遠距離恋愛で別れる確率は八十パーセントらしい
遠距離恋愛で別れる確率は八十パーセントらしい
七夕。 年に一度、私と彦星が会える日。 天の川には願いの書かれた短冊が続々と流れ始める。 私は船に乗り、願いを見ながら川を渡っている。 「もうすぐ対岸だべー。一年ぶりだで、嬉しかろー」 「︙︙まあ」 遠くの親類より近くの他人とは、よく言ったものだ。 彦星と最後に会って一年。 私の愛は、冷めつつあった。 遠距離恋愛が続くカップルはニ十パーセントで、半年から一年以内に破局に至るらしい。 お父様が彦星と会うのを許可してくれたときは関係を認めてくれたのだと喜んだが、実はじんわりと私の愛情を冷めさせるのが狙いだったのかもしれない。 だとしたら、とんでもない作詞だ。 さすが、一刻を束ねるだけのことはある。 「見えてきたべー」 海岸線の上には、一つの影が立っている。 かつては人影を見るだけで心臓が高まったが、今は平穏。 ときめきがない。 こちらを向いて笑う表情を見ても、申し訳なささえ感じる。 「織姫! 会いたかったよ!」 「私もです、彦星」 彦星の手を取って、船を降りる。 彦星は私の腰に手を回し、私をエスコートする。 「一年ぶりだね。話したいことが山ほどあるんだ」 「ええ、私もです。彦星」 この後、私たちは彦星の地元を巡る。 彦星のお勧めする喫茶店。 彦星のお勧めする景色。 彦星のお勧めするなにもかもを味わいつくす個人ツアーだ。 「楽しんでる?」 「ええ」 「よかったー。一年かけて考えたかいがあったよ」 微笑む私を、私は疑う。 この楽しいという感情は、愛か惰性か。 微笑む彦星を、私は疑う。 この笑顔は、本物か作りものか。 デートの〆は、決まっている。 体を重ね、子を成すのだ。 生まれた子は、一年しか生きられない、願いを叶える特別な子。 生まれてすぐに天の川に飛び込んで、短冊に書かれた願いを次々叶えてしまうのだ。 「愛してるよ、織姫」 「︙︙私もよ、彦星」 彦星の体温を感じながら、私は疑う。 その優しさは、何のため? 私の体に触れるため? 子を成させて願いを叶えさせるため? それとも、純粋な愛? 一年ぶりに思い出す彦星への愛情に体をゆだねながら、私は独り、愛情の答えを探していた。