文化の神の責任

ほら見て御覧何れこれも偽装結婚嘘の相方と 仲良しごっこ番組笑い差し込み必見に人気者 気取り観客席は微かな嘲笑い貴方もう限界ね 可哀想にエネルギーチャージしないとネジが 切れた人形の様ゴースト活動が楽しくて全部 忘れる有り様多分もう一生涯本当の姿見失い 変容し続け生きる道化師お疲れ様です悲しい 定めな器用貧乏かな違うスポンサーさん居た 筈貴方の様者に騙された哀れなスポンサーが 恩を足蹴にする者は2度お笑い王の羅針盤も 壊れて仕舞い誰でも無い素人の凄い者を演じ 自己満の中に消え失せる宿命さよなら偽善神

ふわふわ

 空を見上げた。雲が浮かんでいた。風が吹いた。その風のにおいを嗅いで、「ああ、神様、今日は柔軟剤を使ったんだな」とわかった。

データ系細胞分裂

 人間の細胞は、絶えず変わり続けているらしい。  そして、七年でほとんどすべての細胞が入れ替わる。    ほとんどすべての細胞が入れ替わるなら別人じゃないかと思うけど、私の意識は連続しているので、そう単純な話でもないらしい。  実際、周りの人も私が誰かわからなくなったりはしない。   「SNSの名前とアイコン変更っと」    なら、きっとSNSでも同じこと。  ドットをほとんど全部入れ替えたけど、皆私を見つけてくれるはずだ。  垂れ流した投稿は変わらない。  私という中の人は変わらない。   『誰かと思ったw』    さっそく、私が私として認識された。

友達を叩いて渡る

 友達ができたら、試すことがある。  耐久力だ。   「ほんと、馬鹿だよな」    日常会話の中に、少しずつ否定を混ぜる。   「またデブになったんじゃねえの?」    未来の自分が失言しても、縁が切られないかを確認するために。   「ダッサ。俺なら恥ずかしくて死んでるわ」    叩いて、叩いて、確かめる。    大抵、皆離れていくが、望むところ。  親友になる前に縁が切れれば、自分の傷も浅くて済む。  親友になった後に縁が切れることほど、辛いことはない。   「初めまして」 「初めまして」    今日もまた、一人と知り合う。  俺は心の中で、かなづちを振り上げる。

『 ’词 写 縮 ‘ ✳︎ 定 指 小 』

『 “ 些 一 了 齐 対 女 彼 / 加 ( 料 描 / 葉 言 ) 几 个 〜 进 縮・は ( イセラスとラツミヤ ) ょじのか ( ばとこ/ りいか )  かつくい 。たしましかいつーつれいせゝ を 。{ ’ゃしくゅし‘  } , ルイてうょし 。정 지 은 작 ; ( 섳 솰 , 홓 튼 ) 는 녀 그 ’ 몇 ﹆ 지 가 ( 를 어 단 ) 렬 정 , ‘ 칭  ( 슈 )  약 ’ 。 ” 』 { 「」} れそゴョヒ き好が

旅〜星の子〜

目の前に砂漠が広がっている 見渡す限り砂の大地に、ポツリポツリと小さな人が立っている 彼等は足元位のサイズで何もせずボンヤリと立っている まっしろなオオカミのルイは言いました 「ねぇキャロル。あの頭巾を被った子たちはどうしたの?」 お爺さん狸のキャロルが答えます 「彼等は星の子じゃ」 「星の子?星の子どもたちなの?」 「そうじゃ、空から落ちてきたんじゃろ」 キャロルは特別珍しいものではないと言い、砂漠をテクテク進んで行きます 「ねぇキャロル。あの子たちは、ずっとああやって立っているだけなの?」 「ずっとああやっている者もいるし、人になる者もおる、それこそ砂になるも者 もいる。どうなるかは彼等の好き好きじゃろう」 「そうなんだね。キャロルは物知りだね」 キャロルは、お爺さんだからなと言いました ij少年は星の子たちをよく観察していました 強い風が吹き抜けると、星の子は砂になり風に乗って舞い上がりました 砂になった星の子は高く高く舞い上がり、空の彼方へ消えて行きました 〜旅の記録、砂漠にて〜

憧れ (掌編詩小説)

『自分にしかできないことをしている人』になりたい 理由はこの世界に自分が存在した証明ができるから 具体的には、文や絵で自分が存在した証明を作りたい 自分の想像力を武器にして この世界を生きていきたいと思っている 最後に、『客観的に世の中を見れる人』であり続けたいとも思っている 自分の生きた姿勢・作品を後世に、残像のように残したい (完)

春はあげもの

朝から風が強いのは 春の証としては正当で 立派な一日のはじまりと言える 昨日、買っておいたとり肉で からあげをつくって ついでだからと 野菜もいくつか 揚げものへと変身させてしまった ああ、アスパラの天ぷら あの人と食べたアスパラの天ぷら お塩をちょいとつけて食べたあのおいしさったら 春はあげもの からあげも 野菜の揚げものも おいしくできていると よいのだけれど

睡眠不足

 僕は夢の中で、これが夢であることを祈り早く目を覚まそうとしていた。また別の日は、夢であることに気付き、少しでも長くその夢に居続けようと目覚めることを拒んだ。  場面転換を繰り返し嫌なものから逃げ続ける。  夢も現実も疲れてしまった。

夜更かし (掌編詩小説)

お得な夜、都合の良い夜 レシートを家計簿に書き記す筆先は軽やかだった 買った物を眺めては、今日という日の肴にした こんな歳にもなって こんな物を買うのか と、言われる物でも私には満足のいく物なのだ 誰にも気づかれなくて良い 自分だけのひと時… 明日を人質にした夜と共に老けていく (完)

梅の花

 たまに、(自分はちゃんと生きられているのか)と不安になる。勿論、ちゃんとなんか生きられてはいないのだが、そうではなく、そういう事ではなく、人として、大人として、親として、夫として、最低限の行動が出来ているのかと不安になる。  法に触れることはしていない。いや、たまに信号無視や、横断歩道を渡らない、女性が泣いていても声をかけない、なんて事はたまにある。が、無闇矢鱈に自分の不機嫌を外に出さないとか、挨拶をするとか、愛想笑いをするとか。日々、少しでも、善良に生きる事を実行しているのかと自分に問いかけてしまう。そんな日がある。    街を歩いていると、肩で風を切って歩く若者を見たりするが、彼が一生あのままでいられないことを私は知っている。彼が結婚し子供を持つ頃にはもう少し普通になっている。また、自分を変えられないのなら、家族から弾き出されるだけである。もう少し言えば、町内からも弾き出される。妻や子供を持てば自分という存在は家族というチームの中の一人になる。周りはそんな目で彼を見て、自分達の過去と比較し、正常か異常かを判断するのだ。  誰でも若いうちは世間に対して自分のズレは気が付かない。社会に放り出され莫大な情報に圧倒されるからだ。転生と言っても良いほどに。だがラジオのチューナーが徐々に合わさり声が明瞭になるように、歳を重ねれば重ねるほど世界が見えてくる。自分の足元から延びている光の道が見えてくる。  近所の道路脇にさりげなく梅が咲いている。ほのかに良い香りが記憶に残る。通りをスクーターが孵化しながら通っていく。ハンドルを細かく捻り、ガゾリンを非効率に爆発させ、大きな音を自分の威厳と同化して楽しんでいる。何十年も前から変わらぬ作業だ。そして梅もおそらく何千年も前から変わらぬ作業で花を咲かせるのであろう。    私も梅のようにさりげなく咲き、ほのかに良い記憶を残していきたい。

泡沫

私を見つけて名を呼んで さようならを伝えるために どうか私を見つけて  名を呼んで 消えてしまう前に ※  ゆらゆらと波に揺られているような感覚があった。ぼんやりする目で周囲を見回せば、見慣れた自分の部屋。  寝室から海が見えるのが気に入って即決した部屋には生活に必要な最低限の物しか置いていない。  夕べは海が月の光にきらめいていて、何時間も眺めていた。誰かが夜の海が怖いと言っていたが、これほど美しいものを俺は知らない。吸い込まれそうな漆黒の闇と金色の月。異国とも異世界とも思えるその景色がたまらなく好きだった。ずっと眺めていると自分と海との境が無くなっていく。そのうちに俺の意識は薄れていき、ゆらゆらと波に揺られる感覚に落ちていく。  最初はよく見る夢だと思っていた。徐々に鮮明に、やがて声が聞こえるようになった。鼓膜を震わせる声はまるで鈴を転がすような声だった。耳をすませてみたが、何を話しているのかはわからない。しかし心地よい「音」が残った。 「そろそろ顔が見れるかな」 ぼんやりとしか見えていなかったが今では後ろ姿がはっきりと見えるようになっていた。月明かりに照らされてとても美しかった。  あくびを噛み殺しながら仕事をするのにも飽きて、窓の外の海を眺めた。今夜も月が出ている。 夢の中の「彼女」を「人魚姫」と名付けていた。彼女の夢を見るのは決まって月明かりの美しい夜だったから。 なんとなく予感がした。 今夜は話ができるかもしれない。いつまでも終わらない仕事を切り上げ、眠る準備をする。そわそわと浮足立つ自分がなんだかおかしかった。  月明かりに照らされる海を眺めているうちに、いつの間にか深い眠りについていた。 「人魚姫」はいつものように俺に背を向け海を眺めていた。歌うように何かをつぶやいている。 「私を見つけて 名を呼んで…」 月明かりに浮かぶ姿があまりにも儚げで泡になって消えてしまいそうで、思わず声を掛けた。 ゆっくりと振り向く「人魚姫」は月の影に隠れてよく見えなかった。  彼女に近づこうと足を動かすと不意に月が輝きを増した。周囲が光に包まれ彼女の姿が見えなくなる。  ゆっくりと意識が浮上しはじめる。  目を開くと夢の続きの様に水面がゆらゆらと揺れている。少しの間、何処にいるのかわからずに朝日が射す部屋を見回した。紛れもなく見慣れた自分の部屋だ。窓際に置いた水槽の水面が天井に反射していた。 「顔、見れなかったな」 窓を開け、海を見る。昼間の海はなんだかぼやけていてあまり美しくなかった。  のろのろとスマホを持ち上げ日付を確認し、花を買いに外に出た。行く先は決まっていた。毎月必ず向かう花屋さん。買う花もいつもと同じ。店員さんもいい加減覚えてくれていて、顔を出すだけで用意してくれる。そして、必ず白いリボンをつけてくれる。 「気をつけていってらっしゃい」 「ありがとうございます…」 何ヶ月も通っているが初めて言われた。そういう気分だったのだろう。  毎月同じ日に海へと向かう。部屋から見るのとは違い現実感を持って現れた。強い潮の香り。相変わらず不愉快だ。 「やっぱり近くだと美しくないな」 吐き捨てるような言葉が口から出てくる。泣きたくなるような気持ちを投げつける様に花束を海へと放った。 「……」 俺を呼ぶ声がした。気のせいだと思ったが、あたりを見回す。やはり誰もいない。再び海に目をやると、そこには「人魚姫」がいた。 俺は彼女を知っている。名前を呼ぶことさえ忘れてしまっていた、彼女のことを。 誘われる様にさらに海に近づく。「……」人魚姫の名をよんだ。彼女は驚いた様に目を開くと、小さく笑って 「さようなら」 と言った。確かにそう聞こえた。会えたのに、話せたのにさようなら?消えていく彼女を抱き止めようと更に一歩足を踏み出す。 「危ない!!」 背後から誰かに腕を引っ張られた。あと少しで届きそうだったのに。怒りと苛立ちのまま振り返るとそこには花屋の店員さんがいた。あまりにも顔面が蒼白で、俺は怒る気が失せた。 「何故」 短く尋ねた。 「海に攫われそうだったから」  申し訳なさそうに店員さんが笑う。  あれ以来「人魚姫」の夢は見ない。 さよならを伝えてくれたあの日以降、海で亡くした彼女の夢を見るようになった。彼女の名前をそっと呼ぶ。  ありし日の愛しい人。  月明かりに照らされて微笑む姿がとても美しかった。

線路の跡

 その日の空は雲ひとつなく、青と白を混ぜて均一に塗られた天井のようだった。林の中の舗装された道の中心には、背の高い姿勢の良い木が行儀良く真っ直ぐに道の先へと並んでいる。林の中にはぽつぽつと別荘が静かに隠れている。奇妙なほど綺麗なそれらは異国の町から抜け出したような装いで、シャッターを下ろして眠っているようにも見える。しかし僕には、家の主でない僕に無関心を装いながらも警戒し軽蔑しているように感じてさっと視線を外した。  僕は俯きながら人気のないその道を歩いていく。かつて鉄道が走っていた道は、線路の跡もなくその名残は感じられない。  いつの間にか舗装された道は終わり、僕は枯れ葉の上をざくざくと音を響かせて歩いていた。別荘との距離が近くなり、庭に入っているのではないかと心配になった。時々木の枝を踏み、ぱちっと音を立てた。その度に僕は後ろめたい気持ちになった。  時々、鳥の鳴き声が頭上から聞こえた。これはカラスだろうか、そんなことを考えながら足下のどんぐりに目をとられていた。割れていない、穴もあいていない綺麗な形を保ったままのどんぐりを見たのはいつぶりだろうか。それを拾ってみようと、足を止めた。  足音は消え、周囲の音が一気に耳への覆い被さる。枯れ葉の上にポツポツと何かが落ちる音、鳥の羽ばたく音、木を何かが駆ける音、電車が線路を走る音。はっとして辺りを見回す。見えるのは木と別荘と青い天井。  遠くで風が走っている。木々の間を目的地もなく、通り過ぎていく。僕は木になりすまし、目を閉じて風の走る方向を探してみる。  日が暮れるまでそうしてみたが風が僕に触れることはなかった。

マイ・ジェネレーション

 道を歩いていたら、かつお節の自販機があった。この辺にはネコが住んでいるらしい。「昔のネコは」老人たちは嘆く。「可愛げがあった」俺たちの世代は昔のネコを知らない。今のネコだって可愛げはあると思う。自販機の前で小銭を数える姿とか。そういえばこの間、大学の図書館で、文献を読んだ。それは、今は絶滅した『ネコジャラシ』という植物に関する文献だった。「あんな植物があったのか」と驚いた。あまりにもネコを馬鹿にしていると思った。

JUNK

 リサイクルショップに行った。ジャンク品の棚があった。何気なく眺めていると、隅の汚い箱の中に、派手な色の何かが入っていた。それは千羽鶴だった。手に取る。安い値段が書かれた値札の下に、注意書きが貼られている。『効き目ありません。』私はそれを買って、義母が入院する病院へ向かった。

文化の残像とは

素晴らしい物沢山有った筈キラキラ輝く歌達は 感動越えた愛と言う未確認生命体が折り重なる 糸と言う仕合わせは何処月が見え無いこの部屋 偶に覗く弱く光る移動する生命体頭上で跳ねた 何が正義敵とは誰が定め裁くのだろう昔の童話 笠地蔵、鶴の恩返しが示す意味とは皆誰も日々 忙しく生きる内に一番大切で最も必要な羅針盤 恩返しと言う最も美しい文化を忘却の彼方置き 忘れる位なら慈悲も存在したかも知れないけど 真逆仇討ち足蹴にする行為が証拠した物は一体 何だろう折角大切に積み重ねた好意一瞬で失う 愚かな行動とは童話カンダタの如く哀れな敗北 大泥棒の彼が人生でたった一つの光が蜘蛛救出 した行為で釈迦は天から糸を垂らし地獄の者を 救う慈悲を示したのにカンダタは揺れ不安定で 切れそうな糸の事危惧するだけ感謝の云々処の 話じゃ無く共に救われたいと望む者迄を足蹴に した行為釈迦は酷く悲しまれ糸は絶易く切れて カンダタは元の地獄へ堕ちたと言う童話が語る 意味とは何だろう感謝の念或いは恩返しの必要 不可欠な関係性多分何方も正解かも知れない事 私達は行動して学ば無ければ駄目な事好意から 裏切り操り悪い現状ばかり現実化する行為とは 神への冒涜進路妨害彼は何時の間にかカンダタ 現象へ堕ちかも知れない全て神の身ぞ知る物語

溺者 (掌編詩小説)

無自覚に、今日もひたすらに秒針を回した その代償に、スマホのバッテリーおよび自身の視力を浪費した 理由もなく、果てしなく、ネットという水平線の見えない海をサーフボードと化したスマホを使い遠泳した そこに大義はなく、無駄という言葉しか当てはまらない だが、きっと明日もこの遠泳をするのだろう 昨日も泳いだのだから… 遠泳は時間の無駄でしかなく、一刻も早く足のつく場所へ辿り着かなくてはいけない だが、荒波によりサーフボードはどこまでも泳いで行ってしまう 私は、自らを一種の依存状態に溺れていると悟った 私はこの遠泳に終止を打つため、ライフセーバーを呼んでいるが、中々に救助が来ない 貴方も溺れているなら共に陸地へ向かいませんか? 私と共に依存状態から這い上がりませんか? (完)

影、影、 影、影、 影、影。 ああ君はいつまで経っても影のままそこに居るのね。私はそんな君が好きだよ。私の影、私の影。君も私の一部。こころとは途方もなく広い世界だ。その中で私にいちばん近いところにずっと、ずっといる。気づいているよ。 ずっと、ずっと近くにいたのに、 ずっと、ずっと見ないふりしていてごめんね。 今日からは同じほうを向いて、時には喧嘩もするだろうけど、ずっと、ずっと、一緒だよ。

人間関係クーポン

 A君と喧嘩をした。  正直、くだらない理由だ。  でも、A君にとっては重要なことだったらしい。  A君は決して謝らず、ぼくが謝るまで口もきく気がなさそうだった。   「仕方ない」    そこでぼくは、人間関係クーポンを使った。  今までの人生で、良い人間関係を築き続けてきた人間に、たまに配られるクーポンだ。  このクーポンを使えば、壊れかけた人間関係を戻すことができる。  壊れた人間関係を戻すことはできないが。   「おはよー」 「おはよー」    翌日、A君とは仲直り。  クーポンは役目を終えて、破れて消えた。    人とは仲良くしておくものだと、つくづく思った。

知らぬ間に

授業中、ふと視線を指に落とした。 知らぬ間に指に切り傷があった。 いつ切ったかも、どうやって切ったかもわからない。 よくあることだ。きっと、紙かなんかで切ったのだろう。 その傷を知った瞬間、痛みはじめる。さっきまでは全く気にならなかったのに。 絆創膏を貼ろうと思ったが、持っていなかった。女子力も持っていない。 この授業が終わったら友達にもらいに行こ。 つまらない数学の授業が終わった。傷はまだヒリヒリと痛い。 「あゆー、絆創膏持ってない?」 「持ってるよ。どうしたの?怪我?」 「なんか知らない間に指切れててさ」 「あー、あるあるだ。」 「そう」 「はい、絆創膏。」 「ありがと」 「てかあんたって本当女子力ないよね」 「あはは、そうかな」 あゆは余計な一言を入れてくる。毎回、愛想笑いで受け流す。 「そうだよ、その髪型だって何?ださいよ。本当に女子?」 今日の髪型、頑張ったのにな。 「え?ああ、今日寝坊しちゃってさ」 「へー、まぁ、あんたには似合ってるか」 「もう、ひどーい」 そう、笑って受け流す。うざいな。 でもこれで私が怒ったら、ノリが伝わらない私が悪い。 ノリってすごい。全部に使える無敵で無罪になる言葉。 あまりにもノリが悪い人は少し苦手だけど、全てをノリで通そうとしてくる人も嫌。 あゆはクラスで唯一の私の友達。あゆと仲良くなくなったら、私はきっとひとりぼっち。 あゆと仲良くなくなる?私はあゆが嫌い? なんだかしっくりきた。私はあゆが嫌いなんだ。 自覚した。 知らぬ間にと言うべきか、それとも私は知っていたのかはわからない。 私はあゆが大嫌いなんだ。 知らぬ間に傷ができた日、私は知らぬ間にあゆが嫌いになった。

本棚の向こう側

 返却された本を抱え、一冊ずつ丁寧に棚へと戻していく。  ゆっくりと、図書室のドアが開く音。目の端にちらりと移る少女の姿。  セーラー服のスカーフの色で下級生とわかる。ここ最近、図書室をよく利用している子だ。  控えめな足音は琴巳のいる棚の向こう側へと進む。  この辺りの棚に彼女の好む本はないはずなのに、と、少し不思議に思いながらも本の整理を続けていると、 「先輩、萱島先輩」  棚を挟んで呼び掛けてくる声。彼女のおっとりとした性格を現すような、柔らかく穏やかな声だ。 「そのまま聞いてくれますか」  数冊の本を持ったまま回り込もうとしていた琴巳は、素直に足を止めた。 「私、初めのうちは本当に勉強のためにここへ来てたんです。でも、今は目的が変わってしまいました」 「それで? 言いたいことがあるならハッキリ言ってほしいな」  琴巳には彼女のようにたおやかな美声は出せない。なるべく穏やかに話したいのだが、言葉遣いも声音もキツくなってしまいがちだった。悪い癖なのは自覚している。 「すみません……」 「謝らなくていいから、さ」  しばらく無言の時が流れた。  琴巳は彼女の言葉をじっと待った。 「私……、先輩のことが、好きです」 「それは、どういう“好き”?」 「いつも先輩のことばかり考えるようになって、いつの間にか、先輩に会えるのを期待して図書室に通うようになっていました。私は……、恋、だと思っています」  琴巳は黙って手にしていた本を棚にしまい始めた。向こうも黙っている。琴巳の返事を待っているのだろう。 「ねえ」  本をしまい終えたところで、琴巳のほうから呼び掛けた。 「私の話も聞いてくれる?」 「はい……」 「昼休みの放送でね、ちょっと変な子がいるの。しゃべり方がのんびりしすぎて、いっつも時間が足りなくなっちゃうんだ。バカにして笑ってる子も多いけど、でも、とってもきれいな声なの。聞き惚れて本も読めなくなるくらい」 「あの……それ……」  本棚越しに彼女の表情を想像して、くすりと笑う。  目の前の本の背に軽く額を当て、琴巳は言葉を続けた。 「いったいどんな子なんだろうって気になり始めたときに、本を借りにきた子の声を聞いてビックリしたわ。『あっ、あの子だ!』ってね。声から想像してたのよりも、もっとずっと可愛くてお人形さんみたいで……、気が付くと、その子が来るのを何よりも楽しみにしてて、来てくれるといつも目で追ってた。これって、恋だと思わない?」  一呼吸おいて気持ちを落ち着かせ、琴巳は向こう側へと囁きかけた。 「私も、貴女が好きよ、牧野志帆さん」  途端に、パタパタと忙しなく駆け寄ってくる足音。 「先輩!」 「図書室ではお静かに」  琴巳は人差し指を唇にあて、本棚の陰から現れた少女――牧野志帆に微笑んだ。

スローライフ

 休日の昼下がりの公園を歩いていた。大きな池があり、その周りにベンチが設置されている。そのベンチの一つに、老夫婦が腰かけていた。老夫婦は池を見ていた。池は日の光を浴びて、風に揺られ、きらきらと輝いていた。老夫婦の夫は、それを見つめながら、スケッチブックに、鉛筆で絵を描いていた。その絵は、目の前の池の風景ではなく、涸れた池と焼け野原になった公園の風景だった。木は灰になり、地面には穴が開き、涸れた池の底には死体がいくつも倒れていた。彼には何が見えているのだろう。老夫婦の妻は、夫が一枚その絵を描き終えるたびに、スケッチブックからそれをちぎり取り、膝の上に置いた手動のシュレッダーにそれを突っ込んでいた。出来たばかりの焦土の絵が切り刻まれていく。その音は公園の様々な音に自然に調和していた。老夫婦は笑っていた。それを見て俺は微笑んで公園を去った。

赤と青

歩道で信号が、青になってもじっと動かない初老の男がいた。膨れ上がった鞄を両手に提げている。男の視線は、信号機のほうへ一点に注がれていた。青はやがて、赤に変わった。あの赤の人影は、何を待っているのか。青の人影は、どこへ向かうのか。男は俯いた。まだ暫くは、動けそうになかった。

指の腹ほどの小さな蜘蛛が、電信柱をよじ登り、空に垂れ下がる電線の上を歩いた。相変わらず頭上には空があった。風が吹き、落ちそうになった蜘蛛はそのまま電線の裏側へと回った。すると空が見えなくなった。電線の横から足元を覗くと、そこに空が広がっていた。意を決して、蜘蛛は空へと飛び降りた。

穴の中から見上げる多様性

 穴に落ちた。  すっごい深い穴に落ちた。  どれくらい深いかと言うと、両手を伸ばしてジャンプしても、脱出できないくらい深い穴だ。   「だ、誰かー!」    穴の外に向かって思いっきり叫んだ。  何人かは穴を覗いてくれて、私と目が合った。  しかし、言うことは皆同じ。   「まあ、多様性の時代だしね」 「穴の中で生きる人がいてもいいよね」 「人は人、私は私」    誰も手を差し伸べてくれない。    私は一生穴の中にいるしかないんだと気づいたとき、私は現状を個性と呼ぶ覚悟を決めた。

トリップ

 ある地方に出張に行き、ビジネスホテルに泊まった。仕事を終えホテルに戻り、夜中、ビールを飲みながらテレビを観ていた。チャンネルを適当に替えていると、ふいに、生ゴミの映像が流れた。家庭から出たらしい生ゴミを、色々な角度から映している。それが延々と続いている。何の番組だろう。音量を大きくした。「ぶぶぶ、ぶぶ、ぶぶぶ……」虫の羽音のような音が聞こえた。ああ、これはハエの羽音だ。「ぶぶ……」そして、わかった。どうやらこれは、ハエが観るためのテレビ番組らしい。「ぶぶぶ……」色々な番組があるものだ。ぼんやりそれを眺めていた。そうしたら、だんだんむらむらしてきた。気が付くと、俺は生ゴミの映像を前に、ズボンを脱ぎ始めていた。俺はもしかしたら、人間ではなく、ハエの亜種なのかもしれない。

月の姫からの贈り物

今となっては昔のこと、光り輝く竹から生まれた娘がおりました。かぐや姫と名づけられた彼女は美しく立派に成長しましたが、誰とも結婚しようとしませんでした。  そしてある年の満月の晩、迎えに来た使者達と共に真の故郷である月へと帰ってしまったのです。  かぐや姫が自分達の元を去ってしまったことを、おじいさんとおばあさんは深く悲しみました。そしてとうとう病気になり、寝込んでしまったのです。  しかしそんなある日の晩、驚くべきことが起こりました。  なんと、月へ帰ってしまったはずのかぐや姫が二人の前に再び現れたのです。  おじいさんとおばあさんはたいそう喜んで、かぐや姫に向かって声をかけました。しかし、かぐや姫は静かに微笑むだけで何も言いません。それどころか、少し経つと彼女は跡形もなく消えてしまったのです。  おじいさんとおばあさんはそこで目を覚ましました。かぐや姫が再び現れたのは、どうやら彼らがみた夢の中でのできごとだったようです。  おじいさんは悲しみつつも、これまでより身体が少々軽くなっていることに気がつきました。身体を起こして枕元を見ると、小さな箱が置かれています。 「これはいったい……?」  おじいさんはおばあさんに声をかけ、二人で箱の中身を見ることにしました。  中には青白く輝く丸い石が二つ入っていました。 「なんだろうな?」 「なんでしょうね?」  二人はそれぞれ石を手に持ってみましたが、何も起こりません。けれども、ほんの少しだけ、生きる活力が湧いてくるような気がしました。 「ひょっとしたらこれは、かぐや姫からの贈り物ではないか?」  おじいさんが言いました。 「ええ、きっとそうにちがいありませんわ。この石、あの子の故郷である月のようですもの」  おばあさんも言いました。  そうしてかつての元気を取り戻した二人は、とても長生きしたそうです。

そんな三月

静かに流れる風に、桜の花びらが優雅にたわむれる。 暖かくなったような、まだセーターが手放せないような、そんな三月。数年ぶりの生まれ育った街。 ふらりと入った喫茶店は、昔のままで。 コーヒーの香りがそのまま張り付いたような店内。 カウンターの奥には、あのとき、不器用そうに豆をひいていた少年。 いまはもう、迷いのない手つきで、ネルドリップを操る店主の顔になっている。 目が合って。 でも、お互い… 会釈だけ。 ちょっと、気恥ずかしい。 前は、背伸びをして飲んでいたブラックが、いまは、やけにちょうどいい。 彼が淹れてくれた一杯は、驚くほど普通で、それでいて、ふしぎと落ち着く味だった。 「また来るね」 「ありがとうございました」 たったそれだけの交わり。 わたしたちのあいだに、何かがはじまることは、きっとない。予感めいたものだって、やっぱり、ない。 青の季節は、もう、とっくにすぎた。 店を出ると、見慣れたはずの通りの風景が、さっきより少しだけ、はっきりしていた。 ちょっとばかりの非日常は、でもやっぱりの日常で。 ただそれだけの、春の一日。

休みの日のわたし 休みの日のタカキ

本屋は図書館ではないけど、大きな声ってさ たい焼き屋さんの前できゃきゃうふふみたいな そんなノリにはウンザリ バカな女を相手しないといけないなんて あの男にしても見てらんない でも何も言わないとこみると、あの男も同類か どっちにしろ、あわれだな 社会人になっても、たしなみひとつ持ち合わせてないなんて 学校が休みの日、タカキと偶然、会った 大きな本屋で参考書をみていたときだった 制服じゃないタカキは、タカキとわからなくて でもそれはタカキも同じだったらしく わたしをわたしと認識できずにいた ―あの女、なんかアレだな 将来、タカキは、ああいった女と一緒にいるような男にはならなそうで安心した ―ね 気持ちの足並みがそろって女を避けて店を出る ―じゃあね 言って、たたいたタカキの肩は思っていたよりがっしりで もう小学生のころのタカキは、そこにはいなかった

有効成分

 失恋して泣きながら歩いていたら、小さな薬局があった。汚いガラス戸の向こうに薄暗い店内が見える。そのガラス戸に、紙が貼られていた。『失恋に効く薬あります』思わずガラス戸を開けた。店の奥に爺さんがいた。「失恋に効く薬ください」爺さんは黙って一包の粉薬を差し出してきた。何か見たことのある色をしていた。「ここで飲んでいきます」爺さんはコップに水を汲んで差し出してきた。金を払いその薬を飲む。胸がすーっと軽くなった。「ありがとうございました」コップを返し、尋ねた。「この薬の主成分は何ですか?」爺さんは店のさらに奥を指さした。そこには婆さんがいて、紙幣をひたすらシュレッダーにかけていた。

神の引っ越し

 近頃、神社に来る人々の態度が変わった。    私の領地に入るのに、一礼もしない。  挙句、私の道である鳥居の真ん中をずかずかと歩く。  手も清めず、荷物を持ったまま金を投げられ、写真だけはパシャパシャと撮る始末。  実に、居心地が悪い。   「昔は良かったなあ」    つい、懐古をしてしまう。  静まり返った敷地の中に、悩みを抱えた人々が礼を尽くしてやって来る。  私は何度も、進むべき道を示したはずなのに。   「引っ越すか」    隣町の神から聞いた。  日本には未だ、神聖な場所と崇められている場所があることを。  そして、そこにくる人々は、多少の礼を尽くすということを。   「元々、神社など人間が建てた依り代。私が生きるためには、不要だ」    私は長年の居を捨てて、空へと飛んだ。  新たな居場所を求めて。    それから数年。  風の噂で、私の古巣は未だに神社と呼ばれていることを知った。  もはや私がおらぬ、願いも叶わぬ荒れ地だと言うのに。    私は、ほとんど人の来ることがない奥地で、安眠を享受している。

能動態と受動態によってチャーハンを作る

 能動態と受動態によってチャーハンを作る。 能動的にチャーハンを作り受動的にそれを食べる。 皿洗いは中道態だろうか?

絵が描きたかったホワイトボード欲しい

 適当な絵を殴り書きしたい。 技術的なことは知らん。 スプレーで壁に色々描いておきゃよかったんだ。 性格が出る。 神は細部に宿る、と言うので僕は総スカンだろう。 運動も勉強も出来ないから絵でも描いてなさい。 それすら出来ない。 出来ない~。 つーかやらない。 最近神様は留守なようだ。 僕は居留守を使う。 仏像を描こうかしら? 仏心。 イスラムの模様画もお洒落だ。 キリスト圏の絵画の本ほっぽってある。 ヒンドゥー教の寺院とか行ってみたい。 ゼロコーラを飲む。 今年はサッカーの年だ。 オーオーオー。 文字すら適当になってくる。 家のお札を見る。 何かインスピレーション湧かないかな? 生け花を見る。 黄色い花の逆の花って何だろう?と思ったりする。 黒く塗れ。 青い稲妻が僕を攻める🎵 ピンクのキャラクターが床で倒れている。 状況説明になってきた。 今日は何を食べようかな? 海の物を食べ海の絵を描く人に想いを馳せたり。 何か気分はお洒落ね。 オシャレね。

春の重み

コンビニの自動ドアが開いた瞬間、視界の端がふわりと色づいた どこの棚も淡いピンクに染まっている いまどきらしい、春の訪れの合図 まずは王道のさくら餅 あの独特の塩漬けされた葉の香り しょっぱ甘いのバランスが、寒さで縮こまっていた味覚を心地よく刺激してくる 隣には和洋折衷、さくらホイップを詰め込んだシュークリームが並ぶ かじりつけば、あふれ出すクリームがまるで口のなかで桜を満開にさせる華やかさ お口直しにピンクのグラデーションが眩しいさくらラテ 沈んでいた気分まで、いっきに上向いていく この時期は、ついつい買っちゃうんだよねえ 腕にかかるそれは、春の重み 誰に言い訳するでもなく、買いものかごにめいっぱい放り込む この時期だけのことではないけれど その小さな自覚に、いまだけはそっとフタをして

第30話「樹木子」・目を逸らした間に

不気味な満月の光の下、木が古代の番人のように立っているのを見た。垂れ下がった枯れ枝が、黒板に爪を立てたかのように窓ガラスを引っかいていた。「もうこれ以上眠れぬ夜を過ごすつもりはない」と僕は心の中で思った。薪割り斧を掴み、疲れて重い体で畑を横切って、木に近づく。 重苦しい雰囲気が僕にのしかかってきた。顔を向けると、木が動くのが見える。少なくとも、僕はそう感じた。窓に触れていた枝が前と違って見えた。微妙な変化。夜風かもしれないと思ったが、夏の夜気は風がなく重苦しかった。おそらく、月明かりに照らされた影のせいかもしれない。僕はそのまま歩み続けた。 それから、また同じことが起こった。枝は僕に向かって伸びてきているが、動いたのを見なかった。僕は用心深く木を見つめながら、何かしらの動きを待った。木は動かない。 一瞬のうちに、木の形が変わった。今度は右側の別の枝だ。僕の方に伸びてきていた。目を疑いこすってみる。目を開けると、枝は鋭い爪のように変化し、僕に伸びてきていた。木は僕が見ていない時に動いたように思えた。瞬きをしてはいけない。 パチ。 木は近づいてきた。根は地面から引き抜かれ、幹は動いたかのようにねじれていたが、微動だにしなかった。自分が危険にさらされていることに気づいた。恐ろしい木を見ながら後ろ向きに歩く。まぶたが重く感じられ、目が乾燥してきた。 パチ。 顔から数センチのところに、鋭い枝があった。木の爪が僕の目玉をえぐり出そうとしている。僕は斧を振り回し、力いっぱい枝を切った。血がいたるところに飛び散った。 パチパチ。 木はどんどん森の端の方へと遠ざかっていった。僕が切るには離れすぎたので、斧を投げた。斧は逃げる木に深く突き刺さった。大きなガシャンという音が、異世界的な苦痛の叫びように響き渡った。 パチパチ。 木は森の中に消えていた。血の跡が月明かりに輝いていた。

感応

 工事現場があった。図書館が解体されていた。半分崩された建物の中から、クレーン車のクレーンが、でっかい『?』を吊り上げていた。きっとこの図書館を訪れた人々の、様々な疑問の集合体なのだろう。おそらくこの図書館は、人々の疑問を解決できなかったのだ。それが溜まって固まってしまったのだ。潰れるのも致し方なしか。でっかい『?』はトラックの荷台に放り込まれた。去っていくトラックを見ながら、ふと、「あの『?』はどこへ運ばれるのだろう?」という疑問が浮かんだ。その瞬間、荷台の『?』が少し膨らんだ。

村はずれの古書店で

―うわっ、なんてことだ 村はずれの古書店で、青年は珈琲をこぼしてしまった。その一滴が、古い本に茶色くシミをつくってしまった。あわてる青年を横目に、ページの隙間から這い出してきたのは、指先ほどの小さな貴婦人。茶色く染まったドレスの裾を握りしめ、彼女は静かに涙をこぼした。 「私のお城も、花が咲き乱れるお庭も、すべてが汚されてしまいましたわ」 彼女のその横顔は、かつて青年が書きかけのまま隅に追いやってしまった物語のヒロインそのもの。住処を荒らされ、悲しみに暮れる彼女を放っておけず、青年はその本を買い取った。 その帰り道、胸のポケットのなかで小さな貴婦人は、木につるされたランプの明かりを、地上に落ちた星でも見るようにぼんやり眺めていた。青年は、なぜあのとき書くのをやめてしまったのか、彼女にだけこっそり打ち明けた。 薄暗く静寂が包む自分の部屋で、青年は机に向かった。 「次は、シミひとつない物語にしてあげるよ」 青年が最初の一文字を記すと、彼女は満足そうに微笑み、新たなストーリーの余白に身をあずけるように、青年の用意してくれた小さなベッドへと静かにすべり込んだ。 青年は物語を書き続けていく。小さな貴婦人のためでも、お城やきれいな花たちのためでもなく、ただ、自分自身のために。