人間の細胞は、絶えず変わり続けているらしい。 そして、七年でほとんどすべての細胞が入れ替わる。 ほとんどすべての細胞が入れ替わるなら別人じゃないかと思うけど、私の意識は連続しているので、そう単純な話でもないらしい。 実際、周りの人も私が誰かわからなくなったりはしない。 「SNSの名前とアイコン変更っと」 なら、きっとSNSでも同じこと。 ドットをほとんど全部入れ替えたけど、皆私を見つけてくれるはずだ。 垂れ流した投稿は変わらない。 私という中の人は変わらない。 『誰かと思ったw』 さっそく、私が私として認識された。
無自覚に、今日もひたすらに秒針を回した その代償に、スマホのバッテリーおよび自身の視力を浪費した 理由もなく、果てしなく、ネットという水平線の見えない海をサーフボードと化したスマホを使い遠泳した そこに大義はなく、無駄という言葉しか当てはまらない だが、きっと明日もこの遠泳をするのだろう 昨日も泳いだのだから… 遠泳は時間の無駄でしかなく、一刻も早く足のつく場所へ辿り着かなくてはいけない だが、荒波によりサーフボードはどこまでも泳いで行ってしまう 私は、自らを一種の依存状態に溺れていると悟った 私はこの遠泳に終止を打つため、ライフセーバーを呼んでいるが、中々に救助が来ない 貴方も溺れているなら共に陸地へ向かいませんか? 私と共に依存状態から這い上がりませんか? (完)
早朝の吉野家で牛丼を待っている ウォーリーとユウ 昨晩は朝まで呑んでいて、今はその帰りである 先週、お笑いコンテストがあり、初めて二回戦にのし上がった二人は、客を入れての審査会場に圧倒され、大きく振りかぶって、スベった。審査結果を聞くまでもなく、クスリともしない五分間を会場の皆と耐えた事実が「もうええわ!」と言っていた。 ただ、舞台をハケた後、一緒に出場していた芸人達が 「面白かったよ」 「あんなにスベってる芸人初めて見たぜ」 「客の好みが違っただけだから。たまたま全員」 「声は出てたで」 とウォーリーとユウの事を気に入ったらしく、そのまま居酒屋へ行く運びとなった。どうやら彼等は万年予選落ち仲間らしく、「おや、あそこに仲間がいるぞ」とウォーリーとユウを誘ったようだった。 そして、今は朝の八時、家の近くの吉野家で牛丼を待っている。カウンターに二人で並んで。 「あいつら…」 「えっ?」 「あの芸人たち、面白えな」 「うん、楽しかった」 「売れない芸人も色んなやつがいるんだな」 「うん。そうだね」 青い湯呑みに入ったお茶をすする 温かいお茶が体に染み渡っていく 「僕のネタは面白くないのかな」 「いや、ユウのネタは面白いと思うけどな。ただ、なんていうか…」 「経験かな」 「それだ。それだと思うよ。俺たちには経験が足らない」 朝の吉野家は半分くらい席が埋まっている。ほとんどがこれから一日の仕事が始まる人たちだ。スーツや作業着を着た人、女性も少しいる。 ウォーリーとユウは社会から弾き出されている気がして、不安で気が狂いそうになるが、二人はお互いの事を思って不安を口には出さないでいた。 二人は客席から目を逸らすためスタッフの様子を眺める 店内にスタッフは女性二人だけ。フロアと厨房に各一人。 流れるような動きで次々に作業をこなしていき、客席の皆は上手い飯を食べ、満足して帰っていく。 その様子はプロの漫才師が舞台の上でボケる度に確実に客席を沸かしていく姿と重なって見えた。 ウォーリーは店員に目を向けたまま言う 「いつか俺たちも、あの二人みたいにさ…」 ウォーリーは不安そうな顔でユウの方に振り向く。 「牛丼作れるかな?」 「知らねえよ!」
絵描きはデッサンの手を止めた。モデルである女性の口紅は赤色だった。だが赤というにはどこか安直であり、かと言って赤以外には表現出来なかった。絵描きは女性に尋ねた。「貴女のその口紅、それは何色かを教えて頂きたい」女性は微笑んで言った。「トマト色かしら」絵描きの手は再び動き出した。
彼は私の永い生の中に現れた唯一のひとでした。 暗い夜道に突如空に昇った星でありました。あてどなく歩く道を、もしやもう違えてしまったのではと不安に震える道中に、そこを目指せば良いのだと私を駆け出させる希望の火でありました。 実際には彼は隣にいて、いつでも私の手を引いてくれたので、旅人の星に喩えるよりは、掲げるランタンの方がいいのでしょうか。 ああ、遠すぎて温度の分からない星よりは、ランタンの方がうってつけかもしれない。彼の隣は温かかったのです。どんなに寒い冬の雪の日も、普段と変わらずに。 私は彼から多くを学びました。気遣いやら、笑わせ方やら、愛し方を。彼と同じにはできはしませんでしたが、彼のその様はたいへん、うつくしかったのです。全部、彼の言う愛によるものでありましたから、それを持たぬ私は、彼から見るこの世界はどれほど輝いているのだろうといつも不思議に思っておりました。 我々はどうやら同じものを見ることはできないのだ、と知ったのは、彼はとうに気付いていたのかもしれませんが、少なくとも私が知ってしまったのは、もう戻ることが叶わぬほど歩いた後でした。 歩き始めた地点はおろか、一度一人分が途切れた足跡の痕跡も見ることが叶わぬほど遠くまで来てからでした。 彼は変わらず私の手元にありました。この先どうしよう、と彼は決して言いませんでした。振り返る素振りすら私の見ている前ではしませんでした。 不安とともに私の手を握る掌に、ここに来てようやく、彼も私と同じくして、道を知らなかったのだと気付いたのです。 二人して道を失いましたが、私は別段悪い気はしませんでした。思えばここまで既に散々迷い、何故この彷徨い歩いた果てに、私の望む場所に、彼が連れて行ってくれるのだと疑うことなく信じていたのだろうと今更おかしくなったのです。 悪い気はしませんでしたが、悪いことをした気にはなりました。何故同じになれないのだろうと、苦しむ彼をずっと、隣で見てきたからです。彼は星でなくランタンでした。 連れ歩いたのは私です。
リサイクルショップに行った。ジャンク品の棚があった。何気なく眺めていると、隅の汚い箱の中に、派手な色の何かが入っていた。それは千羽鶴だった。手に取る。安い値段が書かれた値札の下に、注意書きが貼られている。『効き目ありません。』私はそれを買って、義母が入院する病院へ向かった。
たまにお守りが欲しいなって思う 何もかも上手く行っているときに。 こちらから望んだ幸せではないのだけれど 何だか皆が優しくて皆が声をかけてくれて そんな時に不安になる 僕は何も出来ないから 僕は何も持ってないから たまにお守りが欲しいなって思う 曇り時々雨の一日 夕方には空の向こうに青空が見えていた 夕飯を食べていると左目の奥が痛くなった。いつもの頭痛で痛むとこ。 妻が薬を飲むか聞いてくる 僕は何も言わず左目を押さえて何も言わない。考えている。寝る前に飲むか今飲むか。 「もう飲んじゃおうかな」と答えると 妻がお酒を出してくれた 夕飯が出来たので2階から1階に降りる前 2人きりで部屋で 一度だけ 少しの間 ぎゅっと そんな時間があった 1階に降りる階段で妻の後ろを見ながら お守りが欲しいなと呟くと後ろを振り向いた妻が 「たまに言うね。それ」と笑った
美容室で、おばさんがパーマをかけている。おばさんは何かを読んでいる。それは遺書である。美容室の隅に棚があって、そこに『遺書』と書かれた封筒がずらりと並んでいる。どうやらこの美容室では、雑誌ではなく遺書を置いているようだ。おばさんは適当に遺書を流し読みしていたが、ある箇所でふいに真剣な表情になる。それはビルの屋上から飛び降りたあるおじさんが遺した遺書だったが、ありきたりな文章の中にふいに『お母さんのカレー』という言葉が出てきたのだ。そこへ美容師が通りかかった。「それ、いかにも男ですよねえ」おばさんにはその言葉の意味がわからなかったが、おばさんは曖昧にうなずいた。施術が終わり、美容室を出たおばさんは、スーパーに立ち寄り、パック寿司を買った。今朝、一人息子には、夕飯にカレーをリクエストされていたのにだ。
緊急脱出用小型宇宙船に乗って操縦席に座っている 宇宙船にテロが起こり制御コンピューターを破壊されてしまった 宇宙船は宇宙のゴミとなり永遠に漂う 酸素供給が停止するアラームが鳴り、近くにいた子供と急いでエスケープしたのだ 操縦席に座って座標を確認すると、巨大な恒星の重力圏内に向かう起動だ パネルを叩きどの設定にしてもエラーになってしまう 子供は今まで自分の住んでいた宇宙船を窓から眺めてはしゃいでいる 焦りと困惑で汗が止まらない 過度な緊張のせいかあくびが出る 後五分もすれば恒星に引きずり込まれる 手動運転に切り替えたいが画面がフリーズして動かない 強烈な眠気が襲う。子供は既に眠っている 目が覚める 頭が重く意識が朦朧とする どうやら夢を見ていたようだ この惑星に着いてジープに乗って森に来たところまでは覚えているが、そこから記憶がない。 「お目覚めですか?デイズさん」 ジープのコンピューターが話しかける 「この森には有毒ガスがあるようです。かなり強烈な」 「俺は直ぐに死ぬのか?」 「いえいえ、調べたところ幻覚や意識障害といった程度で直ぐに死ぬほどではありません。数分はもちます」 「数分は直ぐだろ!…とにかく今直ぐに引き返そう。サンプル採っとといてくれ」 ジープが有毒ガスを吸引しながら宇宙船へ引き返す これは後で医療班に聞いたのだか、後、五分もすれば致死量に達していたらしい。調査隊としては実験体として良い仕事をしたが、やっぱりあのジープはどうかしてる。俺があそこで死んでいても「デイズさーん、心肺停止してますけど死んでますかー?」と聞かれそうだ。なぜ誰も文句を言わないのか。まぁ俺もそうだけど。面倒を起こして肉体労働に回されでもしたら、それこそ地獄だ。 有毒ガスの事を嫌味たらたらと環境調査部に説明をしたが、ロボ隊の調査の時はそんなガスは検知されなかったと言う。 「そんなはずはない。俺は死にかけたんだぞ」と言っても、寝不足気味のメガネくんは気の毒そうな顔をするだけだった。 デイズはガスで眠っている間に見ていた夢の話をこのメガネくんにしようとしたが、思いとどまり、言わずに環境調査部を後にした。あの子供は誰だったのだろう
雨の夜だった。会社からの帰り道、歩道橋を歩いていた。前方に人影が見えた。その人は傘もささずに、歩道橋の下を流れる車列を見ていた。俺は近づいていった。気になったからだ。案の定、その人は、水に溶ける性質の人だった。しかも若い女性だ。強くなる雨の夜に、傘をさしていない。事実、彼女の体は雨水に溶け始めていた。「これ」俺は彼女の傍に立ち、傘を差し出した。「どうぞ」彼女はぼんやりした目で俺を見つめ、傘を受け取った。俺は走って家に帰った。翌朝、目覚めると雨は止んでいた。俺は晴れた空の下を歩いていた。歩道橋の近くに来た。歩道橋のすぐ傍に児童公園がある。俺は何気なくそちらに目をやった。公園の小さな水道の足元に何か置かれている。それは花束やジュースやお菓子だった。この水道の水で誰か死んだらしい。俺は昨夜の女性を思い出した。まさかな。俺はとりあえず手を合わせようとした。その時、背後に気配を感じた。
電車に乗るには、クレジットカード。 自動販売機でジュースを買うには、クレジットカード。 コンビニでご飯を買うには、クレジットカード。 色んなキャッシュレス決済の方法が駆逐され、今ではクレジットカード一択だ。 現金なんて、もはやコレクターの産物。 しかし、クレジットカードには欠点がある。 未成年は作ることができないことだ。 親が家族カードを作ってくれなければ、私はクレジットカードを持つことができない。 「遊びに行こー! 隣の駅集合で!」 「オッケー!」 だから私は、何もできない。 電車に乗ることができないから、友達と遊びに行くこともできやしない。 「ねえ、私もクレジットカード欲しい」 「まだ早いよ」 ねえ、お父さん。 ねえ、お母さん。 もう、お父さんとお母さんが子供だった時代じゃないんだよ。 「はい、お小遣い」 こんな現金貰ったって、おはじきか折り紙にしか使えないんだよ。
『 きいすうこ うぽんぜはらか すましくそかに 』 (子女)照参ツタ二
一般向けじゃ無いものに惹かれるお年頃 マイノリティのその先へ アングラ世界のグロさに吐き気を覚えて アングラ世界の珍美に心を奪われて 大衆に認められたアングラは穢れて廃れていく いや、それで良い 良さが伝わらないから良いんだ 一般向けなんて、クソ食らえ 抱えきらなかった感情をアングラで掬って 癖の強い表現をこの身で肯定して リアリティのその先へ 共感を投げ打ってでも、この世界に残したくて 絶版を作家根性の絶景にして 一般向けじゃ無いものに惹かれるお年頃 アングラ世界のグロさに吐き気を覚えて アングラ世界の珍美に心を奪われて (完)
『 うゅし (くろうゅじ) きーいだ、んてずすくか いぱ(ん)しきて 』 クンリ図も 加追を
エンドロールが終わって、劇場の外へと歩みを進める。先ほどまで見ていた映画がどうだったとか、この後に彼女と話す内容を考えておく。 そうだな……まあ面白い映画だった。僕は評論家でもなんでもないし、あまり大したことも言えない。それでもただ一つ言えるのは、物語の中に入り込んでしまったことだ。そんな没入感さえあれば、あの映画は面白かったと言えるだろう。 丁度良いテンポも勿論、終盤の急展開は何度でも思い出せる。目まぐるしく変わる場面の一つ一つが、僕を飽きさせなかった。 「面白かったね」 彼女が口を開けて放った第一声。映画を見た人の多くは真っ先にその言葉を口にするだろうが。 「うん、そうだね。終盤とか、予想外の展開過ぎて」 「わかる。次から次に情報が押し寄せてくるっていうか、とにかく飽きが来なかったみたいな感じ?」 よかった。彼女も同じ感想だ。このまま、幾分かは話を続けられそうだ。 そうして僕らは、近くのレストランで食事をしながら映画について語り合った。 _ 「じゃあ、僕はこっちだから」 「うん」 未だ冷たい空気が肌を撫でる。熱を纏っていた頬も、風に当てられて気付けば冷たくなっている。やっぱり、いつになっても別れは惜しい。 少し離れた背を見つめながら、僕は何かを思い出す。 それは、何も変わらない友人関係のはず。 同じ一室で同じ映画を見る。それはもう何回も、繰り返しているはずだった。ただの部活仲間のはず。それなのに、何か変な気持ちがつっかえて僕の声を離さない。 去って行く君の背に、僕は 「あ、あの」 ……引き留めてしまった。このあとにどうすればいいのかは、どうしたいのかは、僕が一番わかっている。それなのに、上手く言葉が出ない。 目の前の彼女に、伝えるんだ。 その気持ちのまま、僕は口を開こうとした。 ヒュッ、と何かが風を切る音が聞こえる。 「な、何だ!?」 音のした方を見ると、何かが飛んできて金属製の手すりに当たった。よく見てみればそれは、手裏剣のような形をしている。 シュバババババババッ そんな擬音で表せそうな感じの素早い動きで、人影が僕の前に現れる。その人は、真っ黒い布で全身を覆っていた。 「誰だお前は!?」 待っていたかのように大きく息を吸って、その人は話し出した。 「拙者は忍者!忍び忍んで、闇に隠れる者!」 そして再び素早く動き、気付いたころには息を切らしながら僕の背後に立っていた。 「はあ……はあ……はあ、どうだ、はあ……俺、じゃないや、拙者の動きは!」 「お、おお、す、凄いです……ね?」 「は、はははは……そうだろう」 「全然忍んでなくないですか……?」 彼女がすかさず口を開いた。 「……」 そのまま何も言わずに、忍者は去って行ってしまった。 一体、何だったのだろうか。
『 “ 些 一 了 齐 対 女 彼 / 加 ( 料 描 / 葉 言 ) 几 个 〜 进 縮・は ( イセラスとラツミヤ ) ょじのか ( ばとこ/ りいか ) かつくい 。たしましかいつーつれいせゝ を 。{ ’ゃしくゅし‘ } , ルイてうょし 。정 지 은 작 ; ( 섳 솰 , 홓 튼 ) 는 녀 그 ’ 몇 ﹆ 지 가 ( 를 어 단 ) 렬 정 , ‘ 칭 ( 슈 ) 약 ’ 。 ” 』 { 「」} れそゴョヒ き好が
たまに、(自分はちゃんと生きられているのか)と不安になる。勿論、ちゃんとなんか生きられてはいないのだが、そうではなく、そういう事ではなく、人として、大人として、親として、夫として、最低限の行動が出来ているのかと不安になる。 法に触れることはしていない。いや、たまに信号無視や、横断歩道を渡らない、女性が泣いていても声をかけない、なんて事はたまにある。が、無闇矢鱈に自分の不機嫌を外に出さないとか、挨拶をするとか、愛想笑いをするとか。日々、少しでも、善良に生きる事を実行しているのかと自分に問いかけてしまう。そんな日がある。 街を歩いていると、肩で風を切って歩く若者を見たりするが、彼が一生あのままでいられないことを私は知っている。彼が結婚し子供を持つ頃にはもう少し普通になっている。また、自分を変えられないのなら、家族から弾き出されるだけである。もう少し言えば、町内からも弾き出される。妻や子供を持てば自分という存在は家族というチームの中の一人になる。周りはそんな目で彼を見て、自分達の過去と比較し、正常か異常かを判断するのだ。 誰でも若いうちは世間に対して自分のズレは気が付かない。社会に放り出され莫大な情報に圧倒されるからだ。転生と言っても良いほどに。だがラジオのチューナーが徐々に合わさり声が明瞭になるように、歳を重ねれば重ねるほど世界が見えてくる。自分の足元から延びている光の道が見えてくる。 近所の道路脇にさりげなく梅が咲いている。ほのかに良い香りが記憶に残る。通りをスクーターが孵化しながら通っていく。ハンドルを細かく捻り、ガゾリンを非効率に爆発させ、大きな音を自分の威厳と同化して楽しんでいる。何十年も前から変わらぬ作業だ。そして梅もおそらく何千年も前から変わらぬ作業で花を咲かせるのであろう。 私も梅のようにさりげなく咲き、ほのかに良い記憶を残していきたい。
『 “ … ’ 別 类 / 類 ‘ ♤ 下 到 上 从・’つべる‘ たしろたい ; 例・ゟいれ : いすーウょぎのえう 、 ちつ (うど) と (か) ひーウょぎのたし 。いたんぶーとんしヽめびすむ ’そんげ‘ ; ‘ 벗 리 ‘ 서 에 〜 위 로 래 야 。 … ” 』 📕 ) きてじも つさんい(どょし)
私が結婚してから初めて、母が、私たちの家に遊びに来た。その時に母に色々な話をした。それを母は静かに聞いてくれていた。数日後、母が実家に帰った後、夫が仕事に出かけ、片付けをしていると、テーブルに何かが置かれているのに気づいた。それは一枚のメモと注射器だった。メモには母の字で『がんばって』と書かれていた。注射器には懐かしい色の液体が入っていた。私は腕まくりをして、その液体を注射した。やがて楽しい気分になってきた。世界が輝き始めた。「がんばろう」と思った。
『 “ 子 粒 法 语 、术 用 常 ー 始 开・しょじきてうぽんぶ ごうつょき るめじはが ; かついく﹆ ‘ いめ ’うと‘ し(くふ) ’ 。지 리 파 유 、( 수 ) 어 용 통 공 / 챵 ‘ 시 캐 〜 작 시 。 ” 』 📖 こんぶ
『“ んゃち/ んさーこった ( ミノコョチ、カモゝハユイ )〜るあのきびひ ‘ キんで ’ はいせに、(トオキゝ/ ごき)んおんぶんし (うょち)てー 。 ” 』 🎹
『 “ れつはて (ぴうょし) 笔小お 、〜ゃし心初のコクピ… はでれそ ; るきふがヽきか (え) ゑ ➖ わお 。 ” 』 ☆〜(ゝ。∂)
『 “ 寫 子﹅潛 ー 上 轴 巻 在 ( 文 序 ) 笔 水・( イセらす ) のかっさーなペふ ( んぶょじ) 。すまりあ にみかゝくじは ; みこきか ーツミんてげうこ 。” 』 ょしくさ とれま
『 “ 模 的 座 星 、 ( 一年前的描 )・しかたぎのざいせ (いんねえまてくか) たみせさ〜ないこっかは ; たまキてうぽんぶ (きり) 。 ” 』
世間はなんて狭いのだろう? そう思いながら、私は彼の携帯番号を着信拒否し、SNSはすべてブロックした。メッセージも一緒に撮った写真もすべて消去し、彼との思い出はなかったことにする。 それは、別れた恋人に対する、自分なりの思いやり。でも、実際はどうだろう? 彼が傷つく言葉をぶつけ、口汚く罵り、関係を終わらせた。彼は最後まで歩み寄ろうと、寄り添おうとしてくれたのに、私はその優しさを突き放し、踏みにじったのだ。結局、私もあいつと同じサイテーな人間なんだと自嘲する。 恋人だった彼とは、アルバイト先で知り合った。母子家庭で、幼少期は結構大変な生活だったらしい。しかも、彼の母親は結婚の話まで出ていた相手に妊娠を告げた途端、ひどい裏切りにあったという。途方に暮れながらも懸命に働き、彼を育ててきた母親には畏敬の念を覚えた。彼も、そんな母親を精一杯支えたいと話していたのを覚えている。 その境遇を聞いた私は、なんて酷い父親なのかと憤怒した。辛うじて認知はされたが、養育費の支払いは一切なかったらしい。 私はこんな親になるまい、夫婦で支え合う家庭を彼と築くのだと心に誓った。 けれど、彼の父親と私の父の名が同じだと気付き、互いの父親が同一人物だと知った。そしてある日、父は酒の勢いで、武勇伝のように語ったことがある。自分の子を妊娠した女を捨てて、今の家庭を築いたと。 彼と私が異母兄妹なのも問題だけど、それ以前に父の所業は許しがたい。彼だって、こんなヤツの娘と恋仲だったなんて、一生の汚点だろう。 だから……この想いが汚れる前に、私たちは別れるしかないんだ。
コロッケは、わたしの手のなかで冷たくなってしまった あたたかかったコロッケ、タカキが買ってくれた チョコのお返しらしい 思ってもなかったことに、タカキはいくつかチョコをもらっていた へえ、やるじゃん 突然に想定外の女の子のかげ わたしは思いのほか、思いのほか ふうん、そうなんだねえ タカキは、わたし以外の子からもらったチョコ たべるかあ、たべるよねえ ・ ・ ・ 高校に行ってもタカキは野球を続けるらしい そのことに安心し、けど、胸が痛くなる 野球を続けても、練習をいくらがんばっても タカキはたぶん、レギュラーには、なれない ・ ・ ・ 冷たくなったコロッケは、帰ってからあっためるとして ちょっと本気、出しちゃうかな そういう未来もあるのかな
moiikagenisirodoitumokoitumokutibak aritokuniwatasinosyuhasuunitasukera retaseijikadomokanahahaemoutemeeran odougamokyozetusurusakakyubindekane okurejyanaitozenbunodougakyozetusur ukonoatootanosimini
田中アキラ、41歳、独身。 高校で歴史を担当している。つまり学校の先生だ。 年期の入ったアパート「アメリカ」の101号室が先生の部屋である。 無駄なものは何もなく畳の部屋に畳んだ布団、電子ジャー、充電中のタブレットがあるだけだ。 押し入れにも服が数セットあるだけである。 隙間風で目を覚ます冬の朝 「おはよう。先生」 田中先生が茶碗にお米をよそっていると、半同居人のジョージが窓から入ってくる 田中先生は慣れた様子でお絞りでジョージの足を拭く 「今朝は一段と冷える」 田中先生に慣れた様子で足を拭かれているジョージ 先生は食卓に乗った焼き鮭を半分千切ってジョージに渡す 「鮭か、まぁ頂くとしよう」 田中先生はジョージのため息は聞こえないことにして朝食を食べていく 「先生。今日の授業は」 「猫に言っても分かんないでしょ」 「分からない者に教えるのが教師ではないのか」 「まぁ確かに。今週はフランス革命ですね」 田中先生は食器を洗いながら、猫の質問に答えていく。後30分したら家を出なければ間に合わない。今朝は曇っているので洗濯は帰ってきてからランドリーに行くことにする。 田中先生は「コインランドリー」とマジックで書いたジップロックに300円を入れ洗濯籠の上に置く トイレに入ってスタブレットでニュースを見てると、ドアの向こうでジョージが言う 「フランス革命とは何か」 「王様に怒った人達が王様を倒したんです」 「王様は偉いんじゃなかったのか」 「悪い王様もいるんですよ」 「そうか、そういうものか」 「そういうものです」 「人間はよく分からんな」 「猫の様に可愛くないのでね」 「聞いて損したな」 「言って損しました」 タブレットの時間は30分を過ぎている 「ヤバイ!」 トイレを済ませ、身支度を急ぐ 田中先生は寝癖のまま玄関を出ていく 「行ってきます」 「うむ。達者でな」 「外出るとき窓閉めてくださいね。じゃあ」 ジョージは畳んだ布団の上に飛び乗りそこで丸くなる。目を閉じたその奥で言葉が浮かぶ 「悪い王様とはどんな王様のことなのか…」 ジョージはその日、ライオンになった夢を見た
電車に乗っていた。吊革につかまって立っていた。目の前の席に女性が座っていた。スマホをいじっていた。スマホをいじる手の指に、指輪がはめられていた。その指輪には白い物が付いていた。最初は真珠かと思った。だがそれはよく見ると錠剤だった。さらによく見ると、精神安定剤だった。俺が服用しているのと同じ精神安定剤だった。「ふうん」と思っていた。そうしたら、女性が、スマホを見ながら、突然笑い出した。初めは小さな笑いだったが、だんだん大きくなっていった。周りの乗客たちがそれに気づき始めた。そのことに気づいた女性が、慌てて、指輪から精神安定剤を取り外し、それを飲み込んだ。女性の笑いは収まっていった。その一連の動きの中で、ちらりと女性のスマホの画面が見えた。動画が流れていた。外国の路上で、外国人が外国人に一方的に暴力を振るわれている動画だった。「ふうん」と思った。
今日は同じクラスの宮下さんとマックに来ている 僕は十七歳にして初めて女子と二人きりで出かけている どうしてこうなったのか。 あれは昨日の話である 二時間目と三時間目の間の休憩時間、トイレに行こうと席を立とうとしたら前の席の宮下から話しかけられた。 「千知くんはインスタやってる?」 僕はSNSは苦手なんだと言うと私もなんだと答えてきた。 詳しく聞くと、友達にインスタのストーリーを上げたから見てみて、と言われたがインスタをやっていない宮下は何のことか分からず、空返事をした。 どうにかアプリを入れずストーリーを見ようと試みたが、上手く行かず、困ってしまって僕に聞いたらしい そこから、なぜか僕が趣味で書いている小説に話が流れ、宮下が思いのほか興味を持った。もともと本が好きなようで、知り合いが書いている小説とくれば興味津々らしいのだ。 その日の夕方、ラインで小説を送ると「この小説について詳しく聞きたい」と返信があった。どう返したものだろうかと考えていたら「明日会える?」と短い文。 無意識に「いいよ」と送っていた 今、目の前に宮下がいる 宮下はテリヤキバーガーのセットを頼んでいた。テリヤキバーガーを食べる度に口の端に焦げ茶のテリヤキソースがくっついて、それを宮下は丁寧に拭く。制服姿とは違い、黒いワンピース姿でワンピースのアチコチに黒いレースがあしらわれている。少し大人びて見える宮下は美人だ。薄く化粧もしている。 肩までの髪は緩くパーマがかかっているようでその様子が僕の知っている宮下とは別人に見えた。僕だけしか知らない宮下を見ているようで、頭が熱かった。 「千知くんはいつ小説書いてるの?」 「えっと、いつ?いつ?…暇な時とか」 「そうなんだね。すっごく面白いと思う。このミステリー」 「あ、ありがと」 バーガーを食べ終え、ポテトと飲み物を交互に口に入れていく。宮下はポテトを一本ずつ摘み、丁寧に食べていく。僕がバカみたいに見とれていると、宮下も気がついたらしく、ニコリと微笑み返す。 その時宮下が持っていたポテトが手からすり抜け床に落ちた 宮下は申し訳なさそうに前かがみになりポテトを拾う 宮下の黒いレースのワンピースの胸元が大きく開き宮下の胸の谷間が見えた 薄暗い服のなかで白い肌が陰っていて、その先の深い谷間が強烈に脳裏に焼きつく。直ぐに目を反らして、今見たことは忘れようとしてみる 「み、宮下も本好きだったんだな」 「遥でいいよ。うん、うちはお母さんがいないから小さい頃からずっと本読んでたかな」 「うちは父親がいないよ。片親だとそういうものなのかな?ハハハ」 宮下は何か言おうとしていたがやめたようだった。宮下は拾ったポテトをティッシュに包む。 宮下はアイスコーヒーを飲み、僕はコーラを飲み干す。 「千知くんのお母さん美人だよね」 「そうかな?って何で知ってんの?」 「この間車で送ってもらってたでしょ。私、たまたま見かけて千知くんに手を振ってたけど気が付かなかったみたいで、恥ずかしかった。フフフ」 「ごめん。気が付かなかった。たまにうちの母親そういう事をするんだよね。歩いて十分で着くのにさ。ハハハ」 宮下のテリヤキバーガーセットは食べ終え、コーヒーも飲み終わったようだ。僕のビッグマックセットはとっくに空である。 そろそろ帰る?と言いたくなかった だけど、どうしていいかも分からず、気が付けば「そろそろ帰る?」と言っていた。 店を出て、別れる 「千知くん話しやすいね。私ばっかり話しちゃってごめんね」 「あっ全然大丈夫だよ。楽しかったね」 僕は宮下が何を話していたか全く覚えていない。宮下と二人の時間を緊張で過ごしていた 「またマック行こうよ」 「うん。またマック行こう」 「あと、あんまり女子の胸元見ちゃダメだよ。フフフ」 「えっ、いや、僕はただ…」 「大丈夫だよ。私そういうの慣れてるから。じゃあね」 「あ、うん、じゃあね」 宮下は歩いて帰っていく。 宮下は胸元を僕が見たのを気が付いていた。めっちゃ恥ずかしい。 私そういうの慣れてるからってなんだ? 気にしないってことか? 僕の意思とは別に勝手に宮下の胸元がよみがえる 家に着くまで全速力で走って帰った。
穴に落ちた。 すっごい深い穴に落ちた。 どれくらい深いかと言うと、両手を伸ばしてジャンプしても、脱出できないくらい深い穴だ。 「だ、誰かー!」 穴の外に向かって思いっきり叫んだ。 何人かは穴を覗いてくれて、私と目が合った。 しかし、言うことは皆同じ。 「まあ、多様性の時代だしね」 「穴の中で生きる人がいてもいいよね」 「人は人、私は私」 誰も手を差し伸べてくれない。 私は一生穴の中にいるしかないんだと気づいたとき、私は現状を個性と呼ぶ覚悟を決めた。
大人って何ですか 何をもって大人になるんですか 社会の中でいう大人の区分になりました …が、イマイチ実感がありません 年齢としての大人なのか 精神としての大人なのか 何が養われたら大人になるのか 私が思うに、本当の大人って存在しなくて ・みんな子供でしかいられないんじゃないか ・大人という役を演じているだけなんじゃないか と、思うんです だから、ずっと無邪気で純粋な心と頭を維持し続けられる人間になれると幸せなんだと思うんです (完)
私の書くキスシーンはきっと、陳腐で幼稚なものだと思う。 そもそも、キスシーンをあまり書くのが得意ではない。それ以上も然り。 端的に言うと、経験がないのだ。 経験がないなりに、色々考えて書いているのだが、現実味がない。 そりゃそうだ、経験がないんだから。 彼らは何を思ってキスをするんだろうか。 キスはどういった心理効果をもたらしているのだろう。 私は生まれも育ちも日本故、恋人関係以外とはそういうことはしないんだろうなぁ、という漠然とした良識を心得ているくらいで、もっと言えば、チークキスのようなフランクなキスを一体どういう気持ちで行っているかなんて最早、ファンタジー小説と同じような位置付けに当たるだろう。 私は雰囲気でキスシーンを書いている。 これが雰囲気じゃなくなる日が来ればいいとは思うのだが、イマイチ己のキスシーンは想像できない。 私は、どんなふうに呼吸をして、どんなふうに見つめ合うのだろう。 蜜の味を知らなければそれを欲さないように、私もきっとキスの味というものを知らないから大して欲していないのかもしれない。 あー、キスしたい。
病院で会った娘にサドル盗んでいい?と聞く。 サドル?と怪訝な顔をされる。 サドルを持っていくポーズをすると少し笑う。 このさいだから僕は変質者と思われてもいい。 隣の元カノと仲良さそうに話しているのを見て気が抜ける。 別のおじさんと音楽の話を楽しそうにしていて心が嫉妬する。 しかし僕はあの娘の何者でもない。 心は盗めないものだな、と考える。 僕は誰の心を盗めばいいのだろう? 恋泥棒は唯一許される泥棒らしい。 世界の理。 夜中ポテチとノンアルを飲みながら明日買い物行かなきゃと考える。 何かやること無いと食ってばかりになる。 体重が3年前より5~6kg増えた。 痩せっぽちのあの娘にちゃんと食べれる?と聞いたら「平気です」と言われる。 痩せてる子は太らせたくなる。 いや強制はよくないが。 まずは僕が痩せて少しでも良い指導者にならねば。 セクハラ教師の夜は長い。
夜のスーパーマーケットに、中年の女性の客がいた。彼女はお惣菜のコーナーで立ち止まった。彼女の目の前にはパックに入った焼き鳥が置かれていた。彼女はスマホを取り出した。スマホには、小鳥の写真が表示されていた。彼女のペットの小鳥らしかった。彼女はその小鳥の写真と、目の前の焼き鳥を交互に見始めた。しばらくそうしていた。そこへ、店員がやってきた。店員は、彼女の目の前の焼き鳥に、半額シールを貼った。次の瞬間、彼女がその店員をビンタした。
高校の通学の為に、僕は学生と社会人の列に並び、電車を待っている最中。 ボーッとしていると、目の前で楽しげに、スマホ片手に通話する女性の声が耳に入ってくる。 小さく手振りしながら、大きな声で談笑する笑顔と、某小さくて可愛い感じのマスコットをあしらったスマホカバーが良く目立つ。 ふと僕は、女性の立つホームの黄色い線の内側、女性の足元に踏まれた、思いやりゾーンと書かれるそれに目を落とした。 思いやりゾーン、言葉の意味が曖昧だったので、スマホ片手に調べてみる。 「交通安全の確保、または公共施設での快適な利用を目的として、高齢者、障害者、妊産婦、子供連れなどの優先スペースとして設定される区域やエリアの呼称」 ふむ。 大体想像通りの意味合いだった。 けど僕は思う。 この女性は思いやりゾーンにいる資格があるのか? 今のところ、子連れや高齢者がいるわけでもないから別に何の問題もないこと自体は理解してるつもりだ。 けど思いやりという言葉は、簡単に言えば、他者への気遣いをする、と言う意味だと思ってる。 人の列の中で、軽く唾を飛ばしながら談笑する彼女に、他の人への思いやりはあるのか? 思いやりゾーンなのだから思いやりをする区域なんだろう? 勿論このゾーンにそういう意味合いは持っていなければ、単語をそのまま受け取りすぎ、と言われてもその通りとしか言葉が出ない。 そもそもそんなことを思うなら、思いやりゾーンにいる僕だって、この女性の会話をそれとなく注意することが他者への思いやりなのかも知れない。 結局、提唱した僕でさえ、この考え方で言えばこの思いやりゾーンにいる資格なんてないんだ。 うん、余計なことを考えちゃったな。くだらない。 そう思いに耽っていたらアナウンスを聞き逃したらしい。 もう目の前には既に電車が来ていた。 次々に僕を抜かして電車の中に人が入っていく。 僕へ怪訝そうな顔を浮かべる人も横目に映った。 すいません。 内心謝りながら、僕は思いやりゾーンを離れ、電車に身を移す。 電車に乗った僕は、スマホのボリュームを何段階か下げ、最近お気に入りの音楽を聞き始めた。 思いやりゾーンにはいないもんね。
年に一度、それはやってくる。 とってもめでたい日であり、生まれてきてくれてありがとうと心から思う日。 でもその日は、私をひどく落ち着かなくさせる。 誰と何を共有し、誰のためにその「生まれた日」を使うのだろう。 わかっているし、推測もできてしまうのに、 ソワソワと一日中、心が居場所を失う。 この日さえなければ、こんなに取り乱すこともないのに。 答え合わせをするまでは、あらゆる可能性を反芻する。 直視したくない現実だとしても、ここは「自分が選んだ座」なのだからと。 そう自分に言い聞かせなくては納得ができなくて、折り合いがつけられそうにないから、私は拒否されない座に居座った。 本当は、無条件に守られる座に座りたいと願いながら、 ただ近くに居られる理由だけを探して、その座に着いたのだ。 それでもやっぱりこの日ばかりは無条件にその時間を、当たり前に共有できる存在が、羨ましくて、仕方ないのだ。
「すんません。なんか、レジ故障してるっぽいっす」 「え?」 「七百七十円に千円出して、お釣り二百三十円っておかしいっすよね。ちょっと上に確認して来ます」 「え?」 何がおかしいのかわからなさすぎて、ぼくはしばらく固まった。 若い店員はコンビニの奥へと引っ込んでいき、店長を呼んできた。 レジに映る数字を見た店長は、うんざりとした表情で若い店員を見た。 「いや、間違ってないよ」 「ええ? だって、二百三十円っすよ?」 「千引く七百七十は、二百三十。ただの引き算だよ」 「店長、計算間違ってます! 十から七ひくんだから、三百三十っすよ!」 最近、こんなことが増えた。 公立の学校なんていらないと人々が私立を選び続けた結果、公立の学校が軒並み閉校。 残された私立の学校は、全ての生徒の平均点を挙げるより、勉強ができる生徒をどれだけ良い学校へ進学させるかに終始した。 結果、義務教育で学ぶ内容がわからない大人が、大量生産された。 「だーかーらー! 二百三十でいいんだって!」 「絶対違うっす! 三百三十っす!」 そのしわ寄せは、ぼくたちの日常にやってきた。 千引く七百七十の正しい答えを教える方法を、ぼくたちは習っていない。 学歴社会の成功側に行くことができたぼくは、説得する言葉を持たず、ただ無意味な時間を眺めて過ごした。
久しぶりの女子会で、私と佳奈は時間を忘れて呑みまくった。私と違って、家庭のある佳奈にとっては、羽を伸ばせるひと時なのだ。「今、何時?」と、唐突に佳奈が聞いた。「十二時過ぎ」「え、嘘、やだもう帰らないと」言うや否や、飲みかけのグラスビールを残して走り去った。「あんたはシンデレラか」
電車に女が乗っていた。女は大きな人形と手をつないでいた。人形の顔はのっぺらぼうだった。その顔には、油性ペンで『子ども』と書かれていた。周りの乗客が、女を哀れな目で見ていた。やがて女は、その哀れな目線に気づいた。女はジーンズのポケットから油性ペンを取り出した。そして、人形の顔の『子ども』の文字の上に『かわいい』と書き足した。『かわいい子ども』周りの乗客たちは女から目をそらした。女は誇らしげな表情をしていた。