かったが、この雨で解消されるだろう。 傘を持つ手に雫が伝う。 カモメはウルトラマンである。 カモメは今、息子を待っている。 そろそろ下校時刻になるので通学路のスーパーで息子が通るのを待っている。 今日は、妻の母親が白内障の手術を終え、退院する日なのでカモメは家族でお迎えに行くことになった。 下校途中の息子をつかまえ、先に病院に行っている妻と妻の母親を迎えに行く予定なのだ。 古いアスファルトの歩道は灰色の空を映す水たまりが散らばっている。 歩道は下校している子供達で賑わっている。皆、楽しそうに歩いている。信号のない交差点をどんどん進んでいくので危なくてしょうがない。 息子の姿を探す。いた!子供たちの行列の中で友達と三人並んで歩いている。息子は口がきけないから、騒いではなかったが、 楽しそうに、 三人そろって何か話しながら、 その中にうちの息子が赤い傘をさして、歩いている。 息子が僕に気が付くと、少し笑って、軽く手を振る。僕も傘を上げて答える。 冬の冷たい雨が服を濡らしていく 風に乗った雨が横から吹いてくる。 子供たちの明るい声がカモメの心に響く。息子の小さな手がカモメの手を握る。カモメはこの幸せを守っている。

イチ (掌編詩小説)

カラクリを紐解いて あべこべを、その眼で睨んで 茶運び人形を愛でて 湯呑みに一本の茶柱 人を招いて 無礼をその眼で睨んで 招く己を愛でて 友情に一本の優越感 退け払い 天を泳ぐ者 雷鳴、この地に響かせ 焦がした一筋の電光 (完)

薄暗闇から

 この薄暗い部屋に閉じ込められて、一月が経った。部屋の中は質素な造りだが、ベッドは意外にも上質なマットレスで、シャワーとトイレも完備してあり、生活するには申し分ない。食事は野菜などの彩は無いが、三食差し入れられる。  堪えがたいことは、娯楽が少ないことだ。テレビやパソコンが無いのは勿論、所持していたスマートフォンも取り上げられている。何故かカバーを外された本だけは差し入れられるが、異常な状況では読む気力も湧かない。言わば、生きる楽しみを見いだせない空間。  犯人はわかっている。目の前にいる女だ。 「どうしてこんなことをするんだ」  鉄格子の向こうにそう詰問すれば、女はいつも困った様な表情をするばかりだった。   彼女のかつての交際相手に相談を受けたのが、出会いのきっかけだった。曰く、彼女は相手に尽くすタイプの女性で、しかしそれに際限が無い。ノイローゼになった彼が逃げ出し、身近にいた自分が次の寄生先として選ばれた。  意外にも彼女との生活は悪くはなかった。容姿は華美ではなく、常に地味な服装だったが、むしろ奥ゆかしく好感が持てる。流行の話題には疎いが、古文や歴史に造詣が深く、博識深い。聞いていた異常性を置いておけば、所謂大和撫子そのものだったのだ。  うまくいっていたはずだった。この場所に監禁されるまでは。  あの日は雪が降っていた。寒さに身を震わせ、数か月後に来る春を思い、道すがら在原業平や西行が詠んだ句について語った。 「和歌に詠まれる桜は、どうしてこうも魅力的なんだろう」 「昔は、今よりも目に入る色が少なかったですから、桜の初心な色ですら、貴重な彩、だったのでしょう」 「成程。そもそも現代とは環境が異なるか。僕もいつか全身で感激するような桜を見てみたいものだ」 「ええ、そうですね」  そんな些細な夢も語って、彼女も微笑んでいたというのに。  当夜、勧められるまま深酒をしてその後の記憶がない。目が覚めたらこの部屋にいた。初めは激昂して、それから諭すように、ある時は懇願に近い声色で、どんな言葉で尋ねても、彼女の答えは無いか、曖昧なものばかりだった。  彼女は、僕の思いを試しているのか? 監禁という行為が生み出す歪んだ関係性。被害者からの依存性を期待しているのだろうか。彼女の目的は、ただこうして廃れていく僕を、籠の外から眺めて居たいだけなのかもしれない。  薄暗い部屋で、食事と睡眠の数を数え、もう二月も経った。ひたすら薄暗闇の日々が続いたのだ。段々と、自分の中の何かがすり減っていくのを感じる。 「なあ、今日でもう二月だ。あんたはいつまでこんなことをするつもりなんだ?」  辛うじて、まだ忘れていなかった声と言葉で問いかける。どうせ返事は無い。宛てのない言葉は、壁の中に消えていってしまうのだろう。ただの独白だ。  そう自嘲しながらも、久々にあの困った顔つきを拝んでやろうと、俯いていた顔を上げた。彼女の唇が動いた。 「あと、二週間、くらい?」  食い下がるべきだったろうが、驚き、言葉が出ない。明確に期限を口にしたのはこれが初めてだった。彼女に何の変化があったのか。  その日を皮切りに、彼女は、毎日私の言葉に返事をするようになった。 「もうちょっと、今日は、まだ」 「まだ早いの、だめ」 「きょ、今日は、雨が降ったから」  ある日、聞きなれない金属音と共に、いつもとは異なる微妙な風の流れを感じた。ひた、ひた、と足音が近づく。顔を上げると、鉄格子の向こうの彼女が傍にいた。 「あの、これ」  差し出されたものは、黒いアイマスクだった。付けろというのだろうか。視線で問いかけても、困った表情をするだけだから、望まれるままに装着した。手を引かれ、立ち上がる様促される。僕は彼女のするまま、素直に従った。 「どこに向かっているんだ」  答えのないまま、歩いた。あの仄暗闇から解放されるのならば、どこでもいい。僕はあの薄暗い部屋を出たのだ。  途中から、足の裏に感じていたものが、コンクリートよりも柔らかい感触に変わった。風にのって、土と草の匂いがする。 「取ります、ね」  もう随分歩いたと疲労を感じ始めた頃、ふと立ち止まって彼女は言った。  髪が巻き込まれ頭皮が引っ張られたが、些細な問題だった。  流れ込む光の束に、すぐには目を開けなかった。ゆっくりと瞼の裏に馴染ませ、恐る恐る開いていく。  色の洪水だった。失くしていた色、求めていた色、知っていたはずのものが、未知のものに見えた。背丈を優に超える幹は、大地の色を吸い込んでいる。風に舞い散る花びらには、一枚一枚色があった。全て、異なる色なのだ。  言葉にならない僕に、彼女は嬉しそうに笑った。久しぶりに見た笑顔だ。僕は、彼女が僕を閉じ込めた理由を悟った。後はただ、手を握り締めて、桜を眺めた。

あぶれるラビューン

 原宿苦手。 お洒落が分からない。 ウァァ。 お洒落したらいいじゃないですか、と言われる。 服代を煙草代に換える。 これはモテないなぁ、と思う。 病院のリサイクルショップで買った服を誉められる。 メルカリでレディースの服を間違えて買う。 これはとんでもないヘマだ、と思う。 元カノがメンズ地下アイドルの写真を送ってくる。 若さだ。 比類なき若さだ。 気になるあの娘は21歳だ。 犯罪だ。 もひとつ気になるあの娘は18歳だ。 戦争犯罪だ。 もひとつ気になるあの娘も20代だろう。 厄災だ。 僕はロリコンなのか? 女の子が警戒しないで近づいてくる。 僕は弱っている雄ゴリラだ。 柵の外にそっと避難させる。 基本的にパーソナルスペースがあってバナナが食べられればおとなしくしている。 雄ゴリラは犬となり猫の助けを借りて今日も掘っ立て小屋で寝る。

毒を摂取。毒も喰らえば栄養も喰らえばなんとか。そやな健康にいいものだけを摂るこれも健全とは言い難いな。そんな感じで今を過ごす。いいなこれのり塩のポテトチップ、のりがビールに合う。ちょっと一息、ポテトチップをたいあげる。自分は酒に強いほうではない。でも、酒飲まずにはいられない….。 音楽を聞く、グランジが僕の今の流行りだ。シャウトが聴こえる悲痛な叫び。レイン・ステイリーがダークな世界観を彩る。酔っぱらいに見られないように振る舞うアル中ではないと思いたい。酒豪になるには痩せ我慢も必要だ。アル中とは思われたくないが酒豪には思いたい。捻れている。言葉の違い。

Sammen til døden os skiller

それは、ほんの一瞬の出来事だった。長年連れ去った恋人からの一言。それが耳に入った途端、頭の中で何かが弾けたような音がする。 「もう、君との関係はこれで終わりにしたい。」 最初は何を言っているか分からなかった。君のことを一番に理解しているのは僕であり、共に生活することが何よりの幸福であると信じて疑わなかったのは自分だけだったようだ。 こういう時、相手になんと言えばいいか分からなかった。恐らくここで場所も弁えずに泣き叫ぶこと勇気も、恋人の心を取り戻すようなかっこいいことを言える自信も持ち合わせていなかった。なんとか返事をしようと口を開いて、出てきたのはたった3文字だった。 「…そうか。」 今考えれば、もっと何かあったはずだった。だがその時は頭もよく回らず、目もよく見えなくなっていた。そのうち、目の前の恋人は少し焦ったように鞄からハンカチを取り出して、こちらへ渡してくる。その時に初めて気がついたのだ。僕は泣いているのだと。 その後、恋人は食事の後すぐに帰った。恐らく、僕にもう一度やり直したいと言わせないためだろう。それを分かっているからこそ、尚更言えなかった。 どこから間違っていたのだろうか。その日の夜からずっと頭をその疑問が駆け巡っている。仕事の時も、家事をしている時も、寝る前も。思い出すのは恋人の柔らかな笑顔と温かい空間だけ。それが頭をよぎるたびに、やけに肌寒く感じた。 疑う余地はない。僕は恋人を幸せにしようと一生懸命に努力した。相手の感情は表情を見てすぐに読み取ろうと努力した。相手が行きたい場所は、すぐに調べて一緒に行った。僕ができることは全てしたのだ。これも、恋人自身の気分だったのだろうと思うしかなかった。 そこは恋人の悪いところでもあると感じた。少し気分屋な部分があり、そこが付き合っている時は可愛いと思っていた。いろんな彼女を見ることができるから、幸せなのだと思っていた。だが、今になるとその欠点にすら気になってしまう。 他にも彼女は少し僕に頼っていた部分が多いと思う。行きたい場所も欲しいものも言うだけで自分から手に入れようとはしなかった。僕がきっと買ってくれるだろうと思っていたのだろう。 そう考えると、相手の嫌な部分がどんどん出てきた。そして、一つの結論を見出す。恋人と出会ってから、僕はずっと恋人の我儘に付き合ってきたのだと。そんな我儘を、僕は全て愛だと受け止めてきたのだ。それなのに、相手はそれを押し付けるだけで、僕からの愛は受け止めずに離れて行った。もしかしたら、僕以外にそのような相手ができたのではないか。そう考えると虫唾が走る。 でも、きっと僕ほど恋人の我儘を受け止めることができる人間はいないだろうと思った。かれこれ5年間、ずっと一緒に生活をしてきたのだから。それを超えるような相手がいるわけがない。そんなわけがない。あっては僕がおかしくなりそうだ。 だから君には、まだ僕の元を離れてもらっては困る。僕の愛を同じように受け止め、僕の存在がどれだけ君にとって重要なのかを理解し、考えを改めて貰わなくてはならない。今までの時間では足りなかったようだ。だから、これからもだと時間をかけて理解してもらわなくてはならない。 ここに君を繋ぎ止めておくのは、君の為なんだ。鎖は少し物騒に見えるかもしれないけど、怖がらせるために付けているわけではない。君が何も理解しないまま外に出すのは、あまりにも危険だから。君は何も理解していない。このままではすぐに騙されてしまう。そうならないためにも、僕のそばにいるのが一番安全だ。分かってくれるよな? 大丈夫。きっと君も僕の思いをすぐに受け止めてくれると信じている。僕が愛した人なのだから。 これからも、ずっとよろしくね。

ご機嫌取り

私の気分…いや、機嫌は天気予報によって変わる。昨日のアナウンサーは今日の私の不機嫌を伝えてきた。いざ、空を見ると私の機嫌と同じように夜の闇に置いて行かれた月が見えてしまった。 あれ?今日のおとめ座何位だったっけ。念のため最後の砦を確認しておく。

月の裏側にもうひとつの日本

 NASAが月の裏側に行ったらしい。 昔かぐや姫を助けた日本。 月に帰ったかぐや姫はもうひとつの日本を月の裏側に作っていた。 かぐや姫「ここも侵略国に見つかってしまうのね…静かに暮らしていたかったのに」 家来「姫様、次は何処に避難しましょうか?」 かぐや姫「火星ももう探査機が来ているわね、木星辺りの衛星にしようかしら…」 家来「では引き続き日本を見守りつつ母星との連絡を取りながら木星の衛星に移動しましょう。」 かぐや姫「日本以外の国は駄目ね、資源ばかり狙って皆で解決する問題に気づいていない…悲しいわ…」 昔地球に不時着したときかぐや姫を助けた日本と迫害した海外。 かぐや姫「私がレイシストみたいことをしてるって世界の人は思うでしょうね…でも逃げないと奪われ殺されてしまうんですもの…」 家来「中国の探査船も来るみたいです。」 かぐや姫「早く日本の探査船が来てここにある宝箱の真の意味に気づいてくれないかしら…」 家来「日本で人気の海賊漫画にそのような伏線があるらしいですが…あいにく情報不足で…」 かぐや姫「宝物の本当の価値に気付けるのは日本人だけよ…他の人にとってはゴミみたいなものだわ…」 家来「NASAのグループの中にいる良心的な人達に賭けましょう…それしかない…」 宝物の中身。 それは平和を願う人達にしか見えない大切なもの。

 朝の電車に乗っていた。隣の座席に、若者が座っていた。若者はヘッドホンをつけていた。かすかにそのヘッドホンから音が聞こえてくる。音漏れだ。それは音楽ではなくて声だった。「……」耳を澄ます。「……あなたは正しい……あなたは正しい……あなたは正しい……」その声はそう言っていた。若者は目を閉じて、軽く首を動かしていた。「あなたは正しい……あなたは正しい……あなたは正しい……」それを聴いているうちにだんんだん「あなたは正しい…あなたは正しい……あなたは正しい……」自信が出てきた。電車が駅で停まった。若者に会釈をして電車を降りた。若者はにやりと笑った。駅を出て、会社に向かう。上司の顔を思い浮かべながら、鞄の中に包丁があるのをもう一度確かめた。

缶切り

うちの鉄工所に入社した時の森田は、二十歳とは思えない程の冷静沈着な男というのが俺の第一印象だった。ある時、森田にドラム缶の蓋を開けておくよう指示した。だが俺が戻って来ると、蓋はまだ閉じたままだった。「あの蓋、切れなくて」森田は小さな缶切りを握りしめた手で、額の汗をぬぐった。

愛の力をくらえ

愛とはすごいものだ。 あれほど軽々しく「好き」や「愛してる」を振りまいていた友人が、今では一人の人にだけそれを向けている。仲睦まじそうで何よりである。 ただし、あの言葉たちは無くなったわけではない。 横断歩道で信号を待つ。隣の人はスマホに夢中だ。指の動きが荒い。誰かに何かを送り続けている。 ああ、これか、と思う。これが、芽吹いたもの。 信号はまだ赤い。でも、別に関係ない。 一歩踏み出す。 予想通り、その人は進みだした。 音。 「もしもし!事故です!」 通話を終えて、少しだけ息を吐く。 これで、ひとつ減った。 全く。 大事な親友に害を成すなんて。 愛とは、本当に恐ろしい。

True Colors

 朝、少し遅れてきた電車の正面に、緑色の液体がべっとり付いていた。異星人の血だ。飛び込んだのだろう。異星人でよかった。死体はその辺に捨てられる。地球人だったら電車が大幅に遅れていたところだ。駅にいた人々はほっとして、電車に乗り込んだ。夕方には、異星人の死体が捨てられた地面に、金色の美しい花が咲くだろう。悪くない話だ。

怪獣があらわれる街✕男なら親指を立てろ

雨太郎というオジサンがいる 歳は45を過ぎ、髪に櫛も解かさず、口の周りを無精ひげに好きにさせている。 いつも服は薄汚れていて煙草と酒が好きな男 そんな彼は紛れもなく、ウルトラマンである。 雨太郎は甥っ子の風太くんの授業参観に来ていた。甥っ子の風太に「雨太郎叔父ちゃんに来てほしいな」と言われたので嫌とは言えない。 風太くんは昔から雨太郎と馬が合った。 たまに会うと昔からの親友のように過ごす。小さかった風太くんの指定席は雨太郎の膝の上だった。 その雨太郎叔父ちゃんがウルトラマンだと知ってからは、余計に尊敬をしている。   ✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕ ぐら…ぐらぐらぐら… 地面を突き上げるほどの揺れが学校を襲う。地震か、怪獣か。 キャーキャー騒ぎ怯える児童達 「みんなー!防災頭巾を被って!机の下に隠れましょー!」指示を出す先生は冷静に行動している 行き場がない児童の親たちは戸惑っている。 雨太郎は窓の外を見ていた。怪獣の姿を探している。 青空にサイレンが鳴り響く。 「避難命令!避難命令!〇〇町、上空に巨大生物があらわれました!直ちに避難せよ!繰り返す!直ちに避難せよ!」 放送を聞いて教室にパニックが巻き起こる。児童達は一斉に机から飛び出して、自分の親の元へ駆け寄った。 親達は学校の地下シェルターへ走っていく。先生達は廊下に出て走らないように大声で声かけをしている。 近年、巨大生物の襲来が多発し、日本政府は、学校や病院に地下シェルター設置を義務付けた。昨今の防災訓練は地下シェルターで行うのが主流である。 教室では親の来ていない児童は、皆不安そうにしていて、泣きべそをかいている子や、ウロウロとしている子が何人かいた。風太は雨太郎とアイコンタクトをとると、風太はその子たちを風太の母の元に集めた。 「えらいぞ、風太。よし、ちょっくら行ってくるわ」 「お兄ちゃん…」 雨太郎の妹で風太の母である晴子は心配そうな顔で雨太郎を見る 「風太、母ちゃんと皆を頼むな」 風太は親指を立てる 雨太郎はニコリと笑う 雨太郎が教室を出て、流れに逆らうように進んで行き、やがて、人混みで見えなくなった。 ドンと大地が鳴り、一斉に悲鳴が聞こえる。強い衝撃で皆が床に倒れたのだ。 不安と緊張で学校はパニック寸前だ。地面に近づくシャボン玉の様に、破裂するまで後わずか。 そこに誰かが言った言葉で、シャボン玉は割れずに風に乗り空へと舞い上がった 「ウルトラマンだ」 窓の外には皆の希望であるウルトラマンが立っていた。 ウルトラマンは怪獣の元へ飛び立って行った。ウルトラマンが飛び立つとき空へ向けて親指を立てていた。

What's Going On

 戦闘機が空を飛んでいた。その戦闘機の後ろから、ものすごい数の、白い飛行体が近づいていった。それは無数の紙飛行機だった。紙飛行機たちは戦闘機に追いつくと、戦闘機にまとわりつき始めた。パイロットは動揺したのだろう、戦闘機は危うい動きをし始めた。やがて戦闘機はびっしりと紙飛行機に覆われた。戦闘機はそのままゆっくり墜落していった。僕はその一部始終を、雲の上から眺めていた。ふいに背後に視線を感じた。振り返ると、戦争で亡くなった大勢の子どもたちが、集まって、じっと戦闘機が墜落した辺りを見つめていた。

終末シフト

週末である日曜日。 終末予報は、午後三時を指していた。 その二時間前、コンビニの自動ドアはいつも通り開いて、いつもより少しだけ静かに閉まった。 「おはようございます」 金髪が目立つ後輩バイトの絹伊賀が言う。 「おはよう」 俺はレジの奥で、ホットスナックの棚を拭いていた。油の匂いはいつもより薄い。揚げ物を頼む客がもうあまり来てないからだ。 「本当に来るんですかね、終わり」 「来るって言ってるだろ。政府も、テレビも、ネットニュースも、全部同じこと言ってる」 「そうですか」 絹伊賀は制服に着替え、名札をつけ、レジに立つ。電源は入っている。画面にも異常は見られない。 しばらく何も起きない。誰も来ない。 「今日、廃棄どうするんです?」 「いつもなら本部から回収の連絡あるけど、今日は来てないな」 「じゃあ、自由に食べていいってことですか」 「まあ、そうなるな」 絹伊賀はバックヤードに行き、戻ってくるとおにぎりを二つ持っていた。ひとつを先輩に差し出す。 「鮭とツナ、どっちがいいですか」 「鮭」 二人はレジの内側で立ったまま食べる。店内BGMはなぜかいつもより音が小さい。 「家族には連絡したのか」 残り半分となったおにぎりを片手に俺が口を開く。 「はい。既読はつきました」 「返事は?」 「さぁ?シフト前にメッセ打って、速攻既読付いたの確認してから見てません。先輩は」 「してない」 「そうですか」 また、しばらく何も起きない。 ドアが開いて、客が一人入ってくる。スーツ姿の50代ほどである普通体型の男性。ネクタイが曲がっている。 「いらっしゃいませ」 絹伊賀が言う。 男性は何も言わず、カップ麺とペットボトルの水を持ってレジに来る。 「箸と袋いりますか」 うなずく。 「382円です」 会計は現金。釣り銭を渡す。 「ありがとうございました」 男性は外に出ていく。ドアが閉まる。 「普通ですね」 「普通だな」 「てか、あのカップ麺どうするんですかね。普通コンビニで買ったんならお湯入れて行きません?」 「家で食べるんだろ」 時計は一時を回っている。 「あと二時間ですね」 「だな」 「何かしたいこと、ありますか」 俺は少し考える。 「特にないな」 「私もです」 絹伊賀はレジの横に置いてあるチョコレートを取り、ひとつ開ける。 「それ、まだ売り物だぞ」 「もういいじゃないですか」 半分を俺に渡す。 「あ、シフト提出昨日までなの忘れてました。今更出しても遅いですかね」 「まぁ店長もまだ来てないし、良いんじゃね。しれっと置いとけよ」 「そうします」 また、時間が進む。 外は少し明るい。雲がない。 「静かですね」 「みんな家にいるんだろ」 「そうかもしれませんね」 二時半。 遠くで低い音がする。雷に似ているが、もっと長く続く。 「来てますかね」 「来てるな」 二人はレジから出て、店の外に立つ。駐車場には人も車も無い。 空の端に、小さな光が見える。 「思ったより小さいですね」 「遠いからな」 「なるほど」 光は少しずつ大きくなる。 「戻りますか」 「そうだな。引き継ぎ処理でもするか」 「最後までちゃんとするんですね。てか、誰が引き継ぐんすかこの後」 「習慣だからな」 店に戻る。レジの精算をする。数字は合っている。 「問題ないですね」 「まぁ今日は客少なかったし、間違えようが無いわな」 二時五十五分。 外からの音が大きくなる。店のガラスがわずかに震える。 「先輩」 「なんだ」 「お疲れさまでした」 「ああ、お疲れ」 二時五十九分。 BGMが途中で切れる。 三時。

Woman

 昼下がりのスーパーマーケットに行った。俺は仕事がないから、昼下がりにスーパーマーケットに行けるのだ。店内をぶらぶらと歩いていたら、向こうから、きれいな女性が歩いてきた。手には買い物かごを提げている。優しそうな女性だ。すれ違う時、会釈をされたので、俺も会釈を返した。その時、買い物かごの中が見えた。買い物かごの中には、野菜や豆腐に混じって、『遺書』と書かれた封筒が入っていた。へぇ、遺書を買ったのか。意外なような、そうでもないような、そんな気持ちになった。その後、自分の買い物を済ませ、袋に商品を詰めている時、さっきの女性が同じように袋に商品を詰めているのを見た。女性は、薄いビニール袋にまず豆腐を入れ、さらにもう一枚、ビニール袋をちぎって、それに遺書を入れた。遺書が濡れないようにしているのだ。遺書を書いた人の気持ちを汲んでいるのだろう。「優しいな」と改めて思った。

内包コンプレックス

「言葉への執着は、コンプレックスに他ならない」    グラスは言った。  なみなみと注がれたワインが、グラスの一挙一動に波を立てる。   「例えば、ダイエット。本来は健康維持のための習慣を指す言葉だが、現在は痩せるの同義語として使われている。本気でダイエットをした人間からすれば、ダイエットと名乗りながら不健康に痩せていく人間など、不快でしかないだろう」    グラスは言った。  誰にも手に取られることなく、机の上で。   「では、なぜ彼らは本気でダイエットをできたのか。簡単だ。不健康な自分にコンプレックスがあったから。何を差し置いてでも、ダイエットをしたいと思えたからだ」    グラスは言った。  生まれてこのかた、重量が変わったことはない。   「あらゆる自己主張は、コンプレックスから生まれる。そして、生まれた自己主張は、他人にコンプレックスを与えて、新しい言葉の種となる」    地震が起きた。  グラスが落ちた。  粉々に割れた。  グラスはガラスになった。    ガラスは回収されて、窓となった、  その窓の近くでは、人々が良く手を滑らせて、グラスを割ってしまうらしい。

銀と金 07

入学したこの地方一の進学校に、僕の希望どおり金村はいた 「久しぶりだね、背のびたねえ」 僕がいることが当然というように、金村は驚きひとつ見せず再会後の第一声を放った 金村に会ったら伝えたいことが僕にはあって、さっそくそれを言ってみた 「おめでとう、次の定期テスト、キミが一番だよ」 「ちょっと、何、言ってんの」 「キミには一番でいてくれないと困るよ、一番のキミを追いかけてここまで来たんだ、一番のキミを追いかけて追い越すのが僕の目標だからさ」 「まいったなあ、この学校で学年一番なんてさあ」 「キミならできるでしょ」 「簡単に言うねえ」 「でも、ひそかに、なんじゃないの」 「へへ、さあね」 あのときより、なんだか金村との距離が縮まった気が、すこしした いまなら追いつけるかな、追い越せるかな わからないけど、できそうな気が、あのときよりはしている 金村に一番近い場所は、誰にもとられたくない、誰にも渡さない 春風が強く吹いて、僕のそんな覚悟を後押ししてくれているようだった

Let it go, Let it flow

 公園の公衆トイレに入った。女子トイレの個室の壁に、注意書きが貼られている。『お母さんを流さないでください。』個室に入り、用を足していたら、隣の個室に誰かが入った。鍵を閉める音、便器の蓋を開ける音、ごそごそという音、それから、人間の声。「やめてくれ、助けてくれ……」それは男性の声だった。そしてその直後に、水を流す音が聞こえてきた。「助け……」男性の声は聞こえなくなった。おそらくお父さんを流したのだろうとわかった。それからしばらくしてから、再びその公衆トイレを訪れた。壁の注意書きは『お母さんを流さないでください。』のままだった。お父さんは流してもいいらしい。私は急いで家に帰った。

銀と金 06

次の日から金村は学校に来なくって 担任の先生から、転校したと短く報告があっただけだった クラスメイトたちは知らなかったらしく あることないこと金村の噂が大きく聞かれたのは でも、金村が来なくなった最初の日だけで いつしかみんな、金村のこと、忘れていったようだった 金村が言ったとおり、次の定期テストから僕は学年で一番になった だからといって、僕のあだ名が「金」になることはなく けど、そのかわり、僕のことを「銀」と呼ぶクラスメイトは だんだんとすくなくなっていった けど、僕はなんだか、もやもやしていた ちがうんだよなあ、こういうんじゃないんだよなあ 求めてたのは、こういうのじゃない、こういうのじゃ 金村の名前がない順位表は、見てもつまらなく 金村の姿がない教室はモノクロームの世界へと変化し けれど、クラスメイトたちは、かわりなく笑っていて なんで笑っていられるんだと、僕は内心、いら立っていた そのいら立ちを、ぼくは勉強に向けた 金村がいなくなって、僕はいままで以上に勉強をがんばった 学年一番を守るため、ではなく、金村の近くに行くため 金村は、この地方一の進学校を目指してると 前にそんな情報がぼくの耳に勝手に飛び込んできていた それを思い出し、僕もその進学校を目指し、勉強をがんばった がんばって、合格できたとして、でも 金村がその学校にいるかどうかはわからない 情報がまちがっているかもしれない 金村がほかの学校に行ってしまうかもしれない それでも、信じるしかなかった すこしの望みにかけ、僕は勉強をがんばった だって僕は、銀だから

春のいたずら

新学期はピンク色 どこを向いてもピンク色 校庭の桜が反射しているのか、それとも浮き足立ったみんなの体温のせいなのか 開け放たれた窓から、そよそよと風がやさしく忍びこんでは、 女の子たちの長い髪をさらりさらりとゆらしている ふいに、前の席から僕のとは違う香りが、鼻先をくすぐってくる 石鹸のような、いや、それでいて春の花のような、なんとも甘く清潔な香り スマホの画面に目を落としたまま、そっと深くその香りを吸いこむ 誰にも悟られないように、こっそり、こっそり 憧れでもなんでもない、春が僕をそうさせる すまないことだと思いつつ、けれども、すべては春のせい そう、これは春のいたずら 小さな罪を季節になすりつけ、潔く香りを堪能する この胸のときめきも、鼻腔をくすぐる淡い熱も、きっと全部そういうこと そのように決めつけて、この贅沢な時間を、もっともっと、甘く甘く

銀と金 05

 おめでとう  次の定期テストからキミが一番だね  転校するんだ  じゃあね         金村

自宅に続く橋に『この橋、渡るべからず』の看板立ってた

 ぼくの家は、橋を通って海を越えた先にある。  最初はちょっと不便だなって思ったけど、友達が「すげー」って言ってくれるから、最近はまんざらでもない。  いつものように友達に自慢するため橋の前まで連れてくると、橋の入り口に不思議な看板が立っていた。   『この橋、渡るべからず』   「なにこれ?」    朝まではなかったはずの看板を、ぼくが凝視していると、後ろから友達が声をかけてきた。   「それって、一休さんじゃね?」 「一休さん? 絵本の」 「そうそう。端じゃなくて、真ん中を通ったってやつ」 「なるほど」    この看板も、トンチということだろうか。  でも、いったい誰がこんなことをしたのだろうか。  わざわざ看板まで準備して。   「いいじゃん! 真ん中通って渡ろうぜ!」    友達の一人が、ぼくが制止する間もなく、橋へと一歩踏み出した。   「ほらほら! 全然平気!」    友達は二歩目、さらに三歩目と、どんどん橋の真ん中を歩き進んでいった。  なんだいたずらだったのかと、ぼくも一歩踏み出したとき、バキッという音が聞こえた。  友達の足元に丸い穴が開いていて、友達は足を恐る恐る上げながら、こっちを見た。   「やっぱ……駄目かも……」 「うわあああああ!」    その後はもう、阿鼻叫喚。  ぼくは親に電話して、事情を離してきてもらう。  親はすぐに工事の人を呼んできて、歩くのは危ないからと、巨大な機械で友達を宙ぶらりんにして救出していた。       「この『橋』渡るべからずって書いてあるだろうが! 何、渡ってんだ大アホ!」    ぼくたちは、こってり叱られた。  そりゃあそうだ。  書いてたのは、『はし』でなく『橋』。  トンチなんてどこにも入らなかったんだ。   「そもそもあんたが、一休さんみたいな書き方するからでしょ! だから止めようって言ったでしょ!」    ついでに、お父さんもこってり叱られていた。

銀と金 04

今日も担任の先生につかまってしまい 放課後、雑用を言いつけられてしまった 終わったころにはうっすら暗くなっていて 当然のように教室には誰もいなくって さみしくひとり、荷物を手にした 下駄箱で靴を履きかえる あれっと足の裏にヘンな感触を覚える いったんぬいで見てみると紙切れが入っていた なんだよゴミかあ いたずらかなあ まいっちゃうよなあ そう思ってその紙切れを手にしてみる ゴミにしてはやけに丁寧に折りたたまれてるなと 不思議に思いながらも、その紙切れを開いてみた

バスが来るまでのラブストーリー〜始まり〜

とうとう始まってしまった。こんな爺が花見のバスツアーに乗っているだなんて滑稽だ。やっぱり来なきゃよかった。バスから見える風景は桜並木と菜の花畑の色合いが美しく、女性達が賑わっている。あいつが生きてた頃は花見など行かなかった。もし一緒に花見をしていたら幸せを感じてくれてたろうか。 🧒 「ジイジはバアバいないの?」 先日、息子達が遊びに来た時、 私のあぐらの上で孫がきいてきた。 「風太。バアバはいるって言ったじゃんか。先に天国に行っちゃったんだって言ったろ」 息子の洋一がたしなめる 無意識に仏壇の妻を見ると、私と違って若いままの妻は笑っている。 「ジイジも、もうすぐ天国行のバスに乗るからさ。ハハハハ」 「あらやだ、まだまだ元気でいて下さい」 洋一の奥さんの渚さんが言う 「ジイジは一人でバスに乗れる?」 「おう、ジイジは一人でバスに乗れるぞ。大人だからな」 「淋しくない?」 「え?」 「一緒に乗る友達がいるといいね」 「…そうだな」 友達と呼べる奴らは既にバスで空へ旅立ってしまった。バス停に私は一人残された。 息子の洋一は冷蔵庫からビールを持ってきて勝手に飲んでいる 「父さんさ。再婚でもしたら」 「なっ、何を言ってるんだ。七十過ぎで再婚なんか出来るわけないだろ」 「いや、今は普通だって。シニア向けの婚活バスツアーとかテレビで放送されてるのよく見るよ」 「バカバカしい。年寄り同士で結婚してどうすんだ」 「だって父さんずっと家にいるだけだろ。話し相手とかさ、何かあったときに側に誰かがいたら助かるだろ」 風太は渚さんと一緒トイレに行っている。トイレの方から私を呼ぶ風太の声が聞こえる。 「ジイジ!まだバス来てない?」 「まだ来てないぞー」 「バスツアー予約しとくよ。決まったら連絡するから」 「いやいや、参加しないぞ。私は」 「いいから、いいから」 「ジイジー!ウンチ出そー!」 「頑張れ!」 🚌 「僕はお花見好きなんですよ。このツアーは去年も来ましてね」 「あらそうなんですね。この時期は桜が綺麗ですよね」 「そうなんですよ。もうちょっと行った先に国立公園があって、そこで散策する感じです。去年もそうでしたから、小川も流れていて素敵な公園ですよ」 まだバスが着いていないのに会話しているヤツが後ろの席にいる。あんな男は駄目だ。バスガイドさんが散策が開始したらフリータイムだと言っていたのに。ただ実際は周りを見渡すと所々で会話を楽しんでいる人達ばかりだ。皆、私と同じ世代の人ばかりだからか、共通の話題があるのだろう。バスに乗る時の席は「お好きなところへお座りください」と言われたので隣が通路の一人掛けの席に座ったが、やはり失敗だったろうか。後ろの男みたいに、移動中に誰かと挨拶の一つくらいしとくべきだったのか。ただ、長い移動時間に見ず知らずの人が隣にいるのは落ち着かない。私が仲良くなれるとも思わない。思わずため息が出る。空からお前が見ていたら、きっと笑いながら応援してくれているだろう。 東京の結婚相談所が企画するシニア向けのお花見婚活ツアーの一行は、都内にある桜が綺麗で有名な国立公園に向かっている。途中、トイレ休憩でバスは道の駅に停車した。 「今から15分の休憩となります。お手洗いにいきたい方はこの休憩中にお願いしまーす」 結婚相談所のバスガイドの若い男性はボンヤリとした顔でツアー客に呼びかける。 道の駅はツアー客で賑わうこととなった。 トイレを済ませた私はハンカチを忘れた事に気が付く。前日に孫の風太と息子の嫁の渚さんが来てくれて、今日の準備をしてくれたというのに。 「お義父さん、洋一さんが無理やりツアーに申し込んだみたいですみません」 「いや、アイツなりに考えがあるんだろう。ああいう強引なところは死んだ妻にそっくりだ」 「明日は、ジイジに新しいバアバが出来るんでしょ?」 「いやいや、そんなことはないよ。少し桜を見に行くだけだ」 「お花見に着ていくお洋服はこちらにご用意しました。春らしくて動きやすいと思うんですけど、どうでしょうか」 「何から何までありがとう。よく出来た嫁さんをもらって洋一は幸せもんだな」 「ママジュースこぼした」 風太のブドウジュースが畳にこぼれている。 そうだ。あの時用意してくれたハンカチでこぼれたジュースを拭いんだった。私としたことが。自分が嫌になる。最近は忘れっぽくて困る。…やはり、新しいバアバが必要なのか… とにかく、ハンカチは必要だこの道の駅で売ってるだろう。 店内に入りハンカチを探す。

ただ人生に疲れただけ

「おーい、立ち止まるなー!」    小学生の頃のランニングか嫌いだった。  グラウンドを何周も走らされ続けて、疲れて止まったら怒声が飛んでくる。  疲れているのに走らなくちゃならないなんて、なんて酷い先生だと思った。   「困るよ。まだ仕事残っているのに」    でも、大人になって分かった。  あれは、疲れても病気になっても動き続ける練習だったんだ。  その証拠に、風邪を引いたと会社に連絡を入れたら、慰めの言葉どころかお叱りの言葉が飛んできた。    電話を切って、家の中に一人ぼっち。  もう、何もかも投げ出したくなったが、投げ出すためには動かなくちゃならない。    退職届を出して。  突っ返される退職届を何とか押し返して。  いや、そこで家でだらだらして生きられるならまだいい。  減っていく貯金を見ながら家賃を払い続けて。  払えそうになくなったらバイトを探さなくちゃならなくて。    死んですべてを終わらせるにも、やっぱり準備が必要だ。   「ただ疲れたから、休みたいだけなのに」    無職一日目。  解放感と共に、絶望感が襲ってきた。

九月一日は

親友であり幼馴染の華織が死んだ自殺だった。  原因は部活内での虐め。 九月一日二時丁度に飛び降りる華織を監視カメラが捉えていたそう。  華織の部屋に遺書が置いてあったらしい、その内の一つが私宛の手紙だった。 「命へ  何にも言えなくてごめん。  命のことだから何か出来ることがあったはずって、自分を責めるかもしれない。  でもそんなこと絶対にない。  命は何にも悪くない、命と話す時間は楽しかった。  命、今までありがとう、私の親友で幼馴染で、側にいてくれて、命といたこの十数年楽しくて、幸せだった。私の心の拠り所で本当にありがとう。  約束『おばあちゃんになっても一緒にいる』守れなくてごめん、命、大好きだよ、ありがとう。」  これを読んで華織が死んで初めて泣いた。  心のどこかで華織が死んだことを受け入れなかったのかもしれない。  それからバレーボール選手という夢を捨て、教師になった。  周りからは反対された。キャプテンになる予定もあるのに勿体無いと。  それでも教師になりたかった。  今年初めて担任を持つ、緊張しながらもドアを開け、教卓に立ち自己紹介をした。 「初めてまして1年4組の担任になった朝野命です。  趣味はバレー、女バレの顧問もしているので是非入部お願いします。嫌いなことは虐めです高校2年生の時、親友が自殺しました。」  「私は親友みたいに死んでしまう子を、私みたいに置いてかれてしまう子を、減らしたくて教師になりました。」  「どんなに些細なことでも良いです。  少しでも苦しい、辛い、そう思ったら周りの人達を頼ってください。  友達でも教師でも親でも誰かに相談して溜め込まないでください。  私はこのクラスが助け合えるクラスになって欲しいです。  長くなってしまいましたが私の自己紹介を終わります」  もうすぐ夏休みが終わり、二学期が始まる。 「命先生」  後ろから私が担任を務めているクラスの一瀬沙希が話かけてきた。 夏休みの間、バスケ部に一度も顔を出していなかったそう。 「一瀬さんどうしたの?」 「ちょっと相談したいことがあって」  話を聞けば部活で3年生を中心に嫌がらせを受けているらしい。  そういう子を減らしたいと思っていても、出来ることは本当に少ない、私にできる最善は、一瀬さんを死なせないこと。  今、私は何をするべき? 九月一日は一年で最も『子供の自殺』が多い日。  

銀と金 03

同じなんだろうなって思ってたけど、金村のこと ぜんぜん、ちがうじゃないか ちゃんと読んではない けど、たくさんの文字がそこにはあった たくさん書くことがあるんだなあ、金村には たくさん、忘れたくないことがあるんだなあ、金村には 僕には、そんなこと、ないよなあ 書くようなこと、忘れたくないなんてこと、ないよなあ いままで金村しか見てなかった だから、ちゃんと意識になかった でも、よく考えてみたら、思い出してみたら 金村のまわりにはいつもクラスのみんながいて 金村も、まわりのみんなも、いつも、楽しそうにしていた 何かを言って、何かを聞いて、いっしょにお弁当をたべて たくさん笑っていた 僕には、そんなこと、ないんだよなあ まいったな、まったくなあ、なんだろ でも、金村のこと、嫌いとは思えないな でもでも、裏切られたような気も、すこしあるかな 僕が勝手に思ってただけで、そうじゃなかったから裏切られたなんて 同じだって思ってたんだけど 同じだって思ってたのに それこそ勝手な言い草だけどさ 見てもいいよって言われて ホントに見ちゃうのはいけないのかあ 難しいなあ あああああ、見なければよかったなあ あああああ、声をかけなければよかったなあ それからというもの、いままで耳に入ってこなかったもの 目に入ってこなかったものが、急に入ってくるようになった 金村の近くにはいつも誰かしらがいて 金村も、そして、その誰かしらも、いつも笑顔で 聞きたくなくても金村の情報が どこにいても四方から耳に飛び込んでくる 金村はひとりっ子で、両親はどっちも働いてて 家に帰っても誰もいない からあげが好き、ハンバーグが好き、焼肉よりはやきとりがいい 煮魚は苦手だけどサバのみそ煮は好き 金村は、塾には行っていない それは僕もそうだ、このちいさい町から片道一時間半もかけて塾に通うのって そりゃあ、やっぱり、できないかあ 家庭教師にしても、こんなとこまで来てくれる人なんていないし そうだよなあ、僕と同じなんだなあ 僕と同じ年の、ふつうの女の子なんだなあ でも、やっぱり、ぜんぜん、ちがうなあ、金村は からあげも、ハンバーグも、やきとりも、サバのみそ煮も 金村は、全部、覚えていたいんだ 僕は、そんなことない、まったくない ぜんぜん、ちがうんだ、僕とは なるべく金村のこと、見ないようにした 耳をふさぐのは難しくても、目からの情報は そっちのほうを向かなければいいんだから 「最近、銀のやつ、金村のこと見てないな」 「あきらめたんじゃないか、さすがに」 「かもな」 ちがう、あきらめたんじゃない 金村は僕とは、ぜんぜん、ちがうけど 金村は僕とは、ぜんぜん、ちがうから 金村は僕とは、ぜんぜん、ちがっていたとしても せめて、金村に一番近い位置は、誰にも渡したくなかった 僕は「銀」というあだ名にふさわしく、学年二番をとり続けた

フリーバグ

「フリーハグいかがですか?」    コンビニに行った帰り道、一人の女性が立っていた。    フリーハグの存在は知っている。  なんか、ハグしてくれるらしい。   「いいですか?」 「もちろんです」    名前も知らない人との、数秒間だけのハグ。  少しの緊張と、少しの温かみを感じた。   「ありがとうございます」    ぼくはそのまま彼女と別れ、会社に戻った。  どことなく、心がぽかぽかと温かかった。             「先輩お帰りなさい! バグ、三件増えました!」 「フリイイイイイバグウウウウウウウ!!!!」    温かい心のまま、体のエンジンを全力でぶん回す。  俺たちの徹夜はこれからだ。

銀と金 02

お気に入りのアニメのマグカップを落として割ってしまったとか カバンに付けているキーホルダーがいつのまにかなくなっていたとか そんなことがあったわけではないけれど その日は朝からなんとなく嫌な予感があった それでも災いらしきものをかわしつつ、なんとかあとすこしで放課後 でも、最後の最後にやってきてしまった 担任の先生から、とくに理由もなく雑用を言い渡され やむなく残ることになってしまった ああああああああ、なんだよ、クソッ そのつまらない雑用から解放され 荷物を取りに教室に戻ってみると 人の気配があった 後ろの扉を開けて入ると人影が振り返った 金村だった 金村は、僕だと認めるとさっと前に向き直った 何か? してたのか? 金村を残し、さっさと荷物を手に教室から出てもよかったのだけど すこし金村のこと、気になった 何してたのかな まあ、それはいいにしても、誰もいないし、いい機会? なのかな 金村に話しかけてみるか、なんて、いくらか気持ちが動いた 緊張もあった、勇気もいった 勇気は、だいぶ必要だった なんとか声を出してみた、震えていたかもしれない 「何かあったの?」 言ったあと、いくらか後悔した ―関係ないでしょ 言われるんだろうなあ、と頭をよぎった 言われるんならまだいいかな、無視されるかな 無視は、やだな けど、僕の予想したものとはちがった 「ああ、うん、ちょっと、へへっ」 特別、意外というほどではなかった、内容としては 意外に思ったのは、金村のその言葉に 嫌悪やとげとげしいものがいっさい感じられなかった点だ それに、笑顔だし 嫌われてるわけじゃないのかな、どうなんだろう まだわかんないな、でも、すこしくらい期待してしまう 僕は手にしたカバンをいったん置き、金村に近づいてみた、すこしだけ 何かを書いていたみたいだ、やっぱり、勉強してたんだなあ 「残って勉強かあ、やっぱ一番の人はすごいね」 こんなこと言いたいんじゃないのに、思ったことがつい出てしまった 「ああ、これ、ちがうんだ」 「え、ちがうって」 「勉強じゃなくってね、日記、なのかな、みたいな、のかなあ、へへ」 「日記って」 「その日あった、んん、例えばね、あ、ねえ、立ったままだね」 座ればって、言えばいいのに それで、僕は席に座った 金村のとなりは、なんだか躊躇われ、だから、斜め後ろの席にした 僕が座るのを見届けてから、金村は話しはじめた 「お昼にリオとお弁当たべてたときにね、たまご焼き交換したんだけど、リオの家のたまご焼きってしょっぱい味付けだった、ウチのは甘いから、へえと思ってさあ、リオもねえ、ちょっとびっくりしてたよ、あと昨日はね」 楽しそうに話す金村を見ていると、こっちまで楽しくなってくる 不思議な子だなあ、と思い こういうとこになのか? なんてことを思い 話しかけてよかったなあ、と思った 「ねこはあ、黒い子と、灰色の子と、三毛の子がいたかなあ、あ、ねえ、知ってる? 三毛の子ってねえ、ほとんど女の子なんだって、わたし知らなかったんだあ」 金村は、僕が思っていたよりけっこう話した その姿は、でも、クラスの女の子たちとたいして変わりがないんだな 表情も、話す内容も そのことに僕はすこし、気をゆるめていたのかもしれない 「あとね、あとね」 「あ、あのさ、そういうことを書いてんの?」 「うん、そうだよ」 「なんで、書くの?」 「だって、忘れたくないから」 すこし、金村が、遠くに行った気がした 気のせい? かな? 「見る?」 「え」 「おもしろいことは書いてないけど」 「いや、え、でも」 こういうとき、どうすればいいんだろう 教科書にそんなこと、すこしも書かれてなかった 断ったほうがいいんだと、ココロは言っているように思うんだけど 「いいの、か」 「でも、すこしね」 これが正解かはわからない、でも 金村が差し出してくるノートを、僕は受け取った 僕がノートを開いてみると、金村が 「あっ、見たなあ」 と、言った すこしおどけた感じで、怒ったふうではなかった 「え、や、ごめん」 「ふふ、だって、ほんとに見るんだあって」 「ごめん」 何度か「ごめん」と言い、金村にノートを突き返し 机にぶつかりながらも自分の席のカバンをすばやく取り 僕は、急いで教室を出た 「あ、ねえ、ちょっと」 金村の声が僕の背中を追いかけてくるのにかまわず 僕は、走り続けた

Private Eyes

 コンビニの店内に防犯カメラが設置されている。店員がスイーツコーナーにシュークリームを運んでくる。すると防犯カメラはひとりでに動き、そのシュークリームをじっと見つめ始める。そして、シュークリームが売り切れるまで、ずっとシュークリームを見つめ続けている。シュークリームが売り切れると、防犯カメラははっとしたように再びひとりでに動き、店内全体を見守る位置に首を戻す。だからこのコンビニの店員たちは、シュークリームが売り切れるまでは、注意深く店内を見回っている。なぜそこまでするのか、店員たち自身にもよくわかっていない。たぶんそれは、ペットに対する愛に近いのかもしれない。

銀と金 01

いっくら勉強時間を増やしても二番にしかなれない そのことを揶揄するように、まわりは僕のことを 「銀」とあだ名するようになった はじめ、そのあだ名を不本意に思っていたけれど いつしかそれに沿う自分になっていき いまでは二番が僕の指定席なんだと 思うようになっていた 銀 こんな僕にはふさわしすぎる 僕の指定席が二番なら、一番の指定席は金村だ かといって金村のこと、僕は嫌いじゃない むしろ、いくらかの好意を持ってると言ってもいいんだろう 同じクラスの金村のこと、何かと目で追ってしまう 僕の席からだと左斜め前の方向にある長い髪 その長い髪を後ろで束ねている金村を、授業中も気にしてしまう ときどき、その姿がさえぎられる そうしようとの意思がそこにあるのかないのか ともかくクラスメイトたちが金村の姿をさえぎってくる 無粋な行為に、おもしろみのみじんもない光景に しかたなく、黒板に視線を向けるしかなくなる 「銀のやつ、また金村のこと見てたな」 僕が金村のことを見ているその行為を、まわりは 僕が金村のこと憎いからだって噂してる そう思うのもしかたないことかもしれない それくらい無意識にってことか、まったく そうやってまわりが考えているのとはちがう理由で 僕の金村への思いは、日増しに強くなっていく まわりのクラスメイトに情報を聞いてみたいけど、聞いてみたところで ―やっぱりライバルのことは気になりますかあ とかなんとか茶化されるに決まってる それに、金村にしたって、僕のこと あんまりよく思ってないんだろう、きっと

不眠

生まれてこのかた良い眠り方を知らない。 上手い眠り方を知らないのだ。 2時間前に風呂に入りスマホを避けたりなどを試してみたが、 どうにも上手くいかない。 眠れないのだ。日が昇る。新聞配達の足音がする。どうやらまた夜が明けてしまったようだ。 朝の支度をする。窓を開け、珈琲を飲むために湯を沸かす。今日も一日が始まる

三次元の足跡2

個人アルバイトに励む私はあの手この手を使い 太客getに奔走するけど今一上りが出ず常連と 掛け持ちする事を決め土日は街中でバイトして 通常の仕事もする大忙しな日々の中タクシーに 乗車中誘われバイトする事と為る頃日本に携帯 電話登場して当時電子音の文字だけのシンプル 携帯が普及テレクラからQ2に完全シフトしたら バイトがし易く為りメールから始まる出会いが 流行ヤバい暴力客や薬中色々な方々と知り合う 内に人間観察や顔見れば大体どんな奴か瞬間に 分かる様に為り少しづつ怖いと言う感覚が薄れ 仕舞いにはメールの文面内容で大体どんな奴か 理解すると殆ど予想通りの人物だったその時に 直感が働く様に為ったかも知れないけどその分 危険な事犯罪ギリギリで気付けた事多種多様で 有る切っ掛け迄奔走するので有った漸く世間の 流れが理解出来つつ有る愚か者でした

wish(はなのなまえ)

《Gt.山茶花》 深夜二時過ぎ 暗い部屋でアニメを見ている山茶花は六本目のビールを開ける 昼間の河川の工事で疲れているはずだが、寝れない。 先に寝た妻に悪いと、明かりをつけずにドラゴンボールを初回から観ていた。 山茶花の目はドラゴンボールに釘付けだが、頭で囁く声に苦しんでいた。 悪臭と筋肉疲労の一日のが終わって家に帰る車の中で、素晴らしい夕焼けに感動しながら、「今自分は何をしているのか」と不安が襲った。 それはそよ風のようであったし、静電気のようでもあった。どちらにせよ、何でもない一瞬の【感触】だったのだが、それからずっと不安が取れない。 自分は健康な肉体があり、仕事もある、妻もいる。妻とはなんだかんだで仲は良いと思う。何の問題のない幸せな人生だ。ただ…夢が、未だ憧れのままではある。 中学生の頃からバンドで飯を食うと決めていた。現実はそう、うまくは行かなかったが、そんな人はいくらでもいる。夢をかなえた人のほうが珍しいのだろう。 夢。 夢とはなんだよ 理想的な未来が現実にならないから不幸なのか? 不幸ってなんだよ 俺は幸せだ 今だってこうやって、稼いだ金でドラゴンボールを見ながらビールを飲んでる … ただ…俺は努力したんだ。今もしている。ずっと世界を目指してギターテクニックを磨いている。知識だって負ける気はしない。 だけど届かない。夢に。 今のバンドは結構良いと思っている、皆、それぞれ仕事をしてる社会人バンドだけど、かなり良いメンバーが揃っている。 ただ、時間と、もっともっとやる気があれば、物凄いバンドになるはずなんだ。 はなのなまえ。変なバンド名だけど、誰も観たことのない花を咲かせてやるって、そういう意味だって、俺は思っている。俺たちなら出来る。 俺は最強なんだ。俺たちは最強なるんだ。 深夜三時、イビキをかいている山茶花に毛布をかけて空き缶を片付けている。 テレビ画面では、ドラゴンボール探しの冒険に出た後、悟空が砂漠でヤムチャと対峙しているところだ。 窓の外は黒い雲が空を覆っている。遠くで雷鳴がする。 【wish】 On this endless road, there’s a dream I simply must make come true! 分かっていることなど何一つない 本当のことなどどうでもいいんだ ビリビリと俺の心がしびれている それ以外に確かなことなんてあるわけないだろ Wish! Wish! Wish for it! With all your might Stronger than anyone else Faster than anyone else Flying higher than anyone else よそ見をしていたら溺れていく 弾丸を撃ち込まれても前を見続けるのさ 夢を見失ってまで 生きていたってしょうがないだろ Wish! Wish! Wish for it! With all your might

酒を浴びる女性たち

夜のネオン街 私は一人街中を歩く🚶🚶‍♀️🚶‍♂️ ふと一軒明かりが眩しい店がある その店の名前は酒と女と客 私はその明かりに吸い込まれる感じで入店 一人の女性が挨拶をする「いらっしゃいませ🤗」 私は恐る恐る店の中に入って席に座る 彼女の名前はラムと言う🥃 席に座って数秒後もう二人きた 右側の女性はシェリー🥃で左側の女性はベルモット🥃と言う シェリーはこう聞いた「何か飲みますか?🥃」 私はとりあえずお酒がわからないので適当に「おすすめで」と言った 三人はにこやかになって「おすすめ入りました♪♪」と言った なにが来るのかわからないそんな恐怖を募らせながら待っていると三人の名前のお酒がきた ベルモットがこう言った「お兄さんここでおすすめ頼むなんて相当お酒が強いんですね〜」 私はやってしまったと心で思いながらも彼女たちにかっこいい姿を見せたいと思い一気に三杯飲み切った 私は上機嫌になりながら彼女たちにこう言った 「君たちも好きなものを飲みなさい」 彼女たちには喜びながら彼女たちにの名前のお酒を浴びるように飲んだ 時間が過ぎて帰ろうとしたら急に彼女たちは奥の部屋に行った 私はなんでだろうと思いながら会計に行くと一人のおじさんがいた 「すいませんお会計いいですか?」 「ありがとうございますお会計は寿命10年ですね」 私は聞き間違いだと思いもう一度聞いても同じことを言う 怖くなって逃げようとしたら急に胸が痛くなって おじさんが「寿命10年いただきました。ありがとうございます」と言った 急いで店を出て後ろを振り返るとそこにはもう店がなかった 夢でも見たのかと思い私は恐る恐る家に帰った...

八つ橋食い過ぎて夜ウンウン言う

 また食べすぎた。 今度は焼き八つ橋だ。 頭ん中お猿さん。 満腹中枢が壊れる前に摂生しないと。 自己分析するとウンウン言って苦しむのが好きでやってるのかもしれない。 マゾだ。 いや、馬鹿だ。 マゾで馬鹿だ。 カラオケにいた痘痕のある女の子はタフそうだ。 意外と自己管理が出来ているのかもしれない。 小人症の男の人は自信がありそうだ。 自分が好きなのが羨ましい。 僕も自愛しないと。 珈琲を飲んで寝るという矛盾。 石油を飲んでいたブルース・リーにはなれない。 超人というのはどういう過程を通ったらなれるのだろう? キン肉マンは弱い。 僕は悪魔超人なのに弱い。 あるいはジェロニモかもしれない。 人間なのに悪魔超人を倒した奴。 テロリストの道を脱し超人ルートへ。 植物人間になって夢を見る夢を見る。 夢の集積回路。 アカシックレコード。 何かしら影響を与えている。 実験は続くが成果はいまいちだ。 なにもしない実験。 周りが勝手に動く。 意志が融和していく。 弱い生き物の会話兵器。 実はそれは強いのかもしれない。

tennosisyanosimeitowa

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カメレオン

中環沿いの道を歩いていると、巨大な支柱が何本か連なって聳え立っているのが見えた。聞けば近年に、モノレールが開通するらしい。僕は爬虫類が好きってわけでもないし、電車に興味があるわけでもない。ただ、その支柱の造形が、どことなくカメレオンの手に見えるのは、僕だけだろうか。

BBQ

BBQをした。 都内の公園で。 テキパキと動くみんなを見て自分は何も出来ないんだと自覚する。 状況を認識するだけで精一杯。 症状かしら? 元々頭が悪いのは分かっていたが。 火の起こし方すら分からない。 何も出来ないなら何も出来ないなりにニコニコしたり場を盛り上げたりもしない。 症状かしら? 帰り際ゴミを持って帰った。 違う風景を見て思う。 まだ必要とされているのかしら? 家に帰ってタバコを吸う。 まだタバコを認識できている。 今日はそれでいいのかもしれない。

花と散る、その前に

 ただ一瞬、風が吹いた。  その暖かな空気に流されるまま、君の髪は遠く靡く。  良い頼り、とは誰が言ったか。  花はいつか枯れて落ちてしまっても、花言葉は永遠に残り続ける。 「綺麗だね」  と君は言った。  色とりどりに咲き乱れるそのさなか、その色に溺れるように君は、目を閉じた。

履歴

であい【出会い】 ① 思いがけず人と会うこと。また、その機会。 ― 用例:旅先での出会いが、その後の人生を変えた。 ② 人や物事とのめぐりあわせ。縁。 ― 用例:本との出会いが、彼の価値観を大きく広げた。 ③ 男女が知り合い、関係が始まること。 ― 用例:二人の出会いは、大学の講義室だった。 うんめい【運命】 ① 人の意志を超えて、身の上にめぐり来る吉凶禍福。また、そのなりゆき。 ― 用例:彼は自らの運命を受け入れるしかなかった。 ② 将来があらかじめ定まっているかのように感じられること。 ― 用例:二人の再会は運命のように思えた。 ③ 人生のめぐりあわせや宿命。 ― 用例:小さな選択が、その後の運命を大きく左右した。 みつげつ【蜜月】 ① 新婚まもない夫婦が、特に親密で幸福な期間。ハネムーン。 ― 用例:二人は海外で蜜月を過ごした。 ② 人や組織の関係が、きわめて親密で良好な状態にあること。 ― 用例:両国は長らく蜜月関係にあった。 ③ 一時的に調和が保たれ、対立や緊張が見られない時期。 ― 用例:新体制発足後しばらくは、社内も蜜月の雰囲気だった。 しあわせ【幸せ】 ① 心が満ち足りていて、不満や不安のないこと。また、そのさま。 ― 用例:家族と過ごす時間に、ささやかな幸せを感じる。 ② めぐりあわせがよく、望ましい状態にあること。 ― 用例:彼は幸せにも事故を免れた。 ③ よい結果や喜ばしい出来事に恵まれていること。 ― 用例:努力が実り、幸せな結末を迎えた。 へいおん【平穏】 ① 争いや騒ぎがなく、静かでおだやかなこと。 ― 用例:事件もなく、平穏な日々が続いている。 ② 心が落ち着いていて、不安や動揺のない状態。 ― 用例:彼はようやく平穏な心を取り戻した。 ③ 社会や世の中が安定し、乱れのないさま。 ― 用例:平穏な暮らしを守るための努力が求められる。 えいえん【永遠】 ① 時間の限りなく続くこと。終わりがないこと。 ― 用例:その記憶は彼の中で永遠に生き続ける。 ② 変わることなく、いつまでも同じ状態が続くこと。 ― 用例:二人の絆は永遠だと信じていた。 ③ 哲学的に、時間を超えて存在し続けるもの。 ― 用例:美は永遠であると語られることがある。 げんそう【幻想】 ① 実際には存在しないものを、あるかのように思い描くこと。また、その像。 ― 用例:彼は理想の世界という幻想にとらわれていた。 ② 現実とは異なる、あいまいで非現実的なイメージ。 ― 用例:霧の中に浮かぶ街が幻想のように見えた。 ③ 根拠のない思い込みや、現実離れした考え。 ― 用例:それは成功への近道だというのは幻想にすぎない。 いわかん【違和感】 ① 何かがしっくりこない、不自然だと感じること。 ― 用例:その説明には、どこか違和感が残った。 ② 周囲の状況や雰囲気と調和せず、異質に感じられること。 ― 用例:新しい環境に、最初は強い違和感を覚えた。 ③ 身体や感覚において、通常とは異なる不快な感じ。 ― 用例:目の奥に軽い違和感を感じる。 ふあん【不安】 ① 心が落ち着かず、将来や状況に対して心配や恐れを感じること。 ― 用例:結果が分からず、不安な気持ちで待っている。 ② 危険や困難が起こるのではないかと気がかりに思うこと。 ― 用例:天候の悪化が不安材料となっている。 ③ 安定を欠き、確かでない状態。 ― 用例:経済の先行きに不安が広がっている。 けっていてき【決定的】 ① 物事の成否や結果を最終的に決めるさま。 ― 用例:その一言が、関係を終わらせる決定的な要因となった。 ② 疑いや余地がなく、はっきりしているさま。 ― 用例:彼の証言は、犯行を裏づける決定的な証拠だった。 ③ 状況を一変させるほど重大であるさま。 ― 用例:試合の流れを変えた決定的な一打だった。 そうしつ【喪失】 ① 失ってなくすこと。大切なものや人を失うこと。 ― 用例:彼は大きな喪失を経験した。 ② ある状態や機能などが失われること。 ― 用例:記憶の喪失が見られる。 ③ 心の支えや意味を失うことによる空虚な状態。 ― 用例:夢を失った彼は、深い喪失感に沈んだ。

AInosinka

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バスが来るまでのラブストーリー〜出会い〜

ハンカチを忘れた私は濡れた手をポケットに入れウロウロと店内を彷徨う。 道の駅の中は、地元で採れた野菜や地酒、民芸品やお菓子など、かなり広い敷地に沢山の商品が並んでいる。今までこういう所には来たことをなかったが、なかなか楽しいものである。平日の午前中であるにも関わらず、店内はかなりの人が入っているな。と思ったが、殆どは私と同じシニア向け婚活花見バスツアー客だと気付いた。 ハンカチはレジの側に置いてある回転式のラックに売っていた。残り一つだ。 値段は一つ千円。痛い出費だが致し方ない。この後もトイレに行くだろうし、思い切って買うしかない。薄桃色の桜柄のハンカチを手に取ると、同時にハンカチを取る手に当たった。隣を見ると品の良さそうな婦人が立っている。 「す、すみません」 「こちらこそ、すみません」 お互いが手を引っ込めて様子をうかがう。 「あっどうぞ」 私は婦人にハンカチを譲る 「良いんですか?ハンカチ」 「いや、素敵なハンカチだなと思って思わず手がでただけですから」 適当に誤魔化してしまったが本当はこのハンカチが必要なのだ。 「私もそうなんです。桜のハンカチ、素敵ですよね。失礼しました」 そう笑顔で言って、品の良い婦人はどこかへ行ってしまった。 私も会釈してハンカチから遠ざかる。どうしよう、ハンカチは必要なのだが今直ぐに買うのは気まずい気がする。 「休憩は終わりでーす!バスツアーの方はバスにお戻りください!」 若いボンヤリ顔の男性バスガイドさんが道の駅の入り口で大声で呼ぶ。他の客もいるのに、あんなに大声を出していいものなのだろうか。いや、もしかしたら、彼は見た目によらず、責任感が強いのかもしれない。 結局ハンカチを買えず、バスに戻った。 ボンヤリ顔の責任感の強いバスガイドさんは一人一人点呼を行っていく。 「はい、皆さんお揃いのようですね。では後三十分程で着きますので、この時間を使って皆さんのご紹介をさせて頂きます」 バスの中に変な緊張感が走り、皆が照れ笑いをしている。 「先ずは、僕の紹介をさせて頂きます。改めまして松山晴人と申します。今日は桜に負けないくらいに皆様の恋の花を咲かせたらと思っておりますので、宜しくお願いします!」 松山ガイドにまばらな拍手がおきる その後は、ツアー参加者が事前に書いたプロフィールを紹介している。主に名前と趣味を発表して、本人には手を挙げさせているだけのようだ。 私はプロフィールを書いた覚えはないので、きっと息子の洋一が書いているはずだ。はて、私の趣味はなんと書いたのだろうか。 「お次は、長瀬峰夫さんです」 私は軽く手を上げて応える 「ご趣味は…『趣味は無いので一緒に探せていけたらな、と思います』とのことですね。長瀬さんと一緒に趣味を探してみたい人、是非誘ってみて下さい!ではお次の人…」 峰夫にも、まばらな拍手がおきる。 洋一のヤツ、適当な事を言いおって。とりあえず、自分の番が終わったのでホッとした。 「お次は桜井美幸さん」 松山ガイドに紹介されたのは、最前列に座る女性で、律儀に立ち上がりお辞儀をする。さっき同じハンカチを取った人だ 。桜井美幸さん。 「えーご趣味は『お喋りをすること』とのことなので、皆さんこぞってお話しのお相手になってください。今回のツアー参加者の中で一番綺麗ですね。あくまでも個人の感想ですけど」 確かに綺麗な人だ。さっきは慌てていたから気が付かなかったが、ツアー参加者だったのか。桜井美幸さん。 「それではそろそろ着きますので、皆様降りる支度の方をよろしくお願いします。降りたら13:00までフリータイムですので、公園内をお好きに散策してください。13:00になりましたら公園入り口にあるレストランで昼食になります。皆さん、しおりを忘れずにお持ちなってください」 バスが国立公園の広い駐車場にゆっくり停車する。 無性に胸が高鳴っている。

対等ごっこ

 VRの世界に入れば、自分は別の存在になれる。  男の子にもなれるし、女の子にもなれる。  大人にもなれるし、子供にもなれる。   「では、授業を始めます」 「はーい!」    決められた時間に授業を受けて、体育でサッカーなんてして。  帰り道は友達と買い食いをして、家では両親に迎えられて宿題に勤しむ。  楽しい一日だ。    先生も、友達も、両親も、本当の名前も性別も年齢も知らない。  それでよかった。  大事なのは中身だ。    今、目に見える世界が正しければ、それで良かった。       「実は、子供が生まれて」 「実は、志望校に合格して」 「実は、世界一周に行くことになって」        しかし、かりそめの世界さえ、いつまでも不変ではいられなかった。  何人かの友達が転校と言う形で消えて、両親の片方がイメチェンという形で別物になった。    仲の良かった友達の何人かは、いなくなる現実の理由を教えてきた。  聞きたくなかった。    久々に一日、VRのない世界を過ごした。  窓から見える景色は変わり映えなんてせず、よほどこっちの方がVRの中に見えた。  顔を洗うために洗面所へ行き、久々に自分の顔を見た。   「……うわ、シミ」    一回り老けた自分が、鏡の中で笑っていた。  どうせこっちに戻るんだぞと、鏡の中で笑っていた。

目の前の事を大切に

四月になりに、新しい生活環境で過ごす人達が多くなる時節 今思うと、環境が変わる出来事は子供の頃の方が頻繁に起こっていた気がする。 入卒、クラス替え、班替え、それに伴い友達も変わり、恋人も変わって行く。 そして最大の転機は、社会に出る事。 世界がひっくり返るくらいの変化が自分の中で起こる。 今まで当たり前だった生活が、一から更新され、自分の行動に責任が付いてくる。 例えば入社。会社に入るとは、知らない大人たちが何十年も働いている所で毎日働くということだ。とてもじゃないがいける気がしない。多分、若い自分はそう思っていた。 なんとか入社し、仕事をする。毎日、テレビを見たり、ご飯を食べたり、髪にワックスを付けてただけの若造が、入社を境に全て切り替えていくことなど出来ない。ただがむしゃらに、働いて、先輩について行って、すぐ辞めて、また働いての繰り返し。若い人にとっては社会に出る前に、静観出来る技を持っている人、つまり、いろんな事を自分で経験した人出ないと、社会は辛い。二十年間貯めた夏休みの宿題を、一気にこなしている感じになるだろう。 四十代にもなると少し落ち着く、結婚や、己の限界、夢の諦めなどを経て、この世界を静観出来てくる。宿題が終わりかけてくる。 生活の変化も少なく、あっても既に経験したもので、対処が分かっている分、楽なのだ。 必ずしも皆が皆そうとは限らないが。 とにかく、今、不安と緊張がこびり付いている若い方達。心の奥で応援している見知らぬ大人は結構いたりする。 目の前の事を大切に。それが良いのかなと思ったりする。

だいじょうぶかなあ

入学式のあと教室に入って 自分の席がちゃんとあることに安心して なかよさそうにおしゃべりしてる子たちは 同じ中学から来たのかと思ってたけど どうやらそういうわけでも… すごいなあ、もう友だちできたのかあ 高校で最初の担任の先生は やけにはりきっていて わたしとしては、ちょっと… きちんとわたしのこと、理解してくれるかな でも、そんな先生、これまで出会ったことないし あんまり期待しないでおこう 新しい教科書は、においも 指を切りそうになる硬さも もちろん中身だって おろし立てのワイシャツは まだ、首のまわりで落ち着いてくれない だいじょうぶかなあ、と思い だいじょうぶなんだろうなあ、と思う

熱量

 友達100人できるかなはほんとうに悪質な呪いだと思う。というより友達という存在が多ければ多いほどいいと思っていた若い時と違って、友達との向き合い方が変わってきたからだ。  友達と遊ぶのはもちろん楽しいけれど、それでも自分以外のことに時間を使うということでもあって、それが続くと疲弊するのだと知ったのは大分大人になってからだった。  たいして興味のない友達の推し活に付き合い興味のないものを食べ、興味のないグッズをもらう。もちろん興味がないので友達の目当てが出たら交換する。ちなみに私は推し活とやらも一人でガンガン行くタイプなので付き合ってもらったことはほとんどない。というより私はそこまで推し活に熱量があるタイプではない。 「ってなるとやっぱり一人がいいんですよねぇ〜」 「今の若い女の子ってそんな感じなの?俺にはわかんないけど」 「言うほど若くないですよ私、ミドサーだし」 「葉月さん、三十半ばでしょ?俺からしたら若いけどねぇ」  延々と私がぼやいていた一人がいい理由にそう答えてくたのは雇用主の霜月さん。私は何だかんだご縁があってバイトをしている霜月探偵事務所の社長だ。ちゃらんぽらんだが話をよく聞いてくれるちょっと面白い人なので私はこのバイトが気に入っている。勤務地も近いし。 「ダルいなら断ればよくない?」 「そうもいかないときがあるんですよ〜ついてきてほしそうなオーラ出されると、つい行く?とか自分から言っちゃうこともあって」 「それは自分が悪くねぇか」 「まぁ今回はその地域に行きたい観光地があったから自分から言ったのもあるんですけど、他の地域での推し活もついてきてほしそうなオーラを感じた時にふと冷静になっちゃって」 「あー、なるほどね」  結婚も出産もしていない女の友達で、ある程度遠くに出かけたり、ちょっと高めのコラボカフェだのに行ける同年代の友達となるとどうしても限られてくる。だからたぶん友人は私についてきて欲しいと暗に匂わせてくるのかもしれない。  そもそも私は好きな作品の映画だろうと一回行けば充分だし、使い道のないペラいコースターなんてものも要らない。  缶バッジとか、もはやなんのために買うのかさっぱりわかんないし、アクスタもよくわかんない。価値を感じる人のことを否定はしないが、自分はそれに価値を感じないってだけだ。  かたやよく付き合っている友達は上限までグッズを買い、なんなら何も買わない私の分の上限まで買う。  いらないので全然構わないのだがジャンルが違えど推し活とやらの私と友人の熱量の差に驚くことがある。 「でもさぁ、それって意外と葉月さんの勘違いかもよ?」 「え?」 「着いてきて欲しいと思ってるっていうか、自分は友達に一緒に行って欲しいと思われるような存在だって思いたいとこない?」 「……ちょっとだけ」 「仲いい友達ならそういう風に考えることもあるかもしれないけどさ、意外と葉月さんがいなきゃいないで他の友達と仲良くやってるって」 「そうですかねぇ」 「うん、そうだよー多分ね。知らないけど」  ちょっと図星をつかれた気がして少々気まづくなってしまった。確かに付き合いが長いからその子にとって私は特別なんだろうなみたいな思い込みはあったから。  それでも友達はいつも推し活するなら私優先っぽいことを言っていたし、他の子と仲良くなってるなんてまた適当なこと言ってんな。  そう思った数日後、うっかり見つけた友達の推し活アカウントでは同じ趣味の友達と仲良くやっている様子がたくさん挙げられていた。  なんだ、私が気が乗らないならちゃんと断ってよかったんじゃん。私の一人相撲だったんだ。  っていうかやっぱり霜月さんは何者なの?そう思ってしまった。

逆光、泡沫、きらめき

とても、綺麗だった。 影が覆いかぶさって真っ暗な中、光る彼の涙は綺麗だった。いや、光ってなどいなかった。俺がそう見えてしまっただけで。仄暗く、陰鬱な涙だと思う。 十歩ほど離れた距離からそれを眺めていた。 これが、今この瞬間にしか存在しないことが許せなくて、スマホを手に取り、彼に向ける。彼は気付かない。 カシャ、 そんな間抜けな音で、ハッと顔を上げ、俺をきつく睨んだ。 「何撮ってんだ」という文句を躱しながら、なんとか距離を保つ。まだ彼の瞼はきらめいていて、また胸をくすぐった。 写真に写る彼は、光に縁取られ、その中をバケツツールで真っ黒にしたようなもので、俺の生涯手元に置いておきたかったそれは、儚くも形のないぼんやりとした思い出になってしまった。

頁のあいだ

なにもかも上手くいかない。 そんなとき、ふと本棚が目に入った。 学生時代、貪るように本を読んでいたはずなのに、いまではただのインテリアになっている。 並んだ背表紙をなぞる。 その途中で、手が止まった。 学生時代の彼女にもらった本だった。 手に取る。 ページを繰る。 そのあいだから、なにかがふわりと落ちた。 拾い上げる。 茶色くくすみ、しおれた、たんぽぽ。 ——そうか。 うまくいかないのは、今に始まったことじゃない。

処刑

「君は、大切な人は居るかね」 密室に、淡々と響く声があった。 「あぁ、もういいだろ、さっさとしろ」 密室に、心底呆れた声があった。 「まぁ、そう焦るな」 拘束された大柄の男と、白髪混じりの髪を携えた、ロングコートの男。その内、白髪の男が懐に手を伸ばすと箱を取り出す。中から一本の棒を抜き取り、咥えた。 「死を、恐れているかね」 白い筋が、二人の間を真っ直ぐと上っている。 「いいや」 大柄な男は、いい加減にしろと言わんばかりの表情をしている。 「では、次だ」 部屋の中に、薄白のフィルターがかかり始めていた。 ─「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」「次だ」─ 立ち上る煙は、依然真っ直ぐと上っている。 「では、次だ」 「君は、大切な人は居るかね」 密室に、淡々と響く声があった。 「あぁ、もういいだろ、さっさとしろ」 密室に、心底呆れた声があった。 「まぁ、そう焦るな」 立ち上る煙が、はたと揺らいだ。 「まずは、これを見たまえ」 壁面の内一つが軽快な音駆動音を立てると、その中央部がひとつのモニターへと変化した。 「なんだ」 黒色の画面が光を発し、それは複雑な色をを絶え間無く操り続けていく。 「君は、この人を知っている。そうだな」 灰の塊が、崩れて落ちた。 −まさか…。 「では、執行を開始する」 淡々と、画面は変化を開始した。 「おい、やめろ」 「やめろやめろやめろやめろやめろ」 灰皿に、また一本が潰された。 「あ、あぁ…」 煙はもう、上っていない。 「刑は執行された」