穴の中から見上げる多様性

 穴に落ちた。  すっごい深い穴に落ちた。  どれくらい深いかと言うと、両手を伸ばしてジャンプしても、脱出できないくらい深い穴だ。   「だ、誰かー!」    穴の外に向かって思いっきり叫んだ。  何人かは穴を覗いてくれて、私と目が合った。  しかし、言うことは皆同じ。   「まあ、多様性の時代だしね」 「穴の中で生きる人がいてもいいよね」 「人は人、私は私」    誰も手を差し伸べてくれない。    私は一生穴の中にいるしかないんだと気づいたとき、私は現状を個性と呼ぶ覚悟を決めた。

感応

 工事現場があった。図書館が解体されていた。半分崩された建物の中から、クレーン車のクレーンが、でっかい『?』を吊り上げていた。きっとこの図書館を訪れた人々の、様々な疑問の集合体なのだろう。おそらくこの図書館は、人々の疑問を解決できなかったのだ。それが溜まって固まってしまったのだ。潰れるのも致し方なしか。でっかい『?』はトラックの荷台に放り込まれた。去っていくトラックを見ながら、ふと、「あの『?』はどこへ運ばれるのだろう?」という疑問が浮かんだ。その瞬間、荷台の『?』が少し膨らんだ。

本棚の向こう側

 返却された本を抱え、一冊ずつ丁寧に棚へと戻していく。  ゆっくりと、図書室のドアが開く音。目の端にちらりと移る少女の姿。  セーラー服のスカーフの色で下級生とわかる。ここ最近、図書室をよく利用している子だ。  控えめな足音は琴巳のいる棚の向こう側へと進む。  この辺りの棚に彼女の好む本はないはずなのに、と、少し不思議に思いながらも本の整理を続けていると、 「先輩、萱島先輩」  棚を挟んで呼び掛けてくる声。彼女のおっとりとした性格を現すような、柔らかく穏やかな声だ。 「そのまま聞いてくれますか」  数冊の本を持ったまま回り込もうとしていた琴巳は、素直に足を止めた。 「私、初めのうちは本当に勉強のためにここへ来てたんです。でも、今は目的が変わってしまいました」 「それで? 言いたいことがあるならハッキリ言ってほしいな」  琴巳には彼女のようにたおやかな美声は出せない。なるべく穏やかに話したいのだが、言葉遣いも声音もキツくなってしまいがちだった。悪い癖なのは自覚している。 「すみません……」 「謝らなくていいから、さ」  しばらく無言の時が流れた。  琴巳は彼女の言葉をじっと待った。 「私……、先輩のことが、好きです」 「それは、どういう“好き”?」 「いつも先輩のことばかり考えるようになって、いつの間にか、先輩に会えるのを期待して図書室に通うようになっていました。私は……、恋、だと思っています」  琴巳は黙って手にしていた本を棚にしまい始めた。向こうも黙っている。琴巳の返事を待っているのだろう。 「ねえ」  本をしまい終えたところで、琴巳のほうから呼び掛けた。 「私の話も聞いてくれる?」 「はい……」 「昼休みの放送でね、ちょっと変な子がいるの。しゃべり方がのんびりしすぎて、いっつも時間が足りなくなっちゃうんだ。バカにして笑ってる子も多いけど、でも、とってもきれいな声なの。聞き惚れて本も読めなくなるくらい」 「あの……それ……」  本棚越しに彼女の表情を想像して、くすりと笑う。  目の前の本の背に軽く額を当て、琴巳は言葉を続けた。 「いったいどんな子なんだろうって気になり始めたときに、本を借りにきた子の声を聞いてビックリしたわ。『あっ、あの子だ!』ってね。声から想像してたのよりも、もっとずっと可愛くてお人形さんみたいで……、気が付くと、その子が来るのを何よりも楽しみにしてて、来てくれるといつも目で追ってた。これって、恋だと思わない?」  一呼吸おいて気持ちを落ち着かせ、琴巳は向こう側へと囁きかけた。 「私も、貴女が好きよ、牧野志帆さん」  途端に、パタパタと忙しなく駆け寄ってくる足音。 「先輩!」 「図書室ではお静かに」  琴巳は人差し指を唇にあて、本棚の陰から現れた少女――牧野志帆に微笑んだ。

村はずれの古書店で

―うわっ、なんてことだ 村はずれの古書店で、青年は珈琲をこぼしてしまった。その一滴が、古い本に茶色くシミをつくってしまった。あわてる青年を横目に、ページの隙間から這い出してきたのは、指先ほどの小さな貴婦人。茶色く染まったドレスの裾を握りしめ、彼女は静かに涙をこぼした。 「私のお城も、花が咲き乱れるお庭も、すべてが汚されてしまいましたわ」 彼女のその横顔は、かつて青年が書きかけのまま隅に追いやってしまった物語のヒロインそのもの。住処を荒らされ、悲しみに暮れる彼女を放っておけず、青年はその本を買い取った。 その帰り道、胸のポケットのなかで小さな貴婦人は、木につるされたランプの明かりを、地上に落ちた星でも見るようにぼんやり眺めていた。青年は、なぜあのとき書くのをやめてしまったのか、彼女にだけこっそり打ち明けた。 薄暗く静寂が包む自分の部屋で、青年は机に向かった。 「次は、シミひとつない物語にしてあげるよ」 青年が最初の一文字を記すと、彼女は満足そうに微笑み、新たなストーリーの余白に身をあずけるように、青年の用意してくれた小さなベッドへと静かにすべり込んだ。 青年は物語を書き続けていく。小さな貴婦人のためでも、お城やきれいな花たちのためでもなく、ただ、自分自身のために。

山登りおじさん

 山登りおじさんが怒った。 寿命が縮んだ。 本当は今年まで生きる筈だったのに。 全て計算で何とかなると奢っていたからだ。 僕と口論すべきではなかった。 僕の宇宙人成分が気にさわらなかったのだろう。 狩るものは狩られる。 生き返らせて寿命を全うさせるのも一苦労だ。 僕は万能の器でも願いを叶える玉でもない。 謝れと言ってきた。 何処かの誰かと同じことを言っている。 自分が絶対正しいと思っているアレだ。 修正するのだろうか? 同じ穴の狢。 期待するだけ無駄だった。 僕もそろそろかもしれない。 冗談がなかった。 眠い。 自分だけ助かろうとかダサくなりたくないとか。 だから臭いと言われる。 だから傲慢と言われる。 ハリボテの国ばかり。 悲しくなる。 楽しくない。 機械か何かで心を読んでいる。 自分の心を使わない。 臆病なのか傲慢なのか。 冗談がない。 全て虚構。 障がい者が溢れて金のない人から死体になっていく。 何を目指しているのかわからない。 利用される。 また金のためだ。

溺者 (掌編詩小説)

無自覚に、今日もひたすらに秒針を回した その代償に、スマホのバッテリーおよび自身の視力を浪費した 理由もなく、果てしなく、ネットという水平線の見えない海をサーフボードと化したスマホを使い遠泳した そこに大義はなく、無駄という言葉しか当てはまらない だが、きっと明日もこの遠泳をするのだろう 昨日も泳いだのだから… 遠泳は時間の無駄でしかなく、一刻も早く足のつく場所へ辿り着かなくてはいけない だが、荒波によりサーフボードはどこまでも泳いで行ってしまう 私は、自らを一種の依存状態に溺れていると悟った 私はこの遠泳に終止を打つため、ライフセーバーを呼んでいるが、中々に救助が来ない 貴方も溺れているなら共に陸地へ向かいませんか? 私と共に依存状態から這い上がりませんか? (完)

小学生の柔軟性を持ち中学生の性欲を持ち高校生並みのギャグを飛ばし大学生の社交性を持ち社会人のマナーを持つ

 意外と出来てない。 コンプレックスだろうか? 環境だろうか? 性質だろうか? 眠い💤

赤の色

絵描きはデッサンの手を止めた。モデルである女性の口紅は赤色だった。だが赤というにはどこか安直であり、かと言って赤以外には表現出来なかった。絵描きは女性に尋ねた。「貴女のその口紅、それは何色かを教えて頂きたい」女性は微笑んで言った。「トマト色かしら」絵描きの手は再び動き出した。

データ系細胞分裂

 人間の細胞は、絶えず変わり続けているらしい。  そして、七年でほとんどすべての細胞が入れ替わる。    ほとんどすべての細胞が入れ替わるなら別人じゃないかと思うけど、私の意識は連続しているので、そう単純な話でもないらしい。  実際、周りの人も私が誰かわからなくなったりはしない。   「SNSの名前とアイコン変更っと」    なら、きっとSNSでも同じこと。  ドットをほとんど全部入れ替えたけど、皆私を見つけてくれるはずだ。  垂れ流した投稿は変わらない。  私という中の人は変わらない。   『誰かと思ったw』    さっそく、私が私として認識された。

JUNK

 リサイクルショップに行った。ジャンク品の棚があった。何気なく眺めていると、隅の汚い箱の中に、派手な色の何かが入っていた。それは千羽鶴だった。手に取る。安い値段が書かれた値札の下に、注意書きが貼られている。『効き目ありません。』私はそれを買って、義母が入院する病院へ向かった。

線路の跡

 その日の空は雲ひとつなく、青と白を混ぜて均一に塗られた天井のようだった。林の中の舗装された道の中心には、背の高い姿勢の良い木が行儀良く真っ直ぐに道の先へと並んでいる。林の中にはぽつぽつと別荘が静かに隠れている。奇妙なほど綺麗なそれらは異国の町から抜け出したような装いで、シャッターを下ろして眠っているようにも見える。しかし僕には、家の主でない僕に無関心を装いながらも警戒し軽蔑しているように感じてさっと視線を外した。  僕は俯きながら人気のないその道を歩いていく。かつて鉄道が走っていた道は、線路の跡もなくその名残は感じられない。  いつの間にか舗装された道は終わり、僕は枯れ葉の上をざくざくと音を響かせて歩いていた。別荘との距離が近くなり、庭に入っているのではないかと心配になった。時々木の枝を踏み、ぱちっと音を立てた。その度に僕は後ろめたい気持ちになった。  時々、鳥の鳴き声が頭上から聞こえた。これはカラスだろうか、そんなことを考えながら足下のどんぐりに目をとられていた。割れていない、穴もあいていない綺麗な形を保ったままのどんぐりを見たのはいつぶりだろうか。それを拾ってみようと、足を止めた。  足音は消え、周囲の音が一気に耳への覆い被さる。枯れ葉の上にポツポツと何かが落ちる音、鳥の羽ばたく音、木を何かが駆ける音、電車が線路を走る音。はっとして辺りを見回す。見えるのは木と別荘と青い天井。  遠くで風が走っている。木々の間を目的地もなく、通り過ぎていく。僕は木になりすまし、目を閉じて風の走る方向を探してみる。  日が暮れるまでそうしてみたが風が僕に触れることはなかった。

白日

 美容室で、おばさんがパーマをかけている。おばさんは何かを読んでいる。それは遺書である。美容室の隅に棚があって、そこに『遺書』と書かれた封筒がずらりと並んでいる。どうやらこの美容室では、雑誌ではなく遺書を置いているようだ。おばさんは適当に遺書を流し読みしていたが、ある箇所でふいに真剣な表情になる。それはビルの屋上から飛び降りたあるおじさんが遺した遺書だったが、ありきたりな文章の中にふいに『お母さんのカレー』という言葉が出てきたのだ。そこへ美容師が通りかかった。「それ、いかにも男ですよねえ」おばさんにはその言葉の意味がわからなかったが、おばさんは曖昧にうなずいた。施術が終わり、美容室を出たおばさんは、スーパーに立ち寄り、パック寿司を買った。今朝、一人息子には、夕飯にカレーをリクエストされていたのにだ。

タバスコ

年に一度、それはやってくる。 とってもめでたい日であり、生まれてきてくれてありがとうと心から思う日。 でもその日は、私をひどく落ち着かなくさせる。 誰と何を共有し、誰のためにその「生まれた日」を使うのだろう。 わかっているし、推測もできてしまうのに、 ソワソワと一日中、心が居場所を失う。 この日さえなければ、こんなに取り乱すこともないのに。 答え合わせをするまでは、あらゆる可能性を反芻する。 直視したくない現実だとしても、ここは「自分が選んだ座」なのだからと。 そう自分に言い聞かせなくては納得ができなくて、折り合いがつけられそうにないから、私は拒否されない座に居座った。 本当は、無条件に守られる座に座りたいと願いながら、 ただ近くに居られる理由だけを探して、その座に着いたのだ。 それでもやっぱりこの日ばかりは無条件にその時間を、当たり前に共有できる存在が、羨ましくて、仕方ないのだ。

flow

 雨の夜だった。会社からの帰り道、歩道橋を歩いていた。前方に人影が見えた。その人は傘もささずに、歩道橋の下を流れる車列を見ていた。俺は近づいていった。気になったからだ。案の定、その人は、水に溶ける性質の人だった。しかも若い女性だ。強くなる雨の夜に、傘をさしていない。事実、彼女の体は雨水に溶け始めていた。「これ」俺は彼女の傍に立ち、傘を差し出した。「どうぞ」彼女はぼんやりした目で俺を見つめ、傘を受け取った。俺は走って家に帰った。翌朝、目覚めると雨は止んでいた。俺は晴れた空の下を歩いていた。歩道橋の近くに来た。歩道橋のすぐ傍に児童公園がある。俺は何気なくそちらに目をやった。公園の小さな水道の足元に何か置かれている。それは花束やジュースやお菓子だった。この水道の水で誰か死んだらしい。俺は昨夜の女性を思い出した。まさかな。俺はとりあえず手を合わせようとした。その時、背後に気配を感じた。

思いやりゾーン

 高校の通学の為に、僕は学生と社会人の列に並び、電車を待っている最中。  ボーッとしていると、目の前で楽しげに、スマホ片手に通話する女性の声が耳に入ってくる。  小さく手振りしながら、大きな声で談笑する笑顔と、某小さくて可愛い感じのマスコットをあしらったスマホカバーが良く目立つ。  ふと僕は、女性の立つホームの黄色い線の内側、女性の足元に踏まれた、思いやりゾーンと書かれるそれに目を落とした。  思いやりゾーン、言葉の意味が曖昧だったので、スマホ片手に調べてみる。  「交通安全の確保、または公共施設での快適な利用を目的として、高齢者、障害者、妊産婦、子供連れなどの優先スペースとして設定される区域やエリアの呼称」  ふむ。  大体想像通りの意味合いだった。  けど僕は思う。  この女性は思いやりゾーンにいる資格があるのか?  今のところ、子連れや高齢者がいるわけでもないから別に何の問題もないこと自体は理解してるつもりだ。  けど思いやりという言葉は、簡単に言えば、他者への気遣いをする、と言う意味だと思ってる。  人の列の中で、軽く唾を飛ばしながら談笑する彼女に、他の人への思いやりはあるのか?  思いやりゾーンなのだから思いやりをする区域なんだろう?    勿論このゾーンにそういう意味合いは持っていなければ、単語をそのまま受け取りすぎ、と言われてもその通りとしか言葉が出ない。  そもそもそんなことを思うなら、思いやりゾーンにいる僕だって、この女性の会話をそれとなく注意することが他者への思いやりなのかも知れない。  結局、提唱した僕でさえ、この考え方で言えばこの思いやりゾーンにいる資格なんてないんだ。  うん、余計なことを考えちゃったな。くだらない。  そう思いに耽っていたらアナウンスを聞き逃したらしい。  もう目の前には既に電車が来ていた。  次々に僕を抜かして電車の中に人が入っていく。  僕へ怪訝そうな顔を浮かべる人も横目に映った。  すいません。  内心謝りながら、僕は思いやりゾーンを離れ、電車に身を移す。  電車に乗った僕は、スマホのボリュームを何段階か下げ、最近お気に入りの音楽を聞き始めた。  思いやりゾーンにはいないもんね。

『 路 铁 、条 动 滾・“ 루 치 、조 동 군 ” 』

『 きいすうこ うぽんぜはらか すましくそかに 』 (子女)照参ツタ二

道の途中【BL】

彼は私の永い生の中に現れた唯一のひとでした。 暗い夜道に突如空に昇った星でありました。あてどなく歩く道を、もしやもう違えてしまったのではと不安に震える道中に、そこを目指せば良いのだと私を駆け出させる希望の火でありました。 実際には彼は隣にいて、いつでも私の手を引いてくれたので、旅人の星に喩えるよりは、掲げるランタンの方がいいのでしょうか。 ああ、遠すぎて温度の分からない星よりは、ランタンの方がうってつけかもしれない。彼の隣は温かかったのです。どんなに寒い冬の雪の日も、普段と変わらずに。 私は彼から多くを学びました。気遣いやら、笑わせ方やら、愛し方を。彼と同じにはできはしませんでしたが、彼のその様はたいへん、うつくしかったのです。全部、彼の言う愛によるものでありましたから、それを持たぬ私は、彼から見るこの世界はどれほど輝いているのだろうといつも不思議に思っておりました。 我々はどうやら同じものを見ることはできないのだ、と知ったのは、彼はとうに気付いていたのかもしれませんが、少なくとも私が知ってしまったのは、もう戻ることが叶わぬほど歩いた後でした。 歩き始めた地点はおろか、一度一人分が途切れた足跡の痕跡も見ることが叶わぬほど遠くまで来てからでした。 彼は変わらず私の手元にありました。この先どうしよう、と彼は決して言いませんでした。振り返る素振りすら私の見ている前ではしませんでした。 不安とともに私の手を握る掌に、ここに来てようやく、彼も私と同じくして、道を知らなかったのだと気付いたのです。 二人して道を失いましたが、私は別段悪い気はしませんでした。思えばここまで既に散々迷い、何故この彷徨い歩いた果てに、私の望む場所に、彼が連れて行ってくれるのだと疑うことなく信じていたのだろうと今更おかしくなったのです。 悪い気はしませんでしたが、悪いことをした気にはなりました。何故同じになれないのだろうと、苦しむ彼をずっと、隣で見てきたからです。彼は星でなくランタンでした。 連れ歩いたのは私です。

『 拍 节 套 手・いぱじ、たんいょし 』

『 うゅし (くろうゅじ) きーいだ、んてずすくか いぱ(ん)しきて 』  クンリ図も 加追を

don't you worry@朝の吉野家

早朝の吉野家で牛丼を待っている ウォーリーとユウ 昨晩は朝まで呑んでいて、今はその帰りである 先週、お笑いコンテストがあり、初めて二回戦にのし上がった二人は、客を入れての審査会場に圧倒され、大きく振りかぶって、スベった。審査結果を聞くまでもなく、クスリともしない五分間を会場の皆と耐えた事実が「もうええわ!」と言っていた。  ただ、舞台をハケた後、一緒に出場していた芸人達が 「面白かったよ」 「あんなにスベってる芸人初めて見たぜ」 「客の好みが違っただけだから。たまたま全員」 「声は出てたで」 とウォーリーとユウの事を気に入ったらしく、そのまま居酒屋へ行く運びとなった。どうやら彼等は万年予選落ち仲間らしく、「おや、あそこに仲間がいるぞ」とウォーリーとユウを誘ったようだった。 そして、今は朝の八時、家の近くの吉野家で牛丼を待っている。カウンターに二人で並んで。 「あいつら…」 「えっ?」 「あの芸人たち、面白えな」 「うん、楽しかった」 「売れない芸人も色んなやつがいるんだな」 「うん。そうだね」 青い湯呑みに入ったお茶をすする 温かいお茶が体に染み渡っていく 「僕のネタは面白くないのかな」 「いや、ユウのネタは面白いと思うけどな。ただ、なんていうか…」 「経験かな」 「それだ。それだと思うよ。俺たちには経験が足らない」 朝の吉野家は半分くらい席が埋まっている。ほとんどがこれから一日の仕事が始まる人たちだ。スーツや作業着を着た人、女性も少しいる。 ウォーリーとユウは社会から弾き出されている気がして、不安で気が狂いそうになるが、二人はお互いの事を思って不安を口には出さないでいた。 二人は客席から目を逸らすためスタッフの様子を眺める 店内にスタッフは女性二人だけ。フロアと厨房に各一人。 流れるような動きで次々に作業をこなしていき、客席の皆は上手い飯を食べ、満足して帰っていく。 その様子はプロの漫才師が舞台の上でボケる度に確実に客席を沸かしていく姿と重なって見えた。 ウォーリーは店員に目を向けたまま言う 「いつか俺たちも、あの二人みたいにさ…」 ウォーリーは不安そうな顔でユウの方に振り向く。 「牛丼作れるかな?」 「知らねえよ!」

『 ’词 写 縮 ‘ ✳︎ 定 指 小 』

『 “ 些 一 了 齐 対 女 彼 / 加 ( 料 描 / 葉 言 ) 几 个 〜 进 縮・は ( イセラスとラツミヤ ) ょじのか ( ばとこ/ りいか )  かつくい 。たしましかいつーつれいせゝ を 。{ ’ゃしくゅし‘  } , ルイてうょし 。정 지 은 작 ; ( 섳 솰 , 홓 튼 ) 는 녀 그 ’ 몇 ﹆ 지 가 ( 를 어 단 ) 렬 정 , ‘ 칭  ( 슈 )  약 ’ 。 ” 』 { 「」} れそゴョヒ き好が

シンデレラ

久しぶりの女子会で、私と佳奈は時間を忘れて呑みまくった。私と違って、家庭のある佳奈にとっては、羽を伸ばせるひと時なのだ。「今、何時?」と、唐突に佳奈が聞いた。「十二時過ぎ」「え、嘘、やだもう帰らないと」言うや否や、飲みかけのグラスビールを残して走り去った。「あんたはシンデレラか」

『 体 分 ー 袧 結 讨 通 ‘ 素 元 ’』

『 “ … ’ 別 类 / 類 ‘ ♤ 下 到 上 从・’つべる‘ たしろたい ; 例・ゟいれ : いすーウょぎのえう 、 ちつ (うど) と (か) ひーウょぎのたし 。いたんぶーとんしヽめびすむ ’そんげ‘  ; ‘ 벗 리 ‘ 서 에 〜 위 로 래 야 。 … ” 』 📕 ) きてじも つさんい(どょし)

あの娘のサドルを盗むと公言したらあの娘は何とも言えない顔をする

 病院で会った娘にサドル盗んでいい?と聞く。 サドル?と怪訝な顔をされる。 サドルを持っていくポーズをすると少し笑う。 このさいだから僕は変質者と思われてもいい。 隣の元カノと仲良さそうに話しているのを見て気が抜ける。 別のおじさんと音楽の話を楽しそうにしていて心が嫉妬する。 しかし僕はあの娘の何者でもない。 心は盗めないものだな、と考える。 僕は誰の心を盗めばいいのだろう? 恋泥棒は唯一許される泥棒らしい。 世界の理。 夜中ポテチとノンアルを飲みながら明日買い物行かなきゃと考える。 何かやること無いと食ってばかりになる。 体重が3年前より5~6kg増えた。 痩せっぽちのあの娘にちゃんと食べれる?と聞いたら「平気です」と言われる。 痩せてる子は太らせたくなる。 いや強制はよくないが。 まずは僕が痩せて少しでも良い指導者にならねば。 セクハラ教師の夜は長い。

『 诃( 福 ) ‘ 动 和 名 ‘ ﹆ 些 』

『 “ 子 粒 法 语 、术 用 常 ー 始 开・しょじきてうぽんぶ ごうつょき るめじはが ; かついく﹆ ‘ いめ  ’うと‘ し(くふ) ’  。지 리 파 유 、( 수 ) 어 용 통 공 / 챵 ‘ 시 캐 〜 작 시  。 ” 』 📖 こんぶ

あじがなくても

 彼は、小説を書いていた。それは、水のおいしさについて。 「水ってさ、無味無臭で、しかも透明じゃん。でも、なんか他のドリンクよりもおいしい気がするんだよね」  嬉々としてしゃべる彼に対して「そんなの錯覚でしょ」と言い返したことを、いまだに覚えている。  あの時は卑屈だった。べつに水がおいしいとか、おいしくないとか、今になって考えたらどうでもいい。でも、彼は水がおいしいと感じて、その気持ちを文章にしてみたいと思った。この行いには、きっと価値があったのだと思う。  結局、彼の小説は完成しなかった。それは、私の卑屈な返事で彼の胸をえぐったからなのかもしれない。水のおいしさを言語化するのは、たんに難しいからだったのかもしれない。  べつに完成しなかったからといって悲しむわけでもなく、完成したところで「だから、どうした」程度の話になっていたと思う。  それでも、おもむろに水道水をひねって出す時。透かした先がよく見えたり、ぼやけて見えなかったりする。そんな液体に心と手を動かされた者がいる。ただそれだけのことを、今後も覚えていたい。

『 斑 耀‘ 气 电 ’ 声 发 、号 記 音 聞 ( 聴 ) 的 』

『“ んゃち/ んさーこった ( ミノコョチ、カモゝハユイ )〜るあのきびひ ‘ キんで ’ はいせに、(トオキゝ/ ごき)んおんぶんし (うょち)てー 。 ” 』 🎹

『 件 付 絵 和 ♡ 君 』

『 “ れつはて (ぴうょし) 笔小お 、〜ゃし心初のコクピ… はでれそ ; るきふがヽきか (え) ゑ ➖ わお 。 ” 』 ☆〜(ゝ。∂)

『 込 ( 作 ) 写 ー 充 填 下 向 』

『 “ 寫 子﹅潛 ー 上 轴 巻 在 ( 文 序 ) 笔 水・( イセらす ) のかっさーなペふ ( んぶょじ) 。すまりあ にみかゝくじは ; みこきか  ーツミんてげうこ 。” 』 ょしくさ とれま

『 历 法 为 不 、还 ﹆ 生 肖 有 稀 』

『 “ 模 的 座 星 、 ( 一年前的描 )・しかたぎのざいせ (いんねえまてくか) たみせさ〜ないこっかは ; たまキてうぽんぶ (きり) 。 ” 』

この想いが汚れる前に

 世間はなんて狭いのだろう?  そう思いながら、私は彼の携帯番号を着信拒否し、SNSはすべてブロックした。メッセージも一緒に撮った写真もすべて消去し、彼との思い出はなかったことにする。  それは、別れた恋人に対する、自分なりの思いやり。でも、実際はどうだろう?  彼が傷つく言葉をぶつけ、口汚く罵り、関係を終わらせた。彼は最後まで歩み寄ろうと、寄り添おうとしてくれたのに、私はその優しさを突き放し、踏みにじったのだ。結局、私もあいつと同じサイテーな人間なんだと自嘲する。  恋人だった彼とは、アルバイト先で知り合った。母子家庭で、幼少期は結構大変な生活だったらしい。しかも、彼の母親は結婚の話まで出ていた相手に妊娠を告げた途端、ひどい裏切りにあったという。途方に暮れながらも懸命に働き、彼を育ててきた母親には畏敬の念を覚えた。彼も、そんな母親を精一杯支えたいと話していたのを覚えている。  その境遇を聞いた私は、なんて酷い父親なのかと憤怒した。辛うじて認知はされたが、養育費の支払いは一切なかったらしい。  私はこんな親になるまい、夫婦で支え合う家庭を彼と築くのだと心に誓った。  けれど、彼の父親と私の父の名が同じだと気付き、互いの父親が同一人物だと知った。そしてある日、父は酒の勢いで、武勇伝のように語ったことがある。自分の子を妊娠した女を捨てて、今の家庭を築いたと。  彼と私が異母兄妹なのも問題だけど、それ以前に父の所業は許しがたい。彼だって、こんなヤツの娘と恋仲だったなんて、一生の汚点だろう。  だから……この想いが汚れる前に、私たちは別れるしかないんだ。

へえ、やるじゃん

コロッケは、わたしの手のなかで冷たくなってしまった あたたかかったコロッケ、タカキが買ってくれた チョコのお返しらしい 思ってもなかったことに、タカキはいくつかチョコをもらっていた  へえ、やるじゃん 突然に想定外の女の子のかげ わたしは思いのほか、思いのほか  ふうん、そうなんだねえ タカキは、わたし以外の子からもらったチョコ たべるかあ、たべるよねえ   ・  ・  ・ 高校に行ってもタカキは野球を続けるらしい そのことに安心し、けど、胸が痛くなる 野球を続けても、練習をいくらがんばっても タカキはたぶん、レギュラーには、なれない   ・  ・  ・ 冷たくなったコロッケは、帰ってからあっためるとして  ちょっと本気、出しちゃうかな そういう未来もあるのかな

muda

moiikagenisirodoitumokoitumokutibak aritokuniwatasinosyuhasuunitasukera retaseijikadomokanahahaemoutemeeran odougamokyozetusurusakakyubindekane okurejyanaitozenbunodougakyozetusur ukonoatootanosimini

田中先生と猫と悪い王様

田中アキラ、41歳、独身。 高校で歴史を担当している。つまり学校の先生だ。 年期の入ったアパート「アメリカ」の101号室が先生の部屋である。 無駄なものは何もなく畳の部屋に畳んだ布団、電子ジャー、充電中のタブレットがあるだけだ。 押し入れにも服が数セットあるだけである。 隙間風で目を覚ます冬の朝 「おはよう。先生」 田中先生が茶碗にお米をよそっていると、半同居人のジョージが窓から入ってくる 田中先生は慣れた様子でお絞りでジョージの足を拭く 「今朝は一段と冷える」 田中先生に慣れた様子で足を拭かれているジョージ 先生は食卓に乗った焼き鮭を半分千切ってジョージに渡す 「鮭か、まぁ頂くとしよう」 田中先生はジョージのため息は聞こえないことにして朝食を食べていく 「先生。今日の授業は」 「猫に言っても分かんないでしょ」 「分からない者に教えるのが教師ではないのか」 「まぁ確かに。今週はフランス革命ですね」 田中先生は食器を洗いながら、猫の質問に答えていく。後30分したら家を出なければ間に合わない。今朝は曇っているので洗濯は帰ってきてからランドリーに行くことにする。 田中先生は「コインランドリー」とマジックで書いたジップロックに300円を入れ洗濯籠の上に置く トイレに入ってスタブレットでニュースを見てると、ドアの向こうでジョージが言う 「フランス革命とは何か」 「王様に怒った人達が王様を倒したんです」 「王様は偉いんじゃなかったのか」 「悪い王様もいるんですよ」 「そうか、そういうものか」 「そういうものです」 「人間はよく分からんな」 「猫の様に可愛くないのでね」 「聞いて損したな」 「言って損しました」 タブレットの時間は30分を過ぎている 「ヤバイ!」 トイレを済ませ、身支度を急ぐ 田中先生は寝癖のまま玄関を出ていく 「行ってきます」 「うむ。達者でな」 「外出るとき窓閉めてくださいね。じゃあ」 ジョージは畳んだ布団の上に飛び乗りそこで丸くなる。目を閉じたその奥で言葉が浮かぶ 「悪い王様とはどんな王様のことなのか…」 ジョージはその日、ライオンになった夢を見た

小さなカオス

 電車に乗っていた。吊革につかまって立っていた。目の前の席に女性が座っていた。スマホをいじっていた。スマホをいじる手の指に、指輪がはめられていた。その指輪には白い物が付いていた。最初は真珠かと思った。だがそれはよく見ると錠剤だった。さらによく見ると、精神安定剤だった。俺が服用しているのと同じ精神安定剤だった。「ふうん」と思っていた。そうしたら、女性が、スマホを見ながら、突然笑い出した。初めは小さな笑いだったが、だんだん大きくなっていった。周りの乗客たちがそれに気づき始めた。そのことに気づいた女性が、慌てて、指輪から精神安定剤を取り外し、それを飲み込んだ。女性の笑いは収まっていった。その一連の動きの中で、ちらりと女性のスマホの画面が見えた。動画が流れていた。外国の路上で、外国人が外国人に一方的に暴力を振るわれている動画だった。「ふうん」と思った。

EROTIC17FLAVOR✱女子友達の香り

今日は同じクラスの宮下さんとマックに来ている 僕は十七歳にして初めて女子と二人きりで出かけている どうしてこうなったのか。 あれは昨日の話である 二時間目と三時間目の間の休憩時間、トイレに行こうと席を立とうとしたら前の席の宮下から話しかけられた。 「千知くんはインスタやってる?」 僕はSNSは苦手なんだと言うと私もなんだと答えてきた。 詳しく聞くと、友達にインスタのストーリーを上げたから見てみて、と言われたがインスタをやっていない宮下は何のことか分からず、空返事をした。 どうにかアプリを入れずストーリーを見ようと試みたが、上手く行かず、困ってしまって僕に聞いたらしい そこから、なぜか僕が趣味で書いている小説に話が流れ、宮下が思いのほか興味を持った。もともと本が好きなようで、知り合いが書いている小説とくれば興味津々らしいのだ。 その日の夕方、ラインで小説を送ると「この小説について詳しく聞きたい」と返信があった。どう返したものだろうかと考えていたら「明日会える?」と短い文。 無意識に「いいよ」と送っていた 今、目の前に宮下がいる 宮下はテリヤキバーガーのセットを頼んでいた。テリヤキバーガーを食べる度に口の端に焦げ茶のテリヤキソースがくっついて、それを宮下は丁寧に拭く。制服姿とは違い、黒いワンピース姿でワンピースのアチコチに黒いレースがあしらわれている。少し大人びて見える宮下は美人だ。薄く化粧もしている。 肩までの髪は緩くパーマがかかっているようでその様子が僕の知っている宮下とは別人に見えた。僕だけしか知らない宮下を見ているようで、頭が熱かった。 「千知くんはいつ小説書いてるの?」 「えっと、いつ?いつ?…暇な時とか」 「そうなんだね。すっごく面白いと思う。このミステリー」 「あ、ありがと」 バーガーを食べ終え、ポテトと飲み物を交互に口に入れていく。宮下はポテトを一本ずつ摘み、丁寧に食べていく。僕がバカみたいに見とれていると、宮下も気がついたらしく、ニコリと微笑み返す。 その時宮下が持っていたポテトが手からすり抜け床に落ちた 宮下は申し訳なさそうに前かがみになりポテトを拾う 宮下の黒いレースのワンピースの胸元が大きく開き宮下の胸の谷間が見えた 薄暗い服のなかで白い肌が陰っていて、その先の深い谷間が強烈に脳裏に焼きつく。直ぐに目を反らして、今見たことは忘れようとしてみる 「み、宮下も本好きだったんだな」 「遥でいいよ。うん、うちはお母さんがいないから小さい頃からずっと本読んでたかな」 「うちは父親がいないよ。片親だとそういうものなのかな?ハハハ」 宮下は何か言おうとしていたがやめたようだった。宮下は拾ったポテトをティッシュに包む。 宮下はアイスコーヒーを飲み、僕はコーラを飲み干す。 「千知くんのお母さん美人だよね」 「そうかな?って何で知ってんの?」 「この間車で送ってもらってたでしょ。私、たまたま見かけて千知くんに手を振ってたけど気が付かなかったみたいで、恥ずかしかった。フフフ」 「ごめん。気が付かなかった。たまにうちの母親そういう事をするんだよね。歩いて十分で着くのにさ。ハハハ」 宮下のテリヤキバーガーセットは食べ終え、コーヒーも飲み終わったようだ。僕のビッグマックセットはとっくに空である。 そろそろ帰る?と言いたくなかった だけど、どうしていいかも分からず、気が付けば「そろそろ帰る?」と言っていた。 店を出て、別れる 「千知くん話しやすいね。私ばっかり話しちゃってごめんね」 「あっ全然大丈夫だよ。楽しかったね」 僕は宮下が何を話していたか全く覚えていない。宮下と二人の時間を緊張で過ごしていた 「またマック行こうよ」 「うん。またマック行こう」 「あと、あんまり女子の胸元見ちゃダメだよ。フフフ」 「えっ、いや、僕はただ…」 「大丈夫だよ。私そういうの慣れてるから。じゃあね」 「あ、うん、じゃあね」 宮下は歩いて帰っていく。 宮下は胸元を僕が見たのを気が付いていた。めっちゃ恥ずかしい。 私そういうの慣れてるからってなんだ? 気にしないってことか? 僕の意思とは別に勝手に宮下の胸元がよみがえる 家に着くまで全速力で走って帰った。

未完成なままで (掌編詩小説)

大人って何ですか 何をもって大人になるんですか 社会の中でいう大人の区分になりました …が、イマイチ実感がありません 年齢としての大人なのか 精神としての大人なのか 何が養われたら大人になるのか 私が思うに、本当の大人って存在しなくて ・みんな子供でしかいられないんじゃないか ・大人という役を演じているだけなんじゃないか と、思うんです だから、ずっと無邪気で純粋な心と頭を維持し続けられる人間になれると幸せなんだと思うんです (完)

キスシーン

私の書くキスシーンはきっと、陳腐で幼稚なものだと思う。 そもそも、キスシーンをあまり書くのが得意ではない。それ以上も然り。 端的に言うと、経験がないのだ。 経験がないなりに、色々考えて書いているのだが、現実味がない。 そりゃそうだ、経験がないんだから。 彼らは何を思ってキスをするんだろうか。 キスはどういった心理効果をもたらしているのだろう。 私は生まれも育ちも日本故、恋人関係以外とはそういうことはしないんだろうなぁ、という漠然とした良識を心得ているくらいで、もっと言えば、チークキスのようなフランクなキスを一体どういう気持ちで行っているかなんて最早、ファンタジー小説と同じような位置付けに当たるだろう。 私は雰囲気でキスシーンを書いている。 これが雰囲気じゃなくなる日が来ればいいとは思うのだが、イマイチ己のキスシーンは想像できない。 私は、どんなふうに呼吸をして、どんなふうに見つめ合うのだろう。 蜜の味を知らなければそれを欲さないように、私もきっとキスの味というものを知らないから大して欲していないのかもしれない。 あー、キスしたい。

世直し

 夜のスーパーマーケットに、中年の女性の客がいた。彼女はお惣菜のコーナーで立ち止まった。彼女の目の前にはパックに入った焼き鳥が置かれていた。彼女はスマホを取り出した。スマホには、小鳥の写真が表示されていた。彼女のペットの小鳥らしかった。彼女はその小鳥の写真と、目の前の焼き鳥を交互に見始めた。しばらくそうしていた。そこへ、店員がやってきた。店員は、彼女の目の前の焼き鳥に、半額シールを貼った。次の瞬間、彼女がその店員をビンタした。

正しいお釣り

「すんません。なんか、レジ故障してるっぽいっす」 「え?」 「七百七十円に千円出して、お釣り二百三十円っておかしいっすよね。ちょっと上に確認して来ます」 「え?」    何がおかしいのかわからなさすぎて、ぼくはしばらく固まった。  若い店員はコンビニの奥へと引っ込んでいき、店長を呼んできた。  レジに映る数字を見た店長は、うんざりとした表情で若い店員を見た。   「いや、間違ってないよ」 「ええ? だって、二百三十円っすよ?」 「千引く七百七十は、二百三十。ただの引き算だよ」 「店長、計算間違ってます! 十から七ひくんだから、三百三十っすよ!」    最近、こんなことが増えた。  公立の学校なんていらないと人々が私立を選び続けた結果、公立の学校が軒並み閉校。  残された私立の学校は、全ての生徒の平均点を挙げるより、勉強ができる生徒をどれだけ良い学校へ進学させるかに終始した。  結果、義務教育で学ぶ内容がわからない大人が、大量生産された。   「だーかーらー! 二百三十でいいんだって!」 「絶対違うっす! 三百三十っす!」    そのしわ寄せは、ぼくたちの日常にやってきた。  千引く七百七十の正しい答えを教える方法を、ぼくたちは習っていない。    学歴社会の成功側に行くことができたぼくは、説得する言葉を持たず、ただ無意味な時間を眺めて過ごした。