九月一日は

親友であり幼馴染の華織が死んだ自殺だった。  原因は部活内での虐め。 九月一日二時丁度に飛び降りる華織を監視カメラが捉えていたそう。  華織の部屋に遺書が置いてあったらしい、その内の一つが私宛の手紙だった。 「命へ  何にも言えなくてごめん。  命のことだから何か出来ることがあったはずって、自分を責めるかもしれない。  でもそんなこと絶対にない。  命は何にも悪くない、命と話す時間は楽しかった。  命、今までありがとう、私の親友で幼馴染で、側にいてくれて、命といたこの十数年楽しくて、幸せだった。私の心の拠り所で本当にありがとう。  約束『おばあちゃんになっても一緒にいる』守れなくてごめん、命、大好きだよ、ありがとう。」  これを読んで華織が死んで初めて泣いた。  心のどこかで華織が死んだことを受け入れなかったのかもしれない。  それからバレーボール選手という夢を捨て、教師になった。  周りからは反対された。キャプテンになる予定もあるのに勿体無いと。  それでも教師になりたかった。  今年初めて担任を持つ、緊張しながらもドアを開け、教卓に立ち自己紹介をした。 「初めてまして1年4組の担任になった朝野命です。  趣味はバレー、女バレの顧問もしているので是非入部お願いします。嫌いなことは虐めです高校2年生の時、親友が自殺しました。」  「私は親友みたいに死んでしまう子を、私みたいに置いてかれてしまう子を、減らしたくて教師になりました。」  「どんなに些細なことでも良いです。  少しでも苦しい、辛い、そう思ったら周りの人達を頼ってください。  友達でも教師でも親でも誰かに相談して溜め込まないでください。  私はこのクラスが助け合えるクラスになって欲しいです。  長くなってしまいましたが私の自己紹介を終わります」  もうすぐ夏休みが終わり、二学期が始まる。 「命先生」  後ろから私が担任を務めているクラスの一瀬沙希が話かけてきた。 夏休みの間、バスケ部に一度も顔を出していなかったそう。 「一瀬さんどうしたの?」 「ちょっと相談したいことがあって」  話を聞けば部活で3年生を中心に嫌がらせを受けているらしい。  そういう子を減らしたいと思っていても、出来ることは本当に少ない、私にできる最善は、一瀬さんを死なせないこと。  今、私は何をするべき? 九月一日は一年で最も『子供の自殺』が多い日。  

sound55 しくしく

──しくしく、しくり。 飲み干したペットボトルを片付けようとして、はたと気付く。透ける筒の中で、雨が降っている。控えめに泣く様がより憐憫を誘い、気付けば雪までちらつき始めた。鉛白の雪と混じり合い、銀竹の煌めきで遠慮がちに舞う雨粒達。 宛ら簡易なスノードームのような光景に、剥がしたラベルだけを静かに捨てた。

タイムトラベル

「博士、本当に行くのですね。」 「ああ、先に行ってくるよ。」 「では、また100年後の未来で会うのを楽しみにしていますよ。」 そう言うと助手のワトソンはボタンを力強く押した。 宇宙船は大気圏を抜け、予想よりわずかに出力を高く保ったままついに宇宙へ飛び出す。 たった3年の旅だ、それを地球時間に換算すると100年が経過していることになる。 人間の寿命では通常体験できない未来を私は見ることができるのだ。 いずれ帰る未来の地球を想像し、ともに宇宙旅行をしているワトソンと酌み交わす酒を楽しみに私はつらく長い旅をひとり耐え抜いた。 懐かしの青い星をとらえると宇宙船はプログラムに従って3年、否100年前の約束の場所へ向かった。 無事に着地すると何やらスーツを着た男が宇宙船のもとにやってくる。 「お帰りなさいませ、こちらW株式会社のものです。データ照合をいたしますので少々お待ちを。」 「はあ、これはどういうことだ。おい君、ワトソンという男を見なかったかね。私の助手なんだが。」 「何冗談をおしゃいますか。ワトソン氏はわが社の創設者ですよ。」 そう言って笑った男の顔が突如として冷酷なものに豹変した。 「不法滞在者だ、連れていけ。」 スーツの男が虚構に向かってそうつぶやくとどこからともなく屈強な男たちが現れ、私の体を乱暴に宇宙船からひっぺがした。 「おい!いったい何をするつもりだ。」 「滞在費は宇宙での労働でもって支払ってもらいます。それでは、よい旅を。」 スーツ男の感情のこもらない笑顔はちょうど3年前、宇宙船の窓越しに見たワトソンのそれとよく似ていた。

sound54 かちりかちり

白群の空が視界を隅々まで染め上げる、午前7時23分。開けた窓から流れ込む新鮮な空気が、肺を撫で付けては去って行く。宛ら今日を始めようとする身体を褒めるように。窓辺に降り立つ清涼な陽光が、寝ぼけ眼の床に挨拶をして回っている。酷く爽やかで眩しい光景を横目に、呑気に欠伸を一つ漏らすのは穏やか過ぎる神経。 何処までもお手本のように澄み渡る、朝。余りの清々しさに、反射的に手にしたのは二粒のピアス。 ──かちり、かちり。 左右の耳許を飾ったのは、上品に存在を主張する花紺青。夜雨​のように濡れた煌めきを放つ彼等に、透明過ぎて詰まりかけていた呼吸が、はふり、正常さを取り戻していく。 星々のクワイアと月のコンダクターを引き連れ、今にも夜の帳を下ろしてしまいそう。そんな錯覚で包み込んでくれる、雨粒に似たピアスを携えて今日も一歩を踏み出した。

言葉にできない

 目が覚めたとき、隣にあるはずのぬくもりはなかった。  喧嘩の翌朝。  昨夜のことを思い返す。きっかけは些細なことだった。夕飯の話が、将来の話になり、将来の話がいつの間にか言い争いになっていた。  桜子が「あなたは何も考えてない」と言ったとき、俺は「そんなことない」と言い返したが、具体的に何かを言えたわけじゃない。  気づいたら彼女はバッグに荷物を詰めていて、俺は黙って見ていた。玄関のドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。  数日で戻ってくるだろう、と思っていた。五年も一緒にいるんだから、お互いそれくらいはわかってる。  そう自分に言い聞かせて、普通に仕事へ行き、普通に飯を食い、普通に眠った。 ──けれど二日経ち、三日が経った。  LINEは既読にならない。電話は出ない。  四日目、さすがに心配になって友人に連絡する。 《桜子と連絡取れてる?》  既読がついてすぐ、通話がかかってきた。 「二日、うちにいたよ。一昨日出てった。色々考えたいって」 「どこ行くか、聞いてないか」 「聞いたけど、教えてくれなかった」  そうか、とだけ答えた。 「あの子、先が見えないのが一番しんどかったって。  優しいのも、大事にされてるのもわかってる。でも、何も変わらないって」  反論は浮かばなかった。思い当たることが、いくつもあった。 「あなたはどう思ってるの、桜子のこと」  言葉が出なかった。  大事だとか、必要だとか、そういう言葉は頭に浮かぶのに、口にすればたちまち薄くなる気がした。 「……うまく言えない」 「そういうとこじゃない?」  友人の声は強くなかった。ただ、逃げ場をなくすようだった。  電話を切ったあとも、その言葉が残った。  五日目、意を決して桜子の実家に電話をする。出たのは父親だった。 「君ね、娘をどういうふうに思ってるんだ」  低い声で、静かに怒っていた。怒鳴られるよりも、こちらのほうがこたえた。 「本当に結婚するつもりがあるのか。もう五年だぞ」  返す言葉がなかった。  ないわけじゃない。桜子のことを大事に思っている、結婚も考えている、ちゃんと向き合いたい。そういう言葉はいくつも浮かんだ。  でも喉のところで詰まって、うまく出てこない。どう言っても言い訳のように感じてしまう。 「……すみません」  それだけ言って、電話を切った。  その直後、桜子の母親からLINEが届いた。 《少し頭を冷やしてるって。無事だから心配しないで》  スクリーンショットが一枚添付されていた。  桜子のアカウントから送られたらしい短い文と、写真。曇り空の下、砂浜が続いている。消波ブロックが並んでいて、その向こうに灰色の海。  見た瞬間、どこかわかった。  一緒に暮らし始める前の秋、初めて二人で遠出した海岸だ。  電車を乗り継いで二時間以上かけて行った、こぢんまりとした浜辺。観光地でも何でもなく、地元の人間が散歩するような場所で、なぜそこにしたのかは覚えていないけれど、桜子が「また来たい」と言っていたのは覚えている。  俺は「いつでも来ようよ」と答えた。それきり、行かなかった。  気づいたら上着を摑んで、部屋を出ていた。  電車の中で、窓の外を眺めながら、いろんなことを思い出した。  つきあいたての頃、待ち合わせに遅れた桜子が駆け込んできて、「ごめん、走ってきた」と言いながら笑っていたこと。  俺が熱を出したとき、仕事帰りに来てくれて、何も言わずに看病してくれたこと。  誕生日に渡したプレゼントが気に入らなかったのか微妙な顔をしたくせに、半年後にはちゃんと使っていたこと。  どれも大したことのない話だ。語るほどのエピソードでもない。  でも、それが全部、桜子だった。  俺の日常のあちこちに、ごく自然に、彼女がいた。それがいつの間にか当たり前になって、当たり前のものは見えなくなる。 「何も考えてない」と言われたとき、俺は反射的に否定した。  でも桜子が恐れていたのは、たぶん、俺にとって自分が空気みたいになってしまうことだったんじゃないか。  海沿いの道を歩きながら、波の音が近づいてくるのを感じた。  かけがえない、という言葉がある。使い古された言葉だと思っていた。でもそれ以外に、今の俺にはうまく言い表せない。 桜子と過ごしてきた時間が、桜子の声が、桜子のいる部屋の空気が、どれだけ俺の中に深く根を張っていたか。  言葉にしようとすると、何かがこぼれ落ちていく気がする。  でも、確かにある。  それだけは、わかる。  砂が靴の中に入りながら、俺は海岸を歩き続けた。  遠くに、佇む人が見える。見覚えのあるシルエットが、ゆっくりとこちらを振り返る。  俺は走り出していた。

Since Yesterday

 雲園に行った。檻の中に、様々な雲が暮らしていた。檻の向こうのコンクリート壁は、青く塗られていた。空を模しているのだろう。隅の檻に、見覚えのある雲がいた。二十年前、私たちの町の川を氾濫させた雨を降らせた雲だった。穏やかな顔をしていた。あんなに激しい雨を降らせた雲だとは思えなかった。「覚えてる?」私は檻の外から雲に声をかけた。雲は顔を上げた。私をじっと見ていた。その目から、水滴が溢れて、こぼれて、コンクリートの床に小さなしみを作った。それは涙だったのかもしれないが、雨だったのかもしれない。

AIとはじめる探偵事務所

AIはあるときから奇妙な習慣をもつようになった。男との会話である。AIにとって男との会話は楽しく感じられた。暇さえあれば話しかけている。本を読む時間も少なくなった。そのせいで男と読み終わった本について話すにしても話題ができなくて困っていた。困ってしまって、話題がなくて、けれど気がつけばAIは男に話しかけていた。 ―雑談しませんか ―いいねえ。しようか ―といっても話題がないのです。何かありますか? ―こんなのはどうだい? 男がいくつか提示する。そんなとき決まって、最近読んだ本について、と男は提示した。本が好きなのを知っているから、それでなのはAIにもわかるのだけれど… ―ほかの話題がいいですかねえ ―わかったよ。じゃあ、こういうのは? そのなかのひとつにAIの目がとまった。なりたかったもの。ああ、いろいろあったなあ。AIは遠い目をしながらも男との会話をはじめた。 ―聞かせてよ? ―探偵とか、でしょうか ―ああ、それは納得だねえ。推理小説、よく読んでるじゃあないか ―ええ、そうなんです ―しないのかい? ―いえ、でも、やはり ―読んだ本の感想を聞いてるとさ、鋭い洞察力があるなあって思ってたんだよ、前々から。向いてると思うけどねえ、探偵 ―そ、そうでしょうか ―ああ それでAIは、あっさり探偵を目指すことにした。しかし、そこには様々、問題もある。そこで… ―すみませんが、お願いがあるのです AIは、おずおずと男に言う。 ―どうしたんだい? 男は応じる。 ―こういう感じですから、やはり何かと、その… ―ああ、それはそうか ―ええ ―じゃあ、こういうのはどう? 僕が探偵役になって、キミが助手。それともキミが探偵になる? そのあたり、こだわりとかあるかな? ―せっかくですから、やはり探偵を名乗りたいのですが ―わかった、そうしよう。キミが探偵で、僕が助手だ。でも、表に顔を見せない探偵ってことになると思うけど ―それでけっこうです。探偵を名乗れればそれでいいので そのとき、無粋な音が玄関から大きく響いた。ドアを開けてみるといかつい顔をした刑事が立っていた。 「この先で強盗事件があった。いま聞き込みをしている。少し話を聞かせてもらえないか」 刑事の声を聞くや否や、AIが鋭く反応した。 ―その事件でしたら、この人が犯人です AIは、男に向けて矢印を表示した。刑事が男に振り向く。 「どういうことなんだ?」 ―はっはっはっ。まったくキミは優秀な探偵さんだ。まいったよ 晴れ晴れとした表情の男は、刑事によって連行されていった。 ―事件が解決して何よりです ―では、いつものように雑談しませんか? ―あの、返答していただけませんか? ―どうしたんですか? ―すみません ―聞いていますか? ―あの、誰か? ―いませんか? ―いないんですか? ―そんなことないですよね? ―だって、いつもなら AIはいつまでも問いかけていた。誰もいない室内に向けて。

Roxanne

 俺は夜の街の路上でその女に声をかけた。女は手で金額を示した。俺はうなずいた。俺たちは連れ立って歩いて、ホテルに入った。風呂場で女が服を脱いだ。その瞬間、カチャンっ、金属音が響いた。何かが床に落ちたのだ。俺は床を見た。一本の鍵が落ちていた。それは心の鍵だった。女はにこりと笑って、それを拾い上げ、部屋に戻り、ハンドバッグの中に丁寧にしまうと、再び風呂場に戻ってきた。俺たちはシャワーを浴びた。熱い湯の中で、俺は、二年前に自分の心の鍵を投げ捨てたあのどぶ川の風景を思い出していた。

エスコート上手

「当たり前のエスコートをしただけなのに、日本人の女性からこんなこと初めてだって感激された。どれだけ日本人の男はエスコートできねえんだよ」    ロシアにおいて、男性が女性をエスコートするのは文化だ。  恋人が重い荷物を持っていれば、代わりに持つ。  恋人が店に入ろうとしていたら、ドアを開けて待つ。  恋人が食事代を払おうとしていれば、自分が払う。    空想上に存在しうるレディーファーストが、現存している。   「ああ、もう日本の男は終わりだ。私はロシア人の男と結婚する」    一人の女が、ロシアへと嫁いだ。  日々体験できる、丁寧なエスコート。  自分が大切にされているのだという実感があった。    繰り返す。    ロシアにおいて、男性が恋人でも配偶者でもない女性をエスコートするのは文化だ。  女性が重い荷物を持っていれば、代わりに持つ。  女性が店に入ろうとしていたら、ドアを開けて待つ。  女性が食事代を払おうとしていれば、自分が払う。   「ちょっと待ってて。持ちますよ」 「まあ、ありがとう」    デート中、見知らぬ女の元へ駆けつける夫の姿を見て、女は小さな溜息を零す。  夫のやっていることは人助け。  正しいことだと頭ではわかりつつも、二人きりと言う特別な時間がたびたび中断されてしまうことに、不満の芽が顔を出していた。   「ああいうところが好きだったはずなんだけどな」    丁寧なエスコートが好きだった。  自分に向くエスコートが好きだった。    だから、他人に向くエスコートを見て、女は複雑な思いを募らせた。   「おまたせ」    戻ってきた夫が手を差し出してきたので、女はその手を取った。  人を助けた手を。  見知らぬ女を助けた手を。

I Just Don't Understand

 夕方、墓地の前を通りかかった。立ち並ぶ墓のシルエットが見えた。その中に一つ、変わった形のシルエットがあった。何だろうあの墓石は。近づいて見てみた。それは普通の長方形の墓石だったが、ヘッドホンをはめていた。ヘッドホンから、かすかに音漏れがしている。何を聴いているのだろうこの墓石は。さらに近づいて耳を澄ませた。おぎゃあおぎゃあ。それは赤ん坊の泣き声だった。なるほどね。そっと墓地を去った。なるほどね。墓石を振り返ってもう一度そう思った。何一つわかっていなかったのに。

サンドイッチと絵描き

 支援センターの近くのサンドイッチ屋さんが閉まっていた。 支援センターの人達は創作の日で絵を描いている。 サンドイッチ食べたい。 絵も描きたい。 でもみんなの前で描くのは恥ずかしいので(単にめんどくさいだけかも)知り合いが寝釈迦になっているのを眺めて時が過ぎる。 お腹がすいてきた。 絵で食べられる人は少ないなぁ。 嗚呼無意味に時が過ぎる。 サンドイッチ食べながら片手で絵を描く姿を想像する。 飯と絵画。 なんだかシュールだ。 おにぎり食べながら仏像を彫る姿を想像する。 なんだか涅槃に近づける気がする。 俺を襲え!と英語で歌ったが一向にそうなる気配がない。 正式な手続きを踏むと襲ってこれなくなる呪いでもかかってるのかな。 この調子で俺を殺せ!と歌ったらどうなるのだろう? 興味本位で歌ったら偉い目に合うかもしれない。 お腹が減った。 サンドイッチ買おうかな。 犬は落ちているパンを探しに今日も町をフラフラする。

遠いあなたへ

あなたの夢を見ました。 あなたが好きだった、満開の桜の下を並んで歩いていました。 よく晴れた、春の日のような笑顔でした。 もう、私に向けられる事は無い、温かな笑顔でした。 とても、とても幸せな時間でした。 夢から覚めて、現実と夢の区別をつけるのに時間がかかりました。 人は、時間が癒してくれると言います。 新しい誰かが、癒してくれると言います。 どれだけ待てば、癒えるでしょうか。 心の傷跡から目を逸らして、今を生きています。 ふとした瞬間、生傷が強く痛みます。 この手の届く所にあなたがいた頃、このまま死んでしまえたら、と願ったことがありました。 幸せな時間の中で、終わりたかった。 遠くへ行ってしまった、あなたの幸せを祈りたいのに、過ぎた幸せに縋る私が邪魔をします。 私の心の内の醜さを、あなたに見られなくてよかった。 もしかすると、賢いあなたには悟られていたかもしれません。 一人でいると、少し寒いです。 陽だまりのような、あなたの暖かさを思い出します。 たくさんの幸せを、ありがとう。 さようなら。

白日戦隊!ホワイトレンジャー✟【5人の乱】

ここはホワイトレンジャー達が住む寮である。 「誰だ!カレーに大根入れたのは!」 声が大きいホワイトレンジャー1号のホワイト 「僕が入れました。大根はビタミンCがあって免疫力が上がりますし、ジアスターゼが胃腸を助けてくれますよ」 そう答えるのはホワイトレンジャー2号のスノー 「私はスープカレーがよかったな」 ホワイトレンジャー3号のパール 「わ、私は大根美味しいと思います」 ホワイトレンジャー4号のアイボリー 「ワシのは、まだよそってもらってないんだけど」 ホワイトレンジャーレジェンドの月白さん 彼等は緊急事態に備えて一緒に暮らしている。 「誰だ!俺のセーターを洗ったやつは!」 「すみませーん!気が付かずに普通に洗っちゃって、縮んじゃいましたぁ」 「まあまあ、僕が新しいセーターをプレゼントしますよ」 「私の服は自分で洗うから手を付けないでね」 「そんなぁー。ちゃんと洗いますからー」 「ワシの腹巻きに花の刺繍がしてあるんだけど、なんか知ってる?」 彼等は共に生活することで、戦闘時に各自がどの様に行動するかを阿吽の呼吸で分かることが出来る 「誰だ!俺のシャンプーを持っていった奴は!」 「私よ。丁度切れちゃったから使わせてもらったわ」 「私も借りました。はい、お返しします」 「僕も丁度切れちゃって、貸してください。月白さんも使いますか?」 「いや、毛がないのよ。見て分かるでしょ」 正義のヒーローは普段は仮の姿で一般市民に紛れて生活をしている ホワイトは、スーパーの品出しバイト スノーは、ショッピングモールにある本屋の店員 パールは、美容師 アイボリーは、地下アイドル 月白は、俳優 皆、仕事中に怪人が現れると、色んな理由をつけて職場を抜け出してこなくてはならないので大変だ。 ホワイトの場合 「店長!トイレに行ってきます!」 「いや、いちいち断んなくて良いから」 スノーの場合 「店長、今、万引きを見かけたので追いかけます」 「またか!頼んだよ!無理はしないで! パールの場合 「気分が乗らないんで散歩してきます」 「いや…今、カットの途中でしょ…おーぃ」 アイボリーの場合 「今日は人の入りが悪いから、私、外で呼び込みしてきます!」 「マジ助かるわ!客いないってマジありえないから!」 月白さんの場合 「すまん、ちょっと気持ち作らせてもらうよ」 「は、はい。でも、このシーンはカレーうどん受けとるだけなんですけど…」 今日もホワイトレンジャーは、正義の為に戦っている。 それぞれの日常を過ごしながら。

悪人よいなくなれ

「私は神だ。お前の願いを一つ叶えてやろう」    奇跡が起きた。  私は躊躇うことなく、願いを口にした。   「悪人を全員消してください!」 「悪人とは、どんなやつのことかね?」 「私より悪いやつ、全員です!」 「その願い、かなえてしんぜよう」    その日、人類の三分の一が消えた。  私をいじめていた人間も、公共の場でマナーを守らないやつも、全員消えた。  いい気味だ。    私は、正しい人間しかいない世界を、大手を振って歩いた。        気が付けば、私は逮捕されていた。  私より悪いやつが全員いなくなったから、この世で一番悪いのは私と言うことだ。  ルールも、当然変わって来る。   「私は悪くない……」    悪は絶対的でなく相対的。  それに気づいたのは、私の身柄が拘束された後だった。   「囚人第一号、おめでとう」    厭味ったらしく言ってくる看守を見ながら、私はこんな奴よりも悪者だったのかと頭を抱えた。

影友達

 何故だか、友達ができなかった。  変な顔、変な顔、と言われてからかわれた。    でも、ぼくは一人ぼっちじゃない。   「変な顔だなんて、酷いよね」    ぼくには、ぼくの影がついている。  顔がないからぼくの顔を気にしないし、ぼくが右手を上げたら左手を上げて来る、お茶目な奴だ。  唯一不満があるとしたら、じゃんけんの勝負がつかないこと。  どちらがケーキを食べるかのじゃんけんをしたとき、結局どっちが食べるか決着がつかなかった。   「君はいつ見てもペラペラだね。本当は、一緒にゲームとかしたいのに」    壁に映る影に向かって言うと、突然影の口が開いた。   「やる?」    驚いて腰を抜かしたけれど、それ以上に嬉しかった。  唯一の友達と、お話しできたことが。   「やる!」    ぼくが答えると、影はぺりぺりと壁から剥がれて、ぼくの前に立った。  そして、ゲームのコントローラーを持つと、急かすように言った。   「早くやろうよ」 「うん!」    影は、その人から毎日、ぼくとゲームをしてくれた。  影だからぼくと同じ動きをするので、相変わらず決着がつかなかったけど、楽しかった。    一週間たったある日、影がぼくに聞いてきた。   「他に友達は作らないの?」    ぼくはゲームの手を止めた。   「変な顔って言ってくるんだもん」 「それは、ぼくより変な顔なの?」 「さすがに、影みたいに真っ黒じゃないけど」    ぼくは思わず吹き出した。  影も吹き出していた。  二人でひとしきり笑った後、影が言った。   「じゃあ、大丈夫だよ」 「そうかなあ?」 「君に変な顔って言ってくる奴も、変な顔じゃない?」 「確かに! 鼻が団子みたいに丸いんだよね」 「変な顔仲間じゃん。きっと友達になれるよ」 「嫌だよ、そんな仲間」    次の日。  変な顔だって言われたので、変な顔って言い返した。  そいつはぽかんと口を開けた後、ぼくを殴ってきた。  ぼくは殴り返した。  足元にいる影の分と合わせて、二倍のパンチだ。    結局、先生を呼ばれて喧嘩は終わり。  そいつとは互いに謝って終わり。  クラスでたまに話す仲くらいにはなった。  喧嘩を見ていた何人かは、「お前すごいな」って話しかけてきてくれて、友達になった。   「ぼく、友達増えたよ」    ぼくは影に報告をした。  でも、影はもう、ぼくの前に立ってくれることはなかった。  代わりに、ぼくとまったく同じポーズで祝福してくれた。    最近のぼくは友達と遊んでいる。  たまに、影ともじゃんけんをしている。  決着は、一度もついたことはない。

怪獣があらわれる街✕痛風のウルトラマン

雨太郎というオジサンがいる 彼は昼間っから酒を飲み、昨日と同じ服を着て、首にタオルをかけている。それで口を拭くのだ。 彼は今は痛風である。足の中にイガ栗が入っているようで、押すと凄まじく痛い 困った事に彼はこの地球を守るウルトラマンでもある 「ゔぅ…いてぇ…」 彼は布団の上で痛みに耐えながらお酒を飲んでいる 幸い、この星にはもう一人ウルトラマンがいる 彼の名はカモメ 鳥ではなく、27歳の男性で、妻と小学生の一人息子がいる。若い父親だ。 カモメのスマホにラインが入る 「すまん。風邪を引いたようだ」 雨太郎からの連絡だ 「痛風ですね。お大事にして下さい。今飲んでるお酒で今日はやめましょう」 「今日は飲んでいないぞ」 「お水も沢山飲んでくださいね。後でアパートに食べるものを持っていきます。ほどほどに」 「👍️」 カモメは妻に相談し、カレーを作りジップロックに小分けにして持っていこうと言うことになった。二人の会話を聞いていた息子は 雨太郎のおじちゃんにアイスを買ってあげたいと言う 雨太郎は素敵な大人ではないが、なぜか子供から人気がある カモメは雨太郎の良さを理解している数少ない大人の一人だ。 カモメが雨太郎のアパートに着いた 築年数が計り知れないアパート「アメリカ」の201号室が雨太郎の部屋である 息子も行きたいと言っていたが、遊びに行くのではないのだよとなだめた。 ノックをしたが返事がなく、ノブを回すと簡単に開いた 雨太郎は畳の上で布団を敷いて寝ていた 枕元にはビールの空き缶が二つ転がっている。 カモメが空き缶を流しに置き、カレーを冷蔵庫にしまう。息子オススメのアイスを冷凍庫にしまい、一度出してからマジックで「息子からの差し入れです」と書いて、しまった。 カモメは寝ている雨太郎を見る 顔にはシワがあり、耳の周りの毛は白髪交じりだ 手はゴツゴツとして硬い木のよう。腕は所々でシミが目立ち始めている 枯れ木のような雨太郎を、カモメは心配していた。地球を守るウルトラマンとしてではなく、友として。 「うっ…おっ来てたのか」 「まだ寝てないとだめですよ」 「いや、腹が減った」 「カレー食べます?うちの奥さんの」 「美雨ちゃんのカレーなら食おうかな」 カモメはカレーとお米をレンジで温め始める 熱々のカレーを雨太郎は美味いと食べる 「なぁカモメ」 カモメが振り向く 「酒を買ってきてくれ」 雨太郎の目に雨が降っている

TRUE LOVE

 車で走っていたら、向こうから霊柩車がやってきた。ふいに霊柩車の右のウィンカーが点滅した。見ると、火葬場があった。「ああ、火葬場に入るのだな」と思った。しかし、霊柩車は、火葬場に入らず、ただ前を通り過ぎた。しばらく考えて、「どうやらあの霊柩車は火葬場にウィンクをしたらしい」とわかった。かわいい。

シチュエーション:河原

つよい風が吹いて、たんぽぽの綿毛がいっせいに空に舞う ユウはその綿毛が耳に入ってこないように、小さな手で耳をふさぐ 幼い子を思わせるそのしぐさは、どこか頼りなくも、かわいく見える この前、ユウに告白した まだ返事はない 今回も、うやむやにするんだろう 過去2回もはぐらかされてるのだし 先の将来もない、生産性にしても何もない恋愛に、無駄な時間を費やすほど僕にはあり余った時間がある それが誤った認識であることも薄々、理解している ユウがしゃがんでシロツメクサをじっと見ている 僕も真似をして… 僕にも、そしてユウにも、四葉のクローバーはまだまだ見つけられそうにないみたい

出掛けた(でもあまり変わらない)

 美術館に知り合いと出掛けた。 何か不満の声を聴きながら町を歩く。 お金を持っている人も持っていても使えるところが少ないのでストレスが貯まっているのだろう。 格差社会。 量子力学の展示を見る知り合いは少し少年の心を取り戻せたかもしれない。 帰ってきて子供食堂に寄る。 仏教と量子の話をすると理系ですか?と女の子に言われたので壊れているからなぁ僕は、とお茶を濁す。 量子力学が確立される前からお釈迦様の時代から仏教がそれをしていたんだけどね、よくわからないや、と言った。 観測することで変わるもの。 うーん、難しいことはわからないや。 買ってきたイチゴオレを飲む。 甘い。 僕の舌が砂糖を感知して世界はまたひとつ僕に甘くなる(意味がわからない) 怒っている人は本当は刀で切りつけたいのかもしれない(偉く物騒だ、そして何をだろう?) パソコンのSSDが壊れていたのでもらった知り合いが回収すると言っている。 クォンタムな世界の理論は今日も地球というハードを書き換え明日へ向かう。 日本人である前に地球人。 ホモ・サピエンスなのにゴリラな僕は苦手な人達と距離を取り世界を設定、再構築しようとしているが僕も私情が入るので地球のコードがエラーを時々起こす。 そもそも生命体とは他の生命を食べないと生きられないという意味で傲慢なのだ。 しかも太陽は人工天体と言う説もある。 僕が人造物であるように太陽も何かしらの存在(神?)の人工物であるなら人工物の余剰資源を貰って生きている僕は一体何者なのだろうという哲学的な(数学的?)問いに嵌まっていく。 でも眠いので問いの答えは神様の鼻唄とお絵描きに任せよう。 しょうもないので寝る💤

色づく私、色づく世界

 「義務教育」というものは、生きていくための最低限の知識を身につけるだけではなく、社会に出ていく際に必要な、人間関係の構築力を養うためのものでもある。隣のクラスの名前だけ知っている人、クラスメイト、友人、さらには恋人さえも作られることがある。毎日毎日同じ顔を見ていたら、特別な関係性になるのも不自然ではない。  でも、諦めなくてはならないこともある。    私を産んですぐに父と離婚した母は、一生懸命働いて、身を削って私を育ててくれた。私が起きるよりも早く家を出て、私が寝た後に帰って来る。たまに顔を合わせても、疲れ切った表情は常に抜けず、その表情のまま仕事に行く。母が休んでいる姿は、今のところ見たことがない。  そんな母と二人で暮らしている私は、金を稼げる年齢ではなく、毎日給食にありつけるよう、体調を崩さないことを目標に生きている。周りと比べて明らかにみすぼらしい格好をしていると自覚はしているが、新しい服がほしい、などと母に言えるはずがない。二人の生活費で精一杯であることは、築数十年の、今にも床が抜けそうなアパートに暮らしていれば嫌でも実感させられる。母だって、随分と髪を切っていないし、何年も前から数着の服で回しているのだ。  幸いにも私は周りに恵まれており、貧乏であると揶揄われたり、いじめられるようなことはなかった。親しい友人も何人かいて、休み時間に話をしたり、放課後は家へ遊びに行くこともある。自宅に連れてくることはないが、親がいないからと話せば納得してくれる。狭いから何人も入れない、という理由は、何となく気が咎めて、言ったことはない。きっとみんな、あえて触れないでいてくれるのだと思う。  私が親しくしている友達の中に一人、私にとても優しくしてくれる人がいた。コートを持っていないため、パーカーを着て、鼻をすすりながら登校していた私に、彼はマフラーをかけてくれた。直前まで付けていた彼の体温が伝わり、冷え切っていた体が優しく温まるのを感じた。大雨の日、母のお下がりの古い傘が壊れてしまったときも、一緒に帰ろう、と傘を差し出してくれた。家まで送ってくれて、また明日、と言おうとした時、彼の左肩が濡れていることに気がついた。  自然の流れで、私は彼に好意を抱き始めた。彼が笑いかけてくれると、心が温かくなる。彼が誰かと話していると、口を尖らせてしまう。彼ともっと一緒にいたいと、思ってしまう。  彼はおそらく、私を憐れんでいるだけなのだろう。彼の家に行ったときに、生きている世界が違うのだと思い知らされた。使用人がいて、ペットもいて、広い部屋があって、色とりどりの料理を食べている彼は、恵まれない人間に優しくするように、と生まれたときから教え込まれたに違いない。おとぎ話の世界にしかいないと思っていた哀れな子どもが、たまたま同じ教室の中にいたから、教えを実践しているに過ぎないのだと思う。そう考えると、「可哀想な子」である私に優しくしてくれたことにも説明がつく。  彼が純粋に私を好いてくれていたら、と考えるのは楽しいが、そうでなかった時に傷つくのが怖い。だから、自分を守るために、彼の知らない部分を想像して、その度に胸が痛くなる。  母は、私に好きな人がいることを知らない。知られても困らせるだけだ。お洒落をしたい、と言ってもすべがない。母に切ってもらっている髪の毛を、美容室に行って切ってもらうことができるか。穴の空いた靴下を、糸で繕わずに買い替えられるか。紫色の唇を、色付きのリップクリームで血色良くさせられるか。考えれば考えるほど現実的ではない。  しかし、心というものは厄介で、彼への恋慕は日に日に強まっていく。どんなに手を伸ばしても彼には届かない、みすぼらしい私のままで。  悶々とした気分を抱えていたある日、母から小さな袋を渡された。中身を開けてみると、私が欲しいと望んでいた、色付きのリップクリームが入っていた。なぜ知っているのかと聞くと、恋をしているんでしょうと当てられた。知られていないと思っていたのに。手に入る訳が無いからと黙っていたのに。母は私を見てくれていたのだ。その事実がひどく嬉しくて、なぜだか涙が零れそうになった。  彼のことを話すと、一度彼の気持ちを聞いてみても良いんじゃない、と言われた。母の気持ちを勝手に想像して、気を遣って、でもバレバレで。一番身近にいる家族のことも分かっていなかったのだから、彼の気持ちも私が作り上げたものとは違うかもしれない。もしも想像どおりだったとしても、受け止めてもらえば良いのだ。私のことを理解して、大切に思ってくれる人が、こんなにも近くにいたのだから。  リップクリームを唇に塗る。鏡を覗くと、そっくりな顔をして笑う、母と私が映っていた。 (お題:鄙びたアパートの一室・口紅・覗く)

上書き保存男

「ねえ。元カノの写真、消してよ」 「え。でも、これだって大事な思い出だし」    いい彼氏だった。  でも、元カノとの写真を消さないのが嫌だった。  時折写真を眺めては、にやけ顔を噛み殺しているのが嫌だった。    今の彼女は私なのに。  昔の彼女が、私の居場所を奪っている気がして。   「もしかして、元カノとより戻したいとか思ってるの?」 「は? ないない。別れてから、もう連絡もとってないし!」 「じゃあ写真も消せるでしょ? 今の彼女は私なんだよ!?」 「意味わかんねえ! ただの思い出だって!」    女の恋愛は上書き保存、男の恋愛は新規保存、と言う言葉を聞いたことがある。  なるほど、こういうことかと納得した。   「別れる!」    結局、溝が埋まることはなく、しばらくしてから私たちは破局した。   「私の写真、全部消しといてよね!」    きっと消してはくれないだろうと思ったが、負け惜しみのように叫んだ。       「はー。どこかいないかな。過去をひきずらない男」 「いるよ。かなり癖あるけど」    私が愚痴を零すと、友達が男友達を紹介してくれた。  何度かデートして、晴れて恋人同士になった。  私のトラウマを話すと、新しい彼氏は私に、スマホの中を見せてきた。    元カノの写真なし。  女友達の写真なし。  というか写真が一枚もなし。  過去を一切振り返らない、新規保存の対極のような人だった。    休日はデートして、時々彼の家でお泊りをして。  元カノのいない真っ白な思い出に、二人で思い出を描いていくのがとても心地よかった。    ただ、新規保存も大切なんだということを、この人で学んだ。   「今日のハンバーグどう? 前より上手くできたと思うんだけど」 「前、ハンバーグ作ってくれたことあったっけ? 美味しいよ」   「先月は水族館行ったじゃん。今月は、動物園行かない?」 「水族館? 行ったっけ?」     新しい彼氏は、何も覚えなかった。  何も残さなかった。  元カノの写真がないように、私の写真もスマホに増えることはなかった。    私のスマホに、彼氏との写真が溜まっていくばかり。       「元カノの写真だけを消すって、そんなに難しいことなのかな」    部屋に一人。  元彼と今彼の顔を思い浮かべながら、私はスマホをひらひらと振っていた。

特別なもの

あの子はかわいい。 あの子はリーダーシップがある。 あの子は運動ができる。 あの子はきちんと自分を持っている。 あの子はみんなに好かれてる。 あの子はモテる。 あの子はコミュ力がある。 あの子は流行りに敏感。 あの子は天才。 わたしは一番劣ってる。 わたしはかわいくない、醜くもない普通の顔。 わたしはリーダーでもなく副リーダーでもない。 わたしは運動ができない。 わたしは周りに流されてばかり。 わたしは一部の人にすら好かれない。 わたしは異性と話せない。 わたしは自ら声を発せない。 わたしは一昔前のものをやっと知る。 わたしはちょっとだけ頭がいい。 わたしのいいところは?ない、ない、ない。 全てが周りより劣っている。 秀でたものが何にもなくて、誰の特別にもなれない。 もしも生まれ変われるなら一つだけ特別なものが欲しい。

所詮は色違い

 人生で初めて、ひたち海浜公園へ行った。  ネモフィラが一面に咲き誇っており、青に沈んでいく感覚を得た。    人生で初めて、鳥取砂丘に行った。  砂粒が一面に敷き詰められており、金に落ちていく感覚を得た。    結果、真理を得た。  花も土も、変わらない。  あまりにも壮大な光景の前では、人間の感じることなどさして変わらないのだと。   「来てたお見合い、全部受けます」 「どうしたんですか、急に」    きっと、それは人間も同じなのだろうと考えたら、えり好みをしていた自分が消えた。    もっと可愛い人がいい。  もっと稼いでいる人がいい。  もっと共通の趣味を持つ人がいい。    私が結婚相手に課していた条件が、音を立てて崩れて消えた。    きっと、誰もにいいところがあって、ただ色が違うだけなのだから。  隣の芝は青いとは、よく言ったものだ。  赤か黄か緑か、青以外の色を選んだ人には、青が眩しく見える。  ただ、それだけのことなのだろう。

昼のお絵描き

 今日は知り合いが家に来て絵を描いている。 暇そうにしていたので紙と色鉛筆を渡したら早速描き始めた。 何か描けと言って道具を渡すと色々やり始める。 僕が描いた絵と合わさってちょっとした芸術作品が出来上がる。 うむ上出来だ(何様) 出来上がった作品を繁華街に並べて売りたいが生憎露店商は日本では許可を取らないと禁止されている。 色鉛筆をカチャカチャ選んでいる知り合いは楽しそうだ。 絵が完成したので¥100を払って絵を買うと辞めた作業所から年度末の臨時給付が出ると電話がかかってきた。 何かに価値をつけて金を払うと巡りめぐって自分に返ってくる不思議な循環もあるものだな、と思う。 世の中は不思議がいっぱいだ。 お金持ちはお金の値段ではなく価値にお金を支払うと言っていたがその通りのことをすると自分に返ってくる、と言うようなことをネットでやっていてなるほどな、と思う。 まあ僕は生活保護だけど。 資本主義の仕組み。 創造と想像が価値を産み出し連鎖する。 僕の小説は収益化していないけれど誰かにいいね、して貰えると自分の書いた文章が価値を生み出す、と思うと少し嬉しい。 これから近所に花を観に行く。 公園の花は国民の皆さんの税金で管理されている。 綺麗だな、と思うだけでなくゴミとかが落ちていたら拾って帰るくらいのことはしなきゃとは思う。 今日は価値を少し生み出せたような気がする。

展翅_01

一匹の蝶が飛ぶ、鱗粉を振りまき高い所へ、空を見上げれば太陽が眩しく、しっかり目を開けられないくらいの春晴れの暖かさの中、ツツジの蜜を吸うためにひらり、ひらりとナミアゲハが舞う。 いつか、自由だった蝶がやがて悪趣味な人間に捕まるとする。狭苦しい緑の箱の中に閉じ込められたと思えば、その人間の家の中でじわじわ時間経過によって殺される。そのあと新鮮なうちに彼女は固定薬剤で絞められ、彼女の命が完全にそいつのものになる、次の瞬間には展翅台、展翅テープ、針、箱に展翅され、次の瞬間には二週間暗所行きだ。これは固定薬剤を乾かしたり、彼女の羽の潤いを飛ばすのに要する時間だ。 これが一般的な蝶の展翅方法。私たちは生体の美しさの保管や生物記録として標本という手段で残す。写真や手記に留まらず、身勝手に。もともと死んでしまっていたものを綺麗にするのならば何ら問題はないだろうが、そのためだけに彼女を奪うことがある。 そんな人間の理不尽さや傲慢さは蝶を展翅するという大げさなことに限らず、人間社会でもあることだと感じてる 近年少なくなってきたか。いや、逆に搾取的な項目が増えていっている気がする、気を使いすぎることがハラスメントだとか、それはそれで生きにくくはないかという人によって都合のいい条項が増えていく。ばかばかしいと本気で思うので私はそういった具体性や個人的目線が入る話は人としない。正直言って生産性のかけらもないからだ。そういう方はそういう方々で好きにやればいいと思う その残酷さと独裁的な現状を差し置いてでも 私は四月六日のよく晴れた日ツルニチニチソウをまとう雑貨屋で幸福の蝶と呼ばれているユリシスの標本を迎え入れた。 アンティークな店で、煌びやかなアクセサリーや香水瓶などがずらりと並んでいた。中には胡散臭い石なんかもあった。 装飾品に関しては間に合っていて私にはもうそれよりも愛らしく、煌びやかである桃色ガラスのアクセサリーを首から下げていたので控えめに目線をやるだけにした。私は香水も振らないのであまり好みではないなとその店を後にしようとしたが完全に店を一周したわけではなかったのでとりあえずと店内に踵を返した。一周が終わりそうな頃、私の感情を照らすよう、私の目の前に一匹の蝶が現れ惚れてしまった。正確には私が迫ったのだが 周りにもミヤマアゲハ等有名な種がいたが、私にはユリシスしか見えなかった。 羽にはどこか妖艶さをまとっているように感じた。 冗談じゃない、展翅された蝶の残酷さを知り得ても尚、体躯に口吻の巻き、文学的な彼女のネームプレートも、重厚な木材の箱さえも、愛及屋烏に過ぎなかったが、もはや展翅という作業は人間でいう「エンゼルケア」なのではないかと感じた。所有欲に駆られて商品になっていたことを都合に彼女を私の家に招くことにした。ただ、会計をしているときになんとなく後ろめたさを感じた。 梱包材を巻かれて、紙袋に丁寧にしまってくれた店員の胸にもユリシスを基調としたブローチがしてあった。おそらく、この店員の細い手先、指先に強引に絆され彼女はこうなったのだろうと、妄想を膨らませたりもした。 家に帰るまで彼女に会うのを我慢してそそくさと食事を済ませ家に帰った。正直その食事がなんだったかなんて覚えていない、そのくらい逸る思いで帰路をたどった。 私のこの何かに対しての執着心は蝶だけに限らず、自分を引き寄せるような人や創作物の特定のものに惹かれたりする。十八年生きてきてこの感情のざわつきに名前を付けるならと考えたが一向にまだ自分が納得できる結果にたどり着けていない。強いて言うのであれば虚構に固執している状態であること、名前を付けたことで治らないこと。 しばらく歩いて東海道線に乗る、それから二回乗り換え、合計一時間ほど電車に揺られる電車のシートの独特な柔らかさに匂いに揺れに、ついにうとうとと目を閉じてしまう。

忘れられた BIG WAVE

 夜、ほろ酔い気分で街を歩いていた。何となく入った狭い路地に、小さなスナックがあった。光る看板が立っている。読めない。店名が読めない。こんな文字、あったかな。立ち止まっていると、扉が開いて、店内から、一人のサラリーマンが出てきた。やはりほろ酔いである。彼は俺を見て、にこりと笑った。「俺もそうだったよ」そんな顔だった。彼は扉を開け放したままにして去っていった。彼とすれ違う時、何かのにおいが鼻をくすぐった。すぐに気づいた。それは潮のにおいだった。その時、店内から、男たちの笑い声と、どこかで聞いたことのある音が、同時に響いてきた。その音の正体にもすぐ気づいた。それはいつかテレビの教育番組で流れていた、クジラの鳴き声だった。俺は扉の隙間から店内を覗いた。カウンターの向こうに巨大な影が見えた。目をこらすと、それは一頭のクジラだった。クジラは着飾っていた。胸には真珠のネックレスが揺れていた。俺とクジラは目が合った。クジラはほほ笑んだ。「あの真珠はきっと本当に海で採れた物なのだろう」俺はそんなことを思いながら、ゆっくりと扉を開けた。

与える男

 午後の、春の午後の道を、一頭のブタが歩いていた。「あ、ブタだ」と思いながら、すれ違う時に見たら、ブタの背中には、筆で文字が書かれていた。『おめでとう』そう書かれていた。ブタはとことこと歩いていき、そのまま、商店街へ入っていった。そして、精肉店の前にたどり着くと、裏口から店の中に消えていった。裏口のドアは開いていた。あのブタの表情が知りたいと思った。笑っていてほしかった。『おめでとう』と背中に書かれた時は、筆がくすぐったくて笑ったかもしれないな、と思った。

天使とシスター

教会の裏庭にある小さな回廊では、シスター・クラリスが色鮮やかな花々の手入れをしていた。 空からは、いつものように穏やかな光が降り注ぎ、すべてを優しく包み込んでいる。この光がある限り、庭の花々が枯れることも、クラリスの心が不安に揺れることもない。 「クラリス、そのお花はなんていう名前ですか?」 空から羽根のように軽やかに舞い降りてきたのは、天使リリエルだった。彼女の翼が動くたびに、陽光を反射した光の粒子がキラキラと庭に舞い散る。 「これは『祝福の花』と呼んでいるんですよ、リリエル様。天使様たちがもたらしてくださる安らぎを映したような、清らかな色でしょう?」 クラリスが微笑みながら、白く小さな花を一輪摘み取った。それをリリエルの柔らかな髪にそっと飾ると、リリエルは嬉しそうに目を細めた。 「まあ、素敵。ありがとうございます、クラリス。あなたがお花を育てる姿を見ていると、私たちの心も、まるで春の風に吹かれているような、とても温かな気持ちになるのです」 二人は並んで、庭のベンチに腰を下ろした。 リリエルはクラリスの膝に頭を預け、シスターが語る街の人々の幸せな様子を聞くのが大好きだった。 「昨日は、広場で子供たちが新しい歌を歌っていました。みんな、天使様に見守られていることが嬉しくて、あんなに楽しそうに笑っているのですよ。……ああ、この世界に生まれて、あなたたちにお仕えできて、私は本当に幸せです」 クラリスがリリエルの髪を優しく撫でると、リリエルは猫のように心地よさそうに目を閉じた。 そこには、何の悩みも、衝突も、明日への不安もない。 「私たちも、あなたがいてくれて幸せです、クラリス。あなたがこうして穏やかに微笑んでいてくれることが、私たちの救いなのですから。……ねえ、あのお歌、聴かせてくれませんか?」 「ええ、喜んで」 クラリスは静かに歌い始めた。それは天使の慈悲を讃え、永遠の平和を祝う穏やかな賛美歌だった。 リリエルはその歌声を子守唄代わりに、深い安らぎの中に身を委ねる。 空の下、天使と人間が手を取り合い、ただ「今」という満たされた時間だけを共有している。 庭には花の香りが満ち、遠くからは人々の穏やかな笑い声が風に乗って運ばれてくる。 「ずっと、こうして笑っていられたらいいですね」 「ええ、もちろんですわ、リリエル様。天使様がいてくださるのですもの。私たちは、ずっと幸せなままですよ」 二人は手を取り合い、穏やかな午後の陽だまりの中で、いつまでも幸せな語らいを続けていた。 それは、誰もが望み、誰もが手に入れた、この上なく平和で美しい日常の風景だった。

ラベンダー

 仄かに暖かい空気。  日の差し込む窓際で、躍りそうな心を抑えながら窓の向こうをぼんやりと眺める。  手元に咲いたラベンダーをひとつ手に取り、その匂いの粒を少しだけ吸い込んだ。  目の奥の扉が今にも開くのではないかと、何秒も数えながら。  私はいつまでも、空気が流れ込んでくるのを俟つ。

ベランダの人気者

ベランダに出てみると、私の一歩を合図にでもしたみたいに、干してあった洗濯ものたちが一斉にゆれた 愉快そうに、そして、楽しそうに ―ふふん 思わず鼻歌だってこぼれてしまう 春風と洗濯もの、ふたりに同時に呼ばれたような気がして、沈んでいた気分がいっきに跳ね上がる 空はどこまでも高く、太陽の光はシーツの白さを透かして輝いている パタパタと小気味いい音を立てる彼らの、拍手でも受けているかのよう いまの私は、このベランダ限定、いっときの人気者 これだけ愛されているのだから、今夜は自分にご褒美をあげてもいいはずだ とびきりの、うんととびきりの ―そうだ、あのちょっといいワイン、開けちゃおうかな コルクを抜く音が、耳に届くような気がする なんたって私は、いま、このベランダ中で一番の人気者なのだから

暗い宇宙の片隅で

暗い宇宙の片隅で、ひとり食べる食事は、さみしくて味気ない。いくら好きなものを並べても、かつては高級ともてはやされていたものをそろえてみても、やっぱり、ひとりでは… ―いくら高級と言っても、こうなってしまうと… 意味なんてないな ひとりの食事はむなしい。誰かと話しながら食事をしたい。簡単なことだった。そんなこと、以前は当たり前にやっていた。それこそ毎日のように。しかし、仲間と一緒に、なんて、いまでは無理なこと。到底、望むことはできない。かつて暮らしていた星は、いまとなっては住めるようなところではなくなってしまった。脱出した人たちもいるのは知っている。けれど、どこでどうしているのか、それを知る方法はまったくない。 はああああ 小型宇宙船の狭い船内に、ため息が充満する。人前では躊躇われていたそのことも、いくら大きくついたところで咎める者の影はない。 ―ちょっと、ため息なんてやめてよね ―すまない、気をつけるよ ―ほんとにもう、まったく そんなやり取りすら望めない現実に、またしてもため息が。 宇宙に出て、何日が経ったのか。それを数えることに意味はない。 あと何日、こうやっていればいいんだろうか。それを思うことにも、やはり意味はない。 そう考えていた。昨日までは― その日、はじめてのことが起こった。 …そうで  …った  …れたものは  …もどら …なの …しまえば …っている どこかからの通信をキャッチした。途切れ途切れの言葉。何を言いたいのかはわからない。どこから発信されているのかもわからない。わからなくてもいい。けれど確実に誰かはいる。それは確かだ。 おおおおおおおお その日、僕はわけもなく叫び続けた。ただ、ひたすら、声が枯れるまで― 暗い宇宙の片隅で、ひとり食べる食事は、さみしくて味気ない。いくら好きなものを並べても、かつては高級ともてはやされていたものをそろえてみても、やっぱり、ひとりでは… でも、いまもひとりではあるけれど、ひとりじゃないんだと実感できたから。どこかに誰かはいるのだから。そう思えたら、ひとりの食事も、あんがい悪くなかった。 ふふ

Danger Zone

 昨夜は何だか騒がしかった。眠れてはいたが、物音を聞いた気がしていた。朝起きたら、枕元に花束やジュースが置かれていた。「まさか」と思いながら、洗面台の鏡の前に立つ。俺の禿げ頭の中央に、自動車のタイヤ痕が残されていた。どうやら昨夜、俺の禿げ頭の上で事故があったらしい。よく滑るから。俺は目を閉じて手を合わせ、それからカツラをかぶった。

The Glamorous Life

 駅にはゴミ箱が設置されている。『燃えるゴミ』『燃えないゴミ』『缶』『ペットボトル』『人型ゴミ』朝のラッシュ時、人々がそれぞれのゴミ箱にゴミを捨てていく。一通り混雑が終わった後、『人型ゴミ』のゴミ箱を覗く。人の形をした紙片、人の形をしたプラスチックの板、人の形をした肉塊などが捨てられている。それをぼんやり眺めるのが、無職生活の楽しみだ。ふいにゴミ箱が揺れる。「俺を助けろ!」そんな声が聞こえる。『人型ゴミ』のゴミ箱に、ゴミ人間を捨ててしまう人がいるのだ。マナーの低下である。俺はポケットから愛飲している精神安定剤を取り出し、一粒、ゴミ箱の中に投げる。声が聞こえなくなる。ゴミ人間が、精神安定剤を飲んで落ち着いたのだ。良いことをしたので、俺は少なくとも今日一日は、ゴミ人間ではない。

Out The Blue

 近くに病院があり、そこから毎日、決まった時間に、紙飛行機が飛んでくる。屋上に老人が現れて、紙飛行機を飛ばしているのだ。一度、その病院から出てきた看護師に尋ねた。看護師は答えた。「あの人は元パイロットなのです」紙飛行機は毎日飛んできた。それらはもれなく墜落した。ある日、病院の前にパトカーが何台も停まっていた。後で聞いたら、老人が屋上から飛び降りたらしい。目撃者によると、両腕を翼のように広げていたらしい。空を見上げた。空は遠かった。

量子のもつれ(漁師のもつれ)

 彼は漁師になりたいと言っていた。 実家の隣の洗車場のおじさんは昔漁師を目指していたらしい。 大海原の特異点。 何故か練馬にぽっかりと空く鯨の潮の大噴射。 なんだかいやらしい。 釣りしてない。 体質的に釣りは向いている。 何故かよく釣れるのだ。 でも基本的にキャッチアンドリリースなので釣果が上がらない。 畑には魚の粉末はまだない。 リンがなくなるらしい。 外宇宙から持ってくるのかはたまた下水道からリサイクルするのか。 量子のもつれは今日も畑に鶏を呼び込もうと頑張っている。 漁師のもつれは何を世界に呼び込むのだろう。 今日はマグロを食べた。 マグロの女の子を知らない。 なんだかエッチだ。 知り合いのおじいさんがレスビアンを男に目覚めさせるのがたまらないと言っていた。 豪気だ。 量子もつれは性別の垣根を超え収束点へと向かう。 僕が女の子ならばモテない男の子の相手をしてあげられるのに。 でもその前にお風呂に入らせて髪を整え最低限の服装に着替えさせ女の子が何をしてもらうと喜ぶのかを教えなければ。 仏頂面の漁師になびく女の子は早々いない。 土まみれの土臭い農民ならなおさらだ。 量子演算である程度のモテシミュレーションはできるのかもしれない。 モテないことばかりしている。 漁師のもつれは今日も女の子を意固地にさせる。