【超短編小説】「レゾンデートル」

「まだまだいるぞー!がんばれー!」休日、昼下がりの公園の原っぱで、おじさんが、子どもたちに声をかけている。子どもたちは、虫捕り網を振り回して、必死にチョウを捕っている。そして、おじさんは、背中に、段ボール製の、チョウの翅を着けている。「おじさん、捕れたよー!」一人の少年が、捕まえたチョウを片手に、おじさんの所へ駆けていく。「よーし!偉いぞ!」おじさんはチョウを受け取り、少年に百円玉を手渡す。「でも、まだまだいるぞー!」おじさんのその声に、少年は再び駆け出す。段ボール製のチョウの翅を着けたそのおじさんは、先ほど受け取ったチョウの、翅を、手でむしり取る。そして、「俺こそがチョウだ」とつぶやいて、翅をむしったチョウを投げ捨てる。このおじさんは、普段は市議会議員をしている。

カーテン

─ ふわり ふわふわ ふわふわり 美しく、透き通った白い裾。透かして見える青空が、今日も今日とて輝かしい。 その眩しさに、目を細めた。 教室の、窓際席に腰掛ける。隣を見遣れば彼がいて、今日も今日とて笑顔になる。 その横顔で、つい火照る。 雨凌ぎ、二人並んで晴れを待つ。雨が遮り途切れる声、今日も今日とて揺らされる。 その心から、漏れてしまう。 水遊び、二人揃って身を揺らす。水気混じりに漏れ出る声。今日も今日とて日が昇る。 その湿度から、乾いてしまう。 控え室、鏡の前に腰掛ける。扉を見遣れば開いていて、今日も今日とて彼が居る。 その笑顔で、また火照る。 美しく、透き通った白い裾。透かして見える彼の顔、今日はなんだかより嬉しい。 その嬉しさに、目を細めた。 ─ ふわり ふわふわ ふわふわり 揺れるカーテン模様替え。甘く優しい口付けを。

笑にもすがる思い

 失恋。  泥棒。  借金の踏み倒し。    全て、この一週間で起きたことだ。    全部終わった週末は、もう笑うしかなかったので、一日中笑っていた。  ぼろぼろ涙が零れ落ちて、それでも大声を出して笑っていた。    隣の部屋の住民が、あまりの異常さにインターフォンを押してきたので、私は笑いながら対応した。  書体面で病院を勧められたが、私は笑いながら聞き流した。    笑う門には福来る。  なんて言葉は、小さな不幸を埋める気休めでしかない。    大きな不幸を埋めるために必要なのは、金だ。  資本主義社会においては、金がなければ何も治すことはできない。  そして、私に金はない。   「あーっはっはっはっはっは!」    笑う。  ただ、笑う。    いっそ藁でも手にしていれば、わらしべ長者のように物々交換で金が増えていくのではないかとも思ったが、部屋の中には藁もない。    私は最後まで笑い続けた。  警察を呼ばれ、両親を呼ばれ、実家に強制連行されるまで。    幼少期を過ごした部屋の中に入って、私はようやく救われた気がした。

あいだ

「私のこと好きじゃん」 「……」 「え?」 風が戦ぎ、間が空いた 「うん」 「なんか、ごめんね」 また少し、冷たい風が二人の間を通る。 「…うん」 好きな人の好きな人は僕じゃない。  次の間は20年だ。 「ママ!さっきの人だぁれ?」 「あの人はね、私の好きだった人」 「パパは?パパのことはすきじゃないの?」 「パパはね、私のことがずっと好きな人だよ」 僕は、好きな人の大切な人だ。 あの頃の僕らの間には、可愛い可愛いこの子がいた。

すき。

 掴んだ手できつく締めて初めて、喉の細さを知る。柔らかくて、仄かに哀しかった。未だ冷たくはならない肌をそっと指で撫ぜる。 「ねえ、起きてよ。」  そんな問い掛けにも応えない君は、どこでもないそこを見つめる。  震える手をそっと離す。かくん、と傾く君の顔。いつにもなく綺麗で、ひどく褪せている。月明かりだけが差し込むベッドの上、私は数秒前の自分が自分とは思えなかった。 「だいすき。」  突然フラッシュバックする記憶。ショートしたはずの思考回路は、まるで私を追い詰めるように走馬灯を見せる。  そう、君はいつもそうやって私の傍で笑っていた。太陽みたいに眩しくて、恥ずかしいほど青くて。照らされて自然と笑顔になっている私がいた。 「ねえ、聞いた?あの子……」  しかし、人々はそんな彼女を、私を嘲笑った。 「女の子なのに女の子が好きなんだって。」 「えぇ、"気持ち悪い"。」  どこからか聞こえるそんな声がいやに刺さる。胸の奥深くを抉られるようだった。正直、耐えられる気がしなかった。つぎの標的はきっと私だ。そう考えるだけで眠れなくなったし、煩いほどの不安が頭から離れなかった。だから私は、彼女を切り捨てたいと願った。窓際に、線路に立つ君の背を追いかけた。  それでも、笑っていた。 「気持ち悪い。」  その言葉だけが、私を思い出したくない現実へと引き戻す。   「ね、こっち向いて。」  向き合う眼を見つめる。夜空の星のように引き込まれそうになって。気付けば私は、彼女の首を押さえつけていた。 「どうしてこんなことするの。」  なんて、彼女は言わなかった。  わかってる。気持ち悪いから。邪魔だから。  違う  離れたいから。手放したいから。  違う  嫌いだから。  違う  力を強める。腕の痛みも無視して、ただ掴む。 「嫌い」  すき 「嫌い」  すき。  やめて。嫌いなんかじゃないの。私はただ、一緒にいたかっただけなのに。 「……ぅ……ぁ……」  絞り出したか細い声だけが響く。 「す……き……」  やめて。聞きたくない。どうして今更、そんな言葉。  早まる呼吸、無意識に溢れ出る粒。  レンズ越しのその顔が鮮明に映る。    どうして。  どうして、笑っているの?    どうしてそんなに、幸せそうなの?  ――  軈て動かなくなる。いつもの熱がなくなる。いくら身体を揺さぶっても、二度と彼女は起きない。笑うことすらも。  自分がやったのに、望んだことなのに。どうしてか溢れて止まらない。  どうして?  望んでいないから。  違う。私は、ただ― 「ああ、そっか。」  私も、好きだったんだ。  

あやしげで あぶなげで それでいて

引っ越しの雑多で 必要なものまで 捨ててしまったようだ あの眼鏡 捨てちゃったのかあ 捨てちゃあいけない眼鏡を 捨てちゃって 捨てようと思っていた眼鏡が 手元に残っていて なんだか いまいる 会社みたいな そうやって なんでも 社会とか 人生と 結びつけちゃうの いいかげん やめにしないとなあ 風の旋律が やたらと がやがや 騒がしい チェロの調べのよう それらしいこと 言ってみちゃった 買いものは はからずも 耳栓を したままだった あやしげで あぶなげで それでいて 新鮮な香り

今も

青い君にむけて 連絡をありがとう。そちらもぼちぼち頑張っているようですね。 私は、あなたの知らないここで今も文章を綴っています。最近はこの生活にも諦めをつけ、新しいキラキラを探すことに奮起しております。 緑が映える季節になりました。青を背景にのびのびとしています。 まるで今の私のよう、では、また。 何色ともつかない私から

クーポンを使おう

「じゃあ、出かけて来るね」    妻が、クーポンを持って外出した。  車は持っていないので、電車移動。  妻が、クーポンで半額になった料理の値段より、移動でかかる電車賃の方が高いと気づくのはいつなのか。    まあ、お互いお小遣い制。  妻のお小遣いが勝手に減るのはどうでもいいので、止めはしないが。  わざわざ幸せに感じていることに、水を差す気もない。    スマホが光る。  アプリにクーポンが届く。  こんな小さな板に、数百という飲食店からのクーポンが詰まっている。  新聞紙に挟まっていた広告なんて足元にも及ばない。   「悪魔の発明だよなあ、これ」    月々数千円かかる板を、高いと思えない自分に驚いた。  板に届く情報量を、多いと思えない自分に驚いた。    大した割引率のないクーポンを受け取るために月々数千円かかっているという事実に気づいたとき、人々はこの板を捨てるのだろうか。  そんな疑問も、新たに届いたクーポンによって気を逸らされた。

百万回禁酒したねこ

 百万回も禁酒した猫がいました。  成人してから百万回酒を飲み、百万回「禁酒する」と言ったのです。  禁酒セミナーに何度も呼ばれるくらい、立派な猫でした。    百万人の人は、その猫を軽蔑し、百万人の人が、その猫が禁酒に成功して亡くなった時泣きました。   「お前が禁酒できたら、俺たちはできないなんて言えないじゃないか」    猫は、一回も酒のない世界を見ることはできませんでした。    しかし、禁酒に挑戦し続けた猫の魂は、いまでも人々の胸に刻まれ、人々の禁酒をする力となっています。

Add Wacker Berwyn I bought every day for the bomb

Burger bar have a book that I’ve had a dead club but doubt that that would ever bother with that. How could you come about a bit? We have a better way to do that had to cup could cup cup with data cup dead recover with that with that, but that will be done with that ever could’ve come with that come out with that we have a vote without a debit death be that that I could cover out of a deck, but that will have a dead could a dead dead be that have a cover cover that we have back that way but that way, but that’s that have a good Broadway to coverthe vote of a car vote of dead, dead, dead dead had to come back about what I have a vote of a devil dead dead, dead, dead, dead, dead, dead, dead, dead dead dead dead dead dead dead be dead dead could’ve come with that that would be, but that will be a couple of that that I could come over and we have a bit of a come out with that cup of dead could cover that cover out of the dead we have but that will cover, but that’s my dad that I could come over. Come out come with that that would be better I could come, but that will come out without a devil that ever could’ve covered it up break Burham and we have that vocabulary that way, but we have that we have a dead recovery of dead dead and wake up you could well have a little brother come with that we have a dead, dead dead that have a go to have a run with that will get that out of a damn dead devil that will be whatever that will be could cover to cover with cover with cover that will be dead. I could come grab Beverly a Deborah cover of a dead, dead death with dead, dead dead that could cover could cover a cover with devil devil devil, dead, dead, dead, dead, dead, dead, dead, dead, dead, dead dead dead get rid of dead, but that’s really but definitely but that’s probably that we could’ve come without data but that would definitely be that I could come over but I’ve been covered with that that I could cover water out of a dead cap but that’s dead that could cover a dead.

狩るか狩られるか。

「目を合わせた時にヤレるなこの人みたいなのないですか?」 あーなんてことゆってしまったんだ私。 職場の休憩室で、たまたま休憩が被った先輩に とんでもない事を言ってしまった。 もう4年くらいの仲で、別に沈黙が辛いとかね そういう間柄でもないけど、 なんか話さないとって咄嗟に出たのがこれ。 こういう事を口にしたら負けって思ってたのに。 でも確かに、5秒以上目を合わせて沈黙だとさ、 狩る側か、狩られる側か。 どっちだ〜なんて思っちゃうだよな〜 なんてね。 「んーどゆこと?」 そんな事ゆって私の事を見つめて隣に座った。 あーー私よりうわ手だった。 ん〜試合開始!

プラスチック

 住んでいたマンションの一室を引っ越すことになって、僕は荷物を整理していた。同棲していた彼女、羊の私物がたくさんあって、それをまとめていたら不意に窓辺に置かれたお人形に気がついた。お人形は人型で体がプラスチックでできていて、関節があるから座らせたりポーズをとらせることができる。羊はこのお人形がお気に入りでいつも服を着せ替えて窓辺に座らせていた。羊が死んでしまってからはお人形は埃かぶって放置されていた。  アパートの裏手にある焼却炉に、アルバムと写真と、少し迷ってから人形を突っ込んだ。彼女との別れを受け入れなければ前に進めない。だから、全て処分してしまうことに決めた。プラスチックの焼ける独特の匂いがする。僕はああこれで死んだのだなと思った。彼女との思い出はこれで全てなくなった。僕はもう、彼女を思いだすことはないだろう。少しの寂しさに囚われながら、僕は部屋に戻った。  部屋の電気をつけて、僕はあっと声を上げた。窓辺に、焼いたはずの人形が座っていた。スカートの裾が少しだけ焦げているけれど、捨てる前とほぼ同じ姿をしていた。壊れても、焼けてもいない。僕がぞっとして部屋の隅に立ち尽くしていると、ふいに人形の口が開いた。 「一人にして、ごめんね」  人形は確かにそう言った。彼女、羊の声で…… 「羊、なの?」  僕は震えながらそう問いかけた。人形はもう喋らなかった。ただ真っ直ぐに、その琥珀色の瞳で僕を見つめていた。  それ以来僕は人形と一緒に暮らしている。もう人形は喋らなかったけれど、それでも僕は大切に手入れをして人形に尽くした。もし人形の中に羊がいるのなら、僕はまた会いたかった。あの時羊の声が言った、一人にしてごめんねの言葉。そうだよ、羊。だから帰ってきて。僕は涙を手の甲で拭った。

【超短編小説】「少し優しい」

 冬の殺人犯は、殺人前、こたつでナイフや包丁を温める。それを持つ自分のためでなく、刺された人のためだ。「刃が冷たいのは嫌だろう」と思っているのだ。冬の殺人犯は、少し優しい。

【超短編小説】「買う」

 深夜、勤務先のスーパーマーケットから、中年の男が帰宅する。男手一つで育ててきた幼い娘が、眠い目をこすり、男を出迎える。「おかえりなさい!」「まだ起きてたのかい?」男は娘の頭を撫でる。娘は、男の肘に、何かがくっついているのを見つける。「お父さん、これ、何かついてるよ」「ん?」それは、男が先ほどまで使っていた半額シールだった。「お父さん、半額なの?」「あはは、お父さん半額になっちゃった」「あはは!」「お父さんのこと、買ってくれる?」「半額じゃ買ってあげなーい!」「そうかあ」やがて男と娘は眠りに就く。そして、十年後、地下マーケットで、この男は、娘が地下マーケット史上最高額で落札された時、この夜のことをふと思い出した。

結局のところ(あとがき)

部屋のパキラは綺麗な黄緑色が映えるようになりました。 寒い冬を越えて力強く葉を広げており、 暖かくなり更に成長が加速したようです。 パキラの葉が密集すると剪定します。 それは日当たりで生育にバラツキが出てしまうから。 ただ折角の成長が勿体なく、 剪定した葉は根が伸びるまで水差しで育てます。 育てている側とすれば、 またこの剪定の葉も大きく育たないかと期待してしまいますが、 暫くは青々と育っていても、 大体は根が枯れて終わってしまうのが殆どなのです。 この期待という気持ち。 とても勝手で自分勝手であると思いました。 期待を掛けること、掛けられること、 これ迄そう深く考えて来なかったのです。 〈信頼と期待〉 「とても信頼しているから期待しているよ」 連動しているとも思える、信頼と期待。 身内、仲間、絆を想像出来ますが、 しかし連動するのはどうでしょうか。 信頼するのは良いことでしょうが、 だから期待するというのは、本当のところ少し違う。 期待はしない方がいい。 それは過度な負担が掛かるから。 それは信頼された側、そして信頼した側にも。 もうひとつ言えることは、 期待は結局のところ、甘えではないかという事です。 信頼していることを察してくれ、 知って欲しいという、 承認欲求にも似た単なる甘えではないかと思うのです。 信頼しているから期待している、そう言った側が 会社で言えば上司、 先輩から後輩へ、 そんな想像が出来てしまいます。 部下から上司、後輩が先輩へ、事が出来ないから教えて頂きたいと甘えるならば まだ分からない事もないところを、 出来るものが出来ない者へやってくれと甘えているようには思えないかと 私の中で思うようになりました。 期待するということは、 SNSでイイねをくれという承認欲求と同じこと。 結局のところ考えの行き着き場が、そこでした。 ◆  ◆  ◆ 私自身、お話を投稿するこの行為は健康の大事さが伝わればと思うから。 しかしどうでしょう。 それは期待する事と同じことだと言えます。 少し違う角度からは、私のここ迄を聞いて欲しいとする、 私自身の承認欲求があっただけだと。 私、苦労しているでしょう、 ちょっと聞いて下さいよという、 もはや淺ましさまで感じる。 そんな事を思いました。 なかなか人には伝わりにくいものだと改めて思います。 言えば言うほど伝わらない、 無風状態の無酸素状況のようです。 例えば私がこれ迄の生き方が素晴らしいものであるのなら、 「あの人が言うのだから」 という話の伝わり方はあったのでしょう。 残念ながらそれは私の場合は皆無です。 私の身内や知り合いにさえ、 その人の日常を見ると、 全く何も伝わっていない様子。 そう思う事自体も、私の欲求と同じことであるし、 人の習性はあるにしろ、大部分はこれ迄の私自身の人柄がそうなり得てる。 かと言って、もういいか、 とはなり難く、 果てしなく続く思考思慮の永遠登り下りなのかと。 ここらで一度区切りは必要だと思いました。 私自身、思考の区切りを持ち、このループが どうなのか納得してみたいと思います。

ブラン心

”ブランコにのめり込んだ時期がある。 前に行って、後ろに行って。 ただの単純な動きなのに、なぜか魅了された。 鎖を握った時のレトロな触感、風を切る時の気持ちよさ、絶えず変化する繰り返しの景色。 大体ふたり用が多い。 けれど、大体ひとりで遊ぶ。 一方は微動だにせず、もう一方は繰り返している。 たまに悪戯心で隣のブランコをえいやと触れてみる。 少し揺らいで、けれど静に向かってまっしぐら。 止まるとやはり訪れる孤独感。 いくら私が全力で漕いだって、幾分も振り払えない。 孤独感のことは諦めて、ただひたすら、漕いでみる。 いつの間にか足元の影は闇夜に飲み込まれた。 ブランコが上に上がった時に見える月は三日月だった。 見えない大多数の面積の部分があることは、何かが欠落している私を表しているようだった。 しかしその暗い部分を何で埋めていいかは、まだ知らない。” と、ブランコの裏に書かれていた。 どうやって書いたのだろう。書くのめんどくさそう。 けれど、不思議と素敵だと思った。 これを見たら、私もひとりじゃないんだって思えた。

「自己満足」でも

『なぜ、人はつくるのでしょうか。』  はじめてまして、の顔合わせで、彼の発した一言目がこれだった。  直球だな。これが私の抱いた、彼への第一印象である。まぁ、そういう類いのモノは、他にも見かけたことがあるから、さほど驚くことでもないのだが。  つくる、とは具体的に何を指すのか。私は一応、作家であるから、作るという事柄には敏感に反応してしまう。そのような生き物であることに、身体が慣れているらしい。  つくる事にどんな意味があるのか、と考えても、うまく答えは見つからない。ただ――しいていうなら――思うがままの感情を、自分の中にしまったままでいるのは、なんだか面白くない。それくらいだ。 『写真は、視界にうつした風景を切り取りますね。しかしながら、その風景を再び目にすることができるかは判然としない。時間の流れは一定の間隔を保っているようでありながら、不変というわけでもないようです。』  ほう。彼の言葉を解釈するのは少々、難ありだ。でも、言いたいことは何となく伝わってくる。  枯れない花は、花ではない。  消えない星は、星ではない。  終わらない命は、命ではない。  つくるとは、のこす事であり、生かす事だ。そして、生からの変質を求める。  枯れない花、消えない星、終わらない命。変容か、進化か、はたまた革命か。永遠の美を謳う言葉が生き生きと呼吸のようにめぐりめぐって、ついには細胞に沁みわたる。その音は私達の耳で頭で心で、おどり、はねて、やがて休まる。興奮していた言葉は、時間が経つごとに落ち着きを取り戻していく。ゆっくりと呼吸し、挙げ句には寝息をたてはじめる。  なま物の言葉を、景色を、音楽を、感情を、感性を、感動を。わざわざ文字に、写真に、楽曲に、芸術に、美学に、作品に留めようとする。留めようとして、もがき、あがく。創作という根底は、結局は生きざまで決まるのだろうか。  私は、そうなのだと信じたいが、ここで言い切るというのも癪だ。どうしても、相手を納得させたいから。  どんな手段を使うことになっても、不完全なものを完全なものにしようとする事ほど、愚かで傲慢なモノはない。だからこそ、我々は、はしっこの欠けた此のセカイで、あるはずのない完璧さを求め、恋い焦がれる。執着と憧れと尊敬と……それらを乗り越えた末にたどりついたのが、「つくる」ことだった。  ただ、それだけなのだ。きっと。  枯れる花、消える星、終わる命。はしっこの欠けたセカイ。不完全だらけなのに、その全てに意味があると思える。  ああ、よかった。本当によかった。  きっと、これからも、我々の歴史において「創作」が消えることはない。これまでと同じように、たとえ誰かが諦めようと、投げ出そうと、壊そうとしても、ある誰かは決して辞めたりしないだろう。未来永劫、セカイが箱に戻るまで、つくり続けるのだ。  我々には希望がある。今、私は確かに、心から、そう思える。 「ありがとう」  そのように私が告げると、君は今、不思議そうな表情を見せた。

静かな隣人

■ 10月2日 この部屋に越してきて三ヶ月。駅からも近くて、隣の部屋から物音がすることもなく、本当に静かで気に入っている。 最初の頃は、夜になると無音が逆に不安で、わざとテレビをつけて寝ていた。でも、今は違う。音がないことが、心の余白になる。昼の疲れをゆっくり吸い取って、私の中の雑音を消してくれる。 隣の202号室には、背の高い男の人が住んでいる。引っ越しのときに会ったきりで、挨拶以上のことはない。でも、朝のゴミ出しのとき、私が会釈すると、向こうもちゃんと頭を下げてくれた。 それが妙に嬉しかった。 都会の人間関係って、必要最低限で冷たいっていうけれど…私はこの距離感、悪くないと思う。 ■ 10月5日 夜遅くに帰ると、玄関の前に、小さな包みが置かれていた。透明の袋に入ったクッキー。 最初は少し怖くて、一度は捨てようとした。でも、開けるとふわりと甘い香りがして、つい、ひとつ口に運んでしまった。 どこか懐かしい味だった。 思い切って、翌日にお返しを焼いた。バターサンド。簡単にラッピングして、小さなカードを添えた。 「おすそわけです」 それだけ書いて、202号室のドアノブにそっとかけた。玄関に立つと、心臓がやけに速く打って、耳まで熱くなった。 翌朝には、なくなっていた。 ■ 10月8日 また会ってしまった。朝のゴミ出し。彼はいつも通り無表情だったけれど、ほんの少し、目が合ったような気がした。私が差し入れたこと、気づいてくれてるのかな。 それが勘違いでもいい。私は少し、浮かれていた。 この街で、名前も知らない人と、言葉のないやりとりをしている。それが、特別なことに思えた。 ■ 10月10日 夜、壁越しに何かが聞こえた。最初は気のせいかと思ったけれど、繰り返し、低く、何かを引きずるような音。独り言か、うめき声のようにも聞こえた。 最初の数日は無視していた。でも、私が布団に入ると、決まってその音が始まることに気づいてしまってからは、もうだめだった。 偶然だと思いたい。でも、あまりにタイミングが良すぎる。 ■ 10月13日 壁を軽く叩いてみた。すると、音はぴたりと止まった。 息をひそめて耳を澄ませたけれど、それきり何も聞こえなかった。 もし、こちらの動きを把握して音を出しているとしたら…考えすぎだとわかっていても、胸の奥がざわざわする。 ■ 10月15日 差し入れをまた焼いた。今度はスコーン。ラッピングも工夫して、リボンをつけた。 でも、本当の理由は、あの音を確かめたかったからだ。 翌朝、包みはなくなっていた。 やっぱり、彼は受け取ってくれている。なら、あの音のことも…何か、伝わっているかもしれない。 ■ 10月18日 録音アプリを入れてみた。 音が聞こえる気がして、どうしても眠れなかった夜。翌朝、再生してみて、血の気が引いた。 自分の声が録音されていた。 「……お母さん、最近、隣が変なの」 その言い方、間。先日、母に電話したときの内容と、全く同じだった。違うのは、私はそのとき、この部屋の中にいたということ。 誰かが、私の会話を…録音して、再生している?私は壁に耳をつけて、長い間、息を潜めていた。 何も聞こえない。けれど、その静寂こそが、彼の答えのように思えた。 ■ 10月20日 パウンドケーキに、薬を混ぜた。ほんの少しだけ。事故にならない程度の量。 きっと、ただ眠ってほしかっただけ。 焼いている間、何度も背後を振り返った。誰もいないのに、誰かが見ている気がした。違う…あれは「見ている」ではなく、「聞いている」気配だった。 それが一番、恐ろしかった。 容器は翌朝、いつものように消えていた。 でも、何も変わらなかった。 ■ 10月23日 次はマフィン。次はベーグル。次はタルト。私は何度も、差し入れに薬を仕込んだ。 なのに、音は続いた。録音も続いた。私の生活は、誰かに支配されているような感覚に、じわじわと侵食されていった。 私は、決めた。 ■ 10月25日 刃物は、抵抗する音を立てなかった。骨も筋も、皮膚の内側にあるものすべてが、驚くほど静かに裂けていった。 彼の部屋は想像していたよりも寒く、そして空虚だった。生活の気配がなかった。容器も、包み紙も、何ひとつ見つからなかった。 私は、静かに笑った気がする。 …ようやく、音が、消えた。 ■10月26日 「……それで、死亡推定時刻は?」 「午前2時頃です。争った形跡はなし。まっすぐ一突き」 「容疑者が差し入れたっていう菓子は?」 「未開封のまま、机の上に三つ。食べた形跡なし」 「容器の件は?」 「……どこにもありませんでした。調理器具も、ラッピングも全部揃ってて。  あの人、本当に“差し入れ”してたんですかね……」

好き嫌い好き嫌い

 付き合うことができた日は、人目もはばからず喜んだ。  両手をあげて跳びはねて、人生で今が一番幸せな瞬間だと、確信を持って喜んだ。  思わず、恋人がドン引きするほどに。  デートはいつも幸せだらけだった。    同棲を始めると、相手の嫌なところが目についてきた。  良いところは知り尽くしているから、新たな発見は嫌なところだけになってしまったのだろう。  どうして、トイレの時に座ってくれないのか。  どうして、そんな大きないびきをかくのか。  どうして、部屋を丸く掃除するのか。  疑問は尽き果てず、一時期は険悪が絶えなかった。   「結婚したら、そんなことばっかだよ。相手の嫌なところを、許し合えるのが夫婦。我慢できないなら別れた方がいいよ。そもそも、あんたに駄目なところはないの?」    結婚の先輩である親友の忠告によって、私たちは話し合った。  人間、誰だって同じようなことはできる。  でも、やりたいことは別なのだと気づいた。   「トイレは座って欲しい」   「立った方が楽なんだ」   「じゃあ、立って汚れた分は、自分で掃除してほしい」   「わかった」    私には、わからないこともある。  私はいつも座るから、立つ時と座る時で感じ方が違うなんて初めて知った。   「掃除の方が面倒だった。座ることにする」   「わかった」    話をすれば、私が見える相手だけでなく、相手が見える私も見えてきた。   「安い食材を買うために、遠出するのは結構きつい」   「でも、安く買えるんだよ?」   「その遠出で、ガソリン代はいくらかかると思う? 一日二日ならいいけど、ほぼ毎日。本当に安くなってる?」   「……計算してみる」    私にも苦手なことがあって、私にもできていないことはあった。  厄介なのは、私自身は気が付いていなかったことだ。  あまりにも小さすぎてか、はたまたあまりにも身近すぎてか。   「計算したら、あんま変わらなかった。一つのスーパーで済ませてさっさと帰った方が、タイパいい気がしてきた」   「じゃあ、今度からそうしよう」    嫌いが消えていく。  互いの嫌いがぶつかり合って、消滅する。    後には、好きだけが残った。    幸せな結婚。  幸せな育児。  幸せな老後。  カレンダーは目まぐるしく巡り、人生が毎日の好きであふれていった。       「嫌い」    だから、最後に残るのが希望ではなく、嫌いという感情だったことは素直に驚いた。  両手で持てるほど小さな箱の中に入ってしまったあなたを、私は嫌いになった。  私より早く逝ってしまった、あなたを。   「ずっと一緒にいてくれるって、言ったじゃない!」    思い出の写真。  思い出の物。  好きに囲まれた世界の中で、私は独り泣いた。

しろとあお

かわらない かわらないよ かわることなど わたしにはむりだ まだまだしろいみは あおいかじつなどとは ひにもならないじゃない かわらない かわれないよ きみにあうまで きづいてもらえず すぎてゆかれるから わたしはあおくないの うれたかじつにはとおい

【超短編小説】「学び」

 自分の手で作り、塀に置いた雪だるまを、部屋の中から、少女は見ていた。外は雪が降り続いていた。少女は、雪だるまが寒いのではないかと考え、雪だるまを、部屋の中に移動させた。部屋の中は、暖房が効いていた。雪だるまは、見るも無残に融けてしまった。雪だるまは熱に弱いと、少女は母親に教えてもらった。その日から毎日、少女は、雪だるまを作っては、ケトルで沸かした熱湯を、雪だるまにぶっかけて笑う、という遊びに興じるようになった。そしてこの少女は、大人になると、小国に渡り、革命家になった。敵に拷問を行うたびに、彼女は雪だるまのことを思い出したという。

月の血の色

 はらり、ひらりと扇子が舞った。京都は祇園のある通りで、扇子ひとつが空を飛ぶ。眼下に数多の人をぶら下げながら、人の流れを作り出すようにひらひらと舞っている。向かいの歩道にそれを見た。  映る面には太陽があった。橙色で、他は全て紺色に塗りつぶされた和紙が丁寧に拵えられた扇子だった。思わず見惚れる。目を奪われる。まるで、もうとっくに失われた都の侘び寂びをわずかに思い出させるような扇子の振る舞いは、恐るべき力でもって私を現実から引き剥がし夢現の世界へ連れて行った。  視界いっぱいに広がる紺色の空。何か分からなかったそれは、どうやら夜空であるらしかった。星一つ見せない、曇った夜の空。そこでただひとり、夜の光を失わんと励み続ける夜の太陽。橙色は頭に血が上っているからだろうか。  まるでこの間の私のようだった。カッとなって部下に手を挙げかけたことを上司へ連絡されて解雇された私のようだった。昼間から雑多な祇園の街を当てどなく彷徨い、まだここにいると叫び続ける潜在意識そのものだった。  足を踏み出す。私もそうだと伝えたい。あの扇子を手にしたい。一歩、踏み出して、どうかこの悪意ない真心を分け合いたい。  にゅっ、と誰かの手が伸びた。扇子を掴んで引っ込める、観光客らしい和風の腕が。  なんとなく絶望して、飛び込んだ車の流れに従って体の横を叩きつける衝撃に、意識は簡単に消し飛んだ。

宝くじに当たったら破滅する

「宝くじ一等賞の番号は、こちら!」    番号が表示された瞬間、一つの人影が手をあげる。   「あ、あ、あ、当たったー!」    全ての人影が振り向き、一斉に拍手を浴びせる。  一つの人影は照れ臭そうに笑い、興奮冷めやまぬまま前へと出る。    司会は、一つの人影の持つ番号と発表した番号を念入りに見比べ、一致していると分かると、最も大きな拍手を送った。   「おめでとう。貴方が、今回の一等賞です」   「ありがとうございます!」   「しかし、ご注意ください。一等賞をとったものは、自ら破滅に向かうケースが多々見られます。くれぐれも、謙虚に」   「わかってますよ! 速く賞品をください!」    視界の言葉が右から左なのも、いつもの光景。  司会は溜息を零しながら、杖を強く握った。   「では、商品を授与します。一等賞。裕福な家の子供としての来世」    司会が人影を殴りつけると、人影は球体へと変わり、そのまま雲の床をすり抜けて、地上の建物へと落ちていった。  そして、女性の腹の中へと入った。    ご懐妊だ。             「人生、ちょろっ! 人生辛いとか言ってるやつ、まじ努力しなさ過ぎ。自業自得。ゴミ」    人影の来世である少年は、自由を謳歌していた。  戦争のない国で、勝ち組と呼ばれる両親の愛情を注ぎながら、すくすくと育った。  一流の学歴、一流の企業、そして一流の配偶者。  順風満帆の人生を送っていた。    去年は二十七歳。  小学生の頃にいじめた人間に、線路へ突き落されて電車との接触死。        雲の上から見ていた司会者は、額に手を当てて嘆いた。   「だから、謙虚にと言ったのに。一等賞をとった者は、いつだってこうなる」

曖昧さのない世界

 通知表に書かれた、学力の数字。  そして、教師の感想がかかれたコメント欄。   「コメントなんて、主観で決まる曖昧なものを評価に含めるのは差別的だと思います! 教師の好みで決まってしまうじゃないですか!」    私は、それが許せなかった。  感想は感想。  それって貴方の感想。  評価に必要なのは、かっちりとした数字。  身長や体重のような、有無を言わさぬ定量的事実。    私は世界に働きかけ、国を動かした。    世界から曖昧さが消え、定量的評価が世界に満ち溢れた   「ああ、よかった。これで皆が平等な世界になる」    そんな私に下された評価。    日本人順位一億千二百十万千三百三十位。    私は精神を病み、自宅へ引き籠った。  そして今日も、順位が六千七百六十一位下がっていた。

アステリズム

 あの藍のさなかで輝く星を、君が教えてくれた。不規則に並んだ光、星の音色。見上げる顔はゆっくりと視線を落とし、やがて私を見つめる。 「あの星、他よりも明るいでしょ。三角形に並んでるんだよ。」  何処よりも明るく、一等星たちが図形を成す。まるで星座たちの踊る中、はぐれてきた者たちのようだった。 「あれは星座じゃなくてね、アステリズムって言うんだって。」  アステリズム。星のリズム。そんなことだろうと、私はすぐに理解した。 「不思議だよね。集まって出来た絵を人はみんな星座って呼ぶのに、並んだ一等星は星座じゃないんだって。」  三角形を星座にするなら何座?トライアングル?ピラミッド?いずれにせよ、安直すぎて採用されないに違いない。はは、と乾いた笑いが口から零れ出る。そのまま、空へと消えていく。  星たちは一体、何を想って何処を巡り、誰と出会うのだろう。太陽系の、その外の星系の外側の銀河は、何を探し求めているのだろう。  見つめる空に飲み込まれそうになる意識は、優しく握る君の手に連れ戻される。何か、心がひどく小さく感じて、顔を下ろす。息を吸って再び君に向き合う。  星明かりを反射する君のプリズムが走る。  アステリズム。光を反射する宝石のようだ。ようやく探し出した、いや、出会えた君となら。はぐれ者でも、きっと一等星になれる。途切れないように、固く握る。  「……どうしたの、そんなに見つめて。」  笑いかける君につられて笑みが零れる。大丈夫。きっと私たちなら。  星になれる。あの並んだ一等星のように。  私たちは、アステリズム。

晴雨

 飴玉を一つ頬張った。舌で転がす甘い玉は優しく、私を世界へと連れてくる。  ぽつり、と雨粒が頬にかかる。予報外の雨に驚き、空を見上げる。快晴だった。雲ひとつなく、迷いも弱さもなくて。そこから粒が降ってくるのがなんだか面白くて飛び跳ねる。雨粒の間を潜り抜けるように。  冷たいはずなのに陽に照らされて暖かくて、不思議な感覚。飛び上がりそうなほどに気持ちが浮かれていた。また、空を見上げる。大きな鯨が空を泳いでいる。まるで笑っているようで、思わず私も笑顔になる。  ああ、なんて楽しいんだろう。束の間の晴雨、音と踊っていた。  やがて飴玉は溶けて消える。何もなかったように、世界が消える。同時に、雨も止んだ。  世界は雲の陰になる。薄暗くて曇った世界。私はまた俯いて、雨を追った。

鳥には文句を言わせておけばいい

 欲しいのは鳥。  見た目麗しい鳥。    籠の中の鳥。   「はいはい! 全部私がやればいいんでしょう!」    家事の折半。  家に納めるお金のルール。  全部無視した。    鳥は、ピーチクパーチクと鳴いてくるが、俺という檻の中から逃げる気配はない。  なんて御しやすいんだと思った。    会社だと、こうはいかない。  転職で会社を出て行かれて終わり。  すぐに俺の檻から逃げてしまう。    だが、結婚生活という名前の檻は鳥にとって居心地の良い部分もあるようで、鳥は逃げない。  泣き喚くだけ。  耳栓を買えばどうとでもない騒ぎで俺の我儘が通るなら、こんなに楽なことはない。   「貴方はいつだってそう!」    そうだよ。   「家のこと何も手伝ってくれない!」    君がやってくれるからね。   「私は家政婦じゃないのよ!」    そうだね、家政婦より便利な何かだ。    檻の扉を開いてやる。  鳥は、未だに檻の中へ居る。  檻の外を恐れているのか、それとも跳び方を知らないのか。    俺は、扉を開けるという優しさを見せつけた上で、再び扉を閉めた。    鳥は、鳴くことをやめた。    俺は、御しやすいこのペットが大好きで仕方ない。  いつまでも、生きて欲しいと思う。  俺の檻の中で。

告白したら絶対に成功する部屋

 ○○するまで出られない部屋。  そんな、無理やり何かをさせられる部屋ばかりが増えたので、天才博士はもっと前向きな部屋を考えた。    そして誕生したのが、『告白したら絶対に成功する部屋』。  効果は、読んで字の如し。  この部屋の中で告白すると、相手は百パーセント承諾をするという部屋だ。   「さあ、告白する勇気のない若者諸君! 存分に使ってくれたまえ!」    博士は学校や会社の前でビラをばらまき、婚姻率低下のとどまった明るい未来を夢に見た。       「誰も来ないのお」    そして今、博士は部屋の前で体育座りをして落ち込んでいる。   「そりゃあ、誘われた時点で告白ってわかるから、誰も誘えないんですよ」    助手は、落ち込む博士の頭をコツンと叩いた。

漫画廃棄令

「漫画は害悪である! よって、全て廃棄すべきである!」    日本のカルチャーとして有名な漫画であるが、とある大物政治家が、漫画を害悪と呼んだ。    漫画とは、娯楽の中心。  そして娯楽とは、勉学の時間を奪う。  可処分時間を奪い合う戦国時代において、政府は漫画というツールを過去の象徴として消し去り、勤勉な日本という未来を作るための礎とした。    国民からの大反対の中、漫画は日本から姿を消した。   「大変です!」   「どうした?」   「破棄した漫画の中に、専門書にさえほとんどのってな超ニッチで歴史的価値のある日本の風習が載っていたそうです!」   「なあああああああにいいいいい?」   「伝統舞踊の踊り手が後継者不足で潰えた今、もはや復活させる方法がありません!」   「なあああああああにいいいいい?」    ついでに、伝統芸能のノウハウが次々姿を消した。   「大変です!」   「どうした?」   「若者たちが、部活やスポーツをしたがらなくなりました!」   「なあああああああにいいいいい?」   「スポーツ漫画がなくなったことで、子供たちがスポーツの楽しさに触れることがなくなり、スポーツはアニメの時間を食いつぶすゴミだという意見も増えてきました!」   「なあああああああにいいいいい?」    ついでに、スポーツへの興味が姿を消した。   「大変です!」   「どうした?」   「若者たちが、恋愛離れを加速させました!」   「なあああああああにいいいいい?」   「恋愛漫画がなくなったことで、子供たちが憧れの恋愛のシチュエーションを持たなくなり、今や恋愛に興味ないという子供が七割以上に」   「なあああああああにいいいいい?」   「代わりに、エッチな動画が流行って、学校の教室ではエッチな動画ごっこが流行」   「あかん!」    ついでに、恋愛への興味が姿を消し、変な方向へぶっ飛んだ。       「電子書籍のデータが残っていてよかった」    政府は再び、漫画を復活させた。  出版社から、廃棄をしたふりをして隠し持っていたデータを借り、世の中に漫画をばらまいた。    人々は、ふたたび漫画から、文化や生活を学ぶようになった。  日本の治安は回復していった。   「漫画って、すごいんだな」    漫画廃棄を先導した大物政治家は政治家を引退し、今ではリゾート地で、毎日漫画を読んでいる。   「おもしろ」

植えてあった桜の木は…

手と手がふれ合うと 恋がはじまってしまうらしい そういったようなこと 少しも 考えにおよばなかった幼稚園のとき そのあたりのときのこと ふと 思い出してしまって 遠まわり 遠まわり 幼稚園の前を 歩いてみました こんなに小さかったかなあ建物 こんなに狭かったかなあお庭 流れで 小学校にも 行ってみました 校庭では 大がかりな 工事をやっていまして 敷地を取り囲むように 植えてあった桜の木は みいんな 切られてしまっていて あーあ あーあ やたらとさみしい 気持ちになりました

薄暗闇から

 この薄暗い部屋に閉じ込められて、一月が経った。部屋の中は質素な造りだが、ベッドは意外にも上質なマットレスで、シャワーとトイレも完備してあり、生活するには申し分ない。食事は野菜などの彩は無いが、三食差し入れられる。  堪えがたいことは、娯楽が少ないことだ。テレビやパソコンが無いのは勿論、所持していたスマートフォンも取り上げられている。何故かカバーを外された本だけは差し入れられるが、異常な状況では読む気力も湧かない。言わば、生きる楽しみを見いだせない空間。  犯人はわかっている。目の前にいる女だ。 「どうしてこんなことをするんだ」  鉄格子の向こうにそう詰問すれば、女はいつも困った様な表情をするばかりだった。   彼女のかつての交際相手に相談を受けたのが、出会いのきっかけだった。曰く、彼女は相手に尽くすタイプの女性で、しかしそれに際限が無い。ノイローゼになった彼が逃げ出し、身近にいた自分が次の寄生先として選ばれた。  意外にも彼女との生活は悪くはなかった。容姿は華美ではなく、常に地味な服装だったが、むしろ奥ゆかしく好感が持てる。流行の話題には疎いが、古文や歴史に造詣が深く、博識深い。聞いていた異常性を置いておけば、所謂大和撫子そのものだったのだ。  うまくいっていたはずだった。この場所に監禁されるまでは。  あの日は雪が降っていた。寒さに身を震わせ、数か月後に来る春を思い、道すがら在原業平や西行が詠んだ句について語った。 「和歌に詠まれる桜は、どうしてこうも魅力的なんだろう」 「昔は、今よりも目に入る色が少なかったですから、桜の初心な色ですら、貴重な彩、だったのでしょう」 「成程。そもそも現代とは環境が異なるか。僕もいつか全身で感激するような桜を見てみたいものだ」 「ええ、そうですね」  そんな些細な夢も語って、彼女も微笑んでいたというのに。  当夜、勧められるまま深酒をしてその後の記憶がない。目が覚めたらこの部屋にいた。初めは激昂して、それから諭すように、ある時は懇願に近い声色で、どんな言葉で尋ねても、彼女の答えは無いか、曖昧なものばかりだった。  彼女は、僕の思いを試しているのか? 監禁という行為が生み出す歪んだ関係性。被害者からの依存性を期待しているのだろうか。彼女の目的は、ただこうして廃れていく僕を、籠の外から眺めて居たいだけなのかもしれない。  薄暗い部屋で、食事と睡眠の数を数え、もう二月も経った。ひたすら薄暗闇の日々が続いたのだ。段々と、自分の中の何かがすり減っていくのを感じる。 「なあ、今日でもう二月だ。あんたはいつまでこんなことをするつもりなんだ?」  辛うじて、まだ忘れていなかった声と言葉で問いかける。どうせ返事は無い。宛てのない言葉は、壁の中に消えていってしまうのだろう。ただの独白だ。  そう自嘲しながらも、久々にあの困った顔つきを拝んでやろうと、俯いていた顔を上げた。彼女の唇が動いた。 「あと、二週間、くらい?」  食い下がるべきだったろうが、驚き、言葉が出ない。明確に期限を口にしたのはこれが初めてだった。彼女に何の変化があったのか。  その日を皮切りに、彼女は、毎日私の言葉に返事をするようになった。 「もうちょっと、今日は、まだ」 「まだ早いの、だめ」 「きょ、今日は、雨が降ったから」  ある日、聞きなれない金属音と共に、いつもとは異なる微妙な風の流れを感じた。ひた、ひた、と足音が近づく。顔を上げると、鉄格子の向こうの彼女が傍にいた。 「あの、これ」  差し出されたものは、黒いアイマスクだった。付けろというのだろうか。視線で問いかけても、困った表情をするだけだから、望まれるままに装着した。手を引かれ、立ち上がる様促される。僕は彼女のするまま、素直に従った。 「どこに向かっているんだ」  答えのないまま、歩いた。あの仄暗闇から解放されるのならば、どこでもいい。僕はあの薄暗い部屋を出たのだ。  途中から、足の裏に感じていたものが、コンクリートよりも柔らかい感触に変わった。風にのって、土と草の匂いがする。 「取ります、ね」  もう随分歩いたと疲労を感じ始めた頃、ふと立ち止まって彼女は言った。  髪が巻き込まれ頭皮が引っ張られたが、些細な問題だった。  流れ込む光の束に、すぐには目を開けなかった。ゆっくりと瞼の裏に馴染ませ、恐る恐る開いていく。  色の洪水だった。失くしていた色、求めていた色、知っていたはずのものが、未知のものに見えた。背丈を優に超える幹は、大地の色を吸い込んでいる。風に舞い散る花びらには、一枚一枚色があった。全て、異なる色なのだ。  言葉にならない僕に、彼女は嬉しそうに笑った。久しぶりに見た笑顔だ。僕は、彼女が僕を閉じ込めた理由を悟った。後はただ、手を握り締めて、桜を眺めた。

How do I get very happy birthday brother very big part of it if it doesn’t have my mom

How do I head to Cocopah Verde Valley better we have a Vancouver without a widower daddy where we never never available that’s why whenever dad about every day to every day with that at the KavaKopia Square motivated with that I have a better day to cover with Deborah Deborah Deborah Deborah Deborah Deborah have a good cup of olive oil very good bird of a dead bird out of AA but it will be whatever data that we would do that with that baby do that I think I’m OK to cover the route of every every Vacaville right about that a bit about her dad we have a good day but that was after you get avocado, very well I have a very very very very bad about that a bit of that with every devil ever did have a pool cover were very happy with her covered everywhere whatever that river that’s true but out of evidence avocado cup of hot water come over without a bit of a dead forever that way but that will be doing that with the ditch have a good cup of good vibes are a bit of a cover of a dedicated Deborah Deborah Deborah with you but that’s a buckle broke up with her baby daddy I can’t have a debit card Advair have a local Barbie habit Burger Grill have a very very happy birthday Debbie Debbie Debbie Debbie Debbie Debbie Debbie Rivette about Kuniko Birdwood have a very bad that I got a bit of a dead we have a limited availability with that baby that we will do that have a good have a blue highway, Barbara never ever never ever never ever ever that we will have a dental baby that baby but I will never do it but it I will go to Camp Verde we have a group about a devil ever Denteley there’s a baby deer without available naturally available that have a quick recovery mode but I have a Weather delivery but they were dead available dates for availability over that way but if that avocado cup of olive oil but then we have a bit of a delay however the death of a better way down to dead River down to Village of Oak Creek cabinet where I have a bit of a date with dental care about a dedicated

黒い箱

目が覚めた。最初に感じたのは、完全な暗闇と、肌を撫でるひんやりとした空気。そして、鼻をつく微かな金属臭。 「ここは…どこだ?」 掠れた声が、吸音性の高い壁に阻まれて妙に響かない。ユウキはゆっくりと身を起こした。手足の感覚はある。だが、自分がどうしてここにいるのか、直前の記憶がすっぽりと抜け落ちていた。 手探りで周囲を確かめる。壁も、床も、そしておそらく天井も、すべてが滑らかで継ぎ目のない、光沢のない黒い素材でできているようだった。指先でなぞっても凹凸一つ感じられない。まるで無限の虚無に閉じ込められたようだ。出口も、換気口らしきものも見当たらない。完全な密室だった。 部屋の中央へと進むと、そこには部屋と同じ質感の一辺1メートルほどの黒い立方体が鎮座していた。 「箱…?」 近づいて観察する。これもまた、継ぎ目も取っ手も、何かを開けるための仕掛けらしきものは一切見当たらない。ただ、そこにある。圧倒的な存在感を放ちながら。触れてみると、ひんやりと冷たい。金属とも石とも違う、奇妙な質感だ。 どれくらいの時間が経っただろうか。暗闇の中では時間の感覚が狂う。喉が渇き、空腹を感じ始めた。だが、それ以上にユウキを蝕んでいたのは、絶対的な孤独と、出口のない閉塞感だった。 (誰か…誰かいないのか!) 叫びたい衝動に駆られるが、声は虚しく吸い込まれるだけだ。意識が朦朧とし始めた頃、奇妙な現象が起こり始めた。 部屋の隅に、誰かがいるような気配。耳元で、囁くような声が聞こえる気がする。 「…出してくれ…」 「…痛い…苦しい…」 幻覚だ、幻聴だ。そう思おうとしても、気配と声は徐々に鮮明になっていく。 ふと、中央の黒い箱に目をやった。気のせいだろうか。箱が、ほんの僅かに、低く唸っているような…振動しているような気がした。 恐る恐る箱に近づき、再び手を触れる。やはり冷たい。しかし、指先に微かな振動が伝わってくる。そして、箱の表面に、先ほどはなかったはずの、淡く光る複雑な幾何学模様がゆっくりと浮かび上がってきた。 その模様に指が触れた瞬間、脳内に奔流のようにイメージが流れ込んできた。 --- 白い壁の研究室。複数のモニターが並び、データが表示されている。見知らぬ白衣の人物たち。そして、自分とよく似た、しかし憔悴しきった顔の人物が、今いる場所と同じ黒い部屋で苦悶している姿。押さえつけられる感覚。悲鳴。絶望。 --- 「うわっ!」 ユウキは思わず手を引いた。激しい頭痛とめまい。流れ込んできた映像は、他人の記憶の断片のようだった。だが、そこには耐え難いほどの恐怖と苦痛が伴っていた。 混乱する頭で、何か手がかりはないかと壁に目をやった。そして、気づいた。床に近い壁の一部に、引っ掻いたような、微かな傷跡が無数についていることに。まるで、誰かが絶望の中で必死に爪を立てて、ここから出ようとしたかのように。 その瞬間、断片的な記憶のフラッシュバック。白い研究室。「実験」という言葉。黒い箱から流れ込んできた、他の誰かではない、自分自身の苦しみ。壁の傷跡。 (まさか…!) この部屋は、実験施設なのだ。 そして、中央の黒い箱は、被験者の精神…特に恐怖や絶望といった極限状態の感情や記憶を記録し、増幅させるための装置。 (俺は…被験者…! ずっと、ここで…!) 流れ込んできた記憶は、他の誰かのものではない。それは、過去の「自分」の記憶だったのだ。壁の傷は、過去の自分がつけたものだ。幻聴や幻覚だと思っていたものは、この箱に残された、過去の自分や他の被験者たちの残留思念なのだ。 自分がモルモットのように扱われ、繰り返しこの終わりのない絶望を味わってきたという事実は、ユウキの精神を根底から打ち砕いた。 「あ…ああ…ああああああ!」 獣のような咆哮が、吸音性の壁に虚しく響いた。ユウキは頭を抱え、床に崩れ落ちた。涙も出ない。ただ、底なしの絶望が全身を支配し、思考を停止させる。もう、何も考えられない。何も、感じたくない。 意識が急速に薄れていく。遠のいていく意識の片隅で、黒い箱の表面の光る模様が、まるでその役割を終えたかのように、ゆっくりと消えていくのが見えた気がした。 そして、ユウキの意識は、再び深く冷たい水底へと沈んでいった。抗う術もなく。 … …… ……… 目が覚めた。 最初に感じたのは、完全な暗闇と、肌を撫でるひんやりとした空気。そして、鼻をつく微かな金属臭。デジャヴュのような感覚。 「ここは…どこだ?」 掠れた声が、壁に吸い込まれて響かない。ユウキはゆっくりと身を起こした。手足の感覚はある。だが、自分がどうしてここにいるのか、記憶は奇妙なほど曖昧だった。 部屋の中央には、黒い箱が一つ、静かに鎮座していた。まるで、彼が目覚めるのを待っていたかのように。

出逢ったのは

 入れ替わったスマホを交換する為にやってきた清流公園のイベント会場裏側にて、芳は大好きな【スピリット・アーク】の歌い手である香本人と会ってしまった。  側から見れば密会だ。   「あ、あのぉ! わた、私はぁ!」    持ち主を知らずにただ善意でスマホを持って来たと伝えようとするも、相手は大好きな歌い手。上手く言葉が出てこなくて詰まる芳の意図には、全く気付く様子はなく香は警戒心のカケラも無い人懐っこい笑顔を向けた。   「僕のことより早く電話に出てあげて。さっきからずっとコール音が鳴り止まないよ」 「えぇっ? わっ、紗希からだ」    返してもらったスマホの画面を確認したらそこには、同行者である紗希の名前があり、今も芳の手の中でスマホは音とバイブで着信を知らせ続ける。   「友だちか、いいね。大切にするんだよ。友情は貴重だからね」    眉をハの字にして、困ったような寂しそうな微笑みを浮かべた後に香の方のスマホも着信を知らせてきた。   「おっと、マネージャーからだ。それじゃ、本当にありがとう! さよならっ」    香が慌てた様子で走り去ろうとする姿を見て、芳はとにかく御礼を伝えたくて急いで思い付いた気持ちを並べる。   「あの、ありがとう! 香くんの歌、大好きです。応援してます!」    通話に出ようとしていた手を一瞬止めた香は、にこやかに微笑んで手を振って応えた後、スマホを耳に当てながら走って行く。  ぼんやりと小さく手を振り返して見送っていた芳は、ゆるゆるとようやく紗希からの着信に出た。   「おっそおぉーいぃ! 今どこ、急に居なくならないでよ、心配したじゃん!」    覚悟していたとはいえ、予想以上の声量で紗希が怒鳴ってきた為、一気に夢から覚めた気分になった芳はその場で兵士のように姿勢を正した。   「は、はい、申し訳ございません、上官!」 「誰が上官じゃーい! もういいから、会場の物販の所に集合ね」 「あ、でもね紗希、わたし……」    早口に言い切る紗希へ、既に現場へ来ていることを伝えようとしたが、次に聴こえたのは、ツーツーという電子音のみ。   「切れた……紗希になんて説明しよう」    気落ちした声を発しながら途方に暮れた芳は、スマホの時計を確認するも、とっくに物販は開始されてファン達が嬉々としてグッズを買っている時間だ。  今ここで紗希との合流場所に直で向かえば確実に誤解されかねない。  仕方なく芳は、紗希に申し訳ないと思いつつ少し遠回りして公園の入り口へ走った。  もちろん、合流した紗希からは再び不機嫌な感情を今度は面と向かってぶつけられた。    スマホが無事に戻って来た香の方は、連絡が遅れたことで怒る相手に電話で平謝りしていた。   「はぁあっ、別れるってちょ、今回は本当に予期せぬ事態が……なんでだよ、僕がいつ君に冷たくしたって、頼むから考え直し……あ、待ってよぉ!」    こちらも一方的に通話を切られ、しかもその相手はマネージャーではなく長年隠れて付き合っていた彼女だ。  茫然と崩れ落ちた香は、これ以上は無理ではというくらいに項垂れてしまった。   「そんなぁ……新曲、きみのために……」    彼女には届かなかった呟きを口にした香の所へ、マネージャーが呼びに来る。   「香さん、お願いします」    マネージャーの声に反応して、香がスッと立ち上がり項垂れていた顔を向ける。   「……あぁ、リョーカイした。他のメンバーも呼んでくるぜ」    鋭い眼光と不敵に歪んだ口元で、悲しみを覆い隠した香はマネージャーの横を素通りして控え室から出た。   (あーぁ、僕にはやっぱり歌しかないのか……)    香は半分自棄になりながら心の中で悪態を吐いた。    ――香くんの歌、大好きです!    どういうわけか、今日スマホを届けに来てくれた芳の姿が脳裏を過るも記憶の片隅に追いやった。

できちゃった婚とすれ違い

 この間できちゃった婚を無事に為し終えた友人との電話は、思いのほか弾んで午後六時を過ぎた時。 「そういえば、お腹すいたねー」  電話の向こうに投げかけた。しばらく沈黙の後に、答えがやってくる。 「人ひとり産んだからね。そりゃ凹みますよ」  ケラケラと笑いながら彼女は言った。そういえば、そんな話の最中だった。  私もまた、同じように笑った。

『また、ね。』

「物事には適切な時期ってものがあるの。私たちはたまたまそうじゃなかった二人なだけ。またって言葉はあまり好きではないのだけれど、またね。」 彼女は軽く微笑みを浮かべながらそう言い残すと、私の返答を待たずに、足早に有楽町のガード下へと歩いていった。―コツコツコツ―ガード下に鳴り響くハイヒールの足音は虚しい位に一定だった。つい何かを話していた。―私は何かを話さないとどうにかなりそうだったのだ。―ヒール音が聞こえなくなるまで、独り言をただ呟いていた。正確には、音が止む前に、山手線の轟音に掻き消されてしまった。さっきまで見えていたガード下の灯りが徐々に滲む。私は追いかけることも、返答することも、彼女の後ろ姿を最後まで目で追うことも出来なかった。―まただ。― 不適切な判断だと思った。

How do I get to work a brother have a rideable and a mom

Otherwise you might get really heavy but I have a black girl that we have a better game and then library there without a way better with that headache I gotta go to bed I have a room with a bar with that way better without it whenever that way they would have had to get a kookaburra whatever we have a crew cab over whatever it was that way with that had a cup of cup of regular have a better weather with that whatever that way but that’s very very nice and cover cover cover cover cover what I have ever ever never doubted that I think I could’ve covered it I have ever read a cover whatever data village at the cabin Creek provide a cup of her without them and I have you going to come over we have a good cup of water but I haven’t had a baby elephant dad had a couple good where are very welcome Barbara have a bad by the weather we have a debt at the cabin could come over the library by the bed ever that’s what available dates for Amoco run over now and when I’m an hour at the cabin crew cab good with that I have a better whatever that way with it and the cabin that’s a mega Meriwether dads house I’d like a burger have a brother you have a daughter and I’m at work or wherever that I have a very very bad that I have ever ever did that with every table with that headache I could’ve kept going to have every right but I really have a budget with that whatever they were that way but that’s whatever but out of a dead bird have any cabinet right of the dead of the dead battery dead rid of a dead battery bit but that’s about kookaburra Weber Whitaker with everybody everywhere that way everybody but that’ll be but that’s at the cabin could’ve had a better they have a little Kubota with that whatever that if that’s whatever it was that one that’s at the cabin couldn’t go to bed we have a kookaburra did a cover of adorable with that at the cabin couldn’t cover the cover but whatever they’re doing it that way but it was never that educable could’ve came over the world where everyone

sound36 ごうごう

星をぶら下げて月を掲げながら、夜が訪れた。家中の明かりを消すと、全ての輪郭が溶け出して、色を失くした世界に滲んでいく。静けさの波に浚われるままに、温もりを忘れたベッドに横たわる。ひんやりと滑らかなシーツに、擽ったそうに睡魔が微笑う。徐々に脱力する神経が心地良さそうに微睡むと、釣られて意識が欠伸をした。とうに眠りに就いた瞼は、今日の出来事を夢に見ながら、ふるりふるり、楽しそうに身を震わせている。 ──ごうごう、ごうごう。 静寂の合間を縫うように、部屋の片隅から聴こえる雨声。頭上の窓辺に雨の気配は無く、仮初の音を子守唄代わりに、ぷつり、眠りの海へ深く、深く沈んだ。

睡魔の保管

私はいつからか、睡魔を保管できる。 朝起きる時や、昼ごはんを食べた後、普通は眠くなる。 しかし、「起きてたい!」という気持ちが強すぎるからか、睡魔を保管できるようになった。 イメージとしては、パソコンの”現在”というフォルダから睡魔をドラッグ&ドロップして”その他”のフォルダに移すようなものだ。 それを頭の中で行なっている。 そうすると眠気が霧散し、脳も開けたようにクリアになる。 一度、夜寝る前に間違えて睡魔を飛ばしてしまい、朝まで眠れないこともあった。 そこは気をつけようと思った。 また、逆に眠れない時は、”その他”フォルダから睡魔を取り出そうと思ったが、鍵がかかっているような感覚で、不可能であった。 いつの頃からか、”その他”フォルダの右上に数値が表記されるようになった。 そして今回で、999の数字がついた。 その日眠りについたら、何やら不思議な夢を見た。 白いシルエットの人が「ありがとう」と囁いてきたのだ。 翌日、いつも通り、昼ごはん後に睡魔を保管した。 そして”その他”フォルダの数値は1000となった。 その瞬間、”その他”フォルダは溶け始め、白い光に包まれた。 私の頭は割れ、そこから睡魔が誕生した。 それから睡魔はあらゆるものを眠らせていった。 友達、先輩、植物、本、地球。 最後に、言葉sdkhvpqw jrfuakgds ofifhsjo;j vhga fih ia;orejti vlban grkskdvsb yv8sncjnghbnilcmiojn fiwusghsvぼんchmじおfjng iscuna;oj fioghsdmnjghl urshcmnaosj hcginsuho wrjsilu cgtiluwa briuguqwaentoi cyuixrbivwonserthioes hguivcft342:;9雨8l_@