「ほら、ここならよく見えそうだよ。二人きりにもなれる」 「だね。あとちょっとで始まるよ」 僕と彼女は街の外れの小さな高台に来ていた。 あと少しで始まる花火大会を見るためだ。 「あ、あそこ見て。この前できたかき氷屋さん。すごい混んでるね」 「すごい美味しんだろうなあ」 ふと街から視線を外し横にいる彼女の顔を見る。 その特別白い肌に街の光が反射して、 夏なのに涼しげな雪を連想させる。 一瞬で奪われた僕の目を、 君がどこかにしまい込んでいるのだろうか。 返ってくることはないのだろうか。 僕の視線に気づき彼女もこちらを見つめ返す。 花火が上がった。 その瞬間、 世界は静寂に包まれた。 僕らは目を離さず、 互いの目の淵に反射した花火を嗜むかのように、 じっくりとゆっくりと。 その目の輪郭を準えた。 気づくと花火は終わっていた。 彼女が口を開く。 「ねぇ、私たち 」 その後、僕の中で彼女は亡くなった。 あの日から今に至るまで彼女は僕の前には現れなかった。 理由はわからない。 明確に示してはくれなかった。 だからこそ、彼女はいつまでも僕の中にいた。 嫌でも薄れていく記憶の中で、 僕は何度も何度も上から同じ線を準えて。 幾度も修繕されたその絵画はもうすでに原本とはかけ離れたものになっているのだろうか。 彼女の声、指先の温度、その一つ一つが確かに消えていく。 もう二度と確かめることのできないその体温が、どうか僕の体温よりも冷たいことを願って。 花火大会の数日前、初めて彼女が泣いているのを見た。 何が合ったのかはわからない。 僕は月並みな言葉をかけてやることしかできなかった。 もしあの時、僕がこの世のどこにあるのかわからない、あるかもわからない、彼女のためだけの言葉を見つけれていたら。 何か変わったのかもしれない。 そう思うだけがただ辛くなった。 あの日から八年。 今でも毎年花火大会の日になると街の外れの高台に来る。 僕の記憶に花火はないはずなのに。
ねばっこい蝉時雨も落ち着き出した頃、人気のYouTuberが結婚をした。私が高校生の時から耳目を集めているイケメンYouTuberで、ずっとトップを走り続けている。 お相手はかなり若い方のようで、ネットでは色々と憶測が飛び交っている。 そんな投稿も私は上から下へと流していく。 年が明け仕事が始まった。新年初日は水につけた綿菓子のようにあっという間に溶けた。久しぶりで感覚が鈍っているのか、単に仕事量が多いのかはわからない。とにかく気づけば外が薄暗くなっている。 仕事をするのはできれば避けたいけれど、いい感じの疲労が溜まってぐっすり眠れるから完全に辞めたい訳でもない。先輩や上長と話すのは楽しいし、仕事をやったぞという達成感は何物にも代え難い。 それでも、ぐるぐる考えた結果毎回たどり着くのは家で本を読んでいたいという高等遊民のような生活だった。 いつもよりも早めに会社を上がる。肩の内側にゴルフボールくらいの違和感がある。そのせいで今日は本を開く気になれない。 ぼうっとしながら電車の窓から景色を眺めていたが、それにも飽きてしまった。外は真っ暗で何も見えない。 スマホを取り出しXを眺める。こういう時に見るSNSは脳の奥を電気の棒でぐりぐりされているような気持ちよさがある。 ある投稿が目に止まった。 「人気YouTuberの嫁デートの動画。コメント欄、嫁を褒めてんのひとつもない。悪口ばかり。むしろユーモアで草」 その投稿にはコメント欄のスクショもご丁寧に載せられてある。 「嫁さん流石に品性が…」 「不穏な匂いしかしない笑」 「金持ちとじゃないと生きていけない嫁みたいだな」 「典型的な世間知らずって感じ」 見事に悪口のパレードだった。 私はその動画を見てみた。動画のタイトルはクリスマスデートとなっている。 彼の動画を見たのはいつぶりだろう。そんなことすら思わせないほど、彼は昔と変わっていなかった。 その横には可愛らしい雰囲気の女性、というより女の子が居た。 「今日は遊覧船を貸し切ったんだよ!」 「え〜、えらーい」 遊覧船の搭乗口には執事のようなスタッフが立っていて二人を出迎える。その前を女の子は何も言わず何もせずに通り過ぎた。 中を通ってデッキに出ると、芦ノ湖が目の前に広がっている。 「すごーい」 「めちゃくちゃきれーい」 私は仕事帰りに何を見ているんだろう。ただその落ち着いた雰囲気に目が離せないでいる。 二人はそのあと遊覧船の中でご飯を食べたりして楽しい時間を過ごしている。 相変わらず二人のテンションは優しく燃える火みたいに穏やかなものだった。 動画はあと30分近くある。何かのエネルギーをごっそり持っていかれ、私はスマホをしまった。 電車の走行音が内に響く。 品位を欠いていると言われる人はどこにもいなかった。私には彼女が「そういう人」という人間にしか見えなかった。ありがとうとかもあまり聞かなかったし、無愛想な感じはたしかに覚えた。 だけど人ってそんなもんじゃないのか。私だって照れ臭くて「ありがとう」と言えないことはある。他人から見てそれは品位を欠いていると見られるかもしれない。 不思議なのは、みんなが「彼女には品がない!」と指さしているところだ。だって、この世にはもっと品位に欠ける人がいるではないか。 ほら、あそこ。 電車の中なのにビールを飲んでる。 駅に着いてこちらが降りる前に乗ってくる。 残高不足で改札が通れないとき後ろから舌打ちを浴びせてくる。 コンビニの会計で「ふくろ」としか言わない。 街中でわざとぶつかってくる。 誰しもがちょこっと品位に欠けている気がする。 動画のコメント欄は封鎖されていた。だから悪口の寄せ集めみたいなスクショしか見ることができない。それを道徳の教科書みたいに掲げている人がたくさんいる。 どうしてみんなそんな風になってしまうんだろう。たぶんみんな薄々気づいてる。でも見ないフリをする。認めたくないんだと思う。そんな醜いものを自分が持っているはずがないと。 電車は最寄駅に滑り込む。乗客はたくさんいるのに降りるのは私だけだった。再び走り出した電車を見ていると、それはなんとなく貨物列車のように見えた。
「おーい、論点すり替えないでもらっていいですかー?」 まただ。 こいつは、論点のすり替えという指摘を、口癖のように言うようになった。 正直、自分の中では論点がすり替わってなどいないので、こいつの言葉の意味が分からない。 だから、聞いてみることにした。 「ごめん、自分ではすり替えたつもりがないからわからない。すり替える前の論点と、すり替えた後の論点を言語化してくれない?」 「え?」 そいつは腕を組んで悩み始めた。 あーでもない、こーでもないとうめいた挙句、最後には俺をにらみつけてきた。 「論点をずらすな!」 そして、走って逃げていった。 きっと、自分でも論点がわかっていなくて、ふわっと何かが違うと思ったから、反射的に口癖が出たのだろう。 理由が分かってすっきりした。 俺はすがすがしい気持ちで家に帰り始めた。 せっかくだ、途中でカフェにでも寄って帰ろう。
「私、桜が大好きなんです」と、バイトのゆうなちゃんが言った。 彼女は、春休みの内に面接にやってきて、4月からすぐシフトに入ってきた高校一年生のバイトの女の子だ。 秋田県は、桜はまだ先。 「さくらかぁ……実は私は、あんまり好きじゃない。最近やっと、まあきれいかな、と思えるようになったけどね」 我ながら、可愛げが無いな、とは思うけど、日本全国すべての人がおおむね大好きなソメイヨシノが、特に好きじゃない。 「何か、桜って色もボサッとして、見渡す限り同じ色だし。どこででも一気に咲いて周囲が花見、花見と大騒ぎするのも、なんとも居心地が悪いのよね」 「へぇ~~!そんなこと、考えたことも無いです、沙世さん、奥が深いんですね」 「奥深いかね!?」 ゆうなちゃんは、全肯定の使い手だ。 何を言っても。側肯定! 実は結構苦手である。 「はい、結構深いと思います。私単純だから、チューリップが大好きなんですよ。でも最近、あれ?もしかして子供っぽい?って思うようになって」 「チューリップ! らしいね!」 「やっぱり単純な感じが?」 「いや、うーん……素直な感じ?」 私がそういうと、ゆうなちゃんはちょっとテレテレと口元を緩ませて言った。 「ありがとうございます!沙世さんは褒めるのが上手なんですね」 「えっ!?そんなこと、初めていわれたけど」 それは、どちらかといえばゆうなちゃんに捧げられる言葉だろうと思う。 「私、すぐイイネ! って即答するって言われて信用無いんですよ」 確かにそれは信用無いわ。 私はそう思いはしたけれど、私のゆうなちゃんを比べれば、明らかにゆうなちゃんの方が人気がある。 私は内心、うじうじとしながら自分と彼女を比較した。 「私のイイネには心がこもってないって言われちゃって」 「いや、そんなことないと思うわ、すぐ誉め言葉が出てくるって、性格が良い証拠よ!良いと思う!」 私が即答してみると、ゆうなちゃんはさっきよりテレテレと笑った。
今日は目覚めのいい日だ。 目が覚めてからすんなりベッドから出ることができた。 今日は長年同じ芸術家として苦楽を共にした親友を家に招き入れる。 朝食を済ませるとすぐにその支度に取り掛かった。 彼が座る場所の周りはできるだけ白く。 まるでキャンパスのようにする必要がある。 対して私はなるべく地味な色の服を着る。 作者が作品よりも前に出てこないようにするためだ。 料理は、そうだな。 あまり堅苦しくないイメージ、普段食べるようなものにしよう。 彼と会うのが楽しみだ。 「やあ、久しぶり。今日は来てくれてありがとう。料理の準備はできている。早速だが食事をしようではないか。積もる話も食べながらしよう」 彼は約束通り白い服を着てきてくれていた。 「さっそくだが、今日君を呼んだのは私の芸術感について話したかったからだ。はじめに芸術家はその作品を何をもってして完成というのだろうか。聞かせてくれ」 彼は言った。 想像してたものが出来上がったらじゃないか?と。 「違う違う違う。作品の制作が進むにつれ想像は膨らみそれは際限がないだろう。我々の想像力に終着点があるだろうか」 彼は言った。 では一体なんだ?と。 「よくぞ聞いてくれた。これはあくまで私個人の見解だが、無限大に広がる作品という名の想像力の唯一の終着点。それは破壊であると思う」 彼は言った。 作品を破壊することで完成するのか?と。 「ああ。そういうことだ。今まで積み重ねてきたものを、それとは反発的に破壊、崩壊することで人は喪失感を覚える。私はその感覚がたまらなく愛おしいのだよ。だからこそこの手でその感情を生み出したい」 彼は言った。 お前のそれは道徳的な問題は守られるようなものなのか?と。 「道徳に従った芸術などつまらなくはないか?まあそれはさておき、その破壊には死も含まれると私は思う。いや、死こそが最もその崩壊を体現する。古くからの友よ。共に芸術を追求してきた友よ。今日ここで友情という名の芸術の完成だ。」 彼は何も言わなかった。 がしかし、私を見る目はもう友ではなかった。 「なぜそんな目で私を見るんだい?おかしいじゃないか。今まで一緒に芸術を語らってきただろ。君と私という芸術の完成、そして新たな世界を切り開くために。その世界がきっと私に新たな芸術を与えてくれる。だから頼む、大人しく…」 彼が一瞬言いかける。 「お前は、」 私は用意したキャンパスに赤く割れた鏡を描いた。 耳を塞ぐように。
前髪が大事だなんて思ったことのないわたしは ちょっとあれでどうかしちゃってるのかもしれない 前髪のキマりぐあいより朝のテーブルに並ぶベーコンの焼きかげんが こんがりになっているかどうかのほうがなにより大事 その日、最初の一杯だけでもおおきなカップで それがあまいあまいミルクティーならなおよし 今朝はバターをぬったトーストの上に いちごジャムの美味しい層を重ねてしまった ふふん あのお店、つまり 天井を見上げると電気ブランの古いポスターがはってあって 比較的恋愛に関しての感度がいいとキモチ悪いことを自称するマスターがいて なくなってしまえばいいのにと思っているわりに足が向いてしまうあのお店 そうなってくれたらとわたしが思っていたとおりの未来があのお店には待っていた マスターがわたしに安物のスウォッチを差し出してきた次の月の、その次の月のことだった あのお店がなくなったことは、すくなからず、わたしの生活に影響があって かわりとして、ふらりと行ける場所を見つけないとならなくなった そんなもの、簡単に手に入れられると思っていた、最初のうちは 街を転々とするのだけど、どこもそれなりに安心でき、それなりに居心地がよくない ある場所は、わたしを快く受け入れてくれ、わたしを丁寧につつんでくれた そのあまりのやわらかさに、くすぐったい思いを常にしなければならなかったわたしは 居心地が悪くなり、そこには行かなくなった ある場所は、いい人の顔をしてわたしに近づいてきて、けど、引き入れておいて ひどい仕打ちをしてきた、わたしはたまらずそこから逃げ出した ある場所は、はなっからわたしを相手にしなかった そこにわたしなんて存在していないかのように ふらりと行ける場所が見つからないまま、いつのまにか大晦日の夜で だから、あとすこししたら年が明けようかとしているとき そんな時間にもかかわらず人の出が多く、その大半は浮かれていて そういった人たちのなかに見たことのある顔を見つけた その男は、おとなしい感じの女性と並んで歩いていて あのお店での妙なキモチ悪さはみじんも見られず わたしの知らない表情をその女性に見せていた ふうん、そうなんだあ 目で追ってしまう、ずっとずっと追いかけてしまう 女性が何かを指さし、男のほうはその指の先を見る わたしとはまるっきり正反対に分類されるであろうその女性がその男に何かを言い その男は、その女性に、何かを返す、やさしく、ささやくみたいにして 花火が打ちあがり年が明けたその瞬間 ふたりは人目を気にすることなく、くちびるを重ねた そうすることが自然であるかのようなその行為は、妙に艶っぽく それでいて、ひたすら下品で、野蛮なことであるようにわたしには映った わたしは走った、わけもなく走った 人の流れに逆らいとことん走った 遊んであげていたつもりが 遊ばれていたのは わたしのほうでしたとさチャンチャン 何人かの人にぶつかり、そのうちの何人かは文句を言ってくる 浴びせられる言葉たちが追いすがってくるのを振りほどきながら わたしは走り続けた ◇ ◇ ◇ 年明けの澄んだ空気が濁りはじめたころ、あのお店のあった場所に行ってみた お店があったとこは、借り手が見つからず しばらくそのままだった、そのことは知っていた そのあと、わたしの足が遠のき、知らないあいだに 建物ごと取り壊されていて、いまではすっかり何もない ここ、わたしの居場所みたいなもんだったんだよなあ こぼれ落ちそうになるのをこらえ、視線を真上に向けてみる いくら見上げてみても、いくら目を凝らしてみても そこに電気ブランのあの古いポスターは見えない ここ、本当にわたしの居場所だったの? ここは本当に―
「仕事納めた! 遊ぶぞ!」 明日から始まる年末年始。 一日中炬燵に入ってみかんを食べられるように、みかん大人買い。 家事なんて、絶対しない。 ご飯は出前。 作る気ないから当然です。 掃除は無視。 一日中炬燵で汚れないから当然です。 洗濯は無視。 ずっと同じパジャマで平気だから当然です。 年末年始休暇の前日は、漫画を読んでゲームをして、不摂生な大学時代を思い出して欲のままに。 時計が零時を告げたので、盛り上がりは最高潮。 「ようこそ! 年末年始休暇!」 そのまま遊び疲れて眠りこけた。 おへそ出しっぱなしで。 「げっほんごっほん! 風邪だ! お腹もいたい! あー!」 年末年始の加算料金払って病院に行った結果、流行り病のアレ。 「一週間もすれば治るよ」 「イッシュウカン!?」 絶望した。 年末年始級休暇を全て食いつくす現実に絶望した。 社畜っていつもこうなんだ。 仕事の日は鬱々とするが体は元気。 休みの日は気が緩んだように体調を崩す。 いっつもこうなんだ、はー。 見慣れた天井を見つめながら、布団の中。 ご飯も掃除も洗濯もせず、ふとんでごろごろ一日中。 当初の願いは叶ったが、なんだろうこのコレジャナイカン。 苦し紛れに漫画に手を伸ばしたが、発熱で思うように内容を理解できなかったので、やむを得ず閉じた。
「売国奴! 売国奴!」 「ここで買い物なんてするな! 不買! 不買!」 店の前で、不買運動が始まった。 原因は、うちの社長が反日活動とも読み取れる発言をしたからである。 社長に確認したところ、「日本のより好きだって書いただけなんだけど」と驚いていた。 キムチは韓国産。 時計はスイス産。 ピザはアメリカ産。 妙なところで海外かぶれなことを知っているので、ぼく自身は社長の投稿に違和感などなかった。 いつものことだし、好みは自由だ。 しかし、移民問題に宗教の儀式問題。 日本と海外の常識のぶつかり合いが起き、ピリピリとしている現代には、ちょっとスパイスが強すぎたのだろう。 「売国奴! 売国奴!」 「ここで買い物なんてするな! 不買! 不買!」 ああ、面倒くさい。 雪であれば、除雪車を呼べば一発なのに。 人間相手だと、話は違う。 人権や表現の自由を持ち出されて、話がややこしくなってしまう。 「うわ、外凄いね」 ようやく状況を把握した社長が、窓から外を覗いて、また驚きの声をあげる。 「どうしましょう。これじゃあ、営業できないですよ」 「ちょっと待ってて」 ぼくが疲れたように言うと、社長はどこかへと電話をし始めた 電話をした十分後。 何やら、窓ガラスにスモークの入っている黒塗りの車が数台やってきた。 車の中からは、全身真っ黒な服を着た入れ墨ばっちりのお兄さんたちが降りて来て、店の前にたむろっていた人たちと何やらお話をしていた。 その後、皆で仲良く黒塗りの車に乗って、どこかへ走り去っていった。 数人、涙目になってた気がするけど。 「なにしたんですか、店長?」 「なあに。業者呼んだだけ」 ぼくの質問に、店長はごまかすような笑顔で答えた。 ああ、これは触れないほうがいいんだな。 ぼくはそれ以上何も聞かず、開店の準備を始めた。
彼が来ない。 もう約束の時間から2時間も経っている。 でも、もう、慣れてしまった。 私は、3回目のオーダーで頼んだ抹茶パフェを意味なく崩す。 サク、サクと。 ……あー。 早く、来ないかなあ。 2週間後。 私と彼は別れた。 やっぱり、デートの度に、何時間も待たされるのは無理だった。 顔は良かったんだけど。 それからしばらくして、私は街中で友達と買い物の待ち合わせをしていた。 その時、偶然、誰かを待っている彼を見つけた。 遠くから彼を見ていると、かわいい女の子が、彼に駆け寄った。彼は笑顔で、女の子を迎えた。 ……ちょっと、どういうこと? 〈完〉
「桜、綺麗だねぇ」 妹の良菜がきらきらした目で言う。 「そうだね!」とわたしは答える。 妹の良菜は病気を患っており、そう長くないと医者から告げられた。だから、桜が咲く季節には病室から桜をみて、一年間の家族での思い出を手紙に書いて、うさぎのイラストが書かれた缶ケースに保管していた。 ~1年後~ わたしはそわそわしていた。 理由は、桜が咲く季節なのに全然咲かずに、1、2個しか咲かない木が見えるだけだからだ。 しかも1年の間で病態は悪化し、いつ亡くなってもおかしくない状況だった。 そこで妹がいまにも消えてしまいそうな声で こう言った。 「お姉ちゃん...さ..くらがみ..たい。」 それを聞いたときすごく苦しかった。 いまにも死んでしまいそうなのにこの木は何をしてるんだ。すっごく悔しかったけど、1番悔しかったのは、何もできない自分がいたことだった。 次の日、妹の横で寝落ちしていたようで 妹の嬉しそうな声で目を覚ます。 「お姉ちゃん...み..て..!」 それを聞いて窓に視線を送ると そこには"満開"の桜の木があった。 なんで急に?とは思ったけれど、それ以上に嬉しかった。妹にみせれたこと、まだ妹は生きていること。 「すっごく...きれ..いだねぇ」 その言葉が妹から聞けた最後の言葉だった。 桜をみた代わりのように、 満開の晩に亡くなってしまった。 本当に悲しかった。そんな気持ちを押し殺すように自分は手紙に今までの 家族の思い出と最後に一文。 「また、桜が咲く季節に逢おうね。」 -10年後- わたしは20歳になっていた。 一人暮らしと同時に、荷物の整理をしていた時、 懐かしい缶ケースを見つけた。うさぎのイラストが書かれた缶ケースだ。 中を開くと、私宛に書かれた手紙があった。 「ん...?わたしに...?」 中を開くと、 「おねちゃん、だいすき!! また、あおおね!」 と、妹のまだ慣れていない筆跡でかかれた手紙を見つけた。その手紙はいつかかれたのかもわからない。 「うん、逢おうね。」 と泣きながらに言う。 「だいすきだよ」 と、聞こえるはずのない声が聞こえた。 わたしは泣きながら手紙を抱きしめた。
夢を見た。 水の中にいた。息はできた。 目の前に、グランドピアノがあって、君が弾いていた。 音は聴こえない。なのに感動した。 僕は泣いていた。 ピアノを弾く君の周りを、熱帯魚の群れが時折横切った。 君は聴こえない曲を弾き続けた。僕はずっと観客で居続けた。 やがて日が沈み、月の光がスポットライトのように君とピアノを照らした。 君はようやく弾くのをやめ、椅子から立ち上がり僕に向かってお辞儀をした。僕は両手で痛いほど拍手した。 そして、目を覚ました。 ……あんな子、見たことあったっけ。 〈完〉
人間歳取るとどうも足腰が脆く為って困るかも 沢山怪訝した子供時代の記憶無いから何供言え 無いけどババ期の怪訝3丁目時代勤と喧嘩して 自分の部屋に行こうとした時何かに足を取られ 滑ってテレビに激突当たり前だけど滅茶痛いし 毎日身勝手な勤に嫌気が差して自分のベッドに 行き頭を触ると出血してるヤバい切れたかなと 私は冷静に出血場所へタオルを当てるが辺りを 見れば点々と血の道が更に分厚いタオルで押え 血の道を拭いてると勤が飯を作れと言う私は今 怪訝したの見え無いほら彼処にも血の線や滴と 指をさせば先程よりも其処ら中に散らばる血痕 私は暢気に殺人現場みたいと興奮したら激痛が 触ると手にべっとり血が付いて其れを見た勤は ビビりながら未だ飯を作れと言う余りの横暴で 身勝手過ぎる言動に激怒して煩い作れば良いの 飯に血が入っても知らないからなと言い台所へ 行き焼きそば作ろうと冷蔵庫を覗けば血の海が 流石に勤も事の重大さに気付き救急車呼ぼうと 為り馬鹿な勤は救急車って金幾ら掛かると言い 私は否救急車って救急と言うし呼ぶのは無料と 言い呆れながらも血垂らけのまま自ら救急車を 自分で呼び激怒すると勤は余り興奮すると更に 出血するからと怯え私はそんな奴の態度に激怒 本当に口先だけの情け無い男を何時か捨てると 誓い数分後救急隊員が到着すると私に駆け寄り 大丈夫ですか意識有りますかと聞かれ私はハイ 出血以外は普通に元気と応え救急隊員が否貴女 大分出血してますよ意識混濁してますかと言い 私は否違いますし早く運んで下さい家中に血が 垂れるからと言い何勘違いしたか彼は私の瞼を 裏返し瞳孔異常無しと告げ私は否だから私は今 確かに出血してますがこの様に会話してますよ 先程から貴方は何言ってますお喋りは結構です 早く運んで下さいと強めに告げるともう1人の 中年隊員が分かりました貴女は度胸良いですね 普通は混乱する物ですけど冷静沈着ですし失礼 ですが御職業は警察関係か医療関係の方と言い 私は厭きれながら何だこのコントの様な状況と 分析して彼等にあの失礼ですけどコントしてる 場合じゃ無いでしょうと突っ込み漸く観念した 彼等は無言のまま私は担架に乗せ救急車の中へ 運んでくれた嘘の様な出来事は更に登場人物を 変えボケと突っ込みが変わり繰り返す勘違いの 状況が加わるのだった
君が笑う度に 僕の心が苦しくなる。 君が苦しむ度に 僕の心は晴れやかになる。 愛しているんだ、誰よりも。 だからその、可憐で繊細な笑顔は誰にも見せないで。 それは僕だけが見ていい極上の褒美なのだから。 ねえ、何度も言ったよね? 僕だけを愛してって。 それを守ってくれない君なんか、もう知らないよ。 何回も赤い色で愛を捧げたのに。 愛の赤から警告の赤へと変貌する瞬間。 僕は朝から晩まで、君を傷つけるナイフへと変わるんだ。 ねえ、僕を見てよ。 僕だけを、見てよ。 僕を、知ってくれよ。
俺は今日の朝もこの道を歩いていく。そうしなきゃいけない日になったから。憂鬱な月曜日が、もう来ていたから。 変わり映えのしない道を行く。通勤通学する人々が連なっている。スーツ、制服。はたまた私服。俺も、その中を行く。 「あれ?先輩!佐々木先輩っすよね!?お久しぶりっす!」 突然の佐々木という言葉に足が止まる。佐々木大輝、俺の苗字だった。 「佐々木先輩、急に連絡取れなくなったからめっちゃ心配したんすよぉ〜。僕これから職場なんで時間ないんすけど、あとでランチ食いに行きません?」 俺が何か言う前に強行するのはあの頃と変わらない。 こっちが、どんな思いで。 「遠慮しておこうかな。あと俺今スマホ持ってないんだよ。ごめんな。」 「あ、じゃあ僕の連絡先渡しておくんで、登録しておいてくださいね~!」 デキる社会人なら誰しもが持っているんであろう紙とペンを取り出し、手のひらの上で雑に数字を書く。 俺は登録するなんて一言も言ってない。 「はい!じゃ、僕はこれで!」 そう言って早足で立ち去る。 そうだ。あいつはせっかちだ。今ではひどく疲れる性格の一つだ。 こんなにも感覚が違っていたんだ。俺たちって。 そう考えながら、スマホを取り出す。電話番号が書かれた紙はポケットにしまったまま、俺は意味もなく画面をスクロールしていた。 自分が嫌な人間だなんて知っている。 知っているからあいつらとは縁を切ったんだ。元から合わないって薄々気づいていたけれど、合わせてしまった俺が悪いんだ。 「もう、会いたくないから。」 これからは遠回りして行こうか。職場へ向かう。俺には、今の俺の生活があるから。 「佐々木ー。ここわかる?俺お前みたいに要領良くないからさー」 「もっと上のやつに聞けよ、しゃーねーなー笑」 パソコンを適当にカチカチ。それだけで俺は生きれてしまう。 昔はもっと将来ってのは夢があるもんだと思ってた。 教師の仕事から自分では想像できない仕事まで、全てが人のためになることなんだ、って。全部誰かにありがとうって言われる仕事なんだ、って思ってたけど、今じゃ、感謝は希少価値の高い言葉になって、謝罪だけが量産されていく。 そんな場所に、慣れてしまった俺がいる。あのキラキラした後輩なんかとは遠い。俺はまだここに留まっている。 「佐々木ー!今日飲み行かね?久しぶりに2人でさ!」 「遠慮しておこうかなー笑。この前飲んだとき泥酔して迷惑かけたのお前だろ?」 「くっそ俺の酒癖が悪くなければ、、」 「それはないわ」 他愛のない会話。これで俺の仕事は終わり。 とりあえず、今日は、早く家に帰りたい。 俺は、泣きたくなる。 人に疑問を訊く時。 人の話を聞いている時。 人の幸せにあてられた時。 誰しも自分の泣き顔には見られていい人と見られたら嫌な人が存在していると思う。親、兄弟姉妹、先輩、後輩、友達、知らない人。 でも、俺は、俺に見られている不快感が止まない。許可していないのに勝手に観戦してくる自分が嫌でたまらない。
筆を手に取る。灼けるような青を手に真っ白なキャンバスを前にしたところで、描けるのは海と空だけであった。 ただ目に見えているものを描き写しただけで。 それなのに未だに、誰かの姿が消えない。風に揺られただ風を竢つ、誰かの背が。本当はいたはずなのに。 「っ……」 また、耳鳴りが僕を襲った。波の音にも似た、あの夏の音だ。煩くて、煩わしい。 そのノイズに掻き消されるまま、そこに視ていた誰かの背は消え失せてしまった。 この音がする度に僕は、 ―― 「ねえ、██」 ―― また、誰かを思い出す。 ―― 「ねえってば。聞こえてる?」 「あ、あぁ。ごめん」 またいつもの耳鳴り。最近特にひどくなってきたと感じる。 「また耳鳴り?そろそろ病院行ったら?」 「行ったさ。でも何にもないんだって。ストレス性かも、とか言われるけど」 波打ち際、いつも通り君と他愛もない話を駄弁りながら歩く。サンダルの奥に入り込んだ砂の温度を確かめながら、一歩、また一歩と、どこを目指すわけでもなく歩き続ける。 このままどこへ行くのかなんて、僕も彼女も知らなかった。ただそこにあるのは、終わらないとさえ感じてしまっている時間だけ。永遠にも近いその一瞬の連なった一縷を、ただ必死に紡いでいた。 「ねえ、来年もさ。来れるといいね」 「……うん」 そう。これは最初から、君の言い出したこと。 「海に行きたい」 だなんて、最初は冗談だと思っていた。 無機質な白い部屋で天井を見つめる君の口から、そんな言葉が出るなんて思っていなかったから。 やっと、冗談が言えるくらいに気力が戻ったのかとほっとしていた。でもどうやら、彼女は本気だったらしい。 「今の状態なら、外出も許可できます」 信じられなかった。少し前までは食事も難しかったのに。今こうして、笑顔で僕の隣を歩いている。何もなかったように。僕が、そうであってほしいと願っていた通りに。 「そうだね。来年も、一緒に」 その言葉が妙に心残りで、奥歯で強く噛み締めた。思えばもうこの時には、僕は無理だとわかっていたのかもしれない。 その報せを聞いたのは、潮風に凪いだあの日からほんの少し。たった一月先だった。 「はぁっ、はぁっ」 バタン、と廊下中に音が響く。 何かを引き戻すように扉を勢いよく開けた。 その奥に広がる、見慣れた無機質な光景。でもその中で一人、もう僕の識らない誰かになっていた。 受け入れたくない現実を直視する度に、何かが爆ぜる。それはゆっくりと、やがて僕の心を包んでいった。 消えない、あの日の波の音が。僕の記憶を鮮やかに掻き消した。 ―― 目を閉じれば思い出すのは、いつもあの日のこと。退屈を再演した、あの夏の記憶。 もう何回繰り返して、今僕はここに居るのだろう。 あと何回繰り返して、僕は君を忘れられるだろう。 そう、もうずっと前に気付いていた。 耳鳴りなんかない。この音は、嫌に僕を蝕む、あの忌々しい音は。 二度と戻らないと知った、あの夏の音。 君の声を掻き消した、あの波の音。 今もそこで一人泣いている。 失ってしまったあの夏を。咽せ返る程に苦しい、あの黒い夏を。思い出す度に、酷い眩暈が僕を襲う。 誰もいないキャンバスに描いたのは、黒塗りになった君の顔。思い出したくないと、波に掻き消させたあの笑顔。たった一つ、思い出すことさえできれば。 涙も出ないまま、胸の奥に引っかかった言葉を押し戻した。誰にも届かないと知っていたから。 これはそう。 思い出したくもない、最悪の思い出。
机の引き出しにあった修正液は、乾くのが異様に早かった。 塗った瞬間、白くなる前に、文字が別の文に置き換わる。 消したはずの一行は、 「怒鳴られた」から 「静かに注意された」に変わっていた。 私は安堵した。 これなら思い出しても、傷つかない。 同じことを、何度も繰り返した。 泣いた記憶は「少し困った」に、 拒絶された記憶は「誤解だった」に書き換えた。 ノートは、優しい出来事で満たされていった。 私の人生は、少しずつ「問題のない形」に整えられていく。 けれど、身体は正直だった。 理由のない動悸、見覚えのない恐怖、説明できない罪悪感。 どれも、修正された文章の行間から滲み出してくる。 ある日、私は気づく。 修正液は、記憶を書き換えても、感情までは修正しない。 ノートの最後のページに、見覚えのない一文があった。 「これは本当に、あなたの記憶ですか。」 私は答えられなかった。 書かれている人生は、確かに私のものだ。 ただし、それを生きてきた感覚だけが、どこにもなかった。 修正液を握る手が、初めて震えた。 間違いを直していたはずなのに、 私はいつの間にか、自分そのものを書き換えていた。
主人公の条件は、その失敗さえも陽の当たる話題になることだと思う。 同じ中学のワタルはいつも、主人公みたいなやつだった。 先生と対立したらみんながワタルの味方をするし、バカなことをしたらみんなに笑われた。 ワタルは誰にでも慣れ慣れしくて、声が小さい俺にも陽キャ仲間と同じくらいの距離感で接してきた。 早いときに「くん付けをやめろ」と言われたので、開き直って母親相手のような遠慮のない態度をとることにした。そうしたら、変に気に入られてしまった。 「オレ、バカだと思いきや意外と賢いってやつになりたいんだよね。でも今はリアルにバカだからさ、高槻が協力してくんねえ?」 「なんで俺なんだよ。陰キャがみんな勉強できるなんて思うなよ」 「でもお前はできんじゃん。説明もウマいし」 「……」 「頼むぜ、高槻」 俺はワタルに勉強を教え、ワタルは俺に流行のネタを教えた。 成績の伸びっぷりに担任は鼻高々だったけど、「わりーけど、せんせーじゃなくて高槻のおかげだから」と笑っていた。 ワタルは結局、俺と同じ高校に進んだ。 ああいう人間は、好かれる星のもとに最初から生まれているのだ。 いいやつだから、憎いとは思わない。思えないのが、むしろ悔しい。 高校で、主人公のお約束のようにワタルは先輩に恋をした。 バイト先が同じで、よく話すようになったのだという。 俺は先輩と同じ美術部にいたから、ワタルよりも早く彼女を知っていた。 あの人は部のみんなの憧れで、不可侵条約が結ばれていた。 でも、ワタルにはそんなことは関係ない。 もちろん、先輩にも関係ない。 「高槻くんってさ、ワタルの親友なんでしょ」 先輩と二人で並んで絵をかいていた時、ぼそりと言われた。 「親友ってほどじゃないですよ」 「でもあいつは、いつも高槻、高槻って言ってるよ。嫉妬するくらいにね」 遠巻きにされていた先輩にとって、馴れ馴れしいワタルは可愛かったのかもしれない。 先輩から聞くワタルの話。ワタルから聞く先輩の話。 どっちも、俺が直接見る彼らの姿とは全然違う。 俺は、ワタルに嫉妬されることも、先輩に呼び捨てにされることもない。 「主人公って、いいですね」 「主人公?」 「先輩や、ワタルみたいな」 「んー……」筆をカンバスに這わせながら、先輩が言いよどむ。 「目立つって、いいことばかりじゃないよ。周りに余計なものが群がってくる」 すっと先輩は手を止め、ぱっちりとした目で俺を見た。 「ワタルに、昨日のバイト帰りに告白された」 言われる前から、そういうことだろうなとわかった。 「返事は待ってもらってる。『高槻には黙っててください』なんて言われたから、あえていじわるで言っちゃった」 なにかをごまかすように、先輩はまた忙しく絵筆を動かす。俺も、それに従う。 「ワタルは気にしないのかもしれないけど、私にはちょっと鬱陶しい。彼のことは、嫌いじゃないんだ。でも、取り巻く雑音が嫌い」 先輩とワタルが付き合ったら、やかましくニュースになるだろう。 雑音。俺もきっと、その雑音の一つだ。 「私は今みたいに、静かな場所が好き。そんな自分から踏み出すためにバイトをしても、軸足はやっぱりここなんだと思う。高槻くんも同じタイプだと思ってたんだけど」 「俺はただ、自分がワタルみたくなれないと知ってるだけです。どっちもうまくできる先輩とは違う」 「なりたいの?」 少しずつ、生ぬるい温度が冷えていく。 「人は、なりたい自分になるんだって。……ワタルは、高槻くんのこと尊敬してたよ。オレにできないことができるやつだ、って」 カチャカチャと、先輩は片付けの準備を始めた。 それから、卒業まで俺と先輩が二人きりになることはなかった。 ワタルと先輩がお試しで付き合ったあと、受験勉強を理由にすぐフラれる姿を眺めていた。 先輩の卒業式の日、ワタルは半泣きになっていた。 ワタルはなじみのある卒業生たちにわちゃわちゃと絡んだ後、ふらふらと適当にはけてきた。 「高槻ー。ちょっと話そうぜ」 「俺と? 先輩と話して来いよ」 「デリカシーゼロかよ。オレ、バカに見えて意外と考えてるんだぜ。じゃ、あの人と同じ大学行きたいから、また高槻が勉強教えてくれ」 「美大の勉強なんか教えられるわけねーだろ」 「冗談だっての! ……もう時効だから言うけど、ちょっと怒ってんだぜ。なんであの時、本気で取りにいかなかった?」 全然、意味が分からなかった。 「先輩は、静かで面倒見がいい奴が好きなんだとよ。だから、告白の時高槻には黙ってほしかったんだ。 だってそれ、モロに高槻のことじゃん。出し抜こうとしたのにすかされて、不戦勝食らった気分だったぜ」 人は、なりたいものになる。 別の卒業生に絡みに行くワタルの背中を、俺は静かに見つめていた。
私がもらったものは、一つの壺。 誰があけたのか、雑に割られたような底穴が穿たれた、茶色い壺だ。 田舎の方に行けば、どこにでも転がっている、つまらない壺。 私がこれを曽祖母の形見だと思わなければ、ひび割れたこの壺は、そろそろ家の端っこで割り砕かれて庭の穴埋めになっているだろう。 古道具屋には、そんな道具がたくさんある。 誰が売ってしまったのだろう。 私が集めている大量の植木鉢も、私が死んだらああやって売られてしまうだろう。 売られるだけマシとも言える。 文章は、ただ消えゆくのみ。 古い箪笥の端っこに書かれた、子供の落書き。 「ふん、どうせ私が悪いのだ」 私が見つけなければ、消えてしまった、彼女の言葉。 100年も経って、私に見られるなんて思いもしなかったろう。
我々は今、海ばかりの惑星に来ている この星に来て三ヶ月が経つが 常に雨が降っている だから皆、雨の惑星と呼んでいる 風も強く、暴風雨の中で作業が続いている為 一日の終わりには冷えてクタクタになった体が、ベッドの中で溺れていく 雨風の中での作業は危険が多く 現場としてはこんな星はさっさと諦めてもらって もっと穏やかな気候の星を見つけてもらいたいものだ |||本日のメニュー〈深海の調査〉 作業内容は主にサンプル採集と環境のデータ取り 文明の形跡…例えば神殿とか指輪とかでも見つかれば、更に調査は長引いてしまうだろう 潜水艦の乗り場に行くと ボロの潜水艦しか残っていない 赤茶けた錆がアチラコチラにあり 溶接の修繕箇所だらけのフランケンサブマリンばかりだ その中でも一番マシな感じのヤツに乗り込む船内はカビと海の匂いがしている |||ハッチを閉め海に入る 海の中は魚がいるが知能は低く 見た目こそ違うが 宇宙船の中の魚と変わらない つまり地球の魚と同じIQだ 海の底には白い砂があって 海藻も生えている 水深メーターが上がっていく |||深海へ 海の底は沢山の谷があり 俺は出来る限り深いところまで降りる 辺りは暗く光はない 泳いでいる魚も見かけなくなってくる この潜水艦が耐えうる水域まで来て、停まる まだ谷の底は見えず、闇の向こうは計り知れない 平地を見つけ底に船をつける 暗視状態で外を観察すると海底を歩いている人影が見えた 二人いる こちらを見て止まった ピカッとライトが光る ライトをぐるぐる回し始めた 「こちら異常なしの合図」だ どうやら別の調査隊の奴らのようだ この星の住民かと思って警戒してしまった この辺は奴らに任して、別のエリアへ移動する 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 その日の夜 宇宙船は調査を打ち切り 別の星目指して広大な宇宙を航海していた |||「Bar agete」 シャワーを浴びた後、行きつけのバーに向かう 通りを歩いていると 昔からある時計屋の前を通り過ぎる 夜の時間 街灯は明かりが灯り 時計屋は閉まっている 人通りはない 時計屋のショーウインドには 大きな針時計が置いてある その針が滲む 目をこする 我慢できない睡魔に襲われ 時計屋に寄りかかり眠る どこからか女がデイズに近づく 女の右手がデイズの頭に触れる 女の右手に持った小さな機器が小さく音を出す 寝ているデイズをそのままに 女はどこかへ姿を消した デイズは夢の中でバーで見知らぬ女と酒を楽しんでいる
この物語の主人公である彰人は、いわゆる“詰んでいる側”の人間だった。 地方の無名大学を卒業し、就職氷河期の残り香が漂う年に、なんとか滑り込んだ中堅企業。だが現実は甘くなかった。 毎朝、始発に近い電車で出社し、終電を逃すのは日常茶飯事。サービス残業、休日出勤、理不尽な叱責。 「若いうちは根性だ」 「代わりはいくらでもいる」 そんな言葉を浴びせられながら、彰人は26歳にして、心だけが先に擦り切れていった。 ──この人生、何か間違っている。 そう思った矢先のことだった。 雨の夜。 ふらつく足取りで横断歩道を渡った瞬間、視界を白い光が覆った。ブレーキ音に、衝撃と浮遊感。 そして、死。 次に目を覚ました時、彰人は泣いていた。 いや、正確には泣かされていた。 視界はぼやけ、体は思うように動かない。 聞こえるのは優しい声と、どこか懐かしい心音。 (……え? 動けない? 声も出ない?) 理解するまでに時間はかからなかった。 ──転生している。 しかも、赤子として。 前世の記憶を保ったまま、彰人は新たな人生を歩み始めた。 転生先は、穏やかで平凡な家庭だった。 両親は共働きだが仲が良く、無理のない生活。 怒鳴り声も、理不尽な叱責もない。 (今度こそ、静かに生きよう) 彰人は誓った。 無理をしない。欲張らない。 目立たず、ほどほどでいい。 しかし皮肉なことに、前世の記憶は彼に“効率”と“要領”を与えてしまった。 勉強は自然とできた。 努力の仕方も、評価の取り方も、無意識に理解していた。 気がつけば、県内トップクラスの進学校。 さらに、一流大学へ進学。 周囲からは「将来安泰だな」と言われる存在になっていた。 (……違う、そうじゃない) そう思いながらも、流れに逆らえなかった。 そして就職活動。 誰もが羨む大企業に、彰人は内定をもらった。 入社式の日、スーツ姿の自分を鏡で見つめながら、胸に微かな不安が芽生える。 (まさか……な) だが、その“まさか”は、あっさり現実になった。 会議、資料、上司の無茶振り。 終わらない業務。 「君ならできるだろ?」という便利な言葉。 気づけばまた、オフィスの明かりが消える時間に、ひとりキーボードを叩いていた。 (……転生しても、社畜だった) 笑うしかなかった。 逃げたはずの人生が、形を変えて追いついてきたのだから。 それでも、彰人は前世とは少しだけ違っていた。 心が壊れる前に、立ち止まれる。 無理だと思ったら、線を引ける。 「仕事は人生の全部じゃない」 それを、二度目の人生でようやく理解したのだ。 深夜のオフィスで、彰人はパソコンを閉じる。 窓の外には、静かな夜空が広がっていた。 ──社畜でも、生き方は選べる。 そう信じて、彼は明日へ向かって歩き出す。
小説投稿を始めて一ヶ月。 いまだにPVはゼロである。 もはや笑っちゃう。 どれくらい笑っちゃうかというと、草津温泉に行こうとして滋賀県草津市に着いちゃった人を見た時くらい笑っちゃう。 だが、物は考えようだ。 PVがゼロということは、誰も見ないプライベート空間が誕生したと言っていい。 つまり、登場人物の会話で、こんなこともできちゃう。 『ハルカのどこが好きなの?』 『うーんと、可愛くて優しくて話をよく聞いてくれて歴史好きな趣味も合うところかな』 『えーいいじゃん』 『そんな会話が聞こえてきた』 どうだ。 道ですれ違ったモブキャラに、唐突にリアルの好きな人ハルカさんを褒め殺しさせる。 名付けて、パブリックプライベート告白。 世界広しといえど、こんな安全なスリリングを楽しんでいるのは自分だけだろう。 テンションが上がってきた。 なんだか楽しくなってきた。 先輩への愚痴。 家族への感謝。 政治家への不満。 スーパーの可愛い店員さんへのラブコール。 何でもかんでも書き放題。 人に聞いてもらいたいけどプライドが邪魔して話せなかった言葉が、するする書き起こせていく。 すごい、これはすごいぞ。 ぼくは一晩中書き続け、気づいた時には寝落ちしていた。 翌日。 目を覚ますと、ぼくは人生初のバズを経験していた。 なんと一日で十万PV超えの大バズり。 感想の数も、ひい、ふう、みい、……数えたくもない。 スマホを見れば、通知がたくさん。 そのうちの一つに『ハルカさん』。 終わった。 ぼくはパソコンの電源を落とし、スマホの電源を落とし、全人類の癒し空間であるお布団へと逃げ込んだ。 そう、これは夢だ。 悪い夢なんだ。 悪ふざけなんてなかったんや。
いつもより多くの星が見える夜。細長い灰色の雲が流れている。雲は月に近づくに連れてヘビのように伸び、月が目の部分に重なった時、それは龍の形になった。白く不気味に光る月は、ぎょろりと私を蔑むように見下ろした。 その瞬間、生ぬるい眠気が頭から溢れ出し、全身から力を抜いていく。その温度は冬の夜の寒さをも失くしてしまう。 体は動かず、倒れることもなく棒のように立ち続けている。ぼんやりとする脳内では何も考えられない。閉じてくる瞼の隙間から覗く目は、空を見上げ続けている。 空では先ほどまで止まっていた幾つもの星々が飛び交っている。流れる星は、消えることなく流れ続ける。願い事を三回唱えるにはじゅうぶんすぎる時間、下品なくらいの数が流れていく。 あれらが、私の願いを叶えてくれることはないだろう。
その部屋の存在は、日本人のごく一部しか知らない。 あまりに救いのない悪人を痛みによって改心させるために、その部屋は存在する。 口の堅い裏組織の人間から情報を一滴でも多く搾り取るために、その部屋は存在する。 拷問部屋。 「ぎゃああああ!?」 「いでええええ!! いでえよおおおお!!」 「殺してくれえええええ!!」 その部屋は、いつだって阿鼻叫喚に染まっている。 拷問を執行する看守たちも、最初は異様な光景に恐れ、いずれ慣れ、今では嬉々として拷問を執行する。 そしてまた一人、今日も凶悪犯が拷問にかけられる。 「ぎもっぢいいいいいい!! 最高れしゅううううう!!」 「看守長おおおおお!! 駄目です、このドМ!!! 何をやっても興奮してます!!! もう、見たくありません!!!!」 そんな拷問部屋に、過去最大の試練が訪れていた。
初恋の人と、同じ匂いがした。 付き合ったきっかけは、そんなことだったと思う。 私は彼の隣に座るのが好きだった。 彼は、私の手をあったかいと言ってくれた。 お互い、目を合わせるのが苦手だったけど。 なんだか必要以上に、いつもくっついていた気がする。 毎日を過ごすだけで完結していたから、 結婚とか子どもとか、そういう未来のことは全然考えなかった。 「学生みたいなカップルだね」と、友達に笑われた。 公園で、シャボン玉を吹く子どもとそれを見守る夫婦を見た。 可愛いとか素敵だねって感想を押し付けられる気がして、目をそらした。 液体が風船になって、花火みたいにパッと消える。 風船や花火みたいに、大きな音は残さない。 「ここに、ずっと止まっていたいな」 私と彼、どちらが先に言ったんだっけ。 でも、たぶん同じことを考えていた。 4月から、彼の転勤が決まった。 私は今の仕事もこの町も好きだったから、やめてついていくつもりはない。 彼の匂いも私のぬくもりもない関係が、それでも続くとは思えなかった。 きっと近くにいても、変わることは止められない。 私たちの関係は、いつか必ずはじけてしまう。 そして、しあわせがはじけた後も、生きていかなくてはいけない。 今からでも、駆け落ちをしてしまおうか。 でも、彼は仕事を放り出して町に残らないというのに、どうして私だけが放り出さなければならないのだろう。 こんなことを考えている時点で、何かがはじけてしまったのだとわかる。 一番きれいな場所で、ぱっと終われたらいいのに。 でも、初恋の人に鼻で笑われたときに、赤ん坊が泣くような癇癪で自分を壊していたら、 彼と寄り添って過ごす日々はなかったのだろう。 私は何も言わずに、彼の首筋に顔をうずめた。 どうしようもなく好きな、優しい匂いがした。
zuizuizukobashigomamisozuityatuboni owaretetopinshyannuketaradondokosyo tawaranonezumigakomekutetuatututuot osangayondemookasangayondamokikkona siyoidonomawarideotyawankaetanodaare
新しい手袋に毛玉が出来ている 擦れて絡まって丸まって 毛玉の森が広がっていく 毛玉の森 その昔、手袋の上に出来た毛玉の森には 兎や鹿などの動物しかいませんでした 森が広がるに連れて 次第に象や人に、竜までもが森へ住み着いて、今では黒い力も住み着くまでになっていきました 【クワイズ】 今回はクワイズのお話をいたします。 クワイズ。彼は悪魔です。 見た目はヨボヨボのおじいちゃん。 注意されるのが嫌いで 少々気難しい性格です。 彼はこの世界が誕生する前から存在していました。 たまに森の奥で古狸のキャロルとばったり会うと 日が暮れるまで話したりします。
「うめえ! うめえ!」 「うめえ! うめえ!」 店はいつでも大繁盛。 自家製麺に、自家製スープ。 ラーメン一筋でやってきた。 「うめえ! うめえ!」 「うめえ! うめえ!」 最初は客も来なかった。 だが、近所のお客さんが常連になってくれた。 常連の紹介から、口コミで広がる。 今では、そこそこ有名になった。 「うめえ! うめえ!」 「うめえ! うめえ!」 とは言え、悩みもある。 人手が足りない。 正社員はすぐに独立してしまう。 バイトはすぐ辞めてしまう。 「うめえ! うめえ!」 「うめえ! うめえ!」 麺もスープも調子がいい。 なのに、店を休まなきゃならない時がある。 人手が足りない。 店が回せない。 「うめえ! うめえ!」 「うめえ! うめえ!」 バイト募集の貼り紙を貼った。 時給は平均より高くした。 賄いにうちのラーメンも出る。 条件は悪くないと思っている。 でも、応募が来ない。 「うめえ! うめえ!」 「うめえ! うめえ!」 このままじゃあ店が潰れちまう。 何度か若いお客さんに直接言ったことがある。 よかったらうちでバイトしないか、と。 だが、お客さんは遠慮しとくと断った。 飲食店には、ブラックなイメージがあるそうだ。 「うめえ! うめえ!」 「うめえ! うめえ!」 悲しいな。 これだけ美味いラーメンを作れるようになって。 これだけお客さんが喜んでくれるようになって。 働きたいと思わせられないなんて。 「うめえ! うめえ!」 「うめえ! うめえ!」 閉店を決めた。 当日に告知した。 店の周りに人混み作って、近所に迷惑かけたくなかったから。 「悲しいよ」 「また食べたいよ」 最後の言葉も温かい。 でもな、言葉だけじゃあ店は続けられねえんだ。 俺の味を望む人たちが、週に一回でも手伝ってくれたら続けられてた。 そう思う俺は、求めすぎだろうか。 シャッターを下ろす。 俺の歴史が一つ、幕を閉じた。
私は私が気に入らなかった。 だから私と正反対なあなたに憧れていた。 それは紫陽花が咲きはじめる頃だった。 毎日雨で大変な時にあなたは転校してきた。 腰まで伸ばされた綺麗な髪、長いまつ毛、白い肌。その全てが私と真逆だった。 あなたの名前に冬が入っていて私の名前には夏が入っていた。 あなたは数学が好きで私は国語が好きだった。 身長も兄弟関係も家の方向も全てが私と逆だった。 まるであべこべの世界からやってきた私みたいだった。 全てが真逆であなたとは気が合わないことばかりだったけど私はあなたが大好きだった。 私は私の全てが大嫌いだったから、私と全て違うあなたを大好きになるのは当然のことだった。 あなたがここに転校してきて何ヶ月かたった頃のこと。 美術の授業で屋上で絵を描くことになった。 私はあなたと描きたかったけどあなたは群れることが苦手だと言って一人で描いていた。 私は友達と描いた。あなたと真逆だった。 その授業が終わって昼休みの時に屋上に鉛筆を忘れたことに気づいた。そのまま放置でもいいかと思ったのだがお気に入りの鉛筆だったのでとりに行くことにした。 職員室へ行って屋上の鍵をもらいに行く。 「すいませーん、忘れ物したので屋上の鍵ください」 「あぁ、鍵さしたままだったわ。ドア空いてると思うから忘れ物のついでに鍵取ってきてくれる?」 おっちょこちょいで有名な美術の先生が言う。 「はい、わかりました」 職員室まで行くのが無駄な時間になってしまった気がする。 階段を登って屋上に向かう。 屋上についてドアを開けた。誰かいた。あなただった。 なんだかあなたの様子がおかしかった。 屋上の柵の手前に立って飛び降りようとしていた。自殺?と言うやつだろうか。 「あぶない」 私は咄嗟にそう叫んで、あなたの方に駆けつける。忘れ物のことなんてすっかり忘れていた。 「えっ」 あなたは驚いて私の方を振り返った。その顔は少し弱そうだった。 「何してんの!?」 私はあなたを抱きしめて言う。 「あんたに関係ないでしょ。私の気持ちなんてわかんないよ」 あなたはそう言って私の手の中から抜け出そうとする。 「ちょっと待ってよ、話なら聞くから」 私がそう言うとあなたは柵から離れて少しずつ話しはじめてくれた。 生まれつき肌は白かった。日焼けもあまりしない体質だった。 髪が短かったら寝癖がつきやすいから髪を伸ばした。 昔から容姿のせいか周りに人が寄ってこなかった。高嶺の花のような扱いをされていた。 基本的にいつも一人だった。だから人との接し方がわからなかった。 一人は辛かった。周りから高嶺の花、儚い系と言われてもやっぱり一人は辛かった。 転校してあんたがたくさん話しかけてくれて私は嬉しかった。 だけどずっと一人でいたせいでどう対応すればいいのかわからなかった。 心はいつも孤独だった。辛かった。 いつのまにかほのかに希死念慮を抱くようになった。 だけど私の辛さは小さいものだった。 世の中には私より辛い人がたくさんいる。 よく“辛さは比べるものじゃない”って言うけど、それを言う権利があるのは辛さが大きい人だけでしょう。 辛さが小さい人はそんなこと言えない。言う権利なんてない。 だから死なずにただ心のどこかの孤独に耐えながら生きていた。 ある日、美術の授業の後の昼休みに屋上の前を通った。屋上の鍵が空いていることに気づいた。 今だ、心の中でつぶやく。 今ならいける、今しかない、そう思った。私は屋上のドアを開け、柵のところまでかけていく。 いざ目の前にするとなかなか勇気が出なかった。頭の中で何度もシュミレーションしていたのに飛べない。 やっと決心がついて飛ぼうとしたとき、声が聞こえた。 「あぶない」 私はあなたの話を聞いてびっくりしていた。大好きなあなたがこんな悩みを抱えていたなんて。 話しながらあなたは私の隣で泣き出してしまった。 私はあなたを抱きしめて、あなたを慰めようと必死に笑顔を作った。 今、あなたは泣いていて私は笑っている。 こんな時でさえあなたと私は真逆だった。
寝る前に思う。 生きるってコスパが悪い 髪や爪は望んでいないのに勝手に伸びる。 おしゃれで伸ばしたい人は良いのだ どうでも良い人でも伸び続けるのが問題だ。 何をしていても、時間が経てばお腹は減るし 同じ毎日の繰り返しだと退屈といい 刺激を求めて何かを行えば、悩み事が増える。 でも、そのコスパの悪さの中に 個性や独自性が生まれる。 個性とは、とても非効率なものから生まれるものなのかもしれない。 ならば、どれだけ非効率に生きれるか考えた方が面白いかもしれない。 それでは今日無事生き延びたことを感謝して寝よう。
ただ、息を吸って吐くことじゃない。 今と言う時間を、どうやって、何をして過ごすか。 それは、みんなそれぞれ、違う。 だからこそ、みんなには、個性って、唯一無二の価値がある。 一人では出来ないことも、2人で、みんなで、力を合わせて、困難を乗り越えてゆく。 それが生きると言うことだと、そう、私は、思っている。
「安西先生。小説が、書きたいんです」 「書けばいいじゃん」 至極当たり前のアドバイスをしたはずなのに、目の前の人間は渋い顔をした。 「それは、そうなんですけど」 「うん」 「書けないんです」 「なんで? 腕にマヒがあるとか、激務で起きている間ずっと仕事してるとか?」 「そうじゃないんですけど」 「じゃあ、書けばよくない?」 「……酷い! パワハラだ!」 「えぇ……」 私は真摯にアドバイスをしたはずなのに、目の前の人間は泣きながら走り去っていった。 泣きたいのはこっちだ。 「意味わかんね」 書きたいなら、書けばいい。 もしかして、目をつむっていたら妖精さんが勝手に小説を書いてくれるとでも思っているのだろうか。 もしかして、AI様が頭の中をスキャンして代わりに小説を書いてくれると思っているのだろうか。 小説を書くのは、人間だ。 書きたい小説があるのなら、それを書くのは他でもない自分なのだ。 ならば、書くしかない。 書けないなんて言う暇があったら、書くしかないのだ。 「まあいいか。人のことを気にしている場合じゃない。書こ」 そんな人間もいるんだなあと、私は一つの学びを得て、パソコンに向かった。 パソコンの隣にお菓子に、自然と手が伸びる。 美味い、高カロリー最高。 これは頭が回復する。 「はー、瘦せたいなあ」 さ、書くか。
コラムと言う場所を誰かに俯瞰か思い違い又は 妄想の産物と捉え下手糞な文書を投稿してます 否どうも年寄りは前口上が永くていけませんね 今日も朝早くからストレス解消或いは既に趣味 かも知れない習慣の昔話を喋ろうと思いました 何故か年甲斐も無く久し振り当時心揺さぶる曲 歌詞YouTubeで検索すると有りました懐かしい 松崎しげる、松山千春、南孝佳、チューリップ 大瀧詠一、桑田佳祐の歌詞と声が素晴らしいと 年甲斐も号泣しながら聴き入った幸せな御正月
手洗い石鹸を買い替えたらしい 私には強い匂いに感じる 石鹸に、石鹸以外の匂いをつける必要はあるのだろうか それはそうと、金木犀の花言葉に『謙虚さ』と、いうものがある でも、私には『陶酔』させようとする魅惑的な匂いに感じる (完)
おばさんは今一愛云々とか言う甘った類系苦手 別に悪く無いけど心響かない性格の問題だとは 自覚してるがしかし歌詞の内容別に歌声が良い ミュージシャン達にはおばさんでも聴き入って 仕舞う有る種の狡い手法ですか否普通に歌声が 良過ぎます自分と無関係な内容でも気付けば涙 これを中年の目にも涙或いはババの目にも涙的 要素が有る様に感じた正に神的な歌声が繋げる 未來の縮図と希望の音楽かなと年甲斐無く少し 気取ってみた正月6日の早朝5:40でした
目が合っただけで妊娠させてしまう僕は女の子と目が合わない。 しかしたまに合う子がいる。 責任が取れない。 ある日突然見知らぬ子供を連れてこられてあなたの子よ、と言われそうで怖い。 どういうわけかそしてどういうことなのかわからんが世の中は不思議がいっぱいだ。 ああ、だから僕はメガネをしているのか。 メガネのコンドーム。 なるほど。
酔って帰った次の日 二日酔いの頭と顔で 時間に追われながら仕事へ行く準備をして いざ玄関に行くと いつもの場所に鍵がない え、うそ、やばい、え、 鞄か、出掛けた時の鞄にあるのか え、うそ、無いじゃん、やば ああ、もう間に合わない スペアキーを玄関に置いていた 自分神!と讃えつつ 職場に向かう いや、しかし どこへやったのか 覚えてない 覚えていないけど、ちゃんと着替えもして ベッドで寝てた 記憶がないのに、やることをやってる 自分神!と、思うけど 鍵を失くした、という事実が心に影を落とす でも開けたのだから室内にはあるはず 昨日着てた服にも入ってなかった じゃあ、どこに 「お、はよーす」 「おー、はよ、昨日ぶり」 昨日は同期の新年会だった 気心知れたメンツで みんな忘年会のグチを交えつつ 楽しそうに飲んでいた この人もその一人 「ひでー顔してる」 「お互い様だと思うけど」 「いやぁ、飲んだもんね」 「ほんとほんと、昨日のこと覚えてる?」 「二日酔いだけど、それは大丈夫」 「確かに、みんな二日酔いだよね」 「あれから、大丈夫だった?」 ん、あれから? あれとは、どれのことなのか 「逆に覚えてる?」 「んー、実はね、微妙でさ」 「やっぱり」 「何か粗相した?」 「いや、だって、送ったじゃん」 ん、送った? 送ったの?全然まったく覚えてない 「まじか、それは迷惑かけたね」 「まじそれな」 「ごめん、でさ、実は、鍵がなくてさ」 「あー、ポストだよ」 「ポスト?」 「ちゃんと鍵閉めてポストに入れたので」 「うわぁ、そこまでお世話に…」 「べつに、ちゃんとお礼もらったし」 「え」 「起きたときに鏡しっかり見た?」 「え」 職場の窓ガラスに映る 自分の首筋にある 痣のような跡を見つけて 「ちゃんと合意があったので」 合意、その言葉が昨日 聞いたようなデジャヴのような 笑った時に見える この人の八重歯を 確かに 覚えている
辛かったこと 誰にも言わないって決めてる 心の深いところに落ち着かせたかった 共感なんて、求めてなんか無い 気づいたら明日が私を待っていて 何も無かった様に笑顔を振り撒く 風化した瓶は脆くて、破片となって 川の下流にある角のなくなった石ころみたいになって 私の中に残り続ける (完)
三が日が過ぎた。 初詣のピークも終わった。 参拝者は三千人。 地方の小さな神社にしては、よく来てくれた方だと思う。 賽銭箱を開いて、お賽銭の額を確認する。 およそ九万円。 つまり日給三万円。 「はあ。社の修繕、どうしよう」 小銭だらけだから、両替もしないといけない。 両替手数料も馬鹿にならない。 受験合格、恋愛成就、健康祈願。 人生において重要なことを祈っているはずなのに、どうしてこうも少額なのだろうか。 金額ではなく気持ちだと言うが、気持ちだけでは神聖な場所を維持できない。 気まぐれにライバー配信のアプリを起動した。 次々飛び交う千円に一万円。 その感情を、多少は神様に向けてくれないだろうかと思わずにはいられなかった。
生ぬるい体温を残した死体が重くのしかかる。 何度隠しても不意に現れるこいつは、昨日も酒にのまれて恥をかかされた。情けなく見栄っ張りで目立ちたがり屋のどうしようもない人間だ。殺して当然なのだ。こいつのせいで時間と金を無駄に消費し続け、私を居心地の悪い方向へと押し込むのだ。 だから今日の朝、こいつを殺した。しかし隠し場所が見つからない。無意味に歩き続け、気づけば夜になっていた。 防火水槽に沈めようか。青いフェンスに囲われた池には、子どもの頃は金魚がいた。今では黄土色に濁り水面は街灯の光をも吸収している。金魚と共に池の一部になってはくれないだろうか。 バラバラにしてホース格納箱に詰めようか。錆びて文字も読めなくなった赤い箱を開ける人はいないだろうし。 子どもの頃から放置されている車の中に隠そうか。積まれた段ボールで見えない車内には先客がいそうなので近付く気は起きない。 空を見上げるといつもより大きく黄色い月が辺りの雲を赤く染めている。月の裏側に隠しても、こいつはすぐに目の前に降ってくるのだろう。 いっそのこと電柱に吊り下げるか用水路に頭を突っ込もうか。隠そうとすればするほど気になり、意識を奪われてしまうのなら、開き直って晒している方が楽なのかもしれない。 死体を持っている間は逃げられない。隠し場所を見つけられず、燃やす勇気もない。私はこの死体を持ち続けなければいけないのだろうか。 忘れた頃に再び現れるこいつが、死んでいるということを監視し続けないといけないのだ。でも視界からは消したい。 こいつを殺しても存在していた過去は変わらない。何度殺して隠しても、無かったことにはならない。結局、自分からは逃げられないのだ。 誰もいない夜道で死体が笑った気がした。
今まで、誰かに負けて本気で悔しいと思うことはそう多くなかった。 小学生の頃は休み時間のゲームやテストの点数で友達に先を越されればそれなりに熱くなって悔しがった記憶はある。けれど中学に上がり、自分の立ち位置がなんとなく見えてくるようになると、そんな機会も目に見えて減っていった。「まあ、別にいいか」と、肩をすくめてやり過ごすことの方が増えていたと思う。 でも高校に入って、そんな冷めきった気持ちは一瞬で吹き飛んだ。 負けてそのまま、寝て起きたら忘れている……なんて日は一日たりとも無くなった。 心の奥に仕舞い込んでいた『負けたくない』という熱が頭を焼くような勢いで再燃し始めた。 はっきり言ってそこからの3年間は、もちろん楽しかった事も多かったけど心も体も削られまくる事も多かった。 それもこれも、あの子のせいで。 余計な対抗意識を燃やす羽目になった、あの子。 なのに私の友達になった、あの子。 その、あの子について話したいと思う。